平成31(う)60 窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
令和元年9月17日 福岡高等裁判所
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判決文本文5,404 文字)

- 1 -令和元年9月17日宣告福岡高等裁判所第3刑事部判決平成31年(う)第60号窃盗被告事件 主文 本件各控訴を棄却する。 被告人両名に対し,当審における未決勾留日数中各180日を,それぞれその原判決の刑に算入する。 理由 1 本件各控訴の趣意本件各控訴の趣意は,被告人両名の主任弁護人堀井準,弁護人木 1 0村道也連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に記載のとおりであるから,これらを引用する。各論旨はAら(原判決は,A,B及びCを「Aら」というとしている。)が運搬,管理していた金塊合計160個(重量約160キログラム。時価合計約7億5856万円。以下「本件金塊」という。)について,Aらに刑法上の占 1 5被告人を含む6名の実行犯(以下「被告人ら」という。)が本件金塊を持ち去ること(以下「本件持ち去り行為」という。)についてAらの同意があり,B所有又は管理の現金約130万円等在中のショルダーバッグ1個及び携帯電話機2台(以下,これらを併せて「本件ショルダーバッグ等」といい,ショルダ 2 0ーバッグのみを「本件ショルダーバッグ」という。)の持ち去り行為には被告人乙は関与していないから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というものである。 2 原判決の概要Aらは,本件金塊の入手や保管,運搬の全てを自ら 2 5の手によって直接行っており,その処分についてもAら自身が行う- 2 -予定であったのであるから,Aらは本件金塊を実力的に支配していたもので,その間,Aらの上位者が同行したり,直接本件金塊を握持するなどしたりしたことは一切ないことからすれば,上位者が本Aらは,いずれも本件持ち去り行為について同意しておらず, 力的に支配していたもので,その間,Aらの上位者が同行したり,直接本件金塊を握持するなどしたりしたことは一切ないことからすれば,上位者が本Aらは,いずれも本件持ち去り行為について同意しておらず,抵抗し なかったのは犯人らが警察官であると誤認してその指示に従ったからである旨供述しているところ,同供述は,Aらが上位者の委託を受けて高額な本件金塊を売却するために運搬していたことなどに照らして至極自然なものであり,犯人らが警察官であると誤認したという点も本件持ち去り行為の態様と整合し,およそ持ち去りに同意 1 0するとは思われない私物まで同時に持ち去られていることやAらが被害当日に被害申告していることなどに照らし,高い信用性が認められる旨説示し被告人乙は,本件持ち去り行為時には自動車内で待機しており,本件ショルダーバッグ等を窃取する場面を見ていないが,被告人らは,本件金塊の占有者の携行品を盗むという範囲 1 5で事前に共謀していたと認められる旨説示している。 3 当裁判所の判断原判決の上記認定に,論理則,経験則等に照らして不合理な点は見当たらず,事実の誤認は認められない。以下,所論にかんがみ理由を補足して説明する。 2 0本件金塊)について所論は,Aらは,本件金塊に対する処分権を持っていなかったのであるから,占有補助者に過ぎず,刑法上の占有は認められない旨主張する。しかし,原判決が説示するとおり,Aらは,本件金塊を購入して売却する役割を任され,Dら上位者のいる場所から遠く離 2 5れたところで,自己の責任で相当の時間にわたり本件金塊を保管し,- 3 -運搬していたのであるから,自らの判断と裁量に基づいて本件金塊の保管,運搬等を行っていたというべきであり,本件金塊に関する実力的支配が専ら上位者に で相当の時間にわたり本件金塊を保管し,- 3 -運搬していたのであるから,自らの判断と裁量に基づいて本件金塊の保管,運搬等を行っていたというべきであり,本件金塊に関する実力的支配が専ら上位者にあり,Aらの占有が全く排除されていたとみることはできず,Aらが占有補助者の立場にあったとはいえない。所論は採用することができない。 