主文 本件上告を棄却する。 理由 弁護人佐藤貴夫の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。 よって,同法414条,386条1項3号により,主文のとおり決定する。 この決定は,裁判官堀籠幸男の補足意見,裁判官上田豊三の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見によるものである。 裁判官堀籠幸男の補足意見は,次のとおりである。 私は,上田裁判官の反対意見に賛成することができない。その理由は,次のとおりである。 反対意見は,原判決には労働安全衛生法にいう「特定元方事業者」の解釈適用について法令違反があるというのである。 しかし,原判決は,反対意見の2で指摘する事実関係のほか,施工管理は被告会社が留保していたと解される趣旨の被告会社代表者の供述,Aの従業員はゼロであることなどの関係証拠を総合し,被告会社とAとの間の下請契約は,文字通りの一括下請契約ではなく,実質的には,施工管理については,被告会社がこれを留保し,本件工事の施工管理に適した能力を有するBを同社の「従業者」として使用し,同社の業務を行わせていたと判断したものであるところ,上記判断を前提とすれば,本件工事については,仕事の一部が被告会社に留保されていたことは明らかであり,原判決に反対意見が指摘するような法令の解釈適用の誤りはないというべきである。 裁判官上田豊三の反対意見は,次のとおりである。 私は,原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反(法令の解釈適- 1 -用の誤り)があり,これを破棄しなければ著しく正義に反すると認めるので,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すべきであると考える。その理由は,次のとおりである。 1 本件は,被告会社が労働安全衛生法 用の誤り)があり,これを破棄しなければ著しく正義に反すると認めるので,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すべきであると考える。その理由は,次のとおりである。 1 本件は,被告会社が労働安全衛生法(以下「労安法」という。)122条,120条1号,30条1項2号違反の刑事責任を問われている事件である。 したがって,上記労安法違反が成立するためには,まず被告会社が労安法30条1項にいう「特定元方事業者」に該当することが必要である。 上記の「特定元方事業者」とは,建設業者又は造船業者で,一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせるとともに,自らも仕事の一部を行う者のうち,最先次のものをいう(労安法15条1項,労働安全衛生法施行令7条1項)。 上記自ら行う仕事の一部には,施工管理のみを行う場合も含まれると解してよいが,当該事業の仕事の全部を請負人に請け負わせている者はこれに当たらないと解すべきである。このことは,仕事の元請業者であっても同様であり,元請業者のうち仕事の一部を下請人に請け負わせ,一部は自ら行う者だけが「特定元方事業者」となるのであり,仕事の全部を下請人に請け負わせている者はこれに当たらないのである。 2 原判決の認定する事実関係は,次のとおりである。 被告会社は,一般金属表面研磨処理加工業及びこれに附帯関連する一切の業務を行うことを目的とする株式会社であり,B(以下「B」という。)は,Aの名称で公害防止装置関係の機器設計,製造,据付け及びその据付工事などに際して現場を監督指導するエンジニアリング業務などを個人として営んでいた。被告会社は,自社の業務作業により工場内に飛散するマグネシウム粉じんなどに起因する災害の防止を図るため,Bに対しマグネシウム粉じんを集めるための集じん機の設計,製作を依頼してこれを納入してもら た。被告会社は,自社の業務作業により工場内に飛散するマグネシウム粉じんなどに起因する災害の防止を図るため,Bに対しマグネシウム粉じんを集めるための集じん機の設計,製作を依頼してこれを納入してもらったことがきっかけとなって,緊密な取引関係を結- 2 -ぶようになり,そのような集じん機が開発されたことを知った同業者などからマグネシウム集じん機の注文を受けると,Bに依頼して設計,製作してもらい,これを注文主に納入するなどの販売業務をも行うようになった。マグネシウム粉じんは火気に触れると爆発を起こすなど火気に対して極めて危険性の高いものであり,被告会社でも過去に爆発事故を起こした例もあったことなどから,被告会社の代表者においては,上記関係を持つようになったBに対し,自社の技術顧問の肩書でCが行っていた安全講習会に参加させたり,被告会社の代表者が講習会で講演する際のレジメを作成させるなどしたこともあった。被告会社は,平成12年秋ころ,同業者である有限会社D製作所より,東京都町田市所在のD製作所の旧工場で使用していたマグネシウム集じん機(以下「本件集じん機」という。)を新設した新工場へ移転させるに際し,同集じん機へのダクト配管及び改造などの工事(以下「本件工事」という。)を受注したが,そもそも,本件集じん機は,さきに,被告会社がD製作所からの注文を受けて,Bに設計,製作をゆだねて納入したものであり,かつ,本件集じん機の移転に伴うダクト配管や改造などを内容とする本件工事は,被告会社の本来の業務ではなかったのに対し,Bが現場工事のエンジニアリングなどもその業務の一つとしていたことなどから,被告会社の代表者は,本件工事についても,Bに施工させることとし,被告会社とBとの間で,本件工事についての請負契約を締結するとともに,Bに対し本件工事の施工管理を 業務の一つとしていたことなどから,被告会社の代表者は,本件工事についても,Bに施工させることとし,被告会社とBとの間で,本件工事についての請負契約を締結するとともに,Bに対し本件工事の施工管理をゆだねた。Bは,被告会社の代表者の了解の下,本件工事を,かねて自己と取引のあったE株式会社に請け負わせる旨の請負契約を締結したが,同社は,さらにBの了解を受けた上,同社の構内下請をしていた,Fが個人で営むGに請け負わせる旨の請負契約を締結し,ここに,本件工事の作業は,Bの施工管理の下,平成12年11月23日から同月25日までの工程により,同一の場所であるD製作所の新工場内において,B及びGの作業員らにより,混在して実施される運びとなった。 - 3 - 3 原判決の認定する上記の事実関係によれば,被告会社は,本件工事の元請業者であり,Bはその下請人ということになる。本件工事を工事の施工と施工管理に分け,被告会社が,本件工事の施工をBに請け負わせるとともに,施工管理をBにゆだねたということは,とりもなおさず本件工事の全部をBに請け負わせた(すなわち,一括して下請に出した)ということにほかならず,Bが被告会社の一部門として,その組織の中に組み込まれているとみることのできるような特段の事情がない限り,被告会社は本件工事の元請業者ではあるが,特定元方事業者には当たらないというほかない(上記特段の事情が認められれば,本件工事の施工管理は被告会社が自ら行ったということになり,本件工事の施工は被告会社がE株式会社に下請に出したと解することになる。)。 そして,被告会社が特定元方事業者に当たらないとすれば,労安法違反の構成要件の一を欠くことになり,被告会社に労安法違反の刑事責任を問うことは許されない。 原判決は,上記特段の事情があることを認定・判断しないま 会社が特定元方事業者に当たらないとすれば,労安法違反の構成要件の一を欠くことになり,被告会社に労安法違反の刑事責任を問うことは許されない。 原判決は,上記特段の事情があることを認定・判断しないまま被告会社が特定元方事業者に当たるとして労安法違反の刑事責任を肯定したものであるから,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反(法令の解釈適用の誤り)があり,これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。そこで,原判決を破棄し,上記の特段の事情の有無につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すべきであると考える。 平成17年12月21日最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官上田豊三裁判官濱田邦夫裁判官藤田宙靖- 4 -裁判官堀籠幸男- 5 -
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