令和3(わ)2160 有印私文書偽造・同行使、詐欺

裁判年月日・裁判所
令和5年6月14日 大阪地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-92224.txt

判決文本文15,245 文字)

- 1 -主文被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由5(罪となるべき事実)被告人は、学校法人A大学(以下「A大学」という。)医学部法医学教室(以下、単に「法医学教室」という。)の主任教授として同教室に同大学から割り当てられた予算を管理するとともに、同教室において行う死体の解剖等に従事していた者であるが、10第1 医療衛生用品卸売業務等を営むB株式会社(以下「B社」という。)の従業員であったC及びB社の代表取締役として同社の業務全般を統括していたDと共謀の上、B社が被告人から依頼されて購入又は支払をしたゴルフ用品等の代金を、法医学教室に医療用品等を納品したように装ったB社名義の領収書等に付け替えて立替金精算名目でA大学から現金をだまし取ろうと考え、別表1「学15術支援課受付日」欄の「受付日」欄記載の日頃、57回にわたり、大阪府(住所省略)A大学医学部において、別表1「請求書・領収書」欄記載の法医学教室宛てB社名義の内容虚偽の請求書及び領収書を正規納品のものであるように装って、情を知らない法医学教室秘書を介してA大学医学部学術支援課に提出し、真実は、B社が法医学教室に前記各請求書等記載の医療用品等を納品した事実20はなく、被告人がB社に前記各領収書記載の代金を立替払いした事実もないのに、これらがあるように装い、A大学医学部・病院事務局長らに、B社から前記各請求書等記載の医療用品等が納品され、被告人が前記各領収書記載の代金を立替払いしたものと誤信させ、よって、別表1「E名義」欄の「振込年月日」欄記載の日、35回にわたり、同府(住所省略)株式会社F銀行G支店に開設25されたE名義の普通預金口座に合計2173万1368円を振込入金さ と誤信させ、よって、別表1「E名義」欄の「振込年月日」欄記載の日、35回にわたり、同府(住所省略)株式会社F銀行G支店に開設25されたE名義の普通預金口座に合計2173万1368円を振込入金させ、も- 2 -って人を欺いて財物を交付させた。【令和3年7月16日付け起訴状】第2 Cと共謀の上、B社名義の架空領収書等を用いて医療用品費等の立替金精算名目でA大学から現金をだまし取ろうと考え、別表2「学術支援課受付日」欄の「受付日」欄記載の日頃、22回にわたり、前記A大学医学部において、別表2「請求書・領収書」欄記載の法医学教室宛てB社名義の内容虚偽の請求書及5び領収書を正規納品のものであるように装って、情を知らない法医学教室秘書を介してA大学医学部学術支援課に提出し、真実は、B社が法医学教室に前記各請求書等記載の医療用品等を納品した事実はなく、被告人がB社に前記各領収書記載の代金を立替払いした事実もないのに、これらがあるように装い、A大学医学部・病院事務局長らに、B社から前記各請求書等記載の医療用品等が10納品され、被告人が前記各領収書記載の代金を立替払いしたものと誤信させ、よって、別表2「E名義」欄の「振込年月日」欄記載の日、9回にわたり、E名義の普通預金口座に合計1008万7311円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。【令和3年10月13日付け起訴状】第3 C(平成31年4月20日B社退職)と共謀の上、B社名義の架空領収書等15を用いて医療用品費等の立替金精算名目でA大学から現金をだまし取ろうと考え、別表3「請求書・領収書」欄の「日付」欄記載の日頃、33回にわたり、大阪市(住所省略)又は大阪府(住所省略)C方において、行使の目的をもって、Cがあらかじめ印刷した法医学教室宛てB社名義の請求書及び領収 3「請求書・領収書」欄の「日付」欄記載の日頃、33回にわたり、大阪市(住所省略)又は大阪府(住所省略)C方において、行使の目的をもって、Cがあらかじめ印刷した法医学教室宛てB社名義の請求書及び領収書に「B社之印」と刻した偽の印章を押印するなどし、もって別表3記載のB社名義の請20求書及び領収書合計66通を偽造した上、別表3「学術支援課受付日」欄の「受付日」欄記載の日頃、22回にわたり、前記A大学医学部において、前記偽造の請求書等をあたかも真正に成立したもののように装って、情を知らない法医学教室秘書を介してA大学医学部学術支援課に提出して行使し、真実は、B社が法医学教室に前記各請求書等記載の医療用品等を納品等した事実はなく、被25告人がB社に前記領収書記載の代金を立替払いした事実もないのに、これらが- 