平成12(ワ)19691 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成16年1月30日 東京地方裁判所
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判決文本文71,108 文字)

平成16年1月30日判決言渡平成12年(ワ)第19691号損害賠償請求事件判決 主文 1 被告東京都は,原告甲1に対し,3056万4685円及び内金3046万4685円に対する平成11年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告東京都は,原告甲2及び同甲3に対しそれぞれ,1298万2342円及び内金1293万2342円に対する平成11年2月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告東京都は,原告甲4に対し,225万円及び内金220万円に対する平成11年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告乙1及び同東京都は,各自,原告甲1に対し,40万円,同甲2,同甲3及び同甲4に対しそれぞれ,20万円を支払え。 5 被告乙2及び同東京都は,各自,原告甲1に対し,20万円,同甲2,同甲3及び同甲4に対しそれぞれ,10万円を支払え。 6 原告甲1,同甲2,同甲3及び同甲4それぞれの被告東京都,同乙1及び同乙2に対するその余の各請求,並びに被告乙3,同乙4及び同乙5に対する各請求をいずれも棄却する。 7 原告甲5の請求をいずれも棄却する。 8 訴訟費用は,これを20分し,その11を原告らの,その7を被告東京都の,その1を同乙1の,その1を同乙2の各負担とする。 9 この判決は,第1項ないし第5項及び第8項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告東京都は,原告甲1に対し,6601万8615円及びこれに対する平成11年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告東京都は,原告甲2及び同甲3に対しそれぞれ,2956万2745円及びこれに対する平成11年2月11日から各支払 に対する平成11年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告東京都は,原告甲2及び同甲3に対しそれぞれ,2956万2745円及びこれに対する平成11年2月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告東京都は,原告甲4及び同甲5に対しそれぞれ,318万1441円及びこれに対する平成11年2月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告乙1及び同東京都は,各自,原告甲1に対し,240万円,同甲2,同甲3,同甲4及び同甲5に対しそれぞれ,120万円を支払え。 5 被告乙2及び同東京都は,各自,原告甲1に対し,120万円,同甲2,同甲3,同甲4及び同甲5に対しそれぞれ,60万円を支払え。 6 被告乙3及び同東京都は,各自,原告甲1に対し,40万円,同甲2,同甲3,同甲4及び同甲5に対しそれぞれ,20万円を支払え。 7 被告乙4及び同東京都は,各自,原告甲1に対し,40万円,同甲2,同甲3,同甲4及び同甲5に対しそれぞれ,20万円を支払え。 8 被告乙5及び同東京都は,各自,原告甲1に対し,20万円,同甲2,同甲3,同甲4及び同甲5に対しそれぞれ,10万円を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,平成11年2月11日に東京都立広尾病院(以下「広尾病院」という。)において術後療養中に死亡した亡Aの夫等の遺族である原告らが,被告らに対し,広尾病院の担当看護婦(現在の呼称は「看護師」であるが,本件当時は「看護婦」とされていたので,以下「看護婦」と呼称する。)による投与薬剤の取り違えという基本的注意義務違反の過失及び広尾病院においてそのような危険を回避することが可能なシステムを構築せずに危険な医療を提供してきたという組織構造上の過失によって亡Aの死がもたらされ,その上,同人の死後の対応において 務違反の過失及び広尾病院においてそのような危険を回避することが可能なシステムを構築せずに危険な医療を提供してきたという組織構造上の過失によって亡Aの死がもたらされ,その上,同人の死後の対応においても,被告らにおいて,原因究明義務及び情報開示・説明義務違反があるとして,債務不履行又は不法行為(使用者責任を含む。)に基づき,損害賠償を求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア(ア) 亡Aは,昭和15年8月23日生まれの女性であり,平成11年2月11日の死亡当時58歳であった。 (イ) 原告甲1は亡Aの夫,原告甲2は亡Aの長男,原告甲3は亡Aの次男,原告甲4は亡Aの実父,原告甲5は亡Aの実妹である。 イ(ア) 被告東京都は,東京都渋谷区ab丁目c番d号所在の広尾病院の開設者である。 (イ) 被告乙1は,被告東京都に雇用され,広尾病院に勤務していた医師であり,亡Aの死亡当時(以下,(ウ)ないし(カ)において同じ。),同病院の院長として,患者に対する治療行為に自ら従事するとともに,同病院の院務をつかさどり,所属職員を指揮監督する等の職務に従事していた者である。 (ウ) 被告乙2は,被告東京都に雇用され,広尾病院に勤務していた整形外科医師で,亡Aの主治医を務めていた者である。 (エ) 被告乙3は,被告東京都に雇用され,広尾病院の事務局長を務めていた者である。 (オ) 被告乙4は,広尾病院に対する監督官庁である被告東京都衛生局病院事業部(以下,被告東京都衛生局を「衛生局」といい,衛生局病院事業部を「病院事業部」という。)の部長として,都立病院の管理運営,医療苦情処理並びに都立病院の事務の改善及び指導等の職務に従事していた者である。 (カ) 被告乙5(以下,被告乙1,被告乙2,被告乙3,被 「病院事業部」という。)の部長として,都立病院の管理運営,医療苦情処理並びに都立病院の事務の改善及び指導等の職務に従事していた者である。 (カ) 被告乙5(以下,被告乙1,被告乙2,被告乙3,被告乙4及び被告乙5を併せて「被告乙1ら」という。)は,被告東京都の病院事業部の副参事として,被告乙4の前記職務と同様の職務に従事していた者である。 (2) 亡Aの死亡に至る経過等ア亡Aは,平成11年2月8日,慢性関節リウマチの治療として左中指滑膜切除手術を行うため,広尾病院に入院し,同月10日,亡Aの主治医となった被告乙2の執刀により,同手術は無事に終了し,術後の経過は良好であった。 イ被告乙2は,前記手術の翌日である同月11日午前9時ころ,亡Aに対し,点滴器具を使用して抗生剤を静脈注射した後,患者に刺した留置針の周辺で血液が凝固するのを防止するため,引き続き血液凝固防止剤であるヘパリンナトリウム生理食塩水(以下「ヘパ生」という。)を点滴器具に注入して管内に滞留させ,注入口をロックする措置(以下「ヘパロック」という。)を行うようにB1看護婦らに指示した。B1看護婦はこれに従って薬剤を充てんした注射器を準備し,B2看護婦が同注射器を使用してヘパロックを開始したところ,亡Aは容態が急変して苦痛を訴え始めたので,亡Aに対する応急措置が施されたが,結局,亡Aは同日の午前中に死亡するに至った(以下「本件医療事故」という。)。 ウ原告甲1は,同日,被告乙2の求めに応じる形で,病理解剖承諾書に署名押印して交付した。 (3) 亡Aの死亡後の経過ア広尾病院においては,同月12日午前8時30分ころから,被告乙1,B3副院長,B4副院長,被告乙3,B5医事課長,B6庶務課長,B7看護部長,B8看護科長及びB9看護副科長ら広尾病院の幹部9名が出席して,亡Aの いては,同月12日午前8時30分ころから,被告乙1,B3副院長,B4副院長,被告乙3,B5医事課長,B6庶務課長,B7看護部長,B8看護科長及びB9看護副科長ら広尾病院の幹部9名が出席して,亡Aの死亡についての対策会議(以下,同日開催された対策会議を「本件対策会議」という。)が開かれ,亡Aの死亡に関する経過説明がされた後,亡Aの死亡を所轄警察に届け出るべきかが議論された。 イ同会議の終了後の同日午前9時ころ,B5医事課長は病院事業部のB10主事に対し,広尾病院で患者が死亡したこと等を電話で連絡した。B10主事から報告を受けた被告乙5は,被告乙4らと対応について検討をした上,同日午前11時ころ,広尾病院に赴いた。 ウ被告乙1は,同日,広尾病院に到着した被告乙5を交えて本件対策会議の出席者と協議した結果を踏まえ,原告甲1らが病理解剖に承諾するかを再度確認したところ,承諾は得られていると考えたことから,広尾病院において亡Aの病理解剖が行われるに至った。 エ広尾病院は,同月22日に至って,亡Aの死亡を警視庁渋谷警察署に届け出た。 3 争点(1) 亡Aの死亡自体に関する被告東京都の義務違反の有無(原告らの主張)ア看護婦らの過失を巡る義務違反について(被告東京都の債務不履行責任又は使用者責任(民法715条))亡Aはヘパ生を注入されるべきであったのに,誤って消毒液ヒビテングルコネート液(グルコン酸クロルヘキシジンの水溶液。以下「ヒビグル」という。)を注入されることにより死亡したものであるが,B1看護婦は,薬剤の準備に当たってその内容を取り違えるという,看護婦の基本的注意義務に違反しており,さらに,B2看護婦は点滴後の処置に当たり投与する薬剤の確認を怠っており,これもまた看護婦としての基本的注意義務に違反しているものといえる。 そし えるという,看護婦の基本的注意義務に違反しており,さらに,B2看護婦は点滴後の処置に当たり投与する薬剤の確認を怠っており,これもまた看護婦としての基本的注意義務に違反しているものといえる。 そして,両看護婦の上記各注意義務違反がなければ,亡Aの死亡という結果は生じなかったといえるから,上記各行為と結果との間には因果関係が存する。 よって,被告東京都は,後記(3)ア記載の損害について,履行補助者の故意過失に基づく債務不履行責任又は使用者責任を負う。 イ被告東京都の組織構造上の過失について(被告東京都の債務不履行責任又は不法行為責任(民法709条))(ア) 医療行為は,患者の疾病の治癒を目的として行われ,体内への侵襲という手段をとることもまれではないため,常に患者の生命や身体に対する危険を伴う行為である。 医療行為をつかさどる病院の経営主体にとっては,そのような危険を可及的に減少させ,仮に医療行為に携わる一員によって何らかのミスが引き起こされたとしても,重大な結果を生じさせない危険回避のシステムを構築することが,医療事故を防止するために必要不可欠なものである。 (イ) それにもかかわらず,広尾病院においては,①薬剤の専門家でない看護婦に調剤行為を行わせていたため,当該薬剤に応じた扱いを怠る可能性があり,②複数の人間が,薬剤の準備から投与までの作業を分担して行っていたため,自分が担当する前後の作業内容をよく把握しないまま自分の作業を行う危険があり,③薬剤容器への記入方法が統一されていなかったため,注射器にメモ紙を貼り付けることにより充てんされている薬剤を表示しようとしたが,メモ紙を間違えて貼り付けることにより,間違った薬剤を表示してしまう危険があり,④ヒビグルとヘパ生の計量に,同形状の注射器を計量器として使用していたため,注射器の外 ている薬剤を表示しようとしたが,メモ紙を間違えて貼り付けることにより,間違った薬剤を表示してしまう危険があり,④ヒビグルとヘパ生の計量に,同形状の注射器を計量器として使用していたため,注射器の外形上からは内容物の区別が付かず,取り違えを防ぐことができない態勢がとられ,⑤消毒薬と点滴液用の注射器を同じ処置台の上で同時に準備した上,患者ごとに個別のトレーを用意し,薬札を付けるなどしなかったため,薬剤の取り違えを防げなかったという諸事情が存在していたものであって,このような事故を誘発する危険な態勢を除去するシステムが構築されなかったがために,看護婦らの前記アの各注意義務違反を誘発し,本件医療事故を引き起こすことになった。 (ウ) よって,被告東京都には,危険を回避することが可能なシステムを構築すべきであったにもかかわらず,危険な看護及び投薬のシステムを維持したまま,それに基づいて危険な医療を提供してきたという義務違反があり,診療契約の債務不履行又は不法行為責任(民法709条)に基づき,損害賠償責任を負い,被告東京都の行為と前記アの両看護婦の行為とは共同不法行為の関係に立つものである。 (被告東京都の主張)ア看護婦らの過失を巡る義務違反について(被告東京都の債務不履行責任又は使用者責任(民法715条))B1看護婦及びB2看護婦の過失行為に基づき,亡Aが死亡したことは認める。 イ被告東京都の組織構造上の過失について(被告東京都の債務不履行責任又は不法行為責任(民法709条))(ア) 原告らの主張イ(イ)①について本件医療事故発生当時の広尾病院においては,薬剤師は,1日平均外来患者1055.0人及び入院患者481.5人の合計1536.5人の患者の調剤を行っていたが,この人数は特異ではない。入院患者の場合は,病棟に一定量が払い出され 病院においては,薬剤師は,1日平均外来患者1055.0人及び入院患者481.5人の合計1536.5人の患者の調剤を行っていたが,この人数は特異ではない。入院患者の場合は,病棟に一定量が払い出された薬剤を,病棟の看護婦が1回分として調製し,患者に投与するのが通常の方法であるとの実情を考えると,看護婦による同調製行為を一概に違法と決めつけるべきものではない。 (イ) 原告らの主張イ(イ)②ないし⑤について当該主張のような背景事情が存在したこと自体は認めるが,同②については,人手の少ない夜勤帯に薬剤の準備から投薬をすべて一人で行うことは事実上不可能であるから,違法性が阻却される例外的な場合も認められるべきである。 (ウ) よって,原告らの主張イ(イ)①ないし⑤の一連の背景事情が組織構造的過失であるとはいうことはできない。 (2) 亡Aの死亡後の被告らの行為に関する義務違反の有無(原告らの主張)ア原因究明義務違反について(被告ら全員に対するもの)(ア) 原因究明義務の存在a(a) 現代の医療は高度に専門化している上,患者本人にもその全容が分からないような密室性があるという特殊性があることから,医療事故の被害者や遺族がその真の原因を知るためには,医療機関が診療経過を説明し,原因を誠実に究明して,その内容を開示することが不可欠であり,さらに,医療を受ける機会は誰にでもあることに照らすと,このような原因究明は社会的要請でもある。 そして,診療契約は準委任契約であり,その根底には善管注意義務があるから,診療契約の当事者である医療機関は,診療契約の相手方である患者又はその遺族に対し,善管注意義務の一環として又はこれに付随する信義則上の義務として,原因究明義務を負うというべきである。 (b) 原因究明義務とは,理不尽な被害の原因を明らかにする 手方である患者又はその遺族に対し,善管注意義務の一環として又はこれに付随する信義則上の義務として,原因究明義務を負うというべきである。 (b) 原因究明義務とは,理不尽な被害の原因を明らかにすることを目指して,誠実に適正な手続や方法をとる義務をいう。上記義務は手段債務であり,義務者の行為によって原因が判明したかどうかという結果のいかんにかかわらず,具体的な事実経過にかんがみて,誠実に適正な手続や方法がとられたか否かによって,義務違反の有無が吟味される。 (c) そして,医療には,専門性,密室性及び危険性という特殊性があること,医療行為を医師という専門家が独占していること,医師法21条の異状死体届出義務は,その義務が履行されれば,刑事司法の手続上で医療事故の原因や責任が明らかにされるので,医療事故による患者死亡の原因究明の端緒として機能する場面があることなどから,診療契約の当事者である医療機関開設者は,診療上の事故によって患者が死亡した可能性のある場合には,当該病院で病理解剖をするのではなく,所轄警察に届け出ることが,診療契約の当事者である患者又はその遺族に対する原因究明義務として課されるというべきである。 (d) 本件においては,広尾病院の開設者である被告東京都が,亡Aの遺族に対し,本件医療事故を所轄警察署に届け出て刑事司法手続にその処理をゆだねるという原因究明義務を負っていたところ,被告東京都の原因究明義務の履行の帰すうに強い影響力をもっていた被告乙1らが,後記(イ)のとおり,被告東京都の原因究明義務を故意に妨害したという不法行為を犯したものであり,各被告の行為は,互いに客観的関連共同の関係に立つので,共同不法行為責任が成立する。 (e) なお,①病理解剖の承諾は,単に,死亡原因を医学的に解明するために解剖することを承諾するも したものであり,各被告の行為は,互いに客観的関連共同の関係に立つので,共同不法行為責任が成立する。 (e) なお,①病理解剖の承諾は,単に,死亡原因を医学的に解明するために解剖することを承諾するものであって,病理解剖の結果,病死ではなく外因死であることが判明した場合には,当然に届出の対象になるのであるから,病理解剖に承諾しても警察に届け出なくてもよいことまで承諾したことにはならないこと,②本件は,そもそも医療事故である可能性が明白であったから,病理解剖は許されず,警察に届け出た上で司法解剖が行われるべきであったこと,③病理解剖承諾書は,被告乙2が原告甲1らに対し,事故の可能性を告げずに署名させたものであり,署名した時点で,原告甲1らは警察に届け出るかどうかということは念頭になかったこと,④被告乙1は,広尾病院が信用できないのならといって,踏み絵をさせるような迫り方をして,原告甲1らの自由な意思に基づかない病理解剖の承諾を得たこと,⑤原告ら遺族としては,薬剤の取り違えの事故の可能性を告げられても,その意味が理解しにくいことを考慮すれば,原告らが広尾病院において病理解剖をすることに承諾したことは,被告らの行為が原因究明義務違反でないことを裏付ける事情とはならない。 b 国家賠償法(以下「国賠法」という。)との関係被告乙1らの各行為には,次のとおり,国賠法は適用されないため,被告らは民法上の不法行為責任を負うものである。 (a) 国賠法1条1項の「公権力の行使」とは,行為主体にかかわらず,国又は公共団体の作用のうち,純粋な私経済作用と同法2条が適用される営造物の設置又は管理作用を除くすべての作用を意味する。 そうすると,例外的に,特別権力関係や強制的関係の強い医療行為の場合は格別,国公立病院における一般の診療行為は,私立病院における 適用される営造物の設置又は管理作用を除くすべての作用を意味する。 そうすると,例外的に,特別権力関係や強制的関係の強い医療行為の場合は格別,国公立病院における一般の診療行為は,私立病院におけるそれと区別する合理的理由はないから,国公立病院における診療行為は私経済作用であり,公権力の行使とはいえない。 したがって,国公立病院における診療行為には,国賠法の適用がなく,民法の不法行為の規定が適用される。 (b) そして,原因究明義務違反について問題となる事実関係は,遺族への説明,警察への届出,死亡診断書の記載等であり,これらは診療行為の一部か,少なくとも診療行為に密接に関連する行為といえる。 そうすると,本件は,診療行為に付随する行為の義務違反が問題となっているから,これらの行為は私経済作用といえ,したがって,国賠法ではなく,民法の不法行為規定が適用されるべきである。 (c) さらに,被告乙1らの各行為に,国賠法が適用されるか否かにかかわらず,同各行為は,後記(イ)のとおり,いずれも故意の不法行為であるから,被告乙1らは公務員個人としても不法行為責任を負う。 (イ) 義務違反行為a 被告乙1について(a) 被告乙1は,広尾病院の院長,かつ,本件対策会議の主催者であり,本件医療事故についての広尾病院としての対応方針を決定づける立場にあったものであるから,同会議終了後直ちに,本件医療事故を警察へ届け出るべきであった。 それにもかかわらず,被告乙1は,①本件対策会議において,本件医療事故を警察に届け出る方針にいったん決定したにもかかわらず,「乙1院長が警察に届けるとは何事だ。」,「職員を売ることはできませんね。」との被告乙5の発言からくみ取れる病院事業部の意向を受けて,原告ら遺族に誤投薬の可能性を説明した上で病理解剖の承諾を取る方針に転 院長が警察に届けるとは何事だ。」,「職員を売ることはできませんね。」