平成26(ワ)488 三井金属神岡鉱山じん肺損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年3月25日 岐阜地方裁判所 その他
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判決文本文107,703 文字)

主文 1 被告らは,連帯して,別紙認容額一覧表の「原告」欄記載の各原告に対し,同表「認容額」欄中の「合計」欄記載の各金員及びこれに対する平成26年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告らは,連帯して,各原告に対し,各3300万円及びこれに対する平成26年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被告らの所有管理する神岡鉱山において,被告ら又はその下請会社との間の雇用契約に基づき稼働していた作業員又はその遺族が,被告らの安全配慮義務違反によって当該作業員らがじん肺に罹患したなどと主張し,被告らに対し,連帯して,債務不履行に基づく損害賠償(包括一律請求)として,各3300万円及びこれに対する訴状送達の日である平成26年8月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 なお,本件訴訟に先んじて,平成21年5月,同じく神岡鉱山において就労していた元作業員らが被告らに対して提起した損害賠償請求訴訟事件(岐阜陣訴訟」という。)が存在する。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実) ⑴ 当事者等ア被告三井金属鉱業株式会社(昭和27年商号変更前の旧商号は神岡鉱業株式会社。以下「被告三井金属」という。)は,昭和25年に三井鉱山株式会社の金属部門を分離する形で設立された株式会社である。同社は,三井鉱山株 属鉱業株式会社(昭和27年商号変更前の旧商号は神岡鉱業株式会社。以下「被告三井金属」という。)は,昭和25年に三井鉱山株式会社の金属部門を分離する形で設立された株式会社である。同社は,三井鉱山株式会社が所有管理していた神岡鉱山を引き継ぎ,昭和61年6月30日までこれを所有管理していた。 イ被告神岡鉱業株式会社(以下「被告神岡鉱業」という。)は,昭和61年に被告三井金属の完全子会社として設立された株式会社であり,同年6月30日,被告三井金属から神岡鉱山の営業権一切を譲り受け,神岡鉱山を所有管理している。 ウ別紙1「管理区分等一覧表」の「原告等」欄記載の者(以下「原告等」と総称する。)は,いずれも,被告三井金属(その前身である三井鉱山株式会社を含む。)又は被告神岡鉱業との雇用契約,あるいは,被告らの下請会社との雇用契約に基づき,神岡鉱山で稼働していた者である。 なお,本件訴訟の提起後,原告等のうち,亡Bは平成27年11月29日に,亡Eは平成28年12月28日に,亡Fは平成29年8月29日に,それぞれ死亡した。原告Iは亡Bの妻であり,原告Jは亡Eの妻であり,原告Kは亡Fの妻であり,いずれも,被告らに対する損害賠償請求権を単独相続する旨の遺産分割協議を成立させた。 ⑵ 神岡鉱山の概要(乙A1,2,6,7〔枝番を含む。以下,枝番のある証拠については,特記ない限り同じ。〕)神岡鉱山は,岐阜県飛騨市神岡町に所在し,飛騨高原の最北部に位置する銀,鉛,亜鉛のいわゆる金属鉱山である。栃洞,円山及び茂住の各鉱床群よりなり,鉱山としては栃洞鉱(栃洞坑,円山坑)及び茂住鉱の二つがある。 神岡鉱山の岩盤中の遊離けい酸成分の平均値は約8%であり,遊離けい酸含有率が比較的低い鉱山であるといえる。 神岡鉱山における被告らの正社員数は,昭和25 ,円山坑)及び茂住鉱の二つがある。 神岡鉱山の岩盤中の遊離けい酸成分の平均値は約8%であり,遊離けい酸含有率が比較的低い鉱山であるといえる。 神岡鉱山における被告らの正社員数は,昭和25年度には4354名在籍していたが,その後減少を続け,昭和61年度時点では761名,平成20年度時点では248名であった。 神岡鉱山における鉱石の採掘は,平成12年に茂住鉱の採掘が休止され,平成13年には栃洞鉱の採掘が休止された。現在,栃洞鉱における石灰石の採掘が継続され,茂住鉱内は宇宙線観測設備として使用されており,被告神岡鉱業が両鉱の維持管理を行っている。 ⑶ 原告等の職歴ないし神岡鉱山における就労歴は,別紙9「原告等の個別事情」の各原告等欄に認定のとおりである(以下,個別の原告等については,「原告A」のように略称する。)。 ⑷ じん肺とその特徴アじん肺の意義等じん肺とは,粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいう(じん肺法2条1項1号)。また,同法及び同法施行規則は,じん肺の合併症(じん肺と合併した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認められる疾病をいう。以下同じ。)として,後述するじん肺管理区分が管理2又は3と決定された者に係る肺結核,結核性胸膜炎,続発性気管支炎,続発性気管支拡張症,続発性気胸,原発性肺がんを定めている(同法2条1項2号,同条2項,同法施行規則1条)。 また,当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業は粉じん作業とされ,その範囲は厚生労働省令で定められている(同法2条1項3号,同条3項,同法施行規則2条,別表)。 イじん肺発症のメカニズム(甲A51,70,乙A143,171,弁論の全趣旨)通常,体内に吸入 の範囲は厚生労働省令で定められている(同法2条1項3号,同条3項,同法施行規則2条,別表)。 イじん肺発症のメカニズム(甲A51,70,乙A143,171,弁論の全趣旨)通常,体内に吸入された粉じんは,気管支腺や杯細胞が分泌する粘 液と繊毛の働きによって,その多くは痰として体外に排出される。また,粉じんが体外に排出されずに肺胞まで進んだ場合でも,呼気に乗って体外に排出される。しかしながら,残ったものについては,防御反応として,粉じんを探し当てたマクロファージ(貪食細胞)がこれを取り込み,そのまま気管支系に運ばれて体外に排出されるものもあるが,他のものは肺胞の毛細血管と空気の部分の間に網の目のように張り巡らされたリンパ管に入り,リンパ内での免疫防御機構の働きと共にリンパ節(腺)に貯められる(なお,肺のリンパは,外側に近い場所では胸膜〔肋膜〕に沿って上方に流れ,深部では中央〔肺門〕に向かって流れている。)。 このように,人体には,粉じん除去機能や防御機能があり,通常,人間が生活する場所における粉じん程度では,人間の体内に害を及ぼすことはない。 ところが,粉じん除去機能や防御機能の限界を超えた多量の粉じんが体内に吸入されると,吸入された粉じんは,肺胞腔内に蓄積して肺胞壁を破壊し,そこから線維芽細胞が出現し,肺胞腔内に線維が形成され,結節ができる。結節が形成されるということは,その領域の肺胞壁が閉塞し,肺胞でのガス交換機能が失われることを意味する。 また,マクロファージによって貪食されリンパ管に入った粉じんは,リンパ節に運ばれ蓄積されるが,リンパ節に溜まった粉じんはリンパ節の細胞を増殖させ,その結果細胞が破壊されて膠原線維(線維状の一種のタンパク質で固い。)が増加し,その部分の細胞を破壊してリンパ節を閉塞させてし ばれ蓄積されるが,リンパ節に溜まった粉じんはリンパ節の細胞を増殖させ,その結果細胞が破壊されて膠原線維(線維状の一種のタンパク質で固い。)が増加し,その部分の細胞を破壊してリンパ節を閉塞させてしまう。そうなると,その後に吸入された粉じんは,肺胞腔内に蓄積され,肺胞壁の破壊と線維の形成は更に加速され,肺胞のガス交換機能は更に失われる。このようなじん肺の病変を線維増殖性変化という。 そのほか,じん肺の基本的病変として,気道の慢性炎症性変化,肺の 気腫性変化(正常よりも気腔の大きさが異常に拡張している場合と肺胞が破壊されている場合とがあるが,じん肺の場合には後者である。)も生じる。 じん肺の症状は,咳,痰,労作時の息切れ,呼吸困難,動悸等が中心となる。 じん肺には,吸入する粉じんによる分類があり,遊離けい酸(シリカ)を吸入することによって生じるけい肺,石綿を吸入することによって生じる石綿肺などがある。 このような粉じんの種類のほか,粉じんの粒径,粉じんの吸入量(濃度と曝露期間),性別,年齢,体重等の人体側の要因がじん肺発生の主要な因子として指摘されている。 ウじん肺の特徴(甲A70,74,弁論の全趣旨)一般的に,以下のような特徴が指摘されている。 現時点において,じん肺によっていったん肺に発生した線維増殖性変化,気腫性変化等については,元の状態に戻す治療方法がない(不可逆性)。 また,じん肺の病像は,肺胞内に取り込まれた粉じんが,長期間にわたり線維増殖性変化を進行させるものであり,粉じん職場を離れた後においても,粉じん曝露の量や罹患したじん肺の程度に応じて,じん肺結節が拡大融合するなどして病状が進行する(進行性)。さらに,じん肺によって肺機能に障害を来すことにより,各種臓器にも慢性的な酸素不足を生じさ も,粉じん曝露の量や罹患したじん肺の程度に応じて,じん肺結節が拡大融合するなどして病状が進行する(進行性)。さらに,じん肺によって肺機能に障害を来すことにより,各種臓器にも慢性的な酸素不足を生じさせるなどして様々な影響や負担をもたらし,生命活動全体に多様な障害を及ぼすため,呼吸器の合併症のみならず,他の疾病の治療を困難にさせるなどの影響を及ぼす(全身性)ことを指摘する見解もある。 ⑸ 関係法令鉱山における保安に関する法令としては,鉱山保安法(昭和24年5月16日法律第70号により制定,平成16年法律第94号により改正。以下 「保安法」という。)が,鉱業権者は粉じん等の処理に伴う危害又は鉱害の防止のため必要な措置を講じなければならない旨を定めるなどし,金属鉱山等保安規則(昭和24年通商産業省令第33号。以下「保安規則」という。)によって,鉱業権者が講ずべき具体的な保安措置が定められた。その後,鉱山保安規則(平成6年通商産業省令第13号)が制定され,平成7年4月1日に施行されたことにより,保安規則は廃止され,さらに平成16年に鉱山保安法施行規則(同年経済産業省令第96号)が制定され,平成17年4月1日に施行されたことにより,鉱山保安規則は廃止された。 じん肺に関する法令としては,昭和30年にけい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法(同年7月29日法律第91号)が制定された後,昭和35年に,石綿肺その他のじん肺も広く対象としたじん肺法(同年3月31日法律第30号)が制定され,昭和52年には「じん肺法の一部を改正する法律」(昭和52年7月1日法律第76号)が制定,昭和53年に施行されたほか,粉じん障害防止規則(昭和54年労働省令第18号)などがある。 ⑹ じん肺管理区分(以下,単に「管理区分」という。)制度等 昭和52年7月1日法律第76号)が制定,昭和53年に施行されたほか,粉じん障害防止規則(昭和54年労働省令第18号)などがある。 ⑹ じん肺管理区分(以下,単に「管理区分」という。)制度等アじん肺法における管理区分制度及びじん肺健康診断の主な手続の流れは,別紙2「じん肺健康診断の流れ及びじん肺法における健康管理の体系」のとおりである。(なお,改正前のじん肺法においても,じん肺健康診断の結果に基づいて「健康管理の区分」を決定するものとされているが,同区分については,「労働安全衛生法及びじん肺法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置及び関係政令の整備に関する政令(昭和53年政令第33号)」によって,対応関係にある現行のじん肺法上の管理区分にみなす旨の経過措置(同令2条)が定められているため,以下では,これに従って現行の管理区分で表記する。)イ管理区分制度じん肺法は,粉じん作業に従事する労働者等を,じん肺健康診断の結果 に基づき,エックス線写真画像の区分(じん肺法4条1項。別紙3「エックス線写真像の分類」のとおり,粒状影又は不整形陰影の多寡及び大陰影の有無により,第1型から第4型までに区分される。)と著しい肺機能障害の有無の組合せに従って,以下のとおり,管理1から4までに区分し,健康管理を行うものとしている(じん肺法4条)。 管理1:じん肺の所見がないと認められるもの 管理2:エックス線写真の像が第1型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの 管理3イ:エックス線写真の像が第2型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの 管理3ロ:エックス線写真の像が第3型又は第4型(大陰影の大きさが1側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん の像が第2型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの 管理3ロ:エックス線写真の像が第3型又は第4型(大陰影の大きさが1側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの 管理4:⑴ エックス線写真の像が第4型(大陰影の大きさが1側の肺野の3分の1を超えるものに限る。)⑵ エックス線写真の像が第1型,第2型,第3型又は第4型(大陰影の大きさが1側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるものウじん肺健康診断(甲A1,71,)事業者は,じん肺法の定める健康管理の一環として,常時粉じん作業に従事する,あるいは,従事させたことのある労働者等に対して,就業時健康診断,定期健康診断(常時粉じん作業に従事する管理区分が管理1の労働者は3年ごと,管理2又は3の労働者は1年ごとに1回などと定められている。),定期外健康診断,離職時健康診断の実施義務を負っている(じん肺法7条ないし9条の2)。 じん肺健康診断は,次のaないしcの方法によって行うとされている(じん肺法3条,同法施行規則4条ないし8条)。 a 粉じん作業についての職歴の調査及びエックス線写真(直接撮影による胸部全域のエックス線写真をいう。以下同じ。)による検査b 胸部に関する臨床検査及び肺機能検査c 結核精密検査その他厚労省令で定める検査(合併症に関する検査)上記方法によるじん肺健康診断の具体的実施手法及び判定については,労働省労働基準局長が各都道府県労働基準局長に宛てて発出した通達である昭和53年4月28日付け基発第250号「改正じん肺法の施行について」(以下「基発第250号通達」という。甲A 判定については,労働省労働基準局長が各都道府県労働基準局長に宛てて発出した通達である昭和53年4月28日付け基発第250号「改正じん肺法の施行について」(以下「基発第250号通達」という。甲A71)により,労働省安全衛生部労働衛生課編「じん肺診査ハンドブック」(昭和54年改訂部分を含む。以下,単に「じん肺診査ハンドブック」という。甲A1)に記載された内容を基本として行うとされている。その具体的な 粉じん作業についての職歴の調査粉じん作業の職歴の調査は,事業場の名称,従事している又は従事していた作業の内容及び従事した期間を把握することによって行われる。 エックス線写真による検査a じん肺のエックス線写真の像は,別紙3「エックス線写真像の分類」の「1 じん肺法によるエックス線写真像の区分」記載のとおり,第1型から第4型までに区分される(じん肺法4条1項,甲A1)。 b エックス線写真像の区分の判定は,昭和57年増補版「じん肺標準エックス線フィルム」(乙A64,177。以下「標準フィルム」という。)並びに「じん肺標準エックス線写真集」(平成23年3月)(乙A65,176の1,240,241。以下「標準写真集」という。)を用い,どの型の標準フィルムないし標準写真集に近似してい るかを比較読影して医師が判定することとされている。 標準フィルムは,第1型,第2型及び第3型の中央のものを示しているほか,じん肺の所見がないと判断するフィルムの上限のもの及び第1型の下限のものを示している。型の区分を行う際には明確にある型のものと判断できない場合があるため,別紙3「エックス線写真像の分類」の「2 エックス線写真像の区分に当たっての12階尺度」記載の12階尺度(以下「12階尺度」という。)を用いることとさ 確にある型のものと判断できない場合があるため,別紙3「エックス線写真像の分類」の「2 エックス線写真像の区分に当たっての12階尺度」記載の12階尺度(以下「12階尺度」という。)を用いることとされている(じん肺診査ハンドブック)。 c 標準フィルムの構成は別紙4「標準フィルム一覧表」のとおり,標準写真集の構成は別紙5「標準写真集一覧表」のとおりである。 胸部に関する臨床検査(甲A1,乙A63)胸部臨床検査は,①じん肺の経過の調査,②既往歴の調査,③自覚症状の調査,④他覚所見の検査によって行われる。 ①じん肺の経過の調査は,じん肺管理区分決定通知書等の書面の他,事業上で作成している管理台帳,健康管理個人票等を利用し,②既往歴の調査は,肺結核,胸膜炎,気管支炎,気管支拡張症,気管支喘息,肺気腫,心臓疾患を対象に行われる。 ③自覚症状の調査は,呼吸困難,咳と痰,心悸亢進その他の症状,喫煙歴について行われるが,このなかでも呼吸困難が最も重要とされる。 ④他覚所見の検査は,視診によるチアノーゼやばち状指の確認,聴診による水泡音及び捻髪音等の副雑音の聴取の確認を行うとされている。 肺機能検査肺機能検査は,スパイロメトリー及びフロー・ボリューム曲線による検査(一次検査)並びに動脈血ガス測定(二次検査)により,それぞれ行われる(じん肺法施行規則5条)。 合併症に関する検査 じん肺の法定合併症(前記第2の2⑷ア)に該当するか否かの判定は,じん肺診査ハンドブックに記載された判定の基準により行うとされている(基発第250号通達。甲A71)。続発性気管支炎については別紙6「続発性気管支炎に関する合併症の検査」に記載のとおりである(甲A1)。 エ管理区分の決定手続等 定の基準により行うとされている(基発第250号通達。甲A71)。続発性気管支炎については別紙6「続発性気管支炎に関する合併症の検査」に記載のとおりである(甲A1)。 エ管理区分の決定手続等じん肺健康診断の結果,じん肺の所見がないと診断された者の管理区分は管理1とされる(じん肺法13条1項)。 事業者は,じん肺健康診断の結果,じん肺の所見があると診断された労働者について,エックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等を都道府県労働局長(以下「労働局長」という。)に提出する(じん肺法12条)。 労働局長は,上記エックス線写真及びじん肺健康診断結果証明書等が提出されたときは,これらを基礎として,地方じん肺診査医の診断又は審査により,当該労働者について管理区分の決定をする(じん肺法13条2項)。労働局長が,上記決定を行うため必要があると認めるときは,事業者に対し,エックス線写真の撮影若しくは厚生労働省令で定める範囲内の検査を行うべきこと又はその指定する物件を提出すべきことを命じることができる(同条3項)。 なお,地方じん肺診査医とは,じん肺に関し相当な学識経験を有する医師のうちから厚生労働大臣が任命した者である(同法39条4項)。 労働局長は,管理区分の決定をしたときは,事業者にその旨を通知し,事業者は,当該労働者等に対し,その者について決定された管理区分及びその者が留意すべき事項を通知しなければならない(じん肺法14条1項,2項)。 常時粉じん作業に従事する労働者又は常時粉じん作業に従事する労 働者であった者は,いつでも,じん肺健康診断を受けて,厚生労働省令で定めるところにより,労働局長に管理区分を決定すべきことを申請することができる(じん肺法15条1項)。 事業者は,じん肺健康診断 働者であった者は,いつでも,じん肺健康診断を受けて,厚生労働省令で定めるところにより,労働局長に管理区分を決定すべきことを申請することができる(じん肺法15条1項)。 事業者は,じん肺健康診断の結果,労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは,就業上適切な措置を講じ,適切な保健指導を受けることができるための配慮をする努力義務を負い(じん肺法20条の2),管理区分が,管理2又は3イである労働者について,粉じんにさらされる程度を低減させるため,就業場所の変更,粉じん作業に従事する作業時間の短縮その他の適切な措置を講ずるように努める義務を負う(同法20条の3)。また,労働局長は,管理3イである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときには,事業者に対し,当該労働者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを勧奨することができ,管理3ロである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときには,地方じん肺診査医の意見により,当該労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは事業者に対し,当該労働者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを指示することができること等も規定されている(同法21条,22条,22条の2)。そして,管理4と決定された者及び合併症にかかっていると認められる者は,療養を要するものとされる(同法23条)。 ⑺ 労災保険給付についてア労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)7条1項1号所定の業務災害に関する保険給付(以下「労災保険給付」という。)は,同法12条の8第2項により,労働基準法75条等に規定する療養補償の事由が生じた場合に支給するとされているところ,同条1項の「業務上の疾病」には,「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法に規定するじん肺と合併した同法施 条等に規定する療養補償の事由が生じた場合に支給するとされているところ,同条1項の「業務上の疾病」には,「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法に規定するじん肺と合併した同法施行規則1条各号に掲げる疾病」が 含まれている(労働基準法75条2項,同法施行規則35条別表第1の2第5号)。じん肺法上,管理区分が管理4と決定された者及び合併症にかかっていると認められる者は療養を要するものとされていることから(じん肺法23条),これらの者のじん肺又は疾病は,原則として業務上の疾病として認定されることとなる。 イ管理区分手続上,管理2又は3の決定を受け,法定合併症の認定を受けていない者から労災保険給付支給の請求があった場合,労働基準監督署(以下「労基署」ということもある。)において,管理区分決定通知書又はその写し,粉じん職歴,管理区分,決定の根拠となったじん肺健康診断結果等を確認し,法定合併症に係る審査を行うとされ,この場合には,原則として地方じん肺診査医の意見に基づいて判定することとされている。 また,管理区分手続上,管理2又は3とされ,法定合併症の認定を受けている者から請求があった場合は,上記と同様の事項を確認し,健康診断を行った日に当該合併症が発病したものとみなすとされている(基発第250号通達,各都道府県労働基準局長宛て労働省労働基準局補償課長・安全衛生部労働衛生課長事務連絡「じん肺の合併症に係る療養等の取扱いについて」〔甲A71,77〕)。 ⑻ 原告等の管理区分決定及び合併症の認定原告等は,別紙1「管理区分等一覧表」の「初回管理区分決定日」欄記載の日に「初回管理区分」欄記載の管理区分決定を受け,「直近の管理区分決定日」欄記載の日に「直近の管理区分」欄記載の管理区分決定を受けた。また,「療養・休業 分等一覧表」の「初回管理区分決定日」欄記載の日に「初回管理区分」欄記載の管理区分決定を受け,「直近の管理区分決定日」欄記載の日に「直近の管理区分」欄記載の管理区分決定を受けた。また,「療養・休業補償給付等支給決定日(症状確認日)」欄に記載がある者については,その記載された日ころ,「法定合併症」欄記載の合併症に罹患したことを理由とする療養・休業補償給付の支給決定を受け,同給付を受け始めた。 ⑼ 第一陣訴訟 ア平成21年5月,神岡鉱山でかつて就労していた作業員及びその遺族らが,被告らに対し,本件と同様,被告らの安全配慮義務違反によってじん肺に罹患したとして,岐阜地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した。 イ岐阜地方裁判所は,平成26年6月27日,請求権が時効消滅したと認定した原告らを除き,原告らの請求を一部認容する判決を言い渡した。 これに対して,原告ら及び被告らの双方が名古屋高等裁判所に控訴した。 ウ名古屋高等裁判所は,平成28年1月21日,原告らのうち4名の認容額を増額する以外は,概ね一審判決を維持する内容の判決を言い渡した(甲A54)。これに対し,原告ら及び被告らの双方が上告受理申立てをしたが,最高裁(第二小法廷)は,平成29年3月15日,いずれの上告についても受理しない旨の決定をした。 第3 争点 1 安全配慮義務違反の有無⑴ 被告らの従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無⑵ 下請会社の従業員であった原告Hに対する被告らの責任の有無 2 損害の発生及びその額⑴ じん肺罹患の有無及びその程度⑵ じん肺による健康被害・合併症等の有無⑶ 損害額 3 被告らが連帯責任を負うかどうか 4 過失相殺の有無⑴ 喫煙による過失相殺の有無 じん肺罹患の有無及びその程度⑵ じん肺による健康被害・合併症等の有無⑶ 損害額 3 被告らが連帯責任を負うかどうか 4 過失相殺の有無⑴ 喫煙による過失相殺の有無⑵ 防じんマスク不着用による過失相殺の有無 5 消滅時効の成否⑴ 消滅時効の起算点はいつか ⑵ 被告らによる消滅時効の援用が権利の濫用に当たるか第4 争点に対する当事者の主張 1 安全配慮義務違反の有無⑴ 被告らの従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無(原告らの主張)ア使用者は労働契約上の信義則に基づき,労働者に対し,安全配慮義務を負っている。安全配慮義務は,労働者の生命・身体・健康という侵すことのできない絶対的価値を保持するものであることから,その内容は「万全の措置を尽くす義務」(高度の絶対的義務)である。そして,被告らも,被告らの従業員であった原告等との労働契約の成立により,原告等に対し,原告等が労働力を提供する過程において,その生命と健康が破壊されないようにすべき高度の健康保持義務を負担していたのである。 原告等が従事した坑内・坑外作業は,いずれの工程においても,粉じんを多量に発生させる粉じん職場であった。粉じんの吸入によりじん肺という極めて悲惨な職業病が発生することは古くから知られていたし,実際にも鉱山においてじん肺患者が発生することを,被告らは十分認識していた。したがって,被告らは,じん肺の発生を予見しながらあえて労働者に粉じん作業という危険な業務をさせるのであるから,絶えず実践可能な最高の医学的・科学的・技術的水準に基づくじん肺防止対策を総合的・体系的に尽くして,じん肺患者の発生を防止する義務があった。 被告らが負っていた具体的義務及びその義務違反は以下のとおり 践可能な最高の医学的・科学的・技術的水準に基づくじん肺防止対策を総合的・体系的に尽くして,じん肺患者の発生を防止する義務があった。 被告らが負っていた具体的義務及びその義務違反は以下のとおりである。 イ作業環境の管理に関する義務坑内では,進さく・採鉱,支柱,試錘などの作業ごとに大量の粉じんが発生しており,進さく・採鉱においてトラックレスマイニングが導入された後も改善されず,むしろ規模が大きくなって1日に発生する粉じんの量が増える状況になった。したがって,被告らは,このような粉 じんの発生を防止・抑制し,作業員が粉じんに曝露することを防止・抑制し,安全性の向上を図る義務を負っていた。しかしながら,いずれの坑内も通気や換気は悪く,定設扇風機等の設置も不十分だったし,散水も短時間しか行われず,ウォータースプレーは使用方法の規定もなく,切羽に届かない後方に設置されていて粉じん除去効果が得られず,ベルトカーテンやウォーターカーテンも粉じん除去効果は不十分であった一方,集じん機等の設置はなく,休憩所である食堂が栃洞・円山抗では昭和62年まで,茂住鉱では平成4年まで坑内にあって,常に粉じんが存在していた状態であった。このように,被告らには作業環境管理に関する義務違反があった。 また,被告らは,原告等が従事した作業の各過程において,有害かつ吸入性の粉じんが大量に発生していたのであるから,定期的及び作業環境に合わせて随時に粉じんの濃度を測定し,その測定結果に基づいて,安全性の観点から当該作業環境の状態の評価を行うべきであったが,被告らにおいては十分な測定をしていなかったものであり,個人サンプラーを用いるなどの方法で現実に作業員の曝露するであろう粉じん濃度を測定せず,許容濃度によって作業環境管理を行うこともなかった。 ウ 告らにおいては十分な測定をしていなかったものであり,個人サンプラーを用いるなどの方法で現実に作業員の曝露するであろう粉じん濃度を測定せず,許容濃度によって作業環境管理を行うこともなかった。 ウ作業条件の管理に関する義務被告らは,粉じんにさらされる機会を少しでも減らすため,労働時間を短縮し,休憩時間を十分確保し,粉じんから遮断された場所に休憩所を設けるべき義務があった。また,被告らは,ノルマの達成率と連動した能率給など,過度な労働を行うことにつながる刺激的賃金体系を採っており,これを見直す義務があった。しかしながら,これらの措置を取らなかった。 また,被告らは,発生を防止しあるいは飛散を抑制できなかった粉じんを吸い込まぬよう,有効かつ装着に適した呼吸具(マスク)等の保 護具及びその付属品を支給することも,次善の策として行うべきであったが,支給されたマスクは人によってはフィットせずすき間を生じるなど十分な性能等を有しないものであり,フィルター交換にも応じてもらえないことがあった。さらに,マスク着用の指導も全く徹底されておらず,そもそも重労働の際や,指示,打合せの際などマスクの着用ができない場面も多いなど,対策は十分に実施されていなかった。 エ健康の管理に関する義務被告らは,労働者自身が,じん肺発生のメカニズム,危険性,有害性について十分認識するよう,定期的・計画的な安全衛生教育を行うべきであったが,昭和55年に1度,数時間のじん肺教育を実施しただけで,他に行わなかった。 また,被告らは,じん肺発生を防止できず,労働者をじん肺に罹患させてしまったならば,軽症であっても,それ以上の粉じん吸入をしないように速やかに非粉じん職場への配置転換を行い,療養の機会を保障するべきであったが,これを実施しなかった。 労働者をじん肺に罹患させてしまったならば,軽症であっても,それ以上の粉じん吸入をしないように速やかに非粉じん職場への配置転換を行い,療養の機会を保障するべきであったが,これを実施しなかった。 (被告らの主張)ア安全配慮義務とは,労働者の職場における安全と健康を確保するという目標のために諸々の措置(手段)を講ずる債務であり,結果債務ではない。 原告らは,労働者の生命・身体・健康そのものを確保する義務として結果債務を主張するものであり,失当である。 イ被告らは,神岡鉱山において,具体的な自然環境,就労環境に照らした粉じん対策として,粉じん対策の関係法令に定める基準を遵守するだけでなく,以下のとおり,他に先んじて粉じん対策の研究・開発を行い,その時代における最高水準の対策を講じてきており,被告らが安全配慮義務に違反した事実はない。 神岡鉱山は,豊富な地下水に恵まれており,早い時期から湿式さく岩 機を使用して粉じんの発生を防止し,発破後は,十分な退避時間を採った上で,ウォータースプレーの使用により粉じんを沈降させ,さらに入念な散水により粉じんを除去する作業を行った。鉱山の粉じん作業には散水等による対策が最も有効であり,他にもウオーターカーテン,ベルトカーテンなどの粉じん対策も講じた。 さらに,神岡鉱山は自然通気に有利な地形,形状であったが,通気が不十分な部分や季節については,扇風機や風管等の強制通気によって補完することも実施した。なお,坑内作業場においては,集じん機(集じん装置)の設置は粉じん対策として有効ではない。 また,神岡鉱山では,昭和25年に防じんマスクの国家検定制度が整備されるのに先駆けて,昭和22年から作業者に防じんマスクを使用させてきたが,国家検定制度制定後は国家検定の改正に合わせて,これ また,神岡鉱山では,昭和25年に防じんマスクの国家検定制度が整備されるのに先駆けて,昭和22年から作業者に防じんマスクを使用させてきたが,国家検定制度制定後は国家検定の改正に合わせて,これに合格した防じんマスクを採用し,作業者全員に無償貸与するとともに,作業者に対してマスクの重要性や必要性について教育し,管理職や監督者は作業者にマスク着用を厳格に指導した。 神岡鉱山では,法的整備がなされる以前から,作業者の健康管理のため,粉じん防止の一環として粉じん測定に取り組み,本店技術陣も参画して全社的な取組みを行ってきた。 被告らは,保安法等の法令に基づき,昭和25年に保安規程を定めるとともに,作業標準を定め,これらをまとめた必守項目集を作業者各人に配布して遵守事項の周知徹底に努めた。また,保安技術職員や保安係員等の選任,保安衛生委員会等の設置により,保安衛生の管理や指導を徹底した。 被告らは,従業員に対し,じん肺予防のためのマスクの必要性や管理等についての教育活動等として,就業時教育(新入社員教育,坑内作業就業教育),在籍中の監督者等の日常巡視や保安係の専任担当者によ る教育指導,保安週間及び衛生週間におけるじん肺教育,医師や衛生管理者による指導,講演会などを実施したほか,昭和55年にはじん肺法の改正に対応して粉じん作業特別教育を実施するなど,じん肺教育を間断なく実施してきた。 神岡鉱山では,早くから,一般健康診断からじん肺健康診断に及ぶ重層的な健康管理体制が整備確立されるとともに,管理区分認定が決定された従業員の労災認定の手続,配置転換,退職者への支援等も十分な配慮がなされてきた。 労働時間についても,被告らにおける坑内作業者の年間所定労働時間は年を経過するごとに減少傾向にあった。また,被告 従業員の労災認定の手続,配置転換,退職者への支援等も十分な配慮がなされてきた。 労働時間についても,被告らにおける坑内作業者の年間所定労働時間は年を経過するごとに減少傾向にあった。また,被告らは坑内能率給を設定していたが,その目的は作業の無駄や無理をできるだけ少なくし,仕事を決められたとおりに行うことにあった。能率給の運用においては,作業環境の変化等を加味し,作業者の不利,不公平にならないような鑑定の仕組みを整えており,月々の能率給支給額に大きな変動はなかった。 原告らが主張するような,未達の場合のペナルティを伴うようなノルマなどなかった。 ⑵ 下請会社の従業員であった原告Hに対する被告らの責任の有無(原告らの主張)原告Hは,被告三井金属に昭和44年11月に入社し,主に進さく員として稼働して昭和53年12月に退職した後,昭和54年6月から平成17年まで,主に被告らの下請会社である岡田組及び吉澤組に勤務し,下請会社との間で締結された労働契約に基づき,被告らの所有する神岡鉱山において,被告らの指揮命令・監督の下に作業に従事してきた。原告Hがじん肺に罹患したのが,被告らの就業中か下請会社に就業中かを特定することは不可能であるが,上記のような関係からすれば,少なくとも被告らと下請会社は共同して,同原告のじん肺罹患についての債務不履行責任を連帯して負うべきで ある(民法719条1項類推)。 (被告らの主張)原告らの主張は争う。下請会社でも保安係員が選任されており,被告らとの間での打合せ・相談を踏まえ,下請会社の作業員に対する指示命令はすべて下請会社の保安係員から出されており,被告らの保安係員が直接下請会社の社員に対して指示命令を行うことはなかった。たしかに,保安法の下では,下請会社の社員も被告らの直轄従 業員に対する指示命令はすべて下請会社の保安係員から出されており,被告らの保安係員が直接下請会社の社員に対して指示命令を行うことはなかった。たしかに,保安法の下では,下請会社の社員も被告らの直轄従業員と同様の鉱山労働者と扱われるため,保安衛生に関する認識を共有するようにはしていたものの,上記のとおり直接指揮命令をしなかったのであるから,被告らは下請会社の従業員に対して安全配慮義務を負わない。 したがって,被告らは,原告Hが昭和53年12月9日に被告三井金属を退職して以後の就業について安全配慮義務を負うものではない。 2 損害の発生及びその額⑴ じん肺罹患の有無及びその程度(原告らの主張)ア原告等は,いずれも管理2以上の管理区分の決定を受けている。じん肺法等に基づく管理区分の決定は,公的な認定機関による厳格な手続を経た,信用性の極めて高い判断であるから,これをもってじん肺の罹患が立証されているものである。 すなわち,じん肺法及び管理区分制度は,長年の知見を積み重ねて安定的に運用されてきたものであり,それ自体高度の信用性を有する。また,管理区分の診査は,担当医の診断に加え,相当な学識経験を有する医師の中から厚生労働大臣が任命する地方じん肺診査医らによる審査を経てなされる。さらに,その診断方法や基準は,じん肺審査会等を経た長年にわたる研究等の成果の蓄積である。 被告らは,低位変更の例があることから,管理区分決定の信用性がない 旨主張するが,低位変更されるのはごく例外的な事情に基づくものであり,それだけで管理区分決定の高度の信用性は揺るがない。 イまた,以下のように信用性を高める事情もある。 原告等のうち,被告ら在職中に管理2の決定を受けた者は,毎年の定期健康診断を受診し,労働局に対して管 理区分決定の高度の信用性は揺るがない。 イまた,以下のように信用性を高める事情もある。 原告等のうち,被告ら在職中に管理2の決定を受けた者は,毎年の定期健康診断を受診し,労働局に対して管理区分申請をし,改めて管理区分決定を受けるが,管理2から管理1に低位変更された者はおらず,じん肺有所見であることが繰り返し確認されてきた。また,退職後に法定合併症の認定を受けている者は,主治医が毎年健康診断をしているが,それにおいても,じん肺所見があるとの認定が繰り返しなされている。 原告等は全員,被告らにて就業していた当時,粉じん作業に従事した経歴を有しており,じん肺罹患の原因があるといえる。 原告等には,現に,咳や痰,息切れ,呼吸困難など,じん肺の病理に即した甚大な健康被害が発生している。 L医師は,原告等全員について,1型以上のじん肺有所見者であるという意見を述べている(同医師の意見は,別紙7「L医師の鑑定意見」記載のとおり。甲A69)。L医師は,じん肺の診療につき豊富な経験を有し,学術的研究実績も多数にのぼる医師であり,じん肺所見を適切に読影・判定するための能力を習得している。L医師は,じん肺法制に準拠した判定方法で適切かつ誠実に画像診断を行い,CT写真においてもじん肺所見を認めており,その鑑定意見及び証言の信用性は高い。 また,O医師は,亡Eの肺の標本を基に病理診断した結果,同人の肺には複数のじん肺病変が認められる等との意見を述べる(甲A87,114)。これは,亡Eが受けていた管理区分決定や続発性気管支炎の認定と整合する。O医師は,肺の病理専門医として長年の経験を積み,じん肺に関する研究でも第一人者であって,本件について具体的かつ科学的な根拠に基づく鑑定意見を述べるものであり,その鑑定意見及び証言 合する。O医師は,肺の病理専門医として長年の経験を積み,じん肺に関する研究でも第一人者であって,本件について具体的かつ科学的な根拠に基づく鑑定意見を述べるものであり,その鑑定意見及び証言 は極めて信用性が高いというべきである。 ウ被告らの主張に対する反論等被告らは,M医師及びN医師の意見書等を根拠として,原告らのじん肺罹患を否定する。しかしながら,以下のとおり,上記意見書等は信用することができない。 原告等の罹患しているじん肺は主として非典型けい肺であるところ,非典型けい肺は肺野結節の線維化が弱く,エックス線写真に粒状影が表れにくいため,比較読影には,標準フィルム及び標準写真の「その他のじん肺」を用いるべきであるが,M医師らは標準フィルムの「けい肺」及び標準写真集の「粒状影」を用いるべきとしており,誤っている。 また,M医師らは,CT写真を重視してじん肺所見の判定を行っているが,以下のとおりCTには限界があり,妥当でない。 aCTではピクセル以下の大きさの極めて微細な結節は検出できない。 スライス厚が厚い場合,部分容積効果を加味しても,粒状影が画像上描出されるには,直径2~3㎜の大きさが必要である。 b 非典型けい肺の粒状影は線維化が弱く,血管影との区別が困難な1~2㎜の大きさであり,CTでの血管影との鑑別は困難である。 実際,O医師の意見書(甲A87,114)のとおり,亡Eの肺内には線維化した結節が存在したが,M医師らはCTでこれを発見できなかった。 cCT読影の判断のばらつきをなくし,統一的な判断をするための標準画像は未だ存在しない。標準写真集の胸部CT写真はあくまで典型けい肺の患者のものであり,非典型けい肺が分類されるべき「その他の陰影」には0/1や1/0のCT写真は収 し,統一的な判断をするための標準画像は未だ存在しない。標準写真集の胸部CT写真はあくまで典型けい肺の患者のものであり,非典型けい肺が分類されるべき「その他の陰影」には0/1や1/0のCT写真は収録されていない。 d 非典型けい肺においては,エックス線写真における重積効果が重要であるが,CT画像は部分容積効果により重なりが排除され,平均化 した情報しか提供しない(病像が消失する)ため,正確性に欠ける。 被告らは,重積効果により粒状影を読み取るには,多くの結節が同一直線上に並ぶ必要があるがその可能性は低いなどと批判するが,重積効果を得るのに同一直線上に並ぶ必要はないし,結節が重なる確率は低くないから,被告らの批判は当たらない。 e じん肺法においてはそもそもCTによる判定を認めておらず,CTによるじん肺判定については,未だ研究の途上である。管理区分決定にCTを取り入れる目的でなされた厚生労働省のじん肺の診断基準及び手法に関する調査研究(主任研究者:芦澤和人教授)の研究報告(以下「芦澤報告」という。)では何ら見るべき成果を上げられず,最新の検討結果を踏まえても,CTが必須であるとはされていない。 その他にも以下の事情によれば,M医師らの意見は信用できない。 aM医師らは,特に亡Bについて,当初の意見書(乙A166)では,肺野の粒状影や線維化,所見の大きな変化を認識しながら故意に隠ぺいして記載せず,後から提出した意見書(乙A228)では,粒状影等の所見を認めてはいるが,通常の過程と異なるからじん肺所見ではなく「何らかの炎症性疾患による線維化」であるなどと具体性に乏しい意見を述べ,医学的な説明をしていない。 bM医師らは,当初の鑑定意見(乙A217)においては,粉じん斑やマクロファージの集簇した状態につ らかの炎症性疾患による線維化」であるなどと具体性に乏しい意見を述べ,医学的な説明をしていない。 bM医師らは,当初の鑑定意見(乙A217)においては,粉じん斑やマクロファージの集簇した状態については画像診断が可能と断言していたが,亡Eの病理所見を突きつけられるや,画像診断が困難な場合もあると意見を後退させている(乙A239)。 c その他のM医師の意見についても,意味不明な点や当初の意見を合理的理由なく変遷させる点が散見される。 dM医師と連名で意見書を作成したN医師の意見についても,上記のとおりM医師の意見が信用できない上,反対尋問を経ていないことか らすると,独立した信用性を認めることはできない。 e 被告らは,O医師の意見書に対し,P医師の意見書を提出し,その中で,亡Eの肺組織にはけい肺結節や混合粉じん線維化巣(mixeddustfibrosis。以下「MDF」ということもある。)は認められず,粉じん斑のみからなる極めて軽微又はごく初期の病変であると述べるが,その具体的理由は一切示しておらず,不合理である。上記意見書は,反対尋問を経たものでないことからも,信用性は認められない。 (被告らの主張)ア本件の原告等は,いずれもじん肺に罹患していない。その根拠は,別紙8「M医師らの鑑定意見」のとおりである。M医師らは,開示を受けた資料のうち,最新の胸部エックス線写真の読影結果を主体とし,最新の胸部CT写真の読影結果を考慮に入れて総合的に鑑定しており,その鑑定方法に不適切な点はない。 イ原告らは,じん肺法に基づくじん肺管理区分決定には高度の信用性があることを前提として,原告等が全員管理区分2以上と認定されているから,じん肺に罹患したことが立証されている旨主張する。しかしながら,管理区分決定 ん肺法に基づくじん肺管理区分決定には高度の信用性があることを前提として,原告等が全員管理区分2以上と認定されているから,じん肺に罹患したことが立証されている旨主張する。しかしながら,管理区分決定は低位変更されることが想定されており,実際に神岡鉱山で稼働した者でも低位変更された者がいる等,絶対的なものではないから,管理区分決定だけでは損害の立証として不十分である。原告等の直近におけるじん肺所見の有無・程度を検討するには,管理区分決定に際してなされた胸部エックス線写真の読影結果のみならず,胸部CT写真の読影結果も考慮して診断すべきである。 ウじん肺画像診断におけるCT画像の有用性等胸部エックス線写真では,多彩なじん肺の病変を表現するには限界があるが,胸部CT写真は,胸部エックス線写真と比較して濃度分解能 が高く,肺内の線維化像及び気腫化が鮮明に描出されるため,精細な病態への理解が得られる。特に,じん肺所見の有無,すなわち0/1と1/0の境界領域の診断に威力を発揮することが学術的に立証されている。 また,胸部エックス線写真では,一方向からの撮影により重複像が形成されるため,じん肺結節等による写真上の変化が修飾されたり打ち消されたりすることがあるが,胸部CT写真では重複像が形成されることは少なく,陰影そのものがより具体的に表現される利点がある。 さらに,エックス線写真は濃度分解能に限界があり,一定の太さ以上の血管影しか描出できず,細い血管については分岐の連続性を追うこと自体が難しいが,CT画像ならば,特定の一枚のスライスだけでなく前後の周辺スライスとの比較が可能であり,血管影との鑑別が可能となる。 CT画像上で描出されない極めて微細な病変が,肺機能障害や咳・痰,呼吸困難等の健康被害を起こすという可能性は低 スだけでなく前後の周辺スライスとの比較が可能であり,血管影との鑑別が可能となる。 CT画像上で描出されない極めて微細な病変が,肺機能障害や咳・痰,呼吸困難等の健康被害を起こすという可能性は低い。エックス線写真及びCT画像のいずれも同じ原理に基づくから,CT画像上で粒状影が認められないのに,エックス線写真上でのみ粒状影が描出されることは通常あり得ない。 じん肺のCT画像診断法は医学的,学術的に確立しており,じん肺の病理変化とCT画像上の描出状況に関する多くの研究もなされている。 しかも,現在の臨床医学において,胸部CTはあらゆる呼吸器疾患が適応となっており,特に胸部エックス線写真で不明所見や疑問点等がある場合の確認など,多くの呼吸器臨床場面で用いられている。 読影のばらつきについて,エックス線写真では,病変の有無や程度の判断基準がCT写真と比較して明確でないため,ばらつきが大きく,CT写真の方が読影結果のばらつきが圧倒的に少ない。実際,標準写真集における候補画像の選定において,胸部エックス線写真だけでは医師 間の判断のばらつきが大きくなる可能性があるものについては,同一患者の胸部CT写真も参考収録されている。 原告らは,CTには,部分容積効果等により,微細な結節を検出できない限界があると主張するが,直径1㎜前後の小結節は血管影と区別して診断できないと述べるのであって,検出できない訳ではない。一方,エックス線写真では,CTでは確実に区別できる直径2~3㎜の小結節でさえ血管と区別するのは難しいから,原告らの主張は誤っている。 原告らは重積効果の利点を主張するが,1個では粒状影として確認できない結節が,重なることにより読影者が確認できる濃度の粒状影を形成するということは通常考え難い。 原告らは,じん肺の判 いる。 原告らは重積効果の利点を主張するが,1個では粒状影として確認できない結節が,重なることにより読影者が確認できる濃度の粒状影を形成するということは通常考え難い。 原告らは,じん肺の判定にCT画像を用いることは,厚生労働省の検討会で未だ検討中であって法制度上も認められていないと主張するが,現在検討中であるのは,放射線被ばく量や費用負担の問題など,社会制度的に解決すべき問題に過ぎないから,原告らの批判は当たらない。 原告らは,亡Eの肺には多数のじん肺結節の存在が認められたから,M医師らの鑑定意見は誤っている旨主張する。しかしながら,P医師によれば,亡Eには,病理所見でのみ捉えられる「混合粉じん性じん肺のうち粉じん斑のみからなる極めて軽微又はごく初期のじん肺病変」が認められたに過ぎず,M医師らの読影結果と何ら矛盾しない。 エ L医師の鑑定意見に対する反論L医師は,肺の辺縁部に多くの粒状影を指摘しており,その理由として,肺の中心部には血管が多く,血管影か粒状影かの鑑別が困難であるから,辺縁部を中心に指摘したという。しかし,じん肺病変は肺の中心部(肺内野層)に多くの密度で形成されるということは教科書的事実であり,肺の中心部のじん肺病変を指摘できないことは通常考え難い。 L医師は,読影対象写真の撮影時期によって標準写真集と標準フィ ルムを使い分けているようであるが,標準写真集は,じん肺所見の判断基準を継続し,標準フィルムとの整合性の確保に留意して作成された経緯がある。L医師の手法はかかる経緯を踏まえない誤ったものである。 L医師は,標準フィルムの「その他のじん肺」の写真を用いたことについて,標準写真集の「その他の陰影」には第1型の症例が収録されておらず,第2型に至らない非典型けい肺の症例については標 である。 L医師は,標準フィルムの「その他のじん肺」の写真を用いたことについて,標準写真集の「その他の陰影」には第1型の症例が収録されておらず,第2型に至らない非典型けい肺の症例については標準写真集によって比較読影するのは困難であるからとの理由を述べる。しかしながら,L医師は,画像の結果にこだわる余り,職歴調査の結果等を踏まえて比較読影の対象写真を選択するという基本的な手順を看過している。 また,本件のような「混合粉じん性じん肺」の画像は,標準写真集の「粒状影」を用いるべきであり,L医師がこれを用いないのは不合理である。 ⑵ じん肺による健康被害・合併症等の有無(原告らの主張)ア原告等がじん肺に罹患していること及び続発性気管支炎に罹患していることについては,そもそも行政により認定がなされていることから証明としては十分である上,L医師の意見書や証言,カルテやじん肺健康診断結果証明書等の客観資料によっても裏付けられている。 イ肺機能障害肺機能障害はじん肺の自覚症状として最も重要であり,患者が最初に意識し,苦しめられるものである。肺機能障害の判定は肺機能検査の数値だけではなく,じん肺健康診断の諸検査の結果も含めて医師の総合判断によるべきである。 原告等は,全員F(+)以上の肺機能障害との診断を受けており,特に亡Bは管理区分4の決定を受け,F(++)(著しい肺機能障害を負う)とされているから,じん肺による肺機能障害が優に認められる。 これに対し,被告らは,M医師の意見書(乙A166,170)に基づき,原告等の肺機能障害を否定するが,M医師の判定は総合判断によるものではない上,同医師が依拠した通達(乙A75)等に照らせばF(-)の判定をするのは不可解であり,かかるM医師の意見書に基づ に基づき,原告等の肺機能障害を否定するが,M医師の判定は総合判断によるものではない上,同医師が依拠した通達(乙A75)等に照らせばF(-)の判定をするのは不可解であり,かかるM医師の意見書に基づく被告らの主張には理由がない。 ウ続発性気管支炎続発性気管支炎は,じん肺法により,じん肺の法定合併症と定められた法律上の概念であり,この認定を受けると,同法により療養を要するものとして労災保険給付を受けられる。続発性気管支炎の認定においては,労基署は,原則として地方じん肺診査医の意見を求め,その意見に基づいて認定するという厳格な審査を行っている。また,主治医も,豊富な経験に基づき,じん肺診査ハンドブックに則り,患者や保険機関に対する厳しい責任を負う中で続発性気管支炎の検査や診断を行っている上,認定後も治療状況について報告を求められるなど,継続的なチェックを受けること等からすれば,その診断は十分信用に値する。 よって,続発性気管支炎の行政による認定は信用できるものであり,本件において,原告等は労基署長の認定を受けている以上,続発性気管支炎に罹患していると認められるというべきである。 これに対し,被告らは,M医師らの意見を基に,原告等の続発性気管支炎の罹患を否定するが,前記のとおりM医師らの意見書は信用できず,同医師が拠って立つ続発性気管支炎の判定基準は根拠のない独自のものである。 エ原発性肺がんとじん肺死原発性肺がんに罹患すると死亡する可能性が極めて高く,被害は重篤である。現在は単にじん肺に罹患しているに過ぎない原告等も,いずれじん肺死に至るリスクを常に抱え,それを恐れながら生活している。 亡Fは,平成29年8月29日に死亡したが,その直接の死因は肺がんであり,労基署の調査により業務上の疾病による死亡と判 れじん肺死に至るリスクを常に抱え,それを恐れながら生活している。 亡Fは,平成29年8月29日に死亡したが,その直接の死因は肺がんであり,労基署の調査により業務上の疾病による死亡と判断され,遺族補償年金の受給が決定した。よって,亡Fはじん肺が原因で死亡したと認められ,じん肺死に当たる。富山大学付属病院の治療記録にじん肺所見の具体的指摘はないが,亡Fがじん肺により飛騨市民病院に通院していたことを前提に検査がなされたものであるから,じん肺罹患に疑いはない。喫煙の影響についても,被告らの主張は抽象的な可能性の指摘に止まり,亡Fについての具体的事情に係る主張立証はない。 (被告らの主張)ア続発性気管支炎の認定要件を充たすような状態が長期間継続する場合には,通常,感染を起こしている起炎菌(起因菌)を確認することが可能であり,また画像(胸部X線写真,胸部CT写真)上も気管支壁の肥厚や拡張,拡張した気管支内の喀痰の貯留などの所見が認められるようになる。 原告らは,長期間にわたって続発性気管支炎に罹患していると主張するが,治療の開始当初から抗生剤の処方が全くされていないか,あるいはより適切な抗生剤を選択・処方するための喀痰細菌検査が殆ど行われず,抗生剤が処方されている者でも,異なる種類の抗生剤の上乗せ処方がわずかな回数しかなされていない。しかも,原告等には,いずれも慢性の気道感染を起こしていることを示す画像所見が認められない。 これらによれば,原告等には,実際には続発性気管支炎に相当する所見・症状が認められず,単に,咳や痰(膿性痰とは考えられない)といった自覚症状の訴えに対し,去痰剤や鎮咳剤等の処方による対症療法が行われたものと考えるのが妥当である。すなわち,原告等は,当初から続発性気管支炎には罹患せず,又は続発性気管支炎に 考えられない)といった自覚症状の訴えに対し,去痰剤や鎮咳剤等の処方による対症療法が行われたものと考えるのが妥当である。すなわち,原告等は,当初から続発性気管支炎には罹患せず,又は続発性気管支炎に罹患した状態が継続していないというべきである。 原告らは,続発性気管支炎に罹患したことや現に罹患していることにつ いては,合併症認定がなされ,労災保険給付が継続していることで十分に証明されている旨主張するが,労災制度には限界がある上,上記のとおり原告等には続発性気管支炎の罹患及び継続の事実を否定する客観的事実を指摘することができるから,上記主張は失当である。 イ亡Fの死亡について原告らは,亡Fがじん肺に起因する原発性肺がんによりじん肺死した旨主張するが,亡Fは,そもそも前記のとおりじん肺所見が存在しなかったのであるから,同人の原発性肺がんとじん肺との関連性は否定される。喫煙が肺がんの最大の危険因子であることはこれまでの疫学的研究等で明らかになっているところ,亡Fは,喫煙が人体に与える影響を調べるための指数であるブリンクマン指数(1日の平均喫煙本数×喫煙年数)が少なくとも約1060以上の重喫煙者だったのであるから,同人の肺がんは喫煙によるものである可能性が高いというべきである。 ウ肺機能障害についてじん肺法に基づく肺機能検査の結果は,客観的な諸検査の結果を基本として,総合的に医師が判断して判定するものであり,主治医の個人的な裁量に委ねられた曖昧で主観的なものでも,呼吸困難度などの主観的な自覚症状のみに基づいて行うものでもない。肺機能検査の基準値としては,平成22年7月1日から適用されている現行基準(乙A75)が医学的見地において最も合理的かつ妥当であり,じん肺診査ハンドブックに記載されている「じん肺 行うものでもない。肺機能検査の基準値としては,平成22年7月1日から適用されている現行基準(乙A75)が医学的見地において最も合理的かつ妥当であり,じん肺診査ハンドブックに記載されている「じん肺による著しい肺機能の障害があると認められる場合」を適用するのは不適切である。M医師は,上記現行基準に則り,原告等の肺機能障害について適正に判定を行ったものであり,係る判定の結果,肺機能障害がないとされた原告等については,損害額の算定に当たって減額が考慮されるべきである。 ⑶ 損害額 (原告らの主張)ア前述のとおり,じん肺患者は現に発生した健康被害とともに,じん肺死に至るリスクを常に抱えているものであり,原告等が被った精神的損害や人生破壊ともいうべき深刻な被害回復のために支払われるべき慰謝料額は,原告等一人当たり一律3000万円を下らず,この1割に相当する弁護士費用300万円を合わせた3300万円を損害額とするのが相当である。 原告等は個別にみれば多種多様の損害を被っているが,その最下限をもって請求するものである。 イ包括一律請求たる本件の慰謝料について,労災保険給付等は斟酌されるべきではない。原告等の損害を個別の費目で積み上げた場合,じん肺死に至ることを前提とすると,慰謝料だけで3000万円を優に超えるものであり,その場合,かかる慰謝料部分について本来休業補償給付等が損益相殺されることはない。仮に,斟酌されるとしても過大に評価されるべきではない。 (被告らの主張)ア本件において,包括一律請求を根拠づける理由は一切認められず,各原告等の身体の症状や状況に応じて個別に損害を認定すべきである。過去の裁判例において包括一律請求が認められたのは,管理2でも,管理3や管理4といったより重篤な症状へと必然的に進行す 認められず,各原告等の身体の症状や状況に応じて個別に損害を認定すべきである。過去の裁判例において包括一律請求が認められたのは,管理2でも,管理3や管理4といったより重篤な症状へと必然的に進行する途中経過という位置付けにおいて認められたものであるが,本件の原告等は,管理2の初回決定から長期間そのままであるから,管理3や管理4を考慮することなく,それぞれの状況に応じて個別に損害を認定すべきであって,一律に認定するのは妥当でない。 イ仮に原告等に何らかの損害が認められるとしても,原告等は,労災保険法に基づき,多額の労災保険給付等を受給しているのであるから,損害額の算定に当たって十分に考慮されるべきである。 3 被告らが連帯責任を負うかどうか(原告らの主張)被告三井金属は,昭和61年に被告神岡鉱業を分離し,神岡鉱山を経営させてきたが,両者の関係は,単に神岡鉱山を分離して子会社化しただけであり,被告三井金属は被告神岡鉱業の株式を100%保有し,同社の役員には被告三井金属の従業員が就任している。公開されたホームぺージにおいても,被告神岡鉱業は独自のホームページを持たず,被告三井金属のホームページ上に同社の一事業部としての扱いで紹介されている。すなわち,両社は実質的に同一の存在である。 原告等が罹患したじん肺の原因が,いずれの被告(下請会社も含む)のもとでの粉じん作業によるものか特定不可能であるが,実質的に両社が同一であることからすれば,被告らは共同して原告等のじん肺罹患についての債務不履行責任を負うべきである。あるいは,民法719条1項の類推適用により,原告等のじん肺罹患についての債務不履行責任を連帯して負うべきである。 (被告らの主張)争う。 4 過失相殺の有無⑴ 喫 である。あるいは,民法719条1項の類推適用により,原告等のじん肺罹患についての債務不履行責任を連帯して負うべきである。 (被告らの主張)争う。 4 過失相殺の有無⑴ 喫煙による過失相殺の有無(被告らの主張)原告等は全員喫煙歴を有するところ,喫煙は,じん肺の罹患それ自体にも,原発性肺がん,肺機能障害及び現在の自覚症状(咳・痰)にも寄与しているということができ,同人らも喫煙の身体への有害性を認識し又は認識することが可能であったことからすると,公平の観点から民法418条の適用若しくは類推適用又は722条第2項の適用若しくは類推適用により,損害額について相当程度の減額がなされるべきである。 亡Fは,肺がんで死亡しているものの,ブリンクマン指数が約1060の 重喫煙者であるから,仮に同人の小細胞がん罹患による死亡について被告らに何らかの損害賠償責任が認められるとしても,同人の喫煙習慣の影響による減額は9割を下回ることはない。 (原告らの主張)被告らは,喫煙が各原告等の健康に個別具体的にどのような悪影響を与えたのかについて全く主張立証をしていないし,原告等が勤務していた当時,じん肺に関連した喫煙対策も禁煙に関する教育も行っていなかった。したがって,喫煙を過失相殺の対象とすべきではない。 亡Fについても,同人の喫煙歴は遅くとも退職後5,6年ころまでであり被告らの主張と異なるし,被告らは,喫煙が肺がん発生原因となり得る抽象的可能性を主張するにすぎず,亡Fの肺がん発生に対する喫煙の具体的な影響や,喫煙が肺がん発生リスクを増大させることの亡Fの具体的認識ないし認識可能性を主張立証していない。したがって,過失相殺は認められない。 ⑵ 防じんマスク不着用による過失相殺の有無(被告 ,喫煙が肺がん発生リスクを増大させることの亡Fの具体的認識ないし認識可能性を主張立証していない。したがって,過失相殺は認められない。 ⑵ 防じんマスク不着用による過失相殺の有無(被告らの主張)保安法及びその関連省令や保安規程によると,作業中防じんマスクを着用することが義務付けられていたのであるから,粉じん作業中に自己の判断で防じんマスクを外したことを自認している原告等(原告A,亡B,原告D,亡E,原告G,原告H)については自己保健義務違反が認められ,民法418条の適用若しくは類推適用又は722条第2項の適用若しくは類推適用により,過失相殺すべきである。また,原告等のうち,国家試験に合格して保安技術職員の資格を取得した者(原告A,亡E,原告H)については,その過失の程度はより大きいというべきである。 (原告らの主張)原告等は,基本的にはマスクをしっかり着用していた。ただ,重労働で息が苦しく,どうしてもマスクを着用できない作業もあったし,汗をかいてず れたり,会話の際に外さざるを得ないこともあった。また,原告等は,過酷なノルマを課され,これをこなすため,やむを得ずマスクを外して負担を軽減し作業を進めるほかなかった。人によってはマスクの形状が合わなかったり乾燥による変形を生じることがあるなど,適切なマスクが提供されていない場合もあった。さらに,被告らのじん肺教育が不十分であったことは,前記のとおりであり,マスクについても,これをせずに作業していても,保安係員が厳しく指導することはなかった。このような諸般の事情を考慮すれば,防じんマスクの不着用を過失相殺として主張することは,公平ないし信義則に著しく反するというべきであるし,過去の判例でも防じんマスクの不着用を過失相殺の対象とすることは相当でない の事情を考慮すれば,防じんマスクの不着用を過失相殺として主張することは,公平ないし信義則に著しく反するというべきであるし,過去の判例でも防じんマスクの不着用を過失相殺の対象とすることは相当でないと判断されている。 5 消滅時効の成否⑴ 消滅時効の起算点はいつか(被告らの主張)仮に,原告等に,じん肺管理区分決定によって何らかの損害が生じているとしても,管理2を主張する原告等は,いずれも法定合併症である続発性気管支炎の認定要件を満たしておらず,少なくともこれに相当する損害の発生は認められない。したがって,原告等の損害賠償請求権は,法定合併症の認定を受けた時からではなく,じん肺管理区分の管理2の初回決定時から消滅時効が進行するというべきであり,いずれも10年が経過し,時効消滅している。そして,被告らは,平成27年3月5日の第3回口頭弁論期日において,消滅時効の援用の意思表示をした。 (原告らの主張)原告等の損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,原告等の死亡時と解すべきである。なぜなら,じん肺の損害は,それ以上被害の進行のしようがない死亡時に至って初めて,その全容を把握することが可能になるからである。 仮に,上記の見解が容れられないとしても,最終の行政上の決定日から消 滅時効が進行するというべきである。そして,判例によれば,法定合併症の認定日も最終の行政上の決定日に含まれるから,最終の行政上の決定を受けた後に法定合併症の認定を受けた場合は,その法定合併症の認定を受けた時から消滅時効が進行すると解すべきである。 本件において,管理2の決定を受けた原告等が,その後いずれも法定合併症である続発性気管支炎に罹患した旨の認定を受けており,認定を取り消されることなく労災給付も継続されていることは前述のとおりであ 本件において,管理2の決定を受けた原告等が,その後いずれも法定合併症である続発性気管支炎に罹患した旨の認定を受けており,認定を取り消されることなく労災給付も継続されていることは前述のとおりである。 したがって,管理2の初回決定時を消滅時効の起算日とする被告らの主張は失当である。 ⑵ 被告らによる消滅時効の援用が権利の濫用に当たるか(原告らの主張)被告らが劣悪な職場環境で原告等を酷使し,莫大な利益を上げた一方で,原告等は肉体的・精神的被害を被ったものであり,その被害が救済されずに損害賠償請求が認められないとすることは,著しく正義に反する。また,本件訴訟提起に至るまで,原告らが被告らに対して損害賠償請求権を行使しなかったことについて,責めに帰すべき事情はない。このような事実関係に照らせば,被告らが原告らに対し,消滅時効を援用することは,著しく正義・公平・条理等に反するものであって,権利の濫用に当たり,許されないというべきである。 第5 争点1⑴(被告らの従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無)についての当裁判所の判断 1 被告らの安全配慮義務の有無について⑴ 雇用契約は,労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが,通常の場合,労働者は,使用者の指定した場所に配置され,使用者の供給する設備,器具等を用いて労務の提供を行うものであるから,使用者は,右の報酬支払義務にとどまらず,労働者が労務提供のた め設置する場所,設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負う(最高裁判所昭和59年4月10日第三小法廷判決・民集38巻6号557頁)。 ⑵ 粉じん 務を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負う(最高裁判所昭和59年4月10日第三小法廷判決・民集38巻6号557頁)。 ⑵ 粉じんを多量に吸入すると健康障害を引き起こすことについては戦前から広く知られており,原告等が被告らにおける就業を開始するより前の昭和35年にはじん肺法が制定されるなど法律の整備も進められてきたことに加え,証拠(甲A52の2,7ないし9,12,21,23など)及び弁論の全趣旨によれば,被告三井金属においては,そのころ以前から,じん肺対策について労働組合と交渉していたことが認められるから,被告らとしては,原告等が粉じん作業に従事することによってじん肺に罹患する危険性があることを予見し又は予見し得たというべきである。 そして,以下において認定するとおり,原告等が従事した各作業は,粉じんが発生してこれに曝露したり,作業自体で粉じんが発生しない場合であっても,粉じんが滞留する坑内で作業に従事したりするなど,粉じんに絶えずさらされ得る環境にあり,原告等は労働時間の大部分をこの環境において過ごす状況にあったこと,じん肺の基本的な病像として不可逆性,進行性等が指摘され,じん肺罹患による生命,身体及び精神的被害が甚大であることからすると,被告らは,粉じんの発生・飛散の防止及び粉じん吸入の防止について必要かつ十分な措置を講じ,粉じん作業従事者のじん肺罹患やその増悪を防止するべき安全配慮義務を負っていたと認めることができる。 そこで,以下において,原告らが安全配慮義務の具体的内容として主張する点(作業環境の管理,作業条件の管理,健康の管理)について,被告らの安全配慮義務違反の有無を検討する。 2 作業環境の管理に関する義務について(その1・認定事実) 体的内容として主張する点(作業環境の管理,作業条件の管理,健康の管理)について,被告らの安全配慮義務違反の有無を検討する。 2 作業環境の管理に関する義務について(その1・認定事実)作業環境の管理に関し,前記前提事実,証拠(以下に掲記のもの)及び弁論 の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ 神岡鉱山の概要(乙A1,20,169及び弁論の全趣旨)ア各鉱山の概要神岡鉱山は,前記前提事実のとおり栃洞,円山,茂住の各鉱床群から成り立っており,鉱山としては栃洞鉱(栃洞坑,円山坑),茂住鉱の二つがある。 神岡鉱山では,日本で初めて本格的にトラックレス(無軌条という意味)マイニングが導入され,昭和43年に栃洞鉱(円山坑)で導入が始まり,昭和45年には茂住鉱で導入が始まり,昭和58年にすべての鉱山で導入が完了した。 従来の坑内作業では,鉱石等の運搬は,水平的には軌条により,また上下方向には巻き上げ機により行われていたため,物の移動は軌条の敷設により制約されていた。しかしながら,トラックレスマイニングの導入により,重機類が斜坑を自走し,高低差のある作業レベル間を自由に自走できるようなったことから,作業効率が向上した。 イ栃洞鉱(栃洞坑)栃洞坑は,いわゆる「飛騨変成帯」の中央部に位置しており,鉱床は,石灰岩が中生代の火成活動に伴って鉱化された「接触交代鉱床」である。 大部分の鉱石は「杢地」と呼ばれる接触交代性のスカルン鉱であり,この中に閃亜鉛鉱,含銀方鉛鉱を含む。また,「杢地」鉱のほかに「白地」鉱があるが,この中に高品位の鉛・亜鉛鉱石が含まれる。 昭和30年代は,+220M(海抜850m準を0Mとして設定した相対高度を示す呼称である。以下同じ。)から-370M間を採掘範囲としていたが,上部の鉱石を採 の中に高品位の鉛・亜鉛鉱石が含まれる。 昭和30年代は,+220M(海抜850m準を0Mとして設定した相対高度を示す呼称である。以下同じ。)から-370M間を採掘範囲としていたが,上部の鉱石を採掘し終わるにつれて採掘範囲は下がり,+180Mから-370M間を採掘範囲として,+180Mから0M間を上部トラックレス斜坑,0Mから-200M間を上盤斜坑及び下盤斜坑 の二つのトラックレス斜坑で連結し,さらに-200Mから-370M間を上盤斜坑及び北西斜坑の二つのトラックレス斜坑で連結した構造になっている。 採掘された鉱石は,-370Mに集鉱され,主要運搬坑道のトロリー電車及びグランビー鉱車で-370Mから-430M間の貯鉱洞に貯鉱され,-430Mの坑内破砕室で破砕された後,ベルトコンベアーで坑外の選鉱場へ搬送される。 ウ栃洞鉱(円山坑)円山鉱床群は,栃洞鉱床群の北方2㎞に位置し,10余の鉱体が存在する。鉱石はすべて杢地鉱であり,栃洞坑の鉱床に比べ柘榴石スカルンが多い。円山坑は,+200Mから-250M間を採掘範囲とし,+200Mから0M間を1,2番斜坑と5番斜坑,0Mから-250M間を下部大斜坑で連結した構造になっている。 採掘された鉱石は-370Mに集鉱され,主要運搬坑道をトロリー電車及びグランビー鉱車で約2㎞離れた栃洞坑まで運ばれ,栃洞坑で採掘された鉱石と共に-370Mから-430M間の貯鉱洞に貯鉱され,-430Mの坑内破砕室で破砕された後,ベルトコンベアーで坑外の選鉱場へ搬送される。 エ茂住鉱茂住鉱は,石灰岩の接触交代により生成された「杢地」を主体とし,一部「白地」を含み,主要な鉱石鉱物は,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,黄銅鉱,銀鉱物である。茂住鉱は,+200Mから0M間を中央斜坑,+75Mから0M間をトラッ 岩の接触交代により生成された「杢地」を主体とし,一部「白地」を含み,主要な鉱石鉱物は,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,黄銅鉱,銀鉱物である。茂住鉱は,+200Mから0M間を中央斜坑,+75Mから0M間をトラックレス斜坑,0Mから-500M間を下部ケージ立坑及び下部大斜坑で連結した構造になっており,下部大斜坑は-500Mから-620Mまで伸張している。昭和30年代以降は,+310Mから-500M間を採掘範囲としていた。 採掘された鉱石は-500Mに集鉱され,主要運搬坑道のトロリー電車及びグランビー鉱車で-500M坑外の選鉱場に運ばれていた。 ⑵ 神岡鉱山における作業の概要(乙A1)神岡鉱山における作業部門は,大きく採鉱部門,選鉱部門及び製錬部門に分けられる。そのうち,採鉱作業は,鉱山の坑内において亜鉛や鉛等の鉱石を採掘する作業であり,選鉱作業(坑外の選鉱場において鉱石から有用鉱物を選別する作業)及び製錬作業は,坑外の作業である。 なお,勤務形態は交代制勤務であり,被告らの正社員(本工)は2交代制(拘束8時間,実働7時間)で,一の方は午前7時から午後3時まで,二の方は午後2時30分から午後10時30分までの勤務であった。また,下請会社の社員(請負工)は3交代制であり,拘束時間及び実働時間は本工よりも長かった。 ⑶ 原告等の作業歴原告等は,別紙9「原告等の個別事情」の各原告等の「1 職歴」欄記載のとおりの就労歴を有する(同欄の括弧内記載の証拠等)。すなわち,原告Aは,昭和42年7月から昭和63年11月まで,亡Bは,昭和46年5月から平成4年12月まで,原告Cは,昭和49年10月から平成8年2月まで,原告Dは,昭和39年8月から昭和63年3月まで(ただし,昭和53年10月から6か月間の出向期間及び昭和55年4月の落盤事故後昭 ら平成4年12月まで,原告Cは,昭和49年10月から平成8年2月まで,原告Dは,昭和39年8月から昭和63年3月まで(ただし,昭和53年10月から6か月間の出向期間及び昭和55年4月の落盤事故後昭和56年9月までの期間を除く。),亡Eは,昭和52年3月から平成14年8月まで(ただし,他社への出向期間を除く。),亡Fは,昭和43年4月から平成12年1月まで(ただし,1年弱程度の他社への出向期間を除く。),原告Gは,昭和39年6月から平成8年3月まで,被告らにおいて神岡鉱山の坑内作業に従事し,原告Hは,昭和44年11月から平成8年9月まで及び平成15年から平成17年まで被告ら又はその下請会社の従業員として神岡鉱山の坑内作業に従事した。 原告等の中に,被告らにおいて製錬作業に従事した者はいない。また,選鉱作業については,原告Hが下請会社(岡田組)において一時従事していた以外,従事した者はいない(甲B8の4)。 ⑷ 坑内作業の概要(甲A37,38,53,乙A18,168,証人Q,原告A,原告D,原告Hのほか,以下に掲記のもの)坑内作業の概要は以下のとおりである。 ア掘進掘進は,さく岩機によって穿孔した孔に火薬を入れ,これを発破することにより,坑道を掘り,坑道を伸長していく作業である。 穿孔作業発破の際に必要となる自由面を形成するため,引立中心に心抜きと呼ばれる大口径の孔を2ないし4本,さく岩機により開削する。昭和39年当時は手持ち式さく岩機が主体であったが,時代の変遷により機械化や大型化が進み,油圧さく岩機等に替わった。孔を開削する際,発生した繰り粉(岩粉や岩片)は,さく岩機の先端から出る水で孔の外に排出され,残った繰り粉は圧縮空気でエアブローされる。 発破作業穿孔終了 油圧さく岩機等に替わった。孔を開削する際,発生した繰り粉(岩粉や岩片)は,さく岩機の先端から出る水で孔の外に排出され,残った繰り粉は圧縮空気でエアブローされる。 発破作業穿孔終了後,各孔に火薬を装填し,起爆する。 追切り坑道の拡幅や切羽(掘進する先端の現場,行き止まり)の側壁を採掘するために穿孔,発破する作業である。装薬孔1本当たりの起砕される土砂や鉱石の量・大きさは掘進よりもはるかに大きい。 採鉱穿孔・発破により,採掘対象区画を起砕することをいう。 当初の採鉱は,カットアンドフィル採鉱法(レッグさく岩機により天盤や側壁に穿孔し,発破する方法。乙A13)等で行っていたが,トラ ックレスマイニング導入後は,大型さく岩機を搭載したモービルジャンボなどで自由に切羽を移動して穿孔した。また,装薬及び発破は,カットアンドフィル採鉱法の場合は掘進・追切りと同様だが,それより大型の採鉱法の場合は,より多くの火薬を用い,二の方が退業する際に発破した。 イ運搬掘進,追切り,採鉱によって発生した鉱石又は土砂を坑井または採掘後の空間に運搬機械を使って運ぶ作業をいう。採掘した鉱石は各所の鉱石立坑(OR)に投入され,移し替えられるなどして,最終的には,栃洞坑,円山坑の場合は-370Mに,茂住鉱の場合は-500Mに設置された漏斗で抜き出す。 昭和50年にクルーシステム(機械の稼働率向上のため,穿孔を専門に行う者,装薬・発破を専門に行う者,LHD(ロードホールダンプ。甲A2等)でズリ取り又は鉱石取りを専門にする者の三者のクルーに分け,それぞれが複数の切羽を受け持つ方法)が導入されるまでは,一人の作業者がすべての作業を行っていた。 ウ立坑開削立坑とは上下方向に開削し 取りを専門にする者の三者のクルーに分け,それぞれが複数の切羽を受け持つ方法)が導入されるまでは,一人の作業者がすべての作業を行っていた。 ウ立坑開削立坑とは上下方向に開削した坑道であり,用途に応じて,鉱石坑井,土砂坑井(それぞれ,鉱石及び土砂を投入する。),人道(作業者が通路として使用する。),通気坑井(通気のための立坑)がある。立坑開削には,切上り,長孔切上り,レイズボーラー開削がある。切上りは鉛直上向きに掘進を行うものであり,オフセットストーパーというさく岩機を用いて穿孔し,掘進と同様に装薬・発破を行う。圧縮空気とウォータースプレーによる水の放出により,発破の後の有害な後ガスや粉じんを排出させる。長孔切上りは,上部から下部に向かって下向きにさく岩機で穿孔し,下から発破をかけて立坑を伸長させていく方法である。レイ ズボーラー開削とは,大型のさく岩機(レイズボーラー)により,長い距離の立坑を開削する方法であり,通常のさく岩機のように打撃はなく,回転だけで穿孔し,発破作業はない。 トラックレスマイニング導入に伴い,立坑の開削数は減少した。 エ運鉱鉱石を選鉱場まで運ぶ作業であり,具体的には,上記イの運搬で漏斗から抜き出された鉱石をグランビー鉱車に積み,トロリー電車でけん引して選鉱場まで運ぶ作業である。鉱車への積み込みは,漏斗の開閉をコントローラーで遠隔操作するので,原則として手積み作業はない。 オ試錐鉱床探査の一環として円柱状のコア(岩芯)を掘削回収する目的で行われるコアボーリング作業である。コアボーリング機械は圧縮空気又は電動を動力とし,打撃はなく,回転のみで岩石を掘削し,コアを回収する。 穿孔の際は,水を当てながら行い,アンカー孔の掘削には,湿式さく岩機を用いる。 リング作業である。コアボーリング機械は圧縮空気又は電動を動力とし,打撃はなく,回転のみで岩石を掘削し,コアを回収する。 穿孔の際は,水を当てながら行い,アンカー孔の掘削には,湿式さく岩機を用いる。水圧が弱い場合はポンプを設置して給水しながら行う。繰り粉は水と共に孔口から流出する。 カ支柱支保(留め付け)作業,扇風機設置,電灯線・エアー配管,給水配管などの施設の設置,修繕その他補修作業等など,坑内作業全般にわたり他の職種を支援する作業である。この中には,廃さい充填作業(坑外の選鉱工程で発生した廃さいを充填材として,採掘跡を充填する作業),ピックを用いて根掘り(支保枠の安定度を高めるため,岩盤部分に支柱を据えること)や当たり取り(支保枠の据え付けの際,岩盤の出っ張りを削り取ること)を行う作業,ロックボルト打設等の作業がある。 キその他測量(坑道や切羽を測量し,掘進の方向や傾斜,レベル等の測点指標を つけ,図面化する作業),探査(地質調査やボーリングコア鑑定),工作(坑内で使用する鉱山機械や設備,電気配線等の保守・修理)がある。 ⑸ 坑内作業の作業者の職種(乙A168,169,証人Q)神岡鉱山では,坑内作業を行う作業者を以下のように分けていた。 ア進さく員は,坑内にて掘進,追切り,採掘(レッグドリルやモービルジャンボ〔乙A15等〕を使った採掘),切上り作業等に従事する。 イ採鉱員は,採掘切羽・坑道内で採鉱作業や長孔切上り作業等に従事する。 ウ運搬員は,運搬作業に従事する。また,充填用の土砂を土砂坑井から抜き出し,切羽に連絡した土砂坑井に投入し,投入した土砂を採掘跡地に運搬してならす作業にも従事する。 エ運鉱員は,運鉱作業に従事し,中段レベルでの鉱石中出し作業も行う。 砂を土砂坑井から抜き出し,切羽に連絡した土砂坑井に投入し,投入した土砂を採掘跡地に運搬してならす作業にも従事する。 エ運鉱員は,運鉱作業に従事し,中段レベルでの鉱石中出し作業も行う。 オ試錐員は,試錐作業,レイズボーラー開削,簡単な岩石や鉱物鑑定作業に従事する。 カ支柱員は,支柱作業に従事する。 キ測量員は,測量作業に従事し,採掘計画作成補助作業にも従事する。 ク探査員は,現場での探査業務と室内での地質構造解析,地質図作成などの業務に従事する。 ケ工作員は,工作作業に従事する。 コこれらの作業員のほか,坑内,坑外にて作業者への作業指示や安全管理を行う監督職がおり,鉱山保安法に基づく保安係員の資格を有しており,年代により,職員,1級員,主務職,作業長と呼称されていた。また,組長と呼称されるマネージャーもいた。 ⑹ 各作業における粉じん対策及び粉じんの飛散状況等ア穿孔作業(甲A38,乙A168,証人Q,原告Dのほか,以下に掲記のもの)穿孔作業は火薬を充填するための孔をさく岩機であける作業であり,岩 石及び鉱石等をさく岩機で削る際,粉じんが発生する。そこで,被告らは,以下のように,時代に応じて粉じん対策を行ってきた。 神岡鉱山では,当初乾式さく岩機を使用していたが,昭和25年に湿式さく岩機を導入し,昭和29年ころには完全に湿式さく岩機に切り替えられた。湿式さく岩機によって穿孔作業を行うことにより,繰り粉が水と混合されて泥状になるため,乾式さく岩機を使用する場合と比べて,粉じん発生量が大幅に減少した。 その後,昭和31年に手持ち式レッグさく岩機(乙A19)が導入され,昭和30年代後半の主体となった。レッグさく岩機を用いた作業においては,さく岩機の先端が摩擦で熱くなる ん発生量が大幅に減少した。 その後,昭和31年に手持ち式レッグさく岩機(乙A19)が導入され,昭和30年代後半の主体となった。レッグさく岩機を用いた作業においては,さく岩機の先端が摩擦で熱くなるのを防ぐため水が使用され,粉じんと共に削孔の土砂が繰り出されるので,削孔自体から粉じんは排出されなかった。 昭和40年代にトラックレスマイニングが導入された後は,手持ち式レッグさく岩機から,大型湿式さく岩機を搭載したクローラードリル,ジャンボ及び油圧式さく岩機(湿式でのみ使用可能なさく岩機)等の大型重機による穿孔作業に変わり,作業の湿式化が進められるとともに,粉じん発生源と作業者との遠隔化(ジャンボの場合,穿孔箇所から運転席まで,7ないし10m程度離れている。乙A15)も図られた。 また,立坑開削においても,オフセットストーパーという湿式さく岩機を使用するようになり,昭和40年代以降は,クローラードリルを使用した長孔切上り又はレイズボーラー開削に切り替えられた。 以上のように,湿式さく岩機の導入及びトラックレスマイニング導入後の重機の大型化により,粉じん発生源と作業者との遠隔化が進められ,基本的には作業者が粉じんにさらされる機会は減少した。 上記のようにレッグさく岩機を用いた作業においては,削孔自体からの粉じん発生はなかったものの,別の作業者にさく岩機の排気が当た るのを避けるため,さく岩機のマフラーを土平(壁の部分)に向けて作業することにより,土平に付着していた粉じんが,排気に煽られて切羽の中に巻き上がることはあった。 イ発破作業(甲A38,乙A168,証人Q,原告Dのほか,以下に掲記のもの)発破作業は,穿孔作業終了後,削岩された各孔へ爆薬を充填し,岩盤を爆破する作業であり,それ自体が岩石の破砕を行うものであるから 作業(甲A38,乙A168,証人Q,原告Dのほか,以下に掲記のもの)発破作業は,穿孔作業終了後,削岩された各孔へ爆薬を充填し,岩盤を爆破する作業であり,それ自体が岩石の破砕を行うものであるから,瞬間的に相当量の粉じんが発生する。そこで,被告らは,以下のような粉じん対策を行った。 ウォータースプレーによる粉じん沈降発破によって発生する粉じんの飛散防止のため,昭和20年ころから,圧縮空気によって水を噴霧するウォータースプレーが切羽ごとに設置され,使用された。これは,発破前に圧縮空気と水のホースを足場先端部に固定し,発破後,バルブ操作して圧縮空気で水を噴霧させ,粉じんの沈降を促し,併せて有害な後ガスを排出するというものである(乙A21,24,25)。 ウォータースプレーによる粉じん除去は,昭和30年代に,適切な使用方法によって,発破後5分程度で,粉じんの90%程度の除去が可能なレベルとなった旨の実験結果が報告されていた。なお,当該実験に使用された噴霧用ノズルは,神岡鉱山で考案され,使用されたものであった(乙A22,24)。また,昭和53年頃には,適切な条件下において噴霧散水をすれば,坑道発破の場合5ないし15分程度で,更に切羽発破の場合でも15ないし25分程度で,ほぼ作業前の環境状態にまで粉じん濃度を低下させることができるとの実験結果が報告されていた(乙A23)。そして,昭和60年ころには,さく岩機の大型化に対応してウォータースプレーも大型化し,頑丈なものになった(乙A25)。 もっとも,被告らの保安規程(乙A17。昭和33年1月変更認可版)には,「坑道掘進,切上作業等,多量の火薬類を使用し,ガス沈滞のおそれある箇所で発破を行い,引続き作業するときは,発破後スプレーにより撒水したのちでなければ作業に就 17。昭和33年1月変更認可版)には,「坑道掘進,切上作業等,多量の火薬類を使用し,ガス沈滞のおそれある箇所で発破を行い,引続き作業するときは,発破後スプレーにより撒水したのちでなければ作業に就いてはならない。」との定め(72条)はあるものの,ウォータースプレーの設置場所,使用するノズルの型,口径,個数,散水時間等を具体的に定めていたとは認められない。 また,被告らが作成した保安規則・規程・対策集の小冊子(乙A44。 昭和50年ころ)でも,「発破終了後の処置」の項の「規則」欄には「有害ガスの除去」等,「対策」欄には「エアーを吹かし,有害ガスを除去する。出来るだけスプレーを使う。」と記載されるに止まり,必守項目集(作業標準)(乙A45。昭和60年ころ)でも,「〔1〕発破作業,5 結線」の項で「発破後のスプレーをセット」,「9 発破終了後の処置」の項で「スプレーを使って有害ガスを除去」との記載にとどまっている。上記の各記載からすれば,発破後のウォータースプレーは,粉じん沈降のためというよりも,主として有害ガス対策の観点から設置,運用方法が定められたものであると考えられ,粉じん沈降の目的に沿った設置や運用が実施されていたとは当然には認められず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。被告三井金属が昭和33年ころ特許申請をしたスリット型スプレー(噴霧用ノズル)が粉じんの沈降を目的として開発されるなどしたものであること(乙A22ないし24)は,以上の認定,判断を左右するものではない。 散水発破後,崩落・落石を防止するための天盤や側壁の浮石払い(脱落しそうな状態で残った岩石を長尺の鑿で落とすこと),鉱石やずりの運搬に先立ち,天盤,側壁,起砕鉱石に対し,散水が行われる。散水は,さく岩機用のホースを用いて行われた。 も 石払い(脱落しそうな状態で残った岩石を長尺の鑿で落とすこと),鉱石やずりの運搬に先立ち,天盤,側壁,起砕鉱石に対し,散水が行われる。散水は,さく岩機用のホースを用いて行われた。 もっとも,粉じんの飛散を防止するためには,散水を一定程度の時間継続する必要があったが,作業員らは次の工程に早く移動するため,あるいは,土砂の中まで浸潤してしまうと土砂取りの作業が重労働になるため,それを避ける目的等もあったことから,実際の散水は,3ないし5分程度,土砂の表面を湿らせるくらいにとどまるなど,十分な散水が行われているとはいえなかった。 この点,被告らの保安規程(乙A17)には,粉じん防止を目的として,岩盤その他粉じんの発生し易い場所には注水,散水しなければならないことが定められている(71条)ものの,それ以上詳細な定めはなかった。さらに,被告らの保安計画(乙A46・もっとも平成10年のもの)には坑内粉じん対策の項目が設けられ,散水の励行が規定されているものの,保安日誌(乙A47,48)に掲げられた保安係員が各現場を巡回する際の確認項目に,「散水」の項目はなかった。 このような規程や管理状況下にあって,親方や保安係員から,具体的な散水時間や散水方法等についての指示や指導はなく,散水に関する被告らの指示・指導も厳重なものではなく,その指導は徹底していなかった。 退避時間の確保と粉じんの希釈・排除作業員は,前記のウォータースプレーによる粉じんの沈降のほか,圧縮空気によるエアーブローや局部扇風機による送風での後ガス排除の後,発破箇所に入り,散水作業をした。 被告らの保安規則・規程・対策集(乙A44)においては,「発破終了後の処置」として,坑道掘進の発破の場合,10m先が見通せないうちは発破箇所に近づかないように定められていた。 り,散水作業をした。 被告らの保安規則・規程・対策集(乙A44)においては,「発破終了後の処置」として,坑道掘進の発破の場合,10m先が見通せないうちは発破箇所に近づかないように定められていた。また,トラックレスマイニングやクルーシステムの導入により,進さく員が複数の切羽を担当するようになってからは,発破後の退避時間をより長く取れるように なり,また,新たな作業方法の導入などにより,長孔発破は二の方退業時に実施し,無人となる夜間を排気時間として後ガスや粉じんを排除したり,本足場切上り等の場合は,発破後に昼食休憩又は次の方の作業者と交替するなど,作業員の粉じん曝露を防止するため,作業内容の改善が図られた。 もっとも,後述のように,進さくの作業員には「標準工程」が設定され,これに対する実際の実績作業量として「伸び」が測定され,これが能率給に反映されるという実態があったこと,あるいは親方からの指示もあり,上記退避時間を守らず,粉じんが収まりきらない内に切羽に戻り,作業を継続することもあった。 以上のように,被告らは,散水・噴霧を行ったり,退避時間の確保の規定を定めたり時代に応じて作業方法を工夫したりするなどして,発破作業による粉じんの発生・飛散防止対策を図ったことは認められるものの,発破作業において粉じんが発生することはなお避けられない中で,規程等による作業方法の運用,管理を徹底していたとはいえず,粉じんが飛散する環境での作業が行われていたと認められる。 ウ運搬作業(甲A38,乙A168,証人Q,原告Dのほか,以下に掲記のもの)運搬作業は,鉱石やずりを運搬機械に積み込む作業,運搬機械でこれを立坑まで運ぶ作業及び鉱石やずりを立坑に投入する作業に区別されるところ,それぞれの作業において粉じんが発生した。そこで,被告ら の)運搬作業は,鉱石やずりを運搬機械に積み込む作業,運搬機械でこれを立坑まで運ぶ作業及び鉱石やずりを立坑に投入する作業に区別されるところ,それぞれの作業において粉じんが発生した。そこで,被告らは,以下のような粉じん対策を行った。 散水しやすい箇所に注水,散水しなければならないと定められており,作業員は,鉱石やずり等を積み込む前,散水するように指導を受けていた。 しかしながら,粉じんの発生・飛散を防止するために鉱石やずりを十分湿潤状態にするには相当の時間を要する上,水分を多く含んだ鉱石やずりの積み込みや運搬の作業はその重量により相当な困難を伴うため,実際には,土砂の表面は湿潤させるものの,内部は乾いた状態のまま運搬され,その際に粉じんが発生することもあった。 また,大量に水分を含んだ土砂を立坑に落とすと,立坑の下に設置されたじょうご(漏斗)から土砂が土石流のようにあふれて事故になる危険があり,実際に死亡事故も起きたことがあった。そのため,親方は作業員に対し,立坑に水を入れてはいけない旨指導していたが,現場ではこの指導を,鉱石やずりに多量の散水をするなと理解していたことが窺われる(原告D等)。このように,散水は作業効率と相反する面もあり,保安係員が作業員に対し,各現場において散水するよう注意はしていたものの,粉じん対策として十分な散水を作業員に徹底させるような具体的な散水方法の指導がされていたとはいえず,指導としては徹底していなかった。 大型重機の導入等トラックレスマイニングの導入前,作業員は,手積み作業によって鉱石やずりを掻き集めていたが,その後,ローダー(ずり積機)によって鉱車に積み込むようになった。