+令和6年12月19日判決言渡同日原本受領裁判所書記官令和5年(ワ)第12731号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日令和6年10月18日判決 原告株式会社エルライングループ同代表者代表取締役同訴訟代理人弁護士福本隆史同中島裕一同竹田仁 被告 P1同訴訟代理人弁護士国領章博同太田瑠美主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する令和5年8月2日から支払済 みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、原告の元従業員である被告に対し、①主位的には、被告が、原告の営業秘密(別紙「本件各情報の営業秘密性」の「営業秘密とされる情報」欄記載の各情報。以下、同欄各行記載の表題に従い、「本件情報1」などといい、こ れらを併せて「本件各情報」という。)を使用・開示した行為(以下「本件行為」 という。)は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項7号の不正競争に該当するとして、不競法4条に基づき、予備的には、被告の本件行為は原告に対する秘密保持誓約書上の秘密保持義務違反又は原告の営業上の利益侵害行為に該当するとして、債務 いう。)2条1項7号の不正競争に該当するとして、不競法4条に基づき、予備的には、被告の本件行為は原告に対する秘密保持誓約書上の秘密保持義務違反又は原告の営業上の利益侵害行為に該当するとして、債務不履行(民法415条1項)又は不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金5705万円のうち一部請求として250万円及びこれに対す る令和5年8月2日(不法行為よりも後の日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②被告が原告所有の営業車(以下「本件車両」という。)を、同車両の使用に関する原告との合意に反し、社用以外の目的で無断で無償使用していたことで、原告は車両使用料相当額の損害を被ったとして、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金50万円及びこれ に対する前同様の遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠(特に記載するものを除き枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告は、太陽光パネルや蓄電池の販売を業とする株式会社である。 イ被告は、原告の元従業員である。 (2) 被告による行為等ア被告は、原告の従業員として、太陽光パネルや蓄電池の販売の営業活動に従事していたところ、令和5年3月31日に原告を退職し、その際、別紙「秘密保持誓約書(退職時)」(以下「本件秘密保持誓約書」という。)に署名をした(争い のない事実、甲1、弁論の全趣旨)。 イ被告は、令和3年8月31日、原告に対して「車両使用誓約書」(以下「本件車両使用誓約書」という。)を提出し、原告における営業活動のために本件車両を使用していたところ、原告を退職する前の二、三か月の間に、少なくとも数回程度は休日 告に対して「車両使用誓約書」(以下「本件車両使用誓約書」という。)を提出し、原告における営業活動のために本件車両を使用していたところ、原告を退職する前の二、三か月の間に、少なくとも数回程度は休日に本件車両を使用したことがあった。その時期における被告の上司は、P 2係長であった(なお、P2係長は既に原告を退職しているが、以下においても 「P2係長」と呼称する。)。 本件車両使用誓約書には、「本規定は、業務に使用する車両の運用管理に関する事項を定めたものであり、車両の効率的運用と運転者の安全を図ることを目的とする。」との前文に引き続き、「私は、社用車を使用するにあたり下記事項を厳守することを誓います。」との記載があり、「下記事項」として、以下を含む事項が記 載されていた。(以上につき、争いのない事実、甲5、弁論の全趣旨)(ア) 社用車は社用のほか使用しません。 (イ) 休日に使用する場合は事前申請を致します。 ・事前申請をした場合のみ1日5,000 円(ガソリン代込・ETC は除く)で使用を許可する。 ・使用者は本人のみとする。 (ウ) 事故した場合(かすり傷を含む)は修理代金の1割(上限5万円)を支払います。修理代金は事故件数1件につき1割増額とする。(事故件数は1年間の累積とする)ウ被告は、原告を退職した後、遅くとも令和5年7月2日までには、太陽光パ ネルや蓄電池の販売等を業とするエナジーサプライ株式会社(以下「エナジーサプライ」という。)に入社し、その営業活動に従事していた(争いのない事実、甲3の1、弁論の全趣旨)。 エ被告は、令和5年7月2日頃、営業活動を行った顧客であるP3(以下「本件顧客」という。)に「現場調査依頼書」(甲3の1)の上部(氏名、生年月日、 住所、電話 の1、弁論の全趣旨)。 エ被告は、令和5年7月2日頃、営業活動を行った顧客であるP3(以下「本件顧客」という。)に「現場調査依頼書」(甲3の1)の上部(氏名、生年月日、 住所、電話番号等)を記入してもらった上でその提出を受け、その頃、本件顧客に対し、「P3様邸経済効果シミュレーション」の用紙(甲3の2)を用いて、太陽光パネル及び蓄電池設置の経済効果や費用等について説明を行った(甲3)。 3 争点(1) 本件各情報の営業秘密性(争点1) (2) 不正競争行為(不競法2条1項7号)の該当性(争点2) (3) 本件行為についての債務不履行又は不法行為の成否(争点3)(4) 本件車両の休日無償使用についての債務不履行又は不法行為の成否(争点4)(5) 損害の発生及びその額(争点5)ア本件行為に係る損害の発生及びその額(争点5-1) イ本件車両の休日無償使用に係る損害の発生及びその額(争点5-2) 4 当事者の主張(1) 本件各情報の営業秘密性(争点1)本件各情報の営業秘密性(秘密管理性、有用性、非公知性)についての当事者の主張は、別紙「本件各情報の営業秘密性」の「原告の主張」欄及び「被告の主張」 欄各記載のとおりである。 (2) 不正競争行為(不競法2条1項7号)の該当性(争点2)〔原告の主張〕被告は、営業秘密保有者である原告から本件各情報を示されているところ、不正の利益を得る目的又は原告に損害を与える目的で、本件各情報を使用し、又はエナ ジーサプライに開示したものであるから、被告の本件行為は不競法2条1項7号に該当する。 〔被告の主張〕否認ないし争う。被告は、原告から本件各情報の持ち出しをしていない。なお、本件顧客は、エナジーサプライの営業先と のであるから、被告の本件行為は不競法2条1項7号に該当する。 〔被告の主張〕否認ないし争う。被告は、原告から本件各情報の持ち出しをしていない。なお、本件顧客は、エナジーサプライの営業先となっていたから被告が訪問したにすぎな いし、その際に用いた資料(甲3)はエナジーサプライにおいて使用されていたものである。「P3様邸経済効果シミュレーション」(甲3の2)は、エナジーサプライが用いているシミュレーションソフト「スマートソーラー」等を踏まえたものであり、その意味でも本件各情報を用いたものではない。 (3) 本件行為についての債務不履行又は不法行為の成否(争点3) 〔原告の主張〕 ア仮に、被告の本件行為が不競法2条1項7号の「不正競争」に該当しないとしても、同行為は、本件秘密保持誓約書が定める秘密保持義務違反として債務不履行に該当し、また、故意により原告の営業上の利益を侵害するものとして不法行為に該当する。 イ被告は、本件秘密保持誓約書は効力を有しない旨主張するが、原告が被告に 対して一切説明することなく署名を強いたような事実はなく、被告の主張が認められる余地はない。 〔被告の主張〕ア原告は、被告が退職する当日、本件秘密保持誓約書を含む多数の書類を準備し、各書類について一切説明をすることなく署名を強いたため、被告は内容も確認 せずに順次署名したにすぎないから、同誓約書は効力を有しない。 イ前記アの点を措くとしても、被告は、前記(2)〔被告の主張〕のとおり原告から本件各情報の持ち出しをしておらず、本件行為自体が存在しない。被告は何ら本件秘密保持誓約書が定める秘密保持義務に違反しておらず、債務不履行又は不法行為は成立しない。 (4) 本件車両の休日無償使用について 出しをしておらず、本件行為自体が存在しない。被告は何ら本件秘密保持誓約書が定める秘密保持義務に違反しておらず、債務不履行又は不法行為は成立しない。 (4) 本件車両の休日無償使用についての債務不履行又は不法行為の成否(争点4)〔原告の主張〕ア本件車両使用誓約書には、本件車両を社用のほか使用しないこと、休日に使用する場合には、原告に事前申請した上で1日当たり5000円を支払うことが定 められていた。それにもかかわらず、被告は、令和5年3月5日を含む自身の休日に、原告に事前申請を行わず本件車両を使用して買物に行く等の社用以外の目的で無償使用したのであり、かかる被告の行為は債務不履行又は不法行為に該当する。 イ被告は、本件車両使用誓約書は無効である旨主張するが、同誓約書は、本件車両を使用するに当たっての使用料を定めたもので、その違反について違約金や損 害賠償額の予定を定めたものではなく、また、労働契約の不履行について違約金や 損害賠償額の予定を定めたものでもないから、労働基準法16条には違反しない。 さらに、P2係長が被告に対し、本件車両を私用目的かつ無償で使用することの許可をしたことはないし、P2係長には私用目的での使用許可をする権限がなく、原告においてそのような許可をした実例もない。 〔被告の主張〕 ア本件車両使用誓約書は、あらかじめ労働契約の不履行について違約金又は損害賠償額の予定を定めたものと同様であるから、賠償予定の禁止を定める労働基準法16条違反であって無効である。 イ本件車両使用誓約書が有効であるとしても、被告が本件車両を休日に使用したのは、原告を退職する二、三か月前に、上司であるP2係長から、関西エリアに ある15台前後の車両管理を依頼され、その代わりに、被告が利 誓約書が有効であるとしても、被告が本件車両を休日に使用したのは、原告を退職する二、三か月前に、上司であるP2係長から、関西エリアに ある15台前後の車両管理を依頼され、その代わりに、被告が利用している社用車(本件車両)を私用目的で無償で使ってよいとの許可があったからである。そのため、その後数回、本件車両を私用目的で使用したことはあるが、時間もわずかなものであるし、原告又はP2係長の許可があったのであるから、債務不履行又は不法行為に該当するとの原告の主張は理由がない。 (5) 本件行為に係る損害の発生及びその額(争点5-1)〔原告の主張〕被告の本件行為によって、原告のノウハウが流出し、原告は、営業の機会を失い、以下のとおり、合計5705万円の損害を被った。 すなわち、被告の原告在職時の営業成績の月額平均は2000万円で、利益率は 40パーセントであったから、1か月あたりの損害額は800万円であるところ、原告は、被告が営業秘密である本件各情報の使用を開始してから令和5年12月までの7か月間で5600万円の損害を被った。 また、被告が、同年7月2日、原告の顧客名簿に記載されていた本件顧客に対し、本件各情報を使用して営業を行ったことにより、原告は、本来であれば価格5 00万円での打診を行うことができたにもかかわらず、395万円での打診を行わ ざるを得なくなり、その差額である105万円の損害を被った。 〔被告の主張〕争う。なお、見込み顧客に対する事業者の競合は頻繁に起こることであり、仮に本件顧客に対して原告が値下げをしていたとしても、原告の営業活動の結果にすぎず、それを第三者に転嫁することはできない。 (6) 本件車両の休日無償使用に係る損害の発生及びその額(争点5-2)〔原告 対して原告が値下げをしていたとしても、原告の営業活動の結果にすぎず、それを第三者に転嫁することはできない。 (6) 本件車両の休日無償使用に係る損害の発生及びその額(争点5-2)〔原告の主張〕原告は、被告が本件車両を無断で使用したことにより、車両使用料相当額として50万円の損害を被った。すなわち、被告において、少なくとも1か月のうち休日の半分は本件車両を無断で使用していたはずであるから、月額2万円(1日当たり 5000円×4日)の損害があるとして、被告が本件車両を使用し始めてから退職までの20か月分の損害額を40万円として計算し、また、長期休暇の際には、少なくとも20日間は本件車両を無断で使用していたはずであるから、当該使用による損害額を10万円(1日当たり5000円×20日)として計算した。 〔被告の主張〕 争う。