との被告乙5の発言からくみ取れる病院事業部の意向を受けて,原告ら遺族に誤投薬の可能性を説明した上で病理解剖の承諾を取る方針に転換したこと,②病院事業部の意を受けて,原告ら遺族に対し誤投薬に関する概略的な説明をしただけで,病理解剖の承諾を取り付けたこと,③病理解剖を担当した医師らから,ポラロイド写真や具体的事情を示された上で,誤投薬の事実はほとんど間違いがないとの報告を受けても,本件医療事故を警察に届け出なかったこと,④亡Aの血液検査を指示するに当たっても,そもそもヒビグルが検出されることが期待できないような原始的な検査方法によるように指示した上,広尾病院においては,ヒビグルを検出できるクロマトグラフィー等による検査が可能な設備を備えていないことを認識しながら,外部機関に対し,ヒビグルの検出依頼を早急に行わず,原告ら遺族らから求められた中間報告書の提出期限直前に至って,このまま検出依頼をしない状態を続けると遺族らから不信の念を持たれるなどの問題が生じ,このままではもたないとの判断により,時間を経た後にようやく外部機関に検出依頼をしたものの,その一方で病院事業部の指示により民間の外部機関への検出依頼は撤回するなどして,ヒビグルの検出をする血液検査をなるべく回避しようとしたことからすれば,被告東京都の原因究明義務の履行を妨害したというべきである。 この点,医療機関が,医療事故が発生した際に,警察に対し誤投薬の可能性があることを伝えたにとどまった場合には原因究明義務を果たしたとはいえず,誤投薬に至る経過,誤投薬の内容,誤投薬後の処置など,原因究明に役立つ情報につき,その保有する情報の内容に応じた原因究明義務を負うものである。 (b) 原因究明義務違反の故意としては,事 とはいえず,誤投薬に至る経過,誤投薬の内容,誤投薬後の処置など,原因究明に役立つ情報につき,その保有する情報の内容に応じた原因究明義務を負うものである。 (b) 原因究明義務違反の故意としては,事故死であることの無視し得ない可能性があることの認識で足りるところ,被告乙1は,①かつて亡Aを自ら診察したことから,手術前の健康状態に問題がなく,実施される手術も危険性の少ない手術であることを認識していたこと,②本件対策会議における報告及び配付資料から,亡Aの手術後の経過も良好であったことを認識していたこと,③上記報告及び配付資料から,亡Aが点滴終了後急速に容態が悪化したことを認識していたこと,④平成11年2月11日にはB7看護部長から,同月12日の本件対策会議の開始前にもB5医事課長から,誤投薬の可能性があるとの報告を受けたことを総合すれば,本件対策会議の時点で,事故死の無視し得ない可能性の認識はおろか,事故死の原因が誤投薬である可能性が高い旨の認識を有しており,病理解剖の結果の報告を受けた以降は,亡Aの事故死の原因が誤投薬であることはほぼ確実であるとの認識に達していたといえる。 したがって,被告乙1は,原因究明義務違反行為につき確定的故意が認められる。 b 被告乙2について(a) 被告乙2は,亡Aの主治医であって,死亡後に死体の検案をし,医師法21条の届出義務も負っていたのであり,主体的に原因を究明すべきであった。 それにもかかわらず,被告乙2は,①医療事故の可能性を示唆する形跡を残さないために,平成11年2月22日に至るまで,亡Aの死亡を警察に届け出なかったこと,②カルテに事故の可能性を示唆する形跡を残さないため,B1看護婦が誤投薬の可能性を申告しているという重要な事実を記載しなかったこと,③診療中の患者が死亡した場合には医師 警察に届け出なかったこと,②カルテに事故の可能性を示唆する形跡を残さないため,B1看護婦が誤投薬の可能性を申告しているという重要な事実を記載しなかったこと,③診療中の患者が死亡した場合には医師法21条の届出義務がないとの考え方があったことから,実際には,当直のB11医師が被告乙2が到着する前の同月11日午前10時25分に亡Aの死亡宣告をしたにもかかわらず,届出義務が発生しないように,被告乙2が病院に到着した後の時刻である同日午前10時44分を死亡時刻と偽り,その旨をカルテや死亡診断書等に記載したこと,④遺族が病理解剖に承諾したら警察に届け出る必要はないとの考えのもと,原告ら遺族に事故の可能性を告げず,原告甲5の夫であるC1から薬物性ショックの可能性について問われても,一般論としてその可能性もある旨の返答をするにとどめた上で,原告ら遺族から病理解剖の承諾書を取ったこと,⑤看護婦の誤投薬の可能性について報告を受けた一方,亡Aが病死したとの説を支持するさしたる根拠もなかったにもかかわらず,本件対策会議において殊更病死説を唱えたことを総合すれば,被告乙2は,可能な限り医療事故の可能性を打ち消そうとしていたものであって,このような被告乙2の原因究明を妨害する行為は,原因究明義務に違反するというべきである。 (b) ところで,B11医師により,原告甲1と原告甲5立会いのもと,亡Aの死亡が確認された時刻は,平成11年2月11日午前10時25分であったものである。 この点につき,原告甲1及び原告甲5はその旨各本人尋問で明確に供述しているところ,それらの信用性を裏付ける事情として,①同人らはB11医師から同日午前10時5分ころに自己紹介を受け,原告甲1は被告乙2から手術前及び同月10日に状況説明を受けていたので,両医師の顔を見間違える可能性は の信用性を裏付ける事情として,①同人らはB11医師から同日午前10時5分ころに自己紹介を受け,原告甲1は被告乙2から手術前及び同月10日に状況説明を受けていたので,両医師の顔を見間違える可能性はないこと,②亡Aの応急措置が施されていた処置室内には,亡Aの頭の方にB11医師,もう一人の当直医であったB12医師と看護婦2名がいたが,処置室内は狭く他にいた人物を見落とす可能性はなかったこと,③原告甲5は,亡Aの気管内挿管が引き抜かれて,血液が少し混入した唾液が口の中から流れ出たので,それを拭こうとして亡Aの顔に触れたら氷のように冷たかったと鮮明な記憶に基づき具体的に供述しており,看護婦である原告甲5がそのような事実関係を誤認することは考えられないこと,④「25分」と「44分」は音が全く似ておらず,聞き間違えることはあり得ないことが,挙げられる。 以上に加えて,①原告甲1は,平成11年2月12日に,勤務先に送信した葬儀に関する連絡文書に,亡Aの死亡時刻を同月11日午前10時25分と記載したこと,②看護記録に死亡時刻を10時44分と記載したのはB1看護婦であるが,同看護婦は,亡Aの死亡時刻を,B13看護婦からは10時44分と聞かされており,B14看護婦からはそれよりも20分ほど早い時刻を聞かされていたが,B13看護婦が当日の責任者であったことから,それを根拠に看護記録にはB13看護婦から聞かされた時刻である10時44分と記載したにすぎないこと,③B2看護婦は,同日午前10時30分ころ,処置室に入ったところ,同室にはB11医師とB12医師がいたが,被告乙2と原告甲1らはおらず,B2看護婦がその場に居合わせたB14看護婦に「どう?」と目配せをしたところ,B14看護婦が首を横に振ったのを見て,亡Aが蘇生しなかったものと悟った旨述べること,④ ,被告乙2と原告甲1らはおらず,B2看護婦がその場に居合わせたB14看護婦に「どう?」と目配せをしたところ,B14看護婦が首を横に振ったのを見て,亡Aが蘇生しなかったものと悟った旨述べること,④亡Aの友人であるC4は,同日午前10時15分ないし20分ころ,病棟に到着し,10分ないし15分経ったころに,原告甲5に亡Aの死亡を知らされた旨具体的に述べていること,⑤原告甲1は同日午前10時25分の死亡確認後に長兄の妻であるC2にそのことを伝えたところ,原告甲1の姉であるC3が,同日午前10時35分にC2に電話した際に,C2から亡Aの死亡を知らされたこと,また,原告甲1の兄であるC5は,同日午前10時30分過ぎころに自宅を出発する予定であったところ,C2から亡Aの死亡の電話連絡をもらった際にはまだ在宅していたこと,⑥死亡確認の時刻が,同日午前10時44分であることの証拠としては,カルテの記載,被告乙2,B11医師,B12医師及びその他の広尾病院職員の供述があるところ,これらはいずれも被告乙2がカルテに記載した死亡時刻又は同人がB13看護婦に告げてB1看護婦に記載させた死亡時刻に端を発したものであるが,B11医師が原告ら遺族に対して,医局の時計が進んでいたために,容態が急変した時刻を実際より15分ほど遅い同日午前9時15分と説明してしまったことから,B13看護婦がB1看護婦に対して,看護記録に午前9時15分と記載するように指示したためにそのような記載がなされたこと,及び被告乙2がカルテに事故の可能性を示唆する事実を記載せず,死亡診断書においても死因を病死又は自然死と偽っていことに照らせば,カルテの記載等の上記証拠は信用性が低いこと,⑦被告乙2は,同月20日の中間報告の場で,原告甲1が死亡確認の時刻及び立ち会った医師が違うと述べたことはな 因を病死又は自然死と偽っていことに照らせば,カルテの記載等の上記証拠は信用性が低いこと,⑦被告乙2は,同月20日の中間報告の場で,原告甲1が死亡確認の時刻及び立ち会った医師が違うと述べたことはないと虚偽の供述をしており,被告乙2の供述は信用できないこと,⑧生前から医師の診察を受け,診断された疾患により死亡した場合は,主治医が死亡診断書を作成すれば足り,監察医務院における検案の対象とはならないが,医師の診察を受ける前に死亡し,死後に医師が死亡を確認した場合は,最初に死亡を確認した医師は死亡診断書を作成することなく,警察に連絡するか,少なくとも監察医による検案は受けなければならないとの考え方があったことから,被告乙2は,同人が到着する以前にB11医師により亡Aの死亡確認がされた場合,警察に連絡し,少なくとも監察医による検案を受けなければならず,そうすると,本件医療事故が広尾病院の外部に明らかになってしまうと考え,自分が到着した後に死亡確認がなされたと偽る動機があることをも併せ考慮すれば,亡Aの死亡確認時刻が同月11日午前10時25分であったことは,明らかである。 (c) 被告乙2は,①亡Aのリウマチは生命にかかわる病気ではないこと,②亡Aの術前術後の経過に特に異常はなかったこと,③ヘパロック直後に亡Aの容態が急変したこと,④B1看護婦がヘパ生とヒビグルを間違えたかもしれないと申告していることをいずれも認識していたことから,事故の可能性を認識した上で,事故隠しをするために前記(a)の各行為を行ったといえ,原因究明義務違反につき故意が認められる。 c 被告乙3について被告乙3は,①広尾病院としては本件対策会議において,本件医療事故を警察に届け出ることに決定していたにもかかわらず,被告乙5を交えて再開された同会議において,病院事業部が, c 被告乙3について被告乙3は,①広尾病院としては本件対策会議において,本件医療事故を警察に届け出ることに決定していたにもかかわらず,被告乙5を交えて再開された同会議において,病院事業部が,捜査とその後の司法手続による事案解明にゆだねることを回避して,警察への届出を行うことなく亡Aの死体について病理解剖を行う方針であることを伝え聞いた際に,これに異議を唱えず,暗黙のうちに警察に届け出ない方針に賛意を示し,その方針に従って行動したこと,②亡Aの血液検査は,血液中のヒビグルの検出が可能な血液検査を実施する能力を備えている医療機関においてなされるべきところ,このような能力を有する第一化学薬品に対し亡Aの血液検査を依頼することを広尾病院においていったんは決定したにもかかわらず,B15衛生局長から第一化学薬品ではなく監察医務院で検査するように指示されたため,監察医務院のヒビグル検出能力に疑問があることをあらかじめ認識していながら漫然とその指示に従い,監察医務院に検査を依頼したことからすれば,被告乙3は,被告東京都の原因究明義務の履行を妨害したというべきである。 d 被告乙4について(a) 被告乙4は,広尾病院の上級機関である被告東京都の病院事業部長であり,その見解は広尾病院の意思決定に重要な影響力を持っていた。 それにもかかわらず,被告乙4は,①平成11年2月12日午前9時30分ころ,被告乙5から本件医療事故の報告を受けたのに対し,「病理解剖の承諾が取れているなら,遺族にすべてを話して了解が得られれば,それでいったらいいじゃないか。」,すなわち,被告東京都としては,亡Aの遺族に事情を伝えた上で了解が得られればそれ以上に警察に本件医療事故を届け出るべきではないとの見解を有している旨,広尾病院にアドバイスするように指示したものであり, わち,被告東京都としては,亡Aの遺族に事情を伝えた上で了解が得られればそれ以上に警察に本件医療事故を届け出るべきではないとの見解を有している旨,広尾病院にアドバイスするように指示したものであり,被告乙5がその指示に従い,広尾病院に赴いて同病院の幹部らに病院事業部が警察に届け出ることに消極的である趣旨の発言をし,その発言により,同病院が本件医療事故を警察に届け出るという方針が覆るという結果を招来させたこと,②被告乙5の発言の影響力は,法律上の権限に基づくものではなく,事実上のものであったことからすれば,被告乙4の上記指示行為は,権限を逸脱し,その影響力を違法に行使することにより,被告東京都が亡Aの死亡について負っている原因究明義務を適正な手続及び方法により履行することを妨げた違法なものというべきである。 (b) 被告乙4は,①被告乙5から,本件医療事故の報告を受けた際,患者が誤投薬により死亡した可能性が高いこと,②広尾病院は警察に届け出る意向であること,③医療事故が起きた場合には,事故の当事者である病院が病理解剖を行った場合に,証拠隠滅をしたとされる場合もあることを認識していたことから,本件医療事故は警察に届け出るべき場合であることを当然認識していたと認められる。 したがって,被告乙4は,自己の指示が,広尾病院が原因究明のために適正な手続や方法をとることに反することを認識しており,原因究明義務違反につき故意があったといえる。 e 被告乙5について(a) 被告乙5は,広尾病院に赴き,同病院の上級機関である病院事業部の見解を述べたものであるが,同被告はそもそも被告東京都の病院事業部の副参事という地位にあり,その見解は同病院の意思決定に決定的な影響力を有していた。 それにもかかわらず,被告乙5は,①平成11年2月12日,広尾病院に が,同被告はそもそも被告東京都の病院事業部の副参事という地位にあり,その見解は同病院の意思決定に決定的な影響力を有していた。 それにもかかわらず,被告乙5は,①平成11年2月12日,広尾病院に赴き,同病院の幹部らに対し,「薬剤の取り違えの可能性もあることを遺族に説明した上で,病理解剖の承諾が取れるのであれば,それでいいじゃないですか。」と述べ,病院自ら警察に届け出るべきではないとの病院事業部の見解を示したものであり,その発言により,広尾病院が本件医療事故を警察に届け出るという方針が覆るという結果を招来させてしまったこと,②上記の影響力の行使は,被告乙4の場合同様,事実上の行為であって本来の権限に基づく正当な行為ではないことからすれば,被告乙5の行為は,その権限を逸脱して,病院事業部の広尾病院に対する影響力を違法に行使することにより,被告東京都が亡Aの死亡について負っている原因究明義務を,適正な手続及び方法により履行することを妨げた違法なものというべきである。 (b) 被告乙5は,①広尾病院に病院事業部の見解を伝えた時点で,薬剤の取り違えによる事故の可能性があることを知っていたこと,②広尾病院に赴く前に,同病院は警察に届け出ることをいったん決定したことを知っていたこと,③広尾病院に赴く前における被告乙4との打合せにおいて,過去に都立病院が自ら医療事故を警察に届け出た前例がない理由として,「職員を警察に売ることになるからだ。」との話をし,病院事業部の見解としては医療事故を警察に届け出ることには消極的であるとの意向を確認し合った上で,広尾病院に赴いた後においても,同病院の幹部らに対し,同病院が自ら本件医療事故を警察に届け出た場合には,同病院の職員を売ることになるとの趣旨の発言をしたことを総合すれば,亡Aの死亡が事故死であることについ に赴いた後においても,同病院の幹部らに対し,同病院が自ら本件医療事故を警察に届け出た場合には,同病院の職員を売ることになるとの趣旨の発言をしたことを総合すれば,亡Aの死亡が事故死であることについて無視し得ない現実的可能性があることを認識しており,原因究明義務違反につき故意があったといえる。 f 被告東京都について被告東京都は,医療機関の開設者として,患者又は遺族に対して,原因究明義務を負っているところ,前記aないしeのとおり,被告東京都の職員である被告乙1らが,同義務の履行を怠った。 したがって,被告東京都は,債務不履行又は不法行為(民法715条)の責任を負う。 イ情報開示・説明義務違反について(被告乙1,被告乙2及び被告東京都に対するもの)(ア) 情報開示・説明義務の存在a 医療行為には,前記ア(ア)a記載の特殊性があり,診療契約が準委任契約であることから,てん末報告義務(民法645条)に基づき,診療契約の当事者である医療機関開設者の被告東京都は,診療契約の相手方である患者又はその遺族に対し,診療情報や死因を開示し,てん末の報告説明をなすべき法的義務を負う。 b また,後記(イ)の被告乙1及び被告乙2の行為に国賠法ではなく民法が適用されるのは前記ア(ア)b記載のとおりである。 (イ) 義務違反行為a 被告乙1について(a) 被告乙1は,①平成11年3月11日に原告甲1から死亡診断書の作成を依頼されたものであるが,それより前の同年2月11日付けで作成された死亡診断書には死因は不詳の死と記載されていたところ,その後,亡Aに対する誤投薬の事実が明らかになりつつあった以上,新たに作成する死亡診断書の死因については外因死と記載すべきであるか,少なくとも前回と同じく不詳の死と記載すべきであったのに,被告乙2,被告乙3及び副院長両 投薬の事実が明らかになりつつあった以上,新たに作成する死亡診断書の死因については外因死と記載すべきであるか,少なくとも前回と同じく不詳の死と記載すべきであったのに,被告乙2,被告乙3及び副院長両名と相談の上,死亡の種類欄に「病死及び自然死」と虚偽の記載をすることで合意し,被告乙2に指示してその旨の記載をさせることにより,誤投薬の事実を原告ら遺族に伝えなかったこと,②原告甲1及び原告甲5の立会いのもとに亡Aの死亡宣告が行われたのは,同日午前10時25分であったにもかかわらず,医師法21条の届出義務を回避するため,同年3月11日付け死亡診断書に,死亡時刻を同年2月11日午前10時44分と記載したことからすれば,被告乙1は,死亡診断書に,医療機関の都合のよいように変更した虚偽の事実を記載したといえる。 (b) この点,生命保険の請求に必要な被保険者の死因の記載内容は,保険金請求権者自身の情報ではないが,自己の請求権を基礎づける事実であり,しかも,遺族の場合においては,自分自身に関する情報と同様に重要な事実であるから,自己に関する情報を管理する権利すなわちプライバシー権によって保護されるべき情報といえる。 したがって,医師が保険金請求に係る死亡診断書に虚偽の死因を記載することは,遺族・保険金請求権者に対するプライバシー権侵害であり,裏からいえば,医師は,遺族・保険金請求権者に対し,死亡診断書に正しい死因の情報を記載することにより,情報を開示し説明する義務を負っている。 (c) よって,被告乙1は,死亡診断書に虚偽の死因を記載することにより,原告らに対する情報開示・説明義務に違反したというべきである。 b 被告乙2について(a) 患者や遺族に対する説明義務は,まず第一に,診療契約に基づいて被告東京都が負うが,被告乙2も,主治医として,信義 らに対する情報開示・説明義務に違反したというべきである。 b 被告乙2について(a) 患者や遺族に対する説明義務は,まず第一に,診療契約に基づいて被告東京都が負うが,被告乙2も,主治医として,信義則上説明義務を負う。 (b) 被告乙2は,①平成11年2月11日午前11時ころ,原告甲1及び原告甲5に対し,経過説明をした際,事故の可能性に気付かせないために,あえてヘパロックを行ったことを告げなかったこと,②上記説明の際,B1看護婦が具体的に薬剤の取り違えの可能性を申告しており,また,亡Aの右腕にうっ血と静脈の異常着色が認められ,さらに,循環器専門のB16医師の回答等からして,その当時,事故の可能性が具体的にかなりの確度で考えられる状況に至っていたにもかかわらず,あえてそれらの事故の可能性を示唆する事実を告げなかったこと,③死亡診断書及び死亡証明書の死因欄に,外因死,少なくとも不詳の死と記載すべきところを,病死及び自然死と虚偽の記載をしたこと,④実際には,同日午前10時25分に亡Aの死亡確認が行われたにもかかわらず,死亡診断書に死亡時刻を同日午前10時44分と虚偽の記載したことを総合すれば,被告乙2は,情報開示・説明義務に違反したというべきである。 