平成21年(ハ)第8664号不当利得返還請求事件判決主文 被告は,原告に対し,金126万4698円及びこれに対する平成18年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決は,1項及び3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求 被告は,原告に対し,金127万0466円及び内金126万4698円に対する平成13年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 仮執行宣言申立て第2事案の概要本件は,原告が被告に対して,利息制限法の制限利率(以下「制限利率」という)を超える利率の利息を支払っていたところ,超過部分を元。 金に充当すると過払が生じたことから,過払金の返還を求めるとともに,被告は民法704条の悪意の受益者に当たるとして,過払利息もあわせて求めたものである。 前提となる事実(争いのない事実及び証拠上明らかな事実)(1) 原告は,平成11年8月6日,被告から480万円を借り受け(以下「本件契約」という,別紙「計算書」の年月日欄の日に弁済額欄の金。)員を返済した(以下「本件取引」という。 。)(2) 本件契約には,次の約定がある。 利息は年29.8%,遅延損害金は年36.5%,弁済期は平成11年9月より同16年8月まで毎月5日限り,弁済方法は元金8万円を経過利息とともに被告の本支店に持参又は送金して支払う,元利金の支払を怠ったときは期限の利益を喪失する,約定支払日より15日以上前に支払った場合は,約定支払日は次回に繰り越されないので,支払日に再度残期間分の利息金を支払わなければならない。 争点 期限の利益喪失及び悪意の受益者 当事者の主張 定支払日より15日以上前に支払った場合は,約定支払日は次回に繰り越されないので,支払日に再度残期間分の利息金を支払わなければならない。 争点 期限の利益喪失及び悪意の受益者 当事者の主張(1) 期限の利益喪失についてア被告の主張①原告は,平成11年12月6日に支払うべき制限利率による利息の支払を怠ったことから,同日の経過をもって期限の利益を喪失した。 ②制限利率を超えた利息は元本に法定充当されるから,それが将来発生すべき利息債務に充当されることはない。 ことに,本件契約では「約定支払日より15日以上前に支払っ,た場合は,約定支払日は次回に繰り越されないので,支払日に再度残期間分の利息金を支払う」旨の約定がある。 したがって,期限の利益を喪失したと解するほかない。 ③最高裁は,債権者が債務者に対し,期限の利益喪失後に元利金の一括弁済を求めるか否かは,基本的に債権者が自由に決めることであるから,一括弁済を求めていないということだけでは,債務者に対して,期限の利益喪失の効果を主張しないものと思わせるような行為が債権者にあったということはできないとした。 また,本件では,領収書は「利息充当額」と「損害金充当額」を明確に区別して記載しており,充当額の計算根拠となった期間も記載しており,弁済金が利息,損害金のどちらに充当されたのか一見して判別できる体裁となっている。 そもそも支払を遅滞した日の翌日以降の返済金が遅延損害金に充当されるということは,期限の利益喪失特約,遅延損害金発生条項に従ってなされたもので,被告は,原告に,契約締結にあたって説明していることは明らかである。 仮に原告が誤解していたとしても,それは被告の対応とは無関係な原告の一方的な思い込みに過ぎない。 また,原告は信頼関係破壊理論を引き合いに出し,信用の基礎を たって説明していることは明らかである。 仮に原告が誤解していたとしても,それは被告の対応とは無関係な原告の一方的な思い込みに過ぎない。 また,原告は信頼関係破壊理論を引き合いに出し,信用の基礎を失ったり,信頼関係は破壊されていない旨主張しているが,消費貸借契約は片務契約であることから,同理論を適用することは誤りである。消費貸借契約は賃貸借契約ほどの人的信頼関係を重要な要素としていない。 イ原告の主張①原告は,本件取引開始時から平成11年11月19日までに,4回にわたって,元金に対して合計40万6155円支払っている。 同年12月6日まで契約上支払が要求されている元金は40万円であるから,元金の支払の遅滞はない。 原告は,本件取引開始時から同年11月19日までに,4回にわたって,39万8845円の利息を支払っている。制限利率に従えば,20万0761円支払えば足りるから19万8084円もの利息を超過して支払っている。他方,同月18日から同年12月5日までの制限利率による利息は3万2502円であるから,同日時点でも制限利率による利息を超えた利息を支払っているから利息の支払の遅滞はない。 原告が同日までに支払わなければならない元利金の合計額は63万3263円であるが,原告は同年11月19日までに80万5000円支払っているから,元利合計の観点からも遅滞はない。 ②被告は制限超過利息を元金に充当することなく利息として受け取っていた。