被告は、社用車を事故等で損傷すると5万円という高額支払を余儀なくされることを知っていたため(本件車両使用誓約書)、修理費支払が怖くてほとんど本件車両を私用目的で使用することはしていないのであり、許可を得て数回使用したことがあるにすぎず、時間もわずかである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件各情報の営業秘密性)について不競法2条6項は、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものを「営業秘密」と定義するところ、「秘密として管理されている」とは、当該情報に接した者が、これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理 されていることをいうと解すべきである。また、「公然と知られていない」とは、 当該情報が保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあることをいうと 識し得る程度に秘密として管理 されていることをいうと解すべきである。また、「公然と知られていない」とは、 当該情報が保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあることをいうと解される。 (1) 本件情報1について本件情報1(太陽光パネル及び蓄電池の設置に係る顧客との契約締結前に、顧客から原告に対して現場調査を依頼するという体裁で無償の現場調査を行うこと(ノ ウハウ))につき、秘密として管理されていた状況を原告は具体的に主張立証しないから、秘密管理性が認められない。原告は、被告が本件秘密保持誓約書に署名した旨主張するが、だからといって、本件情報1が直ちに「秘密情報」に該当するとか、秘密として管理されていたとはいえない。 また、ELJソーラーコーポ―レーション株式会社のウェブサイトでは、同社に 対して顧客が無料見積もりを依頼し、訪問見積もりも承諾する内容の入力フォームが公開されており(乙3)、そのことと、顧客から業者に対して現場調査を依頼することとは、顧客からの申込みの体裁をとって訪問営業を行う点で同一であるから、本件情報1には非公知性も認められない。 したがって、本件情報1は、秘密管理性及び非公知性の要件を欠くから、営業秘 密性を備えるものとは認められない。 (2) 本件情報2及び本件情報3についてア秘密管理性について被告の原告在籍当時における「現場調査依頼書」及び「シミュレーションシート」の管理状況を明らかにする証拠はない(原告自身、上記の管理状況を裏付けるもの とした甲第9号証の写真につき、被告の原告在籍当時のものではない旨述べている。)。 また、仮に、被告の原告在籍当時も甲第9号証の写真と同様の状況であって、上記の棚に注意書きの書面が掲示されていたとしても、上 9号証の写真につき、被告の原告在籍当時のものではない旨述べている。)。 また、仮に、被告の原告在籍当時も甲第9号証の写真と同様の状況であって、上記の棚に注意書きの書面が掲示されていたとしても、上記の棚はいわゆる開放棚であり、書類が棚板の上にむき出しの状態で置かれていて、施錠管理等はされていな い上、営業担当者のみならず、原告の従業員であれば誰でもアクセス可能であった ことがうかがわれる(営業担当者のみがアクセスできる場所に設置されていたことを認めるに足りる証拠はない。)。加えて、原告が主張するような、棚に備え置かれた資料の数を管理する措置が講じられていたことも認めるに足りない。 しかも、「現場調査依頼書」(甲2の1)には「(お客様控)」との記載があり、「シミュレーションシート」(甲2の2)は、営業担当者の顧客に対する説明の際、 トークだけでなく視覚的にも原告のサービスを分かりやすく認識させ、顧客を誘引することができるものであることからすると、これらの書面は、顧客(契約締結に至った者に限らない。)の手元に残ることが予定されたものであると認められる。 また、これらの書面の内容について秘密にすることを顧客に求めているとは認められない。 以上のことからすると、被告が原告に在籍していた当時、原告において、本件情報2及び本件情報3につき、当該情報に接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していたと認めることはできない。 