平成29年4月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(ワ)第28591号商標権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成29年2月28日判決 原告 A同訴訟代理人弁護士安江邦治 被告学校法人河合塾同訴訟代理人弁護士中島茂同原正雄同小木惇 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,「医の心」なる標章及び「医心」なる標章を使用して,被告の学習塾の医学の教授の役務に関する生徒募集等のためにパンフレット,電磁的方法その他手段のいかんを問わず宣伝広告をしたり,第三者に宣伝広告をさせてはならない。 2 被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成28年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,「医の心」との標準文字の商標及び「医心」との標準文字の商標に係る各商標権を有する原告が,被告においてこれらの文言をパンフレットやウ ェブサイト上で使用して医学部受験生に対する受験指導等の宣伝広告を行っている行為が上記商標権をいずれも侵害する旨主張して,被告に対し,①商標法36条1項に基づき,上記各標章の宣伝広告のための使用の差止めを求めるとともに,②民法709条 する受験指導等の宣伝広告を行っている行為が上記商標権をいずれも侵害する旨主張して,被告に対し,①商標法36条1項に基づき,上記各標章の宣伝広告のための使用の差止めを求めるとともに,②民法709条及び商標法38条2項に基づき,一部請求として,損害賠償金2000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成28年9月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告は,予備校・家庭教師派遣業の運営,出版業,映像制作,学習ソフトの開発等を業とする「合同会社医系予備校講師の会」の代表社員である。 イ被告は,教育基本法及び学校教育法に従い学校教育を行うことを目的とする河合塾大阪校を含む各学校を設置し,受験生に対する受験勉強の教授等を業とする学校法人である。 (2) 原告の商標権原告は,次の各商標権(以下「本件商標権」と総称し,これらに係る各商標を「本件商標」と総称する。)を有する(甲1ないし4)。 ア登録番号第5587659号出願日平成24年12月14日登録日平成25年6月7日登録商標 「医の心」(標準文字)指定役務第41類医学・歯学に関する知識の教授,医学部・歯学部に関する受験勉強の教授,医学部・歯学部受験に関する倫理学・一般教養・小論文の教授,医学部・歯学部受験に関する面接指導(以下,上記商標権を「本件商標権1」といい,その登録商標を「本件商 標1」という。)イ登録番号第5858642号出願日平成27年8月6日登録日平成28年6月17日登録商標 ,その登録商標を「本件商 標1」という。)イ登録番号第5858642号出願日平成27年8月6日登録日平成28年6月17日登録商標 「医心」(標準文字)指定役務第41類医学・歯学・薬学又は看護学に関する知識の教授,医学部・歯学部・薬学部・看護学部又はその他の医療系学部に関する受験勉強の教授,医学部生・歯学部生・薬学部生・看護学部生又は医学部受験生に対するコミュニケーション力・倫理学・一般教養又は小論文の教授,医学部生・歯学部生・薬学部生・看護学部生又は医学部受験生に対する面接指導,医学・歯学・薬学又は看護学に関するセミナーの企画・運営又は開催,医学・歯学・薬学又は看護学に関するイベントの企画・運営又は開催,医学部・歯学部・薬学部又は看護学部の受験に関するセミナーの企画・運営又は開催,医学部・歯学部・薬学部又は看護学部の受験に関するイベントの企画・運営又は開催,ホームページを利用して生徒募集を行うことによる医学部生・歯学部生・薬学部生・看護学部生又は医学部受験生に対する医療知識の教授,電子出版物の提供(以下,上記商標権を「本件商標権2」といい,その登録商標を「本件商標2」という。)