c 被告東京都について被告東京都は,医療機関の開設者として,患者又は遺族に対して,情報開示・説明義務を負っているところ,前記a及びbのとおり,被告東京都の職員である被告乙1及び被告乙2が,同義務の履行を怠った。 したがって,被告東京都は,債務不履行又は不法行為(民法715条)の責任を負う。 (被告乙1の主張)ア原因究明義務違反について(ア) 医療機関は,患者が死亡した場合には遺族に対し死亡の経過を説明すれば十分であり,死因解明を希望するか,希望するならどのような手段をとるかは,遺 被告乙1の主張)ア原因究明義務違反について(ア) 医療機関は,患者が死亡した場合には遺族に対し死亡の経過を説明すれば十分であり,死因解明を希望するか,希望するならどのような手段をとるかは,遺族が任意に決めることであって,医療機関に死因解明に必要な措置を提案する法的義務は存しない。 また,医療機関が医療事故を警察に届け出たとしても,捜査は犯罪の嫌疑を明らかにするためになされるものであり,遺族に対して死亡原因を究明するためのものではないから,医療機関の警察に対する医療事故届出義務を根拠に,遺族への説明義務を導き出すことはできない。 さらに,医療機関に警察への届出義務を課すのは,不利益なことを自らなすように法的に強制することであり,憲法が黙秘権を保障した趣旨に抵触するおそれがあることに加えて,人間の自然の情に反するものであって,同義務を課すとかえって事故防止のための情報の収集を阻害しかねない。 したがって,医療機関が,遺族に対し,警察へ届け出ることを信義則上の法的義務として負うとはいえない。 (イ) 仮に,医療機関が,遺族に対する関係で,医療事故を警察に届け出るとの法的義務と負うとしても,①被告乙1は,平成11年2月12日の昼前ころに,遺族に対し,亡Aの死亡原因としては心疾患等の疑いがある一方で,薬の取り違えの可能性もあること,死亡原因究明のために亡Aの死体を広尾病院で病理解剖させてほしいこと,もし遺族の側で広尾病院が信用できないというのであれば警察に連絡した上で監察医務院等で解剖を行う方法もあることを説明した上で,遺族の承諾を得て病理解剖を実施し,臓器や血液を保存し,できる限り真相を究明することを目指して,臓器及び血液の組織学的検査や残留薬物検査を行うように広尾病院の職員らに指示したこと,②亡Aの血液検査については専門家に依頼し を実施し,臓器や血液を保存し,できる限り真相を究明することを目指して,臓器及び血液の組織学的検査や残留薬物検査を行うように広尾病院の職員らに指示したこと,②亡Aの血液検査については専門家に依頼したこと,③最終的には被告乙1が推し進めた広尾病院による病理解剖を基礎として,亡Aの死亡原因が解明されたことによれば,被告乙1に同義務の違反はない。 (ウ) なお,原告らの原因究明義務違反の主張は,債権侵害による不法行為の主張と解されるが,原告らが本訴で主張するまで警察への届出が原因究明義務として問題にされたことはなく,被告乙1としてはその時点に至るまで原告らがそれぞれ有する原因究明請求権ともいうべき各債権を侵害しているという認識を有し得なかったのであるから,被告乙1に債権侵害の故意又は害意はない。 イ情報開示・説明義務違反について(ア) 診療契約の当事者は医療機関と患者であり,遺族は診療契約の当事者でない。また,診療契約の本体的内容は治療行為である。 したがって,仮に,医療機関が診療行為の結果を遺族に説明する義務があるとしても,同義務は契約上の義務ではなく,信義則上,診療債務の履行に付随する義務又は医の倫理から要請される義務とでもいうべきである。 (イ) そして,前記説明義務の内容は,①説明は,医療機関の責任の存否を判断する資料を遺族に提供するために行うものであること,②生命や身体への悪い結果を回避をするために診療行為の前に行うべき説明と比較すればその必要性の程度が異なること,③契約上の義務ではなく,信義則上の付随義務であること,④混乱し流動する状況の中で,様々な,また,相反する情報をすべて遺族に伝えることは相当とはいい難いことを総合すれば,医療機関としては,遺族に対し,診療行為に基づく結果発生に至るまでの経緯を一応明らかにすれば十分であ 況の中で,様々な,また,相反する情報をすべて遺族に伝えることは相当とはいい難いことを総合すれば,医療機関としては,遺族に対し,診療行為に基づく結果発生に至るまでの経緯を一応明らかにすれば十分であり,必ずしも厳密な意味において正確な内容でなくとも,概括的な説明をすれば,同義務は尽くされたと解すべきである。 (ウ) 本件において,広尾病院においては,本件医療事故の翌日である平成11年2月12日,遺族に事故の概要を説明して前記説明義務を履行しているのであって,被告乙1に説明義務違反の違法は認められない。 ウなお,平成11年3月11日付け死亡診断書の死亡欄の記載については,原因究明義務や情報開示・説明義務とは無関係である。 また,被告乙1は,被告乙2から死亡診断書の記載方法につき相談を受けた際,被告乙3らとともにこれに応じたものであるが,その時点で行われた協議の際に,①厚生省の講習会で不詳の死は白骨死体の場合に限ると聞いたという意見,②不詳の死では保険金がおりないのではないかという意見,及び③血液の残留薬物検査等の警察の捜査の結果が出ておらず,事故死とも書けないという意見が出されたが,最終的には,病理解剖で急性肺血栓塞栓症とされていることに照らすと,現段階では病死と記載するという方向でいいのではないかという意見に落ち着いたことに基づき,被告乙2にその旨助言したにすぎず,被告乙1の助言は,当時の知見に照らせば不当とはいい難い。 また,医療行為については,医師は独立してその職務を行うものであるところ,診断書の作成は被告乙2の全権に属するから,被告乙1の助言は単なる参考意見にすぎないのであって,その助言が法的責任を根拠付けるものとはいえない。 エ被告乙1の事故処理は,国賠法1条にいう「公権力の行使」に当たるから,公務員個人である被告乙1は責 の助言は単なる参考意見にすぎないのであって,その助言が法的責任を根拠付けるものとはいえない。 エ被告乙1の事故処理は,国賠法1条にいう「公権力の行使」に当たるから,公務員個人である被告乙1は責任を負わない。 (被告乙2の主張)ア原因究明義務違反について(ア) そもそも医師法21条は,患者又はその遺族と医師個人又は医療法人との関係を規律する法律ではないのであるから,医療機関が警察への届出を怠ったとしても,医師法21条を根拠として不法行為が成立する余地はない。 (イ) また,医療事故が発生した場合には,医療現場は混乱するものであるが,かような場合,医師又は看護婦の一人が組織体と無関係に対応ないし行動すべきではなく,医療現場全体が組織として対応することが重要であって,警察への届出も病院の長がすべきものであることから,本件医療事故は,広尾病院という組織体が一体としてすべての対応をすることとなったもので,具体的には警察への届出も広尾病院の長ともいうべき立場の者がすべきであったところ,被告乙2はかような立場にはなかった。 (ウ) 医療機関が医療事故についての原因究明義務を尽くしたか否かは,解剖等に関する医療機関の対応方針が原因究明のために十分であったか否かという観点により判断すべきであり,死亡診断書にどのような記載がなされたかは,原因究明義務を尽くしたか否かとは無関係である。また,当該記載は,被告乙2がなしたとはいえ,それは被告乙1らとの協議の結果,同被告からの指示を受けて記載したものであり,被告乙2は事実の隠ぺい等を考えたわけではなく,せめて遺族らによる保険金請求手続がスムーズに進む方がよいと思って記載したものであるから,被告乙2にはその点に基づく法的責任はない。 (エ) また,①被告乙2の記憶が当初から一貫して揺るがないこと,②被告乙 族らによる保険金請求手続がスムーズに進む方がよいと思って記載したものであるから,被告乙2にはその点に基づく法的責任はない。 (エ) また,①被告乙2の記憶が当初から一貫して揺るがないこと,②被告乙2が死亡時刻を偽る理由もないこと,③被告乙2は,他の病院関係者と相談する前に,本件医療事故発生後,カルテに「10時44分」と記載したものであるが,その際に,死亡診断と死体検案等の相違等を意識して,死亡時刻を偽るだけの時間的,精神的余裕はなかったことを総合すれば,亡Aの死亡時刻は平成11年2月11日午前10時44分であったといえる。 イ情報開示・説明義務違反について(ア) 診療契約の当事者は,広尾病院を経営する被告東京都であるから,被告乙2が,診療契約に付随する義務を負うことはない。 (イ) ①広尾病院においては,事故が発生したら,直ちに上席医や婦長等の上司に報告し,当該上司の指示や了解を受けて,患者側への説明者を決めること,②医療事故発生直後の家族等に対する説明は,過失が明白である場合を除き,事実経過の説明のみにとどめ,事故の原因の判断等の説明及び謝罪は避け,決定的なことは言わないようにすること,③過失があると考えられる場合には,担当医のみの判断で過失を断定せず,後ほど病院として説明するものとすること,④説明は説明者一人で行わず,説明者のほかに上席医等が同席すること,⑤事故現場にいた者が個人的見解等を患者側に話すことは絶対に避けることといった慣行があった。 そこで,被告乙2は,上記慣行に従って,亡Aの死亡直後に被告乙1及び担当上司であるB17医長に報告し,その結果,病院側が組織として対応することになったのであるから,被告乙2にはそもそも,上司の指示等を受けるまで遺族に対する説明権限も説明責任もなかった。 したがって,被告乙2に説明権限が に報告し,その結果,病院側が組織として対応することになったのであるから,被告乙2にはそもそも,上司の指示等を受けるまで遺族に対する説明権限も説明責任もなかった。 したがって,被告乙2に説明権限があったことを前提とする不法行為責任は生じない。 (ウ)a また,説明義務違反につき,医師に不法行為上の過失があると認められるのは,医師の基礎的な医学上の知識の欠如等の重大な落ち度によって,患者の死亡の経過や原因について誤った説明が行われた場合に限られるというべきである。 ①前記(イ)のとおり,広尾病院内には,医療事故が発生した場合の対応についての慣行があり,被告乙2に説明権限はなかったこと,②被告乙2は,自らが薬を取り違えたり,他の医師又は看護婦による取り違えを現認したり,取り違えた者から直接事情を聞いたわけでもないのであって,それにもかかわらず,専門職である看護婦がミスを犯した疑いがあることを,患者の突然の死にショックを受けている遺族に対して告げることは,医療関係者として不適切な行為であるといえる。 それゆえに,平成11年2月11日の時点では,被告乙2としては,心電図とレントゲンという客観的資料に基づく説明しかすることができず,よって,被告乙2が,薬の取り違えの可能性について原告らに説明しなかったことは,医師としての医学上の知識,医学倫理のいずれの面からも被告乙2の落ち度とはいえない。 b 平成11年3月11日付け死亡診断書の記載については,原告らに対する情報開示や説明は,死亡診断書を介さず,各進行状況に応じて,広尾病院としての説明の場の中で行われているものであって,そもそも同診断書は原告らに対する報告書類ではないから,その点が原告らに対する情報開示・説明義務違反を構成するものではない。 ウ仮に,被告乙2に何らかの義務違反がある場合に われているものであって,そもそも同診断書は原告らに対する報告書類ではないから,その点が原告らに対する情報開示・説明義務違反を構成するものではない。 ウ仮に,被告乙2に何らかの義務違反がある場合にも,被告乙2は,本件医療事故当時,地方公務員であり,被告乙2の各行為はすべて,被告東京都を頂点とする命令系統の中で行われた,故意又は重過失によらない行為であるから,国賠法により被告東京都がその責任を負うものであり,原告らの被告乙2に対する損害賠償請求権は発生しない。 (被告乙3の主張)ア(ア) 被告乙3は,公権力の行使にあたる公務員であるから,仮に被告乙3の行為が違法と評価されても,それについては国賠法1条が適用される結果,被告東京都が責任を負うものであり,被告乙3が責任を負うものではない。 確かに,国公立病院の診療行為について国賠法を適用せず,民法の不法行為規定を適用している裁判例が存するが,それは,診療行為について国賠法を適用すべきと争った事例がないことから生じた偶然の結果であって,診療行為が当然に公権力の行使に当たらないことの裏付けにはならない。 (イ) さらに,被告乙3は医師でも看護婦でもなく,診療行為を行っておらず,診療行為の補助行為をしていたわけでもないのであるから,診療行為に付随する義務違反を問われるべきではない。 よって,仮に診療行為に民法の不法行為規定が適用されるとしても,被告乙3の行為に同規定を適用することはできない。 イ(ア) ①原因究明義務は,診療行為に付随する義務であるから,診療行為をなし得ない被告乙3には同義務は課されないこと,②被告乙3は,医師ではないから,医師法21条に基づく届出義務は負わない上,刑事訴訟法239条2項は,常に公務員に告発義務を課すものではなく,公務員に裁量の余地を認めるのが通説であり,ま ないこと,②被告乙3は,医師ではないから,医師法21条に基づく届出義務は負わない上,刑事訴訟法239条2項は,常に公務員に告発義務を課すものではなく,公務員に裁量の余地を認めるのが通説であり,また,公務員に告発義務が生じるのは,犯罪が成立すると思料するときに限定されていることを併せ考慮すれば,被告乙3に警察への届出義務は認められないというべきである。 (イ) また,医師法21条及び刑事訴訟法239条2項は,遺族の知る権利を保障した規定ではなく,したがって,医師法21条の届出義務違反が原告らとの関係で不法行為を構成することはない。 ウ ①被告乙3は,本件対策会議が終了した時点で,薬剤の取り違えの可能性もあると理解したにすぎず,誤投薬であると断定できる状況にはなかったこと,②被告乙3は,本件対策会議において,警察に届け出ないとの決定はしておらず,むしろ,遺族に薬の取り違えの可能性を説明した上で,遺族が病理解剖に同意しない場合には,当然に警察に届け出ると決定したと認識していたこと,③被告乙3は,原告らは被告乙1の説明を十分に理解し,判断できる人たちであると認識しており,その原告らが広尾病院で病理解剖をすることを承諾したから,それに従って行動したにすぎないこと,④被告乙3は,被告乙5を通じて明らかにされた病院事業部の考え方を受けて決定された広尾病院の方針に従って行動したにすぎず,当該決定に重大かつ明白な瑕疵がない限り,これに従うのは地方公務員である以上当然であること,⑤広尾病院においては,平成11年2月12日以降,亡Aの血液検査の実施を依頼する機関についての検討を開始し,同月19日に第一化学薬品に依頼することに決定したことを総合すれば,被告乙3は,医師法21条に規定する届出義務を負う医師による届出を妨害する行為をしたことはない。 エ(ア) ついての検討を開始し,同月19日に第一化学薬品に依頼することに決定したことを総合すれば,被告乙3は,医師法21条に規定する届出義務を負う医師による届出を妨害する行為をしたことはない。 エ(ア) 平成11年2月12日の時点では,B3副院長が病死の可能性を指摘していた以上,被告乙3において,亡Aの死亡に関して犯罪の可能性があることは当然に認識できるものではなく,したがって,被告乙3には原告らに損害を加えることを知りながら意図的に義務を怠ったという特別な事情は認められないため,被告乙3には故意がない。 (イ) 被告乙3が広尾病院で病理解剖することに反対しなかったのは,広尾病院における病理解剖により原因が明らかにできるとの認識によるものであり,結果的にこのような認識が間違っていたとしても,被告乙3に過失があったとはいえない。 (被告乙4の主張)ア(ア) 病院事業部といえども,医師の資格を持たない事務職を長とする組織であって,もともと医学的判断を適切になし得るものではなく,各患者に関する医療方針等は,あくまで各都立病院において判断することであるから,病院事業部が上級機関として都立病院に対して,各患者の医療方針等について指示する権限がないことは明らかである。 とすれば,被告乙4が,病院事業部長として,本件医療事故の対応につき,個別具体的に広尾病院に指示することはあり得ない。 (イ) しかも,そもそも被告乙4の意を受けて被告乙5が広尾病院に赴いた時点で,既に同病院においては本件医療事故を警察に届け出るということで最終結論がまとまっていたといえるかどうかが疑問である上,被告乙4は,被告乙5に対し,「遺族から病理解剖の承諾を得たというのであれば,改めて,薬の取り違えの可能性等事情をすべて説明した上で,再度,病理解剖の承諾が頂ければその線でいったらい 疑問である上,被告乙4は,被告乙5に対し,「遺族から病理解剖の承諾を得たというのであれば,改めて,薬の取り違えの可能性等事情をすべて説明した上で,再度,病理解剖の承諾が頂ければその線でいったらいいんじゃないですか。」と広尾病院の相談に対して可能な回答を示したにすぎず,原告らの原因究明を阻害するような権限を逸脱する指示をして同病院に不当な影響を与えたことはないというべきである。 このことは,①被告乙4及び被告乙5が,広尾病院においていったんは本件医療事故を警察に届け出ることに決定していたことを知らなかったもので,その当時,影響力を不当に行使しなければならない必要性を感じていなかったこと,②被告乙1も,広尾病院内における決定が既にあったにもかかわらず,その後病院事業部の方針が同病院に伝えられたことによって本件医療事故を警察に届け出ないことになったとは,一貫して述べていないことからも裏付けられる。 イ(ア) 被告乙4は,被告乙5及びB10主事を通じて,B5医事課長が「既に遺族から病理解剖の承諾を得ているが,警察への届出はどうしましょうか。」と相談してきたことを聞いただけであり,広尾病院が警察への届出を決めたことは知らされていない。 (イ) また,①被告乙4が,被告乙5から受けた報告は,「広尾病院で入院中の女性の患者さんが亡くなられた。原因は不明で現在調査中であるが,薬剤の取り違えの可能性もある。」という内容にすぎず,薬剤の取り違えはあくまで可能性の一つとして報告されたにすぎなかったこと,②都立病院から病院事業部への医療事故の報告は通常業務の一つであり,そのこと自体に特殊性は認められないこと,③B10主事が虚偽の事実を述べる必要性がないことを総合すれば,被告乙4が,広尾病院から病院事業部への架電内容に基づき,誤投薬によって患者が死亡した であり,そのこと自体に特殊性は認められないこと,③B10主事が虚偽の事実を述べる必要性がないことを総合すれば,被告乙4が,広尾病院から病院事業部への架電内容に基づき,誤投薬によって患者が死亡したことの可能性が相当に高いことを十分に認識することは,できなかったというべきである。 (ウ) さらに,被告乙4らが検討した「医療事故・医事紛争防止予防マニュアル」において警察に届け出る場合とされているのは,「過失が極めて明白な場合」であるところ,本件医療事故は,原因はその当時調査中であって判明未了ではあるが,薬剤取り違えの可能性もないわけではないとされていたにすぎず,したがって,被告乙4が警察への届出をすべきかどうかを検討していた段階においては,本件医療事故が「過失が極めて明白な場合」に該当していたということはできない。 とすれば,被告乙4において,本件医療事故が警察に届け出るべき場合に該当すると認識することはできないし,また,同被告が出した指示が,広尾病院において原因究明のためにとるべき適正な手続ないし方法に反することを同被告において認識していたということもできないのであって,むしろ,現に病理解剖は原因究明に向けて一定の限度では功を奏したものである。 ウもし被告乙4が警察への届出を阻止しようとすれば,露骨に警察に届け出ないように指示するか,そのような指示をしないまでも,薬の取り違えの可能性等の事情をすべて説明するという条件は付さずに,既に了解を得ているのであるから病理解剖をするように指示すれば足りるところ,被告乙4はかような指示をすることなく,むしろ前記ア(イ)のような指示を出しているのであって,これは警察へ届け出るなと受け取られるような指示ではない。 エ公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失 しろ前記ア(イ)のような指示を出しているのであって,これは警察へ届け出るなと受け取られるような指示ではない。 エ公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずるのであって,公務員自身はその責任を負わない。 本件においては,被告乙4は,被告東京都の職員であり,また,病院事業部長の職務内容は,都立病院の病院事業に関するすべての事務をいうから,仮に何らかの損害が原告らに生じたとしても,それは公務員である被告乙4の職務執行上生じた損害といえる。 