令和6年3月26日判決言渡 令和5年(ネ)第10096号損害賠償請求控訴事件(原審東京地方裁判所令和4年(ワ)第10717号) 口頭弁論終結日令和6年2月13日判決 控訴人株式会社東京精密 同訴訟代理人弁護士服部誠 同中村閑 同岩間智女 同補佐人弁理士黒川恵 同相田義明 同山下崇 被控訴人浜松ホトニクス株式会社 同訴訟代理人弁護士東崎賢治 同松尾博憲 同中所昌司 同柿野真一 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1億円及びこれに対する令和4年5月28日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要(略語は原判決の表記に従う) 1 本件は、発明の名称を「レーザ加工方法及びレーザ加工装置」とする発明についての特許(特許第4509578号。以下、同特許を「本件特許1」、その発明 案の概要(略語は原判決の表記に従う) 1 本件は、発明の名称を「レーザ加工方法及びレーザ加工装置」とする発明についての特許(特許第4509578号。以下、同特許を「本件特許1」、その発明を「本件発明1」、本件特許1に係る特許権を「本件特許権1」という。)及び「切断方法」とする発明についての特許(特許第5122611号。以下、同様に「本件特許2」、「本件発明2」及び「本件特許権2」といい、これらと本件 特許1、本件発明1、本件特許権1とを併せて、それぞれ「本件各特許」、「本件各発明」、「本件各特許権」という。)について、被控訴人が単独で特許出願し本件各特許権の設定登録を受けているところ、控訴人が、当事者間の契約によれば本件各特許権は控訴人と被控訴人の共有となるべきものであるにもかかわらず、被控訴人が単独でその設定登録を受けた上で、控訴人に対して本件特許権 1の侵害を理由とする特許権侵害訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起すると共に、控訴人に無断で控訴人の競合他社に対して本件各特許権の実施許諾をしたことは、いずれも控訴人に対する不法行為に当たると共に、上記実施許諾により被控訴人が得た利益は不当利得に当たる旨を主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)又は不当利得返還請求(70 3条。両者は選択的併合である。)として、損害金又は不当利得金として10億円の一部である1億円及びこれに対する令和4年5月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、これに不服の控訴人が本 件控訴を提起した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記 事案である。 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、これに不服の控訴人が本 件控訴を提起した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の1ないし3(原判決2頁19行目ないし23頁18行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決3頁2行目の「(以下『ステルスダイシング技術』という。)」との部 分を削り、同頁5行目から6行目の「ステルスダイシング技術」を「上記技術」と、同頁9行目の「ステルスダイシング(以下『SD』と略することもある。)技術」を、「ステルスダイシング(以下『SD』と略することもある。)と呼ばれる技術」と、同頁11行目の「1つ1つ」を「一つ一つ」とそれぞれ改め、同頁12行目の末尾の次を改行し、「このステルスダイシングに係る 技術については、被控訴人が基本特許を有する(以下、この被控訴人が基本特許を有するレーザを用いた上記ダイシング技術を『ステルスダイシング技術』という。)。」を加え、同頁18行目の「起点(改質層、」を「起点となる改質層(」と改める。 ⑵ 原判決4頁17行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「⑷ 半導体ウエハダイシング分野:シリコンまたは化合物半導体ウエハの加工装置であるダイシング装置分野」⑶ 原判決5頁22行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 ●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 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本件発明1-11に関するもののうち(『前記切断予定ライン』から始まる項を第1項とする。)、第2項及び第3項は認め、本件試作機の構成の第1項のうち、『固定されていたレンズ(ピエゾ)が、ウェハ上において可変となり、『リアルコントロールモード』によりオートフォーカスしながらレンズとウェハとを相対的に移動させて加工(改質領域の形成)がなされる』点は認め、 その余は否認する。 本件発明2については認める。」⑹ 原判決20頁23行目ないし24行目の「業務提携契約(以下「本件提携契約」という。)」を「業務提携に関する契約」と改める。 3 当審における控訴人の主な補充主張 ⑴ 本件準備契約6条の解釈について原判決は、本件準備契約6条1項は、①「SDエンジンに関する本成果」は被控訴人に帰属すること、②「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない」本成果は控訴人と被控訴人の共有とすることを定めたものと解釈した。このうち①については、下記⑵のとおりである。 ②については、本件準備契約締結に至る交渉経過において、「ステルスダイシング技術」が被控訴人の単独出願となる とすることを定めたものと解釈した。このうち①については、下記⑵のとおりである。 ②については、本件準備契約締結に至る交渉経過において、「ステルスダイシング技術」が被控訴人の単独出願となる6条1項⑴から、両者の共有となる同項⑵に移されて合意されたこと、甲6の1において「半導体ウェハ市場」における「ステルスダイシング技術に関するコア技術」は共同開発を行い、開発費を双方が負担し、「利益配分(特許)」として「ステルスダイシング技 術」を共有とすることが記載されていること、「ステルスダイシング技術」そのものは、本件準備契約1条に定義されているとおり、被控訴人の基本特許(805特許)を指すが、同条の定義のとおり、「ステルスダイシング装置」は、「ステルスダイシング技術を用いた装置」であり、「ステルスダイシング装置」の共同開発においては、「ステルスダイシング技術」を実用化するにあ たり、「ステルスダイシング技術」に関する成果が生じることが想定され、こ れを両者の貢献をふまえて共有とすることは共同開発に参加する当事者の意思として合理的であることなどからすると、上記②については、「ステルスダイシング技術」に関する本成果及び「SDエンジンに関しない本成果」は控訴人と被控訴人の共有とすることを定めたものと解釈することが自然であり、合理的である(この解釈を、以下「控訴人の主位的解釈」といい、その主張 を「控訴人の主位的主張」という場合がある。)。この点に関しては、下記⑶のとおりである。 一方で、控訴人は、原判決の①及び②の解釈も採り得ると考えるものの、「ステルスダイシング技術」とは、被控訴人が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術、具体的には805特許に限られるのであるから、控訴 人と被控訴人の共有となる、 採り得ると考えるものの、「ステルスダイシング技術」とは、被控訴人が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術、具体的には805特許に限られるのであるから、控訴 人と被控訴人の共有となる、共同開発期間中に新たに開発された「ステルスダイシング技術に関するものではなく、かつ、『SDエンジン』に関するものでもない」技術の範囲は、ステルスダイシング装置の共同開発を含む、本件準備契約を締結した当事者の意思に照らして合理的なものとして解釈される必要がある。この点に関しては、下記⑷のとおりである。 ⑵ 「SDエンジンに関する本成果」について原判決は、被控訴人に単独で帰属する「SDエンジンに関する本成果」とは、「発明の特徴的部分がSDエンジンに関する発明等(本成果)をいう」と解釈した(原判決31頁11行目ないし13行目)が、かかる解釈は誤りである。 まず、成果の帰属を定めた6条は、5条が定めるとおり、各々の当事者が、投じた費用(人的工数を含む開発費)が無駄になるリスクを負って共同開発をした過程で確認された発明・考案等及びこれらに基づく工業所有権等の帰属について合意したものである。 そうすると、6条の「本成果」の帰属は、5条の役割分担において、被控 訴人のみがリスクを負って開発した「SDエンジン」が課題解決手段の全部 であるものについては、「SDエンジン」に関する発明として被控訴人に単独で帰属し、他方、「SDエンジン」を控訴人の既存ダイサ装置に搭載して「ステルスダイシング装置」を完成させるにあたり、控訴人と被控訴人とが相互にリスクを負って開発した、「SDエンジン」に該当しない部分が、発明・考案等の課題解決のための必須の構成の全部又は一部をなすものは、「SDエン ジン」に関しない発明として、 と被控訴人とが相互にリスクを負って開発した、「SDエンジン」に該当しない部分が、発明・考案等の課題解決のための必須の構成の全部又は一部をなすものは、「SDエン ジン」に関しない発明として、両者の共有となると理解することが合理的であり、本件準備契約を締結した当時の当事者の合理的意思に合致する。 また、本件準備契約において、「ステルスダイシング技術」を用いた装置の中の、特定の部分のみを「SDエンジン」と定義し、「SDエンジン」に関する本成果についてのみ被控訴人に単独で帰属することを定めていることから しても、「SDエンジン」に関する本成果とは、発明・考案等の課題解決のための必須の構成の全部を「SDエンジン」が備えているものを意味し、ステルスダイシング装置中の「SDエンジン」に該当しない部分が、発明・考案等の課題解決のための必須の構成の全部又は一部をなすものは、「SDエンジン」に関する発明に該当しないというべきである。 以上のように解さなければ、ステルスダイシング装置の実用化にあたり両者が各々リスクを負って共同で開発し確認された、「SDエンジン」に該当しない部分が課題解決のための必須の構成の少なくとも一部をなす発明や、アプリケーションに関する発明等に係る知的財産権が、被控訴人に単独で帰属することになってしまう。かかる帰結が、共同開発の理念に反するものであ って、不合理であることは明らかである。 ⑶ 控訴人の主位的主張に対する原判決の判断の誤りア原判決は、控訴人の主位的主張のような解釈によれば、SDエンジンに該当しない部分が課題解決の必須の構成に一部でも含まれてさえいれば本件準備契約6条1項⑴が適用されないこととなるが、これは「SDエン ジンに関する本成果は被告に帰属するものとする。」との ンに該当しない部分が課題解決の必須の構成に一部でも含まれてさえいれば本件準備契約6条1項⑴が適用されないこととなるが、これは「SDエン ジンに関する本成果は被告に帰属するものとする。」との文言と整合せず、 相当でない(原判決31頁20行目ないし23行目)旨判示した。 しかし、控訴人の前記主位的解釈は、本件準備契約6条1項⑴が適用されない場面を、「発明・考案等の課題解決のための必須の構成」を「SDエンジン」に該当しない部分が担っている場合に限定するものであって、課題解決に無関係な発明・考案等の構成の一部さえ「SDエンジン」に該当 しない部分に含まれていれば同号が適用されないと主張するものではないから、「SDエンジン」に関する本成果の帰属を定めた文言と整合しないとはいえない。