主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,原子爆弾に被爆し被爆者健康手帳の交付を受けている被控訴人が,自らの慢性心不全について,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号,以下「被爆者援護法」という。)11条1項の認定(以下「原爆症認定」という。)を厚生労働大臣(処分行政庁)に申請したところ,処分行政庁がこれを却下したため,当該却下処分の取消しを求めた事案である。原審では,被控訴人のほか5名の原告の行った原爆症認定申請却下処分取消請求が併合された上で審理された。 原審が,被控訴人以外の1名の原告の一部の疾病に係る部分を除き,被控訴人の請求を含む原告らの各請求をいずれも認容する判決(以下「原判決」という。)をしたところ,控訴人が被控訴人に係る部分を不服として 控訴を提起した。 2 関係法令の定め関係法令の定めは,原判決の「事実及び理由」の第2の1に記載のとおりであるからこれを引用する。 3 前提事実前提事実は,原判決7頁19行目の「本件訴え(」の次に「東京地方裁判所同年(行ウ)」を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の2のうち被控訴人に係る部分(同,ア,ア)に記載のとおりであるからこれを引用する。なお,以下の原判決の引用では「原告甲」,「原告ら」及び「原告等」を「被控訴人」,「被告」を「控訴人」とそれぞれ読み替える。 4 放射線に関する知見と原爆症認定審査の方針放射線に関する知見と原爆症認定審査の方針は,原判決の「事実及び理由」の第2 「原告等」を「被控訴人」,「被告」を「控訴人」とそれぞれ読み替える。 4 放射線に関する知見と原爆症認定審査の方針放射線に関する知見と原爆症認定審査の方針は,原判決の「事実及び理由」の第2の3に記載のとおりであるからこれを引用する。 5 主な争点と当事者の主張主な争点と当事者の主張は,下記のとおり補正し,下記6及び7のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の4(ただし,⑶ないし⑺を除く)のとおりであるからこれを引用する。 原判決の補正ア原判決22頁25行目の「,原告乙」から同26行目の「丙」まで,同23頁1行目の「各」,「(原告乙」から同2行目の「心筋梗塞)」まで,同行目の「,並びに」から同3行目の「(争点3)」までをそれぞれ削る。 イ原判決68頁3行目の「争点2の1」を「争点2」と改める。 6 当審における控訴人の主張原爆症認定に係る放射線起因性の判断基準(争点1)について ア判断の枠組みについて原判決は,放射性起因性の判断枠組みについて,「経験則に照らして全証拠を総合検討し,原子爆弾の放射線が申請者である被爆者の負傷又は疾病等を招来した関係を,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものとして是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かによって,放射線起因性の要件が認められるか否かを判定すべきものである。」とした上で,「①申請者の放射線への被曝の程度,②申請疾病等と放射線被曝との一般的な関連性の有無及び程度,③申請者における当該疾病等の具体的症状やその疾病の推移,当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度,申請者におけるその他の疾病に係る病歴(既往歴)などにつき,科学的な経験則を基礎としてそれぞれ検討した上,上記の関係の 具体的症状やその疾病の推移,当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度,申請者におけるその他の疾病に係る病歴(既往歴)などにつき,科学的な経験則を基礎としてそれぞれ検討した上,上記の関係の有無を総合的に判断することが,合理的であり,かつ理想的であるということができる。」と判示しているところ,このような判断枠組みは,基本的に相当であると考える。 しかしながら,原判決は,以下の述べるように,上記①ないし③の各考慮要素を適切に評価・検討し,これらを慎重に総合考慮することができておらず,誤りを含んでいるものである。 イ申請者の放射線への被曝の程度について被曝の程度については,もとより原爆投下後70年が経過した現時点において正確に測定することは不可能であるが,そうであるからといって,科学的,合理的根拠なしに,いたずらに被曝の程度を過大視することは正当とはいえない。DS02は科学的緻密性及び厳密性の見地から信頼性が高く,放射性降下物及び誘導放射線の被曝線量に占める割合は一般化できるほど大きくなく,内部被曝の影響は人体の健康への影響という観点から重視する必要がないものであるから,これらのことを踏まえて放射線被曝の程度を検討すべきである。 ウ心筋梗塞及び狭心症と放射線被曝との一般的な関連性の有無及び程度について循環器疾患や心疾患と放射線被曝との関連性aUNSCEAR報告及びICRP勧告においては,循環器疾患や心疾患と放射線被曝との関係について,疫学的知見に基づいて,関連性が認められているが,「循環器疾患」は,脳卒中と心疾患を含む広い概念であり,そのうちの「心疾患」も,動脈硬化性心疾患のほか,心臓弁膜症,感染症に伴う心疾患及び原因不明の肺高血圧症等,明らかに発生機序の異なる多種多様な疾患が含まれているのであるか 疾患を含む広い概念であり,そのうちの「心疾患」も,動脈硬化性心疾患のほか,心臓弁膜症,感染症に伴う心疾患及び原因不明の肺高血圧症等,明らかに発生機序の異なる多種多様な疾患が含まれているのであるから,「循環器疾患」という広い概念についての死亡率の調査をした疫学的研究において放射線被曝と死亡率の上昇との間に有意な関連が認められ,「心疾患」という種々の疾病を含む疾病分類についての発症率を調査した疫学的研究において,放射線被曝と心疾患との間に関連性が認められたとしても,それは,放射線被曝と循環器疾患又は心疾患に含まれるいずれかの疾病との間に関連性が認められることを示すにすぎず,同じく循環器疾患又は心疾患に含まれる他の疾病との関係では,放射線被曝と何ら関連性が認められていない可能性があるのであって,放射線被曝と循環器疾患又は心疾患に含まれる全疾病との間に関連性が認められたことを意味するものではない,したがって,上記の循環器疾患又は心疾患に係る疫学的知見をもって,心筋梗塞や狭心症を含む虚血性心疾患の発症と放射線被曝との間に関連性を認めることは科学的に誤りである。 b 仮に,心疾患に係る疫学的知見をもって,心筋梗塞と放射線被曝との間に関連性が認められるとしても,UNSCEAR報告及びICRP勧告においては,少なくとも0.5グレイを上回る放射線被曝を受けた場合について関連性が認められるとされているのであり, 0.5グレイをしきい値とみることができるから,同値を下回る場合には関連性は認められないというべきである。 医療の現場においても,例えば,心臓カテーテル治療は,施術中にX線の照射を行うことから,放射線防護の観点から,「循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン」が設けられており,そこでは,人体の各部への被曝の影響ごとにし ,心臓カテーテル治療は,施術中にX線の照射を行うことから,放射線防護の観点から,「循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン」が設けられており,そこでは,人体の各部への被曝の影響ごとにしきい値を設定して,放射線被曝はこれを超えないよう管理しているのであって,しきい値が存在することが前提とされているものであり,ガイドラインを守っていて心疾患が発症したという事実は報告されていない。 このように,仮に,心筋梗塞と放射線被曝との間に関連性を認めるとしても,少なくとも0.5グレイを上回る放射線被曝を受けた場合に限られるというべきであるから,万が一,狭心症と放射線被曝との間に関連性を認めるとしても,同じく,少なくとも0.5グレイを上回る放射線被曝を受けた場合に限られるというべきである。 放射線被曝と狭心症との関連性a 安定狭心症と不安定狭心症との区別狭心症には,安定狭心症と不安定狭心症との区別があるが,両者は発生機序も病態も全く異なり,医学的に全く異なる疾病なのであって,不安定狭心症は心筋梗塞と発生機序を同じくするのに対し,安定狭心症は心筋梗塞とは全く異なる疾病であって,安定狭心症が増悪しても心筋梗塞を発症することはないし,心筋梗塞の前駆症状として安定狭心症を発症することもない。 ⒝ 不安定狭心症の発生機序は次のとおりである。まず,血管の内皮が高血圧や高血糖,喫煙などの刺激により傷害を受け,LDLコレステロールが傷害を受けた内皮の間隙から内膜側に取り込まれ酸化されることで酸化LDLとなり,これをマクロファージが取 り込んで泡沫細胞となって,その泡沫細胞やその他の細胞などが集まって,粥腫(アテローム)と呼ばれるコレステロールが主体の粥状の成分(脂質コア)が形成される。このような粥腫の形成が見られる病変 り込んで泡沫細胞となって,その泡沫細胞やその他の細胞などが集まって,粥腫(アテローム)と呼ばれるコレステロールが主体の粥状の成分(脂質コア)が形成される。このような粥腫の形成が見られる病変を粥腫性プラークというが,そのうち,大きな脂質コア,脂質コアを覆う薄い線維性皮膜,マクロファージの浸潤で構成されるものを「不安定プラーク」という。この不安定プラークが突然破綻し,脂質コアが血管内に飛び出して血栓を形成して血管を急激に塞いでしまうことにより,血管が狭まって血流が一部阻害されてしまうのが不安定狭心症である。血栓が血管を全て塞いでしまい,血流が全くなくなって心筋壊死が起こるのが急性心筋梗塞である。これら疾病を急性冠症候群ともいう。 ⒞ 他方,安定狭心症の発生機序は,血管内に長期間をかけてゆっくりと,コレステロール成分(脂質コア)が極めて小さい,膠原繊維成分に富む線維性プラークが肥厚することで形成される。この線維性プラークを「安定プラーク」といい,線維性皮膜を脆弱化,菲薄化するマクロファージがほとんど存在せず,徐々に進展・増大することにより冠動脈内腔を狭小化し,心筋虚血を生じさせるが,プラークが破綻することはなく,それによって引き起こされる血栓の形成もないので,心筋壊死を伴う心筋梗塞には移行しにくい。徐々に血管が狭くなり,心臓に負荷がかかる運動を行ったときに,血液の流れが心筋の血液需要に追い付かずに胸痛等の発作が生じるというものである。 ⒟ 以上のとおり,不安定プラークが破綻して血栓が形成されて,これが急速に血管を塞ぐことで発生する不安定狭心症と急性心筋梗塞は発生機序を同じくするが,安定狭心症は,安定プラークが徐々に進展・増大して,冠動脈内腔が狭小化して心筋虚血を生じ させはするが,心筋梗塞には結びつかない。 また 安定狭心症と急性心筋梗塞は発生機序を同じくするが,安定狭心症は,安定プラークが徐々に進展・増大して,冠動脈内腔が狭小化して心筋虚血を生じ させはするが,心筋梗塞には結びつかない。 また,両者はその病態も異なるものである。安定狭心症は,慢性冠動脈疾患に分類され,運動などの労作時に心臓の筋肉が酸素を多く必要とした際に,血液の供給が追い付かず,一時的に心筋の虚血状態をきたす労作性狭心症が典型で,他に冠動脈が一時的に痙攣のような状態を起こすことによって生じる異型(冠攣縮性)狭心症(冠攣縮によるものでプラークによる心筋梗塞とは異なる病態となる)があり,これに対して,不安定狭心症は,プラークが破綻して血栓が形成されて血管を塞ぐので,狭心痛が安静・労作を問わず,数分から20分程度持続することになり,さらに,血栓が冠動脈を完全に閉塞して心筋が壊死してしまうと心筋梗塞となり,壊死した心筋は元に戻ることはない。当然,治療方法にも違いが現れ,安定狭心症は,プラークが破綻することはないため病状が急速に悪化することなく,入院加療の時期を患者の社会生活を考慮して決めることができるのに対し,不安定狭心症は,プラークが突然破綻して血栓による冠動脈の閉塞が急速に発生する危険があるため,直ちに患者の精密検査及び治療が必要となる。 b 放射線被曝と狭心症,中でも安定狭心症との関連性 放射線被曝と心筋梗塞の発症との間に疫学的に関連性が認められるとしても,そのことから,そもそも放射線被曝といかなる狭心症との間にも関連性があることが当然に認められるものではない。 仮に,放射線被曝が心筋梗塞の発症過程における動脈硬化の形成に何らかの形で寄与していたとしても,それは不安定狭心症における不安定プラークの形成についてだけであって,上記aのとおり,これとは医 。 仮に,放射線被曝が心筋梗塞の発症過程における動脈硬化の形成に何らかの形で寄与していたとしても,それは不安定狭心症における不安定プラークの形成についてだけであって,上記aのとおり,これとは医学的に全く異なる疾病である安定狭心症の安定プラークの形成に寄与したとはいえず,放射線被曝と安定狭心症 との間に関連性があるとはいえない。 放射線被曝についての心筋梗塞に関する疫学的知見から,放射線被曝と安定狭心症との関連性を認めることはできない。 ⒝ 近年の動脈硬化モデル動物実験の結果(乙D①45文献3)によれば,放射線照射は,細胞外基質の分解に関与するプロテアーゼ活性化酵素であるMMP-9の発現を有意に増加させたと報告されているが,これは,冠動脈プラークの線維性皮膜を脆弱化,菲薄化することに関連しているといわれているMMP-9が放射線被曝によって活性化されることを示唆するものであり,放射線被曝は,不安定プラークの形成や破綻に関連性があるといえるとしても,安定狭心症の発症には関連しないものである。 ⒞ 林報告(甲A98)によれば,原爆被爆者集団において,炎症の指標と考えられるC-反応性蛋白(CRP)とインターロイキン-6(IL-6)の血漿中レベルと放射線被曝線量とは,CRP及びIL-6が被曝線量の上昇に伴って有意に上昇しているとされるが,上記報告は,そもそも,非被爆者群と比較したものではないから,原爆被爆者のCRP及びIL-6の血漿中レベルが,非被爆者と比べて高値となるか否かは定かではない。仮に,被曝線量とCRP及びIL-6の血漿中レベルとの間に一定の関連性が認められるとしても,CRP及びIL-6はあくまで炎症の指標であるから,被爆者の体内で,放射線被曝によって,何らかの炎症が生じていることを示唆するにすぎず,この何らかの炎症 ルとの間に一定の関連性が認められるとしても,CRP及びIL-6はあくまで炎症の指標であるから,被爆者の体内で,放射線被曝によって,何らかの炎症が生じていることを示唆するにすぎず,この何らかの炎症と動脈硬化の形成過程に介在するとされる炎症とを結び付ける根拠は示されていないから,この報告をもって原爆被爆者において心血管疾患のリスクが上昇していることが説明できるとするのは,具体的な科学的根拠に基づかない推測というべきである。万が一, 上記何らかの炎症が動脈硬化に伴う炎症反応の観察されたものであったとしても,それは不安定プラークの形成過程に介在する炎症反応が観察されたものと考えられ,炎症反応を伴わない安定狭心症の発症とは関係しないものと考えられる。 ⒟ 被控訴人は,放射線被曝が動脈硬化の進展を促進し,安定狭心症も,心筋梗塞や不安定狭心症と同様に,動脈硬化に由来するから,放射線被曝と安定狭心症との間に関連性が認められると主張し,「原爆放射線の人体影響改訂版第2版」(甲A682の2)及び「赤星報告」(甲A604)を上記主張の裏付けとして挙げる。しかしながら,前者は,これが引用する澤田尚雄らによる報告(AHS第6報),山田美智子らによる報告(乙D①68)及びウエダらによる報告においては,放射線被曝との関連を検証するのに,大動脈弓の石灰化及び脈波伝播速度(PWV)を動脈硬化の非侵襲的指標として用いており,動脈硬化の指標として最も標準とされる頸動脈内膜中膜複合厚(IMT)を用いておらず,かえって,前者中にはIMTと被曝線量の関連性は認められないとの記述もあるから,裏付けとはならないものである。後者は,被曝の影響として,大動脈弓の石灰化と網膜細動脈硬化が認められるとするが,大動脈弓の石灰化については上記と同様に最も標準とされる指標で ないとの記述もあるから,裏付けとはならないものである。後者は,被曝の影響として,大動脈弓の石灰化と網膜細動脈硬化が認められるとするが,大動脈弓の石灰化については上記と同様に最も標準とされる指標ではなく,網膜細動脈硬化についてもプラークの形成による動脈硬化とは機序の異なる細動脈硬化であるから,やはり裏付けとはならない。冠動脈の動脈硬化につき放射線被曝の影響を認めることはできないというべきである。 エ現行の新審査の方針の内容を踏まえた検討について現行の新審査の方針現行の新審査の方針における積極認定の考え方は,科学的知見を基本 として総合的に考察することを基本としつつ,被爆者救済及び審査の迅速化という観点に基づき,放射線被曝による健康影響についての科学的知見が明らかでない範囲をも取り込む形で認定範囲を拡大したものであり,悪性腫瘍(固形がんなど),白血病,副甲状腺機能亢進症,心筋梗塞,甲状腺機能低下症,慢性肝炎・肝硬変,放射線白内障(加齢性白内障を除く)の7種類の疾病のカテゴリに該当する場合には,カテゴリの中の各疾病を個別に厳密に見ると必ずしも放射線による健康影響を認めるだけの科学的知見が存在するとはいえない疾病が含まれるとしても,現在の科学的知見として,放射線被曝による健康影響が必ずしも明らかではない範囲も含めて,上記各疾病のカテゴリを3つに分けて,当該申請疾病の放射線起因性を判断することとし,被爆地点や入市の状況といった被爆態様等についての積極認定の範囲を設定し,そのいずれかに該当する者については,特段に反対する理由がない限り,当該申請と被曝した放射線との関係を積極的に認定するとしたものである。 上記の方針の積極認定の対象や範囲から外れた場合現行の新審査の方針は,同方針の下において積極認定の対象と い限り,当該申請と被曝した放射線との関係を積極的に認定するとしたものである。 