とすれば,仮に,被告乙4に不法行為責任が認められるとしても,その責任は被告東京都が負うものであり,被告乙4に個人責任を追及することはできない。 (被告乙5の主張)ア(ア) 仮に医療機関に患者の遺族に対する原因究明義務が認められるとしても,同義務は医療機関と患者との間の診療契約に付随して同契約上又は信義則上認められるものであり,当該事案における具体的状況や遺族の意向,社会通念に照らしてその内容が決まる私法上の義務であるから,本件の場合,このような具体的状況,遺族の意向等を考慮しなくとも当然に,本件医療事故を所轄警察署に届け出て刑事司法手続にゆだねることが医療機関の負うべき原因究明義務の内容となるものではない。 (イ) また,遺族の真相を知る権利を保護することを目的として,警察が病院からの医療事故に関する届出を受理することを前提とした規定はない以上,医療事故を警察に届け出ることが,医療機関の負うべき原因究明義務の内容となることについて,法的裏付けがない。 (ウ) さらに,被告乙5は診療契約の当事者でなく,医師でもない上,病院事業部はそもそも都立病院の死因やその解明方法を含む医療 機関の負うべき原因究明義務の内容となることについて,法的裏付けがない。 (ウ) さらに,被告乙5は診療契約の当事者でなく,医師でもない上,病院事業部はそもそも都立病院の死因やその解明方法を含む医療方針や警察への届出の是非について判断する部署ではなく,病院側に指示を出す根拠や強制力をもっていないことからして,被告乙5の行為が原因究明義務違反となることはない。 イ(ア) ①B10主事から広尾病院の件について報告を受けた後の被告乙5,被告乙4及びB10主事の行動は,同人らが広尾病院が警察に届け出ることを知っていたとすればとり得なかった行動であって,同人らはこれを知らなかったことを前提としなければ同人らの一連の行動についての説明がつかないこと,②B10主事は,警察への届出をどうするかについて広尾病院から相談を受けたと述べるが,B10主事はB5医事課長からの電話の内容を被告乙5に伝えただけで,本件医療事故に関し刑事上及び民事上の責任を問われる立場になく,その供述内容も自然で不合理な点は特にないこと,③一方,B5医事課長は,広尾病院が警察に届け出ることを電話でB10主事に伝えたと述べるが,B5医事課長の捜査段階の供述と他の共同被告に対する刑事公判における証言には,医師法についての認識や本件対策会議の状況といった重大な事項につき多数の矛盾点がある上,B5医事課長は刑事公判でも不一致証言を繰り返しており,さらに,その供述内容も不自然で,他の者の供述と矛盾する点が多々あり,しかも,民事上又は刑事上の責任を問われかねない立場にあったこと等を総合すると,平成11年2月12日午前9時の時点では,被告乙5は,広尾病院から警察への届出をどうしたらよいかと相談を受けたと認識していただけで,広尾病院においては既に本件医療事故を警察に届け出ることに決定していたこと 年2月12日午前9時の時点では,被告乙5は,広尾病院から警察への届出をどうしたらよいかと相談を受けたと認識していただけで,広尾病院においては既に本件医療事故を警察に届け出ることに決定していたことは知らなかったというべきである。 (イ) ①B6庶務課長,被告乙3及び被告乙1は,被告乙5が警察への届出を待ってほしいと述べた事実を否定していること,②B6庶務課長は被告乙5に対し,電話で,広尾病院が警察に届け出ることに決定した旨を伝えていないこと,③B6庶務課長は,前記刑事公判において,被告乙5が警察に届け出る必要はないと述べたと証言するが,B6庶務課長は,そもそも被告乙5と医師法21条違反の成立に関して利害が対立する立場の人物である上,B6庶務課長の証言は,その内容において不自然な点が散見され,他者の証言と整合性のない部分が多く,被告乙5の行動を整合的に説明できない点に照らし,全般的に信用できないというべきであることを総合すれば,被告乙5は,B6庶務課長に電話連絡した際,これから被告乙5が広尾病院に行くので到着するまで待っていてほしいと伝えたにすぎないというべきである。 (ウ)a ①被告乙3の供述内容からすれば,被告乙5が広尾病院に到着した後に再開された本件対策会議において,広尾病院側から同病院としては本件医療事故を警察に届け出る意向であるとの発言はなかったと認められること,②被告乙5は,上記会議の場で,これまでの例を紹介するとともに,遺族に対して事実関係を包み隠さず話して判断していただいたらどうかと発言したと認められること,③B5医事課長や被告乙3は,被告乙5が警察への届出をやめるように言っているのと等しいと思ったと述べるが,それは同人らの内心の問題にすぎないことを総合すれば,被告乙5には上記会議において警察への届出を防ごうとの意向 告乙3は,被告乙5が警察への届出をやめるように言っているのと等しいと思ったと述べるが,それは同人らの内心の問題にすぎないことを総合すれば,被告乙5には上記会議において警察への届出を防ごうとの意向は全くなかったものというべきである。 b また,被告乙5は遺族の意向に言及しているが,前記ア(ア)のとおり,それによって原因究明義務の内容が定まるのであるから,遺族の意向が重視されるのは当然であり,被告乙5の発言もそれにそうものであって,何ら問題はない。 さらに,広尾病院側は,原告甲1,医師である原告甲3,原告甲5の夫であり元衛生局の職員であったC1ら遺族に対し,薬の取り違えの可能性や,警察に届け出て監察医務院で解剖するという他の選択肢についても説明した上で,遺族の意向を尋ねたところ,遺族が病理解剖による原因究明を求めたため,その意向を尊重したとの事実が存するのであって,被告乙5を含め,関係者が遺族の意向を尊重したこと自体は,何ら原因究明義務違反となることはない。 (エ) 確かに,被告乙5は被告乙1に対し,病死の可能性も高い段階で職員を警察に差し出すことはできないとの趣旨の発言を1回したが,その真意は,病死と誤薬による死亡という情報が錯綜しており真相が全く不明な状況では,職員を業務上過失致死罪の被疑者として警察に通報することはできないと思ったという点にあり,事故が表ざたになることを防ぎたいとの点にあったわけではなかった。 (オ) 以上の事実関係に照らせば,被告乙5に原因究明義務に違反するような行為はない。 ウ(ア) 被告乙5は,広尾病院が遺族に対し原因究明義務を負うとの認識はない上,適切な原因究明を妨げたとの認識もないから,故意がない。 また,原告らは,無視できない事故の可能性を認識していれば,故意があると主張するが,このような見解は,故 原因究明義務を負うとの認識はない上,適切な原因究明を妨げたとの認識もないから,故意がない。 また,原告らは,無視できない事故の可能性を認識していれば,故意があると主張するが,このような見解は,故意の範囲を無制限に広げるものであり採用すべきでない。 (イ) ①被告乙5は,マニュアルを調べ,被告乙4やB10主事との協議結果を踏まえ,切迫した状況において可能な限りの対応をしたこと,②被告乙5は上司である被告乙4の職務上の命令に忠実に従ったにすぎないこと,③医療事故により患者が死亡した場合には,警察への届出義務がないとの見解も有力であることを総合すれば,被告乙5には過失もない。 エ ①都立病院は,営利性や採算性を度外視して医療を提供すべき責務を負っており,このような都立病院の特殊性にかんがみれば,これにかかわる職務を私経済作用とすることはできないこと,②被告乙5は,本件医療事故当時,病院事業部管理課に所属し,医療訟務,医療従事者対策等の職務に従事していたこと,③本件における被告乙5の各行為は,都立病院で発生したかもしれない事故への対応という医療訟務業務の一環としてなされており,公権力の行使に該当することを総合すれば,仮に被告乙5に不法行為が成立するにしても,被告乙5は公権力の行使に当たる公務員であり,その職務を行うにつき損害を与えたものであるから,個人責任を負うものではない。 仮に,国公立病院の医師等の医療行為自体について民法上の不法行為規定の適用が考えられるとしても,被告乙5の行為はそもそも医療行為ではないから,民法上の不法行為規定は適用されないというべきである。 (被告東京都の主張)ア組織学的検査の結果によって,亡Aの死因が心筋梗塞ではなく急性肺血栓塞栓症であること,同症を発症させた原因たる血栓が平成11年2月11日午前に亡Aが抗生 というべきである。 (被告東京都の主張)ア組織学的検査の結果によって,亡Aの死因が心筋梗塞ではなく急性肺血栓塞栓症であること,同症を発症させた原因たる血栓が平成11年2月11日午前に亡Aが抗生剤の点滴投与を受けた右前腕皮静脈内に由来すると推測されることが,確実になったのは,同年3月5日に至ってである。 そうすると,少なくとも同日以前の段階では,亡Aの死因は確定的であったとはいえず,広尾病院としては,その段階以前に,原告らに対し,死因を断定して報告することは不可能であったというべきである。 イなお,亡Aの死亡確認の時刻については,被告乙2らの証言の信ぴょう性,整合性及び妥当性を時系列的かつ総合的に検討した結果,死亡確認時刻が原告らの主張する平成11年2月11日午前10時25分であるとの確証は得られず,他方,同日午前10時44分であるとの被告東京都の主張を覆すに足る十分な証拠はないのであるから,亡Aの死亡確認時刻は同日午前10時44分であるというべきである。 (3) 損害額(原告らの主張)ア争点(1)の義務違反による損害(被告東京都のみに対するもの)(ア) 亡Aの損害a(a) 逸失利益  3150万6991円平成10年賃金センサス第1巻第1表の産業計,事業規模計,学歴別,年齢階層別,58歳女子労働者の平均の年間給与額は507万8300円であるところ,亡Aは死亡当時満58歳であり,厚生省第16回生命表によれば58歳女子の平均余命は25.01年であるから,その約2分の1である12年に対応するライプニッツ係数である8.8632を上記金額に乗じ,さらに,30%の生活費控除をした数額が,原告らが亡Aの逸失利益として請求する金額である。 (b) 慰謝料 8000万円亡Aは,リウマチの治療のために入院したところ,外用消毒剤を体内 に乗じ,さらに,30%の生活費控除をした数額が,原告らが亡Aの逸失利益として請求する金額である。 (b) 慰謝料 8000万円亡Aは,リウマチの治療のために入院したところ,外用消毒剤を体内に投与されるという常識では考えられない医療過誤により死亡したものであり,亡Aの被った精神的苦痛は甚大である。 さらに,①広尾病院が,東京都の医療機関において中核的な地位を占める病院であるにもかかわらず,その期待を裏切り,危険なシステムをとってきたことについての責任の重大さを明確にする必要があること,②常日頃,薬品の取り違えがないか心配していた亡Aが,容態に異変が生じた後から死亡に至るまでの間,最善の体制での救急措置を受けられず,自分の体内に何を投与したのかに不安を抱き,筆舌に尽くし難い恐怖感を味わったことが,慰謝料の額に反映されるべきであるから,亡Aの慰謝料は,8000万円を下らない。 b 亡Aは,被告東京都の義務違反により前記aの損害を被り,被告東京都に対する同額の損害賠償請求権を有するところ,原告甲1,原告甲2及び原告甲3は,その各法定相続分に従い,原告甲1は5575万3495円(法定相続分2分の1),原告甲2及び原告甲3は各2787万6747円(同各4分の1)について同損害賠償請求権を相続した(1円未満切り捨て)。 (イ) 原告ら固有の損害a 原告甲1の損害(a) 慰謝料 500万円原告甲1は,亡Aと昭和41年10月11日に婚姻し,2子をもうけ,30年以上仲むつまじく暮らしてきたにもかかわらず,本件医療事故により突然に最愛の妻を奪われたものであり,原告甲1の固有の慰謝料は,500万円を下らない。 (b) 葬儀費用 150万円b 原告甲4の損害 300万円原告甲4は,亡Aの実父であり,亡Aと原告甲1が大阪に居住していた れたものであり,原告甲1の固有の慰謝料は,500万円を下らない。 (b) 葬儀費用 150万円b 原告甲4の損害 300万円原告甲4は,亡Aの実父であり,亡Aと原告甲1が大阪に居住していた平成10年8月ころまでは亡Aらの自宅で1年の約3分の1を過ごし,同人らが浦安に転居した後の同年10月ころからは同人らの自宅に同居し,亡Aを最も頼りにしていたものであって,娘に先立たれた原告甲4の精神的苦痛は甚大であり,原告甲4の固有の慰謝料は300万円を下らない。 c 原告甲5の損害 300万円原告甲5は,亡Aの実妹であり,幼いころから亡Aと仲がよく,同人と同じく看護婦になったのも同人に強い影響を受けた結果である上,同人が大阪に居住していたときには,同人の自宅に間借りして生活し,平成10年8月に同人が浦安に転居した際も,原告甲5の近隣の家に住み始めるなど,原告甲5と亡Aとの間には,通常の兄弟姉妹の関係をはるかに超える親密さがあった。 さらに,原告甲5は,亡Aが,人間の尊厳を無視した救命措置の結果死亡した際の状況を間近に見ており,その被った精神的苦痛は大きく,原告甲5の固有の慰謝料は300万円を下らない。 d 弁護士費用(a) 原告甲1 376万5120円(b) 原告甲2及び原告甲3  各168万5998円(c) 原告甲4及び原告甲5 各18万1441円原告らは,原告ら訴訟代理人弁護士らに対し,日本弁護士連合会報基準規程に従い,着手金441万円,報酬金882万円の弁護士報酬を支払うことを約し,その内金である750万円を,各原告ごとに,前記(ア)及び(イ)aないしcの損害の合計額に応じて按分して請求する(1円未満切り捨て)。 イ争点(2)の義務違反による損害(被告ら全員に対するもの)(ア) 原因究明義務等の違反に 原告ごとに,前記(ア)及び(イ)aないしcの損害の合計額に応じて按分して請求する(1円未満切り捨て)。 イ争点(2)の義務違反による損害(被告ら全員に対するもの)(ア) 原因究明義務等の違反による損害は,生命侵害による損害とは別個独立の損害であり,医療機関の隠ぺい体質を考慮すれば,原因究明義務等の違反による損害を独立の被侵害利益として評価する必要性は十分に認められ,また,算定可能な程度の具体性を有する。 (イ)a 被告乙1の義務違反行為による損害被告乙1の前記各行為により被った精神的苦痛を慰謝するためには,少なくとも,原告甲1に対し240万円,原告甲2,原告甲3,原告甲4及び原告甲5に対し各120万円の慰謝料が必要である。 b 被告乙2の義務違反行為による損害被告乙2の前記各行為により被った精神的苦痛を慰謝するためには,少なくとも,原告甲1に対し120万円,原告甲2,原告甲3,原告甲4及び原告甲5に対し各60万円の慰謝料が必要である。 c 被告乙3の義務違反行為による損害被告乙3の前記各行為により被った精神的苦痛を慰謝するためには,少なくとも,原告甲1に対し40万円,原告甲2,原告甲3,原告甲4及び原告甲5に対し各20万円の慰謝料が必要である。 d 被告乙4の義務違反行為による損害被告乙4の前記各行為により被った精神的苦痛を慰謝するためには,少なくとも,原告甲1に対し40万円,原告甲2,原告甲3,原告甲4及び原告甲5に対し各20万円の慰謝料が必要である。 e 被告乙5の義務違反行為による損害被告乙5の前記各行為により被った精神的苦痛を慰謝するためには,少なくとも,原告甲1に対し20万円,原告甲2,原告甲3,原告甲4及び原告甲5に対し各10万円の慰謝料が必要である。 f 被告東京都の義務違反行為による損害被告東京都 神的苦痛を慰謝するためには,少なくとも,原告甲1に対し20万円,原告甲2,原告甲3,原告甲4及び原告甲5に対し各10万円の慰謝料が必要である。 f 被告東京都の義務違反行為による損害被告東京都は,前記aないしeの各損害について,当該被告と連帯して責任を負う。 ウよって,原告らは,被告らに対し,第1記載のとおり請求するものである(なお,第1の1ないし3の遅延損害金の起算日は本件医療事故の日である。)。 (被告東京都の主張)ア争点(1)の義務違反による損害(ア) 亡Aの損害a 逸失利益原告らは,平成10年賃金センサス第1巻・第1表の産業計・企業規模計・学歴別・年齢別の「女子労働者,高専・短大卒,55歳~59歳」の平均賃金額である507万8300円を基礎収入として逸失利益を算定しているが,亡Aは,死亡当時専業主婦であるところ,専業主婦の逸失利益は,全女子雇用労働者の平均賃金に相当する財産上の収益を上げるものと推定するのが相当であるから,逸失利益の算定の基礎としては,同表の産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者の全年齢平均の賃金額である341万7900円を採用すべきである。 b 慰謝料判例は,制裁的慰謝料は我が国の不法行為に基づく損害賠償の基本原則と相いれないと解している。 さらに,本件医療事故は,組織構造的過失によるものではない上,被告東京都は,本件医療事故発生後,事故原因の十分な検討を行い速やかに対策を講じたのであるから,亡Aの慰謝料を算定するに当たり,制裁的慰謝料は認められるべきではない。 (イ) 原告甲5の損害後記被告乙3の主張と同じ。 イ争点(2)の義務違反による損害争う。 (被告乙1の主張)ア仮に,被告乙1に何らかの義務違反があったとしても,同義務違反による損害は,生命侵害に対する慰謝料に包含されてお 3の主張と同じ。 イ争点(2)の義務違反による損害争う。 (被告乙1の主張)ア仮に,被告乙1に何らかの義務違反があったとしても,同義務違反による損害は,生命侵害に対する慰謝料に包含されており,独立に法的保護に値する損害とは評価できない。 イまた,説明義務は,医療過誤による賠償請求が肯定されない場合の被害者救済のための法技術であり,本件のように本来的な診療債務の債務不履行が認められる場合に,当該説明義務違反が診療債務の不履行による慰謝料の増額要素になるかはどうかはともかく,説明義務違反を独自に責任原因として論じる必要がない。 ウなお,原告甲5には,民法711条所定の者と実質的に同視できる身分関係は存在しない。 (被告乙2の主張)原告甲5は,民法711条の規定する固有の慰謝料請求権を有しない。 (被告乙3の主張)原告甲5は,民法711条所定の者ではないところ,同条所定の近親者以外の者の固有の慰謝料は,同条所定の近親者と同視できるような実情があった場合に限りこれを認める余地がある。 この点,①原告甲5と亡Aはそれぞれ結婚をし,別々の世帯を遠隔の地で長年にわたり営んでいたこと,②その後,同人らは近隣に居住するようになったが,それは平成10年8月から平成11年2月までの約6ヶ月間にすぎないことを考えると,原告甲5に民法711条所定の近親者と同視すべきほどの事情がないというべきである。 (被告乙4の主張)前記被告乙3の主張と同じ。 (被告乙5の主張)ア(ア) 原告らが主張する精神的損害は,被告乙5の行為と相当因果関係の範囲内の損害とはいえず,金銭的な賠償責任を発生させるものでもない。 (イ) また,原告らが被告乙1らに損害賠償請求をしているのは,同人らに制裁を加えるとともに,一般予防の効果を図る懲罰的損害賠償を請求する趣旨と はいえず,金銭的な賠償責任を発生させるものでもない。 (イ) また,原告らが被告乙1らに損害賠償請求をしているのは,同人らに制裁を加えるとともに,一般予防の効果を図る懲罰的損害賠償を請求する趣旨と解されるが,我が国の損害賠償制度は被害者が被った不利益を補てんして不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的としていることからすると,懲罰的損害賠償を内容とする原告らの請求は認められない。 イ(ア) 真相を知る権利と表裏一体の関係に立つ原因究明義務が,病院と患者との間の診療契約上又は信義則上の義務であることにかんがみると,真相を知る権利を侵害されたことによる慰謝料請求権は,本来的には当該医療機関との間で診療契約を締結した患者自身に認められるものである。 それゆえ,仮に患者が死亡した場合には,その相続人に限って上記慰謝料請求権の行使が認められることとなり,その結果,原告甲4及び原告甲5の慰謝料請求は棄却されるべきである。 (イ) 仮に真相を知る権利を害されたことによる慰謝料は,近親者固有の慰謝料と見るとしても,原告甲5は民法711条所定の近親者に含まれないから,慰謝料請求権を有しない。 