- 1 -平成24年7月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年(ネ)第10020号損害賠償請求控訴事件原審・東京地方裁判所平成22年(ワ)第23255号口頭弁論終結日平成24年6月13日判決控訴人日本総合企画株式会社同訴訟代理人弁護士新谷桂藤川綱之被控訴人エム.エフ.アイ.ネット(エス)ピーティーイー. リミテッド. (以下「被控訴人MFI社」という。)被控訴人 Y(以下「被控訴人 Y 」という。)上記両名訴訟代理人弁護士山下俊夫川添志西村広平最上次郎 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する平成21年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 - 2 - 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 4 仮執行宣言第2 事案の概要本判決の略称は,「被告 1年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 - 2 - 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 4 仮執行宣言第2 事案の概要本判決の略称は,「被告 A 」を「 A 」と改め,その他の当事者ないし関係者の呼称を含め,審級に応じた読替えをするほか,原判決に倣う。なお,以下,被控訴人MFI社ら及び A を総称して,「被控訴人ら」という。 1 本件は,原審において,控訴人が,本件特許権に係る本件専用実施権の権利者である被控訴人MFI社との間で,同専用実施権に係る特許侵害者との間の通常実施権の設定に関する交渉等の業務委託を目的とする本件業務委託契約を締結し,契約金として1000万円を支払ったことを前提に,①同契約の締結において被控訴人MFI社,同被控訴人代表者である被控訴人 Y 及び本件特許権の特許権者であるコネットの当時の代表者であった A から特許権及び専用実施権の内容等について欺罔されたと主張し,被控訴人らに対し,共同不法行為による損害賠償請求として,連帯して,契約金に相当する損害金1000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,また,②本件特許権のうち,本件特許権1が無効審決の確定により無効となったことから,本件業務委託契約は控訴人の意思表示に錯誤があったとして,その無効を主張し,被控訴人らに対し,連帯して,不当利得返還請求として,契約金1000万円の返還及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は,被控訴人らにつき,控訴人主張の欺罔行為があったとは認められないとし,本件業務委託契約の締結につき,控訴人にその主張に係る錯誤があったとは認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が原判決を不服として控訴した。 控訴人は,原判決後, A と訴訟外で和 務委託契約の締結につき,控訴人にその主張に係る錯誤があったとは認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が原判決を不服として控訴した。 控訴人は,原判決後, A と訴訟外で和解し,当審において, A に対する訴えを取り下げたほか,被控訴人MFI社らに対する契約金1000万円の不当利得返還請求の原因として,双務契約における危険負担について規定した民法536条1項の適用を追加して主張している。 - 3 - 2 前提となる事実控訴人の本件請求に対する判断の前提となる事実は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決2頁19行目から5頁21行目までに摘示のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決5頁5行目の「180株を譲渡した」の次に「(以下「コネット株式譲渡契約」という。)」を加える。 (2) 原判決5頁8行目の「本件専用実施権を解約する旨の通知をした(甲11」の次に「。以下「本件解約通知」という。」を加える。 (3) 原判決5頁10行目の「東京地裁」を「東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)」と改める。 (4) 原判決5頁18行目から21行目までを以下のとおり改める。 「コネットは,上記(6)によって本件専用実施権設定契約を解約したことを理由として,平成21年,東京地裁に対し,被控訴人MFI社ほかを被告として,本件専用実施権に係る専用実施権設定登録の抹消等を求める訴訟(甲13。東京地裁平成21年(ワ)第47445号専用実施権設定登録抹消登録等請求事件。以下「別件訴訟」という。)を提起したところ,平成24年3月30日,コネットの請求をいずれも認容する判決がされた(甲47。以下「別件判決」という。)。」 3 本件訴訟の争点(1) 控訴人に対する欺罔行為の有無(争点1)(2) 控訴人に対する 年3月30日,コネットの請求をいずれも認容する判決がされた(甲47。以下「別件判決」という。)。」 3 本件訴訟の争点(1) 控訴人に対する欺罔行為の有無(争点1)(2) 控訴人に対する契約金返還義務の有無ア本件業務委託契約の錯誤無効の成否(争点2)イ民法536条1項の適用による契約金支払義務の消滅(争点3)第3 当事者の主張 1 争点1(控訴人に対する欺罔行為の有無)について(1) 原審における主張この点に関する当事者の主張は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決6頁- 4 -2行目から15頁末行までに摘示のとおりであるから,これを引用する。なお,原審における A の主張を引用するのは,主張共通の原則の範囲内で,同主張も当裁判所が斟酌して判断を示すことができるためである。 ア原判決6頁4行目,8頁15行目,11頁7行目,13頁8行目の「本件業務提携契約」をいずれも「本件業務委託契約」と改める。 イ原判決6頁8行目の「約定がある(甲10」の次に「。なお,当該約定が後に変更されたか否かについては,当事者間に争いがあるが,以下,当該約定を「本件解約条項」といい,当該約定に基づく解約権を「本件解約権」という。」を加える。 ウ原判決9頁3行目の「IYカードサービス」を「IYカード」に改める。 エ原判決10頁11行目の「コネットと被告MFI社との」の次に「間で作成された覚書(乙ロ1。以下「本件覚書」という。)による」を加える。 オ原判決13頁25行目の「合意」を「本件覚書による合意」に,15頁20行目の「覚書」を「本件覚書」にそれぞれ改める。 (2) 当審における主張〔控訴人の主張〕① 本件解約通知についてア A は,原判決後,本件覚書は,以下の経緯において作成されたも 行目の「覚書」を「本件覚書」にそれぞれ改める。 (2) 当審における主張〔控訴人の主張〕① 本件解約通知についてア A は,原判決後,本件覚書は,以下の経緯において作成されたものであり,内容虚偽のものであると説明するに至った。当該説明は, A の陳述書(甲48)に添付されたメール等の客観的証拠によって裏付けられるものであって,被控訴人MFI社らの指示によりされた原審における説明から変遷している点を考慮しても,その信用性が極めて高いものであることは明らかである。 (ア) A は,平成21年9月30日,ペンジュラムとの間でコネット株式譲渡契約を締結したが, A は,ペンジュラムとの間で別途合意した年額1300万円の報酬が確実に支払われるか否かという点に主として関心を抱いており,ペンジュラムによるコネット買収を妨害する意図などは有していなかった。 - 5 -(イ) A は,平成21年10月8日,被控訴人 Y から,ペンジュラムに騙されている,このままだと特許だけ取られて報酬も支払われなくなる等と聞かされて不安になったところ,本件覚書を作成すればペンジュラムに対抗できる,任せてもらえれば悪いようにはしない等と聞かされ,その示唆のまま,内容虚偽の本件覚書を作成することに同意した。 (ウ) 被控訴人 Y は,代表取締役を務める株式会社イレブンの従業員に対し,本件覚書の文案を作成するよう指示し,同従業員は,足立弁理士の確認を経るなどして文案を作成した。 (エ) A は,ペンジュラムとの決済日とされた平成21年10月13日の午前中,新橋の事務所において,コネットの印鑑等を引き渡す前に本件覚書に押印してこれを2通作成し,同日の夜,被控訴人 Y に2通とも送付し,その後の対応は被控訴人Y に委ねることとした。 イ 午前中,新橋の事務所において,コネットの印鑑等を引き渡す前に本件覚書に押印してこれを2通作成し,同日の夜,被控訴人 Y に2通とも送付し,その後の対応は被控訴人Y に委ねることとした。 イ原判決は,本件覚書について,①被控訴人MFI社とコネットとの紛争が発生した平成21年10月13日以降に作成されたものではないこと,②足立弁理士の指摘を受けて存続期間の変更が合意されたという被控訴人らの主張に不自然な点はないことを主たる理由として,真正に作成されたものであるとする。 しかしながら,本件覚書が, A からペンジュラムにコネットの印鑑が引き継がれた平成21年10月13日以降に作成されたものではないとしても,直ちに平成20年8月頃に真正に作成されたものと推認することはできない。 A とペンジュラムとは,平成21年9月30日にコネット株式譲渡契約を締結し,A は,決済日である同年10月13日までの約2週間のうちに本件専用実施権設定契約を解約してもらうべく被控訴人 Y と協議するが,被控訴人MFI社らが解約に応じない場合,ペンジュラムが本件解約権を行使する方針としていた。 しかし,被控訴人 Y は, A が事前承諾のないままペンジュラムとの契約に至ったことに不満を抱き,本件専用実施権設定契約の解約には応じない意向を示すとともに,ペンジュラムの B に対しても同様の意向を示したのみならず,本件解約通知- 6 -について争う姿勢を明確に示した。 以上のように,被控訴人MFI社とペンジュラムとの紛争状態は,同年9月30日以降に開始された交渉段階から既に発生していたものであり, A が,被控訴人 Yの示唆に従い,コネットの印鑑を B に引き継ぐまでの間に本件覚書を作成する動機も,その機会も十分あったことは明らかである。 被控訴人 段階から既に発生していたものであり, A が,被控訴人 Yの示唆に従い,コネットの印鑑を B に引き継ぐまでの間に本件覚書を作成する動機も,その機会も十分あったことは明らかである。 被控訴人らは,イレブンに対する本件特許権に係る専用実施権設定登録においても,契約上は1年ないし2年と期間を短く区切っており,登録原簿の記載と契約条項とは常に齟齬していた。自動更新条項に基づき契約の更新がされる都度,期間についての変更登録をすることは,費用や事務処理上の負担が生じるため,契約上は期間を1年ないし2年としつつ,登録原簿には,「期間全部」と登録することは,別件判決も指摘するとおり,実務上,広く行われているものである。 そうすると,足立弁理士が,原判決の認定するように,契約書における条項と登録原簿における記載とを一致するようにアドバイスしたとは考え難い。 ウ被控訴人 Y が,平成21年10月22日,コネットに対し,本件覚書を送付して,本件解約通知が無効である旨主張するまで,本件覚書の存在を告げていなかったことは,当事者間に争いがない。 この点について,被控訴人 Y は,本件覚書を2通とも所持していたが,何をしてくるか分からない相手にあえてその存在を伝えなかったなどと説明するが,明らかに不自然である。 しかも,本件専用実施権設定契約は,弁護士法72条を潜脱する目的によるものであり,通謀虚偽表示として無効であるか,公序良俗違反により無効であるといわざるを得ないものであり, A が,本件特許権の存続期間中などという長期間にわたり,専用実施権の拘束を受ける意思を有していたとは到底認めることができない。 また,被控訴人 Y は,事前承諾がないまま A が締結したコネット株式譲渡契約に不満を抱いていたのであるから,同契約の決済前に本件覚書の存 束を受ける意思を有していたとは到底認めることができない。 また,被控訴人 Y は,事前承諾がないまま A が締結したコネット株式譲渡契約に不満を抱いていたのであるから,同契約の決済前に本件覚書の存在をペンジュラムの B に告げていれば,同譲渡契約は解消された可能性が高いものであるところ,- 7 -被控訴人 Y は,コネット買収を阻止できる可能性があった平成21年10月8日の時点では本件覚書の存在を明らかにせず,既に決済を終えてコネットの印鑑等も完全に引き継がれてしまった後の同月22日に至り,本件覚書の存在を告知したことは,明らかに不自然である。 したがって,本件覚書は,同年9月30日のコネット株式譲渡契約締結後,その条件に不安を抱いた A が,被控訴人 Y と共謀して,ペンジュラムによるコネット買収を妨げる目的で作成したもので,通謀虚偽表示により無効であるというべきである。 ② 本件専用実施権設定契約についてア本件業務委託契約締結当時,本件覚書は存在せず,同委託契約は,本件解約権により解約し得るものであったが,被控訴人らは,控訴人に対し,この事実を一切説明していない。 また,同委託契約は,本件覚書が無効である以上,本件解約通知により解約されたものということができる。 したがって,控訴人は,本件特許権の専用実施権者である被控訴人MFI社との間で,本件専用実施権設定契約が本件解約権により解約され得る危険性を告げられないまま,1000万円もの契約料を支払って本件業務委託契約を締結し,その後,当該危険性が顕在化し,本件専用実施権設定契約が解約されてしまったため,本件業務委託契約に基づく業務を行うことができなくなったものである。 イ原判決は,本件覚書が有効であるとし,その結果として,①控訴人はコネットに対して登録事項である 約が解約されてしまったため,本件業務委託契約に基づく業務を行うことができなくなったものである。 イ原判決は,本件覚書が有効であるとし,その結果として,①控訴人はコネットに対して登録事項である本件専用実施権の期間が本件特許権の存続期間であることを主張し得ること,②コネットは,控訴人に対して本件解約権の不行使を約し,本件専用実施権設定契約が解約されたと主張することができないことを主たる理由として,被控訴人らの控訴人に対する不法行為責任を否定するようである。 しかしながら,特許法98条1項2号により,権利を発生させるためには登録が必要であるということができるとしても,登録があるからといって権利が発生して- 8 -いるとまで,いうことはできない。また,被控訴人らは,控訴人に対して本件専用実施権設定契約の内容を明らかにせず,本件解約権の存在自体を秘匿していたのであるから,同解約権の存在を前提として,控訴人との間で同解約権の不行使を約したと解することはできない。いずれにせよ,被控訴人らによる欺罔行為の存否は,同解約権の存在を信義則上告知すべき義務の存否及び当該義務違反の成否の観点から判断すべきである。 仮に,コネットが控訴人に対しては被控訴人MFI社との本件専用実施権設定契約の解約を主張し得ないとして,控訴人がその事実をもって特許侵害企業と交渉を行ったとしても,そのような不安定な権利(コネットと被控訴人MFI社との間では解約されているが,コネットと控訴人との間では解約を主張されない専用実施権)を前提として通常実施権設定契約を締結しようとする企業は皆無であろうから,解約権の不行使が約されていたか否かに関わらず,控訴人が損害を被ることは明らかである。 ウちなみに,契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の告知義務に違反して 皆無であろうから,解約権の不行使が約されていたか否かに関わらず,控訴人が損害を被ることは明らかである。 ウちなみに,契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の告知義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合,一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき不法行為による賠償責任を負うものと解すべきである。 本件において,本件解約権の存在は,控訴人が本件業務委託契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼすべき情報であり,その不告知が,信義則上の告知義務違反に当たることは明らかである。