3 -あるように装い、A大学医学部・病院事務局長らに、B社から前記請求書等記載の医療用品等が納品等され、被告人が前記領収書記載の代金を立替払いしたものと誤信させ、よって、別表3「E名義」欄の「振込年月日」欄記載の日、18回にわたり、E名義の普通預金口座に合計1740万2040円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。【令和3年6月30日付け起訴状】5第4 法医学教室の講師として被告人が行う死体の解剖等の補助をしていたHと共謀の上、大阪府警察本部から同大学に支払われる司法解剖検査料を不正請求して同教室の予算として費消できる現金を不正に得ようと考え、平成27年7月頃から令和3年3月初旬頃までの間、前記A大学医学部において、真実は、被告人が鑑定嘱託を受けてした司法解剖に当たり、司法解剖検査実施結果報告書10等に記載した簡易薬毒物検査、薬毒物定性検査、薬毒物定量検査、細菌検査又はウイルス検査の一部を実施しなかった 真実は、被告人が鑑定嘱託を受けてした司法解剖に当たり、司法解剖検査実施結果報告書10等に記載した簡易薬毒物検査、薬毒物定性検査、薬毒物定量検査、細菌検査又はウイルス検査の一部を実施しなかったのに、これらの検査を実施したように装い、Hが、内容虚偽の前記報告書等を同大学医学部から大阪市(住所省略)同本部宛てにファックス送信して同本部担当者に閲覧させた上、前記報告書等の記載に基づいた別表4「大阪府警察本部宛て」欄の金額欄記載の金額を含む15各請求金額を情を知らない同大学医学部・病院運営本部経理グループ経理課担当者に伝え、同担当者に、同大学医学部学部長名義の前記各請求金額を記載した内容虚偽の請求書等を作成させ、別表4「大阪府警察本部宛て」欄の「請求日」欄記載の日頃、64回にわたり、それぞれ同本部宛てに送付させ、同本部担当者に、前記各検査が適正に実施され、前記請求書記載の請求金額が真正な20司法解剖検査料であると誤信させた上、同検査料の支出事務を担う同本部総務部会計課担当者にその執行をさせ、よって、別表4「学校法人A大学名義」欄の「振込年月日」欄記載の日、64回にわたり、F銀行G支店に開設された学校法人A大学名義の当座預金口座に合計3540万1794円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。【令和3年8月6日付け起訴状】25第5 Hと共謀の上、大阪府警察本部から同大学に支払われる「警察等が取り扱う- 4 -死体の死因又は身元の調査等に関する法律」に基づいて委託された解剖の検査料を不正請求して同教室の予算として費消できる現金を不正に得ようと考え、令和元年5月中旬頃から令和3年3月上旬頃までの間、前記A大学医学部において、真実は、被告人が委託を受けてした解剖に当たり、調査法解剖検査実施結果報告書等に記載した簡易薬 現金を不正に得ようと考え、令和元年5月中旬頃から令和3年3月上旬頃までの間、前記A大学医学部において、真実は、被告人が委託を受けてした解剖に当たり、調査法解剖検査実施結果報告書等に記載した簡易薬毒物検査、薬毒物定性検査、薬毒物定量検査、5細菌検査又はウイルス検査の一部を実施しなかったのに、これらの検査を実施したように装い、Hが、内容虚偽の前記報告書等を同大学医学部から前記大阪府警察本部宛てにファックス送信して同本部担当者に閲覧させた上、前記報告書等の記載に基づいた別表5「大阪府警察本部宛て」欄の金額欄記載の金額を含む各請求金額を情を知らない同大学医学部・病院運営本部経理グループ経理10課担当者に伝え、同担当者に、同大学医学部学部長名義の前記各請求金額が記載された内容虚偽の請求書等を作成させ、別表5「大阪府警察本部宛て」欄の「請求日」欄記載の日頃、16回にわたり、それぞれ同本部宛てに送付させ、同本部担当者に、前記各検査が適正に実施され、前記請求書記載の請求金額が真正な解剖検査料であると誤信させた上、同検査料の支出事務を担う同本部総15務部会計課担当者にその執行をさせ、よって、別表5「学校法人A大学名義」欄の「振込年月日」欄記載の日、16回にわたり、前記当座預金口座に合計186万2292円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。