令和5(ワ)3732 削除請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年8月8日 名古屋地方裁判所
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判決文本文7,107 文字)

令和6年8月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第3732号削除請求事件口頭弁論終結日令和6年7月4日判決 主文 1 被告は、原告に対し、日本向けBloggerサービスにおいて、別紙投稿記事目録記載の投稿記事を削除せよ。 2 訴訟費用は、被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨第2 事案の概要本件は、原告が、被告の提供するブログサービスを利用したブログに、原告の名誉権及びプライバシーを侵害する記事が掲載されたと主張して、被告に対し、人格権(名誉権及びプライバシー)に基づき、当該記事の削除を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)⑴ 平成25年4月20日頃、被告の提供するブログサービス「Blogger」を利用したブログに、原告が代表取締役を務める会社(以下「本件会社」という。)の倒産詐欺等を表題とし、本件会社が詐欺のように元本保証と高配当により資金調達を 行っていたが突然閉鎖したようであり、計画的な倒産の可能性があるなどという内容の別紙投稿記事目録記載の投稿記事(以下「本件記事」という。)が掲載された(甲3)。 ⑵ 原告は、平成26年12月24日、本件会社の業務に関して、法定の除外事由がないのに、平成23年10月5日頃から平成24年11月26日頃までの間、25 回にわたり、原告の管理する預金口座に振込みを受ける方法により、不特定かつ多数 の相手方5名から、元本を保証するとともに配当を支払うことを約して現金3310万円を受け入れ、もって業として預り金をしたという犯罪事実により、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締り 数 の相手方5名から、元本を保証するとともに配当を支払うことを約して現金3310万円を受け入れ、もって業として預り金をしたという犯罪事実により、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)違反の罪で、懲役2年、5年間執行猶予の有罪判決の言渡しを受け、同判決はその頃確定した(甲7)。 ⑶ 原告は、上記⑵の判決の後、執行猶予を取り消されることなく5年間の執行猶 予期間を経過し、同判決による刑の言渡しは効力を失った(甲5)。 ⑷ 原告は、中古パソコンの販売を行う事業を営むため、再び起業する準備を開始したが、現在でもインターネット上の検索サイトで原告の氏名をキーワードとして検索すると本件記事が表示される(甲5、6)。 ⑸ 本件会社は、現在も存続しており、原告は、その代表取締役として登記されて いる(乙11の1・2)。 2 主たる争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 名誉権侵害を理由とする削除請求についてア本件記事により原告の社会的評価が低下するか(争点1)(ア) 原告の主張 本件記事は、原告の行為が詐欺又は出資法違反に当たる可能性が高いという事実を摘示するものであり、意見又は論評であるとしても、原告の社会的評価を低下させるものである。 (イ) 被告の主張本件記事は、新聞報道を根拠としており、これが掲載された当時は、本件記事以外 にも同様の報道がされていたと考えられるから、本件記事によって原告の社会的評価が新たに低下したとはいえない。また、本件記事は、本件会社の被疑事実等を中立的に報道したに過ぎないから、原告の社会的評価が低下したとしても受忍すべきであって、受忍限度を超えて原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。 イ本件記事が公正な論評に 社の被疑事実等を中立的に報道したに過ぎないから、原告の社会的評価が低下したとしても受忍すべきであって、受忍限度を超えて原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。 イ本件記事が公正な論評に当たらないことが明白といえるか(争点2) (ア) 原告の主張 刑事事件は、歴史に残る重大なものでなければ風化し、時間の経過により世間一般の関心も希薄になる。原告の過去の行為が詐欺又は出資法違反に当たる可能性が高いという事実については、本件記事の掲載から10年程度が経過していることからすれば、既に本件記事を掲載し続けて公衆の批判に曝すことによる公共の利益はほぼ皆無であって、もはや公共性は失われている。 (イ) 被告の主張本件記事は、本件会社の行為について、「詐欺のような」、「詐欺の可能性が高い」という意見又は論評を述べるものにすぎず、出資法違反についても、検察が捜査に動く可能性があるなどと意見を述べたものにすぎないところ、前提事実⑵のとおりの出資法違反の犯罪事実により原告が有罪判決を受けていることからすれば、上記の意見又 は論評の基礎となる事実の重要部分は真実というべきである。 そして、本件会社は、多額の資金を集めて事業を停止し、社会的に大きな影響を与えているため、その資金調達方法が詐欺や出資法違反に該当するかどうかは一般人の正当な関心事であるから、本件記事の内容には公共性が認められ、その投稿は、社会に対する注意喚起を目的としたものといえるから、公益目的も認められる。