1 主 文 1 甲事件被告は、原告に対し、122万6521円及びこれに対する平成30年 5月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の各請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告に生じた費用の2分の1と甲事件被告に生じた費用との合計 5 の40分の39を原告の、40分の1を甲事件被告の各負担とし、原告に生じた その余の費用と乙事件被告に生じた費用を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 10 1 甲事件 甲事件被告は、原告に対し、5000万円及びこれに対する平成30年5月4 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 乙事件 乙事件被告は、原告に対し、5000万円及びこれに対する平成30年5月4 15 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、乙事件被告高松市(以下「被告市」という。)が設置するA中学校(以 下「本件中学校」という。)においてバスケットボール部の活動(以下「本件部活 動」という。)に参加していた原告が、同校の卒業生である甲事件被告B(以下 20 「被告B」という。)から、原告の後頭部を殴打される暴行(以下「本件暴行」 という。)を受け、よって、脳脊髄液漏出症等の後遺障害が残存する傷害を負った と主張して、被告Bに対しては民法709条に基づいて(甲事件)、被告市に対し ては顧問教員による過失等を理由とする国家賠償法1条1項に基づいて(乙事 件)、いずれも損害賠償として合計9757万7675円の一部である5000 25 万円及びこれに対する平成30年5月4日(本件暴行の日)から支払済みまで平 2 成29年法律第44号による改正前の民法所定の年 も損害賠償として合計9757万7675円の一部である5000 25 万円及びこれに対する平成30年5月4日(本件暴行の日)から支払済みまで平 2 成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害 金の支払をそれぞれ求める事案である。 1 前提事実 ⑴ 当事者 ア 原告(平成15年生)は、平成30年度当時、被告市が設置する本件中学 5 校の3年生であり、本件部活動の部員であった。 (争いがない) イ 被告B(平成10年生)は、かつて本件部活動の部員であった本件中学校 の卒業生であり、平成29年から平成30年までの間に、東京の大学に通い ながら、帰省の際に本件部活動に参加することがあった。 10 (甲25〔53頁以下〕、弁論の全趣旨) ⑵ 本件暴行 ア 原告は、平成30年5月4日、本件部活動に参加し、香川県善通寺市の市 民体育館前広場において、県大会の試合を終えた後、顧問教員であるCが行 うミーティングに参集し、立位の状態でいたところ、原告の背後にいた被告 15 Bから、原告の後頭部を右手掌(平手)で1回殴打される暴行を受けた。 (甲25、弁論の全趣旨。ただし、暴行の強さについては争いがある。) イ 被告Bは、原告に対し、本件暴行を加えたことについて、不法行為責任を 負う。 (弁論の全趣旨) ⑶ 原告は、本件暴行を受けた後、次のとおり入通院した。 20 ア 香川県立中央病院(以下「県立病院」という。甲2) 平成30年5月5日~同年9月3日(入院6日、実通院6日) イ 香川大学医学部附属病院(以下「大学病院」という。甲3) 平成30年7月6日~令和2年10月27日(入院61日、実通院25日) 2 争点 25 ⑴ (乙事件 6日、実通院6日) イ 香川大学医学部附属病院(以下「大学病院」という。甲3) 平成30年7月6日~令和2年10月27日(入院61日、実通院25日) 2 争点 25 ⑴ (乙事件)被告市における注意義務違反の有無 3 ⑵ (甲・乙事件)原告が、本件暴行により、脳脊髄液漏出症又は起立性調節障 害を発症したか ⑶ (甲・乙事件)原告の損害及びその額 3 当事者の主張 別紙「当事者の主張」のとおり 5 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(被告市における注意義務違反の有無)について ⑴ 認定事実 ア 本件部活動の概要 本件部活動は、平成29年度当時、D教員が顧問を、E教員が副顧問を 10 務め、複数のOBが自発的に参加して練習や指導をすることがあった。 本件部活動においては、本件暴行を除いて、暴力や体罰が加えられる出 来事はなかった。 (乙B6、7、証人D、証人C) イ 被告Bの関与 被告Bは、本件部活動のOBであり、平成29年度当時、同人の弟が現 15 役生として本件部活動に参加していたこともあって、同年夏頃から、大学 の長期休暇などを利用して帰省する際に、自発的に本件部活動に参加して、 練習メニューを提案したり、練習試合に参加したり、練習の組分けをした りするなど行っていた。もっとも、練習の内容や公式試合の出場選手につ いては、顧問教員が決めていた。 20 (甲25〔53頁以下〕、36、証人D、証人C、被告B本人) 被告Bは、部員の保護者らとの間でSNSによる投稿を行い、部員に対 して、激励を伝えたり、ストレッチ運動を促したり、動画の視聴を促した り、保護者らに対して、当日に行われた部活動の内容や翌日の予定を伝え たりすることがあった。 い、部員に対 して、激励を伝えたり、ストレッチ運動を促したり、動画の視聴を促した り、保護者らに対して、当日に行われた部活動の内容や翌日の予定を伝え たりすることがあった。 (甲35) 25 本件部活動の顧問は、平成30年4月初め頃、上記DからCへ交代した。 4 被告Bは、Cが着任するまでの約1週間、顧問が不在の際に部員を指導す ることがあった。 (甲34、被告B本人〔12、19頁以下〕) 被告Bは、平成30年4月末頃から同年5月5日までの間に、頻繁に本 件部活動に参加して指導を行い、市大会や県大会の試合を部員の保護者ら とともに観客席から観戦した。被告Bは、部員が同月4日に県大会の試合 5 に参加した際に、観客席から大声を出して部員に指示をし、注意を受ける ことがあった。また、被告Bは、試合後のミーティングで部員に対して話 をすることがあった。 (乙B7、証人C、被告B本人) 被告Bは、平成30年5月5日に本件部活動の部員が県大会の準決勝で 敗退した後、部員の保護者らに対し、SNSで「試合に関しても的確な指 10 示もできず責任を感じています。他の強いチームの監督やコーチに比べた らものすごく未熟なのに、Aのバスケ部は言うことを聞いてくれています。 そんなAバスケ部を裏切らないためにも自分の行動や指示する内容、発言 にこれから責任を持っていきます。」などと投稿した。 (甲38) 被告Bは、原告に対し、大声で叱咤することがあったものの、本件暴行 15 を除き、叩くなどの暴行を加えることはなかった。(甲25〔17頁〕) ウ 本件暴行に至る経緯・状況 原告は、平成30年5月4日、県大会の試合を終え、Cが行うミーティン グに参集していた際に、部員の一人とくすぐり合うなどした。そうしたとこ ろ、被告B 25〔17頁〕) ウ 本件暴行に至る経緯・状況 原告は、平成30年5月4日、県大会の試合を終え、Cが行うミーティン グに参集していた際に、部員の一人とくすぐり合うなどした。そうしたとこ ろ、被告Bは、原告の態度に腹を立て、原告の背後からその後頭部を右手掌 20 (平手)で1回殴打し(本件暴行)、Cの話を聞くよう口頭で注意した。 (甲25〔19頁以下、60頁以下〕) ⑵ 検討 ア 前記認定事実によれば、被告Bは、OBという立場や、現役部員である弟 の親族という立場で、帰省の際に自発的に本件部活動に参加して、熱心に指 25 導を行っていた大学生であるが、顧問をはじめとする被告市の職員との間で、 5 任用や委託の関係があったとはいえないから、Cは被告Bに対して一般的に 指導監督を行うべき立場にあったとはいえない。 また、本件部活動においては、本件暴行を除いて、暴力や体罰が生じるこ とがあったとは認められず、被告Bは、原告に対して大声で叱咤することは あったにせよ、日常的に乱暴な行動をとっていたとは認められない。そうす 5 ると、本件暴行当時、顧問であるCにおいて日ごろから特に被告Bの動静に 注意を向けるべきであったともいえない。 そして、本件暴行は、被告Bが、試合終了後のミーティングの際に、原告 の不謹慎な態度に立腹して突発的に及んだものであり、直前における被告B の行動は特段危険なものでもなかった。そうすると、Cにおいて、被告Bが 10 原告を叩くというような危険性を有する行為に出ることを予見し得たとも いえないから、試合終了後のミーティング中に、被告Bの動静を注視してそ の行動を制止するなどの注意義務があったともいえない。 したがって、Cが、突発的な被告Bの行動に気付かず、本件暴行の発生を 未然に防止することができなかったとしても、Cに原 、被告Bの動静を注視してそ の行動を制止するなどの注意義務があったともいえない。 したがって、Cが、突発的な被告Bの行動に気付かず、本件暴行の発生を 未然に防止することができなかったとしても、Cに原告の安全確保又は被告 15 Bに対する指導監督についての過失があるということはできない。 イ これに対し、原告は、前記⑴イの事実などに照らすと、被告Bが、顧問 の交代を契機に、指導者的な振る舞いをエスカレートさせており、指導に 熱心なあまり体罰に及ぶ危険があったから、Cには、被告Bに対して、主 体的な指導を行わせないよう注意すべき義務があるのに、これを怠った過 20 失がある旨を主張している。 しかしながら、被告Bが、本件部活動において、日常的に乱暴な行動を とっていたとは認められないことについては、前記で説示したとおりであ る。そうすると、被告Bが、熱心に指導に励んでいたからといって、部員 を叩くなどの体罰に及ぶ危険があったということはできず、Cにおいて、 25 被告Bの指導熱が高じて暴力沙汰が生じることを具体的に予見し得たと 6 はいえない。したがって、原告の主張は採用することができない。 原告は、Cには、何ら資格や権限を有しない被告Bを本件部活動のコー チとして参加させてはならない義務があるのに、これを怠った過失がある 旨を主張している。 しかしながら、被告Bにおいて無資格を理由に本件部活動への参加を禁 5 止されなければならないような何らかの危険性があったとはいえない。ま た、外部の者の部活動への参加が制限される法令等の根拠はなく、本件部 活動においては、かねてより複数のOBが自発的に参加して練習や指導を 行う慣習があり、本件暴行を除いて、暴力や体罰が加えられる出来事があ ったとは認められないから、資格や権限を有しないOBの参加が禁じ 活動においては、かねてより複数のOBが自発的に参加して練習や指導を 行う慣習があり、本件暴行を除いて、暴力や体罰が加えられる出来事があ ったとは認められないから、資格や権限を有しないOBの参加が禁じられ 10 るべき状況があったともいえない。したがって、原告が主張する義務につ いては、これを認めることができず、採用することができない。 原告は、本件中学校が、学校教育法11条ただし書や文部科学省の通知・ ガイドライン(以下「本件通知等」という。甲64~68)に基づいて、 被告Bに対して事前に体罰禁止を説明してその理解を求めるべきであっ 15 たのに、これを怠った過失がある旨を主張している。 本件通知等は、学校が、部活動指導員(学校教育法施行規則78条の2) を起用する際の留意事項として、体罰禁止等に関する事前研修を行うこと とした上で、「校長、指導者その他の学校関係者は、運動部活動での指導で 体罰等を厳しい指導として正当化することは誤りであり決して許されな 20 いものであるとの認識をもち、それらを行わないようにするための取組を 行うことが必要です。学校や顧問の教員から積極的に説明し、理解を図る ことが望まれます。」との記載がある。しかしながら、本件通知等には、学 校が、任用関係にある部活動指導員以外の者に対して、体罰禁止に関する 研修教育を行う法的な義務を負うことを明示した記載はない。また、いか 25 なる範囲の学校関係者を対象として、どのような方法で上記の説明をすべ 7 きかについての具体的な記載もない。そうすると、本件通知等のみを根拠 として、本件中学校には、任用や委託の関係を有しない被告Bに対して、 体罰禁止に関する説明を行う法的義務があったということはできない。 もとより、体罰は、その主体や程度如何にかかわらず、決して許される 、本件中学校には、任用や委託の関係を有しない被告Bに対して、 体罰禁止に関する説明を行う法的義務があったということはできない。 もとより、体罰は、その主体や程度如何にかかわらず、決して許される ものではないから、本件中学校は、部活動に関わる全ての者に対して、体 5 罰を抑止するための取組を積極的に講じる責務があることはいうまでも ない。とはいえ、本件部活動においては、本件暴行を除いて、体罰が加え られる出来事があったとは認められないから、本件暴行が生じるまでの間、 体罰を抑止できている状況が一応続いていたとみることができる。したが って、本件の事実関係の下においては、本件部活動に参加する被告Bにお 10 いて体罰に及ぶ危険があったということはできず、その危険が現実化しな いよう、本件中学校において、被告Bに対して体罰禁止に関する説明を行 わなければならなかったのにこれを怠った過失があるということはでき ない。原告の上記主張は採用することができない。 2 争点⑵(原告が、本件暴行により、脳脊髄液漏出症又は起立性調節障害を発症 15 したか)について ⑴ 認定事実 ア 脳脊髄液漏出症の病態・診断基準 起立性頭痛が主な症状であり、立位で増強し、臥位では軽快する。