平成12(行ウ)23 個人情報公開拒否処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成14年3月20日 さいたま地方裁判所 情報公開
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判決文本文11,913 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の申立て 1 原告(1) 被告が原告に対して平成11年11月29日付けで行ったケースワーカーの実態調査時の記録(生活指導記録表)の開示請求に対する個人情報一部開示決定(北保福発第718号)中,開示しない部分に係る処分を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告主文同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,埼玉県北本市民である原告が,北本市個人情報保護条例(平成3年12月20日条例第42号,以下「本件条例」という。)に基づき,原告のした高齢者福祉サービスホームヘルパー派遣申請に関し,被告(北本市長)の管理する北本市所属のケースワーカー作成の原告に係る生活指導記録表(以下「本件ケース記録」という。)の開示請求を行ったところ,被告が本件ケース記録の大部分(別紙生活指導記録表黒塗り部分の記載[(以下「本件非開示部分」という。])は,本件条例14条2項2号に該当し,開示をしないことができる個人情報に当たるとして,本件ケース記録中,本件非開示部分の開示を拒否し,その余の部分のみを開示する個人情報一部開示決定(北保福発第718号)をしたので,原告が,同決定のうち本件非開示部分開示拒否部分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めた事案である。 本件の争点は,本件非開示部分が本件条例14条2項2号所定の開示拒否事由に該当するか否かである。 2 基本的事実関係(認定事実には証拠を掲記する。)(1) 当事者ア被告は,北本市長であるところ,同市では平成3年12月20日,本件条例を制定した。本件条例によると,市長は,個人情報の管理等(個人情報の収集,保管,利用をいう。本件条例2条(4))に当たる実施機関となっている( 市長であるところ,同市では平成3年12月20日,本件条例を制定した。本件条例によると,市長は,個人情報の管理等(個人情報の収集,保管,利用をいう。本件条例2条(4))に当たる実施機関となっている(同条(2))。 イ原告(明治45年5月19日生)は,北本市に住所を有し,平成11年4月6日,北本市が実施する高齢者福祉サービスの一環であるホームヘルパーの派遣を同市保健福祉部福祉課(以下「福祉課」という。)に申請し,同月19日付けでされたホームヘルパー該当決定通知書により,北本市からホームヘルパーの派遣を受けている者である。 (2) 本件条例の内容(甲1号証)ア目的個人情報の適正な取扱いに関し定め,市民が自己に関する個人情報(以下「自己情報」という。)の開示,訂正等の権利を保障することにより,公正な市政の運営を確保し,もって市民の基本的人権の擁護をすることを目的とするものである(1条)。 イ個人情報の意義個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものをいう(2条(1))。 ウ個人情報の開示請求(ア) 市民は,実施機関に対し,その管理にかかる自己情報の閲覧又は写しの交付(以下「開示」という。)を請求することができる(14条1項)。 (イ) 実施機関は,開示の請求に係る自己情報を原則として開示しなければならないが(14条2項,3項),例外として,法令等の規定により開示ができないもの(14条2項(1))等のほか,「個人の評価,診断,判定及び選考等に関する情報であって,本人に開示することにより,当該評価,診断,判定及び選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」(同項(2),以下「本件非開示事由」という。)に該当する自己情報については,開示をしないことができる。 (3) 原告の実態調査の経緯(甲2号証の 等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」(同項(2),以下「本件非開示事由」という。)に該当する自己情報については,開示をしないことができる。 (3) 原告の実態調査の経緯(甲2号証の3・4,4号証の2,6号証の2ないし4,16号証,乙1号証,証人P1)ア原告は,平成4年頃以降,肩書地にある五男のP2方に引き取られ,同人及びその妻P3(昭和25年6月18日生,以下「P3」という。)