【DRY-RUN】主 文 本件各控訴を棄却する。 当審の訴訟費用中国選弁護人高良一男、杉村逸楼に支給した分は被告人 Aの負担とし、国選弁護人牟田真に支給した分は被告人Bの負担とする。
主文 本件各控訴を棄却する。 当審の訴訟費用中国選弁護人高良一男、杉村逸楼に支給した分は被告人Aの負担とし、国選弁護人牟田真に支給した分は被告人Bの負担とする。 理由 検察官が陳述した控訴の趣意は原審検察官有田栄二作成の同趣意書に記載の通りであり、被告人Aの弁護人高良一男が陳述した同趣意は弁護人杉村逸楼提出の同趣意書に記載の通りであり、被告人C、同Dの弁護人正木亮が陳述した同趣意は同弁護人及弁護人太田耕造連名の同趣意書に記載の通りであり、被告人Bの弁護人牟田真が陳述した同趣意及検察官の控訴に対する答弁は夫々同人提出の同趣意書並答弁書に記載の通りであるから、夫々ここにこれを引用する。 検察官の控訴の趣意に対する判断第一点(審判の請求を受けた事件に付、判決をしない違法)に付いて。 被告人Aに対する昭和二十六年十二月十日の起訴は「被告人等(Aの外C、D、Eを指す以下同じ)は中国天津へ向け貨物の密輸出を企て昭和二十六年十月二十七日頃税関の免許を受けず医療機械、光学機械、自動車タイヤ、チューブその他四十二品目六百三十三梱包の貨物を大阪市a川に碇泊中のF丸に積載出航し同年十一月四日予て貨物積替地として選定してあつた熊本県天草郡b港c湾に入港し同所で中国天津に仕向けられたG丸等(註、G丸の外H丸を指すこと一審の審理により明である)に積替えようとしたが同船等が機関故障等の為、その目的を達せず密輸出を遂げなかつたものである。」と言うのであり、同二十七年七月十九日の起訴は「被告人等は中国向け密輸出を企て貨物をF丸に積載し大阪市a川から熊本県天草郡b港へ回航していたものであり、(註、前示起訴事実を指す)被告人BはH丸の船長であるが被告人等は右Bと共謀の上同二十六年十一月七日午前二時頃税関の免許を受け をF丸に積載し大阪市a川から熊本県天草郡b港へ回航していたものであり、(註、前示起訴事実を指す)被告人BはH丸の船長であるが被告人等は右Bと共謀の上同二十六年十一月七日午前二時頃税関の免許を受けないで同郡久玉村字山浦沖合で右F丸に積載中の貨物の内自動車タイヤ約七十梱包鉛筆約三十梱包を右H丸に積替えE及Bにおいて同船に乗組み右B運航指揮の下に直ちに中国天津へ向け同所を出帆し以て密輸出を遂げたものである」と言うのであつて起訴こそ二回に分かれてはいるが起訴の事実は被告人A等は中国天津向け貨物の密輸出を企て大阪市a川からF丸に貨物を積載しこれを熊本県b港まで輸送し同所で待期中の天津向けG丸、H丸に積替え両船により前示貨物を天津に輸送しようと計画し予定の通りF丸により貨物をb港まで輸送はしたものの機関の故障その他の事情の為G丸が出航不能となつたのでF丸の貨物の一部をH丸に積替え天津向け出航させたと言う一個の密輪行為に過ぎない。 凡そ一個の犯罪が予備、着手の段階を経て既遂の状態に達した以上予備、着手は当然既遂罪に吸収せられ別に予備罪、未遂罪の成立の余地のないこと勿論であり、又或社会的行為か一個の犯罪と認めらるるや数個の犯罪と解せらるるやはこれを取締らんとする当該刑罰法規に即し専ら法律的見地よりこれを決すべきこともまた論議の余地がない。 よつて先ずAの行為が関税法に謂う一個の輸出に該当(従つて一個の密輸出罪を構成)するや否やの点に付、案ずるに関税法第七十六条が因つて以て保護しようとしている法益は国家の通商上の利益即ち公法益であり従つて同条に所謂輸出の個数従つてまた密輪出罪の罪数は総括的に見た輸出行為の個数によるべきもので貨物の個数或は輸出の為使用した船舶の隻数等には何等の関係もないものと解するを相当とする。又刑法の概念からするも被告人Aはとにか 従つてまた密輪出罪の罪数は総括的に見た輸出行為の個数によるべきもので貨物の個数或は輸出の為使用した船舶の隻数等には何等の関係もないものと解するを相当とする。又刑法の概念からするも被告人Aはとにかく関税法第七十六条第一項該当の一個の特定した輸出を企て、これを遂げたものである。加之社会的見地からしても前示二個の起訴状に記載されている被告人の密輸行為は首尾一貫した一個の密輸行為であること明である。 然らば被告人Aの行為は前示法条に該当する一個の行為であると言りべく、そして関税法に輸出行為とは海上にあつては目的の物品を日本領外に仕向けた船舶に積載するにより完成するものであり従つてこの時を以て既遂となりそれ以前の行為は或は予備或は未遂として既遂罪に吸収さるべき運命にある。