平成13(行コ)149 違法支出金補填請求控訴事件(原審・静岡地方裁判所平成11年(行ウ)第15号)

裁判年月日・裁判所
平成13年11月28日 東京高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文10,524 文字)

主文 1 原判決を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人は,静岡県焼津市に対し,123万9185円及びこれに対する平成11年7月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人らのその余の請求を棄却する。 2 控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,静岡県焼津市に対し,123万9185円及びこれに対する平成11年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要被控訴人は,平成11年2月7日に実施された焼津市議会議員選挙に立候補して当選したが,同月15日,公職選挙法違反(当選人による買収)容疑で逮捕され,勾留されたまま静岡地方裁判所に起訴され,同年3月30日保釈されたが,同地方裁判所において,同年5月25日,同法違反(当選人による買収)罪により懲役1年8月,執行猶予4年の有罪判決を受け,これが確定したため,焼津市議会議員の当選が無効となったものであるところ,被控訴人は,その当選無効が確定するに先立ち,同年5月17日,焼津市議会に辞表を提出し,同月19日,同市議会によって辞任が許可されたが,それ以前に,焼津市から,本件選挙による当選後から辞任が許可されるまでの期間(以下「新任期」という。)に係る議員報酬,期末手当として合計123万9185円(以下「本件報酬等」という。)の支給を受けた。 本件は,控訴人らが,被控訴人に対し,当選無効の確定により遡って議員の職を失ったから,被控訴人が本件報酬等の支給を受けたことは不当利得に当たる,仮に,当選無効によっても本件給与等の支払請求権が消滅しないと解釈しても, ,被控訴人に対し,当選無効の確定により遡って議員の職を失ったから,被控訴人が本件報酬等の支給を受けたことは不当利得に当たる,仮に,当選無効によっても本件給与等の支払請求権が消滅しないと解釈しても,被控訴人は,当選後,逮捕,勾留されるなどにより身柄が拘束されたため,市議会議員としての活動を全くしておらず,市議会議員として期待されている役務の提供をしていないので,本件報酬等を受けることができず,本件報酬等の支給を受けたことは不当利得に当たる旨主張して,焼津市監査委員に対する住民監査請求をした上,同監査委員が控訴人らの請求が理由がないものとしたので,被控訴人に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,焼津市に代位して本件報酬等の額に相当する悪意の不当利得金123万9185円及びこれに対する被控訴人が議員を辞職した月の議員報酬支給日の翌日である平成11年5月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延利息の支払を請求した事案である。 被控訴人は,当選無効の効果は,当選後に事実上行った当選人の行為に影響を及ぼすものではなく,したがって,被控訴人は,本件報酬等を取得することができる,被控訴人は,当選後,法案の提出をするなど議員としての活動をし,役務を提供しているから,本件報酬等を取得できる旨主張して,控訴人らの請求を争った。 原判決は,被控訴人の主張を大筋において採用し,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らが控訴をした。 1 前提となる事実前提となる事実は,原判決2頁4行目の「原告らは,」の次に「いずれも」を,同11行目の「控訴をせず,」の次に「遅くとも控訴人らが焼津市監査委員に住民監査請求をした平成11年7月28日までには」をそれぞれ加え,同22行目の「平成9年条例第49号」を「昭和31年条例第27号。ただし,平成 控訴をせず,」の次に「遅くとも控訴人らが焼津市監査委員に住民監査請求をした平成11年7月28日までには」をそれぞれ加え,同22行目の「平成9年条例第49号」を「昭和31年条例第27号。