平成13(わ)563 業務上過失致死

裁判年月日・裁判所
平成13年10月17日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,703 文字)

判決平成13年10月17日神戸地方裁判所平成13年(わ)第563号業務上過失致死被告事件 主文 被告人を禁錮1年に処する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,自動車運転の業務に従事していたものであるが,平成12年10月12日午後7時30分ころ,普通貨物自動車を運転し,神戸市A区Ba番b号先の信号機により交通整理の行われている交差点を時速約40キロメートルで北東から南西方向に向かって直進して通過するに当たり,同交差点北東詰(被告人からみて交差点入口)に設置された停止線より約30メートル以上手前の地点で対面信号機が黄色を表示しているのを確認し,同交差点内で対面信号機が赤色を表示しているのを認めるとともに,同交差点南西詰(被告人からみて交差点出口)に設置された横断歩道の南東詰(被告人からみて左端)の歩道上に交差道路の信号待ちのため佇立している三,四人の歩行者を認めたのであるから,このような場合,自動車の運転者としては,その歩行者等の動静を確認すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,その歩行者等の動静を確認することなく,漫然前記速度で進行した過失により,折から交差道路の信号が青色になり,その信号に従い北西方向(被告人にとって左から右)に向かって同横断歩道を自転車で横断を始めたV(当時32歳)に気付かず,自車前部を同女の運転する自転車に衝突させて同女を路上に転倒させ,よって,同女に肺挫傷等の傷害を負わせ,同日午後11時38分ころ,同市C区Dc丁目d番所在のE病院において,同女を前記傷害に基づく失血性ショックにより死亡させたものである。 (証拠の標目)-括弧内は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠甲乙の番号省略(事実認定の補足説明) 所在のE病院において,同女を前記傷害に基づく失血性ショックにより死亡させたものである。 (証拠の標目)-括弧内は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠甲乙の番号省略(事実認定の補足説明)弁護人は,本件犯行が被告人の過失によるものであることは争わないとしながらも,公訴事実記載の過失を構成する注意義務違反の時点では,被告人にはもはや結果回避可能性がないから,公訴事実記載の過失は認められないとして,本件起訴に係る犯罪は成立しない旨主張するので,以下検討する。 1 関係各証拠によると,本件事故の発生した神戸市A区Ba番b号先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)は,北東から南西に通じる片側4車線ずつの国道e号線とそれとほぼ直角に交わる市道との交差点であり,信号機によって交通整理が行われていた。 国道e号線の中央部分にはF高速道路の高架があり,事故当時は,薄暮の状態であったが,視認に十分な明るさがあり,被告人の走行していた国道e号線西行き第2通行帯から被害者らが信号待ちのために佇立していた歩道上の見通しを遮るものはなかった。アスファルト舗装された路面は乾燥していた。 なお,被告人からみて本件交差点入口となる本件交差点北東詰の停止線から交差点出口に設置された本件横断歩道上までの距離は,約60メートルである。 また,本件交差点に設置された各信号機は正常に作動していた。被告人の従うべき国道e号線の信号機は63秒間の青色信号から4秒間の黄色信号に続く3秒間の全赤色信号を経て70秒間の赤色信号を表示し,被害者が従うべき交差道路の歩行者用信号機は上記3秒間の全赤色信号の後44秒間の青色信号から10秒間の青色点滅信号を経て83秒間の赤色信号を表示していた。 2 被告人の捜査段階及び当公判廷における供述によると, べき交差道路の歩行者用信号機は上記3秒間の全赤色信号の後44秒間の青色信号から10秒間の青色点滅信号を経て83秒間の赤色信号を表示していた。 2 被告人の捜査段階及び当公判廷における供述によると,被告人は,本件交差点に時速約40キロメートルで差し掛かり,本件交差点入口に設置された横断歩道の手前にある停止線の更に手前約30.7メートルの地点で対面信号機が黄色信号を表示しているのを確認し,そこから約66.1メートル進んだ本件交差点内(被害者の運転する自転車と衝突した地点から約27.2メートルの地点)で対面信号機が赤色を表示しているのを確認した,横断歩行者には気付いたが,被害者には約7.4メートルしか離れていない地点まで気付かず,被害者に気付くや直ちに急制動しハンドルを右に切ったが間に合わず衝突した旨おおむね一貫して述べているところ,後記のとおり,信号表示の状況とも合致していることなど,その信用性に疑いを差し挟むべき事情は見当たらないというべきで,十分信用に足りる供述と考えられる。 