【DRY-RUN】○ 主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 ○ 事実 第一 当事者の求めた判決 一 原告ら 1 被告法務大臣が昭和四八年一二月一三日原告A、同B、同Cに対し、同四九年
○ 主文原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 ○ 事実第一当事者の求めた判決一原告ら 1 被告法務大臣が昭和四八年一二月一三日原告A、同B、同Cに対し、同四九年三月一三日原告Dに対しそれぞれした出入国管理令四九条一項による異議の申出を理由なしとする裁決はいずれも無効であることを確認する。 2 被告東京入国管理事務所主任審査官が昭和四八年一二月一三日付で原告A、同B、同Cに対し、同四九年三月一三日付で原告Dに対しそれぞれした退去強制令書発付処分はいずれも無効であることを確認する。 3 被告法務大臣が昭和五〇年五月二九日原告Eに対してした出入国管理令四九条一項による異議の申出を理由なしとする裁決を取り消す。 4 被告東京入国管理事務所主任審査官が昭和五〇年五月二九日付で原告Eに対してした退去強制令書発付処分を取り消す。 5 訴訟費用は被告らの負担とする。 二被告ら主文と同旨第二当事者の主張一請求原因 1 原告Aは、昭和一五年九月一二日大阪市<地名略>において韓国人である父Fと日本人である母Gとの間に出生(戸籍上は父F、母Hの実子として届出がされているが、真実の母はGである。)した韓国籍を有する外国人で、昭和一九年父とともに韓国に帰国したが、昭和四一年一月実母Gの行方を探す目的で本邦に不法入国した。 また、原告Bは、昭和二〇年五月二二日韓国<地名略>において父Iと母某女との間に出生(戸籍上は父I、母Jの実子として届出がされているが、同女は真実の母ではない。)した韓国籍を有する外国人で、中学校卒業後、昭和三六年八月本邦に不法入国した。 右原告両名は、東京に居住し、原告Aは洋服縫製の仕事に、また原告Bは叔母であるK方で鞄製造の仕事に、それぞれ従事していたが、昭和四六年二月結婚し、原告C(長女、昭和四六年一 月本邦に不法入国した。 右原告両名は、東京に居住し、原告Aは洋服縫製の仕事に、また原告Bは叔母であるK方で鞄製造の仕事に、それぞれ従事していたが、昭和四六年二月結婚し、原告C(長女、昭和四六年一一月一五日生)、同D(長男、昭和四八年一月一日生)、同E(二女、昭和五〇年三月二四日生)の三子をもうけ、右三子も在留資格を取得することなく父母とともに本邦に不法に残留している。 2 本件退去強制手続の経過(一) 原告A、同B、同Cは、昭和四七年一〇月二五日ごろ東京入国管理事務所に出頭し、不法入国又は不法残留の各事実を申告したところ、原告A及び同Bは出入国管理令(以下、「令」という。)二四条一号に、原告Cは同条七号にそれぞれ該当する旨の同所入国審査官の認定及び同所特別審理官の判定を受けたので、被告法務大臣(以下、「被告大臣」という。)に対し異議の申出をしたところ、被告大臣は、昭和四八年一二月一三日右原告らに対し右異議の申出は理由がない旨の裁決の通知をし、更に同日被告東京入国管理事務所主任審査官(以下、「被告審査官」という。)は、退去強制令書の発付処分(以下、「退令処分」という。)をした。 そして、同日右原告らは退去強制令書の執行により収容されたが、直ちに仮放免され、その後、昭和五〇年収容されるまでの間数次にわたり仮放免期間の許可を受けた。 (二) 原告D及び同Eは、いずれも令二四条七号に該当する旨の東京入国管理事務所入国審査官の認定及び同所特別審理官の判定を受けたので、被告大臣に対し異議の申出をしたところ、被告大臣は、原告Dに対し昭和四九年三月一三日、同Eに対し昭和五〇年五月二九日、それぞれ右異議の申出は理由がない旨の裁決の通知をし、次いで被告審査官は、原告Dに対し昭和四九年三月一三日付で、同Eに対し昭和五〇年五月二九日付で、それぞれ退令処分をし に対し昭和五〇年五月二九日、それぞれ右異議の申出は理由がない旨の裁決の通知をし、次いで被告審査官は、原告Dに対し昭和四九年三月一三日付で、同Eに対し昭和五〇年五月二九日付で、それぞれ退令処分をした。 3 しかし、右被告大臣の各裁決及び被告審査官の各退令処分は、いずれも違法である。 (一) 原告A、同B、同C、同Dに対する各裁決及び各退令処分の無効(1) 原告Aは、本件退去強制手続の過程において、一貫して入国の目的が実母であるGを探すことにあつた旨申し立てていたにもかかわらず、被告大臣はこの点について何らの審理、判断をすることなく裁決をした。