平成11(ネ)953 損害賠償請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年3月5日 名古屋高等裁判所
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判決文本文29,779 文字)

主文 1 一審原告及び控訴人らの控訴をいずれも棄却する。 2 一審被告らの控訴に基づき,原判決主文第一ないし第六項を次のとおり変更する。 (1) 一審被告全員は,一審原告に対し,連帯して,150万8183円及び内金56万2500円に対する昭和54年5月19日から,別紙5の使用損害金(連帯責任別)認容一覧表の「全員」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金47万3750円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 一審被告A,同B,同E,同F,同I,同J及び同Mは,一審原告に対し,連帯して,119万5692円及び内金25万円に対する昭和54年5月19日から,別紙5の使用損害金(連帯責任別)認容一覧表の「被告A,B,E,F,I,J,M」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金47万3750円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 一審被告A,同B及び同Eは,一審原告に対し,連帯して,811万1625円及び内金243万7500円に対する昭和54年5月19日から,別紙5の使用損害金(連帯責任別)認容一覧表の「被告A,B,E」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金284万2500円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 一審被告A及び同Bは,一審原告に対し,連帯して,703万2750円及び内金325万円に対する昭和54年5月19日から,別紙5の使用損害金(連帯責任別)認容一覧表の「被 よる金員を支払え。 (4) 一審被告A及び同Bは,一審原告に対し,連帯して,703万2750円及び内金325万円に対する昭和54年5月19日から,別紙5の使用損害金(連帯責任別)認容一覧表の「被告A,B」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金189万5000円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (5) 一審被告Aは,一審原告に対し,378万2750円及び内金である別紙5の使用損害金(連帯責任別)認容一覧表の「被告A」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金189万5000円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (6) 一審被告Bは,一審原告に対し,25万円及びこれに対する昭和54年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (7) 一審原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,一審原告及び一審被告らに生じた各費用の8分の7並びに控訴人両名に生じた費用全部を,一審原告及び控訴人両名の負担とし,一審原告及び一審被告らに生じた各費用の8分の1を,一審被告らの負担とする。 4 この判決は,主文第2項(1)ないし(6)について,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 一審原告,控訴人N及び同O(1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) 被告Aは,一審原告に対し,1億5547万2454円及び内金6054万4413円に対する昭和54年5月19日から,別紙1の逸失利益請求一覧表の「被告A」欄記載の昭和55年から平成12年ま 。 (2) 被告Aは,一審原告に対し,1億5547万2454円及び内金6054万4413円に対する昭和54年5月19日から,別紙1の逸失利益請求一覧表の「被告A」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金6959万0509円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 一審被告Bは,一審原告に対し,1億1660万4341円及び内金4540万8310円に対する昭和54年5月19日から,別紙1の逸失利益請求一覧表の「B」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金5219万2882円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 一審被告Eは,一審原告に対し,7773万6228円及び内金3027万2207円に対する昭和54年5月19日から,別紙1の逸失利益請求一覧表の「E」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金5219万2882円に対する本判決確定の日の翌日から,内金3479万5255円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (5) 一審被告F,同I,同J及び同Mは,一審原告に対し,それぞれ1943万4058円及び内金756万8052円に対する昭和54年5月19日から,別紙1の逸失利益請求一覧表の「F,I,J,M」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金869万8814円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (6) 一審 ら平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金869万8814円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (6) 一審被告R,同T,同U及び同Vは,一審原告に対し,それぞれ971万7029円及び内金378万4026円に対する昭和54年5月19日から,別紙1の逸失利益請求一覧表の「R,T,U,V」欄記載の昭和55年から平成12年までの各金額に対する同表の「遅延損害金の始期」欄記載の日から,内金434万9407円に対する本判決確定の日の翌日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (7) 一審被告Bは,控訴人両名に対し,それぞれ1125万円及びこれに対する昭和54年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (8) 一審被告R,同T,同U及び同Vは,控訴人両名に対し,それぞれ93万7500円及びこれに対する昭和54年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (9) 訴訟費用は,第1,2審とも,一審被告らの負担とする。 (10) 仮執行宣言 2 一審被告ら(1) 原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。 (2) 一審原告の請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,一審原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,①一審原告が,被告A,P及びQの各訴訟承継人に対し,P,Q及び被告A(以下「Pら3名」という。)が一審原告及び建築業者を相手として,建築中の建物の一部がPの所有地を侵害し,Pら3名の通行を妨害することを理由として,建物建築工事の中止,続行禁止の仮処分を申請し,同仮処分決定を得たことについて,不当な主張で仮処分決定を得て,その後も本案訴訟で不当な応訴を続けたとして,不法行為に基づく損害 することを理由として,建物建築工事の中止,続行禁止の仮処分を申請し,同仮処分決定を得たことについて,不当な主張で仮処分決定を得て,その後も本案訴訟で不当な応訴を続けたとして,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,仮処分決定等により被った損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を,②控訴人らが,Pの訴訟承継人に対し,同様の理由により,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。 