- 1 - 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,別紙物件目録1ないし4記載の各市バスに乗車させてはならない。 2 被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成28年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告が運営する市営バスの運転手である原告が,ブレーキ操作をした際,異常な音や振動が発生し,交通事故等が生じる現実的な危険があるバスへの乗車を被告から命じられたことにより,自己の生命及び身体に対する具体的危険が生じ,また,精神的な苦痛を受けたと主張して,同バスへの乗車を指揮命令する権限を有する被告に対し,人格権又は雇用契約上の安全配慮義務に基づき,原告を同バスに乗車させないとの不作為を求めると共に,上記命令が不法行為に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料10万円及びこれに対する不法行為後の日である平成28年9月7日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,あるいは末尾掲記の証拠等により容易に認定できる。)当事者等ア原告は,被告の交通局(以下「被告交通局」という。)の職員である。 原告は,被告交通局自動車部A営業所(以下「A営業所」という。) - 2 -において,京都市営バス(以下「市バス」という。)の運転士として勤務している。 イ被告は,市バスの運行を管理する者であり,その具体的な運用を決定し,原告に対し,市バスへ - 2 -において,京都市営バス(以下「市バス」という。)の運転士として勤務している。 イ被告は,市バスの運行を管理する者であり,その具体的な運用を決定し,原告に対し,市バスへの乗車を指揮命令する権限を有する。 ウ別紙物件目録1ないし4記載の各市バス(以下,まとめて「本件市バス」といい,特定を要する場合は,目録の番号順に「本件バス1」などと表記する。)は平成14年から平成16年にA営業所に導入,運行されてきた日産UA272KAM型車両であり,現在,本件市バスを含めて15台の同型車両(以下「本件市バス等」という。)がA営業所に所属している(なお,実際に運行されている台数は争いがある。)。 本件市バス等に生じている現象等本件市バス等は,数年前より,ブレーキ操作時に一般的に生じる音や振動とは異なり,かつ,大きな音及び振動(以下「本件異音等」という。)が生じることがあるところ,少なくとも,以下の発生が確認されている(以下のアないしエの各異音等の発生については,順に,本件異音等1ないし4と表記することもある。)。なお,本件異音等が生じる頻度や以下のア,イ,ウにおける本件異音等の発生と停止状況(停止線を越えて停止するなど)との因果関係には争いがある。 ア本件異音等1日時平成27年6月4日対象車両本件バス1場所 ①B駅前(C交差点),②被告D営業所内状況等① 原告は,本件バス1を運転して,B駅を発車し,上記①のスクランブル交差点へさしかかっていたところ,同交差点の横断歩道の手前で停止するためにブレーキを踏んだ際,本件異音等が発生し,本件バス1が停止線を越えて交差点内に進 - 3 -入して停止した。 ② 原告は,乗客を全員降車させ めにブレーキを踏んだ際,本件異音等が発生し,本件バス1が停止線を越えて交差点内に進 - 3 -入して停止した。 ② 原告は,乗客を全員降車させ,本件バス1を運転してD営業所へ戻り,地下駐車場に向かっていた際,ブレーキをかけたところ,本件異音等が発生した。 イ本件異音等2発生日同年8月25日対象車両本件バス2場所 E町交差点の横断歩道前状況等本件バス2は,E町の交差点手前からF通を東へ進行していたところ,同交差点手前において,ブレーキをかけた際,本件異音等が生じ,本件バス2は横断歩道に進入して停止した。本件バス2は走行を再開し,上記停止の約3分後,再度ブレーキをかけたところ,本件異音等が再び生じた。 ウ本件異音等3発生日同年9月18日対象車両本件バス3場所 D橋西詰交差点状況等本件バス3はD橋西詰付近の堤防を南下して進行中であり,前方にマイクロバスが走行していた。