平成24(行ケ)10234 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年3月6日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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平成25年3月6日判決言渡平成24年(行ケ)第10234号審決取消請求事件平成25年1月28日口頭弁論終結判決 原告サノフィーアベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング 訴訟代理人弁理士結田純次同竹林則幸同石井淑久 被告ノボ・ノルデイスク・エー/エス 訴訟代理人弁理士園田吉隆同小林義教 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び 理由 第1 請求特許庁が無効2011-800096号事件について平成24年2月23日にした審決を取り消す。 第2 当事者間に争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯等被告は,発明の名称を「注射針の装着システムと注射針アセンブリの装着方法」とする特許(特許第4472522号。平成15年6月30日国際出願,パリ条約による優先権主張・2002年7月3日(米国),同年8月1日(デンマーク),平成22年3月12日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成23年6月9日,本件特許について無効審判請求(無効2011-800096号)をし,これに対し,被告は,同年9月27日付け訂正請求書(甲14。以下「本件訂正請求書」という。)により,特許請求の範囲の記載を訂正した(以下,「本件訂正」といい,下記請求項1に係る訂正を「訂正事項1」 ,これに対し,被告は,同年9月27日付け訂正請求書(甲14。以下「本件訂正請求書」という。)により,特許請求の範囲の記載を訂正した(以下,「本件訂正」といい,下記請求項1に係る訂正を「訂正事項1」と,下記請求項6に係る訂正を「訂正事項2」という。)。 特許庁は,平成24年2月23日付けで,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年3月2日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「訂正特許発明1」などといい,これらをまとめて「訂正特許発明」という。下線は訂正部分を示す。)。 【請求項1】注入装置の,注射針アセンブリ(500)を注射針マウント(100)に装着するための注射針装着システムにあって,注射針アセンブリ(500)は,注射針に取付けられたハブ(10)を有し,ハブ(10)は円筒形の内壁(20)を有し, 注射針マウント(100)は,頂端部を有する円筒形の外壁(110)を有し,注射針アセンブリ(500)が更に,ハブ(10)の円筒形の内壁(20)から内側に放射状に突き出た複数の突起(30)を有し,注射針マウント(100)が更に,円筒形の外壁(110)に設けられたスレッド(200)と,円筒形の外壁(110)の頂端部から始まり,円筒形の外壁(110)の円筒軸(1000)に概ね平行する通路を画定する,円筒形の外壁(110)に設けられた複数の溝(120)とを有し,注射針マウント(100)の少なくとも一つの溝(120)が,第一の領域(130)と,第一の領域(130)に対してある角度を有する第二の領域(150)とを有し,複数の突起(3 )とを有し,注射針マウント(100)の少なくとも一つの溝(120)が,第一の領域(130)と,第一の領域(130)に対してある角度を有する第二の領域(150)とを有し,複数の突起(30)は,バヨネット結合を形成するため複数の溝(120)と相互に作用し,スレッド(200)は,はめ合わせに適合する従来のねじ式注射針アセンブリを注射針マウント(100)にねじ込んで接続することに適しており,前記溝(120)は,前記外壁(110)に前記スレッド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に前記複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止することを特徴とする注射針装着システム。 【請求項2】第一の領域(130)と第二の領域(150)間の角度が90°又はそれ未満であることを特徴とする請求項1に記載の注射針装着システム。 【請求項3】溝(120)の第一の領域(130)が,注射針マウント(100)の入口部分(135)を画定する頂端部において最も幅が広いことを特徴とする請求項1又は 2に記載の注射針装着システム。 【請求項4】突起(30)が円形の面を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の注射針装着システム。 【請求項5】更に,注射針ハブ(10)が注射針マウント(100)上に確実に装着されたことを感触で及び/又は聴覚で認識できる手段を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の注射針装着システム。 【請求項6】円筒形の外壁(110)が,頂端部と,円筒形の外壁(110)に標準のねじ式注射針アセンブリを受け入れるため円筒形の外壁(110)に設けられたスレッド(200)とを有し,複数の溝(120)が,円筒形の外壁(110)の が,頂端部と,円筒形の外壁(110)に標準のねじ式注射針アセンブリを受け入れるため円筒形の外壁(110)に設けられたスレッド(200)とを有し,複数の溝(120)が,円筒形の外壁(110)の頂端部から始まり,円筒形の外壁(110)の円筒軸(1000)に概ね平行する通路を画定するように,円筒形の外壁(110)に設けられ,注射針マウント(100)の少なくとも一つの溝(120)が,第一の領域(130)と,第一の領域(130)に対してある角度を有する第二の領域(150)とを有しており,前記溝(120)は,前記外壁(110)に前記スレッド(200)よりも深く刻まれ,内壁(20)から内側に放射状に突き出た複数の突起(30)を有するハブと前記注射針マウント(100)とをバヨネット結合する際に,前記複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止すること,を特徴とする注射針マウント(100)。 【請求項7】第一の領域(130)と第二の領域(150)間の角度が90°又はそれ未満であることを特徴とする請求項6に記載の注射針マウント(100)。 