夫婦とその家族と共に暮らし始めた。P3は,原告と同居してから,常時原告の介護に当たっている。 イ原告は,P3ら家族との同居後間もなくから,北本市の老人福祉事業におけるデイサービスに出かけていたが,平成5年11月上旬以降,腰痛のため寝ついてしまったため,同サービスを受けることができなくなった。 この情報を得た同市の職員(保健福祉部保健課保健衛生担当係)は,平成6年1月26日,P3方を訪問し,原告の状況につき調査した結果,以後5,6か月に1回程度定期的に経過観察を要するとの判定をし,以後,一定期間毎に自宅を訪問していた。 この間,原告の状態は,ある程度改善し,歩行,排泄,更衣,食事,入浴,意思の疎通等につき格別の問題はなく,再びデイサービス(週2回)を受けるため外出することも可能になった。 ウところが,原告は,平成11年7月,北本市の福祉サービスであるショートスティを利用中,転倒して,左足を骨折し,そのために入院して以来,ほぼ寝たきりの状態になり,移動時には車椅子の使用が不可欠となった。このような状態は,現在も続いている。 エ P3は,同年4月6日,北本市の保健福祉部福祉課を訪ね,従来受けていた前記高齢者福祉サービスの一環である老人デイサービスに加えて,週1回のホームヘルパーの派遣を申請した。これに対し,同課の担当者は,P3の申請に基づき,相 北本市の保健福祉部福祉課を訪ね,従来受けていた前記高齢者福祉サービスの一環である老人デイサービスに加えて,週1回のホームヘルパーの派遣を申請した。これに対し,同課の担当者は,P3の申請に基づき,相談記録票(甲2号証の3)を作成した。 オ北本市では,申請に係るホームヘルパーの派遣に当たっては,ケースワーカーが派遣対象者の実態調査を行い,その結果に基づいてその要否を決定するシステムになっていた。そこで,担当ケースワーカー(以下「担当ワーカー」という。)は,同月21日,P3宅で原告に面接して実態調査を行い,その調査の結果を本件ケース記録(前記のとおり生活指導記録の書式1頁分である。)に記載した。担当ワーカーが原告から事情聴取する際,P3は,別室で,担当ワーカーに同行したホームヘルパーと話していた。 P3は,担当ワーカーからの事情聴取を受けなかったこともあり,調査終了時に,本件ケース記録を見せてもらいたい旨申し入れたが,担当ワーカーは,上司に相談した上,後日返事すると答え,これに応じなかった。 なお,担当ワーカーは,同年4月に採用されたばかりの者で,ケースワーカーとしての仕事の実務経験はほとんどなかった。(同日,先輩のケースワーカーも同行したが,調査終了前に帰庁していた。)担当ワーカーが記載した本件ケース記録は,別紙のとおりであって,「H11 4 21(水)PM2:00~3:30 P4宅訪問 P5H・HP6(途中帰庁)P7と主(P4)嫁(P3)の5名で実調毎週火曜日AM11:00~PM1:00の2H派遣」と記載し,その後18行にわたり本件非開示部分を記載した後,更に「嫁よりケース記録を見せてもらいたいと言われた,上司に相談した上,後日返事と伝える。」と記載した。 後日,担当ワーカーの上司である担当福祉課長は,P3に電話し,本件非開示 示部分を記載した後,更に「嫁よりケース記録を見せてもらいたいと言われた,上司に相談した上,後日返事と伝える。」と記載した。 後日,担当ワーカーの上司である担当福祉課長は,P3に電話し,本件非開示部分は,嫁姑のトラブルが起きる恐れがある記載であり,警察にも見せない資料であって,情報公開の対象になっていないので開示できない旨の連絡をした。 (3) 本件処分の経緯(甲2号証の1ないし4,3号証の1・2,4号証の1,5号証の2・3,6号証の1ないし4)ア P3は,本件処分に先立ち,自ら,平成11年5月14日,本件条例14条1項に基づき,「ヘルパー依頼申込み時インテーク用紙・相談記録表,ケースワーカー実調時の記録(本件ケース記録)」の開示請求をした。これに対し,被告は,同月28日付けで,相談記録表及び本件ケース記録の開示部分の開示には応じたものの本件非開示部分については,「本件ケース記録は,生活保護法に準じた訪問記録,所見,評価,措置決定等の経過を継続的に記録するものであり,専門的な指導を行う上で重要な判断,評価,所見等が記録された情報として,これを開示すると今後の指導等に支障が生ずるおそれがある」との判断から,本件条例14条2項(2)に該当するとの理由を附記して,その開示を拒否する本件処分を含む個人情報一部開示決定をした。 P3は,これを不服として,同年7月23日付けで被告に対する異議申立てをしたところ,被告は,同年8月10日付けで北本市情報公開・個人情報保護審査会(以下「保護審査会」という。)に諮問し,同年10月15日付けで同審査会の答申を得た上,同年10月22日付けで異議申立てを棄却し,P3に通知した。 