(3) 被告のウェブサイト及びパンフレットにおける表記被告は,平成27年4月,大阪校医進館において,医学部志望の高校1年生を対象とする「高1医進コース」の講座の一つとして「医心養成ゼミ」を開講し,平成28年4月からは「高2医進コース」の講座の一つとしても「医心養成ゼミ」を開講した(乙30)。 被告は,同ゼミに関するウェブサイト及びパンフレットにおいて,「医の心」「医心」「医心養成ゼミ」との表記を多く用いている(以下 としても「医心養成ゼミ」を開講した(乙30)。 被告は,同ゼミに関するウェブサイト及びパンフレットにおいて,「医の心」「医心」「医心養成ゼミ」との表記を多く用いている(以下,「医の心」との表記を「被告標章1」と,「医心」との表記を「被告標章2」と,「医心養成ゼミ」との表記を「被告標章3」といい,これらを併せて「被告標章」と総称する。)。具体的な使用状況は,例えば,別紙被告標章使用状況1ないし4各記載のとおりである(これらは順に甲5,8の2,8の4及び8の5に対応する。これらを順に「本件ウェブサイト1」,「本件ウェブサイト2」,「本件ウェブサイト3」,「本件パンフレット」といい,併せて「本件ウェブサイト等」と総称する。また,別紙被告標章使用状況1ないし4において,「医の心」ないし「医心」との文言が使用された部分24か所につき,それぞれ被告表記①ないし㉔ともいう。)。 なお,被告は,平成28年8月,「医心養成ゼミ」の名称を「医深探求ゼミ」と変更した(乙29,30)。 (4) 検索画面上での表示ヤフー株式会社が運営する検索サイト「Yahoo!検索」(以下「本件検索サイト」という。)において,「河合塾,大阪校,医学部,医心養成ゼミ」ないし「河合塾,大阪校,医学部,医の心」の各キーワードを入力した場合の検索結果には,被告が開講している「医心養成ゼミ」に関する被告のウェブサイトの記載の一部(被告標章1ないし3の記載を含む。)が表示された(甲8の1,8の3。以下「本件検索結果」と総称する。)。 2 争点(1) 被告標章に係る商標的使用の有無(争点(1))(2) 本件検索結果における被告標章の使用主体(争点(2))(3) 本件商標と被告標章3との類否(争点(3))(4) (1) 被告標章に係る商標的使用の有無(争点(1))(2) 本件検索結果における被告標章の使用主体(争点(2))(3) 本件商標と被告標章3との類否(争点(3))(4) 被告標章3についての被告の先使用権の成否(争点(4))(5) 原告の損害額(争点(5)) 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(被告標章に係る商標的使用の有無)についてア被告の主張(ア) 被告標章1の「医の心」という言葉は,医師の誠実性を示す言葉として普通に用いられており(乙6ないし10参照),同標章は,大阪校医進館で運営する医心養成ゼミのカリキュラム(以下「本件カリキュラム」という。)における獲得対象,すなわち医師としての誠実性を説明,記述した表示である(被告表記①②⑫⑭⑮⑰⑳参照)。 なお,「医の心」は,「医師にとって必要な理念」を意味するものとしても受け取られるところ,一般に「医は仁術」(「医は,人命を救う博愛の道である」旨)の語句が広く知られていることから,やはり「医の心」は「医師としての誠実性」を意味するものとして認識される。 また,被告標章1は単独で用いられているのではなく,例えば本件ウェブサイト1においても,他の表記とともに用いられることにより,受験生やその保護者などの需要者は,表記全体をみて,被告標章1が医師の誠実性を示す言葉として使用されているものと理解する。 (イ) 被告標章2「医心」も,本件カリキュラムにおける獲得対象,すなわち医師としての誠実性を説明,記述した表示である(被告表記⑤⑦⑨参照)。被告は,医心,すなわち医師としての誠実性を養成し,主体性,課題発見力,傾聴力を身につけることで,受験学力の向上につながると考えている。 「医心」が「医の心」と同じ意味 る(被告表記⑤⑦⑨参照)。被告は,医心,すなわち医師としての誠実性を養成し,主体性,課題発見力,傾聴力を身につけることで,受験学力の向上につながると考えている。 