【令和4年2月18日付け起訴状】(証拠の標目)20(省略)(事実認定の補足説明)第1 弁護人は、判示第4、第5の事実(以下「警察関係事件」という。)について、被告人とHとの共謀を争うとともに、Hによる詐欺の実行行為についても合理的な疑いを入れない程度に立証されたとはいえないと主張する。 25第2 Hとの共謀の成否について- 5 -1 H証言の検討 H うとともに、Hによる詐欺の実行行為についても合理的な疑いを入れない程度に立証されたとはいえないと主張する。 25第2 Hとの共謀の成否について- 5 -1 H証言の検討 H証言の要旨Hは、法医学教室の講師として、被告人が行う司法解剖及び調査法解剖の補助をし、立ち会った解剖に関して、検査実施事前報告書(以下「事前報告書」という。)、簡易薬毒物検査結果報告書、検査実施結果報告書(以下「結5果報告書」という。)を作成し、警察の担当部署に送信する事務を担っていた者であるが、Hは、被告人の指示で、実施していない検査を実施したとする虚偽の報告書を作成し警察に送信して、検査費用の不正請求をしていた旨証言する。 その証言の概要は以下のとおりである。 10ア ウイルス・細菌検査について従来、ウイルス・細菌検査については、遺体から試料を採取できたときには、全て株式会社I(以下「I社」という。)に依頼していた。ところが、被告人から、高度腐敗等により試料を採取できない遺体であっても、前任者がやっていたように、検査に出したかのようにして報告書を作成す15るよう指示されたので、事前報告書にウイルス・細菌検査を実施する旨の記載をし、結果報告書には類似疾患に基づいてそれらしい値を記入して虚偽の各報告書を作成するようになった。 時期ははっきりしないが、被告人が簡易検査キットを導入してからは、同キットで陽性であったときのみI社に検査を依頼することとなった。そ20こで、同キットが陰性のときには事前報告書のウイルス検査の欄や細菌検査の欄を空白にしてその検査費用も請求していなかったが、あるとき被告人から何でこれが空白なのかと指摘されたので、これらの欄に丸印を付け、結果報告書の欄にもプラスかマイナスという簡単な記載のみする 検査の欄を空白にしてその検査費用も請求していなかったが、あるとき被告人から何でこれが空白なのかと指摘されたので、これらの欄に丸印を付け、結果報告書の欄にもプラスかマイナスという簡単な記載のみするようになった。しかし、結果報告書を確認した被告人から、こういう形ではお金が25取れないであろうからI社に出したかのような記載をするよう指示を受け- 6 -たので、結果報告書に過去の類似例を見るなどしてそれに近しい値の数字を記載した。それ以降、被告人からの指示がなくてもそうするものだと思っていたので、同様の不正を続けた。 イ 薬毒物検査について従前、簡易検査キットで陽性又は弱陽性という反応が出たときには全件5Jに薬毒物検査を依頼していた。ある高度腐敗の遺体から覚醒剤反応が出たとき、被告人から、Jに検査を依頼しても、腐敗性変化という返事しか返ってこないので、死因とは関係ないから、Jに検査を依頼せず、出したことにして書類を書くようにと指示された。それに従い、事前報告書の定性検査の欄に丸印を付け、定量検査の欄には検出された薬毒物の数に試料10数の3を乗じた点数を記入し、結果報告書には、被告人の指示を受けて、過去の類似疾患を見て近しい値か検出されなかった旨の虚偽の記載をした。それ以降、被告人から、教授室等で「やったことに」という言い方で指示を受けたが、「やったていで」、「てい」、「T」と言われるようになり、「てい」や「T」とは解剖室でも言われるようになった。 15ウ 簡易薬毒物検査について平成30年3月に、被告人から、翌月から簡易検査の項目が増える、全部で2万円出るから2万円取りに行こう、増えた項目は満額をもらうためにやったことにして出そう、増えた項目に関しては検出されたこともなく、陰性と報告して大丈夫であるなどと指 簡易検査の項目が増える、全部で2万円出るから2万円取りに行こう、増えた項目は満額をもらうためにやったことにして出そう、増えた項目に関しては検出されたこともなく、陰性と報告して大丈夫であるなどと指示された。同年4月以降、前記の指20示を失念し、事前報告書の簡易薬毒物検査の欄に1点(実施した簡易薬毒物検査に対応するもの)と、簡易薬毒物検査結果報告書にも、実際にやった薬毒物検査の結果だけを書いて被告人に見せたところ、被告人から、「これ、約束したのは4点違うんか、陰性でええんやろ」などと言われ、事前報告書の簡易薬毒物検査の欄には4点と、簡易薬毒物検査結果報告書の青25酸、アセトアミノフェン、有機リン系農薬の検査結果を陰性と書き直した。 - 7 -それ以降の解剖でも、同じことを指摘されるのが嫌であったので、自身の判断で全件そのような虚偽の報告書を作成して送っていた。 信用性の検討ア 法医学教室における被告人の地位及び財産の管理状況等法医学教室は、主任教授である被告人、講師であるH、助手等で構成さ5れており、最上位者である被告人がHら他の職員に対して強い影響力を有していたことは、Hのほか、法医学教室の助手であったKらの証言によって優に認定できる。 また、解剖検査料は、警察から大学の預金口座に振り込まれ、その約9割に相当する金額が、図書の購入や医療機器の運営のための予算である講10座費3の法医学教室の予算枠として組み入れられることになっており、法医学教室において物品購入等のために立替払いをした場合、この講座費3の予算枠で大学から法医学教室に対する立替金の精算が行われる(講座費3の残高がマイナスになった場合、直ちに大学からの立替金の精算がされなくなるわけではないが、マイナスが続いたりマイ 合、この講座費3の予算枠で大学から法医学教室に対する立替金の精算が行われる(講座費3の残高がマイナスになった場合、直ちに大学からの立替金の精算がされなくなるわけではないが、マイナスが続いたりマイナス額が大きくなった15りすれば、決裁が通らなくなる可能性があり、基本的には、講座費3の予算枠で、法医学教室の運営をすることが求められる(甲14、49。なお、法医学教室の講座費3の残高の推移を見ると、平成27年、平成28年は概ね2000万円前後で推移していたが、平成29年に入ると急速に減少して同年5月にはマイナスに転じ、平成30年1月に再びプラスに転じた20が、その後は概ね数百万円台で推移している。甲51、52)。法医学教室が大学から講座費3の予算の支給を受けるのがE名義の口座であり、この口座は被告人が管理していたが、この口座からはキャッシュカードによる100万円単位の出金が頻繁にされている(甲111)。この点について、被告人の捜査段階における供述(乙9)によれば、同口座から100万円25単位で秘書にキャッシュカードを預けて引き出してもらい、引き出した現- 8 -金を私自身が受け取って管理していた、大学に弁償した資金は、そのようにして引き出したお金をたんす預金にして、友人に運用のために預けていたものを充てた、この口座から私個人の口座に送金したこともあった、E名義の口座であったか、私個人の口座であったかよく覚えていないが、私や家族が使う携帯電話代の支払等にも充てていたとのことである。このよ5うに、被告人は、講座費3及びこれを給源として支払を受ける口座の管理者として、その増減に利害関係を有している一方で、被告人以外の者が講座費3が増えることに財産上の利害を有していたとはうかがわれない。 このような法医学教室におけ して支払を受ける口座の管理者として、その増減に利害関係を有している一方で、被告人以外の者が講座費3が増えることに財産上の利害を有していたとはうかがわれない。 このような法医学教室における被告人の地位及び財産の管理状況等に照らすと、Hが、被告人の関与なしに、数年にわたり不正請求を続けていた10というのは、具体的な動機に乏しい上、状況として不自然なものであって、被告人の指示によって不正請求がされた旨のHの証言はこの点において誠に自然である。 イ 客観的証拠等との整合性Hの証言は、法医学教室における複数の解剖において、被告人が「てい15で」、「Tで」などと発言し、Hがこれを了承する旨の発言をしていること(甲88、120、被告人)と符合している。Kも、Jに検査を依頼するために用意した試料が法医学教室の冷凍庫内に残されていたことから検査の不正を疑い始め、その後、被告人が解剖中Hに「ていな」と発言するのを聞くようになったので、Hにその意味を尋ねたところ、Hから「やった前20提」という意味であると説明された旨証言し、両名の供述は「てい」や「T」が実施していない検査を実施したことにするという点において一致している。 また、令和2年8月20日にHから被告人に送信されたメールには、「薬毒物の定量検査で、高度腐敗のメタンフェタミン陽性(弱陽性)の場合、25代謝物のアンフェタミンやフェニルエチルアミンも一緒に検出される確率- 9 -が高いという報告を見つけ、J先生にそれとなくお聞きしましたら「その通り、単独だけで出ることはまずない」とおっしゃっておられました。