なお,一審原告は,当審において,請求を減縮した。 2 当事者間に争いのない事実(1) 一審被告ら(Aを除く。)の訴訟承継関係Pは,平成6年10月25日死亡し,同人の義務は相続により,養子であるW及び実子である一審被告Bが各2分の1の割合で承継した。その後,Wは,平成10年1月29日死亡し,同人の義務は相続により,妻である同Bが8分の4,子である同R,同T,同U及び同Vが各8分の1の割合で承継した。したがって,Pの義務は,同Bが4分の3,同R,同T,同U及び同Vが各16分の1の割合でそれぞれ承継した。 Qは,昭和62年9月19日死亡し,同人の義務は相続により,妻である一審被告Eが8分の4,子である同F,同I,同J及び同Mが各8分の1の割合でそれぞれ承継した。 (2) 土地の所有及び隣接関係原判決別紙物件目録記載一ないし五の各土地の所有関係は,次のとおりである。 土地(同目録番号)略称所有者一及び二の各土地X全体土地一審原告三及び四の各土地控訴人O五の土地Y土地P同記載一ないし五の各土地並びに被告A及びQの各居住家屋の位置関係は,概ね原判決別紙図 各土地X全体土地一審原告三及び四の各土地控訴人O五の土地Y土地P同記載一ないし五の各土地並びに被告A及びQの各居住家屋の位置関係は,概ね原判決別紙図面三記載のとおりであり,原判決別紙物件目録記載二及び四記載の土地(以下「X土地」という。)とY土地は接している。被告A及びQは,X土地とY土地との間を,南側の道路へ出る通路として利用していた。 (3) 一審原告の建物建築とPらによる仮処分申請一審原告は,X全体土地上にあった旧建物(以下「旧X宅」という。)等を解体して,昭和54年2月ころ,同土地上に鉄筋コンクリート造3階建のビル(以下「本件ビル」という。)を建築しようとした。 これに対し,Pは,同年5月14日ころ,本件ビルの西側の一部がY土地に侵入しているとして,一審原告及び建築工事の請負業者を被申請人として,建築工事禁止の仮処分(岐阜地方裁判所大垣支部昭和54年(ヨ)第18号,以下「本件仮処分」という。)を申請し,Pは,同月17日,原判決別紙図面三の4,5,6,7,4の各点を順次直線で結んだ部分の建築工事を中止し,工事を続行してはならない旨の仮処分決定を得た。 (4) 境界紛争に関する判決Pは,昭和54年,本件仮処分の本案訴訟として,一審原告及び控訴人Oらを被告として,土地所有権確認等請求訴訟を提起し(岐阜地方裁判所大垣支部昭和54年(ワ)第101号),一審原告及び控訴人Oは,平成7年,反訴として境界確定訴訟を提起した(同裁判所平成7年(ワ)第54号)。上記訴訟(以下「別件訴訟」という。)につき,岐阜地方裁判所大垣支部は,平成8年3月29日,原判決別紙図面一のS7,S24,C,D,S7の各点を順次直線で結んだ範囲の土地はPの所有であることを確認する,X土地とY土地との境界(以下「 につき,岐阜地方裁判所大垣支部は,平成8年3月29日,原判決別紙図面一のS7,S24,C,D,S7の各点を順次直線で結んだ範囲の土地はPの所有であることを確認する,X土地とY土地との境界(以下「本件境界」という。)を原判決別紙図面一のC点とS24点とを直線で結んだ線(以下「図面一のC-S24線」という。)と確定する旨の判決を言い渡した。 一審原告及び控訴人Oは控訴したが(名古屋高等裁判所平成8年(ネ)第304号),平成9年2月28日控訴棄却の判決が言い渡され,一審原告及び控訴人Oは上告したが(最高裁判所平成9年(オ)第1144号),平成9年9月18日上告棄却の判決が言い渡され,これにより一審判決が確定した。 3 争点及びこれについての当事者の主張(1) 本件仮処分申請及びその後の対応の違法性(一審原告及び控訴人らの主張)① 本件ビルの西側壁面と本件境界との関係別件訴訟で確定された本件境界である図面一のC-S24線は,原判決別紙図面二のG点とH点とを直線で結んだ線(以下「図面二のG-H線」という。)と同じであり,本件ビルの西側壁面は,Y土地に侵入しておらず,本件仮処分申請は理由がなかったものである。 なお,原判決別紙図面二によれば,本件ビルの西側壁面は,本件境界から50㎝以上離れていないことになるが,本件仮処分命令は,民法234条1項違反を理由として発令されたものではないし,Pら3名の各居宅も民法234条1項を遵守しておらず,X全体土地付近は,古くから建物が密集している地域であり,民法234条1項と異なった慣習が存在するから,境界線から50㎝以上離れていないことは何ら問題となるものではない。 ② Pら3名の故意又は過失Pは,とりあえず,P宅雑排水溝の端から東へ1.25mの線を本件境界とし,そこからさらに東へ50㎝ 境界線から50㎝以上離れていないことは何ら問題となるものではない。 ② Pら3名の故意又は過失Pは,とりあえず,P宅雑排水溝の端から東へ1.25mの線を本件境界とし,そこからさらに東へ50㎝の範囲について民法234条を根拠として,本件仮処分を申請したものである。また,Q及び被告Aは,Pと相談の上,本件仮処分において,Pの主張に沿う上申書を提出し,旧X宅とP宅との間にあった通路(以下「本件通路」という。)の幅が約1.25mあり,同人らは本件通路について通行権を有しているが,本件ビルの建築により通行が妨害される旨主張していた。 しかし,X全体土地の南側(道路側)には遅くとも昭和4年までに旧X宅が建築されており,北側には遅くとも昭和31年までにZの建物(以下「旧Z宅」という。)が建築されていた。そして,旧X宅の西側壁面とP宅雑排水溝の端との距離関係は,旧X宅南西角で約90㎝,同北西角で約75㎝であり,旧Z宅の西側壁面とP宅雑排水溝の端との距離関係も約75㎝であった。Pら3名は,いずれも数十年にわたり現地に居住しており,このような建物の位置関係を熟知していた。このような建物の位置関係からすれば,本件境界は,旧X宅及び旧Z宅とP宅との間にあるはずであり,P宅雑排水溝の端から東へ1.25mの線が本件境界であると考える根拠は何もなかったのである。もともと,本件通路は,Pら3名が日常的に通行していたわけではなかった。しかも,一審原告は,本件ビル建築計画に際し,Pとの間で紛争が生じたので,当初計画より建物を東へ約50㎝移動させ,この結果,本件ビルの西側壁面は,P宅雑排水溝の端から約80㎝ないし1m離れることになったのである。 ところが,Pら3名は,故意又は重大な過失により,旧X宅の西側壁面とP宅雑排水溝の端との距離関係が従来1.25mであ 西側壁面は,P宅雑排水溝の端から約80㎝ないし1m離れることになったのである。 ところが,Pら3名は,故意又は重大な過失により,旧X宅の西側壁面とP宅雑排水溝の端との距離関係が従来1.25mであった,本件ビルの西側壁面はY土地に侵入しており,本件通路は日常生活に不可欠な通路であり,本件ビルが建築されると本件通路の通行が著しく困難になる等と虚偽の事実を主張して,Y土地の所有者であるPにおいて,本件仮処分を申請したものである。なお,一審原告は,本件ビル建築工事に際し,X全体土地内に設置されていた天神町南部水道組合の消火栓を,一時的にX土地とY土地との境界付近に移設したが,消火栓自体は通行の妨げとなるものではないし,上記組合と協議して他の場所に移設することが可能であるから,消火栓の存在は本件仮処分申請を正当化するものではない。 さらに,Pは,本案訴訟である別件訴訟においても,主張する境界線を何度も変更して,様々な虚偽の証拠を提出し,Q及び被告AはPを全面的に支援して,長期間にわたり応訴を続けて裁判を長引かせた。 ③ したがって,Pら3名は,一審原告及び控訴人らに対し,共同して不法行為責任を負うことを免れない。 (一審被告らの主張)別件訴訟において確定した本件境界は,Pが本件仮処分申請において主張した境界線と異なるが,一審原告及び控訴人Oが主張した境界線とも異なるものである。したがって,Pは,本件仮処分事件の本案訴訟で全面的に敗訴したわけではない。別件訴訟で確定された本件境界は,公簿面積と実測面積との相違分を,分筆前の公図の原始地番を基準として割り振る等したαの鑑定結果(以下「α鑑定」という。)に基づいたものであり,絶対的な基準があって境界を確定したものではない。このように,専門的手法を用いなければ境界を確定できなかったというこ 準として割り振る等したαの鑑定結果(以下「α鑑定」という。)に基づいたものであり,絶対的な基準があって境界を確定したものではない。このように,専門的手法を用いなければ境界を確定できなかったということは,Pら3名において,Pの主張線が境界であると考えたことは無理のないことであった。なお,一審原告及び控訴人らは,図面一のC-S24線と,図面二のG-H線が同じである旨主張するが,そのように認めるべき根拠はない。 