本件においてはa川における貨物の積載からb海上において積替直前までの行為は未遂の段階であつて貨物の一部にもせよ外国向船舶H丸に積替を了し犯罪として既遂の段階に達した以上一罪中の未遂の段階にある。それ以前の行為は全部前示既遂罪に吸收せらるるものと解すべきこと前段の説明によつて明であろう。従つて原判決が被告人Aに関し一罪中の未遂の段階に過ぎない昭和二十六年十二月十日の起訴に付科刑しなかつたのは素よリ正当であつて論旨は理由がない。 同第二点(事実誤認の違法)に付いて。 記録によれば被告人C、同Dは被告人Aの主唱に係る本件密輸出に付いては最初から気乗薄であつたことも窺われ且b沖においては自己所有の貨物全部をF丸より引取りd港に陸揚げしている。(その理由に付いての所論の見解は直ちに承服し難いところである。)かかる見解からすると原判決が被告人両名に対し所謂密輸出既遂罪に付いてまで共同正犯としての罪責を負わさなかつたことは強ち違法とは言えない。従つて本論旨もまた理由がない。 同第三点 いところである。)かかる見解からすると原判決が被告人両名に対し所謂密輸出既遂罪に付いてまで共同正犯としての罪責を負わさなかつたことは強ち違法とは言えない。従つて本論旨もまた理由がない。 同第三点(量刑不当)に付いて。 本件密輸か計画的であり且相当大規模のものである点などからすると所論も謂れがない訳ではないが記録を精査し一切の事情を綜合考量すると原判決の刑も強ち失当とも思われない。従つて本論旨もまた結局理由かない。 正木弁護人の控訴趣意に対する判断同第一点(法令の誤用の違法)に付いて。 論旨は関税法第七十六条第二項には予備罪と未遂罪とを含んでいる。予備と未遂とは素より異つた訴因であるから検察官はその何れであるかを明かにして起訴しなければならない。然るに本件起訴状(原判決第三事実に対応するもの)には適条として単に関税法第七十六条第二項としてあるだけで訴因が予備、未遂の何れであるか明瞭でない。かかる場合裁判官は釈明権を行使し訴因を明かにすべく検察官において訴因を明かにしないときは刑訴第三百三十八条第四号により公訴を棄却すべきである。然るに原審は右訴因を明かにすることなく審理を進め且つ漫然関税法第七十六条第二項を適用したのは法令の適用に誤りがあり、その誤りは判決に影響あること明であると言うのである。 所論の起訴状(昭和二十六年十二月十日附、被告人C、D、Aに対するもの)の後段には「……b港c湾に運航し同所において天津に仕向けられたG丸に積替えようとしたが同船が機関の故障等の為その目的を達せず密輸出を遂げなかつたものである」と記載してあるところから推して検察官は密輸出の未遂を訴因として公訴の提起をしたものであること明であり又原判決第三の行文自体から原審もまた右未遂罪の認定をした<要旨第一>ものであること殆んど疑の余地がない。(なお外国仕 から推して検察官は密輸出の未遂を訴因として公訴の提起をしたものであること明であり又原判決第三の行文自体から原審もまた右未遂罪の認定をした<要旨第一>ものであること殆んど疑の余地がない。(なお外国仕向け船舶に積替える目的を以て他の船舶等に貨物を積載</要旨第一>し外国仕向け船舶に該貨物を運輸する行為は密輸出の実行行為(積込)に密着した行為であつて、既に予備の段階を越えむしろ未遂の域に達したものと解するを正当とする。)従つて原判決には所論の如き違法はない。 同第二点(事実誤認乃至審理不尽の違法)に付いて。 論旨の骨子は原判決はG丸は判示第三の犯罪の用に供した船舶であり被告人A、C等の所有に属するからとの理由により関税法第八十三条第一項により該船舶を没収している。しかし該船舶が右犯罪の供用物件でないことは判文自体によつても明であり又その証拠もない。又右船舶が被告人A、C等の所有に属することに付いては適法にこれを認むるに足る証拠がない。尤も副検事中野章作成のA被告人の供述調書、同副検事及司法警察員I作成(第三回)の被告人Cの各供述調書中には右の点に付いての漠然たる自供はあるが他に何等の証拠がない。そして被告人の自白のみを以て有罪とし又は刑罰を科してはならないとすること憲法第三十八条第三項刑訴第三百十九条第二項の精神とするところである。原判決は右二点に関し審理不尽の違法があり判決に影響ある事実誤認に陥つた違法があると言うのである。 しかしながら押収物の没収の前提要件たる事実は刑訴第三百三十五条に所謂罪となるべき事実に属しない。