【請求項8】溝(120)は,入口部分(135)を形成する注射針マウント(100)の頂端部において最も幅が広いことを特徴とする請求項6又は7に記載の注射針マウント(100)。 【請求項9】注射針マウント(100)は,注射針アセンブリ(500)を装着し,注射針アセンブリ(500)は,注射針(510)に取付けられたハブ(10)を有し,ハブ(10)は,円筒形の内壁(20)から内側に放射状に突き出た複数の突起(30)を有する円筒形の内壁(20)を有していること,を特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の注射針マウント(100)。 【請求項10 形の内壁(20)から内側に放射状に突き出た複数の突起(30)を有する円筒形の内壁(20)を有していること,を特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の注射針マウント(100)。 【請求項10】注射針アセンブリ(500)の突起(30)が円形の面を有することを特徴とする請求項9に記載の注射針マウント(100)。 【請求項11】注射針アセンブリ(500)の突起(30)が円筒軸(1000)に垂直に突き出ていることを特徴とする請求項9又は10に記載の注射針マウント(100)。 【請求項12】注射針アセンブリ(500)の突起(30)が注射針マウント(100)の頂端部と向かい合ったハブ(10)の近接端の近くに配置されていることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の注射針マウント(100)。 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,①本件訂正は,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし,明細書及び図面に記載されている事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない,②訂正特許発明は,甲2(実公昭26-14395号公報)に記 載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものではなく,特許法29条2項により,無効とすることはできない,というものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,甲2に記載された発明の内容,同発明と訂正特許発明1との一致点及び相違点を次のとおり認定した。 (1) 甲2発明1の内容「注射器の,注射針を先金3に装着使用する構造にあって,注射針は,針10に取り付けられた座9を有し,座9は円筒形の内壁を有し,先金3は,前端部を有する筒形の前方側壁を有し,注射針が更に,座9の外側に複数の に装着使用する構造にあって,注射針は,針10に取り付けられた座9を有し,座9は円筒形の内壁を有し,先金3は,前端部を有する筒形の前方側壁を有し,注射針が更に,座9の外側に複数の凸子7が設けられ,先金3が更に,筒形の前方側壁の前端部から始まり,筒形の前方側壁の中心軸に概ね平行する平行部分を有する,筒形の側壁を貫通するように設けられた複数の斜溝4を有し,先金3の少なくとも一つの斜溝4が,平行部分と,平行部分に対して所定角度を有する斜行部分とを有し,複数の凸子7は,複数の斜溝4と係合し注射針は確実に定着保持される,構造。」(2) 訂正特許発明1と甲2発明1との一致点「注入装置の,注射針アセンブリ(500)を注射針マウント(100)に装着するための注射針装着システムにあって,注射針アセンブリ(500)は,注射針に取付けられたハブ(10)を有し,ハブ(10)は円筒形の内壁(20)を有し,注射針マウント(100)は,頂端部を有する円筒形の外壁(110)を有し, 注射針アセンブリ(500)が更に,ハブ(10)から突き出た複数の突起(30)を有し,注射針マウント(100)が更に,円筒形の壁の円筒軸(1000)に概ね平行する通路を画定する,円筒形の壁に設けられた複数の溝(120)とを有し,注射針マウント(100)の少なくとも一つの溝(120)が,第一の領域(130)と,第一の領域(130)に対してある角度を有する第二の領域(150)とを有し,複数の突起(30)は,バヨネット結合を形成するため複数の溝(120)と相互に作用する注射針装着システム。」(3) 訂正特許発明1と甲2発明1との相違点ア相違点1複数の突起(30)が,訂正特許発明1では,「ハブ( ット結合を形成するため複数の溝(120)と相互に作用する注射針装着システム。」(3) 訂正特許発明1と甲2発明1との相違点ア相違点1複数の突起(30)が,訂正特許発明1では,「ハブ(10)の円筒形の内壁(20)から内側に放射状に突き出た複数の突起(30)」であるのに対し,甲2発明1では,ハブ(10)の外側に突き出た複数の突起(30)である点。 イ相違点2円筒形の壁に設けられた複数の溝(120)が,訂正特許発明1では,「円筒形の外壁(110)に設けられた複数の溝」であるのに対し,甲2発明1では,円筒形の壁を貫通するように設けられた複数の溝(120)である点。 ウ相違点3訂正特許発明1では,注射針マウント(100)が,「円筒形の外壁(110)に設けられたスレッド(200)」を有し,「スレッド(200)は,はめ合わせに適合する従来のねじ式注射針アセンブリを注射針マウント(100)にねじ込んで接続することに適しており,溝(120)が,外壁(110)にスレッド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止する」のに対し,甲2 発明1では,注射針マウント(100)が,「円筒形の外壁(110)に設けられたスレッド(200)」を有しておらず,また,「スレッド(200)は,はめ合わせに適合する従来のねじ式注射針アセンブリを注射針マウント(100)にねじ込んで接続することに適して」いるものではなく,さらに,甲2発明1の溝(120)が,「外壁(110)にスレッド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止する」「溝(120)」でもない点。 第 壁(110)にスレッド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止する」「溝(120)」でもない点。 