また,一審原告は,本件ビルの建築に際し,消火栓をY土地に移設したうえで,別件訴訟で確定した境界を越えて通路を損壊し,Pら3名が本件通路を通行できない状態にして,Pの抗議にもかかわらず,工事を強行しようとしたので,Pら3名は,正確な測量ができない状態で,緊急にPにおいて本件仮処分申請をせざるを得なかったのである。 したがって,本件仮処分申請に違法性はなく,Pら3名に故意又は過失は認められない。 (2) 一審原告及び控訴人らの損害額(一審原告及び控訴人らの主張)① 総論本件仮処分決定では,原判決別紙図面三の4,5,6,7,4の各点を順次直線で結んだ部分の建築続行禁止が命令されたが,これは原判決別紙図面二のK点とL点とを結ぶ直線(以下「図面二のK-L線」という。)の西側である。原判決別紙図面三の5点と4点とを結ぶ直線(以下「図面三の5-4線」という。)と,図面二のK-L線が同一である根拠は,次のとおりである。本件仮処分申請の疎明資料である上申書によれば,原判決別紙図面三の2点と1点とを結ぶ直線は,私道の西端コンクリートが約15㎝高くなっている線である旨の説明がなされている。コンクリートが約15㎝高くなっている線は,現地の状況からみて,P宅の雑排水溝の東側壁面であることは明らかである。そして,この雑排水溝は現存している ㎝高くなっている線である旨の説明がなされている。コンクリートが約15㎝高くなっている線は,現地の状況からみて,P宅の雑排水溝の東側壁面であることは明らかである。そして,この雑排水溝は現存しているから,その東側壁面から1.25m東の線を測量することにより,図面三の5-4線を現地で特定することができるのであり,その線が図面二のK-L線である。したがって,本件仮処分決定により,本件ビルの西側部分(南西部分で32.2㎝,北西部分で約54.8㎝)が建築不能となったものである。 本件ビルは,計画では3階建て延床面積約450.36㎡であったが,本件仮処分決定が一審原告に送達された時点において,基礎工事が完成し,1階部分の柱の鉄筋が組まれていた状態であったため,一審原告は,西側一室分30.11㎡(3階までの全体の床面積としては90.33㎡)について建築工事を中断し,それ以外の部分の建築工事を続行せざるを得なかった(以下,この建築を中断した部分を「本件ビル建築中止部分」という。)。 すなわち,本件ビル全体を東側に移動させて建築することは,既に建築された地中梁を全て撤去したうえ,改めて設計を行い,建築確認を経たうえで,基礎工事からやり直す必要があり,莫大な費用を要し,かつ本件ビルの完成が大幅に遅延することになり,また,一審原告は,本件ビル建築中止部分を1階から3階まで加工場として利用する予定であったので,計画床面積が必要であり,本件ビル建築中止部分を縮小して半永久的な建物を建築することはできず,本件紛争が解決した後に,本件ビル建築中止部分を増築することとせざるを得なかったのである。 したがって,一審原告が,本件ビル建築中止部分のみの建築を中断したことは相当な措置であった。 ② 本件ビルの割高工事分 554万4413円本件ビルの請負 せざるを得なかったのである。 したがって,一審原告が,本件ビル建築中止部分のみの建築を中断したことは相当な措置であった。 ② 本件ビルの割高工事分 554万4413円本件ビルの請負工事の契約代金額は,延床面積450.36㎡で3120万2378円であった。実際に建築された本件ビルは延床面積360.03㎡となったので,床面積で金額を按分計算すると,次の計算式のとおり,本来は2494万4027円の工事代金となったはずである。 31,202,378× 360.03÷ 450.36≒ 24,944,027ところが,実際に請負工事業者である太陽工業株式会社に支払われた工事代金は3048万8440円であった。この差額554万4413円は,本件仮処分によりそれまでになされていた基礎工事と鉄筋工事の出来高分や一部建築された西側壁面の養生費,工事遅延による追加費用分であり,本件仮処分により割高となった建築工事費用である。 ③ 本件ビルの一部使用不能による損害第1次主張  2533万7532円第2次主張 945万0168円(第1次主張)一審原告は,本件ビル建築中止部分の内,1階及び2階部分を,高圧機器の加工場兼倉庫として,3階部分を,小型の配電盤等の加工場兼倉庫として,それぞれ利用する予定であったが,本件ビル建築中止部分が建築できなかったため,これら加工業務を行うことができなかった。本来,これら加工業務は,一審原告の営業売上全体の5%を占め,その9割が利益となることが見込まれたものである。したがって,一審原告は,昭和55年から平成4年までの間,売上高の4.5%相当額の損害を被ったことになり,その金額は別紙1の逸失利益請求一覧表の「被告A」欄記載のとおりである。 また,一審原告は,平成5年6月1日,有限会社X電気商 から平成4年までの間,売上高の4.5%相当額の損害を被ったことになり,その金額は別紙1の逸失利益請求一覧表の「被告A」欄記載のとおりである。 また,一審原告は,平成5年6月1日,有限会社X電気商会を設立して,その事業を法人化したので,以後は,一審原告が有限会社X電気商会に対し,本件ビル建築中止部分を賃貸して,賃料収入を得ることができたものである。そこで,平成5年以後は,本件ビル建築中止部分を賃貸できなかったことによる損害が発生することになる。平成10年現在において,当初建築予定だった本件ビルを賃貸した場合に得られる利益は年間100万3285円,本件ビルの既存部分を賃貸した場合に得られる利益は年間46万5280円であるから,本件ビル建築中止部分を賃貸できなかったことにより年間53万8005円の損害が発生していることになる。平成9年以前は,毎年の賃料上昇率により逆算することにより,平成11年と平成12年は平成10年と同額として,算定すべきである。その結果,平成5年から平成12年までの毎年の損害額は,別紙1の逸失利益請求一覧表の「被告A」欄記載のとおりである。 そうすると,昭和55年から平成12年までの損害額は,別紙1の逸失利益請求一覧表の「被告A」欄記載のとおり,合計2533万7532円となる。 (第2次主張)昭和55年から平成4年までについて,本件ビル建築中止部分を加工業務に使用できた場合に得られる利益による損害が認められないとしても,昭和55年から平成12年までの全期間において,本件ビル建築中止部分を賃貸できなかったことによる損害額は認められるべきである。 そこで,平成10年現在における53万8005円を基礎として,平成9年以前は毎年の賃料上昇率により逆算することにより,平成11年と平成12年は平成10年と同額として 害額は認められるべきである。 そこで,平成10年現在における53万8005円を基礎として,平成9年以前は毎年の賃料上昇率により逆算することにより,平成11年と平成12年は平成10年と同額として算定すると,別紙2の逸失賃料請求一覧表の「被告A」欄記載のとおり,昭和55年から平成12年までの損害額は,合計945万0168円となる。 ④ 本件ビルの復元(再建築)費用第1次主張  6959万0509円第2次主張 948万4490円(第1次主張)本件ビル建築中止部分を現段階で増築しようとすると,本件ビルの既存部分についても,現在の耐震設計の基準に適合し,かつ現行の建築基準法の適用を受けることになるが,本件ビルの既存部分は多くの部分で現行の法令基準に不適合であるため,本件ビル建築中止部分を現段階で増築することは,不可能である。一方,本件ビルの既存部分をこのまま利用することは,西側端部の柱や梁が,本件ビル建築中止部分がすぐに増築されることを前提として,当初設計のまま施工されており,構造上危険なままで,特に2,3階の西側壁がブロックを単に積み上げた状態で放置されていることや,使用上も不便であることから許されず,一方では現在の基準に適合するように補強工事をすることも不可能である。 そうすると,本件ビルを原状に回復する方法としては,本件ビルの既存部分を取り壊したうえ,昭和54年の当初設計どおりの規模,材料で,現行の建築基準法に適合するように建築するほかない。その建築費用としては,9771万2890円(消費税別)を要する。もっとも,現時点で再建築するとすれば,昭和54年に建築した場合と比べて,ビルの耐用年数が21年延びることになるから,再建築された建物の耐用年数から21年を控除した年数分が損害となる。鉄筋コ する。もっとも,現時点で再建築するとすれば,昭和54年に建築した場合と比べて,ビルの耐用年数が21年延びることになるから,再建築された建物の耐用年数から21年を控除した年数分が損害となる。鉄筋コンクリート造のビルの耐用年数は一般に50年であるから,建築費用の内50分の29に相当する金額に消費税を加算すると,次の計算式のとおり,5950万7149円となる。 