第3 争点に対する判断 1 前記前提事実,証拠(甲1,2,5ないし14,23,25ないし36,38,43ないし66,74ないし78,80ないし88,93,99,100ないし103,107,113,114,116ないし129,133,134,136ないし144,152,155ないし161,乙1,5,7,丙1ないし17,23,29ないし32,丁3ないし25,戊5ないし8,10ないし12,己1及び2,庚1ないし4,7ないし13(以上いずれも枝番を含む。),原告甲1,原告甲5,被告乙1,被告乙2,被告乙3,被告乙4,被告乙5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認め 10ないし12,己1及び2,庚1ないし4,7ないし13(以上いずれも枝番を含む。),原告甲1,原告甲5,被告乙1,被告乙2,被告乙3,被告乙4,被告乙5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 なお,亡Aの死亡確認の時刻についての事実認定の補足説明については,後記のとおりである。 (1)ア亡Aは,昭和50年に関節リウマチを発症し,平成6年から大阪高槻赤十字病院で治療を受け,この間に併発症の高血圧及び甲状腺機能異常についても治療していたが,平成10年8月に浦安に転居し,虎ノ門クリニックで内科的治療を受けていた。しかし,左中指疼痛及び腫脹が増強したため,平成11年1月8日,広尾病院整形外科を受診し,被告乙1による診察を受けた結果,慢性関節リウマチ治療のために左中指滑膜切除手術を受けることとなり,被告乙2がその主治医として指定された。 イ亡Aは,術前検査の結果,血液検査で炎症反応の上昇がみられたほかは,特に異常は認められなかった。 亡Aは,同年2月8日,広尾病院に入院したが,入院後も亡Aの全身状態に問題はなかった。 亡Aは,同月10日,被告乙2の執刀により左中指滑膜切除手術を受け,同手術は1時間24分で無事に終了した。亡Aは,術後の経過も良好で,入院期間10日程度で退院できる予定であった。 (2)ア同月11日午前8時15分ころ,B1看護婦は,病棟処置室(以下「処置室」という。)において,亡Aに対して使用するヘパ生を準備するに当たり,充てん済みの注射筒部分に「ヘパ生」と黒色マジックで記載されたヘパ生10ミリリットル入り注射器を保冷庫から取り出して処置台に置いた。 B1看護婦は,これと並行して,他の入院患者であるC6に対して使用するヒビグルを準備するため,新しい10ミリリットル用の注射器を使用して容器からヒビグルを同注射器 庫から取り出して処置台に置いた。 B1看護婦は,これと並行して,他の入院患者であるC6に対して使用するヒビグルを準備するため,新しい10ミリリットル用の注射器を使用して容器からヒビグルを同注射器に吸入し,これを前述のヘパ生入り注射器と並べて処置台に置いた。 次いで,B1看護婦は,このヒビグル入り注射器の中味がすぐ分かるようにその旨記載したメモ紙を注射器に貼り付けるべく,メモ紙に黒色マジックで「6,C6様洗浄用ヒビグル」と手書きした上,このメモ紙を2本の注射器のうちの1本に貼り付けたが,B1看護婦としては,同メモ紙をヒビグル入り注射器にセロハンテープで貼り付けたつもりであったが,その注射器に「ヘパ生」と記載されていないことを確認しなかったため,実際には誤ってヘパ生入り注射器にこれを貼り付けてしまった。 イ同日午前8時30分ころ,B1看護婦は,亡Aに対し,抗生剤(ビクシリン)の点滴をするため,抗生剤と点滴セット,アルコール綿のほか,メモ紙が貼られていない注射器1本を亡Aのところに持って行き,点滴の準備をして,同注射器やアルコール綿等を床頭台の上に置いた。 このときB1看護婦は,亡Aに対して抗生剤の点滴終了後に行うヘパロック用に使用するためのヘパ生入り注射器を持参したつもりであったが,実際にはC6に注射すべきヒビグル入り注射器を持参していた。 B1看護婦は,同日午前8時35分ころ,亡Aが朝食及びトイレを終えるのを待って,抗生剤の点滴を開始した。 ウ同日午前9時ころ,亡Aはナースコールをして,応答したB2看護婦に対し,点滴の終了を告げた。 B2看護婦は,亡Aの病室に赴き,同日午前9時3分ころ,亡Aに対し,床頭台に置いてあった注射器を使って点滴を開始したが,その際,B2看護婦は,床頭台に置かれていた注射器に記載されているはずの,黒色マ B2看護婦は,亡Aの病室に赴き,同日午前9時3分ころ,亡Aに対し,床頭台に置いてあった注射器を使って点滴を開始したが,その際,B2看護婦は,床頭台に置かれていた注射器に記載されているはずの,黒色マジックによる「ヘパ生」の記載を確認せず,同注射器にはヘパ生が入っているものと軽信したため,結果として,亡Aに対し,ヒビグルの点滴を開始した。 この結果,ヒビグル約1ミリリットルが亡Aの体内に注入され,残り約9ミリリットルは点滴器具内に残留した。 (3)ア同日午前9時5分ころ,B1看護婦が亡Aの病室に赴いて亡Aに声をかけたところ,亡Aは,「何だか気持ち悪くなってきた。胸が熱い気がする。」といって苦痛を訴え,胸をさする動作をした。この後,血圧を測定すると,最高血圧は130㎜Hg以上であった。 イ同日午前9時15分ころ,亡Aは顔面蒼白となり,「胸が苦しい。息苦しい。両手がしびれる。」などと訴えたことから,当直のB11医師の指示により,血管確保のための維持液(ソルデム3A)の静脈への点滴が開始された。このころ,亡Aの血圧は,最高198㎜Hg,最低78㎜Hgであり,他方,心電図検査の結果は,V1でST波の上昇,V4でST波の低下があったが,その程度は軽度であり,不整脈はみられなかった。 このころ,B1看護婦は,処置室で「ヘパ生」と黒色マジックで書かれた注射器が置いてあるのを見つけ,亡Aに対する点滴に用いられたのがヘパ生入りの注射器ではなかったことを察知して,薬剤の取り違えに気付き,病室内のB11医師を手招きして呼び出した上で,室外に出てきた同医師に対し,「ヘパ生とヒビグルを間違えたかもしれない。」と告げた。 しかし,既に血管確保のための維持液(ソルデム3A)の点滴を行った結果,点滴器具内に残留していたヒビグル約9ミリリットルの全量が亡Aの体内に注 ヘパ生とヒビグルを間違えたかもしれない。」と告げた。 しかし,既に血管確保のための維持液(ソルデム3A)の点滴を行った結果,点滴器具内に残留していたヒビグル約9ミリリットルの全量が亡Aの体内に注入され,結果的には,これが亡Aがその後死亡する原因となった。 ウ同日午前9時30分ころ,亡Aは,突然意識レベルが悪化し,眼球が上転し,心肺停止状態となった。B11医師と,もう一人の当直医であったB12医師は,亡Aに対し,心臓マッサージと人工呼吸を行い,亡Aはベッドごと病室から処置室へ移され,ボスミンを投与(心腔内注射及び静脈内点滴)された。 (4)ア同日午前9時50分ないし10時ころ,原告甲1と原告甲5が病棟に到着したが,B13看護婦がとりあえず原告甲1らを病棟カンファレンスルームに案内し,B11医師が原告甲1らに対し,亡Aの現在の状況についての説明をした。 イ同日午前10時20分ないし25分ころ,被告乙2が到着し,亡Aに対し心臓マッサージを行ったが,その際,被告乙2は,B11医師から,亡Aの容態が急変した前後の状況及びB1看護婦が薬剤を間違えて注入したかもしれないと言っていることを聞かされた。亡Aの主治医であった被告乙2は,亡Aの病状が急変するような疾患等の心当たりが全くなかったので,薬物を間違えて注入したことにより亡Aの病状が急変したのではないかとも思った。 ウ被告乙2は,亡Aに対し心臓マッサージを数分間行ったが,蘇生の気配が全くなかったため,B12医師に心臓マッサージを交代してもらった上で,原告甲1及び原告甲5が待機していた病棟カンファレンスルームに行き,同人らに亡Aの現在の状況を説明するとともに,原告甲1らが亡Aのいる処置室に向かうのに同伴し,原告甲1らの意向も聞いた上で,亡Aに対する人工呼吸等の蘇生措置をやめ,同日午前10時44 ルームに行き,同人らに亡Aの現在の状況を説明するとともに,原告甲1らが亡Aのいる処置室に向かうのに同伴し,原告甲1らの意向も聞いた上で,亡Aに対する人工呼吸等の蘇生措置をやめ,同日午前10時44分に亡Aの死亡を確認した。 (5)ア被告乙2は,同日午前11時ころ,原告甲1及び原告甲5に対し,抗生剤点滴直後に,容態が急変したものであって,亡Aが心筋梗塞又は大動脈解離を起こした可能性があるが,死因は今のところ不明であると説明して,その解明のために病理解剖を了承することを求めた。 原告甲5の夫であるC1が,同日昼前ころに来院し,被告乙2に対し,亡Aの病状が急変した原因として誤投薬の可能性があるのではないかと質問したが,被告乙2は,「分かりません。」と答え,看護婦による誤投薬の可能性を伝えないまま,原告甲1から病理解剖承諾書の交付を受けた。 イまた,被告乙2は,同日,亡Aの死体に対する胸部レントゲン検査を実施し,左気胸(ボスミン心注あるいは心臓マッサージによる肋骨骨折のためにおこした),心臓は右方に変位,前縦隔の拡大はなしとカルテに記載し,さらに,死亡時刻については,同日午前10時44分とカルテに記載した。 ウ看護婦らは,同日,亡Aに対し,死後の処置(エンゼルケア)を行った。 ところで,蘇生措置から死後処置をしている間に,複数の看護婦がそれらに関与していたが,看護婦らは,亡Aの右腕血管部分に沿って血管が一見して紫色に浮き出ているという異常な状態に気付いていた。 エ亡Aが死亡した日は祝日であり,被告乙1は,外出していたが,電話で,B7看護部長から,①入院患者である亡Aが急死し,看護婦による薬剤の取り違えによる薬物中毒の可能性もあること,②遺族には事故の可能性について伝えていないこと,③明日病理解剖をする予定であり,病理解剖をすることについ ①入院患者である亡Aが急死し,看護婦による薬剤の取り違えによる薬物中毒の可能性もあること,②遺族には事故の可能性について伝えていないこと,③明日病理解剖をする予定であり,病理解剖をすることについて遺族の承諾が取れていることなどの説明を受け,明朝に広尾病院の幹部職員による対策会議を開くことを決定した。 (6)ア同月12日,被告乙1は,被告乙2から,亡Aの死亡については心筋梗塞の所見があるが,看護婦が薬を間違えたかもしれないと言っている旨の報告を聞いた後,午前8時30分ころから,広尾病院2階の小会議室において,広尾病院の幹部職員9名(被告乙1,B3副院長,B4副院長,被告乙3,B5医事課長,B6庶務課長,B7看護部長,B8看護科長及びB9看護副科長)による本件対策会議を開いた。 イ本件対策会議においては,B5医事課長が司会進行役を務め,事件の概要と検討事項が記載され,「極秘」と記された「A氏の死亡について」と題する書面を出席者に配付し,簡単な経過説明をした。 引き続き,B9看護副科長が「A様急死の経過」と題する書面を配付し,同書面に基づき,事実関係の報告をした。同書面には,①B1看護婦が,抗生剤とヘパ生入りの注射器を持参して亡Aの病室に行き,まず,抗生剤の点滴を始め,その終了後に使用するヘパ生入りの注射器を床頭台の上に置いた後,病室を出たこと,②その後,抗生剤の点滴が終了したことを知らせるナースコールがあったことから,B2看護婦が病室に行き,床頭台の上に置いてあったヘパ生を使用してヘパロックをした後,病室を出たこと,③その直後,B1看護婦が亡Aの病室に行くと,亡Aが「気分が悪い。胸が熱い感じがする。」と異常を訴えたので,当直医のB11医師が呼ばれ,対応措置がとられたが,亡Aは眼球が上転し,右上下肢・顔面が茶褐色に変色していったこと が亡Aの病室に行くと,亡Aが「気分が悪い。胸が熱い感じがする。」と異常を訴えたので,当直医のB11医師が呼ばれ,対応措置がとられたが,亡Aは眼球が上転し,右上下肢・顔面が茶褐色に変色していったこと,④この間,B1看護婦が注射器に準備した処置室に行ったところ,処置室の流し台の上にあるはずのない「ヘパリン生食」と書いた注射器があるのを発見し,亡Aの病室の前の廊下で,B11医師に「もしかしたら,ヒビグルとヘパ生を間違えて床頭台に置いたかもしれない。」と打ち明けたことなどが記載されていた。このような報告が行われる中で,会議は次第に重苦しい雰囲気となり,当事者からも話を聞く必要があるということで,B1看護婦が呼ばれた。 B1看護婦は,B9看護副科長による説明内容とほぼ同旨の事実経過を涙声になりながらも説明し,改めて「ヒビグルとヘパ生を間違えたかもしれない。それしか考えられない。」と言い,現場で回収した点滴チューブ等を使用しながら,状況説明をした。 続いて,被告乙2が本件対策会議の場に呼ばれ,被告乙2は,「B1看護婦がヘパ生とヒビグルを間違えたかもしれないとB11先生に報告したことは,私もB11先生から聞きましたが,所見としては心筋梗塞の疑いがあります。病理解剖の承諾を既に遺族からもらっています。」などと口頭で説明した。 B3副院長も,心電図は心筋梗塞の患者に通常見られる図形と矛盾しないといった意見を述べた。 ウその後,今後の対応について,出席者9名が協議した。 被告乙3は,「ミスは明確ですし,警察に届けるべきでしょう。」と言い,B5医事課長も被告乙3の意見に同調した。 被告乙1は,非常に迷いながら,「でも,乙2先生は,心筋梗塞の疑いがあると言っているし。」などと言って,優柔不断ともいえる態度を示していたが,他方で,B3副院長も,「医師法 乙3の意見に同調した。 被告乙1は,非常に迷いながら,「でも,乙2先生は,心筋梗塞の疑いがあると言っているし。」などと言って,優柔不断ともいえる態度を示していたが,他方で,B3副院長も,「医師法の規定からしても,事故の疑いがあるのなら,届け出るべきでしょう。」と言った。 被告乙1は,なお,「警察に届け出るということは,大変なことだよ。」という口振りであったが,B3副院長,被告乙3,B5医事課長ばかりでなく,他の出席者も「やはり,仕方がないですね。警察に届け出ましょう。」と口々に言い出したので,被告乙1も出席者全員に対し,「警察に届出をしましょう。」と言って届け出ることを決断し,ここに至って,広尾病院としては,本件医療事故について警察に届け出ることにいったんは決定した。 なお,被告乙2は,本件対策会議に常時立ち会っていたのではなく,本件対策会議の開かれている小会議室に出たり入ったりしていたが,警察に届け出るか否かについては,B3副院長が医師法の話をしていたのを聞いていたことに加えて,本件が看護婦の絡んだ医療過誤である可能性があることから,本件医療事故を個人的に届け出ようとは思わず,広尾病院としての対処,すなわち本件対策会議での広尾病院の幹部らによる決定にゆだねていた。 (7)ア被告乙1は,本件医療事故が発生したこと及びそれを警察に届け出る予定であることを,監督官庁である被告東京都衛生局の病院事業部に電話連絡するように指示した。 同日午前9時ころ,B5医事課長は,その指示に従い,病院事業部のB10主事に電話をかけ,「昨日,広尾病院でリウマチで入院していた患者さんが亡くなった。その原因が,どうも消毒液を取り違えて点滴した可能性が高い。遺族から病理解剖の承諾も取ってある。警察に届け出ますので,よろしいですね。」という趣旨のことを話した で入院していた患者さんが亡くなった。その原因が,どうも消毒液を取り違えて点滴した可能性が高い。遺族から病理解剖の承諾も取ってある。警察に届け出ますので,よろしいですね。」という趣旨のことを話した。 イ B10主事は,これを聞かされて驚がくし,自らは警察に届け出るべきか否かを判断できる立場になかったので,副参事の被告乙5に対応してもらおうと思い,B5医事課長に対し,被告乙5に話を伝えるので改めて被告乙5から広尾病院に電話をかけるようにする旨話した。 B10主事は,直ちに被告乙5のところに行き,B5医事課長からの電話で聞かされた話として,「昨日,広尾病院に入院中の患者さんが亡くなりました。原因については不明で調査中です。薬を間違って注射した可能性もあるようです。遺族から病理解剖の承諾も取ってあるそうです。警察に届け出るか聞いてきました。」という趣旨のことを伝えた。 被告乙5は,詳しい事情を確認するため,広尾病院のB5医事課長に電話をかけたが,同人は不在で,広尾病院医事課の職員が電話を受けたが,同人では話の内容が分からなかったので,いったん電話を切った。 ウ被告乙5は,B10主事とともに,上司である被告乙4のところに赴き,「広尾病院から,薬を取り違えた可能性のある入院している女性の患者が死亡したという連絡がありました。遺族から病理解剖の承諾は取ってあるそうです。病院からは警察に届け出るべきかどうかの相談が来ています。どうしましょうか。」と報告し,指示を仰いだ。 被告乙4は,「判断しろっていっても,これだけの事情しか分からないのに,判断のしようがない。」と言いながら,これまでに入院患者が死亡した場合に都立病院から警察に届け出たケースがあるか否かをB10主事に対し質問したところ,B10主事は,「私の知っている限りでは,入院中の患者さんが死 がない。」と言いながら,これまでに入院患者が死亡した場合に都立病院から警察に届け出たケースがあるか否かをB10主事に対し質問したところ,B10主事は,「私の知っている限りでは,入院中の患者さんが死亡した場合,病院側から自発的に届け出た例はありません。」と答えた。 そして,被告乙4,被告乙5及びB10主事は,医療事故があった際にはいかなる要件が満たされた場合に警察に届け出るべきかを検討し始め,B10主事が自分の席から病院事業部作成の「医療事故・医事紛争予防マニュアル」を持参して,その関連箇所である113頁の「なお,過失が極めて明白な場合は,最終的な判断は別として,事故の事実が業務上過失致死罪に該当することとなります。したがって,事故の当事者である病院が病理解剖を行うと証拠隠滅と解されるおそれがあるので,病理解剖は行いません。解剖が必要と思われる場合,病院は警察に連絡しますが,司法解剖を行うか否かは警察が判断します。」との部分を読み上げ,その結果,被告乙4,被告乙5及びB10主事の3名は,医療事故が生じた際に,医師又は看護婦の過失が明白な場合については病院は警察に届け出なければならないという点を理解した。 被告乙4は,それに続いて,「どうしてこれまで病院から届け出た例がないんだろう。」と述べたところ,被告乙5又はB10主事が,「病院自ら警察に届け出るということは,職員を売ることになるから,これまで例がないんじゃないですか。」と答え,被告乙4はこれに相づちを打った。 次いで,被告乙4ら3名は,広尾病院の本件医療事故について警察に届け出るべきかどうかを検討し始めたが,被告乙4は,「本部に判断しろといわれても困るよな。病院が判断してくれなくちゃ。」と述べた。被告乙4は,この時点で,本件医療事故に関して病院事業部としていかに対処すべきかについ うかを検討し始めたが,被告乙4は,「本部に判断しろといわれても困るよな。病院が判断してくれなくちゃ。」と述べた。被告乙4は,この時点で,本件医療事故に関して病院事業部としていかに対処すべきかについては結論を固めてはいなかったが,とりあえず被告乙5を広尾病院に赴かせておこうと考え,被告乙5に対し,「病院側も困って相談してきたんだから,乙5さん,病院に行って,アドバイスしてやってくれよ。状況も把握してきてくれよ。」と述べた上で,さらに,「病理解剖の承諾が取れているなら,遺族にすべてを話して了解が得られれば,それでいったらいいじゃないか。」と指示した。 エそこで,被告乙5は,同日午前9時30分ころ,広尾病院に電話をかけ,電話に出たB6庶務課長に,とりあえず,「これまで都立病院から警察に事故の届出を出したことがない。既に病理解剖の承諾は頂いているとのことだが,誤薬の可能性も含めてすべて事情を話して,その結果再度承諾が得られれば,その線でいったらよいのではないか。詳しい事情も分からないから,おれが今から行くから警察に届け出るのは待ってくれ。」などと伝えた。 (8)ア B6庶務課長は,被告乙5からの連絡を受け,「待ってないとしょうがないですね。」と被告乙3に伝え,被告乙3も「そうだね,とりあえずそれまで待ちましょう。」と答えた。 イ同日午前9時40分ころ,本件対策会議が再開され,被告乙1以下9名の前記出席者に対し,被告乙5の電話の内容が伝えられた。 上記会議の出席者からは,法律にのっとった処理をすべきであり,警察に届け出るべきであるとの意見が出された。 そこで,B5医事課長は,病院事業部に警察に届け出ることを理解してもらおうと考え,再度,病院事業部に電話をかけたが,被告乙5は既に都庁を出発しており,被告乙4も離席中であったため,同被告らと連絡 そこで,B5医事課長は,病院事業部に警察に届け出ることを理解してもらおうと考え,再度,病院事業部に電話をかけたが,被告乙5は既に都庁を出発しており,被告乙4も離席中であったため,同被告らと連絡を取ることができず,結局,最終結論は,被告乙5が広尾病院に来てから直接その話を聞いて決めることとし,それまで警察への届出を保留することに決定した。 (9)ア被告乙5は,同日午前11時すぎころ,広尾病院に到着し,再開された本件対策会議に出席した。 被告乙5は,席上,広尾病院側から本件医療事故に関する資料は渡されず,また,先の電話連絡の内容以上の事情説明は受けなかった。 