例えば、「SDエンジン」の構成のみが課題解決のための必須の構成であり、そのような必須の構成を有する「SDエンジン」を備える「レーザダイシング装置」を特許請求の範囲に記載した場合には、控訴 人の解釈によっても、そのような発明は、「SDエンジン」に関する成果として、被控訴人に単独で帰属することとなる。 他方、発明の課題が、「SDエンジン」のみならず、「SDエンジン」の定義に該当しない構成にも関わるものであり、当該課題解決のための必須の構成を、「SDエンジン」と「SDエンジン」以外の構成の両方が備えて いる「レーザダイシング装置」を特許請求の範囲に記載した場合には、かかる発明は、「SDエンジン」に関する成果には該当しないとしても、本件準備契約の上記文言に整合しないとはいえない。 「SDエンジン」はステルスダイシング装置中の特定の部分のみを指すことが明確に定められていることに照らせば、むしろ、「SDエンジン」に該当しない部分が 準備契約の上記文言に整合しないとはいえない。 「SDエンジン」はステルスダイシング装置中の特定の部分のみを指すことが明確に定められていることに照らせば、むしろ、「SDエンジン」に該当しない部分が課題解決 の必須の構成となる発明までもが含まれるように、「SDエンジンに関する」を広げて解釈しようとすることこそ、「SDエンジン」の定義及び「SDエンジンに関する本成果は被控訴人に帰属する」との文言と整合しないというべきである。 そして、発明・考案等の課題解決のための必須の構成がSDエンジンに 限定されない場合の「SDエンジン」に該当しない部分の開発は、本件準 備契約5条に定めるとおり、控訴人がリスクを負い費用を負担して担ったものである。 したがって、「SDエンジン」に該当しない部分が課題解決の必須の構成に含まれる場合に、その発明が両者の共有となることは合理的である。 イまた、原判決は、「本件試作機の共同開発は、SDエンジンの共同開発で はなく、これを搭載したステルスダイシング装置の開発を目的とするものである。そうである以上、SDエンジンのみを必須の構成としてその課題解決が実現されることはむしろ考え難く、他の構成と組み合わせることにより課題が解決されるのがむしろ通常と思われる。原告の上記主張によれば、その際に組み合わされる他の構成に係る技術が従来技術の域を出ない 場合であっても、その成果は原告と被告との共有となることになるが、そのような帰結は必ずしも合理的とはいえない。」(原判決31頁23行目ないし32頁4行目)と判示する。 しかし、原判決の上記判断は、ステルスダイシング装置が、控訴人と被控訴人の両者の技術を組み合わせることで初めて実現できたものである ことを無視するものである。 2頁4行目)と判示する。 しかし、原判決の上記判断は、ステルスダイシング装置が、控訴人と被控訴人の両者の技術を組み合わせることで初めて実現できたものである ことを無視するものである。 原判決が述べるとおり、試作機の共同開発は、SDエンジンの共同開発ではなく、これを搭載したステルスダイシング装置を、世界で初めて開発しようとするものであった。共同開発の前に被控訴人が試作した実験機は、既存の光学系やレーザ発振器を簡単な駆動装置に組み合わせたにすぎな いものであり、このまま半導体デバイスの生産に使うことは到底できないものであったことから、システム全体を制御するソフトウェア設計を含め、光学系以外の部分は、控訴人側での開発が必要であった。具体的には、被控訴人の「SDエンジン」は被控訴人が改造を行い、控訴人が提供した既存のダイサ装置は「SDエンジン」を搭載可能なように被控訴人が改造を 行って、「SDエンジン」を載せた既存のダイサ装置が、実用に供するに足 りる性能を有するステルスダイシング装置となるよう、両者で技術を持ち寄って開発を進めることが予定されていたのであり、実際、装置のシステム全体を制御するソフトウェア設計を含め、控訴人は多額の費用を負担して開発した。このような両者に期待される貢献を考慮すれば、「SDエンジン」と既存のダイサ装置が備える構成とが組み合わされることにより初め て課題を解決できる発明について、控訴人と被控訴人の共有になるとの帰結は至極合理的である。被控訴人に何ら知見がなかったダイサ装置に関する技術を控訴人が惜しみなく提供し、これを「SDエンジン」と組み合わせることで新たに技術的な課題が生じ、その課題を解決する必須の手段の一部を、控訴人が提供した「SDエンジン」に属さない部品が担うこ る技術を控訴人が惜しみなく提供し、これを「SDエンジン」と組み合わせることで新たに技術的な課題が生じ、その課題を解決する必須の手段の一部を、控訴人が提供した「SDエンジン」に属さない部品が担うことで 生じた発明であるにもかかわらず、その知的財産権を、被控訴人が単独で吸い上げ、控訴人に何らの権利も帰属しないという公平を失した帰結こそ、極めて不合理である。原判決の解釈によれば、「SDエンジン」を用いたステルスダイシング装置の発明は、全て「SDエンジンに関する」ものとして、被控訴人に単独で帰属することとなるに等しいが、そのような解釈は、 合理的な当事者の意思に明らかに反する。 ⑷ 本件各発明の特徴的部分が「SDエンジン」に関するとの判示についてア原判決は、本件各発明の特徴的部分はいずれも「SDエンジン」に関するものである旨判示する(原判決32頁11行目ないし24行目、33頁15行目ないし34頁3行目)。 しかし、そもそも、「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断することが誤りであることは前記⑶のとおりである。 イその点を措き、仮に、「発明の特徴的部分」を基準として帰属を判断するとしても、原判決の判断は誤りである。 (ア) 本件発明1について 本件発明1は、加工対象物の端部においてレーザ光の集光点のずれが 生じることを課題とし(本件明細書1の段落【0004】~【0006】等)、レンズとステージとの(水平上(X軸上)の)位置関係を認識し、レンズがステージ上の加工対象物の「切断予定ラインの一端部」に来て(レンズが加工対象物に差し掛かり)改質領域を形成した後に、レンズを保持した状態を解除する(そして、その後、レンズと加工対象物とを 主面に沿って相対的に移動させながら改質領域を形 一端部」に来て(レンズが加工対象物に差し掛かり)改質領域を形成した後に、レンズを保持した状態を解除する(そして、その後、レンズと加工対象物とを 主面に沿って相対的に移動させながら改質領域を形成する)ことにより課題を解決するものであるから(本件明細書1の段落【0023】及び【0024】等)、ステージを備え、レンズとステージ上の加工対象物との相対的な(水平上(X軸上)の)位置関係を把握し、レンズのZ軸上の動作とステージのX軸上の動作のタイミングを同期させることが、 課題の解決には必須である(本件明細書1の段落【0070】及び【0071】等)。かかる必須の動作は、CPU(中央演算装置)による情報処理と、その情報処理の結果を制御信号として出力することにより行われる(本件明細書1の段落【0042】及び【0043】)。 以上によれば、本件発明1は、「SDエンジン」の定義から除かれて いるX軸上の「ステージ」の動作とその制御を、発明の特徴的部分として含んでいる。したがって、本件発明1は、「発明の特徴的部分」が「SDエンジン」にあるとはいえないから、原判決の判断は誤りである。 また、共同開発の経過に照らしても、本件発明1は、「SDエンジンに関する本成果」に該当し被控訴人に単独で帰属すべきものであるとは いえない。すなわち、控訴人と被控訴人は、控訴人の既存装置を用いた共同開発の過程で、ウェハ端部の形状変動によるレーザ光の集光点のずれの問題を認識した(本件明細書1の段落【0004】等)。控訴人と被控訴人は、この課題に対処するため、被控訴人製レーザエンジンのピエゾ駆動回路を改良するとともに、各加工ラインで加工する前にウェハ端 部の高さを測距用ユニットにより計測し、これに基づいて装置側(ダイ サ部)のXステージを 訴人製レーザエンジンのピエゾ駆動回路を改良するとともに、各加工ラインで加工する前にウェハ端 部の高さを測距用ユニットにより計測し、これに基づいて装置側(ダイ サ部)のXステージを走査することにより解決することとして、その具体的制御方法として、装置側(ダイサ部)のCPU162が、レーザエンジンのマイコン部にコマンド指令を送る構成とした。このように、本件発明1の課題を解決する本件発明1に係る具体的制御方法のうち、被控訴人製レーザエンジンの動作に同期したXステージの走査及びダイ サ部のCPU162から被控訴人製レーザエンジンのマイコン部へのコマンド指令(本件発明1の「前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し」、「前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制 御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し」に係る構成)を実現する装置側の開発は、控訴人がその役割を担い、開発費を負担して行われた。 このCPU162は、既存製品中の「ダイサ」が備える部品として、 控訴人の既存製品の改造の過程で、控訴人が自己の役割分担部分の費用として自己のリスクにおいて費用負担し、開発することが予定されており(本件準備契約5条2項⑴、同条3項)、実際にも、控訴人は、同契約の定めに従って費用を負担し、既存装置が備えていたCPUボード(甲51は、既存装置であるA-WD-200T のCPUボード(CPUBOARD) の写真である)のソフトウェアを改造することにより試作機用のCPU162を開発した。 そし たCPUボード(甲51は、既存装置であるA-WD-200T のCPUボード(CPUBOARD) の写真である)のソフトウェアを改造することにより試作機用のCPU162を開発した。 そして、CPU162のソフトウェア設計についても、下位のプログラムであるマイコン部に対する指令やデータの送付を含めた、装置全体の制御を行う上位のプログラムとして、控訴人が役割を担って開発した (甲21等)。具体的には、控訴人は単独で、控訴人グループのソフト ウェア開発企業である株式会社トーセーシステムズにCPU162のソフトウェア設計を有償で委託し、既存装置のCPUボードに組み込まれていた複数のチャネル(CH)のうちの一つを、レーザエンジンへの指令用として用いるように改造した(甲52)。被控訴人はCPU162の仕様書もソースコードも作成しておらず、当然、これらの中身も把 握していない。 上記本件準備契約の条項及び当該契約条項の履行状況に鑑みれば、CPU162によるキーコンポーネント部の制御が「SDエンジン」に含まれるとして、その成果の帰属を被控訴人のみに帰属させるべきものと解することは、当事者の合理的意思解釈に著しく反するというべきであ る。 そして、本件準備契約1条⑶の「SDエンジン」の定義における「キーコンポーネント部(Z軸ステージを含む)及びソフトウェア設計」とは、共同開発の対象であるステルスダイシング装置のうち、被控訴人が開発を担当することが予定されていたレーザエンジン(LE)部及びそ のソフトウェア設計(マイコン部のソフトウェア設計)を指すと解すべきであるところ、CPU162は、これには含まれない。 このように、本件発明1は、「レーザダイシング装置」の発明であって、本件発明1の課題解決手段は、加工 イコン部のソフトウェア設計)を指すと解すべきであるところ、CPU162は、これには含まれない。 このように、本件発明1は、「レーザダイシング装置」の発明であって、本件発明1の課題解決手段は、加工対象物の端部というステージのX軸上の特定の位置において、レンズのZ軸上の所定の動作を行うこと にあり、CPU162による装置全体の制御、すなわち「キーコンポーネント部以外の部分の制御」が不可欠であるから、本件発明1は、「SDエンジン」に関する発明には該当しない。 