客観 的に診断できる唯一の検査法は、画像診断である。 (甲62) 20 平成22年度厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業(神 経・筋疾患分野)脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班は、 平成23年、関係8学会の了承・承認を得て、画像診断基準(以下「研究 班基準」という。)を公表した。その要旨は、次のとおりである。(乙B1) ①脊髄MRI/MRミエログラフィーにおいて、くも膜下腔と連続し造影 25 されない硬膜外水信号病変が認められ 準(以下「研究 班基準」という。)を公表した。その要旨は、次のとおりである。(乙B1) ①脊髄MRI/MRミエログラフィーにおいて、くも膜下腔と連続し造影 25 されない硬膜外水信号病変が認められる場合は確実所見とするが、硬膜 8 外水信号病変のみの場合は疑所見とする。 ②脳槽シンチグラフィーにおいて、片側限局性のRI異常集積が認められ、 かつ、脳脊髄液循環不全が認められる場合は確実所見とするが、非対称 性のRI異常集積や頚~胸部における対称性の集積のみが認められる 場合は疑所見とする。 5 ③CTミエログラフィーにおいて、穿刺部位からの漏出と連続しない硬膜 外・硬膜下腔への造影剤漏出が認められる場合は確実所見とする。 令和3年に設立された日本脳脊髄液漏出症学会は、ウェブサイトにおい て、脳脊髄液漏出症の診断基準(以下「学会基準」という。)を公表してい る。その内容は、次のとおりである。(甲45、乙A1、弁論の全趣旨) 10 ①主症状は頭痛(90%以上、起立で増悪することが多い。)、頚部痛、め まい、倦怠感などであり、症状は連日性の特徴を有する。 ②脊髄MRIにおいて、漏出が明確である(FDSSなど。FDSSとは、 floating dural sac sign のことであり、脊髄硬膜嚢があたかも水に浮 いているように見える所見、多量の髄液漏出を示す所見である。)。 15 ③上記②の漏出が明確でなく、硬膜下血腫による脳圧迫徴候がない場合で あっても、脳槽シンチグラフィー・CTミエログラフィーにおいて硬膜 外造影剤漏出・RI異常集積等が認められれば確定診断とされる。 イ 原告の画像所見 平成30年7月9日撮影の脊椎MRIミエログラフィー(以下「本件M 20 RI」という。) a 放射線科の医師は、 RI異常集積等が認められれば確定診断とされる。 イ 原告の画像所見 平成30年7月9日撮影の脊椎MRIミエログラフィー(以下「本件M 20 RI」という。) a 放射線科の医師は、本件MRIについて、硬膜嚢尾側に脳脊髄液漏出 を疑う高信号があるものの、漏出部位を同定できないと述べる。 b 原告の主治医である大学病院のF医師は、本件MRIについて、診療 録において、腰椎に僅かにFESS(fringed epidural space sign: 25 硬膜嚢背側硬膜外腔と黄色靭帯の境界面に流れ込んだ水成分(造影剤) 9 により、高信号が硬膜外腔の縁取りをした所見)が認められる程度であ り、典型的ではないが、漏出を疑う所見があると述べる。 (甲3〔65、148、642頁〕、甲79) 平成30年10月10日撮影の脊椎CTミエログラフィー(以下「本件 CT」という。) 5 a 放射線科の医師は、本件CTについて、硬膜外腔の拡張や造影剤の漏 出所見は指摘できないと述べる。 b F医師は、本件CTについて、明らかな漏出像を認めないと述べるが、 CT値により漏出が認められると述べるG医師の見解について、誤りは なく反対ではないなどと述べる。 10 (甲3〔325、655頁〕、77の1、証人F〔19頁以下〕) 平成30年10月11日撮影のRI脳槽シンチグラフィー(以下「本件 脳槽シンチ」という。) a 放射線科の医師は、本件脳槽シンチについて、3時間後の画像は背面 像で腰椎レベルの棘状集積が両側対称性に見えるが、生理的な変化と考 15 えられること、全ての画像につき漏出を疑う所見は認められないと述べ る。 b F医師は、本件脳槽シンチについて、3時間後の画像は非対称性のR I異常集積があると述べ、診療録において、腰椎で漏出の 5 えられること、全ての画像につき漏出を疑う所見は認められないと述べ る。 b F医師は、本件脳槽シンチについて、3時間後の画像は非対称性のR I異常集積があると述べ、診療録において、腰椎で漏出の可能性が疑わ れるとの見解を示している。 20 (甲3〔325、656頁〕、89の2、証人F〔26頁以下〕) ウ 診療経過等 原告は、平成30年5月5日(本件暴行の翌日。以下、平成30年の出 来事については、年の記載を省略する。)、県立病院を受診し、起立して身 体を動かしていると時々めまい感があり、後頭部が痛むなどと訴え、後頭 25 部打撲、軽度の脳震盪と診断され、頓服薬の処方を受けた。 (甲2) 10 原告は、5月7日、県立病院を受診し、起立性頭痛などを訴え、診察中 に一時的に失神で倒れたため経過観察目的で入院した。頭部CT検査で頭 蓋内出血、骨折は認められず、脳震盪後症候群、脳脊髄液漏出症の疑いな どと診断され、輸液を受けたところ失神の再発はなく、頭痛等の症状が消 失し、翌8日、退院した。 (甲2) 5 原告は、5月11日、県立病院を受診し、頭全体に違和感があり、後頚 部痛や気分不良があり動けないなどと訴え、入院し、頚椎X線及び頭部M RIの撮影を受けたが特に異常がみられず、頚椎捻挫と診断され、湿布薬 の貼付等を受けた。原告は、同日、「朝は調子が悪いけど、だんだん良くな って夜の8時頃が一番調子いい、でも寝て朝が来るとまた悪くなる」など 10 と述べた。原告は同月14日まで入院し、後頚部痛がみられたが自制内で 経過し、退院時に湿布薬を処方された。 (甲2) 原告は、5月17日、鼻血等が生じ、同日から始まる中間テストを受験 できなかった。同月21日及び22日、本件暴行後初めて登校したが、 過し、退院時に湿布薬を処方された。 (甲2) 原告は、5月17日、鼻血等が生じ、同日から始まる中間テストを受験 できなかった。同月21日及び22日、本件暴行後初めて登校したが、同 月23日から不登校がみられるようになった。同月25日に登校したが、 15 原告は、同日頃の英語の授業で板書をした際に、教員からピリオドを書き 写していないことを咎められ、教員と級友に笑われて恥ずかしさや怒りを 覚え、帰宅後に母へ訴えて泣いた旨述べている。 (甲2〔76頁〕、24、82、84〔21頁等〕) 原告は、5月30日、県立病院を受診し、登校状況を説明し、頓服薬の 20 処方を受けた。 (甲2) 原告は、6月8日、県立病院を受診し、後頭部痛があり登校できないこ と、座っていたら痛むが横になったら楽になること、腹痛や下痢があるこ と、英語の教員について嫌なことがあったことなどを訴えた。