その際,鉱車に積み込まれた鉱石やずりを杓子で均す作業をしなければならなかったが,その作業時に多く て鉱石やずりを掻き集めていたが,その後,ローダー(ずり積機)によって鉱車に積み込むようになった。その際,鉱車に積み込まれた鉱石やずりを杓子で均す作業をしなければならなかったが,その作業時に多くの粉じんが発生した。また,中段開坑の場合は鉱車が使用できないため,スクレーパーで土砂を立坑まで掻き寄せるが,ある程度距離が延びるまでは,手作業で土砂を運ぶ必要があり,その際にも多くの粉じんが発生していた。 トラックレスマイニングの導入に伴い,積込み機と運搬機の両方の機能を併せ持った自走式のLHD(ロードホールダンプ)やスクープ トラム等による運搬が主流となった。その後,時代と共にこれらの重機も大型化し,バケットの先端と運転席との距離が大きくなったり,あるいはリモコン化の普及により,作業者は遠隔操作で鉱石等の積み込みができるようになるなど,粉じん発生源と作業者との遠隔化がより進んだ。また,トラックレスマイニングの導入により,主要坑道をコンクリート舗装して運搬重機の走行時の揺れを抑え,鉱石等のこぼれ落ちを防ぐこともできるようになった(乙A18)。 もっとも,土砂をすくったスクープトラム等のバケットを揺すったり,重機が走行する振動でも粉じんが発生することがあった。 ベルトカーテン鉱石やずりを投入する坑井に,ベルトカーテンを取り付け,粉じんが他のレベルの坑道や投入するレベルの坑道に拡散することを防止した。ベルトカーテンは,幅80cm程度のスチールベルト(1㎡当たり17㎏)を縦型ブラインドのように8枚程度重ね合わせて坑井投入口を塞ぐようにつり下げたものであり,LHD(ロードホールダンプ)のバケットで押し込むと開き,投入後にバケットを引くと元に戻って自然に閉じるものであり,これにより,投入する際の粉じんの発生や,各レベルの坑道へ につり下げたものであり,LHD(ロードホールダンプ)のバケットで押し込むと開き,投入後にバケットを引くと元に戻って自然に閉じるものであり,これにより,投入する際の粉じんの発生や,各レベルの坑道への粉じんの飛散の防止に一定程度の効果があった(乙A18,27)。 もっとも,投入の開閉の際,スチールベルトの隙間から粉じんが漏れることは避けられず,ベルトカーテンによる粉じんの遮断効果は必ずしも十分とはいえなかった(甲A37,弁論の全趣旨)。 ウォーターカーテン粉じんの飛散防止のため,坑道の途中に,ミストのスクリーンであるウォーターカーテンが設置された(乙A28)。栃洞鉱では昭和50年代から,茂住鉱では昭和63年頃から設置され,立坑付近でバル ブの開閉によって使用するなどして使用された。 もっとも,ウォーターカーテンは,粉じんの飛散防止として一定程度の効果はあったものの,そもそも設置数が多くはなかった(乙A200,原告A,原告H)上,常時稼働せずに止まっていることもあり,十分に効果を発揮していないこともあった。 以上のとおり,被告らは,散水やウォーターカーテン等の設置を行ったり,大型重機の導入によって粉じん発生源からの遠隔化を図ったりするなどして,運搬作業による粉じんの発生・飛散防止対策を行ったものの,運搬作業において粉じんが発生することを防止するに足りる設備の十分な設置や運用が実施されていたとはいえず,坑内に粉じんが飛散する状況であった。 エ支柱(甲A67,68,乙A168,証人Qのほか,以下に掲記のもの) 前記のとおり,支柱員は,坑道や切羽の維持を目的とした木枠や銅枠等の留め付けを設置する支保作業や配管や電線の設置その他補修作業などを行い,その作業内容は広範である。 支柱員は,ピックハン 前記のとおり,支柱員は,坑道や切羽の維持を目的とした木枠や銅枠等の留め付けを設置する支保作業や配管や電線の設置その他補修作業などを行い,その作業内容は広範である。 支柱員は,ピックハンマー(岩盤の岩目等の弱線部にタガネを当て,振動で割る乾式の機械)を使用して,根掘り(支保枠を据え付ける岩盤部分に穴を堀り込む)や当たり取り(支保枠の据え付けに支障が出る岩盤の出っ張りを削り取る)作業を行った(乙A29)。 ピックハンマーでの作業においては,タガネの滑りを防止するため,水を使用しなかった。また,作業時間は短いこともあれば,岩盤や場所によっては半日程度を要することもあったため,多くの粉じんが発生することもあった。また,ピックハンマーの全長が約80㎝と短く,掘る場所に顔を近付けることになるため,防じんマスクの隙間があると粉じんを吸入してしまう状況であった。 鉄板坑井では,鉄板に付着した鉱石を削ぎ取り,新たな鉄板を溶接す る作業を行ったが,その際,鉱石を下に残した状態で作業を行っていたため,立坑の通気が遮断された。しかし,エアーを吹かすと粉じんが舞い上がるため,あまりエアーを吹かすことはなく,結局,作業箇所周辺に溶接の煙と粉じんが発生したままであることがあった。 さらに,打替(切上りにおいて,人道と鉱石立坑を隔てるための板)外しの作業においては,楢板をハンマーでたたき割って外すという作業をしていたが,その際にも粉じんが発生した。しかし,運搬作業の場合と同じく,「立坑に水を入れるな」との指導があったことから,立坑内で十分な散水はされていなかった(甲A67,68)。 なお,支柱作業は,基本的には進さく作業と同時に行うことはなく,また,上記ピックハンマーを使用しない作業も多数あり,比較的粉じんにさらされる機会 十分な散水はされていなかった(甲A67,68)。 なお,支柱作業は,基本的には進さく作業と同時に行うことはなく,また,上記ピックハンマーを使用しない作業も多数あり,比較的粉じんにさらされる機会の少ない作業も多かった。もっとも,上記のとおり,粉じんが発生する作業もあった上,坑内作業であるため,進さく,採鉱,運搬等その他の作業によって飛散した粉じんを吸入することもあった。 オ試錐(甲A37,乙168,証人Q,原告A)前記のとおり,試錐作業では,さく岩機で打撃と回転で孔を穿つのとは異なり,コアボーリング機械で回転によって岩石を掘削するため,機械先端のタガネが焼けるのを防止すると共に,繰り粉の詰まりも防止するため,十分な水を使用する。よって,基本的に,試錐作業で粉じんが発生することはなかった。 しかし,やはり坑内作業であったため,進さく,採鉱,運搬その他坑内作業によって坑内に飛散した粉じんを試錐員が吸入することはあった。 カ工作(甲A38,弁論の全趣旨)前記のとおり,工作は,坑内で使用する機器の製作や,機械の補修などを行う作業である。トラックレスマイニングの導入前は,切羽で修理を行っていたため,進さく,採鉱,運搬その他坑内作業によって坑内に飛 散した粉じんを吸入する状況にあり,また,粉じんが付着した機械修理を行う際にその粉じんを吸入することもあった。特に茂住鉱においては,-500M付近にあるピット(重機等の点検・修理等をする場所)に粉じんが集まり,多くの粉じんにさらされることもあった。 ⑺ 通気についてア保安規則によれば,「坑内作業場の気流及び通気量に関し,発破の煙及び有毒ガスを薄めて運び去るために必要な速度と量でなければならない」と規定されていたが(81条),その後,坑内を内燃機関が多く稼働するようにな よれば,「坑内作業場の気流及び通気量に関し,発破の煙及び有毒ガスを薄めて運び去るために必要な速度と量でなければならない」と規定されていたが(81条),その後,坑内を内燃機関が多く稼働するようになった事情を踏まえ,昭和51年通商産業省告示第54号により,同条は「可燃性ガス,有毒ガス及び発破の煙を薄めて運び去るために必要な速度と量でなければならない」と改訂され,併せて「坑内における車両系鉱山機械又は自動車の作業箇所又は運転箇所の通気量は,別に告示で定める量以上でなければならない」(81条の2)と規定された。 イ通気の方法には,坑内と坑外の温度差及び坑口間の標高差(気圧差)によって生じる空気の流れに基づいて,全坑道にわたる系統的な通気を考える自然通気と,自然通気の季節的変動や1日の気温変化に伴う通気の変動を補い,さらに,自然通気だけでは十分な通気が得られない末端の坑道での通気を確保することをも目的として,各所に設置する大小扇風機及び圧縮空気による補完的な強制通気がある。 被告らは,自然通気を基本とした上で,強制通気で補完するという通気方法を採用していた(弁論の全趣旨)。 ウ自然通気(乙A20,168,証人Q,弁論の全趣旨)神岡鉱山は,鉱山の上下に高低差のある坑口があるため,冬は冷えた外気が下の坑口から入気し,坑内で温度が上昇して軽くなった空気が上の坑口や立坑の開口部から排気され,夏はこの逆になる。 もっとも,神岡鉱山は,主要な坑道から多数の坑道(ブランチ)が複雑 に枝分かれしており,主要な坑道は長く,曲がっているものもあり,坑口の数も多くはなく,行き止まりが多かった。また,トラックレスマイニング導入前に立坑は数本あったものの,通気立坑は存在しなかった。 よって,自然通気が十分には届かない場所があり,また,そもそも温度 口の数も多くはなく,行き止まりが多かった。また,トラックレスマイニング導入前に立坑は数本あったものの,通気立坑は存在しなかった。 よって,自然通気が十分には届かない場所があり,また,そもそも温度差が少ない春季及び秋季の自然通気は,夏季及び冬季と比較すると弱くなるなど,十分な通気量が確保できなかった。トラックレスマイニング導入後は,斜坑の設置や坑道の径の拡大により,通気が改善したものの,その後も,自然通気のみでは粉じんの除去という観点から十分な通気が得られない状況であった。 エ強制通気(乙A20,168,証人Q,弁論の全趣旨)被告らは,自然通気が不十分であることを前提として,昭和20年代から局部扇風機(坑道の中に設置される小型扇風機で,風管により通気の必要な箇所に送風するもの。乙A11)を,遅くとも昭和40年代には主要扇風機(坑道全断面を塞ぐ定置式の大型扇風機)を,栃洞坑の-370Mに50馬力のもの,円山坑の+200Mに130馬力のもの,茂住鉱の-320M増谷坑口に100馬力のもの,-320M跡津坑口に130馬力のものをそれぞれ設置した。また,トラックレスマイニング導入後は,大型重機の稼働頻度の高い場所などにおいて,コントラファン(高圧力軸流ファン)を開発・採用し,風管は通気抵抗が小さく漏風の少ない大口径の風管を使用するようになった(乙A168)。 もっとも,風管にせよ局部扇風機にせよ,いずれも風を送るだけであり,集じん機能はなかった。また,主要扇風機の中には常時使用されていないものもあり,更に冬季は外気からの通気と同一の風向であったが,夏季は逆の風向になり,効果が弱くなることもあった。 オ被告らは,昭和54年下期及び同55年上期に実施された栃洞坑,茂住坑の自動車又は車両系鉱山機械の運転箇所の通気及びガス測定結果(乙A が,夏季は逆の風向になり,効果が弱くなることもあった。 オ被告らは,昭和54年下期及び同55年上期に実施された栃洞坑,茂住坑の自動車又は車両系鉱山機械の運転箇所の通気及びガス測定結果(乙A 12の1・2)を提出し,これにつき,証人Qは,入気坑口,排気坑口の風量を測定したものである旨説明する。しかし,かかる測定結果では,原告等の従事した各作業環境において保安規則が必要とする通気が確保されていたと判断できるものではないし,定期報告されるものである(証人Q)にもかかわらず,他の期の測定結果は明らかにされていないことからも,原告等の坑内作業環境として通気が確保されていたことを裏付けるものとは到底評価できない。 カ以上によれば,自然通気に加え,被告らは主要扇風機及び局部扇風機等を設置して通気を図ったものと認められるものの,原告等が従事する粉じん作業の現場において,粉じんの除去の観点から十分な通気量が確保されていたとは認められない。 ⑻ 集じん及び廃じん神岡鉱山の坑内においては,集じん機や廃じん機が設置されていたことを認めるに足りる証拠はない。 ⑼ 粉じんの有無・濃度の測定や環境状態の評価についてア昭和63年の保安規則の改正により,坑内作業場における粉じん測定については,6月以内ごとに1回,定期に,作業場における空気中の粉じんの濃度及び当該粉じん中の遊離けい酸の含有率を測定しなければならないとされた(220条の6第1項)(弁論の全趣旨)。 イ証拠(乙A6,38,169)によれば,被告らは,昭和63年に坑内作業場における粉じん測定が義務付けられる前から,粉じん測定器の開発等に取り組んでいたことが窺われ,また,証拠(乙A40の1ないし26)によれば,被告神岡鉱業は,平成2年以降,坑内における粉じん 内作業場における粉じん測定が義務付けられる前から,粉じん測定器の開発等に取り組んでいたことが窺われ,また,証拠(乙A40の1ないし26)によれば,被告神岡鉱業は,平成2年以降,坑内における粉じん測定を,年2回定期的に実施していたことが認められる。しかし,平成2年以前に,坑内において定期的に粉じん量の測定を行ってきたことを認めるに足りる証拠はなく,当該証拠を提出しない合理的な理由の説明もない。 ウまた,被告らが提出した上記平成2年度以降の測定結果によっても,平成2年下期に36箇所中2箇所,平成3年上期に34箇所中9箇所,平成3年下期に45箇所中7箇所,平成4年上期に40箇所中16箇所,平成4年下期に42箇所中8箇所,平成5年下期に28箇所中5箇所,平成6年上期に20箇所中3箇所,平成6年下期に19箇所中3箇所,平成7年上期に14箇所中1箇所,平成7年下期に12箇所中1箇所,平成8年上期に9箇所中4箇所,平成8年下期に10箇所中2箇所,平成9年下期に10箇所中3箇所,平成10年上期に6箇所中1箇所,平成11年上期に11箇所中1箇所,平成12年上期に6箇所中2箇所において,測定値が管理濃度(行政通達〔乙A39〕によって作業場の粉じん濃度を一定水準以下に保つための目標値として定められたもの)を上回っていることが認められる上,平成に入ってもなお管理濃度以上の測定結果である第2又は第3管理区分が存在し続けたことが認められる。 被告らは,測定方法に関する技術的限界等から,提出した測定結果について,信頼性は不十分であるとしつつも,その都度必要とされる措置を講じ,粉じん濃度の改善に努めてきたことを表している旨主張するが,法規制によって何らかの環境改善が必要とされる第3管理区分に至っている箇所は,平成2年下期6箇所,平成3年上 の都度必要とされる措置を講じ,粉じん濃度の改善に努めてきたことを表している旨主張するが,法規制によって何らかの環境改善が必要とされる第3管理区分に至っている箇所は,平成2年下期6箇所,平成3年上期15箇所,平成3年下期16箇所,平成4年上期20箇所,平成4年下期14箇所に上ること,改善策として散水強化をした旨述べる(乙A40の1ないし26,169,証人R)ものの具体的な実施策の内容やその評価が明らかでないことなどからすれば,被告らの上記主張は採用することができない。 3 作業環境の管理に関する義務について(その2・評価及び判断)⑴ 各作業における粉じんの発生及び飛散の防止について,前記認定事実によれば,被告らは神岡鉱山において,比較的早い段階から湿式さく岩機を導入して穿孔作業の湿式化を図ったことや,トラックレスマイニングの導入に伴 った大型重機の導入が進み,穿孔,発破及び運搬の各作業について作業方法そのものの改善も図られたため,粉じんの発生・飛散の抑止及び粉じん発生源からの遠隔化が進み,作業員が粉じんにさらされる機会はたしかに減少していったものといえる。しかしながら,昭和30年代から40年代にかけて主体とされたレッグさく岩機の使用に伴って粉じんが巻き上がることもあったものと認められ,トラックレスマイニング導入後も,発破作業や運搬作業等において,なお相当量の粉じんが発生し,坑内に飛散することはあったと認められる。 ⑵ 粉じん発生源に対する散水や噴霧等について,前記認定事実によれば,発破作業においては,浮石払い,鉱石やずりの運搬・移動あるいは残留火薬の点検等の目的でそれぞれ散水が行われ,運搬作業においても,最初の積み込みの際に鉱石やずりの表面を濡らす程度の散水は行われていたものの,粉じんの発生・飛散を防止するため の運搬・移動あるいは残留火薬の点検等の目的でそれぞれ散水が行われ,運搬作業においても,最初の積み込みの際に鉱石やずりの表面を濡らす程度の散水は行われていたものの,粉じんの発生・飛散を防止するために必要な散水が十分に行われているとはいえなかったと評価できる。 この点,たしかに,被告らにおいて,早い段階でウォータースプレーやウォーターカーテン等を導入するなど,時代に応じて一定の対策を講じていたことは認められる。しかしながら,ウォータースプレーについては,被告らの保安規程にその設置場所,ノズルの様式や散水時間等について具体的に定めた規定はないことから,十分な効果を上げられるように適切に使用されていたと認められることはできないし,ウォーターカーテンについてもその設置箇所は限定的で,有効に使用されていないこともあった等,十分に効果を発揮できていなかったというべきである。 そして,散水に関しては,指示に対する作業員の理解も不十分なままであったり,作業効率の面から散水が適切に行われない実態があったにもかかわらず,保安係員の保安日誌等にも具体的なチェックを行っていたことなどの記録はなく,厳重な指示,指導が行われていたとも認められないことは前記 認定のとおりであり,散水に関する被告らの指導・監督は徹底していなかったというほかなない。 ⑶ また,適切な通気の確保や集じん機等の設置という点について,前記認定事実によれば,被告らは,自然通気に加え,主要扇風機や局部扇風機を設置するなど,一定の対策を採ったことは認められるものの,十分な通気量が確保されていたと認めるに足りるものではなく,他に強制通気や集じん等のための措置が講じられたことも窺われないなど,通気対策は十分ではなかったというべきである。 ⑷ 加えて,粉じん濃度の測定についても,被 ていたと認めるに足りるものではなく,他に強制通気や集じん等のための措置が講じられたことも窺われないなど,通気対策は十分ではなかったというべきである。 ⑷ 加えて,粉じん濃度の測定についても,被告らは少なくとも保安規則が改正された昭和63年以後平成2年より前の間,定期的な濃度測定を行っていたとは認められない。また,各作業環境における粉じん濃度を把握し,これを適切に評価することは,使用者が必要な粉じん対策を講ずるために要求されるところというべきであるが,粉じん測定結果の経過をみても,被告らにおいて対策として行った散水強化の方策や評価も不明であるなど,測定結果を踏まえた粉じん対策,作業環境の改善が図られていたとは解されない。そうすると,被告らは,粉じん測定を適切に行い,これに基づいて有効適切な粉じんの発生・飛散防止についての対策を取ったり,その効果を評価するなどの作業環境の管理義務を尽くしていなかったというべきである。 ⑸ 以上のとおりであるから,被告らは,作業環境の管理に関する安全配慮義務を適切に果たしていなかったと評価せざるを得ない。 4 作業条件の管理に関する義務について⑴ 認定事実前記前提事実,証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア労働時間及び休憩所等の設置について証拠(乙A58)及び弁論の全趣旨によれば,神岡鉱山において,坑内 作業者の年間所定内労働時間は,昭和48年度までは2086時間,昭和49年度から平成3年度までは1918時間,平成4年度以降は1899.5時間となり,労働時間は減少していることが認められる。 また,弁論の全趣旨によれば,作業員は坑口から坑内事務所まで移動し,坑内に設置された事務所で更衣し,作業指示等を受けた後,作業現場ま 99.5時間となり,労働時間は減少していることが認められる。 また,弁論の全趣旨によれば,作業員は坑口から坑内事務所まで移動し,坑内に設置された事務所で更衣し,作業指示等を受けた後,作業現場まで移動していたこと,坑内事務所(食堂も含む)が全て坑外に移設されたのは,栃洞坑・円山坑では昭和62年,茂住坑では平成4年であり,坑外に事務所が移設された後は,作業員は坑外事務所で更衣・作業指示を受けてから入坑するようになり,坑内での滞留時間は減少したことが認められる。もっとも,証拠(甲A38,原告A,原告D)及び弁論の全趣旨によれば,作業員は,休憩の際には食堂において食事や休憩を取っていたが,上述のとおり食堂は昭和62年又は平成4年まで坑内に設置されており,入室前に水場で泥を落としたり作業服に付着したほこりを手で払い落す程度であり,粉じんを除去した状態で入室していたわけではないこと,作業着を乾燥させたり保温したりするために食堂には電熱器が設置されており,比較的乾燥して粉じんの飛散し易い状態であったことなどが認められる。なお,証拠(乙A168)には食堂や更衣室に散水して粉じんの二次飛散を防止した旨の部分もあるが,具体的な散水状況を述べるものではなく,上記認定事実に照らしても,少なくとも散水により室内全体が常時湿潤な状況に保たれていたとは認められない。 そうすると,各種の粉じん作業現場に対する防じん対策が十分といえない前述の状況下において,坑内に設置された食堂内での休憩中も,粉じんの飛散することのある状況だったと認められるというべきである。 なお,証拠(乙A169)及び弁論の全趣旨によれば,食堂には空気清浄機が置かれていたが,これは粉じんの除去を目的としたものではなく,煙草の煙対策であったことが認められる。 イ能率給に 証拠(乙A169)及び弁論の全趣旨によれば,食堂には空気清浄機が置かれていたが,これは粉じんの除去を目的としたものではなく,煙草の煙対策であったことが認められる。 イ能率給について証拠(乙A59,60,169,212,証人R)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 神岡鉱山における賃金体系坑内作業者の給与は,基準内給与と基準外給与によって構成され,基準内給与には年齢に比例する本給と加給,職務遂行能力に応じた職能給(坑内能率給等)等のほか,能率給(坑内)(以下「坑内能率給」という。)が存在した。本給(月額)は年齢,勤続年数によって定められるもの,職能給(月額)は技能の高さや年功に基づくもので,本給は給与の30%,職能給は40%を占めていた。また,坑内能率給(日額)は作業給に相当し,作業種ごとに定められ,給与の30%を占めていた。 坑内能率給について坑内能率給は作業種に応じて標準額が定められていたが,中でも,労働の成果が量的質的に直接把握できる掘進,切上り,採鉱,切羽運搬の作業については,箇所ごとに標準工程が設定されていた。標準工程とは,標準の能力を持つ作業者がすべての安全施策や遵守事項を励行して十分達成できる作業能率のことであり,m/工,トン/工で表され,月初めに「賃率表」として職場に掲示される。そして,月末に測量員が作業箇所の「伸び」(実績作業量)を測定し,これを基に経理課が,実績工程を標準工程で除した「伸び率」に能率給の標準額を乗じた「実績能率給」を算定し,これに基づいて坑内能率給が支払われた。上記坑内能率給については労使協定により,坑内能率給支給細則として定められていた。 進さく員は,標準工程を大きく超えて新記録を達成すると社内表彰を受け,金一封が支給されることもあった。また, れた。上記坑内能率給については労使協定により,坑内能率給支給細則として定められていた。 進さく員は,標準工程を大きく超えて新記録を達成すると社内表彰を受け,金一封が支給されることもあった。また,標準工程の達成率は,事実上,基本給の昇給や,作業員のみならず監督員の給料にも影響を及ぼす場合もあった。 作業員は,上記のような標準工程の設定や坑内能率給の存在等により,標準工程の達成や他の作業員との競争を意識して作業に従事することになりがちであり,休憩時間を惜しんで作業を継続したり,散水等の粉じん対策の確実な実践を疎かにするなどの状況が生じていた。実際,証拠(甲A52の3,18ないし20,27,33,39,50)及び弁論の全趣旨によれば,少なくとも作業員は,標準工程をノルマとして捉えていたこと,労働組合は,坑内能率給や標準工程について繰り返し取り上げ,問題として指摘していたことが認められる。 ウ防じんマスクの支給及びその適切な使用法の指導・監督前記前提事実,証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 法令上,粉じん作業を行わせる事業主には防じんマスクを備え付け,又は作業者に使用させる義務があり,作業者は防じんマスクを着用する義務がある(労働安全衛生法22ないし24条,26条,27条,労働安全衛生規則593条,597条,保安規則478条,480条等)。 そして,国は,じん肺対策には防じんマスクの高性能化が重要であるとして,昭和25年から防じんマスクの国家検定制度を導入し,作業者に着用させるべき防じんマスクの基準を設け,技術の進歩に合わせて改正していった。 被告らは,時代に応じ,国家検定制度に合格した防じんマスクを,作業種に応じて導入し,全員に無償貸与してきた(乙A6,31ないし き防じんマスクの基準を設け,技術の進歩に合わせて改正していった。 被告らは,時代に応じ,国家検定制度に合格した防じんマスクを,作業種に応じて導入し,全員に無償貸与してきた(乙A6,31ないし36)。また,昭和58年には,LHDのオペレーターに対し,空気ボンベを搭載し,粉じん及び排気ガスを完全に遮断するエアラインマスクも導入した(乙A168)。 また,被告らは,マスクについて,坑内の各食堂にマスクの乾燥箱を設けたり,不具合が生じれば,作業員の申し出に応じて交換したりし ていた。被告らの保安係員は,勤務時間内に1回以上自分の担当している作業箇所を巡視して保安日誌(乙A47,48)を付けることを義務付けられていたが,保安日誌には「保護具」(マスクも含む)のチェック欄が設けられていたこともあって,作業員がマスクを着用していなければ着用するように指導していた。さらに,親方が子方に対し,マスク着用を指導することもあった(原告D)。 原告等を含む作業員は,基本的には防じんマスクを着用して作業を行っていた。しかしながら,マスクの形状が個々の作業員の顔に十分フィットせず隙間ができることがあり,その隙間から粉じんが入ることがあったり,使用するにつれてゴムが伸びたり,乾燥室の熱でマスク本体のプラスチック部分が変形したりして,顔に密着しないこともあった。 また,坑内作業は重労働であったため,息苦しくなったり,小休憩や水を飲んだりする場合には,呼吸を整えるためマスクを外さざるを得ないこともあった上,他の作業員と打合せ等をするためにマスクを外して会話をするなど,坑内作業中にマスクを外すことも度々あった。 支柱員に対しては,進さく員や採鉱員などと異なるマスクが支給されたが,やはり顔に密着せず,隙間から粉じんが入ってくることがあった(甲 話をするなど,坑内作業中にマスクを外すことも度々あった。 支柱員に対しては,進さく員や採鉱員などと異なるマスクが支給されたが,やはり顔に密着せず,隙間から粉じんが入ってくることがあった(甲A2,52の23・44等,A67,68,原告A,同D)。 ⑵ 評価・判断先に認定したとおり,被告らの粉じん対策により坑内の粉じんの発生は一定程度抑えられていたものの,なお坑内の各作業において相当程度の量の粉じんの発生が避けられない状況であったといえるところ,保安規則220条において,著しく粉じんが飛散する坑内作業場に就業している鉱山労働者を休憩させるときは,粉じんが飛散しない場所において休憩させなければならない旨定められ(甲A65),これを受けた被告らの昭和55年8月当時の保安規程29条2項も,鉱山労働者は休憩をする場合粉じんが発散しない場 所において,休憩しなければならない旨定めていることに照らしても,遅くとも昭和55年以降,被告らが坑内の食堂において原告等を休憩させていたことは不適切であり,安全配慮義務を尽くしたとはいえないものであったというのが相当である。 また,被告らの賃金における坑内能率給が実績に応じた賃金であったことなどから,少なくとも労働者たる作業員の意識として,実績評価の重視や競争意識を強めさせることとなり,粉じん除去作業が軽視されがちな状況があったと認められるが,その改善のために特段有効な見直しや対策がとられたとも認められない。 さらに,防じんマスクについても,時代に応じて国家検定制度に合格した防じんマスクを無償で支給し,その着用を義務付けてはいたものの,実際には,防じんマスクの構造上の問題や作業の際の息苦しさ等から十分に有効・適切な着用がなされていたとはいえないところ,被告らにおいてかかる実態が把 無償で支給し,その着用を義務付けてはいたものの,実際には,防じんマスクの構造上の問題や作業の際の息苦しさ等から十分に有効・適切な着用がなされていたとはいえないところ,被告らにおいてかかる実態が把握できなかったとは考え難い。坑内作業場において粉じんの発生,飛散を防止し難い状況にあったことからすれば,粉じん対策としての防じんマスクを常時着用する必要性は高かったというべきである。そうすると,被告らにおいては,マスクの着用による息苦しさ等の不具合や小休憩の取り方などの実態の把握や適切な指導をした上で,十分に作業員らに粉じん対策としてのマスク着用について指導し,使用実態を監督すべき義務があったというべきである。しかるところ,被告らも防じんマスクの着用について指導,監督をしていたことは後述の教育の点を含めて認められるものの,指導監督は徹底されているとはいえない状況であったといわざるを得ない。 以上によれば,被告らは,作業条件の管理に関する安全配慮義務についても,これを適切に果たしていなかったと評価されるというべきである。 5 健康の管理に関する義務について⑴ 認定事実 証拠(乙169,証人Rのほか,以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 アじん肺教育について神岡鉱山においては,新入作業員に対し,保安心得,作業概要,保安規程や作業心得,工具や保護具の使用法について等,一般的な就業時教育(保安規程付表第2表第10条の5)を実施しており,その際に,防じんマスクの着用についても教育が行われていた(乙A43)。また,在籍中においても,ベテランの保安係員ら監督者等が,日常の巡視の際にマスクの着用について教育・指導するほか,毎年7月の保安週間,10月の労働衛生週間の際に,保安,衛生レ れていた(乙A43)。また,在籍中においても,ベテランの保安係員ら監督者等が,日常の巡視の際にマスクの着用について教育・指導するほか,毎年7月の保安週間,10月の労働衛生週間の際に,保安,衛生レベルの維持向上のための行事等が実施されていた。 さらに,神岡鉱山では,中央衛生委員会が主導し,労働衛生週間の運動の一環として,医師等による講演会なども実施したりした(乙A6)。 じん肺法の改正を受け,昭和55年6月には,粉じんとじん肺の関係やじん肺防止のための保護具,関係法令等についての教育が実施された(乙A54〔枝番を含む〕)。もっとも,この後に,継続的にじん肺をテーマとした同様の教育が実施されたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,むしろ,証拠(証人Q,証人R)によれば,被告らの全社保安衛生委員会(被告らにおける保安についての最高意思決定機関)において,じん肺の患者数の報告がなされておらず,じん肺教育の講師役を担ったり鉱長等の役職にあったQにおいても,じん肺患者数などの実態を認識していなかったことが認められ,被告らにおいてじん肺の実態を踏まえたじん肺教育が行われていたとはいえない。 