第3 当事者の主張 1 取消事由に関する原告の主張(1) 取消事由1(本件訂正の適否に係る判断の誤り)ア訂正事項の認定の誤り訂正事項1のうち請求項1の「適していること」を「適しており」と訂正すること,及び訂正事項2のうち請求項6の「有していること」を「有しており」と訂正することは,本件訂正請求書に添付された特許請求の範囲には記載されているが,本件訂正請求書自体には記載されていないから,どちらに訂正するものか特定できない。したがって,本件訂正における訂正事項の認定には誤りがある。 また,審判長は,上記のような齟齬がある場合,訂正請求書の補正を命ずべきところ(特許法133条1項),本件審判では,上記齟齬を放置したまま訂正事項を認定したものであり,手続違背がある。 イ訂正の目的に関する判断の誤り審決は,上記アの訂正事項について,表現を整えるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当すると判断する。 しかし,審決は,上記のとおり,本件訂正請求書の齟齬により訂正事項が特定できないにもかかわらず,上記アの訂正事項を認定し,訂正の目的を判断したものであって,本件訂正における目的の判断には誤りがある。 ウ新規事項の追加,特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の有無の判断の誤 り本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には,「前記溝(120)」は,「前記外壁(110)」に「前記スレッド(200)」よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に「前記複数の突起(30)」が誤 以下「本件特許明細書」という。)には,「前記溝(120)」は,「前記外壁(110)」に「前記スレッド(200)」よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に「前記複数の突起(30)」が誤って複数の「スレッド(200)」に導入されることを防止することは記載されていない。また,本件特許に係る願書に添付した図面(別紙図1,2等。以下「本件特許図面」という。)は,突起がスレッドよりも深く刻まれた溝に挿入できる太さ,あるいは深く刻まれた溝の底近くに達する長さを有するものであることなど,突起と溝との寸法関係等を読み取ることができる程度の詳しさでは描かれていない。本件特許図面に描かれている溝の深さは,スレッド間に導入しないように形成された突起の長さに対応するものとは限らず,クリアランスを取ったもの,汎用性を考慮して幅を持たせたもの,製造の便宜上深く形成されたものなどが考えられ,その技術的意義が明らかでない。 したがって,訂正事項1のうち「前記溝(120)は,前記外壁(110)に前記スレッド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に前記複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止する」との記載は,本件特許明細書及び本件特許図面から導き出すことができない事項であり,願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正ではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,審決の訂正事項1に係る判断には誤りがある。また,訂正事項2は,実質的に訂正事項1と同様の訂正をするものであるから,審決の訂正事項2に対する判断にも同様に誤りがある。 エ以上のとおり,審決には本件訂正の適否に係る判断に誤りがある。 (2) 取消事由2(本件特許発明の認定の誤り)上記(1)のとおり,本 ,審決の訂正事項2に対する判断にも同様に誤りがある。 エ以上のとおり,審決には本件訂正の適否に係る判断に誤りがある。 (2) 取消事由2(本件特許発明の認定の誤り)上記(1)のとおり,本件訂正は認められるべきものではなく,本件特許発明は,本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるべきものであるから,審決 の本件特許発明の認定には誤りがある。 (3) 取消事由3(相違点3の認定の誤り)上記(1)のとおり,本件訂正は認められるべきものではなく,本件特許発明は,本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるべきものであるから,審決の相違点3の認定には誤りがある。 (4) 取消事由4(相違点3の容易想到性判断の誤り)ア注射針のハブの接続(装着)構造として,バヨネット結合,ねじ結合,スナップロック結合及び嵌合摩擦結合は,周知の技術であって,適宜選択し得るものである。また,甲2,5(特表平8-501242号公報),16の1(英国特許第302974号明細書)のように,1つの注射器の注射針マウントに異なる接続手段を併設することにより,異なる接続手段を有する注射針のハブを接続可能とすることは,注射器の分野において周知の技術課題として存在していた。さらに,バヨネット結合構造とねじ結合構造を有する,甲6の1(独国実用新案第20101594号明細書),7(特開平6-157174号公報)記載の発明の接続技術は,甲2発明1のバヨネット結合構造(甲2の第1図,第2図(別紙図3,4)参照)と甲4(特開2001-161817号公報),5に記載されるような周知のねじ結合構造を併設させる動機付けとなる。 したがって,甲2発明1のバヨネット結合構造による注射針マウントに,ねじ結合構造のねじ(接続手段)を有する注射針のハブを接続でき 5に記載されるような周知のねじ結合構造を併設させる動機付けとなる。 したがって,甲2発明1のバヨネット結合構造による注射針マウントに,ねじ結合構造のねじ(接続手段)を有する注射針のハブを接続できるようにするため,甲4,5に記載されるような周知のねじ結合構造のねじ(接続手段)を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得たことである。 イバヨネット結合構造における突起と溝との寸法,構造等は,バヨネット結合構造が形成され,確実に接続動作が行えるように,溝の幅,突起の径,溝の幅と突起の径の相互関係の設定,溝の深さと突起の長さの相互関係の設定などが,適宜設計されるものである。 したがって,バヨネット結合を形成する際に複数の突起(30)が誤って複数の スレッド(200)に導入されることを防止するため,溝(120)が,外壁(110)にスレッド(200)よりも深く刻まれるように形成することは,単なる設計的事項にすぎない。 