平成20(ワ)6274 費用補償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年12月9日 大阪地方裁判所
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判決文本文108,355 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,次の各金員を支払え。 (1) 276億4750万3548円(2) (1)のうち223億2001万5937円に対する平成18年8月1日から同年9月29日まで年0.6%の割合による金員及び翌30日から支払済みまで年6%の割合による金員(3) (1)のうち2億円に対する平成18年9月23日から同年10月31日まで年0.6%の割合による金員及び翌11月1日から支払済みまで年6%の割合による金員(4) (1)のうち50億円に対する平成18年11月14日から同年11月30日まで年0.6%の割合による金員及び翌12月1日から支払済みまで年6%の割合による金員(5) (1)のうち4298万2396円に対する平成19年3月1日から,3175万3591円に対する平成19年5月2日から,2100万円に対する平成19年9月1日から,3175万1624円に対する平成20年3月1日から,各支払済みまで年6%の割合による金員 2 第2事件に係る被告の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1事件・第2事件を通じて,被告の負担とする。 4 この判決の第1項は,この判決が被告に送達された日から14日が経過したときは,仮に執行することができる。ただし,被告が250億円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。 事実 及び理由第1 請求 1 第1事件(原告の被告に対する請求)主文第1項と同旨 2 第2事件(被告の原告に対する請求) 原告は,被告に対し,36億1939万2000円及びこれに対する平成19年3月20日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,普通地方公共団体である被告を委託者兼受益者,信託銀行である原告を受託者,被告が所有していた大 平成19年3月20日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,普通地方公共団体である被告を委託者兼受益者,信託銀行である原告を受託者,被告が所有していた大阪市住之江区≪略≫所在の土地(旧大阪市交通局住之江車庫用地の一部。以下「本件信託土地」という。)を当初信託財産として,当事者間で締結された土地信託契約に基づく公有地信託事業における費用の補償及び事業配当(信託配当)をめぐる紛争である。 2 第1事件は,原告が,信託勘定によるべき借入金債務等合計276億4750万3548円を固有財産(銀行勘定)をもって弁済したと主張して,被告に対し,信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第109号)による改正前の信託法(大正11年法律第62号。以下「旧信託法」という。)36条2項本文による受託者の受益者に対する補償請求権に基づき,負担した費用の補償及びこれらに対するそれぞれ履行の請求をした日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金(ただし,上記弁済費用相当額のうち223億2001万5937円に係る部分については平成18年9月29日まで,2億円に係る部分については同年10月31日まで,50億円に係る部分については同年11月30日まで,それぞれ年0.6%の割合による限度での一部請求である。)の支払を求める事案である。 3 第2事件は,被告が,上記土地信託契約には,事業の収支実績を問わず,事業計画において定められたとおりの事業配当を被告が受けられる旨の合意が含まれると主張して,原告に対し,当該合意に基づき,事業計画において定められた平成6年度ないし平成17年度までの事業配当金合計36億1939万2000円及びこれに対する各年度の事業配当金支払日より後の日である平成19年 原告に対し,当該合意に基づき,事業計画において定められた平成6年度ないし平成17年度までの事業配当金合計36億1939万2000円及びこれに対する各年度の事業配当金支払日より後の日である平成19年3月20日(本件訴訟に先立って被告が申し立てた事業配当金請求調停事件に係る調停申立書が原告に郵送された日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による 遅延損害金の支払を求める事案である。 第3 前提事実(証拠等を掲げていない事実は,いずれも当事者間に争いがないか当事者が争うことを明らかにしない事実である。) 1 当事者(1) 原告は,銀行法及び金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(以下「兼営法」という。)に基づいて信託銀行業務等を営む株式会社である(平成15年3月11日以前の旧商号≪略≫,平成14年3月31日以前の旧々商号≪略≫)。 (2) 被告は,政令指定都市である普通地方公共団体であり,大阪市交通局(以下,単に「交通局」という。)は,地方公営企業法に基づいて被告が設置・経営する交通事業を行う地方公営企業である。大阪市交通局長は,交通局の業務を執行するとともに,当該業務に関し被告を代表する権限を有する交通局の管理者である。 2 旧車庫用地と本件信託土地旧大阪市交通局住之江車庫用地(大阪市住之江区≪略≫所在。後記3の有効利用提案競技当時の面積1万6442.75㎡。以下「旧車庫用地」という。)は,被告が昭和31年に取得し,後記5の土地信託契約に基づいて本件信託土地部分が原告に信託譲渡されるまでの間,交通局がバス車庫用地として使用・管理していた土地である。本件信託土地(約8598.83㎡)は,その一部を構成していた。 3 旧車庫用地の有効利用提案競技の開催(1) 被告(交通局)は,平成元年11月,信託を利用した旧車庫 用・管理していた土地である。本件信託土地(約8598.83㎡)は,その一部を構成していた。 3 旧車庫用地の有効利用提案競技の開催(1) 被告(交通局)は,平成元年11月,信託を利用した旧車庫用地における附帯事業を行うことを決定し,そのために,日本国内における土地信託事業の受託実績を有する信託銀行及びその連合体(以下「信託銀行等」という。)を対象とした旧車庫用地の有効利用提案競技(以下「本件提案競技」という。)を主催することを決定した。 (2) 被告(交通局)は,平成元年12月1日,本件提案競技に応募された旧車庫用地の有効利用提案(事業計画)の中から最優秀提案を選定することを目的とする有効利用提案競技審査委員会(以下「審査委員会」という。)を設置し,同月15日 ないし18日,交通局が作成した有効利用提案競技募集要項(以下「本件募集要項」という。)を信託銀行等に配布して,旧車庫用地の有効利用提案(事業計画)を募集した。本件募集要項の内容は,大要,別紙1記載のとおりであった。 (3) 原告は,被告(交通局)から交付された本件募集要項を受けて,平成2年3月20日までに,事業計画概要説明書(乙5の1),施設計画書(乙5の2),資金計画書・収支計画書・管理運営計画書(乙5の3)等から構成される旧車庫用地における事業計画(応募登録第1号提案。以下「本件提案計画」という。)を策定し,同日,これを被告(交通局)に提出した。 本件提案計画の内容は多岐にわたるものであるが,そのうち本件訴訟に直接関係する民間施設用地(信託区域内)における事業に関係する部分は,大要,次のとおりであった。 ア事業の中核として,民間施設用地(信託区域内)上に,ランドマーク性がありバスターミナルを備えた「オスカードリーム」という名称の地下1階地上20階建ての複合 部分は,大要,次のとおりであった。 ア事業の中核として,民間施設用地(信託区域内)上に,ランドマーク性がありバスターミナルを備えた「オスカードリーム」という名称の地下1階地上20階建ての複合型商業施設ビル(以下,本件提案計画におけるもの,その後に構造・設計等が変更されたもの及び実際に建設された地下2階地上19階塔屋2階建てのものを区別せず,「本件信託施設」といい,本件信託土地と併せて「本件信託不動産」という。)を建設・開業する。 イ事業期間を平成2年10月から平成32年9月までの30年間とし,平成2年10月に土地信託契約を締結した後,平成5年11月までに本件信託施設を竣工し,翌12月中にこれを開業させ,以後事業終了時まで26年10か月間にわたって管理・運用する。 ウホテル事業者をキーテナントとして誘致し,本件信託施設の高層階部分(8階ないし20階)において,中長期滞在者を主な集客層とするビジネスホテルを営業させる。また,他のキーテナントとして卸売業者を誘致し,本件信託施設の中層階部分(3階ないし5階)において,大規模小売店舗立地法(平成10年法律第91号)による廃止前の大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法 律(昭和48年法律第109号)に基づく商業活動調整協議会による出店調整手続(以下,「商業調整」という。)を要しない会員制卸売店舗(ニュー卸メンバーショップ「ワールドショーケース」)を営業させる。本件信託施設の他の賃貸部分には,スポーツ施設,飲食店舗等をテナントとして誘致して営業させる。 エ資金計画につき,資金の使途,資金調達方法及び本件信託施設の建設期間中の資金繰りを,それぞれ別紙2(資金計画書・抜粋)記載のとおりと設定する。 オ収支計画につき,収入の前提条件及び支出の前提条件並びに本件信託施 ,資金の使途,資金調達方法及び本件信託施設の建設期間中の資金繰りを,それぞれ別紙2(資金計画書・抜粋)記載のとおりと設定する。 オ収支計画につき,収入の前提条件及び支出の前提条件並びに本件信託施設開業時から事業終了時までの期間における年度別収支見積を,それぞれ別紙3(収支計画書・抜粋)記載のとおりと設定する(同期間中の賃貸料総収入総額約612億万円,累積配当額合計約295億4688万円。なお,本件提案競技中にバスターミナル部分の賃料収入に係る条件設定の誤りが修正されるなどした結果,累積配当額は合計約263億4586万円に修正された。)。 (4) 原告以外の3つの信託銀行等も,そのころ,旧車庫用地における事業計画をそれぞれ策定・提出した(応募登録第2号ないし第4号提案)。 (5) 審査委員会は,応募提案者(旧車庫用地における事業計画を策定して本件提案競技に応募した信託銀行等をいう。以下同じ。)が提案した各応募提案(事業計画)の審査(以下「本件審査」という。)を行い,平成2年6月16日,原告が提案した本件提案計画を最優秀提案として選定した(以下「本件決定」という。)。 4 基本協定の締結原告と被告は,平成2年9月13日,別紙4記載の内容による旧車庫用地の信託に関する基本協定(以下「本件基本協定」という。)を締結した。同協定3条には,「この土地信託に関して,議会の予算承認を経たときは,被告及び原告は,この基本協定をもとに,速やかに土地信託契約を締結する。」と定められていた。 5 土地信託契約の締結等原告は,平成3年3月20日までに,本件提案計画の一部を変更・修正した旧車庫用地における事業計画(乙8。以下「本件事業計画」という。)を被告(交通局) に提出し,被告議会の予算承認を経た上で,同日,本件基本協定3条に基づき,別紙5 案計画の一部を変更・修正した旧車庫用地における事業計画(乙8。以下「本件事業計画」という。)を被告(交通局) に提出し,被告議会の予算承認を経た上で,同日,本件基本協定3条に基づき,別紙5記載の内容による土地信託契約(以下「本件信託契約」という。)が当事者間で締結された(甲1・乙9。以下,本件信託契約に基づく信託を「本件信託」,これに基づいて原告が行う土地信託事業を「本件信託事業」,本件信託に属する信託財産の総体を「本件信託財産」という。)。本件事業計画の別添資料である詳細収支見積表に記載された被告が年度ごとに受ける予定の事業配当金の額は,別紙6「詳細収支見積表」中「信託配当」欄に各記載のとおりである。 6 本件信託施設の建設・開業原告は,平成4年2月14日,本件信託契約8条に基づき,A社及びB社により構成されるC建設共同企業体(以下「本件JV」という。)との間で,本件信託施設の建設請負契約を締結した(乙48)。本件信託施設は,同年5月18日に着工され,平成7年2月末ころに竣工し,同年3月23日に開業した。 7 本件信託事業の推移原告は,現在に至るまで,本件信託契約に基づく信託事務の処理として本件信託事業の管理・運営を行っている(なお,本件信託施設開業以降平成15年3月までは,原告の関連会社であるD社が,原告からの委託に基づいて本件信託施設の管理業務を行っていた。)。 本件信託施設開業後である平成6年度から平成19年度までの各事業年度における本件信託事業の実績は,大要,別紙7の1ないし14(各年度の受託財産管理報告書〔乙39の2ないし15〕抜粋)に各記載のとおりである。被告は,現在に至るまで,本件信託事業に関し,原告から一度も事業配当を受けていない。 8 特定金銭信託契約の締結等原告と被告は,平成14年12月24日 2ないし15〕抜粋)に各記載のとおりである。被告は,現在に至るまで,本件信託事業に関し,原告から一度も事業配当を受けていない。 8 特定金銭信託契約の締結等原告と被告は,平成14年12月24日,被告を委託者兼受益者,原告を受託者,信託財産を被告の大阪市交通事業基金50億円,信託期間を翌25日から平成15年12月24日までの1年間,運用方法を原告が運用する本件信託事業の事業資金として同期間本件信託の受託者たる原告に証書貸付けする方法とする特定金銭信託 契約(以下「本件特定金銭信託契約」といい,これに基づく信託を「本件特定金銭信託」という。)を締結するとともに,別紙8記載の文言が記載された同日付け「特定金銭信託に関する覚書」(以下「本件特定金銭信託覚書」という。)及び別紙9記載の文言が記載された同日付け「土地信託に関する覚書」(以下「本件覚書」という。)を作成した。 9 原告が本件信託契約の受託者として本件信託に関して負担した借入金債務等(1) 借入金債務1(弁済期が平成18年7月31日のもの)ア原告は,平成18年6月22日,本件信託に関し,本件信託施設の設備投資費用及び本件信託事業の運転資金として他の金融機関ないし原告が別に受託する信託の信託財産から借り入れていた借入金の借換えを行うため,原告が別に受託する合同運用指定金銭信託財産から,弁済期同年7月31日,利率年0.6%の約定により,合計218億7378万9610円を手形貸付けの方法により借り入れた。 イ原告は,平成18年6月29日,本件信託に関し,本件信託事業の運転資金として原告が別に受託する特定金銭信託の信託財産から借り入れていた借入金の一部を返済するため,原告が別に受託する合同運用指定金銭信託の信託財産から,弁済期同年7月31日,利率年0.6%の約定により,2 して原告が別に受託する特定金銭信託の信託財産から借り入れていた借入金の一部を返済するため,原告が別に受託する合同運用指定金銭信託の信託財産から,弁済期同年7月31日,利率年0.6%の約定により,2億円を手形貸付けの方法により借り入れた。 ウ原告は,平成18年7月13日,本件信託に関し,本件信託事業の運転資金として原告が別に受託する特定金銭信託の信託財産から借り入れていた借入金の一部を返済するため,原告が別に受託する合同運用指定金銭信託の信託財産から,弁済期同月31日,利率年0.6%の約定により,2億円を手形貸付けの方法により借り入れた。 (2) 借入金債務2(弁済期が平成18年9月22日のもの)原告は,平成18年6月22日,本件信託に関し,本件信託事業の運転資金の借入れを継続するため,原告が別に受託する特定金銭信託の信託財産から,弁済期同年9月22日,利率年0.25%の約定により,合計2億円を手形貸付けの方法に より借り入れた。 (3) 本件特定金銭信託の信託財産からの借入金債務原告は,平成17年12月22日,本件信託に関し,本件特定金銭信託の信託財産から,弁済期平成18年12月22日(後に同年11月13日に変更),利率年0. 25%の約定により,50億円を証書貸付けの方法により借り入れた。 (4) 損害保険料原告は,平成19年2月21日,本件信託に関し,損害保険会社であるE社との間で,本件信託施設を保険の対象とする火災保険契約を締結し,同月28日までに,同社に対し,上記契約に基づく損害保険料として1095万630円の支払義務を負担した。 (5) 修繕費原告は,平成19年7月9日,本件信託に関し,F社との間で,本件信託施設の修繕請負契約を締結し,同年8月31日までに,同社に対し,上記契約に基づく修繕費として2 務を負担した。 (5) 修繕費原告は,平成19年7月9日,本件信託に関し,F社との間で,本件信託施設の修繕請負契約を締結し,同年8月31日までに,同社に対し,上記契約に基づく修繕費として2100万円の支払義務を負担した。 (6) 固定資産税原告は,被告に対し,次のとおり,本件信託不動産に係る固定資産税の納付義務を負担した。 ア平成17年度分 3203万1766円イ平成18年度分 3203万1766円ウ平成19年度分1 3175万3591円エ平成19年度分2 3175万1624円 10 原告の固有財産(銀行勘定)による弁済原告は,上記9(1)ないし(6)の借入金債務等(以下,総称して「本件借入金債務等」という。)につき,次のとおり,固有財産(銀行勘定)をもって弁済した(以下,総称して「本件弁済」といい,これに要した費用を総称して「本件弁済費用」という。)。 (1) 借入金債務1(弁済期が平成18年7月31日のもの)平成18年7月31日弁済元本222億7378万9610円利息1419万4561円合計222億8798万4171円(2) 借入金債務2(弁済期が平成18年9月22日のもの)平成18年9月22日弁済元金2億円(利息を除く。)(3) 本件特定金銭信託の信託財産からの借入金債務平成18年11月13日弁済元金50億円(利息を除く。)(4) 損害保険料平成19年2月28日弁済 1095万630円(5) 修繕費平成19年8月31日弁済 2100万円(6) 固定資産税ア平成17年度分平成18年7月31日納付 3203万1766円イ平成18年度分平成19年2月28日納付 3203万1766円ウ平成19年度分1 平成19年5月1日納付 ア平成17年度分平成18年7月31日納付 3203万1766円イ平成18年度分平成19年2月28日納付 3203万1766円ウ平成19年度分1 平成19年5月1日納付 3175万3591円エ平成19年度分2 平成20年2月29日納付 3175万1624円 11 費用補償の催告原告は,本件弁済の各実施同日,被告に対し,同日の弁済に係る費用相当額の補償を書面により請求した(乙88の1ないし7)。 12 調停事件本件訴訟に先立ち,原告が平成18年12月21日ころに,被告が平成19年3月16日に,それぞれ他方を相手方とする調停を大阪地方裁判所に申し立てた(平成18年(メ)第104号費用補償請求調停事件,同19年(メ)第17号事業配当金請求調停事件)。両事件は,手続を併合して進められたが,平成20年5月9日,いずれも調停不成立により終了した。 第4 争点(争点3(2)は,第2事件の請求に関するものであり,その余の争点は, いずれも第1事件の請求に関するものである。) 1 旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権は信託財産の価額に限定されるか。 2 本件弁済費用は旧信託法36条2項本文にいう「費用」に当たるか。 3 基本契約の成否(1) 旧車庫用地における事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさない旨の合意を含む基本契約の成否(2) 被告が本件提案計画に基づいた一定の経済的利益を与えられる旨の合意を含む基本契約の成否 4 旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を排除する旨の合意の成否 5 相殺の抗弁(1) 安全性・安定性に配慮した事業計画を提案する義務の違反(責任原因1)(2) 事業計画の内容等を正確に説明する義務の違反(責任原因2)(3) 事業を遂行するための準備行為を速 相殺の抗弁(1) 安全性・安定性に配慮した事業計画を提案する義務の違反(責任原因1)(2) 事業計画の内容等を正確に説明する義務の違反(責任原因2)(3) 事業を遂行するための準備行為を速やかに行う義務の違反(責任原因3)(4) 事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務の違反(責任原因4)(5) 事業計画どおりの収入を確保するとともに経費を削減するために努力する義務の違反(責任原因5)(6) 被告の損害及びその額第5 争点に関する当事者の主張 1 争点1(旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権は信託財産の価額に限定されるか)について【被告の主張】信託においては,自益信託であるか他益信託であるかを問わず,信託財産が委託者から受託者に信託譲渡され,委託者の一般財産とも受託者の固有財産とも切り分けられた状況下で,その所有者かつ専門家である受託者の信用力による取引が,信 託目的に従い,委託者から独立した受託者自身の判断で行われ,第三者に対する責任も,原則として受託者の固有財産が引当てとなる。このように,委託者が受託者に財産を信託譲渡して財産管理を全て任せる信託制度において,委託者兼受益者に信託財産の価額を超える無限責任を負担させることは,信託財産の提供者にすぎない委託者に予想外の損失を被らせることに他ならず,信託制度そのものの根底を覆す結果となるから,委託者の同意がないにもかかわらず,信託財産の価額を超える負担を委託者に当然に負わせることはできない。この趣旨は,平成18年12月に成立した信託法(平成18年法律第108号。以下「現行信託法」という。)48条でも明らかにされているところ,同法のように受益者の権利保護に関する諸規定(同法27,36,38 旨は,平成18年12月に成立した信託法(平成18年法律第108号。以下「現行信託法」という。)48条でも明らかにされているところ,同法のように受益者の権利保護に関する諸規定(同法27,36,38,40,41,44,46,63条等)が設けられていない旧信託法においては,この趣旨がより貫徹されるべきである。したがって,同法36条2項本文に基づく補償請求権は,信託当事者間に別段の合意がない限り,信託財産の価額に限定されるものと解すべきである。当事者間に上記別段の合意が存在しない本件において,原告が被告に対し,同条項による補償請求権に基づき,本件信託財産の価額を超える費用の補償を請求することはできない。 【原告の主張】旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権は,信託財産の価額に限定されるものではない。したがって,信託財産の価額を超える損失が生じる場合であっても,その損失は受益者である被告が負担しなければならない。 2 争点2(本件弁済費用は旧信託法36条2項本文にいう「費用」に当たるか)について【原告の主張】旧信託法36条1項及び2項本文は,「費用」の範囲について条文上何ら限定を加えていない。また,同法38条の規定は,仮に受託者に信託財産の管理失当(過失)がある場合であっても,補償請求が認められる「費用」を減額するのではなく,費用補償請求に先立って損失補償をすべきものと規定している。これらに照らせば, 同法36条2項本文にいう「費用」は,受託者が信託事務を処理するに当たり当該信託に関して負担した債務等のために要した費用一般をいうものと解すべきである。 本件弁済費用は,原告が本件信託に関して負担した本件借入金債務等を固有財産(銀行勘定)により立替支弁するために要した費用であるから,いずれも同条項にいう「費用」に当たる。なお のと解すべきである。 本件弁済費用は,原告が本件信託に関して負担した本件借入金債務等を固有財産(銀行勘定)により立替支弁するために要した費用であるから,いずれも同条項にいう「費用」に当たる。なお,後記6(3)ないし(5)の各【原告の主張】とおり,原告に本件信託財産の管理失当はない。 【被告の主張】旧信託法36条2項本文にいう「費用」とは,受託者が委託された信託の本旨に従い,受託者としての義務を履行するために必要と客観的に認められる支出に限られ,同義務に違反した結果生じた債務等のために要した支出はこれに当たらないと解すべきである。 本件借入金債務等は,後記6(3)ないし(5)の各【被告の主張】のとおり,いずれも原告が善管注意義務(旧信託法20条)・忠実義務(同法22条)に違反した結果生じたものである。したがって,本件弁済費用は,いずれも同条項にいう「費用」に当たらない。 3 争点3(基本契約の成否)・(1)(旧車庫用地における事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさない旨の合意を含む基本契約の成否)について【被告の主張】本件提案競技において,原告が本件提案計画を策定して被告(交通局)に提出し,被告(交通局)が設置した審査委員会が本件決定をしたことにより,本件決定の時点で,旧車庫用地における事業に関し,①原告は,本件提案計画に基づく事業を行う限りにおいて,その運営主体となること,②被告は,同計画に基づく事業を行う場合,原告をその運営主体としなければならないこと,③原告が同計画に基づく事業を行うこととなった場合,その計画内容に従い,事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさないこと及び④原告が同計画に基づく事業を行うこととなった場合,同計画に基づいた一定の経済的利益が被告に与えられ,他方で原告は一定 の 従い,事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさないこと及び④原告が同計画に基づく事業を行うこととなった場合,同計画に基づいた一定の経済的利益が被告に与えられ,他方で原告は一定 の報酬を受け取ることを内容とする法的拘束力のある基本契約(以下「本件基本契約」という。)が当事者間で成立し,その後,本件基本契約を確認するとともに,事業計画に関する細目的事項が合意され,本件基本契約を取り込んだ本件信託契約(信託契約とは異なる無名契約であり,旧信託法は直接適用されない。)が成立するに至った。 このように,本件基本契約において,③原告が本件提案計画に基づく事業を行うこととなった場合,事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさないことが合意されているから,原告は被告に対し,旧信託法36条2項本文に基づいて費用補償を求めることはできない。 本件決定時に上記内容の法的拘束力のある本件基本契約が成立したことは,次の(1)ないし(6)より明らかである。 (1) 本件提案競技の趣旨・目的本件提案競技は,交通局が交通事業の経営改善方策として独自に主催した初めての有効利用提案競技であったが,同局が厳しい経営状況に置かれていたことから,被告が既に主催していた他の3件の市有地有効利用提案競技では事業を通じた地域振興に重点が置かれていたのに対し,本件提案競技では事業の収益性が重視されていた一方で,市有地を活用した附帯事業であったことから,安全性・安定性が高く,かつ,実現性の高い事業計画であることも同時に求められていた。そのことは,本件募集要項中「Ⅰ 提案競技の趣旨」において明記されており,また,同要項中「V提案競技の条件」の「5 信託期間等」でも,事業の結果として借入金債務等が残るような事業計画はそもそも許されないことが明記されていた。 提案競技の趣旨」において明記されており,また,同要項中「V提案競技の条件」の「5 信託期間等」でも,事業の結果として借入金債務等が残るような事業計画はそもそも許されないことが明記されていた。 (2) 本件提案競技の方式本件提案競技は,上記(1)の趣旨・目的を達成するために最適の事業計画を選定することを目的とするものであり,誰に事業を行わせるかではなく,どのような事業を行って収益を上げるかが特に重要であったことから,不動産運用の専門家である信託銀行等(日本国内における土地信託事業の受託実績を有する信託銀行及びその 連合体)に応募資格者が限定されていた一方で,応募提案者の資質に着目して事業主体を選定するプロポーサル方式ではなく,提案された事業計画の内容を審査対象として最も優れたものを選定するコンペ方式により行われた。最優秀提案として選定された場合には,当該事業計画に基づいた事業を実施することを前提とし,事業計画そのものを審査対象とすることは,本件募集要項中「Ⅱ 提案競技の概要」の「4 審査方法」や「5 事業の実施方法」においても明記されていた。 そして,審査委員会は,各応募提案者から事業計画の裏付けとなる資料の提供を受け,その中身を精査するとともに,各応募提案者に対するヒアリング調査を個別に実施し,事業計画の内容で疑問な点について補充説明を求める等の方法により,各応募提案者から提供される根拠資料に基づいて事業計画の安全性・安定性を確認した。 (3) 公有地信託の特殊性そもそも,地方公共団体が現金や財産についてリスクを冒してまで利益追求をすることは地方自治法上容認されていない(同法235条の4第1項,同法施行令168条の6)。そして,公有地信託制度は,昭和61年5月の同法の改正により導入されたが,同改正に当たっては,地 利益追求をすることは地方自治法上容認されていない(同法235条の4第1項,同法施行令168条の6)。そして,公有地信託制度は,昭和61年5月の同法の改正により導入されたが,同改正に当たっては,地方公共団体の住民全員の財産であるとの公有地の特殊性に鑑み,財政運営として行われる公有地信託が適正に運用され,地方公共団体が予想外の損失を被るような事態を断じて避けるために安全性・健全性が強く求められることから,信託の対象が普通財産である土地とその定着物に限定されるとともに,自らを受益者とする場合に限り,議会の議決によって信託を設定できるものと定められた(同法96条1項7号,237条3項,238条の5第2項)。旧自治省事務次官から都道府県知事及び指定都市市長に宛てて発出された「地方自治法の一部を改正する法律等の施行について」と題する自治事務次官通知等においても,公有地信託が適切に運用され,地方公共団体が予想外の損失を被らないよう様々な注意点が指摘されるなど,民間における土地信託とは異なる様々な規制・配慮が課せられていた。このような側面からしても,事業の結果として借入金債務等が残 るような事業計画はそもそも許されなかった。 (4) 応募提案者の認識等原告を含む応募提案者は,被告(交通局)から本件募集要項の交付を受け,本件提案競技の趣旨・目的及びその方式(前記(1)・(2))を十分に理解するとともに,不動産運用の専門家として,公有地信託の特殊性(前記(3))についても十分に理解した上で,事業計画を策定し,これを「当社が事業主体として決定いたしましたときは,貴局募集要項に基づき,誠意をもって事業を遂行してまいりますことを,誓約いたします。」との誓約文言が記載された応募申込書(乙4)と併せて被告(交通局)に提出し,本件提案競技に応募した。 