【DRY-RUN】主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 原告は「特許庁が昭和四三年
主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 原告は「特許庁が昭和四三年八月一七日同庁昭和四一年審判第三九三五号事件に ついてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被 告は主文第一、第二項同旨の判決を求めた。 第二 請求原因 一 特許庁における手紙の経緯 原告(旧商号ソシエテ・デ・ユージーヌ・シミツク・ローン・プーラン)は、特 許第二七五九四三号「流動性有機ポリシロキサン組成物」(昭和三四年二月五日出 願、昭和三五年一一月二五日出願公告、昭和三六年五月一五日登録)(以下「本件 特許」という。)の特許権者である。原告は昭和四一年六月一三日、特許庁に対し 本件特許につき訂正審判を請求した(昭和四一年審判第三九三五号)。特許庁はこ れに対し、昭和四三年八月一七日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決を し、その謄本は同年九月一八日原告に送達された(出訴期間として三ケ月附 加。)。 二 本件特許の特許請求の範囲 別紙のとおり。 三 審決理由の要点 本件特許の特許請求の範囲は前項掲記のとおりである。 本件審判請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲に「Rツーダツシユは炭素原 子を一ないし一八原子含有するアリール基である」とある記載を「Rツーダツシ ユ・炭素原子を一ないし一八原子含有するアルキル基である」と訂正しようとする ものである。 炭素原子一ないし五個を含有するアリール基が存在しないこと、本件特許の明細 書の発明の詳細な説明の項に「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル 基またはアリール基である。」との記載があることは、請求人(原告)主張のとお りである。 しかし、特許請求の範囲の項には、発明の詳細な説明の項 説明の項に「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル 基またはアリール基である。」との記載があることは、請求人(原告)主張のとお りである。 しかし、特許請求の範囲の項には、発明の詳細な説明の項に記載したすべての発明 を記載しなければならない理由はなく、その中の一部を選択して記載することがで きる。したがつて、本件発明の詳細な説明の項の記載にもとづいて、特許請求の範 囲の項に記載することができる。 R゛の定義としては、少なくとも次の三つの場合が考えられる。 (イ)R゛は炭素原子を一ないし一八原子含有するアルキル基またはアリール基 (ロ)R゛は炭素原子を一ないし一八原子含有するアルキル基 (ハ)R゛は炭素原子を六ないし一八原子含有するアリール基 してみれば、本件特許請求の範囲の前記記載が当然に(ロ)の誤記であるとはいえ ない。 ところで、明細書を訂正すべき旨の審決が確定すると、訂正後の明細書によつて 特許出願、出願公告、特許をすべき旨の査定または審決および特許権の設定登録が されたものとみなされる効果が生ずるから、訂正はただちに第三者の利害に影響を 及ぼす。さらに、特許法第七〇条の規定があるから、特許出願人は特許請求の範囲 を記載するに当つて特別に細心の注意をするはずであり、しかも「アリール基」と 「アルキル基」とは対立する別異の概念であるから、普通程度の注意をすれば誤記 するはずがないと考えられる。また、本件特許請求の範囲の前記記載は前記(ハ) の誤記であると推認できないわけではない。これらの諸事情と特許法第七〇条の規 定を総合的に考察すると、本件明細書の特許請求の範囲の項の記載内容では、R゛ がアルキル基である場合については特許による保護を要求していないと解すること が第三者の利益に合致すると解される。したがつて、本件明細書の特許請求の範囲 の前記「アリール基」を の項の記載内容では、R゛ がアルキル基である場合については特許による保護を要求していないと解すること が第三者の利益に合致すると解される。したがつて、本件明細書の特許請求の範囲 の前記「アリール基」を「アルキル基」と訂正することは、本件特許による保護範 囲を全面的に変更することとなり、これは特許法第一二六条第二項の「実質上特許 請求の範囲を変更する」ことに該当する。 なお、請求人(原告)は、本件訂正がなされなければ、本件特許は無意味であ り、無効とされるおそれがある、と主張するが、炭素原子を六ないし一八個含有す るアリール基は実存するし、本件特許請求の範囲の前記記載を前記(ハ)のように 訂正することも考えられるので、本件特許は無意味ではなく、無効とされるおそれ もない。 よつて、本件訂正は許可することができない。 四 審決を取消すべき理由 本件訂正審判請求の趣旨が審決認定のとおりであることは争わないが、審決は特 許法第一二六条第二項の解釈を誤つたもので違法である。 (一)特許請求の範囲の記載「A」が「B」の誤記であることが当業者にとつて明 白である場合に、「A」を「B」に訂正することは、特許法第一二六条第二項にい う特許請求の範囲の実質上の変更に該当しない。これは、訂正に利害関係を有する 当業者ならば、訂正前においても、「A」を「B」と読みかえて解釈するであろう からである。そして、特許請求の範囲の誤記が当業者にとつて明白であるか否か は、特許請求の範囲の記載だけでなく、発明の詳細な説明の項の記載、技術文献の 記載や技術常識をしんしやくして判断することができるものである。 (二)炭素原子を一ないし五個含有するアリール基は存在しないところ、本件明細 書の発明の詳細な説明の項には、「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアル キル基またはアリール基である。」との記載があり (二)炭素原子を一ないし五個含有するアリール基は存在しないところ、本件明細 書の発明の詳細な説明の項には、「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアル キル基またはアリール基である。」との記載があり、有機の基のうち炭素原子数の 下限が一であるのはアルキル基だけであるから、本件特許請求の範囲の「R゛は炭 素原子を一ないし一八原子含有するアリール基である」との記載のうち「アリール 基」は「アルキル基」の誤記であると認めなければならない。前記発明の詳細な説 明中の炭素原子数は、アルキル基の炭素原子数だけを限定したものであつて、アリ ール基の炭素原子数を限定したものではない。したがつて、特許請求の範囲の前記 記載のうち「炭素原子を一ないし一八原子」が「炭素原子六ないし一八原子」の誤 記であると認めることはできない。仮にこのように認めるとすると、炭素原子数の 下限を六原子とした理由の説明が明細書中にないから不合理である。したがつて、 特許請求の範囲の前記記載を合理的に解釈するためには、前記のとおり「アリール 基」を「アルキル基」の誤記であると認めるほかに方法がない。 (三)そうだとすると、本件特許請求の範囲の前記記載のうち、「アリール基」が 「アルキル基」の誤記であることは当業者にとつて明白であり、当業者ならば訂正 前においても「アリール基」を「アルキル基」と読みかえて解釈するであろうか ら、「アリール基」を「アルキル基」と訂正することは、特許請求の範囲を実質上 変更することにならない。したがつて、この誤記の訂正が特許法第一二六条第二項 にいう特許請求の範囲の実質上の変更に該当するとした審決は違法であり、取り消 されるべきである。 第三 被告の答弁 一 本件の特許庁における手続の経緯、本件特許の特許財求の範囲、審決理由の要 点が原告主張のとおりであること、炭素原子を一ないし五個含有 た審決は違法であり、取り消 されるべきである。 第三 被告の答弁 一 本件の特許庁における手続の経緯、本件特許の特許財求の範囲、審決理由の要 点が原告主張のとおりであること、炭素原子を一ないし五個含有するアリール基は 存在しないこと、本件明細書の発明の詳細な説明の項に原告主張の記載があるこ と、有機の基のうち炭素原子数の下限が一であるのはアルキル基だけであることは 認める。 原告が審決を取り消すべき事由とする主張のうち、(一)は争わないが、(二) および(三)は争う。 二 炭素原子数が一より少ないアルキル基またはアリール基は存在しないから、炭 素原子数の下限を一に限定することには格別の意義がない。したがつて、前記発明 の詳細な説明の「R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基またはアリ ール基」との記載は、「R゛は一八個以下の炭素原子を含有するアルキル基または 一八個以下の炭素原子を含有するアリール基」と同意義である。また、特許請求の 範囲の「R゛は炭素原子一ないし一八原子含有するアリール基である」との記載 は、「R゛は一八個以下の炭素・子を含有するアリール基である」と同意義であ る。そうだとすると、これを「R゛は一八個以下の炭素原子を含有するアルキル基 である」との趣旨に訂正することは、特許法第一二六条第二項にいう特許請求の範 囲の実質上の変更に該当することが明らかであるから、審決には原告主張の違法は ない。 第四 証拠(省略) 理 由 一、本件に関する特許庁における手続の経緯、本件特許の特許請求の範囲、審決理 由の要点が原告主張のとおりであること、本件訂正審判請求の要旨が審決認定のと おりであることは、当事者間に争いがない。 二、そこで原告主張の審決を取り消すべき事由の有無について判断する。特許法第 一二六条第一項第二号は、明細書の「誤記の訂正 本件訂正審判請求の要旨が審決認定のと おりであることは、当事者間に争いがない。 二、そこで原告主張の審決を取り消すべき事由の有無について判断する。