上記の方針の積極認定の対象や範囲から外れた場合現行の新審査の方針は,同方針の下において積極認定の対象となるものとして挙げられる上記7種類の疾病のカテゴリに該当するものの,被爆態様等について積極認定の範囲外とされた場合や,そもそも上記カテゴリに該当しない疾病に関しても,認定対象とする余地を認めているが,その場合には,本則に戻り,上記アの判断の枠組みに沿って,個別にその放射線起因性を高度の蓋然性をもって認めることができるかを検討すべきことになる。そしてこの場合には,疾病のカテゴリや被爆態様等から積極認定の対象であり範囲内であるとされた場合よりも,放射線起因性を認めるべき科学的根拠は一層乏しいこととなるから,放射線起因性が認められるか否かは相当慎重に判断すべきことになる。 オ放射線起因性の有無について総合的な判断材料について 交絡因子と危険因子の関係原判決は,「加齢,性差,喫煙,肥満及び血圧による差を調整しても,放射線被曝と心筋梗塞とが関連しているとの研究成果が認められる」として,あたかも交絡因子と危険因子が同義であるかのように解し,危険因子が狭心症発症に与える影響が小さいと判示するもののようであるが,疫学論文における交絡因子の調整は,疫学的因果関係の証明の過程で行われるものであるから,交絡因子を調整した結果,関連性に影響がなかったとしても,それは疫学的な意味を有するにとどまり,個別具体的な因果関係の判断に直ちに妥当するものではない。すなわち,上記のような関係が疫学的に認められたからといって,個別の被爆者についての各申請疾病が放射線以外の危険因子によって発症した可能性は何ら否定されるものではないから,本件に するものではない。すなわち,上記のような関係が疫学的に認められたからといって,個別の被爆者についての各申請疾病が放射線以外の危険因子によって発症した可能性は何ら否定されるものではないから,本件においても,危険因子について実質的な評価検討を行うべきである。 危険因子の評価検討の位置づけ放射線起因性の判断において,ある疾病と放射線被曝との間に関連性があることを示す統計学的,疫学的知見等は,その判断における事実的因果関係を肯定する方向に働く経験則の一つと位置付けられるが,その性格上,因果関係肯定の蓋然性があることを示すものでしかありえない。 そうすると,放射線起因性の判断は,放射線被曝に特異的ではない疾病が問題になっている場合にあっては,当該疾病の発症を招来する可能性のある放射線被曝以外の一般的な発症原因(危険因子)についての評価検討が必要であり,上記知見等が示す放射線被曝と疾病との関連性の程度が低ければ,より強く,他の危険因子により発症した合理的可能性が問題になるといわざるを得ない。 このように他の原因が審理の対象となる場合,控訴人としては,反証として,当該疾病の発症が専ら他原因によるものではないかとの疑いを 抱かせる程度の立証をすれば足り,これに対して,被控訴人が本証として,他原因の不存在を高度の蓋然性をもって立証する必要があるものと解される。 被控訴人の慢性心不全の放射線起因性(争点2)についてア被控訴人の放射線被曝について 被控訴人の被爆態様等原判決で認定された事実関係によっても,被控訴人は,爆心地から約4.2キロメートルという遠く離れた地点で被爆したものであって,初期放射線による被曝の程度は僅かであり,爆心地から約500メートル地点まで入市したのも原爆投下4日後のことであって,誘導 爆心地から約4.2キロメートルという遠く離れた地点で被爆したものであって,初期放射線による被曝の程度は僅かであり,爆心地から約500メートル地点まで入市したのも原爆投下4日後のことであって,誘導放射線による被曝の程度も僅かであり,また,被控訴人には,急性放射線症候群とみられる身体症状が現われていなかったのはもちろん,一般的な下痢や脱毛等の身体症状の発現さえも認められないから,被控訴人の放射線の被曝の程度は僅かであって,0.5グレイを上回るような被曝を受けたとは認められない。 放射線による侵襲の影響を受けやすい素地原判決は,「(被控訴人は)頑健な体質ではないことや,原爆症認定の対象となった胃がんと大腸がんに罹患していることに照らすと,放射線による侵襲の影響を受けやすい素地があることがうかがわれ」と判示しているが,これを,放射線の影響で治癒能力が低下していたというように放射線の影響そのものにつき認定したものと解するのは,放射線による侵襲の影響を受けやすい素地という不明確な概念を用いて安易に放射線起因性を認めるもので正当とはいえない。被控訴人は胃がんと大腸がんについて原爆症認定を受けているが,後述のとおり,そのことは,必ずしも,これら疾病が放射線被曝に起因するものであったことを意味するわけではないし,頑健な体質でないことという事情があれば,放射 線の影響を受けやすいといった科学的知見は見当たらず,それを裏付ける科学的根拠も示されていないから,放射線の影響で治癒能力が低下していたというように放射線の影響そのものを認めることはできないというべきである。 胃がんと大腸かんの原爆症認定被控訴人の胃がん及び大腸がんは,いずれも現行の新審査の方針により,被控訴人の入市状況が同方針の積極認定の範囲に含まれることとな とはできないというべきである。 胃がんと大腸かんの原爆症認定被控訴人の胃がん及び大腸がんは,いずれも現行の新審査の方針により,被控訴人の入市状況が同方針の積極認定の範囲に含まれることとなって,原爆症認定されるに至ったものであり,同方針は,被爆者救済及び審査の迅速化の見地から,放射線被曝による健康影響が必ずしも明らかでない範囲も含めたものであることから,同方針に従って原爆症と行政認定されたからといって,必ずしも放射線被曝による健康影響が科学的に認められる程度の被曝をしていたとはいえない。また,胃がん及び大腸がんといった固形がんについては,しきい値がないと考えられており,そうすると,被曝の程度が小さくとも,固形がんが発症し得ると考えられるが,心筋梗塞については,0.5グレイを下回る放射線被曝との間では有意な関連性があるとは考えられていないから,この点でも,被控訴人が胃がんと大腸がんに罹患していることを根拠に,慢性心不全(狭心症)についても放射線被曝による影響を受け得る程度の被曝を受けていたということはできない。 イ被控訴人の慢性心不全(狭心症)について 診断基準から安定狭心症とみられること上記⑴ウのとおり,心筋梗塞へと進行する不安定狭心症と進行しない安定狭心症とは,その発生機序及び病態が異なり,医学的に全く異なる疾病というべきであるところ,不安定狭心症を識別する最も一般的な診断基準とされる「ブラウンワールドの診断基準」には,重症度の分類として,①最近2カ月以内に発症した狭心症で1日3回以上発作が頻発 するか,軽労作で発作が起きる増悪型労作狭心症,②最近1か月以内に1回以上の安静狭心症があるが,48時間以内に発作を認めない亜急性安静狭心症,③48時間以内に1回以上の安静時発作を認める急性安静狭心症 か,軽労作で発作が起きる増悪型労作狭心症,②最近1か月以内に1回以上の安静狭心症があるが,48時間以内に発作を認めない亜急性安静狭心症,③48時間以内に1回以上の安静時発作を認める急性安静狭心症のいずれかであることが示されており,同基準は,不安定狭心症が生死にかかわる疾病であることから,不安定狭心症患者を見落とすことがないよう,安定狭心症である可能性がある患者も含めて,重症度の分類として拾い上げるよう設定されている。 そして,被控訴人は,上記①~③のいずれにも当てはまらないのであり,これに当てはまらない以上,不安定狭心症である可能性は認められない。 診療経過から安定狭心症とみられること被控訴人は,平成21年から24年にかけて,合計7回にわたり,武蔵野赤十字病院に入院しているが,不安定狭心症と診断すべき特徴的な症状である①安静時胸痛や呼吸困難の出現,②胸部症状出現しきい値の低下,③症状の強度の増加についていずれも認められておらず,「不安定狭心症」と診断されたことは一度もない。むしろ,平成22年7月頃から労作時の胸痛を自覚しており,胸痛は「早足で歩く」時や「重いものを持つ」時に再現性があり,典型的な安定狭心症である労作性狭心症を疑われている。 また,上記入院に際しては,①抗狭心症薬又は抗凝固薬の持続点滴,②緊急カテーテル検査・ステント治療といった,担当医師が不安定狭心症を疑った場合に行う治療行為がされておらず,かえって,安定狭心症を念頭においた待機的な検査・治療が行われている。被控訴人が平成23年3月5日に急性うっ血性心不全で緊急入院した時も,冠動脈カテーテル検査が行われたのは入院4日目の同月9日であり,経皮的冠動脈形成術が行われたのは入院9日目の同月14日であった。 さらに,被控訴人に対しては,平成2 全で緊急入院した時も,冠動脈カテーテル検査が行われたのは入院4日目の同月9日であり,経皮的冠動脈形成術が行われたのは入院9日目の同月14日であった。 さらに,被控訴人に対しては,平成20年12月から平成22年11月までの間に,不安定狭心症の疑いがある場合や不安定狭心症と診断された場合には禁忌とされている負荷心筋核医学検査が繰り返し施行されている。 不安定狭心症は,不安定プラークが破綻すると,血栓による冠動脈の狭窄・閉塞が急速に進行し,急性心筋梗塞や突然死のおそれがあることから,臨床医としては,不安定狭心症が疑われた場合は,患者を緊急入院させ,迅速な検査及び治療を施す必要があるとされ,他方,安定狭心症は,入院の時期を患者側の都合も考慮しながら決めてよいとされるところ,上記の診療経過をみると,少なくとも被控訴人の治療を担当した医師は,被控訴人の狭心症を安定狭心症と認識していたこと明らかである。 不安定狭心症とみる見解が誤っていること原判決は,被控訴人の一部の冠動脈の狭窄率が90パーセントにも達していることを根拠とし,安静時冠血流量にも問題があるから,不安定狭心症であると判断しているが,これは,安静時に冠血流量が低下しているかどうかだけに着目するもので,不安定狭心症の発生機序や病態を考えていない点で正当ではない。不安定狭心症は,冠動脈内に血栓が急激に形成されて冠動脈内腔の狭窄が生じるという機序が特徴的なのであり,冠動脈の狭窄度は問わないのであって,被控訴人の狭窄率が90パーセントであったことは,必ずしも不安定狭心症であることを意味しないから,狭窄率を根拠に被控訴人の狭心症が不安定狭心症であるとするのは正当とはいえない。 また,A医師は,原審において,「ステント手術も受け,ペースメーカーも装着し,そして最終的にはバ を意味しないから,狭窄率を根拠に被控訴人の狭心症が不安定狭心症であるとするのは正当とはいえない。 また,A医師は,原審において,「ステント手術も受け,ペースメーカーも装着し,そして最終的にはバイパス手術まで受けている」ことを根拠に,安定狭心症とみることはできないと証言するが,ステント手術 (経皮的冠動脈形成術)やバイパス手術(冠動脈バイパス術)は,プラークの破綻を伴わない,動脈硬化の進行により高度の冠動脈狭窄が生じた安定労作狭心症の治療方法としても一般的に行われているものであるし,ペースメーカーは,洞不全症候群や房室伝導障害といった不整脈の治療に用いられるものであり,狭心症や心筋梗塞の直接的な治療として用いられるものではないから,被控訴人に対して,上記の各治療が行われていることをもって,安定狭心症とみることはできないと判断することも正当とはいえない。 ウ被控訴人における危険因子について被控訴人の慢性心不全は,以下のとおり,原爆放射線以外の危険因子が原因となって発症したものとして合理的に説明できる。 高血圧被控訴人は,遅くとも平成7年10月には,収縮期血圧が140mmHgを超える高血圧の状態となり,平成20年までは,ほとんどの診察時に収縮期血圧が基準値である140mmHg以上だったものである。 また,平成18年4月の心臓超音波検査で,左室肥大を指摘され,平成20年11月の同検査でも,左室肥大を指摘されているところ,左室肥大は高血圧の重症度を示す所見であるから,被控訴人は少なくとも平成18年には左室肥大を来すほどに,長期にわたり高血圧に罹患したというべきである。そして,高血圧症を来した原因は,被控訴人の塩分過多の食習慣や家族歴(遺伝)であると考えられるものである。 高血圧により血管の壁や心臓へ圧力がかかると,血 にわたり高血圧に罹患したというべきである。そして,高血圧症を来した原因は,被控訴人の塩分過多の食習慣や家族歴(遺伝)であると考えられるものである。 高血圧により血管の壁や心臓へ圧力がかかると,血管や心臓の形態に変化が生じて,血管内膜を傷害して粥腫(アテローム)の形成に影響を与えたり,心肥大により心筋がより多くの酸素を必要とするようになって,虚血性心疾患を起こしやすくなったりすると考えられ,疫学的にも高血圧症が虚血性心疾患に影響を及ぼすことが報告されている。 糖尿病被控訴人の空腹時血糖は,平成12年4月に135mg/dl,同年6月に140mg/dlといずれも高値を示しており,遅くとも平成12年8月2日時点で,糖尿病の通院治療を受けていた。被控訴人の平成14年6月から平成18年8月までの間について,糖尿病の血糖コントロールの指標であるHbA1c(JDS)値でみると,血糖コントロールが良好とされる6.5%を概ね超えており,良好なコントロールが行われていなかった。 近年,糖尿病と診断されていなくても,耐糖能異常(境界型糖尿病)が存在するだけで,十分な冠動脈リスクになり得ることが認知されており,冠動脈の動脈硬化を抑制するためには,HbA1c値を相当程度の低値に保つ必要があるとされ,耐糖能異常の者の脳卒中を含めた血管疾病の危険率は正常耐糖能者より有意に高いとされている。 肥満被控訴人は,平成3年2月時点で,肥満度を示すBMI値が25.8であり,その後も,概ねBMI値は肥満の指標とされている25を超えており,長期にわたり肥満の状態にあった。 欧米諸国で行われた大規模疫学試験の結果,体重と心血管疾病発症には関連があると報告されており,わが国でもBMI値が25ではBMI値が22に対して,冠動脈疾患を含めた健康障 たり肥満の状態にあった。 欧米諸国で行われた大規模疫学試験の結果,体重と心血管疾病発症には関連があると報告されており,わが国でもBMI値が25ではBMI値が22に対して,冠動脈疾患を含めた健康障害についての相対危険度が約2倍上昇することが報告されている。 加齢血流が血管壁への圧力などの負荷を長年にわたり徐々に与えることによる影響を無視することはできず,冠動脈のみならず全身の動脈において,加齢により動脈硬化性の変化が認められることは極めて一般的であって,加齢による動脈硬化の進展は,病理学的に明らかである。虚血性 心疾患の発症が高齢者において圧倒的に多く,特に70歳以降でその発症率がピークとなるとされている。 被控訴人が冠動脈造影検査において虚血性心疾患と診断されたのは,平成21年1月であり,当時75歳であった。年齢的に狭心症を発症するに十分なリスクを有しており,他の要因と複合することで容易に虚血性心疾患を発症し得る状態であったといえる。 睡眠時無呼吸症候群被控訴人には,平成21年8月以降,睡眠時無呼吸症候群の治療であるCPAP(持続式陽圧呼吸療法)が開始されており,その頃には被控訴人は睡眠時無呼吸症候群であったといえ,同症候群は突然に発症するものではないから,それより相当以前から睡眠時無呼吸症候群に罹患していたとみられる。 慢性虚血性心疾患の患者が睡眠時無呼吸症候群を併せて有する合併頻度は約35ないし40パーセント程度であり,少なくとも睡眠時無呼吸症候群を有する者は慢性虚血性心疾患に罹患している可能性が高く,睡眠時無呼吸症候群を有している者は,有していない者と比較して,慢性虚血性心疾患の罹患リスクが高いといえる。 喫煙被控訴人は,20歳から39歳又は49歳に至るまで,1日15ないし20本程 ,睡眠時無呼吸症候群を有している者は,有していない者と比較して,慢性虚血性心疾患の罹患リスクが高いといえる。 喫煙被控訴人は,20歳から39歳又は49歳に至るまで,1日15ないし20本程度の喫煙をしていたものであり,狭心症発症以前に長期にわたる喫煙習慣を有していたものである。 そして,たばこに含まれる一酸化炭素は,組織酸素欠乏を生じさせて,動脈硬化を促進させ,また,活性酸素は,細胞の酸化過程や炎症に関与し,冠動脈の内皮細胞を傷害し,虚血性心疾患を進行させるものとされており,喫煙が冠動脈疾患に与える影響に関する病理学的機序は確立している。また,疫学的研究によっても,1日1~25本喫煙した場合の 虚血性心疾患の相対危険率は2.1であり,25本以上では2.9となるなどとされている。 なお,禁煙による虚血性心疾患死亡の相対危険度は,喫煙を続けている場合を1とすると,禁煙して1~4年で0.6,禁煙して10~14年では0.5に減少するという研究結果の報告もあり,禁煙により過去の喫煙による影響が軽減若しくは消失するとされている。しかしながら,喫煙が血管に与える影響,すなわち,喫煙により血管の内皮が傷害され,粥腫(アテローム)が形成されるという喫煙がもたらした影響が禁煙により消失するとは考えにくい。既に形成された血管内の粥腫が消失するという報告はこれまでされていないものである。それゆえ,既に長期間の喫煙によって粥腫が形成されていた場合に,それによる虚血性心疾患の発症のリスクが,その後の禁煙により完全になくなるとは考えがたい。 被控訴人も,狭心症の発症以前に長期間にわたり喫煙をしていたものであるから,当該喫煙によって既に冠動脈に粥腫が生じており,その後の他の危険因子と相まって,当該粥腫が増悪し,狭心症に至ったものと考えることが も,狭心症の発症以前に長期間にわたり喫煙をしていたものであるから,当該喫煙によって既に冠動脈に粥腫が生じており,その後の他の危険因子と相まって,当該粥腫が増悪し,狭心症に至ったものと考えることができる。 重畳的な危険因子虚血性心疾患について,危険因子が複数存在すればするほど,動脈硬化が加速的に速まることが医学的知見として判明しており,総コレステロールに高血圧,喫煙,耐糖能異常(糖尿病),さらに心電図異常(左室肥大)が加わるにつれ,心筋梗塞や狭心症などの心疾患の頻度が高くなっていくとする研究結果もある。 