また、ウェハ端部の形状変動に対応するためには、その前提として、ステージ上のウェハの位置及びウェハ上のレンズの位置をサブミクロ ンレベルで正しく把握する必要があるところ、そのためには、ベースと なる装置の剛性が高く、振動が少なく、その結果として加工位置の高さ方向の変動が少ないものである必要がある。業務提携前の被控訴人の実験機は、剛性が低く振動が大きいものであったため、加工精度が著しく低かった。控訴人は、この課題を解決するために、控訴人の既存装置であるA-WD-200T が備えていた完全非接触駆動機構(甲49:移動する 載置台搭載部分から加圧空気をガイドに対して噴出させ、発生した静圧によって載置台搭載部分を浮上させる非接触の駆動機構)を、試作機の加工用ステージに用いることとした。完全非接触駆動機構では、再現性に優れ、軌道上を非接触で移動するため、平均効果が得られ真直度が高く、運動中の振動を大幅に低下させることができ、高い位置決め精度が 得られる(甲50)。これにより、控訴人は、試作機において、ウェハの端部の高さを測定してから高さ方向の初期位置で加工対象物の端部に突入して加工すること(「ハイトセット」、本件発明1における「制御手段は前記集光点が前記加工 により、控訴人は、試作機において、ウェハの端部の高さを測定してから高さ方向の初期位置で加工対象物の端部に突入して加工すること(「ハイトセット」、本件発明1における「制御手段は前記集光点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し」に係る 構成のこと。)、ウェハの高さに追従して加工すること(「トレースモード」、本件発明1における「前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し」に係る構成のことであり、全体制御。)、測定と加工を同時に行うこと(「リアルタイムモード」)などを実現したのであり、かかる開発は控訴人が担ったものである。 以上によれば、本件発明1は、被控訴人のみがリスクを負って被控訴人が単独で開発した発明ではなく、控訴人と被控訴人とが相互にリスクを負って開発した「SDエンジン」に該当しない部分が、発明の特徴的部分、ないし発明・考案等の課題解決のための必須の構成の少なくとも一部をなすから、「SDエンジン」に関する発明ではなく、「ステルスダ イシング技術」に関する本成果(控訴人の主位的解釈)、又は「ステルス ダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」(原判決の解釈)として、両者の共有となるというべきである。 (イ) 本件発明2について本件発明2は、シリコンウェハを容易に切断できる切断方法を提供することを課題とし、集光点のピークパワー密度を「1×108(W/cm 2)以上の条件」とし、パルスレーザ光のパルスピッチを「2.00μm~7.00μm」として、溶融処理領域と微小空洞とをシリコンウェハ内部に形成することによって、課題を解決するものである(本件明細書2の段落【0006】)。そして、本件明細書2の ッチを「2.00μm~7.00μm」として、溶融処理領域と微小空洞とをシリコンウェハ内部に形成することによって、課題を解決するものである(本件明細書2の段落【0006】)。そして、本件明細書2の段落【0007】によれば、パルスレーザ光のパルスピッチを「2.00μm~7.00μm」 とすることで、「的確に微小空洞を形成でき」、「溶融処理領域と微小空洞とからなる改質領域を起点として、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハを容易に切断できる」。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を所定のパルスピッチになるように制御することが、本件発明2の課題の解決には必須である(本件明細書2の段落【0021】、 【0034】及び【0057】)。かかる必須の制御は、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127が、ステージ制御部115を制御することにより行われる(本件明細書2の段落【0027】及び【0028】)。 以上によれば、本件発明2は、「SDエンジン」の定義から除かれて いるX軸ステージ及びY軸ステージ並びにそれらの制御を、発明の特徴的部分として含んでいる。したがって、本件発明2も、「発明の特徴的部分」が「SDエンジン」にあるとはいえないから、原判決の判断は誤りである。 また、共同開発の経過に照らしても、本件発明2は、「SDエンジン に関する本成果」に該当し被控訴人に単独で帰属すべきものであるとは いえない。すなわち、控訴人と被控訴人は、加工速度や周波数の値を変更しながら、最適な加工条件を相互に模索し、画像データを含む結果をやり取りしている中で、本件発明2の定めるパルスピッチの値となる加工条件を開発した。このように、本件発明2に係る開発は、控訴人も相応の開発費を負担して行われたものである。 データを含む結果をやり取りしている中で、本件発明2の定めるパルスピッチの値となる加工条件を開発した。このように、本件発明2に係る開発は、控訴人も相応の開発費を負担して行われたものである。 以上によれば、本件発明2は、被控訴人のみがリスクを負って被控訴人が単独で開発した発明ではなく、控訴人と被控訴人とが相互にリスクを負って開発した「SDエンジン」に該当しない部分が、発明の特徴的部分、ないし発明・考案等の課題解決のための必須の構成の少なくとも一部をなすから、「SDエンジン」に関する発明ではなく、「ステルスダ イシング技術」に関する本成果(控訴人の主位的解釈)、又は「ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果」(原判決の解釈)として、両者の共有となるというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の請求についてはいずれも棄却すべきであると判断する。 