イ健康診断・就業上の措置等被告らは,神岡鉱山において,古くから医師による診察を実施し,昭和26年には神岡鉱山病院を開設して,じん肺の治療や調査研究に取り組 んできた。また,昭和24年から集団検診方式での健康診断を実施するとともに,粉じん作業従事者に対しては,毎年全員けい肺健康診断を実施し,昭和51年から個人総合健診方式での健康診断も実施するようになった。この健康診断の結果,じん肺罹患の管理区分決定を受けた場合,本人と面談して意思確認をした上で職場を転換する措置を採り,更には坑内から坑外への配置転換の場合,補償することもあった 施するようになった。この健康診断の結果,じん肺罹患の管理区分決定を受けた場合,本人と面談して意思確認をした上で職場を転換する措置を採り,更には坑内から坑外への配置転換の場合,補償することもあった。 また,被告らは,労働組合との間でけい肺協定やじん肺協定を締結し,配置転換後や退職時のじん肺検診の実施,自宅療養者への見舞金の送金等を行った。 しかしながら,前述のとおり,被告らは,全社保安衛生委員会においてもじん肺患者数を把握せず,被告三井金属の鉱長などを務めた後,役員となったQにおいても,管理区分のうち,管理3以上になって初めてじん肺症に罹患したと認められ,管理2はじん肺症に至っていないので,本人の希望があれば坑内勤務を続けさせるという認識だったと認められるところであり,被告らにおいて,じん肺患者,特に管理2となったが,坑内作業を継続していた者に対し,具体的にどのような配慮ないし管理指導をしていたかは不明である。 ⑵ 評価・判断上記認定事実によれば,被告らは,一応のじん肺教育を実施したことは認められるものの,継続的かつ充実した教育が実施されていたとはいえないし,じん肺罹患者に対する就業上の措置や配慮についても,そもそもじん肺管理区分の管理2に対する問題意識が社内に周知されていたか大いに疑問がある。 じん肺法においては,管理2の場合粉じん曝露の低減措置として,より粉じん濃度の低い作業場所への移動,粉じん作業の作業時間の短縮等の措置を採るように努力すべきとされているところ,被告らは,本人の意思によるとはいえ,管理区分決定を受けた後も坑内作業に従事させていた原告等を含む従 業員に対し,粉じん曝露の低減について具体的に働き掛けたことは窺われないし,粉じん曝露量の管理に対する適切な配慮や坑内作業を継続する場合の けた後も坑内作業に従事させていた原告等を含む従 業員に対し,粉じん曝露の低減について具体的に働き掛けたことは窺われないし,粉じん曝露量の管理に対する適切な配慮や坑内作業を継続する場合の個別の指導が行われていたとも認め難い。そうすると,健康診断等の仕組みを設けても,従業員の健康管理に効果的に役立っていたとは認められず,被告らのじん肺に対する意識やじん肺教育を含む健康管理対策は十分でなかったというべきである。 よって,被告らは,健康の管理に関する安全配慮義務についても,これを適切に果たしておらず,安全配慮義務違反があったといわざるを得ない。 6 まとめ被告らにおいて,じん肺防止のためには粉じん曝露量を十分に低減させることが重要であることを原告等の就労時期当時から認識していたことは明らかである。そして,以上の検討によれば,作業環境の管理,作業条件の管理及び従業員の健康管理のいずれの点についても,被告らは,時代の進展に応じて一定の対策を講じてきたことは認められる。しかし,労働者に粉じん作業場において設備や器具等を使用させ,又は被告らの指示のもとに労務提供を行わせる以上,被告らには,使用者として,じん肺防止のため,粉じん発生,飛散量を低減させる対策をとった上,粉じん発生等を完全に防止できない以上は,労働者の粉じん曝露量の把握に努めるとともに,粉じん曝露の危険性を十分に教育,指導して,対策を実効化させる責務があるにもかかわらず,これらがいずれも不十分なものであったというべきであるから,被告らには安全配慮義務違反があったと認められる。 第6 争点1⑵(下請会社の従業員であった原告Hに対する被告らの責任の有無)についての当裁判所の判断 1 下請会社の従業員に対する安全配慮義務について先に述べたとおり,労働契約におい る。 第6 争点1⑵(下請会社の従業員であった原告Hに対する被告らの責任の有無)についての当裁判所の判断 1 下請会社の従業員に対する安全配慮義務について先に述べたとおり,労働契約においては,使用者及び労働者の双方が相手方の利益に配慮して誠実に行動することが要請されており,その要請に基づく付 随的義務として,使用者は,労働者が労務提供のため設置する場所,設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において,労働者の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべきであるという安全配慮義務を負っていると解されるところ,元請会社と下請会社の労働者との間には直接の労働契約はないものの,下請会社の労働者が労務を提供するに当たって,いわゆる社外工として,元請会社の管理する設備,工具等を用い,事実上元請会社の指揮,監督を受けて稼働し,その作業内容も元請会社の労働者とほとんど同じであるなど,元請会社と下請会社の労働者とが特別な社会的接触関係に入ったと認められる場合には,労働契約に準ずる法律関係上の債務として,元請会社は下請会社の労働者に対しても,安全配慮義務を負うというべきである。 本件訴訟においては,そもそも原告Hは,後述のとおり昭和44年11月ころから昭和53年12月まで被告三井金属の従業員として神岡鉱山の坑内作業に従事したものであるが,その後,被告らの下請会社において勤務し,神岡鉱山で稼働していた期間があることから,同原告が下請会社において勤務していた時期について,被告らが安全配慮義務を負うかが問題となる。 2 認定事実証拠(甲A53,甲B8の4,乙A169,証人R,原告Hのほか,以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ア別紙9記載のとおり,原告Hは,昭和44年 2 認定事実証拠(甲A53,甲B8の4,乙A169,証人R,原告Hのほか,以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ア別紙9記載のとおり,原告Hは,昭和44年11月に被告三井金属に入社し,栃洞鉱の進さく員や運搬員として昭和53年12月まで稼働し,合理化のための退職勧奨を受けて同被告を退社したが,その後,昭和54年6月から昭和56年1月まで同被告の下請会社である岡田組,昭和56年4月から平成4年3月まで同じく下請会社である吉澤組,同年4月から平成8年9月までは再び岡田組で稼働した後,別の職場を経て,平成15年から17年まで再び岡田組で稼働し,同年に退職後は,平成20年3月ま で,岡田組の下請けの個人事業主として神岡鉱山で稼働した。 イ原告Hは,岡田組では主に夜勤(三の方)で土砂の運搬作業等を担当した。また,原告Hは,吉澤組では,主に留め付け掘進の作業(崩落を起こした後の崩れ易い場所を掘る際に,鉄枠を組み,矢板を打ち込んで崩落を防ぎながら少しずつ掘進する作業)に従事した。そして,再び岡田組に戻ってからは,留め付けや選鉱に従事し,その後も岡田組で土砂の運搬補助などの雑仕事等に従事した。 ⑵ア本工(被告ら直属の作業員)の事務所と下請会社の作業員の事務所は,従前,別の場所に設置されていたが,平成3年ころからは同じ場所に設置されるようになった。 イ下請会社では,下請作業員の中から保安係員を選任しており,原告Hも,岡田組に在籍していた昭和55年11月,保安係員の資格を取得した(乙A49)。 ウ被告らと下請会社との間の業務内容についての打合せや相談等は,被告らの保安係員と下請会社の保安係員との間で行い,上記打合せや相談を踏まえ,下請会社の保安係員が下請作業員に対して作業指示を出して ウ被告らと下請会社との間の業務内容についての打合せや相談等は,被告らの保安係員と下請会社の保安係員との間で行い,上記打合せや相談を踏まえ,下請会社の保安係員が下請作業員に対して作業指示を出していた。 また,作業が終了すると,下請会社の保安係員は被告らの事務所に行き,被告らの保安係員に報告して,作業日報及び保安日誌を提出した。 エ被告らの保安係員は,下請会社の担当していた現場も巡回し,保安上の注意や指導をしていた。もっとも,下請作業員が,被告らの保安係員から防じんマスクの着用の指導を受けることは余りなかった。 オ下請作業員は,作業服や防じんマスク等の備品は,下請会社から支給を受けるなどしていたが,坑内作業において,さく岩機などの機械や重機,それらを動かすための道具や材料,燃料は被告らから支給されていた。 カ下請会社においては,少なくともその役員が,被告らの保安常会にオブザーバーとして参加し,保安に関する事項やそれぞれの作業の進捗を確認 するなどしていた。また,昭和55年10月に被告三井金属が実施した粉じん作業者特別教育は,下請作業員も対象とされていた(乙A54の2の1,2)。 3 判断⑴ 鉱山保安法は,鉱山労働者に対する危害を防止することなどを目的として制定され(1条),鉱業権者には,鉱山における人に対する危害を防止するため,粉じんの処理について必要な措置を講ずる義務並びに衛生に関する通気の確保等のため必要な措置を講ずる義務がある旨規定しているところ(5条。なお,改正前の同法4条),上記「鉱山における人」には下請作業員も含まれると解されるから,同法及びその委任に基づいて制定された金属鉱山等保安規則に規定された鉱業権者の鉱山労働者に対する保安義務は,下請会社の労働者にも及ぶと解すべきである。 ⑵ 前 下請作業員も含まれると解されるから,同法及びその委任に基づいて制定された金属鉱山等保安規則に規定された鉱業権者の鉱山労働者に対する保安義務は,下請会社の労働者にも及ぶと解すべきである。 ⑵ 前記前提事実及び上記認定事実によれば,原告Hをはじめとする下請作業員は,被告らが所有管理する神岡鉱山で稼働しており,作業内容は本工とほぼ同内容であり,下請会社の保安係員を通じて被告らから作業内容等について指示・命令を受け,作業の結果等についても被告らに報告していたこと,被告らの保安係員が下請作業員に対し,保安上の指示や指導・監督を直接することもあり,作業のための機械や重機,それらを動かすための燃料は被告らが支給していたこと,被告らの粉じん作業者特別教育に本工と一緒に参加したことが認められる。 これらによれば,原告Hは,下請作業員として,被告らとの間で特別な社会的接触関係に入っていたと認められ,被告らは,下請作業員としての原告Hに対しても,労働契約に準ずる法律関係上の債務として,安全配慮義務を負っていたというべきである。 ⑶ そして,上記認定事実及び第5の2で認定した事実によれば,被告らは,原告Hが下請作業員であった時期について,下請作業員らに対する粉じんの 発生・飛散・吸入を防止するための措置やじん肺教育についても,安全配慮義務を尽くしていたとはいえず,同義務違反があるものと認められる。 第7 争点2(損害の発生及びその額)についての当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,証拠(各項に記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ じん肺の種類及びエックス線写真上の陰影の特徴アけい肺遊離けい酸(シリカ)を吸入すると,肺胞マクロファージとの相互作用が引き金となっ ,以下の事実が認められる。 ⑴ じん肺の種類及びエックス線写真上の陰影の特徴アけい肺遊離けい酸(シリカ)を吸入すると,肺胞マクロファージとの相互作用が引き金となって,組織の線維化が進展し,膠原繊維を主体とする玉ねぎ状の層状構造の結節(けい肺結節)を形成する。このけい肺結節を主体とするじん肺をけい肺という。 古典的けい肺結節は,3~6㎜までの境界明瞭な硬化した球形の結節で,粉じんを混じ,層状同心円状及び内部の不規則に走行する硝子化した高度の線維増生からなり,細胞成分は乏しい。この結節は線維起因性の強い結晶質シリカ濃度が粉じん中に高度(肺内堆積全粉じんの約20%以上)の場合に生じる。この定型的な結節が殆どを占める場合は古典的けい肺といわれる。 けい肺が進展すると結節が増大し,あるいはいくつもの結節が融合して,進行性線維化塊状巣(粉じんによる径1㎝以上の線維性結節)が形成される。このような場合には,塊状巣の周辺に局所的な気腫化を伴うことが多い。肺門リンパ節は線維化と共にリンパ節表面に石灰化が生じ,胸部エックス線写真上卵殻状陰影を呈する(甲A70,乙A171,217)。 イ混合粉じん性じん肺遊離けい酸を含む粉じんを少量ずつ長期間吸入した場合には,けい肺結 節と異なる形態の混合粉じん性線維化巣(MDF)を生じる。これを主体とするじん肺を混合粉じん性じん肺(mixeddustpneumoconiosis。以下「MDP」ということもある。)という。 MDFは,輪郭が不規則で星芒状を示す線維性小結節で,およそ6㎜までの様々な大きさを示す。粉じんを豊富に貪食した組織球や繊維芽細胞の増生からなる細胞成分が目立ち,高度の線維化はなく,硝子化した像はあっても程度は が不規則で星芒状を示す線維性小結節で,およそ6㎜までの様々な大きさを示す。粉じんを豊富に貪食した組織球や繊維芽細胞の増生からなる細胞成分が目立ち,高度の線維化はなく,硝子化した像はあっても程度は弱い。周囲の肺胞壁などの間質への波及像により星芒状形態をとる。この小結節は結晶質シリカ濃度の低い(肺内堆積全粉じんの約20%未満)混合性のある粉じんによって引き起こされる。 混合粉じん性じん肺は,粉じん作業の環境が改善した今日のじん肺とされ,じん肺の軽症化に伴い,けい肺に代わり増加している。 なお,原告らは,けい肺とは別に,その他のじん肺として「非典型けい肺」という類型を設定し,原告等のうち一部がこれに該当する旨主張し,じん肺診査ハンドブック(甲A1)にも「非典型けい肺」の記載が存在する。もっとも,原告らの主張する非典型けい肺の定義は,けい酸の濃度が低い粉じんを吸入して起こるじん肺とされ,線維化が弱く,結節の大きさがせいぜい径1~2㎜程度であることが多いものである(甲A1,70)し,原告等のじん肺罹患について鑑定意見を述べたL医師も「非典型けい肺」と「混合粉じん性じん肺」をほぼ同義のものと考えていることが窺われること(甲A69)等からすれば,原告らの主張する「非典型けい肺」は,「混合粉じん性じん肺」と同義のものと解するのが相当である(甲A1,69,70,乙A217,233,261)。 ウじん肺陰影のエックス線写真上の特徴 陰影の種類など前記前提事実2⑹ウ(別紙3「エックス線写真像の分類」)記載のとおり,じん肺法ではエックス線写真像を第1型から第4型まで区分して おり,じん肺による陰影を小陰影と大陰影に分け,さらに小陰影を粒状影と不整形陰影(スリガラス陰影,粒状網状影,網状影,線状影)に区別す ではエックス線写真像を第1型から第4型まで区分して おり,じん肺による陰影を小陰影と大陰影に分け,さらに小陰影を粒状影と不整形陰影(スリガラス陰影,粒状網状影,網状影,線状影)に区別する。大陰影は,1つの陰影の長径が1㎝を超えるものをいう。 粒状影粒状影を示すじん肺の代表がけい肺である。けい肺のエックス線写真像は,その他のじん肺と同様,一般的に吸入粉じん量により異なり,必ずしも一律ではない。初期の極めて線維化の弱い時期には,個々の結節像は認めにくく,末梢の血管影が見えにくくなり,血管影と血管影との間に異常陰影が出現し,次第に増加してくる。結節像は,一般には濃度が高く,円形である。粒状影は,経過とともに次第に大きさと数を増してきて,全肺野に及ぶようになる。 混合粉じん性じん肺の粒状影遊離けい酸含有率の低い粉じんによるじん肺における粒状影のエックス線写真像及びその経過は,けい肺の場合と多少異なる。一般には粒状影であるが,その形は様々であり,小さく,濃度が低く,胸部エックス線上も不鮮明な陰影と認められる。実際の症例では,けい肺結節とMDFが混在していることが多い。 粒状影の出現位置けい肺及び混合粉じん性じん肺の粒状影は,一般的には上中肺野から(特に上肺野を中心に)出現が始まり,上肺野優位で基本的には左肺・右肺ほぼ均等(対称)に出現するが,左右不均一な場合には右肺優位に出現し,また,腹側と背側の分布については,背側優位に出現することが多い。 不整形陰影及び大陰影について不整形陰影は主として石綿肺に見られるが,その他のじん肺の場合でも,粒状影のほかに様々な形の小さな濃度の低い陰影が認められ,進展 に伴ってその数を増してくる。 また,大陰影に 不整形陰影は主として石綿肺に見られるが,その他のじん肺の場合でも,粒状影のほかに様々な形の小さな濃度の低い陰影が認められ,進展 に伴ってその数を増してくる。 また,大陰影については,けい肺の場合,上肺野における粒状影がその数と大きさを増してきて,次第に個々の粒状影が識別できない塊状影になり,比較的鮮鋭な辺縁と濃厚な陰影を示す大陰影になるのが一般的な経過である。その他のじん肺でも,吸入粉じん量の増加等により,大陰影に発達することがある。 (甲A1,42,56,70,乙A121ないし124,170,172ないし175,181)⑵ 標準フィルム及び標準写真集の内容及び取扱いア標準フィルムについて(甲A1,106,乙A64,177,262)標準フィルムは,昭和53年に初めて作成され,昭和57年にその増補版が作成された。標準フィルムは,「じん肺の種類」(けい肺,石綿肺,その他のじん肺)に分類され,種類ごとに12階尺度に応じた胸部エックス線写真のフィルムが21枚(ただし,12階尺度のすべてに対応するフィルムが収録されているわけではない。)及び第0型から第3型までの組合せフィルムが収録されている(別紙4「標準フィルム一覧表」参照)。 じん肺診査ハンドブック(甲A1)には,標準フィルムを用いた読影方法について,以下のとおり記載されている。 エックス線フィルムの読影に当たっては,粉じん作業についての職歴調査の結果等により,どの種類のじん肺のフィルムを用いるかをまず判断し,各型の標準フィルムの間に読影しようとするフィルムを置いて,12階尺度を用いて判断する。 どこから第1型と判断するかについては,石綿肺とその他のじん肺の場合には,第1型の下限(1/0)のフィルムを用い,また,けい肺につい ようとするフィルムを置いて,12階尺度を用いて判断する。 どこから第1型と判断するかについては,石綿肺とその他のじん肺の場合には,第1型の下限(1/0)のフィルムを用い,また,けい肺については,じん肺の所見がないと判断する上限(0/1)のフィルム と第1型の中央(1/1)のフィルムとを用いて判断する。 実際には上記の作業は困難なものであるため,スクリーニング用として標準フィルムの中に組合せエックス線写真が収録されている。組合せエックス線写真を用いる場合,まず読影する対象のフィルムをこの組合せエックス線写真によって第0型ないし第3型にふるい分け,次に,ふるい分けた型に相当する標準写真により,肺野全体の影を対象とした最終診断を行う。 イ標準写真集について(甲A104,110ないし112,129,141,143,144,乙A65ないし68)標準写真集は,アナログ写真で作成された標準フィルムが相当期間を経て劣化している上,エックス線写真のデジタル撮影への移行が進んでいることから,厚生労働省において,厚生労働科学研究「じん肺健康診断等におけるデジタル画像の標準化ならびにモニター診断および比較読影方法の確立に関する研究」(主任研究者は,N医師)にて収集及び選定された症例を基に,「デジタル撮影によるじん肺標準エックス線画像に関する検討会」(この検討会にはM医師が参加している。以下「標準写真集検討会」という。)において検討された結果を踏まえ,平成23年3月に作成された。標準写真集は,平成23年10月1日以降にじん肺管理区分決定の申請を行うものについて使われるようになった。 標準写真集の内容については,標準フィルムにおける「じん肺の種類」に代わり,「陰影の種類」(所見なし,粒状影,大陰影,不整形陰影,その他の 区分決定の申請を行うものについて使われるようになった。 標準写真集の内容については,標準フィルムにおける「じん肺の種類」に代わり,「陰影の種類」(所見なし,粒状影,大陰影,不整形陰影,その他の陰影)によって分類され,種類ごとに12階尺度に応じた胸部エックス線写真が収録されている(ただし,12階尺度全てに対応するものが収録されているわけではない。)。 上記分類方法の変更について,標準写真集検討会の報告書(乙A68)によれば,胸部エックス線写真上では同様の所見であっても,種類の異 なる粉じんによって出現し得ること,じん肺患者数の減少により,特定の粉じん作業歴を持つ症例のみで軽度から重度までの各段階の標準的画像を揃えるのが困難であることから,分類方法を変更した旨説明されている。 なお,「その他」と分類した3例については,粉じん作業歴から遊離けい酸の少ない粉じんの吸入が想定されたものであり,画像所見は粒状影に近いものの,粒状影の画像と比べ陰影が淡いし,遊離けい酸の少ない粉じんは肺内で沈着しても炎症及び組織変化を起こしにくいため,標準写真集では粒状影とは別の分類としたが,今後さらなる知見の収集に努め,必要に応じて見直しを行うことが望ましいとされている。 標準写真集は,フィルム版と電子媒体版(DVD-ROM)の二種類があり,一部の患者については,胸部CT写真が電子媒体版にのみ収録されている(別紙5「標準写真集一覧表」参照)。フィルム版は,厚生労働省本省及び各都道府県労働局に配布され,また,電子媒体版は,厚生労働省本省,各都道府県労働局及びじん肺健康診断等を実施する医療機関等の関係団体に配布された(平成23年9月26日付け基安労発0926号第1号「じん肺標準エックス線写真集」(平成23年3月)フィルム版及び電子媒体版の取扱 働局及びじん肺健康診断等を実施する医療機関等の関係団体に配布された(平成23年9月26日付け基安労発0926号第1号「じん肺標準エックス線写真集」(平成23年3月)フィルム版及び電子媒体版の取扱いについて〔甲A104〕)。 使用方法について,電子媒体版については,使用する機器やその設定によって画像の見え方が大きく変わること等があるため,上記通達別添の「じん肺標準エックス線写真集」電子媒体版について」(乙A202)に,使用する際の医療機器の必要要件やじん肺健康診断における使用方法が定められている。 上記通達においては,アナログ写真によるじん肺のエックス線写真の像の区分判定は,従来どおり標準フィルムを使用できるほか,電子媒体版に収録された写真データを上記別添書面により示された適切な条件に おいてフィルムに出力したものを使用しても差し支えないとされている。 も収録されているが,これは,標準写真集検討会において,症例の少ない型等,胸部エックス線写真のみでは医師間の判断のばらつきが大きくなる可能性が想定されるものについては,参考として同一患者の胸部CT写真も収録するのが適当であるとされたことによる(乙A67,68)。 また,標準写真集検討会においては,標準画像の必要要件として「同一人における胸部エックス線写真以外の情報(粉じん作業歴,胸部CT写真等)を勘案し,じん肺の程度として妥当と認められること」が挙げられたことから,胸部CT写真も踏まえて候補画像が選定された。 なお,標準写真集の附属書(乙A65)において,写真番号3(0/1)の「画像所見」欄には,胸部エックス線写真上はじん肺を疑う所見はほとんど認められないとしながら,胸部CT写真では両側の肺上葉に少数の粒状影が観察されるとあり,異なる観察結果の記載がある。 (0/1)の「画像所見」欄には,胸部エックス線写真上はじん肺を疑う所見はほとんど認められないとしながら,胸部CT写真では両側の肺上葉に少数の粒状影が観察されるとあり,異なる観察結果の記載がある。 ⑶ じん肺の診断におけるCT写真の有用性及び問題点ア CTの仕組み及び特徴(甲A47,乙A170,弁論の全趣旨)胸部エックス線写真は,人体の背面から胸部にかけてエックス線を照射し,その透過像をレントゲンフィルム上に二次元的(平面的)に映し出すものであるが,一方向からの撮影であるため,病変の重複像が形成されやすい。 これに対し,CT(コンピュータ断層撮影・computedtomography)は,横臥した状態の患者に対し,エックス線を多方向から照射し,その透過エックス線強度を計測し,断層面のエックス線吸収値分布像を再構成するという方法である。最も一般的なデータ取得方式は,層状の広がりをもったエックス線を出す線源と,それに対向し, 数百素子からなる高感度の検出器が人体周囲を回転しながら走査(スキャン)するものであり,扇状エックス線の厚みを調節することにより,断層面の厚さを変える。最近では,患者テーブルを体軸方向に移動させながらエックス線管球と検出器が連続して回転し,人体をらせん状に走査(スキャン)するヘリカルスキャンが主流となっている。 CT画像は,「ピクセル」という微小な画素である正方形の単位面積の集合(マトリックス)上に再構成され,さらに,各ピクセルに断層厚を乗じた単位面積(ボクセル)に含まれる平均エックス線吸収値の大小に応じて,白黒濃淡をつけた画像として表示される。「ボクセル」という直方体の組織の厚みを「スライス厚(断層厚)」といい,「スライス厚」の中心の位置とそれに隣接する「スライス厚」の中心の位置との 大小に応じて,白黒濃淡をつけた画像として表示される。「ボクセル」という直方体の組織の厚みを「スライス厚(断層厚)」といい,「スライス厚」の中心の位置とそれに隣接する「スライス厚」の中心の位置との間の距離を「スライス間隔(スライスピッチ)」という。 CTの画像表示に際しては,白黒濃淡の階調(グレースケール)を変えるウィンドウ機能(任意に選んだCT値を中心として,表示しようとする任意の幅のCT値を濃淡像として表示するもの)があり,中心のCT値をウィンドウレベル,CT値の表示範囲をウィンドウ幅といい,対象臓器と目的疾患のCT値により,最適なウィンドウレベルとウィンドウ幅を設定して表示する。なお,CT値とはボクセル内のエックス線吸収値を表す単位であり,水を0,空気を-1000とした相対的な数値であり,CT値が高くなるにつれて白く表示され,空気は黒く表示される。 また,CTは,デジタルデータをコンピュータ処理しているため,エックス線写真撮影とは異なり,診察目的に合わせて同一のデータの一部を強調して出力することができ,胸部CT写真では「肺野条件」「縦隔条件」の二種類で出力されるのが一般的である。じん肺の診断においては,肺野の空気と血管や病変のコントラストを観察するのに適した「肺野条件」が用いられ,粒状影や不整形陰影などの陰影は白色の変化として現 れる。 CTは,エックス線撮影よりも,小さなものを解像する能力(空間分解能)では劣るが,マトリックス数を増やし(ピクセル数を増し),スライス厚を薄くし,局所的に拡大して画像再構成をすることにより,0. 3~0.4㎜程度の分解能が得られ,肺などの高コントラスト領域に有用である。 イじん肺診断における胸部CT写真の有用性現在の臨床医学の現場では,胸部エックス線写真によって胸部疾 ,0. 3~0.4㎜程度の分解能が得られ,肺などの高コントラスト領域に有用である。 イじん肺診断における胸部CT写真の有用性現在の臨床医学の現場では,胸部エックス線写真によって胸部疾患が疑われる場合,精密検査のための手段として胸部CT写真を利用することが一般的に行われている。 胸部CT写真の有用性について,以下のような文献や論文がある。 a 「産業保健ハンドブックⅣ じん肺」(平成20年5月27日第2版)(乙A171)CTは,じん肺の診断においても不可欠の手段である。胸部エックス線写真と比較して重複像が少なく,解像力は低いがコントラスト分解能が高く,じん肺の陰影の表現に優れており,陰影の病態が理解されやすい画像を提供している。すなわち,胸部エックス線写真で表現されない微細な粒状影,淡い粒状影,粒状影の融合,間質性肺線維化影,気腫化,ブラ,ブレブ,蜂窩肺,胸膜斑,胸膜石灰化斑,大陰影の周辺の変化,空洞形成などにおいては優れた検出能を有している。 しかし,微細な病変を表現するためには,高解像力,高速の装置が必要であり,また肺野表現のフィルター関数の選択に留意する必要がある。現在のじん肺法では,胸部エックス線写真による判定が主であり,CT画像のじん肺への適用は,胸部エックス線写真の短所を補足するものとしての見地から,参考的に認められている。なお,じん肺に合併した肺がん及び中皮腫の早期発見等の必要から,厚生労働省は,平 成16年度より管理2以上のじん肺患者に対して,定期的にヘリカルCTを年1回施行することを事業者に義務付けた。肺がんのみならず,いわゆる境界領域のじん肺症に対して,診断の確度をあげるために,CTの適用を積極的に活用することが望まれる。 b 志田寿夫「塵肺のCT」(平成4年1月・乙A1 事業者に義務付けた。肺がんのみならず,いわゆる境界領域のじん肺症に対して,診断の確度をあげるために,CTの適用を積極的に活用することが望まれる。 b 志田寿夫「塵肺のCT」(平成4年1月・乙A120)CT画像は胸部エックス線写真と比較して,空間分解能は劣るが濃度分解能は高く,このため,肺内の線維化像及び気腫化が鮮明に描出され,それらの病態が理解されやすい画像となる。また,胸部エックス線写真のように重複像の形成が少なく,陰影そのものがより具体的に表現されるという利点があり,特に,じん肺の存否についての境界領域の診断に威力を発揮する。 胸部エックス線写真の表現の限界はCTで補足するのが,今後の診断に必要であろう。粉じん吸入によって生じる肺の線維化は複雑な形であり,それに伴う気腫化は,エックス線写真のみでの診断はほとんど不可能で,もはや胸部エックス線写真のみの分類は時代遅れといわざるを得ない。 c 加藤勝也「画像診断」(日胸平成21年10月増刊)(乙A124)現状で,CT/HRCT(HighResolutionCT)は呼吸器疾患診断において必要不可欠であることはいうまでもなく,胸部エックス線写真において第1型といえるか境界域にあるような症例においては,CT/HRCTを積極的に活用すべきである。国際的には,じん肺標準画像とガイドラインを作る試みもなされており,今後,さらにじん肺診療に大きな役割を果たすと考えられる。 d 上田哲也ら「肺疾患をCTで診る-慢性閉塞性肺疾患(COPD)・気管支喘息」(medicinaVol.44 No.2)(平成19年2月)(乙A125) 肺気腫病変が比較的重症の場合は,胸部エックス線像でも病変を検出できるが,中等症以下の肺気腫ではCT画像でないと病変が判別できない場 4 No.2)(平成19年2月)(乙A125) 肺気腫病変が比較的重症の場合は,胸部エックス線像でも病変を検出できるが,中等症以下の肺気腫ではCT画像でないと病変が判別できない場合が多い。 eJardinら「炭鉱夫じん肺症:曝露労働者のCT評価及びエックス線所見との相関」(平成2年)(乙A181の1,2)石炭粉じんに曝露した労働者170名に対し,エックス線検査と胸部CTスキャンを実施し,比較解析を行った結果,単純けい肺症の評価において,最適なCT検査が胸部エックス線に対して優れており,CTの実質性小陰影を検出する感度が高いことがわかった。最適なCT手法をCWP(炭鉱夫じん肺症)評価の参照標準とすべきであるが,CTはコストがかかるため,定量的方法が利用できるようになるまで推奨しない。