マイクロバスがスピードを緩めたのに応じ,本件バス3のブレーキ操作をしたところ,本件異音等が生じた(乙4の2,弁論の全趣旨。なお,その直後,本件バス3が上記マイクロバスに衝突しかけたか否かについては争いがある)。 エ本件異音等4日時同年12月11日対象車両本件バス1 - 4 -場所 G交差点横断歩道前状況等 H通を北上して上記交差点にさしかかったところ,横断歩道の手前で停止するためにブレーキをかけた際,本件異音等が生じ,本件バス1は横断歩道に進入して停止した。 本件異音等に対する被告の対応等ア被告は,平成20年代半ばころから本件異音等の発生を認識し,A営業所の整備士による対応等を取ってきたが,本件異音等は平成2 1は横断歩道に進入して停止した。 本件異音等に対する被告の対応等ア被告は,平成20年代半ばころから本件異音等の発生を認識し,A営業所の整備士による対応等を取ってきたが,本件異音等は平成27年以降も生じている。 イ原告は,本件異音等1が生じた翌日である同年6月5日,A営業所所長や整備士らと対応を協議し,同所長は,原告に対し,本件バス1を調査用車両としてメーカーに提供する,その他の本件市バス等は現状のまま運行する,と説明した。 ウ被告は,上記イの以降に,その管理する市バスの運転席前のメーター上部に,ブレーキ鳴きが発生したら整備まで申告するよう記載した黄色いシールを貼り付けた。 エ本件バス1につき,同年10月ころ,メーカーにおいて本件異音等に関するテストが実施された。 0㎜の障害板をテストコースに設置して時速35kmで走行し,障害板を乗り越える直前に緩制動を掛ける試験を40回繰り返したところ,うち15回において,障害板を乗り越える際に前軸側で上下動が発生し,本件異音等が発生すること,及び,②後軸のブレーキを失陥させて,時速20ないし30kmでの緩制動を掛けた際に本件異音等が発生すると板を乗り越えた場合(制動減速度0.2G),本件異音等が発生した場合としない場合のいずれ - 5 -果から,本件異音等の一部である振動の発生は,前軸により引き起こされたものと推察されること,本件異音等の発生は,段差乗り越え時など,前軸の車両上下動が若干大きい状態で,前軸のブレーキを作動させた際,ブレーキ内のドラムとライニング(摩擦材)の間で発生した振動が,前軸の上下動で発生している振動をきっかけに前車軸に伝わって増幅し,前車軸全体が共振し,同振動がボディに伝播して生じたものと考えられるとされた 内のドラムとライニング(摩擦材)の間で発生した振動が,前軸の上下動で発生している振動をきっかけに前車軸に伝わって増幅し,前車軸全体が共振し,同振動がボディに伝播して生じたものと考えられるとされた。 メーカーは同振動の伝播を遮断するため,前軸ブレーキのブレーキシ音等が発生しなかったとして,そのころ,本件バス1はA営業所に返還された。 (以上,乙2,弁論の全趣旨)オ被告は,本件異音等の発生後も,本件市バス等につき,本件異音等が発生しているもののブレーキ操作は可能であるとして,本件バス3及び4を含む本件市バス等の一部を運行させている。なお,被告は,本件バス1を平成27年12月15日に,本件バス2を平成28年8月21日に,それぞれメーカーに預託しており,以後,運行の用には供していない(乙15,弁論の全趣旨)。 本件訴訟の提起原告は,平成28年8月31日,本件訴訟を提起し,本件訴状は,同年9月6日,被告に送達された(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点及びこれに対する当事者の主張 本件請求の趣旨1項が特定されているか(本案前の答弁)(被告の主張)原告は,被告に対し,本件請求の趣旨1項において,原告を本件市バス - 6 -に「乗車させてはならない」との不作為(以下「本件不作為」という。)を求めているが,その態様は余りにも多様である。よって,請求の趣旨が特定されているとはいえないから,本件請求の趣旨1項に係る訴えを却下すべきである。 (原告の主張)争う。 