たときは,貴局募集要項に基づき,誠意をもって事業を遂行してまいりますことを,誓約いたします。」との誓約文言が記載された応募申込書(乙4)と併せて被告(交通局)に提出し,本件提案競技に応募した。 また,原告は,本件提案計画において,同計画が確実に利益を上げられるものであることを自ら表明するとともに(事業計画概要説明書「収支計画の概要」〔54頁〕),審査委員会によるヒアリング調査においても,テナント候補者名義の出店要望書・出店申込書や原告が既に折衝しているという関係会社・団体の役員等の名刺が複数添付されたヒアリング回答書(乙6)を提出するなどし,安全性を重視して他の応募提案と比べて高額に設定された賃料水準・敷金水準等による賃貸条件でも出店を強く希望するテナント候補者が多数おり,テナント入居の確度が高いと説明していた。 (5) 本件提案競技後の拘束力本件提案競技の前記趣旨・目的及び方式(前記(1)・(2))を前提として,各応募提案者が事業計画を策定・提出し,審査委員会が各事業計画を審査した上で,最優秀提案が選定された後,被告は,最優秀提案に選定された事業計画に基づく事業が行われる限りは同計画の応募提案者を事業主体としなければならない一方で,当該応募提案者が事業計画を任意に変更することは許されない。このことは,本件募集要項でも明記されていた(「Ⅱ 提案競技の概要」の「5 事業の実施方法」)。 なお,原告が本件決定後に被告(交通局)に提示した本件提案計画の前提条件を変えた場合の事業配当シミュレーションは,そもそも事業計画の変更提案ではなく, また,事実上撤回されたことからすれば,これが提示された事実は本件基本契約が成立していなかったことの根拠となり得ない。 (6) 土地信託契約書の条項及びその確定経過本件信託契約に係る土地信 また,事実上撤回されたことからすれば,これが提示された事実は本件基本契約が成立していなかったことの根拠となり得ない。 (6) 土地信託契約書の条項及びその確定経過本件信託契約に係る土地信託契約書(甲1・乙9。以下「本件契約書」という。)の条項やその確定経過(後記5【被告の主張】(4))に照らしても,本件決定時において本件基本契約が成立していたことは明らかである。 (7) 小括以上を踏まえると,本件提案競技において,被告(交通局)が原告を含む信託銀行等に本件募集要項を交付し,旧車庫用地の有効利用提案を募集した行為は,本件基本契約と同旨の契約の申込みの誘引に,原告が本件提案計画を前記応募申込書と併せて被告(交通局)に提出した行為は,本件基本契約の申込みに当たり,被告(審査委員会)が本件決定により同計画を最優秀提案として選定したことは,その承諾に当たるから,本件決定時に本件基本契約が成立したというべきである。 【原告の主張】被告主張の本件基本契約が成立したことは否認する。 かかる契約が成立したことを基礎付ける事情はおよそ存在せず,かえって,同契約が成立していないことは,次の(1)ないし(5)より明らかである。 (1) 本件提案競技の位置づけアそもそも事業計画というものは,策定当時の具体的な経済情勢や市場動向等に照らした合理的予測に基づいて策定されるものであるが,事業は刻々と変化する外的要因の影響を当然に受けるものであることからすれば,事業の遂行状況を踏まえ,その時々の経済情勢・市場動向等に迅速かつ柔軟に対応すべく,各時点での合理的な将来予測に基づいて不断に見直されるべきものであり,また,事業計画を達成することまで義務づける性質のものではなく,その達成に向けた努力義務を課すものにとどまる。 イ本件募集要項中「信託期 理的な将来予測に基づいて不断に見直されるべきものであり,また,事業計画を達成することまで義務づける性質のものではなく,その達成に向けた努力義務を課すものにとどまる。 イ本件募集要項中「信託期間中に事業に伴う借入金を返済すること」との記載 (「V 提案競技の条件」の「5 信託期間等」)は,提案すべき事業計画の条件を定めたものにすぎず,この記載をもって,応募提案者に借入金債務等を固有財産で最終的に負担することの保証を求めるものとみることはできない。 ウ本件提案競技において最優秀提案が選定された時点では,同提案の応募提案者が受託予定者となり,被告(交通局)と仮契約の締結に向けた協議をする段階にすぎず,本契約(信託契約)が別途締結されるまでは,当該応募提案者に受託者としての権利義務が生じないことはもちろん,信託に関する基本事項すらも定められていない段階である。このことは,本件募集要項中「Ⅱ 提案競技の概要」の「5事業の実施方法」並びに「Ⅷ 信託契約」の「1 仮契約の締結」及び「2 信託契約の締結」で明記されていた。応募提案者が「事業主体」に決定するのは,上記のとおり本契約(信託契約)締結時であるから,「当社が事業主体として決定いたしましたときは…」との誓約文言が記載された応募申込書(乙4)を提出したからといって,最優秀提案が選定された時点で同計画の応募提案者が受託者としての義務を負担することにはならない。 エ審査委員会は,被告の幹部職員6人(財政局管財部長,旧計画局副理事及び交通局の4人の部長)のほか,経済,都市計画,不動産運用等に関する専門的知見を有する外部の学識経験者5人の合計11人の審査委員によりバランスよく構成されていた。審査委員会は,本件審査において,事業計画の安全性・安定性を判断要素の1つとしていたものの,必 に関する専門的知見を有する外部の学識経験者5人の合計11人の審査委員によりバランスよく構成されていた。審査委員会は,本件審査において,事業計画の安全性・安定性を判断要素の1つとしていたものの,必ずしもそれだけを特に重視していたわけでなく,収益性等も相当程度重視していた。そして,収益性の高い事業計画であればあるほど,内在するリスクも大きいことは当然であり,審査委員会は,そのことを十分認識した上で,本件募集要項で定められた審査の視点及び審査方法(「Ⅳ 審査の方法」)に基づき,必要に応じて各応募提案者に個別にヒアリング調査を行うなどしながら,厳正かつ慎重に本件審査を行った結果として,本件提案計画を最優秀提案に選定したのであるから,被告(交通局)が事業の結果として残存する借入金債務等を負担しないものと認識していたはずはない。 (2) 公有地信託における前提公有地信託制度の導入を検討するため旧自治省に設置された公有財産の有効活用等に関する調査研究会では,委託者兼受益者である地方公共団体が信託終了時に残存債務を承継・負担するリスクがあることを前提とした議論・検討が行われた結果,地方公共団体のリスク管理と財務の健全性確保の観点から,信託の設定に議会の議決を要求するとともに,そのようなリスクを回避するべく信託財産・信託目的・受益者等を限定すべきであるとの提言がされたのであり,同提言を踏まえて導入された公有地信託制度に関する地方自治法上の様々な規制や自治事務次官通知等も,上記リスクを前提としたものである。また,昭和62年2月19日に発出された旧大蔵省理財局長通達(蔵理第553号)でも,公有地信託一般に関する基本的理解として,信託終了時点における残存債務の処理に関し,予算措置を講じて残存債務を返済する必要があることが明示されていた。このよ 蔵省理財局長通達(蔵理第553号)でも,公有地信託一般に関する基本的理解として,信託終了時点における残存債務の処理に関し,予算措置を講じて残存債務を返済する必要があることが明示されていた。このように,公有地信託では,委託者兼受益者である地方公共団体が信託終了時に残存債務を承継・負担することが前提とされていたのである。 (3) 本件基本協定の位置づけ本件基本協定3条及び6条によれば,本件募集要項にいう仮契約として同基本協定が締結された時点でも,被告議会の予算承認を停止条件として,同基本協定に基づいて速やかに本契約(信託契約)を締結すべき段階にとどまり,未だ本契約(信託契約)が成立しておらず,原告に受託者(事業主体)としての権利義務が生じていないことはもちろん,厳密には,信託契約を締結する義務すら負っていなかったことは明らかである。したがって,それ以前に被告主張の本件基本契約が成立しているはずはない。 (4) 旧信託法,地方自治法の定め旧信託法下においては,信託契約の成立時期をめぐって学説の対立があったものの,信託契約の効力発生時期は,信託財産に係る財産権の移転又は名義変更があった時点と解されていた。本件において,原告が当初信託財産である本件信託土地を 取得し登記名義が移転されたのは,本件信託契約締結日である平成3年3月20日であるから,それ以前に被告が主張する内容を含む本件基本契約が成立しているはずがない。 また,地方公営企業に適用される地方自治法234条5項が定める普通地方公共団体が締結する契約の方式及び成立時期によれば,契約締結権者が契約書に記名押印しなければ,当該契約は確定せず成立もしないものとされているところ,本件決定時に契約締結権者たる交通局長が記名押印した契約書類は存在しない。したがって,その時点では法 契約締結権者が契約書に記名押印しなければ,当該契約は確定せず成立もしないものとされているところ,本件決定時に契約締結権者たる交通局長が記名押印した契約書類は存在しない。したがって,その時点では法的拘束力を有するいかなる契約も成立しているはずがない。 さらに,地方公営企業法は,地方公営企業による一定規模以上の土地信託の設定につき,議会の予算承認を停止条件とし,その予算執行に民主的コントロールを及ぼすことで,議会制民主主義の趣旨を実現しようとしており(同法33条2項,40条1項,同法施行令26条の3),被告議会の予算承認以前に本件信託土地に係る信託事業を受託予定者に執行させることをも含む本件基本契約なるものを交通局の独断で締結することは,その観点からも許されない。 (5) 本件契約書の条項及びその確定経過本件契約書の条項やその確定経過(後記5【原告の主張】(2))からも,本件決定時において本件基本契約なるものが成立していなかったことは明らかである。 4 争点3(基本契約の成否)・(2)(被告が本件提案計画に基づいた一定の経済的利益を与えられる旨の合意を含む基本契約の成否)について【被告の主張】前記3【被告の主張】のとおり,本件提案競技において,原告が本件提案計画を策定して被告(交通局)に提出し,被告(交通局)が設置した審査委員会が本件決定をしたことにより,本件決定時点で,「原告が本件提案計画に基づく事業を行うこととなった場合は,同計画に基づいた一定の経済的利益が被告に与えられ,他方で原告は一定の報酬を受け取ること」を一内容とする本件基本契約が当事者間で成立し,その後,本件基本契約の内容が確認されるとともに,事業計画に関する細目的 事項が合意されて,本件信託契約が成立するに至った。 なお,現行信託業法(平成16年法律第1 契約が当事者間で成立し,その後,本件基本契約の内容が確認されるとともに,事業計画に関する細目的 事項が合意されて,本件信託契約が成立するに至った。 なお,現行信託業法(平成16年法律第154号)による廃止前の信託業法(大正11年法律第65号。以下「旧信託業法」という。)9条は,信託会社による不当勧誘行為を禁止して委託者を保護する趣旨の規定であることからすれば,委託者となる被告から,一定の利益が確実に与えられることを契約条件として事業者(受託者)の募集を行い,これに応募し受託者となった原告が,事業の収支実績を問わず,事業計画で定められた一定の経済的利益を被告に与えると約束すること(利益保証)は,本件提案競技ないし本件信託契約締結当時の兼営法に抵触しない。 したがって,被告は,原告に対し,本件基本契約が取り込まれた本件信託契約に基づき,被告の承認の下で本件提案計画を修正した本件事業計画に従った経済的利益として,同計画に定められた事業配当金合計261億2698万円の支払を求めることができる。 【原告の主張】被告主張の本件基本契約が成立したことは否認する。 かかる契約が成立したことを基礎付ける事情はおよそ存在せず,かえって,同契約が成立していないことは,前記3【原告の主張】であげた理由のほか,次の2点からも明らかである。 すなわち,まず,本件事業計画の性質(前記3【原告の主張】(1)ア)に照らせば,信託事業の実績に基づいて行われるべき事業配当も,経済情勢等の外的要因の変化に伴って,事業計画上の予想配当額から変更されることが当然に予定されているものであり,同計画上の予想配当額の配当が保証されることはおよそ考えられない。 現に,本件提案計画に原告が同計画上の予想配当額を保証する旨の記載はなく,本件提案競技において,原告がそのよう されているものであり,同計画上の予想配当額の配当が保証されることはおよそ考えられない。 現に,本件提案計画に原告が同計画上の予想配当額を保証する旨の記載はなく,本件提案競技において,原告がそのような説明をした事実もない。また,本件基本協定及び本件信託契約の内容を精査しても,原告が被告に対し事業計画で定められた予想配当額を保証する旨を明示した定めはなく,かえって,本件契約書では,事業 配当を信託事業の実績に基づいて実施することが明記されている(35条,33条5号)。 次に,信託においては,実質的利益及び損失は受益者に帰属し(法人税法12条,所得税法13条参照),受益者は,信託財産の運用実績に基づいて配当・利益を得るのが信託の基本原理・原則であり(旧信託法19条,現行信託法21条2項1号参照),受託者が利益(事業計画上の予想配当額)を保証することは,信託の原理・原則に反する。また,本件提案競技当時ないし本件信託契約締結当時,運用方法を特定しない金銭信託以外の信託における受託者が利益保証をすることは禁止されており(現行信託業法による改正前の兼営法4条が準用していた旧信託業法9条の反対解釈),これに違反した金融機関の役員等は過料の制裁を受けるものとされて規定されていた(同兼営法10条2号)。そうであるにもかかわらず,行政当局による厳しい監督下にある信託銀行である原告が,あえて公然と利益保証をすることはあり得ない。 5 争点4(旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を排除する旨の合意の成否)について【被告の主張】本件信託契約においては,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を排除する旨の合意(以下「本件排除合意」という。)が成立していたから,原告は被告に対し,同規定に基づいて費用の補償を求めることができない。 本件信託契 は,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を排除する旨の合意(以下「本件排除合意」という。)が成立していたから,原告は被告に対し,同規定に基づいて費用の補償を求めることができない。 本件信託契約において本件排除合意が成立していたことは,次の(1)ないし(7)から明らかである。 (1) 本件排除合意の解釈・認定指針信託制度は,前記1【被告の主張】のとおり,信託財産が委託者から受託者に信託譲渡され,委託者の一般財産とも受託者の固有財産とも切り分けられた状況下で,その所有者かつ専門家である受託者が自らの判断と信用力に基づき独立して財産管理を行うものであって,信託財産の価額を超えた予想外の損失を受益者に負担させ ることは,そもそも信託制度が全く予定しないところであり,信託制度の趣旨や信託当事者の公平を著しく害するものである。このことからすれば,自益信託か他益信託かという形式的区分によるのではなく,被告が委託者たる地位及び受益者たる地位に基づきそれぞれいかなる負担を引き受けたのかにつき,本件契約書の最終的な条項のみならず,契約の趣旨・目的,契約締結に至る交渉過程その他契約を取り巻く諸般の事情を考慮しつつ,個別具体的な契約解釈を通じて確定されるべきである。 (2) 本件提案競技との連関本件提案競技の趣旨・目的及びその方式等は,いずれも前記3【被告の主張】(1)・(2)のとおりであるところ,本件信託契約は,そのような本件提案競技において原告が提案した本件提案計画が最優秀提案に選定された結果を踏まえて締結されたものである(本件基本協定2条,本件信託契約4条参照)。それゆえ,本件信託事業は,被告の了承の下で本件提案計画を一部修正した本件事業計画どおりに遂行されなければならず,事業の結果として,被告が事業配当を受けることはあっても,予 ,本件信託契約4条参照)。それゆえ,本件信託事業は,被告の了承の下で本件提案計画を一部修正した本件事業計画どおりに遂行されなければならず,事業の結果として,被告が事業配当を受けることはあっても,予想外の債務負担を余儀なくされるような事態は断じてあってはならないことが,当事者間における当然の共通認識となっていた。 (3) 地方自治法の趣旨,公有地信託の特殊性地方公共団体では,財政運営の安全性・健全性の確保の要請から,債務負担行為一般につき,予算に計上して議会の議決を得る必要があるが(地方自治法96条1項2号,214条),公有地信託に関しては,前記3【被告の主張】(3)のとおり,財政運営の安全性・健全性が強く求められ,民間の土地信託とは異なる種々の規制・配慮が設けられていた。原告に旧信託法36条2項本文に基づく補償請求を認めることは,受託者として事業資金の調達を含む本件信託事業の遂行に関する一切の権限を被告の事前抑制を受けることなく行使できる原告がその時期や金額を任意に決めることができる無条件・無制限の一方的な債務負担を被告に強いることを意味し,地方公共団体の財政運営の安全性・健全性を確保するための法令の趣旨を完全に没 却するものである。したがって,被告がそのような債務負担行為を容認することなど到底ありえず,また,そのような債務負担行為を予め議会が承認することは地方自治法上も許容されない。 (4) 本件契約書の条項及びその確定経過本件契約書(本件信託契約に係る土地信託契約書)の作成に当たっては,当事者間で具体的条項について検討・協議するための「土地信託契約書検討会」と称する検討会(以下「契約書検討会」という。)が少なくとも6回にわたって開催され,原告担当者と交通局担当者との間で本件契約書に盛り込む個々の条項の具体的内容に 議するための「土地信託契約書検討会」と称する検討会(以下「契約書検討会」という。)が少なくとも6回にわたって開催され,原告担当者と交通局担当者との間で本件契約書に盛り込む個々の条項の具体的内容について交渉・協議が行われた。 同検討会に臨むに当たり,交通局内部では,本件提案競技において原告から提示された事業配当の確保及び本件信託事業におけるリスクの回避という2つの重点項目を本件契約書にどのように反映させるかを中心に議論が重ねられていた。そして,被告(交通局)の上記意向が原告にも明確に伝えられていたことから,契約書検討会では,本件信託事業の結果として信託財産の価額を上回るような負債が残存するような場面はおよそ想定されておらず,被告が借入金債務の返済金その他信託事務の処理に要する諸費用(以下「信託事務処理費用」という。)の負担を求められることはないことを当然の前提として,本件提案計画で定められた事業配当をいかに確保するかという観点から,信託財産や事業配当の減少を引き起こすおそれのある原告の行為に一定の制約を課す方向での議論が重ねられた。 その結果,本件契約書では,①必要資金の借入れは信託財産の負担で行う(28条1項),②信託事務処理費用は,信託財産からのみ支弁し,受益者の負担としない(23条,42条2項3号),③原告は信託財産から信託報酬を受領する(25条),④信託財産に属する金銭が信託事務処理費用の支払に不足する場合の処理方法や信託終了時に残存した債務に処理方法については被告と事前に協議する(24条,42条2項3号)とされるとともに,⑤旧信託法36条1項に基づく補償請求権については,原告がこれを行使しようとする場合は被告と事前に協議するものとされた が(45条),⑥同条2項本文に基づく補償請求権については,これを明確に排除する 36条1項に基づく補償請求権については,原告がこれを行使しようとする場合は被告と事前に協議するものとされた が(45条),⑥同条2項本文に基づく補償請求権については,これを明確に排除する趣旨で,何らの条項を設けないものとされたのである。 原告は,契約書検討会において,上記④は特に争わず,上記⑤については,行使すること自体に被告の承認を要するとしていた交通局の原案に難色を示し,時期・方法等について被告の承認を要するとする対案を提示するなどしながら強い姿勢で交渉していた。これに対し,上記⑥については,あえて条項を設けていなかった交通局案や検討会資料(交通局案と対比させるため,旧信託法36条の条文全文が掲げられていた。)に対し何ら異論を述べず,同条2項本文に基づく補償請求権の存否や行使方法等をについて協議の俎上に上げることもなかった。また,原告は,自社の土地信託研究会が編集した「〔図解〕土地信託ハンドブック」に参考資料として掲げられた土地信託契約書のひな型(別紙10)では明記されていた受益者に対する補償請求権(17条2項)や受益者の負担を明示する旨の文言(6条1項,17条1項,25条3項,同条5項等)を原告の原案にすら当初から一度も記載しないなど,旧信託法36条2項の適用を前提とする言動を一切採らなかった。さらに,同条1項に基づく補償請求権ですら原告が当然に行使できるものではなかった以上,信託財産の価額を上回る費用であっても原告が受益者たる被告に補償を求めることなど許されないことは自明である。 なお,本件信託施設の竣工後は本件信託事業の成果に応じた信託報酬を原告が受領できるとされていること(本件契約書25条2項)こそ,原告が通常の報酬と併せて引き受けたリスクに応じた「特別の報酬」をも得ることを定めるものである。 (5) 被告議会 果に応じた信託報酬を原告が受領できるとされていること(本件契約書25条2項)こそ,原告が通常の報酬と併せて引き受けたリスクに応じた「特別の報酬」をも得ることを定めるものである。 (5) 被告議会における幹部職員等の発言・答弁本件信託契約の締結(合意形成)過程に直接関与していない者がした議会の発言や答弁は,そもそも同契約の解釈に影響を与えるものではない。 また,議会における発言等は,その断片の表現や言葉尻にことさら着目するのではなく,これをした者の法的習熟度,その文脈や経過,趣旨・目的等を総合的に勘案して真意を探るべきものである。原告が指摘する被告議会における幹部職員等の 発言・答弁は,いずれも,信託終了時に残存した借入金債務等を被告が最終的に承継・負担するとの認識を表明したものではない。 (6) 本件覚書の位置づけ等本件覚書(平成14年12月24日付け「土地信託に関する覚書」)は,そもそも本件信託契約の締結時から10年以上経過した後に取り交わされたものであり,本件信託契約において本件排除合意が成立したかどうかの判断に影響を与えるものではない。 また,本件覚書は,本件特定金銭信託契約の締結時に,本件特定金銭信託覚書と併せて取り交わされたものであるが,原告からの要請により,本件特定金銭信託終了時の返還資金を調達する際,原告がいったん立替金処理をする場合があることを予め認める趣旨で作成されたものにすぎず,同信託以外の本件信託事業全体の借入金債務を原告が弁済した場合にその立替金に関する債務を被告が負担することを確認したものではない。すなわち,本件特定金銭信託契約は,本件信託事業の収支が改善され単年度黒字を達成することができるとの原告の説明があり,S’銀行(旧S銀行)が本件信託事業における長期借入金の期限前一括弁済を認めること すなわち,本件特定金銭信託契約は,本件信託事業の収支が改善され単年度黒字を達成することができるとの原告の説明があり,S’銀行(旧S銀行)が本件信託事業における長期借入金の期限前一括弁済を認めることを正式決定したことを受けて締結されたところ,信託財産である50億円もの大阪市交通事業基金が信託終了時に必ず返還されるようにするため,被告(交通局)が本件特定金銭信託覚書1条と同旨の相殺禁止条項を本件特定信託契約に盛り込むよう求めたところ,原告がこれに応じなかったために同覚書が代わりに取り交わされるに至ったが,その交換条件として原告が取り交わすよう求めたのが本件覚書である。 本件特定金銭信託契約締結当時,本件信託事業に関し,既存の借入金債務の借換えができなくなる事態や新たな資金調達が必要となる事態は想定されておらず,また,原告は,本件覚書1条にいう「資金調達が困難となった場合」の具体的な意味内容について本件特定金銭信託終了時に返還資金の調達が必要となった場合としか説明しなかった。さらに,本件覚書2条にある「原告の管理失当分を除き」という文言は,原告が本件特定金銭信託終了時にいったん立替金処理をした場合,当該立替金 は本件信託事業で生じる利益から賄われることが当然であるが,被告(交通局)が50億円もの交通事業資金を拠出して本件信託事業の資金調達に協力するにもかかわらず,万が一本件信託事業終了時においても立替金債務等が残存することがあるとすれば,それは「原告の管理失当」の結果に他ならないことから,被告が当然に負担するものではないことを明らかにするため,被告(交通局)が追記することを求め,原告がこれに応じたものである。 なお,原告が指摘するG課長(当時)の発言は,仮に同発言があったとしても,その時期,協議事項・目的,同課長の当時の認識,被告議 ,被告(交通局)が追記することを求め,原告がこれに応じたものである。 なお,原告が指摘するG課長(当時)の発言は,仮に同発言があったとしても,その時期,協議事項・目的,同課長の当時の認識,被告議会との関係等に照らせば,被告が本件信託事業における借入金債務全体について立替金債務を負担する旨の認識を有していたことの根拠とはなり得ない。 (7) 甲土地開発プロジェクトとの関係被告は,甲土地開発プロジェクトに関し,地域の振興,発展,活性化といった目的との兼ね合いや今後の事業見通し等に関する総合的な判断に基づいて受託銀行が申し立てた民事調停に応じたにすぎず,本件信託契約において旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権が排除されているかどうかとはおよそ無関係である。また,成立した民事調停は,被告が一方的に費用を負担するのではなく,受託銀行が被告に対し180億円の解決金を支払うとともに信託契約を終了させて信託不動産を現状のまま引き渡すこと等が内容に含まれており,商業ビル経営の継続・再生が前提とされた解決が図られている。 【原告の主張】本件信託契約において本件排除合意が成立していたことは否認する。 本件排除合意が成立していたことを根拠づける事情はなく,かえって,同合意が存在せず,原告が旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を有することが当事者間の共通認識であったことは,前記3【原告の主張】(1)ないし(4)のほか,次の(1)ないし(5)から明らかである。 (1) 本件排除合意の解釈・認定指針 旧信託法が適用される本件信託において,受託者の受益者に対する補償請求権は同法36条2項本文により当然に認められる権利であるから,これをあえて排除する旨の明示又は黙示の合意(本件排除合意)は,積極的に認定できる明確なものでなければならない 者の受益者に対する補償請求権は同法36条2項本文により当然に認められる権利であるから,これをあえて排除する旨の明示又は黙示の合意(本件排除合意)は,積極的に認定できる明確なものでなければならない。この点は,公有地信託であっても民間の土地信託と何ら変わるところはない。また,営利追求型の自益信託である本件信託では,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を広く認める方がむしろ合理的であり,同権利を制限すべきとの観点に立って本件排除合意の成否を検討・判断すべき理由はない。 (2) 本件契約書の条項及びその確定経過契約実務に精通した当事者間において継続的な交渉を経て締結される契約では,最終的に合意された重要な事項であれば,契約書又は関連する文書に漏れなく明示されているはずであるが,本件契約書はもちろん,本件募集要項や本件基本協定を精査しても,本件排除合意を明示的に定めた規定はおよそ見当たらない。このこと自体が,本件排除合意が成立していないことを端的に示している。 また,本件契約書の具体的条項をめぐる交渉・協議の過程において,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権に関しては,当事者間で具体的なやり取りが一切行われなかったことは,被告も認めるところである。被告(交通局)から交通局の原案を提示されたことや,旧信託法36条の条文全文が掲げられた検討会資料が用いられたことをもって,原告が被告に信託事務処理費用の負担を求められないとの認識を有しこれを了承していたことにはならず,当事者間でそのような前提・共通認識が存在したという事実はない。かえって,旧信託法36条1項及び2項に基づく補償請求権の存在を前提としていたからこそ,当事者間での交渉・協議の結果,信託財産に属する金銭が信託事務処理費用等の支払に不足する場合の処理,信託終了時に残存した債務の処 36条1項及び2項に基づく補償請求権の存在を前提としていたからこそ,当事者間での交渉・協議の結果,信託財産に属する金銭が信託事務処理費用等の支払に不足する場合の処理,信託終了時に残存した債務の処理及び同条1項に基づく補償請求権の行使方法につき,当事者間で事前に協議するとの定め(本件契約書24条,42条2項3号,45条)が置かれるに至ったのである。なお,原告が旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を行使できる旨の直接的な条項を本件契約書に明示するよう求めなかったの は,導入されたばかりの公有地信託において,地方公共団体である被告に対する補償請求権をいかなる手続により行使できるのかが必ずしも明確でなかったことや,原告が費用補償を求め得る場合であっても,委託者兼受益者である被告には,端的に費用補償義務を履行する以外にも様々な選択肢の中から必要資金を調達する方法を選択し得ることに鑑み,上記手続や必要資金の調達方法について被告との協議に委ねることとしたためである。上記経緯により確定された本件契約書45条は,旧信託法36条1項に基づく信託財産に対する補償請求権の行使方法について定めた条項にすぎず,同条2項に基づく受益者に対する補償請求権については何ら定めていないものとしか解釈しようがない。 本件契約書には,本件信託財産が信託事務処理費用等の支払に不足する場合,受託者である原告が本件信託を一方的に終了させることができる旨の条項は存在せず,そもそもそのような条項を本件契約書に盛り込むことを原告は被告(交通局)に求めてすらいない。仮に信託事務処理用等の負担・支弁を被告に求めることができないとの認識を原告が有していたとすれば,そのような条項を本件契約書に盛り込むよう原告は被告(交通局)に当然求めていたはずであるから(現行信託法52条参照), 等の負担・支弁を被告に求めることができないとの認識を原告が有していたとすれば,そのような条項を本件契約書に盛り込むよう原告は被告(交通局)に当然求めていたはずであるから(現行信託法52条参照),このことからも,原告がそのような認識を有していなかったことは明らかである。また,本件信託契約では,受託者である原告が,通常の信託報酬に加えて,信託事務処理費用等を固有財産(銀行勘定)において最終的に負担・支弁することとなるリスクの引受けに対する「特別の報酬」を受領する旨の定めもない。 