「医心」が「医の心」と同じ意味を有するものとして用いられていることを,受験生やその保護者などの需要者は容易に理解する。また,「医心」は「医術の心得」という意味で用いられる日常用語である(広辞苑第6版参照)。辞書には「医術」であるとの解説のみが記載されているが,「医は仁術」の語句が広く知られていることから,医師として の誠実性をも兼ね備えていることを示すものとして理解される。 「医心」が医師としての誠実性を示すものとして用いられていることは,本件ウェブサイト1における他の記載からも読み取ることができる。 また,「医心」は,医師にとって必要な資質という意味を有することを示すものでもある。 (ウ) 被告標章3「医心養成ゼミ」は,医師の誠実性を示す「医の心」を養成するゼミであるとして,本件カリキュラムで提供する内容を記述,説明するもので,「医心を養成するゼミである」ことを簡略化してゼミの内容を表現したものであり(被告表記③④⑥⑧⑩⑪⑬⑯⑱⑲㉑㉒㉓㉔参照),自他の役務を識別するための表示ではない。 (エ) 以上のとおり,被告は,本件カリキュラムで提供される内容を示すものとして,「医師としての誠実性である医心を養成するゼミ」という意味で「医心養成ゼミ」と表記している。 また,被告が「医の心」や「医心」を,自他の役務を識別する表示として用いたことはなく,いずれも本件カリキュラムで提供される内容を,普通に用いられる方法で説明する記述である。 したがって,本件ウェブサイト等及び本件検索結果における被告標章の表示は,いずれも商標としての使用で ずれも本件カリキュラムで提供される内容を,普通に用いられる方法で説明する記述である。 したがって,本件ウェブサイト等及び本件検索結果における被告標章の表示は,いずれも商標としての使用ではなく,本件商標権を侵害するものではない(なお,そもそも,本件検索結果における被告標章の表示は,後記(2)のとおり,被告が行ったものではない。)。 なお,カリキュラムの内容を説明,記述したことが「商標としての使用」になるわけではない。また,仮に,原告が「医の心」を「役務を表現する標章」として使用していたとしても,そのために被告標章1「医の心」が「商標としての使用」に転化することはない。 イ原告の主張(ア) 「医の心」という用語自体は,原告が創作したものではないが,原 告は他に先駆けて,医学部受験生に対する最新の医療論・医療概論を含む受験勉強の教授の役務を表現する標章として「医の心」を使用している。 他方で,被告は,被告標章1「医の心」について,被告が受験生に対して提供する「受験勉強の教授の役務」を表現するものであることを自認している。 「医の心」が医師の誠実性を示す言葉として普通に用いられているかはともかく,被告の上記主張からすれば,少なくとも,被告は,本件ウェブサイト等において「医の心」なる用語を被告が受験生に提供する「受験勉強の教授の内容」を表現する標識として使用していることについて自認していることになる。 このように,被告は,「医の心」授業について被告が受験生に提供する「医学に関する知識の教授」「医学部に関する受験勉強の教授」という役務を表現する標章として使用しており(甲5参照),これは普通名詞又は普通名称としての使用などでなく,被告標章1が,本件商標権を侵害するものであることは明らかである。 関する受験勉強の教授」という役務を表現する標章として使用しており(甲5参照),これは普通名詞又は普通名称としての使用などでなく,被告標章1が,本件商標権を侵害するものであることは明らかである。 (イ) 被告は,被告標章2「医心」を「受験学力の加速的な向上」に結びつく授業の名称として使用しているから,被告の医学部受験生に対する受験勉強の教授(役務)の標章として使用していることになり,これは普通名詞又は普通名称としての使用などでなく,被告標章2が,本件商標権を侵害するものであることは明らかである。 (ウ) 被告は,被告標章3「医心養成ゼミ」につき,被告が提供する本件カリキュラム(被告の役務)を表現したものであることを認めており,商標としての使用であることを認めている。 