ウ以上によれば,甲2発明1のバヨネット結合構造による注射針マウントに,ねじ結合構造のねじ(接続手段)を有する注射針のハブを接続できるようにするため,甲4,5に記載されるような周知のねじ結合構造のねじ(接続手段)を組み合わせ,バヨネット結合構造の溝を,ねじ結合構造のスレッド(ねじ山)にスレッドより深く刻み,併設することは当業者が容易に想到し得たことである。 エ被告の主張に対して被告は,甲2発明1に係る注射器は,嵌合摩擦接続(装着)を否定し,バヨネット結合による接続(装着)を採用したものであると主張する。しかし,甲2には,嘴筒の前半部のみを稍急傾斜テーパーに形成することが記載されており,甲2記載の注射針マウント構造は,バヨネット結合による接続(装着)と,緩いテーパー部を用いる嵌合摩擦による接続(装着)が 甲2には,嘴筒の前半部のみを稍急傾斜テーパーに形成することが記載されており,甲2記載の注射針マウント構造は,バヨネット結合による接続(装着)と,緩いテーパー部を用いる嵌合摩擦による接続(装着)が併存されたものと理解することができる。 また,被告は,甲5記載の発明が回転の回避を解決課題としているから,一部回転運動を伴うバヨネット結合を採用する甲2発明1に,甲5記載の発明を組み合わせることには阻害事由があると主張する。しかし,甲5には,針ホルダーが,アンプル又はカートリッジのねじ上を回転することにより螺着できるように形成されることが記載されており,甲5記載の発明のマウント構造は,スナップロック結合だけではなく,ねじ結合を利用することも示されている。また,バヨネット結合の接続(装着)動作は,突起を溝に沿って軸方向に直線的に移動し,係止するときに僅かに回動させて係止する構造であるから,ホルダー部分にバヨネット結合を採用したときに,注射針の先端が密封栓を貫通する動作は,軸方向に直線的に移動するスナップロック結合と基本的に同じ動作といえる。したがって,甲2発明1に甲5記載の発明を組み合わせることに阻害事由はない。 オ以上のとおり,審決の相違点3に係る容易想到性の判断には誤りがあり,本 件訂正発明は,特許法29条2項に基づく無効理由がある。 2 被告の反論(1) 取消事由1(本件訂正の適否に係る判断の誤り)に対してア訂正事項の認定の誤りについて本件訂正請求書の「7.2 訂正の内容」には,訂正事項1,2のとおり,訂正事項が記載されており,訂正事項1,2に係る訂正の対象,箇所及び内容は,いずれも明確に特定されており,審決の訂正事項の認定に誤りはない。 また,本件訂正請求書に訂正内容が文言どおり記載されていなかったとしても,上 おり,訂正事項1,2に係る訂正の対象,箇所及び内容は,いずれも明確に特定されており,審決の訂正事項の認定に誤りはない。 また,本件訂正請求書に訂正内容が文言どおり記載されていなかったとしても,上記のとおり,訂正事項は明確に特定されているから,審判長は本件訂正請求書について補正を命ずる必要はなく,本件審判手続に手続違背はない。 イ訂正の目的に関する判断の誤り上記アのとおり,本件訂正請求書において,訂正事項1,2に係る訂正の対象,箇所及び内容は,いずれも明確に特定されている上,「適していること」を「適しており」にする訂正,及び「有していること」を「有しており」にする訂正は,表現を整えるものであり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに当たる。 ウ新規事項の追加,特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の有無の判断の誤り本件特許図面1,2(別紙図1,2)によれば,注射針マウント(100)の円筒形の外壁(110)に,円筒軸(1000)に概ね平行するように形成された複数の溝(120)は,スレッド(200)よりも深く刻まれているものと理解される。また,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には,「複数の突起(30)は,バヨネット結合を形成するために複数の溝(120)と相互作用し」との記載があり,「突起」と「溝」が相互作用してバヨネット結合を形成するものと理解することができる。 そうすると,「溝が外壁にスレッドよりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に複数の突起が誤って複数のスレッドに導入されることを防止する」点 は,本件特許図面,特許請求の範囲の記載から明白に導き出すことができる事項であり,訂正事項1は,新規事項の追加,特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更に当たらない。また,訂正事項2(請求項6の訂正)についても 特許図面,特許請求の範囲の記載から明白に導き出すことができる事項であり,訂正事項1は,新規事項の追加,特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更に当たらない。また,訂正事項2(請求項6の訂正)についても同様である。 (2) 取消事由2(本件特許発明の認定の誤り)に対して上記(1)のとおり,本件訂正は認められるべきものであるから,本件訂正に基づいてされた本件特許発明の認定に誤りはない。 (3) 取消事由3(相違点3の認定の誤り)に対して上記(2)のとおり,本件特許発明の認定に誤りはないから,これに基づいてされた相違点3の認定にも誤りはない。 (4) 取消事由4(相違点3の容易想到性判断の誤り)に対してア甲2発明1に係る注射器は,バヨネット結合による接続(装着)と嵌合摩擦接続(装着)との2種類の接続(装着)手段を有するものではなく,嵌合摩擦接続(装着)を否定した上で,バヨネット結合による接続(装着)を採用するものである。 また,甲4の段落【0024】には,「バヨネットタイプの構造」と記載されているものの,これはカラーとアウタハブとの間の種々あるネジ結合の構造の一例として挙げられているにすぎず,甲4には,カラーとアウタハブとの結合に,2種類以上の結合様式を可能ならしめる構造を採用することの記載も示唆もない。 さらに,甲5記載の発明は,回転運動により針をねじ込むことによってゴムの摩滅が生じるという課題を解決するものであり,回転なしでカートリッジアンプルに取り付けられる針ホルダーに係る発明である。これに対し,バヨネット結合は,一部回転運動を伴う構成であり,バヨネット結合のはめ込みにおいては最後の回転の際にカートリッジアンプルと針ホルダーの間の摩擦による抵抗が最も大きくなるものと解される。したがって,バヨネット結合を採用する甲2発明1に回 構成であり,バヨネット結合のはめ込みにおいては最後の回転の際にカートリッジアンプルと針ホルダーの間の摩擦による抵抗が最も大きくなるものと解される。