イ非公知性について「現場調査依頼書」及び「シミュレーションシート」の内容はいずれも一般的な ものである上、前記アのとおり、いずれも顧客(契約締結に至った者に限らない。)の手元に残ることが予定されたものであると認められることからすると、これらの書面が保有者の管 容はいずれも一般的な ものである上、前記アのとおり、いずれも顧客(契約締結に至った者に限らない。)の手元に残ることが予定されたものであると認められることからすると、これらの書面が保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあったと認めることはできない。 ウ小括 したがって、本件情報2及び本件情報3は、秘密管理性及び非公知性の要件を欠くから、営業秘密性を備えるものとは認められない。 (3) 本件情報4について本件情報4(原告における太陽光パネル等の商談実績を集約し、フォーマット化した営業トーク)につき、甲第6号証は、営業トークとされる内容が5枚にわたっ てそのまま印刷されたものにすぎず、管理状況を原告は具体的に主張立証していな い。また、その記載内容は、大半が各営業担当者が各顧客に対して行う発言内容、すなわち外部に開示している内容そのものであって、発言しないと思われる部分としては、1枚目3行目に「(お客さんの認識を確認)」、2枚目下から6行目に「→ここで大きなイエスを取る」との記載があるにすぎず、かかる記載に非公知性があるとは認め難い。 以上のことからすると、本件情報4は、秘密管理性及び非公知性の要件を欠くから、営業秘密性を備えるものとは認められないというべきである。 (4) まとめしたがって、本件各情報は、いずれも営業秘密性を備えるものとは認められず、不競法に基づく原告の請求は理由がない。 2 争点3(本件行為についての債務不履行又は不法行為の成否)について原告は、仮に、被告の本件行為が不競法2条1項7号の「不正競争」に該当しないとしても、同行為は、本件秘密保持誓約書が定める秘密保持義務違反として債務不履行に該当し、また、故意により原告の営業上の利益を 告は、仮に、被告の本件行為が不競法2条1項7号の「不正競争」に該当しないとしても、同行為は、本件秘密保持誓約書が定める秘密保持義務違反として債務不履行に該当し、また、故意により原告の営業上の利益を侵害するものとして不法行為に該当する旨主張する。 しかし、被告による本件行為(本件各情報の使用及びエナジーサプライへの開示行為)の存在自体が明らかではない。また、前記1のとおり、本件各情報は、いずれも秘密管理性及び非公知性を欠くものである。そのような本件各情報が、本件秘密保持誓約書における「秘密情報」に該当するとは認め難い。そして、本件各情報に関し、他に被告の原告に対する債務不履行又は不法行為を認めるべき事情も見当 たらない。 したがって、本件秘密保持誓約書の有効性いかんにかかわらず、本件行為による被告の債務不履行又は不法行為を理由とする原告の請求は理由がない。 3 争点4(本件車両の休日無償使用についての債務不履行又は不法行為の成否)について (1) 前記前提事実(2)イ並びに証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、被告 が、①令和3年8月31日、原告に対して本件車両使用誓約書を署名の上提出し、同誓約書には、「社用車は社用のほか使用しません。」、「休日に使用する場合は事前申請を致します。・事前申請をした場合のみ1日5,000 円(ガソリン代込・ETC は除く)で使用を許可する。」などの記載がされていたこと、②自身の休日である令和5年3月5日に、本件車両を私用目的で無償使用したことがあり、同日を 含む同年1月頃から原告を退職する同年3月31日までの間に、原告に事前申請することなく、休日に本件車両を私用目的で無償使用したことが複数回あることが認められる。 (2) 被告は、当時の上司であったP2 年1月頃から原告を退職する同年3月31日までの間に、原告に事前申請することなく、休日に本件車両を私用目的で無償使用したことが複数回あることが認められる。 (2) 被告は、当時の上司であったP2係長から、本件車両を私用目的で無償で使ってよいとの許可があった旨主張し、これを裏付けるものとして、令和6年6月 4日にP2係長との間で以下のやり取りを行ったとするラインのトーク画面(乙8)がある。 被告「お疲れ様です、今大丈夫ですか?」