ですから、これらを検出したと記載させていただく予定です。」と記載されているところ(甲115)、このメールについて、不正請求に関する被告 、単独だけで出ることはまずない」とおっしゃっておられました。ですから、これらを検出したと記載させていただく予定です。」と記載されているところ(甲115)、このメールについて、不正請求に関する被告人とのやりとりであるとするHの証言には十分説得力があり、このメール5はH証言の裏付けの一つと評価できる。 ウ 供述の変遷等について Hは、ウイルス・細菌検査につき、簡易検査キットを使い始める前にも、遺体から試料が採取できなかったときに被告人の指示で不正請求することがあったことや、同キットを使い始めてすぐは、被告人の指示が10なく不正請求をしていなかったことについては、捜査段階や自身の公判では供述しておらず、かえってウイルス・細菌検査の不正請求をし始めた時期が簡易検査キットを使い始めた頃であった旨とも解される供述をしていた(弁38)。 しかし、Hは、捜査段階では記憶が曖昧なまま取調べを受けており、15簡易薬毒物検査が始まってから不正を行った記憶であったが、自身の裁判が終わってから、警察から返してもらった解剖の資料等を見直すこととなり、検察官の指摘もあって、どのような解剖で不正を行っていたのか調べ直したことから、公判廷の供述が正しい旨説明しており、その説明は合理的なものといえる。上記捜査段階における供述は、同キットを20使い始める前に不正請求をしていたことや、同キットを使い始めてすぐには不正請求をしていなかったことを明確に否定するものではないことに鑑みても、信用性に疑義を生じさせる供述の変遷であるとはいえない。 Hは、「てい」の意味を知った理由について、捜査段階では、被告人から「てい」という指示を受けていたのに検査依頼用の試料を用意して25いたところ、被告人から「ていや言うてるや ない。 Hは、「てい」の意味を知った理由について、捜査段階では、被告人から「てい」という指示を受けていたのに検査依頼用の試料を用意して25いたところ、被告人から「ていや言うてるやろ。出したようにしとった- 10 -らいいねん。」などと言われたからであると供述していたが(弁36)、公判廷では、そのようなことがあった記憶はあるとしつつも、「やったことに」、「やったていで」、「ていで」と言い方が変わったので、「てい」の意味は説明されなくとも自然に分かったなどと述べる。 しかし、この点に変遷があるといっても、捜査段階で述べた出来事が5存在しなかったというのではなく、単に「てい」の意味を把握するきっかけではなかったというにすぎないのであって、H証言の核心部分の信用性を揺るがすような変遷があるとはいえない。 なお、Hは、被告人とのやりとりで用いていた「フル」という言葉の意味について、捜査段階では、被告人は、「もっと枚数増やせるやろ。フ10ルで。」と述べ、プレパラートの枚数を上限の40枚で水増し請求するよう指示してきた旨述べていたのに対し(弁35)、公判廷では、「フル」は、組織学検査に40枚と記載する、血液学検査・ウイルス検査・細菌検査・CT検査に丸を付けるなどすることを指す旨供述している。 しかし、前記捜査段階の供述は、プレパラートの枚数に関して述べら15れたものであることが明らかであり、一般に「フル」に「すべて」という意味があることを踏まえると、上記両供述に変遷があるということはできない。 エ 弁護人の主張について 弁護人は、解剖室には被告人やH以外にも法医学教室の職員や警察官20が立ち会っていたから、被告人が不正請求を意味するものとして「てい」 きない。 エ 弁護人の主張について 弁護人は、解剖室には被告人やH以外にも法医学教室の職員や警察官20が立ち会っていたから、被告人が不正請求を意味するものとして「てい」などという言葉を発すれば、警察官らの前で不正請求を指示していることになり、他の者にもそのニュアンスが伝わる可能性があることは十分に予想できるのであって、そのような状況下で不正請求を指示するのは不自然である旨主張する。 25しかし、解剖中は被告人とHらとの間で専門用語を含む様々なやりと- 11 -りがされているのであり、その中で「てい」、「T」などという単語が発せられたからといって、これが不正請求の指示である旨警察官らに気づかれる可能性はそれほど高いものとは考え難いし、被告人側も、警察関係者からの信頼を得られているとの自負の下で行動していたと考えられ、警察官らの面前で「てい」などの発言をすることにためらいを感じ5ていなかったとしても、何ら不自然ではない。 