仮に,同解約権の存在を告知されていれば,控訴人において,実際に同解約権を行使される可能性はどの程度あるのか,同解約権を行使された場合にはどのようなリスクが生じ得るのか,同リスクを回避するためにはどのような対策が必要なのか等につき総合考慮の上,本件業務委託契約締結の可否が慎重に検討されたはずであって,同契約は締結されなかったか,少なくとも契約金支払等の条件が見直されたことは明らかである。本件解約権の存在が,控訴人による同委託契約締結の可否の判断に重大な影響を及ぼすものであったことは明らか- 9 -であり,同解約権の存在を告知せず,むしろ本件専用実施権が本件特許権の存続期間中は有効であるかのごとく装っていた被控訴人らには,信義則上の告知義務違反が認められ,控訴人に対する不法行為責任が認められるものである。 ③ C の実施許諾料についてア原判決は, C の実施許諾料に関し,① A が足立弁理士から秘密とするように告げられていたことから金額を空欄とした契約書を示したこと,② C と1000万円で契約していたにもかかわらず,実施許諾料が3億円であったと A が述べた し,① A が足立弁理士から秘密とするように告げられていたことから金額を空欄とした契約書を示したこと,② C と1000万円で契約していたにもかかわらず,実施許諾料が3億円であったと A が述べたとすることは不自然であること,③被控訴人 Y が3億円の根拠となるべきカード所有者1人当たり100円の実施料は高すぎるとの内容のメールも含めて D に交付したのは不自然であることなどから,被控訴人らが C の実施許諾料が3億円であったと説明したとは解し難いとするようである。 しかしながら, C との契約書では,「契約の存在及び内容」自体が守秘義務の対象とされているものであって,被控訴人 Y 及び足立弁理士は, C と契約したこと自体が守秘義務の対象とされていることを認識していたのであるから,金額のみが守秘義務の対象であることを前提として,金額のみを空欄とした契約書を作成するはずがない。被控訴人らが金額のみを空欄としたのは, C という大企業と契約できたことをアピールしながらも,大企業でさえ実施料を1000万円まで値切られてしまったという不都合な事実を隠したかったからにほかならない。 イ C の実施許諾料を知っているのは, C 関係者, A ,被控訴人 Y 及び足立税理士のみであり,被控訴人 Y 及び A が金額を控訴人に伝えなければ,控訴人にC の実際の実施許諾料を秘匿することは可能であるから,被控訴人らが, C の実施許諾料について,3億円であると虚偽の事実を述べたとしても,何ら不思議ではない。実施許諾料が3億円に達することの根拠となるべき内容のメールも含めて D に交付されたことが,不自然であるということはできないことも明らかである。 しかも,足立弁理士は,平成21年5月21日,特許侵害企業との交渉を有利に進めるため,明らかに実体 のメールも含めて D に交付されたことが,不自然であるということはできないことも明らかである。 しかも,足立弁理士は,平成21年5月21日,特許侵害企業との交渉を有利に進めるため,明らかに実体のない通常実施権設定登録を提案しているものであり,- 10 -A も, C の実施許諾料に関し,控訴人に「3億円」という具体的な金額を伝えた明確な記憶まではないが,金額白地の契約書は被控訴人 Y が1000万円ではなくもっと高いと思わせるために作成したものであること,控訴人から金額を聞かれれば「1口座100円」「900万口座」「億は下らない」との回答がされたと思われ,控訴人が,少なくとも億単位の金額であるという認識を有してしまったことは間違いないと思われる旨の陳述書を提出しているものである(甲48)。 A の事務所家賃や敷金等の資金を確保するため,控訴人から何とかして契約金を得ようと画策されていた事情も, A が保存していたメールから明らかであることなどを合わせ考慮すると,控訴人に対し, C の実施許諾料が殊更に高いものと思い込ませるために虚偽の事実が告げられていたことは明らかである。 ④ 小括以上からすると,被控訴人らの欺罔行為が認められないとした原判決は誤りである。 なお,被控訴人MFI社らは,本件業務の実施が困難になることを知りつつ本件専用実施権設定契約を解約したのは,コネットを買収したペンジュラムの経営判断であり,被控訴人MFI社らに損害賠償請求することは失当であるなどと主張する。 しかし,控訴人は,解約そのものが不法行為に該当すると主張するのではなく,被控訴人らが本件解約権の存在を本件業務委託契約締結時点で告知しなかった点に告知義務違反(不法行為責任)があり,また控訴人は同不告知によって要素の錯誤に陥った旨を主張するもの と主張するのではなく,被控訴人らが本件解約権の存在を本件業務委託契約締結時点で告知しなかった点に告知義務違反(不法行為責任)があり,また控訴人は同不告知によって要素の錯誤に陥った旨を主張するものであり,被控訴人MFI社らの主張こそ,失当である。 〔被控訴人MFI社らの主張〕① 本件解約通知についてア本件訴訟は,コネット及びその株主であるペンジュラムが, A との間の別件訴訟などを有利に進めることを目的として,控訴人を利用して提起したものである。 本件業務委託契約に基づいて控訴人が支払った契約金1000万円の原資はペンジュラムによるものであり,控訴人には特段の損害が生じているものではない。 - 11 -ペンジュラムは,平成21年6月頃,本件特許権を利用した事業を展開しようと企て, A との交渉を開始した。ペンジュラムは,被控訴人らからの説明や登録原簿の記載から,本件特許権には期間の定めのない本件専用実施権が設定されていることを把握していたものの, A が被控訴人 Y を説得するという説明を信じて手続を進めたが,進展は見られなかった。ペンジュラムは,そのため,次善の策として,本件解約条項に着目し,コネット株式譲渡契約を締結して A からコネットの株式を取得し,コネットが本件解約通知をしたものである。ペンジュラムは,本件特許権の事業に関する有効性を踏まえ,控訴人に出資して本件業務を行わせようとしたが,その後にコネットを買収したことから,本件業務が実施困難となることを承知しながら,コネットに本件解約権を行使させたものである。このような事態を生じさせたのは,控訴人の出資者であるペンジュラムの経営判断の結果であって,被控訴人MFI社らに損害賠償を求めることは明らかに失当である。 イ本件覚書は,本件専用実施権を被控訴人MFI社に 態を生じさせたのは,控訴人の出資者であるペンジュラムの経営判断の結果であって,被控訴人MFI社らに損害賠償を求めることは明らかに失当である。 イ本件覚書は,本件専用実施権を被控訴人MFI社に対して移転登録する前に,契約書の記載内容と登録原簿の登録内容とが異なることから将来的にトラブルが生じることを防止するために,平成20年8月頃,足立弁理士の助言に基づいて作成されたものであって,その事実はコネットが A に対して提起した3000万円の損害賠償を求める訴訟(東京地裁平成22年(ワ)第42454号損害賠償請求事件)の判決(乙ロ15)においても認定されている。 ウ控訴人は,本件覚書が無効であることの根拠として,被控訴人らは,イレブンに対する本件特許権に係る専用実施権設定登録においても,契約期間を短く区切っており,登録原簿の記載と契約条項とは常に齟齬していたことを指摘する。しかし,被控訴人MFI社自体,被控訴人 Y 及び A が,本件特許権を活用した事業を展開するために共同で設立した会社であり,その利益は A と被控訴人 Y とが享受するものとされていたことから,従前の契約は,特許権者であるコネット及び A に対して特に配慮したものであったにすぎない。本件専用実施権設定契約についても,特に検討することなく従前の契約書を踏襲したが,足立弁理士からの指摘を受けた- 12 -ため,本件覚書を作成したのである。 エ控訴人は,別件判決(甲47)が,被控訴人MFI社とイレブンほか4社との通常実施権設定契約について,実体のない仮装契約である旨認定したことをもって,被控訴人らが本件特許権の価値が殊更高いものであると日常的に偽っていたなどと主張する。 しかしながら,イレブンらは,被控訴人MFI社及び大企業である C が平成21年2月に通常実施権 とをもって,被控訴人らが本件特許権の価値が殊更高いものであると日常的に偽っていたなどと主張する。 