主文 被告人は無罪。 理由 (以下,括弧内の甲乙の番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求の証拠の番号を示し,括弧内の弁の番号は,同カードにおける弁護人請求の証拠の番号を示し,括弧内の職の番号は,同カードにおける職権で証拠調べをした証拠の番号を示す。公判手続更新前のものも含めて,「供述」ないしは「公判供述」という。)第1 前提になる説明 1 公訴事実(1) 主位的訴因(変更後)にかかる公訴事実被告人は,平成11年10月26日午後3時40分ころ,業務として普通乗用自動車を運転し,兵庫県三木市a町b丁目c番地付近道路を,北方から南方に向かい時速約35キロメートルで進行するに当たり,前方左右を注視し,ハンドル及びブレーキを的確に操作して進路を適正に保持すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,自宅近くまで帰ってきた気の緩みから,前方注視を欠き,ハンドル・ブレーキを的確に操作しないで,漫然前記速度で進行を続けた過失により,自車を左斜め前方に暴走させ,折から同道路左側端に設けられた路側帯上を同方向に縦列歩行中のA(当時8歳),B(当時7歳)及びC(当時10歳)に自車前部を順次衝突させて前記3名を路上に転倒させ,よって,前記Aを同月29日午前7時56分ころ,同市de番地のf所在のD病院において,汎発性軸索損傷により死亡させたほか,前記Bに加療約9か月間を要する左大腿骨骨幹部骨折等の傷害を,前記Cに加療約5か月間を要する左手部挫創等の傷害をそれぞれ負わせたものである。 (2) 予備的訴因にかかる公訴事実被告人は,平成11年10月26日午後3時40分ころ,業務として普通乗用自動車を運転し,兵庫県三木市a町b丁目c番地付近道路を,北方から南方に向かい のである。 (2) 予備的訴因にかかる公訴事実被告人は,平成11年10月26日午後3時40分ころ,業務として普通乗用自動車を運転し,兵庫県三木市a町b丁目c番地付近道路を,北方から南方に向かい時速約35キロメートルで進行中,それまでに服用していた向精神薬の影響により,ハンドル・ブレーキの的確な操作が困難な状態になったのであるから,直ちに運転を中止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,前記状態のまま漫然運転を継続した過失により,そのころ,同所付近道路において,自車を左斜め前方に逸走させ,折から同道路左端に設けられた路側帯上を同方向に縦列歩行中のA(当時8歳),B(当時7歳)及びC(当時10歳)に,自車前部を順次衝突させて前記3名を路上に転倒させ,よって,前記Aを,同月29日午前7時56分ころ,同市de番地の1所在のD病院において,汎発性軸索損傷により死亡させたほか,前記Bに加療約9か月間を要する左大腿骨骨幹部骨折等の傷害を,前記Cに加療約5か月間を要する左手部挫創等の傷害をそれぞれ負わせたものである。 2 争点の概要(1) 主位的訴因について。 検察官は,被告人には,「前方左右を注視し,ハンドル及びブレーキを的確に操作して進路を適正に保持すべき業務上の注意義務」があったにもかかわらず,「自宅近くまで帰ってきた気の緩みから,前方注視を欠き,ハンドル・ブレーキを的確に操作しないで,漫然前記速度(時速約35キロメートル)で進行を続けた過失」があると主張する。これに対し,弁護人は,被告人は,本件事故直前にてんかん発作が起き,そのために車の制御が不可能な状態にあったのであるから,そもそも検察官主張の注意義務は存在しない,もしくは,心神喪失により責任能力がなく,被告人は無罪であると主張する。したがって,本件においては,本件事故直前 車の制御が不可能な状態にあったのであるから,そもそも検察官主張の注意義務は存在しない,もしくは,心神喪失により責任能力がなく,被告人は無罪であると主張する。