B5医事課長から,「どんな場合に警察に届け出るんですか。これまではどうだったですか。」との質問があり,被告乙5は,「過失が明白な場合に届けなければいけない。今まで都立病院自ら警察に届け出た例はありません。」と答えた。 さらに,被告乙5は,隣に座っている被告乙1に,「遺族から病理解剖の承諾をもらっているということですけれども,薬の取り違えの可能性もあるんなら,包み隠さずお話ししないといけませんね。遺族が広尾病院を信用できないというなら,警察に連絡して監察医務院で解剖する方法もあるということも説明して下さい。それでも遺族が広尾病院での病理解剖を望まれるなら,それでいいじゃないですか。もし遺族が警察に届け出るというならそれはそれで仕方ないですね。」などと話したが,その口振りからすると,病院事業部としては,誤投薬の可能性を遺族に話さずに済ませることは避けねばならないとしながらも,医療事故を警察に届け出ることについては,遺族の理解が得られるなどの事情により,可能であればできるだけ避けたいという意向が看取できるようなものであった。 これを聞いた被告乙1は,病院事業部は医療事故について 警察に届け出ることについては,遺族の理解が得られるなどの事情により,可能であればできるだけ避けたいという意向が看取できるようなものであった。 これを聞いた被告乙1は,病院事業部は医療事故については警察への届出を必ずしもしなくともよいという見解であると解釈して,他の広尾病院の幹部らに対し,「じゃ,それでいきましょうか。しょうがないでしょう。」と述べて,出席者全員に対し,それまでの方針を変更して,とりあえず警察への届出をしないまま,遺族の承諾を得た上,病理解剖を行う方針で臨むことを了承させ,院長室に亡Aの遺族を連れてくるように指示をして,本件対策会議は散会となった。 イ被告乙1は,同日午前11時50分ころ,院長室において,副院長両名,B7看護部長及びB5医事課長同席のもと,原告甲1,原告甲3及びC1ら遺族に対し,「実はこれまで病死としてお話ししてきたのですが,看護婦が薬を間違えて投与した事故の可能性があります。」と口頭で説明した。 原告甲1ら遺族は,このとき初めて薬物取り違えの可能性を知らされて非常に驚き,「間違いの可能性は高いのですか。」と被告乙1に尋ねたところ,被告乙1は,今は調査中としか言えないという趣旨の回答をし,さらに,「広尾病院が信用できないというのであれば,監察医務院や他の病院で解剖してもらうという方法もありますが。どうしますか。」と,原告甲1らに尋ねた。 原告甲1は,決定的な確証はまだないのに,遺族に薬剤取り違えの可能性を伝えてくれたものと解釈して,ある意味では広尾病院側が公平で誠実な対応をしてくれているものと受け止め,「広尾病院を信用できないというのであれば,」と問われたのに対し,被告乙1を始めとする同病院の医師らを信用できないというまでの気持ちはなかったため,亡Aの死体を広尾病院で病理解剖することを承諾した。 ウ 病院を信用できないというのであれば,」と問われたのに対し,被告乙1を始めとする同病院の医師らを信用できないというまでの気持ちはなかったため,亡Aの死体を広尾病院で病理解剖することを承諾した。 ウ被告乙1は,被告乙5を院長室に呼び,「改めて遺族に薬の取り違えの可能性を伝えた上で,広尾病院で病理解剖をすることの承諾を頂きました。」と伝えたところ,被告乙5は「病院自ら警察に届けると,ひいては職員を売ることになりますよね。」と述べ,被告乙1はこれに対し「そうですよね。」とうなずいた。被告乙5は,この会話をした後,東京都庁に戻った。 (10)ア同日午後1時ころ,病理医のB18医師は,広尾病院において,被告乙2,B17医長らの立会いの下,亡Aの病理解剖を開始した。 外表所見では,右手根部に静脈ラインの痕が見えており,また,右手前腕の数本の皮静脈がその走行に沿って幅5ミリメートルから6ミリメートル前後の赤褐色の皮膚斑としてくっきり見えて,それは前腕伸側及び屈側に高度,手背・上腕下部に及んでいるのが視認された。 被告乙2は,前腕の皮膚斑を見て,少し驚いている様子であった。 被告乙2はこれらの亡Aの遺体の右腕の状態をポラロイドカメラで撮影した。 B18医師は,亡Aの遺体の右腕の静脈に沿ったこれらの赤色色素沈着は静脈注射による変化で,劇物を入れたときにできたものと判断し,協力を依頼していた病理学の大学助教授で,法医学の経験もあるB19医師の到着を待って執刀することとした。 イ到着したB19医師は,亡Aの死体の状況を見て,警察又は監察医務院に連絡することを提案した。 これを受けて,広尾病院検査科のB20技師長は,B5医事課長に対し,「病理医の先生が,この患者さんに病理解剖はできない,警察へ連絡しなくちゃいけないんじゃないでしょうかと言っている。」 提案した。 これを受けて,広尾病院検査科のB20技師長は,B5医事課長に対し,「病理医の先生が,この患者さんに病理解剖はできない,警察へ連絡しなくちゃいけないんじゃないでしょうかと言っている。」と対応について問い合わせたが,B5医事課長は被告乙1と話し合った上で,B20技師長に対し,「警察に届けなくても大丈夫です。」と回答し,さらに,警察に届け出ないまま病理解剖を進めるように指示した。 これを受けて,B20技師長が,B18医師らに対し,「許可が出ましたから始めて下さい。」と言ったが,B18医師ら病理医は,このB20技師長の発言を,広尾病院の幹部らが監察医務院に問い合わせた結果,監察医務院の方から,後は面倒を見るから法医学に準じた解剖をやってくれとの趣旨の回答があったものと理解し,亡Aに対する病理解剖を始めた。 ウその結果,右手前腕静脈血栓症及び急性肺血栓塞栓のほか,遺体の血液がさらさらしていること(これは溶血状態であることを意味し,薬物が体内に入った可能性を示唆する。)が判明し,心筋梗塞や動脈解離症などをうかがわせる所見は特に得られず,解剖所見としては,「右前腕皮静脈内に,おそらく点滴と関係した何らかの原因で生じた急性赤色凝固血栓が両肺に急性肺血栓塞栓症を起こし,呼吸不全から心不全に至ったと考えたい。」と結論付けられた。 エ B17医長は,解剖終了後,被告乙1に対し,撮影したポラロイド写真を持参して,右腕の血管から薬物が入った模様であるとの説明した。 また,B18医師は,被告乙1に対し,副院長両名,被告乙3及びB7看護部長のいる場で,亡Aの死因は90パーセント以上の確率で事故死であると思われ,薬物の誤注射によって死亡したことはほとんど間違いないことを確信を持って判断できる旨報告した。 (11)ア同日夕方,被告乙2は,B18医師 Aの死因は90パーセント以上の確率で事故死であると思われ,薬物の誤注射によって死亡したことはほとんど間違いないことを確信を持って判断できる旨報告した。 (11)ア同日夕方,被告乙2は,B18医師と相談の上,死亡の種類を「不詳の死」とする亡Aの死亡診断書を作成し,被告乙1に見せた後に原告甲1に交付した。 イ被告乙1は,同日午後5時ころ,原告甲1らに対し,肉眼的には心臓,脳等の主要臓器に異常が認められなかったこと,薬の取り違えの可能性が高くなったこと,今後,保存している血液,臓器等の残留薬物検査等の方法で必ず死因を究明することを伝えた。 ウ被告乙1は,その日のうちに,B3副院長とB20技師長に対し,亡Aの血液についてヒビグルの検出作業を行うように指示し,その指示に基づき,広尾病院検査科において硫酸銅呈色反応試験の方法による血液検査が行われたが,ヒビグルは検出されなかった。なお,当該検査は,そもそもヒビグルの誤注入の有無を判定するには不適切な検査方法であった。 そこで,被告乙1は,血液に対するクロマトグラフィーの検査が可能な機関に検査を依頼するようにB20技師長に対し,指示をした。 広尾病院検査課は上記指示に基づき,同日中に,上記検査が可能な機関でかつ公的機関であるところの,監察医務院,都立衛生研究所及び東京都臨床医学総合研究所に亡Aの血液検査を実施してもらえるかどうかについて問い合わせたが,前向きな回答は得られなかった。 (12)ア広尾病院は,同月15日,病院事業部に対し,「A氏の死因としては,心疾患などの急性疾患とはいい難く,ヘパリン生食とヒビテングルコネートとを取り違えたことの可能性がある。仮に,取り違えたとするならば,ヒビテングルコネート入りの注射器に「ヘパ生」と書いてあったという点について疑問が残るが,B1看護婦はこの点に とヒビテングルコネートとを取り違えたことの可能性がある。仮に,取り違えたとするならば,ヒビテングルコネート入りの注射器に「ヘパ生」と書いてあったという点について疑問が残るが,B1看護婦はこの点について「ヒビテングルコネートを注射器に詰めた際に「ヘパ生」と書かなかったとは断言できない」と述べている。」と記載された報告書を提出した。 イ被告乙1は,同月18日,都立衛生研究所から紹介を受けた第一化学薬品に血液検査の実施を依頼することにしたが,翌19日,検査課の職員が検体(亡Aの血液)を搬送している最中に,病院事業部から広尾病院に連絡が入り,亡Aの血液検査は公的機関で検査を行う必要があるため,病院事業部から監察医務院に協力を依頼したので,至急検体を監察医務院に持ち込むようにとの指示があった。そこで,広尾病院では,第一化学薬品に検出を依頼することをやめ,監察医務院に血液検査を依頼することとし,これに従い,B5医事課長が各機関に連絡した。 ウ被告乙1は,同月20日,B3副院長,B7看護部長,被告乙2,被告乙3及びB5医事課長とともに,原告甲1の自宅において,書面に基づき,それまでの経過について,①異常所見としては,右上肢の血管走行に沿った異常着色を認めたこと,②ヘパ生とヒビグルとを取り違えたため薬物ショックを起こした可能性が一層強まったといえることなどの中間報告をした。 その席において,原告甲1は,自ら撮影した亡Aの遺体の右腕の異常着色を写した写真を示し,事故であることを認めるように求め,病院の方から警察に届け出ないのであれば,自分で届け出る旨述べた。 そこで,被告乙1は,原告甲1宅からの帰途,同行した病院関係者らと話し合った結果,本件医療事故を警察に届け出ることを決定した。 エ被告乙1は,同月22日,B15衛生局長らと面談して本件医療事 た。 そこで,被告乙1は,原告甲1宅からの帰途,同行した病院関係者らと話し合った結果,本件医療事故を警察に届け出ることを決定した。 エ被告乙1は,同月22日,B15衛生局長らと面談して本件医療事故を警察に届け出る旨を報告したところ,広尾病院の側で誤投薬という過失があったことを初めから認める形での届出をせず,むしろ亡Aの死因を特定してほしいという相談を警察に対して行う形での届出をするように指示を受け,その指示に従い,同日中に,亡Aの死因の特定を依頼するという形で,所轄の渋谷警察署に届け出た。 オ同年3月5日,組織学的検査の結果が判明し,前腕静脈内及び両肺動脈内に多数の新鮮凝固血栓の存在が確認され,これは前腕の皮静脈内の新鮮血栓が両肺の急性血栓塞栓症を起こしたと考えられる要素であったほか,心臓の冠動脈の硬化はごく軽度であり,内腔の狭窄率は25パーセント以下であり,肉眼的,組織学的に冠動脈血栓や心筋梗塞は認められず,その他の臓器にも死因を説明できるような病変は認められなかった。 カ被告乙1は,同月6日,B3副院長,被告乙3及びB5医事課長とともに,原告甲1の自宅において,原告らに対し,亡Aの死因に関する調査の中間報告についての補足説明と病理解剖の結果を報告した。その席で,B3副院長は,亡Aは前腕皮静脈内の新鮮血栓が両肺に急性塞栓症を起こしたと考えられ,したがって,薬の取り替えによる死亡の可能性が高いことを説明した。 (13)ア被告乙3は,原告甲1から保険関係の書類を作ってほしいとの依頼を受け,同月10日ころ,同人から死亡診断書と死亡証明書の用紙を受け取り,翌11日,被告乙2に対し,これらを交付して,被告乙1と相談の上,作成するように求めた。 被告乙3は,被告乙2に対し,これらの書類の提出先や使用目的については何も説明しなかったが, 紙を受け取り,翌11日,被告乙2に対し,これらを交付して,被告乙1と相談の上,作成するように求めた。 被告乙3は,被告乙2に対し,これらの書類の提出先や使用目的については何も説明しなかったが,同人は,死亡診断書用紙の冒頭に保険会社の名前があることに気付いたことから,これらの使用目的は保険金請求のためであると理解した。 被告乙2は,鉛筆で下書きを始めたが,最初の平成11年2月12日に書いた死亡診断書では保険金請求手続に支障があるかもしれないと考え始め,さらに,亡Aの死因は薬物中毒の可能性が高いが,解剖報告書には肺血栓塞栓症との記載もあったことから,死因の記載を病死にするのか中毒死にするのかなどについて悩み,同年3月11日夕方ころ,被告乙1にその記載方法について相談に行った。 イ被告乙1は,「困りましたね。」と言って,副院長両名を呼び,更に後から被告乙3も加わって,死亡診断書等の死因をどのように記載するかを話し合った。 その結果,その日の時点ではいまだ亡Aの血液検査の結果が出ていなかったこともあって,ヒビグルによる事故死と断定できる状況にはなく,逆に病死の可能性も皆無とはいえなかったので,死因の記載を病死としても全くの間違いとはいえず,むしろ入院患者の死因を不詳の死とするのはおかしいなどとの発言もあった。一方,B3副院長は,「病名がついているので病死でもいいんじゃないですか。」との意見を述べ,被告乙1も「そういうことにしましょう。」と述べて,死因の記載は,解剖の報告書に所見として記載してあった急性肺血栓塞栓症による病死とすることに決定した。 そして,被告乙2は,被告乙1の意見に従って,死亡診断書の「死亡の種類」欄の「外因死」及び「その他不詳」欄を空白にしたまま,「病死及び自然死」欄の「病名」欄に,直接の死因として「急性肺血栓塞栓 。 そして,被告乙2は,被告乙1の意見に従って,死亡診断書の「死亡の種類」欄の「外因死」及び「その他不詳」欄を空白にしたまま,「病死及び自然死」欄の「病名」欄に,直接の死因として「急性肺血栓塞栓症」と,「合併症」欄に「慢性関節リウマチ」等と記載し,死亡証明書の「死因の種類」欄の「病死及び自然死」欄に丸印を付するなどして,死亡診断書及び死亡証明書を作成した。 ウ被告乙2は,同日,作成した死亡診断書及び死亡証明書をB17医長に見せたところ,B17医長は,「死亡の種類」が病死とされていたため,「これはまずいんじゃないの。」と言ったが,被告乙2は,同日,上記2通の書面を被告乙3に渡した。 B17医長は,翌12日,被告乙1,副院長両名及び被告乙3と話をしに行き,「この病死はまずいんじゃないですか。」と意見を述べたが,被告乙1は,「昨日みんなで相談して決めたことだからこれでいいです。」と回答し,被告乙3に対し,遺族からクレームが付いたら,現時点での証明であることを説明するように指示した。 被告乙3は,結局そのまま,同日中に,死亡診断書及び死亡証明書を原告甲1の自宅に持参して,同人に交付した。 (14)ア他方,警視庁は,前記届出に基づいて亡Aの死亡に関する捜査を進めていたが,その過程で,同年5月31日ころ,亡Aの血液からヒビグルに由来すると考えられる物質(クロルヘキシジン)がかなりの高濃度で検出されたとの鑑定結果が出た。 イ原告甲1は,同年6月から7月にかけて,代理人を通じ,被告乙2に対し,本件医療事故に関する被告らの対応等における疑問についての釈明を求めたが,被告乙2は,広尾病院の方で対応している旨回答するにすぎなかった。また,原告甲1は,同月10日,代理人を通じ,被告乙3に対し,広尾病院の関係者に上記と同様の釈明を求めたが,被告乙3は 明を求めたが,被告乙2は,広尾病院の方で対応している旨回答するにすぎなかった。また,原告甲1は,同月10日,代理人を通じ,被告乙3に対し,広尾病院の関係者に上記と同様の釈明を求めたが,被告乙3は,警察により調査をされているため,上記申入れには応じられない旨回答するにとどまった。 他方で,原告甲1は,同年3月と8月の2回にわたり,東京都知事に対し,本件医療事故の原因究明を申し入れたところ,都立病産院医療事故予防対策推進委員会は,同月27日,亡Aは,ヒビグルを誤注入されたことにより死亡したと考える旨の報告書を作成して公表し,東京都知事は,同日,定例記者会見で遺族に謝罪するに至った。 ウ被告乙1,B3副院長,被告乙3及びB7看護部長は,同年11月23日,原告甲1の自宅を訪問し,「総合的に判断して,ヒビテングルコネートの誤注入によるものと判断いたしたところです。」などと記載された書面を読み上げて謝罪した。 エなお,本件に関し,同年10月8日,被告乙1は停職1か月,被告乙2及び被告乙4は戒告,被告乙3は口頭注意の各処分を受けた。 また,被告乙1は,平成15年5月19日,東京高等裁判所において,医師法違反,虚偽有印公文書作成及び同行使罪につき,懲役1年及び罰金2万円(執行猶予3年)に処する旨の判決を受け,被告乙2は,医師法違反の罪につき,罰金2万円の略式命令を受け,被告乙5は,平成13年8月30日,東京地方裁判所において,医師法違反の罪につき,無罪判決を受けた。 (亡Aの死亡確認の時刻についての事実認定の補足説明)(1) 原告らは,亡Aの死亡確認の時刻について,平成11年2月11日午前10時25分であると主張し,併せて,原告甲1及び原告甲5立会いのもと,B11医師により亡Aの死亡が確認され,その場に被告乙2はいなかったと主張する。 そして 時刻について,平成11年2月11日午前10時25分であると主張し,併せて,原告甲1及び原告甲5立会いのもと,B11医師により亡Aの死亡が確認され,その場に被告乙2はいなかったと主張する。 そして,原告甲1は,本件医療事故発生直後から,上記原告らの主張のとおり認識していたことが認められ(甲26ないし29,43,60,66,80,81,117,原告甲1),原告甲5も,後記(2)キのとおり,当初から上記原告ら主張のとおりに正確に認識していたかどうかについては疑問の残るところではあるが,少なくとも本訴においては,一貫して上記原告らの主張のとおりに認識していたと述べており(甲65,158,原告甲5),この点が原告らの主張についての最も有力な拠り所となっている。 (2)アまず,原告らは,亡Aの応急措置が施されていた処置室内における人物について見間違う可能性はないことを根拠として,死亡確認に関する事実関係は原告甲1らの認識どおりであって,死亡確認時刻は午前10時25分であると主張する。 しかし,被告乙2及びB11医師は,被告乙2は原告甲1と原告甲5を亡Aのいる処置室に連れて行き,原告甲1らは蘇生措置を行っているB11医師及びB12医師と対面する状態になったところ,原告甲1らの背後から死亡宣告をし,それに合わせてB11医師が蘇生措置を止めたと述べているのであって,死亡確認をしたのが被告乙2か,B11医師かといった見解の違いはあるものの,原告甲1らの目から見える処置室内の人物配置は,同人らが述べるところと違いはなく,したがって,処置室内における人物の位置関係の記憶に対する正確性の点は,原告甲1らの供述が被告乙2らの上記供述よりも信用性において勝るとは即断し難い(前記(1)の各証拠,甲46,121,142,乙1,5,丙4,30,丁3ないし6,21, 係の記憶に対する正確性の点は,原告甲1らの供述が被告乙2らの上記供述よりも信用性において勝るとは即断し難い(前記(1)の各証拠,甲46,121,142,乙1,5,丙4,30,丁3ないし6,21,被告乙2)。 イさらに,原告らは,原告甲1が同日午前10時25分の死亡確認後にその旨C2に伝え,同人は同日午前10時35分にC3から電話を受けた際に亡Aの死亡を知らせたと主張し,その裏付けとして,C3宅における同年1月21日から同年2月20日までの期間における通話明細内訳書(甲25)を提出しているところ,一見すると,C3,C2及びC5ら親族間での電話によるやり取りの経過は,通話明細内訳書という客観的証拠の内容にそっているようである。 しかし,甲25の記載は,同月11日の午前10時27分39秒に東京都内へ,同日午前10時35分47秒に愛知県内へ,同日午前10時38分34秒,午前10時39分25秒,午前10時58分4秒にそれぞれ長野県内へ,C3宅から電話をかけたという事実を裏付けるものではあるが,その通話相手及びその際に交わされた会話の内容については何ら触れるところがない上,甲25の記載からはC3宅における電話の受信状況が何ら明らかにされないため,果たして原告らの主張するような時間帯に亡Aの死亡の事実が電話によって伝えられていたかどうかは証拠上必ずしも明確とはいえない。