しかし、同原告の入国目的に関する右事実は、本件の判断につき極めて重要な影響をもつことが明らかであつて、かかる事実をまつたく無視してされた各裁決はそれ自体で無効である。また、被告大臣の各裁決に至るまでの審理手続は、慎重かつ公正を欠き、原告らを退去させるための予断と偏見をもつてされたものであるから、この点からも右各裁決は無効である。 そして、右無効な各裁決を前提としてされた各退令処分も無効である。 (2) 原告Aは、日本で出生し、その後数年間日本に居住したことがあつたばかりでなく、不法入国後既に原告Aは一〇年、同Bは一四年を経過しており、その間原告らは日本の国益を害することなく堅実に生活し、日本にその生活の基盤を築きあげてきた。そして、原告Aは洋服縫製業に従事し、盛業中であつて、原告らの日本における生活は経済的にも安定しているのに反し、韓国には原告らが生活していくための基盤がなく、また、現在、原告ら全員が健康を害し到底韓国で生活していくことができない状態にあり、日本で出生した原告C、同Dは、日本語のみを解することができるだけである。このような原告らをいま国外に退去せしめることは、著しく正義、人道に反する し到底韓国で生活していくことができない状態にあり、日本で出生した原告C、同Dは、日本語のみを解することができるだけである。このような原告らをいま国外に退去せしめることは、著しく正義、人道に反するものというべきである。 ところで、昭和四七年中に令四九条一項による異議の申出に対する裁決がされた一一五〇人のうち、被告大臣が令五〇条一項により在留を特別に許可した者は九六二人(八三・七%)であり、そのうち韓国・朝鮮人は八六六人(九〇・〇%)であり、更に、昭和四五年から同四九年までの五年間についてみても、不法入国の事案において裁決がされた者のうち右在留特別許可が付与された者の割合は各年七割以上にも及んでいる。このように、韓国・朝鮮人に対しては、その特殊な歴史的背景に鑑み、原則として在留特別許可を与えることが行政先例法又は確固たる行政慣行となつているのである。 以上の事実からすれば、被告大臣は、本件各裁決をするに際し、令五〇条一項に基づき原告らに対し在留特別許可を与えるべきであつたのに、これを付与することなく各裁決をしたものであるから、本件各裁決は裁量権の範囲を著しく逸脱したか又は裁量権を著しく濫用したものであつて無効である。 そして、右無効な各裁決を前提としてされた各退令処分も無効である。 (3) 本件各退令処分後、前記のとおり原告Aらは仮放免され、その期間は二年もの長期に及んでおり、その間、同原告夫婦の間には第三子(原告E)が出生するなど原告らの環境に大きな変化があつたから、各退令処分は既に強制執行力を有しないものとして無効であるか、あるいは失効しているというべきである。 (二) 原告Eに対する裁決及び退令処分の違法(1) 原告Eに対する裁決及び退令処分は、その余の原告らに対する裁決及び退令処分を事実上前提としてされたものであるから、それらの裁決及 いうべきである。 (二) 原告Eに対する裁決及び退令処分の違法(1) 原告Eに対する裁決及び退令処分は、その余の原告らに対する裁決及び退令処分を事実上前提としてされたものであるから、それらの裁決及び退令処分が既に述べたとおり無効である以上、原告Eに対するそれらも違法となり、取消しを免れない。 (2) また、前記(一)の(2)で述べたように、日本で出生し日本語しか解することができない原告Eに対し、被告大臣が在留特別許可を付与することなくした本件裁決は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであつて取り消されるべきである。 そして、右裁決を前提としてされた退令処分も違法であり、取消しを免れない。 4 よつて、原告らは請求の趣旨記載の判決を求める。 二請求原因に対する認否 1 請求原因1のうち、原告Aの実母がGであり、入国の目的が同女を探すためであつたこと、原告Bの実母が某女であつて、Jでないことはいずれも否認するが、その余の事実は認める。 2 同2の事実は認める。 3 同3は争う。 三被告らの主張原告らに対する各裁決及び各退令処分は適法かつ有効である。 1 原告Aは、退去強制手続の過程において、生活苦のため出稼ぎ目的で不法入国してきたものである旨申し立てていたのであつて、実母が日本人であるとか、実母を探すために不法入国したと主張したことはなかつた。また、仮に同原告の入国目的が実母の捜索にあつたとしても、入国以来既に一〇年を経過しているのであるから、その間に十分目的は達せられたはずであり、しかも実母の捜索のために在留を認めないことが直ちに違法とされる理由はないのであつて、被告大臣が裁決をするにあたつて、右事実につき審理、判断をしなかつたとしても、それゆえに裁決が無効となるわけのものではない。 