他方,実況見分調書や目撃者の捜査官に対する供述調書などを総合すれば,被害者は,対面歩行者用信号機が赤色だったことから歩道上で自転車に跨ったまま信号待ちをしていたが,同信号機が青色に変わったので横断を開始し,信号待ちをしていた地点から約5.4メートル進行した横断歩道上において,本件事故に遭ったものと認められる。目撃者は,本件事故は信号機が青色に変わった約二,三秒後に発生した旨供述しているが,信号が変わってすぐに歩き出し3歩くらい歩いた時に事故が起こったなどと自らの体験と併せて具体的に述べていること,被害者の移動距離などからみて不自然・不合理ともいえないことから,その信用性は高いと考える。 3 そこで,本件事故前の状況を被告人に最も有利に,すなわち本件事故発生の と併せて具体的に述べていること,被害者の移動距離などからみて不自然・不合理ともいえないことから,その信用性は高いと考える。 3 そこで,本件事故前の状況を被告人に最も有利に,すなわち本件事故発生の約2秒前に被害者の従っていた交差道路の歩行者用信号機が青色に変わったものと想定してみた場合には,その前3秒間は本件交差点は全赤色信号であったはずで,被告人の対面信号機も本件事故の約5秒前に黄色から赤色に変わっており,更にその前の4秒間(本件事故の約9秒前から約5秒前まで)は黄色を表示していたはずということになる(その間,被告人は時速約40キロメートル(秒速約11.1メートル)の速度で進行していたというのであるから,被告人の,衝突地点から約93.3メートル手前の地点で対面黄色信号を確認したという供述や,同じく約27.2メートル手前の地点で対面赤色信号を確認したという供述は,いずれも信号表示の状況と矛盾しないといえる。)。 4 以上を前提に,被告人の過失の内容を検討する。 被告人の供述によれば,本件交差点の約30メートル以上手前で対面信号機が黄色を表示しているのを認め,その約6秒後,本件交差点内で同信号機が赤色を表示しているのを認めているだけではなく,被害者を発見していないにせよ,横断歩道南東詰に信号待ちのため佇立している歩行者がいるのを認めたのであるから,少なくとも,被告人が認めた赤色信号がいわゆる全赤色信号であって,間もなく交差道路の信号機が青色に変わること,のみならず,交差道路の信号機が青色になれば,歩行者らが自己の進路前方にある本件横断歩道を左から右に横断し始めるかもしれないことは,十分に予見可能なことであったといえる。 そして,被告人は,被害者が自転車に乗って横断を始めたことに気付いていないけれども,前示のとおり,被害者は遅くとも から右に横断し始めるかもしれないことは,十分に予見可能なことであったといえる。 そして,被告人は,被害者が自転車に乗って横断を始めたことに気付いていないけれども,前示のとおり,被害者は遅くとも衝突の約2秒前には自転車に乗って横断を開始していたと認められるところ,被告人は,運転席が比較的高い位置にある普通貨物自動車を運転していた上,前記のとおり,被告人と被害者との間を遮るものはなかったこと,被害者は横断歩道上で,白色の自転車に乗車したままの状態で信号待ちをしていたことが認められるから,被告人が,信号待ちをしていた被害者らの動静を注視していたならば,被害者らが横断を開始した時点で被害者を発見することは容易かつ十分可能であったと認められる(現に被害者と同時に横断を始めた歩行者には気付いていたと述べているところである。)。そうであれば,被告人は,被害者が横断を始めた時,衝突地点から約22.2メートル以上離れた地点を走行していたと認められ,一般に時速約40キロメートルで走行している自動車の制動距離(広義。空走距離と滑走距離の和)は約20メートルを超えることはないから(本件においても,被告人が被害者に気付き急制動の措置をとってから停止するまで,約17.9メートルしか要していない。),職業運転手である被告人が,被害者の動静に十分注意していれば,衝突の危険を察知し,それを避けるために急停止する等の的確な措置をとり本件事故を防止することができたのは明らかである。 5 以上のとおりであり,被告人が,被害者ら横断歩行者の動静を注視し,被害者が横断を開始し,自転車に乗って進路前方に進出しようとしたのを認めていれば,直ちに停止するなどの回避措置をとることが必要かつ可能であったということができるから,公訴事実どおりの過失を認めることができる。 