医師は、脳 脊髄液漏出症の精査目的で同月14日の頭部MRI造影検査を予約し、下 25 腹部痛について、精神的な要素が多く、原告と母親との関係にも問題があ 11 り、これらが不登校の原因となっていると評価した。 (甲2) 原告は、6月14日、県立病院を受診し、頭痛があり起きると気分が悪 くなると訴え、頭部MRI造影検査を受けるも、異常はなく、医師から起 立性調節障害や脳震盪症候群等について説明を受けた。 (甲2) 原告の母は、5月から7月までの間、原告が不登校を続けることにより、 5 高校へ進学するために必要な内申書に欠席日数の記載が増えてしまうこ とを恐れて、必死になって原告を抱きかかえて連れ出したり、毎朝、原告 と口論になったり、夫との間でどちらが仕事を休むかをめぐって毎日口論 になったりしていた。ま な内申書に欠席日数の記載が増えてしまうこ とを恐れて、必死になって原告を抱きかかえて連れ出したり、毎朝、原告 と口論になったり、夫との間でどちらが仕事を休むかをめぐって毎日口論 になったりしていた。また、原告の母は、後日、原告に対し、受験のこと を気にするあまり、原告を追い詰め、原告のストレスになり不登校になっ 10 たなどと何度も述べた。 (甲24、84〔7頁以下〕) 原告は、7月4日、県立病院を受診して大学病院の紹介を受け、同月 6日から同月23日までの間、大学病院に入院し、本件MRIの撮影及 び輸液を受けた。原告の母は、F医師に対し、原告を無理やり起こして も全く起きないこと、テストの順位が下がったこと、天気が悪くなると 15 調子が悪くなること、寝ながらゲームをやっている原告に対して怒って しまうこと、夕方には元気になってくることが多いことなどを述べた。 F医師は、原告に起坐頭痛があり夕方に改善することなどを考慮し、脳 脊髄液漏出症及び起立性調節障害と診断した。原告は、上記入院期間 中、食事やトイレ移動、配膳などの際に起立していたが、その際の頭痛 20 や倦怠感を訴えることがなく、同月11日までは起床直後の頭痛や倦怠 感を訴えることがあったが、同月12日以降は頭痛や倦怠感の訴え自体 がなかった。F医師は、症状は軽快しているとして、腰椎穿刺によるこ れ以上の検査は行わず、経過を観察することとした。 (甲3) 原告の母は、8月7日、F医師や本件学校関係者等との間で原告の復学 25 に向けて協議し、入院前とは異なり寝起きが良いことや退院後も経過良好 12 であること、友人と外で遊べるくらい元気を取り戻していることなどを述 べた。 (甲3) 原告は、8月10日、大学病院を受診し、 も経過良好 12 であること、友人と外で遊べるくらい元気を取り戻していることなどを述 べた。 (甲3) 原告は、8月10日、大学病院を受診し、公園で5時間ほど水風船を用 いて友人と遊んだ旨述べた。F医師は、9月から学校生活を通常通りに開 始してよく、体育の授業も開始してよいことなどを述べた。 (甲3) 5 F医師は、8月24日付け診断書において、原告が、頭部打撲により脳 脊髄液漏出症を発症し、同月10日まで通学できず生活に支障があったが、 今後入通院治療の予定はないこと、後遺障害が残存する見込みはないが、 再発の可能性があるとの見解を示した。 (甲1) 原告は、8月27日、二学期が始まり、登校するようになったが、体調 10 不良により欠席することがあり、9月3日、県立病院を受診した。原告は、 医師に対し、8月25日から毎日腹痛が生じており、嘔吐はないが下痢が あると訴えた。医師は、学校が始まり授業が難しくストレスがあると評価 した。 (甲2、24) 原告は、9月21日、大学病院を受診し、通学開始後調子が悪く、週に 15 2日程度欠席しており、生活リズムが乱れており、腹痛があり、頭がどん よりするが頭痛はないと述べた。 (甲3) 原告は、9月27日から10月31日までの間、大学病院に入院した。 原告は、入院時、頭痛が少しある旨述べ、本件CT及び本件脳槽シンチの 撮影を受け、輸液、硬膜外生理食塩水注入及び硬膜外自家血注入の処方を 20 受けた。原告は、退院時、日によっては頭痛がある旨述べており、医師は 寛解とはいい難い状態であると評価した。 (甲3) 原告は、12月5日、F医師から紹介を 血注入の処方を 20 受けた。原告は、退院時、日によっては頭痛がある旨述べており、医師は 寛解とはいい難い状態であると評価した。 (甲3) 原告は、12月5日、F医師から紹介を受け、小児科を受診し、起立性 調節障害と診断され、同月14日、メラトニン(眠剤)の処方を受けた。 (甲3) 25 原告は、平成31年4月、大学病院に入院して2回目の硬膜外自家血注 13 入を受けたものの、以後、頭痛等が消失することはなく、頭痛等が原因で、 通信制高校の授業の多くを受講することができず、希望する大学の受験会 場に行くことができず、現在も、起き上がると頭痛等が出現し、つらくて 起きることができない日がある。 (甲3、84〔12頁以下、28頁〕) エ 起立性調節障害の病態 5 思春期に生じやすい循環系自律神経機能失調である。自律神経の働きが悪 くなり、起立時に身体や脳への血流が低下する。朝起き不良や、頭痛、起立 時に気分が悪くなるなどの症状があり、午前中に強く、午後から体調が回復 する。夜には元気になる。精神的なストレスによって影響を受けやすく、心 身症としての側面も強い。珍しい病気ではなく、小学校高学年から多くなり、 10 中学生で急増する。病因は明らかではないが、現代の夜型社会や、複雑化し た心理社会的ストレスが背景にあるとされる。 (甲81、弁論の全趣旨) ⑵ 検討 ア 脳脊髄液漏出症について 前記認定事実によれば、脳脊髄液漏出症を客観的に診断できる唯一の検 15 査法は、画像診断である。これを本件について研究班基準に即してみると、 F医師が指摘する本件MRIのFESSが疑所見である硬膜外水信号病 変に、F医師が指摘する本件脳槽シンチの非対称性のRI異常集積が疑所 見に該当し得るにすぎず、同基準の確定又は確実所見に該 してみると、 F医師が指摘する本件MRIのFESSが疑所見である硬膜外水信号病 変に、F医師が指摘する本件脳槽シンチの非対称性のRI異常集積が疑所 見に該当し得るにすぎず、同基準の確定又は確実所見に該当する所見はな い。また、信頼性について争いがある学会基準に即してみても、本件MR 20 IのFESSは「漏出が明確である」(上記⑴ア ②)に該当する所見では なく、本件CT及び本件脳槽シンチについて「硬膜外造影剤の漏出が認め られ」(上記⑴ア ③)に該当する所見があるとはいえないから、同基準に 基づいて確定診断できる所見はない。したがって、原告の症状は、脳脊髄 液漏出症の画像診断基準を満たすとはいえない。 25 さらに、原告は、脳脊髄液漏出症に効果があるとされる硬膜外自家血注 14 入を2回受けたにもかかわらず、頭痛が消失せず、これにより、多くの授 業を受講できず、希望する大学を受験できず、現在も頭痛が継続している。 