97,712,890×29÷50≒ 56,673,47656,673,476×1.05≒ 59,507,149また,本件ビルを再建築するには概ね1年を要し,この間X電気商会の仮店舗及び仮事務所,一審原告の仮居宅を備えた仮設ハウスを建築,利用することが必要であり,その費用には1008万3360円を要する。 したがって,損害額は,合計6959万0509円となる。 (第2次主張)仮に,本件ビルを再建築するための費用が損害として認められないとすれば,一審原告は,将来にわたって本件ビルの既存部分に居住して営業を続けることになる。この場合には,本件ビルの既存部分の今後の耐用年数である29年間にわたり,本件ビル建築中止部分を利用することができないことになるから,本件ビル建築中止部分を賃貸できないことによる年53万8005円の損害が,今後29年間にわたり生じることになる。そこで,今後も利用できないことによる賃料相当額の損害は,中間利息の控除について,新ホフマン係数を採用すると,次の計算式のとおり,948万4490円となる。 538,005× 17.629≒ 9,484,490⑤ 一審原告の慰謝料 5000万円一審原告にとって,本件ビルの建築は半生をかけた大事業であった。上記(1)のとおり,一審原告は 538,005× 17.629≒ 9,484,490⑤ 一審原告の慰謝料 5000万円一審原告にとって,本件ビルの建築は半生をかけた大事業であった。上記(1)のとおり,一審原告は,Pとの紛争を回避するため,本件ビルの建築位置を変更したが,Pら3名は,虚偽の事実を主張して,本件仮処分を申請し,本件仮処分決定を得た。そして,Pは,本件仮処分申請事件の本案訴訟である別件訴訟において,主張する境界線を何度も変更するなどして裁判を長期化させ,被告A及びQの意を受けた一審被告Eは,Pを全面的に支援し,証人として敢えて偽証とも思われる証言を繰り返した。そのため,一審原告は,19年間にわたり訴訟活動を続けるために多額の費用と時間及び労務を要し,この間の心労も考慮すると,もはや到底金銭では換算できない。更に,一審原告は,本件仮処分以来,自己が経営してきた電気工事業についても,自治体や取引先から受注を減らされ,仕事に行った先々で裁判のことを聞かれるなどの不利益や苦痛を味わい,a町という田舎の閉鎖的な地域社会の中で常に住民らから非難がましい眼で見られ肩身の狭い思いを続けてきた。一審原告の後半生は,訴訟により完全に破壊され悲惨なものに変質してしまい,その物心両面のダメージはもはや回復困難である。 これらの一審原告の社会的,精神的苦痛に対する慰謝料は,5000万円を下らない。 ⑥ 一審原告の弁護士費用 500万円一審原告は,本件仮処分事件への対応,別件訴訟及び本件訴訟の遂行のため,弁護士に委任せざるを得ず,その費用として500万円の損害を被った。 ⑦ 以上によれば,一審原告の損害合計額は,次のようになる。 ア上記③及び④についていずれも第1次主張の損害額が認められた場合 1億5547万2454円イ上記③につい を被った。 ⑦ 以上によれば,一審原告の損害合計額は,次のようになる。 ア上記③及び④についていずれも第1次主張の損害額が認められた場合 1億5547万2454円イ上記③について第2次主張,上記④について第1次主張の各損害額が認められた場合  1億3958万5090円ウ上記③について第1次主張,上記④について第2次主張の各損害額が認められた場合 9536万6435円エ上記③及び④についていずれも第2次主張の損害額が認められた場合 7947万9071円遅延損害金については,上記③の損害について,別紙1の逸失利益請求一覧表又は別紙2の逸失賃料請求一覧表記載の各金額についてそれに対応する各「遅延損害金の始期」欄記載の日から,上記④の損害について,本判決確定の日の翌日から,その他の損害について,本件仮処分決定の日の後である昭和54年5月19日から,それぞれ認められるべきである。 ⑧ 控訴人Nの慰謝料 1500万円控訴人Nは,一審原告の妻である。控訴人Nは,本件紛争の当初から一審原告に対し,譲歩して紛争を回避するよう懇願し,紛争解決の努力を重ねてきたが,Pの不誠実かつ根拠のない好戦的な対応により,その後19年間にわたり裁判が係属することとなった。この間,控訴人Nは,付近住民や取引先,親戚等から公然と又は陰口で,別件裁判及び本件裁判についての非難や質問を一身に受け,昭和57年ころには心労で数週間にわたり寝込んだこともあったし,地域社会からは村八分的ないわれのない差別を受け続けてきた。 これらの事情によれば,控訴人Nの被った精神的苦痛に対する慰謝料は,1500万円が相当である。 ⑨ 控訴人Oの慰謝料 1500万円控訴人Oは,X全体土地の一部の所有者であり,別件訴 これらの事情によれば,控訴人Nの被った精神的苦痛に対する慰謝料は,1500万円が相当である。 ⑨ 控訴人Oの慰謝料 1500万円控訴人Oは,X全体土地の一部の所有者であり,別件訴訟の当事者であった。また,控訴人Oは,一審原告の後継者として,一審原告の営む電気工事業に従事し,現在は有限会社X電気商会を経営している。控訴人Oも,別件裁判及び本件裁判の当事者として,裁判所への出頭や弁護士事務所での打合せのために本業の休業を多数回にわたり余儀なくされたうえ,電気工事の受注が減らされ経営維持のために苦しみ続けた。更に,近隣に居住していたPらが悪い評判を宣伝したために,付近住民やa町民から白眼視され,家族を含めて肩身の狭い思いで耐えて生活してきた。控訴人Oも,まさに伸びんとする時期に重大なダメージを受け,しかもこれが19年間にわたって継続した。 これらの事情によれば,控訴人Oの被った精神的苦痛に対する慰謝料は,1500万円が相当である。 (一審被告らの主張)① 本件ビル建築中止部分の建築を中止する必要性について本件仮処分により,建築が禁止されたのは,本件ビルの北西角の柱及び西側壁部分であり,南西角の柱は禁止の対象となっていない。一審原告及び控訴人らは,原判決別紙図面三の番号4,5,6,7,4の各点を順次直線で結んだ部分と,図面二のK-L線の西側が同じである旨主張しているが,原判決別紙図面三の番号4,5,6,7,4の各点を現地で特定することは不可能なはずであり,上記主張は理由がない。したがって,一審原告は,北西角部分のみを移動させて,本件ビルを建築することができたのであり,そうすることは技術的にも容易であった。それにもかかわらず,一審原告が,本件ビル建築中止部分の建築を取り止めたのは,一審原告の都合によるもので 移動させて,本件ビルを建築することができたのであり,そうすることは技術的にも容易であった。それにもかかわらず,一審原告が,本件ビル建築中止部分の建築を取り止めたのは,一審原告の都合によるものであるから,それを前提として,損害賠償を請求することはできない。 ② 本件ビルの一部使用不能による損害について一審原告は,本件ビル建築中止部分を利用できなかったことによる損害を主張している。しかし,本件ビルは,玄関が1つしかなく,賃借人が利用できる外階段も設置されておらず,独立したトイレや台所もないから,本件ビルの一部を店舗や住居として賃貸することは不可能であり,本件ビルは全て一審原告が自ら使用することを前提として建築されたものである。したがって,本件ビルを賃貸用の店舗共同住宅,全部店舗共同賃貸住宅と同様な建物とみなして,逸失利益や逸失賃料を算定することはできない。 また,本件ビルの所在する付近は,昭和50年ころから急速に寂れており,本件ビル付近の道路は狭く,別の場所に国道417号線が開通して以来,駐車場のとれない本件ビルを事務所として賃貸することは現実的に不可能である。したがって,国道417号線に面した場所に建築されている建物と同様に,賃貸できたことを前提として損害を算定することはできない。 ③ 別件訴訟の長期化の原因について別件訴訟が19年間もの長期間にわたり係属した原因は,一審原告及び控訴人Oが,和解交渉において法外な金額に固執し,控訴及び上告をしたことにある。したがって,別件訴訟が長期間係属したことを,損害の算定に際して考慮することは許されない。 ④ 損益相殺一審原告は,本件ビル建築中止部分の空き地を,実際には,資材置場及び駐車場として利用してきた。したがって,仮に,一審被告らが損害賠償責任を負うとしても,一審原告がこの は許されない。 ④ 損益相殺一審原告は,本件ビル建築中止部分の空き地を,実際には,資材置場及び駐車場として利用してきた。したがって,仮に,一審被告らが損害賠償責任を負うとしても,一審原告がこの利用によって得た利益分を損益相殺すべきである。 ⑤ Q及び被告Aの責任の程度について(被告A及びQの訴訟承継人らの主張)仮に,Q及び被告Aに責任が認められるとしても,Q及び被告Aは,Pと同様の責任を負うものではない。すなわち,Q及び被告Aは,本件仮処分申請に協力して,保証金300万円のうち,それぞれ100万円を負担したが,仮処分申請を積極的に勧めたわけではなく,代理人として選任した菅原弁護士の報酬についてはごく一部しか負担していないし,別件訴訟の当事者ではない。