しかし,胸部CTは,CWPの早期発見において,特に肺機能不全がなければ,単純エックス線検査を補完するものであり,高分解能CT検査を追加することは,実質性小陰影をより正確に評価する上で有用である。 fBégin「珪肺症の早期発見におけるコンピューター断層撮影法」(平成3年)(甲A48の1,2)43名の患者を選出し,胸部CT検査及びヘリカルCT検査が初期のけい肺症を検出する能力について評価した結果,けい肺症を示唆する肺実質の変化および肺の小陰影の初期集密を検出することにおいて,従来の胸部エックス線検査のILO分類よりもCT検査のほうが高感度であることが立証され,また,CT画像上の異常は,訓練を積んだ観察者により,基準となるILO分類画像がなくても一貫した判断を下すことができ,解読者間のばらつきも,エックス線画像での評価のばらつきよりも小さいとの結論を得た。 gJadynak「珪肺症 基準となるILO分類画像がなくても一貫した判断を下すことができ,解読者間のばらつきも,エックス線画像での評価のばらつきよりも小さいとの結論を得た。 gJadynak「珪肺症および炭鉱夫じん肺症における撮像」(2 013年7月)(乙A182の1,2)CT画像は,けい肺症と炭鉱夫じん肺症(CWP)の初期徴候を診断するための撮像手段としては,エックス線よりも優れていると考えられている。CTは胸部エックス線よりも感度ならびに特異度が高く,がん,肺気腫及び無気肺等のじん肺のリスクがある患者に併発し得る他の肺疾患を検出する上でより有用である。CTは,胸部エックス線では検出できない結節を検出することができる。 有用性についての小括上記文献等の記載に加え,同種の文献その他の証拠(乙A126,178,179の1及び2,証人M医師)によれば,胸部CT写真は胸部エックス線写真と比べて濃度分解能が高い上,重複像の形成も少ないため,肺内の線維化像や微細な粒状影等がより具体的に検出されやすいという利点があること,この利点から,特にじん肺の存否についての境界域における診断に有益な検査方法であること,また,胸部エックス線検査と比べ,胸部CT検査の方が,画像の解読者間の解読のばらつきが少ないことについて,医学的には既に一般化しているということができる。 ウ胸部CT写真の限界等前述のように,CTは,単位体積(ボクセル)に含まれる平均エックス線吸収値(CT値)の大小に応じて白黒濃淡をつけた画像として表示され,あるボクセル内に異なった組織が存在しても,それらのCT値は平均化されて互いに識別できないから,画像上の病変組織濃度が本来のCT値と異なったり,小構造が隠ぺいされたりする。これを部分容積効果 され,あるボクセル内に異なった組織が存在しても,それらのCT値は平均化されて互いに識別できないから,画像上の病変組織濃度が本来のCT値と異なったり,小構造が隠ぺいされたりする。これを部分容積効果といい,これにより組織の境界でCT値が不正確になったり,組織の周辺が不明瞭に表示されるおそれがある。この点は,M医師及びN医師も意見書(乙A170)において,CTの分解能(0.5㎜)以下の粒状影は描出できないこと,直径1㎜前後の粒状影は血管断面像との区 別が困難であり,直径2ないし3㎜の大きさがあれば,小血管影と区別してじん肺の粒状影を認識できることを述べている。このため,部分容積効果の影響を小さくするためには,スライス厚をより薄くして,単位体積を小さくすることが考えられるが,やはり,血管断面像と粒状影との区別は困難である。 なお,平方敬子「塵肺病変の病理像とHRCT像の対比-伸展固定肺を用いた検討-」(平成4年)には,以下のような報告がなされている(甲A105)。 粉じん吸入歴を有する14剖検例(炭鉱夫肺13,けい肺1)の病理組織学的所見とそれに対応するHRCT所見を同一断面で1対1で対比検討した。細気管支や小葉間隔壁に沿う不規則な線維化は,HRCTでは淡いdensityの上昇域,線状影あるいは網状影に相当し,線維化が進むと粗い不規則な網状影として認められたが,軽度の線維化病変はHRCTでは異常を指摘できなかった。じん肺結節のうち,71%はHRCTで確認できたが,サイズの小さいp型の結節のうち,63%はHRCTで同定困難であった。 もっとも,HRCTは,病理学的に確認されたじん肺病変の有無やその程度ならびに局在をよく反映していたとも記載されている。 ⑷ 原告等に対する管理区分の決定・労災保険給付の支給決定等 もっとも,HRCTは,病理学的に確認されたじん肺病変の有無やその程度ならびに局在をよく反映していたとも記載されている。 ⑷ 原告等に対する管理区分の決定・労災保険給付の支給決定等ア管理区分決定手続について原告等は,別紙9「原告等の個別事情」における各「2 管理区分決定及び合併症等の認定」記載のとおり,管理区分決定を受けた。 原告等は,被告らにおいて粉じん作業に従事していた間,管理区分が管理1の者は3年ごとに,管理2である者は毎年,定期健康診断を受診しており,粉じん作業に従事しなくなっても,管理2である者は,被告らを退職するまで3年ごとに定期健康診断を受診しており,さらに退 職時には,離職時健康診断を受診した。 上記健康診断が実施されると,その都度,エックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等が労働局長に提出され,労働局長はこれらを基礎として,地方じん肺診査医の診断又は審査により,再度,管理区分の決定を行っていた(じん肺法12条,13条2項)。 原告等の中で,一度,管理2以上の管理区分決定を受けた後,じん肺罹患を否定されたり,より軽度の管理区分に変更されたりした者はいない。 イ合併症等の決定手続について(別紙9「原告等の個別事情」の各「2管理区分決定及び合併症等の認定」欄記載の証拠及び弁論の全趣旨)別紙9における各原告等の「2 管理区分決定及び合併症等の認定」記載のとおり,原告等のうち亡Bを除く原告等は,続発性気管支炎に罹患したことを理由とする療養・休業補償給付の支給決定を受けた。 原告等のうち,法定合併症の罹患を理由とする休業補償給付等支給決定を受けた者は,療養開始から1年6か月経過後は,所轄労働基準監督署長に対し,毎年,傷病の名称,部位および状態を記載し 定を受けた。 原告等のうち,法定合併症の罹患を理由とする休業補償給付等支給決定を受けた者は,療養開始から1年6か月経過後は,所轄労働基準監督署長に対し,毎年,傷病の名称,部位および状態を記載した報告書を,これらの事項に関する医師の診断書を添えて提出している(労災保険法施行規則19条の2)。 原告等の中で,法定合併症の罹患を理由とする休業補償給付等支給決定を受けた後,その支給を中止された者はいない。 2 争点2⑴(じん肺罹患の有無及びその程度)について⑴ じん肺罹患の有無及びその程度を判断するにあたっての管理区分決定の位置づけじん肺法においては管理区分制度が設けられ,粉じん作業に従事する労働者を,じん肺健康診断の結果に基づき,エックス線写真画像と肺機能障害の組合せに従って管理1から4に区分し,健康管理を行うものとされている (同法4条)。 管理区分決定手続においては,まず,一般の医師によるじん肺健康診断を行うが,その実施方法(検査項目や手順,方法等)や判定方法(胸部エックス線の読影方法等)は,これまでの医学的な知見に基づき,じん肺法や同法施行規則,あるいはじん肺診査ハンドブック(じん肺診査ハンドブックは,医学的知見の進展や研究成果を踏まえ,数次の改訂を経ている〔最終改訂は昭和62年10月〕。)にその詳細が定められている。そして,上記健康診断においてじん肺所見があると認められた労働者については,じん肺に関し相当な学識経験を有する医師の中から厚生労働大臣が任命した地方じん肺診査医による診断又は審査が行われる(じん肺法39条4項)。 このように,上記のような管理区分制度の趣旨や運用の状況に加え,じん肺健康診断医と地方じん肺診査医による二重の診断又は審査を受ける仕組みであることからすれば,管理区分決定手続は, 法39条4項)。 このように,上記のような管理区分制度の趣旨や運用の状況に加え,じん肺健康診断医と地方じん肺診査医による二重の診断又は審査を受ける仕組みであることからすれば,管理区分決定手続は,専門家による慎重な手続を経ているということができ,じん肺罹患の有無及びその程度を判断する方法として合理性を有すると評価することができるから,このような手続に従って決定された管理区分については,当該労働者のじん肺罹患の有無及びその程度を示すものとして,高度の信用性を有するものと認められる。 したがって,粉じん作業に従事し又は従事していた労働者が,じん肺の所見のある者として管理2以上の管理区分決定を受けた場合には,当該労働者が当該管理区分に相当する程度のじん肺に罹患し,健康被害を受けている事実が推認されるというべきであり,推認を覆すに足りる反証がされない限り,上記事実を認めるのが相当である。 被告らは,一旦決定された管理区分決定が低位変更された例があるとして,管理区分決定は絶対的なものではない等,管理区分決定による推認をすることを論難する。たしかに,証拠(乙A88ないし101,103ないし118)によれば,一旦決定された管理区分が低位変更された事例が全国的に認 められる上,被告神岡鉱業の退職者のうち6名が低位変更されたことが認められる。しかしながら,証拠(乙A88)によれば,平成18年から平成22年の間における全国の管理区分決定件数に対する低位変更件数の割合は約1.6%から約2.4%という低い割合で推移していることが認められることからすれば,低位変更は例外的な事象といえ,かかる例外的な事象をもって,管理区分決定の信用性が否定されるものとはいえない。 ⑵ じん肺罹患の有無及びその程度の判断における胸部CT写真の位置づけについて ,低位変更は例外的な事象といえ,かかる例外的な事象をもって,管理区分決定の信用性が否定されるものとはいえない。 ⑵ じん肺罹患の有無及びその程度の判断における胸部CT写真の位置づけについてアじん肺診断における胸部CT写真の位置づけについて検討するに,胸部エックス線写真は,正面という一方向から撮影するものであるため,重複像が形成され,結節や間質性変化,気腫性変化がお互い修飾されたり打ち消し合ったりし,また,濃度分解能にも限界があるため,読影者間の診断のばらつきがあることが指摘されている。これに対し,前記1⑶で認定した事実によれば,胸部CT写真は,胸部エックス線写真と比べて空間分解能は劣るものの,胸部エックス線写真のような前後の重なり合いがない上,濃度分解能が高いため,肺内の線維化や気腫化が鮮明に描出され,それらの病態が理解しやすいという特徴があり,このことから,じん肺の有無に関する境界領域,すなわち12階尺度における0/1と1/0についての診断に特に有用であること,診断者間でのばらつきも少ないことが挙げられ,これらの特徴については,前記認定事実のとおり多数の文献や論文でも同旨の指摘がなされている。 放射線被曝量や費用負担等の問題があり,検討の途上にあることから,じん肺法に基づくじん肺診査において胸部CT検査の採用は未だなされていないものの,じん肺の罹患の有無及びその程度の診断に際し,胸部CT写真を利用することの有用性は,前記認定のとおり今日では医学上一般的に肯定されているというべきである。特に,じん肺所見の有無の 判断(12階尺度で0/1か1/0かという境界領域)については,胸部X線写真を補完するものとして胸部CT写真の読影結果を併用することにより,より確度の高い診断が可能とされている。したがって,胸部CT写 (12階尺度で0/1か1/0かという境界領域)については,胸部X線写真を補完するものとして胸部CT写真の読影結果を併用することにより,より確度の高い診断が可能とされている。したがって,胸部CT写真を利用しなかった(できなかった)時期の管理区分決定については,胸部CT写真も利用して出された管理区分決定と比べて診断の確度や精度に差があるとしても不自然ではない。そうすると,かかる事例において,その後に撮影された胸部CT写真が存在する場合には,先にされた管理区分決定により推認されるじん肺罹患の有無及びその程度に対する反証たり得るものと考えられる。 イこの点,原告らは,以下のとおり,CTの有用性について批判する。 原告らは,CTではピクセル以下の大きさの微細な結節は検出できないし,画像上粒状影が描出されるには直径2~3㎜の大きさが必要であるとか,非典型けい肺の粒状影は線維化が弱く,血管影との区別が困難な1~2㎜の大きさであり,第1型,第2型に該当する程度の大きさの粒状影では,血管影との鑑別はCTでは困難である等と主張する。 なるほど,CT画像には粒状影の大きさについて検出限界があること自体は否定できないものの,血管の連続性の見易さなどを含めた小血管の断面像との峻別の確度なども考慮すれば,単純にCT写真がエックス線写真よりも病変の検出に劣るともいい難い。前記認定事実によれば,CT画像で描出や鑑別のできないレベルの結節等を胸部エックス線写真で通常検出・鑑別できるとは考えられず,初期の結節についての胸部CT写真の診断感度の優位性が一般的な医学的知見として認められているものということができる。 また,原告らは,亡Eの肺内には線維化した結節が存在したが,M医師らはCTでこれを発見できなかったとして,CT の優位性が一般的な医学的知見として認められているものということができる。 また,原告らは,亡Eの肺内には線維化した結節が存在したが,M医師らはCTでこれを発見できなかったとして,CTの有用性を批判する。 しかしながら,後述するとおり,少なくとも亡Eの病理診断に関する O医師の鑑定意見は,それ自体MDFと評価するか否かに争いのある程度の結節など初期の病変を認めるというものと解されるし,相反する専門医師の意見もあるなど,直ちにM医師のCT読影に関する意見の信用性を揺るがすほどのものとはいえないから,CTの有用性に関する一般的な批判とするには足りない。 原告らは,CTでは,部分容積効果により,物体の形状をそのまま忠実に反映しないとして,CTの有用性を批判する。 しかしながら,証拠(乙A239)及び弁論の全趣旨によれば,デジタル胸部エックス線写真においても0.1ないし0.2㎜の大きさのピクセルの集合体であるというべきところ,このピクセルの表す透過エックス線量はエックス線方向の200㎜前後の胸部組織の透過エックス線量積算値であり,0.2㎜×0.2㎜×200㎜のボクセルのエックス線透過量を平均したものと考えることができ,これは部分容積効果と同視できるから,CT画像であろうとデジタルエックス線写真であろうと,三次元の物体を二次元の画像で捉える手法を取る限り,部分容積効果の影響を受けることは避けられないことが認められる。 よって,原告らの上記主張は理由がない。 また,原告らは,非典型けい肺についてはエックス線写真における重積効果が重要であるが,CT写真にはこれがないとして,CT写真の有用性を批判し,これに沿う証拠(甲A55,56,63,89,106)を提出する。 しかしながら,1個では胸部エックス線 真における重積効果が重要であるが,CT写真にはこれがないとして,CT写真の有用性を批判し,これに沿う証拠(甲A55,56,63,89,106)を提出する。 しかしながら,1個では胸部エックス線写真上で粒状影として確認しにくいほどの淡い結節が,読影者に認識可能な濃度の粒状影を形成するには,多くの結節がエックス線の方向と同一直線上に並ぶ必要があるが,肺野において不均一に分布するじん肺結節の多くがエックス線の方向と同一直線上に並ぶ確率は非常に低く,肺野全体として不均一な肺野濃度 (肺野の白黒の濃淡)を形成する可能性が大きいと考えられるし,結節のうち重ならなかった部分は結節の形態が変化するため,辺縁の形態や周囲の濃度は不均一となり,全体として胸部エックス線写真上で結節として認識することが難しくなるとの指摘もある(乙A239)。この点,じん肺診査ハンドブックにおいても,「その他のじん肺」について,密在する小結節の陰影が重なり合うと容易に粒状影としては認められないことがある旨の記載がある(甲A1)。 以上によれば,重積効果の点からエックス線写真の方が明らかに優れた診断ができるとも直ちにはいえない。したがって,この点からもCT写真の有用性がないとはいえず,原告らの上記主張も採用することができない。 原告らは,じん肺法においてはそもそもCT写真による判定を認めておらず,未だ研究の途上であるし,現在継続されている研究でも見るべき成果は上がっていないとして,CT写真の有用性を論難する。そして,管理区分決定の手続やその前提となるじん肺健康診断の内容及び手法において,これが定められているじん肺法や同法施行規則,あるいはじん肺診査ハンドブックには,胸部エックス線写真の画像診断によって管理区分を決定すると記載され,胸部CT写真に 肺健康診断の内容及び手法において,これが定められているじん肺法や同法施行規則,あるいはじん肺診査ハンドブックには,胸部エックス線写真の画像診断によって管理区分を決定すると記載され,胸部CT写真についての直接の言及はない。 しかしながら,厚生労働省の「じん肺法におけるじん肺健康診断等に関する検討会」による報告書(平成22年5月13日)においても,胸部CT写真の画像所見が有用であることや,CT検査の普及が進み,じん肺にかかるCT写真の国際的なガイドラインが発刊されていること等についての言及があること(甲A91,乙A183),平成26年度から平成28年度にかけ,胸部CT検査の有用性の検証を目的として「じん肺の診断基準及び手法に関する調査研究」が行われ,初期のじん肺診断においては適切な評価や振り分けのためCTを用いることを推奨する との研究結果が取りまとめられたこと(甲A100,101,乙A243),そもそも,参考として同一患者の胸部CT写真が収録された標準写真集電子媒体版が医療機関等に配布され,平成23年10月1日以降に申請される管理区分決定手続に用いられるようになっており,現在においてもこの取扱いに変更はない(甲A90)こと,以上の事実によれば,原告らの上記主張は採用することができない。 原告らは,CT写真の読影に関し,統一的判断をするための標準画像は未だ存在しないとして,じん肺診断におけるCT写真の有用性を論難する。 たしかに,現時点では,CT写真の読影に関する標準画像や統一的判断基準等は公式には設けられていないが,前示のとおり,初期のじん肺診断にはCT写真が有用であるとの調査研究の結論が出され,また,証拠(乙A242)によれば,厚生労働省が平成30年度から,地方じん肺診査医による診査に医療用モニターの が,前示のとおり,初期のじん肺診断にはCT写真が有用であるとの調査研究の結論が出され,また,証拠(乙A242)によれば,厚生労働省が平成30年度から,地方じん肺診査医による診査に医療用モニターの導入を進めることを決めたことも認められる。これらによれば,現時点で標準画像が確定されていないことをもって,じん肺診断においてCTの有用性が否定されていることを示すものとはいえない。 また,原告らは,上記のとおり,じん肺法上,じん肺の診断に用いる画像はエックス線写真であり,「CT写真はじん肺健康診断の際に参考資料として閲覧して,特にじん肺所見があると総合的に判断する場合に利用して差し支えない」(平成30年2月9日付け厚生労働省労働基準局長・基発0209第3号,乙A242)とされていることをもって,CT写真はじん肺所見を肯定する場合にのみ利用することが許容されるとも主張するものと解される。 しかし,現時点でじん肺法3条に基づく画像の取扱いが上記のとおり定められていることは,放射線被曝量や費用負担の問題等を含めた制度 設計上の問題もあることが窺われるところであり,医学的なCT写真の有用性を否定するものとは解されないことは既に述べたとおりである。 そして,上記通達は,特に境界症例においてCT写真を総合的判断の資料とすることができることをいうものと解され,じん肺所見を肯定する方向でのみ利用できるとは解釈し難い。 ウ小括以上のように,CT写真には限界も認められるものの,特に,12階尺度の0/0,0/1,1/0のような境界領域においては,胸部エックス線写真と共に胸部CT写真を利用することにより診断の確度が上がることが多いということができる。そして,原告等が最新の管理区分決定を受けたのは,別紙1「管理区分等一覧表」の「直 おいては,胸部エックス線写真と共に胸部CT写真を利用することにより診断の確度が上がることが多いということができる。そして,原告等が最新の管理区分決定を受けたのは,別紙1「管理区分等一覧表」の「直近の管理区分決定日」のとおりであり,亡Bを除き,いずれも平成23年3月に標準写真集が整備される前であり,その管理区分決定の際には,亡Bを除く原告等については,胸部CT写真は利用されていなかった可能性が高いものといえる。 そうすると,これらの原告等の胸部CT写真は,肺野病変を観察するため,標準的かつ相当な条件によって撮影されたものといえる場合には,管理区分決定によるじん肺罹患の有無及びその程度に関する推認に対する反証として,相当程度の証明力を有するものと認められるというべきである。 そして,証拠(甲A42,乙B1の1の2及び3,乙B3の1の4,乙B4の1の3,乙B5の1の2及び3,乙B6の1の2及び3,乙B7の1の3及び4,乙B8の1の3)及び弁論の全趣旨によれば,本件において証拠資料として提出されたCT写真については,スライス厚,スライス間隔や,肺野条件のウィンドウレベル及びウィンドウ幅などにつき,肺野病変に関する医学的に標準的かつ相当な条件によって撮影ないし読影されたものということができる。 もっとも,上記のような胸部CT写真であっても,読影という評価が必 要であることは胸部エックス線写真と同様であり,結局のところ,原告等の胸部CT写真をいかに読影,評価するかによることとなる。本件においては,読影を行ったL医師及びM医師の意見が別紙7及び同8のとおり対立していることから,以下,個々の原告等についてのじん肺罹患の有無及びその程度の判断において,反証の成否を検討することとする。 ⑶ 個々の原告等のじん肺罹患の有無 意見が別紙7及び同8のとおり対立していることから,以下,個々の原告等についてのじん肺罹患の有無及びその程度の判断において,反証の成否を検討することとする。 ⑶ 個々の原告等のじん肺罹患の有無及びその程度についての判断ア原告A原告Aは,別紙1のとおり,昭和60年10月に管理2の決定を受け,それ以降の変更はない。そうすると,原告Aが管理2相当のじん肺に罹患した事実が推認されるとも解される。 これに対し,M医師は,別紙8のとおり鑑定意見書(乙A166)において,初回認定時の胸部エックス線写真でも近時の胸部エックス線写真でも明らかな粒状影は認められず,胸部CT写真でもじん肺に相応する所見が認められないから,じん肺の所見は認められず,今後顕在化する可能性は極めて低いと述べ,証人尋問においても同旨の証言(証人M医師)をする。そこで,M医師の鑑定意見が原告Aのじん肺罹患の推認を揺るがすかどうか検討するに,M医師が,胸部エックス線写真について,管理区分決定手続における読影結果と異なる読影をしているということだけでは,管理区分決定の高度の信用性に鑑みると,直ちにその信用性を合理的に疑わせ,じん肺罹患の推認を覆すに足りるとはいえない。しかしながら,原告Aを含む原告等についてじん肺罹患の有無そのものが争われている状況にあり,医師の見解が分かれていること自体からみても,いずれも胸部CT写真の有用性が生かされる境界事例といえる。そして,M医師は,胸部CT写真の読影において,標準写真集に収録されている第0型及び第1型のCT写真と比較し,特に血管の走り方を確認する等しながら,血管影と粒状影との区別を意識して読影したこ とが認められる(証人M医師)。このような胸部CT写真の読影の仕方は,前記で認定したCTの有用性に係る医学的知 管の走り方を確認する等しながら,血管影と粒状影との区別を意識して読影したこ とが認められる(証人M医師)。このような胸部CT写真の読影の仕方は,前記で認定したCTの有用性に係る医学的知見に適合するものといえる。また,M医師は,中央じん肺診査医を務め,厚生労働省の標準写真集検討会の座長も歴任するなど,じん肺診断に関する知見を十分に有する医師であり,じん肺診断に関する臨床経験も豊富である。 そうすると,M医師の胸部CT写真の読影結果には相応の信用性が認められるというべきであるから,同医師の鑑定意見に照らせば,原告Aについては,管理区分2に相当するじん肺に罹患していることについて合理的な疑いを容れる余地があるといわざるを得ない。 これに対し,原告らは,M医師らは,いったんは粉じん斑等について画像診断が可能と断言した(乙A217)が,亡Eの病理所見を見て画像診断が困難な場合もあると意見を後退させる(乙A239)など不合理に意見を変遷させている旨主張する。しかし,原告らが指摘する部分は,1~2mmの粉じん斑等についての診断可能性を言ったり,小さな病変の画像診断が困難なことを言うなど,文脈をみれば,矛盾等というほどのものとはいえず,その他の点を含め,本件において採用する範囲において,M医師らの意見等が不合理とはいえず,その他信用性を否定すべき点があるとは認められない。 一方,L医師は,別紙7のとおり,鑑定意見(甲A69)において,初回認定時の胸部エックス線写真で1/0相当の,近時の胸部エックス線写真で1/1p相当の粒状影が認められ,胸部CT写真でもこれに相応する所見が認められるから,1型相当のじん肺に罹患していると考えられると述べ,証人尋問においても同旨の証言(証人L医師)をする。 そこで,L 粒状影が認められ,胸部CT写真でもこれに相応する所見が認められるから,1型相当のじん肺に罹患していると考えられると述べ,証人尋問においても同旨の証言(証人L医師)をする。 そこで,L医師の上記鑑定意見について検討するに,L医師もM医師と同様,職業性呼吸器疾患の専門的な医師として,主に主治医としてじん肺診断に関わっており,長年にわたる豊富な臨床経験を有する。また, L医師は,M医師と同じ胸部エックス線写真及び胸部CT写真を読影し,鑑定意見を作成している。 もっとも,L医師は,標準写真集にCT画像が付加された理由は医学的見地によるものではない等として,じん肺の診断におけるCT写真の有用性を認めない見解に立つものと解される。しかしながら,前記認定のとおり,胸部CT写真の有用性については医学的知見として確立しているということができる上,標準写真集において胸部CT写真が付加されたのは,判断のばらつきが少ないなどのCTの有用性を理由とするものであることに照らすと,L医師の上記見解が一般的なものとは解し難い。また,L医師は,胸部CT写真について,じん肺の存在を積極的に裏付ける場合にだけ補完的に用いる旨を述べ,これは通達等(甲A90,91,96)にも沿った姿勢である旨証言するが,通達等に対する上記解釈は相当とは解されず,前示のとおりCTが境界事例の鑑別に有用である旨の医学的知見があることに照らしても,同医師の上記意見は了解し難い。このようなL医師の胸部CT写真に対する見解や姿勢(上記証言のほか,甲A75)に加え,後述のとおりL医師の読影につき血管影との区別の根拠が必ずしも明確でないことや,じん肺所見を指摘した部位が意見書と証人尋問時とで一致しないことにつき,血管との区別などの観点からわかりやすい粒状影を指摘したとの説明は の読影につき血管影との区別の根拠が必ずしも明確でないことや,じん肺所見を指摘した部位が意見書と証人尋問時とで一致しないことにつき,血管との区別などの観点からわかりやすい粒状影を指摘したとの説明はあるものの,明らかな画像所見を指摘するのが望ましいという要請は意見書と証人尋問時とで特に異なるとは思われないことなども考慮すれば,同医師の胸部CT写真の読影結果については,直ちに採用し難い。 また,L医師の胸部エックス線写真の読影方法については,以下のような疑問がある。すなわち,L医師は,第1型の非典型けい肺と診断した者については,標準フィルムの「その他のじん肺」(主に活性炭)及び標準写真集の「その他の陰影」(主に第2型のい草)を用いた旨述べ るところ,本件で問題となる遊離けい酸濃度が低い鉱物等により生じる混合粉じん性じん肺のエックス線写真像は,前述のとおり一般的に上肺野優位の粒状影で,小さく濃度が低く,写真上,不鮮明な陰影と認められるというものであり,濃度が低く,不鮮明な陰影となるなどの特徴を有するとはいえ基本的には標準写真集の「粒状影」に該当するものと解される。しかるに,本件とは明らかに吸入粉じん種類の異なる写真を用いることには,粉じん作業についての職歴調査の結果等を踏まえた上で適切な標準フィルムないし標準写真を選択するという手順(甲A1)に整合しない疑いがある。これに対し,原告らは,い草染土の遊離けい酸濃度が20%前後であり低濃度けい酸による非典型けい肺であるとして(甲A151),い草の標準写真を用いることの正当性を主張するが,い草によるじん肺は通常のけい肺結節形成はなく,胸部画像上,肺野の小葉中心性で小粒状陰影は辺縁が不明瞭でスリガラス様を呈し,淡く薄いとの特徴を有するなど,金属鉱山の坑内作業による混合粉じん性じん肺 い草によるじん肺は通常のけい肺結節形成はなく,胸部画像上,肺野の小葉中心性で小粒状陰影は辺縁が不明瞭でスリガラス様を呈し,淡く薄いとの特徴を有するなど,金属鉱山の坑内作業による混合粉じん性じん肺と異なることが窺われる(甲A153)ことからしても,L医師の上記見解は採用し難い。他にも,L医師は,平成23年10月より前に撮影されたものについては標準フィルムを,それより後のものは標準写真集を用いたと述べるが,対象写真の撮影時期によって標準フィルムと標準写真集を使い分ける根拠は明らかではない。 そうすると,L医師の胸部エックス線写真の読影結果についても,上記の点を考慮せざるを得ず,第1型相当のじん肺罹患が認められるとのL医師の意見を直ちに採用することはできない。すなわち,L医師の読影結果をもって前記のM医師の読影結果を排斥することはできず,したがって,原告Aにつき,管理2に相当するじん肺罹患との推認を動揺させるに足る反証がなされているといわざるを得ない。 もっとも,管理区分決定は,本来,行政手続上,多数のじん肺罹患者 を分類して一律の処遇をするためのものであることを踏まえれば,かかる反証により,管理2に相当するじん肺罹患とは認められないからといって,当然に粉じん曝露による病変やこれによる健康被害が存在しないことまでを意味するものではない。また,胸部レントゲン写真及びCT写真による病変の検出にも限界があることからすれば,原告Aの肺内に粉じん曝露による線維結節性変化などの病変が存在しないとまで認められるものでもない。 そして,原告Aが長年管理2の認定を受け続けていることに加え,長期間の粉じん職歴を有していること,証拠(甲B1の4)によれば,咳や痰,息切れ等の症状が出ていると認められること,続発性気管支炎の認定を受け ,原告Aが長年管理2の認定を受け続けていることに加え,長期間の粉じん職歴を有していること,証拠(甲B1の4)によれば,咳や痰,息切れ等の症状が出ていると認められること,続発性気管支炎の認定を受けており,長年の健康診断や受診等によっても,じん肺罹患に関する管理区分の変更や労災保険給付支給の取消しをされていないこと等に基づけば,およそじん肺及びこれに類する所見がなく,今後じん肺症状が顕在化する危険性がないとはいい難い。そうすると,原告Aについては,管理2に相当するじん肺に罹患しているとは認められないものの,少なくとも,これに至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在すると認めるのが相当である。 