本件持ち去り行為の同意の有無に関する所論(1の)についてア所論の骨子所論は,①本件持ち去り行為の際のAらの行動からは,本件持ち去り行為についてAらの同意があったことが推認される,②本件持 1 0ち去り行為により損失を受けており同意していない旨のD供述は信用できない,Dが多額の出資金を集めてその配当に苦慮し,関係者と図って本件金塊を持ち去られたことにすることを計画したことが明らかになったとして,Aらが上位者であるDの意向を十分認識し,被告人らが金塊を持ち去ることに同意・ 1 5協力した,などと主張している。そこで,以下,順次検討する。 イ Aらの行動についての所論 所論は,Aらが被告人らを警察官と誤認するような状況にはなかったにもかかわらずAらが何らの抵抗もしていないことや,Aらが警察署に届け出るまでに約1時間半もの時間を要していることから 2 0すれば,本件持ち去り行為についてAらの同意があったことが推認される,などと主張する。しかし,被告人らの一部が装着していたベストには「POLICE」と記載されたワッペンが付けられ,「機捜」という警察官のものと見られる刺しゅうも施されていたもので,その形状等からすると通常人であれば警察官であると誤認す 2 5るに足りるものである。そして,Aらは,突然被告人らから強い口- 4 -調で「警察だ。密輸をしているだろう。」などと問い もので,その形状等からすると通常人であれば警察官であると誤認す 2 5るに足りるものである。そして,Aらは,突然被告人らから強い口- 4 -調で「警察だ。密輸をしているだろう。」などと問いただされるという想定外の事態で困惑した状況にあったことからすれば,被告人らを警察官と誤認して何らの抵抗もしなかったことや,警察署に届けるまでに上位者への報告をしたり,被告人らに奪われたBの携帯電話の位置情報で探索しようとしたりして相当の時間を要した旨説 明していることが特に不自然とはいえず,所論の指摘する点が本件持ち去り行為についてAらの同意があったことを推認させるものではない。むしろ,被告人らの一部が単に警察官を装う服装をしていたことにとどまらず,警察官による所持品検査を装って携帯電話を提出させ,車内にいたEらに対しては,共犯者Fが職務質問を装っ 1 0て携帯電話を車内に置いたままにして下車させた上,本件金塊の入ったキャリーケース5個(以下,これらを併せて「本件キャリーケース等」といい,キャリーケースのみを「本件キャリーケース」という。)を本件持ち去り行為が行われたビル(以下「本件ビル」という。)から持ち出し,さらに共犯者Gが残って被害者らにもう少 1 5し待つように申し向けるなどして被害者らに追跡されることなく本件キャリーケース等を運ぶ時間を稼ぐには十分な足止め行為をし,短時間で手際よく本件キャリーケース等を持ち去っており,これらの事情に照らせば,原判決が説示するとおり,被告人らの本件持ち去り行為の態様は,被害者らの同意がなかったことを推認させるし, 2 0被告人らを警察官であると認識して疑わず,抵抗しなかった旨のAらの供述は何ら不自然ではない。 ウ D供述の信用性に関する所論について所論は,Dは本件持ち去 ったことを推認させるし, 2 0被告人らを警察官であると認識して疑わず,抵抗しなかった旨のAらの供述は何ら不自然ではない。 ウ D供述の信用性に関する所論について所論は,Dは本件持ち去り行為により多額の損失を受けており,同意したことはない旨供述しているが,①供述内容が不自然に変遷 2 5しており,被害を受けたと見せかける為に虚偽の供述をしている可- 5 -能性がある,②Dには出資金の返還を免れる為に本件持ち去り行為を行う動機があるなどと主張する。しかし,①については,上記のD供述の信用性に疑問を抱かせるような変遷があるとは認められない。②については,Dは,自らがオーナーをしている会社及び一緒に金塊の買い付けを行ったビジネスパートナーが拠出した金額,他 の出資者及びその出資額,本件持ち去り行為後に出資者に対して返済している状況等を具体的に供述しており,その供述によれば,本件では盗難被害に関する保険に加入しておらず,本件持ち去り行為により会社の資金や買い付けた本件金塊を失い,多額の返還債務を負ったことが認められ,このことに疑問を差し挟むような具体的証 1 0拠はなく十分信用することができるから,Dが出資金の返金を免れる為に本件持ち去り行為を行ったなどとは考えられない。 エ新たな証拠に基づくについてこの所論は,原審記録に基づかない不適法な主張である上,援用する証拠自体も憶測に基づくものや本件金塊の調達とは関係のない 1 5話を集めたもので,そこから更に憶測を重ねていて,客観的根拠を全く欠くものである。