本件異音等の発生に伴う現実的危険(切迫した危険)の有無,程度(差止め請求権の法的根拠の有無を含む)(原告の主張)ア本件異音等の発生に伴う現実的危険の有無及び程度本件異音等は多数回生じているところ 発生に伴う現実的危険(切迫した危険)の有無,程度(差止め請求権の法的根拠の有無を含む)(原告の主張)ア本件異音等の発生に伴う現実的危険の有無及び程度本件異音等は多数回生じているところ,本件市バス等において,本件異音等が発生した場合,本件市バス等のブレーキが効かない又は効きが悪くなる。 仮に,本件異音等の発生時にブレーキの制動力は影響を受けていなかったとしても,原告を含む本件市バス等の運転士らは,本件市バス等のブレーキ操作時に突然,本件異音等が発生した際,通常のブレーキ操作をしてより激しい異音や振動が生じたり,急停車等の他の異常が生じ,乗客に怪我を負わせることへの不安から,又は,ブレーキを緩めることにより本件異音等を緩和できることから,通常時と同じブレーキ操作をする(ブレーキを踏み続ける)ことを躊躇せざるをえない。 よって,本件異音等が発生した場合,原告を含む運転士らは,ブレーキを緩めて数回踏み直す等の特殊な運転操作をしなければ本件市バス等を停止させることができず,本件市バス等を停止することが予定されている停止線等の手前ないし停留所等の停止場所(以下「予定停止場所」という。)に停止させることは不可能ないし著しく困難であ - 7 -る。 そして,本件市バス等を予定停止場所に停止させることが不可能ないし著しく困難であることから,本件市バス等を,信号に従って減速,停止している前方車両へ追突させる,信号に従って横断している歩行者へ衝突させる,これらを回避するための緊急運転操作のために,運転士自身や本件市バスの乗客に怪我を負わせるといった交通事故の発生という現実的な危険性(切迫した危険)が生じている。そして,原告を含む多くの市バスの運転士らには,本件異音等が生じる市バスであるこ 転士自身や本件市バスの乗客に怪我を負わせるといった交通事故の発生という現実的な危険性(切迫した危険)が生じている。そして,原告を含む多くの市バスの運転士らには,本件異音等が生じる市バスであること自体,上記交通事故が発生する危険性を認識しながら本件市バス等を運行し,上記交通事故を発生させること,及び,運転士として同事故につき責任を問われることへの不安もある。 イ被告は,被告の運転命令に基づき,原告が運転する市バスの運行管理に当たり,原告の生命,身体及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「本件安全配慮義務」という。)を負っており,具体的には,原告をして,交通事故を発生させる現実的危険性(切迫した危険)のある本件市バスにおいて運転業務をさせてはならない義務を負う。 また,原告は人格権の内容として,自己の生命,身体及び健康を害されない権利を有しているが,被告が,原告を上記危険性(切迫した危険)のある本件市バスの運転業務に従事させることは同権利の侵害である。 ウ被告は,本件異音等1ないし4の発生後も本件市バスを運行させており,原告に同バスへの乗車を命じて,本件安全配慮義務違反ないし上記人格権を侵害するおそれがあるから,原告は,被告に対し,本件安全配慮義務又は人格権に基づき,原告の本件市バスへの乗車を差し止めるよう求めることができる。 (被告の主張)否認ないし争う。 - 8 -ア本件異音等の発生に伴う現実的危険(切迫した危険)はない。 被告は,本件異音等1の発生後,運転士に本件異音等が生じた場合に報告するよう周知したが,本件異音等2ないし4を含め15件の報告しかなく,本件異音等の発生頻度はごく少ない。 本件異音等の発生原因は,前輪のブレーキドラムとライニング(摩 異音等が生じた場合に報告するよう周知したが,本件異音等2ないし4を含め15件の報告しかなく,本件異音等の発生頻度はごく少ない。 本件異音等の発生原因は,前輪のブレーキドラムとライニング(摩擦材)の間で発生した振動が,特定の条件下で前車軸の上下動と共振し,ボディに伝播して生じるものであり,ブレーキ自体に問題があるものではないし,本件異音等の発生により制動力に問題は見られず,ブレーキペダルの操作にも支障はないから,ブレーキペダルを二度踏みする必要はなく,本件異音等がブレーキ操作の継続に支障を来すものではない。 よって,制動時に本件異音等が生じたとしても,運転士はそのままブレーキ操作を継続し,通常どおりに停止できるものであって,原告を含めた全運転士がこれを承知している。 