したがって,バヨネット結合を採用する甲2発明1に回転運動を回避することを課題とする甲5記載の発明を組み合わせることには阻害事由がある(なお,甲5記載の発明は,溝とスレッドを同じ深さとしているので,突起が溝に もスレッドにも入る可能性があり,訂正特許発明1の課題を解決することもできない。)。 そして,甲6の1記載の発明は,ヘアーシャンプー等の化粧用製品の入った容器に係る発明であって,甲2発明1の具体的な技術分野である注射器とは技術的関連性がなく,容器に接続する具体的な対象も全く異なっている(なお,甲6の1には,円筒形の外側にバヨネット結合の溝のみならず,ねじ結合のスレッドをも有する接合構造が開示されているが,溝をスレッドよりも深く刻むことを示すものではなく,バヨネット結合を形成する際に複数の突起が誤って複数のスレッドに導入されることを防止するという解決課題も示されていない。)。 以上のとおり,甲2及び甲4には,2種類の接続(装着)手段を設けるとの記載も示唆もなく,バヨネット結合を採用する甲2発明1に回転運動を回避することを課題とする甲5記載の発明を組み合わせることには阻害事由があるから,甲2発明1に甲4,5に記載されるような周知技術を適用することが容易であったとはいえない。 イ甲2,4,5,6の1,7の1には,溝が外壁にスレッドよりも深く刻まれることは記載も示唆もされておらず,バヨネット結合を形成する際に複数の突起が誤って複数のスレッドに導入されることを防止するという作用効果又は技術課題も記載されていない。 ウ以上によれば,甲2発明1に甲4,5に記載されるような周知技術 ット結合を形成する際に複数の突起が誤って複数のスレッドに導入されることを防止するという作用効果又は技術課題も記載されていない。 ウ以上によれば,甲2発明1に甲4,5に記載されるような周知技術を適用することにより,相違点3に係る構成が容易に想到できたとはいえない。審決の本件訂正発明に係る容易想到性判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由には理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 取消事由1(本件訂正の適否に係る判断の誤り)について(1) 訂正事項の認定の誤り 原告は,本件訂正における訂正事項の認定には誤りがある上,齟齬を放置したまま訂正事項を認定した手続違背があると主張する。 しかし,本件訂正請求書(甲14)の「7.2 訂正の内容」には,「添付特許請求の範囲に記載のとおり。」と記載され,添付された特許請求の範囲の記載からは,請求項1の「適していること」を「適しており」と訂正すること,及び請求項6の「有していること」を「有しており」と訂正することが容易に理解されることからすれば,「7.3 訂正の要旨」等にその旨の記載がないからといって,訂正事項が不特定であるとはいえない。 したがって,本件訂正における訂正事項の認定には誤りがあるとの原告の上記主張,及びこれを前提とした手続違背の主張は,採用することができない。 (2) 訂正の目的原告は,審決には,上記(1)の訂正における目的の判断に誤りがあると主張する。 しかし,上記(1)の訂正は,請求項1の「適していること」を「適しており」と,請求項6の「有していること」を「有しており」と表現を整えるものであり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (3) ており」と,請求項6の「有していること」を「有しており」と表現を整えるものであり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 新規事項の追加,特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の有無の判断の誤り原告は,訂正事項1のうち「前記溝(120)は,前記外壁(110)に前記スレッド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に前記複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止する」との記載は,本件特許明細書及び本件特許図面から導き出すことができない事項であり,願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正ではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものである,訂正事項2も同様である,と主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,採用することができない。 ア事実認定(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲の記載本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。 「【請求項1】注入装置の,注射針アセンブリ(500)を注射針マウント(100)に装着するための注射針装着システムにあって,注射針アセンブリ(500)は,注射針に取付けられたハブ(10)を有し,ハブ(10)は円筒形の内壁(20)を有し,注射針マウント(100)は,頂端部を有する円筒形の外壁(110)を有し,注射針アセンブリ(500)が更に,ハブ(10)の円筒形の内壁(20)から内側に放射状に突き出た複数の突起(30)を有し,注射針マウント(100)が更に,円筒形の外壁(110)に設けられたスレッド(200)と,円筒形の外壁(110)の頂端部から始まり,円筒形の外壁(1 状に突き出た複数の突起(30)を有し,注射針マウント(100)が更に,円筒形の外壁(110)に設けられたスレッド(200)と,円筒形の外壁(110)の頂端部から始まり,円筒形の外壁(110)の円筒軸(1000)に概ね平行する通路を画定する,円筒形の外壁(110)に設けられた複数の溝(120)とを有し,注射針マウント(100)の少なくとも一つの溝(120)が,第一の領域(130)と,第一の領域(130)に対してある角度を有する第二の領域(150)とを有し,複数の突起(30)は,バヨネット結合を形成するため複数の溝(120)と相互に作用し,スレッド(200)は,はめ合わせに適合する従来のねじ式注射針アセンブリを注射針マウント(100)にねじ込んで接続することに適していること,を特徴とする注射針装着システム。」 (イ) 本件明細書(甲1)には,以下の記載がある。 「【0001】発明の技術分野本発明は一般に注入装置に関する。特に,注入装置や注入装置に実装されているアンプルに注射針を装着する方法とシステムに関する。」