2 (一)原告らは、被告大臣が在留特別許可を与 れる理由はないのであつて、被告大臣が裁決をするにあたつて、右事実につき審理、判断をしなかつたとしても、それゆえに裁決が無効となるわけのものではない。 2 (一)原告らは、被告大臣が在留特別許可を与えなかつたことが本件各裁決の違法事由となると主張するが、異議の申出に対する被告大臣の裁決と在留特別許可の許否とはそれぞれ別個独立の処分であるから、後者の裁量を誤つたことが前者の瑕疵となるものではない。 (二) 仮に右主張が理由がないとしても、被告大臣が原告らに対し在留特別許可を与えなかつたことは裁量権の範囲内であるから、本件各裁決は適法である。 すなわち、在留特別許可は、異議申出人の個人的事情のみならず、国際情勢、外交政策等一切の事情を総合的に考慮したうえで決定されるべき恩恵的措置であつて、その裁量の範囲は極めて広いものである。そして、原告らの日本における生活は、不法入国又は不法残留という自らの違法行為を基礎として積み重ねられたもので、本来、当初から清算されるべきことが客観的に予定されていたものであるから、かかる生活を失うこと自体は何ら正義や人道に反するものではない。また、原告Aは二六才に達するまで韓国で生活したものであり、韓国には母Hが洋品店を経営しているほか、兄弟親族も多数居住しているし、原告Bは一六才に達するまで韓国で成育し、両親は<地名略>において夫原告Aの実家の近くに住み農業を営んでいるほか、兄弟等多数の親族が韓国に居住しているのであるから、原告らが韓国で生活するにあたつては、これらの者の協力も期待できるのであつて、その生活には何らの支障もない。したがつて、原告らに退去を強制することは何ら正義人道に反する結果をもたらすものではなく、在留特別許可を与えなかつたことが裁量権の行使を誤つたものであるとする原告らの主張は理由がない。 なお、統 い。したがつて、原告らに退去を強制することは何ら正義人道に反する結果をもたらすものではなく、在留特別許可を与えなかつたことが裁量権の行使を誤つたものであるとする原告らの主張は理由がない。 なお、統計上在留特別許可を付与した数が多いとしても、前記のとおり右許可は諸般の事情を総合的に考慮して個別的に決定されるべき恩恵的措置であるから、原告らが主張するような行政先例法又は行政慣行は存しない。 3 また、原告らが主張するように、仮放免の期間が長くなつた等の事情がある場合に、既に有効に成立した退令処分が強制執行力を有しなくなるとか、あるいは失効すると解すべき何の根拠もない。 4 また、原告Eは、その余の原告らに対する裁決及び退令処分がいずれも無効であることを前提として、同原告に対する裁決及び退令処分の違法を主張するが、以上に述べたところから明らかなとおり、右主張はその前提において失当である。そして、その扶養者である両親について既に退令処分がされ韓国に帰国すべきこととされている以上、同原告も両親とともに韓国に帰国すべしとすることはしごく当然であつて、同原告に対し在留特別許可を与えなかつたことに裁量の誤りはない。 第三証拠関係(省略)○ 理由一請求原因1のうち、原告Aの実母がGであり、入国の目的が同女を探すためであつたこと、原告Bの実母が某女であつてJでないことを除くその余の事実及び同2の事実は、当事者間に争いがない。 二そこで、原告らに対する各裁決及び各退令処分の適否について判断する。 (原告A、同B、同C、同Dに対する各裁決及び各退令処分について) 1 原告らは、原告Aの入国目的が日本人である実母の捜索にあつたことについて、被告大臣が何らの審理判断をすることなく、これを無視して各裁決をしたことは違法であり、右各裁決及びそれらを前提としてされた 1 原告らは、原告Aの入国目的が日本人である実母の捜索にあつたことについて、被告大臣が何らの審理判断をすることなく、これを無視して各裁決をしたことは違法であり、右各裁決及びそれらを前提としてされた各退令処分はいずれも無効である旨主張する。 しかし、原告Aの実母がGであるかどうかはともかくとして、同原告の不法入国の目的が右Gを探すことにあつたとの事実は、同原告本人尋問の結果を含む本件全証拠をもつてしてもこれを認めることができず、かえつて右本人尋問の結果によれば、同原告がGを探したいと思うようになつたのは、本件退令処分を受けてから後のことであると認められる。したがつて、右主張は前提を欠くに帰し、失当である。 また、原告らは、本件裁決に至るまでの手続が慎重かつ公正な審理でなく予断と偏見をもつてされたものであるともいうが、その事実を認めるに足る証拠はない。 