本件記事 の掲載から8年程度が経過しているものの、原告の犯罪は被害額からしても重大なものであり、前提事実⑸のとおり、本件会社が依然として存続し、原告がその代表取締役であることからすれば、本件記事は本件会社の信用性に係る情報を取引 過しているものの、原告の犯罪は被害額からしても重大なものであり、前提事実⑸のとおり、本件会社が依然として存続し、原告がその代表取締役であることからすれば、本件記事は本件会社の信用性に係る情報を取引先や顧客等に提供するものとして引き続き重要なものであって、本件会社が預かった出資金を出資者に返還している途中であるとすれば、本件記事で言及された問題はいまだ解決し ていないことになるから、その公共性が失われたとはいえない。 したがって、本件記事は公正な論評として保護されないものとはいえない。 ウ本件記事により原告が著しく回復困難な損害を被るおそれがあるか(争点3)(ア) 原告の主張原告は、本件会社の行為により多くの出資者に迷惑を掛けたことを反省し、平成2 7年には離婚して知人宅に身を寄せ、中古パソコンの販売を行う事業を営むために起 業する準備を始めたところ、氏名等のキーワードで検索すると本件記事等が表示され、これを見た取引先に取引を断られたりすると事業を諦めなければならなくなり、著しく回復困難な損害を被るおそれがある。 (イ) 被告の主張原告の主張は、抽象的な可能性を指摘するものにすぎない。 ⑵ プライバシー侵害を理由とする削除請求について原告のプライバシー侵害を理由とする削除請求が認められるか(争点4)ア原告の主張本件記事は、原告の行為が詐欺又は出資法違反に当たる可能性が高いという事実を摘示して原告のプライバシーを著しく侵害するものであり、当該行為から既に8年程 度が経過していることに鑑みれば、既に本件記事を掲載し続けることによる公共の利益はほぼ皆無であるから、プライバシー侵害を理由とする本件記事の削除請求が認められるべきである。 イ被告の主張本件記事は、原 ることに鑑みれば、既に本件記事を掲載し続けることによる公共の利益はほぼ皆無であるから、プライバシー侵害を理由とする本件記事の削除請求が認められるべきである。 イ被告の主張本件記事は、原告の私生活上の事実を摘示するものではなく、原告のプライバシー を侵害するものとはいえない上、原告の主張する本件記事を公表されない法的利益は抽象的なものにすぎず、上記⑴イ(イ)のとおり本件記事の内容には公共性が認められ、これを公表する必要性は高いから、本件記事を公表されない法的利益がこれを公表する必要性に優越することが明らかとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 意見又は論評による名誉権侵害を理由とする削除請求についての判断枠組み⑴ 事実の摘示による表現行為の差止めは、公共の利害に関する事項に係るものについては、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限って許されると解される(最高裁昭和56年(オ)第609号同61 年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁参照)。 ⑵ 本件記事は、本件会社が元本保証と高配当により資金調達を行っていたという事実を前提として、本件会社について「詐欺のような」、「詐欺の可能性が高い」などという意見又は論評に及んだものと認められる。 ⑶ そして、意見又は論評については、その対象の社会的評価を低下させるものであっても、それが公共の利害に関する事項に係り、専ら公益を図る目的に出たもので あり、その前提としている客観的事実の主要な点につき真実の証明があり、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない場合には、公正な論評として名誉権侵害の違法性を欠くと解さ に出たもので あり、その前提としている客観的事実の主要な点につき真実の証明があり、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない場合には、公正な論評として名誉権侵害の違法性を欠くと解される(最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)。 ⑷ 以上を踏まえると、他人の社会的評価を低下させる意見又は論評の差止めは、 当該意見又は論評が公正な論評に当たらないことが明白である場合、すなわち、それが公共の利害に関する事項に係るものでないこと、専ら公益を図る目的に出たものでないこと、又は、その前提としている客観的事実の主要な点が真実でないことが明白であるか、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものであることが明白である場合において、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるとき に限って許されると解するのが相当である。 2 争点1(本件記事により原告の社会的評価が低下するか)について本件記事は、原告が本件会社の代表取締役を務めていることを明記した上で、本件会社の行為について「詐欺のような」、「詐欺の可能性が高い」と言及したものであり、原告が経営する会社が詐欺のような悪性の強い行為をしたとして非難するものであ るから、これが、その一般読者に対し、原告の社会的評価を低下させるものであることは、明らかというべきである。このことは、本件記事が掲載された当時において他にも同様の報道がされていたことや、本件記事のその余の部分が本件会社の被疑事実等を中立的に報道したものであることによって、左右されるものではない。 3 争点2(本件記事が公正な論評に当たらないことが明白といえるか)について ⑴ 上記1⑵のとおり、本件記事の本件会社の行為につ 的に報道したものであることによって、左右されるものではない。 3 争点2(本件記事が公正な論評に当たらないことが明白といえるか)について ⑴ 上記1⑵のとおり、本件記事の本件会社の行為についての「詐欺のような」、 「詐欺の可能性が高い」との言及は、本件会社が元本保証と高配当により資金調達を行っていたという事実を前提とする意見又は論評と解すべきである。 ⑵ そして、前提事実⑵のとおり、原告が、不特定多数の者から元本を保証するとともに配当を支払うことを約して現金を受け入れたことにより有罪判決を受けていること、本件会社が元本保証と高配当をうたって全国から約6億円を集めて事業を停 止した旨の新聞報道がされていること(乙15)からすれば、上記事実の主要な点は真実であると認めるべきであり、また、上記の有罪判決や新聞報道の時点においては、上記事実は公衆の正当な関心事として公共の利害に関する事項に当たるものであったというべきであって、本件記事の記載内容自体も、原告に対して人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものとは認められないから、本件記事は公正な論評に当 たるものであったというべきである。 ⑶ もっとも、上記の有罪判決の言渡しは平成26年12月24日であり、上記の新聞報道は平成25年4月20日付けで、本件記事の掲載も同日頃であって、本件の口頭弁論終結日までに、前者からは9年半以上、後者からは11年以上が経過している。確かに、本件記事が前提とする本件会社の行為には社会的な影響があり、これを 出資法違反の犯罪事実とする有罪判決が言い渡されているものの、出資法違反の点については、前提事実⑶のとおり、執行猶予を取り消されることなく5年間の執行猶予期間を経過したことにより、上記判決による刑の言渡しは効力を失い、その時 有罪判決が言い渡されているものの、出資法違反の点については、前提事実⑶のとおり、執行猶予を取り消されることなく5年間の執行猶予期間を経過したことにより、上記判決による刑の言渡しは効力を失い、その時点から更に4年半以上が経過している。また、本件記事は、本件会社の上記行為等や告訴状が提出されている事実に基づいて、本件会社が詐欺のように資金調達を行っており、 捜査が行われるか注目であるなどと言及したものであって、上記判決によって本件会社や原告に係る刑事手続が終了した後にまで長期間にわたって閲覧され続けることを想定して投稿されたものであるとは認め難く、本件記事に引用された新聞記事(乙15)もインターネット上で一般的に閲覧できる状態ではなくなっており、本件会社の上記行為が上記判決後も継続的に社会の関心事となり続けていることをうかがわ せるような事情は見当たらない。そうすると、本件記事が前提とする本件会社の上記 行為に係る事実は、本件の口頭弁論終結日の時点においては、公的な立場にあるわけでもない原告の社会的評価を低下させる意見又は論評である本件記事を今後も長期にわたり掲載し続けることを正当化するに十分な程度に公衆の正当な関心事であるとはいえず、もはや公共の利害に関する事項に係るものとはいえないことが明白であると認めるのが相当である。 ⑷ なお、この点について、前提事実⑸のとおり、本件会社が存続し、原告がその代表取締役として登記されている事実はあるものの、本件会社が出資の受入れを行っているような事情はうかがわれないことからすれば、上記事実は上記の認定判断を左右するものとはいえないし、また、本件会社が預かった出資金を出資者に返還している途中であるとしても、そのことによって上記の認定判断が左右されるものではない と ば、上記事実は上記の認定判断を左右するものとはいえないし、また、本件会社が預かった出資金を出資者に返還している途中であるとしても、そのことによって上記の認定判断が左右されるものではない というべきである。 4 争点3(本件記事により原告が著しく回復困難な損害を被るおそれがあるか)について前提事実⑷のとおり、本件記事は、掲載から11年以上が経過しても、インターネット上の検索サイトで原告の氏名をキーワードとして検索すると表示される状態で あり、このような状態は本件記事が削除されない限り今後も長期にわたり継続すると考えられる。そして、原告が今後、事業等を行うに当たっては、その取引先等の関係者がインターネット上の検索サイトで原告の氏名等をキーワードとして検索を行うことは十分に考えられるところ、その結果として表示される本件記事が、原告が本件会社の代表取締役を務めていることを明記した上で、本件会社が元本保証と高配当に より資金調達を行っていたという事実を前提として、「詐欺のような」、「詐欺の可能性が高い」と言及していることからすると、これを閲覧した当該関係者が原告との取引等を回避するという事態を生ずることが想定され、結果的に原告が事業等を続けることが困難になるおそれがあるということは、上記の状態が今後も長期にわたり継続することを考慮すると、単なる抽象的な可能性にとどまらず、十分に現実的なものと して考えられるというべきである。以上からすれば、本件記事によって原告が著しく 回復困難な損害を被るおそれがあると認めるのが相当である。 5 結論以上のとおり、本件記事は、原告の社会的評価を低下させるものであり(争点1)、本件の口頭弁論終結日の時点においては公正な論評に当たらないことが明白であって(争点2)、これ 相当である。 5 結論以上のとおり、本件記事は、原告の社会的評価を低下させるものであり(争点1)、本件の口頭弁論終結日の時点においては公正な論評に当たらないことが明白であって(争点2)、これにより原告が著しく回復困難な損害を被るおそれがあると認めら れる(争点3)ことからすれば、上記1の判断枠組みにより、名誉権の侵害を理由とする原告の削除請求を認めるべきである。 よって、争点4について検討するまでもなく、原告の請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官作田寛之 裁判官吉田晃一 裁判官神崎敦史 別紙投稿記事目録(省略)

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