「【0003】特に,ペン型注入装置は,薬剤やインスリンのような生物製剤を投与するための正確,簡便,且つ,多くの場合独立的な方法であることが立証されている。・・・」「【0004】・・・注射針マウントは通常ねじ山付きの装着面を有し,これによって,例えば注射針とハブから構成される注射針アセンブリをこの装着面に回転挿入することが出来る。・・・」「【0005】・・・従来技術による注射針装着システムの不便な点は,患者が,注入装置に対し注射針ハブを数回回転させて,注射針をアンプル又は投薬装置の先端部に挿入しなければならない点である。・・・」「【0006】発明の概要 針装着システムの不便な点は,患者が,注入装置に対し注射針ハブを数回回転させて,注射針をアンプル又は投薬装置の先端部に挿入しなければならない点である。・・・」「【0006】発明の概要本発明は注射針アセンブリを注入装置及び/又はアンプルに装着するシステム及びその方法を提供する。本発明のシステムとその方法は,必ずしも全部ではないが幾つかの実施例において,注射針とハブのアセンブリをアンプル又は/及び注入装置に,注入装置に対して注射針ハブアセンブリを一回転させることなく装着することを可能にする。本発明のある実施例においては,注射針アセンブリはハブ内に取付けられている注射針を有している。注射針アセンブリは,注射針ハブを注射針マウントに対し部分的に回転するだけでハブをマウントに装着できる手段も有している。本発明のまた別の実施例おいては,注射針アセンブリを装着するための注射針 マウントは,外壁と,注射針アセンブリを該外壁の頂端部に固定するための装着手段とを有している。幾つかの実施例においては,これらの手段によって,注射針マウントを部分的に回転させるだけで注射針アセンブリを注射針マウントに完璧に固定できる。・・・」「【0011】更に,これらの突起は標準のアンプルアダプタの先端部のスレッド(ねじ山)の間に契合するようにその寸法を決めることも出来る。突起を,内部ハブ壁上に設け,標準アダプタの先端部のスレッドの間に嵌まるように配列すれば,従来方法で注射針アセンブリをアダプタの先端部に回転させて挿入することが可能となる。 【実施例】【0012】本発明は注射針ハブアセンブリをアンプルや注入装置に装着するシステムとその方法を提供する。通常,注射針ハブアセンブリはハブ550に装着された注射針510を有している・・・。図1(判 【0012】本発明は注射針ハブアセンブリをアンプルや注入装置に装着するシステムとその方法を提供する。通常,注射針ハブアセンブリはハブ550に装着された注射針510を有している・・・。図1(判決注・別紙図1)に示すように,注射針ハブ10は一般に円筒形であり内壁面20を有している。本発明のある実施例においては,内壁面20から放射状に複数の突起30が内部方向に突き出ている。 【0013】注射針マウント100は注射針ハブ10を受け入れることが出来るように設計されている(例えば,図1参照)。図1及び図2(判決注・別紙図2)に示すように,注射針マウント100は一般に円筒形であり,外壁面110を有している。外壁面110には複数の溝又はスロット120が設けられている。この溝120は第一端122と第二端125を有している。この溝120は第一の領域130を有しており,これは一般に注射針マウント100の円筒軸1000に平行な通路を定めている。本図において,溝の第一の領域130は方形の領域を有しているように示されているが,注射針ハブ上の突起30が円筒軸1000に対し平行方向に移動できるならば,この溝の厳密な形状は重要ではない。これ故,この溝が円筒軸1000に 対して必ずしも平行でない壁を有していても,突起30が円筒軸に対し平行方向に動くことができるならば,この溝は円筒軸に平行であると言って良い。溝の第一の領域130の一部分の幅が,第一の領域の他の部分,或いは,溝120の他の部分の幅よりも広くなっていてよい。溝が円筒軸1000に対し平行でない壁を有する実施例においては,溝の第一の領域130の幅は,溝の第一の領域130の平均的な幅となる。 【0014】第一の領域130は入口部135を有しており,この入口部の幅は第一の領域の平均幅,乃至 る実施例においては,溝の第一の領域130の幅は,溝の第一の領域130の平均的な幅となる。 【0014】第一の領域130は入口部135を有しており,この入口部の幅は第一の領域の平均幅,乃至は,溝120全体の平均幅よりも広い幅を有している。入口部135は突起30が溝120に入ることができるように注射針ハブを位置合わせする位置合わせ手段として機能する。全部ではないが殆どの実施例において,入口部の幅は溝120のどの部分よりも広くなっている。一般に溝の幅は溝が入口部135から離れるにつれて狭くなる。図に示すように,溝の幅は入口から少し離れた地点から一定幅となる。或る実施例においては,第一の領域130の幅は入口部分135で最大であり,第一の領域130の長さにつれて狭くなっていく。この溝は第二の領域150を有しており,第二の領域は円筒軸1000に垂直であるか,或いは,第一の領域130に対しある角度を有しているかのどちらかである。本発明の或る実施例においては,第二の領域150は,通常,注射針マウントの円筒軸に垂直な面を一つだけ有している。これ故,溝の第二の領域150は両側に壁を有するスロットである必要はなく,注射針ハブ上の突起が注射針マウントの外端部側に移動することを阻止する片壁が必要なだけである。図1に示すように,溝120は第三の領域160も有しており,この領域は第一の領域130と第二の領域150に対しある角度を有するように方向付けられる。」「【0016】本発明の利点の一つは,注射針マウントが標準的なスレッド200をその外壁面に備えることが出来ることである。(図1参照)。溝120は標準的なスレッド20 0の中に割り込むことが出来る。これにより注射針マウント100は本発明の注射針ハブだけでなく,標準タイプのねじ山付きの注射針ハ 出来ることである。(図1参照)。溝120は標準的なスレッド20 0の中に割り込むことが出来る。これにより注射針マウント100は本発明の注射針ハブだけでなく,標準タイプのねじ山付きの注射針ハブアセンブリも受け入れることが出来る。」