弁護人は、Hが、事前報告書に薬毒物定量検査につき何点を記入するか被告人から指示があったかにつき「暗黙の了解で具体的な点数を決めていた」旨不自然な供述をしている旨主張する。 しかしながら、Hは、簡易薬毒物検査で検出された薬物の種類と試料10の点数によって何点と記入するか決めていたというのであり、被告人からの具体的な指示がなかったとしても不自然ということはできない。 弁護人は、Hの証言によれば、ウイルス・細菌検査費用の不正請求について、被告人から具体的な指示がないのに、自己の判断でI社に検査依頼をすべきか決まっていたことになる、あるいは、Hが細菌検査かウ15イルス検査の一方のみをした旨虚偽記載する場合に具体的な指示を受けていたかについてはぐらか がないのに、自己の判断でI社に検査依頼をすべきか決まっていたことになる、あるいは、Hが細菌検査かウ15イルス検査の一方のみをした旨虚偽記載する場合に具体的な指示を受けていたかについてはぐらかすような回答しかしなかった旨主張する。 しかし、Hは、簡易検査キット導入前は、試料が採取できた事案について検査依頼をした、簡易検査キット導入後は、同キットで陽性となった事案について検査依頼をした旨述べており、検査依頼をするか否かを20Hが判断していた旨述べているわけではない。また、細菌検査かウイルス検査の一方のみがなされた事案もあるから(甲86)、被告人からの具体的な指示がないままHが裁量でどちらかの検査をした旨選択していたとは認められないし、事前報告書の内容は被告人に報告していたというのであるから、個別具体的に指示を受けなければ不正請求ができない25というものでもない。 - 12 - 弁護人は、Hは、鑑定書が作成されてから結果報告書を作成していた旨証言するものの、実際には結果報告書の方が先に作成されることが多く、Hの供述は客観的事実に整合しない上、被告人が不正請求を指示したのであれば、結果報告書の内容に合わせて鑑定書を作成することができた旨主張する。 5しかし、鑑定書は被告人が作成するものであって、Hはこれに関与していないことから、実際には結果報告書の方が先に作成されることが多かったとしても、H証言の信用性に影響を及ぼすものではない。また、結果報告書は検査費用の計算のために作成される書面であり、会計担当者等において検討されるものであるのに対し、鑑定書は、死因特定等の10ために作成されるものであって、当該死体に関する捜査担当者において検討されるものであるから、両書面は趣旨や提出先が異 会計担当者等において検討されるものであるのに対し、鑑定書は、死因特定等の10ために作成されるものであって、当該死体に関する捜査担当者において検討されるものであるから、両書面は趣旨や提出先が異なるものであって、その整合性が必ずしも子細に検討されるものとは考え難く、被告人もこの点から不正請求が発覚するとまで考えなかったとしても何ら不自然でない。そうすると、Hが作成した結果報告書にのみ虚偽の内容が記15載されていたからといって、被告人の指示で不正請求をした旨のH証言の信用性に疑義が生ずるとはいえない。 弁護人は、Kが「てい」の意味を知った経緯についてHとKの証言が整合しないし、Kの証言自体についてみても、Kは、「てい」の意味を理解した経緯について変遷があるし、ビデオの反訳(甲120)とも整合20しないなどとして、信用できない旨主張する。 しかしながら、Kは「てい」の意味はHから説明を受けて分かった旨証言するのに対し、HはKから尋ねられて「てい」の意味を答えたかもしれない旨証言しており、両名の供述が整合しないとは必ずしもいえない。 25また、Kは、捜査段階では、被告人が「ていな」等という指示をしたと- 13 -きは、Jに依頼する試料を用意していなかったことから「てい」はJに出したていにするという意味であることが分かった旨供述していたが(弁32、33)、公判廷では、「てい」の意味はHから説明を受けて分かった旨証言するに至った。しかし、Kは、上記捜査段階における供述の約1か月後に、上記の公判供述と同趣旨の供述をしていることがうか5がわれる上、Kの証言も、用意していた試料が残っていたことを不審に思い、Hに確認したところ、Hから「てい」の意味を教えられたというものであって、捜査段階における供述とその趣 していることがうか5がわれる上、Kの証言も、用意していた試料が残っていたことを不審に思い、Hに確認したところ、Hから「てい」の意味を教えられたというものであって、捜査段階における供述とその趣旨を大きく異にするものではないから、信用性を揺るがすような供述の変遷であるとはいえない。 