なお,原告土地信託研究会編集の「〔図解〕土地信託ハンドブック」は,公有地信託制度導入以前に編集・発行されたものであり,専ら民間の土地信託を念頭に置いたものであることに加えて,そもそも原告は,同書に参考資料として掲げられた土地信託契約書のひな型に依拠して被告(交通局)との本件契約書の条項をめぐる交渉・協議に臨んだわけでもないから,同ひな型に掲げられた条項案と,本件契約書の条項や原告が提示した契約条項案を対比することにはおよそ意味がない。 (3) 被告議会における幹部職員等の発言・答弁 昭和61年10月8日開催の決算特別委員会における交通局総務部経理課長の答弁,平成3年3月1日開催の交通水道委員会における交通局長の答弁,平成5年10月1日開催の決算特別委員会における各委員の発言や交通局副理事の答弁,平成10年11月18日開催の決算特別委員会における財政局管財部長の答弁,平成11年3月4日開催の交通水道委員会における交通局総務部企画主幹の答弁,同年10月5日開催の決算特別委員会における委員の質問と交通局担当者の答弁及び平成12年10月5日開催の決算特別委員会における交通局総務部企画主幹や同局管財担当部長の答弁のように,本件信託契約の締結前後に開催された被告議 算特別委員会における委員の質問と交通局担当者の答弁及び平成12年10月5日開催の決算特別委員会における交通局総務部企画主幹や同局管財担当部長の答弁のように,本件信託契約の締結前後に開催された被告議会において,多くの被告幹部職員等が,本件信託や市有地信託一般に関し,受託者である信託銀行が委託者兼受益者である被告に費用補償を求めることができ,信託終了時に残存した借入金債務等を被告が承継・負担する可能性があることを前提とし,あるいはそのことを明言した発言・答弁を繰り返し行っている。 これらによれば,本件信託契約締結時において,被告が信託終了時に残存した借入金債務等を負担しないとの認識を有していたとは到底いえない。 (4) 本件覚書の位置づけ等原告が被告に対し旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を有することは,当事者間で締結された本件覚書(平成14年12月24日付け「土地信託に関する覚書」)において確認されている。すなわち,本件覚書は,原告が固有財産(銀行勘定)により弁済した借入金債務(本件特定金銭信託からの借入れ分を含む。)について被告に補償請求できることを当然の前提として,本件特定金銭信託に係る信託財産である大阪市交通事業基金50億円が同信託終了時に同請求権と相殺処理されることなく現実に返還されることを確保するために本件特定金銭信託覚書が取り交わされるのと併せて,原告の要請に基づき,本件信託全体の処理についても書面で確認する趣旨の下,適用範囲を何ら限定していなかった被告(交通局)作成の原案どおりに作成・取交しがされたものであり,被告が主張するように本件特定金銭信託の処理に適用範囲が限定されるものではない。このことは,原告と被告(交通局) との間で平成14年8月5日に行われた協議の席上において,原告担当者による「…当社から するように本件特定金銭信託の処理に適用範囲が限定されるものではない。このことは,原告と被告(交通局) との間で平成14年8月5日に行われた協議の席上において,原告担当者による「…当社から250億円の請求書を出し,貴局で予算措置を取っていただいた後,当社が250億円を受け取り,同日付けで基金に特定金銭信託の元本を支払うことになる。…」との発言に対し,G課長(当時)がした「その通り。特定金銭信託の元本も乗せた額を請求して欲しい」との発言に端的に表れている。仮に本件排除合意が成立していたのであれば,原告が本件覚書の取交しを被告(交通局)に求め,被告(交通局)がこれに応じることはあり得ないばかりか,そもそも被告(交通局)が本件特定金銭信託を設定する必要すらない。 (5) 甲土地開発プロジェクトとの関係被告は,本件と同種の市有地信託事業である甲土地開発プロジェクトにおいて,費用補償義務を全面的に認め,受託者(信託銀行)に信託財産に属する債務に相当する金額380億円を支払うことを内容とする民事調停に応じている。 6 争点5(相殺の抗弁)について【被告の主張】原告は,応募提案者としての信義則上の義務,基本契約関係ないし本件信託事業の実施に向けた協働関係に基づく信義則上の義務及び本件信託契約に基づく善管注意義務(旧信託法20条)・忠実義務(同法22条)に違反した(後記(1)ないし(5))。 被告は,原告の上記各義務違反により本件弁済費用相当額の損害を被ったのであり(後記(6)),原告に対し,上記損害相当額の損害賠償請求権を有している。被告は同権利を自働債権,原告の第1事件の請求債権(旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権)を受働債権として,対当額により相殺する。 【原告の主張】本件提案競技ないしその後の各段階において,原告が被 同権利を自働債権,原告の第1事件の請求債権(旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権)を受働債権として,対当額により相殺する。 【原告の主張】本件提案競技ないしその後の各段階において,原告が被告主張の各義務に違反したことは否認し争う。 被告による義務違反の主張は,そもそも各行為当時の具体的状況及び一般に予見可能な事情を勘案して原告が果たすべきであった行為義務の内容及びその違反行為 を具体的に特定したものではなく失当であり,また,原告はいずれの義務にも違反していない(後記(1)ないし(5))。さらに,当該義務違反がなければ生じていた事態を特定して損害及び因果関係を具体的に主張するものでもなく(後記(6)),本件弁済費用相当額の損害賠償請求権の主張は,本件信託事業の結果について原告に結果責任を負担させる意図に出た便法にすぎない。 したがって,被告は原告に対しいかなる損害賠償請求権も有しておらず,同権利を自働債権とする相殺の主張は失当である。 (1) 安全性・安定性に配慮した事業計画を提案する義務の違反(責任原因1)【被告の主張】ア義務内容及びその発生根拠本件提案競技の趣旨・目的及びその方式,拘束力並びに公有地信託の特殊性等は,前記3【被告の主張】(1)ないし(3)・(5)のとおりであり,応募提案者が提案した事業計画が最優秀提案に選定された場合には,当該事業計画に基づく公有地信託事業が,事業計画に大幅な変更・修正が加えられることなく,最長30年もの長期にわたって計画どおり運用されることが予定されていたことから,本件提案競技の応募資格者がそのような運用に耐え得る事業計画を策定することが能力上可能である不動産運用の専門家である信託銀行等(日本国内における土地信託事業の受託実績を有する信託銀行及びその連合体)に限定されて 応募資格者がそのような運用に耐え得る事業計画を策定することが能力上可能である不動産運用の専門家である信託銀行等(日本国内における土地信託事業の受託実績を有する信託銀行及びその連合体)に限定されていた。また,本件提案競技では,提案すべき事業計画の具体的内容について特段の制約は設けられておらず,かつ,審査委員会は,各応募提案者が提出する裏付け資料や審査委員会の求めに応じて行う補足説明等の各応募提案者が提出した資料を基に各事業計画の具体的内容を確認するだけで,独自に収集した資料に基づいて各事業計画の合理性を判断することまでは予定されていなかった。そのため,本件提案競技に応募しようとする信託銀行等としては,長期に及ぶ事業期間内において通常想定し得る様々な経済変動や不動産状況の悪化をも当然予測した上で,安全性・安定性に配慮した実現可能な事業計画を提案することが求められていたのであり,そのことは本件募集要項の記載等から 明らかであった。とりわけ原告は,本件提案競技以前に,全国で開催された15件もの公有地有効利用提案競技(被告が主催した3件を含む。)への参加経験を通じて,公有地信託事業についての知識,経験及びノウハウを蓄積していた上,昭和63年6月ころから約1年4か月間にわたって,旧車庫用地上における事業を内部で検討し,本件提案事業と基本コンセプトを同じくする事業計画(「オスカー・ヴィンレット」)を既に策定しており,本件提案競技において求められる事業計画を策定できるだけの十分な人的・物的資源と準備期間を有していた。 以上の事情によれば,原告は,応募提案者として本件提案競技に誠実に参加すべき信義則上の義務の一内容として,本件提案競技において,自ら設定する事業期間内において通常想定し得る様々な経済変動や不動産状況の悪化をも当然予測した上で, 募提案者として本件提案競技に誠実に参加すべき信義則上の義務の一内容として,本件提案競技において,自ら設定する事業期間内において通常想定し得る様々な経済変動や不動産状況の悪化をも当然予測した上で,安全性・安定性に配慮した実現性のある事業計画を提案すべき義務を負っていた。 イ義務違反(ア) 原告は,本件提案競技において,最優秀提案に選定されるため,事業の収益性が特に重視されていたことに乗じ,ことさらに高収益・高配当を強調した結果,通常予測される景気変動すら無視した,安全性・安定性への配慮を欠き,実現性の乏しい本件提案計画を提案し,もって上記アの義務に違反した。 本件提案計画が,安全性・安定性への配慮を欠き,実現性の乏しいものであったことは,次の各事情に照らして明らかである。 すなわち,本件提案計画は,収益性を前面に押し出したものであったが,その収支計画は,極めて高く設定された賃貸条件(賃料額,敷金額及び賃料上昇率等)・稼働率等によるテナント収入を前提条件としていたから,計画どおりにテナント収入を確保できなければ,本件信託施設の建設工事費に投下された多額の借入金債務の返済原資が不足する結果,事業配当が計画を下回り,場合によってはゼロとなり,あるいは負債すら残りかねない危険性をはらむものであった。それにもかかわらず,事業計画の核ともいうべきテナントへの賃貸条件は,原告が収集した様々な条件の 商業施設テナント物件のデータの中から,立地条件や来客動線等を含めた十分な検討をすることなく,数少ない高額事例だけを殊更抽出し,それを根拠として設定されたものであった。例えば,旧車庫用地のような立地条件等においてホテル事業者への賃貸により収益を上げることは困難であったにもかかわらず,本件提案計画では,本件信託施設のホテル部分につき,月額固定 されたものであった。例えば,旧車庫用地のような立地条件等においてホテル事業者への賃貸により収益を上げることは困難であったにもかかわらず,本件提案計画では,本件信託施設のホテル部分につき,月額固定賃料額1万0900円/坪(本件事業計画では1万2000円/坪),敷金額約11億円,賃料上昇率3年ごとに12%という高額の条件設定でキーテナントとなるホテル事業者に賃貸できることが前提とされていた。また,物販施設部分についても,商業調整を回避して早期に本件信託施設の建設に着工するため,卸売業者を誘致して会員制卸売店舗(ニュー卸メンバーショップ)を開業させることを前提に,月額4600円/㎡,敷金46億円という賃貸条件を設定しておきながら,本件信託施設は,1階から5階までが吹抜けという,幅広い顧客(特約小売店会員登録者)を対象とするため,より多くの商品を陳列展示することが重要な業態には不向きな構造で設計されていた。しかも,原告が入居確度の高いと説明していたテナント候補者(I社,J社,K社,L社等)は,いずれも,具体的な賃貸条件(賃料額,敷金額及び賃料上昇率等)まで提示された上で出店要望書等を提出したわけでなく,さほど強い出店意欲を有していたわけでもなかったため,入居確度は必ずしも高いとはいえなかった。 (イ) 本件提案計画が,安全性・安定性への配慮を欠き,実現性に乏しいものであったことは,本件提案競技後に顕在化した様々な問題に照らしても明らかである。 すなわち,本件信託施設の高層階部分については,本件提案競技時に原告が挙げていたテナント候補者(出店申込書や出店要望書を提出していた者を含む。)のホテルをいずれも誘致することができず,当初予定していなかったM社のみが本件信託施設の高層階部分に入居する可能性のある唯一のテナント候補者となったため,同社と 出店要望書を提出していた者を含む。)のホテルをいずれも誘致することができず,当初予定していなかったM社のみが本件信託施設の高層階部分に入居する可能性のある唯一のテナント候補者となったため,同社との交渉において,様々な譲歩を余儀なくされた結果,月額固定賃料額4030円/坪,敷金額1億円という極めて不利な賃貸条件で同社と賃貸借契約を締結せざるを得なくなった。また,物販施設部分についても,本件提案競技時に有力なテナ ント候補者とされていたK社は,平成4年初めころには既に入居させることが極めて困難となり,テナントを小売業者に変更せざるを得なくなった結果,実際に入居したN社との間で,月額賃料2420円/㎡,敷金4億円という契約条件での賃貸借契約を締結せざるを得なくなり,また,上記変更に伴う内装工事のために合計22億円余りの追加費用が生じることとなった。 本件提案計画が安全性・安定性への配慮を欠いた実現性に乏しいものであったことは,本件提案競技における他の応募提案者の分析・評価でも明らかとなっており,また,本件提案競技と近接する時期に提案競技が開催された他の3つの市有地信託事業(乙土地信託事業,丙土地開発プロジェクト,丁土地信託事業)が,不動産を売却することにより最終的に負債を残すことなく終了していることも,本件提案計画がいかに安全性・安定性への配慮を欠いた実現性に乏しいものであったかを如実に物語っている。 (ウ) 原告がこのような本件提案計画を提案したのは,本件提案競技以前に被告が主催した市有地有効利用提案競技に3度にわたって参加したが,提案した事業計画が最優秀提案に選定されることは一度もなかった上,今後期待される旧車庫用地周辺の開発を通じた総合的な利益を得るため,旧車庫用地における信託事業の受託者になりたいとの強い意欲を有していた した事業計画が最優秀提案に選定されることは一度もなかった上,今後期待される旧車庫用地周辺の開発を通じた総合的な利益を得るため,旧車庫用地における信託事業の受託者になりたいとの強い意欲を有していたからである。原告自身,バブル経済が崩壊する兆しがなかった本件提案競技時点においても,本件提案計画において設定されている賃貸条件が確実に確保することはできない高水準のものであることを十分認識していた。 【原告の主張】ア義務内容及びその発生根拠被告が主張する義務内容は,本件提案競技当時の具体的状況及び一般に予見可能な事情を勘案して原告が果たすべきであった行為義務の内容を具体的に特定したものではなく,抽象的かつ不明確なものであり,主張自体失当である。 そもそも,事業計画が策定時点における合理的予測に基づくものであって,刻々 と変化する外的要因の影響を当然に受ける青写真たる性質のものであることは,前記3【原告の主張】(1)アのとおりである。しかも,本件提案競技当時,日本はバブル経済の絶頂期で不動産市場も極めて活況であったが,当時は,そのような経済環境は日本経済のファンダメンタルズの強さに由来するものであり,更なる経済発展により不動産価格も高い水準で推移し続けるものと専門家を含めて一般に予測されていた。そのため,地価や株価の高騰はいわゆるバブルによるものであって,バブル経済の崩壊により以後日本経済が長期的に低迷し続けることを認識・予測することは専門家であっても極めて困難であった。被告の主張は,そのような事情を一切捨象したものであるか,あるいは,そのような事態をも全て想定した事業計画を提案せよという不可能を強いるものにほかならない。 また,本件提案競技の趣旨・目的や方式,本件信託が公有地信託であることなどを根拠に被告主張の義務を導くこ ,そのような事態をも全て想定した事業計画を提案せよという不可能を強いるものにほかならない。 また,本件提案競技の趣旨・目的や方式,本件信託が公有地信託であることなどを根拠に被告主張の義務を導くことはできない。もとより,本件提案競技は,事業の安全性・安定性のみが殊更重視されていたわけではないし,最優秀提案が選定されたからといって,当該提案(事業計画)が何ら変更・修正を加えられることなくそのまま遂行されることが前提とされていたわけではなく,被告(交通局)との協議を通じて信託の基本事項や事業計画の詳細が決定されることが予定されていた。 また,応募資格者が信託銀行等に限定されていたことは,応募提案者が事業計画の安全性・安定性を特に重視した事業計画を策定すべきことに直結するものではないし,信託銀行等であれば,経済情勢や市場動向等のあらゆる変動要因を全て予測し,長期の事業期間を通じて変更を要しない確実かつ固定的な事業計画を策定できるわけではない。審査委員会も,事業計画自体の確実性ではなく,「健全な経営が確実と見込まれるか」(事業運営の健全性)を審査対象としていた。 本件提案競技は,自らの事業計画が最優秀提案に選定されるかどうかも分からない段階において,2か月半程度の短い準備期間に各自の負担において事業計画を策定・提出するよう各応募提案者に求めるものである。そのような状況下で,各応募提案者が人的・物的資源を無制限に投下して事業計画を策定できるわけではなく, また,リーシング(テナント誘致活動)等にも自ずと限界があり,詳細な設計図面を作成し,工事費用等の精密な見積りをすることも不可能である。実際,本件提案競技において,そのようなものまで審査委員会から求められることもなかった。 イ義務違反(ア) 本件提案計画が本件提案競技時点における判断 等の精密な見積りをすることも不可能である。実際,本件提案競技において,そのようなものまで審査委員会から求められることもなかった。 イ義務違反(ア) 本件提案計画が本件提案競技時点における判断基準に照らして不合理なものであったことを基礎付ける事情は何ら存在しない。 まず,本件提案計画において設定されていた賃貸条件(賃料額,敷金額及び賃料上昇率等)は,いずれも合理的根拠に基づくものであった。原告は,本件提案計画において,市中心部と南港大規模開発地区との交通結節点であるとの旧車庫用地の特徴を活かすべく,立地創造型のランドマーク性が高く良質の複合型商業施設ビルを多額の建設工事費を投じて建設し,中長期滞在型のビジネスホテルを入居させる基本構想を提示していた。ホテルについては,当時旧車庫用地周辺に直接参考とし得る事例がなかったことから,他の地域のレジデンシャルホテルやビジネスホテルのものを参考に収支予測を行ったが,上記基本構想からは,市中心部の事例を参考とすること自体不合理ではなく,また,必ずしも市中心部の高額事例のみに依拠していたわけではなかった。また,物販施設等について100か月分と設定されていた敷金額も,上記コンセプトに照らして不合理なものではなく,現実に市中心部に限らず100か月分以上の敷金額が設定されている実例が複数存在していた。賃料上昇率についても,本件提案計画において算出根拠が詳細に説明されているとおり,前記基本構想を前提とすれば決して不合理なものではなかったのであり,他の応募提案(事業計画)において設定されていた数値と単純比較することは無意味である。 むしろ,地価や賃料上昇率と固定資産税評価額とは長期的にみれば概ね連動するものであるところ,被告(交通局)が設置した審査委員会が信託不動産の固定資産税評価額の上昇率を3年ごとに2 とは無意味である。 むしろ,地価や賃料上昇率と固定資産税評価額とは長期的にみれば概ね連動するものであるところ,被告(交通局)が設置した審査委員会が信託不動産の固定資産税評価額の上昇率を3年ごとに20%と設定するよう指示していたくらいであるから,原告が設定した3年ごとに12%という賃料上昇率は,むしろ保守的であったとすらいえる。また,本件信託施設の物販施設部分に開設される予定であった会員制卸 売店舗(ニュー卸メンバーショップ)は,従来型の業態による卸売業ではなく,新しい業態による卸売業を提案するものであったため,同部分の構造は,回遊性や対面からの視認性を重視したものになっていたのであり,かつ,交通施設(バスターミナル)との連携にも配慮した結果,本件信託施設の1階から5階までは吹抜けになっていたのである。会員制卸売店舗の開設という構想自体が不合理なものではなかったことは,既に船場地区において同様の業態の卸売事業が活況であったことや,市中心部から離れた南港開発事業予定地に建設される予定であったアジア太平洋トレードセンタービル(ATC)でも,類似の計画があったことからも明らかである。 さらに,原告が本件提案競技において入居確度が高いと説明していたテナント候補者は,出店申込書や出店要望書(入居する場合の希望面積の概略まで記載されている。)を提出したK社やL社らはもちろん,これらの書面を提出していないO社やJ社らなども,原告が行ったヒアリングや打合せにおいて,原告から具体的に説明を受けた本件提案計画の内容に大いに関心を示し,高い出店意欲や前向きに対応する意向を表明していたのであり,本件提案競技終了後にK社の会社見学会が被告(交通局)職員を交えて実施されたことは,同社が高い出店意欲を有していたことの証左である。 むしろ,本件提案競技におい 応する意向を表明していたのであり,本件提案競技終了後にK社の会社見学会が被告(交通局)職員を交えて実施されたことは,同社が高い出店意欲を有していたことの証左である。 むしろ,本件提案競技において,審査委員会が行った厳正・慎重・公正な審査の結果,本件提案計画が最優秀提案に選定されていることからすれば,本件提案計画は,当時の経済情勢・不動産市況等に照らし,他の応募提案よりも実現性・採算性に優れており,極めて合理的なものであったことが裏付けられているといえる。 なお,現在の土地信託実務では,複数のシナリオを想定しつつ事業計画を策定することがしばしばあるものの,バブル経済の崩壊やこれに続く平成不況を経験していない本件提案競技当時は,そのような実務は定着しておらず,複数のシナリオを提示した事業計画ではなかった点は,他の応募提案者のものも同様であった。 (イ) これに対し,被告は,バブル経済崩壊後である現在における判断基準に照らし,しかも本件提案競技後の事情に基づいて,原告に義務違反があったと主張して いるにすぎない。 本件信託施設の物販施設部分に本件提案競技時に挙げていたテナント候補者(K社等)を入居させられなかった理由は,本件提案競技後にバブル経済が崩壊するとともに,日本の流通機構における卸売業の機能が低下したこと,旧車庫用地における信託事業と強い連関性・相乗効果を発揮するものと期待されていた南港開発事業が失敗に終わったことのほか,被告(交通局)の要請により,本件事業計画では予定されていなかった商業調整をすることになったこと受けて原告が提案するに至った小売商業施設では,店舗面積が中途半端で効率の悪い小規模なものとならざるを得なくなった結果,テナント候補者の出店意欲が著しく減退したためである。原告がホテル事業者の誘致に苦心したのも 案するに至った小売商業施設では,店舗面積が中途半端で効率の悪い小規模なものとならざるを得なくなった結果,テナント候補者の出店意欲が著しく減退したためである。原告がホテル事業者の誘致に苦心したのも,それまで90%近い稼働率を誇っていた大阪のホテル業界の状況がバブル経済の崩壊により急速に変化してしまったためである。また,本件信託施設の共用部分及びテナント専用部分の内装工事のために追加費用が必要となったのも,物販施設部分のテナントの卸売業者から小売業者への計画変更及びバブル経済の崩壊の影響によるものである。 バブル経済が崩壊した時期に,原告と契約交渉中であったM社によるヒアリングに対し,本件提案競技で原告に敗れた他の応募提案者(信託銀行等)が表明した本件提案計画の分析・評価は,本件提案競技時における客観的評価に基づくものとは到底いえない。 また,被告が負債を残すことなく終了したものとして挙げる他の3つの市有地信託事業も,最も良好な実績を収めた乙土地信託事業ですら予想累積配当額を大幅に下回る若干の配当実績を残したにすぎず,無配当に終わったものもある。しかも,乙土地信託事業は,バブル経済の崩壊が鮮明になった後の平成4年末に提案競技が開催されたものであるし,他の2事業は,本件と異なり市中心部の絶好の立地条件で行われたものであるから,本件と同列に論じることができない。むしろ,戊土地開発プロジェクトや甲土地開発プロジェクトは巨額の負債を残すこととなっており,結局,本件提案競技と近接する時期に有効利用提案競技が行われた市有地信託事業 で事業計画どおりの実績を収めたものは皆無なのである。 (ウ) 多大な人的・物的資源を投下して本件提案競技に応募する以上,自ら提案する事業計画が最優秀提案に選定され,旧車庫用地における信託事業の受託者となること りの実績を収めたものは皆無なのである。 (ウ) 多大な人的・物的資源を投下して本件提案競技に応募する以上,自ら提案する事業計画が最優秀提案に選定され,旧車庫用地における信託事業の受託者となることに原告が強い意欲を有していたことは当然であるが,そのために原告が意図的に無理な事業計画を策定・提出したなどということはあり得ず,被告は何ら具体的根拠に基づかない憶測を述べているにすぎない。 (2) 事業計画の内容等を正確に説明する義務の違反(責任原因2)【被告の主張】ア義務内容及びその発生根拠前記(1)アで挙げた諸事情によれば,原告は,応募提案者として本件提案競技に誠実に参加すべき信義則上の義務の一内容として,審査委員会が本件提案競技の趣旨・目的に沿った最も優れた事業計画を過誤なく選定することができるようにするため,本件提案競技において,自らが提案した本件提案計画の内容,実現可能性の程度(設定されたテナントへの賃貸条件の合理性,テナント候補者の入居確度等),今後の経済情勢の変動に対する配慮の程度等について,根拠資料等を用いて情報提供しつつ,正確に説明すべき義務を負っていたというべきである。 そして,前記(1)イで挙げた事情によれば,原告は,同義務の具体的内容として,①本件提案計画の収支計画は,極めて高い水準に設定された賃貸条件(賃料額,敷金額及び賃料上昇率等)によるテナント収入を前提とするものであることから,計画どおりにテナント収入を確保できなければ,事業配当額が予想を下回り,場合によってはゼロとなり,あるいは信託終了時に負債すら残りかねないこと,②原告が挙げていた複数のテナント候補者は,本件提案計画において設定された具体的な賃貸条件(賃料額,敷金額及び賃料上昇率等)の提示を受けた上で出店要望書等を提出したわけでなく,テナントの入 いこと,②原告が挙げていた複数のテナント候補者は,本件提案計画において設定された具体的な賃貸条件(賃料額,敷金額及び賃料上昇率等)の提示を受けた上で出店要望書等を提出したわけでなく,テナントの入居確度は必ずしも高いとはいえないことなどを被告に正確に説明すべき義務を負っていた。 イ義務違反 原告は,上記事実を被告に正確に説明しなかったばかりでなく,本件提案計画,審査委員会が個別に実施したヒアリング調査及びその後も繰り返し行われた照会に対し,テナントへの賃貸条件については,市中心部のビジネスホテルの宿泊料に関するデータなどの数少ない高額事例だけを根拠資料として提示していながら,本件提案計画において設定された賃貸条件(賃料額,敷金額及び賃料上昇率等)が標準的なものであるかのように説明するとともに,テナントの入居確度についても,複数のテナント候補者名義の出店申込書や出店要望書,原告が既に接触しているという多数の関係者の名刺等を提示して,本件提案計画において設定されたとおりの賃貸条件で入居することが確実なホテル事業者,卸売業者及びその他テナント候補者があるかのように説明することにより(事業計画概要説明書〔乙5の1〕53頁以下,資金計画書・収支計画書・管理運営計画書〔乙5の3〕11頁以下,ヒアリング回答書〔乙6〕8頁以下,30頁以下等),あたかも本件提案計画が安全性・安定性に配慮した実現性・確実性の高いものであるかのように装い,高収益・高配当を期待できる旨を繰り返し回答・表明することにより,上記アの義務に違反した。 【原告の主張】ア義務の不存在本件提案競技において提案される事業計画が策定時点の合理的予測に基づく青写真たる性質のものであること,本件提案競技終了時点では,その後に仮契約及び本契約の締結に向けた被告(交通局)と 義務の不存在本件提案競技において提案される事業計画が策定時点の合理的予測に基づく青写真たる性質のものであること,本件提案競技終了時点では,その後に仮契約及び本契約の締結に向けた被告(交通局)との協議が予定される段階であったことは,前記3【原告の主張】(1)ア及びウのとおりである。審査委員会の構成及び本件提案競技における審査方法は,前記3【原告の主張】(1)エのとおりであり,また,政令指定都市である被告自身も,大阪や近畿県内の経済動向等について信託銀行等に劣らない十分な知見を有するとともに,契約実務にも精通していただけでなく,先行して進めていた3つの市有地開発事業を通じて,信託を利用した市有地開発事業に関する十分なノウハウや経験を蓄積していたのであるから,土地信託事業一般に内在するリスクや本件提案計画自体から容易に読み取ることができるリスクまであえて 説明する必要はない。そして,本件提案計画が本件提案競技時点における判断基準に照らして何ら不合理なものでなかったことは,前記(1)【原告の主張】イのとおりであり,原告の認識も同様であった。 これらの事情によれば,本件提案競技において,原告らは,被告(交通局・審査委員会)に対し虚偽の説明をすることは許されないとしても,本件提案計画に当然内在することが明らかな事業リスクを取り立てて強調して説明すべき義務はなく,原告は,被告が主張する内容の説明義務は負っていなかったというべきである。 イ義務違反の不存在原告は,有効利用提案競技という自らが提案する事業計画の魅力や優位性をアピールする場において,当時入手し得た客観的資料に基づき,当該資料を提示しつつ,本件提案計画の内容を具体的に説明し,計画どおり実現できる可能性が高いとの応募提案者としての合理的判断を示したのであり,虚偽の根拠資料の いて,当時入手し得た客観的資料に基づき,当該資料を提示しつつ,本件提案計画の内容を具体的に説明し,計画どおり実現できる可能性が高いとの応募提案者としての合理的判断を示したのであり,虚偽の根拠資料の提示や説明をしたことはなく,また,計画どおりの結果を必ず実現できる旨の断定的判断を提供したこともない。 すなわち,原告は,本件提案計画において,資金計画書・収支計画書・管理運営計画書(乙5の3)では,収支計画の各前提条件(「収入の前提条件」〔12頁〕及び「支出の前提条件」〔13頁〕)につき,その項目ごとに設定根拠とした実在の事例,数値・指標と算出過程が詳細かつ具体的に説明しており(「賃貸料・敷金」及び「稼働率」〔19頁以下〕,「稼働率・上昇率」〔23頁〕,「共益費・管理費」〔24頁〕,「共益費と付加使用料の内訳」〔25頁〕,「固定資産税等」〔27頁〕,「修繕費」〔28頁〕),また,事業計画概要説明書(乙5の1)では,資金計画及び収支計画が実現性・堅実性を高めたものであるとの応募提案者としての主観的評価・判断を表明しているにすぎない(「資金計画の概要」〔53頁〕,「収支計画の概要」〔54頁〕)。さらに,ヒアリング回答書(乙6)においても,卸売業が十分成立し得る(32頁),設定された賃料額・敷金額がキーテナントの十分負担し得る水準である(33頁),テナント候補者であるホテル事業者の出店確度は高い(34頁),ホテルの 年間売上高は合計約35億円と予測している(35頁)との主観的評価・判断を表明するとともに,複数のテナント候補者から出店要望を受けた事実及び多数のテナント候補者と接触している事実を示すために出店要望書・出店申込書・接触している関係者の名刺を添付したにすぎず,計画どおりの結果の実現が確実であると表明・保証した旨の記載はなく,また 実及び多数のテナント候補者と接触している事実を示すために出店要望書・出店申込書・接触している関係者の名刺を添付したにすぎず,計画どおりの結果の実現が確実であると表明・保証した旨の記載はなく,また,上記出店要望書等は,当該テナント候補者が確実に出店することを意味するものではない。