所論は失当である。そもそも,本件では,金塊の買付け及び転売をする会社のオーナーであるDが,会社の資金,ビジネスパートナーからの拠出金及び別の出資者からの出資金を使って,会社名義で金塊を購入し,これを は失当である。そもそも,本件では,金塊の買付け及び転売をする会社のオーナーであるDが,会社の資金,ビジネスパートナーからの拠出金及び別の出資者からの出資金を使って,会社名義で金塊を購入し,これを転売する目的で,同社の従 2 0業員2名(A及びB)及び上記ビジネスパートナーの部下(C)1名に本件キャリーケース等を運搬させており,出資者のスタッフ2名も同行する中で,本件キャリーケース等及び本件ショルダーバッグ等が持ち去られている。このように本件金塊の買付けに複数の者が資金を拠出・出資し,その従業員等5名が本件金塊の運搬に関わ 2 5っているという状況や,盗難被害に関する保険に加入していなかっ- 6 -たことからみて,本件金塊を持ち去られることを同意することについてDや資金拠出者らの共通の利益があったとは考えられず,これらの者の同意があるという事態は容易に想定し難いし,Dらの同意が想定し難いなかで,D及び資金拠出者それぞれの従業員にすぎないAらが独自に本件持ち去り行為にそろって同意するというのも, なおさら想定し難いところである。そうすると,本件持ち去り行為に同意していなかった旨のAら及びDの供述は,このような事情にも整合しているのであって,その信用性は高いというべきである。 オまとめ以上によると,本件持ち去り行為をAらの同意なく,その意思に 1 0反して行われた窃取行為と認めた原判決の認定に,論理則,経験則等に照らして不合理な点はなく,正当ということができる。 所論は採用することができない。 被告人乙に関する本件ショルダーバッグ等の窃盗罪の成否についての所論(1の)について 1 5所論は,被告人らは,本件金塊の持ち去りについて話をしただけであるし,被告人乙は,本件ビル内にはおらずBの本件ショル 件ショルダーバッグ等の窃盗罪の成否についての所論(1の)について 1 5所論は,被告人らは,本件金塊の持ち去りについて話をしただけであるし,被告人乙は,本件ビル内にはおらずBの本件ショルダーバッグ等を見ていないから,本件ショルダーバッグ等の窃取についての共謀は認められない旨主張する。しかし,原判決が説示するとおり,被告人らは,本件金塊を持ち去るに当たって,本件金塊の運 2 0搬方法や占有者の人数などの詳細を把握していたわけではないことに加え,警察官による職務質問を装って金塊の占有者に接触することを当初からもくろんでいたもので,本件持ち去り行為に際し,本件金塊以外の携行品の占有を取得する可能性もある程度織り込まれていたと認められる。そして,被告人らは,Bから携帯電話機2台 2 5を提出させて持ち去ったほか,本件キャリーケースの中身を確かめ- 7 -るなどした際,本件キャリーケースの持ち手に引っ掛けられていた本件ショルダーバッグを外して手に持ち,中身を調べるからと言って本件キャリーケース等及び本件ショルダーバッグを持ち去っている。このような本件ショルダーバッグが置かれた状態及びその持ち去り状況からすると,本件ショルダーバッグ等を窃取することは事 前の包括的な共謀の範囲のものと評価することができる。これと同旨の原判決の説示に誤りはない。 小活その他所論が種々主張する点について更に記録を調査,検討しても,原判決に事実の誤認は認められない。 1 0各論旨には理由がない。 4 結論よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却することとし,被告人両名の当審における未決勾留日数の各算入について刑法21条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 1 5令和元年9月17日福岡高 より本件各控訴を棄却することとし,被告人両名の当審における未決勾留日数の各算入について刑法21条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 主文 令和元年9月17日福岡高等裁判所第3刑事部 裁判長裁判官野島秀夫 裁判官潮海二郎 裁判官設樂大輔

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