そして所謂厳格なる証明を要するのは「罪となるべき事実」に限り(所論に引用の憲法刑訴の法条は右に関してのみ適用がある)それ以外の事実に付いてはこれを認むるに足る何等かの資料(所謂自由なる証明)が存在すれば足り厳格なる証明 要するのは「罪となるべき事実」に限り(所論に引用の憲法刑訴の法条は右に関してのみ適用がある)それ以外の事実に付いてはこれを認むるに足る何等かの資料(所謂自由なる証明)が存在すれば足り厳格なる証明を要するものではない。本件に付いて見るのに所論に引用の被告人等の各供述調書によればG丸が被告人C、A等の所有に帰したことを認むるに十分である。従つて態野丸の所有権に関する所論の論難は当らない。しかしながら右船舶が前示犯罪の用に供されたものだとする原審の見解には遽かに賛同しがない。従つてこの点に対する論旨は謂れがある。即ち該船舶は被告人等において本件密輸の用に供せんと<要旨第二>した物件に過ぎない。そして関税法第八十三条第一項の規定は船舶の没収に付いてそれが犯罪の供用物件であ</要旨第二>る場合に限り適用があり、その他の場合には適用がない。従つて同法条を適用して右船舶の没収をした原判決には法令適用の誤がある。しかしながら同法条は刑法第十九条の適用を絶対的に排除するものではなく重複しない範囲内においては刑法の同法条の適用あるものと解すべきであり前示説明により明かな如く右船舶は正に刑法第十九条に該当する故同条によればこれを没収し得る関係にあること明白である。従つて原判決の前示法令の適用上における過誤は未だ判決に影響あるものとは言えない。従つて本論旨も結局理由がない。 同第三点(原判決別表第二物件の没収に付審理不尽乃至事実誤認の違法)に付いて。 論旨の骨子は被告人両名が被告人Aの企画に係る本件輸出は総司令部の命による合法的のものと信じ之に協力しb港まで別表第二の所有物件を輸送したものであることは相違ないがなおこれを輸出するや否やの決定は右輸出が合法であることの確証を得るまで留保されていた。然るにH丸に貨物を積替える直前まで右確証を示されなかつたの 第二の所有物件を輸送したものであることは相違ないがなおこれを輸出するや否やの決定は右輸出が合法であることの確証を得るまで留保されていた。然るにH丸に貨物を積替える直前まで右確証を示されなかつたので被告人両名は自己所有の右物件を輸出しないことに決意し該物件をd港に引上げたのであるから被告人等の所為は密輸出予備罪にも該当しない。従つて右物件を没収した原判決は違法であると言うのである。 原判決拳示の証拠によれば動機の如何を問わず当初被告人両名は関税法上の免許を受けないまま貨物を天津に向輸送する目的を以て大阪市a川からb港まで輸送したものであることを認め得べく、被告人等が輸出の決意を留保のまま右輸送をしたものであるとの所論はこれを採用できない。又仮に被告人両名が被告人Aは総司令部の命により本件密輸出をなすものであり(その然らざることは後述)給司令部の命に基くものである以上犯罪を構成しないと誤信していたとしてもそれは単なる違法性認識の上における錯誤であつて素より犯罪の成否に関係はない。従つて本論旨もまた理由がたい。 同第四点(没收に関する法令誤用の違法)に付いて。 論旨は被告人両名の原判決判示第三の所為が仮に密輸出予備罪を構成するとしてもG丸及原判決別表第二の物件は同罪の組成物作であつて犯罪の供用物件ではない。従つて犯罪の供用物件に限り適用ある関税法第八十三条第一項に基き右船舶及物件を没収することはできない。又同法は刑法第十九条の適用を排除したものと解すべきだから原判決には判決に影響ある法令適用の誤りがあると言うのである。 G丸の没収に関しては既に控訴の趣意第二点に対する判断中に当裁判所の見解を示した通りである。(関税法第八十三条第一項の規定が刑法第十九条の適用を全面的に排除するものでないことに付いても前示説明参照)又原判決別表第二に記載の 控訴の趣意第二点に対する判断中に当裁判所の見解を示した通りである。(関税法第八十三条第一項の規定が刑法第十九条の適用を全面的に排除するものでないことに付いても前示説明参照)又原判決別表第二に記載の物件に付いても該物件は密輸出未遂罪を組成した物件であつて所謂犯罪の用に供したものではないから原判決が犯罪の用に供したものと解したのは誤りではあるが関税法第八十三条第一項には同法第七十六条の犯罪に係る貨物にして犯人の所有又は占有に係るものは之を没収するとあり同法第七十六条第二項の未遂罪を組成した貨物もまた右に所謂同法第七十六条の犯罪に係る貨物に該当すること勿論であるからして結局同条により右貨物の没収をした原判決には前示誤解はあるにしても法令の誤用はない。