以上のとおり,本件市バスを運転することによる交通事故の危険(現実的ないし切迫した危険)はなく,本件市バスに乗車することが,直ちに,原告の生命,身体に対する具体的危険となること(切迫した危険)はなく,本件安全配慮義務違反ないし原告の人格権の侵害はない。 イそもそも,安全配慮義務は,本体の法律関係に付随する信義則上の義務であって,これに基づき具体的な給付を請求する権利ではない。被告が,本件安全配慮義務に基づき,労働者の安全を保持するためにどんな態様,方法をとるかは使用者たる被告の裁量に属する経営事項であるから,本件安全配慮義務を根拠として,原告は,被告に対し,本件不作為を請求し得ない。 被告の不法行為並びにそれにより原告に生じた損害及びその額(原告の主張)原告は,本件異音等により,交通事故を発生させる可能性のある本件市バ - 9 -抱かせられて本件市バスを運転しており,多大な精神的苦痛を生じた。この苦痛によ 張)原告は,本件異音等により,交通事故を発生させる可能性のある本件市バ - 9 -抱かせられて本件市バスを運転しており,多大な精神的苦痛を生じた。この苦痛による精神的損害に係る慰謝料は10万円を下ることはない。 (被告の主張)否認ないし争う。 なお,被告は,原告ら運転士に対する安全配慮をしていた。 第3 当裁判所の判断 1 争弁))について⑴ 被告は,本件請求の趣旨1項,すなわち,原告を本件市バスに「乗車させてはならない」との不作為(本件不作為)の態様が余りにも多様であり,請求の趣旨が特定されていないと主張する。 ⑵ しかし,上記第1及び第2記載の前提事実及び当事者の主張等によれば,本件請求の趣旨1項は,原告が,市バスの運行管理者として,原告に市バスへの乗車を指揮命令する権限を有する被告に対し,本件安全配慮義務又は人格権に基づき,原告を本件市バスに乗車せよとの命令をしないよう求めている趣旨であることが明らかであり,請求として特定されているものと認められるから,これに反する被告の主張は採用できない。 2 認定事実上記前提事実に,証拠(各文又は各項末尾に掲記したもの。なお,証拠に頁数を付した場合は主なものを示している。)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。以下の認定に反する証拠(甲121,122,原告本人)部分は採用できない。 ⑴ 本件市バス等は,平成14年ないし平成16年に順次,A営業所に導入された車両であるが,導入当時から本件異音等の発生があった。A営業所の整備係は,遅くとも平成24年秋ころ以降,本件異音等の発生の報告が - 10 -あった車両について,被告の技術課や販売店担当者などに相談しつつ,その原 。A営業所の整備係は,遅くとも平成24年秋ころ以降,本件異音等の発生の報告が - 10 -あった車両について,被告の技術課や販売店担当者などに相談しつつ,その原因となる可能性がある部位の交換,修正,調整をするなどし,本件異音等の発生報告数が減少することもあったが,その後も本件異音等は生じていた。 A営業所の運転士らは,本件異音等を経験し,恐怖を感じることもあったものの,ブレーキを緩めて踏み直し,本件異音等を緩和させることによって対応し,整備係に本件異音等の発生を報告しない者もいる状況であり,また,本件異音等により事故が発生したことはなかった。 (以上,甲1,乙1,原告本人・20頁)原告は,平成26年3月22日,被告交通局I営業所からA営業所に配置換えとなってまもなく,本件異音等を経験した。原告は,本件異音等につき,同僚等に尋ね,また,整備係に本件異音等が生じないようにしてほしいと告げるなどし,これらのやりとりの中で,本件異音等は本件市バス等の導入当時から生じているが運行は継続されている,事故が生じたことはないことを聞いた。 (原告本人・13ないし15頁)原告は,平成27年6月4日,本件異音等1のうち,B駅前で生じた事象(前提事実A営業所に報告した。被告は,原告に対し,本件バス1の乗客を全員降車させた上で,本件バス1をD営業所へ回送運転するよう指示したところ,同営業所地下駐車場へ向かう際に再度本件異音等が生じた(同ア②)。 これを受けて,当時のA営業所所長であった被告交通局職員J(以下「J所長」という。)