以上によれば、原告の頭痛が起立性のものであったとしても、原告が脳 脊髄液漏出症を発症したと認めるに足りない。また、F医師が脳脊髄液の 漏出の疑いを指摘する部位は腰椎であり、本件暴行が加えられた後頭部で 5 はないから、仮に原告が脳脊髄液漏出症を発症していたとしても、その原 因が本件暴行であるとも認められない。 したがって、原告は、本件暴行により、脳脊髄液漏出症を発症したとは いえない。 原告の主張について 10 a 診断基準 原告は、平成30年当時、小児科の対象となる中学3年生であったと ころ、研究班基準は、主に成人についての研究に基づくものであるから (甲63)、小児である原告に当てはめることは妥当でないと主張する。 しかしながら、F医師は、小児における脳脊髄液漏出症について、確 15 立された診断基準はないと述べ、成人を対 づくものであるから (甲63)、小児である原告に当てはめることは妥当でないと主張する。 しかしながら、F医師は、小児における脳脊髄液漏出症について、確 15 立された診断基準はないと述べ、成人を対象とするガイドラインを参考 にしている旨を述べている(証人F〔14頁〕)。そうすると、研究班基 準が、成人を対象とする研究に基づくものであったとしても、原告にお ける発症の有無を判断する上で、妥当性がないとはいえない。 したがって、原告の主張は採用することができない。 20 b 本件MRIの画像所見 原告は、F医師が、診療録作成後に、回答書(甲77の1)及び証人 尋問において、本件MRIの画像を読影すると、FESS(DTS (Dinosaur tail sign:恐竜の尾びれ徴候))が認められると述べてい ることを指摘して、漏出を示す画像所見がある旨を主張している。 25 F医師は、FESS(DTS)とiFDSS(incomplete FDSS:局所 15 の微細水信号所見)とは同じ概念であると述べているところ(甲77の 1、証人F〔2頁以下、18頁以下〕)、学会基準では、注記において、 「FDSS」と「iFDSS及びDTS」とを書き分けた上で、「iFD SSは成人無症候例の20~40%に確認されている。したがって、必 ず他の検査を追加して確認する必要がある。他検査で漏出陽性ならば、 5 「漏出症」。漏出陰性ならば、疑い例として、「安静臥床+水分補給(輸 液)」「硬膜外生理食塩水注入」を試す。」との記載がある。そうすると、 iFDSSは、必ず他の追加検査を行わなければ漏出を確定できないと いう意味において、漏出の疑いを示すにすぎないといえる。したがって、 iFDSSと同じ概念であるとされるFESS(DTS)についても、 10 学会基準における漏出 査を行わなければ漏出を確定できないと いう意味において、漏出の疑いを示すにすぎないといえる。したがって、 iFDSSと同じ概念であるとされるFESS(DTS)についても、 10 学会基準における漏出の確定診断の根拠となる所見ではなく、漏出の疑 いを示す所見にすぎないと考えられる。 また、F医師が引用するDTSについての論文(甲46の1・2)は、 医原性による脳脊髄液漏出症が生じた23名の患者を対象に画像を分 析したところ、19名(83%)においてDTS(同論文では棘突起間 15 弓状高信号病変とも表現される。)が認められたことから、DTSが脳 脊髄液漏出の有用な画像所見となり得るとしているが、同論文は、頭蓋 内低血圧及び腰椎穿刺の過去の病歴のない35名の対照被験者のうち 2名でもDTSが認められたとしている。上記論文は、脳脊髄液漏出症 を正確に診断する上でDTSの微細な変化を評価する必要がある旨を 20 述べるにとどまり、DTSがあれば脳脊髄液漏出症と診断できるとまで の見解を示していないものと解される。 以上によれば、本件MRIにFESSないしDTSが認められるとし ても、漏出が確実であるとまでいうことはできず、疑いにとどまるもの と考えられるから、原告の主張は採用することができない。 25 c 本件CTの画像所見 16 原告は、G医師が、本件CTの画像を読影した上で、CT値(CT撮 影された物質の密度について水を基準とした場合の相対値として表現 したもの)を算定すると、硬膜外への造影剤の漏出が認められるとの見 解を述べている旨を主張している。 その裏付けとして、同医師は、脊椎硬膜外腔が、脂肪組織(CT値: 5 ave-100 以下)及び静脈叢(CT値:ave40-50)で構成されていること を前提に、原告の脊椎CT画像における脊椎硬膜外腔の部分 付けとして、同医師は、脊椎硬膜外腔が、脂肪組織(CT値: 5 ave-100 以下)及び静脈叢(CT値:ave40-50)で構成されていること を前提に、原告の脊椎CT画像における脊椎硬膜外腔の部分は、CT値 がave100 を超えており、造影剤の漏出があるとの意見を述べたとされ、 これを検察官が聞き取り、原告代理人において検察官から上記意見を聞 き取って録取した報告書等(甲26、33)が提出されている。 10 しかしながら、上記報告書(甲33)は、再伝聞の過程を経るもので あり、信用性の担保がされているとはいえない。この点を措くとしても、 脊椎硬膜外腔における静脈叢について、造影前のCT値がave40-50 で あることについての根拠が示されていないから、上記画像における脊椎 硬膜外腔の部分が造影前のCT値を上回るという見解が合理的なもの 15 かどうか明らかではない。また、H医師の意見(乙B5)によると、造 影剤は分単位で静脈叢へ移行するから、G医師の上記意見は、硬膜の破 たん部位から漏出した造影剤ではなく、静脈叢へ移行した造影剤が硬膜 外腔で認められるというにすぎない疑いがある。さらに、F医師は、C T値だけから脳脊髄液漏出症かどうかを判断することはできないと述 20 べている(甲77の1〔5頁〕)。 したがって、G医師の見解は合理的なものとはいえず、原告の主張は 採用することができない。 d RI脳槽シンチグラフィー 原告は、F医師が、診療録作成後に、回答書(甲77の1)及び証人 25 尋問において、本件脳槽シンチの画像について、漏出が認められると述 17 べていることを指摘して、漏出を示す画像所見がある旨を主張している。 しかしながら、F医師は、本件脳槽シンチが行われた後、原告に対し て、硬膜外生理食塩水注入を行った結果、症状が改善したこ 17 べていることを指摘して、漏出を示す画像所見がある旨を主張している。 しかしながら、F医師は、本件脳槽シンチが行われた後、原告に対し て、硬膜外生理食塩水注入を行った結果、症状が改善したことを踏まえ て、事後的に振り返って本件脳槽シンチの画像は漏出を示す所見であっ た旨を述べているにすぎず、本件脳槽シンチの画像自体が漏出の確実所 5 見であるとまでは述べていない(「腰椎の部分に可能性があるのではな いかというふうにはしています」 〔証人F21頁〕と述べるにすぎない。)。 