また,入居確度が高いと原告が説明していた多数のテナント候補者が,実際に原告から具体的に説明を受けた本件提案計画の内容に大いに関心を示し,高い出店意欲を有していたことは,前記(1)【原告の主張】イ(ア)のとおりである。 (3) 事業を遂行するための準備行為を速やかに行う義務の違反(責任原因3)【被告の主張】ア義務内容及びその発生根拠原告と被告(交通局)は,本件決定により,単なる土地信託契約の締結予定者となっただけでなく,前記3【被告の主張】の基本契約関係に入ったか,少なくとも本件提案計画に従った土地信託事業の実施に向けた協働関係に入っていた。 したがって,原告は,その時点から,本件提案計画に従った土地信託事業を遂行するための準備行為(賃貸借予約契約の締結等)を速やかに行うべき同契約上又は信義則上の義務を負っていたというべきである(本件信託契約締結後に受託者たる原告が同準備行為を行うべき同契約上の義務があったことは当然である。)。 すなわち,本件提案競技は,最優秀提案に選定された事業計画を提案した応募提案者が当該事業計画に従った土地信託事業を遂行することを予定して開催されたものであり,そのことは,主催者たる被告(交通局)にとってはもちろん,各応募提案者にとっても当然の前提であった。しかも,原告が提案した本件提案計画は,設定どおりの賃貸条件で本件信託施設にテナントを誘致することが,同計画どおり事業を遂行するために必要不可欠であったから,本件決定後,速やか も当然の前提であった。しかも,原告が提案した本件提案計画は,設定どおりの賃貸条件で本件信託施設にテナントを誘致することが,同計画どおり事業を遂行するために必要不可欠であったから,本件決定後,速やかにリーシングを開始してテナントを確保する必要性が特に高いものであった。原告自身も,そのこ とを十分認識していたからこそ,本件決定後,本件信託契約締結以前から,「大阪市交通局住之江信託ビル建設室」と称する部署(以下「原告建設室」という。)を設置し,テナント候補者との交渉を開始する方針を被告(交通局)に明言する説明するとともに,当時現存していた市バス営業所の移設工事,交通局職員を同行した地元説明,許認可等に必要な関係諸機関との調整等の準備行為を行っていたのである。 イ義務違反原告は,本件提案競技時に入居確度が高いという多数のテナント候補者を挙げていたにもかかわらず,本件決定後,そのうちの1社であるI社との交渉を除き,これらのテナント候補者との具体的交渉を開始せず,上記アの義務を怠った。 また,原告は,本件基本協定締結以降も,被告(交通局)から要請を受けたにもかかわらず,リーシングに取り組んでいる旨の抽象的な報告に終始するばかりで,一向に上記準備行為を具体的に進めず,上記アの義務を怠った。 【原告の主張】ア義務の不存在本件提案競技及び本件基本協定の位置づけ並びに旧信託法及び地方自治法の定めから導かれる信託契約の成立時期は,前記3【原告の主張】(1)・(3)・(4)のとおりであり,本件決定時点では,未確定の信託の基本的事項等が多数残されており,受託予定者として被告(交通局)と仮契約及び本契約の締結に向けた協議をすべき段階にすぎないから,原告には,受託者としての権利義務は何ら生じておらず,また,最終的に被告との間で本契約(信託契 ており,受託予定者として被告(交通局)と仮契約及び本契約の締結に向けた協議をすべき段階にすぎないから,原告には,受託者としての権利義務は何ら生じておらず,また,最終的に被告との間で本契約(信託契約)が締結されないリスクが残されていた。 そのようなリスクがあり,かつ,本件信託施設の竣工・開業が3,4年も先の段階において,対外的には何らの権限も有していない受託予定者にすぎない原告が,出店要望書等を提出していたテナント候補者との間で法的拘束力を伴う賃貸借予約契約等を締結することは不可能であるし,建物の建設着工後にリーシングを始めるとされる土地信託実務とも相容れない。 原告建設室は,青写真たる性質の本件提案計画の内容を具体化するため,本件信 託施設の施設計画をより具体的かつ詳細に詰める作業を行うとともに,収支計画を精緻化する目的で設置されたものである。テナント候補者との協議・交渉も,構造上の個性が重視されるホテル,インテラボ・ホール及びスポーツ施設部分については,テナント候補者の意向が本件信託施設の施設計画にあらかじめ反映されるべきであることから先行して重点的に進められたにすぎず,全てのテナント候補者との間で,仮契約や本契約(信託契約)の締結に先立って契約交渉をすることは予定されていなかった。 したがって,原告が本件決定時点から本件提案計画に従った土地信託事業を遂行するための準備行為(賃貸借予約契約の締結等)を行うべき義務を負っていたことはあり得ない。 イ義務違反の不存在原告は,ホテル事業者であるI社やM社を始め,卸売業者に代わる小売業者,スポーツ施設等本件信託施設の各テナント候補者に対し,適時に具体的かつ積極的なリーシングに取り組んでいたのであり,後記(4)【原告の主張】イのとおり,その経過や結果は,被告(交通局)に対して 業者,スポーツ施設等本件信託施設の各テナント候補者に対し,適時に具体的かつ積極的なリーシングに取り組んでいたのであり,後記(4)【原告の主張】イのとおり,その経過や結果は,被告(交通局)に対しても報告・説明の上,協議していた。 原告が本件提案計画どおりの賃貸条件でテナントを確保できなかった根本的原因は,前記(1)【原告の主張】イのとおり,専門家であっても予想し得なかった本件提案競技後のバブル経済の崩壊とその後の日本経済の長期的低迷による不動産市況の悪化,本件信託事業と強い連関性・相乗効果を発揮するはずであった南港開発事業の失敗,本件提案計画では予定されていなかった商業調整の実施に伴うテナント候補者の出店意欲の著しい減退である。 (4) 事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務の違反(責任原因4)【被告の主張】ア義務内容及びその発生根拠本件信託契約の受託者であり不動産信託事業の専門家である原告は,信託期間中, 委託者兼受益者である被告に対し,本件信託事業の現状及び将来の見通しについて都度正確かつ具体的に報告・説明すべき義務を負うほか,とりわけ本件事業計画どおりの結果を実現することが困難となった場合には,その旨を正確かつ具体的に報告・説明した上で,同計画の修正・変更あるいは中止を提案すべき義務を負っていた。 原告は,遅くとも平成4年1月時点では,当時の不動産市場が商業地の地価の下落,買い手の資金調達難や買控えが顕著となって不動産取引が激減し,テナントビルの空室率も上昇し,全国的に賃料相場の反落が目立つ状態になっていたことを当然認識していたとともに,キーテナントとなるホテル事業者との交渉過程において度重なる譲歩を余儀なくされ,本件事業計画から大幅に減少した賃 上昇し,全国的に賃料相場の反落が目立つ状態になっていたことを当然認識していたとともに,キーテナントとなるホテル事業者との交渉過程において度重なる譲歩を余儀なくされ,本件事業計画から大幅に減少した賃料及び敷金しか得ることができなくなった状況下で,種々のシミュレーションを行った結果,遅くとも同年4月時点では,このまま本件事業計画に従って本件信託事業を遂行した場合には,本件信託施設開業初年度に実際に得られた程度の賃料収入しか確保できず,事業終了時点で事業配当はおろか負債が残存しかねない状況となっており,本件事業計画の抜本的変更等が必要であることを具体的かつ十分に認識していた。実際,原告は,同月8日に行われた住之江会議(M社への賃貸条件〔建設工事費の負担割合等を含む。〕を協議するため,平成3年から平成4年にかけて,原告,M社及び関係者を交えて継続的に行われていた会議)において,原告の顧問を務めていたP事務所のP氏を通じ,本件信託事業が無配当かつ約5.4億円の借入金が残存したまま事業期間の満了を迎えることになるとの現状認識を参加者に伝えていた。 したがって,原告は,遅くともこの時点以降,本件信託施設の建設工事が着工されるまでに,被告(交通局)に対し,本件事業計画どおりの結果を実現することが困難となったことを正確かつ具体的に報告・説明した上で,同計画の修正・変更あるいは中止を提案すべき義務があった。 イ義務違反(ア) 原告は,平成4年1月に至るまで,被告(交通局)に対し本件信託施設のテ ナント候補者との交渉経過等を一切報告・説明せず,同月になって初めて「ホテル交渉状況」と題する同月9日付け文書を提示して,M社との交渉経過等を報告・説明した。 しかし,原告が報告・説明した内容は,正確かつ具体的なものでなかったばかりか,具体的根拠に なって初めて「ホテル交渉状況」と題する同月9日付け文書を提示して,M社との交渉経過等を報告・説明した。 しかし,原告が報告・説明した内容は,正確かつ具体的なものでなかったばかりか,具体的根拠に一切基づかない虚偽ともいうべきものであった。すなわち,原告は,被告(交通局)から本件事業計画との違いについて説明するよう求められたのに対し,①固定賃料額が減少した点につき,歩合制賃料を併用することでむしろ有利となり,同計画どおりの事業配当が確保できると説明するとともに,実際には,既に賃料額を交渉により増額する余地がなくなっていたにもかかわらず,未だにその余地が残されているかのような説明をした。また,②敷金額が減少した点につき,実際にはM社から確約が得られていたわけではなかったにもかかわらず,敷金額を減少させる代わりにBC工事代金分約17億円がM社の負担となることから収支計画上問題はないと説明した。 また,原告は,同月,被告(交通局)に対し,ホテルテナント以外のテナントから得られる賃料収入が減少することを前提に,事業配当額が約130億円に修正されたシミュレーション結果を提示し,その後も,同年5月21日に事業配当額が約71億円に修正されたシミュレーション結果を,平成6年4月7日に事業配当額が約67億円に修正されたシミュレーション結果をそれぞれ提示して,各時点においても,提示した事業配当を得られる見通しであるかのような説明を続けた。 原告の上記説明は,今後予定される旧車庫用地周辺の開発を通じた総合的な利益を確保するとともに,本件事業計画どおりの結果を実現できないことの責任追及を免れるため,被告(交通局)に同計画の抜本的変更や中止を検討する必要性をあえて悟らせまいとする意図に出たものであった。また,原告の上記報告・説明は,いずれも本件事業計画の具体 きないことの責任追及を免れるため,被告(交通局)に同計画の抜本的変更や中止を検討する必要性をあえて悟らせまいとする意図に出たものであった。また,原告の上記報告・説明は,いずれも本件事業計画の具体的な変更等の提案を伴うものではなかった。 (イ) なお,原告は,平成4年1月に本件信託施設の建設工事費の削減を被告(交通局)に申し入れているものの,その際に示された建設工事費が150億円台に削 減された場合のシミュレーション結果は,本件信託施設の建設事業者を選定する入札が1週間後に差し迫った時期に唐突に提示されたものであり,建設工事費を現実に150億円台に削減するための具体的な計画案や仕様案はおろか,150億円台という数字の具体的な根拠すらも一切示されていなかった。その上,莫大な建設工事費を投下して良質な本件信託施設を建設することで,テナントから高額の賃料及び敷金を確保することを重大な要素とする本件事業計画において,建設工事費を削減して本件信託施設のグレードを落とすことは,テナントからの賃料収入等の減少を招き全体的にみて収支改善につながらないのではないかとの被告(交通局)の指摘に対し,原告が何ら合理的な説明をすることもなかった。原告がこのような申入れをしたことをもって本件事業計画の抜本的変更を提案したものとは到底いえない。 なお,被告(交通局)は,原告が合理的理由と客観的根拠を提示しながら行った変更提案(賃貸面積増床を目的としたコンジャンクションドームの見直し,本件信託施設の20階建てから19階建てへの変更,商業店舗部分のテナント業種の卸売業者から小売業者への変更等)に対しては,柔軟に対応していた。 (ウ) 以上によれば,原告が上記アの報告・説明義務及び修正・変更等提案義務を怠ったことは明らかである。 【原告の主張】ア義務の不 者から小売業者への変更等)に対しては,柔軟に対応していた。 (ウ) 以上によれば,原告が上記アの報告・説明義務及び修正・変更等提案義務を怠ったことは明らかである。 【原告の主張】ア義務の不存在事業計画の性質(前記3【原告の主張】(1)ア)のほか,本件提案競技以降,当事者双方が種々のコストを投下し続けてきた経過や,本件信託契約39条3項が定める原告が同契約解除の申出をするための要件に照らせば,原告が被告(交通局)に対し,本件事業計画どおりの結果を実現することは困難であることを説明し,同計画の修正・変更あるいは中止を提案すべき義務を負うのは,同計画どおりの結果が実現できない相当の蓋然性が認められた場合に限られ,その可能性が認められたにとどまる場合には,そのような義務は課されないというべきである(なお,本件信託契約39条3項は,受託者である原告の解除権について規定するものであり,同 条項を根拠に原告の解除の提案義務ないし申出義務は認められない。)。 原告は,本件信託施設の建設着工日(平成4年5月18日)以前に,土地信託事業の一般論として,事業が成功して利益を上げる可能性もあれば,事業が失敗して損失が生ずる可能性があること,及び,本件事業計画どおりに本件信託事業を遂行することは困難であり,同計画で掲げられたほど高い収益を上げられない可能性があることは認識していたものの,このまま本件事業計画に従って本件信託事業を遂行した場合に,事業終了時に負債が残存する相当の蓋然性があるとの認識は有していなかった。すなわち,原告は,不動産バブルの崩壊の兆しが現われていたものの,本件信託施設開業時までの循環的な景気回復や南港開発事業の推進による本件信託土地のポテンシャルの顕在化に対する合理的期待の下,①M社との間では,平成3年6月12日以降, の兆しが現われていたものの,本件信託施設開業時までの循環的な景気回復や南港開発事業の推進による本件信託土地のポテンシャルの顕在化に対する合理的期待の下,①M社との間では,平成3年6月12日以降,本件提案計画で設定されたものに近い契約条件を実質的に確保するとの目標を可能な限り達成するために粘り強く交渉を続けた結果,同年末ころ,同社から原告が提示した賃貸条件への内諾を取り付けていた。また,②物販施設部分のテナントに関しては,被告(交通局)が卸売業者から小売業者への変更提案を認めなかったことから,多数の卸売業者と懸命に交渉しており,本件信託施設の着工前後の時点でも,複数のテナント候補者(O社,Q社及びR社)と交渉が続いていたし,③他のテナントへの賃貸条件も当然に本件提案計画の設定されたものを大幅に下回るものとはいえない。なお,平成4年4月8日に行われたと被告が主張する住之江会議については,およそ原告のあずかり知らないものであり,同会議において,原告がP事務所のP氏を通じて本件信託事業が約5.4億円の借入金が残存したまま事業期間の満了を迎えるとの見通しを外部に表明した事実はない。 したがって,本件信託施設の建設工事の着工までに,原告が被告(交通局)に対し,本件事業計画どおりの結果を実現することが困難となったことを報告・説明した上で,同計画の修正・変更あるいは中止を提案すべき義務はなかった。 イ義務違反の不存在原告は,被告(交通局)に対し,各テナント候補者との交渉経過や現状認識につ いて節目ごとに具体的かつ正確に報告・説明するとともに,工事費用の大幅な削減を含む収支計画全体の抜本的見直しを提案していた。 原告は,キーテナント候補者であるM社から賃貸条件について内諾を取り付けてから間もない平成4年1月17日に,被告(交通局)に対し 事費用の大幅な削減を含む収支計画全体の抜本的見直しを提案していた。 原告は,キーテナント候補者であるM社から賃貸条件について内諾を取り付けてから間もない平成4年1月17日に,被告(交通局)に対し,同社との上記交渉経過及びその結果を正式に報告するとともに,他のテナントとの賃貸条件も変更する必要がある現状であることから,本件事業計画で想定されている収入計画を確保することは困難であることを明言して,今のうちに収支計画全体の抜本的見直しを行うべきことを進言した。また,原告は,被告(交通局)の指示に従い,現状で見込まれる賃貸条件により開業初年度から事業配当を出す条件で工事費を逆算したシミュレーション結果を示して,工事費を150億円台まで削減することを進言し,その後も,仕様・設計やコンセプトの変更による工事費削減を提案したが,被告(交通局)は,原告からの上記報告・説明により,テナント候補者との交渉経過等を具体的に理解・把握した上で,これに理解を示し,了承していた一方で,本件信託施設の設計変更等による工事費の大幅削減を含む収支計画の抜本的変更の提案については,対外的に認知されている事業配当額が261億円台であることを理由に,本件事業計画に固執して,これを頑なに拒絶し続けた。 以上によれば,原告が報告説明義務ないし変更等の提案義務を怠ったとは認められない。 (5) 事業計画どおりの収入を確保するとともに経費を削減するために努力する義務の違反(責任原因5)【被告の主張】ア義務内容及びその発生根拠(ア) 原告と本件JVとの間で平成4年2月14日に本件信託施設の建設請負契約が締結され,同年5月18日に本件信託施設が着工された時点で,本件事業計画どおり約180.9億円に上る本件信託施設の建設工事費を負担すること,これを支弁するために信託財産 本件信託施設の建設請負契約が締結され,同年5月18日に本件信託施設が着工された時点で,本件事業計画どおり約180.9億円に上る本件信託施設の建設工事費を負担すること,これを支弁するために信託財産(本件信託土地)の負担において多額の借入れを行うこと が確定的になった。そして,前記(1)【被告の主張】イ(ア)のとおり,本件事業計画の収支構造からすれば,多額の支出に見合った賃貸収入等が得られることが事業計画どおり事業を遂行するために必要不可欠であったが,同時点では,その目途がおよそ立っていなかった。 したがって,原告は,遅くとも本件信託施設着工後は,本件信託契約の受託者として,本件信託施設の各テナント候補者との間で,上記支出に見合った賃貸収入を確保するため,最大限の努力をすべき義務を負っていた。 (イ) 他方,遅くとも同時点で,本件事業計画どおりの賃料収入等を確保することが著しく困難であり,本件信託事業の遂行に伴って発生する費用を削減しない限り,被告への事業配当を捻出することはもとより,事業終了時に借入金債務が残存しかねない状況であることを原告が認識していたことは,前記(4)【被告の主張】アのとおりである。さらに,原告は,本件信託施設開業後は,借入金に対する支払利息がテナント賃料収入を上回っており,このままでは単年度赤字が継続し,借入金債務がより増大することを容易に予測することができた。 したがって,原告は,上記(ア)の義務と同時に,少なくとも借入金を事業期間内に返済することはもちろん,間違っても借入金債務が拡大することがないように,本件信託事業の遂行に伴う費用を削減するための措置―具体的には,①事業資金の借入れに当たり,今後の経済情勢等に関する正確な見通しを行った上で,金利等の面で最も有利な条件で金銭消費貸借契約を締結し,可能 件信託事業の遂行に伴う費用を削減するための措置―具体的には,①事業資金の借入れに当たり,今後の経済情勢等に関する正確な見通しを行った上で,金利等の面で最も有利な条件で金銭消費貸借契約を締結し,可能な限り支払利息を削減すること,②管理費等の固定経費につき,少なくとも受入共益費等によって賄うことができる程度にまで削減すること,③販売促進費につき,テナントから徴収した金額の範囲内で最も効率的な販売促進活動を行うこと等―を講ずべき義務を負っていた。 イ義務違反(ア) 原告は,本件信託施設着工後も,各テナント候補者へのリーシングにおいて,上記ア(ア)の義務を尽くすことなく,漫然と契約交渉を行い,本件事業計画における設定をはるかに下回る賃貸条件で安易に妥協して賃貸借予約契約及び賃貸借契約を 締結し,本件信託施設開業後も,何ら賃貸収入を増加させるための積極的方策を採ろうとせず,もって,上記ア(ア)の賃貸収入を確保するため最大限努力する義務を怠った。原告が同義務を怠ったことは,M’社(M社が本件信託施設におけるホテル事業を行うために平成6年10月に設立したグループ会社であり,原告との間で賃貸借契約を締結したもの。以下では,M社と区別せず「M社」という。)への賃貸条件が平成4年5月13日に取り交わされた覚書よりも大幅に後退していることや,他の市有地信託事業である戊土地開発プロジェクトに係る信託建物では,受託者である信託銀行の連合体が同時期に固定月額賃料2323円/㎡,敷金額14億円による賃貸借予約契約を締結できていることから明らかである。 (イ) 原告は,①事業資金の借入れにつき,経済情勢についての見通しを誤り,平成5年1月から平成6年6月にかけて,旧S銀行(後のS’銀行),T相互会社及び旧U相互会社(後のU’相互会社。以下,3社を併せて 原告は,①事業資金の借入れにつき,経済情勢についての見通しを誤り,平成5年1月から平成6年6月にかけて,旧S銀行(後のS’銀行),T相互会社及び旧U相互会社(後のU’相互会社。以下,3社を併せて「旧S銀行等」という。)から市場金利を上回る約定金利で合計60億円の借入れを行い,これらの金利が市場金利と比較して明らかに高額であることが明白になった後も,被告(交通局)が金利削減のために協力するまで,そのような事態を解消して支払利息を軽減するための措置を一切講じようとしなかった。また,原告は,自身の判断で直ちに実現することが可能であるにもかかわらず,自行(銀行勘定)からの借入金の金利負担を軽減するよう求める被告(交通局)の要請にも応じなかった。さらに,②テナントからの受入共益費をはるかに上回り,本件信託施設と同水準の他の商業ビルと比較しても極めて多額の管理費を漫然と支出し続けるとともに,③販売促進費につき,本件提案計画や本件事業計画では支出すること自体が予定されていなかったにもかかわらず,本件信託施設開業後,各テナントから徴収した金額をはるかに上回る金額を漫然と支出し続け,もって上記ア(イ)の本件信託事業に伴う費用の削減措置を講ずべき義務を怠った。 このような状況を見かねた被告(交通局)は,抜本的な収支改善策を策定・実行するよう再三にわたって原告に求めたが,原告は,被告からの財政支援(本件信託 施設中バスターミナル部分の使用有償化,本件信託不動産の固定資産税の減免)を求めるばかりであり,被告(交通局)が原告の要請に基づいて本件特定金銭信託により50億円の資金を拠出すること決まってから,被告(交通局)が求め続けていた費用削減策(D社の解散,原告の銀行勘定及びS’銀行〔旧S銀行〕からの借入金の金利負担の軽減)をようやく実行した。 【 より50億円の資金を拠出すること決まってから,被告(交通局)が求め続けていた費用削減策(D社の解散,原告の銀行勘定及びS’銀行〔旧S銀行〕からの借入金の金利負担の軽減)をようやく実行した。 【原告の主張】ア義務の不存在賃料水準・敷金水準等の賃貸条件は,一定の幅はあるものの,その時々の不動産市況における需給バランス等により客観的に定まるものであり,また,多額の工事費を投じて建設した良質な建物であっても,それに応じ比例的に増加した賃料水準等が当然に設定されるわけでもない。また,原告が本件信託施設の着工以前から進言・提案していた収支計画の抜本的変更を,被告(交通局)が頑なに拒否していたことは前記(4)【原告の主張】イのとおりであり,委託者である被告の理解・協力が得られない状況下では,受託者といえども収支改善のために講じ得る措置には自ずと限界がある。本件信託施設の着工当時,本件事業計画に従って本件信託事業を遂行した場合,事業終了時に負債が残る相当の蓋然性があるとの認識を原告が有していなかったことは,前記(4)【原告の主張】アのとおりである。 したがって,原告の本件信託事業の収入を確保するための努力義務は,支出額に見合った収入を確保するために無制限に課せられるものではなく,その時々の具体的状況下において,可能な限り有利な賃貸条件を設定するよう努力する義務であり,経費削減措置を講ずる義務も同様である。 イ義務違反の不存在(ア) 原告は,各テナント候補者へのリーシングにおいて漫然と交渉を行ってなどおらず,可能な限り原告(信託勘定)にとって有利な賃貸条件を設定できるように各テナント候補者との間でシビアな交渉を続けてきたのであり,本件信託事業における収入を確保するよう努力する義務を十分に果たしている。M社への賃貸条件は, 平 有利な賃貸条件を設定できるように各テナント候補者との間でシビアな交渉を続けてきたのであり,本件信託事業における収入を確保するよう努力する義務を十分に果たしている。M社への賃貸条件は, 平成4年5月13日に取り交わされた覚書よりも結果として固定賃料額の点で原告(信託勘定)に不利なものであったが,不動産市況が悪化の一途をたどる状況下で,平成5年4月以降,20回以上の会議を重ね,極めて厳しい交渉を粘り強く続けた末に,第2次歩合賃料の導入や賃料改定等に関する譲歩を引き出しつつ何とか確保したものである。また,原告は,M社との賃料改定交渉において,5%の賃料増額を実現している。戊土地開発プロジェクトに係る信託建物は,市中心部に近い立地条件に位置し,ラジオ局その他の多様な文化的施設が含まれている51階建の巨大複合商業施設であって,客室単価等が異なるシティリゾートホテルが入居しているのであり,そのような各種条件を異にする物件と月額固定賃料額及び敷金額のみを単純比較することは無意味である。原告が本件提案計画で設定された賃貸条件でテナントを誘致できなかった理由は,本件提案競技後に生じたバブル経済の崩壊に端を発した前提条件の激変(前記(1)【原告の主張】ア)と被告(交通局)が本件提案計画に固執して同計画の抜本的変更の進言・提案を拒絶したためである。 (イ) ①事業資金の借入れにつき,平成5年1月から平成6年6月までの期間における旧S銀行等から借り入れていた事業資金の固定金利年5.20%は,平成4年11月当時の長期プライムレート年5.5%を下回っていた(なお,昭和41年から平成5年までの期間に長期プライムレートが年6%を下回ったことは,昭和62年から平成元年までと平成4年9月以降のみであり,その場合でも,概ね年5%台後半で推移していた。)。また,原 ,昭和41年から平成5年までの期間に長期プライムレートが年6%を下回ったことは,昭和62年から平成元年までと平成4年9月以降のみであり,その場合でも,概ね年5%台後半で推移していた。)。また,原告は,平成7年以降の歴史上類を見ない超金融緩和政策により,市場金利が上記固定金利を下回って不均衡を生じていたことから,平成8年以降,借入先の各金融機関に対し,再三にわたって金利引下げや繰上げ弁済を申し入れたが,金利の引下げは拒絶され,繰上げ弁済には多額のペナルティーを要求されたため,実現しなかった。 また,原告は,本件事業の遂行に当たって,別に受託する信託に係る信託財産から事業資金の借入れをしていたが,自行の銀行勘定からの借入れは行っていない(旧信託法22条により自己取引は禁止されている。)。そして,他の信託に係る信託財 産から借り入れている事業資金に係る約定金利を引き下げることは,当該信託の委託者・受益者に対する善管注意義務・忠実義務に違反することから許されない。 ②管理費につき,本件提案計画では予定していなかった信託財産の管理会社であるD社を設立したのは,本件提案競技後に生じたバブル経済の崩壊に端を発した前提条件の激変(前記(1)【原告の主張】ア)のため,同計画では予定していなかった多数のテナント構成,歩合賃料制導入による売上金管理業務,テナントへのきめ細かいサービスの提供,テナント情報の常時収集・分析と即時効果的な販売促進活動等が必要となったためであり,同社に支払う管理委託料を各テナントからの受入共益費のみならず賃料収入を含めた全体収入から支弁することが予定されていた。原告は,被告(交通局)と予め協議してこのことの了承を得ており,また,本件信託施設の開業初年度から管理委託料の削減に努め続けていたのであって,理由もなく漫然と多額 から支弁することが予定されていた。原告は,被告(交通局)と予め協議してこのことの了承を得ており,また,本件信託施設の開業初年度から管理委託料の削減に努め続けていたのであって,理由もなく漫然と多額の管理費を支出し続けていたわけではない。また,本件信託施設と同程度の水準の物件といっても,事業内容,テナント構成,テナント側による管理費の全部又は一部負担の有無等の前提事情は千差万別であるから,他の物件と比較対照することにより支出管理費の妥当性を判断することはできない。 ③販売促進費が本件事業計画に計上されていなかったのは,卸売業者を物販施設部分のテナントに誘致する予定していたため,販売促進活動の必要性が低かったためである。そして,商業ビルにおいてオーナーとテナントが1:1の割合で販売促進費を負担することは一般的運用であり,被告(交通局)の了承も得ていることから,同費用の一部を信託財産で負担すること自体に問題はなく,また,その負担額も,高い年度でも概ね3%台にとどまっており,不合理に高いということはない。 (ウ) 以上のとおり,原告は,委託者である被告(交通局)の理解・協力が得られない状況下において,本件信託事業における収益向上と経費削減による収支改善努力を可能な範囲で十二分に行ってきており,義務違反はない。 (6) 被告の損害及びその額【被告の主張】 ア原告が本件提案競技において前記(1)の義務(安全性・安定性に配慮した事業計画を提案する義務)を怠ることなく,通常想定しうる景気変動をも考慮した上で,安全性・安定性に配慮した実現可能性のある事業計画を提案していれば,そもそも本件提案計画が最優秀提案に選定されることはなく,本件信託事業が遂行されることもなかった。したがって,本件信託事業の結果として生じた多額の本件借入金債務等の のある事業計画を提案していれば,そもそも本件提案計画が最優秀提案に選定されることはなく,本件信託事業が遂行されることもなかった。したがって,本件信託事業の結果として生じた多額の本件借入金債務等のための本件弁済費用相当額は,全て原告の前記(1)の義務違反により被告が被った損害であるというべきである。 イ原告が本件提案競技において前記(2)の義務(事業計画の内容等を正確に説明する義務)を怠り,本件提案計画の実現可能性について装うことなく,同計画で設定された賃貸条件が高額事例のみを参考としたものであることやその条件での出店を強く希望している具体的なテナント候補者はいないこと等を正確に説明していれば,そもそも本件提案計画が最優秀提案に選定されることはなく,本件信託事業が遂行されることもなかった。したがって,本件信託事業の結果として生じた多額の本件借入金債務等のための本件弁済費用相当額は,全て原告の前記(2)の義務違反により被告が被った損害であるというべきである。 ウ原告が本件決定後に前記(3)の義務(事業を遂行するための準備行為を速やかに行う義務)を怠ることなく,速やかにリーシングに着手し,テナント候補者と早期に賃貸借予約契約を締結するなどの賃料確保のための準備行為に着手していれば,本件信託事業につき,本件弁済時点において多額の借入金債務が未だ残存するような事態が生じることはなかった。したがって,本件信託事業の結果として生じた多額の本件借入金債務等のための本件弁済費用相当額は,全て原告の前記(3)の義務違反により被告が被った損害であるというべきである。 