したがって,Q及び被告Aは,少なくとも慰謝料や弁護士費用の点において,Pと同額の責任を負うものではない。 第3 当裁判所の判断 1 本件ビルの西側壁がY土地に越境していたのかどうかについて判断する。 (1) 甲80,88ないし90号証及び当審における証人βの証言によれば,次の事実が認められる。 土地家屋調査士であるβは,一審原告から依頼を受け,別件訴訟で境界と確定された図面一のC-S24線,本件ビルの西側柱,本件仮処分決定で建築続行禁止が命じられた図面三の5-4線の相互の位置関係を明確にするため,以下の方法により調査した。 図面一のC-S24線は,α鑑定による線であるので,βが,同図面で示されている基準点を現地で確認し,各地点を測量したところ,その座標軸はα鑑定のそれと誤差の範囲内で一致した。そこで,図面一のC-S24線を図面二のG-H線として表示した。ただし,S24点とH点は同一の点であるが,C点とG点とは異なっており,正確には,図面一のC-S24線は,図面二のG- 囲内で一致した。そこで,図面一のC-S24線を図面二のG-H線として表示した。ただし,S24点とH点は同一の点であるが,C点とG点とは異なっており,正確には,図面一のC-S24線は,図面二のG-H線の一部となる。 本件ビルの西側壁は,本件ビルの既存部分の外壁線を実測したところ,設計図どおりに建築されていたため,設計図に基づいて壁中心線を特定し,壁の厚さの半分を加え,基礎工事に必要な範囲を考慮して,西側壁から15㎝西側の線を本件ビルの建築に必要な西側線として求めた。その線が原判決別紙図面二のD点とC点とを直線で結んだ線である。このようにして求めた線は,現場に残っている西側柱の基礎部分の位置とも符合した。 図面三の5-4線については,現地に存在するP方の東側の排水溝が10ないし15㎝の深さになっていたことから,この排水溝の東壁面の線から1.25mの地点として求めたところ,図面二のK-L線となった。正確には,図面三の5-4線は,図面二のK-L線の一部となる。 (2) これに対し,一審被告らは,図面一のC-S24線と図面二のG-H線,図面三の5-4線と図面二のK-L線がそれぞれ同じであるとはいえない旨主張している。 しかし,原判決別紙図面二の作成経緯は,上記(1)のとおりであって,専門家が現地測量による座標軸とα鑑定のそれを照合しながら技術的に作成したもので,その手法からして正確なものであると認められる。 そもそも,甲90号証によれば,α鑑定においても,本件ビルの北西柱及び南西柱は,いずれもX土地の中に位置するものとして記載されていることが認められる。また,甲1及び2号証によれば,Pは,本件仮処分申請において,図面三の5-4線について,私道の西端でコンクリートが約15㎝高くなったところの線から東に1.25mの距離にある直線と主張 が認められる。また,甲1及び2号証によれば,Pは,本件仮処分申請において,図面三の5-4線について,私道の西端でコンクリートが約15㎝高くなったところの線から東に1.25mの距離にある直線と主張していたことが認められ,甲43号証の30,34,甲77号証及び125号証の写真⑥,⑦によれば,P方の東側に高さ10ないし15㎝程度のコンクリート蓋のある排水溝が本件仮処分当時から存在していたことが認められるから,図面三の5-4線と図面二のK-L線が一致することにも問題はないといえる。 したがって,一審被告らの上記主張は,理由がない。 (3) そうすると,本件ビルの西側壁は,Y土地に越境していなかったと認められる。 2 一審被告らの損害賠償責任の有無について判断する。 (1) 本件ビルの西側壁がY土地に越境していなかった以上,一審原告がY土地に越境して本件ビルを建築しようとしていることを理由として,所有権に基づいてなされた本件仮処分申請は理由がなかったことになるし,本件通路もY土地内にあることが前提であるから,通行権の妨害を理由とする本件仮処分申請も同様である。なお,甲80号証によれば,本件ビルの西側壁は,本件境界から50㎝以上離れていなかったことが認められ,民法234条1項違反が問題となる。しかし,甲1及び2号証によれば,Pは,本件仮処分申請において,本件ビルのうち図面三の5-4線より西側部分の建築禁止を求める理由として,本件ビルの一部がY土地に越境して,本件通路の通行を妨害していることを主として主張していたことが認められるし,甲8,21及び90号証によれば,被告Aの建物も境界から50㎝以上離れていない可能性が高く,甲85及び86号証によれば,本件ビルの所在する地域は建物が密集しており,隣の建物との間が接着している例も多いことが認められ 号証によれば,被告Aの建物も境界から50㎝以上離れていない可能性が高く,甲85及び86号証によれば,本件ビルの所在する地域は建物が密集しており,隣の建物との間が接着している例も多いことが認められるから,民法234条1項違反があったとしても,本件仮処分申請が理由があったことになるものではない。 したがって,本件仮処分決定が本案訴訟において理由がなかったことが確定した以上,特段の事情がない限り,本件仮処分申請をしたP並びにPの主張内容と同旨の上申書を提出して仮処分発令を要請したQ及び被告Aにおいて,本件仮処分申請が理由がないことについて故意又は過失があったものと推認するのが相当である。 一審被告らは,別件訴訟において確定した本件境界は,Pが本件仮処分申請において主張した境界線と異なるが,一審原告及び控訴人Oが主張した境界線とも異なるものであるから,Pが本件仮処分事件の本案訴訟で全面的に敗訴したわけではなく,故意又は過失を推認することはできない旨主張する。しかし,本件で問題となるのは,本件仮処分申請が理由がないことについての故意又は過失の判断であって,双方の境界線の主張についての故意又は過失の判断ではないから,確定した境界によれば本件仮処分申請が理由があったのかどうかの観点から考えるべきものであり,一審被告らの上記主張は理由がない。 そこで,以下,上記特段の事情が認められるか否かについて検討する。 (2) 甲6及び90号証によれば,別件訴訟において確定された本件境界は,結論としてはα鑑定を採用したものであり,α鑑定は,分筆前の旧b字街道中470番土地全体の公簿面積と実測面積とを対比し,本件境界を延長した線より東側(X土地側)と西側(Y土地側)において,それぞれの公簿面積と実測面積との比率がほぼ均等になるようにして境界を求め 街道中470番土地全体の公簿面積と実測面積とを対比し,本件境界を延長した線より東側(X土地側)と西側(Y土地側)において,それぞれの公簿面積と実測面積との比率がほぼ均等になるようにして境界を求めたことが認められる。ところで,甲6号証によれば,別件訴訟においては,X土地,Y土地及び周囲の土地について,過去の利用状況を認定したうえ,α鑑定によって求められた境界が,P宅の東縁の基礎コンクリートに埋まっている二本の鉄筋棒から東に約60㎝の距離にあり,被告A方土間コンクリート西縁とほぼ重なり合うことから,α鑑定が相当として採用されたものであることが認められる。 一審被告らは,専門的手法を用いなければ本件境界を確定できなかったのであるから,Pら3名において,Pの主張線が境界であると考えたことは無理のないことであった旨主張する。しかし,上記のとおり,α鑑定そのものは専門的手法を用いたものであるが,別件訴訟における判断の基本となったのは従来の係争地付近の利用状況であるから,Pら3名において,本件境界を判断することがおよそ困難であったといえるものではなく,一審被告らの上記主張は理由がない。 (3) そこで,Pら3名において,境界線についてどのような主張をしていたのかについて検討する。 甲1,2及び33号証によれば,本件仮処分事件において,Pら3名は,本件境界はP方東側にある排水溝東端から東へ1.25mの線であり,その理由として,Y土地の東側をコンクリート舗装して,Q,被告A及びZが20数年前から利用していた幅1.25mの本件通路があって,本件通路の東端が本件境界である旨を主張し,別件訴訟の訴状においても,Pは,本件境界は本件通路の西端から東へ1.25mの線であると主張していたことが認められる。そして,甲8,9及び18ないし25号証によれば, 端が本件境界である旨を主張し,別件訴訟の訴状においても,Pは,本件境界は本件通路の西端から東へ1.25mの線であると主張していたことが認められる。そして,甲8,9及び18ないし25号証によれば,Pら3名は,本件仮処分申請当時,旧X宅とPの旧建物との間に通路があり,その通路はY土地に含まれていたところ,昭和4ないし5年ころ,一審原告の先代がトイレを増設したため,旧X宅がY土地に大きく越境して,本件通路を塞ぐようになったものであり,Y土地にあったPの旧建物を取り壊して現在の建物を建築した結果,再び通行できるようになり,本件仮処分申請当時の本件通路の状況になった旨の認識を有していたことが認められる。 