そして,「医心養成ゼミ」の表示は,本件商標2「医心」を使用しており,かつ被告の役務識別機能を有する表示として使用されている。 (エ) 以上のとおり,被告の使用する被告標章は,被告の提供する受験勉強の教授の役務の内容を表象するものであり,受験生が被告の提供する役務を選択する動機付けに重要な役割を果たすものであるから,正に役務商標として使用されている。 なお,原告から本件商標の使用許諾を受けた「合同会社医系予備校講師の会」は,同商標を指定役務の商標として使用しているところ,同会のカリキュラムはその入会案内(甲11の1)及びシラバス(甲11の2)記載のとおりであって,本件商標は,そこに示された「受験勉強の教授等の役務」の内容を表す標識としての機能を果たしている。 (2) 争点(2)(本件検索結果における被告標章の使用主体)についてア原告の主張被告は,ヤフー株式会社が運営するウェブサイト(本件検索サイト 標識としての機能を果たしている。 (2) 争点(2)(本件検索結果における被告標章の使用主体)についてア原告の主張被告は,ヤフー株式会社が運営するウェブサイト(本件検索サイト)においても,被告標章を使用し,広告宣伝を行っているから,本件検索結果における被告標章の使用についても,当然に商標法上の責任を負うべきである。 イ被告の主張争う。上記被告標章の使用とされるものは,被告が行ったものではない。 商標法2条3項8号は「役務に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を「使用」と定義しており,本件検索結果が商標法上の「使用」に該当するのは,本件検索結果を被告が「提供」した場合に限られる。しかるところ,被告が本件検索結果を「提供」した事実はないから,同検索結果は商標法所定の「使用」に該当しない。 そもそも本件検索サイトを運営するのはヤフー株式会社であり,同社は被告とは別法人で資本関係もなく,両者間には契約関係もない。 また,本件検索サイトは,検索者の求めに応じ,インターネット上にあ る情報の中から目的の情報を収集し,表示するサービスである。 そして,本件検索結果は,本件検索サイトの検索エンジン用ロボット独自のデータやアルゴリズムが収集した情報に基づいて自動的に作成されたものであり,上記検索結果における「医の心」「医心」との表記は,同サイトの検索エンジン用ロボット独自のデータやアルゴリズムが,被告の運営するウェブサイト(甲8の2,8の4等)から情報を収集し,その情報を表示しただけのものであるから,被告が「提供」したものではない。 (3) 争点(3)(本件商標と被告標章3との類否)についてア原告の主張被告標章3「医心養成ゼミ」 ,その情報を表示しただけのものであるから,被告が「提供」したものではない。 (3) 争点(3)(本件商標と被告標章3との類否)についてア原告の主張被告標章3「医心養成ゼミ」の要部「医心」は,本件商標2「医心」と同一であるから,被告標章3を使用することは,本件商標権2を侵害するものである。同様に,被告標章3「医心養成ゼミ」の要部「医心」は,本件商標1「医の心」にも類似するから,被告標章3を使用することは,本件商標権1をも侵害する。 イ被告の主張被告標章3「医心養成ゼミ」は,本件商標2「医心」とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても相違する。 まず,被告標章3は,外観上,一連一体の記載であり,「医心」のみが切り離されて認識されることはない。そして,この合計6文字は,全て同書同大で,全て同色で表され,横一列に記載され文字の間隔も全て同じでまとまっている。これに対し,本件商標2「医心」は漢字2字からなり,漢字4文字,カタカナ2文字からなる「医心養成ゼミ」との表記とは明らかに異なる。 また,被告標章3から生じる称呼は「イシンヨウセイゼミ」であり,略称される場合にも「ヨウセイゼミ」といわれ,「イシン」と略称されることはない。これに対し,本件商標2「医心」から生じる称呼は「いごこ ろ」であり,称呼が異なる。 さらに,被告標章3からは,「医心を養成するゼミ」という観念が生じる。