ただし,平成9年条例第49号による改正後のもの」に改め,同3頁2行目の「期末手当の支給は,」の次に「市長及び支出関係職員の違法な公金支出に当たるとともに」を加え,同6行目の「(甲1)」を「。そこで,控訴人らは,監査の結果につき通知を受けた日から30日以内である同年10月18日,静岡地方裁判所に本件訴訟を提起した(甲1,記録上明らかな事実)。」に改めるほかは,原判決の事実及び理由の「2 前提となる事実」記載のとおりであるから,これを引用する。 2 主たる争点及び主たる争点に関する当事者双方の主張主たる争点及び主たる争点に関する当事者双方の主張は,以下(1)のとおり原判決を訂正し,(2)のとおり「当審における控訴人らの主張の骨子」を付加するほか,原判決の事実及び理由の「3 争点」記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決の訂正ア原判決3頁7行目冒頭から同16行目末尾までを次のとおりに改める。 「3 争点本訴の争点は,被控訴人が,平成11年2月7日に実施された焼津市議会議員選挙に立候補して当選し,同月22日から同市議会議員(以下「議員」という。)の辞職が許可された同年5月19日までの新任期に係る分として受領した本件報酬等につき,これが法律上の原因なくして利得したものと認められるか否かであり,具体的には,次の二点となる。 (1) 議員について当選無効の判決が確定し遡って当選が無効となった場合,その議員の議員報酬及び期末手当支払請求権も遡及的に失効するか否か。 (2) 被控訴人が支払を受けた本件報酬等は,法律上の原因なくして利得したものであるか の判決が確定し遡って当選が無効となった場合,その議員の議員報酬及び期末手当支払請求権も遡及的に失効するか否か。 (2) 被控訴人が支払を受けた本件報酬等は,法律上の原因なくして利得したものであるか否か。」イ原判決5頁13行目の「月額支払いにするか等」を「月額支払にする等」に,同14行目の「報酬補償」を「報酬保障」にそれぞれ改める。 ウ原判決9頁13行目の「各議案発議文書」を「各議会発議文書」に改める。 (2) 当審における控訴人らの主張の骨子ア被控訴人は,平成11年2月15日に逮捕された直後から辞職の意思を固めていたが,直ちに辞職すれば市民派でオンブズマンの活動家であるA候補が繰り上げ当選することになるので,被控訴人が属する焼津市議会の最大会派である明和会は,被控訴人に対し,同候補の繰り上げ当選を阻止するため,繰り上げ補充の当選期限が経過するまで辞職しないよう圧力をかけ,これに応じた被控訴人は,識員の辞職を引き延ばし,これにより,市民の血税から支出された本件報酬等を不当に利得したものである。 イ被控訴人は,以下のとおり,新任期において報酬の対価となる議員活動又は役務の提供をしたことはなく,焼津市が被控訴人の新任期における議員活動等により利益を受けたとは到底いえないので,本件報酬等を取得する法律上の原因を欠くものである。 (ア) 被控訴人は,公職選挙法違反被告事件の第1回公判において,起訴事実を全面的に認め,以後の政治活動をしない旨供述し,さらに,保釈中には人に会わないと述べるなど,逮捕以後は何らの議員活動をしていないことをはっきり認めており,議員活動としては,調査,研究,思索等の無形の精神活動すら行っていない。 (イ) 仮に,被控訴人が新任期において何らかの無形の精神活動を行っていたとしても,被控訴人が4期連続16年間議員を務め, り,議員活動としては,調査,研究,思索等の無形の精神活動すら行っていない。 (イ) 仮に,被控訴人が新任期において何らかの無形の精神活動を行っていたとしても,被控訴人が4期連続16年間議員を務め,その間,議長に2回就任し,焼津市議会の最大会派である明和会の会長という要職を歴任し議員の範となるべき立場にあったにもかかわらず,買収という最も恥ずべき行為により当選無効になり,市民の政治への信頼失墜を招いたことを考慮すると,被控訴人の上記のような無形の精神活動により,焼津市に何らかの利益をもたらしたと評価することはできない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被控訴人が新任期において焼津市から本件報酬等の支払を受ける法律上の原因はなく,被控訴人は本件報酬等を悪意で不当利得したものと判断する。