特許法第 一二六条第一項第二号は、明細書の「誤記の訂正」を許しているので、一見明細書 における特許請求の範囲の特定の記載が明細書全体の記載からみて誤記であること が明らかなときは、これを本来書かれる筈であつた記載に訂正することが許されて いるように考えられる。しかし、同条第二項は、この誤記の訂正は「実質上特許請 求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。」と規定しており、こ れは明細書の誤記を訂正することによつて特許発明の技術的範囲、したがつて特許 権の効力の及ぶ範囲に拡張または変更が生じてはならない趣旨であることが明らか である。そして、特許発明の技術的範囲は、明細書の特許請求の範囲に基づいて定 めなければならないものであるから(特許法第七〇条)、同条第二項にいう「実質 上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」であるか否かの判断は、明細書に おける特許請求の範囲の記載を基準としてなされなければならない(最高裁判所昭 和四一年(行ツ)第一号同四七年一二月一四日判決参照)。したがつて、特許請求 の範囲の記載に関する限り、誤記の訂正は、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と 同一の意味を表示するものと当時者その他一般第三者が理解する場合に限つて許さ れることになる。そして、発明の詳細な説明の項の記載は、この点の判断の資料と なる限度においてのみしんしやくされると解さなければならない。これを本件につ いていえば、前示特許請求の範囲のうち「アリール基」という記載が、発明の詳細 な説明の項の記載や化学常識をしんしやくすれば、当然にアルキル基を表示するも のと当業者その他の第三者によつて理解される場合に限り、これをアルキル基に訂 囲のうち「アリール基」という記載が、発明の詳細 な説明の項の記載や化学常識をしんしやくすれば、当然にアルキル基を表示するも のと当業者その他の第三者によつて理解される場合に限り、これをアルキル基に訂 正することが許されるのである。 三 本件明細書の発明の詳細な説明の項に、「R゛は炭素原子を一ないし一八個含 有するアルキル基またはアリール基である。」との記載があることは、当事者間に 争いがない。そして、特許請求の範囲の項には、発明の詳細な説明の項に記載した 発明をすべて記載するとは限らず、そのうちの一部を選択して記載することも可能 であり、またしばしば行われることでもある。したがつて、この記載に基づいて特 許請求の項に記載されるR゛の定義としては、少なくとも次の三者が考えられる。 (イ)R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基またはアリール基であ る (ロ)R゛は炭素原子を一ないし一八個含有するアルキル基である。 (ハ)R゛はアリール基である。 ところで、炭素原子を一ないし五個含有するアリール基は存在しないこと、有機 の基のうち炭素原子の下限が一であるのはアルキル基だけであることは、当事者間 に争いがない。 原告は、この化学常識を理由として、本件特許請求の範囲のR゛の定義は前記 (ロ)の誤記であることが明らかである、と主張する。しかし、この化学常識は、 本件特許請求の範囲のR゛の定義が前記(イ)または(ハ)の誤記であると解する ことを妨げるものではない。そうだとすると、本件特許請求の範囲における「アリ ール基」の記載は、発明の詳細な説明の項の記載や化学常識をしんしやくしても、 当然に「アルキル基」を表示するものとして当業者その他の第三者に理解されると は、到底認めることができない。 以上のとおりであるから、本件訂正は許されないことであり、審決には原告主張 の違法は ても、 当然に「アルキル基」を表示するものとして当業者その他の第三者に理解されると は、到底認めることができない。 以上のとおりであるから、本件訂正は許されないことであり、審決には原告主張 の違法はない。 四、よつて、原告の請求は失当であるから棄却し、行政事件訴訟法第七条、民事訴 訟法第八九条、第一五八条第二項を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官 古関敏正 瀧川叡一 宇野栄一郎) (別紙) 特許請求の範囲 線状のジオルガノポリシロキサン〔このジオルガノポリシロキサンは一般式R2 Sio(この式に於てRは炭化水素基である)で表わされる単位の復数個から成り そしてこのポリシロキサンはその重量の少くとも0.1%の水酸基を含有するもの とする〕と、このポリシロキサンの重量の0.5~25%に当る一般式 RダツシユSi(OCOR゛)3 (この式に於いてRダツシユは低級アルキル基、アルケニル基、アリール基または アリールアルキル基でありそしてR゛は炭素原子を一~一八原子含有するアリール 基である) で表わされる有機トリアシルオキシシランとから成ることを特徴とし、水の存在に 於て硬化することができ、貯蔵中に安定である、水分を含まない流動性組成物。
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