その理由の骨子は,「本件ケース記録には,ケースワーカーの専門家としての判断,評価,所見の記載が含まれているところ,この部分は,ケース 上,同年10月22日付けで異議申立てを棄却し,P3に通知した。 その理由の骨子は,「本件ケース記録には,ケースワーカーの専門家としての判断,評価,所見の記載が含まれているところ,この部分は,ケース記録中極めて重要な部分を占めているため,このケース記録の全部が開示されることになると,ケース記録に差し障りのない事柄しか記載されなくなることも予想され,介護サービスの利用者,被介護者の状態について真実の把握が困難になることが考えられ,また,記録者個人に対する批判や責任追及につながるなどの可能性も否定できず,実務上困難な状況になるおそれがあり,福祉行政全般に対して著しい支障が生ずるおそれがあるから,本件非開示部分は,本件条例14条2項(2)に該当する。」というものである。 イそこで,P3は,観察対象者である本人自身から請求すれば,本件非開示部分について開示されるものと考え,原告と相談の上,原告の名義で本件ケース記録の開示請求をすることとし,原告の代理人として開示請求の手続を行うこととした。 そこで,原告は,P3を代理人として,平成11年11月15日付けで本件ケース記録の開示請求をした。これに対し,被告は,同月29日付けの決定で,本件ケース記録の一部を開示し,その余の本件非開示部分については,本件条例14条2項(2)に該当との理由を附記して,その開示を拒む本件処分をした。 原告は,これを不服として,P3を代理人として,同年12月24日付けで被告に対する異議申立てをしたところ,被告は,平成12年1月25日付けで保護審査会に諮問し,同年3月31日付けで同審査会の答申を得た上,同年4月3日,異議申立てを棄却し,原告に通知した。 その理由の骨子は,「ケース記録の全部開示を前提とした場合,その記載内容についてケースワーカーと対象者やその家族などの間に受 査会の答申を得た上,同年4月3日,異議申立てを棄却し,原告に通知した。 その理由の骨子は,「ケース記録の全部開示を前提とした場合,その記載内容についてケースワーカーと対象者やその家族などの間に受け取り方等においてくい違いが生ずる恐れがある。その結果,事実と異なる,判断に誤りがあるなどの意見の対立が生じる可能性もあり,ケースワーカーの記載の内容にケースワーカーの判断,所見等の記載がなされず,単に差し障りのない記載内容になってしまう可能性がある。そうなれば,ケース記録本来の意味合いを失い,目的とする対象者への適正なサービスの提供につながらなくなる。」,「ケース記録に記載される情報は,対象者とケースワーカ-との信頼関係に基づいて提供されるものである。開示されることが前提となれば,そこに記載された内容が抽象化されたり一般化されたりすることが懸念される。それによって,対象者に関する正確な情報の把握が得られなくなることが予想され,福祉政策に支障を生ずる可能性が大きい。」ことから,本件非開示部分は本件条例14条2項(2)に該当するというものである。なお,保護審査会の答申も同旨である。 ウなお,P3は,平成11年6月16日付けで,被告に対し,北本市情報公開条例に基づき,前記の原告に関する老人保健事業における訪問指導の記録の公開請求をし,被告は,同月25日,同条例9条3項により,平成6年1月26日付の「ねたきり訪問記録表(初回・調査用)」,「リハビリテーション報告書」,「継続訪問指導記録表(平成7年1月31日から平成11年5月18日まで)」の公文書公開決定をし,P3に通知した。 3 争点についての当事者の主張(1) 被告ア本件非開示部分には,原告との面接によって得られたケースワーカーの原告に関する評価,判断,推測等が記載されている。すなわち,本 をし,P3に通知した。 3 争点についての当事者の主張(1) 被告ア本件非開示部分には,原告との面接によって得られたケースワーカーの原告に関する評価,判断,推測等が記載されている。すなわち,本件非開示部分には,ケースワーカーが原告から得た情報に基づいてケースワーカーとしての専門的知識,経験や感じ取ったことから得た原告の内心の状況に関する推測等が記載されている。このような内容の本件非開示部分は,本件条例14条2項(2)の「個人の評価,診断,判定及び選考等に関する情報」に当たると解すべきである。 イ本件非開示部分には担当ワーカーと原告との面接時における原告の対応の仕方,話の仕方,話の内容,原告の様子等からケースワーカーが受けた印象やそれに基づいて推測した原告の内心の状態,反応等から得た担当ワーカーの専門的な評価が記載されている。このような,担当ワーカーが原告から受けた情報に基づく評価が原告の自己評価と異なったとしても,担当ワーカーの判断が誤りであるということはできないから,その訂正削除等を請求できるものではなく,したがって,この点については,原告には訂正削除等を請求できる権利の侵害はない。 