したがって,本件においては,本件事故直前に,被告人にてんかん発作が生じたかどうか,それにより,被告人は自己の行動を制御することができなかったかどうかが争点となる。 (2) 予備的訴因について検察官は,被告人が本件事故当時,向精神薬を服用していたことを前提として,被告人には「それまでに服用していた向精神薬の影響により,ハンドル・ブレーキの的確な操作が困難な状態になったのであるから,直ちに運転を中止すべき注意義務」があったにもかかわらず「運転を継続した過失」があると主張する。したがって,被告人の向精神薬の服用の有無,仮に服用しているとして,本件事故との因果関係が争点となる。 第2 基本的事実関係以下の事実が関係各証拠から認められる。 1 本件事故現場道路は県道三木環状線上にあり,本件事故現場付近を南北方向に直線に走る片側1車線のアスファルト道路であり,被告人運転車両(以下「被告人車」という。)の横転地点南方より東側に向かってカーブしている。北行車線・南行車線とも,幅員がそれぞれ約2.8メートル,両車線の外側には路側帯があり,さらに路側帯の外側には無蓋側溝があり,南行車線の路側帯の幅員は,約0. 8メートル,無蓋側溝の幅員は約0.5メートルである。本件事故現場道路は,被告人がよく通っている道路であった。また,本件事故当時,被告人が睡眠不足ないしは過労の状態であったとは認められない。 2 本件事故直後に警察官によって行われた実況見分(甲3)によると,本件事故現場には,被告人車のニジリ痕と認められる痕跡が本件事故現場に東側端から西方面に向けて円形を描くようにして約3.7メートル路面 本件事故直後に警察官によって行われた実況見分(甲3)によると,本件事故現場には,被告人車のニジリ痕と認められる痕跡が本件事故現場に東側端から西方面に向けて円形を描くようにして約3.7メートル路面に印象されていた。被害者らをはねる直前も,壁にぶつかる直前にもブレーキ痕は認められない。 3 被告人は,平成11年10月26日午後2時30分ころ,兵庫県加東郡g町にあるダンス教室で約30分間ダンスのレッスンを受けた後,同日午後3時ころ,自宅に帰るため,被告人車を運転して前記ダンス教室を出発し,同日午後3時40分ころ,本件事故現場道路を,北から南に向け走行していた。 4 同時刻ころ,C(当時10歳),A(当時8歳)及びB(当時7歳)は,本件事故現場の道路の東側路側帯を,C,B,Aの順で縦一列になり,北から南に向け歩行中であった。 5 被告人が,同時刻ころ,本件事故現場の道路を時速約35キロメートルで進行していたところ,被告人車が東側前方に逸走し,被告人車前部と路側帯を歩行中のA,B及びC3名が順次衝突し,その結果,Aは,同月29日午前7時56分ころ,D病院において,汎発性軸索損傷により死亡し,Bは加療約9か月間を要する左大腿骨骨幹部骨折等の傷害を,Cは加療約5か月間を要する左手部挫創等の傷害をそれぞれ負った。 第3 鑑定等について 1 本件事故当時における被告人のてんかん発作の可能性及び本件事故当時の被告人の行動制御能力の有無を判断する主な資料として,鑑定人E作成の平成13年8月3日付精神鑑定書(以下,「第1次鑑定」という。)(職3)及び同人作成の平成14年11月27日付精神鑑定書(以下,「第2次鑑定」という。)(職8)の2通の鑑定書が存在する。 2 第1次鑑定の概要第1次鑑定の鑑定事項は,「① 本件事故当時,被告人がてんかんその他の 平成14年11月27日付精神鑑定書(以下,「第2次鑑定」という。)(職8)の2通の鑑定書が存在する。 2 第1次鑑定の概要第1次鑑定の鑑定事項は,「① 本件事故当時,被告人がてんかんその他の精神障害(てんかん等)に罹患していたか否か,又はその可能性の有無。② 本件事故当時,被告人がてんかん等に起因する意識障害に陥っていた可能性の有無。③ てんかん等に起因する意識障害に陥っていた可能性がある場合には,その際の行動制御能力の有無,程度。」であり,その鑑定結果は,「① 被告人には突発性異常として両側後頭部からの棘波と全般性の高振幅徐波が出現する異常脳波が認められる。