は,翌5日,同営業所において,原告,営業所整備主任であるK氏,京都交通労働組合A支部長であるL氏と本件異音等につき協議をした。J所長は,上記協議の際 った被告交通局職員J(以下「J所長」という。)は,翌5日,同営業所において,原告,営業所整備主任であるK氏,京都交通労働組合A支部長であるL氏と本件異音等につき協議をした。J所長は,上記協議の際,本件異音等の発生時,ブレーキは効いているかを確認したところ,整備係のK氏から,本件異音等が発生 - 11 -していても車両は減速停止していることからブレーキは効いているが,本件異音等発生時に通常と同じブレーキ操作をするのは困難であると認識しているとの説明を受けた。J所長は,Lた上で,本件バス1は,メーカーに預託して原因解明と改善対策を求めるがその余の本件市バス等は運行を続けること,今後,本件異音等の申告があったときは,運転士と当日の運行管理者(営業所係長)との協議によって,運行の中止等を判断すると共に,発生時のドライブレコーダーの映像を保存して確認することとした。 被告は,翌6日,本件市バス運転席に「この車両でブレーキ鳴きが発生したら整備まで申告してください」と記載したシールを貼付した。 (以上,甲1,60,証人J所長・1,2,18頁)被告は,平成27年6月6日から平成29年1月31日までの間に本件バス1ないし4で15件(42回。うち3件は本件異音等2ないし4。)の,本件バス1ないし4を除く本件市バス等で18件(48回)の本件異音等の発生の報告を受けた。本件バス1ないし4における本件異音等の発生頻度は,本件バス1が216運行中2件,本件バス2が428運行中7件,本件バス3が702運行中1件,本件バス4が2606運行中5件の発生であり,本件異音等の発生時,運転士らが想定していた予定停止場所を越えて停止したことはあるが,車両の制御及び減速ができなくなったり,車内の乗客及び運転士並びに周囲の車両 4が2606運行中5件の発生であり,本件異音等の発生時,運転士らが想定していた予定停止場所を越えて停止したことはあるが,車両の制御及び減速ができなくなったり,車内の乗客及び運転士並びに周囲の車両や人物等に危険が生じたりといった状況には至らなかった(なお,本件異音等3の発生後,本件バス3が停止した際の本件バス3と前方のマイクロバスとの車間距離に照らして,衝突等のおそれが高い状況であったとは認めがたい。)。 (以上,甲6,乙4,8,9,16)被告おりの本件異音等の発生機序の報告がされ,ブレーキシューの組み替え等 - 12 -がなされた本件バス1が返却されたころから平成29年11月にかけて,本件市バス等につき,ブレーキシュー,ブレーキドラム,アンカーピン,キングピン,ブレーキライニングを研磨,又は,製造方法や材質が異なるものも含めた新品に順次交換すると共に,再度本件異音等が発生した本件バス1及び本件異音等が発生する頻度が比較的高かった本件バス2をメーカーに預託し,本件異音等の発生原因を解明するよう依頼した。その結果,本件異音等の再現ができないことから,本件異音等の発生原因の解明まではできず,本件バス1及び本件バス2はメーカーに預託したままではあるものの,その他の本件市バスにおける本件異音等の発生報告は,同年2月から同年11月にかけて,本件バス3及び4で2件(2回),本件バス1ないし4を除く本件市バス等で6件(7回)と減少し,上記交換等を完了した同年12月から平成30年7月25日の間に,本件バス3及び4での本件異音等の報告はなく,本件市バス等全体では2件(2回)の本件異音等の発生の報告を受けたのみとなった。 (以上,甲114,116ないし120,122,124,126,127,乙4,9 及び4での本件異音等の報告はなく,本件市バス等全体では2件(2回)の本件異音等の発生の報告を受けたのみとなった。 (以上,甲114,116ないし120,122,124,126,127,乙4,9,11ないし14,16,証人J所長5,6頁。なお,本件バス1(703号車)で平成28年8月12日及び同年11月26日に本件異音等が発生したとの報告書(甲115,122別紙1)は,前提事実して採用できない。)