なお、K作成のメモは、その記載から、自己が立ち会っていない解剖10についても記載がされていると認められ(「私休暇」等の記載がある。)、被告人がKに対して「てい」と指示したわけでもないから、「てい」という指示がされた解剖案件全件について「てい」と記録されていないとしても何ら不自然ではないし、逆にビデオの録音条件等によっては十分聴き取れないこともあるから、「てい」とメモがある解剖に係る動画で「て15い」と聴き取れないことがあっても何ら不自然ではない。 弁護人は、本件は被告人がHに対し解剖医としての職責を負っていながら解剖の検査費用を不正請求させたという事案であるから、共謀を基礎付ける事実として、被告人が規範意識を乗り越えてまで不正請求の指示をしたことを推知させるような具体的かつ詳細なやりとりがHとの間20で行われていなければならない旨主張する。 しかし、規範意識が高い者が犯罪に加担する以上、共犯者間で具体的なやりとりがあったはずといった経験則はないし、そもそも、被告人が解剖医として備えておくべき規範意識を有していたとの前提も誤りであったといわざるを得ない。弁護人の主張は失当である。 25 したがって、H証言は十分信用できる。 - 14 -2 被告人の供述の検討 被告人の供述の要旨被告人は、公判廷において、①Hに不正請求を指示したことはなく、自身が作成した鑑定書にも不正なものはなかった、② 。 - 14 -2 被告人の供述の検討 被告人の供述の要旨被告人は、公判廷において、①Hに不正請求を指示したことはなく、自身が作成した鑑定書にも不正なものはなかった、②解剖中に発した「てい」「T」などという発言は、Jへの検査依頼を停止するという意味であり、停止の「停」5の一字を取っている、③「てい」という言葉を使い始めたきっかけは、平成30年12月に、Jの検査はやらない旨Hに伝えたところ、Hが「なら、ていですね」と発言したので、「てい、あっ、停止の意味か」と述べたら、「はい、そうです」と答えたので、これを受けて「ていで」と伝えたことである、④Hが単独で警察関係事件を起こした動機は、Hは法医学教室の助手2名に10対して不祥事を起こしたことがあり、その慰謝料は講座費3から支払われたので、Hなりにこれを穴埋めしようと思っていたこと等にあるのではないかなどと供述する。 信用性の検討被告人の法医学教室における地位及び財産の管理状況等に照らすと、Hが15被告人の関与なしに、数年にわたり不正請求を行っていたということ自体が著しく不自然である。 Hが助手2名に対して不祥事を起こしたとの点は、うち1名については、同人の供述等によると、講座費3から解決金が支払われたのは、被告人のパワーハラスメントによってうつ状態になったことが原因であると認められる20上、もう1名については、講座費3から同人に対する支払があったこと自体認められない(甲99)から、この点に関する被告人の供述は根拠を欠くものといわざるを得ない。 「てい」等の意味に関する点も、被告人の供述によれば、Hが被告人の関与なく不正をしながら、その不正とは無関係に「停止」の一音のみを省略し25て述べたことになり、そ といわざるを得ない。 「てい」等の意味に関する点も、被告人の供述によれば、Hが被告人の関与なく不正をしながら、その不正とは無関係に「停止」の一音のみを省略し25て述べたことになり、その必要性はおよそ見出し難いし、これを更に「T」- 15 -などと言い換える必要性も乏しく不自然である。かかる供述が公判廷における被告人質問よりも前にされた形跡も見当たらない。 以上の検討を踏まえると、被告人の供述は信用することができない。 3 結論以上を踏まえると、被告人とHとの間に警察関係事件について共謀があった5ことは、信用することのできるHの供述を含む関係各証拠により認定することができる。弁護人の主張は理由がない。 