その理由は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第3(原判決23頁20行目ないし34頁25行目)のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決25頁24行目の「『基本特許』」を「『基本特許』の内容等について は、以下のとおりである。」と改める。 ⑵ 原判決26頁3行目の「出願日平成13年9月13日、」の次に「公開日平成14年7月10日、」を加える。 ⑶ 原判決27頁17行目ないし18行目の「『業務提携に関する契約』(甲32、本件提携契約)を締結した」を「『業務提携に関する契約』(以下「本件 提携契約」という。甲32)を締結した」と改める。 ⑷ 原判決28頁21行目の「は、」の次に「本成果と 甲32、本件提携契約)を締結した」を「『業務提携に関する契約』(以下「本件 提携契約」という。甲32)を締結した」と改める。 ⑷ 原判決28頁21行目の「は、」の次に「本成果とされている、」を加え、同頁24行目の「ところ、」の次に「6条1項⑴及び⑵は、いずれも同条柱書に記載された本成果の帰属等について定めるものであるから、同項⑵にいう『本成果』の内容として、『ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない』ものを同号の本成果というと解するのが、文理に即した解釈である。 また、本件準備契約7条1項⑹は、『業務提携後、販売活動により市場から得られた新たな知見は、SDエンジンに関する本成果は乙(判決注:被控訴人)に帰属し、ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果は甲(判決注:控訴人)と乙が共有する。』(甲5)と定めるところ、同項も、本成果の帰属について、控訴人に帰属する本成果と控訴人と被控訴人の共有と する本成果を並立記載するものであるから、ここにいう『ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない本成果』も、前記同様に、『ステルスダイシング技術及びSDエンジンに関しない』本成果を両者の共有とする趣旨と解するのが文理に叶う。さらに、」を加える。 ⑸ 原判決29頁2行目の「むしろ、」を「以上のように、」と改める。 ⑹ 原判決30頁4行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「さらには、平成18年(2006年)10月に、そのころ控訴人の会長であったA(以下『A’』という。)は、被控訴人がディスコ社と取引をしていることを知って被控訴人方に抗議に乗り込んだ際に、被控訴人が出願した特許には控訴人と被控訴人の共有とすべきものがあるとして、被控訴人の 出願に係る8件の特許のリスト(乙2 スコ社と取引をしていることを知って被控訴人方に抗議に乗り込んだ際に、被控訴人が出願した特許には控訴人と被控訴人の共有とすべきものがあるとして、被控訴人の 出願に係る8件の特許のリスト(乙2の2)を提示した。そのリストにはそれぞれの発明について、発明の名称、内容、コメント及び要約が記載されており、これらはいずれも「レーザ加工装置」ないし「レーザ加工方法」に関する発明であったが、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●⑺ 原判決75頁22行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「【発明の実施の形態】Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステー ジ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また、この集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。(段落【0045】) 第1例の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これにより、改質領域(例えばクラック領域、 溶融処理領域、屈折率変 。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これにより、改質領域(例えばクラック領域、 溶融処理領域、屈折率変化領域)を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。よって、改質領域を起点として切断予定ライン5に沿って加工対象物1を割ることにより、比較的小さな力で加工対象物1を切断するこ とができる。これにより、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。(段落【0058】)レーザ光源101からはレーザ光Lがパルス状に出射されることから、レーザ光Lの走査あるいは切断対象材料32の移動を行った場合、クラ ック領域9は、図25に示されるように、切断対象材料32の長手方向 Dに沿ってレーザ光Lの走査速度あるいは切断対象材料32の移動速度に対応した間隔を有して複数のクラック領域9が形成されていくことになる。レーザ光Lの走査速度あるいは切断対象材料32の移動速度を遅くすることにより、図26に示されるように、クラック領域9間の間隔を短くして、形成されるクラック領域9の数を増やすことも可能である。 また、レーザ光Lの走査速度あるいは切断対象材料の移動速度を更に遅くすることにより、図27に示されるように、クラック領域9が、レーザ光Lの走査方向あるいは切断対象材料32の移動方向、すなわちレーザ光Lの集光点の移動方向に沿って連続的に形成されることになる。