平成30(ワ)3348 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年6月26日 福岡地方裁判所 その他
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判決文本文4,717 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,1万1000円及びこれに対する平成30年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを160分し,その159を原告の,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,第1 項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,176万円及びこれに対する平成30年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,弁護士である被告が,目的を偽り,住民基本台帳法12条の3第2項による特定事務受任者として原告の住民票の写しを取得したことについて,原告が,被告に対し,プライバシー権を侵害されたと主張して,不法行為(民法709条)に基づき損害賠償金176万円(慰謝料160万円及び弁護士費用16万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年11月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実当事者間に争いがないか,又は証拠により容易に認定できる事実関係は以下のとおりである。 (1) 原告は,平成29年2月14日付で,A弁護士会に対し,被告のマスコミへのコメントが弁護士職務基本規程23条に定める守秘義務に違反する行為であるとして,懲戒を求めた(以下「別件懲戒申立て」という。)。(甲2の3)(2) 弁護士である被告は,平成29年2月20日付で,福岡県糟屋郡B町長に対し,遺産分割調停に用いる目的もないのに,利用目的を遺産分割調停申立て として,住民基本台帳法12条の3第2項による特定事務受任者として,「住民票の写し等職務上請求書」を作成して原告の住民票の写しを請求し,現住所,生年 ないのに,利用目的を遺産分割調停申立て として,住民基本台帳法12条の3第2項による特定事務受任者として,「住民票の写し等職務上請求書」を作成して原告の住民票の写しを請求し,現住所,生年月日,本籍地,従前の住所,世帯の情報等が記載された原告の住民票の写し(以下「本件住民票」という。)を取得した(以下「本件取得行為」という。)。 (3) 原告は,平成30年2月頃,福岡県糟屋郡B町に対して,個人情報開示請求を行ったところ,被告により本件取得行為がされていることを知った。 (甲5) 2 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 本件取得行為の違法性の有無(原告の主張)本件取得行為により,原告のプライバシー権が侵害された。住民票に記載された情報は,いずれも他者への秘匿を期待する性質のものである。 原告は,被告の守秘義務違反を理由として適正に別件懲戒申立てをしたのであり,被告が,被告やその家族の生命および身体の安全を危惧する必要はない。 (被告の主張)本件取得行為が違法性を具備するには,原告の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えたといえる程度に達しなければならないが,原告の氏名,生年月日,本籍等の情報を被告が知ることによって,精神的苦痛を被る者がいるとは到底考えられず,仮に,本件取得行為により原告が精神的損害を受けたとしても,原告において何らの理由なく被告に対する懲戒請求をしたことに対し,被告が,被告自身とその家族の生命及び身体の安全のために行った経緯等に照らせば,社会通念上受忍すべき限度を超えるものとはいえない。 なお,本件取得行為が正規の方法でないことは,原告に慰謝料請求権が発生するか否かということとは別問題である。 (2) 損害の有無,程度(原告の主張)原告は,被告の本件取得行為より,精神的苦痛 お,本件取得行為が正規の方法でないことは,原告に慰謝料請求権が発生するか否かということとは別問題である。 (2) 損害の有無,程度(原告の主張)原告は,被告の本件取得行為より,精神的苦痛を被っており,これを慰謝す るには160万円を要し,また,本訴を追行するための弁護士費用16万円を負担した。 (被告の主張)否認ないし争う。 第3 判断 1 争点(1)(本件取得行為の違法性の有無)について(1) 個人に係る情報が開示,取得される等した場合に,これがプライバシー侵害として不法行為を構成するか否かは,当該情報の性質,内容と侵害態様の違法性を相関的に考慮し,当該行為より生じた精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるものか否かによるものと解される。 (2) そこで,まず,本件個人情報について見ると,本件取得行為により被告が取得した原告の情報は,本件懲戒申立てによりあらかじめ被告が知っていた原告の住所,氏名のほか,本籍地,生年月日,従前の住所,世帯の情報等(以下,これらを併せて「本件個人情報」という。)である。これらは,被告にとって,本件取得行為によらなければ直ちには知ることができない情報であり,他方,原告にとっては,氏名及び住所のみならず,生年月日等により個人として特定され,居住歴等を含めて,人格的な利益を損なうおそれを生じ得る情報であって,みだりに開示され,流通することを望まないものである。