確かに,甲8,9,18ないし25及び125号証によれば,本件通路の幅は,旧X宅とP宅との間が最も狭くなっていたことが認められる。しかし,甲124,125,130号証及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,旧X宅が存在していた当時,本件通路の幅は南側の公道に接する部分では約90㎝しかなかったこと,旧X宅は昭和4年8月に保存登記されているが,トイレは二階建建物の一階西側に建築当初からあったものであり,一審原告においてP方に対し,Y土地を使用していることを理由として一定の金銭を支払ったこともないことが認められる。そうすると,本件通路の幅が最も狭い部分でも1.25mあったとは認められないし,トイレだけが西側に突き出すように増築されたとも認められない。甲8,9及び18ないし25号証によれば,Pら3名は,本件係争地付近に長年にわたり居住し,本件通路を利用していたことが認められるから,本件通路の幅は十分認識することができたはずである。また,Pら3名において,旧X宅がY土地に越境して建築されていると信じたとしても,そうだとすれば,本件仮処分申 を利用していたことが認められるから,本件通路の幅は十分認識することができたはずである。また,Pら3名において,旧X宅がY土地に越境して建築されていると信じたとしても,そうだとすれば,本件仮処分申請当時において,一審原告は約50年にわたって何らの使用料を支払うことなく,Y土地の一部を占有してきたことになるから,約50年にわたって継続した事実を覆して,所有権や通行権の主張をすることが容易でないことは,通常考慮することができるものである。 (4) なお,一審被告らは,一審原告が本件ビルの建築に際して消火栓を本件通路中央付近に移設して,Pら3名が本件通路を通行できない状態にしたことを,本件仮処分申請の正当性の事由として主張している。 甲9,18ないし20,43号証及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,一審原告は,本件ビルの建築に際して,消火栓を一時的に本件通路の中央付近に移設したが,最終的には設置者である水道組合と協議して消火栓の設置場所を決めるつもりであったことが認められる。甲95ないし97,105ないし108号証によれば,この消火栓は,Wが水道組合の役員をしていた際に,町の補助金の交付を受けて設置したものであることが認められるから,Pは,一審原告の同意がなくても消火栓を別の場所に移設することが可能であることを知っていたものと推認されるし,消火栓のために本件通路がおよそ歩行すらできない状態になったとまでは認められない。また,一審被告らは,一審原告が本件境界を越えて本件通路のコンクリートを損壊したことも,本件仮処分申請の正当性の事由として主張している。しかし,一審原告が本件ビル建設工事のために,本件通路のコンクリートを損壊したとしても,工事終了後に補修するよう要求すれば足りるものであり,工事期間中に本件通路の通行にある程度不自 て主張している。しかし,一審原告が本件ビル建設工事のために,本件通路のコンクリートを損壊したとしても,工事終了後に補修するよう要求すれば足りるものであり,工事期間中に本件通路の通行にある程度不自由するとしても,受忍すべきものであるから,上記特別の事情に該当するものではない。 (5) 以上に判断した事情によれば,Pら3名において,上記特段の事情があったということはできず,本件仮処分申請が理由がないことについて故意又は過失があったものと認められる。 3 一審原告の損害額について判断する。 (1) 一審原告が本件ビル建築中止部分のみの建築を中断したことの相当性について甲125号証及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,本件仮処分決定が一審原告に送達された時点では,本件ビルは基礎工事が完成し,1階部分の柱の鉄筋が組まれていた状態であったため,一審原告は,本件ビル建築中止部分について建築工事を中断し,それ以外の部分の建築工事を続行することにしたことが認められる。 一審被告らは,本件仮処分により建築が禁止されたのは,本件ビルの北西角の柱及び西側壁部分であり,南西角の柱は禁止の対象となっていない旨主張するが,甲80号証及び当審における証人βの証言によれば,南西角の柱も禁止の対象となったことが認められるから,上記主張は採用できない。そして,当審における証人γの証言及び弁論の全趣旨によれば,本件仮処分決定当時,本件ビルの基礎工事が既に完成していた以上,仮に本件仮処分決定に抵触しないように本件ビルを全体的に東側に移動して建築し,又は西側部分のみを縮小して建築しようとすれば,全体的に設計を変更し,既に施工した基礎を撤去して,新たに基礎工事から施工する必要があり,多額の費用を要することが認められる。また,当審における一審原告本人尋問の のみを縮小して建築しようとすれば,全体的に設計を変更し,既に施工した基礎を撤去して,新たに基礎工事から施工する必要があり,多額の費用を要することが認められる。また,当審における一審原告本人尋問の結果によれば,本件仮処分決定当時,一審原告は,本件ビルの西側部分のみを縮小すると,加工場として利用することが困難になるので,それは回避したいと考え,Pら3名との本件ビル建築を巡る紛争は,比較的早期に解決でき,その後に本件ビル建築中止部分を施工できるものと予想していたことが認められるが,上記2認定のとおり,本件ビルの建築によっても本件通路の幅に大きな変化がなかった以上,一審原告がそのように予想したとしてもやむを得ないものであったといえる。 そうすると,一審原告が本件ビル建築中止部分のみの建築を中断したことが誤った又は不必要な対応であったとはいえないので,これを前提として損害額を算定するのが相当である。 (2) 本件ビルの割高工事分について甲28号証の1ないし5,甲62ないし64及び71号証によれば,本件ビルの請負工事の契約代金額は,延床面積が450.36㎡で3120万2378円であったが,本件建築中止部分の施工を途中で中止したため割高となり,実際に施工した延床面積は360.03㎡で,太陽工業株式会社に支払われた請負代金は3048万8440円であったことが認められる。 一審原告は,本件ビルの既存部分に関する本来の請負代金を,建築予定の床面積と実際に建築した床面積で按分計算した2494万4027円と算定し,実際に支払った請負代金との差額554万4413円を損害として請求しているが,甲28号証の1ないし5によれば,本件建築中止部分は倉庫として設計されていたが,本件ビルの既存部分は居室,台所,トイレ及び店舗等として設計されていたことが認 万4413円を損害として請求しているが,甲28号証の1ないし5によれば,本件建築中止部分は倉庫として設計されていたが,本件ビルの既存部分は居室,台所,トイレ及び店舗等として設計されていたことが認められるから,本件建築中止部分と本件ビルの既存部分との建築単価が同一であったとは認められず,上記方法で算定した金額を割高工事分による損害として認めることはできない。しかし,本件建築中止部分の施工を途中で中止したため,その施工部分の工事費用が無用な支出になったことは明らかであり,甲71号証によれば,その部分の工事費用は224万1200円であったことが認められる。実際に支払った請負代金3048万8440円から224万1200円を控除した2824万7240円が,本件ビルの既存部分に要した請負代金となるが,本件ビルの既存部分の工事費用が割高となったことは,上記のとおり認められるので,上記床面積で按分計算した金額2494万4027円との差額約330万円の概ね半額が,本件建築中止部分の建築を中止したために割高となった工事費用と認めるのが相当である。そこで,本件建築中止部分の途中までの施工費用224万1200円と合計して400万円の損害を被ったものと認めるのが相当である。 (3) 本件ビルの一部使用不能による損害について甲28号証の1ないし5並びに原審及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,一審原告は,本件ビル建築中止部分を自らが営んでいた電気工事業のための加工場及び倉庫として使用する予定であったが,本件ビル建築中止部分を建築することができなかったため,本件ビルの既存部分及び一審原告所有の他の不動産を倉庫として使用し,加工業務については行わなかったことが認められる。 一審原告は,第1次的に,本件ビル建築中止部分で加工業務を行うことが ったため,本件ビルの既存部分及び一審原告所有の他の不動産を倉庫として使用し,加工業務については行わなかったことが認められる。 一審原告は,第1次的に,本件ビル建築中止部分で加工業務を行うことができれば,一審原告の営業売上全体の5%を占め,その9割が利益となることが見込まれた旨主張する。