イ判断上記によれば,本件明細書に記載された発明は,薬剤やインスリンのような生物製剤を投与するための注入装置や,注入装置に実装されているアンプルに注射針を装着するシステムに関するものであって(甲1・段落【0001】,【0003】),従来,注射針マウントにねじ山付きの装着面を有し,注射針とハブから構成される注射針アセンブリをこの装着面に回転挿入する技術があったが,患者が,注入装置の注射針マウントに対し注射針ハブを数回回転させて,注射針をアンプル又は投薬装置の先端部に挿入しなければならないため不便であったので(同【0004】,【0005】),注射針とハブのアセンブリを一回転させることなくアンプル又は注入装置に装着することを可能にしたものであり(同【0006】),注射針マウントが標準的なスレッド200をその外壁面に備え,溝120が標準的なスレッド200の中に割り込むことができ,これにより注射針マウント100は本件特許発明の注射針ハブだけでなく,標準タイプのねじ山付きの注射針ハブアセンブリも受け入れることができる(同【0016】)ものと認められる。 これに加えて,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1のうち,「複数の突起(30)は,バヨネット結合を形成するため複数の溝(120)と相互に作用し」との記載,本件明細書の段落【0012】ないし【0014】の記載及び本件特許図面1,2(別紙図1,2)を参照すれば,突起と溝の関係について,突起がスレッドに入らないようにしつつ,円筒軸に対し平行方向に円滑に動くように, の段落【0012】ないし【0014】の記載及び本件特許図面1,2(別紙図1,2)を参照すれば,突起と溝の関係について,突起がスレッドに入らないようにしつつ,円筒軸に対し平行方向に円滑に動くように,突起の長さが溝の深さに対応するもの(スレッドより長いもの)を含むものと理解することができる(なお,本件明細書には,「これらの突起は標準のアンプルアダプタの先端部のスレッド(ねじ山)の間に契合するようにその寸法を決めることも出来る。」と記載されている(段落【0011】)ものの,これにより,突起の長さが溝の深 さに対応する(スレッドより長い)構成が排除されているとは解されない。)。そして,溝(120)が外壁(110)にスレッド(200)よりも深く刻まれるとの構成を採ることにより,バヨネット結合を形成する際に複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることが防止されるものと理解することができる。 したがって,訂正事項1のうち「前記溝(120)は,前記外壁(110)に前記スレッド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に前記複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止する」ことは,特許明細書又は特許図面の記載を総合して導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を追加するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。また,訂正事項2も同様に,新たな技術的事項を追加するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (4) 小括以上のとおり,訂正事項1,2は,いずれも特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし,特許明細書又は特許図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張 以上のとおり,訂正事項1,2は,いずれも特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし,特許明細書又は特許図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 したがって,本件訂正は適法であり,原告の主張する取消事由1には理由がない。 2 取消事由2(本件特許発明の認定の誤り)に対して上記1のとおり,本件訂正に違法はなく,本件訂正に基づいてされた本件特許発明の認定にも誤りはないから,原告の主張する取消事由2には理由がない。 3 取消事由3(相違点3の認定の誤り)に対して上記2のとおり,本件特許発明の認定に誤りはなく,これに基づいてされた相違点3の認定にも誤りはないから,原告の主張する取消事由3には理由がない。 4 取消事由4(相違点3の容易想到性判断の誤り)について原告は,甲2発明1に周知技術を組み合わせることにより,訂正特許発明1の相 違点3に係る構成に想到することは容易であったと主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,採用することができない。 (1) 甲2発明1の内容は,前記第2の3(1)のとおりであるところ,甲2には,従来技術として,「針は注射筒の頭部に設けられた緩いテーパーの嘴角に被嵌され専らそのテーパー面の嵌合摩擦によって針を保持せしめたものである」(1頁左欄)と記載され,嵌合摩擦接続(装着)構造を有する注射針が開示されているが,これとバヨネット結合による接続(装着)構造を有する注射針を併せ有し,選択的に接続(装着)することは記載も示唆もされていない(むしろ,甲2発明1は,着脱に力を要し,使用中に針が稀に脱落することもある従来の嵌合摩擦接続(装着)構造を排除しているものと解される。)。 また,甲4には,ねじ結合による接続(装着 もされていない(むしろ,甲2発明1は,着脱に力を要し,使用中に針が稀に脱落することもある従来の嵌合摩擦接続(装着)構造を排除しているものと解される。)。 また,甲4には,ねじ結合による接続(装着)構造を有する注射針が開示されているものの,バヨネット結合による接続(装着)構造を有する注射針に関する記載はなく,ねじ結合による接続(装着)構造を有する注射針と,バヨネット結合による接続(装着)構造を有する注射針とを組み合わせるべきことを示唆する記載もない。 さらに,甲5には,注射器の針系統のための固定機構に関し,従来,針ホルダーとカートリッジアンプルをねじ結合構造により接続(装着)するようにし,針ホルダーをカートリッジアンプルにねじ込むことによって針の後端が膜を刺し通し,それによってストッパの前進運動の時に薬物が針を通って押し出されるようにしたものがあったこと,その場合,回転運動により針をねじ込むことによってゴムの摩滅が生じ,その摩滅したゴム粒子が薬物の中に入り,注射によって人体へ送られるとの問題があったことが記載され,これを解決するものとして,針を回転運動なしで簡単にカートリッジアンプル又は注射器と結合する,スナップロック結合による接続(装着)構造が開示されている(3頁3行~26行)。