イ亡B 亡Bは,別紙1のとおり,昭和56年9月に管理2,平成26年10月に管理3ロ(甲B2の1),平成27年11月に管理4の決定を受け,同月29日に死亡した。 亡Bについては,胸部CT写真の証拠提出がないため,じん肺罹患の有無の判断は胸部エックス線写真のみによることになる。 この点,L医師は,別紙7のとおり,鑑定意見において,初回認定時(昭和56年7月撮影)の胸部エックス線写真では,若干見えにくいも のの1/0ないし1/1相当の,近時(平成4年6月撮影)の胸部エックス線写真では2/1p相当の粒状影が認められるから,2型相当のじん肺に罹患していると考えられると述べ,証人尋問においても同旨の証言(証人L医師)をする。 これに対し,M医師は,別紙8のとおり,鑑定意見において,初回認定時の胸部エックス線写真でも直近の胸部エックス線写真でも,じん肺に相応する所見が認められないから,じん肺の所見は認められず,今後顕在化する可能性は極めて低いと述べ とおり,鑑定意見において,初回認定時の胸部エックス線写真でも直近の胸部エックス線写真でも,じん肺に相応する所見が認められないから,じん肺の所見は認められず,今後顕在化する可能性は極めて低いと述べる。 しかしながら,前記のとおり,M医師が胸部エックス線写真の読影においてじん肺の所見が認められないと結論付けたことだけでは,管理区分決定の信用性を疑わせ,じん肺罹患の推認を覆すに足りるものではない。また,そもそも亡Bの胸部エックス線写真は直近でも平成4年のものであるため,仮に同年当時のエックス線写真上じん肺所見の有無について問題があるとしても,亡Bが長年粉じん職場において勤務していたことに照らせば,その後じん肺罹患が顕在化し,悪化していった可能性が高いというべきである。さらに,M医師は鑑定意見において,じん肺所見ではないものの,両側上肺野に不整形の陰影が認められ,(肺の)容量の減少が認められる旨述べているところ,この点に関し証人尋問において,何か炎症の痕だろうとは思うものの,はっきりとは分からず,断定することはできない旨述べていることにも照らせば,M医師の上記読影結果をもって,亡Bのじん肺罹患を否定することはできない。 以上の検討によれば,亡Bは,認定された管理区分のとおり,じん肺に罹患し,その後進展して管理4相当の状態に至ったものと認めるのが相当である。 ウ原告C 原告Cは,別紙1のとおり,昭和60年8月に管理2の決定を受けて おり,以後,その変更はない。 これに対し,M医師は,別紙8のとおり,鑑定意見において,初回認定時の胸部エックス線写真でも直近時の胸部エックス線写真でもじん肺に相応する陰影は認められず,胸部CT写真でもじん肺に相応する陰影は認めら に対し,M医師は,別紙8のとおり,鑑定意見において,初回認定時の胸部エックス線写真でも直近時の胸部エックス線写真でもじん肺に相応する陰影は認められず,胸部CT写真でもじん肺に相応する陰影は認められないから,じん肺の所見は認められず,今後顕在化する可能性は極めて低いと述べる。 前記のとおり,M医師が胸部エックス線写真の読影においてじん肺所見を否定しているだけでは,管理区分決定の信用性を合理的に疑わせるに足りないものの,同医師の胸部CT写真の読影は相応の信用性が認められることに照らせば,原告Cについては,管理区分2に相当するじん肺に罹患していることについて合理的な疑いを容れる余地があるといわざるを得ない。 一方,L医師は,別紙7のとおり,鑑定意見において,初回認定時の胸部エックス線写真で1/0p相当の,直近時の胸部エックス線写真で1/1p相当の粒状影が認められ,また,胸部CT写真でも右肺吻側及び左肺中央部分に粒状影が多いという,上記直近時の胸部エックス線写真と相応する所見が認められるから,1型相当のじん肺に罹患していると考えられると述べ,証人尋問においても同旨の証言(証人L医師)をする。 しかしながら,上記のとおり,L医師の胸部エックス線写真及び胸部CT写真の読影結果は慎重に評価すべきである上,証人尋問において,鑑定意見(甲A69)とは異なる位置に粒状影が認められると述べるなど,その信用性には若干疑問がある。そうすると,L医師の読影結果をもって前記のM医師の読影結果を排斥することはできず,管理2に相当するじん肺罹患との推認を動揺させる反証がなされているものといわざるを得ない。 もっとも,原告Cは,管理2の認定を受け続けてきた上,長期間の粉じん職歴を有していること,証拠(甲B3の4)及び弁 罹患との推認を動揺させる反証がなされているものといわざるを得ない。 もっとも,原告Cは,管理2の認定を受け続けてきた上,長期間の粉じん職歴を有していること,証拠(甲B3の4)及び弁論の全趣旨によれば,同原告には息切れや咳,痰など,息切れなど,肺機能の低下を示す症状が顕れていると認められること等に鑑みれば,原告Aに関して述べたところと同様,およそじん肺及びこれに類する所見がなく,今後じん肺症状が顕在化する危険性が全くないとはいい難い。 そうすると,原告Cについても,原告Aと同様,管理2に相当するじん肺に罹患しているとは認められないものの,少なくとも,これに至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在すると認めるのが相当である。 エ原告D原告Dは,別紙1のとおり,昭和54年2月に管理2の決定を受けており,以後,その変更はない。 L医師は,別紙7のとおり,鑑定意見において1型相当であると結論付け,その理由として,両中肺野に辺縁の明瞭な粒状影及び両肺門部に卵殻上石灰化があるから典型けい肺であると述べると共に,胸部CT写真において,両肺の吻側(腹側)に粒状影が認められること,右肺側の線状影は不整形陰影の初期と思われ,また,石灰化所見が見られることを指摘する。そして,L医師は,証人尋問においても同旨の証言をする。 一方,M医師は,別紙8のとおり,鑑定意見において,初回認定時の胸部エックス線写真(乙B4の1の4)及び直近時の胸部エックス線写真(乙B4の1の1)のいずれも0/1であり,両側上肺野にわずかに粒状影の存在が疑われるが,明瞭ではないと述べ,胸部CT写真のうち平成26年5月に撮影したもの(乙B4の1の2)について エックス線写真(乙B4の1の1)のいずれも0/1であり,両側上肺野にわずかに粒状影の存在が疑われるが,明瞭ではないと述べ,胸部CT写真のうち平成26年5月に撮影したもの(乙B4の1の2)についても同様の意見を述べる。また,胸部CT写真のうち,平成26年8月に撮影したもの(乙B4の1の3)については,両側上肺野背側部にわずかに粒状 影が認められるとともに,右上肺野に胸膜肥厚,中下肺野右側背側に炎症性変化が認められると述べる。これらを基に,M医師は,原告Dについては,0/1でわずかに粒状影は認められるが,第1型に至らず,第0型である旨結論付けている。 そうすると,結論として第0型の意見を示すものとはいっても,M医師においても,原告等のうち原告Dについては,わずかであれ粒状影の存在に言及したり,炎症性変化や胸膜肥厚にも言及したりしているものであり,CT画像検査の読影においても読影者によりある程度のばらつきが避けられないものであることを考慮すると,かかる読影結果は,管理区分決定の信用性を動揺させるものとは評価し難い。 したがって,原告Dが長年粉じん職場において従事してきたこと,管理2の決定を受け続けてきたことなども併せ考慮の上,原告Dは,管理2相当のじん肺に罹患していると認めるのが相当である。 オ亡E 亡Eは,別紙1のとおり,昭和60年8月に管理2の決定を受け,以後その変更はなく,平成28年12月28日に死亡した。 これに対し,M医師は,別紙8のとおり,鑑定意見において,胸部エックス線写真及び胸部CT写真のいずれについてもじん肺に相応する陰影は認められず,じん肺の所見は認められない(第0型)との意見を述べている。 前記のとおり,M医師が胸部エックス線写真の読影に 部エックス線写真及び胸部CT写真のいずれについてもじん肺に相応する陰影は認められず,じん肺の所見は認められない(第0型)との意見を述べている。 前記のとおり,M医師が胸部エックス線写真の読影においてじん肺所見を否定しているだけでは,管理区分決定の信用性を合理的に疑わせるに足りないものの,同医師の胸部CT写真の読影は相応の信用性が認められることに照らせば,亡Eについては,管理区分2に相当するじん肺に罹患していたことについて合理的な疑いを容れる余地があるといわざるを得ない。 一方で,L医師は,別紙7のとおり,鑑定意見において,胸部エックス線写真でも胸部CT写真でも1/0p相当のじん肺陰影が認められるとして,1型のじん肺に罹患しているとの意見を述べるものの,L医師の胸部エックス線写真及び胸部CT写真の読影結果は慎重に評価すべきであり,この点の証言等にも若干疑問があることなどから,L医師の読影結果をもって前記のM医師の読影結果を排斥することはできないことは,前述のとおりである。 原告らは,亡Eが管理2相当のじん肺に罹患したことを裏付けるものとして,亡Eの残存肺について病理診断を行ったO医師の鑑定意見(甲A87,114)を提出し,同医師の証言もこれに沿う。そこで,O医師の鑑定意見について以下検討する。 aO医師は,まず,肺の表面及び割面の写真及び肺組織の顕微鏡標本を観察し,健康な肺よりも黒色斑が多数かつ高密度に存在し,顕微鏡標本でも黒色斑が確認でき,しかも線維化を伴っていたことから,軽度な部類には属するものの,多数のじん肺結節(MDF)が存在するとされると結論付けた(甲A87)。これに対し,P医師から反対の見解(乙A238)が出されたことを受け,O医師は,改めてホルマリン固定肺を観察した上,新たに肺の 多数のじん肺結節(MDF)が存在するとされると結論付けた(甲A87)。これに対し,P医師から反対の見解(乙A238)が出されたことを受け,O医師は,改めてホルマリン固定肺を観察した上,新たに肺の一部を追加で切り出して顕微鏡標本を作製し,じん肺病変の有無を確認したところ,触診で左肺上葉に硬結を触れたと述べている。また,標本からは2㎜弱の結節病変が認められ,これは静脈周囲結合織に隣接するリンパ装置に形成された病変と判断すると共に,別の標本には2㎜弱の多数の黒色粉じん沈着を伴う境界明瞭な線維性結節が見られ,MDFと判断している。さらに,O医師は,亡Eの一部の気管支腺が軟骨外に及んでいる部位が見られ,気管支腺の過形成が確認できたが,これは喫煙ではなくじん肺の影響によるものであり,続発性気管支炎の罹患を否定できないと結 論付けている(甲A114)。 b 上記のO医師の鑑定意見に対し,P医師は鑑定意見(乙A238,260)において,以下のとおり反対意見を述べる。 すなわち,亡Eの両肺の実物について,触診では硬結に触れることはなく,結節は認められないし,線維化のような硬い病変なども見られないことから,じん肺結節は認められず,仮に存在するとしてもごく初期段階のものである。また,顕微鏡標本について,いずれの部位も粉じん斑の沈着がわずかに認められるものの,気道炎の所見は認められず,続発性気管支炎の存在を示唆する所見はない。最終的な鑑定結果としては,MDPのうち粉じん斑のみからなる極めて軽微又はごく初期のじん肺病変が認められるものの,それ以上のものは認められないし,続発性気管支炎の存在を示唆する所見も認められない。軽度の肺気腫は存在するが,これは粉じん及び喫煙の双方が原因と考えられ,じん肺に起因するものではない(乙A238) それ以上のものは認められないし,続発性気管支炎の存在を示唆する所見も認められない。軽度の肺気腫は存在するが,これは粉じん及び喫煙の双方が原因と考えられ,じん肺に起因するものではない(乙A238)。 O医師の追加意見(甲A114)に対し,リンパ節における結節の存在はじん肺病変とはみなされないし,線維性の結節は認められず,また,気管支腺は正常なものでも軟骨の外にまで見られることがしばしばあるから,これだけで気管支腺の過形成はいえず,同医師の追加意見も誤っている(乙A260)。 c 上記O医師の鑑定意見について検討するに,たしかに,証拠(甲A87,証人O医師)によれば,同医師は,これまで豊富な病理医としての経験を有し,肺の剖検も多数実施してきたことが認められる。 しかしながら,O医師は,じん肺そのものの剖検例はさほど多くはない上,最初の鑑定(甲A87)の際には,肺の触診をしていない点で不十分な鑑定手法であったといわざるを得ない。また,O医師は,鑑定意見では多数のじん肺結節が存在すると述べるものの,証人尋問 では,鑑定の対象とした標本に2個のMDF(線維化の弱い混合型粉じん性線維化巣)を認めたことから,肺全体を評価すれば多数あっただろうと推測されるという趣旨である,ただし,1個については線維化を伴わない粉じん斑と診る医師もいるかもしれない旨述べたり,鑑定意見では管理区分(管理2)とは矛盾しないと述べながら,証人尋問では具体的なじん肺の判断基準は知らないと述べたりする等,内容を後退させており,結局のところ,剖検の結果として管理2に相当するじん肺所見が存在したと直ちに認めるに足りるものではない。さらに,O医師は鑑定意見(甲A114)において,リンパ装置に形成されたけい肺結節病変が見られ,これは低濃度珪酸じん肺の病理 管理2に相当するじん肺所見が存在したと直ちに認めるに足りるものではない。さらに,O医師は鑑定意見(甲A114)において,リンパ装置に形成されたけい肺結節病変が見られ,これは低濃度珪酸じん肺の病理所見が認められるとした初回の鑑定結果(甲A87)を補強するとしているが,証拠(乙A260)によれば,病理組織学上,じん肺結節は肺の組織であり,リンパ装置とは別物であるため,リンパ装置の結節はじん肺病変とはみなさないとされており,このことは証人尋問において同医師も自認するところである(証人O医師)。 このように,O医師の鑑定意見(甲A87,114)は,健康な人や通常の喫煙者と比べて強い粉じん斑が認められ,MDFか線維化を伴う粉じん斑といえる所見が認められたというものと解されるが,線維化所見についてはこれに反するP医師の意見があり,O医師の上記意見は相反するP医師の意見を直ちに排斥するに足るものとはいえない。そうすると,上記の線維化所見や,これを基礎として,じん肺結節などの線維化所見が多数認められるとして管理2に相当するじん肺所見を認める旨のO医師の鑑定意見は,採用することができず,亡Eの管理2に相当するじん肺罹患を積極的に裏付けるものとは評価することができない。 以上検討したところによれば,亡Eは,管理2に相当するじん肺に罹 患していたとの推認が及ぶとはいい難い。もっとも,原告Eの協力が得られず,当初提供された肺標本のみに基づいて鑑定意見を提出したものではあるものの,P医師の見解によっても粉じん斑が確認され,ごく初期とはいえじん肺所見を認めるというのである。このことと,亡Eが管理2の決定を受け続けていたことに加え,証拠(甲B5の5,原告E本人)によれば,亡Eは,生前,咳や痰,息切れなどの肺機能の低下を示す症状を いえじん肺所見を認めるというのである。このことと,亡Eが管理2の決定を受け続けていたことに加え,証拠(甲B5の5,原告E本人)によれば,亡Eは,生前,咳や痰,息切れなどの肺機能の低下を示す症状を呈していたことが認められること等からすれば,少なくとも,管理2に至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在していたと認めるのが相当である。 なお,亡Eの死因についての医学的な証拠の提出はないが,証拠(甲B5の5,原告J)によれば,亡Eは,胆石を取る手術をする予定で入院していたところ,容体が急変して亡くなったものと認められること,証拠(乙A238)によれば,P医師は,亡Eの肺の標本を観察したところ,軽度ながら食物残渣の誤嚥が気道内に認められ,死亡直前の出来事と思われる旨の意見を述べていることからすれば,少なくともじん肺に起因する死亡ではなかったと認められるから,亡Eの死亡の事実は上記認定評価を覆さない。 カ亡F 亡Fは,別紙1のとおり,昭和63年8月に管理2の決定を受け,以後,その変更はなく,平成29年8月29日に死亡した。 これに対し,M医師は,別紙8のとおり,鑑定意見において,胸部エックス線写真及び胸部CT写真のいずれについてもじん肺に相応する陰影は認められず,じん肺の所見は認められない(第0型)との意見を述べる。 前記のとおり,M医師が胸部エックス線写真の読影においてじん肺 所見を否定しているだけでは,管理区分決定の信用性を合理的に疑わせるに足りないものの,同医師の胸部CT写真の読影は相応の信用性が認められることに照らせば,亡Fについては,最新の胸部CT写真撮影時点である平成27年8月ころ,管理区分2に相当するじん肺に罹患 わせるに足りないものの,同医師の胸部CT写真の読影は相応の信用性が認められることに照らせば,亡Fについては,最新の胸部CT写真撮影時点である平成27年8月ころ,管理区分2に相当するじん肺に罹患していたことについて合理的な疑いを容れる余地があるといわざるを得ない。 一方で,L医師は,別紙7のとおり,鑑定意見において,初回認定時及び近時の胸部エックス線写真のいずれも1/0p相当のじん肺陰影が認められ,胸部CT写真でも両肺に粒状影が認められるとして,1型のじん肺に罹患しているとの意見を述べ,証人尋問においても概ね同旨の証言をする。 しかしながら,L医師の読影結果をもって前記のM医師の読影結果を排斥することはできないことは,前述のとおりである。 もっとも,亡Fは,管理2の決定を継続して受けていたこと,長期間の粉じん職歴を有していること,平成23年1月に続発性気管支炎の認定を受けていること,証拠(甲B6の4)及び弁論の全趣旨によれば,陳述書作成当時(平成27年7月),亡Fには息切れや咳,痰など,息切れなど,肺機能の低下を示す症状が顕れていたこと,後述するように,亡Fは平成28年10月に原発性肺がんに罹患していることが判明したこと等に鑑みれば,およそじん肺及びこれに類する所見がなく,今後じん肺症状が顕在化する危険性がなかったとまではいい難い。 そうすると,亡Fについては,管理2に相当するじん肺に罹患していたとはいえないものの,遅くとも平成27年ころ,管理2に至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が既に肺内に存在したと認めるのが相当である。 なお,平成28年以降に肺がんの疑いやその治療の目的で検査,診断 された飛騨市民病院及び富山大学附属病院における亡Fの する可能性のある病変が既に肺内に存在したと認めるのが相当である。 なお,平成28年以降に肺がんの疑いやその治療の目的で検査,診断 された飛騨市民病院及び富山大学附属病院における亡Fの画像診断結果に小陰影の記載がない(乙B6の12の2・1028頁,乙B6の11・39頁)ことは,その検査目的に照らし,いずれも上記の認定評価を左右しない。 キ原告G 原告Gは,別紙1のとおり,昭和63年8月に管理2の決定を受けており,以後その変更はない。 これに対し,M医師は,別紙8のとおり鑑定意見において,胸部エックス線写真及び胸部CT写真のいずれについても,じん肺に相応する陰影は認められないから,じん肺の所見は認められず,今後顕在化する可能性は極めて低いと述べる一方,L医師は,別紙7のとおり,鑑定意見において,初回認定時の胸部エックス線写真で0/1p相当の,直近時の胸部エックス線写真で1/0p相当の粒状影が認められ,また,胸部CT写真では両肺の辺縁部に粒状影が認められ,特に右肺の辺縁部に粒状影が多く認められるなどとして,1型相当のじん肺に罹患していると考えられると述べ,証人尋問においても同旨の証言(証人L医師)をする。 しかるところ,M医師の胸部CT写真の読影は相応の信用性が認められることに照らせば,原告Gにおいて,管理区分2に相当するじん肺に罹患していることについて合理的な疑いを容れる余地があり,L医師の読影結果をもって前記のM医師の読影結果を排斥することはできないことは,いずれも前述のとおりである。 もっとも,原告Gは管理2の認定を受け続けている上,長期間の粉じん職歴を有していること,証拠(甲B7の4,原告G本人)及び弁論の全趣旨によれば,同原告は,息切れや咳,痰など,肺 もっとも,原告Gは管理2の認定を受け続けている上,長期間の粉じん職歴を有していること,証拠(甲B7の4,原告G本人)及び弁論の全趣旨によれば,同原告は,息切れや咳,痰など,肺機能の低下を示す症状を呈していることが認められること等に鑑みれば,およそじん肺及 びこれに類する所見がなく,今後じん肺症状が顕在化する危険性がないとまではいい難い。 そうすると,原告Gについても,管理2に相当するじん肺に罹患しているとはいえないものの,少なくとも,管理2に至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在すると認めるのが相当である。 ク原告H原告Hは,別紙1のとおり,昭和46年3月に管理1(現行のじん肺法の管理区分2に相当。以下,便宜上「管理2」と記載する。)の決定を受けており,以後その変更はない。 これに対し,M医師は,別紙8のとおり,鑑定意見において,胸部エックス線写真及び胸部CT写真のいずれについても,じん肺に相応する陰影は認められないから,じん肺の所見は認められず,今後顕在化する可能性は極めて低いと述べる一方,L医師は,別紙7のとおり,鑑定意見において,初回認定時の胸部エックス線写真で0/1程度の粒状影を認め,また,直近時の胸部エックス線写真では1/0p相当の粒状影が認められ,また,胸部CT写真でも両肺に粒状影が認められるとして,上記直近時の胸部エックス線写真と相応する所見が認められるから,1型相当のじん肺に罹患していると考えられると述べ,証人尋問においても同旨の証言(証人L医師)をする。 しかるところ,M医師の胸部CT写真の読影は相応の信用性が認められることに照らせば,原告Gにおいて,管理区分2に相当するじん肺に べ,証人尋問においても同旨の証言(証人L医師)をする。 しかるところ,M医師の胸部CT写真の読影は相応の信用性が認められることに照らせば,原告Gにおいて,管理区分2に相当するじん肺に罹患していることについて合理的な疑いを容れる余地があり,L医師の読影結果をもって前記のM医師の読影結果を排斥することはできないことは,いずれも前述のとおりである。 もっとも,原告Hは管理2の認定を受け続けている上,長期間粉じ ん職歴を有していること,証拠(甲B8の4)及び弁論の全趣旨によれば,同原告は,息切れや咳,痰など,肺機能の低下を示す症状を呈していることが認められること等に鑑みれば,およそじん肺及びこれに類する所見がなく,今後じん肺症状が顕在化する危険性がないとまではいい難い。 そうすると,原告Hについても,管理2に相当するじん肺に罹患しているとはいえないものの,少なくとも,管理2に至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在すると認めるのが相当である。 3 争点2⑵(じん肺による健康被害・合併症等の有無)について⑴ 続発性気管支炎の罹患についてア続発性気管支炎について続発性気管支炎の意義については別紙6のとおりであり,持続性のせき,たんの症状を呈する気道の慢性炎症性変化はじん肺の病変として,一般的には不可逆性の変化と考えられるが,上記の病変に細菌感染等が加わった状態は一般に可逆性であり,積極的な治療を加える必要があるとして,このような病態をじん肺法では,続発性気管支炎と呼称し,法定合併症に定めたものである(甲A1)。 続発性気管支炎による咳,痰による症状は,じん肺の主要な症状の1つとされている。ただし,喀痰に常に多量の細菌 な病態をじん肺法では,続発性気管支炎と呼称し,法定合併症に定めたものである(甲A1)。 続発性気管支炎による咳,痰による症状は,じん肺の主要な症状の1つとされている。ただし,喀痰に常に多量の細菌を認める場合も,またほとんど常に認めない場合もあるとの指摘もある(乙A171)。 イ罹患の有無についての判断枠組みについて前記前提事実2⑹イのとおり,管理区分手続において,労基署は,管理2又は3の決定を受け,法定合併症の認定を受けていない者から労災保険給付支給の請求があった場合,管理区分決定通知書又はその写し,粉じん職歴,管理区分,決定の根拠となったじん肺健康診断結果等を確認し,合 併症に係る審査を行い,原則として地方じん肺診査医の意見に基づき法定合併症についての認定をするとされている。また,法定合併症の認定を受けた者から請求があった場合は,上記同様の事項を確認し,健康診断を行った日に当該合併症が発病したものとみなすとされているが,この場合には,一般の医師と地方じん肺診査医による法定合併症への罹患の有無に係る判断が示される。 このように,法定合併症による労災保険給付の支給決定には,その過程に複数の医師が関与し,医学的な観点からの検討を経ている上,また,上記判定に用いられるじん肺診査ハンドブックには,法定合併症の詳細な要件・認定手続が定められ,度々,その当時の知見や研究成果を踏まえたものに改訂されていることからすれば,一般的に医学的な合理性を有するものというべきである。 そして,法定合併症の認定を受けた者は,療養開始から1年6か月を経過した後は,毎年の定時報告として,医師の診断書等を提出することになっている(労災保険法施行規則19条の2)。 また,法定合併症のうち続発性気管支炎及び続発性気管支拡張症は,それらの 年6か月を経過した後は,毎年の定時報告として,医師の診断書等を提出することになっている(労災保険法施行規則19条の2)。 また,法定合併症のうち続発性気管支炎及び続発性気管支拡張症は,それらの発症の原因となるじん肺病変が不可逆性であることから,一般に症状の消長が繰り返されることが予測されるので,症状の出現期においては要療養とし,消退期においては療養の中断として取扱い,治癒の判断には特に慎重を期することとされており(改正じん肺法の施行によるじん肺の合併症についての労災請求に係る事務処理につき発出された労働省労働基準局補償課長及び労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課長の都道府県労働基準局長宛て「じん肺の合併症に係る療養等の取扱について」と題する事務連絡文書,甲A77),臨床現場においても6か月ないし1年といった相当期間治療を打ち切って経過観察をした後に治癒の判断がされていることが窺われる(甲A75,76)。 以上の事実に照らせば,管理2又は3の決定を受け,合併症による労災保険給付の支給決定がされたという事実は,当該法定合併症の罹患を推認させるというべきであり,法定合併症である続発性気管支炎の罹患についても,上記推認を覆すに足りる反証がなされない限り,支給決定の時点での罹患の事実を認めるのが相当である。また,続発性気管支炎の認定を受けて労災保険給付の支給を受けた後,支給を中止されることなく継続されている者については,支給決定を受けた時点から現在に至るまで,継続的に続発性気管支炎に罹患していたか,少なくとも治癒には至っていないこと,また,死亡した者については,死亡時まで罹患していたか,少なくとも治癒には至っていなかったことが,反証のない限り推認されるというべきである。 ウ個々の原告等の罹患の有無について と,また,死亡した者については,死亡時まで罹患していたか,少なくとも治癒には至っていなかったことが,反証のない限り推認されるというべきである。 ウ個々の原告等の罹患の有無について 別紙9のとおり,亡Bを除く原告等は,いずれも続発性気管支炎の認定を受け,労災保険給付の支給決定を受けており,現在まであるいは死亡時までに支給を中止された者がいるとは認められない。 これに対し,被告らは,原告等において,続発性気管支炎の根拠となる最近の喀痰検査の測定データが少なく,継続的に喀痰検査が実施されていない例も多く,喀痰細菌検査も全く実施されておらず,医師が気道感染のコントロールに苦慮する様子も確認できないとして,そもそもいずれも続発性気管支炎に罹患していなかった旨主張し,M医師はこれに沿う鑑定意見(乙A166)を述べ,同旨の証言をする(証人M医師)。 しかしながら,証拠(甲A74ないし76,122,証人L医師)及び弁論の全趣旨によれば,続発性気管支炎の治療については統一的な治療方針があるわけではなく,医師ごとに治療方針は異なり得ること,基本的には対症療法が中心で,抗生剤の投与が必須とまではいえないこと, マクロライド系の抗生剤の効果については評価が分かれることが認められる。 しかも,前記認定のとおり,続発性気管支炎の認定を受けた原告等はいずれも,毎年の定時報告として医師の診断書等の提出をしなければならないところ,その際に喀痰検査を受けていることが認められる(乙B1の2,3の2,4の2の1及び2,5の2,6の2,7の2,8の2の1及び2)上,いずれの原告等も労災保険給付が中止されていないことも併せ鑑みれば,続発性気管支炎の診断基準を満たしているものというべきである。 よって,被告らの上記主張は採用することができ の2の1及び2)上,いずれの原告等も労災保険給付が中止されていないことも併せ鑑みれば,続発性気管支炎の診断基準を満たしているものというべきである。 よって,被告らの上記主張は採用することができない。 原告Dについて原告等のうち原告Dは,前記2⑶エで認定したとおり,管理2相当のじん肺に罹患していると認められるところ,上記アの説示に照らせば,労災保険給付の支給決定を受けた平成24年8月1日の時点において,続発性気管支炎に罹患し,現在も罹患していると認めるのが相当である。 原告A,同C,亡E,原告G,同Hについて他方で,上記原告等は,前記2⑶で認定説示したとおり,いずれも管理2相当のじん肺に罹患しているとは認められないため,じん肺法上の続発性気管支炎に罹患しているとはいえない。 もっとも,同原告等は,続発性気管支炎に係るそれ以外の診断基準は満たしており,粉じん職場における長期間の粉じん曝露により,少なくとも管理2に至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在すると認められることに加え,いずれも,咳や痰等の症状や労作時の息切れ等の症状を訴えていることに照らせば,粉じんが相当程度関与して生じた気道の慢性炎症性変化を生じているものと認めるのが相当であり,続発性気管支 炎に類する症状を生じている,あるいは死亡当時までに生じていたと認めることができる。 ⑵ 原発性肺がんの罹患及びじん肺死について(亡F)ア亡Fは,前示のとおり,遅くとも平成27年ころには,少なくとも,管理2に至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在したものと認められる上,証拠( 前示のとおり,遅くとも平成27年ころには,少なくとも,管理2に至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在したものと認められる上,証拠(甲B6の5ないし10,乙B6の2ないし13〔枝番を含む。 なお,乙B6の10は欠番〕)及び弁論の全趣旨によれば,亡Fは,平成23年1月から,月1回程度の頻度で飛騨市民病院を受診していたこと,同月25日を療養開始日として続発性気管支炎の認定を受けたこと,平成28年10月に同病院を受診した際に胸部CT写真を撮影したところ,右肺門部に腫瘤影を認めたため,同月,富山大学付属病院を受診して検査を受けたところ,小細胞がんが判明したこと,その後,同病院への入退院を繰り返しながら治療を続けていたが,徐々に肺がんの進行により全身状態が悪化し,平成29年8月29日に死亡したこと,亡Fの直接の死因は原発性肺がんであったこと(富山市民病院S医師作成の意見書・甲B6の7),高山労働基準監督署は調査を行い,亡Fの死亡とじん肺及び肺がんには相当因果関係が認められ,業務上の疾病であると判断し,死亡に関する労災保険(遺族補償年金等)の給付を決定したことがそれぞれ認められる。 