「P2さんから車大臣頼まれて使って良いよってなったのってまだ冬でしたよね?」P2係長「そうやったかなー全然覚えてないわ。」 被告「もうブロックされてるかと思ってました(泣)」「社用車の私用許可されてたのってP2さんと私だけでした? 他にもいました?」「めっちゃエルラインに細かいとこしつこく言われてて」P2係長「P1だけやでー勝手に使ってるやつは知らんけど」被告「ですよね」 (3) 前記(2)は、通信の相手方が「P2」と表示されている上、原告において比較的近い立場の部下と上司の関係にあった者のやり取りとして不自然なものではなく、被告とP2係長との間で行われたラインのやり取りと認めることができる。そして、かかるやり取りからすると、P2係長が、被告に対して本件車両を含む社用車の管理を指示し、本件車両等の管理行為に付随する範囲において一定程度私用目 的で使用することを許容したことが認められる。被告が、無償での使用まで許され たかは当該やり取りでは明言されていないものの、本件車両使用誓約書によれば休日に社用車を使用する場合は事前申請し、1日5000円を支払うものとされているのであり、この条件がそのまま適用されるのであれば、被告が敢えて「社用車の私用許可され のの、本件車両使用誓約書によれば休日に社用車を使用する場合は事前申請し、1日5000円を支払うものとされているのであり、この条件がそのまま適用されるのであれば、被告が敢えて「社用車の私用許可されてたのってP2さんと私だけでした?」と尋ねるのは不自然である。 また、P2係長が「P1だけやでー勝手に使ってるやつは知らんけど」と答えて いることからしても、被告は、本件車両使用誓約書による有償使用とは異なる形での使用が許容されていたものと認められ、少なくとも、P2係長は、被告に対し、上記の本件車両の管理行為に付随する範囲において被告が私用目的で本件車両を無償使用することを事実上許容したものと推認される。 原告は、P2係長には社用車を私用目的で無償使用することの許可権限はない旨 主張する。しかし、原告がその従業員に対して本件車両(社用車)の給油や洗車等を含む管理を委ねることは何ら不自然ではなく、また、P2係長が「勝手に使ってるやつは知らんけど」と答えていることからしても、原告において、日常的に本件車両の管理行為に付随する従業員の私用目的での無償使用を厳格に規制していた事実はうかがわれないところ、同係長が、部下であった被告に対し、本件車両の管理 を指示した上、本件車両の管理行為に付随する範囲で一定程度の私用目的での使用を事実上許容(黙認)することは、同係長の裁量の範囲内であったと解される。 したがって、被告は、P2係長を介して、上記の範囲の限度で、原告から本件車両を私用目的で無償使用することが許可されていたと認められる。 (4) 被告による本件車両の使用頻度について、被告は休日に本件車両を自宅付 近の駐車場に駐車させ、買物に利用していること(甲11)からすると、私用目的で無償使用することも日常で行われ、稀ではなかった 被告による本件車両の使用頻度について、被告は休日に本件車両を自宅付 近の駐車場に駐車させ、買物に利用していること(甲11)からすると、私用目的で無償使用することも日常で行われ、稀ではなかったと考えられる一方、被告とP2係長との前記(2)のやり取り及び弁論の全趣旨からすると、給油や洗車などの社用目的の使用も相当回数あったことがうかがえる。以上の事情を総合すると、被告は、令和5年1月頃から原告を退職する同年3月31日までの3か月の間の休日に、 1か月につきせいぜい2回ないし3回程度、私用目的で無償使用したとの限度で認 定できるにすぎず(原告は100回を超える使用があった旨主張するが、立証がない。)、上記限度の私用目的での無償使用は、本件車両(社用車)の管理行為に付随する範囲を超えないものにとどまると認めるのが相当である。 したがって、被告による本件車両の使用は、原告に対する債務不履行又は不法行為を構成するとはいえない。 4 結論よって、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 武宮英子 裁判官 阿波野右起 裁判官 西尾太一 西尾太一
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