被控訴人の上記各危険因子を見ると,75歳という高齢に加えて,心室壁肥大を伴う長期間の高血圧,糖尿病,肥満,睡眠時無呼吸症候群及び喫煙という危険因子を有していたものであるから,被控訴人が仮に被爆者でなかったとしても,その狭心症の発症時に,上記各危険因子によ り同様に狭心症が発症していたと考えて,医学的に見て何らの不自然不合理はない。 7 当審における被控訴人の主張原爆症認定に係る放射線起因性の判断基準(争点1)についてア判断の枠組みについて原判決は,「経験則に照らして全証拠を総合検討し,原子爆弾の放射線が申請者である被爆者の負傷又は疾病等を招来した関係を,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものとして是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かによって,放射線起因性の要件が認められるか否かを判定すべきものである。」と判示するところ,昭和53年3月30日及び平成12年7月18日の各最高裁判決に表れている「被爆者援護法の趣旨」に照らせば,ここでの「高度の蓋然性」又は「通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るもの」という要件の解釈を行う際には,科学的な知見が未解明であることを前提と る「被爆者援護法の趣旨」に照らせば,ここでの「高度の蓋然性」又は「通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るもの」という要件の解釈を行う際には,科学的な知見が未解明であることを前提として,厳密な科学的知見のみに基づいて行うのではなく,すなわち未解明な部分を安易に切り捨てるのではなく,被爆者救済のために作られた法の趣旨に則って,被爆者を幅広く救済する方向で行われるべきものである。 イ申請者の放射線への被曝の程度について被爆者の受けた身体に影響を与える被曝線量を評価するには,初期放射線被曝のみならず,放射性降下物や誘導放射化物質による残留放射線からの被曝線量を評価しなければならず,その際には外部被曝に加えて内部被曝の線量も評価しなければならないが,残留放射線については,核爆発によって多種多様な放射性物質が生成され,それらがそれぞれの性質により異なった挙動をすることから,未だ確定的な知見は存在しない。原爆の放射線による人体影響を評価するには,被爆者が受けた線量を評価する必要があるが,現在まで,正確な評価がされていないという事実こそが問題な のである。 例えば,㋐原爆爆発により膨大な量の核分裂生成物が生じ,大量の放射性降下物が爆心から少なくとも3.5キロメートルを遥かに超えた範囲に降り注いだこと,㋑原爆爆発後100時間あるいは1週間の時点では,放射性降下物(核分裂生成物)の放射性強度は投下直後に比べてさほど減少していないとも指摘されていること,㋒生活の場であった広島・長崎両市においては,初期放射線により誘導放射化された放射性物質も多量であったこと,㋓誘導放射化物質の全てが極短半減期ともいえないこと,㋔誘導放射化した放射性物質が衝撃波・爆風によって遠方へ飛散し(放射性粉塵),この放射性粉塵も放射線被曝の原 された放射性物質も多量であったこと,㋓誘導放射化物質の全てが極短半減期ともいえないこと,㋔誘導放射化した放射性物質が衝撃波・爆風によって遠方へ飛散し(放射性粉塵),この放射性粉塵も放射線被曝の原因となったこと,㋕残留放射線による内部被曝では数センチメートルか数メートルの飛距離しかないα線やβ線であっても確実に被曝してしまうこと等に照らせば,被曝線量の評価においては,これを過小に評価することがないよう留意しなくてはならず,現行の新審査の方針が定めた距離や時間にも縛られずに,柔軟な評価を行うべきである。 ウ心筋梗塞及び狭心症と放射線被曝との一般的な関連性の有無及び程度について心筋梗塞と放射線被曝との関連性心筋梗塞については,放射線被曝との関連性を肯定する疫学的知見が集積されているといえるし,このことを踏まえて,現行の新審査の方針が策定されたものである。そして,UNSCEAR報告及びICRP勧告は,循環器疾患や心疾患と放射線被曝との関係について関連性を認めているところ,放射線被曝の影響を検証しようとする場合,被爆者の心臓に生じた病態を細分化することは,むしろその影響を過小評価することになりかねない。原爆被爆者の例数が限られており,病名を細分化すれば,必然的に個々の事例数が時に過小となり,被曝線量とリスクの関 係が検出し難くなるし,医学の進歩により,例えば,かつては心筋梗塞に至らしめた病態が,そこまでは至らずに心不全や高血圧性疾患の方の死亡率増加に反映されるようなことにもなっているから,放射線被曝の影響を適正に検出しようとする場合,「心疾患」という項目のような被爆者の心臓に生じた病態を全体として捉えることこそが有意義なのである。 心筋梗塞のしきい値控訴人は,心筋梗塞を含む心疾患について,少なく うとする場合,「心疾患」という項目のような被爆者の心臓に生じた病態を全体として捉えることこそが有意義なのである。 心筋梗塞のしきい値控訴人は,心筋梗塞を含む心疾患について,少なくとも0.5グレイを上回る放射線被曝を受けた場合にのみ関連性が認められるとして,0. 5グレイをしきい値とみるべきと主張するが,近年の清水論文(甲A614の7,甲A682の7)などの研究報告によれば,循環器疾患に対する放射線の影響にはしきい値がないことが示唆されており,海外の報告書でも同旨の見解がみられ,動物実験のデータによっても低線量被曝での心臓血管系の有害な作用が報告されており,これらの知見を踏まえれば,心疾患についても,固形がんと同様,しきい値がないものと考えるのが相当である。 放射線被曝と狭心症との関連性a 安定狭心症と不安定狭心症との区別控訴人は,狭心症には,安定狭心症と不安定狭心症とがあり,両者は発生機序も病態も全く異なるものであって,不安定狭心症は心筋梗塞と発生機序を同じくするのに対し,安定狭心症は心筋梗塞とは全く異なる疾病であって,安定狭心症が増悪しても心筋梗塞を発症することはないなどと主張するが,安定狭心症と不安定狭心症との区別は,「臨床経過の観点での分類」とされており,全く異なる疾病などということはなく,安定狭心症を引き起こす「安定プラーク」と不安定狭心症を引き起こす「不安定プラーク」とは,それぞれ独立したもので はなく,動脈硬化進展の過程の差か,または脂質代謝などの影響によりいずれかが形成されるものと考えられ,双方のプラークが同一例の同じ冠動脈枝の違った部位又は別の冠動脈枝に生じることも稀ではないし,安定プラークも病変が進むと破綻して血栓閉塞により血流を遮断するに至るとされているのであって,安定狭心症 双方のプラークが同一例の同じ冠動脈枝の違った部位又は別の冠動脈枝に生じることも稀ではないし,安定プラークも病変が進むと破綻して血栓閉塞により血流を遮断するに至るとされているのであって,安定狭心症と不安定狭心症とを異なる疾病と捉えるのは誤っている。 b 放射線被曝と狭心症との関連性心筋梗塞,不安定狭心症及び安定狭心症のいずれもが動脈硬化に起因する疾患であるところ(乙D①45,66(B意見書,B補充意見書)),この心筋梗塞と狭心症に共通の原因である動脈硬化と放射線被曝との関係については,動脈硬化の指標である大動脈弓の石灰化や脈波伝播速度(PWV)について,放射線被曝との関連性を示す研究結果が出されていること,近距離被爆者で特に10歳未満で被爆した男性の若年被爆者に頸動脈内膜中膜複合厚(IMT)の肥厚が強い傾向があるとの報告もあることなどから,放射線被曝が動脈硬化自体に関与していることが認められる。 ⒝ 心筋梗塞,狭心症といった虚血性心疾患,その原因である動脈硬化については,それらが発症する危険因子として高血圧,高コレステロール及び糖尿病等が挙げられているが,これら各危険因子についても,血圧につき,放射線被曝による有意な血圧上昇が報告されているし,コレステロールにつき,コレステロール増加と被曝との線量反応関係が報告されているし,糖尿病につき,高線量被爆者集団の糖尿病の頻度が非被爆者集団に比べて有意に高かったとか,治療のために放射線を照射した患者に糖尿病のリスクが有意に増加したとかという報告もされているから,放射線被曝がこれら危険因子を発生させ,それによって動脈硬化,狭心症, そして心筋梗塞が発生させられているということができる。 ⒞ 放射線被曝と炎症反応については,いくつかの炎症マーカーに関して統計的に有意な線量影 を発生させ,それによって動脈硬化,狭心症, そして心筋梗塞が発生させられているということができる。 ⒞ 放射線被曝と炎症反応については,いくつかの炎症マーカーに関して統計的に有意な線量影響関係が認められ,細胞性免疫に関与するCD4T細胞が減少する負の相関関係が認められるという報告もあり,これら炎症反応と心筋梗塞の発症との間にも有意な関連性があることから,被爆者に認められる心筋梗塞などの心血管疾患の発症に炎症反応が重要な役割を果たしているという知見があり,放射線被曝が炎症反応を発生させ,それによって心筋梗塞などの心疾患が発生させられているということができる。 エ現行の新審査の方針の内容を踏まえた検討について現行の新審査の方針現行の新審査の方針においては,放射線起因性の要件である「高度の蓋然性」について「現在の科学的知見として放射線被曝による健康影響を肯定できる範囲に加え,放射線被曝による健康影響が必ずしも明らかでない範囲を含めて」検討されなければならないのであり,厚生労働省による原爆症の認定実務も,上記のような被爆者援護法の解釈に則り「放射線起因性」の有無が判断されており,一定の被爆距離や入市時間の範囲にある限り,ほとんど全ての申請者が他原因の有無にかかわらず認定されているという実態がある。 上記の方針の積極認定の対象や範囲から外れた場合上記のような現行の新審査の基準の位置づけや行政認定の実態に照らせば,個々の被爆者について,現行の新審査の方針が定める積極認定の対象(疾病カテゴリ)に該当しない,あるいは積極認定の範囲(被爆距離や入市時間)に該当しないという場合であっても,現行の新審査の方針は原爆症認定判断のいわば目安であって,同方針の積極認定の対象や範囲にこだわらず,当該被爆者の被爆状況や罹患した疾病の性 囲(被爆距離や入市時間)に該当しないという場合であっても,現行の新審査の方針は原爆症認定判断のいわば目安であって,同方針の積極認定の対象や範囲にこだわらず,当該被爆者の被爆状況や罹患した疾病の性質等を個 別具体的に検討して,前述した最高裁判決に表れている判断枠組みを踏まえて,総合評価により柔軟に認定すべきである。控訴人が積極認定の対象や範囲から外れた場合に,本則に戻るべきと述べて,その言葉のそのままに「高度の蓋然性」を求めるのは誤りというほかない。 オ放射線起因性の有無についての総合的な判断材料について心筋梗塞にしろ,狭心症にしろ,放射線に起因する場合に特異的な症状等を持っているわけではなく,一般に見られる疾病と全く同じ症状であり,その疾病の発症にかかわる要因は放射線以外にも複数あることもあるのであって,それらの要因が互いに関連しあって相乗効果を示しながら疾病が発症し進展することがある。そのような実態に照らせば,他の発症原因と共同関係があったとしても,特段の事情がなければ,同疾病発生の放射線起因性は否定されるべきではない。 そして,疫学的知見においても,循環器疾患に関係する危険因子(肥満,糖尿病,喫煙,飲酒等)を調整しても,放射線と循環器疾患との関係性にはほとんど影響はなかったとされており,肥満,糖尿病,喫煙,飲酒等の交絡因子を考慮しても放射線起因性があることは明らかである。 なお,原判決がいう「専ら原子爆弾放射線以外の原因によって発症したことを疑わせる事情がないか」を検討する場合であっても,控訴人の主張するように,控訴人が専ら他原因によるものではないかとの疑いを抱かせる程度の立証をすれば足り,被控訴人が他原因の不存在を高度の蓋然性をもって立証する必要があるという考え方は,被爆者援護法の趣旨を没却したものである。 が専ら他原因によるものではないかとの疑いを抱かせる程度の立証をすれば足り,被控訴人が他原因の不存在を高度の蓋然性をもって立証する必要があるという考え方は,被爆者援護法の趣旨を没却したものである。 被控訴人の慢性心不全の放射線起因性(争点2)についてア被控訴人の放射線被曝について被控訴人の被爆態様等被控訴人は,爆心地から約4.2キロメートルの地点で被爆し,その 直後に,焼け焦げたものや白い雨を浴びており,放射性降下物や飛散した誘導放射化物質による被曝をしている。また,当日午後に爆心地から3キロメートルの市役所付近まで行き,8月13日には兄に連れられて爆心地から約500メートルの地点まで入市し,壊れた水道の蛇口から水を飲むなどしており,残留放射線に被曝している上,内部被曝もしている。さらに,この間,爆心地から800メートル付近で被爆した兄と接触し,兄に付着した放射性物質や誘導放射化物質による放射線にも被曝していたといえる。このような被爆態様によれば,被控訴人が控訴人の試算を上回る線量の放射線に被曝していたことが優に推認できるというべきである。 被控訴人の体調等被控訴人は,被爆当時12歳の少年であり,放影研やUNSCEARその他の知見によっても,若年被爆者ほど放射線から受ける影響が大きいとされていることに照らしても,被控訴人において放射線被曝の影響は大きかったものといえる。 また,被控訴人は,高校進学後に湿性肋膜炎と肺湿潤を発病し,昭和26年に大学進学で上京した後も,扁桃腺が腫れて40度の熱を出し10日くらい寝込むことが断続し,昭和31年に就職して間もなくに赤痢で隔離入院することがあるなど,被爆後に体調の異変が生じており,さらに下って,昭和50年代後半頃には糖尿病の疑いがあるとされ,平成7年 日くらい寝込むことが断続し,昭和31年に就職して間もなくに赤痢で隔離入院することがあるなど,被爆後に体調の異変が生じており,さらに下って,昭和50年代後半頃には糖尿病の疑いがあるとされ,平成7年には大腸ポリープが見付かり,大量の下血もし,平成14年には胃がんが見付かり,平成18年には脳梗塞と診断され,その後,本件の慢性心不全と診断されるに至り,さらに平成25年には大腸がんが見つかった。被爆者には全般的な多疾病傾向がみられることが報告されていることに照らせば,このように,がんやその他の疾病が多発していることは,被控訴人に原爆放射線による治癒能力への影響が表れていることを 推認させるものといえる。 さらに,被控訴人が原爆症認定の対象となった胃がんと大腸がんに罹患していたことからも,被控訴人が健康に影響を受ける程度の放射線被曝をしていたことは明らかである。 イ被控訴人の慢性心不全(狭心症)について不安定狭心症に当たりうることそもそも,前述したように,安定狭心症と不安定狭心症とは異なる疾病ではなく,「臨床経過に基づく分類」であり,両者は狭心症の全過程の一時期を表す病型といえ,不安定狭心症は自然経過又は治療によって安定化し得るし,安定狭心症も不安定化し得るものである。「ブラウンワールドの診断基準」も,不安定狭心症だけではなく,冠攣縮性狭心症や高度の安定狭心症をも選り分けるものであるし,不安定狭心症の重症度診断に同基準が用いられるとされてもいるから,これに該当しないことが不安定狭心症に当たらないということにはならない。 診断経過から不安定狭心症とみられること被控訴人は,平成23年3月5日,武蔵野赤十字病院を救急受診し,「CHF(心不全)」,「IHD(虚血性心疾患)」と診断されたが,初診時に,発熱があり,胸痛もあり, 過から不安定狭心症とみられること被控訴人は,平成23年3月5日,武蔵野赤十字病院を救急受診し,「CHF(心不全)」,「IHD(虚血性心疾患)」と診断されたが,初診時に,発熱があり,胸痛もあり,クレアチンキナーゼMBという心筋傷害マーカーの値が正常値を大きく超えて上昇していたところ,同日22時の再検査では,同マーカーの値は一定程度下がったことから,担当医は,右冠動脈にイベントを否定し得ないが,胸痛が消え,同マーカー値がピークを過ぎているので,同日に冠動脈形成術(PCI)を行うのではなく,解熱後に冠動脈造影を行うこととし,同月9日に造影した結果,冠動脈の狭窄が99%に達している部分があることが判明したことから,同月14日にPCI施術を実施したものである。このように,被控訴人の症状は,心筋傷害が起こっていたことがうかがわれ,心筋梗 塞の一歩手前の状況であったこと,担当医が直ちにPCIを行うことも想定するような状況であったこと,その狭窄の程度が99%と著しいものであったことに照らせば,不安定狭心症であったとみることができ,急性冠症候群を発症していたというべきである。 安定狭心症とみると整合しないこと安定狭心症では,時間をかけてゆっくりと,コレステロール成分の少ない(脂質コアが極めて小さい)膠原繊維成分に富む線維性プラークが肥厚することで形成されるとされるところ(乙D①45(B意見書)),被控訴人にあっては,平成21年3月の冠動脈形成術の後,同年12月の造影検査では再狭窄の所見はなかったのに,平成22年12月の造影検査で再狭窄があり,同月に冠動脈形成術が行われ,平成23年3月の造影検査で再狭窄があり,同月に冠動脈形成術が行われ,同年4月の造影検査で再び狭窄が見付かり,5月に冠動脈形成術が行われ,8月のフォローアップの造影 り,同月に冠動脈形成術が行われ,平成23年3月の造影検査で再狭窄があり,同月に冠動脈形成術が行われ,同年4月の造影検査で再び狭窄が見付かり,5月に冠動脈形成術が行われ,8月のフォローアップの造影検査で4回目の再狭窄が見付かったというものであり,短期間に狭窄を繰り返していることに照らすと,上記のような安定プラークの生成過程とは整合しないといわなくてはならない。 