しかしながら,イレブンらは,被控訴人MFI社及び大企業である C が平成21年2月に通常実施権設定契約を締結したことから,今後,その他の企業に対しても本件特許権を活用した事業展開が有益にされ,通常実施権設定に係る契約金も高騰することが予測されたため,同年5月15日から同年6月5日にかけて,それぞれ通常実施権設定契約を締結したものである。イレブンらは,具体的に通常実施権の実施に至ることができず,また,実施料の支払もしていないが,これは,被控訴人MFI社と控訴人,ペンジュラムとの間に紛争が生じたからである。イレブンらは,同一の住所地に所在するものではあるが,第三者が所有する10階建てマンション及び総合テナントビルにそれぞれテナントとして入居しているものであって,別個の実体を有するものである。 ② 小括以上からすると,本件覚書は有効であって,本件解約通知によって本件専用実施権設定契約が解約されたものということはできず,この点について,被控訴人らに控訴人主張の欺罔行為は存在しない。 2 争点2(本件業務委託契約の錯誤無効の成否)について(1) 原審における主張この点に関する当事者の主張は,原判決16頁4行目の「本件業務提携契約」を「本件業務委託契約」と,「知財高裁」を「知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」という。)」とそれぞれ改めるほかは,原判決16頁3行目から17頁13行目までに摘示のとおりであるから,これを引用する。なお,原審における A の主張を引用する趣旨は,前記1(1)のとおりである。 - 13 -(2) 当審における主張〔控訴人の主張〕被控訴人らは,本件業務委託契約締結に先立ち,控訴人に対し,本件専用実 ける A の主張を引用する趣旨は,前記1(1)のとおりである。 - 13 -(2) 当審における主張〔控訴人の主張〕被控訴人らは,本件業務委託契約締結に先立ち,控訴人に対し,本件専用実施権設定契約は本件解約権により解約し得るものであることについて,控訴人に告知すべき信義則上の義務があったにもかかわらず,同義務に違反してこれを告知せず,むしろ,被控訴人らは,本件専用実施権が本件特許権の存続期間中は有効であるかのごとく振る舞っていたものである。そのため,控訴人は,本件専用実施権設定契約が本件解約権により解約し得るような不安定な権利ではないとの錯誤に陥っていたことは明らかである。 控訴人に上記錯誤がなければ,本件業務委託契約締結に至らなかったであろうことは明らかであるから,同契約は要素の錯誤により無効であるというべきである。 以上からすると,本件業務委託契約について,控訴人に錯誤があったものとはいえないとした原判決は誤りである。 〔被控訴人MFI社らの主張〕争う。 3 争点3(民法536条1項の適用による契約金支払義務の消滅)について〔控訴人の主張〕仮に,本件業務委託契約が錯誤無効といえないとしても,本件専用実施権設定契約が,本件覚書が無効なものであることから,コネットによる本件解約通知に基づいて解約されたため,本件業務委託契約は,事後的に履行不能に陥ったものである。 そして,本件業務委託契約の実体は,控訴人が被控訴人MFI社に契約料を支払うことにより,本件業務を行うことができる地位を得たものであって,控訴人の同契約料を支払うべき義務と,被控訴人MFI社の同地位を提供すべき義務とは双務関係にあったものというべきである。 したがって,被控訴人MFI社は,控訴人に対し,本件専用実施権に基づく本件業務を行うこと 約料を支払うべき義務と,被控訴人MFI社の同地位を提供すべき義務とは双務関係にあったものというべきである。 したがって,被控訴人MFI社は,控訴人に対し,本件専用実施権に基づく本件業務を行うことができる地位を提供すべき義務を履行し得なくなった以上,民法5- 14 -36条1項に基づき,同義務と双務関係にある控訴人から契約料の支払を受ける権利を失ったものであるから,受領済みの契約料の返還を免れ得るものではない。 〔被控訴人MFI社らの主張〕争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(控訴人に対する欺罔行為の有無)について(1) 認定事実前提となる事実に証拠(甲2,4,5,6の1・2,甲7~12,14,15,19,26,27,28の2,甲44,乙イ1~3,乙ロ1,2,4,12~14,原審における控訴人代表者,原審における被控訴人 Y 本人兼被控訴人MFI社代表者)及び弁論の全趣旨を加えると,以下の事実を認めることができる。 ア A は,本件特許権者であるコネットの100%株主兼代表取締役であったところ,平成14年頃,知人から,ポイントビジネスに興味を有するという被控訴人Y を紹介された。 A は,被控訴人 Y から,本件特許権を利用する企業から使用料を取得するとのビジネスモデルの提案を受け,同被控訴人とともに本件特許権を活用した事業を行うこととした。 A は,平成20年7月10日,コネット代表者として,被控訴人 Y が代表者を務める被控訴人MFI社との間で,本件専用実施権設定契約を締結した。 本件専用実施権設定契約の契約書(甲10)では,本件専用実施権の適用期間は平成20年9月1日から平成21年8月末日までの1年間とし(4条1項),両当事者は,相手方当事者に対し,2か月前までに書面による契約終了の意思表示を行っ 書(甲10)では,本件専用実施権の適用期間は平成20年9月1日から平成21年8月末日までの1年間とし(4条1項),両当事者は,相手方当事者に対し,2か月前までに書面による契約終了の意思表示を行って同契約を終了させることができるとされていた(同条2項。本件解約条項)。 もっとも,足立弁理士は,本件専用実施権の登録につき,コネットが株式会社アップのために設定登録していた,範囲を日本国内全域,期間を本件特許権の存続期間中,内容を全部とする専用実施権を被控訴人MFI社に移転登録する形式で行うこととし,平成20年8月14日,その旨の登録がされた(甲4,5)。 - 15 -なお,その結果,本件専用実施権の存続期間は,前記契約書の記載する適用期間の制限を受けないものとなったが,その経緯については,本件覚書の作成時期ないし作成目的に併せて,改めて検討する。 イまた, A は,本件特許権を侵害している可能性があるポイントサービスを提供している企業に対し,実施許諾料の支払を求める交渉を,平成19年から荒井弁護士,平成20年初め頃から足立弁理士に依頼していたところ,足立弁理士が交渉した結果,平成21年2月9日,本件専用実施権設定契約に基づき本件専用実施権の設定を受けていた被控訴人MFI社が C に本件特許権の通常実施権を設定する旨の契約(甲12。実施許諾料1000万円)が締結された。 さらに,荒井弁護士は,IYカードに対し,同社のポイントサービスが本件特許権2に抵触することを告げて,ライセンス契約締結の提案をしていたところ,同年3月23日付けで,IYカードの代理人弁護士から,荒井弁護士に対し,IYカードのポイントサービスは本件特許権2と抵触しないと考えているが,本件特許権2の技術には興味があり,将来的にはこれを同社の事業に導入することも検討したい ドの代理人弁護士から,荒井弁護士に対し,IYカードのポイントサービスは本件特許権2と抵触しないと考えているが,本件特許権2の技術には興味があり,将来的にはこれを同社の事業に導入することも検討したいので,ライセンス料について教えてもらいたいとの連絡がされた(甲27)。 ウ A は,平成19年3月にパチンコ関係企業から本件特許権1の無効審判請求を受けたことを契機として,かえって,パチンコ店舗の来店ポイントが本件特許権に抵触しているのではないかと考えるようになり,知人からパチンコ業界に詳しいとして紹介を受けた E に対し,パチンコ業界との本件特許権の使用許諾料に係る交渉を任せることとしたが, E は,平成21年3月に急死した。 しかし,平成21年4月初旬頃, A は, E と一緒に仕事をしていた F から, Eを引き継いでポイント事業をやりたい人がいるとして,控訴人代表者の D を紹介され,同人から, E のポイント事業を控訴人が引き継ぎたいとの提案を受けた。 A は, D に対し,本件特許権については,被控訴人 Y が経営する被控訴人MFI社に対して本件専用実施権が設定されているので,被控訴人 Y を入れて打ち合わせる必要がある旨を伝えた。 - 16 -エ A ,被控訴人 Y , D , G 及び F は,平成21年4月24日,協議の場を設け, A は, D に対し,本件特許権については,1年以上かけて,荒井弁護士及び足立弁理士が苦労して交渉してきたもので, C とは通常実施権設定契約を締結するに至っているし,イトーヨーカドーが交渉のテーブルに上がってきてくれているとの話をした。 その際, A は, D に対し,コネット,被控訴人MFI社及び C 間で締結された通常実施権設定契約に係る契約書(甲12)から,実施許諾料 交渉のテーブルに上がってきてくれているとの話をした。 その際, A は, D に対し,コネット,被控訴人MFI社及び C 間で締結された通常実施権設定契約に係る契約書(甲12)から,実施許諾料1000万円の記載部分を空欄として作成した写しを見せたが,契約料は守秘義務があるから教えることはできないと告げた。 オ A は,控訴人に対して,まずはパチンコ業界に限って本件特許権の使用許諾料を取得する事業を依頼しようと考えたが, D は, A 及び被控訴人 Y に対し,パチンコ業界だけでなく,荒井弁護士,足立弁理士が交渉対象としない中小企業との交渉を行いたいと希望した。 被控訴人 Y は,これまでの荒井弁護士や足立弁理士が行ってきた大手企業相手の通常実施権設定契約締結交渉のほかに,中小企業相手に交渉を行えばそれだけ収益につながることから興味を抱いたが,そのような交渉業務を弁護士や弁理士ではない一企業に委託してよいか疑問があったことから, D に対し,弁護士が関与してもらえるのであれば検討する旨を伝えたところ, D は,その依頼をすることができる鈴木弁護士がいるので,一度会ってもらいたいと告げた。 カ D , A ,被控訴人 Y 及び G は,平成21年5月14日,鈴木弁護士の法律事務所において,鈴木弁護士と面会した。その場で,法律行為等について鈴木弁護士が行い,それ以外について控訴人が行うことで,中小企業に対する本件特許権の通常実施権設定契約締結交渉を行うことが合意された。 同月28日,鈴木弁護士の法律事務所において,同弁護士, D , A 及び被控訴人 Y が立ち会って,コネット代表者としての A の承諾の下,被控訴人MFI社と控訴人との間の本件業務委託契約(甲6の1)が締結されるとともに,本件業務に- 17 -係る法律 , A 及び被控訴人 Y が立ち会って,コネット代表者としての A の承諾の下,被控訴人MFI社と控訴人との間の本件業務委託契約(甲6の1)が締結されるとともに,本件業務に- 17 -係る法律行為については鈴木弁護士が担当するものとして,被控訴人MFI社と鈴木弁護士との間の委任契約(乙ロ4)も締結された。 本件業務委託契約(甲6の1)には,「契約金は,契約の中途解約その他理由の如何を問わず返還しない」(3条2項)との規定が置かれたが,これは,同契約書文案を作成した被控訴人 Y において,何かしらの理由で契約金を返してくれといわれても困ると考えて加えたものであったところ, D は,同条項について特段異議を述べなかった。 なお, D が, A 及び被控訴人 Y との間で,本件業務委託契約締結に係る交渉を行っている際, A は, D に対し,被控訴人MFI社に対して本件特許権の存続期間中は有効な専用実施権を設定していること,本件特許権1については以前に無効審判請求がされたことがある旨を伝えている。 また,NTTコミュニケーションズは,同月22日に特許庁に対して本件特許権1の無効審判を請求していたが(甲4),同請求書がコネットに送達されたのは同年6月11日であって, A 及び被控訴人 Y は,本件業務委託契約締結時において,同請求がされたことを知らなかった。 キ本件業務委託契約においては,機密保持条項(8条)が設けられたことから,同契約締結後,被控訴人 Y は,本件専用実施権について被控訴人 Y が保管する書面のファイル一式を D に渡し,そのコピーをすることを許可したが,その中の Cとの間の通常実施権設定契約に係る契約書については,実施許諾料の金額は空白としたもの(甲28の2)であった。また,当該ファイル内には,平成20年 渡し,そのコピーをすることを許可したが,その中の Cとの間の通常実施権設定契約に係る契約書については,実施許諾料の金額は空白としたもの(甲28の2)であった。また,当該ファイル内には,平成20年5月27日,足立弁理士が C との交渉経過を記載した被控訴人 Y 宛のメールが含まれていた。当該メールには, C から,カード所有者1人当たり100円の実施料は高すぎること,共通ポイントの特許(本件特許権2)は現在実施していないが,引当金のことを考えると,実施許諾を受けておく価値はあること,集計システムの特許(本件特許権1)は無効になると考えている旨の連絡があったこと,無効審判請求をするなど,不穏な動きをする会社には2件とも実施許諾をしない方針であること- 18 -などを伝えた旨が記載されていた(甲19)。 ク控訴人は,ペンジュラムから受けた出資を原資として本件業務委託契約の契約金1000万円を準備し,平成21年6月15日,被控訴人MFI社に対する送金手続を行い(甲44,原審における控訴人代表者),同年8月末頃から,中堅スーパーの共同出資によるCGCグループに対し,本件特許権の通常実施権設定に係る交渉を始めた。 ケ他方, A は,平成21年10月13日,コネット株式譲渡契約を締結し,その保有するコネットの全株式のうち90%に当たる180株を900万円でペンジュラムに譲渡し,同日にコネットの代表取締役(取締役も併せて)を辞任し,同日,ペンジュラムの当時の代表取締役であった B がコネットの代表取締役に就任した(甲2,9,乙イ2)。コネット株式譲渡契約の契約書(乙イ2)には, A において,被控訴人MFI社から本件専用実施権をコネットに移転するか,又は消滅するようにコネットに協力することが定められていた(第9条)。 B は,前同 式譲渡契約の契約書(乙イ2)には, A において,被控訴人MFI社から本件専用実施権をコネットに移転するか,又は消滅するようにコネットに協力することが定められていた(第9条)。 B は,前同日,コネットの代表者として,被控訴人MFI社に対し,本件解約条項に基づいて,同年12月13日をもって本件専用実施権設定契約を終了させることを記載した書面を発送した(本件解約通知。甲11)。 また,これに伴い,控訴人も,ペンジュラムから,本件専用実施権設定契約の契約書(甲10)を見せられ,コネットにおいて,本件解約条項に基づき,被控訴人MFI社に対して本件解約通知を行ったので,同被控訴人との間の本件業務委託契約に基づく本件業務の遂行を一旦中断するように求められたため,CGCグループとの前記交渉を取りやめることになった。 コこれに対し,被控訴人MFI社の代表者である被控訴人 Y は,本件覚書の作成時期ないし作成目的はさておき, A がコネットの代表者であった当時に作成して同被控訴人が所持していたという当該覚書をコネットに送付して, B がコネットの代表者としてした本件解約通知は,本件覚書に反して無効であると主張して,その効力を争った。 - 19 -なお,被控訴人MFI社は,前記のとおり,荒井弁護士を同被控訴人の代理人として,IYカードとの間で本件専用実施権に基づく通常実施権設定契約締結交渉を行うなどしていたが,ペンジュラムがコネットの経営権を取得することが決まった同年9月下旬ころ,既に同交渉等を取りやめていた。 (2) 検討控訴人は,控訴人に対する欺罔行為として,①本件専用実施権が本件解約条項により2か月前の予告で解消されてしまうおそれがあるとの事実を秘し,あたかも本件特許権の存続期間中は有効であるかのように装った,②被控訴人らは 人に対する欺罔行為として,①本件専用実施権が本件解約条項により2か月前の予告で解消されてしまうおそれがあるとの事実を秘し,あたかも本件特許権の存続期間中は有効であるかのように装った,②被控訴人らは,控訴人に対し, C がコネットに支払った本件特許権の実施許諾料が1000万円であるという事実を秘し,あたかも3億円で契約できたかのように装って欺罔した,③被控訴人らは,控訴人に対し,本件特許権1についてNTTコミュニケーションズから無効審判請求を受けているという事実を秘し,本件特許権がいかにも優良で何ら問題がない権利であるということばかりを強調したなどと主張する。そこで,以下,順次検討する。 