これに加えて,原告らを含め,上記の通話者らが,亡Aの死亡という予期せぬ事態が発生した前後一連の事実関係を,その当時から相当程度時間を経ているにもかかわらず,詳細な部分についてまで正確に記憶しているというのはかえって不自然な感が否めないのであって(甲25,43,59,78),結局のところ,同日午前10時35分の時点で既にC2とC3との間で亡Aの死亡に関する通話がなされていたと認定 憶しているというのはかえって不自然な感が否めないのであって(甲25,43,59,78),結局のところ,同日午前10時35分の時点で既にC2とC3との間で亡Aの死亡に関する通話がなされていたと認定することはできない。 ウ B1看護婦は,看護記録に記入するに当たって,B13看護婦及びB14看護婦に亡Aの死亡確認時刻を尋ねたところ,B13看護婦からは10時44分との回答を得たのに対し,B14看護婦からはそれより10分か20分差のある時刻であった旨の回答を得たと述べるが,なぜB13看護婦の答えた時間を優先して記入したかについては不明であり,B13看護婦が婦長代理で当日の責任者であったこと及び同人が自信を持って述べていた印象があったことからかもしれないと述べるにとどまり,詰まるところ,B1看護婦の供述も,曖昧な記憶に基づく不明確なものにすぎないのであって,その信用性は必ずしも高いとはいえない(甲62)。 エ B2看護婦は,B14看護婦が首を振ったのを見て,亡Aが蘇生しなかったと悟り,それが同日午前10時30分ころであったと述べるが,B14看護婦による首振り行為自体が,亡Aが蘇生しなかったことを表現していると断定できるわけではなく,その首振り行為は,亡Aがもはや助からないという趣旨を表現したものであった可能性も十分に考えられることからすれば,B2看護婦のこの点に関する陳述は,原告らの主張の裏付けとしては不十分といわざるを得ない(甲61)。 オまた,C4は,亡Aの病棟に到着した時刻を同日午前10時15分を少し過ぎていたが20分にはなっていなかったと述べ,到着後あわただしい雰囲気の中で10分ほど待っていたところ,亡Aの親戚と思われる女性から死亡の事実を聞かされたと述べてはいるものの,亡Aの死亡確認時刻そのものについては何ら客観的な時刻を基準にした 到着後あわただしい雰囲気の中で10分ほど待っていたところ,亡Aの親戚と思われる女性から死亡の事実を聞かされたと述べてはいるものの,亡Aの死亡確認時刻そのものについては何ら客観的な時刻を基準にした上で述べているわけではないから,この供述も,原告らの主張を裏付けるものとはいい難い(甲63)。 カ原告らは,看護婦である原告甲5が亡Aの口内から流れ出た唾液を拭き取ったが,唾液が流れ出たことはその時点で気管内挿管が既に抜去されていたことを示すものであって,この点に関し原告らの主張に反する内容を有する被告乙2の供述(丁4)は信用できないとする。 しかし,気道内の粘液や血液が多い場合には,アンビューバックの接続部を外しただけでも,気管内チューブの接続端からチューブ内や気管内の内容物が流出することはあり得るため(甲38),仮に原告甲5が亡Aの口から流れ出た液体をぬぐったとしても,そのことは必ずしも気管内挿管が既に抜かれていたことを意味するわけではなく,したがって,気管内挿管を抜去していないと述べる被告乙2の供述の信用性を減じることにはならないのであって,結果的に,被告乙2の供述全体の信用性を揺るがすものとはいえない。 キ以上に加えて,原告らは,被告乙2が立ち会って死亡を確認したということにすることが,届出義務を回避する上で意味を持つとして,これを被告乙2が死亡確認時刻を偽る動機として指摘しているが,これは,あくまで憶測の域を出ないものであって,結局のところ,被告乙2が死亡確認の時刻を偽るにつき,具体的な理由が何らうかがえない上に,原告甲1及び原告甲5がB11医師と被告乙2の顔を認識していたとしても,予期せぬ亡Aの死亡という事態に直面したために,原告甲1及び原告甲5が混乱のあまりその当時における一連の事実関係を誤認する可能性も考慮の余地がある。 11医師と被告乙2の顔を認識していたとしても,予期せぬ亡Aの死亡という事態に直面したために,原告甲1及び原告甲5が混乱のあまりその当時における一連の事実関係を誤認する可能性も考慮の余地がある。 また,確かに,原告らは,被告らが本件医療事故に関し不誠実な対応をしたために,被告らに対する不信感を強めていき本訴に至ったものであり,亡Aの死亡確認の時刻及び立会った者が誰かが本訴の中心的争点の一つととらえているため,その点に関する供述が徐々に明確になっていくのもやむを得ない面はあるが,原告らが死亡確認の時刻の認識の違いについて指摘した平成11年2月20日の中間報告の後である同年4月21日付けの原告甲5の司法警察員に対する供述調書において,死亡確認の時刻及びB11医師の立会いについて明確には記載されていないこと(丙29)も考慮すべきである。 (3) 他方,被告乙2を始めとする広尾病院の関係者は当初から同年2月11日午前10時44分に被告乙2が死亡確認をしたと述べており,とりわけ,当直医であったB11医師の陳述(甲121)は,亡Aの死亡前後の一連の事実の経過について詳細かつ具体的に表現されており,相応の信用性を認めることができる。 (4) 以上の検討結果を総合すると,前記(1)の原告甲1及び原告甲5の認識については,主観的には誤りはないにしても,これによって原告らの主張する事実を認定するには足りず,亡Aの死亡確認は被告乙2の立会いのもと,平成11年2月11日午前10時44分に行われたと認められる。 2 争点(1)(亡Aの死亡自体に関する被告東京都の義務違反の有無)について(1) 争点(1)ア(看護婦らの過失を巡る義務違反の有無)についてア B1看護婦には,患者に投与する薬剤を準備するにつき,薬剤の種類を十分確認して準備すべき注意義務があるというべき 有無)について(1) 争点(1)ア(看護婦らの過失を巡る義務違反の有無)についてア B1看護婦には,患者に投与する薬剤を準備するにつき,薬剤の種類を十分確認して準備すべき注意義務があるというべきである。 それにもかかわらず,B1看護婦は上記注意義務を怠り,前記1(2)ア及びイで認定したとおり,ヘパ生入りの注射器については「ヘパ生」と黒色マジックで記載されていたにもかかわらず,2本の注射器のうち,ヘパ生入り注射器における「ヘパ生」との記載を確認することなく,漫然,これをヒビグル入り注射器であると誤信し,他方,もう1本のヒビグル入り注射器には「ヘパ生」との記載がないにもかかわらずこれをヘパ生入り注射器と誤信して,後者を亡Aの病室に持参し,亡Aの床頭台においてその点滴を準備したという注意義務違反が認められる。 イ一方,B2看護婦には,患者に薬剤を投与するにつき,薬剤の種類を十分確認して投与すべき注意義務があるというべきである。 それにもかかわらず,B2看護婦は上記注意義務を怠り,前記1(2)ウで認定したとおり,準備された注射器には,注射筒の部分に黒色マジックで「ヘパ生」との記載がされているはずであるから,その記載を確認した上で,薬剤の点滴をすべきであるのに,その記載を確認しないまま,漫然,床頭台に置かれていた注射器にはヘパ生が入っているものと軽信し,同注射器に入っていたヒビグルを亡Aに点滴して,誤薬を投与した注意義務違反が認められる。 ウそして,B1看護婦及びB2看護婦の前記各注意義務違反の競合により,亡Aは容態が急変し,死亡するに至ったことは原告ら及び被告東京都との間において争いがない(なお,前記1認定の事実によれば,他の被告らに対する関係においても,同各注意義務違反と亡Aの死亡との間に因果関係があることを認めることができる。)。 は原告ら及び被告東京都との間において争いがない(なお,前記1認定の事実によれば,他の被告らに対する関係においても,同各注意義務違反と亡Aの死亡との間に因果関係があることを認めることができる。)。 なお,上記各看護婦の注意義務違反は,診療行為の際のものであるから,後記3(2)イ(イ)と同様に,同注意義務違反行為には,国賠法ではなく,民法(不法行為)を適用すべきである。 エよって,被告東京都は,債務不履行又は不法行為責任(民法715条)に基づき,B1看護婦及びB2看護婦の前記各注意義務違反により原告らに生じた損害を賠償する責任を負う(ただし,原告らの求める遅延損害金発生の起算点との関係で,不法行為責任(民法715条)をその請求を基礎付けるものとして選択して認定するものとする。)。 (2) 争点(1)イ(被告東京都の組織構造上の過失の有無)についてアヒビグルとヘパ生とを取り違えたならば,極めて重大な結果を招来する状況の下で,B1看護婦は,ヒビグルと書いたメモ紙を注射器に貼り付ける際に,同注射器に黒色マジックで「ヘパ生」と記載されていないことを一べつして確認すれば,同注射器がヒビグル入りの注射器でないことに容易に気付くことができたにもかかわらず,そのような確認をしなかったものであり,薬剤を取り違えてはならないという基本的な注意義務に,極めて初歩的な態様で違反したものといわざるを得ない。 また,B2看護婦も,床頭台に置かれていた注射器に「ヘパ生」と記載されているかを一べつして確認すれば,同注射器がヘパ生入りのものではないことに容易に気付くことができたにもかかわらず,そのような確認をしなかったものであり,これもまた基本的な注意義務に,極めて初歩的な態様で違反したものといわざるを得ない。 イそうすると,仮に原告らが前記第2の3(1)イ(イ できたにもかかわらず,そのような確認をしなかったものであり,これもまた基本的な注意義務に,極めて初歩的な態様で違反したものといわざるを得ない。 イそうすると,仮に原告らが前記第2の3(1)イ(イ)において主張するような各事実が認められ,一定の措置を講じることによって,本件医療事故のような医療事故が生じる可能性をできるだけ低くすることができるとしても(そして,病院としては,本件医療事故後に作成された報告書(甲1)や改訂された医療事故予防マニュアル(甲19,20)等の趣旨にのっとり,可能な限り事故発生の危険性を低くするよう努力すべきことはもちろんではあるが),B1看護婦及びB2看護婦は,医師から投与を指示された薬剤を取り違えないという,いついかなる場合においても,看護婦が患者に対して怠ることを許されない義務を,極めて初歩的な態様によって怠ったものであるから,亡Aの死亡という結果は,広尾病院や被告東京都の看護及び投薬のシステムに何らかの問題があったからこそ生じたものではなく,専らB1看護婦及びB2看護婦両名の個人的注意義務の懈怠によって生じたものというべきものであり,前記第2の3(1)イ(イ)の各事実と亡Aの死亡との間には,相当因果関係を認めることができないというほかない。 ウまた,以上のとおり本件医療事故において責任を問うべき過失はあくまでも担当看護婦らの過失であることにかんがみると,仮に原告らが主張する前記第2の3(1)イ(イ)の事実が認められるとしても,それが慰謝料の増額事由となるということもできない。 3 争点(2)(亡Aの死亡後の被告らの行為に関する義務違反の有無)について(1) 原告らは,亡Aの死亡後の被告らの行為について損害賠償を請求するに当たり,原因究明義務と情報開示・説明義務という2つの義務を定立しているが,両者は密 らの行為に関する義務違反の有無)について(1) 原告らは,亡Aの死亡後の被告らの行為について損害賠償を請求するに当たり,原因究明義務と情報開示・説明義務という2つの義務を定立しているが,両者は密接に関連しており,後記のとおり,これらを基礎付ける根拠も同様のものになると考えられることから,両者(ただし,後記のとおり,「原因究明義務」については,「死因解明義務」というべきであり,「情報開示・説明義務」については,「説明義務」というべきである。)は,基本的には,以下のとおりまとめて論じた方が適切であると解される(なお,具体的な適用場面においては,両者は一体として問題となる場合とそれぞれ独立して問題となる場合があり得るので,必要に応じて独立して採り上げて論じることもある。)。 また,本件において,被告東京都は,広尾病院の開設者としての側面と,同病院に対する行政監督庁としての側面を有しており,個人としての被告らは,それぞれの側面に対応して履行補助者として行動しているものとみられるため,便宜上,同各側面に分けて,以下順に検討する。 (2)ア(ア) まず,被告東京都の病院開設者としての側面から検討すると,確かに,患者と病院開設者との間には診療契約が締結されたとしても,同契約は準委任契約であるから,当該患者が死亡すれば,同契約は終了する。 しかし,①医療行為に関する情報は病院側が独占しており,しかも,病院側は当該情報にアクセスすることが容易であること,②医師は医療行為をつかさどる者として,一定の公的役割を期待されており,医師法21条の規定する届出義務もその一つの現れと見ることができること,③医療行為により悪い結果が生じた場合,当該患者が生存している場合は,医師には患者に対しその経過や原因について説明する必要があるところ,より重大な患者の死亡という 一つの現れと見ることができること,③医療行為により悪い結果が生じた場合,当該患者が生存している場合は,医師には患者に対しその経過や原因について説明する必要があるところ,より重大な患者の死亡という結果が生じたにもかかわらず,医師が説明する義務を何ら負わないというのは不均衡であることからすれば,診療契約の当事者である病院開設者としては,患者が死亡した場合には,遺族からその求めがある以上,遺族(具体的事情に応じた主要な者)に対し,当該事案の具体的内容,保有する又は保有すべき情報の内容等に応じて,死亡に至る事実経過や死因を説明すべき義務を,信義則上,診療契約に付随する義務として負うというべきである。 さらに,上記①及び②からすれば,病院開設者において上記の説明をする前提として,診療契約の当事者である病院開設者としては,具体的状況に応じて必要かつ可能な限度で死因を解明すべき義務を,信義則上,診療契約に付随する義務として負うというべきである。 (イ) 以上のような観点から,広尾病院に勤務する被告乙1,被告乙2及び被告乙3は,被告東京都の履行補助者として,債権者である亡Aの遺族に対して,被告東京都の負っている前記死因解明及び説明義務を履行すべき信義則上の義務を負っているというべきであるが,同義務の具体的内容は上記各被告の職務内容に応じて異なるので,同各被告の義務違反の有無について,以下順に検討する。 イ被告乙1の義務違反の有無について(ア)a まず,原告甲1は,平成11年2月11日及び12日,広尾病院において病理解剖を実施することを承諾したが,これは死因の解明及び説明を不要とする意思表示ではなく,むしろ死因を解明してその説明を求める意思表示と解すべきであるから,被告東京都は亡Aの遺族に対し,死因解明及び説明義務を負うというべきである。 被 死因の解明及び説明を不要とする意思表示ではなく,むしろ死因を解明してその説明を求める意思表示と解すべきであるから,被告東京都は亡Aの遺族に対し,死因解明及び説明義務を負うというべきである。 被告乙1は,広尾病院の院長であり,かつ,本件対策会議の主催者であったから,本件医療事故についての広尾病院としての対応方針を決定するに当たり,大きな影響力を有していたといえることから,原告甲1らに対し,本件医療事故について主体的に死因解明及び説明義務を履行すべき立場にあった。 b(a) しかし,被告乙1は,平成11年2月12日の本件対策会議において,B1看護婦を始めとする関係者から薬剤の取り違えの具体的可能性がある旨の話を聞き,広尾病院として,いったんは本件医療事故を警察に届け出るとの方針に決めたにもかかわらず,来院した被告乙5から病院事業部の見解を聞かされて,これを病院事業部としては警察への届出を消極的に考えているものと解釈した上で,上記方針を転換して本件医療事故を警察に届け出ないことに決定し,さらに,同日,病理解剖に協力したB19医師から警察へ連絡することを提案されたのに対しても,これをいれずに病理解剖するよう指示し,病理解剖を行ったB17医長やB18医師から,亡Aの右腕の静脈に沿った赤色色素沈着を撮影したポラロイド写真を示された上で,薬物の誤注射によって死亡したことはほぼ間違いがないとの解剖の結果報告を受けたにもかかわらず,警察に届出をしないとの判断を変えず,同月20日に原告甲1らに中間報告をした際に,病院の方から警察に届け出ないのであれば,自分で届け出ると言われ,ようやく同月22日,B15衛生局長らと面談の上,警察に届け出たのであって,このような事実経過に照らせば,被告乙1は,解剖結果の報告を受けた段階においては,本件医療事故を警察 分で届け出ると言われ,ようやく同月22日,B15衛生局長らと面談の上,警察に届け出たのであって,このような事実経過に照らせば,被告乙1は,解剖結果の報告を受けた段階においては,本件医療事故を警察に届け出なければならなくなったにもかかわらず,あえて同月22日まで届出をしなかったというべきであり,たとえその当時において亡Aが病死した可能性も完全に否定されたわけではなかったことを考慮に入れたとしても,被告乙1は,必要かつ可能な死因の解明を行ったとはいえない。 したがって,被告乙1には,死因解明義務違反が認められる。 (b) この点について補足して説明するならば,医師法21条が異状死体について届出義務を課していることからすれば,法は犯罪の疑いがある場合には,当該医療従事者が自ら死因を解明するのではなく,警察に死因の解明をゆだねるのが適切であると解していることがうかがわれる。そして,被告乙1は,前記(a)のとおり,遅くとも本件対策会議の時点において,亡Aが診療中の傷病以外の原因で死亡した疑いがあると認識し,さらに,解剖結果の報告を受けた段階において亡Aの死体に医師法21条所定の異状があることを具体的に認識するに至ったと認められることから,本件においては,警察への届出を行い,死因の解明を警察にゆだねることが,被告乙1の死因解明義務としての具体的義務の履行というべきである。 そして,ここにいう警察への届出とは,異状死体があったことの届出にすぎず,それ以上の報告が求められるものではないから,上記のように解したとしても,それが憲法38条1項において黙秘権が保障されている趣旨に抵触するとはいえない。 なお,原告らは,被告乙1が,ヒビグルの検出をする血液検査をなるべく回避しようとしていたことも義務違反である旨主張するが,上記のとおり,本件において が保障されている趣旨に抵触するとはいえない。 なお,原告らは,被告乙1が,ヒビグルの検出をする血液検査をなるべく回避しようとしていたことも義務違反である旨主張するが,上記のとおり,本件においては,警察への届出を行い,死因の解明を警察にゆだねることが,被告乙1の死因解明義務としての具体的履行というべきであるから,仮に被告乙1においてそのほかに採った死因の解明方法が不適切であったとしても,そのことが独立に義務違反行為に当たるということはできない。 c さらに,原告らは,平成11年3月11日付け死亡診断書の死因及び死亡時刻の記載につき,被告乙1に義務違反があったことを主張するところ,本件において,当該死亡診断書は保険金を請求するために保険会社に提出するものであり,亡Aの遺族に対して何らかの説明をするために用いられたものではないが,既に,本件医療事故につき,警察への届出を経て,亡Aの死亡は,薬の取り違えによる可能性が高い旨,遺族が広尾病院側から説明を受けていた当時の状況の下において,被告乙1は,亡Aが病死や自然死ではないことが明らかであったにもかかわらず,その事実を認識した上で,上記死亡診断書の死因を病死として作成させ,さらに,B17医長から病死との記載は問題である旨進言されたにもかかわらず,同死亡診断書をそのまま遺族に交付するように指示し,その結果,亡Aの遺族に対し,亡Aの死因につき混乱と不審を招いたものであって,説明義務違反に当たるというべきである。 なお,死亡時刻については,前記認定のとおり虚偽の記載ということはできないので,説明義務違反を論ずる前提を欠く。 (イ) 次に,被告乙1の義務違反行為につき国賠法,民法(不法行為)のいずれを適用すべきかについて検討するに,確かに,被告乙1は本件医療事故発生当時,広尾病院に勤務する地方公 反を論ずる前提を欠く。 (イ) 次に,被告乙1の義務違反行為につき国賠法,民法(不法行為)のいずれを適用すべきかについて検討するに,確かに,被告乙1は本件医療事故発生当時,広尾病院に勤務する地方公務員であったことからすれば,国賠法の適用があるといえそうにも思える。 しかし,他方,死因解明及び説明義務は,以上のとおり,被告東京都の病院開設者としての側面に着目して導き出される義務である上,被告乙1の前記(ア)の各義務違反行為はいずれも診療行為に付随する行為である。そして,診療契約の性質に関し国公立病院と私立病院を区別する合理的理由は見いだせないことに加え,本件において,広尾病院が亡Aに対し私立病院と異なる国公立病院独自の医療行為を行ったという事情はうかがわれないことに照らせば,被告乙1の上記義務違反行為については,国賠法ではなく,民法が適用されると解すべきである。 