エ原告が本件信託施設の着工前に前記(4)の義務(事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務)を怠らなければ,莫大な建設工事費 である。 エ原告が本件信託施設の着工前に前記(4)の義務(事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務)を怠らなければ,莫大な建設工事費の支払や借入金債務の発生が確定的になる前の段階で,原告と被告との合意により,本件事業計画を抜本的に変更し,あるいは本 件信託事業の遂行を中止させることが可能であった。したがって,本件信託事業の結果として生じた多額の本件借入金債務等のための本件弁済費用相当額は,全て原告の前記(4)の義務違反により被告が被った損害であるというべきである。 オ原告が前記(5)の義務(事業計画どおりの収入を確保するとともに経費を削減するために努力する義務)を怠らなければ,少なくとも本件信託施設開業後においてまでも借入金が増大し続けることはなかったはずである(実際,被告〔交通局〕からの再三にわたる費用削減要請に原告がようやく対応した直後に本件信託事業の収支状況は大幅に改善されている。)。したがって,本件信託事業の結果として生じた多額の本件借入金債務等のための本件弁済費用相当額は,全て原告の前記(5)の義務違反により被告が被った損害であるというべきである。 【原告の主張】原告が前記(1)ないし(5)の各義務のいずれかを怠ったことにより被告が本件弁済費用相当額の損害を被ったことはいずれも否認し争う。 ア被告は,原告が前記(1)の義務(安全性・安定性に配慮した事業計画を提案する義務)や前記(2)の義務(事業計画の内容等を正確に説明する義務)を怠らなかった場合にいかなる事態が生じていたのか(原告以外の応募提案者の3つの事業計画のうちいずれかが最優秀提案に選定され,当該計画に基づく信託事業が遂行されたのか,その場合,何ら損失が生じなかったのか,あるいはより少ない る事態が生じていたのか(原告以外の応募提案者の3つの事業計画のうちいずれかが最優秀提案に選定され,当該計画に基づく信託事業が遂行されたのか,その場合,何ら損失が生じなかったのか,あるいはより少ない損失にとどまったのか等)を特定して損害及び因果関係を具体的に主張することなく,本件弁済費用相当額が損害であると漫然と主張して,原告に結果責任を負担させようとしているにすぎない。本件信託事業が多額の損失を生じる結果となった根本的原因は,本件提案競技直後のバブル経済の崩壊とその後の日本経済の長期的低迷,南港開発事業の失敗及び被告(交通局)の提案競技時点における事業計画への執拗な固執であり,仮に他の応募提案者の事業計画が最優秀提案に選定されていたとしても,当該計画に基づく信託事業において巨額の損失が生じた蓋然性が相当高いことは,本件提案競技と近接する時期に開催された有効利用提案競技に基づいて行われた他の市 有地信託事業の現状から明らかである。 イ原告が本件提案計画どおりの賃貸条件でテナントを確保できなかった主たる原因も上記アと同様であるから,原告が前記(3)の義務(事業を遂行するための準備行為を速やかに行う義務)を怠らなかったとしても,本件提案計画で予定されていた賃貸条件でテナントを確保することなどできなかったことも明らかである。 ウ原告が本件信託施設の着工前に前記(4)の義務(事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務)を果たしていたとしても,当初の事業計画,とりわけ予想累積配当額に執拗に固執し,事業計画の変更にすら強い抵抗を示していた被告(交通局)が,原告による本件事業計画の抜本的変更や中止の提案を了承することはなかった。 エ前記(5)の義務(事業計画どおりの収入を確保す 拗に固執し,事業計画の変更にすら強い抵抗を示していた被告(交通局)が,原告による本件事業計画の抜本的変更や中止の提案を了承することはなかった。 エ前記(5)の義務(事業計画どおりの収入を確保するとともに経費を削減するために努力する義務)についても,原告が本件信託施設の着工後に同義務を怠らなかった場合に生じていた事態(本件提案計画において予定された各テナント候補者を同計画で設定された賃貸条件で誘致することができたのか,借入金債務全額が解消されたのか等)を特定した損害及び因果関係の具体的主張はなく,被告は,本件弁済費用相当額が損害であると漫然と主張して,原告に結果責任を負担させようとしている。 第6 当裁判所の判断 1 認定事実等前記前提事実並びに証拠(甲1,4,5,9,10,12,22ないし24,52,53,65,159,160,167,乙1ないし6,9,21ないし36,52ないし61,70,76,78ないし84,101〔枝番号のあるものは,各枝番号を含む。以下同じ。〕,証人1,同2,同3,同4〔各証人作成に係る陳述書[甲170,171,乙99,100]の各供述記載を含む。以下同じ。〕)及び弁論の全趣旨によれば,本件信託契約締結までの経過に関し,次の各事実が認められる。 (1) 本件提案競技以前の経過ア国・公有地信託制度の導入(ア) 昭和61年5月30日,地方自治法の一部を改正する法律(同年法律第75号)及びその関連政省令が公布・施行されたことにより,普通地方公共団体は,普通財産である土地(その土地の定着物を含む。)につき,自らを受益者とする場合に限り,議会の議決によって信託を設定することが認められるようになった(公有地信託制度の導入)。 これに伴い,同日,旧自治省事務次官から各都道府県知事及び各指定都市 )につき,自らを受益者とする場合に限り,議会の議決によって信託を設定することが認められるようになった(公有地信託制度の導入)。 これに伴い,同日,旧自治省事務次官から各都道府県知事及び各指定都市市長に宛てて「地方自治法の一部を改正する法律等の施行について」と題する自治事務次官通知(乙52)が,旧自治省行政局行政課長から各都道府県総務部長に宛てて「地方自治法の一部を改正する法律に係る通達」と題する通達(乙2)が,それぞれ発出された。上記自治事務次官通知では,公有地に信託を設定するに当たっての留意点の1つとして「財産管理及び財政運営等の面から信託導入のメリット・デメリットにつき十分な検討を行うこと。特に,信託期間終了後,権利関係が複雑なまま信託財産を引き継ぐこと等により財産管理面での支障を生ずることのないよう配慮すること」が挙げられ,上記行政課長通達では,更にこの点について「公有地の信託については,各種のメリットを有することは確かでありますが,地方公共団体について今回初めて導入された制度であり,また,地方公共団体が公有地の信託を行おうとする場合には,契約の相手方の選定,契約内容,事業の採算性等を含め財務会計制度との関連や財政運営の健全性の確保等について,十分な配慮が必要であると考えられる」と敷衍されていた。 (イ) また,昭和61年6月3日に公布・施行された国有財産法の一部を改正する法律(同年法律第78号)及びその関連法令により,国有財産である普通財産に係る信託制度(国有地信託制度)も同時期に導入され,昭和62年2月19日,国有財産法が適用される普通財産に信託を設定する場合の手続について定めた「普通財産を信託する場合の手続について」と題する通達(蔵理第553号。甲12)が旧 大蔵省理財局長から各省各庁総括部局長に宛てて発出され れる普通財産に信託を設定する場合の手続について定めた「普通財産を信託する場合の手続について」と題する通達(蔵理第553号。甲12)が旧 大蔵省理財局長から各省各庁総括部局長に宛てて発出された。この通達では,国有財産である普通財産の信託については,国有財産法及び同法施行令のほか,旧信託法等の適用があることが注記されており,また,信託の収支見積りに関し「なお,借入金返済額については,信託期間内において借入金の返済が完了するよう算定するものとする。」と,信託に必要な資金の借入れに関し「信託財産(土地に限る。)の価額の範囲内で,かつ,信託財産の建築等及び信託の事務処理に必要な経済性を十分勘案した最小限度の金額にとどめるものとする。」,「借入金限度額を超える借入れの承認は,信託期間中における災害その他の特別の事情が生じた場合に限り行えるものとし,当該借入金の合計額は信託財産(土地に限る。)の価額の範囲内であって,かつ,災害等の復旧に必要な最小限度の金額にとどめるものとする。」と,旧信託法36条1項に基づく補償請求権の行使に関し「承認は,信託財産について行政需要等が見込まれない場合に限り行うものとする。」と,信託終了時点における残存債務の処理に関し「①受託者に信託財産の売却を行わせた上残存債務を返済させ,又は②予算措置を講じた上信託財産に繰入れを行って,残存債務を返済させるものとする。」と定められていた。また,信託契約書において明らかにすべき事項として「(1) 受託者は,信託財産から信託事務の処理に関する費用及び信託報酬を支弁すること」及び「(5) 受託者は信託法第36条第1項に規定する権利を行使しようとする場合には,事前に国に申請し,承認を受けなければならないこと」などが挙げられるとともに,「(1)及び(5)の条件は,信託財産の不足又は ) 受託者は信託法第36条第1項に規定する権利を行使しようとする場合には,事前に国に申請し,承認を受けなければならないこと」などが挙げられるとともに,「(1)及び(5)の条件は,信託財産の不足又は換価困難な場合において,国に対する受託者の信託法第36条第2項の権利行使を認めない趣旨ではないことに留意する。」と注記されていた。 (ウ) 公有地信託制度の導入に先立って,昭和60年8月に旧自治省に設置された公有財産の有効活用等に関する調査研究会が昭和61年1月17日に取りまとめた「公有地への土地信託制度の導入について」と題する報告書では,信託財産の運用が当初の見通しと大きく異なった場合には,信託の終了に際し地方公共団体が債務を承継する可能性がある旨の記載がされていた。 イ公有地信託制度の導入を受けた被告の対応被告は,公有地信託制度の導入を受けて,旧総合計画局(現計画調整局)に担当部署を設置し,信託を利用した市有地開発事業の実施を検討するようになった。また,交通局も,昭和63年から,14か所あった交通事業用地の有効活用の可能性を内部で検討し始めるとともに,原告,Vグループ及びW信託銀行に対し,これらの土地の信託を利用した開発事業の実現可能性を検討するよう依頼した。当時,交通局が行う交通事業は,長年にわたって厳しい財政状況にあり,昭和62年末時点における累積赤字は,バス事業が約434億円,地下鉄事業が601億円に,昭和63年末時点における累積赤字は,バス事業が約442億円,地下鉄事業が約658億円に上っていたため,早期の経営改善が重要課題となっていた。 ウ本件提案競技に先立って被告が有効利用提案競技を主催した信託を利用した市有地開発事業等(ア) 戊土地開発プロジェクト被告は,昭和61年12月から昭和62年6月にかけて, 題となっていた。 ウ本件提案競技に先立って被告が有効利用提案競技を主催した信託を利用した市有地開発事業等(ア) 戊土地開発プロジェクト被告は,昭和61年12月から昭和62年6月にかけて,大阪市港区≪略≫所在の市有地(面積3万0118.68㎡)につき,「戊土地開発プロジェクト」と称する信託を利用した土地開発事業を行うため,信託銀行等を応募資格者とする土地信託事業計画の有効利用提案競技を主催した。原告は,これに応募したが,原告が提案した事業計画は,最優秀提案に選定されなかった。 (イ) 丙土地開発プロジェクト被告は,昭和62年12月から昭和63年7月にかけて,大阪市南区(現中央区)≪略≫所在の市有地(面積4278.89㎡)につき,「丙土地開発プロジェクト」と称する信託を利用した土地開発事業を行うため,信託銀行等を応募資格者とする土地信託事業計画の有効利用提案競技を主催した。原告は,W信託銀行と共同でこれに応募したところ,原告及び同銀行が共同で提案した事業計画は,優秀提案に選定されたものの,最優秀提案に選定されなかった。 (ウ) 甲土地開発プロジェクト 被告は,平成元年5月から同年12月にかけて,かつて交通局のY車庫として利用されていた大阪市浪速区≪略≫所在の市有地(通称「甲土地」。面積2万5714. 83㎡)につき,「甲土地開発プロジェクト」と称する信託を利用した土地開発事業を行うため,信託銀行等を応募資格者とする土地信託事業計画の有効利用提案競技を主催した。原告は,W信託銀行及びZ信託銀行と共同でこれに応募したが,原告及び同銀行らが共同で提案した事業計画は,最優秀提案に選定されなかった。 (エ) 「テクノポート大阪」計画被告は,上記各提案競技のころ,昭和60年2月に基本構想が発表され,昭和63年7月に基本計画 び同銀行らが共同で提案した事業計画は,最優秀提案に選定されなかった。 (エ) 「テクノポート大阪」計画被告は,上記各提案競技のころ,昭和60年2月に基本構想が発表され,昭和63年7月に基本計画が策定された「テクノポート大阪」計画に基づき,昭和60年5月までに南港地区(コスモスクエア)に建設・開業した大規模展示会場「インテックス大阪」に続いて,同地区,舞洲地区及び夢洲地区に大阪ワールドトレードセンター(WTC。平成3年3月着工・平成7年4月開業)やアジア太平洋トレードセンター(ATC。平成3年5月着工・平成6年4月開業)を建設・開業する準備を進めていた。 エ原告による信託を利用した旧車庫用地の開発事業の検討と交通局に対する働きかけ原告(大阪支店プロジェクト推進部)は,交通局から依頼を受けたのを端緒として,昭和63年6月ころから,旧車庫用地を含む被告の交通事業用地の信託を利用した土地開発事業の実現可能性の検討を開始し,昭和63年9月以降,交通局に対し,旧車庫用地の信託を利用した開発事業に関する提案資料(利用計画案,土地信託予想配当金計算書,信託配当比較表,収支計画書,土地信託配当額比較表,事業収支結果のシミュレーション表,コンセプトイメージ等)を作成・交付するなどして,旧車庫用地における信託を利用した附帯事業を実施するよう働きかけていた。 上記利用計画案の概要は,旧車庫用地内に「オスカー・ヴィンレット」という名称の地下1階地上17階建て複合型商業施設ビルを建設・開業し,その中高層階部分にホテル事業者と卸売業者等を誘致して,総額116億円程度の事業配当を目指す というものであった。また,原告は,他の協力会社と共に旧車庫用地における信託を利用した開発事業を検討するプロジェクトチームを有していた。 (2) 本件提案競技の経過 度の事業配当を目指す というものであった。また,原告は,他の協力会社と共に旧車庫用地における信託を利用した開発事業を検討するプロジェクトチームを有していた。 (2) 本件提案競技の経過ア審査委員会の設置等交通局は,平成元年11月,旧車庫用地の信託を利用した附帯事業を行うこと,そのために本件提案競技を主催することを決め,同年12月1日,審査委員会を設置した。同委員会は,本件提案競技に応募される旧車庫用地の有効利用提案(事業計画)の中から「建設計画,経営計画等を総合的に審査し,提案競技の条件に適合し,かつ,健全な運営が確実と見込まれる」最優秀提案を選定することを目的とし(審査委員会要綱〔乙3〕第2条),建築,都市計画,不動産運用等に関する専門的知見を有する外部の学識経験者5人に被告幹部職員6人を加えた合計11人の審査委員により構成されていた。同日開催された第1回会議では,本件募集要項の内容が別紙1のとおり確定されるとともに,今後の審査の進め方及びおおまかな日程が確認された。 イ応募登録の受付,現地説明会等交通局は,平成元年12月12日,本件提案競技を開催することを公表し,同月15日及び同月18日,原告を含む17の信託銀行に本件募集要項を交付した。同月15日には,信託銀行等を対象とする本件提案競技の説明会を実施し,同月27日の信託銀行等による応募登録の受付及び質疑受付をした。平成2年1月16日には,応募登録をした信託銀行等を対象とする現地説明会を実施した。 ウ応募提案者による事業計画の策定・提出(ア) 原告(大阪支店プロジェクト推進部)は,平成2年3月20日までに本件提案計画(応募登録第1号提案)の策定を完了し,同日,これを任意提出の施設模型及びPRビデオや,本件募集要項で提出が義務付けられていた応募申込書(乙 ロジェクト推進部)は,平成2年3月20日までに本件提案計画(応募登録第1号提案)の策定を完了し,同日,これを任意提出の施設模型及びPRビデオや,本件募集要項で提出が義務付けられていた応募申込書(乙4)と併せて交通局に提出した。同応募申込書には「当社が事業主体として決定いたしましたときは,貴局募集要項に基づき,誠意をもって事業を遂行してまいりますこ とを,誓約いたします。」との文言が記載されている。 (イ) 本件提案計画のうち,事業計画概要説明書(乙5の1)では,公有地信託事業としての基本的指針は公共性,公益性,収益性及び安定性であり,堅実で健全な資金収支計画による安定的な事業運営が基本方針の1つであることが謳われるとともに(「事業経営の基本方針」〔52頁〕),資金計画及び収支計画が「事業の収益性・安全性・確実性に配慮するとともに,…,信頼度の高い指標を採用して収支見込の実現性・堅実性を高めた」ものであり(「資金計画の概要」〔53頁〕及び「収支計画の概要」〔54頁〕の「基本的な考え方」),実現性の高い資金使途計画及び資金調達計画(「資金計画の概要〔53頁〕の「資金の使途」及び「資金の調達」),収入の前提条件が「周辺の現状・将来像,各種の社会的動向,想定テナント業種のヒアリング等により充分に調査し,テナント入居・収益性の維持に確信のもてる設定」であること(「収支計画の概要」〔54頁〕の「収入の前提条件」)及び支出の前提条件が「専門会社の実績や各種資料等によって算出した最適な合理的指標と,各種統計データ等による安定的で堅実な上昇率等を用いて算出し,事業収支見積りに適用した」ものであること(同「支出の前提条件」)が謳われていた。 また,資金計画書・収支計画書・管理運営計画書(乙5の3)中「Ⅱ.収支計画書」(10ないし32頁)では,収 算出し,事業収支見積りに適用した」ものであること(同「支出の前提条件」)が謳われていた。 また,資金計画書・収支計画書・管理運営計画書(乙5の3)中「Ⅱ.収支計画書」(10ないし32頁)では,収支計画に関する上記と同様の基本的な考え方(「収支計画の基本的な考え方」〔11頁〕)に続いて,施設ごとに区分された収入の前提条件(別紙3・1枚目),項目ごとに区分された支出の前提条件(別紙3・2枚目)及び本件信託施設開業時から事業終了時までの期間における年度別収支見積表(別紙3・3ないし6枚目)が示されるとともに,テナントへの賃貸条件その他の収支の前提条件につき,主要な算出根拠としたデータ等及び算出過程が項目ごとに説明された詳細資料(「資料編」〔18ないし32頁〕)が添付されていた。 (ウ) 原告は,本件提案計画を策定するに当たって,本件募集要項の記載等の分析を通じて把握した重要事項や交通局の意向を念頭に置きつつ,収集・分析した大阪市内外の各地域における商業施設ビルの賃貸条件やビジネスホテル・レジデンシャ ルホテル等に関する参考事例や各種統計資料等の数多くのデータを参照しながら,本件提案計画の基本構想に基づく事業を遂行した場合の収支シミュレーションを繰り返し行った末,実在したデータの範囲内において本件提案計画に係る上記収支計画を策定するとともに,同計画における収支の前提条件に関する上記資料を作成・添付した。また,原告は,同計画の策定に当たって,協力会社との協議・打合せのほか,I社,J社,α社等のホテル事業者,K社,O社,L社等の卸売業者,β社,γ社等のスポーツ施設設置業者等をはじめとする数多くのテナント候補者に対するヒアリング調査や出店の打診・要請を行い,本件提案計画の概要やおおまかな賃貸条件の説明を受けた複数のテナント候補者から出店に γ社等のスポーツ施設設置業者等をはじめとする数多くのテナント候補者に対するヒアリング調査や出店の打診・要請を行い,本件提案計画の概要やおおまかな賃貸条件の説明を受けた複数のテナント候補者から出店に対する前向きな回答や意欲の表明を受け,K社やL社をはじめとする7社のテナント候補者からは各社名義の出店要望書ないし出店申込書を取り付けた。 (エ) 他の応募提案者らも,平成2年3月20日までに,それぞれ旧車庫用地における事業計画を策定し,上記応募申込書と併せて交通局に提出した。他の各応募提案者が交通局に提出した事業計画の概要は,次のとおりであった。 a 応募登録第2号提案(応募提案者 W信託銀行): ①用途生活利便施設,飲食施設,スポーツ・ヘルシー施設,文化・教養施設,情報・生活サービス施設ほか,②構造規模地下1階地上5階建てビルほか,③総事業費約108.0億円,④建設工事費約89.3億円,⑤予想累積配当額約47.7億円,⑥賃料収入(開業時) 約6.6億円,⑦賃料上昇率 3年ごとに8%,⑧賃貸料収入総額約290.1億円b 応募登録第3号提案(応募提案者 δ信託銀行・ε信託銀行・ζ銀行の連合体): ①用途物販施設,飲食店舗,スポーツ施設,ホテルほか,②構造規模地下1階地上11階建てビルほか,③総事業費約101.9億円,④建設工事費約80.0億円,⑤予想累積配当額約45.8億円,⑥賃料収入(開業時) 約6. 2億円,⑦賃料上昇率 3年ごとに7%,⑧賃貸料収入総額約215.6億円c 応募登録第4号提案(応募提案者 η信託銀行・θ信託銀行の連合体): ① 用途店舗,ホテル,文化・スポーツ施設ほか,②構造規模地下2階地上6階建てビル,③総事業費約77.3億円,④建設工事費約59.7億円,⑤予想累積配当額約 信託銀行の連合体): ① 用途店舗,ホテル,文化・スポーツ施設ほか,②構造規模地下2階地上6階建てビル,③総事業費約77.3億円,④建設工事費約59.7億円,⑤予想累積配当額約50.5億円,⑥賃料収入(開業時) 約4.8億円,⑦賃料上昇率3年ごとに9%,⑧賃貸料収入総額約181.4億円エ本件審査の経過(ア) 第2回会議審査委員会は,平成2年3月29日に開催された第2回会議において,本件提案競技に応募された4つの事業計画につき,事務局(交通局総務部)作成の要約資料に基づき,各事業計画に係る施設計画及び経営計画の概要に関する事務局からの説明後,本件審査に当たっての物的側面からみた審査の視点及び経営的側面からみた審査の視点などについて議論した。 (イ) 第3回会議審査委員会は,同年5月2日に開催された第3回会議において,事務局作成の要約資料等に基づき,周辺の開発計画の概要並びに各応募提案(事業計画)の概要及び法制度面からのチェックに関する事務局からの説明後,各事業計画相互の物的側面及び経営的側面から見た比較・検討をするとともに,各応募提案者に対して実施するヒアリング調査の項目(各応募提案者に共通の共通項目と応募提案者ごとに異なる個別項目から構成される。)等について議論した。 (ウ) ヒアリング調査の実施審査委員会は,同月17日及び18日,各応募提案者に対し,事務局を通じてヒアリング調査を個別に実施した。 これを受けて原告が提出したヒアリング回答書(乙6。全55丁)では,①「(物販店関係施設について)具体的な候補テナント名,その確度はどうか。」との問いに対し「ニュー卸メンバーショップについて K社,O社,L社等有力卸売業者から出店の強い要望があり,入居確度は高い(別添の出店要望書をご参照)」との回答 な候補テナント名,その確度はどうか。」との問いに対し「ニュー卸メンバーショップについて K社,O社,L社等有力卸売業者から出店の強い要望があり,入居確度は高い(別添の出店要望書をご参照)」との回答(8頁),②「(スポーツ施設について)具体的な候補テナント名,その確度はどうか。」 との問いに対し「候補テナントとしては,β社,γ社,J社等が具体的検討段階にはいっており,確度は高い」との回答(11頁),③「(物販店について)賃貸料,敷金は高くないのか。この地で核テナントとして,長期に繁栄するためには大きな負担とならないのか。」との問いに対し「賃貸料(4,600円/㎡・月)敷金(460千円/㎡)は,大阪市内の類似施設の売上高を参考に想定売上高(70千円/㎡・月)を設定し,売上に対する賃料負担力の一般的比率(5%)を乗じ,開業時に時点修正して算出しており,安全性を見込んだ金額である。この賃貸条件で出店を希望する企業は前述の3社(「K社」,「O社」「L社」)がありこの賃貸料敷金は長期的にみても十分負担しうる水準である。」との回答(33頁)が,④「(ホテルについて)具体的な候補テナント名,その確度はどうか。」との問いに対し「I社,J社,α社等から強い出店要望があり,出店確度は高い(別紙出店要望書御参照)」との回答(34頁)がそれぞれ記載されるとともに,K社,L社,I社,ι社など合計7社のテナント候補者名義の出店要望書ないし出店申込書や原告が既に折衝を始めていた関係会社・団体やテナント候補者の役員等の名刺が添付されていた。また,上記回答書には,審査委員会からの指示により,本件信託施設開業時の賃料水準が平成2年3月時点のものと同じであるとした場合の収支計画(本件提案計画に係る収支計画では,同施設開業時までに賃料水準が合計32%〔1年ごとに8%〕 員会からの指示により,本件信託施設開業時の賃料水準が平成2年3月時点のものと同じであるとした場合の収支計画(本件提案計画に係る収支計画では,同施設開業時までに賃料水準が合計32%〔1年ごとに8%〕上昇することが前提条件とされていた。)が添付されており(44頁以下),これによれば,事業終了時までの累積事業配当額は,合計約125億円とされていた。 他の応募提案者らも,そのころ,ヒアリング回答書を提出した。 (エ) 第4回会議同月31日に開催された審査委員会の第4回会議において,事務局作成の要約・分析資料等に基づき,各応募提案者が提出したヒアリング調査の回答書に関する事務局からの説明後,各回答書相互の比較・検討作業とともに,各事業計画の物的側面からみた評価及び経営的側面からみた評価について議論が交わされた。その結果,原告による本件提案計画は,計画どおりに実現するかどうかには不安が残るものの, 他の各事業計画と比べて非常に収益性に優れており,かつ,重大な問題点が最も少ない,最優秀提案の最有力候補と目されるようになった。 (オ) 第5回会議等同年6月16日に開催された審査委員会の第5回会議において,事務局作成の要約資料等に基づいて最優秀提案の選定に向けた議論が交わされた結果,本件提案計画を最優秀提案とすることが決定され(本件決定),同年7月9日に開催された審査委員会の第6回会議において,本件審査の結果を取りまとめた報告書に基づき,本件提案競技の結果が交通局長に報告(答申)された。 同年6月20日,原告が提案した本件提案計画が本件提案競技において最優秀提案に選定された旨が報道発表されるとともに,そのころ,各事業計画に対する講評と併せて,本件提案競技の結果が各応募提案者に通知された。 (3) 本件信託契約締結までの経過(リーシング において最優秀提案に選定された旨が報道発表されるとともに,そのころ,各事業計画に対する講評と併せて,本件提案競技の結果が各応募提案者に通知された。 (3) 本件信託契約締結までの経過(リーシング関係を除く。)ア原告建設室の設置等原告は,本件提案計画が本件提案競技において最優秀提案に選定されたことを受けて,平成2年7月,本件信託事業の実現に向けた取組みを進める部署として,原告建設室(「大阪市交通局住之江信託ビル建設室」)を大阪支社に設置し,本件信託施設の設計監理の受託予定者であるκ社その他協力会社との間で本件信託施設の設計・施設計画に関する打合せを重ねるとともに,同月3日,被告(交通局)に対し,同年11月ころまでの大まかな進行計画が記載された工程表(乙36)を提示した。 同工程表では,同年10月までに本件信託施設の基本設計を完了することや,基本協定書,信託契約書,資金・収支計画及び管理・運営計画の検討を直ちに開始する旨のほか,ホテルのテナント候補者であるI社やインテラボ・ホールのテナント候補者であるλ社・μ社とは早急に折衝を開始し,スポーツ施設テナントについても早急に具体的テナントの検討を開始する旨が記載されていた。 イ本件基本協定の締結平成2年9月13日,本件募集要項にいう仮契約(「Ⅷ 信託契約」の「1 仮契 約の締結」)として,当事者間で本件基本協定を締結した。本件基本協定に係る基本協定書(乙7)は,交通局作成の原案が特に修正を加えられることなくそのまま用いられた。 ウ商業調整の実施決定等会員制卸売店舗の設置が予定されていた本件信託施設の商業施設部分につき,交通局職員から,小売業と近い業態であるとの誤解を受ける可能性や地元住民への対応の観点から商業調整にかけるよう要請があり,これを行うことが決定した。 予定されていた本件信託施設の商業施設部分につき,交通局職員から,小売業と近い業態であるとの誤解を受ける可能性や地元住民への対応の観点から商業調整にかけるよう要請があり,これを行うことが決定した。 原告担当者は,商業調整にかけることを前提とした場合,店舗面積の減少等により卸売業者(K社ら)の出店は期待できないとの認識に基づき,平成2年9月19日までに,同部分に誘致するテナントを卸売業者から小売業者に変更することを同局に提案したが,同局は,これを受け容れなかった。 エインテラボ・ホールの増床原告建設室は,平成2年10月初旬,交通局からの要請を受けて,本件信託施設の多目的会議スペースであるインテラボ・ホールの増床を検討し,同月12日,交通局職員に対し,検討結果を記載した文書(甲53)を交付した上で,上記増床を求める指示書を交通局から交付してもらいたい旨を伝えた。 オ地盤調査の実施被告(交通局)は,原告との間で平成2年10月5日に締結した「地盤調査に関する協定書」に基づき,同月12日から同年12月25日までの間,旧車庫用地の地盤調査を実施した。上記協定書では,この調査費用(概算額約2163万円)は,土地信託契約締結後,信託財産から支弁するものとされていた。 カ事業計画の修正・変更(ア) 平成2年11月6日付け基本計画案原告建設室は,本件提案競技後における経済情勢の変化(金利・建築単価等の上昇),テナント候補者との折衝状況,本件信託施設の設計変更に伴う建設工事費の増加等を踏まえて,平成2年11月6日までに,本件提案計画の内容を変更・修正し た同日付け基本計画案(甲23)を策定した。この基本計画案では,配当期間の短縮,投資総額の増加等を主たる要因として,信託期間中の累積配当額が約168億3708万円に減額されていた。 修正し た同日付け基本計画案(甲23)を策定した。この基本計画案では,配当期間の短縮,投資総額の増加等を主たる要因として,信託期間中の累積配当額が約168億3708万円に減額されていた。同日,原告担当者から交通局職員に対し,上記基本計画案の説明をしたのに対し,交通局職員は,できる限り本件提案競技において設定された事業配当を確保できるよう努力してもらいたい旨を伝えた。 (イ) 本件事業計画原告建設室は,それまでの経過を踏まえ,平成3年3月13日までに,累積配当額を158億8053万円に減額した詳細収支見積表を別添資料とする同月20日付けの事業計画を策定し,これを交通局に提出したが,交通局職員から,上記詳細収支見積表につき,予想累積配当額を本件提案計画のものに近づけたものを作成・提出するよう求められたため,本件事業計画の別添資料とされた詳細収支見積表(別紙6。予想累積配当額合計261億2698万円)に作成し直し,これを上記事業計画に添付して提出した(本件事業計画)。 キ本件契約書の条項の確定経過等(ア) 全体の流れ平成3年2月4日から同年3月4日までに間に,土地信託契約書(本件契約書)の具体的条項について原告建設室と交通局が検討・協議するため,契約書検討会が少なくとも6回にわたって開催された。 