しかし,甲5には,バヨネット結合による接続(装着)構造に関する記載はない上,ねじ結合による接続(装着)構造とスナップロック結合による接続(装着)構造とを組み合わせることに関 する記載もない(なお,甲5の特許請求の範囲の請求項4には,「カートリッジアンプル(4)の回転によって針ホルダー(3)を螺着することができる」と記載されているが,同項に係る発明は,請求項1に係る発明(スナップロック結合による接続(装着)構造を有するもの)を引用するものであること, 4)の回転によって針ホルダー(3)を螺着することができる」と記載されているが,同項に係る発明は,請求項1に係る発明(スナップロック結合による接続(装着)構造を有するもの)を引用するものであること,明細書の発明の詳細な説明に,「カートリッジアンプル4又はカートリッジアンプル4を含むカートリッジアンプル・ホルダーを回転することにより,針ホルダー3をねじ戻し又は力で引き抜くことができる。」(4頁16行~18行)との記載があること,そもそも甲5記載の発明は,回転運動により針をねじ込むことによってゴムの摩滅が生じ,その摩滅したゴム粒子が薬物の中に入ることを避けることを解決課題としていることからすれば,請求項4記載の針ホルダーは,スナップロックを形成する,つめを具備する針ホルダーであって,従来のねじ結合による接続(装着)構造を有する針ホルダーとは異なるものと解される。したがって,上記記載をもって,甲5にねじ結合による接続(装着)構造とスナップロック結合による接続(装着)構造とを選択的に採用することが記載ないし示唆されているということはできない。)。以上のとおり,甲5には,ねじ結合による接続(装着)構造を有する注射針(従来技術)と,スナップロック結合による接続(装着)構造を有する注射針が記載されているが,スナップロック結合による接続(装着)構造を有する注射針と,ねじ結合による接続(装着)構造を有する注射針とを選択的に接続(装着)することは開示されておらず,バヨネット結合による接続(装着)構造についても何ら開示されていない。 以上によれば,甲2発明1と甲4,5記載の発明とが,注射器という技術分野で共通し,甲4,5に記載されているようにねじ結合による接続(装着)構造が周知であるとしても,上記のとおり,甲2,4,5には,バヨネット結合による接続(装着 ,5記載の発明とが,注射器という技術分野で共通し,甲4,5に記載されているようにねじ結合による接続(装着)構造が周知であるとしても,上記のとおり,甲2,4,5には,バヨネット結合による接続(装着)構造とねじ結合による接続(装着)構造を組み合わせることは記載も示唆もされていない上,2種類以上の接続(装着)構造を設けることを動機付ける記載もないから,バヨネット結合による接続(装着)構造の甲2発明1に,上記周知のねじ 結合による接続(装着)構造を組み合わせることは,容易に想到できたとはいえない。 (2) これに対し,原告は,注射針のハブの接続(装着)構造として,バヨネット結合,ねじ結合,スナップロック結合及び嵌合摩擦結合が周知の技術として存在し,適宜選択し得るものである,また,甲2,5,16の1のように,1つの注射器の注射針マウントに異なる接続手段を併設することにより,異なる接続手段を有する注射針のハブを接続可能とすることは,注射器の技術分野において周知の技術課題として存在していたと主張する。しかし,上記接続(装着)構造がそれぞれ周知の技術であるとしても,これらが当然に置換可能なものということはできないし,2種類以上の接続(装着)構造を併設することを動機付ける点は,上記各文献に記載も示唆もされておらず,これが技術常識であることを裏付ける証拠もない(なお,甲16の1には,同じ注射針マウント36に複数の異なる結合部材38を選択的に取り付けることが記載されているものの,バヨネット結合による接続(装着)構造の注射針と,ねじ結合による接続(装着)構造の注射針が選択的に取り付けられることは記載されていない。)。 また,原告は,バヨネット結合による接続(装着)構造とねじ結合による接続(装着)構造を有する甲6の1,7の1記載の発明の接続技術は, 造の注射針が選択的に取り付けられることは記載されていない。)。 また,原告は,バヨネット結合による接続(装着)構造とねじ結合による接続(装着)構造を有する甲6の1,7の1記載の発明の接続技術は,甲2発明1のバヨネット結合による接続(装着)構造と甲4,5に記載されるような周知のねじ結合による接続(装着)構造を併設させる動機付けとなると主張する。しかし,甲6の1記載の発明は,ヘアーシャンプー等の化粧用製品の入った容器に関するものであり,甲7の1記載の発明は,患者監視装置と装置の患者に装着する作動部分の交換自在な接続を提供するための部材に関するものであって,甲2発明1と流体を給送するための接続構造という点で共通するとしても,甲2発明1と甲6の1,7の1記載の発明では,接続する具体的な対象が全く異なるから,甲6の1,7の1記載の発明に接した注射器分野の当業者が,甲2発明1において,外側に凸子7を設けた座9を備える注射針に加え,注射器の先金3の前方側壁の外面に螺着可能な別の注射 針を用意し,これらの注射針を注射器に対し選択的に装着可能とするという構成に容易に想到し得たとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 訂正特許発明1は,上記のとおり,注射針マウント(100)が,円筒形の外壁(110)に設けられたスレッド(200)を有し,スレッド(200)は,はめ合わせに適合する従来のねじ式注射針アセンブリを注射針マウント(100)にねじ込んで接続することに適しているのみならず,溝(120)が,外壁(110)にスレッド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止するとの構成を備えているところ,かかる構成は,甲2~9,15 ド(200)よりも深く刻まれ,もってバヨネット結合を形成する際に複数の突起(30)が誤って複数のスレッド(200)に導入されることを防止するとの構成を備えているところ,かかる構成は,甲2~9,15の1,16の1に記載も示唆もされておらず,単なる設計的事項ということもできない。 (4) 小括以上によれば,訂正特許発明1の相違点3に係る構成は,甲2発明1に周知技術を適用することにより,容易に想到できたとはいえない。その他,審決の本件訂正発明に係る容易想到性判断に誤りはない。 5 結論したがって,原告主張の取消事由には理由がない。原告はその他縷々主張するがいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官芝田俊文 裁判官西理香 裁判官知野明 (別紙)図1(本件特許図面1) 図2(本件特許図面2) 図3(甲2の第1図) 図4(甲2の第2図)

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