主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,兵庫県伊丹市a丁目b番地A団地c号棟d号の自宅において,実母のBと2人で生活していたものであるが,定職に就くことなく,アルバイトで得た収入のほか,貸金業者や親戚からの借金等で生計を立てていたものの,貸金業者への返済資金はもとより,生活費にも事欠くような状態になって,平成15年12月末ころからは,高利で金銭を貸し付けるいわゆる闇金融業者からも借金をするようになり,その利息の支払にあてるため別の闇金融業者から借金したにもかかわらず,その金をパチンコ代に費消するなどしてしまったため,闇金融業者に対する利息の支払にあてる金銭を用意できる見込みもなく,今後の生活の見通しも立たない状況に陥っていたことから,平成16年2月5日,上記自宅において,借金のことや今後の生活のことなどについて考えるうち,自分とBの将来を悲観して,Bを殺害して自らも自殺しようと決意し,先にBとの話の中で,被告人が何度も自殺するしかない旨言ったのに対し,Bも被告人に自分を先に殺すように言ったことがあったものの,Bが本当に死ぬ決意をしておらず,自分を殺すように言ったのも真意ではないことを知りながら,同日午後6時ころ,上記自宅において,うつ伏せになって眠っていたB(当時67歳)の頚部に腰紐(平成16年押第32号の1)を巻き付けた上,殺意をもって,右手に持った腰紐の両端を強く引っ張り上げてBの頚部を絞め付け,よって,同月6日午前4時43分ころ,同県尼崎市e丁目f番g号所在のC病院において,Bを絞頚による遷延性窒息により死亡させて殺害したものである。 (証拠の標 を強く引っ張り上げてBの頚部を絞め付け,よって,同月6日午前4時43分ころ,同県尼崎市e丁目f番g号所在のC病院において,Bを絞頚による遷延性窒息により死亡させて殺害したものである。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 本件の争点等検察官は,被害者が自分を殺すよう被告人に言ったことは事実であるけれども,被害者は本当に死ぬ決意をして自分を殺すよう被告人に嘱託したわけではなく,被告人もそのことを十分認識していたし,また,仮に,被害者が本当に死ぬ決意をしてそのようなことを言ったとしても,被害者は,被告人が自殺する意思がなかったのに何度も自殺するしかない旨言ったことから,被告人が本当に死ぬつもりであると誤解して,自らも死を決意したものであって,その決意は真意に沿わない重大な瑕疵ある意思であるから,いずれにせよ,被告人は,被害者を殺すことについて,被害者から任意かつ真意の嘱託を受けていたものとはいえないとして,被告人には殺人罪が成立する旨主張するのに対し,弁護人は,被害者は任意かつ真意から自己の殺害に同意し,これを被告人に嘱託したものであるし,また,仮に,被害者の任意かつ真意の同意が存しなかったとしても,被告人は,被害者の発言や行動から,被害者が死を決意して殺されることに同意しているものと誤信していたのであるから,いずれにせよ,被告人には同意殺人罪が成立するにすぎない旨主張するところ,当裁判所は,前示のとおり,被害者は本当に死ぬ決意をしておらず,被告人には,被害者が自分を殺すように言ったのも真意ではないことが分かっていたのであるから,被告人には殺人罪が成立すると認定したので,以下その理由について補足して説明する。 2 まず,関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。 (1) 被告人は,A団地c号棟d号の自宅において, から,被告人には殺人罪が成立すると認定したので,以下その理由について補足して説明する。 2 まず,関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。 (1) 被告人は,A団地c号棟d号の自宅において,実母のB(以下「被害者」という。)と2人で生活していたが,貸金業者等からの多額の借金の返済に窮していたことから,平成12年4月に破産宣告,同年8月に免責決定を受けたものの,その後も定職に就くことなく,アルバイトで得た収入のほか,貸金業者や親戚からの借金等で生計を立てていたため,経済的に苦しい状況は変わらず,平成14年10月以降は自宅の家賃(月額4万1000円)を滞納して,本件当時その滞納額は69万7000円になっていた。 (2) 被害者は,このような被告人の生活態度を見て,日ごろから定職に就くよう注意しており,時にはそのことで被告人と口論することもあったが,一方,被告人の借金の返済資金や生活費を得るなどのため,貸金業者等から借金を重ね,その返済に窮したため,平成15年9月に破産宣告,同年12月に免責決定を受けたものの,その決定の前後にかけて,年金での返済を約しこれを事実上の担保として,貸金業者から2度にわたり合計15万円を借り入れた。 (3) 被告人は,貸金業者への返済資金はもとより,生活費にも事欠くような状態になり,同年12月ころから,被害者の前で,口癖のように「死にたい。」などと口走るようになったが,被害者は,「なら,死んでこいや。」,「死ぬなら,車に飛び込んで死ねば,相手の保険から葬式代も出るから,交通事故で死ね。」などと言い返したりして,被告人の言うことを本気に受け止めている様子はなかった。 (4) また,被告人は,同年12月末ころから,高利で金銭を貸し付けるいわゆる闇金融業者から借金をするようになり,平成16年1月31日がその利 告人の言うことを本気に受け止めている様子はなかった。 (4) また,被告人は,同年12月末ころから,高利で金銭を貸し付けるいわゆる闇金融業者から借金をするようになり,平成16年1月31日がその利息の支払期日とされていたところ,それまでに何度も借金をしていたD(被害者の姉)に更に借金を申し込んだものの,同女に断られたため,同月30日,別の闇金融業者から更に2万円を借金したが,借りた2万円を増やそうなどと考えてパチンコをするうち,その日のうちにほとんどを費消してしまった。 (5) 被告人は,利息の支払期日が迫ったことから,闇金融業者の取立てが自宅にまで来るのではないかなどと考え,取立てから逃れるため,同月31日,着替えや寝袋等を持ち,ソーセージやあんパンなどの食べ物を購入して,神戸市h区i町へ行き,山の中で野宿をするなどしていたが,同年2月4日夜には,再び自宅へ戻った。 (6) 被告人は,翌5日午前9時ころ,起床すると,しばらくして,被告人の借金のことについて,被害者と話を始め,被害者から,闇金融業者から借金をしたことや,借りた金をパチンコで使ってしまったことなどをとがめられたため,「働かないで借金ばかりしているような俺やから,悪いのは俺やし,死ぬしかない。」などと口走ったのに対し,被害者は,「なんで金を借りたりしたんや。」,「闇金融なんかから借金するから,そんなこと言うんや。」,「何で真面目に仕事せえへんねや。働かないで,パチンコやら,借金やらに手出すから,そうなるんやろ。」などと,被告人を責める言葉ばかりを口にし,そのような会話を繰り返すうちに昼になった。 (7) 被告人は,同日昼ころ,被害者が作ったうどんを食べた後,自宅4畳半間において,腰紐(平成16年押第32号の1)を自分の首に巻き付けて,2回ほど絞めてみたものの,すぐに うちに昼になった。 (7) 被告人は,同日昼ころ,被害者が作ったうどんを食べた後,自宅4畳半間において,腰紐(平成16年押第32号の1)を自分の首に巻き付けて,2回ほど絞めてみたものの,すぐに息苦しくなったので,絞めるのを止めたところ,その様子をじっと見ていた被害者は,「生きるのもしんどいし,死ぬのもしんどいな。」と言った。 (8) 被告人が,被害者の見ている前で,今度は自分の右脇腹を包丁で少し突いてみて,痛みを感じてすぐに止めた後,「仕事はないし,借金も返せないし,もう食べていけない。死ぬしかないんや。」と言ったところ,被害者は,「年金も借金のかたに取られているし,自分は年なので働けない。被告人がおれへんようになったら,食べていけない。被告人が死ぬんやったら,私も死ぬ。」などと言ったので,被告人が,「俺が作った借金なのに,何でおかんが死ななあかんの。」と言うと,被害者は,「なんで,借金なんかしたの。」と再び被告人を責めるような言葉を口にしたので,被告人は,「俺が悪いんやから,俺を殺したら済むんやろ。」,「おれを殺してくれ。」などと言い返したが,被害者は,「腹を痛めた子やから,よう殺さん。」などと言った。 (9) その後,被害者は,自宅4畳半間の方に戻ってテレビを見るなどしており,被告人も,しばらくの間,自宅6畳間でそのまま寝転んでいたが,再び自宅4畳半間に行き,被害者に向かって,「何でよう殺さへんのや。」,「死ななあかん。」