令和3年3月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第20484号発信者情報開示請求事件口頭弁論終結日令和3年1月19日判決 原告 A同訴訟代理人弁護士平野 敬同髙井雅秀同笠木貴裕 被告株式会社朝日ネット 同訴訟代理人弁護士福本 悟 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報を開示せよ。 第2 事案の概要 本件は,漫画の著作者である原告が,経由プロバイダである被告に対し,氏名不詳者が,各自の端末にダウンロードした上記漫画(ただし,原告はその一部のみを著作物として主張している。)の電子データの断片を,被告が管理する特定電気通信設備の送信装置(ただし,当該装置に入力された情報が不特定の者に送信されるもの。以下同じ。)を介してそれぞれ自動公衆送信し,原告の著 作権(公衆送信権,送信可能化権)を侵害したことが明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,上記氏名不詳者に係る発信者情報の開示を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者ア原告は,「B」というペンネームの漫 の開示を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者ア原告は,「B」というペンネームの漫画家で,漫画「勇者のクズ(全2巻)」の著作者であり,このうち1巻の一部である別紙著作物目録記載の各著作物(以下「本件各著作物」という。)につき著作権を有している(甲1,2,9)。 イ被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社であり,法2条3号の特定電気通信役務提供者である。 (2) 発信者情報の保有被告は,別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。 2 当事者の主張(1) 原告の主張ア別紙発信端末目録記載のIPアドレス(以下,「本件IPアドレス」という。)を割り当てられた端末を同目録記載の発信時刻(以下「本件発信時刻」という。)頃に使用した氏名不詳者(以下「本件氏名不詳者」という。)は, P2Pの一種である「BitTorrent」(ビットトレント)のネットワークに接続した上,上記端末にダウンロードした本件各著作物の電子データの断片を,同ネットワークに接続している他の端末からの求めに応じて,被告が管理する特定電気通信設備の送信装置を介して自動公衆送信し,原告の公衆送信権・送信可能化権(以下「公衆送信権等」という。)を侵害 したことが明らかである。 イ原告は,本件氏名不詳者に対して損害賠償等を請求すべく準備しており,本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (2) 被告の主張ア原告の公衆送信権等侵害に係る主張は争う。P2Pにおいては,それぞれのクライアント(端末)が,独自に情報を発信する 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (2) 被告の主張ア原告の公衆送信権等侵害に係る主張は争う。P2Pにおいては,それぞれのクライアント(端末)が,独自に情報を発信するかどうかを決定して いるのであって,各端末に一定の情報が置かれていたからといって,同端末が,直ちにその情報を公衆送信し,又は送信可能としていたとは認められないというべきである。 イ原告に本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることは,争う。 第3 当裁判所の判断 1 原告は,本件氏名不詳者が本件発信時刻頃に本件IPアドレスを割り当てられた端末をビットトレントのネットワークにそれぞれ接続させた上,上記端末にダウンロードした本件各著作物の電子データの断片を,同ネットワークに接続している他の端末からの求めに応じて自動公衆送信したことが明らかである 旨主張するところ,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) ビットトレントについて(甲3,11の1,11の2)アビットトレントは,P2P方式によりファイルの共有を行うためのプロトコル(通信規約)であり,同じファイルをダウンロード及びアップロー ドするコンピュータ同士が中央サーバーを必要とせずに相互に接続して,当該ファイルを相互に転送するネットワークを構築するものであり,他のP2P方式のものとは異なり,ネットワークに参加している端末のIPアドレスが秘匿されていないという特徴を有している。 ビットトレントのクライアントソフトには,公式のクライアントソフト である「BitTorrentclient」のほかに,多くの互換ソフ トウェアが存在する。 イビットトレントのネットワークを介して アントソフトには,公式のクライアントソフト である「BitTorrentclient」のほかに,多くの互換ソフ トウェアが存在する。 イビットトレントのネットワークを介して対象ファイルを入手する具体的な手順は,次のとおりである。 (ア) まず,インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトから,当該対象ファイルを提供する端末のリストを管理するトラッカーと呼ばれるサーバ ーにリンクするためのトレントファイルを入手する。 (イ) 次に,入手したトレントファイルをビットトレントのクライアントソフトに取り込んで,当該トレントファイルによってリンクされるトラッカーに接続し,当該トラッカーから対象ファイルを提供している端末のIPアドレスを入手する。 (ウ) 最後に,当該対象ファイルを提供している端末に接続し,当該対象ファイルをダウンロードする。 (2) 原告代理人平野敬(以下,単に「原告代理人」という。)によるダウンロード調査について(甲4ないし8,10)ア原告代理人は,ビットトレントのクライアントソフトの1つで,オープ ンソースの「qBittorrent」(以下「本件ソフト」という。)を用いてビットトレントのネットワークに接続した上,本件ソフトに「DLraw.net-YushanoKuzuvol 01-02.rar.torrent」というファイル名のトレントファイル(以下「本件トレントファイル」という。)を取り込んで,その対象ファイル(以下「本 件対象ファイル」という。)をダウンロードする調査を行った。 なお,本件ソフトは,トレントファイルによってリンクされるトラッカーに接続している他の端末のIPアドレスなどを表示する機能を備えているが,原告 という。)をダウンロードする調査を行った。 なお,本件ソフトは,トレントファイルによってリンクされるトラッカーに接続している他の端末のIPアドレスなどを表示する機能を備えているが,原告代理人は,本件対象ファイルのダウンロード調査を行うに当たり,本件ソフトの表示画面に表示される他の端末のIPアドレスが当該 端末の実際のIPアドレスと一致することを確認する試験を行っていな い。 イ原告代理人が,上記アのとおり本件対象ファイルのダウンロードを実行中,本件ソフトの表示画面には,本件トレントファイルによってリンクされるトラッカーに接続している他の端末の1つとして,令和2年(2020年)7月3日16時39分07秒時点で本件IPアドレスが表示されて いたが,その「フラグ」列には「d」(「関心をもっているが,塞がれている」の意),「進捗状況」列には「100%」と表示され,「ダウン速度」列には何ら表示されていなかった。他方で,同時点で上記トラッカーに接続している他の端末として,本件IPアドレスとは別のIPアドレスも表示されていたが,これらの中には,「フラグ」列に「D」(「現在ダウンロード 中」の意),「ダウン速度」列に「73B/秒」などの具体的な数値が表示されているものもあった。 ウ原告代理人がダウンロードした本件対象ファイルを確認したところ,圧縮されたファイルの中に多数の画像ファイルが格納されており,その画像ファイルの中に,本件各著作物の電子データが含まれていた。 2 以上を前提として,以下検討する。 原告代理人が行った本件対象ファイルのダウンロード調査(前記1(2))によれば,本件ソフトの表示画面において,本件IPアドレスを割り当てられたものとして表示された端末が,本件発信時刻 する。 原告代理人が行った本件対象ファイルのダウンロード調査(前記1(2))によれば,本件ソフトの表示画面において,本件IPアドレスを割り当てられたものとして表示された端末が,本件発信時刻の時点では,ビットトレントのネットワークに接続しつつも,原告代理人使用に係るクライアントソフトからのダ ウンロード要求に対し,送信行為を行おうとしていない状態が表示されており,かかる表示をもって,本件IPアドレスを割り当てられたものとして表示された端末が,本件各著作物の電子データを含む本件対象ファイルの断片を自動公衆送信した旨が表示されているとは認められない。 また,仮に,本件ソフトの上記表示をもって,本件IPアドレスを割り当て られたものとして表示された端末が,本件各著作物の電子データを含む本件対 象ファイルの断片を自動公衆送信した旨が表示されているものと捉えることができたとしても,原告代理人は,本件対象ファイルのダウンロード調査を行うに当たり,本件ソフトの表示画面に表示される他の端末のIPアドレスが当該端末の実際のIPアドレスと一致するか否かを確認する試験を行っておらず(前記1(2)ア),本件ソフトの表示画面に表示される他の端末のIPアドレス が,本件トレントファイルによってリンクされるトラッカーに接続している他の端末の実際のIPアドレスと一致することや,本件ソフトを介して対象ファイルを自動公衆送信した他の端末の実際のIPアドレスと一致することを認めるに足りる的確な証拠もない。 そうすると,原告代理人が行った本件対象ファイルのダウンロード調査によ っては,本件発信時刻の時点で実際に本件IPアドレスを割り当てられていた端末が,ビットトレントのネットワークを介して本件各著作物の電子データを含む本件対 件対象ファイルのダウンロード調査によ っては,本件発信時刻の時点で実際に本件IPアドレスを割り当てられていた端末が,ビットトレントのネットワークを介して本件各著作物の電子データを含む本件対象ファイルの断片を自動公衆送信したことが明らかであるとまでは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。 3 以上によれば,本件氏名不詳者が本件各著作物の電子データの断片を自動公 衆送信したことが明らかであるとは認められず,原告の請求が法4条1項に規定する要件を満たすものということはできない。 4 よって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官田中孝一 裁判官横山真通 裁判官奥俊彦 (別紙発信端末目録省略) (別紙著作物目録省略) 別紙発信者情報目録 別紙発信端末目録記載のアイ・ピー・アドレスを,同目録記載の発信時刻頃に使用した者の情報であって,次に掲げるもの。 1 氏名又は名称 2 住所
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