そして,住民基本台帳法が,住民票の写し等の請求をすることについて,一定の要件を設け(住民基本台帳法12条以下),住民票の写しの請求が不当な目的によることが明らかな場合には市町村長がこれを拒むことができ,偽りその他不正の手段による住民票の写しの取得に対して罰則規定(同法46条2号)を設けており,個人に関する情報が適切に管 請求が不当な目的によることが明らかな場合には市町村長がこれを拒むことができ,偽りその他不正の手段による住民票の写しの取得に対して罰則規定(同法46条2号)を設けており,個人に関する情報が適切に管理されることを想定していることからすれば(住民票の写し等職務上請求書においても,「本請求書は,個人情報保護の重要性に鑑み,慎重に取り扱い,購入された会員以外ご使用にならないようお願い致します」との注意書きが付記されている(甲1)。),本件個人情報について,原告 が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然であり,住民基本台帳において適切に管理されることにより,自己が欲しない他者にはみだりに開示されないものと期待するのも当然であるところ,この期待は保護されるべきものである。したがって,本件個人情報は,プライバシーに関する情報として法的保護の対象となるというべきである。 (3) 次に,本件取得行為について見ると,これは,弁護士である被告が,本来の要件を満たすものではないのに,虚偽の申立てをして本件住民票を取得したというもので,前記のとおり,住民基本台帳法が定める要件を意図的に潜脱する違法なものである。ことに,住民基本台帳法が,特定事務受任者として,特別に要件を定めた弁護士の資格を利用して行っていることからすれば,法及び社会の信頼を損ねるものというほかない。 この点,被告は,原告が被告を対象弁護士として行った懲戒申立て(別件懲戒申立て)に対して,本人および家族に危険が及ぶことを避けるために懲戒請求者の情報を知りたいとの思いから本件取得行為に及んだ旨主張するが,懲戒請求がされた以上に,被告及び家族に格別危険が生じる具体的な事情が認められる訳ではなく(なお,別件懲戒申立ては,A弁護士会の綱紀委員会において,対象 の思いから本件取得行為に及んだ旨主張するが,懲戒請求がされた以上に,被告及び家族に格別危険が生じる具体的な事情が認められる訳ではなく(なお,別件懲戒申立ては,A弁護士会の綱紀委員会において,対象弁護士である被告に弁護士職務基本規程23条に定める守秘義務違反があったと認めて,懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とするとの議決をしている(甲2の2・3)。),本件取得行為は,これによって正当化されるものとはいえない。 (4) そうすると,本件個人情報が秘匿性等において強いものとまではいえないものの,本件取得行為が,弁護士である被告においてその資格を利用して行った,住民基本台帳法の要件に反するものであり,正当な手続を経なければ個人情報を取得されることはないとの原告の信頼を裏切るものであって,原告は,これにより,自己の了知しないところで,自己の個人情報が知られたことによる不快感,それによる実生活への影響に対する不安感を抱いたのであり(甲5), また,別件懲戒申立ての対象弁護士である被告が違法な手段により本件取得行為を行ったものであることから,より具体的で,大きな不安を抱くことになったことは容易に推認できる。 そうすると,本件取得行為は,被侵害利益及び侵害行為並びに,原告の被った精神的苦痛の各点から見て,プライバシー侵害として,社会通念上許容される範囲を超えた,違法なものということができる。 なお,これに対して,上記で検討した以上に,違法性を阻却する事情は見当たらない。 2 争点(2)(損害の有無,程度)について上記1のとおり,本件取得行為は原告のプライバシー権を侵害する違法な行為であるところ,本件個人情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者に開示することが予定されている情報であり,それ自体は,思想,信条等とは異な 件取得行為は原告のプライバシー権を侵害する違法な行為であるところ,本件個人情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者に開示することが予定されている情報であり,それ自体は,思想,信条等とは異なり,個人の内面等に関わるような秘匿されるべき必要性が高い情報とまでいうことはできず,プライバシー保護の要請の程度が高いとはいえない。しかし,そのようなものではあっても,これらの情報を取得した者において,原告に対する接触が可能となり,使用方法によっては私生活の平穏等に一定の影響を与えるおそれがあるのであって(ことに,インターネット等の普及等により,情報が一気に拡散し,現実に影響を及ぼすことがあり得ることは公知の事実である。),原告において,情報の拡散による風評被害等を含む何かしらの不安等を感じることも無理からぬところがある。加えて,別件懲戒申立てを行った原告にとって,対象弁護士である被告が本件取得行為に及んだことにより,具体的に,不快で,不安となったものと認められる。もっとも,被告が本件個人情報を拡散させた等の事実はうかがわれず,現実的になんらかの不都合が生じたものとはいえない。 これら事情を考えると,本件取得行為によって受けた精神的苦痛を慰謝するには,1万円をもってするのが相当である。 そして,原告が原告訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任したことは当 裁判所に顕著であるところ,その弁護士費用としては,本件事案の性質等に照らし,1000円と認めるのが相当である。 第4 結論以上からすれば,本件取得行為を不法行為として損害賠償を求める原告の請求は,被告に対し,1万1000円の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,よって,主文のとおり判決する。 求める原告の請求は,被告に対し,1万1000円の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,よって,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第2民事部 裁判官足立正佳

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