などと言ったのに対し,被害者は,「私を先に殺して。」,「暗くなってから殺してや。」などと言ったものの,こたつに入ったまま眠り込んでしまった。 (10) 被告人は,同日午後6時ころ,自宅4畳半間において,腰紐(平成16年押第32号の1)を半分に折り曲げて,折り曲げた部分の真ん中に両端を通して輪を作り,その輪 ったまま眠り込んでしまった。 (10) 被告人は,同日午後6時ころ,自宅4畳半間において,腰紐(平成16年押第32号の1)を半分に折り曲げて,折り曲げた部分の真ん中に両端を通して輪を作り,その輪の部分をうつ伏せになって眠っていた被害者の頚部に巻き付けた上,殺意をもって,右手に持った腰紐の両端を強く引っ張り上げて被害者の頚部を絞め付けた。 (11) 被告人は,その後,被害者の脈拍をとってみたところ,脈拍が感じられなかったことから,被害者が死亡したものと思い,同日午後6時6分ころ,110番通報して,泣きながら「母親の首を絞めた。」,「僕に借金があり心中しようとした。」などと申告し,自宅に臨場した警察官に現行犯逮捕された。 3(1) 上記2の(9)で認定したとおり,被害者は,被告人に対して,「私を先に殺して。」,「暗くなってから殺してや。」などと言っており,自分を殺すことを嘱託するような言葉を口にした事実は認められるけれども,以下に述べるところからして,その当時,被害者は本当に死ぬ決意をしていたわけではなく,上記の言葉も真意ではなかったと認めるのが相当である。 すなわち,① 上記2の(1)ないし(4)で認定したとおり,被告人は,定職に就いておらず,安定した収入がなかったため,自宅の家賃を1年以上も滞納していただけでなく,闇金融業者等からの借金を抱えて,闇金融業者への利息の支払に迫られていたものであり,被害者もまた,貸金業者に自己の年金を事実上の担保に取られていたものであって,本件当時の被告人と被害者の生活は多くの困難を伴うものであったことは確かであるけれども,被害者らがE公社から自宅からの立ち退きを迫られていたことはなかったし,食べるものもまだ残っていたのであって,被害者は,本件当時,今すぐに死ななければならないほど切羽詰ま たことは確かであるけれども,被害者らがE公社から自宅からの立ち退きを迫られていたことはなかったし,食べるものもまだ残っていたのであって,被害者は,本件当時,今すぐに死ななければならないほど切羽詰まった状態に追い込まれていたわけではなかった。 ② 上記2の(3)及び(6)で認定したとおり,被害者は,被告人が「死にたい。」とか「死ぬしかない。」などと口走っても,それを本気に受け止めている様子はなく,むしろ,被告人に対し,真面目に仕事をして,パチンコをしたり,闇金融業者から借金をしたりしないよう諫めており,本件当日の午前中にも,被告人とそれまでと同じような会話を繰り返していて,被告人の自殺を実際のものとしては考えてはいなかったし,もとより自らの死を意識するような発言もしていなかった。 ③ 上記2の(7)で認定したとおり,被害者は,本件当日の昼食後,被告人が腰紐を自分の首に巻き付けて絞めてみたものの,すぐに息苦しくなって絞めるのを止めるのを見て,「生きるのもしんどいし,死ぬのもしんどいな。」と言うなど,被告人の行動を揶揄するような発言をしているが,その発言の意味するところは,被告人が死ぬなどと口にしていても,実際には自殺することなどしんどくてできないだろうというものと理解されるのであって,そのことからは,被害者が被告人の自殺をやはり実際のものとしては考えていなかったし,もとより自らの死を意識するようなこともなかったことが窺われる。 ・上記2の(8)で認定したとおり,被害者は,その後,被告人が自分の右脇腹を包丁で少し突いてみてすぐに止めてから,「仕事はないし,借金も返せないし,もう食べていけない。死ぬしかないんや。」などと言ったのに対し,「被告人が死ぬんやったら,私も死ぬ。」などと,自らの死を意識するような発言をしてい ぐに止めてから,「仕事はないし,借金も返せないし,もう食べていけない。死ぬしかないんや。」などと言ったのに対し,「被告人が死ぬんやったら,私も死ぬ。」などと,自らの死を意識するような発言をしているけれども,それまでの経緯に加え,被告人から被害者が死ぬ理由はない旨言われた際に,被害者が「なんで,借金なんかしたの。」と言っていることなどをも併せ考えれば,被害者の「被告人が死ぬんやったら,私も死ぬ。」