利息制限法上,超過利息は利息として無効とされ,元金に充当されるべきところ,被告自らが利息として受領しておきながら元本に充当し,残元金に対する利息が発生するとして,利息の支払が遅滞した時点で,期限の利益喪失を主張するのは,信義則に反して許されない。 本件では,原告は制限利率による利息と契約上支払うべき元金を 元本に充当し,残元金に対する利息が発生するとして,利息の支払が遅滞した時点で,期限の利益喪失を主張するのは,信義則に反して許されない。 本件では,原告は制限利率による利息と契約上支払うべき元金を超える支払をしてきており,被告が期限の利益を喪失したと主張する平成11年12月6日以降も被告の担当者から期限の利益を喪失したと言われたことはなく,約2年にわたり,期限の利益を喪失していないと信じて支払を継続してきており,被告も残元本の全額及びこれに対する遅延損害金の一括弁済を求めることがなく,原告の誤解を特段解くことなく最終取引まで継続させている。かかる事実関係の下では,被告の期限の利益喪失の主張は,誤信を招くような被告の対応のために期限の利益を喪失していないものと信じて支払を継続してきた原告の信頼を裏切るものであり,信義則に反して許されない。 また,本件では,毎月5日までに分割金を支払う約束になっていたが,原告は,前月の末日ころまでには約定の金額よりも多い金額を払うこととしていた。原告が,末日までに支払の手続がとれないときは,被告の担当者A(以下「A」という)にその旨伝えてい。 た。Aは,原告に「ママ(原告)はいつも早く返してくれている,から何も心配していないよ「安心しているよ」などと言い,早。」,。 めに支払うことにつき,容認した対応であり,期限の利益を喪失し。 たなどと告げたり,一括弁済を請求したりしたことは全くなかった本来期限の利益を喪失させるのは,債務者の信用の基礎が失われたり,債権者との信頼関係が破られたとき,債権者に期限の到来までその債権の行使ができないとすることは酷であり,公平の観念にも反するからであり,本件では,原告は約定よりも早めに多めに支払い続けたものであり,信用の基礎を失わせたり,信頼関係を破ったりしたと までその債権の行使ができないとすることは酷であり,公平の観念にも反するからであり,本件では,原告は約定よりも早めに多めに支払い続けたものであり,信用の基礎を失わせたり,信頼関係を破ったりしたと評価することはできない。 (2) 悪意の受益者についてア原告の主張①被告は制限利率を超える利率で貸付を行い,受領金に法律上の原因がないことの蓋然性が高いことを認識しながらあえて返済を受けており,悪意の受益者に当たるから,過払金に対する年5分の割合による利息金を支払う義務を負う。 ②被告は,期限の利益を喪失していないにもかかわらず,喪失を前提とする領収書兼利用明細書を作成している。誤った内容の情報が記載されている以上,貸金業法43条でいう18条書面の要件を充足していないこととなり,被告は最高裁平成19年7月13日判決でいうところの特段の事情のない限り悪意の受益者であると推定される。 イ被告の主張①被告は,原告に,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という)17条に適合する書面を交付していたし,同18条。 に適合する書面を交付するなど,同43条の前提となる法的要件をすべて履践していた。17条書面に関し,本件契約では期限の利益,喪失特約を付し,その下で被告は原告より利息金を受領していたが本件取引は,支払の任意性を否定する最高裁平成18年判決が出る前のものであり,また,18条書面に関し,契約年月日の記載に代えて契約番号を付していたが,それを否定する最高裁判決はなかったし,下級審の裁判例や学説で,これを否定する見解を採用するものは少数であった。 したがって,被告は同法43条の適用が否定されるのではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,そのような認識を有していたことについて「特段の事情」が認められ, 数であった。 したがって,被告は同法43条の適用が否定されるのではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,そのような認識を有していたことについて「特段の事情」が認められ,ることは明白である。 ②みなし弁済の適用要件との関係で18条書面が問題になっているのにもかかわらず,これを否定することを前提として18条書面の該当性を論ずるのは明らかに破綻した論理である。 第3裁判所の判断 期限の利益喪失について(1) 原告の返済は,平成13年5月は2回なされているが,これを除くと毎月1回なされ,第1回目は同11年9月5日に支払うべきものを同年8月31日に,第2回目は同年10月5日に支払うべきものを同年9月28日に,第3回目は同年11月5日に支払うべきものを同年10月27日に支払っている。 。 その後,同年11月19日と同年12月27日に支払がなされているさらに,同12年1月以降に合計23回の支払がなされているが,その内の3回(1日,2日,5日の支払である)を除いて,すべて26。 