よって,上記の経過に照らせば,亡Fは,じん肺を基礎として原発性肺がんを発症し,それを原因として死亡したと認めるのが相当である。 イ被告らは,亡Fはじん肺に罹患していないから,じん肺死とは認められない旨主張する。たしかに,前記認定によっても,亡Fに認められるのは管理2に至らない程度の線維結節性変化,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変であり,亡Fの病状の進行がじん肺に罹 患した者の一般的な病状の進行に比べやや早いとも思われる。しかしながら,病状の進行は,個人の体質や体 は今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変であり,亡Fの病状の進行がじん肺に罹 患した者の一般的な病状の進行に比べやや早いとも思われる。しかしながら,病状の進行は,個人の体質や体調,生活習慣や周囲の環境等に応じて様々であると考えられるし,上記経過に照らせば,じん肺を原因として死亡に至るまでの経過が不自然とはいえない。 よって,被告らの上記主張は採用することができない。 ウまた,被告らは,亡Fの喫煙歴の影響を指摘するが,後述するとおり,過失相殺等で考慮されるべき事情である。 ⑶ なお,肺機能障害について,原告らは,医師の総合判断の結果,原告等全員がF(+)の結果だったのであるから,じん肺による肺機能障害があると主張し,これを独自の健康被害として主張する。しかしながら,別紙8「M医師の鑑定意見」(乙A166)によれば,M医師は,原告C,亡F及び原告GのみF(+)であり,その余の原告等についてはいずれもF(-)で肺機能障害はないと判定している上,肺機能検査が被験者や検査者の主観にも左右されるものであることも併せれば,原告等が客観的にどの程度の肺機能障害を負っているのか明確には判断できない。また,そもそも管理区分制度においては,著しい肺機能障害があるとされて管理4とされる以外には,肺機能障害の有無が管理区分の決定において考慮されないことも併せ鑑みれば,肺機能検査結果により判定された肺機能障害があることのみを抽出して,じん肺所見の進行程度に応じた管理区分やこれに伴う合併症等とは別に,独自に健康被害として論じるのは相当ではないというべきである。 4 争点2⑶(損害額)について⑴ 包括一律請求についてア原告らは,不可逆性や進行性等のじん肺の特性やじん肺患者の深刻な被害状況等から,原告等の 相当ではないというべきである。 4 争点2⑶(損害額)について⑴ 包括一律請求についてア原告らは,不可逆性や進行性等のじん肺の特性やじん肺患者の深刻な被害状況等から,原告等の苦痛を慰謝するために必要な賠償額はそれぞれ3000万円を下らないとして,原告等全員につき一律に同額の慰謝料を請求する,いわゆる包括一律請求をしている。 これに対し,被告らは,各原告等の症状や状況に応じて個別に損害を認定すべきであることを主張し,また,過去の裁判例において包括一律請求が認められたのは,管理2であっても,管理3や管理4といったより重篤な症状へと必然的に進行する途中経過という位置付けにある者であるところ,本件の原告等は管理2の初回決定から長期間不変であることを指摘して,包括一律請求は妥当でない旨主張する。 イそこで,本件において,一切の損害を含むものとして類型化された慰謝料をもって,包括一律請求をすることの当否をみるに,原告等はいずれも金属鉱山における長期間の粉じん曝露という同一原因によりじん肺を発症したことに基づく損害を主張するという共通性を有し,被害内容はある程度類型化することができるものである。一方で,じん肺の病態の性質上,被害が長期間にわたり継続するものであり,進行も想定されるものであることから,個別の損害項目による損害を主張するときは,損害立証が相当煩雑となることが考えられる。このような場合に,原告らが,原告等に生じた一切の損害を包括的に考慮した上で,類型化した慰謝料額をいわゆる全部請求として請求することも,それが本来請求しうるであろう損害の範囲に抑えられ,損害を増減しうる類型化し難い事情については個別に主張しうるものとする限り,請求には合理性があり,かつ被告らに不当な不利益を課すものでもない。 も,それが本来請求しうるであろう損害の範囲に抑えられ,損害を増減しうる類型化し難い事情については個別に主張しうるものとする限り,請求には合理性があり,かつ被告らに不当な不利益を課すものでもない。 したがって,本件において,原告らが一切の損害を包括的に考慮した上で,類型化した慰謝料額をもって,包括一律請求をすることは許されるというべきである。 ウさらに,原告らは,原告等全員につき一律同額の慰謝料額を請求するところ,たしかに,原告らの主張するとおり,前記前提事実2⑶ウのとおり,一般的なじん肺の特性として不可逆性や進行性が挙げられる。 しかし,他方で,証拠(乙A160,161)によれば,胸部エックス 線写真上,初回受診時のじん肺所見が第1型(PR1)の者については相当多くの割合で進行が見られず,同型に止まっていること,また,離職後15年以上経過してから観察を開始した者については,その内の僅かにしか進行が見られなかったことが認められ,M医師らの鑑定意見(乙A170・76頁)も考慮すれば,じん肺の進行性は一般的には認められるものの,その進行の有無や度合いは,じん肺罹患の程度に応じて様々に異なるものと認められる。 そして,本件の原告等のうち,亡Fはじん肺死に至ったものと認定され,亡Bは管理4に進行したことが認められるものの,その余の原告等については,管理2との決定の後,相当期間にわたり管理区分決定が変更されていないことが認められる。また,原告Dについては管理2の健康被害が認定できるものの,原告A,同C,亡E,原告G及び同Hについては,管理2に至らない程度の線維結節性変化,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に生じているとの限度で健康被害が認められるものである。 これらを踏まえて,前記に認定,判断し は,管理2に至らない程度の線維結節性変化,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に生じているとの限度で健康被害が認められるものである。 これらを踏まえて,前記に認定,判断したような原告等に認定される健康被害の内容及び管理区分制度の趣旨などに鑑みれば,原告等に生じた損害の認定にあたっては,管理区分や法定合併症の罹患,あるいはじん肺死といった,管理区分制度に照らしても質的に異なる事由であり,当該原告に現に生じたと認められる健康被害の事由を損害額に反映させるのが相当である。 したがって,前述のとおり原告等にそれぞれ認められる管理区分等に応じた健康被害に従った類型的な慰謝料額を算定することとし,財産的損害等その他一切の損害は,慰謝料額算定の一事情として斟酌するものとする一方で,財産的損害の填補等の個別事情も,慰謝料額算定の一事情として考慮するのが相当である。 エ以上の認定,判断に反する原告ら及び被告らの主張は,いずれも採用できない。 ⑵ 被告らは,包括一律請求によるとしても,慰謝料額算定にあたっては,原告等が労災保険給付等を相当程度受給していることを十分考慮すべきである旨主張する。 ア証拠(乙B1の7,3の7,4の7,5の7,6の7,7の7,8の7)及び弁論の全趣旨によれば,原告等のうち亡Bを除く原告等については,少なくとも別紙10「労災保険給付等一覧表」のとおり,労災保険給付等が支給されたものと認められる。 イ労災保険給付等は,労働災害による傷病によって療養のための医療費等を要したり,稼働できなくなったことによる休業損害ないし逸失利益等の財産的損害を填補する性質の給付である。そうすると,原告等は,じん肺法による法定合併症に罹患したことを理由とする労災保険給付等を支給されることによ できなくなったことによる休業損害ないし逸失利益等の財産的損害を填補する性質の給付である。そうすると,原告等は,じん肺法による法定合併症に罹患したことを理由とする労災保険給付等を支給されることによって,上記項目に相応する財産的損害を一定程度填補されたものと認められる。 そして,原告らの本件における請求が一切の損害を考慮した慰謝料を請求する包括一律請求であり,財産的損害も慰謝料算定の一事情として考慮される一方で,財産的損害の填補も同様に一事情として考慮するのが相当であることは,前述のとおりであるから,原告等が労災保険給付等を受給したことは,その実額が原告らの請求額から控除される筋合いのものではないが,慰謝料を減額する一事情としての限度で考慮されることとなる。 ⑶ また,被告らは,原告等のうち,肺機能障害がないと判定された者についてはこれを考慮して損害額を減額すべき旨主張する。 しかしながら,前記3⑶で説示したとおり,管理区分制度上,単なる肺機能障害は考慮されないものであり,本件において原告等の健康被害としても 評価しておらず,(著しい肺機能障害に至らない程度の)肺機能障害の有無を損害額において考慮すべきものとは解されない。さらに,じん肺は進行性のある疾患であり,進行の度合いには個体差が認められると考えられる。この点は,現在管理2に相当するじん肺の罹患が認められなくとも,これに至らない程度の線維結節性変化,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変を肺内に生じている場合にも当てはまるものということができる。この点からも,現時点で肺機能障害が認められないことをもって,損害額が減額されるとするのは相当ではない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 ⑷ 以上に検討したところを含め,本件に顕れ ,現時点で肺機能障害が認められないことをもって,損害額が減額されるとするのは相当ではない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 ⑷ 以上に検討したところを含め,本件に顕れた一切の事情を考慮して,原告等の損害額(慰謝料)は,以下のとおり評価するのが相当である。 ア管理2(原告D) 1300万円イ管理4(亡B) 2200万円ウじん肺死(亡F) 2500万円エまた,原告等のうち,原告A,同C,亡E,原告G及び同Hについては,前示のとおり,管理2相当のじん肺に罹患しているとは認められないものの,管理2に至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に存在すると認められるとともに,続発性気管支炎に類する症状が現に発現している。そうすると,じん肺の一般的な進行性に鑑み,今後,上記原告等の症状がより重篤になる可能性もあると考えられるから,このような人体への被害や具体的な健康被害については損害が発生していると評価することができ,これを金銭に換算すると,500万円と認めるのが相当である。 第8 争点3(被告らが連帯責任を負うか否か)についての当裁判所の判断 1 原告Hを除く原告等はすべて,被告ら双方において粉じん作業に従事した者であり,これらの原告等については,被告三井金属が昭和61年6月30日ま での期間について,また,被告神岡鉱業が同年7月1日以降の期間について,それぞれ安全配慮義務を負っており,これを尽くしていなかったものというべきである。一方,原告Hについては,昭和61年7月1日よりも前に被告三井金属を退職しているものの,その後も被告らの下請会社に所属し,粉じん作業に従事していたのであって,前示のとおり下 たものというべきである。一方,原告Hについては,昭和61年7月1日よりも前に被告三井金属を退職しているものの,その後も被告らの下請会社に所属し,粉じん作業に従事していたのであって,前示のとおり下請会社の従業員についても被告らは安全配慮義務違反を負っていたというべきであるから,その余の原告等と同様に,被告三井金属が昭和61年6月30日までの期間について,被告神岡鉱業が同年7月1日以降の期間について,それぞれ安全配慮義務を負っており,これを尽くしていなかったものというべきである。 2 原告らは,被告神岡鉱業は被告三井金属の100%子会社であり,役員も被告三井金属の従業員が就任している等の実態からすれば,被告神岡鉱業は被告三井金属と同一の存在であり,原告等のじん肺罹患についての債務不履行責任を連帯して負うべきである旨主張する。 しかしながら,原告らの主張する上記諸事実をもって被告神岡鉱業の法人格を否定することはできず,被告らが実質的に同一であるということはできない。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 3 原告らは,民法719条1項の類推適用により,原告等のじん肺罹患について被告らが連帯して債務不履行責任を負うべきであるとも主張する。原告らの主張の法的構成はやや判然としないが,同項前段の共同不法行為は,原則として,各共同行為者の行為が独立して不法行為の要件を備えることが要件とされるところ,本件においては上記のとおり,原告等のじん肺罹患が被告三井金属に在籍中のものなのか被告神岡鉱業に在籍中のものなのか判然としないことからすれば,同項後段の類推適用をいう趣旨と解することができる。 ⑴ 民法719条1項後段は,被害者救済を目的として,複数の加害者につき,それぞれ因果関係以外の点では独立の不法行為の要件が具備されている場 ,同項後段の類推適用をいう趣旨と解することができる。 ⑴ 民法719条1項後段は,被害者救済を目的として,複数の加害者につき,それぞれ因果関係以外の点では独立の不法行為の要件が具備されている場合において,被害者に生じた損害が加害者らの行為のいずれか又はこれが競合 して発生したことは明らかであるものの,現実に発生した損害の一部又は全部がそのいずれによってもたらされたか特定できないときは,発生した損害と加害者らの各行為との因果関係の存在を推定する規定であり,この場合には,加害者らが自己の行為と発生した損害との間の一部又は全部に因果関係がないことを主張・立証しない限り,その責任の一部又は全部を免れないものとされる。 ⑵ 本件は,雇用契約の付随義務たる安全配慮義務の不履行に基づく責任が問題となっているところ,その債務は債権者の生命又は身体を保護することを目的とし,因果関係以外の点で債務不履行に基づく損害賠償責任の要件を充足する場合であって,かつ,債権者を救済する必要のあることは不法行為の場合と異ならないから,債務不履行に基づく損害賠償責任についても,民法719条1項後段を類推適用するのが相当である。 ⑶ 本件についてみるに,前記説示のとおり,原告等は被告ら又はその下請会社との間で雇用契約を締結して粉じん作業に従事したものであり,被告三井金属が昭和61年6月30日まで,被告神岡鉱業が同年7月1日からの期間について,それぞれ安全配慮義務を尽くしていなかったと評価される。そして,被告らの安全配慮義務違反は,原告等がじん肺に罹患したこと,続発性気管支炎や原発性肺がんなどの合併症に罹患したことに関する損害を,単独あるいは相互に影響しあってもたらし得るような危険性を有している。また,前示のとおり,原告Hを除く原告等は,被告ら たこと,続発性気管支炎や原発性肺がんなどの合併症に罹患したことに関する損害を,単独あるいは相互に影響しあってもたらし得るような危険性を有している。また,前示のとおり,原告Hを除く原告等は,被告ら以外の使用者の下で粉じん作業に従事した職歴はないし,原告Hについても,被告三井金属及び被告らの下請会社において長期間粉じん作業に従事していたのであるから,原告等に生じた損害が被告らの安全配慮義務違反のいずれか又はこれが競合して発生したことは明らかであるものの,そのいずれによってもたらされたものか特定することができないといえる。 したがって,民法719条1項後段の類推適用に基づき,原告等の被った 損害と,被告らの各安全配慮義務違反との間の因果関係が推定されるものというべきである。そして,これに対し,被告らは,自らの債務不履行だけでは症状が発現する客観的危険性があるとまではいえないことを基礎付ける事実や自己の寄与の程度について,主張及び立証をしていない。 よって,被告らは,原告等の被った損害について連帯して賠償する責任を負う。 第9 争点4(過失相殺の有無)についての当裁判所の判断 1 争点4⑴(喫煙による過失相殺の有無)について⑴ 証拠(乙A76,141ないし157,159,170,198,199,203ないし205,266ないし286〔枝番のあるものは枝番を含む〕)及び弁論の全趣旨によれば,喫煙習慣は各種のがんや呼吸器疾患等,多くの種類の疾病の罹患率を上げること,特に,肺がんについては喫煙により罹患のリスクが増大することが一般的に知られており,これを裏付ける研究や文献も多数存在していることからすれば,喫煙は肺がん罹患の危険性を高めるものであるとの知見が確立しているということができる。 また,原告等はいずれも管理2以 般的に知られており,これを裏付ける研究や文献も多数存在していることからすれば,喫煙は肺がん罹患の危険性を高めるものであるとの知見が確立しているということができる。 また,原告等はいずれも管理2以上の管理区分決定を受けているところ,上記認定事実のとおりの喫煙に関する知見に加え,証拠(乙A63)によれば,じん肺健康診断において,医師は喫煙者に対して喫煙の有害性を十分に説明し,禁煙指導を行わねばならないとされていることが認められるから,原告等も管理区分決定の前提となったじん肺健康診断において,医師から禁煙指導を受けていたと認めるのが相当である。 ⑵ 上記の諸事実によれば,管理2以上の管理区分決定を受けた後も,比較的長期間にわたって多量に喫煙し,その後原発性肺がんを発症した場合は,その損害を被告らに全部賠償させるのは公平の見地からして相当でなく,賠償額の算定に当たっては,民法418条を類推適用して,当該発症者の喫煙歴を考慮するのが相当である。 ⑶ 以上を原告等にあてはめてみるに,前記認定説示のとおり,原告等のうち,原発性肺がんを発症したと認められるのは亡Fのみであるところ,証拠(乙B6の12の1及び2等)及び弁論の全趣旨によれば,亡Fは,遅くとも20歳ころから喫煙を始め,1日平均20本程度の喫煙を継続してきたこと,前示のとおり,昭和63年8月以降,管理2の決定を受け続けてきた上,平成23年1月には続発性気管支炎の認定も受けているが,それ以降も原発性肺がんである小細胞がんに罹患していることが判明する71歳ころまで喫煙を継続してきたことが認められる。 なお,原告らは,亡Fは退職後5,6年程度しか喫煙歴がない旨主張し,これに沿う証拠(甲B6の4)もあるが,上記認定説示に照らし,採用することはできない。 以上の てきたことが認められる。 なお,原告らは,亡Fは退職後5,6年程度しか喫煙歴がない旨主張し,これに沿う証拠(甲B6の4)もあるが,上記認定説示に照らし,採用することはできない。 以上の認定事実によれば,亡Fは,管理2以上の管理区分決定を受けた後も,比較的長期間にわたって相当程度喫煙し,原発性肺がんを発症したものということができ,慰謝料の減額事由に当たるというべきである。 もっとも,喫煙者それぞれの喫煙量や喫煙期間により,喫煙がどの程度肺がん発症に影響を与えるかについては具体的には明らかでなく,この点の医学的知見が確立しているとまではいえないから,喫煙歴による慰謝料の減額については損害額の1割を減額するのが相当である。 よって,亡Fについては,民法418条類推により,損害額の1割(250万円)を減額するべきである。 これに対し,被告らは,ブリンクマン指数やシリカ曝露による肺がんの相対リスクを指摘して,亡Fには長期間にわたる喫煙習慣の影響が大きく,少なくとも9割の過失相殺をすべき旨主張する。しかし,喫煙習慣が肺がんに与える影響には個人差があることは前述のとおりであり,被告らが指摘する疫学調査に基づくリスク評価が医学的知見として確立していると認めるに足りる証拠もない。したがって,かかる評価をもって,直ちに亡Fに発症した 肺がんへの寄与の程度を判断しうるものではない。さらには,被告らの主張するところによっても,亡Fに対して飛騨市民病院医師等による禁煙指導の形跡はなく(乙B6の11),喫煙習慣の社会的受容度や健康への影響に対する認知の程度も時代とともに変遷していることなども考慮すると,損害の公平な分担という趣旨に照らして,亡Fに大きな過失相殺をすべきものとも断じ難く,被告らの主張は採用できない。 ⑷ 被告らは, 対する認知の程度も時代とともに変遷していることなども考慮すると,損害の公平な分担という趣旨に照らして,亡Fに大きな過失相殺をすべきものとも断じ難く,被告らの主張は採用できない。 ⑷ 被告らは,さらに,喫煙が,肺機能に影響を及ぼし,閉塞性肺機能障害や現在の自覚症状(咳・痰)に寄与していると主張し,これに沿う証拠(乙A142ないし159)を提出する。しかしながら,前示のとおり,慰謝料額については管理区分及び法定合併症の罹患の有無,あるいはじん肺死かどうかに基づき評価しており,単なる肺機能障害については損害額算定の要因としては考慮していないから,被告らの上記主張は採用しない。 2 争点⑵(防じんマスク不着用による過失相殺の有無)について前記説示のとおり,防じんマスクを着用して作業をすると,打合せ等に支障を生ずるほか,作業中に息苦しくなるなど,常時着用するには困難な事情があったことが認められる。また,原告等がじん肺罹患防止のために防じんマスクを常時着用することが非常に重要であることについて,意識が十分でなかったとはいえるものの,その要因として,被告らの防じんマスク着用の指導や安全衛生教育の不徹底があったことからすれば,原告等が作業中に防じんマスクを着用しなかったことがあるとしても,これをもって損害の減額事由として考量することは相当ではない。 また,被告らは,原告等のうち,国家試験に合格して保安技術職員の資格を取得した者(原告A,亡E,原告H)については,防じんマスク不着用における過失の程度がより一層大きいとも主張する。たしかに,保安技術職員の資格を取得した者は防じんマスク着用の重要性を理解していたはずであるといえるが,一方で,別紙9によれば,上記原告等は資格取得前から相当年数の粉じん 作業に従事していたので 保安技術職員の資格を取得した者は防じんマスク着用の重要性を理解していたはずであるといえるが,一方で,別紙9によれば,上記原告等は資格取得前から相当年数の粉じん 作業に従事していたのであるから,じん肺罹患が資格取得の前後のいずれかあるいは競合するものなのかを確定することはできない。そうすると,結局のところ,上記原告等が保安技術職員の資格を取得したことを理由として過失相殺をするのは相当でないから,被告らの上記主張は採用することができない。 第争点5(消滅時効の成否・争点5⑴〔消滅時効の起算点はいつか〕)についての当裁判所の判断1⑴ 雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は,民法167条1項により10年と解され,同法166条1項により,当該損害賠償請求権を行使し得る時から時効が進行するものと解される。そして,一般に,安全配慮義務違反による損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成立し,同時にその権利を行使することが法律上可能となるというべきである。そこで,損害が発生したといえる時期について,以下検討する。 ⑵ この点,じん肺に罹患した事実は,その旨の行政上の決定がなければ通常認め難いから,じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けたときに少なくとも損害の一端が発生したものということができる。 しかし,前記前提事実によれば,じん肺は,肺内に粉じんが存在する限り進行するが,それは肺内の粉じんの量に対応する進行であるという特異な進行性の疾患であって,しかもその進行の有無,程度,速度は患者によって多様であり,現在の病状が今度どの程度まで進行するのかはもとより,そもそも進行しているのか,それとも固定しているのかも,現在の医学では確定することができない。このようなじん 程度,速度は患者によって多様であり,現在の病状が今度どの程度まで進行するのかはもとより,そもそも進行しているのか,それとも固定しているのかも,現在の医学では確定することができない。このようなじん肺の病変の特質に鑑みると,管理2ないし管理4の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害には,質的に異なるものがあるといわざるを得ず,重い決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けたときに発生し,その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能になるというべきである。 したがって,雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,最終の行政上の決定を受けたときか6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁参照)。 なお,じん肺によって死亡した場合の損害について,仮に管理区分決定を受けているとしても,その者がじん肺による死亡にまで至るかどうかの蓋然性は不明であるし,死亡による損害は,管理2ないし管理4に相当する病状とは質的に異なるものであることからすれば,じん肺による死亡についての損害賠償請求権の消滅時効は,死亡した時から進行すると解すべきである。 ⑶ そして,管理2などの行政上の決定を受け,その後,続発性気管支炎等の法定合併症に罹患していると認められた者についての消滅時効の起算点について,管理区分決定を受けても,その後法定合併症に罹患するかどうかは不明であるし,法定合併症の認定を受けると療養の対象とされ,労災保険の給付を受けるなど,同じ管理区分でもじん肺法や労災保険法上の取扱いが異なり,管理区分に相当する病状とは質的に異なることになるから,法定合併症の罹患による損害については,その認定を受けた時(労災認定を受けた時又はじん肺管理区分決定通知書にお や労災保険法上の取扱いが異なり,管理区分に相当する病状とは質的に異なることになるから,法定合併症の罹患による損害については,その認定を受けた時(労災認定を受けた時又はじん肺管理区分決定通知書において法定合併症の罹患が明らかにされた時のいずれか早い時点)から損害賠償請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。 ⑷ もっとも,原告等のうち,原告A,同C,亡E,原告G及び同Hについては,管理2相当のじん肺に罹患しているとまでは認めることができず,少なくとも,これに至らない程度の線維結節性変化が存在し,あるいは今後線維結節性変化に進展する可能性のある病変が肺内に生じているという限度で損害が認められるのは前記説示のとおりである。 このような程度にとどまる線維結節性変化等についても,行政上の管理区分決定を受けることによって,初めて粉じん吸入との関連性が認められたも のであるから,上記決定を受けた時に損害が発生したものと解するのが相当である。 また,続発性気管支炎に類する症状については,線維結節性変化に将来発展する可能性のある肺内変化を生じているだけの状態と比べ,その健康被害の程度が大きく,質的に異なっているということができる。そして,続発性気管支炎に類する症状に基づく損害が発生したといえるのは,続発性気管支炎の決定に相当する症状が発現したときであるが,これについては事後的な行政上の決定(労災認定を受けた時又はじん肺管理区分決定通知書において法定合併症の罹患が明らかにされた時のいずれか早い時点)がなければ通常は認定し得ないから,係る決定を受けたときに損害が発生したと解するのが相当である。 原告ら及び被告らは,上記と異なる主張をするが,いずれも採用することはできない。 2 上記を基に原告等について見るに,原告等の ,係る決定を受けたときに損害が発生したと解するのが相当である。 原告ら及び被告らは,上記と異なる主張をするが,いずれも採用することはできない。 2 上記を基に原告等について見るに,原告等のうち,原告A,同C,同D,亡E,原告G及び同Hについては,法定合併症の行政上の認定を受けた日は別紙1「管理区分等一覧表」の「療養・休業補償給付等支給決定日〔症状確認日〕」欄記載の日であるところ,これらの原告等はいずれも,最終の管理区分決定もしくは法定合併症の行政上の認定を受けてから10年以内に本件訴訟を提起しているから,消滅時効は完成していない。また,亡Bについては,最終の管理区分決定を受けたのが平成27年11月4日であり(同別紙「直近の管理区分決定日」欄参照),やはり同日から10年以内に本件訴訟を提起しているから,消滅時効は完成していないし,亡Fについても,じん肺を原因とする死亡日が平成29年8月29日であるから,やはり消滅時効は完成していない。 よって,被告らの消滅時効の主張は採用することができない。 第弁護士費用及び遅延損害金 1 弁護士費用原告らは,原告ら訴訟代理人弁護士らに本件訴訟の提起,追行を委任したものであるところ,本件の事案の内容や審理の経過等の事情を考慮すると,被告らの債務不履行と相当因果関係のある損害としては,本判決別紙認容額一覧表「認容額」欄中の「弁護士費用」欄記載の金額が相当というべきである。 2 遅延損害金安全配慮義務違反を理由とする損害賠償債務は期限の定めのない債務であるから,民法412条3項により,債権者から履行の請求を受けたときに遅滞に陥るというべきである。そうすると,遅延損害金の起算日は,被告らに本件訴状が送達された日の翌日である平成26年8月9日となる。なお,原告 法412条3項により,債権者から履行の請求を受けたときに遅滞に陥るというべきである。そうすると,遅延損害金の起算日は,被告らに本件訴状が送達された日の翌日である平成26年8月9日となる。なお,原告等が,本件訴訟係属中に上位の管理区分決定を受けた場合(亡B)やじん肺を原因として死亡したものと認められる場合(亡F)には,前述のとおり,それぞれその時点において新たな損害が発生したものと評価されるが,一方で,原告らはじん肺の進行性等を踏まえ,これらの損害も含めて包括一律請求をしていると解されるから,本件訴訟係属中に上記の事実が発生しても,訴状送達日の翌日から遅延損害金を起算するのが相当である。 第 結論 よって,その余の争点については判断するまでもなく,原告らの請求は,本判決別紙認容額一覧表の「認容額」欄中の「合計」記載の各金員及びこれに対する平成26年8月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,仮執行の免脱宣言については相当ではないので付さないこととして,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官池町知佐子 裁判官本松智 裁判官中村暢明 (別紙認容額一覧表及び別紙1~10は省略)

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