令和5(わ)2166 受託収賄

裁判年月日・裁判所
令和6年12月16日 名古屋地方裁判所
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判決文本文12,246 文字)

主文 被告人を懲役2年6月に処する。 未決勾留日数中260日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 被告人から金341万円を追徴する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間、特別地方公共団体である愛知県競馬組合の事務局総務部総務広報課長として競馬の広報及び宣伝等に関する事務を掌理し、同組合発注の「名古屋競馬場クロージング及び新競馬場オープニングイベント事業」に係る運営業務(以下「本件業務」という。)の委託先業者選定のための公募型プロポーザルの仕様書、募集要項及び委託に係る契約書等の確認、修正、承認等を行うなどの職務に従事するとともに、令和3年12月24日以降、有料職業紹介及び障がい者雇用のコンサルティング等の事業を行うA株式会社(以下「A」という。)を実質的に経営し、同社の資金を管理していたものであるが、令和3年6月14日、同年8月中旬頃及び同月27日、いずれも愛知県内又はその周辺において、イベントの企画運営等の事業を行うB株式会社(以下、「B」という。)の従業員であったC(分離前の相被告人。)から、メッセンジャーアプリ「LⅠNE」を介するなどし、前記プロポーザルに関する公表前の情報の漏洩及び企画提案書の添削等、Cとの間で本件業務に関しB又はCの指定する会社に下請発注する旨を合意していた株式会社D(以下「D」という。)が本件業務の委託先業者として選定されるために有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託を受け、前記取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨の下に供与されるものであることを知りながら、愛知県豊田市ab 丁目 委託先業者として選定されるために有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託を受け、前記取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨の下に供与されるものであることを知りながら、愛知県豊田市ab 丁目c 番地所在のE信用金庫F支店に開設され、 被告人が管理するA名義の普通預金口座に、Cの指示を受けたBの経理担当者を介して、令和4年4月25日に66万円、同年5月25日に275万円のそれぞれ振込入金を受け、もって自己の職務に関し請託を受けて賄賂を収受した。 (事実認定の補足説明)第1 争点判示罪となるべき事実のうち、被告人の官職及び職務権限、Cの業務内容やCからの請託、A名義の普通預金口座への振込入金の事実には争いがない。本件の争点は、①被告人に賄賂性の認識があったか否か(争点①)、②被告人がAを実質的に経営して資金を管理していたか否か(争点②)、争点①及び②が認められたとして、令和3年12月24日以前の時点で実質的経営者でない被告人の実行行為性及び故意の有無(争点③)である。当裁判所は、被告人が、Cからの請託に係る有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨の下に供与される賄賂と認識しながら、実質的経営者として管理していたA名義の口座に入金を受けることで賄賂を収受したと認められ、受託収賄罪が成立すると判断したため、その理由について補足して説明する。 第2 賄賂性の認識(争点①) 1 関係各証拠によれば、以下の各事実が認定できる。 ⑴ 被告人は、愛知県職員として勤務しながら、令和2年12月頃、知人であるGに対し、芸術の分野における障がい者雇用事業を行う企業の設立について相談を持ち掛け、令和3年5月にAが設立された。また、被告人は、同年4月1日、愛知県職員の身分を有したまま、同じく地方公務員である愛 対し、芸術の分野における障がい者雇用事業を行う企業の設立について相談を持ち掛け、令和3年5月にAが設立された。