そうすると、F医師の上記供述を踏まえても、本件脳槽シンチの画像は 漏出の疑いを示すにすぎないから、原告の主張は採用することができな い。 10 e 硬膜外自家血注入の効果 原告は、硬膜外自家血注入により座位を保てる時間が長くなるなどの 効果があった旨主張する。しかし、このような症状の改善は限定的なも のにとどまっている。原告の頭痛等の症状が脳脊髄液漏出症ではなく精 神的な要因によるものであった場合にも、硬膜外自家血注入を行えばそ 15 の心理的影響(プラシーボ効果ともいえる。)により限定的には症状が 改善されることがあると考えられ、原告が脳脊髄液漏出症を発症してい たことを裏付けるような硬膜外自家血注入の効果は認められない。 f 本件暴行との因果関係 原告は、くも膜や硬膜は首から腰までつながっているため、衝撃を受 20 けると脳圧と脊髄液の中の圧が瞬間的に上がり、くも膜及び硬膜の中の 脆弱な部位で破綻をきたすことがある旨や、頭部に打撃を受けて腰部で 髄液の漏出が確認された事例がある旨を主張する。しかし、原告が主張 する事例において原告が主張する機序で髄液が漏出したことを裏付け る証拠はない。また、本件暴行による頭部への衝撃が脳脊髄液を介して 25 腰椎部に伝わったとしても、腰椎 を主張する。しかし、原告が主張 する事例において原告が主張する機序で髄液が漏出したことを裏付け る証拠はない。また、本件暴行による頭部への衝撃が脳脊髄液を介して 25 腰椎部に伝わったとしても、腰椎部に加わる外力が大きいとは考え難く、 18 その程度の外力で破綻を生じる程度に原告の腰椎部のくも膜や硬膜が 脆弱だったのであれば、日常生活やバスケットボール等の運動の際に腰 椎部に加わる外力によって破綻が生じたとも考えられる。仮に原告が脳 脊髄液漏出症を発症していたとしても、その原因が本件暴行であるとは 認められない。 5 イ 起立性調節障害について 前記認定事実によれば、起立性調節障害は、思春期に生じやすい循環系自 律神経機能失調であり、その症状は午前中に強く、午後から体調が回復する とされ、精神的なストレスによって影響を受けやすく、心身症としての側面 が強いこと、中学生で急増すること、病因は明らかではないが、現代の夜型 10 社会や、複雑化した心理社会的ストレスが背景にあるとされている。 原告は、その診療経過等に照らすと、朝は調子が悪いがだんだん良くなっ て夜が最も調子良いと述べることがあり、原告の母も同旨を述べることがあ った。また、原告は、登校を再開した時期に英語の授業で笑われたと泣いて 母へ訴えたり、登校や勉強に関して母としばしば口論になったりすることが 15 あった。そして、原告の父母は、休暇の取得をめぐって毎日諍いがあり、原 告の母は、高校受験を心配して原告を追い詰めてしまい、原告のストレスに なって不登校になってしまったなどと悔やんでいる。これらの事情に照らす と、原告にみられた症状は、起立性調節障害の病態に沿うものではあるもの の、学業や家庭生活といった本件暴行以外の出来事に起因する心理的な負荷 20 によって生じた疑いが、相当程度あ れらの事情に照らす と、原告にみられた症状は、起立性調節障害の病態に沿うものではあるもの の、学業や家庭生活といった本件暴行以外の出来事に起因する心理的な負荷 20 によって生じた疑いが、相当程度あるというべきである。 なお、原告は脳脊髄液漏出症により起立性調節障害を発症した旨も主張す るが、原告が本件暴行により脳脊髄液漏出症を発症したと認められないこと は上記アのとおりである。 したがって、原告は、本件暴行により、起立性調節障害を発症したとはい 25 えない。 19 3 争点⑶(原告の損害及びその額)について ⑴ 前記で説示したとおり、原告は、本件暴行により、脳脊髄液漏出症又は起立 性調節障害を発症したとはいえないから、両疾患の診療に関する損害について は、基本的には相当因果関係を欠くものというべきである。 もっとも、前記認定事実によれば、原告は、本件暴行を受けてまもなく頭痛 5 や頚部痛、気分不調などが生じ、脳震盪後症候群、頸椎捻挫等と診断され、そ の症状は遷延し、県立病院における入通院を経てもなお回復しなかったことか ら、7月6日に大学病院へ入院するに至ったことが認められる。症状の遷延に 起立性調節障害が影響している可能性は否定できないものの、同日に入院する までは原告の症状が継続的であることに鑑みると、同日に入院するまでの原告 10 の頭頚部の症状は本件暴行によるもので、入通院による診療は必要かつ相当な ものであったと認めるのが相当である。なお、腹痛や下痢の症状は本件暴行に よるものとは認め難いが、これらの症状のみを理由とする通院はない。 また、同日からの入院中は、輸液を受けて症状が改善し、同月12日以降は 頭痛等を訴えることはなかったが、それまでの症状の経過にも照らすと、同月 15 23日までの18日間の入院及び8月10日の通院による た、同日からの入院中は、輸液を受けて症状が改善し、同月12日以降は 頭痛等を訴えることはなかったが、それまでの症状の経過にも照らすと、同月 15 23日までの18日間の入院及び8月10日の通院による診療及び経過観察 は必要かつ相当なものであったと認めるのが相当である。 他方で、8月7日には、原告の母が、原告は入院前とは異なり寝起きが良い ことや退院後も経過良好であること、友人と外で遊べるくらい元気を取り戻し ていることなどを述べており、原告においても、公園で5時間ほど水風船を用 20 いて友人と遊んでいる。また、主治医であるF医師は、8月10日の通院時に、 9月から学校生活を通常通りに開始してよく、体育の授業も開始してよいと述 べ、8月24日付け診断書において、原告が、同月10日まで通学できず生活 に支障があったが、今後入通院治療の予定はないとの見解を示している。これ らの事情に照らすと、原告の本件暴行による頭頚部の症状は、遅くとも8月1 25 0日までに治癒したものと認めるのが相当である。原告は、9月21日に大学 20 病院を受診して、頭がどんよりするなどの症状を訴えるに至っているが、7月 までの症状との継続性はなく、9月以降の頭頚部の症状は本件暴行によるもの とは認められない。なお、原告は8月にも頭痛等があった旨主張するが、9月 21日までの通院時に原告が頭頚部の症状を訴えた事実は認められないから、 直ちに原告の上記主張を採用することはできないし、仮に頭痛等があったとし 5 ても7月までの症状との継続性を認めるに足りる証拠もない。 ⑵ 後遺障害については、前記のとおり、原告が、本件暴行により、脳脊髄液漏 出症又は起立性調節障害を発症したとはいえないから、両疾患を理由とする労 働能力の喪失を認めることはできず、その慰謝料も認めることはできない。 ⑶ 以 前記のとおり、原告が、本件暴行により、脳脊髄液漏 出症又は起立性調節障害を発症したとはいえないから、両疾患を理由とする労 働能力の喪失を認めることはできず、その慰謝料も認めることはできない。 ⑶ 以上を前提に検討すると、本件暴行と相当因果関係のある原告の損害は、別 10 紙損害額一覧表の「裁判所の認定」欄のとおりである。 第4 結論 よって、原告の被告Bに対する請求は、主文第1項の限度で理由があるからそ の限度で認容し、原告のその余の各請求はいずれも理由がないから全て棄却し、 訴訟費用の負担について民訴法65条1項ただし書、64条本文、61条を適用 15 し、仮執行の宣言について、同法259条1項を適用し、主文のとおり判決する。 高松地方裁判所民事部 裁判長裁判官 光 野 哲 治 20 裁判官 山 田 雅 秋 25 裁判官柏木悠香は,転勤のため署名押印することができない。 21 裁判長裁判官 光 野 哲 治 22 別紙 当事者の主張 争点⑴ 被告市における注意義務違反の有無 ア 原告の主張 顧問教員の過失 5 Cは、本件部活動の顧問教員として、部員生徒に対して、常に安全面に 十分な配慮をし、事故の発生を防ぐべき一般的な注意義務を負っている。 また、Cは、被告Bが本件部活動において口調を荒くすることがあった から、同人が本件暴行に及ぶことについて、予見可能性があった。 それにもかかわらず、Cは、下記a及びbのとおり注意義務を怠り、被 10 告Bが本件部活動のコーチとして振る舞うことを黙認・放任し、本件暴行 当時、同人の言動を何ら認識しないまま、これにより本件暴 それにもかかわらず、Cは、下記a及びbのとおり注意義務を怠り、被 10 告Bが本件部活動のコーチとして振る舞うことを黙認・放任し、本件暴行 当時、同人の言動を何ら認識しないまま、これにより本件暴行を生じさせ た。したがって、Cには、職務上尽くすべき注意義務違反がある。 a 被告Bは、顧問の交代を契機に、指導者的な振る舞いをエスカレート させており、指導に熱心なあまり罵倒や体罰に及ぶ危険があった。した 15 がって、Cには、被告Bに対して、部員に指示するなどの主体的な指導 を行わせないよう注意すべき義務があるのにこれを怠った。 b Cは、何らの資格や権限を有していない被告Bを、本件部活動のコー チとして参加させてはならない義務があるのにこれを怠った。 被告Bに対する体罰禁止指導の懈怠 20 被告市は、学校教育法11条ただし書の定めや文部科学省等の通知・ガ イドライン等(甲64~68)に基づいて、部活動における外部指導者等 に対し、部活動は学校教育の一環であり体罰が許されないことを積極的に 説明し、その理解を得るよう努める義務を負っている。 被告Bは、本件部活動の外部指導者ないし保護者等でありながら、体罰 25 禁止を理解していなかったのであるから、被告市は、被告Bが本件暴行に 23 及ぶことについての予見可能性があったか否かにかかわらず、被告Bに対 し、体罰禁止を積極的に説明しその理解を得るべきであった。 それにもかかわらず、被告市は、被告Bに対し、体罰禁止を説明せず、 これにより本件暴行を生じさせたから、被告市には、体罰禁止指導の懈怠 を理由とする注意義務違反がある。 5 イ 被告市の主張 否認し争う。 争点⑵ 原告が、本件暴行により、脳脊髄液漏出症又は起立性調節障 させたから、被告市には、体罰禁止指導の懈怠 を理由とする注意義務違反がある。 5 イ 被告市の主張 否認し争う。 争点⑵ 原告が、本件暴行により、脳脊髄液漏出症又は起立性調節障害を発症したか ア 原告の主張 脳脊髄液漏出症 10 原告は、本件暴行により、後頭部に強い衝撃が加わり、脳脊髄液漏出症 を発症した。その根拠は、次のとおりである。 a 診断基準:平成23年に厚生労働省の研究班が発表した診断基準は、 主に成人を対象とした研究に依拠するものであり、原告のような小児に 採用できるか検討されていない。したがって、上記診断基準ではなく、 15 日本脳脊髄液減少症学会が公表している最新の診断基準を採用すべき であり、同基準によると、原告の発症は認められる。 b 主訴:起立性頭痛がある。 c 画像: ①脊椎MRI:腰椎レベルにFESS(fringed epidural space sign) 20 がある。 ②RI脳槽シンチグラフィー:両側腰椎レベルに漏出がある。 ③CTミエログラフィー:硬膜外に造影剤が漏出している。 d 処置:原告に対して、安静臥床及び水分補給を与え、硬膜外生理食塩 水注入及びブラッドパッチ(2回)を実施した結果、症状が改善した。 25 e 本件暴行との因果関係:頭部への衝撃は首から腰までの全てのくも膜 24 及び硬膜に伝わるため、脆弱な部位であった腰椎で破綻をきたした。 起立性調節障害 原告は、本件暴行により、起立性調節障害を発症した。その根拠は、次 のとおりである。 a 本件暴行後、起立性頭痛、めまい、下痢等の症状が持続した。 5 b 原告は、上記症状の影響により満足に本件中学校 起立性調節障害を発症した。その根拠は、次 のとおりである。 a 本件暴行後、起立性頭痛、めまい、下痢等の症状が持続した。 5 b 原告は、上記症状の影響により満足に本件中学校へ通えなくなり、本 件部活動の大会に参加できず、勉強が遅れるなど、環境変化によるスト レスが相乗的に影響し、起立性調節障害の二次障害が発生した。 イ 被告らの主張 脳脊髄液漏出症について 10 否認し争う。 a 診断基準:日本脳脊髄液減少症学会の基準は内容が不明であり、公式 なものや正当なものではない。 b 主訴:原告の症状は、持続的な起立性頭痛がなく、自律神経症状や、 学校や受験などの精神的な要因に起因することが考えられる。 15 c 画像:確定所見を示すものがない。 d 処置:ブラッドパッチが実施された後も症状の変遷がある。原告が再 処置を拒絶したことに照らすと効果は明らかではない。 e 本件暴行との因果関係:本件暴行の程度は軽いものであり、原告に外 傷は生じていないから、本件暴行と発症との間に因果関係はない。 20 起立性調節障害について 否認し争う。また、心因的な影響が考えられ、因果関係はない。 争点⑶ 原告の損害及びその額 ア 原告の主張 別紙損害額一覧表の「原告の主張」欄のとおり 25 イ 被告Bの主張 25 別紙損害額一覧表の「被告Bの主張」欄のとおり。治療期間については、 平成30年6月8日に原告が腹痛で通院した分を除く同年5月5日から同 年6月14日までの入通院分を認め、その余は否認し争う。 ウ 被告市の主張 否認し争う。 5 別紙 主張額 理由等 主張額 理由等 認定 腹痛で通院した分を除く同年5月5日から同 年6月14日までの入通院分を認め、その余は否認し争う。 ウ 被告市の主張 否認し争う。 5 別紙 主張額 理由等 主張額 理由等 認定額 理由等 入院雑費 100,500 日額1,500円×(県立病院6日+大学病院61日) 9,000 県立病院6日分のみ認める。 36,000 日額1,500円×24日(平成30年8月10日までの入院日数) 付添費用 1,029,500 原告の両親は、原告の入通院・通学に付き添った。 