その第1回会議では,交通局がたたき台として事前に作成・提示した土地信託契約書案(後記(ウ)の旧郵政省作成の土地信託契約書案や被告が先行して進めていた信託を利用した市有地開発事業(前記(1)ウ(ア)及び(イ))に係る各土地信託契約書などを参考にして作成されていた。以下「交通局原案」という。)の各条項案を表の左側,これを受けて原告建設室が事前に作成・提示した土地信託契約書案以下「原告原案」という。)の各条項案を表の右側に記載した を参考にして作成されていた。以下「交通局原案」という。)の各条項案を表の左側,これを受けて原告建設室が事前に作成・提示した土地信託契約書案以下「原告原案」という。)の各条項案を表の右側に記載した交通局作成の比較対照資料に基づき,双方の意見の分かれた個別条項の内容(「乙〔判決注:原告〕の作成した「土地信託事業計画」に基づき」との文言を信託の目的を規定する条項に加えるかどうか,信託 事務処理費用を信託財産から支弁する場合の被告の関与方法,信託報酬や自行借入利率の変更等)のほか,規定形式や用語法等に関する意見が交わされた。以後,原告建設室と交通局との間で,譲歩案が記載された比較対照資料やそれまでの経過がまとめられた数次の土地信託契約書案が作成されつつ,個々の具体的条項の確定に向けた協議・交渉が重ねられた結果,本件契約書(甲1,乙9)の条項が確定されるに至った。 別紙12(条項対照表)は,交通局原案及び原告原案の各条項を抜粋し,本件契約書の条項と対照したものである。 (イ) 信託事務処理費用等に関する条項をめぐるやり取り交通局原案では,信託事務処理費用等に関し,①同費用の信託財産を負担とする借入れ(27条),②同費用等の信託財産からの支弁(23条1項),③信託財産に属する金銭が同費用等の支払に不足する場合の処理(24条),④信託終了時に借入金債務等が残存する場合の処理(41条2項3号),⑤旧信託法36条1項に基づく補償請求権の行使要件(44条)が,それぞれ別紙12中「交通局原案」欄記載のとおり定められていた一方で,⑥旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権に関する定めは設けられていなかった。 他方,原告原案では,同費用等につき,①同費用の信託財産を負担とする借入れ(23条),②同費用等の信託財産からの支弁(19条),④信託終了 文に基づく補償請求権に関する定めは設けられていなかった。 他方,原告原案では,同費用等につき,①同費用の信託財産を負担とする借入れ(23条),②同費用等の信託財産からの支弁(19条),④信託終了時に借入金債務等が残存する場合の処理方法(35条2項3号)が,それぞれ同表中「原告原案」欄記載のとおり定められていたが,③信託財産に属する金銭が同費用等の支払に不足する場合の処理方法,⑤旧信託法36条1項に基づく補償請求権及び⑥同条2項に基づく補償請求権に関しては,いずれも特に定められていなかった。なお,契約書検討会の第1回会議で用いられた前記比較対照資料の交通局原案44条が記載された箇所の右側は,原告建設室案どおり空欄とされる代わりに,旧信託法36条の条文全文が掲げられていた。 協議・交渉の結果,②信託事務処理費用等を信託財産から支弁する場合の方法に ついては,原告建設室の意見どおり,被告との事前協議や承認を要しないこととされたが(本件契約書23条),④信託終了時に借入金債務等が残存する場合の処理方法については,交通局原案どおりとされた(同42条)。また,③信託財産に属する金銭が同費用等の支払に不足する場合の処理方法については,交通局原案どおり,被告と事前に協議することとされた(同24条)。 ⑤旧信託法36条1項に基づく補償請求権に関しては,交通局の承認を要するとの限定を加えようとする交通局と,これに難色を示す原告建設室との間でなかなか折り合いがつかず,交通局が提案した「事前に交通局と協議するものとする」との譲歩案と,原告建設室が提案した「売却の時期,方法等について事前に交通局の承認を受けるものとする」との譲歩案をめぐって厳しい交渉が続けられたが,結果的に上記交通局の譲歩案が成案となった(本件契約書45条)。これに対し,⑥旧信託 「売却の時期,方法等について事前に交通局の承認を受けるものとする」との譲歩案をめぐって厳しい交渉が続けられたが,結果的に上記交通局の譲歩案が成案となった(本件契約書45条)。これに対し,⑥旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権に関しては,協議・交渉過程で双方から一度も言及されることはなかった。なお,前記比較対照資料に掲げられた旧信託法36条の条文も,その後の検討会資料では掲げられていなかった。 以上の経過において,本件信託事業の結果として信託財産で賄うことができない負債が生じた場合を想定したやり取りがされることはなかった。 (ウ) 当時存在した土地信託契約書のひな型a 原告土地信託研究会編集の賃貸型土地信託契約書ひな型原告の土地信託研究会が編集した「〔図解〕土地信託ハンドブック」(都市文化社・昭和61年2月10日発行)に参考資料として掲げられた「土地信託契約書(賃貸型)」のひな型では,信託事務処理費用等に関し,別紙10のように定められていた。 b 旧郵政省作成の土地信託契約書案(第4号様式)旧郵政省が同省を委託者兼受益者,信託銀行を受託者とする国有地信託契約に係る契約書のひな型として当時作成した土地信託契約書案(第4号様式)では,信託事務処理費用等に関し,別紙11のように定められていた(「甲」を「郵政省」,「乙」を「信託銀行」と原文を読み替えた。)。 ク本件信託契約の成立このような経過の後,本件提案計画から修正・変更された本件事業計画について被告議会の承認を経て,原告(取締役社長)及び被告(交通局長)が本件契約書に記名押印したことにより,平成3年3月20日,原告と被告との間で本件信託契約が成立した。 2 争点1(旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権は信託財産の価額に限定されるか)について旧信託法3 記名押印したことにより,平成3年3月20日,原告と被告との間で本件信託契約が成立した。 2 争点1(旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権は信託財産の価額に限定されるか)について旧信託法36条は,受託者がその固有財産により負担した信託財産に関する公租公課その他の費用及び信託事務を処理するために自己の過失なく被った損害について,受託者が信託財産から他の権利者に先立って補償を受けることができると規定するとともに(同条1項),同条2項ただし書及び同条3項の場合を除き,受託者が受益者に対しその補償を請求し又は相当の担保を提供するよう求めることができると規定する(同条2項本文)。上記各規定は,信託により生じる利益を享受する信託財産ないし受益者が,信託から生じる損失や費用も全て負担するのが原則であるとの考え方を基礎としていると考えられるところ,同条2項本文は,受託者が行使し得る補償請求権の範囲を条文上何ら限定しておらず,受託者が信託財産から上記費用等の補償を受けられない場合として,信託財産に十分な当面の金銭がない場合のほか,上記費用等が信託財産の価額を超える場合をも念頭に置きつつ,そのような場合には,特段の事情がない限り,受益者が最終的に信託財産の負担を担うべきであるとの考え方を採用したものと解されるから,受託者が同条2項本文に基づいて行使できる補償請求権は信託財産の価額に限定されないと解するのが相当である。 このように解すると,受益者が上記費用等について実質的な無限責任を負担することとなり,受益者,とりわけ信託行為に関与しない他益信託や一定の類型の信託の受益者が予想外の負担を強いられる結果となる可能性が否定できない。しかしながら,同条2項は,受益権を放棄することによって受益者が負担を免れることを認める同条3項と併せて規定されているほか, の信託の受益者が予想外の負担を強いられる結果となる可能性が否定できない。しかしながら,同条2項は,受益権を放棄することによって受益者が負担を免れることを認める同条3項と併せて規定されているほか,同規定にかかわらず当事者間でこれと 異なる合意をすればそれが優先される任意規定であり,また,信託行為で定めることにより,受託者が信託財産の価額を超える費用等を負担することを制限・抑制することもできる。旧信託法下において提唱されていた,同条2項が適用される信託の類型や同条項に基づく補償請求権の行使順序,時期あるいは方法等について制限的に解釈すべきとする数々の有力な学説も,上記解釈を前提としていたものと解される。なお,平成18年12月に成立した現行信託法48条5項が,受益者との間で合意した場合に限り,受託者が受益者に信託事務処理費用の補償請求をすることができると定めていることは,旧信託法の上記解釈を左右するものではない。 以上の解釈と異なり,信託行為に別段の定めがない限り,受託者が旧信託法36条2項本文に基づいて行使し得る補償請求権は信託財産の価額に限定されると解すべきであるとの被告の主張は採用できない。 3 争点2(本件弁済費用は旧信託法36条2項本文にいう「費用」に当たるか)について被告は,旧信託法36条2項本文にいう「費用」とは,受託者が委託された信託の本旨に従い,受託者としての義務を履行するために客観的に必要と認められる支出に限られ,同義務に違反した結果生じた債務のために要した支出はこれに当たらないと主張する。 しかし,旧信託法36条2項本文にいう「費用」は,同条1項が定める「信託財産ニ関シテ負担シタル租税,公課其ノ他ノ費用」と同義であると解されるところ,同項は,損害に関しては「自己ニ過失ナクシテ受ケタル」との限定を加えてい 条2項本文にいう「費用」は,同条1項が定める「信託財産ニ関シテ負担シタル租税,公課其ノ他ノ費用」と同義であると解されるところ,同項は,損害に関しては「自己ニ過失ナクシテ受ケタル」との限定を加えているのに対し,費用に関してはそれが生じた原因などにつき何らの限定も加えていない。 また,同法は,受託者が管理失当により信託財産に損失を与えた場合,信託の本旨に反して信託財産を処分した場合及び分別管理義務に違反した信託財産の管理をした場合に受託者が負うべき損失塡補義務ないし信託財産復旧義務を規定した上で(27条ないし29条),これらの義務を履行した後でなければ,36条が規定する補償請求権等を行使できないと規定する(38条)。これらの規定は,受託者の管理 失当により信託財産に損失を与えた場合等であっても,その損失塡補義務ないし信託財産復旧義務を履行すれば,36条が規定する補償請求権等を行使し得ることを定めているものにほかならず,かつ,その補償請求権等は補償の対象となる費用について何ら限定を加えていないことは上記のとおりである。これらに照らすと,36条1項及び2項本文にいう「費用」とは,受託者が信託事務を処理するに当たり信託財産に関して負担した債務等のために要した費用であれば足り,当該債務等を負担するに至った原因を問わないものと解するのが相当である。 そして,本件借入金債務等は,いずれも,本件信託契約の受託者である原告が,信託事務の処理として本件信託事業を遂行するに当たり,本件信託財産に関して負担した債務等であり,本件弁済費用は,いずれも,これを原告の固有財産(銀行勘定)をもって弁済するために要した費用であると認められる。 したがって,本件弁済費用は,いずれも,旧信託法36条2項本文にいう「費用」に当たる。 4 争点3(基本契約の成否)につ 固有財産(銀行勘定)をもって弁済するために要した費用であると認められる。 したがって,本件弁済費用は,いずれも,旧信託法36条2項本文にいう「費用」に当たる。 4 争点3(基本契約の成否)について(1) 緒論被告は,本件提案計画が最優秀提案に選定された平成2年6月16日時点(本件決定時点)で,旧車庫用地における事業に関する法的拘束力のある基本契約(本件基本契約)が当事者間に成立しており,同契約には,原告が同計画に基づく事業を行うこととなった場合は,その計画内容に従い,事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさないこと及び同計画に基づいた一定の経済的利益が被告に与えられ,他方で原告は一定の報酬を受け取ることが内容に含まれていると主張するのに対し,原告は,法的拘束力のある基本契約の成立自体を争っている。 そこで,まず,本件決定により当事者間に何らかの法的拘束力が生じたかどうかについて検討し,これが認められる場合には,その内容について更に検討する。 (2) 法的拘束力の存否についてア本件提案競技は,旧車庫用地において信託を利用した附帯事業を行うことを 決定した被告(交通局)が,不動産信託事業の専門家である信託銀行等(日本国内における土地信託事業の受託実績を有する信託銀行及びその連合体)が提案した複数の事業計画の中から最も優れたものを選定し,当該事業計画を提案した応募提案者にこれに基づいた事業を遂行させることを目的として主催したものである。本件提案競技では,被告(交通局)が設置した審査委員会において予め内容を確定した本件募集要項を複数の信託銀行等に配布し,これを受けて本件提案競技に応募しようとする信託銀行等が,本件募集要項の定めに従い,予め応募登録者となり,本件募集要項で定められた応募条件(本件募集要項「Ⅴ 提案 募集要項を複数の信託銀行等に配布し,これを受けて本件提案競技に応募しようとする信託銀行等が,本件募集要項の定めに従い,予め応募登録者となり,本件募集要項で定められた応募条件(本件募集要項「Ⅴ 提案競技の条件」)に適合し所定の応募書類(同「Ⅶ 応募提案書類」)から構成される事業計画を所定の期限までに策定・提出し,審査委員会が所定の方式(同「Ⅳ 審査の方法」)に従って行う審査(本件審査)を経て最優秀提案が選定されるとの手順が予定されていた(同「Ⅱ提案競技の概要」及び「Ⅵ 応募手続及び提案書類の提出等」)。そして,本件提案競技により最優秀提案が選定された場合には(審査の結果,ふさわしい応募提案がなかったときは,最優秀提案が選定されない場合があるとされていた〔同「Ⅳ 審査の方法」2(4)〕。),主催者である被告(交通局)が,最優秀提案に選定された事業計画を提出した応募提案者と協議し,旧車庫用地のうち本件信託土地部分につき,当該応募提案者を受託予定者として,当該事業計画に基づいた内容の信託契約の仮契約及び本契約を別途速やかに締結することが予定されていた(同「Ⅱ 提案競技の概要」の「5 事業の実施方法」及び「Ⅷ 信託契約」)。 イ以上のような本件提案競技の目的及び予定された手続の流れに鑑みると,本件提案競技を主催した被告(交通局)は,本件提案競技が予定どおりに実施され,最優秀提案が選定されたときは,最優秀提案に選定された事業計画を提案した応募提案者との間で,本件募集要項の定めに従い,前記仮契約及び本契約の速やかな締結に向けた独占的な協議・交渉を進める意向を予め各応募提案者に表明していたものと認められる。他方で,原告を含む各応募提案者も,被告(交通局)から配布された本件募集要項の内容を予め検討した上で,自らの判断で本件提案競技に応募す 意向を予め各応募提案者に表明していたものと認められる。他方で,原告を含む各応募提案者も,被告(交通局)から配布された本件募集要項の内容を予め検討した上で,自らの判断で本件提案競技に応募す るのであるから,同様に,自ら提案した事業計画が最優秀提案に選定されたときは,主催者である被告(交通局)との間で,本件募集要項の定めに従い,前記仮契約及び本契約の速やかな締結に向けた独占的な協議・交渉を進めることに予め同意したものと認められる。したがって,被告(交通局)及び原告を含む各応募提案者は,相互に相手方が本件募集要項の定めに従い,前記仮契約及び本契約の速やかな締結に向けた独占的な協議・交渉に応じるであろうとの正当な信頼を抱いていたものと認められる。 ウそして,本件提案競技は,主催者たる被告(交通局)及び各応募提案者双方の上記信頼を基礎としながら,多数の信託銀行等や審査委員会を構成する審査委員らが関与する形で約6か月間にわたって実施されたものであり,その過程において,各関係者が多大な人的・物的資源を投下することが前提とされていた。また,最優秀提案選定後は,被告(交通局)及び最優秀提案に選定された事業計画を提案した応募提案者が,上記仮契約及び本契約の締結に向けた協議並びに最優秀提案に選定された事業計画に基づく事業の開始・遂行に向けた準備行為を進めることが予定されていた。そうであるにもかかわらず,最優秀提案選定後に,被告(交通局)又は当該応募提案者が,一方的に事業の中止・変更を決定したり協議を打ち切って関係を解消したりすることが無条件に許されるとすれば,それまで多大な人的・物的資源を投下し続けてきた他方の利益が著しく損なわれる結果を招きかねないだけでなく,本件提案競技の成果そのものが水泡に帰すことにもなりかねない。これらに鑑みると,被告 すれば,それまで多大な人的・物的資源を投下し続けてきた他方の利益が著しく損なわれる結果を招きかねないだけでなく,本件提案競技の成果そのものが水泡に帰すことにもなりかねない。これらに鑑みると,被告(交通局)及び各応募提案者がそれぞれ他方に抱く上記信頼は,単なる事実上のものにとどまらず,一定の法的保護に値する正当なものというべきである。 そこで,本件提案競技が予定どおり実施され,最優秀提案が選定されるに至ったときは,主催者である被告(交通局)と当該最優秀提案を提案した応募提案者は,他方を相手方とする前記仮契約及び本契約の締結予定者たる地位をそれぞれ取得し,以後,少なくとも,上記信頼について一定の法的保護を受ける一方で,他方に対し 一定の法的義務を負担するという,一定の法的拘束力のある法律関係が両者間に生じるものと解するのが相当である。 エ本件提案競技は,被告(交通局)から本件募集要項の配布を受けた17の信託銀行のうち原告を含む4つの応募提案者が,応募登録後,本件募集要項で定められた条件を満たし所定の応募書類から構成される各自の事業計画を提案し,ヒアリング調査を含む審査委員会による審査(本件審査)が行われた結果,原告が提案した本件提案計画が最優秀提案に選定されており(本件決定),上記アで予定されたとおりの経過をたどるとともに,本件提案競技後に被告(交通局)と原告との間で行われた協議の結果,当事者間で前記仮契約に当たる本件基本協定,次いで前記本契約に当たる本件信託契約が現実に締結されるに至っている(前記1認定事実等(2)・(3))。 オしたがって,これを基本契約と呼ぶかはさておき,本件決定により,原告と被告は,他方を相手方とする前記仮契約及び本契約の締結予定者たる地位をそれぞれ取得するに至り,両者間に一定の法的拘束力のある法 オしたがって,これを基本契約と呼ぶかはさておき,本件決定により,原告と被告は,他方を相手方とする前記仮契約及び本契約の締結予定者たる地位をそれぞれ取得するに至り,両者間に一定の法的拘束力のある法律関係が生じたものと認められる。 そこで,当事者間に生じた法的拘束力の内容について更に検討する。 (3) 法的拘束力の内容についてア本件提案競技後,主催者であり委託予定者でもある被告(交通局)と最優秀提案に選定された事業計画を提案した応募提案者との協議を経て,当該事業計画に従った信託契約の仮契約及び本契約が別途締結される予定であったことは前記のとおりである。 そして,本件提案競技は,各応募提案者が提案した複数の事業計画の中から審査委員会が最も優れたものを選定するという方式であるため,審査委員会が各応募提案者から徴求した根拠資料やヒアリング調査の結果を踏まえつつ,各事業計画を審査・評価することができるにとどまり,本件提案競技の過程において,主催者であり委託予定者である被告(交通局)の意向や要望が,各応募提案者の提案した事業 計画に反映される形で修正・変更されることはそもそも予定されていない。そのため,最優秀提案が,本件募集要項で予め定められた一定の応募条件(「V 提案競技の条件」)に適合した複数の事業計画の中から最も優れたものとして選定されたものであるとはいえ,当該事業計画の具体的内容について委託予定者たる被告(交通局)の意向や要望を反映する余地を確保するべく,本件提案競技後の協議によって当該事業計画の一部を修正・変更する機会が,本件提案競技の方式上当然に予定されていたものと考えられる。 イ実際に,本件提案競技後に原告・被告(交通局)間で行われた協議では,本件信託施設内の多目的スペースであるインテラボ・ホールの増床や,商業施 案競技の方式上当然に予定されていたものと考えられる。 イ実際に,本件提案競技後に原告・被告(交通局)間で行われた協議では,本件信託施設内の多目的スペースであるインテラボ・ホールの増床や,商業施設部分を出店調整にかけることなどが協議事項とされ,その結果を前提として,本件信託施設の構造・設計,事業スケジュール,収支計画等が本件提案計画から修正・変更された本件事業計画が策定され,被告議会の承認を受けるに至っている。上記修正・変更は,被告が主張するような本件提案計画の細目的・技術的事項に関する調整にとどまるものとはいえない。 ウそうすると,本件決定により,被告及び原告が取得した前記仮契約及び本契約の締結予定者たる地位は,前記仮契約(本件基本協定)の締結を経て,最終的に前記本契約(本件信託契約)の締結へと段階的に進行することが予定された一連の協議・交渉過程における中間的・暫定的なものに位置づけられ,その時点で当事者間に生じた法的拘束力の基本的内容は,本件提案計画に基づいた本件信託土地の信託の仮契約及び本契約が速やかに締結できるよう相手方と誠実に協議・交渉すべき義務を相互に負担させるにとどまるものと解するよりほかない。 エ以上に対し,被告は,本件決定時に当事者間に生じた法的拘束力の内容には,原告が本件提案計画に基づく事業を行うこととなった場合は,その計画内容に従い,事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさないこと及び同計画に基づいた一定の経済的利益が被告に与えられ,他方で原告は一定の報酬を受け取ることが含まれていると主張する。 (ア) しかし,本件審査の対象となる事業計画はまさにその時点における計画にすぎないのであって,事業計画を提案して本件提案競技に応募し,これが最優秀提案に選定されたからといって,直ちに応募提案者 (ア) しかし,本件審査の対象となる事業計画はまさにその時点における計画にすぎないのであって,事業計画を提案して本件提案競技に応募し,これが最優秀提案に選定されたからといって,直ちに応募提案者がそこで謳われた結果の実現を引き受けたことになるものではない。 どれだけ慎重に分析・検討を重ねたとしても,経済情勢や市場動向に関するあらゆる変動要因を全て想定し,長期間にわたる大規模な管理運用型土地信託事業の推移を完全に予測することが不可能であることは明らかであり,不動産信託事業の専門家である信託銀行等であっても,当初の事業計画と異なる結果が生じるリスクを完全に排除するよう求めることはできない。とりわけ,本件提案競技において想定されていたような,当初信託財産となる民間施設用地(信託区域内)上にバスターミナル及び待合室を含む民間施設を建設し,第三者に賃貸する方法により収益を上げることを基本枠組みとする事業(本件募集要項「Ⅴ 提案競技の条件」の「4 信託目的」)では,事業計画どおりの収益を上げられない場合や信託財産の価額内にとどまる損失が生じる場合だけでなく,信託財産の価額を上回る損失が生じる場合もあり,そのリスクは大きい。このようなリスクがあること自体は自明であり,かつ,本件提案競技が市有地信託事業の事業計画を審査対象とするものであることや本件募集要項の全記載内容を踏まえても,本件提案競技に応募する以上,応募提案者は自ら提案する事業計画に係る上記リスクを全て引き受けなければならないとの応募条件が提示されたものとは認められない(本件募集要項中「信託期間中に事業に伴う借入金を返済すること」との記載〔「V 提案競技の条件」の「5 信託期間等」〕は,同要項中の記載位置及び表現や前記理財局長通達の内容等に照らすと,提案すべき事業計画が適合すべき応募条件 に事業に伴う借入金を返済すること」との記載〔「V 提案競技の条件」の「5 信託期間等」〕は,同要項中の記載位置及び表現や前記理財局長通達の内容等に照らすと,提案すべき事業計画が適合すべき応募条件を定めたものと解するよりほかなく,この記載をもって応募提案者が上記リスクを全て引き受けなければならないことを定めたものと認めることはできない。)。 したがって,原告を含む各応募提案者が,本件提案競技は市有地信託事業の事業計画を審査対象とするものであることを認識するとともに,本件募集要項に内容を 予め検討した上で,前記応募申込書(乙4)を提出して本件提案競技に応募したからといって,自ら提案する事業計画に係る上記リスクを全て引き受けることを了承したものと認めることはできない。 また,原告が提出した本件提案計画やヒアリング回答書(乙6)の記載内容を精査しても,自社の評価・意見を交えながら本件提案計画の内容・根拠等を説明し,自社の提案の特徴や優位性をアピールしているにとどまり,本件提案計画に内在する事業リスクは全て自社で負担するとの意向を表明したととらえることはできない。 (イ) また,本件決定後に当事者間で締結された本件基本協定(仮契約)及び本件信託契約(本契約)のいずれの内容を精査しても,被告主張の本件基本契約の内容が当事者間で改めて確認されており,あるいはその内容を前提としているとは認められない。すなわち,本件信託契約に係る本件契約書は,「信託事業の目標」を定めた第4条において,本件事業計画に基づいて本件信託事業を遂行することが定められているものの,原告が本件信託事業の実績を離れて同計画どおりの事業配当を被告に受けさせるものとはされておらず,信託勘定の計算や信託配当額は本件信託事業の実績に応じて決せられることを前提とする定めにより構成 ものの,原告が本件信託事業の実績を離れて同計画どおりの事業配当を被告に受けさせるものとはされておらず,信託勘定の計算や信託配当額は本件信託事業の実績に応じて決せられることを前提とする定めにより構成されている(本件信託契約33条ほか)。また,借入金債務等を含む信託事務処理費用についても,本件信託施設竣工時までの借入限度額や借入れ及び弁済の方法等と併せて被告との協議を要する旨の定めが置かれており(23,24,28,29条),当事者間で被告に借入金債務の負担がおよそ生じないものとはされていない。この点は,本件契約書の条項の確定経過(前記1認定事実等(3)キ)を考慮して検討しても同様である。 前記のとおり,当事者が本件決定により取得する前記仮契約及び本契約締結予定者たる地位は,後続する仮契約の締結を経て,本契約の締結に至る一連の協議・交渉過程における中間的・暫定的なものとして位置づけられるものであるから,その時点で生じる法的拘束力が,本件信託契約において定められた内容とは別に存在し,本件信託契約を補完する役割を果たし,あるいは本件信託契約の内容を変容させるものとは考えられない。 (ウ) そして他に,本件決定により当事者間に生じた法的拘束力の内容に被告主張の内容(原告が本件提案計画に基づく事業を遂行することとなった場合は,その計画内容に従い,事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさないこと及び同計画に基づいた一定の経済的利益が被告に与えられ,他方で原告は一定の報酬を受け取ること)が含まれることを基礎付ける事情を認めるに足りる証拠はない。 (4) 小括以上によれば,本件決定時に,旧車庫用地における信託事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさない旨の合意を含む基本契約(あるいは法律関係)が原告と被告間で成立したとは認 。 (4) 小括以上によれば,本件決定時に,旧車庫用地における信託事業の結果として被告に借入金債務等の負担を及ぼさない旨の合意を含む基本契約(あるいは法律関係)が原告と被告間で成立したとは認められない(争点3(1))。 また,本件決定時に,被告が本件提案計画に基づいた一定の経済的利益を与えられる旨の合意を含む基本契約(あるいは法律関係)が当事者間で成立したとも認められない(争点3(2))。 5 争点4(本件排除合意の成否)について(1) 緒論旧信託法下における受託者の受益者に対する補償請求権は,同法36条2項本文に基づいて付与されるものであり,同法が定めるところに従って受託者が当然に行使することができる法定の権利である。もっとも,この権利が信託の本質から当然に導かれるべき要素たるものとは解されないから,同条は任意規定であり,信託行為等において別段の定めがある場合には,同権利を排除しあるいは制限することが可能であり,かつ,そのような定めをするに当たって書面によらなければならない等特段の方式は要求されず,明示の合意によるだけでなく,黙示の合意によることもできるものと解される。 そこで,本件信託契約において被告が主張する本件排除合意(旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を排除する旨の合意)が当事者間で成立したかどうかを判断するに当たっては,契約解釈の一般的準則に従い,本件契約書の条項のほか,本件信託契約の趣旨・目的,契約締結に至る当事者間の協議・交渉経過,当事者の 属性及び合理的意思その他本件信託契約に関して認められる個別具体的な諸事情を総合的に勘案して判断すべきである(この限度において,原告が提出する能見善久教授の法律意見書〔甲152〕が述べるところと被告が提出する潮見佳男教授の法律意見書〔乙77〕が述べるとこ 具体的な諸事情を総合的に勘案して判断すべきである(この限度において,原告が提出する能見善久教授の法律意見書〔甲152〕が述べるところと被告が提出する潮見佳男教授の法律意見書〔乙77〕が述べるところに差異はなく,両者は本件排除合意の成否の認定をめぐる指針及び重視する考慮要素が異なるにとどまる。)。 (2) 本件契約書の条項についてア本件信託契約は,普通地方公共団体である被告が委託者兼受益者となり,市有地である本件信託土地において大規模な管理運用型土地信託事業を最長30年間もの長期にわたって行うことを信託銀行である原告に委託するものである。そして,本件信託契約の締結に当たっては,本件提案競技から同契約締結に至るまでの当事者間の協議・交渉の全経過を踏まえた本件契約書が作成されている。このような場合,本件信託契約における当事者間における最終的な合意内容は,本件契約書において明記されているのが通常であるから,本件排除合意の成否を判断するに当たり,本件契約書の定めは最も重視されるべき判断資料というべきである。 イ本件契約書で定められた条項は,別紙5記載のとおりであり,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を排除する旨を文言上明確に定めた条項は存在しないのみならず,旧信託法36条1項に基づく補償請求権の行使方法について定めた条項(45条)が設けられている一方で,同条2項本文に基づく補償請求権について何らかの言及をした条項もない。このような場合,同権利に関しては,当事者間で何ら合意が成立していないか,あるいは旧信託法が定めるデフォルト・ルールに従う旨の合意があったものと考えるのが最も自然かつ素直な解釈であり,上記条項の欠如をもって,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を排除する旨の合意の存在を積極的に認定するのは,契約の文言解釈として う旨の合意があったものと考えるのが最も自然かつ素直な解釈であり,上記条項の欠如をもって,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を排除する旨の合意の存在を積極的に認定するのは,契約の文言解釈としてやや無理がある。 