被告は,この「医心」に「医師としての誠実性」という意味を込めており,「そのような医心を育てるゼミ」という観念が生じる。これに対し,本件商標2「医心」からは「医術の心得」という観念が生じる。そして,「ゼミ(演習,セミナー,講習会)」と,「心得(わきまえておくべき事柄)」とでは,観念が全く異なる という観念が生じる。これに対し,本件商標2「医心」からは「医術の心得」という観念が生じる。そして,「ゼミ(演習,セミナー,講習会)」と,「心得(わきまえておくべき事柄)」とでは,観念が全く異なる。 (4) 争点(4)(被告標章3についての被告の先使用権の成否)についてア被告の主張本件商標2の出願に先立つ平成27年4月頃,医心養成ゼミは,被告大阪校医進館が運営している「高1医進コース」のカリキュラムの一つであった。そして,同コースの需要者は,①平成27年4月時点の高校1年生,②大阪校医進館への通学圏内(近畿2府2県)の高校に通学している者,③医学部志望者の全てに該当する者であり,これらの者のほとんどは,近畿2府2県に所在する高校のうち被告が大阪校医進館への入学を勧誘すべき重要校として位置付けている高校(以下「主要39校」という。)の1年生(平成27年4月時点)であった。 そして,被告は,本件商標2「医心」が出願された平成27年8月6日以前である平成26年11月頃から,被告標章3「医心養成ゼミ」を使用しており,主要39校の高校1年生に対し,チラシやパンフレットを校門前で手渡したり,自宅に郵送するなどした。また,上記需要者の多くが医心養成ゼミのウェブサイトを閲覧した。 その結果,被告標章3「医心養成ゼミ」は,遅くとも本件商標2の出願に先立つ平成27年4月頃までには,上記コースの需要者の間で広く認識されるに至り,本件商標2「医心」の出願日である同年8月6日時点でも需要者に広く認識されていた。 したがって,被告は,被告標章3について先使用権を有する。 イ原告の主張争う。 被告が提出した証拠(乙31ないし41)は,いずれも被告標章3が被告の商標として需要者の間に広く認識され は,被告標章3について先使用権を有する。 イ原告の主張争う。 被告が提出した証拠(乙31ないし41)は,いずれも被告標章3が被告の商標として需要者の間に広く認識されていたこと(周知性)を認定し得るものではない。 また,被告の主張によれば,被告の「医心養成ゼミ」が世間に初めて紹介されたのは平成27年2月前後ということになるが,同年4月に開講された同ゼミで使用された資料に記載された被告標章2「医心」や被告標章3「医心養成ゼミ」が本件商標2「医心」の登録出願日である同年8月6日の時点で,被告の役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとは到底解されない。このほか,被告の「医心養成ゼミ」の需要者が,被告の主張どおりであったとしても,これが直ちに商標法32条1項にいう「需要者」に当たるものでもない。 (5) 争点(5)(原告の損害額)についてア原告の主張被告が平成27年4月から平成28年7月までの間に本件商標権の侵害行為(大阪校医進館の医進コースにおける被告標章の使用)によって得た売上げは,被告発行のパンフレットに基づき推測すると,少なくとも5億円を下らないものと解され,被告の利益率は,少なくとも1割を下らないと解されるので,上記期間中に被告が得た利益は5000万円を下らない。 そこで,原告は,被告の上記利益のうち2000万円の支払を請求する。 イ被告の主張争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被告標章に係る商標的使用の有無)について (1) 証拠(甲5,8の1ないし5,乙4,6ないし10,11の1ないし11,17,30)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 「医の心」及び「医心」という語の用 (1) 証拠(甲5,8の1ないし5,乙4,6ないし10,11の1ないし11,17,30)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 「医の心」及び「医心」という語の用例等(ア) 「医の心」という語は,以下のとおり,医療関係の書籍や番組,ウェブサイト等で頻繁に用いられており,このうち,c及びeは,本件商標1の出願より25年以上前のものである。 