との発言の意味するところは,被告人が死ぬのであれば,死ぬ理由のない自分まで死ぬことになるとして,被告人に対し,死ぬなどということを口にすることなく,真面目に仕事をして,借金などしないようにするよう心を入れ替えてほしい旨いうものと理解されるのであって,被害者が被告人とともに死ぬことを望んでした発言でないことは明らかである。そして,被告人が「おれを殺してくれ。」などと言ったのに対し,被害者が,「腹を痛めた子やから,よう殺さん。」などと言ったのも,被害者に被告人を死なせたり,被告人とともに死んだりするつもりのない以上,当然の発言として理解できる。 ・上記2の(9)で認定したとおり,被害者は,被告人が「何でよう殺さへんのや。」,「死ななあかん。」などと言ってきたのに対し,「私を先に殺して。」,「暗くなってから殺してや。」などと言っているけれども,寝ている間に殺してほしいなどと言うこともなく,こたつに入ったまま眠り込んでしまっているのであって,殺してもらうのがどうして「今」ではなく「暗くなってから」にする必要があるのか明らかでないのに加え,こたつに入ったまま眠り込んでしまうなどという被害者の行動からは,本当に死を決意しているという緊迫感が窺われない。 そのことからは,被害者が「腹を痛めた子やから,よう殺さん。」と被告人に対して言ったのと同じよう たまま眠り込んでしまうなどという被害者の行動からは,本当に死を決意しているという緊迫感が窺われない。 そのことからは,被害者が「腹を痛めた子やから,よう殺さん。」と被告人に対して言ったのと同じように,被害者が「私を先に殺して。」と言ったことに対して,被告人が「自分を生んでくれた母親やから,よう殺さん。」と言ってくれるか,少なくともそう思ってくれているはずであると考えていたと理解できるのであり,また,「暗くなってから殺してや。」などと,「今」ではなく「暗くなってから」と言ったのも,「死ぬ」とか「殺す」とかいう話は,今はもうやめようという趣旨のものと理解するのが合理的である。 ・そして,被害者が遺書を書いたり親族等に別れを告げたりなどした事実がないのはもとより,部屋の中は雑然としていて,こたつの上にはご飯のよそわれた茶碗やつかいさしのカップなどがおかれ,台所にはうどんが大量に調理されたままの鍋があり,洗濯機には洗濯物が入れられたままにされているなど,現場の状況は被害者の日常生活そのままであって,身辺の整理等の被害者が覚悟の上で死を選んだことを窺わせるような様子は窺えない。 これらを考え併せると,被害者は,被告人に対して,上記のように,自分を殺すことを嘱託するような言葉を口にしているけれども,被害者は本当に死ぬ決意をしていたわけではなく,上記の言葉も真意ではなかったと認めるのが相当である。 (2) これに対し,弁護人は,①本件当時の被告人と被害者の生活状況では,被害者が今後の生活に絶望して,死を決意したとしても何ら不自然ではない,②高齢である被害者が被告人とともに真冬の山の中で過酷な野宿生活を送っていたのは,被害者が被告人と死をともにしようと決意していたことの現れである,③被害者は,被告人が本件で実行したような首の絞め方を被 齢である被害者が被告人とともに真冬の山の中で過酷な野宿生活を送っていたのは,被害者が被告人と死をともにしようと決意していたことの現れである,③被害者は,被告人が本件で実行したような首の絞め方を被告人に教えたりしている,④被害者は,被告人が腰紐で首を絞め付けた際,一切抵抗することなく,被告人のするがままに任せていたなどとして,被害者は任意かつ真意から自己の殺害に同意し,これを被告人に嘱託した旨主張する。 しかし,弁護人の上記主張は,以下に述べるところからして,採用することができない。 ① 弁護人が主張するように,本件当時の被告人と被害者の生活は多くの困難を伴うものであったことは確かであるけれども,上記3の(1)①でみたとおり,被害者は,本件当時,今すぐに死ななければならないほど切羽詰まった状態に追い込まれていたわけではなかった。 ② 被告人の供述のうち,上記2の(5)で認定した山の中で野宿をするなどしていた点に関する部分は,被害者も被告人と一緒に山へ行ったかどうかという核心部分も含めて,捜査段階から公判段階に至るまでに少なからず変遷していて一貫性に欠けることに加え,供述を変遷させた理由について,合理的な説明がなされていないことなどからすると,変遷後の被告人の供述をそのまま信用して,被害者も被告人と一緒に山へ行ったことが事実であると断定することはできないし,また,変遷後の被告人の供述のいうとおり,仮に,被害者も被告人と一緒に山へ行っていたとしても,自宅から着替えや寝袋,雨具等を持って行ったり,食べ物を買って食べたりしていること,結局は空腹になったので自宅に戻ることにしたことなどからすれば,被告人が死ぬつもりで山の中で野宿するなどしていたとはみることはできないし,被告人と同行した被害者の行為を死を決意した上でのものとみ と,結局は空腹になったので自宅に戻ることにしたことなどからすれば,被告人が死ぬつもりで山の中で野宿するなどしていたとはみることはできないし,被告人と同行した被害者の行為を死を決意した上でのものとみることもできない。 ③ 被告人が本件で実行したような首の絞め方について,被告人の公判供述は,平成16年1月30日に被害者から教えてもらった旨いうものであるが,上記3の(1)②③でみたとおり,被害者はそのころにはまだ自らの死を意識するような発言をしていたわけではなかったのであるから,被害者の首を絞める方法として,被害者が被告人に本件で実行したような首の絞め方を教えたとは考えられないこと,被告人の検察官調書(乙14)は,「自分の首に紐を巻き付けた時と違って,輪っかを作ったのがなぜかというと,その方が,うつ伏せになっている母の首にかけやすい,と思ったからでした。」旨いうものであって,被害者の姿勢を見て自分で考えついた状況が具体的に述べられていることなどからすると,被告人の上記公判供述をそのままに信用することはできない。 ④ 被告人が腰紐で被害者の首を絞め付けた際,被害者がこれに抵抗したような形跡は認められないけれども,被告人の上記行為は眠っていた被害者にとっては不意の出来事であり,また,抵抗しうるような体勢でもなかったこと,被害者は67歳と相当の高齢であって,体力的にも衰えがきていたと考えられることなどをも考慮すれば,被害者が殺されることに同意していなかったとしても,抵抗できなかったことも十分にあり得ることと考えられるから,被害者に抵抗の形跡が認められないことをもって,被害者が殺されることに同意していたことの根拠とすることはできない。 弁護人の上記主張から,被害者が任意かつ真意から自己の殺害に同意し,これを被告人に嘱託 跡が認められないことをもって,被害者が殺されることに同意していたことの根拠とすることはできない。 弁護人の上記主張から,被害者が任意かつ真意から自己の殺害に同意し,これを被告人に嘱託していたとの疑いを容れるには至らない。 (3) 以上のとおりであって,被害者は,被告人に対して,上記のように,自分を殺すことを嘱託するような言葉を口にしているけれども,被害者は本当に死ぬ決意をしていたわけではなく,上記の言葉も真意ではなかったと認めるのが相当であるから,被告人は,被害者を殺すことについて,被害者から任意かつ真意からの嘱託を受けていなかったと認めることができる。 4 もっとも,被害者が本当に死ぬ決意をしていたわけではなく,上記の言葉も真意ではなかったとしても,被告人が,被害者の発言や行動から,被害者が本当に死ぬ決意をしており,その嘱託を受けたと誤信して,本件に及んだのであれば,同意殺人の範囲でしか故意責任を認めることができないから,弁護人の主張するように同意殺人罪が成立するにすぎないことになるので,この点について更に検討を加えることとする。 本件犯行に至るまでの経緯等は,上記2の(1)ないし(9)に認定したとおりであって,被害者は,被告人に対して,「私を先に殺して。」,「暗くなってから殺してや。」などと言っており,自分を殺すことを嘱託するような言葉を口にした事実は認められるけれども,その当時,被害者は本当に死ぬ決意をしていたわけではなく,上記の言葉も真意ではなかったと認められることは,上記3の(1)①ないし⑥で説示したとおりであるところ,被告人には,上記2の(1)ないし(9)に認定した事実の認識に欠けるところはなく,他に被害者が本当に死ぬ決意をしていて,自分を殺すよう嘱託したと誤信するような事情は存しないのであるから,上 ところ,被告人には,上記2の(1)ないし(9)に認定した事実の認識に欠けるところはなく,他に被害者が本当に死ぬ決意をしていて,自分を殺すよう嘱託したと誤信するような事情は存しないのであるから,上記3の(1)①ないし⑥で説示したところからして,被告人には,被害者は本当に死ぬ決意をしておらず,被害者が自分を殺すように言ったのも真意ではないことが分かっていたと推認するのが相当である。 