また,信託財産に属する金銭が信託事務処理費用等の支払に不足する場合や信託終了時に借入金債務が残存する場合の処理方法につき,当事者間で事前に協議するとの条項(24条,42条2項3号)は,信託事務の処理に当たって原告が負担し た費用については,最終的に被告がこれを負担する義務を負っていることを前提に,その具体的な処理の方針等について当事者間で協議する機会を設けるべきことを定めたものと解することが一般的な理解になじむものといえる。 ウもっとも,本件契約書の条項全般を俯瞰すると,旧信託法36条1項に基づく補償請求権の行使方法に関する前記条項(45条)のほか,必要資金の借入れ,信託財産に属する金銭が信託事務処理費用等の支払に不足する場合の処理方法,信託終了時に残存した借入金債務等の処理,本件信託施設の設計・監理及び施工に関する主な事項,同施設の竣工時期の変更や大規模修繕等について,いずれも原告が被告と事前に協議することが定められており(28条4項,24条,42条2項3号,8条5項,11条,13条3号ただし書ほか),また,本件信託施設の建設に関わる請負業者の選定,テナントの募集・選定や賃貸条件の設定,信託財産に属する金銭やテナントから受領した敷金等の運用結果等について,原告が被告に対し事前又は事後に報告ないし通知をすることが定められている(8条4項,14条1項,30条3項,31条)。このように,受託者である原告が本件信託事業の遂行過程で一定の重要な行為をする場合には,委託者兼受益者である被告との協議や被告への報告又は通知とい いる(8条4項,14条1項,30条3項,31条)。このように,受託者である原告が本件信託事業の遂行過程で一定の重要な行為をする場合には,委託者兼受益者である被告との協議や被告への報告又は通知といった手続・方法が個別具体的に定められているにもかかわらず,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権について同旨の定めがないことを重視すれば,被告が主張するように,被告としては同権利が行使される局面をおよそ想定していなかったと認める余地がある。 また,信託事務処理費用の借入れは,信託財産の負担で行い(28条1項),同費用,原告が信託事務を処理するために過失なくして受けた損害の補償金及び信託報酬は信託財産から支弁するとされる(23条,25条)とともに,旧信託法36条1項に基づく補償請求権については,原告がこれを行使できることを前提として,その行使方法が定められている(45条)のに対し,信託財産に属する金銭が同費用等の支払に不足する場合や信託終了時に借入金債務等が残存した場合の処理については,当事者間で協議すると定められているにとどまり,被告がこれを固有財産 (一般財源)により負担・支弁すべきものとは明示されていない(このような場合における処理方法は,必ずしも被告の固有財産〔一般財源〕による負担・支弁に限定されない。)。このように,信託事務処理費用等に関し,信託財産による負担・支弁に関する条項のみが明確に定められており,被告の一般財源による負担・支弁について言明した条項が見当たらないことを重視すれば,被告が主張するように,委託者兼受益者である被告は,信託事務処理費用等を信託財産において負担・支弁することのみを容認し,同費用等を被告の固有財産(一般財源)において別途負担・支弁することは容認していないものと解釈する余地もある。 このような解釈 ,信託事務処理費用等を信託財産において負担・支弁することのみを容認し,同費用等を被告の固有財産(一般財源)において別途負担・支弁することは容認していないものと解釈する余地もある。 このような解釈は,前記イの解釈と比べれば,本件契約書との親和性は相対的に低いといわざるを得ないものの,本件契約書の解釈としておよそ採り得ないものともいえない。 エ以上の検討によれば,本件契約書の定めは,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権に関しては,当事者間で何ら合意が成立していないか,あるいは旧信託法が定めるデフォルト・ルールに従う旨の合意があったとの解釈とより強い親和性があり,本件排除合意の存在を積極的に認定するのはやや無理があるものの,かかる解釈をおよそ排除するほど明確なものとまではいえない。 そこで,このような本件契約書の条項が確定されるに至った当事者間の協議・交渉の経過等について更に進んで検討する。 (3) 当事者間の協議・交渉経過についてア本件契約書の条項が確定されるに至った経過は,前記1の認定事実等(3)キ(ア)及び(イ)のとおりであり,旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権については,契約書検討会に先立って被告(交通局)がたたき台として作成・提示した交通局原案にも,これを受けて原告が作成・提示した原告原案にも,同権利に関して定めた条項は設けられていなかっただけでなく,被告(交通局)又は原告のいずれからも,同権利について何らかの言及がされることが1度もないまま,本件契約書の条項確定作業が終了している。 イもっとも,交通局原案は,本件信託事業に係る信託事務処理費用等に関し,①同費用の借入れは,償還方法,借入先,金額,利率等について被告とあらかじめ協議した上で信託財産の負担において行い(27条),②同費用及び原告が信託 案は,本件信託事業に係る信託事務処理費用等に関し,①同費用の借入れは,償還方法,借入先,金額,利率等について被告とあらかじめ協議した上で信託財産の負担において行い(27条),②同費用及び原告が信託事務を処理するに当たって過失なく受けた損害について被告が認めた金額の補償金は信託財産から支弁する(23条)としつつ,③信託財産に属する金銭が同費用等の支払に不足する場合や④信託終了時に借入金債務等が残存する場合は,いずれも被告とあらかじめ協議して処理することとし(24条,41条2項3号),⑤旧信託法36条1項に基づく信託財産に対する補償請求権を原告が行使しようとする場合は,被告の事前の承認を要すると定める(44条)一方で,⑥旧信託法36条2項本文に基づく受益者に対する補償請求権に関する条項は設けないというものである。このような交通局原案が,公有地信託制度が地方自治法等の改正により導入されて間もないものであり,前記の公有財産の有効活用等に関する調査研究会による報告書,自治事務次官通知,行政課長通達及び大蔵省理財局長通達においてそれぞれ指摘されていた留意事項(前記1認定事実等(1)ア)並びに地方公共団体の債務負担行為一般について予算に計上して議会の議決を得ることを定めた地方自治法の定め(同法96条1項2号,214条)などを踏まえつつ,旧郵政省作成の前記土地信託契約書案や被告が先行して進めていた市有地信託事業に係る各土地信託契約書などを参考にして作成されたものであることに照らすと,交通局原案からは,被告(交通局)内部で明示的・具体的に検討されていたかどうかはともかく,本件信託事業に係る信託事務処理費用等を信託財産において負担・支弁することについては一定の制限を加えつつも容認する一方で,同費用等を被告の一般財源において別途負担・支弁することは容認し はともかく,本件信託事業に係る信託事務処理費用等を信託財産において負担・支弁することについては一定の制限を加えつつも容認する一方で,同費用等を被告の一般財源において別途負担・支弁することは容認しないとの被告(交通局)の方針がうかがわれないではない。また,契約書検討会の第1回会議で用いられた交通局作成の前記比較対照資料において,交通局原案44条が記載された箇所の右側に旧信託法36条の条文全文が並べて掲げられていたことも,被告(交通局)の上記方針の表れとみることもできないではない。 そして,本件信託事業に係る信託事務処理費用等に関する条項のうち,原告が交通局原案を争い,契約書検討会における協議・交渉の結果,修正・変更されるに至った主なものは,上記②の損害補償金に関する条項(原告建設室は,補償金額を被告が認めた金額に限定しないことを主張し,これに沿う条項が採用された。)と上記⑤の補償請求権に関する条項(原告は,同権利の行使自体に被告の事前の承認を要するものとはしないことを主張し,同権利の行使自体に被告の事前の承認は要さず,事前に被告と協議することとするとの折衷的な条項が採用された。)のみであり,その余の条項については,原告が当初から特に争わず,又は被告(交通局)との若干の協議・交渉の結果,交通局原案と同旨の条項が採用されるに至っている(別紙12参照)。 ウしかし,仮に,被告(交通局)が上記方針を有していたとしても,旧郵政省作成の前記土地信託契約書(第4号様式)は,その内容・作成時期等に照らすと,前記大蔵省理財局長通達に沿って作成されたものと考えられるところ,同通達には,信託事務処理費用及び信託報酬を信託財産から支弁することや受託者が旧信託法36条1項に基づく補償請求権を行使しようとする場合には国の承認を要することを信託契約 たものと考えられるところ,同通達には,信託事務処理費用及び信託報酬を信託財産から支弁することや受託者が旧信託法36条1項に基づく補償請求権を行使しようとする場合には国の承認を要することを信託契約書において明記するよう促す一方で,これらを明記することが,信託財産の不足又は換価困難な場合における旧信託法36条2項本文に基づく受託者の補償請求権を認めない趣旨ではないことに留意を要すると注記されていたから,上記土地信託契約書(第4号様式)を参考にしつつ,これとほぼ同様の条項で構成された交通局原案や旧信託法36条の条文全文が並べて掲げられた前記対照資料を提示されたからといって,被告(交通局)が示唆・言及しないにもかかわらず,原告が被告(交通局)の前記方針を当然に認識し,あるいは認識すべきであったとはいい難い。また,前記のとおり,旧信託法下における受託者の受益者に対する補償請求権は,同法36条2項本文に基づいて付与される法定の権利であって,信託行為等によりこれを制限し又は排除する別段の定めがされた場合などを除き,同法の定めるところに従って受託者が当然に行使することができるものであるから,原告が同権 利を有するかやこれをいかなる方法・手続により行使できるかにつき,被告(交通局)から特に言及されていないにもかかわらず,原告が自らこれを協議事項として契約書検討会の俎上に載せるべきであったとはいえない。このことは,信託事務処理費用等を普通地方公共団体の固有財産(一般財源)により負担・支弁するためには新たな予算措置を講ずる必要があることなど,公有地信託が民間の土地信託とは異なる側面を有していることを信託銀行である原告が熟知していたとしても,また,本件提案競技及び本件基本協定が先行していることや,前記のように,交通局原案において,本件信託事業に係る 間の土地信託とは異なる側面を有していることを信託銀行である原告が熟知していたとしても,また,本件提案競技及び本件基本協定が先行していることや,前記のように,交通局原案において,本件信託事業に係る信託事務処理費用等を信託財産により負担・支弁する場合のほか,本件信託事業の遂行過程で受託者たる原告が行う一定の重要な行為(前記(2)ウ)をする場合につき,被告(交通局)との事前協議や事前又は事後の報告ないし通知を求める交通局の態度が示されていたことを考慮しても変わるものではない。 また,本件信託事業の結果として,被告が事業配当を受けることはあっても,予想外の債務負担を余儀なくされるような事態は断じてあってはならないことが,当事者間における当然の共通認識となっていたとの被告主張に係る具体的事実を認めるに足りる証拠はない。 そうすると,仮に,被告(交通局)において信託事務処理費用等を被告の一般財源において別途負担・支弁しないとの方針を有していたとしても,結局のところ,本件契約書の条項をめぐる被告(交通局)との協議・交渉過程において,原告は,本件信託事業に係る信託事務処理費用等の固有財産(一般財源)による負担・支弁を委託者兼受益者たる被告に求めるかどうかについては,何ら態度を表明しなかったというほかなく,原告が同費用等について信託財産による負担・支弁とは別に被告の固有財産(一般財源)による負担・支弁を求めないとの意向・態度を表明し,あるいは,被告の上記方針を受容したものとは認められない。 (4) その余の事情についてア本件信託は,営利追求型の自益信託の一種であり,受託者たる原告は,あく までも委託者兼受益者である被告のために信託事務の処理として本件信託事業を遂行するものであるが,そのことから直ちに,委託者兼受益者である被告が,信託財 託の一種であり,受託者たる原告は,あく までも委託者兼受益者である被告のために信託事務の処理として本件信託事業を遂行するものであるが,そのことから直ちに,委託者兼受益者である被告が,信託財産の価額の範囲内におけるリスクにとどまらず,その範囲を超えるリスクも無制限かつ当然に負担すべきであるとの帰結が論理的に導かれるわけではない。また,市有地たる本件信託土地を当初信託財産とする本件信託が民間の土地信託とは異なる側面を有していることのほか,被告(交通局)が交通事業の経営改善を目的として本件信託を設定したことなどに照らせば,受益者たる被告(交通局)が信託財産の価額を超える費用をも負担することにつながりかねない旧信託法36条2項本文に基づく補償請求権を制限・排除する本件排除合意(あるいは,本件信託事業に係る信託事務処理費用等につき,原告が被告に信託財産以外による負担・支弁をおよそ求めない旨の合意)は,必ずしも不合理なものではない。しかし,それ以上に本件排除合意をすることが当事者双方にとって当然であるかあるいは通常であるとまでは認められない以上,本件排除合意の内容が合理的であるかどうかは,本件排除合意の成否の判断を決定づけるものではない。 イそのほか,当事者間に本件排除合意が成立したと積極的に推認・評価できる事情は認められない。 (5) 小括以上のとおり,結局,当事者間に本件排除合意が成立したと認めるに足りる証拠はないというよりほかない。したがって,本件信託契約締結前後における被告幹部職員の議会における発言・答弁の趣旨,本件覚書(平成14年12月24日付け「土地信託に関する覚書」)が取り交わされるに至った経過及び同覚書の趣旨・内容並びに甲土地開発プロジェクトにおける被告の対応等について検討するまでもなく,本件排除合意は認められな 年12月24日付け「土地信託に関する覚書」)が取り交わされるに至った経過及び同覚書の趣旨・内容並びに甲土地開発プロジェクトにおける被告の対応等について検討するまでもなく,本件排除合意は認められない。 6 争点5(相殺の抗弁)について(1) 争点5(1)(安全性・安定性に配慮した事業計画を提案する義務の違反〔責任原因1〕)及び同(2)(事業計画の内容等を正確に説明する義務の違反〔責任 原因2〕)についてア応募提案者の義務について(ア) 実現可能性に配慮した事業計画の提案義務本件提案競技の目的・方式は,前記4(2)アのとおりであり,応募提案者は,被告(交通局)から配布された本件募集要項の内容を予め検討した上で,自らの判断で本件提案競技に応募するのであるから,本件募集要項の定めるところに従って本件提案競技に応募しなければならない。そして,本件募集要項において明示された本件提案競技の趣旨(「Ⅰ 提案競技の趣旨」)及び審査方法(「Ⅳ 審査の方法」)のほか,応募資格者が信託銀行等(日本国内における土地信託事業の受託実績のある信託銀行又はその連合体)に限定されるとともに(「Ⅲ 応募者の資格等」の「1 応募者の資格」),応募条件が具体的に定められているだけでなく(「Ⅴ 提案競技の条件」),収支計画における各前提条件やその根拠・算出過程に関する資料等を含む多数の応募書類から構成される相当詳細かつ具体的な事業計画の提案が求められていた(「Ⅶ 応募提案書類」)ことに照らすと,応募提案者は,本件募集要項において定められた応募条件に適合することはもとより,その実現可能性に配慮し,本件提案競技当時における一般の信託銀行等に求められる水準による合理的な根拠及び将来予測に基づいた事業計画を提案する義務を負っていたものというべきである。 もっ はもとより,その実現可能性に配慮し,本件提案競技当時における一般の信託銀行等に求められる水準による合理的な根拠及び将来予測に基づいた事業計画を提案する義務を負っていたものというべきである。 もっとも,いかに信託銀行等であっても,最長30年間もの長期間に及ぶ大規模な管理運用型土地信託事業において,事業計画と異なる結果が生じるリスクを完全に排除することは不可能であることに加え,あくまで一受託候補者にすぎない応募提案者に,本件提案競技の限られた応募期間内において,そのまま実行に移すことができるほど詳細かつ確度の高い事業計画の提案を要求することは時間・労力・費用のいずれの面からも現実的ではなく,最優秀提案選定後に信託の基本事項や事業計画の詳細について被告(交通局)と協議することが予定されていたこと(本件募集要項中「Ⅷ 信託契約」)などに照らせば,応募提案者が果たすべき上記義務の程度は,その時間・労力・費用等の負担を一切問わない無制限のものではなく,本件 提案競技の目的・方式等に照らして,当時の一般の信託銀行等である応募提案者に求めることが現実的かつ相当であると認められる限度にとどまると解するのが相当である。また,事業一般において収益性の追求と安全性・安定性の確保とは通常トレードオフの関係にあることに加え,本件提案競技では周辺地域の振興と活性化という公共性・公益性をも兼ね備えた事業が求められているところ,いかなる要素により重点を置いた事業計画を提案するかは,各応募提案者が自らの判断により決定すべき事項であるとともに,提案された複数の事業計画の中からいかなる要素により重点を置いて最優秀提案を選定するか(あるいは,いずれも最優秀提案に選定しないか)は,本件提案競技の主催者であり委託予定者である被告(交通局・審査委員会)が本件審査を通じて決 からいかなる要素により重点を置いて最優秀提案を選定するか(あるいは,いずれも最優秀提案に選定しないか)は,本件提案競技の主催者であり委託予定者である被告(交通局・審査委員会)が本件審査を通じて決定すべき事項である。このことからすれば,応募提案者は,事業計画の安全性・安定性の確保,ひいては実現可能性のみを殊更追求することが求められるわけではなく,収益性の追求や公共性・公益性といった他の要素との調和を図りながら,実現可能性にも十分配慮することが求められるにとどまるものと解するのが相当である。 被告が争点5(1)において主張する提案義務は,上記の限度において認められるものというべきである。 (イ) 説明・情報提供義務本件募集要項で定められた本件審査の方法(同「Ⅳ 審査の方法」)に照らせば,応募提案者は,審査委員会が誤った情報や誤解に基づいて本件審査を行うことを防止するため,自ら提案する事業計画がいかなる根拠と将来予測に基づいて策定されたものであるかにつき,提案する事業計画中において正確に説明・情報提供をするとともに,審査委員会から説明や根拠資料の補充を求められたときは,これに誠実に対応すべき義務を負っていたものというべきである。 もっとも,本件提案競技は,応募提案者の立場からみると,自ら提案した事業計画の魅力や特徴,他の応募提案者が提案する事業計画に対する優位性等を主催者である被告(交通局・審査委員会)に売り込み,最優秀提案に選定されることを目指 すものであるから,応募提案者から提供される根拠資料がその提案する事業計画に親和的・整合的なものに偏っていたり,当該応募提案者が提示する評価・意見や将来予測が第三者によるものよりも楽観的であったりすることは無理からぬところである。そして,そうであるからこそ,審査委員会は,各種の専門的 的なものに偏っていたり,当該応募提案者が提示する評価・意見や将来予測が第三者によるものよりも楽観的であったりすることは無理からぬところである。そして,そうであるからこそ,審査委員会は,各種の専門的知見を有する外部の学識経験者5人に被告幹部職員6人を加えた11人の審査委員により構成され,上記事情により各応募提案者の説明(情報提供)だけでは客観性・中立性が必ずしも担保されないものであることは当然織り込みつつ,必要に応じて各応募提案者に説明や根拠資料の補充を求めながら,各応募提案者が提案した事業計画を様々な観点から厳正に比較・検討して本件審査を行うものとされているのであるから,応募提案者から虚偽にわたるような説明や情報提供がされない限り,そのような本件審査の過程が歪められることはない。これらの点に鑑みると,応募提案者が負担する上記義務は,審査委員会がおよそ了知し得ないような性質の事項でない限り,中立的な第三者の立場から,自ら提案した事業計画に内在する事業リスクや短所をあえて積極的に告知・説明したり,事業計画の策定に当たって収集・検討したあらゆる資料を積極的に全て開示して説明・情報提供することまで含むものではないと解するのが相当である。 被告が争点5(2)において主張する説明義務(情報提供義務)は,上記の限度において認められるものというべきである。 イ義務違反の存否について(ア) 提案義務の違反(責任原因1)について被告は,原告が提案した本件提案計画は通常予測される景気変動すら無視し安全性・安定性への配慮を欠いた実現性の乏しいものであったとし,実現可能性に配慮した事業計画を提案する義務に違反するものであったと主張する。 たしかに,本件信託事業の実績(乙39の1ないし15等)によれば,本件提案計画に係る収支計画の前提条件において設定 し,実現可能性に配慮した事業計画を提案する義務に違反するものであったと主張する。 たしかに,本件信託事業の実績(乙39の1ないし15等)によれば,本件提案計画に係る収支計画の前提条件において設定された賃貸条件で本件信託施設の各テナントを誘致できなかったことが主たる要因となり,本件信託事業の収支実績が本 件提案計画に係る収支計画から著しく乖離したものとなったことが認められる。 しかし,本件提案競技後に徐々に顕在化したバブル経済の崩壊を端緒とする日本経済の長期的低迷,これに伴う不動産市況・テナント需要の急激な落ち込み(甲9,26ないし30,32,68ないし70等),本件信託事業と密接な連関性・相乗効果を発揮することが期待された南港開発事業の不調(甲5,8,31,41ないし46等),被告(交通局)の求めにより事後的に実施が決定された本件信託施設の商業施設部分の商業調整(前記1認定事実等(3)ウ)など,本件信託事業に重大な影響を与えたものと認められる複数の阻害要因は,いずれも,その性質上,原告が本件提案計画を提案した平成2年3月時点において予測することが不可能ないし著しく困難であったことが明らかであることに鑑みると,本件信託事業の上記結果から直ちに,本件提案計画が,本件提案競技の目的・方式に照らして,当時の一般の信託銀行等に求められる水準による合理的な根拠及び将来予測に基づいたものではなかったと即断することはできない。 また,本件信託施設のキーテナントとしてホテル事業者と卸売業者を誘致するとの基本構想,設定された各テナントに対する賃貸条件,その他本件提案計画を構成する個々の要素に着目してみても,本件提案競技当時の一般の信託銀行等に求められる水準による合理的な根拠及び将来予測に基づくものではなかったことを認めるに足りる証拠はない。 その他本件提案計画を構成する個々の要素に着目してみても,本件提案競技当時の一般の信託銀行等に求められる水準による合理的な根拠及び将来予測に基づくものではなかったことを認めるに足りる証拠はない。 なお,他の応募提案者が提案した事業計画は,その基本構想・内容・規模等が本件提案計画のものと全く異なるものであるから,前者に係る収支計画の前提条件が本件提案計画に係る収支計画の前提条件の合理性に関する一判断資料にはなり得るとしても,前者との比較により後者の合理性について即断することはできない。また,他の各応募提案者が事後的に行った本件提案計画の分析・評価をもって,本件提案計画が本件提案競技時における一般の信託銀行等に求められる水準による合理的な根拠及び将来予測に基づいていなかったということもできない。 かえって,原告は,本件提案計画の策定に当たって,収集・分析した参考事例や 各種統計資料等の数多くのデータを参照しながら,収支シミュレーションを繰り返し行った上で収支計画を策定しており,また,テナントの出店予測に関しても,多数のテナント候補者に対するヒアリング調査や出店の打診・要請を行い,相応の好感触を得るとともに,K社をはじめとする7社から各社名義の出店要望書ないし出店申込書を取り付けていたこと(前記1認定事実等(2)ウ(ウ))や,各種の専門的知見を有する外部の学識経験者らによって構成された審査委員会が,本件審査において,各応募提案者が提案した4つの事業計画(収支計画における前提条件の根拠資料や各応募提案者が提出したヒアリング調査に対する回答書を含む。)の内容につき,物的側面・経営的側面から見た比較・検討を重ねた結果,他の応募提案(事業計画)と比べて非常に収益性に優れており,かつ,重大な問題点が最も少ないものと評価・判断して本件提案計画 含む。)の内容につき,物的側面・経営的側面から見た比較・検討を重ねた結果,他の応募提案(事業計画)と比べて非常に収益性に優れており,かつ,重大な問題点が最も少ないものと評価・判断して本件提案計画を最優秀提案に選定したこと(同(2)エ)などに鑑みると,本件提案計画に係る収支計画の前提条件の設定・算出の根拠とされた資料や将来予測は,本件提案競技の目的・方式等に照らし,当時の一般の信託銀行等に求められる水準に達したものであったことがうかがわれるというべきである。 したがって,本件提案計画が一般の信託銀行等に求められる水準による合理的な根拠及び将来予測に基づくものではなかったとは認められず,原告に上記ア(ア)の提案義務の違反は認められない。 (イ) 説明・情報提供義務の違反(責任原因2)について被告は,本件提案計画に係る事業計画概要書(乙5の1),資金計画書・収支計画書・管理運営計画書(乙5の3)及びヒアリング回答書(乙6)の各記載をもって,原告があたかも本件提案計画が安全性・安定性に配慮した実現性・確実性の高いものであるかのように装ったとし,説明・情報提供義務に違反したと主張する。 しかし,上記各書面では,旧車庫用地におけるビジネスホテルや会員制卸売店舗(ニュー卸メンバーショップ)の成立可能性,テナント候補者の出店見込み,テナントへの賃貸条件等に関する原告の強気な展望が随所に述べられているものの,原告がその中で摘示した事実や提示した根拠資料に虚偽のものが含まれていたとは認 められず,他に,原告が上記ア(イ)の説明・情報提供義務に違反したと認めるに足りる証拠はない。 かえって,原告は,前記1認定事実等(2)ウ及びエ(ウ)のとおり,本件提案計画に係る収支計画におけるテナントへの賃貸条件その他の収支の前提条件につき,主要な根拠とし と認めるに足りる証拠はない。 かえって,原告は,前記1認定事実等(2)ウ及びエ(ウ)のとおり,本件提案計画に係る収支計画におけるテナントへの賃貸条件その他の収支の前提条件につき,主要な根拠としたデータ等及び算出過程が項目ごとに説明された詳細な資料を明示するとともに,審査委員会によるヒアリング調査に対しても,テナント候補者との折衝状況その他当時存在した事実に基づいた回答をしていたのであり,上記ア(イ)の説明・情報提供義務を尽くしたことが認められる。 したがって,原告が上記ア(イ)の説明・情報提供義務に違反したとは認められない。 (2) 争点5(3)(事業を遂行するための準備行為を速やかに行う義務の違反〔責任原因3〕)についてアリーシングに関する原告の義務について(ア) 受託者としての義務について受託者である原告は,本件信託契約により,委託者兼受益者である被告に対し善管注意義務を負うところ(旧信託法20条,本件信託契約16条),本件信託は,当初信託財産である本件信託土地上に,賃貸することを目的として本件信託施設を信託財産として建設し,本件信託財産を管理運用することを目的とし(本件信託契約3条),本件事業計画に基づいて本件信託土地を有効活用し,被告(交通局)の交通事業経営の安定と本件信託土地を含む地域の振興・発展に資することを目標とするものであり(同4条),本件信託契約の締結と同時に本件信託土地の所有権が原告に信託譲渡されるとともに(同6条),本件信託事業のスケジュールにつき,平成3年10月までに本件信託施設の実施設計を完了し,平成4年4月に本件信託施設の建設工事に着工し(本件事業計画「事業工程の概要」〔20頁〕),平成7年2月28日までに本件信託施設を竣工し,その翌月中に本件信託施設を開業させることが予定されていたこと(同 年4月に本件信託施設の建設工事に着工し(本件事業計画「事業工程の概要」〔20頁〕),平成7年2月28日までに本件信託施設を竣工し,その翌月中に本件信託施設を開業させることが予定されていたこと(同11条本文)からすれば,原告は,本件信託契約締結後は,受託事務の一内容として,本件信託施設を竣工後速やかにかつ円滑に開業できるよう にするため,本件信託施設の竣工時までに可能な限り多くのテナントを有利な条件で確保するべく,テナント候補者に対するリーシングに適時に取り組む義務を負うものと解するのが相当である。 もっとも,本件信託事業は段階的に進行していくものであり,本件信託契約締結直後は,本件信託施設の実施設計すら完了していない段階であることや,その時点で約4年後である本件信託施設開業時の経済情勢等を正確に予測して適正な賃貸条件等を確定させることは困難であることなどに鑑みると,原告の上記義務は,本件信託事業の進行段階やテナントの種類を問わず,早急に予約契約や賃貸借契約を締結してテナント候補者を確保することまで求めるものではなく,本件信託事業の進行段階(本件信託施設の実施設計完成前,建設業者選定前,建設着工前等)やテナントの種類(キーテナントかどうかや,特別の設計・仕様を要するか等)に応じて,テナント候補者へのヒアリング調査や出店の打診・要請,条件交渉や根回し等の事実上の行為,覚書の取り交わしや予約契約といった段階を踏みながら適時に履行されるべきものというべきである。 (イ) 受託予定者としての義務について本件信託契約以前においては,原告は,受託予定者としての地位を有するにすぎず,受託者としての地位ないし権利義務を確定的に取得しておらず,被告(交通局)との協議結果により事業計画が修正・変更される可能性はもとより,被告議会の予算承認が 受託予定者としての地位を有するにすぎず,受託者としての地位ないし権利義務を確定的に取得しておらず,被告(交通局)との協議結果により事業計画が修正・変更される可能性はもとより,被告議会の予算承認が得られないことにより,仮契約ないし本契約(信託契約)の締結に至らない可能性も残されている。そのような段階において,受託予定者にすぎない原告に対し,本件信託契約締結後と同様に本格的なリーシングに取り組み,法的拘束力を伴う予約契約や賃貸借契約を締結してテナントを確保すべき義務を課すことはできない。もっとも,少なくとも本件基本協定(仮契約)締結後は,被告議会による予算承認が得られないなどの事態が生じない限り,速やかに信託契約(本契約)が締結される公算が高いことを前提として(本件基本協定1,3条参照),当事者双方がそのための準備行為や他方との協議・交渉を進めており,また,本件募集要項でも, 信託契約締結後は受託者が速やかに事業に着手すべきものとされていた(「Ⅷ 信託契約」の「2 信託契約の締結」)。