ウ被控訴人における危険因子について控訴人は,被控訴人における慢性心不全の危険因子として,高血圧,糖尿病,肥満,加齢,睡眠時無呼吸症候群,喫煙を挙げるが,高血圧も,糖尿病も,肥満を含むメタボリック症候群も,加齢による自然老化の促進も,いずれもそれ自体が放射線被曝と関連性を有するものであって,原爆放射線以外の危険因子とはいえないし,睡眠時無呼吸症候群は,それ自体が虚血性心疾患に影響を及ぼすのか,同症候群の発症に寄与する因子が虚血性心疾患にも影響を及ぼすのかが判明していないから,危険因子であるとはいえないし,喫煙については,被控訴人は既に禁煙をしてから30年ないし40年が経っており,それほど以前の喫煙に狭心症の原因を求めること ができるとは到底考えられない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被控訴人の請求には理由があると判断する。その理由は,以下のとおりである。 2 争点1(原爆症認定に係る放射線起因性の判断基準)について判断の枠組みについて被爆者援護法10条1項の放射線起因性の要件を満たすかどうか,すなわち,原子爆弾の放射線と申請疾病の発症との間に因果関係が認められるかどうかに係る判断の枠組みについては,原判決の「事実及び理由」の第3の1の⑴のとおりであるから,これを引用する。 なお,上記の判断の枠組みについて,控訴人は,基本的に相当であると 関係が認められるかどうかに係る判断の枠組みについては,原判決の「事実及び理由」の第3の1の⑴のとおりであるから,これを引用する。 なお,上記の判断の枠組みについて,控訴人は,基本的に相当であると主張し,被控訴人は,「高度の蓋然性」等の要件の解釈を行う際には,被爆者援護法の趣旨に則って,被爆者を幅広く救済する方向で行われるべきである旨主張するが,上記原判決引用部分に説示のとおりであって,これを見直す必要はないものと考える。 申請者の放射線への被曝の程度について申請者の放射線への被曝の程度については,原判決130頁16行目の「不一」を「不一致」に改めるほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の1の⑵のとおりであるから,これを引用する。 なお,控訴人は,この点につき,科学的,合理的根拠なしに,いたずらに被曝の程度を過大視することは相当とはいえず,DS02は科学的緻密性及び厳密性の見地から信頼性が高く,放射性降下物及び誘導放射線の被曝線量に占める割合は一般化できるほど大きくなく,内部被曝の影響は人体の健康への影響という観点から重視する必要がないものである旨主張するが,上記原判決引用部分に説示のとおりであって,初期放射線による被曝についても,DS02を基本とする放射線被曝の程度の推定は,遠距離被爆者に関しては, その影響を過小評価することとなる点を考慮すべきであるし,放射性降下物や誘導放射化物質による放射線被曝線量についても,これらがおよそ健康に対して影響を与える程度のものではないとはいえないし,内部被曝線量についても,これが人体の健康への影響から重視する必要がないものであるとはいい切れないものであり,個々の被爆者についての被曝の程度を検討するに当たっては,これらを踏まえた上で,それぞれの被爆時の状況,それに続く原子爆弾投下 康への影響から重視する必要がないものであるとはいい切れないものであり,個々の被爆者についての被曝の程度を検討するに当たっては,これらを踏まえた上で,それぞれの被爆時の状況,それに続く原子爆弾投下直後の時期における行動及び負傷等の状況その他の様々な事実関係に基づいて行うのが相当であるというべきである。 心筋梗塞及び狭心症と放射線被曝との一般的な関連性の有無及び程度についてア疾病の概要疾病の概要については,原判決の「事実及び理由」の第3の1の⑶イのとおりであるから,これを引用する。 イ心筋梗塞と放射線被曝との関連性に関する知見について心筋梗塞を含む心疾患の発症と原子爆弾放射線を含む放射線被曝との関連性については,統計学的な関連性の分析を基礎とした疫学的な研究等が行われ,次のような各知見が存在することが認められる。 ① 1984年(昭和59年)のICRPの報告書(「電離放射線の非確率的影響」(甲A284))には,すべての臓器の血管は40~60グレイの線量で変化を起こし,変化の種類と時期は問題とする組織に依存すること,一般に,血管の透過性と血流は反応の初期に増加を示す傾向にあり,その後数か月以内に内皮細胞の変性,基底膜の肥厚,そして徐々に硬化症を起こすこと,血管の典型的な晩発性の変化には,巣状の内皮増殖,壁の肥厚,内腔の狭細化及び血流の低下があり,これらの変化は普通,動脈と細動脈の蛇行,平滑筋の萎縮,動脈壁の弾性成分の変性,及び巣状の血管狭窄と拡張を伴うことなどの報告がされていた。 ② 1992年(平成4年)の「原爆放射線の人体影響1992」(放射線被爆者医療国際協力推進協議会編(甲A37,乙B6))には,放射線一般と循環器疾患の関係について,それまでは心・血管系は電離放射線に対して比較的抵抗性があると考 爆放射線の人体影響1992」(放射線被爆者医療国際協力推進協議会編(甲A37,乙B6))には,放射線一般と循環器疾患の関係について,それまでは心・血管系は電離放射線に対して比較的抵抗性があると考えられていたものが,昭和30年代からがんなどの病気に対する放射線療法に引き続き発症した心筋梗塞及び虚血性心疾患死亡について数多くの臨床的,病理解剖学的症例報告がされ,動物実験によっても電離放射線と血管病変の関係が確認されるに至り,その後の追跡調査により,昭和50年代には,乳がん手術後の患者について,追跡期間5年以降にコバルト60照射群に心筋梗塞死亡の過剰発生を認め,ホジキン氏病患者群の追跡期間1年以降に虚血性心疾患死亡の危険度を増加する結果が見られたこと,これらは,対象の患者群に対する放射線照射において,心臓に対する遮蔽が十分に行われていない時期のもので,被爆線量が莫大であったと考えられ,その後の時期の遮蔽の十分に考慮された放射線療法を受けた患者については,被爆群と対照群との間に,平成4年の時点で虚血性心疾患死亡率に有意差は認められず,更に追跡調査が必要であるとされつつも,大量の心臓への放射線被曝が虚血性心疾患を引き起こす可能性は十分に示唆される調査結果であると総括されていたことなどがまとめられていた。 ③ 1992年(平成4年)の放影研のLSS第11報(清水由紀子らによる「改訂被曝線量(DS86)に基づく癌以外の死因による死亡率1950年-85年」(甲A41文献29,乙D①12))には,昭和35年から同60年の原爆被爆者の循環器疾患による死亡率は,被曝線量との有意な関連を示し,心疾患では全期間で有意な傾向を示したこと,昭和41年から同60年の期間になると,被爆時年齢が低い群(40歳未満)では,循環器疾患全体の死亡率,脳卒中又は心疾患の は,被曝線量との有意な関連を示し,心疾患では全期間で有意な傾向を示したこと,昭和41年から同60年の期間になると,被爆時年齢が低い群(40歳未満)では,循環器疾患全体の死亡率,脳卒中又は心疾患の死亡率は線量と有意な関係を示し,線量反応関係は純粋な二次又は線形-しきい値型 を示したこと,心疾患群のうち最も死亡数が多い冠状動脈性心疾患の死亡率は,同じ期間,同じ被爆時年齢区分の心疾患と同じ傾向を示していること,低線量域では相対リスクの過剰が認められないことなどの報告がされていた。 ④ 1994年(平成6年)のAHS第7報(放影研のWongらによる「原爆被爆者における癌以外の疾病の発生率:1958-86年」(甲A41文献30))には,昭和33年から同61年までに収集されたAHSのコホートの長期データを用いて,悪性腫瘍を除く19の疾患の発生率と電離放射線被曝との関係を調査し,心臓血管系の疾患については,いずれにも有意な線量反応関係は認められなかったが,近年,若年被爆者では心筋梗塞の発生が増加しており,特に最近2,3年はこの傾向がほかの調査でも認められ,今回有意な結果が得られなかったのは症例数の不足のためかもしれないことなどの報告がされていた。 ⑤ 1999年(平成11年)のLSS第12報(放影研の清水由紀子らによる「がん以外の死亡率:1950-1990年」(甲A501資料1の1及び2,乙D①13))には,昭和25年から平成2年までの原爆被爆者のがん以外の疾患による死亡者について解析を行い,放射線との統計的に有意な関係はがん以外の複数の疾病(心臓病,脳卒中,消化器疾患,呼吸器疾患及び造血器系疾患)に見られること,低線量,例えば約0.5シーベルトにおいてどの程度の関連性があるかはまだ不明であるが,影響はもはや最も高い線量域に限らな 病(心臓病,脳卒中,消化器疾患,呼吸器疾患及び造血器系疾患)に見られること,低線量,例えば約0.5シーベルトにおいてどの程度の関連性があるかはまだ不明であるが,影響はもはや最も高い線量域に限らないこと,はっきりした線量反応が爆心から900mから1200mの地点で被爆した対象者にもみられるので,この関連性を偏りや交絡で説明できるとは思えず,LSS郵便調査で得られた危険因子と線量及び死亡率との関連性を解析してもこの結論は裏付けられること,放影研臨床追跡調査の対象者において,心筋梗塞及び脳梗塞ならびにアテローム性動脈硬 化症と高血圧症の様々な指標について有意な線量反応が観察されていること,このような影響に関する機序が解明されていないからといって,機序が存在しないという意味ではないと考えていることなどの報告がされていた。 ⑥ 1999年(平成11年)の放影研報告書17-97(放影研のWongらによる「原爆被爆者の血清総コレステロール値の経時的変化における放射線の影響」(甲A690の3,乙D①35))には,昭和35年から同61年のAHS集団のデータに基づき,原爆被爆者の血清総コレステロール値(TC)の経時的変化における放射線の影響について研究したところ,非被爆者に比べ被爆者では高値を示し,被爆者群と非被爆者群の平均TC値成長曲線の差は統計的に有意であったこと,被爆に伴うTC値の上昇は,被爆者にみられる冠動脈性心疾患の増加について部分的に説明していることなどの報告がされていた。 ⑦ 2002年(平成14年)の放影研報告書9-00(放影研の佐々木英夫らによる「原爆被爆者の血圧に対する加齢及び放射線被曝の影響」(甲A690の1))には,昭和33年から2年ごとにされたAHS集団における血圧の測定結果を解析した結果,収縮期血圧(SBP) 佐々木英夫らによる「原爆被爆者の血圧に対する加齢及び放射線被曝の影響」(甲A690の1))には,昭和33年から2年ごとにされたAHS集団における血圧の測定結果を解析した結果,収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)の縦断的変化のいずれにも,小さいが統計的に有意な電離放射線の影響が認められたこと,この現象は電離放射線が血管の変性に影響を与えることを示唆していることなどの報告がされていた。 ⑧ 2002年(平成14年)の長崎医学会雑誌77(放影研の林奉権らによる「原爆放射線のヒト免疫応答に及ぼす影響(第17報):原爆放射線における炎症応答マーカーの放射線量依存的上昇」(甲A98))には,原爆被爆者と非被爆対照者の血液資料を用い,炎症の指標と考えられているC-反応性蛋白(CRP)と肝臓でのCRP産生の主要な誘導因子の1つであるインターロイキン-6(IL-6)の血漿中 レベルを測定したところ,CRPとIL-6レベルは放射線の上昇に伴って有意に上昇していたこと,逆に,感染などに対する免疫学的防御機能において重要な役割を果たすとされているCD4ヘルパーT細胞は原爆被爆者では末梢血における割合が有意に低下していること,要因ではなく結果である可能性は否定できないが,心筋梗塞の既往歴のある被爆者ではCRPレベルとIL-6レベルの有意な上昇が認められること,原爆放射線による免疫機能の低下と炎症の亢進が被爆者に発症する心血管疾病の一部に関連している可能性が示唆されることなどの報告がされていた。 ⑨ 2003年(平成15年)のLSS第13報(放影研の清水由紀子らによる「固形がんおよびがん以外の疾病による死亡率:1950-1997年」(乙D①14))には,昭和43年から平成9年までの期間のLSS集団において,がん以外の疾病による死亡率が線量 の清水由紀子らによる「固形がんおよびがん以外の疾病による死亡率:1950-1997年」(乙D①14))には,昭和43年から平成9年までの期間のLSS集団において,がん以外の疾病による死亡率が線量の上昇とともに増加することが統計的に証明されており,がん以外の疾病のリスクは1シーベルトあたり0.14の推定値を示していること,低線量における線量反応の形状については著しい不確実性が認められ,特に,約0.5シーベルト以下ではリスクの存在を示す直接的な証拠はほとんどないが,LSSデータはこの線量範囲でも線形的に矛盾しないこと,原爆被爆者におけるがん以外の疾病の死亡率が線量の上昇とともに増加するとされる中には,脳卒中,呼吸器官疾病,消化器疾病とともに心疾患も含まれており,心疾患についての1シーベルト当たりの過剰リスクは0.17と推定されること,被爆者において,大動脈弓石灰化,収縮期高血圧並びにコレステロール及び血圧の年齢に伴う変動など,がん以外の疾病のいくつかの前駆症状について長期にわたるわずかな放射線との関連が報告されており,最近の調査では被爆者に持続性の免疫学的不均衡及び無症状性炎症と放射線との関連が認 められ,これらが,がん以外の広範な疾患に対する放射線影響の機序と関連するのかもしれないことなどの報告がされていた。 ⑩ 2003年の放影研報告書10-03(林奉権らによる「HLAハプロタイプは原爆被爆者における糖尿病発症に関係している」(甲A690の5))には,広島の原爆被爆者(糖尿病患者111人と対照者774人)の遺伝子タイプを調べ,これらの対象者では,より高線量の集団において2型糖尿病発症のリスクが上昇していたこと,特に特定の遺伝子の組み合わせを有する被爆者では,高線量被爆者集団の糖尿病の頻度が非被爆者集団または低線量被爆 これらの対象者では,より高線量の集団において2型糖尿病発症のリスクが上昇していたこと,特に特定の遺伝子の組み合わせを有する被爆者では,高線量被爆者集団の糖尿病の頻度が非被爆者集団または低線量被爆者集団に比べて有意に高かったとことなどの報告がされていた。 ⑪ 2004年(平成16年)のAHS第8報(放影研の山田美智子による「原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率1958-1998年」(甲A77資料16,306文献2,501資料4,乙D①15の1及び2))には,昭和33年から平成10年までのAHS受診者からなる約1万人の長期データを用いて,がん以外の疾患の発生率と原爆放射線被曝線量との関係を調査した結果,心臓血管疾患のいずれも放射線量との有意な関係は示さなかったとしつつ,本研究における限界の1つは致死的及び無症候性心筋梗塞が含まれなかったことであるとしていること,高血圧症と40歳未満で被爆した者の心筋梗塞に有意な二次線量反応が認められ,喫煙や飲酒で調整してもその結果は変わらなかったとことなどの報告がされていた。 ⑫ 2004年(平成16年)の放影研アップデート15(放影研の楠洋一郎らによる「原爆放射線が免疫系に及ぼす長期的影響:半世紀を超えて」(甲A87))には,上記の報告等を踏まえて,CRPとIL-6のレベル及び末梢血CD4T細胞の比率についての調査結果と,AHSコホートにおけるCD4T細胞比率の低下と心筋梗塞の有病率の 増加の関連性からすれば,炎症反応とこれが関わった可能性のある免疫防御能力の低下がアテローム性動脈硬化の原因に関連することが疑われ,心筋梗塞を少なくとも一部引き起こしていると考えられることなどの報告がされていた。 ⑬ 2006年(平成18年)の廣島醫學56(放影研の森下ゆかりらによる「原爆放射線のヒ に関連することが疑われ,心筋梗塞を少なくとも一部引き起こしていると考えられることなどの報告がされていた。 ⑬ 2006年(平成18年)の廣島醫學56(放影研の森下ゆかりらによる「原爆放射線のヒト免疫応答に及ぼす影響(第23報):炎症マーカーの長期的上昇」(甲A248の10,292の1資料8))には,1995年3月から1997年4月までに放影研で健診を受けた対象者から無作為抽出した442名の血液資料を用いて炎症マーカーや抗体のレベルを測定したところ,被曝線量の増加に伴い,炎症性サイトカインの腫瘍壊死因子(TNF)-α,インターフェロン(IFN)-γ,インターロイキン(IL)-10,赤血球沈降速度(ESR),Total免疫グロブリン(Ig),免疫グロブリン(Ig)A及び免疫グロブリン(Ig)Mレベルの各マーカーが統計学的に有意に上昇すること,放射線被曝も加齢もどちらも上記のほとんどの炎症マーカーの上昇を伴っていたことから,放射線の影響を加齢に換算して検討したところ,1グレイの放射線被曝は,被爆者のESRとTNF-α,IL-10及びTotalIgレベルから判断して,約9年の免疫学的加齢に相当する効果を示していることなどの報告がされていた。 ⑭ 2006年(平成18年)のUNSCEAR報告書(「放射線被ばく後の心血管疾患およびその他の非がん疾患の疫学的評価」(甲A671の2))には,上記の報告等を紹介した上で,今日まで致死的な心疾患と1~2グレイ未満の範囲の放射線量との間の関連を示す証拠は,日本の原爆被爆者のデータの解析だけから得られており,その他の研究は,放射線量が1~2グレイ未満での致死的な心血管疾患のリスクについて,明確な,あるいは一貫した証拠を提供していないこと,疫学 データには一貫性がなく,生物学的にももっともらし その他の研究は,放射線量が1~2グレイ未満での致死的な心血管疾患のリスクについて,明確な,あるいは一貫した証拠を提供していないこと,疫学 データには一貫性がなく,生物学的にももっともらしい機構が欠如しているため,現在の科学的データは,1~2グレイ未満の線量での電離放射線と心血管疾患の因果関係を確立するのに十分でないというのが委員会の判断であること,1~2グレイ未満の線量では放射線に関連したリスク増加が比較的小さいため,死亡の疫学研究だけで循環器疾患とこれらの線量レベルでの放射線との間の関係の可能性や本質の理解に大きく貢献できるかどうかは不確かであることなどの報告がされていた。 ⑮ 2008年(平成20年)4月の廣島醫學61(広島市医師会臨床検査センターの井上典子による「原爆被爆者と心血管疾患」(甲A685,乙B144))には,昭和62年から平成15年までに原爆健診を受診した40歳から79歳の被爆者1万6335例につき,大動脈脈波速度(PWV)を測定したところ,被曝と大動脈硬化に関連を認める結果が出たこと,特に被爆時年齢が20歳未満の近距離被爆者に強い関連の可能性が示唆されること,平成9年以降の頸動脈超音波法を導入した調査でも,近距離被爆者,特に10歳未満で被爆した男性の若年被爆者に頸動脈内膜中膜複合厚(IMT)の肥厚の強い傾向があることなどの報告がされていた。 ⑯ 2008年(平成20年)の長崎医学会雑誌83(放影研の赤星正純による「原爆被爆者の動脈硬化・虚血性心疾患の疫学」(甲A604,614の6))には,放射線被曝と心・血管疾患に関連があることを支持する証左は被爆者についての研究から得られているとした上で,心・血管疾患の古典的危険因子に及ぼす放射線の影響につき,放射線が血圧に及ぼす影響については,1930年代以 血管疾患に関連があることを支持する証左は被爆者についての研究から得られているとした上で,心・血管疾患の古典的危険因子に及ぼす放射線の影響につき,放射線が血圧に及ぼす影響については,1930年代以降に生まれた若年被爆者において,加齢に伴う収縮期血圧及び拡張期血圧経過が上方に偏位しており,また,加齢に伴うコレステロール経過はすべての被爆時 年齢において,被爆者では上方に偏位していること,最近,炎症が動脈硬化,心・血管疾患の危険因子であることが広く知られるようになっているが,被爆者においても放射線と各種炎症マーカーとの関連について調査が行われ,CRP,IL-6,TNF-α,INF-α,赤血球沈降速度などの炎症マーカーが,被曝線量の増加とともに増えていることが報告されていること,これまで放影研で行った放射線被曝と心・血管疾患及びその危険因子との関連をまとめると,心疾患死亡率,心筋梗塞,大動脈弓石灰化,血圧,血清コレステロール,炎症などが放射線被曝によって増加しているといえること,心疾患死亡率及び心筋梗塞が増加し,大動脈弓石灰化や網膜細動脈硬化が認められることから,被爆者に被爆の影響として動脈硬化による心・血管疾患が増加していると考えられること,このように,動脈硬化あるいは心・血管疾患の危険因子である高血圧,高脂血症及び炎症にも放射線被曝が関与していることが明らかになり,これらを介して動脈硬化が促進され心・血管疾患の増加につながったと考えられることなどの報告がされていた。 ⑰ 2010年(平成22年)のBMJリサーチ(放影研の清水由紀子による「広島・長崎の被爆者データに基づく1950-2003:放射線被曝と循環器疾患リスクの関係」(甲A501資料3,614の7,682の7,乙D①28))には,昭和25年から平成15年までのL による「広島・長崎の被爆者データに基づく1950-2003:放射線被曝と循環器疾患リスクの関係」(甲A501資料3,614の7,682の7,乙D①28))には,昭和25年から平成15年までのLSS集団を対象として,原爆放射線と脳卒中及び心疾患を原因とする死亡率との線量反応関係を調査した結果,全線量範囲にわたり線形ないし線形2次関数のグラフに適合しており,すべての心疾患死亡の過剰相対リスク推定値(ERR)は1グレイ当たり14パーセント(95パーセント信頼区間は6パーセントないし23パーセント,P値は0,001未満)で,線形モデルは二次モデルよりもわずかによくデ ータに当てはまったこと,線量が低い範囲のグラフの線形の傾斜は,全ての線量範囲の傾斜とほとんど同一であり,しきい値線量の最良の推定値は0グレイ(95パーセント信頼区間の上限はおよそ0.5グレイ)であること,低線量でも過剰リスクの存在が示唆されるが,線量範囲を0~0,5グレイに限定した場合,線量反応は統計的に有意ではなく,それは,0.5グレイ以下の線量では証拠が限界あるものであることを意味していること,喫煙,飲酒,教育歴,職歴,肥満及び糖尿病のデータは,心疾患の放射線リスク推定にもほとんど影響を及ぼさなかったこと,同論文中の別表では,心疾患をさらに分類した虚血性心疾患の発症リスクについては放射線被曝との関連性が認められていないとするが,心疾患という一般カテゴリーの診断はかなり高い精度となるが,それと違い,心疾患のサブタイプの分類には相当の誤りが起こり得るから,そのことは,サブタイプの分析における意味合いに制限を与えるものであることなどの報告がされていた。 ⑱ 2010年(平成22年)のUNSCEAR報告書(「低線量放射線の健康影響の要約C放射線関連の非がん疾患」(乙 タイプの分析における意味合いに制限を与えるものであることなどの報告がされていた。 ⑱ 2010年(平成22年)のUNSCEAR報告書(「低線量放射線の健康影響の要約C放射線関連の非がん疾患」(乙D①18))には,放射線被曝に関連した致死的な心血管疾患の過剰リスクを示す唯一の明確な証拠は,心臓への線量が約1~2グレイ未満では,原爆被爆者のデータから得られており,その他の研究では,もっと高い線量で心血管疾患過剰リスクについての証拠を示していること,約1~2グレイ未満の線量の被曝と心血管疾患及びその他の非がん疾患の過剰発生との間の直接的な因果関係についての結論を下すことはできなかったこと,1~2グレイ未満の線量又はるかに低い線量の場合においても,非がん疾患のリスクが増加することを示す最近の疫学調査からの新たな証拠があるが,関連するメカニズムは未だ不明瞭で,低線量におけるリスク推定には問題が残ること,これは盛んに研究が行われている 分野であり,進展を引き続きレビューし続けること,低線量放射線の免疫系への影響が免疫応答を刺激あるいは制御するように働くかどうかについて明確な判断を下すことはまだできないことなどの報告がされていた。 ⑲ 2011年(平成23年)のICRP声明(「組織反応に関する声明」(乙D①19の1・2))には,不確実性は残るものの,循環器疾患のしきい吸収線量は,心臓や脳に対しては,0.5グレイ程度まで低いかもしれないことを医療従事者は認識させられなければならないことが述べられていた。 ⑳ 2012年(平成24年)のLSS第14報(放影研の小笹晃太郎らによる「1950-2003年:がんおよびがん以外の疾病の概要」(甲A614の3))には,長期追跡調査期間における線量反応の変化について,循環器・呼吸器・消火器の疾患 第14報(放影研の小笹晃太郎らによる「1950-2003年:がんおよびがん以外の疾病の概要」(甲A614の3))には,長期追跡調査期間における線量反応の変化について,循環器・呼吸器・消火器の疾患のリスクがすべて昭和40年以降有意に増加したこと,追跡調査の初期(昭和25年~同40年)と後期(昭和41年~平成15年)における非がん疾病の死亡率の線量反応関係を比較したところ,初期においては,約1.5グレイ未満で放射線影響は基本的に認められなかったが,後期においては,全体的にがん以外の疾病についてほぼ線形の線量反応関係が認められ,両期間における線量反応のグラフの形状の差異は有意であったことなどの報告がされていた。 ㉑ 2012年(平成24年)の放影研報告書10-12(放影研の林奉権らによる「放射線と加齢の影響に特に関連した原爆被爆者の全身性炎症指標の評価」(甲A614の14の1,688の8))には,活性酸素(ROS),インターロイキン(IL)-6,腫瘍壊死因子(TNF)-α,C反応性蛋白質(CRP)及び免疫グロブリン等の血漿中レベル並びに赤血球沈降速度(ESR)の指標により原爆被爆者の無 症候性の炎症状態について調べたところ,総合的に判断して,放射線被曝が自然老化と共に原爆被爆者の持続的炎症状態に亢進している可能性を示唆していることなどの報告がされていた。 ㉒ 2012年(平成24年)のICRP声明118(「正常な組織・臓器における放射線の早期影響と晩発影響―放射線防御の視点から見た組織反応のしきい線量―」(甲A671の6の1,686,乙D①20の1・2))には,上記の各報告等を紹介した上で,低線量被曝に関連した循環器疾患の疫学データは,因果関係を区別する上で,疾患が放射線の影響なのか,交絡因子によるものなのか,慎重に評価す ,乙D①20の1・2))には,上記の各報告等を紹介した上で,低線量被曝に関連した循環器疾患の疫学データは,因果関係を区別する上で,疾患が放射線の影響なのか,交絡因子によるものなのか,慎重に評価することが必要であり,小さなコホート研究では重要なリスクを同定するに当たって,往々にして検出力が足りないことに注意すべきであるし,大きな観察研究でも,特に曝露群と非曝露群を単純に比較するようなときには,関連が交絡因子や選択バイアスによるものであることが依然としてあること,臓器や組織への放射線被曝による人体影響として,これまで循環器疾患はICRPによって挙げられてこなかったが,それは,この分野のエビデンスが徐々に強化されてきたのがつい最近であるからであることなどの報告がされていた。 ㉓ 2013年(平成25年)の「原爆放射線の人体影響改訂第2版」(放射線被爆者医療国際協力推進協議会編(甲A614の14の2,676,682の2))には,上記の各報告等を引用するなどした上で,広島,長崎の原爆被爆者における心血管疾患については,放影研による原爆被爆者のコホートの追跡(LSS)で脳卒中及び脳卒中以外の循環器疾患死亡率と被曝線量は有意な関連が認められていること,循環器疾患発生率は放影研の成人健康調査(AHS)の検討では被曝線量との有意な関連は現在までの報告ではみられていないこと,しかし,40歳未満で被爆した若年被爆者においては心筋梗塞発生率と放射線 との二次の線量反応関係が認められていること,動脈硬化の検査に関しては,年齢や主な虚血性心疾患の関連因子の影響を除いた後でも,大動脈脈派速度(PPV)が男性の近距離被爆者で高いという結果が出ていること,頸動脈内膜中膜複合厚(IMT)と被曝線量の関連については,1800例のAHS集団の報告があるが, の影響を除いた後でも,大動脈脈派速度(PPV)が男性の近距離被爆者で高いという結果が出ていること,頸動脈内膜中膜複合厚(IMT)と被曝線量の関連については,1800例のAHS集団の報告があるが,両者の関連性は認められていないこと,また,原爆被爆後60年以上を経た今日においても,被爆者の免疫系,すなわち細胞集団の構成及び細胞機能に放射線被曝に関連した変化が観察され,それらは,Tリンパ球を中心とする適応免疫の低下と,活性化された自然免疫によると考えられる軽度の炎症状態であること,放射線がどのようにして免疫系に長期にわたる影響を及ぼすのか,その機序はほとんど分かっていないが,放射線被曝に関連して見られる免疫系の変化の多くは加齢に伴って免疫機能が衰退していく様相と類似していることなどの紹介がされていた。 ㉔ 2013年(平成25年)のICRP刊行物(J.H.Hendryによる「閾値線量と循環器疾患リスク」(甲A671の3の1・2))には,急性慢性被曝後の放射線起因性循環器疾患のしきい値は0.5グレイが提案されているが,より最近の低線量被曝人口研究のメタアナリシスでは,線形線量頻度関係を仮定してもある種の循環器疾患のリスクは,0.5グレイもしくは1日10ミリグレイの線量以下でも陽性あるいはがん疾患と同等のリスクがあることが示唆されていること,また,動物実験で線量効果関係と血管障害のメカニズムが明らかになってきており,アテローム動脈硬化を起こしやすいマウスを使った実験で,4グレイ(1回投与でも4週間以上20回分割投与でも)の被曝で炎症性血栓性プラークを作り,アテローム動脈硬化を促進し,0.025~0.5グレイの被曝で疾病早期又は後期病期にはアテローム動脈硬化の進展に様々なインパクトを与えること,心臓への0. 2グレイの被曝で生理 ークを作り,アテローム動脈硬化を促進し,0.025~0.5グレイの被曝で疾病早期又は後期病期にはアテローム動脈硬化の進展に様々なインパクトを与えること,心臓への0. 2グレイの被曝で生理学的,組織病理学的,細胞,分子的心臓の変化やマクロファージの軽度の機能障害と早期の前炎症局在が有意に惹起されることなどの報告がされていた。 ㉕ 2015年(平成27年)のアメリカの科学誌Oncotarget6-31(Mancusoらによる「急性/低線量率放射線被曝によるApoE-/-マウスにおけるアテローム発生の促進」(甲A671の7の1及び2,乙D①45文献3の1及び2))には,ApoE-/-マウスを用いてγ線の慢性の低線量率の被爆と急性被爆のアテローム生成について比較をおこなったところ,0.3グレイもしくは6グレイの急性被曝マウスは,被曝をさせていない対照群と比較してアテローム発生増加が認められ,その効果は永続的であったこと,同線量を300日にわたって低線量率で被曝させても(0.3グレイでは胸部大動脈に限定していたが)アテローム性動脈硬化の全般的進展への有意の影響が認められ,高線量率でも低線量率でも0.3グレイ程度で心臓血管系への有害な作用が持続し,6グレイの高線量でもハイリスクであることが示唆されること,放射線照射は,0.3グレイでも6グレイでも,有意に,細胞外基質の分解に関与するプロテアーゼ活性化酵素であるMMP-9の発現を増加させたことなどの報告がされていた。 ㉖ 2017年(平成29年)の放影研報告書6-16(伊藤玲子らによる「ヒトの胸腺の形状と機能に及ぼす電離放射線と加齢の後影響」(甲A691))には,病理解剖によって採取された165名の被爆者の胸腺組織標本を比較検討した結果,比較的低い線量(5~200mグレイ)及び比 トの胸腺の形状と機能に及ぼす電離放射線と加齢の後影響」(甲A691))には,病理解剖によって採取された165名の被爆者の胸腺組織標本を比較検討した結果,比較的低い線量(5~200mグレイ)及び比較的高い線量(>200mグレイ)いずれの被爆者集団においても,非被爆者集団と比較して胸腺の退縮がより進行している所見が得られたこと,これらの結果から低い線量の放射線被曝であって も胸腺の加齢退縮が促進され,免疫をつかさどる機能を有するT細胞産生が被爆後長期にわたって損なわれている可能性が示唆されることなどの報告がされていた。 ウ心筋梗塞が現行の新審査の方針の積極認定の対象とされた経緯について現行の新審査の方針が策定されるまでの経緯は前記引用の原判決の「事実及び理由」第2の3⑺イ及びウ記載のとおりであるが,このうち,心筋梗塞が積極認定の対象とされた点については,認定在り方検討会の平成19年12月17日付けの報告書(乙A6)において,心筋梗塞は,原爆被爆者を対象とした疫学調査のみならず,動物実験を含む多くの研究結果により,一定以上の放射線量との関連があるとの知見が集積しており,認定疾病に追加する方向でしきい値の設定などの検討を行う必要があるとされ,平成20年策定の従前の新審査の方針(乙A1の1)において,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」が積極認定の対象とされたものであり,その後,制度在り方検討会の平成25年12月4日付けの報告書(乙A16)において,非がん疾病について,しきい値がないとの考え方は科学的知見に反すること,今日の科学的知見では,比較的低線量でも影響を受ける可能性がある悪性腫瘍等と異なり,非がん疾病については,低線量での影響は認められていないことから,悪性腫瘍等と非がん疾病と同様に取扱いを行うことは適当でないとの 見では,比較的低線量でも影響を受ける可能性がある悪性腫瘍等と異なり,非がん疾病については,低線量での影響は認められていないことから,悪性腫瘍等と非がん疾病と同様に取扱いを行うことは適当でないとの意見が多数であったとされ,他方,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」といった抽象的な文言に代えて一定の距離等の外形的な標準を示し,それを満たしているものは柔軟に認定することが適当であるとの意見が多数であったとされ,現行の新審査の方針(乙A17)においては,「心筋梗塞」について,被爆地点が爆心地から約2.0キロメートル以内である者又は原子爆弾投下から翌日までに爆心地から約1.0キロメートル以内に入市した者に該当する者の範囲で積極認定を行うとされたものである。 エ心筋梗塞と放射線被曝との関連性について 上記の各知見にあっては,心筋梗塞そのものと放射線被曝との関連性が報告されているもの(②,⑤,㉓),心筋梗塞を含む心疾患について放射線被曝との関連性が報告されているもの(③,⑨,⑭,⑯,⑰,⑱,⑲,⑳,㉔),心筋梗塞を含む心疾患の原因である動脈硬化と放射線被曝との関連性が報告されているもの(①,⑤,⑨,⑮,⑯,㉓,㉔,㉕),心筋梗塞や動脈硬化の危険因子である高脂血症と放射線被曝との関連性が報告されているもの(⑥,⑯),同じく心筋梗塞や動脈硬化の危険因子である高血圧と放射線被曝との関連性が報告されているもの(⑤,⑦,⑯),同じく心筋梗塞や動脈硬化の危険因子である糖尿病と放射線被曝との関連性が報告されているもの(⑩),その機序は必ずしも明確にされてはいないが,心筋梗塞や動脈硬化との関連性が報告されている炎症反応や免疫防御機能と放射線被曝との関連性が報告されているもの(⑧,⑨,⑫,⑬,⑯,㉑,㉓,㉖)がそれぞれ存在しているこ も明確にされてはいないが,心筋梗塞や動脈硬化との関連性が報告されている炎症反応や免疫防御機能と放射線被曝との関連性が報告されているもの(⑧,⑨,⑫,⑬,⑯,㉑,㉓,㉖)がそれぞれ存在していること,上記イのとおり,従前の新審査の方針の策定過程においても,心筋梗塞と一定以上の放射線被曝との間に関連性が認められることが前提とされていたことなどに照らせば,心筋梗塞と放射線被曝との関連性は十分肯定することができる。 ところで,この点で,控訴人は,「心疾患」と放射線被曝との関係についての疫学的知見は,「心疾患」には心臓弁膜症や感染症に伴う心疾患等が含まれるから,そこで関連性が認められたとしても,心筋梗塞などの動脈硬化性の心疾患と放射線被曝との関連性が認められることにならない旨主張する。 