しかし,その根拠については,一審原告が,原審及び当審における本人尋問において,長年にわたる電気工事業の経験によるものと供述するのみであり,加工業務を行った実績がないのであるから,一審原告が第1次主張のような利益を得ることができたとは認められない。 次に,一審原告は,第2次的に,本件ビル建築中止部分を賃貸できなかったことによる損害額を主張する。この点について,一審被告らは,本件ビルは賃貸用として建築されたものではなく,現実に本件ビル建築中止部分を賃貸することは不可能であったから,賃貸できなかったことによる損害を認めることはできない旨主張する。確かに,甲28号証の1ないし3及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,一審原告は,本件ビルを自らの店舗兼住居として建築したものであり,本件ビルの一部を賃貸することは計画しておらず,建物の間取りからみても,本件ビルの一部を賃貸することは困難であることが認められる。しかし,不動産を使用できなかったことによる損害は,その不動産が賃貸目的で建築されたものでなくても,賃料相当額で算定すべきものであり,本件の場合,当初設計どおりの本件ビル全部又は本件ビルの既存部分を賃貸することは可能であるから,本件ビル全部を賃貸したと仮定した場合と,本件ビルの既存部分のみを賃貸したと仮定した場合とを比較することによって,本件ビル建築中止部分を利用できなかったことによる損害を算定することができる。したがって,一審被告らの主張は採 した場合と,本件ビルの既存部分のみを賃貸したと仮定した場合とを比較することによって,本件ビル建築中止部分を利用できなかったことによる損害を算定することができる。したがって,一審被告らの主張は採用できない。 そこで,具体的に本件ビル建築中止部分の賃料損害額を検討する。 一審原告の第2次主張の損害額は,基本的には甲29号証(不動産鑑定士δの報告書)を根拠とするものである(昭和59年分と平成5年分は甲29号証の金額と異なっている。)が,甲29号証によれば,同報告書は,本件ビルが賃貸用建物であったと仮定して,平成10年の時点において,当初計画の本件ビル全体を賃貸した場合と本件ビルの既存部分のみを賃貸した場合に得られる各利益(建物の償却費を控除したもの)を試算して比較し,過去の年の分については家賃の変動率により算定したものであることが認められ,その算定手法は相当なものであるといえる。 しかしながら,甲77号証,乙イ3,4号証及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,一審原告は,本件ビル建築中止部分の敷地部分について,若干の資材を置き,あるいは営業用車両の駐車場として使用してきたことが認められるから,その限度では利用していたものと評価できる。したがって,一審原告は,本件ビル建築中止部分の敷地部分を全く利用できなかったわけではないから,露天の資材置場や駐車場として賃貸したと仮定した場合に得られる利益分を控除する必要があるが,その利益は三階建の建物を賃貸することによって得られる利益と比べて,大幅に低額となることは明らかである。そこで,甲29号証によって認められる金額の8割の金額(千円未満は四捨五入)をもって,本件ビル建築中止部分を利用できなかったことによる損害と認めるのが相当である。なお,平成11年及び12年の損害額については,a 号証によって認められる金額の8割の金額(千円未満は四捨五入)をもって,本件ビル建築中止部分を利用できなかったことによる損害と認めるのが相当である。なお,平成11年及び12年の損害額については,a町周辺地域において平成10年に比べて賃料額が大きく変動したことを認めるに足りる証拠もないから,平成10年と同額の損害が生じたものと認めるのが相当である。そうすると,別紙3の使用損害金計算書のとおり,昭和55年から平成12年までの毎年において同計算書の「認定額」欄記載の損害が発生したことになり,合計金額は755万1000円となる。 (4) 本件ビルの復元(再建築)費用について甲87,91ないし94号証及び当審における証人γの証言によれば,本件建築中止部分の基礎は,施工後長期間を経過しており,しかも本件建築中止部分を現段階で増築すると,本件ビルの既存部分についても現在の耐震基準に適合し,かつ建築基準法の要件を満たすことが必要となるところ,本件仮処分以後である昭和56年と平成12年に耐震基準や建築基準法が改正されており,本件ビルの既存部分は現在の耐震基準や建築基準法には適合していないため,現在において,本件建築中止部分を増築することは不可能であることが認められる。 一審原告は,第1次的に,本件建築中止部分を増築できないことを理由として,本件ビル全体の再建築費用を損害として主張している。しかし,そのような損害が認められるためには,本件建築中止部分を施工しなかった結果,本件ビルの既存部分が本件仮処分当時の耐震基準すら満たしていない建物となったことが必要であるところ,そのような事実を認めることができない。証人γは,当審において,本件ビルの既存部分が構造的に不安定となっていることを指摘しているが,現在の耐震基準に照らしての指摘であって, ことが必要であるところ,そのような事実を認めることができない。証人γは,当審において,本件ビルの既存部分が構造的に不安定となっていることを指摘しているが,現在の耐震基準に照らしての指摘であって,上記判断を左右するものではない。したがって,一審原告の第1次主張による損害を認めることはできない。 次に,一審原告は,第2次的に,今後も本件建築中止部分を増築できないまま,本件ビルの既存部分を利用せざるを得ないことによる損害を主張しているが,一審原告は,将来についても,本件ビルの既存部分の残存耐用年数の間,本件建築中止部分を利用できないことになるから,それによる損害を被ることになる。減価償却資産の耐用年数等に関する省令1条,別表第1によれば,鉄筋コンクリート造の一般建物の耐用年数は50年と定められているから,本件ビルの既存部分の耐用年数も50年と認めるのが相当である。甲71号証並びに原審及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,本件ビルの既存部分は昭和55年初めまでに完成したことが認められるから,当審口頭弁論終結時において,今後29年間にわたり残存することになる。上記(3)判断のとおり,一審原告は,本件建築中止部分を利用できないことにより,現在毎年43万円の損害を被っており,この損害が今後29年間にわたり発生することになるので,中間利息の控除について,新ホフマン係数を採用し,千円未満を四捨五入すると,次の計算式のとおり,758万円となる。 430,000× 17.629≒ 7,580,000(5) 慰謝料について本件仮処分決定は昭和54年5月17日になされ,その本案訴訟である別件訴訟が確定したのは平成9年9月18日であるから,一審原告は,19年間という長期間にわたり,本件仮処分決定及び別件訴訟に対 て本件仮処分決定は昭和54年5月17日になされ,その本案訴訟である別件訴訟が確定したのは平成9年9月18日であるから,一審原告は,19年間という長期間にわたり,本件仮処分決定及び別件訴訟に対応してきたことになる。甲75号証の1ないし4及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,一審原告は,このような長期間にわたり訴訟等への対応に追われ,そのために莫大な時間と多額の費用を費やし,精神的に不安定になった時期もある等,大変な心労をしたことが認められる。したがって,一審原告については,財産的損害賠償の他に,精神的苦痛に対する慰謝料が認められるべきである。 一審原告は,このように別件訴訟が異例の長期間にわたり係属した原因は,Pが主張する境界線を何度も変更し,被告Aや一審被告EがPを支援して偽証等をしたことにあると主張する。確かに,甲34号証及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば,Pは,別件訴訟が提起されて数年を経過した昭和61年1月13日ころに至り,本件境界についての主張を大幅に変更し,これ以外にも本件境界の主張を変更したこともあることが認められる。しかしながら,甲6,12及び27号証によれば,別件訴訟で確定された本件境界は,一審原告及び控訴人Oの主張線とも異なったものであり,専門家による鑑定を経なければ本件境界を確定することができなかったものであるから,事案の性質上,本来ある程度長期の審理を要するものであったといえ,Pの訴訟活動によってのみ裁判が長期化したとまではいえない。また,甲12及び27号証によれば,控訴及び上告をしたのは,一審原告及び控訴人Oであるから,この限りにおいては一審原告が控訴及び上告をしたために,別件訴訟の確定が遅れたことが明らかである。 