2 原告らは、本件においては、原告ら(ただし、原告Eについては後述する。)に対して在留特別許可を与えるべきであつたのに、被告大臣がこれを与えることなく本件裁決をしたのは、在留特別許可に関する裁量権の範囲を著しく逸脱し又は裁量権を著しく濫用したものであるから、右各裁決及びこれを前提とする本件各退令処分は無効であると主張する。 (一) 令四九条一項による異議の申出に対する被告大臣の裁決は、本来、特別審理官によつて誤りがないと判断された入国審査官の認定の当否を改めて審査し判断するものであるが、令五〇条及び同令施行規則三五条によれば、被告大臣は、裁決にあたり、異議の申出が理由がないと認める場合でも一定の要件が存するときは、異議申出人に在留特別許可をすることができるのであるから、異議を棄却する被告大臣の裁決は、右入国審査官の認定を相当とするとの判断に基づいて異議を排斥する処分であるばかりでなく、在留特 存するときは、異議申出人に在留特別許可をすることができるのであるから、異議を棄却する被告大臣の裁決は、右入国審査官の認定を相当とするとの判断に基づいて異議を排斥する処分であるばかりでなく、在留特別許可をすべき場合にも当たらないとしてこれを付与しない処分としての性質をも有するものというべきである。そうすると、裁決に際し、在留特別許可を与えなかつた被告大臣の判断に違法がある場合には、異議の申出を棄却した裁決は違法となるものであり、右裁決に基づいてされた退令処分もまた当然に違法なものになるといわざるを得ない。 (二) そこで、本件各裁決に際し在留特別許可を与えなかつた被告大臣の判断の適否について検討する。 前記当事者間に争いのない事実と成立に争いのない乙第二六号証、第二七号証の二、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし三、第三、四号証、乙第二九号証並びに証人Kの証言、原告A、同Bの各本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。 原告Aは、戸籍の記載によると、昭和一五年九月一二日韓国<地名略>において父F、母Hの長男として出生したものであり、幼児期の数年を父とともに日本で生活した後、昭和一九年韓国に帰国し、学資がないため中学校を二年で中途退学して、洋服の仕立等の仕事に従事し成人に達した。昭和四〇年五月兵役を終え、しばらくは既製服の仕立業をしていた父の手伝いをして家計を助けていたが、一家の生活は苦しく、そのころ、父から実の母は日本人Gであつて、同原告は日本で出生したものであると聞かされ、日本に行つて生活するよう勧められたため、昭和四一年一月本邦に不法入国し、都内の縫製所に紳士服の裁断工として住込み稼働していた。その間、原告Bと知り合い、昭和四六年二月結婚し(婚姻届出は昭和四七年三月二日)、結 活するよう勧められたため、昭和四一年一月本邦に不法入国し、都内の縫製所に紳士服の裁断工として住込み稼働していた。その間、原告Bと知り合い、昭和四六年二月結婚し(婚姻届出は昭和四七年三月二日)、結婚後は都内のアパートに居を構え、洋服等の縫製の下請けをして生計を維持していた。 また、原告Bは、戸籍の記載によると、昭和二〇年五月二二日韓国済州道において父I、母Jの子として出生したが、生活が苦しかつたので、中学校卒業後、昭和三六年八月日本に住む叔母Kを頼つて本邦に不法入国した。入国後は、都内の右K方に寄宿して鞄製造の手伝いや家事手伝いなどをしていたが、原告Aと知り合い結婚するに至つた。 右原告両名は、昭和四六年一一月一五日長女原告Cが出生したことから、子供の将来を考え、また、密入国者としての不安な生活に耐えられなくなつたこともあつて、翌昭和四七年一〇月二五日ごろ東京入国管理事務所に出頭して、右原告三名の不法入国又は不法残留の事実を申告した結果、同原告ら及びその後に出生した原告D(長男、昭和四八年一月一日生)、同E(二女、昭和五〇年三月二四日生)に対して本件の退去強制手続が行われることとなつた。 昭和五〇年五月、原告Aに対する仮放免許可が取り消され、また、同Bらに対する仮放免期間の延長が認められなかつたため、身柄を収容されたが、そのころから、原告Aは自律神経失調症、胃炎に罹り、同Bはしびれ感、胃痛等を訴えるに至り、また原告C、同D、同Eも昭和五一年一一月以降急性喘息様咽頭気管支炎によりしばしば通院加療している。 以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。なお、原告Aが密入国した目的が実母であるGを探すことにあつたものとは認め難いことは、前判示のとおりである。 