平成31(ワ)808 診療報酬請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年2月21日 札幌地方裁判所
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判決文本文7,071 文字)

- 1 -令和2年2月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成31年(ワ)第808号診療報酬請求事件口頭弁論終結日令和2年2月14日判決主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告に対し,1316円及びこれに対する平成30年1月22日か ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告に対し,1309円及びこれに対する平成30年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,保険医療機関を開設・運営する原告が,医薬品であるエダラボン点滴 静注液を患者2名にそれぞれ1回ずつ投与したとして,保険医療機関への診療報酬の審査・支払業務を行う被告に対し,診療報酬請求権に基づき,上記各投与に係る診療報酬(①1316円及び②1309円)及びこれに対する弁済期の翌日(①につき平成30年1月22日,②につき同年2月22日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 被告は,エダラボン点滴静注液の用法・用量として「1日朝夕2回」の投与が定められているのに,原告の投与はいずれも1日1回のみであるから,上記用法・用量に明確に違反したものであると主張して,これを争っている。 1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 当事者 ア原告は,健康保険法(以下「健保法」という。)63条3項1号による- 2 -保険医療機関の指定を受けた診療所「A」(以下「本件診療所」という。)を開設・運営する医療法人社団である。 イ被告は,国民健康保険法(以下「国保法」という。)83条1項に基づ よる- 2 -保険医療機関の指定を受けた診療所「A」(以下「本件診療所」という。)を開設・運営する医療法人社団である。 イ被告は,国民健康保険法(以下「国保法」という。)83条1項に基づき設立された法人である。 被告は,国民健康保険の保険者である北海道内の市町村又は国民健康保 険組合から委託(国保法45条5項)を受け,療養給付を担当する保険医療機関(健保法63条3項1号の指定を受けた保険医療機関をいう。以下同じ。)からの請求に対し,自ら審査したところに従い,自己の名において診療報酬の支払をする義務を負っている(最高裁昭和48年12月20日第一小法廷判決・民集27巻11号1594頁参照)。 (2) 国民健康保険の診療報酬の請求及び支払ア国民健康保険の保険者は,保険医療機関から「療養の給付」に関する費用の請求があったときは,国保法40条に規定する準則に照らして審査をした上,支払を行う(同法45条4項)。 イ上記アにいう準則は,国保法70条1項及び72条1項の規定による厚 生労働省令の例によるとされているところ(同法40条1項),その一つに,「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(昭和32年4月30日厚生省令第15号。甲11参照。以下「療養担当規則」という。)がある。 療養担当規則は,①保険医療機関の担当する「療養の給付」は患者の療養上「妥当適切なもの」でなければならず(同規則2条2項),②保険医 は厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用・処方してはならず(同19条1項),③投薬は「必要があると認められる場合」に行う(同20条2号イ)ものとしている。 ウ診療報酬の審査及び支払は1か月ごとに行うものとされており,保険医療機関は,被告に対し,患者ごとに1か月分をまとめた診療報酬請求書を と認められる場合」に行う(同20条2号イ)ものとしている。 ウ診療報酬の審査及び支払は1か月ごとに行うものとされており,保険医療機関は,被告に対し,患者ごとに1か月分をまとめた診療報酬請求書を 作成・提出している。そして,被告は,診療報酬請求書の提出を受けた日- 3 -の属する月の末日までに,その国民健康保険診療報酬審査委員会(国保法87条1項。以下「審査委員会」という。)において審査を行い(同条2項,国民健康保険法施行規則29条),審査が終わった日の属する月の翌月末までに,当該審査に係る診療報酬を支払う(同規則31条)。なお,被告においては,診療報酬の支払は,診療した日の属する月の翌々月の2 1日までに行うものとして運用されている(弁論の全趣旨)。 (3) エダラボン点滴静注液エダラボン点滴静注液30mgバッグ「NP」(以下「本件医薬品」という。)は,厚生労働大臣の承認を受けた医薬品であり,その効果・効用を脳梗塞急性期に伴う神経症候,日常生活動作障害,機能障害の改善とするもの である。 本件医薬品に添付する文書(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律52条1項所定のもの。以下「添付文書」といい,同法律を以下「医療品医療機器等法」という。)には,本件医薬品の用法・用量として,「通常,成人に1回1袋(エダラボンとして30mg)を30 分かけて1日朝夕2回の点滴静注を行う。発症後24時間以内に投与を開始し,投与期間は14日以内とする。」と記載されている(乙9)。 (4) 原告による本件医薬品の投与ア原告は,平成29年11月17日,本件診療所において,患者であるBに対し,本件医薬品を1回投与した(甲1の1)。 