② 被告人は本件事故当時「後頭葉てんかん」に罹患していたと考える。③本件事故当時,被告人に「後頭葉てんかん」による意識減損発作が生じていた可能性はあり得る。これを否定することはできない。④ 本件事故当時,被告人に前記意識減損発作が生じていたとすれば,被告人の「自らの行動を制御する能力」は失われていたと考える。」というものである。 3 第2次鑑定の概要第2次鑑定の鑑定事項は,「被告人が本件事故当時処方されていた薬剤を服用していたと仮定して,それが本件事故に与えた影響について。」である。なお,上記服用を仮定する薬剤は,デパス,リーゼ,ドグマチールである。その鑑定結果は,「① 被告人には両側後頭部から発する棘波と全般性の高振幅徐波より成る異常脳波が認められる。② 被告人は本件事故当時「後頭葉てんかん」に罹病していたと考える。③ 本件事故当時,被告人には意識水準の低下が生じていたと推定される。④ 本件事故当時,被告人に生じていた意識水準の低下は,被告人の罹病している後頭葉てんかんによる意識減損発作か,もしくは睡眠欲求の増加(ねむけ)あるいは覚醒水準の低下(居眠り)によるも 推定される。④ 本件事故当時,被告人に生じていた意識水準の低下は,被告人の罹病している後頭葉てんかんによる意識減損発作か,もしくは睡眠欲求の増加(ねむけ)あるいは覚醒水準の低下(居眠り)によるものか,2つの可能性が考えられる。⑤被告人が本件事故当時,医師より処方され,服薬を指示されていた薬剤による有意な睡眠欲求の増加あるいは覚醒水準の低下は睡眠ポリグラフ検査によっては認められなかった。しかし,この結果から,本件事故当時,被告人に意識水準の低下があったことを否定することは出来ないと考える。⑥ 被告人が上記の薬剤を服用していたと仮定すれば,本件事故当時の被告人の意識水準の低下がてんかんによる意識減損発作であった可能性はほとんど否定し得ると考える。」というものである。なお,⑥は,デパス,リーゼの属するベンゾヂアゼピン系薬剤は共通して抗痙攣作用を持っており,ドグマチールもてんかん発作に対して抑制的に作用することを理由とする。 第4 本件の検討 1 主位的訴因について。 (1) 結論として,第1次鑑定の結果及び以下のその他の事情を考慮すると,本件事故当時被告人に責任能力があったことについては,合理的疑いが残り,したがって,主位的訴因について,犯罪の証明はない。 (2) 第1次鑑定は,本件事故当時,被告人は,「後頭葉てんかん」に罹患していたとし,「後頭葉てんかん」による意識減損発作が生じていた可能性を認め,そのような意識減損結果が生じていたとすれば,被告人の行動制御能力は失われていたと鑑定する。更に,第1次鑑定及び鑑定人Eの第9回公判供述によれば,以下のことが述べられている。① てんかんと診断するためには,臨床的発作状況と脳波異常が条件となる。② 被告人には,脳の局所での律動異常,発作放電が明瞭に見られる。被告人のように明瞭な発作波が証 ,以下のことが述べられている。① てんかんと診断するためには,臨床的発作状況と脳波異常が条件となる。② 被告人には,脳の局所での律動異常,発作放電が明瞭に見られる。被告人のように明瞭な発作波が証明されると,すべての精神科の医者はてんかんと考えて,抗てんかん剤の治療をするというのが実情である。③ 臨床的発作状況については,本人に発作が起こっていることの自覚がない場合もあり,急に発作が起こったという状況の下で,それがいわゆるてんかんの発作だったということが,後から診断できるという場合も非常に多くある。④ 被告人には,長い間,はっきりした臨床発作が認められなかったが,そのことをもって,被告人がてんかんであることを否定するのは難しい。⑤ 意識減損発作が起こっていれば,その状態下で自分の行為をコントロールすることはできない。⑥ 一般的に,てんかん発作の意識水準の低下については,程度差がある。⑦ 一般的に,てんかん発作は,時間にして,瞬間的なものから,数分である。