これらの点に照らすと,受託予定者たる原告は,信託契約(本契約)締結後は本格的なリーシングに円滑に移行できるようにするため,予めテナント候補者を開拓・選定し,テナント候補者へのヒアリング調査や出店の打診・要請,条件交渉や根回し等の事実上の行為を可能な範囲内で進める義務があるものと解するのが相当である。 (ウ) 本件提案計画の収支構造との関係について被告は,本件信託施設のテナントから高額の受入敷金・賃料収入を得て本件信託施設の建設工事費等のための借入金の返済に充てるとの本件提案計画の収支構造によれば,本件信託施設開業時までに同計画で設定された賃貸条件でテナントを確保できている必要性が高かったことを主たる根拠として,原告が本件決定後速やかにテナント候 に充てるとの本件提案計画の収支構造によれば,本件信託施設開業時までに同計画で設定された賃貸条件でテナントを確保できている必要性が高かったことを主たる根拠として,原告が本件決定後速やかにテナント候補者に対するリーシングに取り組み,賃貸借予約契約等を締結する義務があったと主張する。 しかし,上記(ア)及び(イ)で説示した事情を考慮すれば,原告が本件決定後直ちにテナント候補者へのリーシングを開始したとしても,その時点で行い得る具体的活動には自ずと限界があるから,上記必要性を理由として,加重ないし前倒しされた受託予定者ないし受託者としての義務を負担するものと解することはできない。 イ義務違反の存否について(ア) 被告は,原告が,本件決定後に本件提案競技時に挙げていたテナント候補者(I社を除く。)との具体的交渉を開始せず,また,本件基本協定締結以降も,具体的なリーシングを進めなかったとし,事業を遂行するための準備行為(リーシング)を速やかに行う義務に違反したと主張する。 (イ) しかし,証拠(甲10,11,25,67,71ないし73,76ないし86,89ないし110,136,154ないし157,乙36,41ないし45,62,64ないし68,証人2,同3,同5)及び弁論の全趣旨によれば,リーシングに関し,原告が少なくとも次の各営業活動を行ったことが認められる。他方, 原告が取り組んでいたリーシングが,上記アの義務内容に照らし,内容において不十分・不適切なものであったとか,時期において遅きに失したものであったなどの事情を認めるに足りる証拠はない。 a 原告は,平成2年7月に原告建設室を設置後,本件信託施設の各部分に関する具体的なテナント候補者の選定を開始した。 b 原告建設室は,平成2年7月10日,交通局職員及びκ社の担当者と共に ない。 a 原告は,平成2年7月に原告建設室を設置後,本件信託施設の各部分に関する具体的なテナント候補者の選定を開始した。 b 原告建設室は,平成2年7月10日,交通局職員及びκ社の担当者と共に,K社を訪問した。同社内の巡回見学や卸売業の仕組み等に関する説明の後,会員制卸売店舗(ニュー卸メンバーショップ)計画に関連する事項について若干の質疑応答が行われた(その後,平成3年10月ころまでに,同社は本件信託施設に出店しないことを決めた。)。 c 原告建設室は,平成2年8月16日,I社を訪問し,同社との間で,同社が本件信託施設の高層階部分でビジネスホテルを営業する計画に関する折衝を開始した(その後,同社は本件信託施設に出店しないことを決めた。)。 d 原告建設室は,平成3年1月14日に行われたM社の担当者との打合せにおいて,同社が本件信託施設の高層階部分でビジネスホテルを営業する提案に説明した。また,同年2月5日に行われた同社との打合せでは,同社の担当者から原告の担当者に対し,同部分の施設計画について設計の変更を伴う複数の要望が出された。 e 原告建設室は,平成3年6月12日から同年12月までの間,M社との間で,本件信託施設のホテル部分の賃貸条件に関する厳しい交渉を継続的に行い,同月27日,同年10月14日に提案した譲歩案への内諾を取り付け,その後,平成4年5月13日に同社との間で覚書(乙41の1)を取り交わした。 f 原告建設室は,同月14日から平成6年1月14日までの間,M社との間で,本件信託施設のホテル部分の賃貸条件に関する厳しい条件交渉・協議を継続し,同日,賃貸条件が最終的に合意され,同月21日に賃貸借予約契約が,さらに平成7年3月1日に賃貸借契約が,同社と原告との間で締結されるに至った。 g 原告建設室は,本件信託施設3・4 ・協議を継続し,同日,賃貸条件が最終的に合意され,同月21日に賃貸借予約契約が,さらに平成7年3月1日に賃貸借契約が,同社と原告との間で締結されるに至った。 g 原告建設室は,本件信託施設3・4階の商業施設部分につき,100社を超 える各種卸売業者への出店の打診・要請を続け,平成5年4月ころまでの間,卸売業者であるL社,ν社,ξ社及びο社の残ったテナント候補者4社へのリーシングを続けていたが,同月までに,いずれの候補者も同部分に出店しないことが決まった。 h 原告建設室は,平成5年5月以降,本件信託施設3・4階の商業施設部分につき,卸売業者に代わるテナント候補者として複数の小売業者等へのリーシングに取り組み,3階部分につき,N社と原告との賃貸借契約が,4階部分につき,π社との賃貸借契約がそれぞれ締結されるに至った。 i 原告建設室は,本件信託施設6・7階のスポーツ施設部分につき,多数の企業に出店を打診し,平成4月12月10日時点で,少なくともρ社,σ社及びτ社の3社との間で賃貸条件に関する交渉・協議を継続し,平成5年8月27日ころ,そのうちの一社であるρ社と原告との間で,上記部分の賃貸借予約契約が締結されるに至った。 j 原告は,本件信託施設のその余の賃貸部分のほぼ全てについても,本件信託施設開業時までに,テナントとの間で賃貸借契約を締結し,開業と同時に出店・営業させることができた。 (ウ) 以上の事実によれば,原告が上記アのリーシングを行うべき義務を尽くしたものと認められ,これを怠ったとは認められない。 (3) 争点5(4)(事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務の違反〔責任原因4〕)についてア原告の報告・説明義務等について(ア) 旧信託法は,受託 (事業の遂行状況を正確かつ具体的に報告・説明する義務及び事業計画の修正・変更あるいは中止を提案する義務の違反〔責任原因4〕)についてア原告の報告・説明義務等について(ア) 旧信託法は,受託者の帳簿作成義務(39条),委託者や受益者等による閲覧請求権(40条1項)及び報告請求権(同条2項)を定める。また,本件信託契約は,原告の被告に対する同契約所定の時期における収支計算書等の作成・報告義務(34条1項),信託財産の現況及び運営状況の報告義務(同条2項)及び翌年度事業計画の報告義務(同条3項)を定めるとともに,被告の原告に対する本件信託 財産の現況及び運営状況,今後の管理運営計画その他必要があると認める事項についての資料提出・報告請求権,被告による実地調査・監査権(36条1項)及び被告の原告に対する是正・改善指示権(同条2項)を定めていた。 これらの定めに照らすと,受託者である原告は,まず,委託者兼受益者である被告に対し,本件信託に基づく信託事務すなわち本件信託事業の遂行状況全般につき,所定の時期における上記各報告・説明義務のほか,被告の求めに応じた資料提出及び報告・説明義務(消極的報告義務・情報提供義務)を負っているものと認められる。 また,本件信託契約において,原告の責めに帰すべき事由によらない相当な事由により本件信託の目的及び本件信託事業の目標の達成や信託事務の遂行が不可能又は困難となった場合における原告による契約解除の申出(39条3項)のほか,テナントへの賃貸条件の設定その他一定の重要な行為に当たっての原告の被告に対する通知義務(12条,14条ほか),本件信託施設の竣工・開業が期日に間に合わない場合や特段の事由等により本件信託契約を変更する必要が生じた場合その他種々の局面における協議(11条,24条,29条2項ほ 通知義務(12条,14条ほか),本件信託施設の竣工・開業が期日に間に合わない場合や特段の事由等により本件信託契約を変更する必要が生じた場合その他種々の局面における協議(11条,24条,29条2項ほか)が定められていることに鑑みると,受託信託銀行として被告に対する善管注意義務(旧信託法20条,本件信託契約16条)を負う原告は,信託目的や本件信託事業の目標の達成や信託事務の遂行の観点から必要と認めるときは,被告からの求めがなくとも,本件信託事業の遂行状況に関する資料提出及び報告・説明義務(積極的報告義務・情報提供義務)を負っており,さらに,原告が本件信託の目的及び本件信託事業の目標の達成や信託事務の遂行が不可能ないし困難であると認めたときは,本件信託に係る本件事業計画の修正・変更や本件信託事業の中止(本件信託の終了)を被告に提案する義務が生じるものと解するのが相当である。 (イ) 原告が,本件信託施設の着工日である平成4年5月18日までに,本件事業計画どおりに本件信託事業を遂行することは困難であり,同計画で掲げただけの収益を上げられない可能性がある,本件信託事業の収支改善を図るためには本件事業 計画の抜本的変更が必要であるとの認識を有するに至っていたことは,原告が自認するところである。 したがって,原告は,同日までに,本件信託事業の現状と今後の見通しについて報告・説明した上で,本件事業計画の修正・変更を提案すべき義務を負ったものというべきである。 (ウ) これに対し,被告は,遅くとも本件信託施設の着工日である平成4年5月18日までに,このまま本件事業計画に従って本件信託事業を遂行した場合には,事業終了時点で事業配当はおろか負債が残存しかねない状況であるとの認識を原告が有していたと主張し,同年4月8日に開催された住之江会議にお ,このまま本件事業計画に従って本件信託事業を遂行した場合には,事業終了時点で事業配当はおろか負債が残存しかねない状況であるとの認識を原告が有していたと主張し,同年4月8日に開催された住之江会議において,原告が本件信託事業が無配当かつ約5.4億円の借入金が残存したまま事業期間の満了を迎えることになるとの現状認識を参加者に伝えていたことを挙げる。 しかし,「安田よりの現状説明」欄に「事業配当現状 0」,「27年後の借入金現状 5.4億円」との記載がある「住之江会議」議事録(乙45の5)とその原資料(乙91の1・2)は,当該会議の参加者・開催場所・協議内容・議事録の体裁等に照らすと,原告の当時の現状認識が説明されたことを示す報告文書であるとみることには疑問が残る。また,原告が同時点までに取り組んでいたリーシング(前記(2)イ(イ))におけるテナント候補者との折衝状況(キーテナント候補者であるM社から平成3年12月27日ころに内諾を取り付けていた賃貸条件の内容〔甲85,86,乙45の1ないし4〕等),平成4年1月22日の打合せにおいて,原告が被告(交通局)に対し,本件信託施設の建設工事費(概算見積額183億円)を150億円程度に削減できれば,本件信託施設の開業初年度から事業配当が可能となり,事業終了時までに合計130億円の累積配当が見込まれる旨の収支シミュレーションを提示したこと(甲87,乙17,乙72,75の1ないし5),その後も,原告は,事業終了時までに合計71億2615万円の累積配当を見込む収支シミュレーションを平成4年5月21日に,事業終了時までに合計約67億1300万円の累積配当を見込む収支シミュレーションを平成6年4月7日に被告(交通局)に提示 したこと(乙47の1,乙75の6)などを併せ鑑みると,上記議事録等のみを 了時までに合計約67億1300万円の累積配当を見込む収支シミュレーションを平成6年4月7日に被告(交通局)に提示 したこと(乙47の1,乙75の6)などを併せ鑑みると,上記議事録等のみをもって,同日までに原告が被告主張の認識を有するに至り,それを原告の現状認識として外部関係者(P氏)を通じてM社らに伝えたものであると認めることはできない。 また,他に本件信託施設着工日(平成4年5月18日)までに原告が同認識を有するに至ったと認めるに足りる証拠はない。 そして,本件信託の目的(本件信託契約3条)及び本件信託事業の目標(同4条)に照らすと,本件事業計画で掲げた収益を上げられない場合であっても,少なくとも収益を上げられる限りは,上記目的・目標がおよそ達成できないとはいえないから,本件信託事業の遂行を継続する理由がある。 したがって,同時点において,原告が本件信託事業の中止(本件信託の終了)までを被告に提案すべき義務,あるいは本件信託契約の解除を申し出るべき義務を負っていたとは認められない。 イ義務違反の存否について(ア) 報告・説明義務の違反について被告は,平成4年1月に原告が被告(交通局)に対して行った報告・説明は具体的根拠に基づかない虚偽ともいうべきものであり,原告は本件信託事業の現状を被告(交通局)に具体的かつ正確に報告・説明しなかったと主張する。 しかし,平成4年1月に原告が被告(交通局)に対して行った報告・説明が事実に基づかず,あるいは何ら根拠に基づかないものであったことを認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠(甲25,87,乙17,72,75,証人2,同5〔同証人作成に係る陳述書[乙102]の供述記載を含む。以下同じ。〕)及び弁論の全趣旨によれば,同月17日の定例会議において原告担当者がした報告・説明が,M 5,87,乙17,72,75,証人2,同5〔同証人作成に係る陳述書[乙102]の供述記載を含む。以下同じ。〕)及び弁論の全趣旨によれば,同月17日の定例会議において原告担当者がした報告・説明が,M社との従前の交渉経過及び同社から内諾を得た賃貸条件に符合するものであり,また,同月22日の打合せにおいて原告担当者が提示した複数の収支シミュレーションが,本件提案計画に係る収支計画の前提条件からホテル事業者への賃貸条件のみを変更した場合(固定賃料制によるもの及び歩合賃料制併用によるもの)や全テナ ントへの賃貸条件を現状見込まれるものに変更した場合を想定して作成した正確なものであったことが認められる。 なお,「局を「良いコンセプトだ」と思い込ませる必要がある」との記載が裏面に手書きされている平成5年12月13日付け「貴局との定例会議」と題する書面(甲137)は,交通局職員の発言を記載したものであると認められるから,同書面をもって,原告が交通局を誤信させる意図を有していたことを認める根拠となり得ない。 (イ) 修正・変更提案義務の違反について被告は,原告が平成4年1月にした建設工事費削減の申入れは,本件事業計画の抜本的変更の提案であるとはいえず,原告は,本件信託施設着工時までに同計画の修正・変更を被告(交通局)に提案しなかったと主張する。 しかし,証拠(甲11,25,87,乙17,75,証人2,同3,同5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,交通局職員に対し,平成4年1月17日の定例会議において,月次報告,商業調整,本件信託施設の建設業者を選定する入札手続等の進捗状況,M社との交渉経過等の報告と併せて,バブル経済崩壊の影響によりホテル事業者以外のテナントへの賃貸条件も本件提案計画より不利になるとの予測に基づき,賃貸条件の検討資料を 選定する入札手続等の進捗状況,M社との交渉経過等の報告と併せて,バブル経済崩壊の影響によりホテル事業者以外のテナントへの賃貸条件も本件提案計画より不利になるとの予測に基づき,賃貸条件の検討資料を示しながら,バブル経済崩壊から間もなく社会的に理解を得やすい今の時期に収支計画を見直したい,また,全テナントについて歩合賃料制を導入したいと進言し,同月22日の打合せにおいて,上記(ア)の複数の収支シミュレーション結果を提示した上で,現状見込まれる賃料水準では,開業初年度から事業配当をするために逆算すると,建設工事費(概算額約183億円)を150億円台に抑える必要があると説明し,同月27日の定例会議において,開業初年度から事業配当をするために逆算すると,建設工事費をおおむね154億円に抑える必要があるとして,本件信託施設の設計・仕様やコンセプトの変更(スポーツ施設の縮減)等を進言したこと,これに対し,交通局職員は,収支計画の見直しが必要であることは認めつつも,対外的に認知されている累積配当額はあくまで約26 1億円であることを強調するとともに,本件信託施設のグレードが下がったり開業時期が予定よりも遅れたりすることは許されないと回答したため,本件信託施設の設計・仕様やコンセプトの変更による収支計画の見直しの検討がそれ以上進展しなかったことが認められる。 また,証拠(乙96ないし98)及び弁論の全趣旨によれば,平成3年4月17日以降,原告が,本件信託事業の収支計画の改善(賃貸面積の増床による賃貸収入の増加)を図るため,本件信託施設のコンジャンクションドームの計画見直しを交通局に提案していた事実も認められる。 上記事実によれば,原告が,本件信託施設着工時までに本件事業計画の修正・変更を被告(交通局)に提案しなかったとは認められない。 ションドームの計画見直しを交通局に提案していた事実も認められる。 上記事実によれば,原告が,本件信託施設着工時までに本件事業計画の修正・変更を被告(交通局)に提案しなかったとは認められない。 (ウ) したがって,原告が上記アの報告・説明義務及び修正・変更提案義務を怠ったとは認められない。 (4) 争点5(5)(事業計画どおりの収入を確保するとともに経費を削減するために努力する義務の違反〔責任原因5〕)についてア収支の安定,改善及び向上を図る義務について本件信託の目的(本件信託契約3条)及び本件信託事業の目標(同4条)に照らすと,受託者たる原告が信託事務の処理として遂行する本件信託事業により得た収益をもって被告(交通局)に事業配当を受けさせることが本件信託の本旨に含まれることは明らかであるから,原告は,善管注意義務(旧信託法20条,本件信託契約16条)の一内容として,本件信託事業の収支状況を問わず,全信託期間を通じて,同事業全体の収支の安定,改善及び向上を図る義務(現状の収支状況を維持するとともに,より多くの収益を確保する一方,支出をより少なくとどめるよう努力する義務)を負っているものというべきである。そして,同義務を個別項目ごとに明文化したのが,本件信託契約14条,28条ないし31条等の条項であるといえる。 なお,同義務は,本件事業計画どおりの収益あるいは支出以上の収益が確保され ている状態(収支実績)の実現自体を内容とするもの(結果債務)でないから,そのような状態が実現されていないことをもって直ちに同義務に違反したことにならいことはいうまでもない。また,同義務は,あくまでも本件信託事業全体の収支改善・向上を図ることを内容・目的とするものであるから,個別の収入項目と支出項目との均衡等は必ずしも重要とはいえない。 にならいことはいうまでもない。また,同義務は,あくまでも本件信託事業全体の収支改善・向上を図ることを内容・目的とするものであるから,個別の収入項目と支出項目との均衡等は必ずしも重要とはいえない。 被告の主張は,要するに,上記義務に関し,①賃貸収入の確保・増加,②借入事業資金に係る金利負担の軽減,③管理費の節減及び④販売促進費の節減を問題にしているものと理解される。 イ義務違反の存否について(ア) ①賃貸収入の確保・増加について被告は,原告が各テナント候補者へのリーシングを漫然と行い,本件事業計画における設定をはるかに下回る賃貸条件で安易に妥協して賃貸借契約等を締結し,本件信託施設開業後も賃貸収入を増加させるための方策を採らなかったと主張する。 この点,本件事業計画において設定された賃貸条件と現実に原告が誘致することができたテナントへの賃貸条件(追加工事費用の負担を含む。)とが著しく乖離していること,M社への賃貸条件が,平成4年5月13日に原告が同社と取り交わした覚書に記載された賃貸条件よりも原告(信託勘定)にとって不利なものであることは,当事者間に争いがない。もっとも,本件提案競技後に発生・顕在化した複数の阻害要因(前記5(1)イ(ア))に鑑みると,そのような賃貸条件でテナントを誘致することとなった原因が,原告が漫然とリーシングを行い,賃貸条件について安易に妥協したことに起因すると認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。かえって,原告が取り組んだリーシング(前記(2)イ(イ))における条件交渉の内容・経過は,決して生易しいものではなかったことが認められ,賃貸需要が落ち込み,テナントを誘致すること自体も困難な経済情勢の下,本件信託施設の開業時期が迫る状況下において,それまでに何とかテナントを誘致しようとする中で原告は可能 ではなかったことが認められ,賃貸需要が落ち込み,テナントを誘致すること自体も困難な経済情勢の下,本件信託施設の開業時期が迫る状況下において,それまでに何とかテナントを誘致しようとする中で原告は可能な限りの条件交渉を行ったものというべきである。なお,立地条件,建物の規模・施設 構成その他諸条件の異なる戊土地開発プロジェクトに係る信託建物の賃貸条件との対比から,原告によるリーシングの内容・程度等を推し量ることはできない。 また,本件信託施設開業後についても,原告が賃貸収入の確保・増加を図ろうとしなかったと認めるに足りる証拠はない。かえって,本件信託施設開業後,平成15年度までの間,賃貸収入総額はほぼ維持されており(本件信託事業の実績〔別紙7の3ないし10〕),平成10年3月までに行われたM社との間で最初の賃料改定交渉において5%の賃料増額を実現するとともに,他のテナントに対しても,賃料の引下げを強く要請する者もいる中で賃料増額交渉を行い,少なくとも11件のテナントについて賃料増額を実現した事実も認められる(甲111,141)。 したがって,原告が賃貸収入の確保・増加により本件事業全体の収支改善・向上を図る義務を怠ったものとは認められない。 (イ) ②借入事業資金に係る金利負担の軽減についてa 被告は,原告が平成5年1月から平成6年6月にかけて,旧S銀行等から借り入れた事業資金60億円に係る約定金利が市場金利を上回っており,そのことが明白となった後も,これを解消して支払利息を軽減しようとしなかったと主張する。 この点,本件信託契約では,本件信託施設開業前における事業資金の借入れに係る約定金利は,原則として短期プライムレートによることとするが,長期固定金利による方が有利と考えられる場合は,被告との協議を経て,政府系金融機関等から ,本件信託施設開業前における事業資金の借入れに係る約定金利は,原則として短期プライムレートによることとするが,長期固定金利による方が有利と考えられる場合は,被告との協議を経て,政府系金融機関等から長期固定金利による借入れを行うことが認められるとされている(29条1項1号,3号)。そして,証拠(甲113ないし130)及び弁論の全趣旨によれば,平成5年1月25日から平成6年6月29日にかけて,原告が旧S銀行等から借り入れた事業資金合計60億円の約定金利は,借入時において,いずれも短期プライムレートより高く,長期プライムレート以下であったこと,各借入後の同レートの下落により,各借入れに係る約定金利が同レートを上回る事態となったことが認められる一方で,原告は,上記各借入時において,当時の金利の推移状況等から,同レートによる方が短期プライムレートによるよりも有利であると判断し,本件信託契約2 9条1項3号に交通局との事前協議を経た上で,上記約定金利による借入れを行ったことが認められる。また,各借入時点で,原告が上記事態となることを予測し得たと認めるに足りる証拠はなく,遅くとも平成9年11月以降,原告は,そのような事態を解消するために約定金利の引下げ,繰上げ弁済,その時点の金利水準による折返融資等を各借入先金融機関に申し入れて継続的に交渉していたことが認められる。 b 被告は,原告が自行の銀行勘定からの借入金の金利負担を軽減するよう求める被告(交通局)の要請に応じなかったとも主張する。 しかし,本件信託事業の遂行に当たって,原告が自行の銀行勘定から事業資金の借入れを行っていた事実を認めるに足りる証拠はなく(そもそも信託法22条により自己取引は禁止されていた。),原告が別に受託していた信託の信託財産(信託勘定)から事業資金の借入れを行 定から事業資金の借入れを行っていた事実を認めるに足りる証拠はなく(そもそも信託法22条により自己取引は禁止されていた。),原告が別に受託していた信託の信託財産(信託勘定)から事業資金の借入れを行っていたことが認められるにとどまる(このような借入れは,本件信託契約28条1項により許容されている。)。 そして,本件信託の委託者兼受益者である被告に対してだけでなく,上記信託の委託者・受益者に対しても同様に善管注意義務・忠実義務を負っている原告が,本件信託にとって一方的に有利となる約定金利の引下げを独断で行うことは許されないから,原告が被告(交通局)からの上記要請に応じなかったからといって,直ちに上記義務の違反に当たることはないというべきである。 c 以上によれば,原告が借入事業資金に係る金利負担の軽減により本件事業全体の収支改善・向上を図る義務を怠ったものとは認められない。 (ウ) ③管理費及び④販売促進費の節減について被告は,管理費につき,原告は,テナントから受入共益費をはるかに上回ると同時に,本件信託施設と同水準の他の商業ビルと比較して極めて多額の管理費を漫然と支出し続けたと主張する。また,販売促進費につき,原告は,本件提案計画や本件事業計画では支出すること自体が予定されていなかったにもかかわらず,本件信託施設開業後,各テナントから徴収する金額をはるかに上回る金額を漫然と支出し 続けたと主張する。 本件信託施設開業以降,テナントからの受入共益費を大幅に上回る管理費とテナントから徴収する金額を大幅に上回る販売促進費が支出され続けていること及び本件事業計画では本件信託施設専属の管理会社(D社)の設立や販売促進費の支出が予定されていなかったことは,いずれも当事者間に争いがない。 しかし,管理費や販売促進費といった固定経費を節 いること及び本件事業計画では本件信託施設専属の管理会社(D社)の設立や販売促進費の支出が予定されていなかったことは,いずれも当事者間に争いがない。 しかし,管理費や販売促進費といった固定経費を節減すべきかどうかは,必要とされる管理業務や販売促進活動の内容・程度と費用対効果の相関関係によって判断されるべきものであるから,そもそも受入共益費と管理費,各テナントから徴収した販売促進費と支出した販売促進費総額の多寡や他の類似建物の例との比較のみから,原告が支出した管理費や販売促進費に節減の余地があるとか不相当に過大であるとの判断をすることはできない。 被告の主張は,原告が支出していた管理費や販売促進費といった固定経費が節減する余地があり,かつ,節減すべきものであった根拠を具体的に主張するものではない。また,その点を措くとしても,証拠(甲131ないし146,証人6〔同証人作成の陳述書[甲172]の供述記載を含む。〕)及び弁論の全趣旨によれば,本件事業計画や本件提案計画において予定されていなかったD社の設立や本件信託財産からの販売促進費の支出は,本件信託施設の商業施設部分に卸売業者を誘致する計画が改められたこと等を端緒に必要とする理由が事後的に生じたものであること,管理会社を設立する必要性や受入共益費以外の本件信託財産からの管理委託費の支出,年間販売促進計画の内容やテナントから徴収する金額で不足する販売促進費の本件信託財産からの支出に関する説明も含めた被告との協議を経ていること,D社に支払われた管理委託費は,平成7年度分につき,同社の人件費等の実支出の減少に応じて約4725万円減額されており,平成9年度以降分も,年度を経るごとに次第に縮減していることなどが認められる。そうである以上,原告が支出していた管理費や販売促進費が明らかに節減されるべき 減少に応じて約4725万円減額されており,平成9年度以降分も,年度を経るごとに次第に縮減していることなどが認められる。そうである以上,原告が支出していた管理費や販売促進費が明らかに節減されるべきものであったということもできず,そう認めるべき事情を認めることができる証拠も見当たらない。 結局,原告が節減すべき管理費や販売管理費を漫然と支出し続けたと認めるべき具体的主張も,それを認めるに足りる証拠もないというよりほかない。 したがって,原告が③管理費の節減や④販売促進費の節減により本件事業全体の収支改善・向上を図る義務を怠ったものとは認められない。 (5) 小括以上によれば,争点5(6)(被告の損害及びその額)について判断するまでもなく,被告が原告に対する損害賠償請求権(自動債権)を有しているとは認められないから,被告の相殺の抗弁は理由がない。 7 被告のその余の主張について(1) 損失補塡義務の先履行の主張について被告は,本件弁済費用相当額が原告の管理失当により本件信託財産に生じた損失であり,原告が旧信託法27条に基づく損失補塡義務を負うことを前提として,同法38条に基づき,原告は同義務を未だ果たしていないから,同法36条2項本文に基づく補償請求権を行使することは許されないと主張する。 そもそも,争点5(1)ないし(5)において被告が主張する原告の義務違反により本件信託財産に生じた損失が,同法27条にいう管理失当により信託財産に生じた「損失」に当たるかという問題があるが,その点を措くとしても,原告に被告が主張する各義務違反があったとは認められないことは,前記6(1)ないし(4)のとおりであるから,被告の同主張は理由がない。 (2) 信義則違反等の主張について被告は,本件弁済費用につき,原告が旧信託法36条に 違反があったとは認められないことは,前記6(1)ないし(4)のとおりであるから,被告の同主張は理由がない。 (2) 信義則違反等の主張について被告は,本件弁済費用につき,原告が旧信託法36条に基づく補償請求権を行使することは,当事者間の衡平を著しく害するものであり,信義則に反するため許されないと主張し,その根拠として,①原告が本件提案競技の趣旨・目的等を十分理解してこれに応募したこと,②原告は不動産運用の専門家たる信託銀行である一方で,被告(交通局)は不動産運用に関する専門的知見を有していないこと,③原告が自らの判断で本件提案計画を提案したこと,④原告に種々の義務違反があったた めに本件信託事業が成功しなかったこと,⑤本件信託事業の結果と本件事業計画との乖離が著しいこと及び⑥被告はこれまで一度も事業配当を受けていない一方で,原告は多額の信託報酬その他種々の利益を享受していること等を挙げる。 しかし,上記④につき,原告に被告主張の各義務違反が認められないことは前記6(1)ないし(4)のとおりであるほか,被告が挙げる事情は,いずれも原告による同権利の行使を妨げる事情には当たらないというべきである。 したがって,被告の同主張は理由がない。 8 結論以上によれば,第1事件に係る原告の請求は理由があるからこれを認容し,第2事件に係る被告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用し,上記認容部分につき,同法259条1項に基づいて仮執行の宣言を,同条3項に基づいて職権により担保を条件とする仮執行免脱の宣言をそれぞれ付すこととして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官田中俊次 裁判官竹村昭彦 裁判官佐川 主文 脱の宣言をそれぞれ付すこととして,主文のとおり判決する。 理由 大阪地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官田中俊次 裁判官竹村昭彦 裁判官佐川真也

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