しかしながら,確かに,上記③,⑨,⑭,⑯,⑰,⑱,⑲,⑳,㉔の知見は,大項目である「心疾患」と放射線被曝との関連性について報告しているものではあるが,これらは,放影研やUNSCEAR,ICR Pの報告等であり,これら専門機関においても心疾患という大項目を用いて研究を行っているものであること,放射線被曝の影響を適正に検出しようとすると,細分化した小項目の疾病名では個々の事例数が時に過小となったり,小項目の分類については診断に相当の誤りが起こったり(上記知見⑰参照)など,むしろ適正な事例の検出ができなくなるおそれがあること,また,医療の進歩により,冠動脈の完全閉塞が未然に防止できるなどして,心筋梗塞の死亡率に反映しない事例が心不全等の心疾患の死亡率に反映していることも発生しており,大項目で把握することが必要ともなっていること,上記のように,心筋梗塞と放射線被曝につき報告した知見(②,⑤,㉓)や動脈硬化と放射線被曝につき報告した知見(①,⑤,⑨ 映していることも発生しており,大項目で把握することが必要ともなっていること,上記のように,心筋梗塞と放射線被曝につき報告した知見(②,⑤,㉓)や動脈硬化と放射線被曝につき報告した知見(①,⑤,⑨,⑮,⑯,㉓,㉔,㉕)も存在しており,全体として,心筋梗塞と放射線被曝との関連性が肯定できること等に照らせば,上記の心疾患と放射線被曝との関連性についての報告を判断の基礎とすることは相当といえ,控訴人の上記主張は採用することができない。 そのほか,控訴人は,上記平成14年の林奉権らの報告(⑧)が,放射線被曝と炎症応答マーカーの上昇について報告している中で,放射線による免疫機能の低下と炎症の亢進が被爆者の発症する心血管疾患の一部に関連している可能性を示唆している点について,被爆者に発症した炎症と心疾患との関連性の根拠が示されていない旨主張する。 しかしながら,放射線被曝による炎症反応と心疾患の関連性については,上記各知見(⑫,⑯,㉑,㉓,㉖)にも,これを肯定する内容の報告がされていることに照らせば,その発生機序は必ずしも明確にされてはいないが,関連性を認めるのが相当であって,控訴人の主張は採用できない。 また,控訴人は,上記平成25年の「原爆放射線の人体影響改訂第2版」(㉓)が,動脈硬化と放射線被曝との関連性を検証するのに大動脈 弓の石灰化と脈派伝播速度(PWV)を用い,最も標準的な指標である頸動脈内膜中膜複合厚(IMT)を用いず,IMTと被曝線量の関連性は認められないとしている点について,動脈硬化と放射線被曝の関連性を裏付けるとはいえないし,上記平成20年の赤星報告(⑯)が,被曝の影響として網膜細動脈硬化が認められることを挙げている点について,プラークの形成による動脈硬化とは機序の異なる細動脈硬化であるから,やはり裏付けになら いし,上記平成20年の赤星報告(⑯)が,被曝の影響として網膜細動脈硬化が認められることを挙げている点について,プラークの形成による動脈硬化とは機序の異なる細動脈硬化であるから,やはり裏付けにならない旨主張する。 しかしながら,確かに,上記文献(㉓)は,IMTについて関連性が認められないとしているが,別の平成20年の雑誌(⑮)には,近距離被爆者,特に10歳未満で被爆した男性の若年被爆者にIMTの肥厚の強い傾向があると報告されており,その他にも上記のとおり,動脈硬化と放射線被曝との関連性を報告しているもの(①,⑤,⑨,㉔,㉕)があることに照らせば,疫学的に動脈硬化と放射線被曝との間に関連性があると認めることができ,上記の網膜細動脈硬化が裏付けとならないものであったとしても,それによって左右されるものではない。 ところで,上記イのとおり,現行の新審査の方針の策定過程においては,心筋梗塞を含む非がん疾病については,今日の科学的知見では,しきい値があり,低線量での影響は認められていないとする多数意見が前提とされていたし,平成23年のICRP声明(⑲)では,循環器疾患の心臓に対する吸収線量のしきい値は0.5グレイ程度まで低い旨述べられており,平成22年のUNSCEAR報告(⑱)でも,約1~2グレイ未満の線量の被曝と心血管疾患の過剰発生との間の因果関係については結論を出せなかったと報告されており,その他の知見(①,②,③,⑨,⑭)の中にも,低線量の被曝と心筋梗塞を含む心疾患との関連性を否定する趣旨の報告がされているものがあることから,約0.5グレイを下回るような低線量被曝と心筋梗塞含む心疾患との関連性の有無が問 題となる。 そこで検討するに,まず,上記の平成22年のUNSCEAR報告(⑱)においても,「1~2グレイ未満の線量又 を下回るような低線量被曝と心筋梗塞含む心疾患との関連性の有無が問 題となる。 そこで検討するに,まず,上記の平成22年のUNSCEAR報告(⑱)においても,「1~2グレイ未満の線量又はるかに低い線量の場合においても,非がん疾患のリスクが増加することを示す最近の疫学調査からの新たな証拠があるが,関連するメカニズムは未だ不明瞭で,低線量におけるリスク推定には問題が残ること,これは盛んに研究が行われている分野であり,進展を引き続きレビューし続けること,低線量放射線の免疫系への影響が免疫応答を刺激あるいは制御するように働くかどうかについて明確な判断を下すことはまだできないこと」という内容が併せて報告されていること,平成24年のICRP声明118(㉒)においても,「臓器や組織への放射線被曝による人体影響として,これまで循環器疾患はICRPによって挙げられてこなかったが,それは,この分野のエビデンスが徐々に強化されてきたのがつい最近であるからであること」という内容が報告されていることに照らすと,上記のUNSCEAR報告及びIRCP声明の低線量被曝と心筋梗塞との間に関連性が認められないとの報告は,必ずしも関連性があり得ないことまで述べたものとはいえない。また,低線量被曝と心筋梗塞を含む心疾患との関連性を否定する趣旨の各報告(①,②,③,⑨,⑭)があるが,前3者は平成4年までの比較的古いものであり,後2者は,それぞれその後に同じ報告者から新たな報告(⑨→⑰,⑭→⑱)が行われていて改訂されているものである。そして,上記各知見を踏まえれば,心筋梗塞や動脈硬化の発症については,必ずしもその全貌が判明しているわけではないが,放射線被曝が直接に,また,高脂血症や高血圧等の危険因子の増悪を介して,あるいは炎症反応の増悪や免疫防御機能の低下を介 梗塞や動脈硬化の発症については,必ずしもその全貌が判明しているわけではないが,放射線被曝が直接に,また,高脂血症や高血圧等の危険因子の増悪を介して,あるいは炎症反応の増悪や免疫防御機能の低下を介してという具合に,いわば放射線被曝が重畳的,複合的に心筋梗塞や動脈硬化の発症に関連しているといえ,その関わり方からすれば,低線量被曝で あっても関連することが想定し得るものと考えられる。とりわけ,上記知見のうち,平成22年のBMJリサーチ(⑰)では,心疾患死亡の相対リスクについて,線量が低い範囲のグラフの線形の傾斜も,全線量範囲のグラフの傾斜とほとんど同一であるとし,95パーセント信頼区間の上限はおよそ0.5グレイとした上ではあるが,しきい値線量の最良の推定値は0グレイであると報告されていること,平成24年のLSS第14報(⑳)では,非がん疾病の死亡率の線量反応関係は,昭和25年~同40年の追跡調査では,約1.5グレイ未満での放射線影響は基本的に認められなかったが,これと異なり,昭和41年~平成15年のそれでは,全体的にほぼ線形の線量反応関係が認められたことが報告されていること,平成25年のICRP刊行物(㉔)では,ICRPは循環器疾患のしきい値を0.5グレイと提案しているが,より最近の低線量被曝人口研究のメタアナリシスでは,線形線量頻度関係を仮定してもある種の循環器疾患のリスクは,0.5グレイもしくは1日10ミリグレイの線量以下でも陽性あるいはがん疾患と同等のリスクがあることが示唆されていること,動物実験で,0.025~0.5グレイの被曝で疾病早期又は後期病期にはアテローム動脈硬化の進展に様々なインパクトを与えること,心臓への0.2グレイの被曝で生理学的,組織病理学的,細胞,分子的心臓の変化やマクロファージの軽度の機能障害と早 曝で疾病早期又は後期病期にはアテローム動脈硬化の進展に様々なインパクトを与えること,心臓への0.2グレイの被曝で生理学的,組織病理学的,細胞,分子的心臓の変化やマクロファージの軽度の機能障害と早期の前炎症局在が有意に惹起されることが報告されていること,平成27年のアメリカの科学誌(㉕)でも,動物実験において,低線量率の放射線被曝によって,アテローム発生の増加が認められ,その効果は永続的であったことが報告されていること,平成29年の放影研報告書6-16(㉖)では,被爆者の胸腺標本の比較検討から,比較的低い線量(5~200ミリグレイ)においても,非被爆者集団と比較して胸腺の退縮がより進行している所見が得られ,免疫をつかさどる機能を有するT細 胞産生が長期にわたり損なわれている可能性が示唆されることが報告されていることなどの近時の報告の内容に照らせば,低線量被曝と心筋梗塞を含む心疾患との関連性が推認できるようになってきているといえる。 これらを総合すると,放射線被曝と心筋梗塞との関連性は,そのしきい値が0グレイであるとまで断定できるかはともかく,0.5グレイを相当程度下回る値まで,その関連性を肯定することができるものというべきである。 オ心筋梗塞と狭心症との関係について上記アのとおり,狭心症のうち,内膜の肥厚性病変であるプラークによる「動脈硬化性の狭心症」は,平滑筋細胞を主体として線維成分に富む安定プラークにより冠動脈内腔が器質的に狭窄するものと,脂質成分に富み線維成分に乏しく,線維性被膜が局所的に菲薄化した不安定プラークの破綻やびらん等に伴い血栓が形成されて,これが冠動脈内腔を狭窄するものとがあり,狭心症はこれらの狭窄によって一過性の心筋虚血により胸痛や胸部苦悶感等がもたらされるものであるのに対し,心筋梗塞は冠動脈 綻やびらん等に伴い血栓が形成されて,これが冠動脈内腔を狭窄するものとがあり,狭心症はこれらの狭窄によって一過性の心筋虚血により胸痛や胸部苦悶感等がもたらされるものであるのに対し,心筋梗塞は冠動脈が閉塞してしまい血流が途絶して心筋が壊死するものである。このような動脈硬化性の狭心症について,放射線被曝との関連が認められるかについて,控訴人は,まず,放射線被曝と心筋梗塞との間に疫学的に関連性が認められるとしても,そのことから,そもそも放射線被曝といかなる狭心症との間にも関連性があることが当然に認められるものではない旨主張する。 しかしながら,動脈硬化性の狭心症は,ひとまず後述する安定狭心症と不安定狭心症の区別に踏み込まないでいえば,いずれにしろ動脈硬化が原因となって発症し,この点で心筋梗塞と共通しており,上記の各知見にあっても,放射線被曝と心筋梗塞を含む心疾患について関連性を報告するもの(③,⑨,⑭,⑯,⑰,⑱,⑲,⑳,㉔)に加え,その原因 である動脈硬化と放射線被曝との関連性(①,⑤,⑨,⑮,⑯,㉓,㉔,㉕),さらに,心筋梗塞及び動脈硬化の危険因子である高脂血症,高血圧等と放射線被曝との関連性(⑤,⑥,⑦,⑩,⑯),心筋梗塞及び動脈硬化との関連性が報告されている炎症反応や免疫防御機能と放射線被曝との関連性(⑧,⑨,⑫,⑬,⑯,㉑,㉓,㉖)がそれぞれ報告されていることに照らせば,放射線被曝と大きな項目としてとらえた「動脈硬化性の狭心症」との間には関連性があるということができる。 ところで,控訴人は,狭心症には安定狭心症と不安定狭心症とがあり,両者は発生機序も病態も異なり,医学的に全く異なる疾病であり,不安定プラークが破綻して血栓が形成されて,これが急速に血管を塞ぐことで発生する不安定狭心症と心筋梗塞は発生機序を同じくするが とがあり,両者は発生機序も病態も異なり,医学的に全く異なる疾病であり,不安定プラークが破綻して血栓が形成されて,これが急速に血管を塞ぐことで発生する不安定狭心症と心筋梗塞は発生機序を同じくするが,安定狭心症は,安定プラークが徐々に進展・増大して,冠動脈内腔が狭小化して心筋虚血を生じさせはするが,心筋梗塞には結びつかない,安定狭心症と心筋梗塞とは全く異なる疾病であって,安定狭心症が増悪しても心筋梗塞を発症することはないし,心筋梗塞の前駆症状として安定狭心症を発症することもないとした上で,仮に,放射線被曝が動脈硬化の形成に寄与していたとしても,それは不安定狭心症における不安定プラークの形成についてだけであって,安定狭心症との間に何らかの関連性があるとはいえない旨主張する。そして,B意見書(乙D①45)及びB補充意見書(乙D①66)中には,これと同旨の記載があり,同人は当審における証人尋問においても同旨の供述をする。 そこで,検討するに,まず,安定狭心症と不安定狭心症との区別については,次のような各知見が存在することが認められる。 ⓵ 平成13年刊「標準循環器病学」(甲A677,682の4)には,「器質的冠狭窄(器質性狭心症)」の説明として,「動脈硬化により冠 動脈内膜が肥厚し,血管内腔が狭窄するが,この過程に2種類あることが最近の臨床病理学的検討により明らかにされている。一つは内膜が線維性に肥厚する線維性プラークで,もう一つは脂質成分に富む脂質性プラークである。これらは各々独立したものではなく,動脈硬化進展の過程の差か,または脂質代謝などの影響によるものと考えられている。したがって双方のプラークが同一例の同じ冠動脈枝の違った部位または別の冠動脈枝に生じることもまれではない。一般に線維性プラークは内腔の高度器質的狭窄を 脂質代謝などの影響によるものと考えられている。したがって双方のプラークが同一例の同じ冠動脈枝の違った部位または別の冠動脈枝に生じることもまれではない。一般に線維性プラークは内腔の高度器質的狭窄をきたし,臨床的には「労作狭心症」として表現される。一方,脂質性プラークは高度狭窄をきたす前に破綻し,血栓を形成することが多く,臨床的には「不安定狭心症」,または「急性冠症候群」として表現される。」と述べられている。 ⓶ 平成17年刊「新・心臓病診療プラクティス4冠動脈疾患を診るⅠ」の「冠動脈硬化の成因と進展」の項目(甲A696)には,「プラークの形成・進展とその経時的変貌は,動脈硬化病変の本質的現象であるが,その進展メカニズムについては,未だ不明な点も多い。現在,動脈硬化病変の形成,進展の要因としては,内皮細胞の機能障害や傷害,血管平滑筋細胞の遊走・増殖,マクロファージの集積・泡沫化,細胞外基質の産生と分解,脂質の沈着,プラーク内血管新生,などが考えられている。これらの要因が複雑に関与し合うことで動脈硬化病変が形成,進展し,最終的に不安定化するものと考えられている。」「動脈硬化病変は,長期の間に,さまざまな物質や細胞が複雑に関与し合って,徐々に量的,質的に変貌して不安定性を獲得していくと考えられる。」最近の知見として「逆に安定狭心症でも炎症細胞の浸潤があること,プラーク崩壊が非心臓死の25パーセントに認められること,安定狭心症でも冠動脈造影で複雑病変を認めることなどより,必ずしもvulnerableplaque(傷つきやすいプラー ク,不安定プラーク)を有している人のみが急性冠症候群を発生するのではなく,急性冠症候群発生は全身の炎症や易血栓性を持った血液も関与すると考えられ,急性冠症候群はvulnerable(highri ,不安定プラーク)を有している人のみが急性冠症候群を発生するのではなく,急性冠症候群発生は全身の炎症や易血栓性を持った血液も関与すると考えられ,急性冠症候群はvulnerable(highrisk) patientの概念で考える必要があると思われる。」と述べられている。 ⓷ 平成17年刊「新・心臓病診療プラクティス4冠動脈疾患を診るⅠ」の「冠動脈疾患の病型分類とその基準,分類の意義」の項目(甲A680)には,「安定狭心症と不安定狭心症」の分類は「狭心症の重要度,特に心筋梗塞発症のリスクの高低に立脚しており,最も重要な病型分類である。しかし,不安定狭心症の多くは自然経過または治療により安定化し,安定狭心症も少なからず不安定化する。さらに,狭心症の発症時はすべて不安定狭心症と診断されるので,両者は狭心症の全過程の一時期を表す病型でもある。」「不安定狭心症の病型の細分は,診断基準として幾つか報告されているが,基本的には狭心症の初発または3~6ヵ月間の緩解後の再発,安定狭心症の増悪,梗塞後狭心症である。」「安定狭心症の明確な診断基準はない。不安定狭心症の診断基準に合致しない狭心症が安定狭心症と診断される。」「発症後1~2ヵ月以内の狭心症は不安定狭心症と診断されるので,安定狭心症も少なくとも1回は不安定期がある。安定狭心症とは,治療後または自然経過中に安定化した不安定狭心症である。」と述べられている。 ⓸ 平成19年刊「内科学Ⅰ第9版」(甲A679)には,狭心症の一般的治療について,「増悪因子,冠危険因子を是正する。最近,脂質低下療法が不安定プラークを安定化し,心事故を減少させることが報告されている。」と述べられている。 ⓹ 平成20年刊「循環器疾患最新の治療2008-2009」(甲A678)には,心血管疾患の成因となる「粥状硬化病 プラークを安定化し,心事故を減少させることが報告されている。」と述べられている。 ⓹ 平成20年刊「循環器疾患最新の治療2008-2009」(甲A678)には,心血管疾患の成因となる「粥状硬化病変ははじめは動 脈内表面における小斑点状の脂肪沈着として認められ,これは脂肪線条と呼ばれる。血管壁内に進入したマクロファージは,酸化変性したLDLをその特異的な受容体を介して際限なく取り込むことでコレステロールを蓄積し,(泡沫細胞化)脂肪線条と呼ばれる初期病変を形成する。血管内に進入したマクロファージは種々の増殖因子やサイトカインを産生放出することが知られており,その結果,動脈硬化が進行する。脂肪線条は,病変の進行につれやがて線維性プラークに移行する。線維性プラークは結合組織に被覆された平滑筋細胞,マクロファージ,Tリンパ球の浸潤およびそれらの細胞壊死像ならびに脂質蓄積からなる。さらに病変が進むとついには破綻し血栓閉塞により血流を遮断するにいたる。」と述べられている。 ⓺ 平成29年刊「病気がみえるvol2循環器第4版」(甲A682の5,695)には,「虚血性心疾患の分類,狭心症と心筋梗塞」を説明する表中において,虚血性心疾患を労作性狭心症,冠攣縮性狭心症,不安定狭心症及び急性心筋梗塞に分類した上,労作性狭心症の狭窄・閉塞機序の説明図において,血管内に「アテローム(粥種)」が形成されて血流を妨げている様子が描かれ,安定狭心症においてもアテローム(粥種)が形成されることが記載されており,「動脈硬化の発症と進展,粥状硬化のメカニズム」を説明する図の頭書において,「・粥状硬化(アテローム性動脈硬化,アテローム(粥種))とは,血管内膜に脂質や平滑筋細胞,細胞外基質などの沈着物の病的集積が起き,粥状の隆起性病変(アテローム性プラーク)を する図の頭書において,「・粥状硬化(アテローム性動脈硬化,アテローム(粥種))とは,血管内膜に脂質や平滑筋細胞,細胞外基質などの沈着物の病的集積が起き,粥状の隆起性病変(アテローム性プラーク)を形成する反応をいう。・徐々に,あるいはときに急速に進行し,プラークの肥厚による血管内腔の狭窄や,その破綻に続く血栓形成による狭窄・塞栓をきたす。」とされて,安定狭心症と不安定狭心症とを区別することなく記載されている。 ⓻ B意見書(乙D①45)及びB補充意見書(乙D①66)には,自己の意見を展開する前提として,「安定狭心症と急性冠症候群(不安定狭心症・急性冠症候群・冠動脈突然死)は,どちらも動脈硬化により生じた冠動脈内膜の肥厚病変の肥厚性病変(冠動脈プラーク)が存在するという点において共通している。」「心筋梗塞,不安定狭心症,安定狭心症のいずれも動脈硬化に起因する疾患である。」と記載されている。また,前者の同意見書中に「内科学第10版」から抜粋掲記された「「不安定」および「安定」動脈硬化性プラークの特徴」を説明する図中においては,不安定プラークの図にも,安定プラークよりは薄いが正常血管より厚い線維性被膜が描かれ,安定プラークの図にも,不安定プラークよりは小さいが正常血管には無い脂質コアが描かれて,両プラークが図示されている。 上記の各知見によれば,安定狭心症の一つとされる労作性狭心症においても,血管内にアテローム(粥種)が形成される(⓺)とされ,安定狭心症と不安定狭心症には,どちらも動脈硬化により生じた冠動脈内膜の肥厚性病変(冠動脈プラーク)が存在する(⓻)とされており,したがって,安定狭心症も不安定狭心症も,いずれも血管内のアテローム(粥種)性のプラークが原因となっているといえる。そして,そのプラークには,線 病変(冠動脈プラーク)が存在する(⓻)とされており,したがって,安定狭心症も不安定狭心症も,いずれも血管内のアテローム(粥種)性のプラークが原因となっているといえる。そして,そのプラークには,線維成分に富む安定プラークと,脂質成分に富み線維成分に乏しい不安定プラークとが存在するのであるが,プラークの形成・進展のメカニズムについては未だ不明な点も多い(⓶)とされている上,動脈硬化病変は,長期の間に,様々な物質や細胞が複雑に関与し合って,徐々に量的,質的に変貌して不安定性を獲得して行く,最終的に不安定化する(⓶)とされたり,不安定狭心症の多くは自然経過又は治療により安定化し,安定狭心症も少なからず不安定化する(⓷)とされたり,脂質低下療法が不安定プラークを安定化する(⓸)とされたり,脂肪線 条は,病変の進行につれやがて線維性プラークに移行する(⓹)とされたり,というように,安定プラークと不安定プラークとは一旦いずれかとして形成されると固定されるのではなく,相互に移行し得るものと考えられているといえる。また,線維性プラークと脂質性プラークとが同一例の同じ冠動脈枝の違った部位に,又は別の冠動脈枝に生じることもまれではない(⓵)とされたり,安定狭心症でも炎症細胞の浸潤があることなどから,傷つきやすい不安定プラークに着目するのではなく,患者ごとに急性冠症候群発生の危険を考えるべきである(⓶)とされたり,線維性プラークは結合組織に被覆された平滑筋細胞,マクロファージ,Tリンパ球の浸潤及びそれらの細胞壊死像並びに脂質蓄積からなる(⓷)とされたり,安定プラークにも正常血管に無い脂質コアがあり不安定プラークにも正常血管より厚い線維性被膜がある(⓻)とされたり,というように,典型的には安定プラークと不安定プラークとの区別がされ得るものの,必 ,安定プラークにも正常血管に無い脂質コアがあり不安定プラークにも正常血管より厚い線維性被膜がある(⓻)とされたり,というように,典型的には安定プラークと不安定プラークとの区別がされ得るものの,必ずしも,その区別や心筋梗塞への危険性がいつも明確であるとは限らず,脂質等の含有の比較的少ないものから多いものまで段階的にも存在し得るし,両者が共存することもあり得るといえる。結局は,両者は各々独立したものではなく,動脈硬化進展の過程の差か,又は脂質代謝などの影響によるものと考えられる(⓵)とされたり,両者は狭心症の全過程の一時期を表す病型である(⓷)とされたり,というように,安定狭心症と不安定狭心症とは,臨床経過や病型における区別であって,絶対的なものでも固定的なものでもないというべきである。 以上のとおりであるから,控訴人の,安定狭心症と不安定狭心症とは発生機序も病態も全く異なり,全く異なる疾病であって,安定狭心症は心筋梗塞には結びつくことはなく,安定狭心症が増悪しても心筋梗塞を発症することはないし,心筋梗塞の前駆症状として安定狭心症を発症することもないとの主張は,採用することができず,したがって,放射線 被曝の影響は不安定プラークの形成についてだけ関連性があるとの控訴人の主張も採用できない。 カなお,控訴人は,上記平成27年の科学誌(㉕)が動物実験の結果,放射線照射によりプロテアーゼ活性化酵素であるMMP-9の発現が増加したと報告しているが,これは冠動脈プラークの繊維性被膜が脆弱化,菲薄化することに関連している物質であり,不安定プラークの形成や破綻にのみ関連していることを示す旨主張し,上記平成14年の林奉権らの学会雑誌(⑧)が放射線被曝による炎症マーカーの上昇について報告しているのも,不安定プラークの形成過程に介在する炎症 ークの形成や破綻にのみ関連していることを示す旨主張し,上記平成14年の林奉権らの学会雑誌(⑧)が放射線被曝による炎症マーカーの上昇について報告しているのも,不安定プラークの形成過程に介在する炎症反応が観察されるものである旨主張する。 しかしながら,MMP-9の働きが必ずしも明確に判明しているとまではいえず,また,上記の炎症反応や免疫防御機能と放射線被曝との関連性についての報告(⑧,⑨,⑫,⑬,⑯,㉑,㉓,㉖)においては,必ずしもその機序は明確にされてはいないが,安定狭心症と不安定狭心症とを区別して関連性が報告されてはおらず,さらに,上記文献(⓶)には,安定狭心症でも炎症細胞の浸潤があることが述べられており,そうすると炎症反応等を根拠に安定狭心症と不安定狭心症とを明確に区別するということはできず,やはり,安定狭心症と不安定狭心症とは臨床経過や病型における区別であって,絶対的・固定的なものではないというべきである。 キ小活そうすると,放射線被曝と狭心症全般との間に関連性があるといえ,そうすると,放射線被曝と心筋梗塞との関連性について上記エで述べたところは,動脈硬化性の狭心症と放射線被曝との間でも妥当するといえるから,放射線被曝と狭心症との関連性は,0.5グレイを相当程度下回る値まで,その関連性を肯定することができるものというべきであり,安定狭心症と不安定狭心症との区別は絶対的・固定的なものではないといえるから,安 定狭心症であるからといって,一律に放射線被曝との関連性を否定することはできないと考えられる。 現行の新審査の方針の内容を踏まえた検討について現行の新審査の方針の内容を踏まえた検討については,原判決167頁25行目の「アからウまで」を削るほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の1の⑶エのとおりであるから 針の内容を踏まえた検討について現行の新審査の方針の内容を踏まえた検討については,原判決167頁25行目の「アからウまで」を削るほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の1の⑶エのとおりであるから,これを引用する。 なお,この点について,控訴人は,現行の新審査の方針の積極認定の対象や範囲から外れた場合については,個別にその放射線起因性を高度の蓋然性をもって認めることができるかを検討するべきであり,同方針から外れたものは,積極認定の対象や範囲内とされたものより,放射線起因性を認めるべき科学的根拠が一層乏しいことを踏まえて,相当慎重に判断すべきであると主張し,これに対して,被控訴人は,放射線起因性は総合的評価により柔軟に認定すべきであり,言葉そのままに高度の蓋然性を求めるのは誤りというほかないと主張する。 この点については,上記説示のように,現行の新審査の方針の積極認定の対象や範囲から外れた場合については,上記⑴のとおりの「判断の枠組み」に従い,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものとして是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かによって,放射線起因性の要件が認められるか否かを判定すべきものと考えられ,そして,そのようにして判定を行う際には,現時点においても,放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険については科学的に十分解明されていないという科学的な研究の到達度をも踏まえ,総合的な考慮が行われるべきであるということができる。 放射線起因性の有無についての総合的な判断材料について放射線起因性の有無についての総合的な判断材料については,原判決170頁21行目の末尾に改行の上,次のとおり加えるほか,原判決の「事実及 び理由」第3の1の⑷のとおりであるから,これを引用する。 「 ところで,この点について, 断材料については,原判決170頁21行目の末尾に改行の上,次のとおり加えるほか,原判決の「事実及 び理由」第3の1の⑷のとおりであるから,これを引用する。 「 ところで,この点について,控訴人は,放射線起因性の判断において,放射線被曝に特異的ではない疾病が問題となっている場合には,当該疾病の発症を招来する放射線被曝以外の危険因子についての評価検討が必要であり,控訴人としては,当該疾病の発症が専ら他の危険因子によるものではないかとの疑いを抱かせる程度に立証をすれば,放射線起因性の高度の蓋然性の立証を妨げることができるものである旨主張し,これに対して,被控訴人は,当該疾病の発症に係わる要因が放射線以外にも複数あって,互いに関連して疾病が発症し進展するような場合には,特段の事情がない限り,放射線起因性は否定されるべきではなく,仮に,放射線以外の要因を検討する場合にも,その立証についての控訴人の上記の考え方は被爆者援護法の趣旨を没却するものである旨主張する。 そこで検討するに,上記説示のように,放射線起因性の判断は法的因果関係の有無に係る判断であり,放射線被曝と当該疾病の発症との間に相当因果関係があるかどうかの問題であるが,この問題については,当該被爆者の被爆時の状況,それに続く原子爆弾投下直後の時期における行動及び負傷等の状況,被爆後における急性症状の有無及び内容,被爆時の年齢並びに被爆前後における健康状態の変化等々の当該被爆者に係る事情,放射線と当該疾病との関連性に関する疫学的,統計学的知見ないし被爆後の健康障害と当該疾病との発症機序の共通性,現行の新審査の方針の内容等,さらに,専ら原子爆弾放射線以外の原因によって当該疾病が発症したことを疑わせる事情がないかをすべて総合評価して,その判断を行うのが相当と考える。したがって, 序の共通性,現行の新審査の方針の内容等,さらに,専ら原子爆弾放射線以外の原因によって当該疾病が発症したことを疑わせる事情がないかをすべて総合評価して,その判断を行うのが相当と考える。したがって,いわゆる危険因子は,専らそれによって当該疾病が発症したことを疑わせる事情として総合評価の対象となるものということができる。」 3 争点2(被控訴人の慢性心不全の放射線起因性該当性)について 認定事実認定事実は,次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の2の⑴のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決171頁20行目の末尾の次に「このとき,被控訴人と爆心の間に遮る物はなく,被控訴人は閃光を直接浴びた。」を加える。 イ同172頁25行目の「同月13日」から同行の末尾までを「遅くとも同月13日に当たる暑い日に,朝早く自宅を出て夕方に戻るまで,」と改める。 ウ同173頁10行目の末尾の次に「このとき,爆心地近くは灰が積もっており,被控訴人らはこれをざくっざくっと踏んで歩いた。」を加える。 エ同175頁17行目の「同月9日」を「同年10月9日」に改め,18行目の「紹介され,」の次に「同病院の循環器科を」を,19行目の「甲は,」の次に「同年12月16日には負荷心筋核医学検査を受け,」をそれぞれ加え,21行目の「冠動脈の」から22行目の「狭窄を」までを「冠動脈の♯1に75-90パーセントの狭窄と石灰化,♯3―4PDに90パーセントの狭窄と石灰化,♯6,♯7,♯9及び♯12に50パーセントの狭窄及び♯13に75パーセントの狭窄がそれぞれ」と,23行目から24行目にかけての「ステントを留置された。」を「♯1にロータブレータ(回転式カテーテルによる狭窄除去)が,♯4PDにステントの留置が行われた。」とそれぞれ改め トの狭窄がそれぞれ」と,23行目から24行目にかけての「ステントを留置された。」を「♯1にロータブレータ(回転式カテーテルによる狭窄除去)が,♯4PDにステントの留置が行われた。」とそれぞれ改める。 オ同176頁4行目の「ステント留置」から5行目の「狭窄が」までを「冠動脈の♯1に90パーセント(Os(入口))の狭窄,♯6に50パーセントの狭窄,♯7に75パーセントの狭窄,♯9に90パーセントの狭窄,♯13に50パーセントの狭窄及びHLに75パーセント(small)の狭窄が,♯4PDにはステント狭窄のないことがそれぞれ」と,6行目の「を受けた。」を「が実施されて♯1にステントの留置が行われ た。」とそれぞれ改め,7行目の「~3丁」の次に「,54,57,58」る。 カ同176頁8行目の「平成23年3月」から10行目の「繰り返された。」までを,「平成23年3月5日,呼吸困難等を理由に上記病院を救急受診し,初診時に行った心筋傷害の検査において,ラピチェック陽性,CKが696(正常値は24~195),CK-MBが61.9(正常値は~25),ミオグロビンが198(正常値は65以下)であり,担当医も冠動脈イベント発生を否定し得ないとして,当日の経皮的冠動脈形成術実施も検討されたが,午後10時の検査において,CKが616,CK-MBが53.4,ミオグロビンが154となり,症状が安定に向かったので,解熱を待って検査を行う方針がとられることとなった。同月9日の冠動脈造影の結果,冠動脈の♯1に99パーセントの狭窄,♯6―7に75―90パーセントの狭窄,♯9に90パーセントの狭窄,♯13に75パーセントの狭窄及びHLに75パーセント(small)の狭窄がそれぞれ認められ,同月14日には,経皮的冠動脈形成術が実施されて♯1にステントの再留 の狭窄,♯9に90パーセントの狭窄,♯13に75パーセントの狭窄及びHLに75パーセント(small)の狭窄がそれぞれ認められ,同月14日には,経皮的冠動脈形成術が実施されて♯1にステントの再留置が行われた。ところが,退院後の同年4月13日に再度失神し,同月25日の冠動脈造影の結果,冠動脈の♯1のステント内に90パーセントの狭窄,♯6―7に75―90パーセントの狭窄,♯9に90パーセントの狭窄,♯13に75パーセントの狭窄及びHLに75パーセント(small)の狭窄がそれぞれ認められ,同年5月2日に,経皮的冠動脈形成術が実施されて♯1にバルーン血管形成が行われた。」と改める。 キ同176頁12行目の「同年9月には」から同行の末尾までを「同年8月の術後検査の冠動脈造影の結果,冠動脈の♯1のステント内に99パーセントの狭窄,♯5に25パーセントの狭窄,♯6に50パーセントの狭窄,♯7に75パーセントの狭窄,♯9に90パーセントの狭窄,♯11 に50パーセントの狭窄及び♯14に75パーセントの狭窄が,♯4PDにはステント狭窄のないことがそれぞれ認められ,同年9月13日にバイパス術が実施された。」と改め,16行目の「7丁」の次に「,54,55,60,61,62,64,72」を加える。 放射線起因性についての検討ア被控訴人の放射線被曝について被控訴人の放射線被曝については,原判決177頁8行目の「同月13日」から同9行目の「以上掛けて」までを「遅くとも同月13日に当たる暑い日に,朝早く自宅を出て夕方に戻るまで,」と,同行目の「までとの」を「までの」とそれぞれ改めるほかは,原判決の「事実及び理由」第3の2の⑵アのとおりであるから,これを引用する。 なお,控訴人は,被控訴人は,爆心地から約4.2キロメートルと遠く離れた までとの」を「までの」とそれぞれ改めるほかは,原判決の「事実及び理由」第3の2の⑵アのとおりであるから,これを引用する。 なお,控訴人は,被控訴人は,爆心地から約4.2キロメートルと遠く離れた地点で被爆し,初期放射線による被曝の程度は僅かであり,その後に入市したのも原爆投下の4日後であって,誘導放射線による被曝の程度も僅かであるし,急性放射線症候群とみられる症状も現われておらず,被控訴人の放射線被曝の程度は僅かである,また,胃がん及び大腸がんで原爆症認定を受けているからといって,必ずしも放射線被曝による健康影響が科学的に認められる程度の被曝をしていたとはいえない旨主張する。 