そのように判断する理由は,次のとおりである。 (1) 争点(1)(議員について当選無効の判決が確定し遡って当選が無効となった場合,その議員の議員報酬及び期末手当支払請求権も遡及的に失効するか否か)についてア公職選挙法251条は,「当選人がその選挙に関しこの章に掲げる罪・・・を犯し刑に処せられたときは,その当選人の当選は無効とする。」とし,何らの留保なく,当選が「無効」になることを規定している。これに対し,同法251条の5は,選挙運動を総括主催した者,出納責任者等の当選人以外の者が買収等の選挙犯罪を犯し刑に処せられたことにより,当選人の当選が無効とされる場合には,その当選無効の効果は,同法210条1項についての原告敗訴の判決が確定した時から生じると規定し,当選無効の効果が遡及しないことを明確にしている。これらの規定にかんがみると,公職選挙法は,同法251条による当選無効の場合には,「無効」の字義のとおり,当選人を刑に処する有罪判決の確定時より遡って当 選無効の効果が遡及しないことを明確にしている。これらの規定にかんがみると,公職選挙法は,同法251条による当選無効の場合には,「無効」の字義のとおり,当選人を刑に処する有罪判決の確定時より遡って当初から当然に当選を無効とすることを規定していると解される。すなわち,その当選無効の効力は,当選の時に遡って生ずることが定められているのである。このことは,同法251条により議員が当選無効とされた場合につき,同法110条1項及び109条6号が,いずれも,同法251条による当選無効の場合には補欠選挙ではなく再選挙を実施する旨規定している(初めから当選の効果が生じていないことを前提としている)ことからもうかがい知ることができるほか,地方自治法128条の規定からも理解されるところである(すなわち,同条は,地方公共団体の議会の議員は公職選挙法210条の訴訟の提起に対する判決等が確定するまでの間は,その職を失わないと規定し,選挙無効による議員の失職の時期を当選の時点まで遡らせないことを明らかにしているが,地方自治法128条の規定中には公職選挙法251条により当選人の当選が無効とされた場合については,何らふれられておらず,地方自治法は,その場合における議員の失職の時機については,全く規定を設けていない。これは,同法が,公職選挙法251条の規定を承けて,その場合の「当選無効」の当然の効果として,当選無効とされた議員は,当初から議員としての地位を取得することがないと解していることのあらわれと考えられる。)。 また,行政実例(昭和39年7月10日自治行第85号福井県総務部長宛行政課長回答)も,公職選挙法251条により当選人の当選が無効とされた場合,当該議員は,当選の日に遡及して失職するものと解している。 以上のような公職選挙法及び地方自治法の関係規定並びに行 務部長宛行政課長回答)も,公職選挙法251条により当選人の当選が無効とされた場合,当該議員は,当選の日に遡及して失職するものと解している。 以上のような公職選挙法及び地方自治法の関係規定並びに行政実例にかんがみれば,公職選挙法251条による当選無効の場合には,遡及的に当選の効果が失われ,当該議員は,初めから議員としての地位を取得しなかったことになるものと解される。そして,地方自治法203条1項ないし5項,同法204条の2及び本件条例1条の規定に照らせば,議員が議員報酬及び期末手当の各支払請求権を有するのは,法律上議員の身分を有することの効果にほかならないのであるから,公職選挙法251条により当選が無効とされ初めから議員としての身分を取得しないものとされた議員が,議員報酬及び期末手当を取得する法律上の根拠はないといわざるを得ない。 イ被控訴人は,公職選挙法251条の規定と議員の報酬,期末手当の受給の問題とは別個の問題であり,公職選挙法251条によって有罪判決が確定し,当選が遡って無効となるとしても,有罪判決確定時点までは議員の身分を有していたのであり,その間になされた当該議員の活動はすべて有効であるので,その間における有効な議員活動の対価として,条例で定める報酬や期末手当を受給する資格を有する旨主張するが,前示のとおり,議員は,議員たる身分を有することにより議員報酬及び期末手当を受給し得るのであり,議員たる身分を初めから取得しないとされた場合には議員報酬及び期末手当を受給し得る根拠も初めからなかったといわざるを得ないものである。