ア本件解約条項について(ア) 本件専用実施権設定契約には,自動更新条項が存在するが,本件解約条項が存在し,同条項によれば,本件解約権の行使により予告から2か月後に解約されることになるところ,被控訴人MFI社の本件専用実施権の登録は,期間につき,本件特許権の存続期間中とする登録がされていることは前記認定のとおりである。 この点について,被控訴人らは,平成20年8月20日,コネットと被控訴人MFI社との間で本件覚書が作成されていて,本件専用実施権の有効期間を本件特許権の存続期間とする旨の合意が成立していたためであると主張するのに対し,控訴人は,本件覚書は後日作成された内容虚偽の文書であると主張するところ,本件覚書にその作成者であるコネットの代表者と記載されている A は,コネット株式譲渡契約後である平成21年11月22日,本件覚書に,「本覚書を私が作成した覚えはありません確かにコネット社の代表印は私が保管しており必要な都度に押印- 20 -していましたしかし本覚書によりMFIに専用実施権を付与した基本契約書第4条2項2ケ月の解約予告期間が無 えはありません確かにコネット社の代表印は私が保管しており必要な都度に押印- 20 -していましたしかし本覚書によりMFIに専用実施権を付与した基本契約書第4条2項2ケ月の解約予告期間が無効になるのであれば不本意です」と付記し(甲14),さらに, A は,原判決後,控訴人と訴訟外で和解し, A に対する訴えが取り下げられた後,平成24年5月15日付け陳述書(甲48)を作成し,本件覚書は,被控訴人 Y の指示により,平成21年10月13日,ペンジュラムに対抗するために作成したものであるなどと説明する。 しかしながら, A は,控訴人との間で前記和解に至るまで,一貫して本件覚書はその作成日付けのとおり真実作成されたものであり,本件覚書に対する上記付記は,B や弁護士2名を含めた4名により脅迫されたためにしたものであるなどとする陳述書(乙ロ10)を作成していたのみならず,別件訴訟における証人尋問でも,同趣旨の供述をしていることが明らかである(甲43)。 以上のように,本件覚書の作成経緯に関する A の説明ないし供述は,本件訴訟において被控訴人MFI社らと共同被告であった当時と,和解が成立して訴えが取り下げられた現在とで正反対なものとなっているが,その変遷は,時期的にみて,本件訴訟に関わる A の立場の前記違いに由来することは否定できないから,当審で提出された甲48の陳述書には,その信用性を裏付けるための電子メールが添付されているとはいえ,直ちにこれを採用し得るものではない。 (イ) そこで, A の説明ないし供述を離れて,本件覚書が作成された経緯について検討するに,本件覚書が存在しなければ,被控訴人MFI社がコネットから設定を受けた本件専用実施権は,自動更新条項があっても,コネットにおいて,2か月の予告期間を置いて解約することが れた経緯について検討するに,本件覚書が存在しなければ,被控訴人MFI社がコネットから設定を受けた本件専用実施権は,自動更新条項があっても,コネットにおいて,2か月の予告期間を置いて解約することが可能であるから,被控訴人MFI社の権利が脆弱なものであったことは否定し得ない。しかも,同被控訴人においては,本件専用実施権を有することを前提に,例えば,本件業務委託契約に基づいて,控訴人に対し,本件専用実施権に係る特許権侵害者との間で通常実施権の設定に関する交渉等を行わせることを予定して,契約金として1000万円の支払を受けるなどしているのである。コネットから設定を受ける本件専用実施権の存続期間が契約書に記載- 21 -されたとおりの期間であっては,コネットから本件専用実施権の設定を受けるにしても,また,控訴人との間で本件業務委託契約を締結するにしても,いつその権利を失うかもしれないという将来の不安を拭い去れないところである。 したがって,本件専用実施権の設定を受ける被控訴人MFI社が,契約書に記載された存続期間ではなく,もっと長期で,かつ,安定した存続期間でその設定を受けようと考えるのは,ごく自然で,かつ,合理的であって,そのために,本件覚書が作成されたとみる余地は十分にある。 加えて,本件専用実施権の登録に際しては,契約書の記載とは異なって,その存続期間を本件特許権の存続期間中とする登録がされているのであるから,これも本件覚書によって本件専用実施権の存続期間が,契約書に記載された期間ではなく,前記登録されたとおりの期間に変更されていたからと推認させ得るものといわなければならない。 (ウ) この点について,控訴人は, A とペンジュラムとの間でコネット株式譲渡契約が締結された後,コネットの経営者となったペンジュラムの意向に沿って,被控 させ得るものといわなければならない。 (ウ) この点について,控訴人は, A とペンジュラムとの間でコネット株式譲渡契約が締結された後,コネットの経営者となったペンジュラムの意向に沿って,被控訴人MFI社との間で本件専用実施権設定契約の解約について折衝する過程で,同被控訴人との間で紛争が生じたため,本件覚書が作成されたかのようにいうが,本件覚書は,本件解約条項に基づく解約権の行使を制限するものであるから,ペンジュラムにとって不利益となる文書であることは否定できない。そして,そのような文書を当時はいまだコネットの代表者であったとはいえ,ペンジュラムとの間でコネット株式譲渡契約を締結していた A が作成する動機があったとは考え難い。 控訴人は, A において,被控訴人 Y から騙されて,ペンジュラムに対してコネット株式を譲渡しても,「特許だけ取られて報酬も支払われなくなる」のではないかと不安になって,ペンジュラムに対抗するために,内容虚偽の本件覚書を作成したかのように主張するが,そうであれば,端的にペンジュラムに対する株式譲渡をやめれば足りたはずであって,株式譲渡に応じた上で,なおペンジュラムに対抗する手段として本件覚書を作成したという動機は容易に理解し難い。しかも,そのよ- 22 -うにペンジュラムに対する対抗手段として作成したという本件覚書であれば,自らの手中に収めておいて当然であると解されるのに,本件覚書は,2通作成され,その全部が被控訴人MFI社の手中にあったのであって,同被控訴人の代表者である被控訴人 Y が A に示唆して作成させたものであるとしても, A のペンジュラムに対する対抗手段として作成されたものであるとすれば,少なくとも1通は A が所持していて当然であって,被控訴人MFI社の手中にあったこと自体が不自然である たものであるとしても, A のペンジュラムに対する対抗手段として作成されたものであるとすれば,少なくとも1通は A が所持していて当然であって,被控訴人MFI社の手中にあったこと自体が不自然であるといわなければならない。 また,控訴人は, A において,本件専用実施権の存続期間につき,本件覚書に記載されているように本件特許権の存続期間中という長期間にわたる拘束を受ける意思を有していたとは到底認めることができないとも主張するが,反対に,本件解約条項に基づく解約権の行使が認められるような脆弱ともいうべき契約関係では,コネットから専用実施権の設定を受ける者がどれほどいるかも不確かであって,仮に専用実施権の設定を受けたとしても,その程度の専用実施権では,これを前提に,第三者に対して通常実施権を設定してその対価を取得する余地もないといって過言ではない。 (エ) この点について,控訴人は,さらに,被控訴人MFI社及びコネットが紛争状態にある以上,被控訴人MFI社が締結する通常実施権設定契約について,コネットが承諾を与えることはおよそ期待し得ないから,被控訴人らが,控訴人に対し,このような紛争が生じる余地があることを秘匿していたこと自体が欺罔に当たるとも主張する。 しかしながら,被控訴人MFI社とコネットとが控訴人主張の紛争状態にあったとしても,弁論の全趣旨によれば,ペンジュラムが控訴人に対する資金援助だけでなく,本件特許権それ自体を実質的に取得しようとして A からその所有するコネットの株式を取得し, A が代表者であったコネットとの間で本件専用実施権の設定を受けていた被控訴人MFI社に対し,本件専用実施権の解約をめぐって新たに折衝した以後であったと認められるのであって,それ以前には,コネット(その代表者- 23 -であった A )と被控 権の設定を受けていた被控訴人MFI社に対し,本件専用実施権の解約をめぐって新たに折衝した以後であったと認められるのであって,それ以前には,コネット(その代表者- 23 -であった A )と被控訴人MFI社(その代表者である被控訴人 Y )とが控訴人主張の紛争状態にあったと認めることはできない。 