クラック領域9間の間隔(形成されるクラック領域9の数)の調整は、レーザ 光Lの繰り返し周波 対象材料32の移動方向、すなわちレーザ光Lの集光点の移動方向に沿って連続的に形成されることになる。クラック領域9間の間隔(形成されるクラック領域9の数)の調整は、レーザ 光Lの繰り返し周波数及び切断対象材料32(X軸ステージあるいはY軸ステージ)の移動速度の関係を変化させることでも実現可能である。 また、レーザ光Lの繰り返し周波数及び切断対象材料32の移動速度を高くすることでスループットの向上も可能である。(段落【0075】)」 2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断 ⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴のとおり、本件準備契約6条は、ステルスダイシング技術に関する本成果については、控訴人と被控訴人の共有とする旨を定めたものである旨を主張する。 しかし、本件準備契約6条の解釈については、補正の上で引用した原判決第3の1⑵のとおりである。 控訴人は、補正の上で引用した原判決第3の1⑴イの控訴人による修正申入れにより、ステルスダイシング技術に関する「本成果」は、控訴人と被控訴人の共有とする旨定める本件準備契約6条1項⑵に移されて本件準備契約の締結に至ったものであるから、ステルスダイシング技術に関する「本成果」も、控訴人と被控訴人の共有となる旨主張する。 しかし、ステルスダイシング技術に関する「本成果」についても控訴人と 被控訴人の共有とする旨の合意の下に、本件準備契約が締結されたと認めるに足りる的確な証拠はない上、補正の上で引用した原判決第3の1⑵アのとおり、本件準備契約6条1項⑴及び⑵は、いずれも同条柱書に記載された「本成果」の帰属等について定めるものであるところ、同項⑵は、もともとSDエンジンに「関しない本成果」を控訴人と被控訴人の共有とする旨定めてい たものであるから、同項⑵ れも同条柱書に記載された「本成果」の帰属等について定めるものであるところ、同項⑵は、もともとSDエンジンに「関しない本成果」を控訴人と被控訴人の共有とする旨定めてい たものであるから、同項⑵にステルスダイシング技術に関する定めを移すことが、直ちに「ステルスダイシング技術に関する本成果」を控訴人と被控訴人の共有とする旨定めるに至ったことを意味するものともいえない。 「ステルスダイシング技術」は、被控訴人が作成した契約書の第1ドラフト(甲22)においても、「乙(判決注:被控訴人)が基本特許を有するレーザを用いたダ イシング技術」と定義されており、本件準備契約作成時点において被控訴人に帰属する固有の技術であったのであるから、これが控訴人と被控訴人の共有になることはないというべきである。 したがって、控訴人と被控訴人の共同開発に至る経緯を考慮しても、上記解釈を左右するものではないから、控訴人の上記主張は採用することができ ない。 ⑵ 控訴人は、前記第2の3⑵、⑶及び⑷アのとおり、SDエンジンに関する本成果とは、発明・考案等の課題解決のため必須の構成全部を、SDエンジンが備えるものをいうと解すべきと主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第3の1⑶のとおり、本件準備契約の 目的、趣旨や文理等に鑑みると、「SDエンジンに関する本成果」とは、発明の特徴的部分がSDエンジンに関する発明等(本成果)をいうものと解される。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑶ 控訴人は、前記第2の3⑷イ(ア)のとおり、「SDエンジンに関する本成果」 に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するもの と解したとしても、本件発明1は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主張し、 、「SDエンジンに関する本成果」 に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するもの と解したとしても、本件発明1は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主張し、それに沿う証拠として甲51、52を提出する。 しかし、補正の上で引用した原判決第3の1⑷のとおり、本件発明1は、いずれも発明の特徴的部分がSDエンジンに関するものとして、その成果は被控訴人に属するものというべきであるところ、控訴人が当審において提出 する甲51、甲52はいずれもCPUボードないしコンピュータソフトウェア設計に係る証拠であり、本件発明1の内容は補正の上で引用した原判決第2の1⑶及び同第3の1⑷ア(ア)のとおりであって、本件発明1は、レーザ加工方法の手順をレーザ加工装置のコンピュータに実行させるためのコンピュータソフトウェアに係る発明ではない。そうすると、上記の控訴人の主張及 びこれに係る証拠は、本件発明1の特徴的部分ないし発明特定事項である特許請求の範囲の記載と関係しないものである。 その点を措いても、本件試作機は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」(平成14年10月2日付け打合議事録。甲26)とされていることから、本件試作機においては、それまでレーザエンジン側で行っていたことを装置本体 側のCPU162で行えるようにしたものであるところ、控訴人のCPU162に係る主 録。甲26)とされていることから、本件試作機においては、それまでレーザエンジン側で行っていたことを装置本体 側のCPU162で行えるようにしたものであるところ、控訴人のCPU162に係る主張は、レーザ加工装置の制御を行うCPUの所在場所をいうものにすぎず、そのプログラムの前提となる本件発明1の前記特徴に係るものではない上、本件準備契約1条⑶の「SDエンジン」の定義には、キーコンポーネント部及びソフトウェア設計も含まれているのであるから、CPU1 62の所在場所及びそのソフトウェアとしての機能をもって、本件発明1を 控訴人と被控訴人の共有とすべき根拠とすることはできないというべきである。 