入院 日額6,500円×(県立病院6日+大学病院61日) 通院 日額3,300円×(県立病院7日+大学病院25日) 通学 日額3,300円×(令和元年度の高校出席日数148日) 0 原告の症状や年齢に照らせば、 付添費用は認められない。 58,800 原告の年齢や本件暴行による被害の態様、診療経過等に照らすと、入院付添いにつ いては、医師の指示があったとは認められない本件において、付添いの必要があっ たとはいえない。もっとも、入院の開始日と終了日については、親権者による手続 や支援を要したものと考えられるから、両日に限り付添費用を認めるのが相当であ る。通院付添費については、原告の年齢や症状を踏まえ、平成30年8月10日までの 間の実通院日数分を認めるのが相当である。通学付添費については、相当因果関係 がない。 入院 日額6,500×(県立病院4日+大学病院2日) 通院 日額3,300×(県立病院5日+大学病院1日) 差額ベッド代 86,400 原告は、平成31年4月19日から同月26日までの間、大学病院 に入院し、差額ベッド代(日額10,800×8日)が生じた(甲 7)。 0 平成30年6月14日までが治療期間 であり、以後の診療は相当因果 関係がない。 0 平成30年8月10日より後の損害につ 病院 に入院し、差額ベッド代(日額10,800×8日)が生じた(甲 7)。 0 平成30年6月14日までが治療期間 であり、以後の診療は相当因果 関係がない。 0 平成30年8月10日より後の損害については、本件暴行との相当因果関係があるとは いえない。 付添者ベッド代 1,200 原告の母は、平成31年4月22日から同月24日までの間、原告 が入院して硬膜外自家血注入を受けた時に、付き添って宿泊 し、付添者用のベッド代が生じた(甲8)。 0 同上 0 同上 通院交通費 10,047 県立病院 15円×往復6.4km×7日(甲9) 大学病院 15円×往復25km×25日(甲10) 384 平成30年6月14日までの県立病院 への通院4日分のみ認める。 付添者交通費 23,451 原告の両親は、原告の入院期間中、毎日付き添いのために病 院へ通った。 県立病院 15円×往復6.4km×6日 大学病院 15円×往復25km×61日 576 県立病院6日分のみ認める。 文書料 39,120 診療録代:県立病院600円、大学病院18,940円、 診断書代:合計19,580円(甲13~18) 600 県立病院分のみ認める。 19,540 診療録代のみ認める。診断書代は脳脊髄液漏出症の発症があったとはいえないか ら、必要性・相当性があるとはいえない。 家庭教師代 113,400 原告は、平成30年9月から平成31年3月までの間、本件暴行に より登校ができず、高校受験のために家庭教師を依頼した。 月額16,200円×7月(甲19) 0 差額ベッド代に同じ 0 上記差額ベッド代に関する説示に同じ 高校受験料 15,000 原告は、本件暴行により、I高校を受験することができず、 受験料15,000円の損害を被った(甲20)。 0 0 通学交通費 23,976 原告は、令和元年度中、自転車で高校 高校受験料 15,000 原告は、本件暴行により、I高校を受験することができず、 受験料15,000円の損害を被った(甲20)。 0 0 通学交通費 23,976 原告は、令和元年度中、自転車で高校へ通学することができ ず、原告の両親が運転する自動車で通学した。 15円×往復5.4km×2回×148日(甲11、12) 0 0 留年損害 3,861,400 原告は、令和元年度中、私立高校へ満足に通えず留年し、年 間授業料の自己負担分435,600円の損害が生じた(甲21~ 23)。また、就職が1年遅れて、平成30年賃金センサス年 齢別大卒男子3,425,800円相当額の逸失利益が生じた。 0 0 通信制高校学費 241,768 原告は、上記私立高校を留年したので中退し、令和3年4月 から通信制高校へ再入学し、再入学先の学費合計241,768円 の損害が生じた(甲75、76)。 0 0 トライ授業料 1,996,225 原告は、上記通信制高校のカリキュラムとして、J高等学院 の授業を受け、学費合計1,996,225円の損害が生じた(甲7 2、73)。 0 0 逸失利益 66,164,990 原告は、令和2年10月27日に症状が固定し、脳脊髄液漏出症 等による頭痛、倦怠感、吐気、体温調節困難、めまい、睡眠 障害、長時間の座位や起座位が困難であるなどの後遺障害が 残存した。その程度は、等級7級4号「神経系統の機能又は精 神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができ ないもの」に該当する。 基礎収入:平成30年賃金センサス大卒男子6,689,300円 喪失率:56%、喪失期間:67年-23年=44年 6,689,300×56%×17.6628(44年のライプニッツ係数) 0 否認し争う。 0 原告が、本件暴行により、脳脊髄液漏出症又は起立性調節障害を発症したとはいえ ない :67年-23年=44年 6,689,300×56%×17.6628(44年のライプニッツ係数) 0 否認し争う。 0 原告が、本件暴行により、脳脊髄液漏出症又は起立性調節障害を発症したとはいえ ないから、両疾患を理由とする労働能力の喪失を認めることはできない。 入通院慰謝料 3,000,000 本件暴行は、学校教育法11条ただし書に反する故意行為で あり、極めて悪質である。 280,000 平成30年6月14日までの治療期間 (入院6日、通院35日)に応じた 額が相当である。 1,000,000 本件暴行が故意の不法行為であること、本件暴行の内容、原告の診療経過、その他 諸般の事情を考慮すると、慰謝料は左記額が相当である。 後遺障害慰謝料 12,000,000 等級7級を前提に、本件暴行の悪質さを考慮すべきである。 0 争う。 0 本件暴行と相当因果関係を有する後遺障害が残存したとはいえない。 小計 88,706,977 290,560 1,116,521 弁護士費用 8,870,698 29,000 110,000 合計 97,577,675 319,560 1,226,521 同上 同上 損害額一覧表 原告の主張 被告Bの主張 裁判所の認定 2,181 通院交通費は平成30年8月10日までの間に原告が通院した日数分、付添者交通費 (入院に関する交通費)は被告Bが認める県立病院の入院6日分のほか大学病院の 入院の開始日と終了日について認める。通院交通費と付添者交通費の合計は、下記 の計算式となる。 県立病院 15円×往復6.4km×(入院6日+通院5日)=1,056 大学病院 15円×往復25km×(入院2日+通院1日)=1,125 学病院 15円×往復25km×(入院2日+通院1日)=1,125
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