また,本件非開示部分が開示されると,担当ワーカーの判断が気に入らないものであれば,担当ワーカーと原告の信頼関係を損なう可能性がある。そうすると,そのような事態の発生を危惧するケースワーカーは,記載に関する相手方の反応を考え,信頼関係を損なわないようにするため,誰が見ても差し障りのない事項のみ記載することが考えられるが,それでは生活指導記録本来の意味をなさなくなってしまう。 また,本件非開示部分が開示されると,相手方から,自分はそのような反応・様子をしていなかったとかケースワーカーの理解の仕方が悪いなどの批判・非難がされ,感情的な紛争の原因となる くなってしまう。 また,本件非開示部分が開示されると,相手方から,自分はそのような反応・様子をしていなかったとかケースワーカーの理解の仕方が悪いなどの批判・非難がされ,感情的な紛争の原因となる可能性があるが,的確なサービス提供のための記載が感情的な紛争の原因となるのは好ましくなく,さりとて,それを恐れて必要事項が記録されないと,ケース記録に正確な記録がされないことにより,利用者に適正な福祉サービスを提供してゆくという現在の福祉サービスの方式が成り立たなくなる。 このようなことを考慮すると,本件非開示部分は,本件条例14条2項(2)所定の「当該評価,診断,判定及び選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」に該当するというべきである。 (2) 原告被告の主張は争う。 ア元来,自己情報開示請求権は,憲法21条,13条によって認められているものと解されるから,本件条例上の個人情報開示請求権も,条例が創設的に認めた権利ではなく,確認的に規定されたものに過ぎない。そうすると,本件条例14条2項(2)の制限事由は,可能な限り厳格に解釈されるべきであり,「自己に関する個人情報の開示,訂正の権利」(本件条例15条参照)を制限しても真にやむを得ない場合に限られると解すべきである。すなわち,本件条例14条2項(2)の「当該評価,診断,判定及び選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」とは,第一に,具体的に何の評価について何に関する診断,判定,選考等にどのような支障が生ずるのかが現実的かつ具体的で客観的に明白でなければならず,第二に,その支障が単なる行政事務遂行上の支障ではなく,著しい支障であることの証明がされなければならない。 イしかるに,本件ケース記録は,ホームヘルパー派遣の申請者について介護の必要性等の実態を調査 二に,その支障が単なる行政事務遂行上の支障ではなく,著しい支障であることの証明がされなければならない。 イしかるに,本件ケース記録は,ホームヘルパー派遣の申請者について介護の必要性等の実態を調査するものであり,その内容としては,申請者の肉体的,精神的状態,申請者の家族状況その他の家庭環境,日常的な介護者の状況等に関する客観的事実及び担当ワーカーの所見の記載が想定されるが,これらすべては申請者個人の純粋たる個人情報であって,これを申請者本人に開示することにより,具体的に,ホームヘルパー派遣という行政サービスの実施に著しい支障が生ずるとは考えられない。 第3 争点に対する判断 1 事実関係の補足証拠(甲2号証の2,6号証の2ないし4,8ないし11号証,14号証,乙1号証,証人P1,証人P8)及び弁論の全趣旨によると,更に,次の事実を認めることができる。 (1) 本件ケース記録は,原告に対して,北本市が実施している高齢者福祉サービスの一環であるホームヘルパーの派遣の要否及びその内容を検討するため,北本市のケースワーカーが,原告に面接して行った実態調査の結果を記載したものであって,個別援助技術における記録として,利用者と個別援助過程についての事実及びソーシャルワーカーの解釈などを記述し,今後,原告に対して行なわれるべき援助活動の基本的資料となるべきものである。 北本市においては,ケースワーカーが,ホームヘルパー派遣の対象者について実態調査をした場合の記録について定められた様式はなく,生活保護法で定められた様式である生活指導記録表(様式28号)を使用しているが,この生活指導記録表には,ホームヘルパー派遣の要否という観点から,派遣対象者の肉体的,精神的状態,家族状況その他の家庭環境,日常的な介護者の状況及びそれらに基づく今後ホームヘルパーを 用しているが,この生活指導記録表には,ホームヘルパー派遣の要否という観点から,派遣対象者の肉体的,精神的状態,家族状況その他の家庭環境,日常的な介護者の状況及びそれらに基づく今後ホームヘルパーを派遣して個別援助する上での担当ケースワーカーとしての専門的な所見等が記載されることが想定される。 (2) 本件ケース記録のようなケースワーク活動に必要な記録を作成するに当たっては,一般的に次のような点に留意すべきものとされている。すなわち,a 関係者の発言は,その表現をできるだけ忠実に記載する,b 関係者の観察は多面的に行い,記録内容は正確に記録する,c 援助過程に関する事実については,日時,場所,主体,原因等を明確に記録する,d 記録内容を時間的経過,問題別分類,利用者の社会関係,社会資源の活用などに分けて記録する,e 援助の展開に直接関係のない事柄については記録を控える,f 家庭内の介護者と被介護者との間等関係者間に緊張関係があるときには,サービスと関連のない内容については記載を控え,またサービスと関連する事項については,当事者の納得の得られるような記載をする。 (3) また,このようなケース記録の対象者に対する開示の問題については,近時,ケースワーカーと対象者との関係は,協働して対象者の問題を解決する対等な関係であって,上下関係や管理支配関係として理解すべきものではないとの基本的観点から,対象者の記録に対するアクセス権を認める見解が有力となっている。たとえば,ソーシャルワーク活動の先進国とされるアメリカソーシャルワーカー協会の倫理綱領では,「秘密の保持とプライバシー」の項において,「ソーシャルワーカーはクライアントに対し,本人自身に関するすべての公式のソーシャルワーク記録に,適切なアクセスを提供しなければならない」,「クライアントに記録へ の保持とプライバシー」の項において,「ソーシャルワーカーはクライアントに対し,本人自身に関するすべての公式のソーシャルワーク記録に,適切なアクセスを提供しなければならない」,「クライアントに記録への適切なアクセスを提供するにあたって,ソーシャルワーカーはその記録に含まれている,本人以外の秘密を守るため適切な手だてを講じなければならない」と定めているとのことであるが,記録へのアクセスの態様は,様々であり,ソーシャルワーカーが対象とするクライアントにも比較的安定した状態の人,精神的に不安定な人,年齢的にも乳幼児,児童,青少年,成人,高齢者と様々であり,また,サービスの種類も相談援助,金銭給付,在宅サービス,施設サービス等多様であり,更に,サービス形態も,1対1のサービス,家族療法,グループワーク,コミュニティ・プラクティスと多様であることから,機関の方針とクライアントの状態に応じて記録へのアクセスに関しても,全面的かつ即時のアクセスを原則とする「開放アクセス」から部分的ないし爾後のアクセスを認めるにとどまる「制限アクセス」まで様々な工夫が行われているとのことであり,我が国においても同様の動きがみられる。 (4) P3は,前記の経緯で原告を引き取って以来,終始,誠実にその介護に当たっているのであるが,原告のそのときどきの状態に応じた介護に追われ,しばしば強い精神的ストレスを訴えている様子が前記の訪問指導記録表の記載から窺われる。 (5) 本件非開示部分は,秘匿されているので,その具体的内容を直接知ることはできないが,担当ワーカーの上司であるP1福祉課長(当時)の証言によると,担当ワーカーが原告に対して質問した事項とこれに対する原告の回答等が記載されており,その中には原告が介護者であるP3にどのような感情を抱いているか,また,自身がP3から 課長(当時)の証言によると,担当ワーカーが原告に対して質問した事項とこれに対する原告の回答等が記載されており,その中には原告が介護者であるP3にどのような感情を抱いているか,また,自身がP3からどのように思われていると認識しているかについての記述及びこれに基づく担当ワーカーのケース理解に関する記述が含まれているというのである(このこと自体を疑うべき根拠はない。)。そして,この記載がケースワーカーとしての実務について間もない担当ワーカーが記載していたため,その表現に難があり,同証人としては,これを公開することによって原告の立場がなくなると理解したという。 2 以上の事実関係を基礎として,各主張につき順次判断する。 (1) 原告の自己情報開示請求権について原告は,自己情報開示請求権は憲法21条,13条によって認められるもので,本件条例上の自己情報開示請求権もそれを確認したにすぎないから,本件条例14条2項(2)は可能な限り厳格に解釈されるべきであると主張する。 しかし,憲法21条や13条の規定から直接行政機関に対する自己情報開示請求権が発生すると解することはできないものというべきであるから,自己情報開示請求権は,本件条例により創設的に認められた権利であり,したがって,本件非開示部分が,本件条例14条2項(2)に該当するか否かは,結局,本件条例の趣旨,目的に照らし解釈されるべき問題である。 そして,前記の事実によれば,本件非開示部分には本件条例14条2項(2)の「個人の評価,診断,判定等に関する情報」に関する情報が記載されていることは明らかである。 (2) 本件非開示部分の非開示事由該当性についてア被告は,本件非開示部分に係る情報が同条項の「本人に開示することにより,当該評価等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」に該当す る。 (2) 本件非開示部分の非開示事由該当性についてア被告は,本件非開示部分に係る情報が同条項の「本人に開示することにより,当該評価等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」に該当すると主張する。 イ前記の事実関係からすると,事態は次のように要約ないし推認することができるものというべきである。 a 本件ケース記録は,担当ワーカーが原告に対して行った実態調査の記録であるところ,その内容は前記のとおりであって,本件非開示部分には,担当ワーカーの質問に基づく,被介護者である原告の介護者であるP3に対する主観的感情及びこれに基づく担当ワーカーのケース理解が記載されているものである。そして,その記載の方法は,担当ワーカーの実務経験の不足から,前記の望ましいケース記録の記載方法からすると,家庭内の介護者と被介護者との間に緊張関係がある場合における記載の仕方として必ずしも適切なものではなく,P1証人が危惧するとおり,それが開示され,P3の目に触れることになると,今後原告がP3及びその家族と生活を継続して行く上で,原告の不利益に作用するおそれが推認されるものというべきである。 b 本件ケース記録の開示請求は,当初P3によってされ,これが本件非開示部分につき拒否されると,P3が原告の代理人として更にその開示を請求しているという事実関係に加え,原告とP3の間には,高齢の被介護者と長期間に亘ってその介護に当たってきた介護者(原告の息子の配偶者)という,相互に緊張関係を生じやすい状況が存在していることからみると,本件非開示部分に関する開示請求は,原告の請求という形をとっており,現に原告の意思に基づくものであることは否定できないにしても,現実的にはP3の意向が強く反映していることは否定できないものというべきである。 そして,当裁判所が直接見聞 の請求という形をとっており,現に原告の意思に基づくものであることは否定できないにしても,現実的にはP3の意向が強く反映していることは否定できないものというべきである。 そして,当裁判所が直接見聞した原告の状態は,意思能力を喪失しているという状態に至っているものではないと認められるものの,高齢のため,自己の置かれている状況についての理解力が相当程度減退していることは否めず,本件非開示部分が開示され,これがP3の目に触れることによって生じ得る事態について理解しているものかどうか重大な疑問を抱かざるを得ない。現在,原告の介護者であるP3に対する依存度が極めて大きいことを考えると,このことを軽視することはできない。 以上のような状況からみると,今後,ケース記録の記載内容について,原告,P3及び担当ワーカーとの間で感情的な紛争が生じ,原告,P3に担当ワーカーに対する不信感が起きるおそれもあり,以後の福祉サービスの提供について妨げとなることが十分に予想されるというべきである。 c 近時ケースワーク活動におけるケースワーカーと対象者の関係を対等な関係として理解し,対象者のケース記録に対するアクセス権を認める見解が有力であることは前記のとおりであるが,そのような見解であってもクライアントの具体的状態に応じて記録へのアクセスに関し,様々な工夫が行われるべきであることを考慮すると,前記のような問題を生じ得る本件非開示部分を原告に対する何の配慮もなく直接開示することには,例え,それが本人からの請求であるとしても,多大の疑問があるというべきである。 ウ以上の認定,判断によると,本件非開示部分に係る情報は,本件条例14条2項(2)の「個人の評価,診断,判定等に関する情報に関する情報であって,当該評価,診断,判定及び選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認 ,判断によると,本件非開示部分に係る情報は,本件条例14条2項(2)の「個人の評価,診断,判定等に関する情報に関する情報であって,当該評価,診断,判定及び選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」に該当すると評価するのが相当というべきである。 3 したがって,本件非開示部分を非開示とした本件処分は適法である。よって,本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 さいたま地方裁判所第4民事部裁判長裁判官田中壯太裁判官都築民枝裁判官渡邉健司

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