しかしながら,前記説示のとおり,被控訴人が直接被曝を受けたのは爆心地から約4.2キロメートル離れた自宅近くではあったが,同日に雨を含む降下物を浴び,爆心地から3キロメートル以内の地点に赴き,爆心地近くで被爆して帰宅した兄と接触し,100時間以内に早朝から夕方まで掛けて爆心地500メートル付近まで赴いて,その周辺に滞在し,その際に壊れた水道から相当量の水を経口摂取し,その後も兄に付き添っていたものであって,前記(原判決の「事実及び理由」の第3の1の⑵)に説示のとおり,初期放射線についても,DS02を基本とする放射被曝の程度 の推定は,遠距離被爆者に関しては,その影響を過小評価することとなる点を考慮すべきであるし,放射性降下物や誘導放射化物質による放射線被曝線量についても,これらがおよそ人の健康に対して影響を与える程度のものではないとはいえないし,内部被曝線量についても,これが人体の健康への影響から重視する必要がない程度のものであるとはいい切れないことを踏まえれば,被控訴人はDS02に基づいた試算を上回る線量の放射線に被曝していたと推認され,被控訴人が ついても,これが人体の健康への影響から重視する必要がない程度のものであるとはいい切れないことを踏まえれば,被控訴人はDS02に基づいた試算を上回る線量の放射線に被曝していたと推認され,被控訴人が被爆当時12歳という若年であったこと,被控訴人のその後の病歴,特に60歳代で原因不明の大量下血をしたり,胃がん及び大腸がんに罹患したりしていること,そして,胃がん及び大腸がんについては,現行の新審査の方針に基づき原爆症認定を受けており,この現行の新審査の方針が前記のように,科学的知見を基本としていることをも併せ考えれば,被控訴人は健康に影響がある程度の放射線被曝を受けていたと推認することができ,控訴人の上記主張は採用することができない。 イ放射線起因性についての総合判断被控訴人の慢性心不全(狭心症)前記認定事実(原判決の「事実及び理由」の第3の2の⑴ウないし(上記補正後のもの))のとおり,被控訴人は,慢性心不全(狭心症)に罹患しているところ,被控訴人が平成22年7月頃には労作時に胸痛を自覚していること,同年11月頃までは被控訴人に対して負荷心筋核医学検査が行われていたこと,被控訴人について,ブラウンワールドの診断基準の重症度分類(①最近2か月以内に発症して狭心症で1日に3回以上発作が頻発するか,軽労作で発作が起きる増悪型労作狭心症,②最近1か月以内に1回以上の安静狭心症があるが,48時間以内に発作を認めない亜急性安静狭心症,③48時間以内に1回以上の安静時発作を認める急性安静狭心症)のいずれかに該当するとの所見はみられない ことに照らせば,被控訴人は安定狭心症の兆候を示しているようにも考えられるが,他方,平成21年3月に狭窄を除去した冠動脈の♯1が翌年12月には90パーセントの狭窄となったり,平成21年1月に50パ ことに照らせば,被控訴人は安定狭心症の兆候を示しているようにも考えられるが,他方,平成21年3月に狭窄を除去した冠動脈の♯1が翌年12月には90パーセントの狭窄となったり,平成21年1月に50パーセントの狭窄であった♯9が翌年12月には90パーセントの狭窄となったり,平成23年4月には狭窄の見られなかった♯5,♯11,♯14が同年8月にはそれぞれ25パーセント,50パーセント,75パーセントの狭窄となったりしており,各所において極めて短期間に狭窄が進行しており,このことは徐々に時間をかけて線維性被膜が肥厚となって形成される典型的な安定プラークの進展とは合致しないといえるし,被控訴人の平成23年3月5日の救急受診時の状況は,心筋傷害マーカーがいずれも相当程度高い値を示しており,担当医も冠動脈イベント発生を否定し得ないとして当日の経皮的冠動脈形成術の実施を検討していたものであり,一部に虚血による心筋の傷害が発生していたと推認することができるところ,これは,心筋梗塞の前駆症状というべき状況であって典型的な安定狭心症からは想定し難いものといえ,このような被控訴人の症状に照らし,さらに,前記説示のとおり,安定狭心症と不安定狭心症との区別は臨床経過や病型におけるもので絶対的・固定的なものではなく,安定プラークと不安定プラークとは,脂質等の含有の比較的少ないものから多いものまで段階的にも存在し得て,両者が共存することもあり得ることを踏まえると,被控訴人の狭心症は,遅くとも平成22年12月頃以降には,少なからず脂質等を含有する不安定化したプラークも保有している狭心症であったと考えられ,典型的な安定狭心症ではないといわざるを得ない。 なお,この点で,控訴人は,①ブラウンワールドの診断基準の重症度分類に該当しないこと,②被控訴人が労作時の胸痛を自 している狭心症であったと考えられ,典型的な安定狭心症ではないといわざるを得ない。 なお,この点で,控訴人は,①ブラウンワールドの診断基準の重症度分類に該当しないこと,②被控訴人が労作時の胸痛を自覚しているなど労作性狭心症の症状を呈していること,③被控訴人の担当医師が緊急カ テーテル検査・ステント治療などの不安定狭心症を疑った治療を行っておらず,安定狭心症を念頭においた待機的な検査・治療を行っていることを挙げて,被控訴人の狭心症は安定狭心症である旨主張する。 しかしながら,①ブラウンワールドの診断基準の重症度分類は,増悪型労作性狭心症を含めて冠動脈イベント発生の危険性の高いものを症候から診断するものであり(甲A677,乙B133),プラークの不安定化が進行中の場合がすべて重症度分類に当てはまるとはいえないし,②被控訴人が労作時に胸痛を自覚していたことがあったことは認められるが,前記認定の平成23年3月5日の救急受診の際は,起床時から呼吸苦があり,前胸部痛,動悸も伴っていたものであることが認められる(乙D①72)から,被控訴人は労作時にしか自覚症状がなかったということはできないことが認められるし,③確かに,被控訴人の担当医師は,平成22年11月頃までは負荷心筋核医学検査を施行していたこともあったが,前記認定の平成23年3月5日の救急受診の際には,被控訴人の症状,生化学検査のCK,CK-MB及びミオグロビンという心筋傷害マーカーの値等を踏まえて,冠動脈イベントの発生も想定して,当日に経皮的冠動脈形成術を実施することも検討していたものであるから,遅くとも,この頃までには,被控訴人は心筋梗塞を引き起こす危険性のある狭心症であると認識していたということができるのであって,控訴人の主張はいずれも採用できない。 被控訴人の危険因子 あるから,遅くとも,この頃までには,被控訴人は心筋梗塞を引き起こす危険性のある狭心症であると認識していたということができるのであって,控訴人の主張はいずれも採用できない。 被控訴人の危険因子次に,被控訴人に専ら原子爆弾放射線以外の原因によって慢性心不全(狭心症)が発症したことを疑わせる事情がないかどうかにについてみるに,控訴人は,被控訴人は高血圧,糖尿病,肥満,加齢,睡眠時無呼吸症候群,喫煙といった狭心症の危険因子を保有しており,これらが重畳的に原因となって狭心症を発症したものとみるのが自然かつ合理的で あると主張するので,これらの危険因子について検討する。 a 高血圧乙D①41資料1,45文献7,70によれば,収縮期血圧が10mmHg上昇すると虚血性心疾患の発症・死亡のリスクが1.16~1.40倍上昇するという報告がされているなど,高血圧により虚血性心疾患を起こしやすくなることは,疫学的に認められており,それを前提として,冠動脈疾患についての降圧目標は,少なくとも140/90mmHg未満とされ,エビデンスは十分ではないか,心筋梗塞既往例があるなどリスクが重複している症例では,さらに低いレベル(130/80Hg未満)を目指して加療すべきものとされていることが認められるところ,乙D①48,49,50,54によれば,被控訴人は,平成7年10月3日に収縮期血圧が140mmHgを超え始め,平成8年5月10日には収縮期血圧が180mmHgとなって,高血圧治療薬であるレニベースを処方されるようになり,平成9年10月以降は,平成23年4月までの間に110回の血圧測定が行われたうち,収縮期血圧が160mmHgを超えたことはなく,150mmHgを超えたことが7回,140mmHgを超えたことが32回であって,上記の降 は,平成23年4月までの間に110回の血圧測定が行われたうち,収縮期血圧が160mmHgを超えたことはなく,150mmHgを超えたことが7回,140mmHgを超えたことが32回であって,上記の降圧目標やさらに望ましい目標レベルが守られていたとはいえないものの,高血圧治療薬の処方を受けて,降圧目標からそれほどは離れない程度の状態であったということができ,また,乙D①49,54によれば,平成18年4月の検査で心室中隔壁が14mm(正常値は7~11mm),左室後壁が14mm(正常値は7~11mm)で左室肥大が指摘され,平成20年11月の検査で,心室中隔壁が13mm(正常値は6~12mm),左室後壁が11mm(正常値は5~11mm)でやはり左室肥大が指摘されており,これは高血圧による影響と考えられるが,正常値から大きく離れていると まではいえず,そうすると,被控訴人の高血圧が慢性心不全の発症に特に大きく影響していたとまでは認められない。 なお,一般的に放射線被曝と高血圧との関連性が認められるとする知見(⑤,⑦,⑯)もあるところであり,この点で,被控訴人にとっても,高血圧という危険因子が原子爆弾の放射線以外の原因によるとはいえない可能性もないとはいえない。 b 糖尿病乙D①41資料1,70によれば,耐糖能異常者の脳卒中を含めた心血管疾患の危険率は,年齢,性を調整すると,正常耐糖能者の1. 9倍と有意に高いという報告や,空腹時血糖110mg/dlレベルの耐糖能異常者は,75mg/dlのレベルの正常耐糖能者に比して,心血管イベントの発症の相対危険率が1.33となるとの報告がされており,糖尿病を含む耐糖能異常が虚血性心疾患発症の危険因子となることが疫学的に認められ,そして,血糖コントロールの指標としては,HbA1c(JDS)で,5 相対危険率が1.33となるとの報告がされており,糖尿病を含む耐糖能異常が虚血性心疾患発症の危険因子となることが疫学的に認められ,そして,血糖コントロールの指標としては,HbA1c(JDS)で,5.8パーセント未満が優,6.5パーセント未満が良とされ,空腹時血糖値で,110mg/dl未満が優,130mg/dl未満が良とされて指標とすべきであるとされていることが認められるところ,乙D①47,49,50,51,54によれば,被控訴人は,平成12年頃までには糖尿病と診断されているが,平成12年4月から平成24年8月までの間に,96回にわたり,HbA1c(JDS)を測定しており,このうち,HbA1cが7.0パーセントであったことが2回,6.5から6.9パーセントであったことが32回であり,ことに平成18年以降は概ね6.5パーセントを下回っていたことが認められ,上記の指標とされた数値,特に優とされる数値には達しない状況ではあったものの,深刻な耐糖能異常があったとまではいえず,一定の範囲でコントロールされてい たといえ,糖尿病が被控訴人の慢性心不全の発症に大きく影響していたとまではいえない。 c 肥満乙D①41資料1によれば,我が国の調査では,BMI25ではBMI22に対し健康障害の相対危険度は約2倍とされるものの,冠動脈イベントの相対危険度については,性,年齢,高血圧や糖尿病の有無,喫煙などの補正をした解析では,BMI25以上の群に特に増加は認められなかったとされており,肥満が高血圧,糖尿病,脂質異常症等の心血管疾患発症の危険因子に関連があることはあっても,肥満自体が虚血性心疾患の原因となるのかは必ずしも明らかとはいえない上,一般的な健康管理としては,BMI25未満又はウエスト周囲径85センチ未満(男性)が守るべき目安とされ 連があることはあっても,肥満自体が虚血性心疾患の原因となるのかは必ずしも明らかとはいえない上,一般的な健康管理としては,BMI25未満又はウエスト周囲径85センチ未満(男性)が守るべき目安とされていると認められるところ,乙D①46,47,49,53,54,56ないし65によれば,被控訴人は,平成3年4月から平成23年8月まで,断続的に体重等の記録が残されており,この間のBMI値は,最低が平成23年9月の22.2,最高が平成11年8月と平成14年7月の27. 3であり,この平成14年7月以降,27を超えることはなく,概ね26前後の値が続いていたことが認められ,BMI値が一般的な健康管理としての目安を超えていたとはいえるが,一定の範囲内には収まっていたものであるから,いずれにしろ,肥満が被控訴人の慢性心不全の発症に影響を与えたとまではいえない。 d 加齢乙D①41文献1によれば,加齢は動脈硬化の独立した危険因子であり,高齢者ではすでに冠動脈硬化を含めて動脈硬化性変化が全身に広範に存在する可能性があるとされているところ,乙D①56によれば,被控訴人は,平成21年1月に,年齢75歳で,初めて虚血性 心疾患と診断されたことが認められ,慢性心不全等の動脈硬化性疾病を発症するリスクが一定程度高まっていたとはいわざるを得ないが,未だ後期高齢者(75~84歳)の入り口の年齢であったものであり,各人に等しく訪れる加齢が被控訴人の慢性心不全の発症に特に影響していたとまではいえない。 e 睡眠時無呼吸症候群乙D①45文献11によれば,慢性虚血性心疾患の患者が睡眠時無呼吸症候群を合併している頻度は約35ないし40パーセントであるとされるものの,無呼吸が急性冠症候群発症前から存在したかについてはこれまでに報告がなく,睡眠時無呼吸症候群自体 心疾患の患者が睡眠時無呼吸症候群を合併している頻度は約35ないし40パーセントであるとされるものの,無呼吸が急性冠症候群発症前から存在したかについてはこれまでに報告がなく,睡眠時無呼吸症候群自体が慢性心不全の危険因子であるとの知見は確立していないと認められ,被控訴人が睡眠時無呼吸症候群に罹患していたとしても,これを被控訴人の慢性心不全の発症の要因として考慮することはできない。 f 喫煙乙D①41資料1~3によれば,多くの調査において喫煙が虚血性心疾患の発症率及び死亡率を高めていることが証明されており,1日1~25本喫煙した場合の相対危険率は2.1であり,25本以上では2.9となるとの報告もされているが,他方,禁煙による虚血性心疾患死亡の相対危険度は,喫煙を続けている場合を1とした場合,禁煙して1~4年で0.6,10~14年では0.5に減少するとの報告や,心筋梗塞患者を対象としたアンケート調査によれば,発症時55.2パーセントの者が喫煙していたが,発症後にその74.2パーセントが禁煙し,25.8パーセントが喫煙を続けたところ,禁煙群の予後が明らかに喫煙群に比して長期予後改善を示し,元来喫煙しない患者と差がなくなったとの報告がされているところ,乙D①52,53によれば,被控訴人は,20歳から遅くとも49歳に至るまでは 1日多くとも20本程度の喫煙をしていたが,それ(昭和57年)以降は,喫煙を行っていないことが認められ,そうすると,平成21年に被控訴人が虚血性心疾患と診断されるまで,約27年にわたり喫煙をしていなかったものであるから,上記のような禁煙に関する調査結果に鑑みれば,被控訴人の喫煙が被控訴人の慢性心不全の発症に影響したと認めることはできない。 この点,控訴人は,血管の内皮が傷害されアテロームが形成されるとい から,上記のような禁煙に関する調査結果に鑑みれば,被控訴人の喫煙が被控訴人の慢性心不全の発症に影響したと認めることはできない。 この点,控訴人は,血管の内皮が傷害されアテロームが形成されるという喫煙による影響は禁煙しても消失することはなく,既に形成された血管内のアテロームが消退することはない旨主張するが,被控訴人が禁煙した時点で既に被控訴人の冠動脈にアテロームが形成されていたと認めるに足りる証拠はなく,被控訴人が禁煙してから慢性心不全の発症までに約27年間が経過していることに照らしても,控訴人の主張は採用し得ない。 g 重畳的原因以上のとおり,被控訴人の高血圧,糖尿病,加齢が被控訴人の慢性心不全の発症になにがしかの影響をしていることを完全には否定し得ず,その限りでは重畳的に影響していることも完全には否定し得ないところであるが,それぞれの態様,程度を考慮すると,重畳的にも,被控訴人の慢性心不全の発症に特に影響を与えていたとまではいえないから,被控訴人の慢性心不全が,専ら原子爆弾放射線以外の原因によって発症したことを疑わせる事情は認めることができないというべきである。 ウまとめそうすると,前記説示のように,放射線被曝と狭心症との間には,0. 5グレイを相当程度下回る値まで,その関連性を肯定することができるものというべきであり,不安定狭心症は当然,安定狭心症であるからといっ て,一律に放射線被曝との関連性を否定することはできないと考えられるところ,前記のとおり,被控訴人は,原子爆弾の放射線被曝によって,健康に影響がある程度の放射線被曝を受けていたと推認することができるものであり,被控訴人は,少なからず脂質等を含有する不安定化したプラークも保有する狭心症に罹患しているものであり,前記のとおり,専ら原子爆弾放射線以外 の放射線被曝を受けていたと推認することができるものであり,被控訴人は,少なからず脂質等を含有する不安定化したプラークも保有する狭心症に罹患しているものであり,前記のとおり,専ら原子爆弾放射線以外の原因によって被控訴人の狭心症が発症したことを疑わせる事情は認められないから,以上をすべて総合考慮すると,原子爆弾の放射線が被控訴人の慢性心不全(狭心症)を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるものである。 第4 結論したがって,被控訴人の原爆症認定申請を却下した処分行政庁の処分は違法であり,これを取り消した原判決は相当である。よって,本件控訴には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第23民事部 裁判長裁判官垣内 正 裁判官 澤 諭 裁判官髙宮健二は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官垣内 正
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