日から30日の間に支払がなされている。 また,甲2(4項)によれば,原告は,Aから支払日が早過ぎて次月の支払とはみなされない旨指摘されたことはなく,もし指摘されていれば,早めに支払うようなことはしなかった旨陳述している事実が認められる。 同11年11月19日の支払を同年12月分に対するものであると認。 定すると,原告の全28回の返済は一度も懈怠なくなされたことになるまた,同年11月19日は,同年12月5日の16日前にあたる。 (2) 前提事実及び上記(1)の事実等を踏まえて検討するに,①原告は,平成11年11月19日の返済は同年12月分の返済のつもりでいたと推認されること,②同日は約定日よりも16日前であり,約定により,当月分の返済と認めら (1)の事実等を踏まえて検討するに,①原告は,平成11年11月19日の返済は同年12月分の返済のつもりでいたと推認されること,②同日は約定日よりも16日前であり,約定により,当月分の返済と認められる14日前よりも2日早いに過ぎないこと,③同年11月19日までに支払われた金額は,約定により支払わなければならないとされている元金よりも多く,制限利率により計算される利息よりも多いこと,④被告から同日の支払が約定支払日の14日前よりも前であるから,同年12月6日までの利息の支払が必要である旨の指摘がなされた事実は認められないこと,⑤同年11月19日の支払を同年12月分の支払と認定すると,本件取引では懈怠は全く生じていないことになること等からすると,同日の支払を同年12月分の支払と認めず,同月6日の経過をもって期限の利益を喪失させることは,原告にとって酷であり,被告が期限の利益喪失によって生じた利益を享受することは条理に反すると考えられることから,信義則上,許されないものと解するのが相当である。 悪意の受益者について乙2から乙32は,本件取引に関して,原告と被告間で取り交わされた被告が貸金業の登録業者であることを証する書面や貸金業法17条,同18条の各書面であるものと認められる。 また,原告は,乙5から乙32の書面を返済後遅滞なく受領した事実を認めている。 最高裁第二小法廷は,平成18年1月13日,被告を被上告人とする事件の判決を言い渡したが,この判決は「同18条書面に関して契約番号,をもって法定事項の記載内容を代替することはできない「利息制限法の」,制限利率を超える利率による利息金の支払いを怠ったときは期限の利益を喪失する旨の約定がある場合には特段の事情のない限り債務者が自己の自由な意思に従って制限超過部分を支払ったとは言えな 制限法の」,制限利率を超える利率による利息金の支払いを怠ったときは期限の利益を喪失する旨の約定がある場合には特段の事情のない限り債務者が自己の自由な意思に従って制限超過部分を支払ったとは言えないから支払いの任意性は否定される」として,被告が適用を求め,原審では認められていたみ,なし弁済の適用を否定したものであるが,この判決が言い渡されるまでは被告を当事者とする裁判で,みなし弁済の適用を認める判決は,全国的に少なからず存在していた事実は顕著である。 被告は本件でみなし弁済の適用は求めていないものの,上記関係証拠等に照らすと,被告にあっては,前記最高裁判決が言い渡されるまでは,みなし弁済の適用があるものとの認識を有していたものと考えられるし,それまではみなし弁済の適用を認める裁判例は少なからず存在し,本件取引でも,みなし弁済の適用が認められた事例と同様の書面を交付していたことからすると,そのような認識を有するに至ったことがやむを得ないといえる特段の事情があるものと認められるから,被告は上記判決が言い渡されるまでは悪意の受益者には当たらないものと解するのが相当である。 なお,本件取引では,乙5から乙32に記載された充当額は約定利率を前提としていること及び期限の利益の喪失を前提としていることから,誤った内容になっているが,約定利率による計算については上記のとおりみなし弁済の適用の認識に関する特段の事情が認められること,期限の利益喪失についても被告は当該法的効果が発生している旨を認識して充当処理し,そのように認識するについてやむを得ないといえる特段の事情が認められることからすると,記載内容誤りは,上記悪意の受益者の推定を覆す特段の事情の認定に影響を及ぼすことはないと解するべきである。 過払金発生額について以上の検討結果を踏まえ,本件 段の事情が認められることからすると,記載内容誤りは,上記悪意の受益者の推定を覆す特段の事情の認定に影響を及ぼすことはないと解するべきである。 過払金発生額について以上の検討結果を踏まえ,本件取引を制限利率に引き直し,期限の利益の喪失は生じておらず,被告は平成18年1月13日以降に悪意の受益者,に当たるものとして計算すると,別紙「制限利率計算書」のとおりとなり過払金126万4698円及びこれに対する平成18年1月13日から支払済みまで年5分の割合による利息金が発生する。 結論 以上によれば,原告の請求は上記3の限度で理由があるから主文のとおり判決する。 名古屋簡易裁判所裁判官佐藤有司〔別紙「計算書」及び別紙「制限利率計算書」添付省略〕
▼ クリックして全文を表示