なお,同条によりその当選が無効となった議員がその当選が無効となる前にした議員としての活動については,その議員活動をもとに決定された議会の意思決定やこれに基づいてされた行政機関の行為がすべて遡及的に無効とされ よりその当選が無効となった議員がその当選が無効となる前にした議員としての活動については,その議員活動をもとに決定された議会の意思決定やこれに基づいてされた行政機関の行為がすべて遡及的に無効とされることにより議会や行政に混乱を引き起こすおそれがあるため,このような弊害を避けるため,当選無効によってその効力が当然に失われるとは解されないとされているにとどまり,当該議員(すなわち遡って議員の地位を取得しなかったとされる者)が関与してされた議会の決議等に瑕疵があるとの実質は変わらない(昭和24年7月22日自治行第9号諫早市議会事務局長宛行政課長回答参照。)のであり,当該議員が関与して議会の議決がされたことによりその議決が法令に違反することになる場合には,普通地方公共団体の長はこれを再議に付さなければならない(地方自治法176条4項)のであって,当選が無効となった議員がその当選が無効となる前にした議員活動が当然には無効とされないことを根拠に,当該議員が地方自治法及び条例に基づき議員報酬及び期末手当の各支払請求権を有すると解するのは相当ではない。 それゆえ,被控訴人の上記主張は,採用することができない。 (2) 争点(2)(被控訴人が支払を受けた本件報酬等は,法律上の原因なくして利得したものであるか否か)についてア被控訴人は,議員報酬は,議員の提供する役務の対価として勤務対価性をもって支給されているものであり,また,議員報酬が議員の身分と一体性を持つことを考えれば,当選無効により失職した議員が提供した勤務と地方公共団体が支給した報酬その他の給付は,一般的には均衡しているとみるのが通常である旨主張するところ,被控訴人の上記主張は,被控訴人が本件報酬等の支給を受けたことの対価として「議員活動」を行い,焼津市に利益をもたらしているので,結局,被控訴 般的には均衡しているとみるのが通常である旨主張するところ,被控訴人の上記主張は,被控訴人が本件報酬等の支給を受けたことの対価として「議員活動」を行い,焼津市に利益をもたらしているので,結局,被控訴人には利得がなく,焼津市には損失がない旨の主張と解することができるので,この点について判断する。 原判決が「前提となる事実」として摘示するとおり,被控訴人は,新任期が始まる前の平成11年3月15日,公職選挙法違反(当選人による買収)の容疑で逮捕,勾留,起訴され,同月30日,第1回公判期日において,起訴事実を全面的に認め,同日保釈されたが,保釈後は,証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,謹慎して人と面会することもなく,もちろん焼津市議会に出席したこともなく推移し,原判決が「前提となる事実」としてこれまた摘示するとおり,刑事被告事件の判決宣告の公判期日を1週間前に控えた同年5月17日に焼津市議会議長に辞表を提出し,同月19日に同市議会がその辞職を許可したのであるから,新任期は,90日足らずの短期間にすぎず,かつ,その全期間中刑事事件の被疑者又は被告人の立場にあり,あるいはその身柄を拘束され,あるいは被疑者又は被告人として捜査取調べを受けるため,又は公判手続における防禦を準備するため相当の日時を費やし,あるいはあってはならない市議会議員候補者による買収行為に対する政治的,社会的な厳しい批判に如何にその進退を処すべきかの対応に追われざるを得ない日々の連続であったと推認されるから,そのような新任期中に,被控訴人が果して「議員活動」をしたということができるか,根本的な疑問を禁じ得ない。被控訴人が主張するところでも,被控訴人が新任期中にした具体的な「議員活動」は,わずかに焼津市議会における最大会派である明和会が中心になって平成10年12月ころ提案した, ,根本的な疑問を禁じ得ない。