また、被告人は、同年4月1日、愛知県職員の身分を有したまま、同じく地方公務員である愛知県競馬組合の事務局総務部総務広報課長に就任した。 ⑵ 被告人は、Bの営業開発部長であったCに対し、Aの営業担当に就任することを打診し、Cは、Bに在職しながら、Aの営業活動等に従事することとなった。 ⑶ 被告人は、同年5月29日頃、Cに対し、名古屋競馬場クロージング及び新競馬場オープニングイベント(以下、「本件イベント」という。)が行われることやその事業規模を伝えた。これに対し、Cは、当時一緒に仕事をしていたDに本件業務を受注させ、その下請けにAが、孫請けにBが入り、BだけでなくAも利益を得ることを考えた(以下、「中抜きスキーム」という。)。 ⑷ 本件業務の委託先業者選定に関し、被告人は、同年6月14日以降、Cとの間で以下のやり取りをした。なお、同年9月3日にDが本件業務の実施候補者として選定され、同年10月5日に同社への委託契約が締結された。 ア同年6月14日、Cから「競馬場の件も探ることができればよろしくお願いいたします。」とLINEで受信したメッセージに対し、「また、何でもお伝えします。」「競馬場のはなしいつでできますよ。」「競馬はあれですね。わかりました。」と返信した。さらにCから、「競馬場、あれです、、、できればで構いませんので。」とのメッセージを受信した(甲51p83)。 イ同年7月30日、Cに対し、企画提案書準備のために、プロポーザル方式で行われることとなった本件業務の委託先業者選定の仕様書案及び募集要項案を渡した上、同年8月4日、同仕様書案の更新版やプロポーザルへの提出書類作成要領案を渡 企画提案書準備のために、プロポーザル方式で行われることとなった本件業務の委託先業者選定の仕様書案及び募集要項案を渡した上、同年8月4日、同仕様書案の更新版やプロポーザルへの提出書類作成要領案を渡し、公表前の情報を漏洩した。 ウ同年8月4日、CからLINEのメッセージで、DとCとの間でDが本件業務の一部をCが指定する会社に発注する旨の覚書を取り交わす予定である旨の報告を受けるとともに、DとBの間に別会社を介在させることを前提とした覚書案の内容確認を求められ、「公告後に、覚書の原因となる事項の取扱いが気になりました。」などと気づいた 点を返信した(甲51p128、129)。 エ同月中旬頃、CからD作成の企画提案書案の内容確認を依頼され、Cに対し、同月20日は面前で、同月25日から翌26日にかけてはLINEのメッセージを通じて、内容を助言し、修正点を教示した(甲51p157、158)。 オ同月26日、CがLINEで「大切な相談です。」「現状会社売上としては750万でBに500万くらいの発注で粗利250万くらいの規模感になるかなと思います。まだDへはこれに出していません。 事前に相談です。」とメッセージを送信した。これに対し、被告人は、「全体比5パーセントの粗利なら良い感じます。」「Dも通ると良いですね。」と送信した(甲51p158)。 カ同月27日、Cから、企画提案書提出後のプレゼンテーション審査準備のためにプロポーザルに応募した他社の情報の提供を求められ、Cに対し、応募した会社の名前、企画内容等を情報提供するなどした(甲61p14)。 キ同年12月17日、CからLINEWORKSで送信された「BはDから直請で、利益分の分配先は任せるから好きにやっていいよと言われてます!今のままの 報提供するなどした(甲61p14)。 キ同年12月17日、CからLINEWORKSで送信された「BはDから直請で、利益分の分配先は任せるから好きにやっていいよと言われてます!今のままの施工ボリュームだと250万の分配ができます」とのメッセージに対し、「ありがとうございます。使い方により、経営も楽になります。助かります。」などと返信した(甲68p239)。 ク令和4年3月20日、LINEWORKSでCが送信した件名に「名古屋競馬場クロージングイベント」と記載されているA作成名義のB宛て2022年3月31日付け請求書案に対し、「色々ありがとう。これからですので、一層、一緒にお願いします。」