なお,弁護 車に乗って進路前方に進出しようとしたのを認めていれば,直ちに停止するなどの回避措置をとることが必要かつ可能であったということができるから,公訴事実どおりの過失を認めることができる。 なお,弁護人も主張するとおり,被告人は停止線の約30メートル以上手前で黄色信号を認めているので,停止線で停止すべきであったともいえるし,それも可能ではあったから,その点でも過失があったとはいえようが,本件事故に直結するいわゆる直近の過失としては,検察官の主張する歩行者等の動静を注視すべき義務を怠った過失を認めるのが相当である。 6 よって,弁護人の主張は採用しない。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法211条前段に該当するので,所定刑中禁錮刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を禁錮1年に処し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,普通貨物自動車を運転中,交通整理の行われている交差点を直進するに当たり,交差点出口の横断歩道上を青信号に従い自転車で横断中の被害者が存在したのに,衝突直前までこれに気付かず,同人に自車前部を衝突させ跳ね飛ばし,その結果,同人を死に至らしめたという業務上過失致死の事案である。 被告人は,通過するのに相当の時間がかかる本件交差点において,本件交差点の30メートル以上手前で黄信号を確認し,同交差点内で赤信号を確認していたというのであるから,時速約40キロメートルの車両の制動距離も併せて考えると,被告人の本件交差点の通過方法は信号無視事案にも匹敵する非常に危険な進行方法であるといわざるを得ないし,交差道路の信号表示が間もなく青色に変わることが当然予想できるから,被告人から見て交差点出口に設置さ 人の本件交差点の通過方法は信号無視事案にも匹敵する非常に危険な進行方法であるといわざるを得ないし,交差道路の信号表示が間もなく青色に変わることが当然予想できるから,被告人から見て交差点出口に設置された横断歩道をその青色信号に従って横断して来る歩行者等の有無やその動静に十分な注意を払い,その安全を確認して進行すべき注意義務が要求されていると考えられるのに,被告人によると,被害者には全く気付かなかったというのであるから,その過失の程度は甚だ大きいといわざるを得ない。また,そのような過失により生じた結果は,被害者の死亡という取り返しのつかない大きなものである。被害者は,青色信号に従って横断歩道を通行していたのに,被告人の一方的で重大な過失によって32歳の若さで突如としてその生命を奪われたものであって,その無念さは筆舌に尽くし難いものがある。そして,心の優しい親孝行な娘を失った両親の悲しみは非常に深く,家計を助け,家事や母親の介護をする者がいなくなった被害者の遺族は精神的・肉体的,そして経済的に苦しい日々を送ることを余儀無くされている。加えて,被告人による遺族らへの謝罪等が十分になされてきたとはいえないところ,被告人は雇用主(当時)の指示に従ったのであるから被告人を責めるのは酷であるとはいえ,このような被告人側の対応も一因となって遺族の被害感情には今なお厳しいものがあることをも指摘せざるを得ない。これらの事情を考え併せると,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。 したがって,被告人は,本件事故直後から,本件が自己の一方的過失によるものであることを素直に認め,反省悔悟していると見られること,犯行後逃走等していないこと,謝罪等には赴いていないものの,遺族らに告げず被害者に対する弔意を示し,その冥福を祈っていること,被告人と被害者の遺族 ることを素直に認め,反省悔悟していると見られること,犯行後逃走等していないこと,謝罪等には赴いていないものの,遺族らに告げず被害者に対する弔意を示し,その冥福を祈っていること,被告人と被害者の遺族の間で示談が成立していること,重大な事故は今回が初めてであり前科もないこと,本件事故により運転免許の取消処分を受け,会社を解雇されるなど事実上の制裁を受けていることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められるが,これらを考慮しても,過失の大きさ,結果の重大性等に鑑みれば,主文掲記程度の実刑に処するのもやむを得ないものと考える。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑・禁錮2年)平成13年10月17日神戸地方裁判所第12刑事係乙裁判官溝國禎久

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