被控訴人が主張するところでも,被控訴人が新任期中にした具体的な「議員活動」は,わずかに焼津市議会における最大会派である明和会が中心になって平成10年12月ころ提案した,「焼津市議会委員会条例の一部を改正する条例の制定について」(発議案第2号),「『地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律』の延長に関する意見書」(発議案第3号),「小中学校の1学級当たりの生徒数を『30人学級』にする意見書」(発議案第4号)及び「食料自給率を引き上げ,日本の食と農を守る意見書」(発議案第5号)の各議案について,提案者として名を連ねたことがあるにすぎないところ,これらは,上記各議案が明和会所属の議員らによって提案されたものであったため明和会に所属する被控訴人の氏名も各議案の提出者名の中に加えられたにすぎないものである(弁論の全趣旨)上,これらの議案は,議員の資格を有しない被控訴人が加わって提案されたことにより無効とまではされないものの,その参加の限りにおいて瑕疵があるものとなったといわざるを得ないのであって,被控訴人が上記各議案の提案者に名を連ねたことにより焼津市が利益を得たということは到底できないものである。そして,他に被控訴人の議員活動により同市が利益を得たと認めるに足りる証拠はない。 そうしてみると,被控訴人が,新任期中に「議員活動」を行い,これにより焼津市に利益をもたらしたことがあるとは到底認められず,「当選無効により失職した議員が提供した勤務と地方公共団体が支給した報酬その他の給付は,一般的には均衡している」との被控訴人の立論は,本件における被控訴人の新任期中の勤務と本件報酬等との関係には,その基本において全然当てはまらないといわざるを得ない。 したがって,被控訴人は, は,一般的には均衡している」との被控訴人の立論は,本件における被控訴人の新任期中の勤務と本件報酬等との関係には,その基本において全然当てはまらないといわざるを得ない。 したがって,被控訴人は,対価となるべき「議員活動」を行わず,何ら議員としての資格を有しないのに本件報酬等の支給を受けたものであり,これを要するに,被控訴人が支払を受けた本件報酬等は,法律上の原因なくして利得したものといわざるを得ない。 イその他の被控訴人の主張について判断を補足する。 (ア) 被控訴人は,議員活動には,市議会の会期の内外を問わず,市政に関する調査,研究その他市政全般について思索をめぐらす等の精神的活動が含まれるものであり,それらの議員としての有形無形の活動全般が役務の提供として評価されるのであり,その活動全般を外形的に評価することの困難性を考慮し,議員としての1日の全生活が議員活動と評価され,報酬と対価性をもつと主張する。 確かに,議員の活動は広範,多岐にわたるから,議員については,市政全般について思索をめぐらす等の精神的活動等も議員活動に含まれ,一般論としては,議員としての1日の全生活が議員活動と評価されて報酬と対価性を持つと理解する余地もないとはいえない。 しかし,本件では,被控訴人は,前示のとおり,その新任期中の全期間にわたり,刑事事件の被疑者又は被告人の立場にあり,議員らしく市政全般について思索をめぐらす等の余裕のある精神的活動等を期待するのが困難な毎日であったと推認され,被控訴人のそのような期間内の1日の全生活を議員の報酬と対価性をもつ議員活動と評価することは,著しく正義に反するところといわざるを得ず,まして,こうした1日の全生活により焼津市が利益を得たなどということは,ほとんど通常人の理解の限度を超える認識というべきである。 したが と評価することは,著しく正義に反するところといわざるを得ず,まして,こうした1日の全生活により焼津市が利益を得たなどということは,ほとんど通常人の理解の限度を超える認識というべきである。 したがって,議員活動については,議員としての1日の全生活が議員活動と評価されて報酬と対価性をもつとの被控訴人の主張は,採用することはできない。 (イ) さらに,被控訴人は,議員報酬は議員の提供する役務の対価として勤務対価性をもって支給されているものであり,また,議員報酬が議員の身分と一体性を持つことも考えれば,当選無効により失職した議員が提供した勤務と地方公共団体が支給した報酬その他の給付は,一般的には均衡しているとみるのが通常である旨主張する。 