被告は,運行に供する市バスについて,1年ごとに実施される車検(ブレーキを分解し,その制動力の検査等も含むもの),3か月ごとの法定点検(エンジンやブレーキなどの各装置の点検や整備を行うもの)及び1ないし1.5か月ごとの自主点検を実施しているが,本件市バスのブレーキにおいて異常は見つかっていない。また,本件市バスはいずれも平成27年以前の車検に合格し,同車検の有効期間中にメーカーに預託された本件 - 13 -バス1及び2を除き,本件バス3及び4は平成28年以降の車検にも合格している。 また,J所長は,平成29年3月までのA営業所所長在任中,運転士らから本件異音等を理由とする乗車拒否があったとの報告を受けたことはない。 (以上,乙1,3,10,証人J所長・1,3,5頁) 程度(差止め請求権の法的根拠の有無を含む))について原告は,被告に対し,人格権又は本件安全配慮義務に基づいて,本件不作為,すなわち原告をその指揮命令権に基づき本件市バスに乗車させないよう求めている。そして,人格権に基づく差止め請求権の成立が認められるためには,少なくとも侵害行為による被害発生の現実的危険(切迫した危険)を要すると解される上,仮に,本件安全配慮義務による差止めが認められ得るとしても,その場合は少なくと め請求権の成立が認められるためには,少なくとも侵害行為による被害発生の現実的危険(切迫した危険)を要すると解される上,仮に,本件安全配慮義務による差止めが認められ得るとしても,その場合は少なくとも同様の危険の存在を要すると解されるから,本件においては,本件異音等により現実的かつ切迫した危険が存在していると認められるか否かをまず検討する。 ア原告は,現実的かつ切迫した危険の存在の前提として,本件市バス等において,本件異音等が発生した場合,本件市バス等のブレーキが効かない又は効きが悪くなると主張し,これに沿う運転士の供述(甲6,7の1,10,14,19,22,28,30,31,33,34,38,39,44,49,51,53,55,58,121,122,原告本人)を提出する。 音等の発生機序としては,段差乗り越え時など,前軸の車両上下動が若干大きい状態で,前軸のブレーキを作動させた際,ブレーキ内のドラムとライニング(摩擦材)の間で発生した振動が,前軸の上下動で発生している振動をきっ - 14 -かけに前車軸に伝わって増幅し,前車軸全体が共振し,同振動がボディに伝播して生じたものと推認されているところ,同推認は合理的なものといえる。そして,本件異音等がこのような機序で発生しているのであれば,ブレーキの効果(制動力)自体への影響はないと解されるし,実際,平成27年に本件バス1を用いて行われたメーカーによる試験においても,時速35kmで障害板を乗り越えた場合,本件異音等が発生した場合と発生しなかった場合の制動距離に差がなかった検においてブレーキの異常は見つかっておらず,車検も通過していること,他方で,原告は,本件異音等が生じた際に,ブレーキを緩めて踏み直しており,ブレーキを踏み続けたことはないと 制動距離に差がなかった検においてブレーキの異常は見つかっておらず,車検も通過していること,他方で,原告は,本件異音等が生じた際に,ブレーキを緩めて踏み直しており,ブレーキを踏み続けたことはないとも供述しており(原告本人),本件異音等発生時のブレーキの効き(制動力)につき現実に体験していない上,他の運転士の中にはブレーキを踏み続けて止まったと記載している者や(甲12),ブレーキを緩めたり,踏み直したことにより制動距離が伸びたと供述している者もいること(甲8,9,45,48,57)からすると,原告を含む運転士らのブレーキが効かない,又は,効きが悪くなったとの供述のみから,本件異音等の発生により本件市バスのブレーキが客観的に効かなくなった又は効きが悪くなった事実を認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠も見当たらない。したがって,上記の原告主張は採用できない。 イさらに,原告は,本件異音等により,ブレーキの制動力は影響をうけていなかったとしても,原告を含む本件市バス等の運転士らが,本件異音等が生じた場合,その程度が悪化,または,他の異常が発生することなどにより乗客に怪我を負わせることによる不安から,あるいはブレーキを緩めると本件異音等が緩和することから,ブレーキを踏 - 15 -み続けることを躊躇せざるをえず,その結果,予定停止場所に停止できない,あるいは著しく困難であることから,本件市バス等が交通事A営業所の整備係が本件異音等の発生時,通常と同じブレーキ操作をすることは困難との見解を1,2及び4発生時など,予定停止場所を越えてバスが停止したケースが散見されるなど,原告の主張に沿う事実もある。 