また,被告人の検察官調書(乙14)は,「母は,私に向かって『暗くなってから殺してや。』と,静かに言って,こたつに入ったまま,うつ伏せに横になりました。母が,その場で,殺せと言わず,わざわざ,暗くなってから殺せなどというのは,母が,やはり,死ぬのが怖い,死にたくない,という気持ちでいるからとしか思えませんでした。それは,本心から死ぬつもりなら,時間を置くように言うはずがありませんし,母は,すぐに死ぬのが怖いというだけではなくて,私に対して,考え直して欲しいと促しているように思えたのでした。」「私が母を本当に殺すとは,母も思っていなかったので,寝たのだろうと思います。」旨いうものであるが,被告人の上記供述は,被害者から殺してなどと言われた際の自己の心情を具体的に述べているのに加え,被告人なりに被害者の発言や行動を理解したところを説明していて,その内容も合理的であるから,上記検察官調書には,後述のように,被害者の殺害を決意した動機についていう点など,にわかに措信し難い部分がみられるけれども,被告人には,被害者は本当に死ぬ決意をしておらず,被害者が自分を殺すように言ったのも真意ではないことが分かっていた旨いう限度においては,十分信用できるとみるべきである。 以上のとおりであるから,被告人には,被害者は本当に死ぬ決意をしておらず,被害者が自分を殺すように言 のも真意ではないことが分かっていた旨いう限度においては,十分信用できるとみるべきである。 以上のとおりであるから,被告人には,被害者は本当に死ぬ決意をしておらず,被害者が自分を殺すように言ったのも真意ではないことが分かっていたことも,また間違いがないと認めることができる。 5 ところで,被告人には,被害者は本当に死ぬ決意をしておらず,被害者が自分を殺すように言ったのも真意ではないことが分かっていたとすると,被害者を殺害した動機が問題となるので,ここで付言することとする。 被告人の検察官調書(乙14)は,「自分が死ぬとか,殺せとか言っていたのは口先だけのことだったと,母に打ち明けてしまったら,自分にとって守れる意地がなくなってしまう。」,「本当のことを話すのは止め,自分の意地を守るためには,母を殺すしかない。」と考え,被害者の殺害を決意したなどというものであるが,自分が死ぬと言っていたことが口先だけではないという意地を守るために実母の殺害を決意したというのは,いかにも不自然で納得がいかないし,被害者も,被告人が自殺することを決して望んでいたわけではなく,そのことは被告人にも分かっていたはずであって,被告人の上記のような意地が守るべきものであったとも考えられないのであるから,上記の検察官調書のいうところが被害者を殺害した動機であるとは認め難い。 被告人の公判供述は,本件当時は本当に自殺する意思があったというものであるところ,被告人は,実際には自殺行為に及んでいないけれども,上記2の(1)ないし(9)(11)で認定したような,本件当時の被告人の生活状況,本件の数日前から本件当日までの被告人の発言や行動,本件犯行直後に被告人がした110番通報の状況やその内容(特に,「僕に借金があり,心中しようとした。」と述べていること)等を 時の被告人の生活状況,本件の数日前から本件当日までの被告人の発言や行動,本件犯行直後に被告人がした110番通報の状況やその内容(特に,「僕に借金があり,心中しようとした。」と述べていること)等を考え併せると,被告人の公判供述のうち上記の部分は信用できるとみるべきであり,結局,被告人は,闇金融業者等からの借金の返済に窮したため,将来を悲観して自殺を考えるようになったが,自分が死んで被害者だけを残すわけにいかないなどと考えた末,被害者を殺害して自殺しようと決意し,被害者の殺害には及んだものの,自らは本当に自殺することはできなかったものと認めるのが相当である。 6 以上のとおりであって,被告人には,同意殺人罪ではなく,殺人罪の成立を認めることができる。 (法令の適用)省略(弁護人の主張に対する判断)弁護人は,被告人は,本件犯行当時,心因性のうつ症に罹患しており,被告人の内面には,心因性のうつ病による単なる自殺念慮を超えた「死ぬ以外に問題解決の方法はない」という強迫的な観念,妄想が生じていたと考えられ,かかる強迫的な観念,妄想の影響下で,本件犯行に及んだものであるから,被告人は,本件犯行当時,心神耗弱の状態にあった旨主張する。 