従つて本論も結局理由がない。 同第五点(量刑不当の違法)に付いて。 記録に現われている一切の犯情その他各般の事情を綜合すると結局原判決の刑は相当であつてこれを重しとする何等の理由もない従つて本論旨も理由がない。 牟田弁護人の控訴の趣意に対する判断同第一点(法令適用の違法)に付いて。 (一) 被告人A等は占領軍総司令部の命により本件密輸出を計画、実行したものであることは被告人Aの供述、J、K、L等の証言によつて明らかであり当時占領軍の命令は国内法に優越する関係にあつたのであるから本件に付関税法の適用はない。従つて右Aの命によりH丸を指揮し密輸の実行行為をした被告人Bの行為は犯罪を構成しない。 (二) 仮に然らずとするも被告人はAの言を信じて右行為に及んだものであるから違法の認識を欠きこの点において無罪であると云うのである。 しかしながら所論に引用のAの供述は信用し難く又J、K、L等の証言は何れも推測の境を出ず本件密輸出が占領軍総司令部の命に基くものだとの事実を認定すなに足る証拠とはなし難 無罪であると云うのである。 しかしながら所論に引用のAの供述は信用し難く又J、K、L等の証言は何れも推測の境を出ず本件密輸出が占領軍総司令部の命に基くものだとの事実を認定すなに足る証拠とはなし難い。その他記録を精査するも右主張事実を認むるに足る何等の確定もない。そうだとすれば右主張事実を前提とする(一)の論旨は理由がない。又仮に被告人が(二)の如き誤信に基き本件犯罪を侵したものと仮たしても右は動機に付いての錯誤であるか又はせいぜい違法性の認識上における錯誤であつて関税法上の正規の免許を受けずして貨物を外国に輸出するものであることを知りながら本件輸送行為をした以上同法第七十六条の罪責を免れ得ない。従つて本論旨は総て理由がない。 同第二点、(法令の誤用の違法)に付いて。 (一) 被告人BはH丸船長であり乗員である。出入国管理令第六十条には「乗員を除く」とあるから被告人が同条所定の手続を履践せずして出国したからとて同令違反罪は成立しない。(二)仮にそうでないとしても被告人はA等が旅券手続をして呉れるものと信んじ敢て該手続をしなかつたのであるから違法性が阻却されると云うのである。 (一) しかしながら乗員に対し出入国管理令第六十条の除外例の適用のあるのは乗員が乗員としての職務遂行の為出入国港から出国する場合に限られ犯罪等不正の目的を以て出国する場合、又は出入国港以外の場所から出国する場合にも適用あるものではない(当裁判所の判例参冊)。 (二) 所論の如き誤認は違法性阻却の事由とはならない。従つて本論旨もまた理由がない。 同第三点(量刑不当の違法)に付いて。 記録を精査すると本件犯罪の犯情その他諸般の事情に照らし原判決の刑は相当であつて、これを重しとする理由を発見できない。従つて本論旨もまた理由がない。 高良弁護人の控訴(杉村弁護人提 法)に付いて。 記録を精査すると本件犯罪の犯情その他諸般の事情に照らし原判決の刑は相当であつて、これを重しとする理由を発見できない。従つて本論旨もまた理由がない。 高良弁護人の控訴(杉村弁護人提出の趣意書)に対する判断同第一点(事実誤認の違法)に付いて。 論旨は本件密輸出は占領軍総司令部の命令に基くものであり該命令は当時国内法に優越する効力を有していたから国内法である関税法は適用なく従つて同法違反罪は成立しない。又石油製品配給規則違反の点も総司令部の命令に基く右輸出の遂行の必要上犯したものであるから前同様犯罪成立の余地がないと云うのである。 しかしながら既に牟田弁護人の控訴に対する判断中に述べた通り本件密輸出が占領軍総司令部の命に基くものであることはこれを認むべき証拠がない。従つて論旨は因つて立つ前提において既に採用し難い。従つて本論旨は理由がない。 同第二点(量刑不当の違法)に付いて。 記録を精査すると本件の犯情その他諸般の事情に照らし原判決の刑は結局相当だと認められる、従つて本論旨もまた理由がない。 右に説明の通り本件各控訴は何れもその理由かないので刑事訴訟法第三百九十六条に則りこれを棄却し訴訟費用の負担に付、同法第百八十一条を適用し主文の通り判決する。 (裁判長判事下川久市判事青木亮忠判事鈴木進)(検察官及び弁護人の控訴趣意は省略する。)
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