a 「QLifePro」という医療従事者向けの医療総合サイト「医心」があり(株式会社QLife運営),その中に立石実医師が執筆した「医の心」というコラムが平成25年3月8日付けで掲載され,そこでは後記cの著作の内容が紹介されている(乙6)。 b 毎日放送で「医のココロ」という医療情報番組が放送されている(乙7)。 c 榊原仟教授(東京帝国大学医学部の医局長,東京女子医科大学外科主任教授,日本心臓血管外科学会会長,筑波大学副学長を歴任し,心臓外科の権威とされる。)が著作した「医の心」と題する書物(中公文庫,昭和62年2月10日発行)が刊行されており,そこでは,「『医の心』といえば,医師たる者の心得ていなければならないこととも受取れるし,医師が患者の治療に際して,背景に抱いている医師の心情とも解釈できる。」,「『人間の生命と医師の使命』では,医師は生命をどう考え,どのような立場で取扱っているのか,について触れた。これが,医療の本質にかかわるもので,『医の心』そのものともいえると思う。」等の記載がある(乙8)。 d 神津仁医師による「医の心」と題するウェブサイト上のエッセイがあり,そこでは,日本医師会生涯教育シリーズの「対談医の心―先輩医師に学ぶ」という書籍が紹介されている(乙9)。 e 北里大学病院が編者となった「医の心(一) 医の哲学 ブサイト上のエッセイがあり,そこでは,日本医師会生涯教育シリーズの「対談医の心―先輩医師に学ぶ」という書籍が紹介されている(乙9)。 e 北里大学病院が編者となった「医の心(一) 医の哲学と倫理を考え る」と題する書物(丸善株式会社,昭和59年1月20日発行)が刊行されている(乙10)。 (イ) 「医心」という語は,「医術の心得」(広辞苑第6版)との意味で一般に用いられている。 イ被告による本件標章の使用態様等(ア) 本件ウェブサイト1(甲5)においては,「医心養成ゼミでは良医になるための知識や心構えを習得していきます。」「医心=『主体性』『課題発見力』『傾聴力』など,臨床医・研究医にとって必要な資質。」等の記載がある。 (イ) 本件ウェブサイト2(甲8の2)には,「医学部入試(面接・小論文)突破のみならず,その先の医学生として,自分を高め続けていくために必要な素養や能力,それが『医の心』です。」「医心養成ゼミとは,その『医の心』を講義形式やその場での実践を通して身につけていくことを目的とした特別講座です。」等の記載がある。 (ウ) 本件ウェブサイト3(甲8の4)には,「―医師に欠かせない『医の心』を育てる―『医心養成ゼミ2016』のご案内」「(学)河合塾では,大阪校医進館にて,中学生・高校生とその保護者を対象に医学部志望者のための特別講座『医心養成ゼミ2016』を実施いたします。」「当講座では,『医の心』を講義形式やその場での実践を通して身につけていくということを目的としています。」等の記載がある。 (エ) 本件パンフレット(甲8の5)には,「医心養成ゼミでは,楽しみながら医師になるための知識や心構えを習得していきます。」等の記載がある。 (オ) 被告作成のパンフレット(乙4)には,「『医心養成 ) 本件パンフレット(甲8の5)には,「医心養成ゼミでは,楽しみながら医師になるための知識や心構えを習得していきます。」等の記載がある。 (オ) 被告作成のパンフレット(乙4)には,「『医心養成ゼミ』では,合格後の医学生・医師にとって必要な素養『医心』を高1生の時点から3年かけて段階的に養成します。」等の記載がある。 (カ) 被告作成のチラシ(乙17)には,「医心養成ゼミ」について「今日求められている医学研究者・医療人の素養を,グループワーク形式(定員40名)の講座を通して体感してみよう。」との記載がある。 (キ) 被告が平成27年4月に大阪校医進館において開講した,医学部志望の高校1年生向けの「医心養成ゼミ」は,医学部受験に必要な知識の習得を直接の目的とするものではなく,「パターナリズム」や「将来のライフスタイル」について議論したり,研究現場を訪れたり,医師を志望する理由を英語で考えたり,「論理的に考える力」「計算処理力」「論証力,表現力」を獲得するなどのテーマで議論を行うといった内容であった(乙11の1ないし11)。 