また,原告は,同年12月26日,本件診療所にお よる本件医薬品の投与ア原告は,平成29年11月17日,本件診療所において,患者であるBに対し,本件医薬品を1回投与した(甲1の1)。 また,原告は,同年12月26日,本件診療所において,患者であるCに対し,本件医薬品を1回投与した(甲3の1。以下,Bに対する投与と併せて「本件各投与」という。)。 イ原告は,同年11月分のB及び同年12月分のCの国民健康保険に係る各診療報酬請求書を作成し,被告に提出した。 これに対し,被告の審査委員会は,本件各投与に係る保険点数(Bにつ- 4 -き188点,Cにつき187点)を不適当又は不必要なものとして減点した。 これを受けて,被告は,本件各投与に係る診療報酬(上記各保険点数に1点当たりの価格10円及び保険給付率70%を乗じたもの。Bにつき1316円,Cにつき1309円)を支払わないこととした(甲2の2,甲 4)。 2 争点-本件各投与に係る診療報酬の支払義務の有無(原告の主張)(1) 本件各投与は,いずれも療養担当規則に適合するものであるから,被告は原告に対し,本件各投与に係る診療報酬を支払う義務を負う。 (2) この点につき被告は,本件医薬品はその用法・用量として「1日朝夕2回」の投与が定められているのに,原告の投与はいずれも1日1回のみであるから,上記用法・用量に明確に違反している旨主張する。 しかし,本件医薬品は脳梗塞発症後24時間以内の全ての患者が適応となるため,原告で脳梗塞発症後24時間以内の患者に本件医薬品を1回投与し ておけば,当日中に原告での診察が可能であれば原告において,当該患者が転院すれば転院先において,いずれの場合でも2回目の投与が可能となる。 そして,本件のB及びCについては,症状が悪化した場合には原告に連絡 ば,当日中に原告での診察が可能であれば原告において,当該患者が転院すれば転院先において,いずれの場合でも2回目の投与が可能となる。 そして,本件のB及びCについては,症状が悪化した場合には原告に連絡するよう伝えており,その場合には原告において2回目の投与をするか転院させる予定であったところ,いずれも症状の悪化はなく,そのため2回目の投 与が不要になったにすぎない。 また,原告の本件診療所は北海道虻田郡(住所省略)にあり,入院加療が可能な病院は遠方にのみ存在するため,患者及びその家族は,可能な限り本件診療所での外来治療を希望することが多い。このような地域の特殊性に照らすと,結果的に2回目の投与がされなかったとしても,1回目の投与だけ で適切な治療として認められる必要がある。 - 5 -そもそも被告も,平成29年秋頃までは,本件医薬品の1日1回のみの投与に対して診療報酬を認めていたところである。 したがって,本件各投与は「必要があると認められる場合」(療養担当規則20条2号イ)に該当し,療養担当規則に適合する。 (被告の主張) (1) 前記1(3)のとおり,本件医薬品の添付文書上,その用法・用量として「1日朝夕2回」の投与が定められているところ,原告の本件各投与はいずれも1日1回のみであるから,上記用法・用量に明確に反する。 したがって,原告による本件各投与は,その用法の観点からみて不適当又は不必要であったと認められ,被告は原告に対し,本件各投与に係る診療報 酬を支払う義務を負わない。 (2) この点につき原告は,①脳梗塞発症後24時間以内に1回目の投与をしておけば,原告又は転院先において2回目の投与が可能となるのであって,本件の場合,いずれも症状の悪化がなく,2回目の投与が不要になったにすぎない, 告は,①脳梗塞発症後24時間以内に1回目の投与をしておけば,原告又は転院先において2回目の投与が可能となるのであって,本件の場合,いずれも症状の悪化がなく,2回目の投与が不要になったにすぎない,②被告も過去に本件医薬品の1日1回のみの投与に対して診療報酬を 認めていた,などと主張する。 しかし,そもそも本件医薬品については1日1回のみの投与は想定されておらず,そのような投与の臨床試験や臨床成績も存在しない。また,被告が過去に1日1回のみの投与に診療報酬を認めていたのは,目視審査における見落としにすぎない。 したがって,原告の上記主張は,いずれも理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(本件各投与に係る診療報酬の支払義務の有無)について(1) 前記第2,1(1)及び(2)によれば,保険者から委託を受けた被告は,保険医療機関を開設・運営する原告から「療養の給付」に関する費用の請求を受 けたときは,これを審査して当該費用を支払う義務を負うのであり,ここに- 6 -いう「療養の給付」とは療養担当規則に従ったものであることを要する。 ところで,医薬品の投与は,療養担当規則上,厚生労働大臣の定める医薬品について行われることが求められるところ(前記第2,1(2)イ),医薬品は,日本国内において使用の前提として製造,販売されるに当たり,用法・用量その他の事項について厚生労働大臣の承認がされなければならないので あるから(医薬品医療機器等法14条1項,2項3号),原則として,上記の承認に係る用法・用量に従った使用のみが,日本国内において許容されているということになる。 そして,上記用法・用量は,当該医薬品の添付文書において記載されているのであるから(同法52条1項1号),医薬品の投与が療養担当規則に従 用のみが,日本国内において許容されているということになる。 そして,上記用法・用量は,当該医薬品の添付文書において記載されているのであるから(同法52条1項1号),医薬品の投与が療養担当規則に従 った「療養の給付」であるというためには,当該医薬品の添付文書に記載された用法・用量に合致していることを要するものというべきである。 (2) 本件についてこれをみるに,本件医薬品の添付文書には,その用法・用量として「1日朝夕2回」の投与を行うものと明記されているのであって,他の医薬品の用法・用量にみられるような,「年齢・症状により適宜増減」(プ ロセミド細粒4%「EMEC」。乙5),「年齢・体重・症状により適宜増減。 ただし,1日30mgまで」(ナウゼリンドライシロップ1%。乙6),「必要に応じ投与期間の延長・増量可。上限は1回20mg/kgまで」(アシクロビル点滴静注液250mg「日医工」。乙7)などといった適宜の増減を許可するような記載も存在しない。 したがって,本件医薬品の添付文書上,その用法・用量として,1日当たりの投与回数(1日朝夕2回)を減じることは想定されていないというべきである。 念のために検討しても,本件医薬品の先発医薬品(ラジカット点滴静注バッグ30mg)は,医薬品医療機器審査センターの審査報告書において,動 物実験及び臨床試験の結果を踏まえ,1日2回の投与が適正な用法・用量で- 7 -あるとされていたものである(乙2の3〔24頁〕)。しかも,同報告書では,1日2回より多い投与(例として1日3回)については高い薬効も期待し得る旨指摘されていたのに対し,1日2回より少ない投与(1日1回)については,何ら触れられていない(乙2の3〔30頁〕)。そして,本件医薬品は上記先発医薬品と同一の 3回)については高い薬効も期待し得る旨指摘されていたのに対し,1日2回より少ない投与(1日1回)については,何ら触れられていない(乙2の3〔30頁〕)。そして,本件医薬品は上記先発医薬品と同一の容量,有効成分及び添加物を有するのであるから (乙3〔最終頁〕,9),このような観点からも,本件医薬品の1日1回の投与というものは,想定されていないといわざるを得ない。 これに対し,本件各投与は,いずれも本件医薬品を1日1回のみ投与したというのであるから,明らかに,本件医薬品の添付文書に記載された用法・用量に従った投与であるとはいえない。 したがって,原告による本件各投与は,療養担当規則に従った「療養の給付」であるということはできない。 (3) この点につき原告は,①原告において患者に本件医薬品を1回投与しておけば,当日中に原告での診察が可能であれば原告において,当該患者が転院すれば転院先において,いずれの場合でも2回目の投与が可能となる,②本 件でも,B及びCについては,症状が悪化した場合には原告に連絡するよう伝えており,その場合には原告において2回目の投与をするか転院させる予定であったところ,症状の悪化はなく,そのため2回目の投与が不要になったにすぎない,などと主張する(甲21の意見書もこれに沿う。)。 しかし,原告の上記主張は,要するに,症状の悪化がなければ2回目の投 与は不要とするものであるところ,本件医薬品の添付文書には,症状の悪化がなければ2回目の投与を不要とする旨の記載はないのであって,上記(2)において説示したとおり,その記載上,1日当たりの投与回数(1日朝夕2回)を減じることは想定されていない。 したがって,本件各投与は本件医薬品の添付文書で想定されていない投与 というべきで おいて説示したとおり,その記載上,1日当たりの投与回数(1日朝夕2回)を減じることは想定されていない。 したがって,本件各投与は本件医薬品の添付文書で想定されていない投与 というべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。 - 8 -(4) また,原告は,入院加療が可能な病院は遠方にのみ存在するため,患者及びその家族は本件診療所での外来治療を希望することが多く,このような地域の特殊性に照らすと,結果的に2回目の投与がされなかったとしても,1回目の投与だけで適切な治療として認められる必要があるなどと主張する。 しかし,遠方の病院での入院加療をさせないのであれば,端的に本件診療 所で2回目の投与をすれば足りるのであるし,証拠(甲15,16)及び弁論の全趣旨によれば,B及びCは,本件各投与の当時,本件診療所に近接した地域に居住していたと認められるのであって,本件診療所での2回目の投与が困難であったような事情もうかがわれない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (5) さらに,原告は,被告も平成29年秋頃までは1日1回のみの投与に対して診療報酬を認めていたのであって,本件各投与は必要な投薬であるなどと主張する。 しかし,被告によれば,これは単なる目視検査における見落としにすぎないというのであるし,本件証拠上も,被告が本件医薬品の1日1回の投与を 積極的に是認していたことまでをうかがわせるような事情は見当たらない。 また,この点を措くとしても,仮に被告における減点の措置が従前の取扱いに反するからといって,そのことをもって本件各投与が添付文書に記載された用法・用量に合致するものであるということはできない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 前の取扱いに反するからといって,そのことをもって本件各投与が添付文書に記載された用法・用量に合致するものであるということはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 以上によれば,本件各投与は療養担当規則に従った「療養の給付」ということができず,被告は当該投与に係る診療報酬を支払う義務を負わない。 結論よって,原告の請求にはいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官 孝 裁判官萩原孝基 裁判官佐藤克郎

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