第3 詐欺の実行行為について弁護人は、①公訴提起当初は、組織学検査の不正請求も公訴事実に含まれていたところ、これはHが行った最初の不正請求案件であるから、同検査に関す10る被告人との共謀を踏まえ、薬毒物検査、簡易薬毒物検査及びウイルス・細菌検査の各事案の共謀が成立したこととなるが、組織学検査の不正請求においては、水増し請求されていない解剖案件が相当程度あるのに、検察官は、Hが水増し請求を恒常的に行っていたはずであるという思い込みから、水増し請求された解剖案件だけを抜き出して詐欺性を立証しようとするという大きな問題点15があった、②薬毒物検査について、Jは、法医学教室から依頼された薬毒物検査について請求書等を作成していないものはない旨証言したが、これはJの記憶にすぎず、検査を依頼されながら請求書等を作成していないものがないことを確定的に証明するものではない、③ウイルス・細菌検査についても、I社が検査を依頼されながら請求書等を作成していないものがないことを確定的に証20明する証 請求書等を作成していないものがないことを確定的に証明するものではない、③ウイルス・細菌検査についても、I社が検査を依頼されながら請求書等を作成していないものがないことを確定的に証20明する証拠はないなどと主張する。 しかし、上記①については、弁護人の主張が薬毒物検査、簡易薬毒物検査及びウイルス・細菌検査に関する詐欺の実行行為性に直ちに疑義を生じさせるものではない。 上記②③についても、同意書証として取り調べられた捜査報告書(甲116、25117)は、法医学教室が大阪府警察本部に報告した内容と、I社やJによる- 16 -検査実績(甲85、86)とを対照させる形で、架空請求があった解剖番号及び架空検査項目を特定するものであり、これらに不整合はない。検査用の試料を交付して検査を依頼されたのに検査をせずに放置した、あるいは検査をしたのにその費用を請求しなかったことは合理的に考え難いし、現に、Jは、法医学教室から依頼された薬毒物検査について請求書等を作成していないものはな5いなどと証言しているところ、その信用性に疑いを生じさせる事情も見当たらない。 以上を踏まえると、罪となるべき事実記載のとおり、詐欺の犯罪事実を優に認定することができる。弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)10(省略)(量刑の理由)本件は、法医学教室の主任教授であった被告人が、出入り業者であるB社の従業員と共謀するなどして、被告人が同社に購入又は支払を依頼したゴルフ用品等の代金を医療用品等の代金に付け替えたり(第1)、同社名義の架空領収書等を用いた15り(第2)、同社を退職した元従業員に同社名義の請求書等を偽造させるなどして(第3)、勤務先大学から医療用品等の立替金精算名目で合計約4900万円をだまし取るとと 名義の架空領収書等を用いた15り(第2)、同社を退職した元従業員に同社名義の請求書等を偽造させるなどして(第3)、勤務先大学から医療用品等の立替金精算名目で合計約4900万円をだまし取るとともに、被告人が行う死体解剖等の補助をしていた法医学教室講師と共謀して、警察から委託を受けて実施する死体解剖の検査料に実際には実施していない検査に係る費用を加算して不正に請求し、大阪府警察本部から合計約3700万20円をだまし取った(第4、第5)事案である。 法医学教室の主任教授という信頼のある立場にあることを悪用した巧妙かつ継続的な犯行であり、勤務先大学を被害者とする事件では請求書等を偽造するなど手口を悪質化させながら、約6年という長期間にわたって詐欺を繰り返している。被害額は合計8600万円余りと高額であって、結果は重大である。被告人は、いずれ25の犯行においても法医学教室における最高権威者として犯行を主導したと認めら- 17 -れ、犯行によって相当多額の利益を享受している。 被告人は、大阪府警察本部を被害者とする事件につき、不合理な供述に終始しており、真摯に反省しているとは認められない。 そうすると、被告人が勤務先大学を被害者とする事件では公訴事実を争わず、反省の弁を述べた上で、その被害額を全額弁償していること、被告人の妻及び医師仲5間が被告人の監督を誓約していること、被告人に前科前歴がないことなどの事情を考慮しても、主文の実刑は免れないと判断した。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑 懲役7年)令和5年6月21日10大阪地方裁判所第12刑事部 裁判長裁判官 渡 部 市 郎 15 裁判官 梶 川 匡 志 20 裁判官 今 10大阪地方裁判所第12刑事部 裁判長裁判官 渡 部 市 郎 15 裁判官 梶 川 匡 志 20 裁判官 今 泉 颯 太 - 18 -別表省略

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る