ウ被告乙2の義務違反の有無について(ア)a 被告乙2は,亡Aの主治医であり,かつ,亡Aの死体を検案し,医師法21条の届出義務を負っていたのであるから,主体的に死因解明及び説明義務を履行すべき立場にあった。 b しかしながら,被告乙2は,平成11年2月11日,B11医師からB1看護婦が薬剤を間違えて注入したかもしれないと言っていることを知らされた上,主治医であった被告乙2にも,亡Aの症状が急変するような疾患等の心当たりが全くなく,さらに,翌12日に行われた病理解剖に立ち会い,亡Aの死体の右腕の静脈に沿って赤い色素沈着がある異状を認めたのであるから,警察へ届け出なければならなくなったにもかかわらず,漫然と広尾病院の方針に従い,自ら警察へ届け出なかったこと(当該届出がもつ意義については,被告乙1の義務違反において既に説明したところと同様である(前記イ(ア)b(b))。)からすれ もかかわらず,漫然と広尾病院の方針に従い,自ら警察へ届け出なかったこと(当該届出がもつ意義については,被告乙1の義務違反において既に説明したところと同様である(前記イ(ア)b(b))。)からすれば,たとえその当時において亡Aの病死の可能性も完全に否定されたわけではないとしても,被告乙2は,必要かつ可能な死因の解明を行う義務を怠ったというべきである。 したがって,被告乙2には,死因解明義務違反が認められる。 c(a) また,原告らは,平成11年3月11日付け死亡診断書及び死亡証明書の死因及び死亡時刻の記載につき,被告乙2にも義務違反があったことを主張するが,この点は,被告乙1の義務違反において既に説明したところと同様の理由により(前記イ(ア)c),死亡時刻の点を除き,説明義務に違反するものということができる。 (b) なお,原告らは,本件医療事故発生直後に,被告乙2の亡Aの遺族に対する説明において,看護婦による誤投薬の可能性につき何ら明らかにしなかった点についても,被告乙2の義務違反を主張する。 確かに,被告乙2は,前記bのとおり,亡Aに対する蘇生措置を行っている際に,B11医師からB1看護婦が薬剤を間違えて注入したかもしれないと言っていることを知らされた上,主治医であった被告乙2にも,亡Aの症状が急変するような疾患等の心当たりが全くなかったというのであるから,亡Aが誤投薬による事故により死亡した可能性があることを認識したとはいえる。 しかしながら,本件医療事故発生直後のことであって,情報が十分であるとはいえず,しかも混乱している遺族に対して不必要な精神的衝撃を与えないような配慮も必要であることも勘案するならば,亡Aの遺族に対して看護婦による誤投薬の可能性について明らかにしなかったことについても,やむを得ないものとして,説明義務違 て不必要な精神的衝撃を与えないような配慮も必要であることも勘案するならば,亡Aの遺族に対して看護婦による誤投薬の可能性について明らかにしなかったことについても,やむを得ないものとして,説明義務違反にはならないというべきである。 (イ) 被告乙2の前記義務違反行為に,国賠法ではなく,民法(不法行為)が適用されるべきことは,前記イ(イ)と同様である。 エ被告乙3の義務違反の有無について被告乙3は,広尾病院の事務局長としての立場から,まず,警察への届出を巡る不作為行為について義務違反を問われているが,当該不作為行為が死因解明義務違反に該当するかはおくとして,被告乙3は当初本件対策会議において,本件医療事故について警察への届出をすべきであると発言しており,この点でむしろ死因解明義務を尽くす方向で行動していたとみることができ,また,前記アのとおり,専ら医療行為の特殊性から導かれる死因解明及び説明義務について,医師ではなく,医療行為の専門的知識を有しない広尾病院の事務局長においては,警察への届出をすべきであるとの立場を表明したものの,警察に届け出ないことをいったん決定された以上は,それ以後において当該決定の趣旨に従って行動すること自体を死因解明義務違反として問題とすることはできないというべきである。 さらに,原告らは,被告乙3が亡Aの血液検査に関して出された検査先変更の指示に漫然と従ったことについて義務違反である旨主張しているが,そもそも,上記検査先の変更が死因解明義務としてどのような意味をもつかはおくとして,病院事業部からの指示を受けた広尾病院の決定に従い,第一化学薬品に検出を依頼することをやめ,監察医務院に血液検査を依頼する旨の連絡を各機関にしたのはB5医事課長であって,この検査先の変更につき,被告乙3が具体的にどのように関与したか の決定に従い,第一化学薬品に検出を依頼することをやめ,監察医務院に血液検査を依頼する旨の連絡を各機関にしたのはB5医事課長であって,この検査先の変更につき,被告乙3が具体的にどのように関与したかは明らかではない上,たとえ被告乙3が特段異を唱えず病院事業部の指示に従ったとしても,血液検査先の変更という事柄の性質も踏まえれば,事務職としての立場からみて,やむを得ないものというべきである。 よって,被告乙3の各行為は,死因解明義務に違反したとは認められない。 オ被告東京都の義務違反の有無について履行補助者としての被告乙1及び被告乙2の前記各義務違反行為により,被告東京都には死因解明及び説明義務違反が生じているため,被告東京都は,上記各行為につき債務不履行又は不法行為責任(民法715条)を負う(ただし,共同不法行為としての不法行為責任(民法715条)を原告らの請求を基礎付けるものとして選択して認定するものとする。)。 よって,被告東京都は,被告乙1及び被告乙2とそれぞれ連帯(不真正連帯)して,損害賠償責任を負う。 (3)ア(ア) 次に,被告東京都の広尾病院に対する行政監督庁としての側面について検討する。 上記側面において,原告らは,被告乙4は被告乙5に対し,広尾病院に病院事業部は本件医療事故を警察に届け出ることに消極的である旨伝えるように指示し,被告乙5が広尾病院に赴き,その旨の発言をし,その発言の影響力によって広尾病院においていったん決定したところの警察に届け出るという方針が覆ってしまったのであって,被告乙4及び被告乙5は,病院事業部の広尾病院に対する影響力を違法に行使することにより,被告東京都が亡Aの遺族に対し負っている原因究明義務の履行を妨げたと主張するので,被告東京都には広尾病院に対する行政監督庁として同病院に対して適切に 尾病院に対する影響力を違法に行使することにより,被告東京都が亡Aの遺族に対し負っている原因究明義務の履行を妨げたと主張するので,被告東京都には広尾病院に対する行政監督庁として同病院に対して適切に影響力を行使すべき義務があったことを前提とした主張をしていると解される。 そこで,まず,義務の存否について検討するに,被告東京都の行政監督庁としての立場,及び病院側は前記(2)アのとおり死因解明及び説明義務を負っていることに照らせば,被告東京都は,都立病院で医療行為を受けている患者,又は患者が死亡した場合にはその遺族に対して,信義則上,都立病院が上記死因解明及び説明義務を履行するに当たり,助言して適切に対応できるように導く義務を負っているというべきである。 (イ) そして,病院事業部に勤務する被告乙4及び被告乙5は,被告東京都の履行補助者として,債権者である亡Aの遺族に対して,被告東京都の負っている前記義務を履行すべき信義則上の義務を負っているというべきであるが,同義務の具体的内容は上記各被告の職務内容に応じて異なるので,同各被告の義務違反の有無について,以下順に検討する。 イ被告乙4の義務違反の有無について被告乙4は,広尾病院に対する行政監督庁である病院事業部の部長として,広尾病院が本件医療事故に適切に対応できるように助言すべき立場にあったところ,被告乙4は,被告乙5の報告を受けて,広尾病院で薬を取り違えた可能性のある入院患者が死亡したこと,及び遺族から病理解剖の承諾を既に得ていることしか知らず,広尾病院が警察に届け出る方針にいったん決めていたことを知らなかったことも勘案すれば,「病理解剖の承諾が取れているなら,遺族にすべてを話して了解を得られれば,それでいったらいいじゃないか。」と被告乙5に指示を出したとしても,それ自体が原因究明を たことを知らなかったことも勘案すれば,「病理解剖の承諾が取れているなら,遺族にすべてを話して了解を得られれば,それでいったらいいじゃないか。」と被告乙5に指示を出したとしても,それ自体が原因究明を妨害する発言とはいえないのであって,被告乙4の発言はあながち不当とまではいえず,前記助言すべき義務の違反は認められない。 ウ被告乙5の義務違反の有無について(ア) 被告乙5は,広尾病院に赴き,同病院に対する監督官庁である病院事業部の見解を伝えた者であり,同病院が本件医療事故に適切に対応できるように助言すべき立場にあったところ,平成11年2月12日,広尾病院において本件医療事故を警察に届け出るかどうかが問題になっていることを認識した上で,同病院に赴き,被告乙1ら同病院の幹部らに対し,仮に誤投薬の可能性があったとしても,病院事業部としては警察への届出に消極的である意向が看取できる発言をし,それにより,広尾病院がいったん決めていたところの,本件医療事故を警察に届け出るという方針が覆ってしまったという結果を招来し,結局,被告乙1及び被告乙2は,前記(2)イ(ア)及びウ(ア)のとおり,警察に届け出なければならなくなったにもかかわらず,同月20日の中間報告の際に,原告甲1から,病院の方から届け出ないのであれば,自分で届け出ると言われるまで,警察に届け出なかったのであって,さらに,被告乙5は,病院事業部として,同月15日に広尾病院から亡Aの死因が急性疾患とはいい難く,薬剤の取り違えによる可能性がある旨の報告書を受領したにもかかわらず,広尾病院に対し警察に届け出るように再考を促すような行動を取った形跡が何らうかがえないことも併せ考えれば,被告乙5の上記発言の影響力によって,広尾病院において適切に死因解明義務を履行できなかったというべきである。 この点 るように再考を促すような行動を取った形跡が何らうかがえないことも併せ考えれば,被告乙5の上記発言の影響力によって,広尾病院において適切に死因解明義務を履行できなかったというべきである。 この点,確かに,被告乙5は被告乙4の指示に基づき,広尾病院の幹部に対し,「遺族から病理解剖の承諾をもらっているということですけれども,薬の取り違えの可能性もあるんなら,包み隠さずお話ししないといけませんね。」とは述べているが,同時に,被告乙5は,「もし遺族が警察に届け出るというならそれはそれで仕方がないですね。」と述べることにより,「仕方がない」すなわち暗に警察への届出はできれば回避したいという趣旨を伝えていることから,病院事業部の意向としては,仮に誤投薬の可能性があったとしても,広尾病院が警察に届け出ることについて消極的に解していることが同病院の幹部らに伝わる発言をしていると認められるのであって,そのことは,被告乙5が広尾病院を出発する前に,被告乙1に対し,「病院自ら警察に届けると,ひいては職員を売ることになりますよね。」と,警察への届出に積極的であることと相いれない発言をしたことからもうかがわれるところである。 そうすると,被告乙5は,広尾病院が本件医療事故に対して適切に対応できるように助言することなく,かえって警察への届出を回避させて,死因の解明が困難になる方法をとるように助言してしまったといえる。 よって,被告乙5には,前記助言すべき義務の違反が認められる。 (イ) もっとも,被告乙5は,本件医療事故発生当時,病院事業部に勤務する地方公務員であるところ,前記助言すべき義務は,被告東京都の行政監督庁としての側面に着目して導き出される義務である上,被告乙5の前記(ア)の義務違反行為は行政としての立場からの独自の行為であるといえるのであって, ところ,前記助言すべき義務は,被告東京都の行政監督庁としての側面に着目して導き出される義務である上,被告乙5の前記(ア)の義務違反行為は行政としての立場からの独自の行為であるといえるのであって,それゆえに,同行為には国賠法が適用されるべきである。 そして,国賠法が,国又は公共団体に責任を負わせることで被害者救済の目的は達することができるのであり,公務員の個人責任を認めるとすれば,かえって公務員が萎縮し,公務の停滞を招きかねないといえることなどからすれば,被告乙5が上記行為について個人責任を負うと解することはできない。 エ被告東京都の義務違反の有無について以上によれば,被告東京都は,被告乙5の前記ウ(ア)の行為につき,国賠法に基づき,損害賠償責任を負うこととなる。 4 争点(3)(損害額)について(1) 争点(3)ア(争点(1)の義務違反による損害)について(被告東京都のみに対するもの)ア亡Aの損害(ア)a 逸失利益証拠(甲11)によれば,亡Aは死亡当時専業主婦であったと認められるから,逸失利益を算定するに当たり,その基礎収入は,死亡した年である平成11年の賃金センサス第1巻・第1表の産業計・企業規模計・学歴計の女性労働者の全年齢平均の賃金額である345万3500円を採用すべきである。 そして,平成11年簡易生命表によれば,58歳女子の平均余命は28. 09年であり,亡Aは本件医療事故当時,慢性関節リウマチには罹患していたが,特段健康状態に問題はなかったことから,その約2分の1である14年は家事労働に従事することができたと推認され,したがって,基礎収入に14年に対応するライプニッツ係数である9.8986を乗じて逸失利益を算定すべきである。 また,生活費控除率は,30パーセントとするのが相当である。 そうすると,亡Aの れ,したがって,基礎収入に14年に対応するライプニッツ係数である9.8986を乗じて逸失利益を算定すべきである。 また,生活費控除率は,30パーセントとするのが相当である。 そうすると,亡Aの逸失利益は,2392万9370円とするのが相当である。 345万3500円×9.8986×(1-0.3)=2392万9370円(1円未満切り捨て)b 慰謝料亡Aは死亡当時58歳であり,慢性関節リウマチの治療のために入院して左中指の手術を受けたが,それは生命に危険を及ぼすような病気や手術ではなく,術後の経過は良好で入院期間10日間程度で退院できる予定であったにもかかわらず,とりわけ信頼してしかるべき看護婦による通常考え難い基本的な過誤である誤投薬のために,全く予期せぬ突然の苦しみに襲われ,悶え苦しみながら絶命したこと,その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,亡Aの慰謝料は2300万円とするのが相当である。 (イ) 相続前記(ア)の合計4692万9370円の亡Aの被告東京都に対する損害賠償請求権を,相続により,原告甲1は2346万4685円,原告甲2及び原告甲3は各1173万2342円ずつ取得した(1円未満切り捨て)。 イ原告ら固有の損害(ア) 原告甲1の損害a 慰謝料本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Aの夫である原告甲1が亡Aの死亡により被った精神的損害に対する慰謝料は,300万円をもって相当と認める。 b 葬儀費用本件医療事故と相当因果関係のある葬儀費用は,120万円をもって相当と認める。 (イ) 原告甲4の損害本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Aの実父である原告甲4が亡Aの死亡により被った精神的損害に対する慰謝料は,200万円をもって相当と認める。 (ウ) 原告甲5の損害原告甲5は,亡 の損害本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Aの実父である原告甲4が亡Aの死亡により被った精神的損害に対する慰謝料は,200万円をもって相当と認める。 (ウ) 原告甲5の損害原告甲5は,亡Aの実妹であり,民法711条所定の者ではないが,文言上同条に該当しない者であっても,被害者との間に同条所定の者と実質的に同視できるような身分関係が存在し,被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は,同条の類推適用により,加害者に対して直接に固有の慰謝料を請求し得るというべきである。 そこで検討するに,確かに,原告甲5が亡Aを慕っており,同人らが親密な姉妹であったもので,平成10年からは,亡Aが近隣の家に住み始め,原告甲5は亡Aの死亡の現場に立ち会っており,その予期せぬ結果に非常に心を痛めたことは認められるが,他方,原告甲5は,亡Aとは長期間にわたり別々の世帯を営んでいたものであることが認められることにも照らすならば(甲65,74,158,丙29,原告甲5),原告甲5と亡Aとの間に通常の姉妹の関係を超えて民法711条所定の者と実質的に同視できるような身分関係が存在するとまではいえない。 よって,原告甲5の各請求はいずれも認められない。 (エ) 弁護士費用本件医療事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は,540万円(原告甲1について280万円,原告甲2及び原告甲3について各120万円,原告甲4について20万円(なお,これは原告甲4が弁護士費用として請求する額を上回るが,同一訴訟物内における請求総額を上回る額を認めることにはならないので,処分権主義に反するものではない。))と認めるのが相当である。 (2) 争点(3)イ(争点(2)の義務違反による損害)について(被告ら全員に対するもの)ア(ア) 死因解明及び説明義務違反並びに助言す 処分権主義に反するものではない。))と認めるのが相当である。 (2) 争点(3)イ(争点(2)の義務違反による損害)について(被告ら全員に対するもの)ア(ア) 死因解明及び説明義務違反並びに助言すべき義務違反により遺族が被る精神的苦痛は,確かに被害者の死亡に端を発してはいるものの,同各義務違反により,被害者の死亡自体から生じる精神的苦痛とは別個に発生するということができるのであって,法的保護に値するというべきである。 (イ) もっとも,死因解明及び説明義務違反や助言すべき義務の違反に基づく慰謝料請求は,被害者の死亡に起因する精神的苦痛に対して賠償を求めるものであるから,同人の死亡について精神的に慰謝されるべきことを法が予定している者に限り認められるべきである。 したがって,上記各義務違反に基づく慰謝料請求は,民法711条所定の者又は同条が類推適用される者に限って認められるべきであり,前記(1)イ(ウ)のとおり,原告甲5は請求権者となり得ないというべきである。 イ(ア) 被告乙1の義務違反行為による損害被告乙1の立場,その義務違反行為の態様その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,原告甲1に対し40万円,原告甲2,原告甲3及び原告甲4に対し各20万円の慰謝料をもって相当と認める。 よって,被告東京都及び被告乙1は連帯(不真正連帯)して,上記損害を賠償する責任がある。 (イ) 被告乙2の義務違反行為による損害被告乙2の立場,その義務違反行為の態様その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,原告甲1に対し20万円,原告甲2,原告甲3及び原告甲4に対し各10万円の慰謝料をもって相当と認める。 よって,被告東京都及び被告乙2は連帯(不真正連帯)して,上記損害を賠償すべき責任を負う。 (ウ) 被告乙5の義務違反行為による損害被告乙5の立場 に対し各10万円の慰謝料をもって相当と認める。 よって,被告東京都及び被告乙2は連帯(不真正連帯)して,上記損害を賠償すべき責任を負う。 (ウ) 被告乙5の義務違反行為による損害被告乙5の立場,その義務違反行為の態様その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,原告甲1に対し10万円,原告甲2,原告甲3及び原告甲4に対し各5万円の慰謝料をもって相当と認める。 よって,被告東京都は,上記損害を賠償すべき責任を負う。 5 結論以上によれば,原告甲1,原告甲2,原告甲3及び原告甲4の各請求は,主文第1項ないし第5項の限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,原告らのその余の各請求及び原告甲5の各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し,被告東京都の申立てに係る仮執行免脱宣言については,相当でないからこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第16部裁判長裁判官大門匡裁判官柴崎哲夫裁判官吉田千絵子

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