「Bへの請求ですが、当社から名古屋競馬場とでるのが、気になるので、名古屋競馬場を出さないカタチで請求できますか?」とのメッセージを送信した (甲68p753、甲49p17ないし20)。 ケ同年4月20日、Cから、件名に「クロージング、オープニングイベント」と記載されているA作成名義のB宛て2022年4月28日付け請求書案の送信を受けた(甲68p959、962)。 ⑸ 同年4月25日に前記⑷クの請求書に基づき66万円が、同年5月25日に前記⑷ケの請求書に基づき275万円が、それぞれBからAの普通預金口座に振込入金された。 ⑹ Aは、本件業務やその追加業務に何ら関与していない。 2 検討⑴ 前記1で認定した事実によれば、被告人は、本件業務をDが受注し、BだけでなくAもその下請けとして利益を上げることを前提として、その進捗等の報告をCから受けるとともに(前記1⑶、⑷ウ、オ、キ、ク)、Cの求めに応じて、Dが本件業務の委託先業者に選定されるように、Cに対して様々な便宜を計っている(前記1⑷イ、エ、カ)。これ 、その進捗等の報告をCから受けるとともに(前記1⑶、⑷ウ、オ、キ、ク)、Cの求めに応じて、Dが本件業務の委託先業者に選定されるように、Cに対して様々な便宜を計っている(前記1⑷イ、エ、カ)。これらに加え、被告人がA設立を発案したこと(前記1⑴)も踏まえれば、被告人がCの考えた中抜きスキーム(前記1⑶)に関与したと見るのが自然である。 ⑵ 被告人は、当時、地方公務員であり、かつ、委託先業者の選定も含め本件業務を取り仕切る立場にありながら、Dが本件業務の委託先業者に選定されるように様々な便宜を図っており、その便宜の内容は、本件業務の委託先業者選定審査においてDを大きく利するものである。すなわち、被告人が行った便宜供与は、被告人にとっては公になれば懲戒処分に繋がる危険性の高いものであり、公務員としての長年の勤務経験を有する被告人は、その危険性を十分に認識していたと認められる。このような便宜供与が、被告人が一切の対価や利得を得ることなく行われたとは到底考え難い。しかも、被告人は、AがBから本件業務に係る支払いを受けるに当たり、A作成名義の請求書から「名古屋競馬場」という文 言を消すよう求めており(前記1⑷ク)、被告人が名古屋競馬場に関するAに対する入金が公になるのは憚られるものであると認識していたと認められる。以上に加え、本件業務やその追加業務にAが何ら関与していないこと(前記1⑹)も踏まえれば、Aに対する前記1⑸の振込入金が被告人が行った様々な便宜供与の見返りとして行われ、そのことを被告人も認識していたことが強く推認される。 3 C証言の信用性⑴ Cは、大要、以下のとおり証言した。 令和3年5月29日頃、被告人から、本件イベントに何かしらの形でAを絡ませてほしいと依頼され、Aに金銭的な利益をもたらせてほし C証言の信用性⑴ Cは、大要、以下のとおり証言した。 令和3年5月29日頃、被告人から、本件イベントに何かしらの形でAを絡ませてほしいと依頼され、Aに金銭的な利益をもたらせてほしいものと解釈し、その見返りとして本件イベントの公開前の情報をもらえると期待して、前記1⑶の中抜きスキームを考え、B、Dから了承を得た。また、同年6月10日頃までには、中抜きスキームについて被告人に説明をして了承を得、前記1⑷ウ、オのとおり、本件業務の進捗等を被告人に報告した。 同年12月頃、被告人から、DからB、BからAが受注する形にしてもらえないかという提案があったため、B内の調整を経て、Aが孫請けで入る算段をつけ、前記1⑷キのとおり被告人に報告した。 令和4年1月頃、被告人から、本件業務の追加業務についても、本件業務と同様にAに利益を与えてほしい旨依頼され、了承した。前記1⑷クは、その追加業務に関するAからBへの請求書に係るやりとりである。 前記1⑷ケは、本件業務に関するAからBへの請求書である。修正後の請求書に基づくものを含め、Aに対する合計341万円の振り込みは、被告人が前記1⑷イ、エ、カの取り計らいをしてくれたことに対する対価という意味合いと認識していた。 ⑵ C証言の信用性 ア C証言は、全体として前記1で認定した事実と整合している。