したがって,その当時であれば,被控訴人MFI社が締結する通常実施権設定契約について,コネットが承諾を与えることは当然に期待し得る状態にあったといわなければならない。 そもそも,本件業務委託契約は,契約金として1000万円の支払を要するものであり,本件特許権の通常実施権設定契約締結について交渉するという本件業務を目的とするものであること,有効期間は2年間とされていたものの,自動更新条項が定められていたこと(第10条)などからすると,控訴人は,相当程度の期間,本件業務委託契約が存続することを期待しており,被控訴人らも,同様の認識であったものというべきである。 また,本件業務の遂行により,本件特許権について通常実施権の設定を希望する企業との合意が得られた場合,本件特許権の特許権者であるコネットは,特許法77条4項により,本件専用実施権に対する通常実施権の設定について承諾することが当然に予定されていたものであって,コネットの100%株主であった A は,被控訴人 Y とともに,本件業務委託契約の締結に深く関与していたのであるから,本件専用実施権設定契約に係る契約書に本件解約条項が記載されていたとしても, Aが本件解約権を行使することは想定されていなかったことは明らかである。 それにもかかわらず, A は,当初は控訴人による本件業務の遂行により,収益を得ることを企図していたところ,その後,本件特許権を活用した事業を企図したペンジュラムからコネッ たことは明らかである。 それにもかかわらず, A は,当初は控訴人による本件業務の遂行により,収益を得ることを企図していたところ,その後,本件特許権を活用した事業を企図したペンジュラムからコネットの株式譲渡などを持ちかけられたため,コネット株式譲渡契約を締結している。しかも, A は,同時期に,ペンジュラムとの間で,ペンジュラムが A に対し,本件特許権が有効に存続する限り,上限年額1300万円を支払うこと,本件専用実施権を被控訴人MFI社からコネット又はコネットの子会社に移転することを条件に,その対価として2000万円及びパチンコ関連企業から取得する特許対価20%を支払うことを合意するとともに,コネットとの間で,顧問- 24 -料年額800万円の顧問契約を締結していたようであるが(甲47,乙ロ15),A がコネットによる本件解約権を自由に行使し得ることが想定されていたのであれば,本件専用実施権の移転を条件に多額の対価を支払う合意をする必要性は乏しく,その移転を条件に多額の対価の支払が合意されたというのも,被控訴人MFI社との間で本件専用実施権設定契約を解消することが容易でないことを A も,また,ペンジュラムも認識していた証左といえなくもない。 このようにみてくると, A は,控訴人が1000万円の契約料を支払って本件業務委託契約を締結した事情を熟知していながらも,本件専用実施権の設定を解消した上で本件特許権による事業展開を図ろうと企図していたペンジュラムから多額の金銭提供を約束され,コネット株式譲渡契約及び顧問契約等を締結したものであって,ペンジュラムに買収されたコネットが,本件解約通知を行ったことにより,被控訴人らとコネットとの間に紛争が生じたにすぎないものといわなければならない。 (オ) 本件覚書は,本件専用実施権設定契 って,ペンジュラムに買収されたコネットが,本件解約通知を行ったことにより,被控訴人らとコネットとの間に紛争が生じたにすぎないものといわなければならない。 (オ) 本件覚書は,本件専用実施権設定契約締結当時,本件特許権を活用した事業を展開することについて協力関係にあった A (コネット)と被控訴人 Y (被控訴人MFI社)とが,本件専用実施権を短期間で解約することを互いに想定していなかったのに,契約書には,本件解約条項が規定されていたことから,本件専用実施権について登録手続を受任した足立弁理士から指摘を受けて,本件専用実施権の存続期間の変更を合意したために作成されたものであったと認めるのが相当であって,これに反する控訴人の主張を採用することはできない。 控訴人は,専用実施権の設定登録に際しては,その存続期間が契約書に記載された1年ないし2年であったとしても,その登録更新に伴う費用や事務処理上の負担が生じるため,登録原簿には,期間を特許権の存続期間の全部と登録することは実務上で広く行われているものであるとして,足立弁理士が上記認定のような指導をするはずがないなどとも主張するが,本件においては,本件専用実施権の存続期間を契約書に記載された期間とは異なり,登録されたとおりの期間とする理由があったのであって,足立弁理士が登録されたとおりの存続期間であることを明らかにす- 25 -るため,本件覚書の作成についても指導したということは決して不自然ではなく,かえって,本件覚書が内容虚偽のものであって,かつ,そのような本件覚書の作成を専門家である足立弁理士が指導したなどとは解されないところである。 以上要するに,本件専用実施権設定契約の締結に際しては,契約書に本件解約条項が規定されていて,同条項によれば,本件解約権を認め得るとはいえ,本件覚書によ が指導したなどとは解されないところである。 以上要するに,本件専用実施権設定契約の締結に際しては,契約書に本件解約条項が規定されていて,同条項によれば,本件解約権を認め得るとはいえ,本件覚書によって,本件専用実施権の存続期間が本件特許権の存続期間中とされたため,本件解約権は認められない結果となっているということができるのであって,本件覚書が通謀虚偽表示により無効であることを理由に,本件解約権の存在を前提として,その存在を秘匿していたことが控訴人に対する欺罔行為であるという控訴人の主張は採用し得ないというほかはない。 イ C の実施許諾料について(ア) 控訴人は,本件業務委託契約締結交渉において, A 及び被控訴人 Y が Cとの間の通常実施権設定契約における実施許諾料が3億円であったと述べたと主張し, D も,原審における控訴人代表者尋問で同趣旨の供述をする。 しかしながら, A は,足立弁理士から, C との通常実施権設定契約における実施許諾料額は秘密とするようにと告げられていたことから,あえて同実施許諾料額の記載部分を空白とした契約書を示していたものである。また,当時, C との間で実施許諾料額を1000万円とする通常実施権設定契約が既に締結されていたが,その金額については, A だけでなく,被控訴人 Y や足立弁理士も了知していたものであるにもかかわらず, A が,その実施許諾料が1000万円であることを秘匿することなく,反対に,その実施許諾料が3億円であったと事実と異なる説明をしたとは解し難い。 被控訴人 Y は,本件業務委託契約締結後,本件専用実施権について同被控訴人が保管する書面のファイル一式を D に渡しているところ,同ファイル中の書面には,足立弁理士から A 及び被控訴人 Y 宛の, C において控訴人が3 委託契約締結後,本件専用実施権について同被控訴人が保管する書面のファイル一式を D に渡しているところ,同ファイル中の書面には,足立弁理士から A 及び被控訴人 Y 宛の, C において控訴人が3億円の根拠とするカード所有者1人当たり100円の実施料は高すぎる,本件特許権2は現在実施し- 26 -ていない,本件特許権1は無効になると考えている旨の連絡があったとの内容のメール(甲19)も含まれていたところ,被控訴人 Y が, C において,本件特許権の価値について疑問を抱いている内容のメールを含めて,本件専用実施権について保管する書式一式のファイルを D に渡していることからしても,同様に, Y が Aとともに, C との間の通常実施権設定契約における実施許諾料が3億円であったと虚偽の事実を告げていたとも解し難い。 なお,控訴人が指摘するとおり, C との間の通常実施権設定契約(甲12)においては,「契約の存在及び内容」自体が守秘義務の対象とされているが,本件業務委託契約締結に当たり,本件特許権の価値を説明するために,被控訴人らが C から守秘義務違反を追及される可能性があることはともかくとして,通常実施権設定契約締結の事実を控訴人に対して開示し,実施許諾料のみを秘匿するための契約書の写しを作成したこと自体は,格別不自然であるとまでいうことはできない。 (イ) したがって, A 及び被控訴人 Y が,本件業務委託契約締結交渉において,D に対し,本件特許権が極めて高い価値を有するなどと強調した可能性は否定できないものの, C との間の通常実施権設定契約における実施許諾料が3億円であると告げていたとは,これを認めることができないといわざるを得ない。 ウ NTTコミュニケーションズによる無効審判請求について前記のとおり, A 常実施権設定契約における実施許諾料が3億円であると告げていたとは,これを認めることができないといわざるを得ない。 ウ NTTコミュニケーションズによる無効審判請求について前記のとおり, A は, D に対し,本件特許権1について無効審判請求がされたことがあることを述べていたものであり,また,本件業務委託契約締結時までにおいて, A 及び被控訴人 Y は,本件特許権1についてNTTコミュニケーションズから無効審判請求がされたことを知らなかったものである。なお,本件業務委託契約締結日において,足立弁理士からのメールにより無効審判請求がされたことを知った旨の A の陳述書(甲48)を採用することができないことは前記認定のとおりである。 もとより,特許が無効であると考える者は,原則,当該特許についていつでも無効審判請求ができるものであって(特許法123条),特許権者や専用実施権者が,- 27 -その信ずるところに従って,特許庁における査定を経て有効に成立している特許権につき,仮に優良な特許であると述べていたとしても,通常実施権の設定を受けようとする者は,契約当事者として当該特許権の内容を確認し,当該特許について無効審判請求がされる一般的な危険性があることをも考慮した上で,通常実施権の設定に応じるか否かを判断するものである。本件業務委託契約に係る契約書(3条2項)に,「契約金は,契約の中途解約その他理由の如何を問わず返還されない。」と規定されているのも,そのような場合をも想定したためであったと解される。 そうすると,その後に当該特許の無効が確定したからといって,特許権者や専用実施権者に欺罔行為があったとまでいうことはできない。 D も,原審における控訴人代表者尋問において,本件特許権につき,自ら特許庁における資料等を調べた上で,ポイン したからといって,特許権者や専用実施権者に欺罔行為があったとまでいうことはできない。 D も,原審における控訴人代表者尋問において,本件特許権につき,自ら特許庁における資料等を調べた上で,ポイント制度のカードが本件特許権に抵触しているものが多いと考え,控訴人において本件業務委託契約を締結するに至ったなどと供述している。 したがって,知財高裁における審決取消訴訟の棄却判決を経て本件特許権1の無効が確定したことについても,被控訴人らに欺罔行為があったと認めることはできない。 (3) 小括以上からすると,本件業務委託契約の締結において,被控訴人らに控訴人主張の欺罔行為があったということはできないから,控訴人が被控訴人らの共同不法行為に基づく損害賠償請求として,契約金に相当する損害金1000万円の支払を求める請求は理由がない。 2 争点2(本件業務委託契約の錯誤無効の成否)について(1) 前記のとおり,特許が無効であると考える者は,原則,当該特許についてはいつでも無効審判請求ができるものであって,特許につき,無効審判請求がされ,無効審決の確定によって無効となる可能性があることは特許法が定めるところである。そして,原審における控訴人代表者尋問の結果によると,そのことは,一般論として D も理解していたものである。本件業務委託契約締結後に被控訴人 Y が D- 28 -に渡したメール(甲19)にも, C が本件特許権1は無効であると考えていること,「無効審判を請求するなど不穏な動きをする会社」に対する対応などが記載されている。 そうすると,特許に関する契約をした当事者においては,当該特許が無効審判の確定によって無効となる可能性を当然認識しているものというべきであるから,契約締結後に当該特許が無効審決の確定により無効となっ そうすると,特許に関する契約をした当事者においては,当該特許が無効審判の確定によって無効となる可能性を当然認識しているものというべきであるから,契約締結後に当該特許が無効審決の確定により無効となったからといって,およそ同契約締結時において錯誤があったとまで,いうことはできない。 本件業務委託契約に係る契約書に,前記のとおり,「本条の契約金は,契約の中途解約その他理由の如何を問わず返還されない。」との規定が置かれたのも,本件特許権の全部又は一部が無効となり得ることをも想定した上で,定められたものということができる。 したがって,本件業務委託契約締結後に無効審決の確定によって本件特許権1が無効となったことをもって,控訴人に錯誤があるとの控訴人の主張は理由がない。 (2) この点について,控訴人は,本件業務委託契約締結に先立ち,被控訴人らは,控訴人に対し,本件専用実施権設定契約は本件解約権により解約し得るものであることについて,控訴人に告知すべき信義則上の義務があったにもかかわらず,同義務に違反してこれを告知しなかったため,控訴人は,本件専用実施権設定契約が本件解約権により解約し得るような不安定な権利ではないとの錯誤に陥っていたとも主張する。 しかしながら,本件解約条項が,本件覚書によって,本件専用実施権の存続期間が本件特許権の存続期間中と変更されたことに伴い,失効して,本件解約権が認められなくなったことは前記認定のとおりであるから,被控訴人らが,控訴人に対し,本件解約権により本件専用実施権が解約し得るものであることについて,信義則上であっても,その告知義務を負うべき前提がなく,控訴人の主張は失当といわざるを得ない。 (3) また,先に述べたとおり,特許自体が無効審判の確定により消滅することが- 29 -予想されているものであ っても,その告知義務を負うべき前提がなく,控訴人の主張は失当といわざるを得ない。 (3) また,先に述べたとおり,特許自体が無効審判の確定により消滅することが- 29 -予想されているものであり,専用実施権といえども,特許自体の消滅そのほかの事由により消滅する可能性があることは明らかであることから,専用実施権に関する契約をした当事者において,契約締結後に当該専用実施権が消滅したからといって,およそ同契約締結時において錯誤があったとまでいうことはできない。 (4) 小括以上からすると,本件業務委託契約の錯誤無効を理由として,契約金1000万円の返還を求める控訴人の請求も,契約金を受領した被控訴人MFI社以外の者がその返還義務を負うか否かはさておき,いずれにしても理由がない。 3 争点3(民法536条1項の適用による契約金支払義務の消滅)について控訴人は,本件解約通知により,被控訴人MFI社は,控訴人に対し,本件専用実施権に基づく本件業務を行うことができる地位を提供すべき義務を履行し得なくなった以上,民法536条1項に基づき,控訴人の同被控訴人に対する契約金の支払義務も消滅するから,同被控訴人は,控訴人から受領済みの契約料を返還する義務を負うとも主張する。 しかしながら,本件業務委託契約は,控訴人が本件業務を行った結果,本件特許権の通常実施権設定契約が締結された場合,被控訴人MFI社が実施料等の20パーセント相当額を報酬として支払うことをその内容とするものであって,控訴人による本件業務の遂行と対価関係にあるのは,報酬支払債務であるというべきである。 本件業務委託契約において,契約金は,本件業務委託契約を締結したこと自体の対価として支払われたものというべきであって,本件業務の遂行と対価関係を有するものではない。これに反する控訴人 うべきである。 本件業務委託契約において,契約金は,本件業務委託契約を締結したこと自体の対価として支払われたものというべきであって,本件業務の遂行と対価関係を有するものではない。これに反する控訴人の主張は失当といわざるを得ない。 以上からすると,本件業務委託契約について民法536条1項の適用があることを前提に,契約金1000万円の返還を求める控訴人の請求も,被控訴人MFI社のほか,被控訴人 Y もその返還義務を負うか否かはさておき,いずれにしても理由がない。 4 結論- 30 -以上の次第であるから,控訴人の請求を棄却すべきものとした原判決は相当であって,本件控訴は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官滝澤孝臣 裁判官井上泰人 裁判官荒井章光
▼ クリックして全文を表示