確かに,前記認定のとおり,被告人は,平成15年12月ころから,貸金業者への返済資金はもとより,生活費にも事欠くような状態になったため,被害者の前で,口癖のように「死にたい。」などと口走るようになったこと,闇金融業者の取立てから逃れるため,本件犯行前の数日間,山の中で野宿をするなどしていたこと,自分と被害者の将来を悲観し,被害者を殺害して自らも自殺しようと決意して,本件犯行に及んだことなどの事実が認められる。 しかしながら,被告人には,本件までに精神病等の既往歴は見当たらないこと,将来を悲観して被害者との心 観し,被害者を殺害して自らも自殺しようと決意して,本件犯行に及んだことなどの事実が認められる。 しかしながら,被告人には,本件までに精神病等の既往歴は見当たらないこと,将来を悲観して被害者との心中を決意したという犯行の動機や,被害者の首を絞めるという犯行態様を選択した理由は,いずれも合理的かつ了解可能なものであること,本件犯行の直後に状況を正確に把握して110番通報をしているのをはじめ,本件犯行前後の被告人の言動をみても,その精神状態に異常を窺わせるようなものは存しないこと,被告人は,本件犯行の前後を通じて,時系列に従った記憶を概ね保持しており,意識も清明であったことなどからすれば,本件犯行当時,被告人の是非弁別能力及びその弁別に従って行動する能力が著しく減退する状態には陥っていなかったものと認めることができる。 よって,弁護人の上記主張は採用できない。 (量刑の理由)本件は,被告人が,いわゆる闇金融業者等からの借金の返済に窮し,今後の生活の見通しも立たない状況に陥っていたことから,自分と実母である被害者の将来を悲観するなどして,被害者を殺害した上自らも自殺して心中しようと決意し,腰紐で被害者の頚部を絞め付け,窒息死させて殺害したという殺人の事案である。 被告人が本件犯行に及ぶに至ったのは,被告人が定職に就くことなく,怠惰な生活を送り,闇金融業者等から借金を重ねるなどして,困窮状態を招いたことが主たる原因であって,犯行に至った経緯や身勝手な動機に酌量の余地は乏しいこと,被告人は,眠っていて抵抗することが困難な状態にある高齢の被害者の頚部を腰紐で強く絞め付けて,被害者を殺害したものであって,その犯行態様は確定的な殺意に基づく悪質なものであること,被害者は,一人息子の手によって突然にその命を奪われたものであって,結果はまことに重大で 腰紐で強く絞め付けて,被害者を殺害したものであって,その犯行態様は確定的な殺意に基づく悪質なものであること,被害者は,一人息子の手によって突然にその命を奪われたものであって,結果はまことに重大であり,その無念の思いは大きかったと推察されること,被告人は,捜査段階から公判段階にかけて,少なからずその供述を変遷させてきており,その中には自己の刑事責任を軽減させることを意図してなされたとみられるものも存することなどを考え併せると,その犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 してみると,被告人が自分と被害者の将来を悲観して被害者との心中を決意するに至った心情については,同情の余地が全くないわけではないこと,被害者の真意に基づくものではないとはいえ,殺してなどという被害者の言動が被告人の決意に影響を与えた面があることは否定できないこと,被害者の親族の処罰感情は厳しいものではなく,被告人の早い更生を願っていること,被告人は,本件直後に自ら警察に電話して自首した上,被害者を殺害したこと自体は一貫して認めてきており,また,実母である被害者の生命を奪ったことについても,悔悟の情を示していること,被告人にはこれまでに前科がないことなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見懲役12年)よって,主文のとおり判決する。 平成16年8月26日神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官森岡安廣 裁判官川上宏 裁判官 裁判官 川上宏 裁判官 酒井孝之
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