しかし,上記アのとおり,本件異音等により本件市バス等の制動力について客観的な問題が生じ 2及び4発生時など,予定停止場所を越えてバスが停止したケースが散見されるなど,原告の主張に沿う事実もある。 しかし,上記アのとおり,本件異音等により本件市バス等の制動力について客観的な問題が生じたことを認めることはできず,また,上止場所に停止できなかったことは認められるものの,これにより交通事故が生じたり,運転士が本件市バス等の制御や制動を失ったり,車内の乗客及び運転士自身並びに周囲の車両や人物等に客観的な危険が生じたりした事態に至ったことは確認できていない。さらに,A営業所の運転士らは,本件異音等の発生が生じた時期ころから,本件異音等発生時,ブレーキを緩めるとこれが緩和するとの経験をしていたことに鑑みれば,同運転士らは,本件異音等の発生時,意識的又は無意識のうちに,車内外の状況とブレーキを緩めることによる本件異音等の緩和の効果の双方を踏まえて,予定停止場所に停止できなくとも大きな問題が生じない場合にブレーキを緩めて踏み直しているものと解される。さらに,被告が本件異音等に対する対策をとった結果,平成29年12月以降,本件市バスで本件異音等の発生は確認されていない。以上の諸事情を総合考慮すると,本件市バスにおいて,交通事故発生の現実的な危険があると認めるには至らない。 ウなお,原告は,本件異音等が生じ,交通事故発生の危険がある市バスを運転すること自体や運転士として事故への責任を問われることへ - 16 -の不安があることも現実的危険としてあげているものとも解され,他の運転士の報告内容(甲4ないし59,61,108ないし113),本件異音等の程度(乙4,9)に鑑みれば,原告が本件異音等の発生により上記不安を抱くことも首肯できないものではない。 しかし,上記イのとおり,本件市バスに本件異音が発生し 1,108ないし113),本件異音等の程度(乙4,9)に鑑みれば,原告が本件異音等の発生により上記不安を抱くことも首肯できないものではない。 しかし,上記イのとおり,本件市バスに本件異音が発生した際に,交通事故が発生する現実的危険があると認めるには至らない上,上記件異音等を理由に乗車拒否を申し出た者はおらず,被告の対策以前の本件異音等が一定数生じていたであろう時期においても,本件異音等に慣れてしまった結果,被告に本件異音等の発生を報告しない運転士すらいた状態であったことも加味すると,上記不安はこれを抱いた原告を含む運転士ら個人の主観的なものに止まると言える。 エ以上によれば,本件異音等の発生により何らかの現実的危険があるものと評価することはできず,この存在を前提とする原告の主張を採用することはできない。 ⑵ また,原告は被告の安全配慮義務違反も主張するが,被告としては,上記2⑶価できるから,安全配慮義務に違反しているとは認め難い。 額)について原告は,被告から本件異音等により交通事故を発生させる可能性のある本件市バスへの乗車を命じら険性や不安を常に抱かされて本件市バスを運転し,多大な精神的苦痛を生じたことにつき,被告の不法行為があると主張する。 しかし,上記3で述べたとおり,原告が主張する危険性を認めるには至らず,不安を生じていたとしてもそれは主観的な不安に止まると評価する - 17 -のが相当であること,被告に安全配慮義務違反は認め難いことに鑑みれば,原告の上記主張を採用することはできない。 5 結論以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用 ることはできない。 主文 以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 理由 京都地方裁判所第6民事部 裁判長裁判官藤田昌宏 裁判官上田瞳 裁判官伊藤渉
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