なるほど,行政実例においても,「一般的には,その勤務と給付は均衡していると見られるのが通常であり,その場合は不当利得返還請求権も生じないことになる」(昭和41年5月20日自治行第65号鳥取県総務部長宛行政課長回答。同旨,昭和41年5月23日自治行第67号青森県総務部長宛行政課長回答)と解されているが,しかし,上記行政実例は,公職選挙法251条により当選無効とされた議員は,当選の時点に遡って議員としての地位を失うことを前提としつつ,当該議員が相応の議員活動を実際に行った場合を含めた一般論を示したものと解されるのであり,その議員が行った議員活動や勤務が普通地方公共団体に利益を与えた場合には,原則としてその勤務を受けた給付とが均衡していると見て不当利得が成立しないことを明らかにするものと位置づけるのが相当であるから,この実例を参考にするとしても,当該議員において,その活動により現実に普通地方公共団体に相応の利益を与えたことを主張立証することが必要であると考えられる。そして,上記アで認定のとおり,被控訴人がその の実例を参考にするとしても,当該議員において,その活動により現実に普通地方公共団体に相応の利益を与えたことを主張立証することが必要であると考えられる。そして,上記アで認定のとおり,被控訴人がその新任期中に議員活動により焼津市に利益を与えたとは認められないから,被控訴人の上記主張も採用することはできない。 (3) 以上のとおり,被控訴人は,法律上の原因なく,焼津市から本件報酬等123万9185円を受け,これがために同市に同額の損失を及ぼした者と認められ,かつ,自ら公職選挙法221条違反の買収行為(故意犯)を実行した罪につき刑に処せられてその当選が無効とされた議員であるので,本件報酬等の支給を受けることが法律上の原因がないことにつき悪意の受益者と認められる(悪意の受益者として不当利得を返還すべき義務の履行期は被控訴人が公職選挙法違反被告事件で有罪判決を受け同判決が確定した日以後と解されるところ,同判決は,遅くとも控訴人らが焼津市監査委員に住民監査請求をした日である平成11年7月28日までには確定したと推認されるから,遅くとも同日以後被控訴人はその受けた利益に利息を付して返還すべきである。)から,被控訴人は,同市に対し,その受けた利益たる本件報酬等の額に相当する123万9185円及びこれに対する被控訴人が公職選挙法違反被告事件で有罪判決を受け同判決が確定した後の日である平成11年7月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延利息を支払うべき義務を免れない。控訴人らの住民監査請求があったにもかかわらず,同市監査委員が,控訴人らの住民監査請求が理由がないものとして,被控訴人に対し,上記不当利得返還を請求しないため,控訴人らが監査の結果につき適法な通知を受けた日から30日以内に同市に代位して提起した本件訴訟は,地方自治法の関係規定に適 求が理由がないものとして,被控訴人に対し,上記不当利得返還を請求しないため,控訴人らが監査の結果につき適法な通知を受けた日から30日以内に同市に代位して提起した本件訴訟は,地方自治法の関係規定に適合する住民訴訟と認められる。 2 よって,控訴人らの請求は,被控訴人に対し,上記不当利得金123万9185円及びこれに対する平成11年7月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延利息を静岡県焼津市に支払うよう求める限度で理由があるからその範囲で認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと結論を異にする原判決は一部を除き不当であるから,原判決を上記のとおり変更し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法67条2項,61条,64条を適用することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第9民事部裁判長裁判官雛形要松裁判官小林正裁判官萩原秀紀

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