また、被告人から本件イベントや追加業務にAを関与させることの提案がなされた点については、A設立の切っ掛けを作ったのが被告人であることからすれば自然である。さらに、Aへの振込送金が被告人による便宜供与への謝礼等の趣旨である点についても、イベント運営等を行う本件業務を遂行する能力のないAをBの下請け(Dの孫請け)という名目で関与させる理由はなく、実際にAが本件業務に関与し が被告人による便宜供与への謝礼等の趣旨である点についても、イベント運営等を行う本件業務を遂行する能力のないAをBの下請け(Dの孫請け)という名目で関与させる理由はなく、実際にAが本件業務に関与していないことからすれば、合理的な説明といえる。証言当時、C自身も贈賄罪で公判係属中ではあったものの、当初から自らの贈賄の事実を認め、捜査段階から一貫して同旨の供述をしていることからすると、偽証罪の制裁を科されるおそれがある公判において、Cが虚偽供述をする理由は見出しがたい。 イこの点、弁護人は、①被告人から本件イベントにAを関与させることの提案がなされた点については、被告人が令和3年6月中旬にはAを解散させる方向のやり取りをCとしていたことを示すLINEメッセージ等の客観証拠に反している、②Cが被告人に送った前記1⑷のLINEメッセージや覚書について、その文面自体からは本件イベントについてのやり取りであるかは明らかでなく、C証言の裏付けとはならないなどと指摘する。しかし、前記①については、その後もAは存続していることからすれば、解散の話が一時的なものであったことがうかがわれ、被告人から本件イベントにAを関与させることの提案がなされたこととは何ら矛盾しない。また、前記②についても、一連の事実経過やLINEメッセージのやり取りを全体としてみれば、前記1⑷のLINEメッセージや覚書は本件イベントに関するものであると認められ、C証言の信用性を揺るがすものではない。 ウよって、弁護人がC証言の信用性についてそのほかに指摘する点を 踏まえても、前記⑴のC証言は信用できる。 4 被告人の供述の検討⑴ 被告人は、公判において、①本件業務に関し、Dが委託先業者に選定されるように便宜を図ったのは、近い将来CがBを退職してAの仕事に も、前記⑴のC証言は信用できる。 4 被告人の供述の検討⑴ 被告人は、公判において、①本件業務に関し、Dが委託先業者に選定されるように便宜を図ったのは、近い将来CがBを退職してAの仕事に専念するに当たり、Bに大きな利益、レガシーを残すために行ったものであり、本件業務を通じてAに利益を作ってほしいとCに頼んだ事実はない、②Cの述べる中抜きスキーム自体の認識はなく、CにDの下請けをAからBに変更するよう提案したことはない、③Bからの前記1⑸の振込送金も、Bの仕事に対するCへの報酬、人件費と認識しており、Cから節税、脱税対策と説明されたなどと弁解する。 ⑵ しかし、被告人の公判供述は、メッセージや覚書の内容を含め、前記1で認定した事実とは全体的に整合していない。 前記①について、弁護人は、被告人とCの間で情報漏洩に対する見返りについての直接的なやり取りがないことなどからCのレガシーのためという被告人の公判供述は信用できると主張する。しかしながら、被告人が行った便宜供与が一切の対価や利得を得ることなく行われたとは到底考え難いのは前記2⑵のとおりであり、Cのレガシーという被告人の利得とはいえない曖昧な目的でそのような危険を冒したというのは不自然であるし、Bに大きな利益を与えれば足りるはずなのにAを敢えて関与させて利益を回したというのは不合理である。 前記②については、具体的な企業名は記載されていないとはいえ、正にCの述べる中抜きスキームと合致する内容が記載された覚書の内容に、被告人が具体的な助言をしている事実(前記1⑷ウ)と矛盾する。前記③についても、この時点でまだBを退職していないCの報酬がAの口座に振り込まれていた理由としては不自然である。 よって、被告人の公判供述は到底信用できない。 ⑶ なお 。前記③についても、この時点でまだBを退職していないCの報酬がAの口座に振り込まれていた理由としては不自然である。 よって、被告人の公判供述は到底信用できない。 ⑶ なお、被告人は、検察官調書(乙3)において、BからAに振り込まれた現金は被告人による便宜供与のお礼、見返りであると分かっていたとして、賄賂性の認識を自認している。この点につき、被告人は、公判において、検察官からの長時間にわたる取調べの中で混乱し、資料も一部しか示されず、検察官の言うことについて何でも肯定するような状態となってしまったが、後日弁護人から資料を差し入れてもらい、当時の状況等を思い出せるようになったと供述する。しかし、被告人は、取調検察官に対し、調書の内容の訂正を複数にわたって求め(乙2)、その6日後に作成された前記検察官調書(乙3)では、これまで否認していたが、検察官や警察官がCへの反感の気持ちについて話を聞いてくれたことから、自分のしたことをしっかり見つめ直し、正直に本当のことを話すことにした旨録取されており、被告人の言い分どおりの取調状況にあったとは認められない。 5 結論前記のとおり信用できるC証言によれば、前記3⑴のとおりの事実が認定できる。そして、前記2のとおり検討した点に加え、本件イベントにAを関与させることをCに依頼したのは被告人であること、中抜きスキームが最終的にはDから下請けとしてBが受注し、孫請けとしてAが受注するという流れに変更になったのも被告人の提案によるものであることも考慮すると、Aに対する前記1⑸の振込入金は被告人が行った便宜供与の見返りとして行われたことを被告人も認識していたことは明らかである。 以上の次第で、被告人には賄賂性の認識があったと認められる。 第3 被告人がAを実質 の振込入金は被告人が行った便宜供与の見返りとして行われたことを被告人も認識していたことは明らかである。 以上の次第で、被告人には賄賂性の認識があったと認められる。 第3 被告人がAを実質的に経営して資金を管理していたか(争点②) 1 A代表取締役であるHの経営関与⑴ 関係各証拠によれば、Aは、令和3年5月にGの経営する会社と被告人の妻であるHの名義により、各150万円が出資されて設立された株 式会社であること、設立当初は、Gが代表取締役を務め、通帳や印鑑を管理していたこと、同年12月24日にはGが代表取締役を退任して経営に関与しなくなるとともに、取締役の1人であったHが代表取締役になり、その後、令和4年2月にGの保有株式全てをHが譲り受け、以降、Aの全株式をHが保有していたことが認められる。 ⑵ Hは、Aへの経営関与について、以下のとおり証言した。 ア令和3年5月にAの取締役に就任したものの、同社の経営会議に出席したことはなく、Aの業務に関与したことはなかった。出資金150万円をA名義の口座に振込入金したかどうか、150万円が誰が用意したかは分からない。 イ同年12月に被告人からの頼みで代表取締役に就任した後は、被告人やCからの指示を受けて、保管していたA名義の普通預金口座のキャッシュカードや通帳等を使い振込手続を行うなどしており、報酬をもらうこともあった。令和5年5月に警察からの取調べが入った頃から、Aの代表としての意識を持つようになった。 ⑶ H証言の内容は、Aが被告人とGにより設立された会社であり、公務員であるため取締役に就任できない被告人の代わりにHが取締役になったとのC証言及びG証言や、経営会議の議事録の内容(甲38、39)と整合している。また、Hにはあえて被告人に不利な た会社であり、公務員であるため取締役に就任できない被告人の代わりにHが取締役になったとのC証言及びG証言や、経営会議の議事録の内容(甲38、39)と整合している。また、Hにはあえて被告人に不利な供述をする動機が見当たらない。したがって、H証言は十分信用できる。 ⑷ 前記⑴及び信用できるH証言によれば、Hは、Aにおいて、取締役又は代表取締役、更には一人株主の地位にあったが、令和3年12月まではその業務に全く関与しておらず、同月以降も経営に主体的に関与したことはなく、被告人らの指示に従って行動していたと認められる。 2 被告人の経営関与⑴ 被告人自身も認めているとおり、Aは、芸術の分野における障がい者 雇用事業を行いたいという被告人の理念に基づき、Gと相談の上で設立された会社である。そして、前記1⑵及び⑷のとおり、Hは令和3年12月以前はAの業務に全く関与しておらず、出資金の出処は分からないと述べていることからすれば、会社設立時、被告人が、Hの名義で150万円を出資したことが認められる。 ⑵ G証言によれば、会社設立後、経理業務は代表取締役のGが担う一方、被告人が会社運営を担い、被告人及びCが営業を行うとの役割分担になり、会社の方針は経営会議等を通じて主に被告人がGに業務内容を報告、相談しながら決めていたこと、Gは、被告人との経営方針の対立から被告人から経理業務を引き渡すよう要求され、代表取締役を退任したことが認められる(なお、G証言は、会社運営に関してGに進捗を報告しながら案件を進めていることが読み取れる被告人とCの間のLINEメッセージのやり取り(甲51p89等)に裏付けられ、C証言とも整合しており、信用できる。)。すなわち、被告人は、会社設立時からAの運営や営業に密に関与している。 また とCの間のLINEメッセージのやり取り(甲51p89等)に裏付けられ、C証言とも整合しており、信用できる。)。すなわち、被告人は、会社設立時からAの運営や営業に密に関与している。 また、前記⑴を前提にすると、G退任後にHが取得したAの株式は、実質的には被告人が取得したことが推認される。 ⑶ さらに、令和4年4月以降、Aの税務を担当していた税理士事務所職員であるIの証言によれば、同年10月、被告人が、Aの同年8月期の税務申告の際、赤字決算の見通しを黒字決算に修正することを依頼し、同年12月、Iと相談しながら、Aの第三者割当て増資等を実施したこと、税務申告に関するAの窓口は専ら被告人であったことが認められ、被告人がAの税務面に携わっていたことが認められる。 ⑷ そして、Cは、G退任後のAの経営者は被告人であり、被告人がAの預金口座を管理し、事業計画を決め、本店所在地の変更も行ったもので、Cは被告人からAの活動について報酬を払うと言われて、報酬を月45 万円とする業務請負契約を締結した旨証言している。C証言が信用できることは前記第2・3のとおりである。 ⑸ 以上によれば、被告人は自らの理念に基づいてAを設立してGとともにその経営に携わり、G退任後はHの名義を借りて全株式を保有してAの一人株主となった上で、預金口座を管理し、税務申告や第三者割当増資等の会社経営において重要な財務についてAの窓口となって税理士事務所とやり取りを行うなど、引き続きAの経営に携わり続けていたのであるから、Gが代表取締役を退任した令和3年12月24日以降、被告人がAを実質的に経営して資金を管理していたと認められる。 3 被告人の供述被告人は、A設立後はGが代表取締役としてAを経営し、令和3年12月24日以降は、CがA 12月24日以降、被告人がAを実質的に経営して資金を管理していたと認められる。 3 被告人の供述被告人は、A設立後はGが代表取締役としてAを経営し、令和3年12月24日以降は、CがAの実質的経営者として活動していたものであり、被告人自身はアドバイザーのような位置付けであった旨供述する。 しかしながら、被告人の供述は、G証言及びC証言に反するのみならず、A設立の経緯にもそぐわない上、被告人及びCが、いずれ被告人がAの社長になるべきであると考えていると読み取れるLINEメッセージの内容(甲51p81)とも矛盾する。加えて、Cが実質的経営者であれば、第三者増資の相談を含めたIとのやりとりに一切Cの関与が見られないのも不自然である。よって、被告人の前記供述は信用できない。 4 弁護人の主張弁護人は、①Aの設立当初から、取締役であるHが、出資金150万円を出資したこと、G退任後はAの通帳やキャッシュカードを管理して振込送金等の事務を行い、報酬ももらっていたこと、令和5年3月末に被告人が愛知県職員を退職した後も被告人に代表取締役を変更していないことなどを指摘し、Hが名実ともにAの代表取締役であって被告人はHを補助していたにすぎない、②Gから経理業務を引き取ることをGに伝えたのは Cであること、CがAの営業だけでなく、本店の移転先探しや従業員の雇用にも深く関与していたことなどを指摘し、被告人は実質的経営者ではなかった旨主張する。 しかしながら、前記①について、Hが通帳等を管理して振込送金等を行っていたといっても、被告人やCからの指示に基づくものにすぎず、HはもとよりG、Cのいずれも、HがAの取締役ないし代表取締役としての職務を行っていたとは供述していない。