右認定した事実によると、原告らは、本件送還によつて、これまで築いてきた日本におけ ない。なお、原告Aが密入国した目的が実母であるGを探すことにあつたものとは認め難いことは、前判示のとおりである。 右認定した事実によると、原告らは、本件送還によつて、これまで築いてきた日本における生活の基盤を失うこととなるのではあるが、原告Aは二六才まで、同Bは一六才まで韓国で生活していたものであり、いずれも十分な生活能力を有する年令に達していること、原告Aは洋服縫製の技能を有し、かつて韓国においてもその仕事に従事した経験があることなどを考えると、送還後、韓国において普通の社会生活を営んでいくことは十分可能であるということができる。また、原告C、D及び同Eはいずれも未だ幼く、父母の養育下にあるものであるから、父母とともに生活することが最も望ましいことはいうまでもない。もつとも、原告らが現在健康を害していることは前記のとおりであるが、韓国においても治療を受けることが可能であるし、通常の社会生活を営むうえに大きな支障となるほどのものとは認められない。これらの諸点を考慮すると、本件において原告らの在留を認めることなくその退去を強制することが、著しく苛酷であつて正義あるいは人道に反するということはできず、このことは、仮に原告らが主張するように原告Aが日本人を母とし日本で出生したものであるとしても同様である。 また、原告らは、韓国・朝鮮からの不法入国者に対しては原則として在留特別許可を与えるという行政先例法又は確固たる行政慣行が存在する旨主張するが、令五〇条に基づき外国人に在留特別許可を与えるかどうかは、被告大臣の広汎な裁量に委ねられており(最高裁昭和三四年(オ)第三二号同年一一月一〇日第三小法廷判決・民集一三巻一二号一四九三頁参照)、その許否は、単に当該外国人の個人的主観的事情のみならず、わが国における社会、経済事情、国際情勢、外交政策等をも 三四年(オ)第三二号同年一一月一〇日第三小法廷判決・民集一三巻一二号一四九三頁参照)、その許否は、単に当該外国人の個人的主観的事情のみならず、わが国における社会、経済事情、国際情勢、外交政策等をも考慮して決定されるべき性質のものであることを考えると、従前の在留特別許可の付与状況が原告ら主張のとおりであるとしても、そのことによつて直ちに、不法入国してきた韓国・朝鮮人に対しては原則として在留特別許可を与える取扱いであるとは解することができず、原告らの主張するような内容の行政先例法又は行政慣行の存在を認めるには足りない。 そうすると、原告A、同B、同D、同Cに対する本件各裁決に際し、被告大臣が同原告らに対して在留特別許可を与えなかつたことにつき裁量権の濫用あるいは裁量権の範囲の逸脱があつたとはいえないから、右濫用等のあることを前提として右各裁決及び本件各退令処分が無効であるとする原告らの主張は失当といわなければならない。 3 次に、原告らは、退令処分後、仮放免の期間が二年にも及び、その間原告Eが出生するなど環境に大きな変化があつたから、右処分は既に失効したものである旨主張する。しかしながら、退令処分がされた後に生じた右の程度の事情によつて、先にされた退令処分が事後的にその効力を失うと解すべき根拠はない。 4 以上のとおりであるから、上記原告らに対する本件各裁決及び各退令処分が無効であるとの主張はすべて失当であり、その無効確認を求める同原告らの本件各請求はいずれも理由がない。 (原告Eに対する裁決及び退令処分について) 1 既にみたとおり、原告Eを除くその余の原告らに対する各裁決及び各退令処分は無効でないのであるから、その無効を前提として原告Eに対する裁決及び退令処分の違法をいう同原告の主張は理由がない。 2 また、幼令の同原告にとつて、父母とと の余の原告らに対する各裁決及び各退令処分は無効でないのであるから、その無効を前提として原告Eに対する裁決及び退令処分の違法をいう同原告の主張は理由がない。 2 また、幼令の同原告にとつて、父母とともに生活することが望ましいことはいうまでもないのであつて、父母に対し既に有効な退令処分がされている以上、被告大臣が同原告に対しても在留特別許可を与えなかつたことに裁量権の濫用あるいは裁量権の範囲の逸脱があつたとはいえず、その裁決及び退令処分には何ら違法はない。 3 したがつて、右裁決及び退令処分の取消しを求める原告Eの請求も理由がない。 三よつて、原告らの本訴各請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官佐藤繁中根勝士佐藤久夫)
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