また、控訴人は、本件発明1は、X軸上のステージの動作とその制御を発明の特徴的部分に含み、加工対象物の端部というステージのX軸上の特定の位置においてレンズのZ軸上の所定の動作を行うものであり、これはSDエ ンジンに関する発明に該当しない旨も主張する。 しかし、805特許に係る明細書(甲48)は補正の上で引用した原判決別紙3のとおりであるところ、その明細書の段落【0045】、【0058】及び【0075】の記載によれば(記載内容は原判決別紙3参照)、805特許において、既にZ軸ステージをZ軸方向に移動させることにより、加工対 象物(シリコンウェハ)の内部にレーザ光の集光点を合わせることができ、X軸ステージやY軸ステージを移動させることにより、集光点を切断予定ラインに沿って移動させ、これにより、改質領域を切断予定ラインに沿うように加工対象物の内部に形成することが示されているから、これと本件発明1の内容(補正の上で引用した原判決第2の1⑶及び第3の1⑷ア)とを対比 すると、805特許に示されたX軸ステージの移動に係る制 加工対象物の内部に形成することが示されているから、これと本件発明1の内容(補正の上で引用した原判決第2の1⑶及び第3の1⑷ア)とを対比 すると、805特許に示されたX軸ステージの移動に係る制御と特段異なる内容は示されておらず、本件発明1の内容にはX軸ステージの移動に係る制御に関して805特許に示されたX軸ステージの動作を超える新規の技術的事項は何ら示されていない上、控訴人の主張するX軸上の特定の位置の検出それ自体は、X軸ステージの制御を意味するものでもないから、これをもっ て、X軸ステージの制御に本件発明1の特徴的部分があるとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑷ 控訴人は、前記第2の3⑷イ(イ)のとおり、「SDエンジンに関する本成果」に関し、仮に「発明の特徴的部分」を基準として発明の帰属を判断するものと解したとしても、本件発明2は控訴人と被控訴人の共有とすべきものと主 張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第3の1⑷イのとおり、本件発明2は、いずれも発明の特徴的部分が「SDエンジン」に関するものとして、その成果は被控訴人に属するものというべきである。 本件発明2に係るパルスピッチは、レーザ光の繰り返し周波数及びX軸ないしY軸ステージの移動速度との関係により決まるものであるところ(本件 明細書2の段落【0015】及び【0057】)、前記⑶のとおり、805特許において、既にX軸ステージやY軸ステージを移動させることにより、集光点を切断予定ラインに沿って移動させ、これにより、改質領域を切断予定ラインに沿うように加工対象物の内部に形成することが示されており、これと本件発明2の内容(補正の上で引用した原判決第2の1⑷及び第3の1⑷ イ)とを対比する せ、これにより、改質領域を切断予定ラインに沿うように加工対象物の内部に形成することが示されており、これと本件発明2の内容(補正の上で引用した原判決第2の1⑷及び第3の1⑷ イ)とを対比すると、805特許に示されたX軸ステージやY軸ステージの移動に係る制御と特段異なる内容は示されておらず、本件発明2の内容にはX軸ステージやY軸ステージの移動に係る制御に関して805特許に示されたX軸ステージやY軸ステージの動作を超える新規の技術的事項は何ら示されていない。そうすると、X軸ステージ及びY軸ステージの制御に本件発明 2の特徴的部分があるとはいえない。 また、控訴人の提出に係る証拠において、パルスピッチが明記されているものは、甲38(「浜松ホトニクス殿・出張報告―14」と題する文書)に、「改質層ピッチ」として本件発明2の数値範囲内である●●●●μmとの記載があるのみであり、その甲38においても、パルスピッチが記載されてい る箇所は、「hpkSDL_100V での最新(~7/11)の加工状況」における「現在の最適条件」の欄であって、パルスピッチに関し控訴人が知見を得たことを示すものとはいえないところ、乙12ないし14、16及び18には、例えば乙12(平成15年6月13日被控訴人作成の「スケジュール」と題する書面)に、「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」 などとあり、乙13(平成15年6月13日被控訴人作成の実験資料)には、 パルスピッチごとに改質領域の形成状況が示された実験結果があるように、被控訴人において、パルスピッチ及び微小空洞に着目して実験を繰り返し、最適なパルスピッチ等につき検証を行っていたことが認められる。そうすると、こうしたパルスピッチの最適化に関し、控訴人に具 ように、被控訴人において、パルスピッチ及び微小空洞に着目して実験を繰り返し、最適なパルスピッチ等につき検証を行っていたことが認められる。そうすると、こうしたパルスピッチの最適化に関し、控訴人に具体的な貢献があったと認めるに足りる証拠はないから、控訴人の主張はその前提を欠くものというべきである。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 3 前記認定及び判断は、控訴人のその余の補充主張によっても左右されるものではない。 4 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 東海林 保 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則
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