また、前記②についても、弁護人指摘のCの関与は被告人がAの からの指示に基づくものにすぎず、HはもとよりG、Cのいずれも、HがAの取締役ないし代表取締役としての職務を行っていたとは供述していない。また、前記②についても、弁護人指摘のCの関与は被告人がAの経営に関与していなかったことを示す事情にはならない。したがって、弁護人の主張は採用できない。 5 結論以上の次第で、被告人は令和3年12月24日以降、Aを実質的に経営して資金を管理していたと認められる。 第4 実行行為性等(争点③)について弁護人は、請託の時点において、法的には本来別個の主体である被告人個人とAを同一視できなければ、中抜きスキームによって被告人が賄賂を受け取ることはできず、実行行為性及び故意がない旨主張する。 しかしながら、受託収賄罪における実行行為は賄賂の収受であり、請託の時点で故意すなわち賄賂性の認識は必要ではない。なお、Aは、芸術の分野における障がい者雇用事業を行いたいという被告人の理念に基づいて設立され、被告人が経営に携わった会社であり、Aが現金の振込入金を受けることは、会社運営資金の調達に向けた経済的負担や活動を回避できるなど、被告人にとっての様々な利益が考えられる上、少なくとも、自らの理念を実現するという被告人の欲望を満足させるに足りるものであるから、請託の時点においても、被告人は賄賂性を認識していたと認められる。弁護人の主張は採用できない。 第5 結論 以上のとおり、被告人には判示の受託収賄罪が成立する。 (量刑の理由)本件は、愛知県競馬組合の広報課長であった被告人が、イベント企画運営会社の従業員であったCからの請託を受け、名古屋競馬場のイベント事業に係る運営業務の委託先業者の選定に関する内部情報の漏洩等の有利かつ便宜な取り計らいを行い、それに対する謝礼等 が、イベント企画運営会社の従業員であったCからの請託を受け、名古屋競馬場のイベント事業に係る運営業務の委託先業者の選定に関する内部情報の漏洩等の有利かつ便宜な取り計らいを行い、それに対する謝礼等の趣旨の下に合計341万円の賄賂を収受したという事案である。 賄賂の金額は合計341万円と高額である。被告人は、公募型業者選定の審査員の一人であるのに、業者選定に関する審査基準等の内部情報等をCに与え、Cらにイベントの趣旨に沿った企画提案書を予め練り上げることを可能にした上、その企画提案書の添削を行うとともに、他社の提案内容の情報も与えてプレゼンテーションの対策を行わせ、その結果、被告人らが企図したとおりに委託先業者が選定されており、本件犯行によって愛知県競馬組合の業務の公正さや信頼が大きく損なわれたことは明らかである。 被告人は、自らの理念実現のために設立した、芸術の分野における障がい者雇用事業を行うことを目的とするAに利益を与えるため、担当課長として前記選定手続の公正には一層留意すべき立場にありながら、本件犯行に及んでおり、強い非難に値する。そして、被告人は、本件犯行を否認しており、真摯な反省の態度は見受けられない。 他方、中抜きスキームの考案等、本件犯行遂行にあたってはCが積極的に関与したことが認められる。加えて、被告人に前科前歴がないこと、被告人が就労支援等を行うNPO法人に対して352万円の贖罪寄付をしていることなど、被告人にとって酌むべき事情も認められる。 以上の事情を考慮し、同種事案の量刑傾向も踏まえると、被告人に対しては、主文記載の刑に処した上、今回に限り、その刑の執行を猶予することが相当であると判断した。 (求刑懲役2年6月及び主文記載の追徴)令和6年12月16日名古屋地方裁判所刑事第1 記載の刑に処した上、今回に限り、その刑の執行を猶予することが相当であると判断した。 主文 (求刑懲役2年6月及び主文記載の追徴)令和6年12月16日名古屋地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官森島聡 裁判官津島享子 裁判官藤井茜

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