以上の他その他の一切の事情を考慮すると,一審原告の慰謝料とし ,一審原告及び控訴人Oであるから,この限りにおいては一審原告が控訴及び上告をしたために,別件訴訟の確定が遅れたことが明らかである。 以上の他その他の一切の事情を考慮すると,一審原告の慰謝料としては,200万円を認めるのが相当である。 (6) 弁護士費用甲6,12及び27号証及び弁論の全趣旨によれば,一審原告は,本件仮処分決定への対応,別件訴訟の遂行のために弁護士に委任したことが認められ,本件訴訟の遂行のためにも弁護士に委任したことは明らかである。本件訴訟は,昭和54年5月28日に提起されたことは記録上明らかであるから,既に23年にわたり係属していることになり,このような長期間の審理となった主たる原因は,弁論の全趣旨によれば,本件訴訟の判断の前提となる別件訴訟の確定を待っていたことにあるものと認められる。 このような長期間にわたる訴訟であること,一方では上記(5)判断のとおり,長期化した原因が全てPの対応にあるとも認められないこと,本件訴訟における認容額を考慮すると,本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては,300万円を認めるのが相当である。 (7) Q及び被告Aの責任割合についてQの訴訟承継人ら及び被告Aは,Q及び被告Aは,Pの本件仮処分申請に協力して,保証金300万円のうち,それぞれ100万円を負担したが,Pに対し仮処分申請を積極的に勧めたわけではなく,代理人弁護士の報酬についてはごく一部しか負担していないし,別件訴訟の当事者でもないことを理由として,Pと同額の損害賠償責任を負うものではない旨主張する。 ところで,甲1号証によれば,Q及び被告Aは,当初はPとともに本件仮処分を申請する意思を有していたものの,最終的には申請人とならなかったことが認められる。Q及び被告Aが,最終的に申請人とならなかった理 ろで,甲1号証によれば,Q及び被告Aは,当初はPとともに本件仮処分を申請する意思を有していたものの,最終的には申請人とならなかったことが認められる。Q及び被告Aが,最終的に申請人とならなかった理由は,弁論の全趣旨によれば,両名が被保全権利としての土地所有権を有していなかったためであると推認され,両名は本件ビルの建築によって裏口としての通路が十分確保できるかどうかという大きな利害関係を有しており,保証金もPら3名で均等に負担していることからみて,実質的には本件仮処分はPら3名の共同申請であったというべきである。 一方,甲8,9,18ないし25号証及び乙ロ1号証によれば,Q及び被告Aは,別件訴訟の提起に際して,代理人弁護士の着手金をPとともに均等に負担し,被告A及び一審被告Eは,昭和55年から59年にかけて,別件訴訟の証人としてPの主張に沿った証言をしたが,Q及び被告Aは,別件訴訟の当事者ではなく,昭和61年に代理人弁護士に支払った追加報酬についてはPの訴訟承継人らにおいて全額負担したことが認められる。また,別件訴訟は昭和61年以後もさらに長期間にわたり係属したが,その原因がQ及び被告Aの言動にあったことを認めるに足りる証拠もない。この点について,一審原告は,当審において,Q及び被告Aの協力がなければ,別件訴訟が長期間係属したことはなかったと思う旨供述しているが,一審原告の単なる感想であり,具体的根拠を示しているものではないから,上記判断を左右するものではない。そうすると,別件訴訟は,実質的にはPら3名により提起されたといえるものの,遅くとも昭和61年以後は,Pの訴訟承継人らのみによって遂行され,Q及び被告Aは,実質的にも関与していなかったというべきであり,Q及び被告Aの行為と別件訴訟が長期間にわたり係属したこととの間には相当因 とも昭和61年以後は,Pの訴訟承継人らのみによって遂行され,Q及び被告Aは,実質的にも関与していなかったというべきであり,Q及び被告Aの行為と別件訴訟が長期間にわたり係属したこととの間には相当因果関係が認められないというべきである。 したがって,Q及び被告Aは,別件訴訟が長期間係属したことによって生じた損害については,責任を負わないことになる。既に判断した一審原告の損害のうち,割高工事分は本件仮処分命令により直ちに生じた損害であり,本件建築中止部分を建築できなかったことによる過去及び将来の損害も,昭和56年に耐震基準や建築基準法が改正されて本件建築中止部分を増築できなくなったことにより生じたものであり,いずれも別件訴訟が昭和61年以前に終了していたとしても生じた損害であるから,結局のところ,慰謝料と弁護士費用について,Q及び被告Aの責任が軽減されることになる。別件訴訟の係属期間等を考慮すると,Q及び被告Aの両名が責任を負うべき慰謝料は100万円,弁護士費用は150万円とするのが相当である。 (8) 遅延損害金について以上によれば,一審原告の損害額は,Pに対して請求できる金額が合計2413万1000円,Q及び被告Aに対して請求できる金額が合計2163万1000円となり,これに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金が認められることになるが,遅延損害金の始期については,次のとおり認められる。 ① 過去の使用損害金755万1000円については,昭和55年から毎年の損害がその年に発生したものであるから,その翌年の1月1日から,すなわち毎年の損害額について別紙3の使用損害金計算書の「遅延損害金の始期」欄記載の日となる。 ② 将来の損害金758万円については,将来発生する損害であるから,本判決確定の日の翌日となる。 ③ その他の損 毎年の損害額について別紙3の使用損害金計算書の「遅延損害金の始期」欄記載の日となる。 ② 将来の損害金758万円については,将来発生する損害であるから,本判決確定の日の翌日となる。 ③ その他の損害金(Pについて900万円,Q及び被告Aについて650万円)については本件仮処分決定の日の後である昭和54年5月19日となる。 4 控訴人両名の損害賠償請求について判断する。 控訴人両名は,一審原告の家族であるから,一審原告が長年にわたり本件仮処分及び別件訴訟に対応してきたことによって,一定の精神的苦痛を受けたことは推察される。 しかし,控訴人Nは,本件仮処分及び別件訴訟のいずれの当事者でもないから,一審原告が精神的苦痛を負ったことによって,間接的に又は反射的に精神的苦痛を受けたものである。また,控訴人Oは,別件訴訟の当事者であったが,原審及び当審における一審原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,別件訴訟はほとんど一審原告が対応してきたことが認められるから,実質的には控訴人Nと同じ立場にあったといえる。 また,控訴人両名は何らの財産的損害も被っていない。 これらの事情によれば,控訴人両名の受けた精神的苦痛は受忍限度内のものであるというべきであり,慰謝料請求は認められない。 5 以上に判断したところに一審被告らの承継割合も考慮すると,一審原告の本訴請求は,別紙6の認容額一覧表の「① 各一審被告に対する認容額」記載の限度において,理由がある。なお,過去の使用損害金について,各一審被告が支払うべき毎年の金額は,別紙4の使用損害金(一審被告別)認容一覧表記載のとおりとなる。 一審被告らの支払義務は,重なり合う部分においては連帯債務であるから,連帯支払関係を明確にすると,別紙6の認容額一覧表の「② 連帯責任別の認容額」記載のとおり,各 )認容一覧表記載のとおりとなる。 一審被告らの支払義務は,重なり合う部分においては連帯債務であるから,連帯支払関係を明確にすると,別紙6の認容額一覧表の「② 連帯責任別の認容額」記載のとおり,各一審被告が連帯支払義務を負うことになり,一審被告Bと被告Aは,単独で支払義務を負う部分もあることになる。なお,過去の使用損害金について,各一審被告が連帯して支払うべき毎年の金額は,別紙5の使用損害金(連帯責任別)認容一覧表記載のとおりとなる。 ところで,本判決の認容金額を,原判決の認容金額と比較した場合,元本額は本判決の方が高額であるけれども,原判決では元本額の全部について昭和54年5月19日からの遅延損害金を認容しており,遅延損害金が既に約22年分も発生していることから,遅延損害金を含めて計算すると,全体としては,本判決の認容金額の方が低額となる。したがって,本判決は,結論として,原判決を一審被告らに有利に変更することになる。 6 よって,一審原告及び控訴人らの控訴はいずれも理由がないから,これを棄却し,一審被告らの控訴に基づき,結論を一部異にする原判決主文第一項ないし第六項を変更して,一審原告の本訴請求を上記の限度で認容し,その余の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部裁判長裁判官小川克介裁判官黒岩巳敏裁判官永野圧彦 永野圧彦

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