ウ本件検索結果の内容本件検索結果は,被告が開講している「医心養成ゼミ」に関する被告のウェブサイトの記載の一部が表示されたものであり,例えば,「医心養成ゼミとは,その『医の心』を講義形式やその場での実践を通して身につけていくことを目的とした特別講座です。」,「高校1年生対象『医進コース体験ゼミ』のご案内です。…徹底的な『医学部合格への学力』養成に加え,合格後の医学生・医師にとって必要な要素『医心』を高1生の時点から3年かけて段階的に養成する…」等の記載がある(甲8の1・3)。 (2) 前記(1)ア(ア)のとおり,「医の心」という語は,従前から医療関係の書籍や番組等で頻繁に用いられている語 を高1生の時点から3年かけて段階的に養成する…」等の記載がある(甲8の1・3)。 (2) 前記(1)ア(ア)のとおり,「医の心」という語は,従前から医療関係の書籍や番組等で頻繁に用いられている語であり,その文言からしてその意味は医師ないし医療の心得といったものであると自然に理解できるところ,現に,昭和62年に発行された心臓外科の権威とされる医師による「医の心」と題する書物(乙8)では,「医の心」につき,医師の心得ないし医師の心情との意味である旨が詳細に記載されている。 また,「医心」という語も,「医の心」を短縮した語であると解され,現に,前記(1)ア(イ)のとおり,「医術の心得」(広辞苑第6版)といった意 味で一般に用いられている。 そして,前記(1)イ(ア)ないし(カ)のとおり,被告は,本件ウェブサイト等を含む被告のウェブサイト及びパンフレット等において,被告標章1「医の心」や被告標章2「医心」という語を,上記のような一般的な意義と同様に,医師としての心構えや医師が有すべき素養等といった意味で用いているものであり,被告標章3「医心養成ゼミ」も,そのような「医の心」や「医心」を養成するためのゼミであることを説明しているものである。実際に,被告は,前記(1)イ(キ)のとおり,「医心養成ゼミ」において,医学部受験のための知識ではなく,医師としての心構えや素養を養うことを目的としたカリキュラムを提供している。 以上のとおり,本件ウェブサイト等を含む被告のウェブサイト及びパンフレットにおいて,被告標章1及び2は,医学部志望者が医師になるために学力とともに備えるべき心構えや素養を記述的に説明した語であり,被告標章3も,医師として必要な心構えや素養の養成を目的とするゼミであることを記述的に説明した語であると認められるから,こ になるために学力とともに備えるべき心構えや素養を記述的に説明した語であり,被告標章3も,医師として必要な心構えや素養の養成を目的とするゼミであることを記述的に説明した語であると認められるから,これらの標章は自他識別機能を有する標識として商標的に使用されているものではなく,したがって,被告のウェブサイト及びパンフレットにおける被告標章1ないし3の使用には,本件商標権1及び2の効力は及ばない(商標法26条1項6号)。 なお,仮に,原告から使用許諾を受けた者が本件商標を商標的に用いているとしても,同事実によって,被告が被告標章を商標的に使用していることにはならない。 (3) また,本件検索結果における被告標章1ないし3の表示についても,被告が開講している「医心養成ゼミ」に関する被告のウェブサイトの記載の一部が表示されるものであるところ,そもそもそれが被告による使用に当たるか否かの点(争点(2))は措いて,その表示内容を検討しても,上記(2)の被告のウェブサイト及びパンフレットにおける被告標章の使用の場合 と同様に,被告標章を商標的に使用しているものではなく,本件商標権1及び2の効力は及ばない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官沖中康人 裁判官矢口俊哉 裁判官村井美喜子 裁判官 村井美喜子
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