⑧ 被告人については,MRI検査により,細胞レベルでの異常はないことから,特発性あるいは真性てんかんであると考えるが,これは,発達段階で生じたものと考えられ,そのようなてんかんが被告人の年齢になって急に途中から生じてくるとは考えられず,今回の事故で脳挫傷レベルの異常がない限り,本件事故による受傷により,本件事故後に被告人がてんかんになったとは考えられないところ,本件事故で被告人に脳挫傷レベルの受傷はない。したがって,第1次鑑定時での脳波異常というのは,本件事故当時もあったと考えられる。 ⑨ 一般的に,意識の減損としては,睡眠の可能性もある。 (3) 第1次鑑定は,脳波異常が顕著であることから,被告人がてんかんに罹患していると判断したと説明しているが,その鑑定は,被告人に臨床発作症状 一般的に,意識の減損としては,睡眠の可能性もある。 (3) 第1次鑑定は,脳波異常が顕著であることから,被告人がてんかんに罹患していると判断したと説明しているが,その鑑定は,被告人に臨床発作症状がないという,被告人をてんかんと診断するためには消極的に働く要素を充分に検討しつつ慎重に行われている。また,本件事故後の脳波検査により発覚した被告人の脳波異常が,本件事故当時に存在していたと考える点についても,被告人のてんかんの種類,本件事故による被告人の受傷が与える影響を考慮して判断している。更に,下記(4)の診断結果とも矛盾しないこと,下記(5)ないし(7)の状況を合理的に説明できることから信用できる。 (4) 被告人の脳波記録(弁16,平成13年押第64号の2),医師Eの診断書(弁11)および同人の第5回公判供述によると,平成12年12月13日にG大学医学部附属病院で行われた脳波検査の結果,検査当時,被告人の脳波には,後頭部に棘波が見られ,高振幅徐波の出現も見られるという異常所見が認められたこと,この異常所見により,被告人の病名はてんかんと判断されること,もし被告人がてんかん発作中であれば,意識消失状態になることも医学的には相当であることが認められる。さらに,何度も棘波が出ていることから推測して,事故当時の脳波も検査時の脳波と同じ状態であった可能性があること,脳波を前提にして,多くて年に1,2回,少なければ,数年に1回くらいの割合で発作的な意識障害が生じる可能性のあること,被告人のように50代半ばになって,てんかん症状が起きることも別に珍しいことではないこと,てんかん発作による意識障害があった場合,発作中の記憶はほとんど残っていないこと,意識障害が車の運転中に起こったら,車の制御は不可能であること,脳波の記録だけからすると,本件事故 ことではないこと,てんかん発作による意識障害があった場合,発作中の記憶はほとんど残っていないこと,意識障害が車の運転中に起こったら,車の制御は不可能であること,脳波の記録だけからすると,本件事故当時,被告人がてんかんによる意識消失発作を起こした可能性が認められることを供述している。 (5) Hの警察官調書(甲2),実況見分調書(H立会)(甲3)によれば,同人は,被告人車の後ろ約15メートルの地点を,原動機付自転車で,時速約35キロメートルで走行していたところ,被告人車が急に左側に寄り始め,Hが「対向車もなく,私達2台なのにおかしな動きをするな」と思って,見ていたところ,道路左側端を一列になって歩いていた子供らに衝突した旨供述している。そして,Hは,被告人の後ろ約15メートルという近くから被告人車に追尾して走行しており,おかしな動きをする被告人車の動静を観察していたと考えられ,また,Hは,本件事故につき何ら利害関係を有しない第三者であることから,上記Hの供述は信用できる。 (6) 実況見分調書(H立会)(甲3)によれば,本件事故現場には,被告人車によるブレーキ痕が認められず,被告人はA,C,Bの3名に衝突した時も,壁にぶつかる直前もブレーキをかけなかったこと,本件事故道路の路面に印象されたニジリ痕から,被告人車は壁に衝突した衝撃で停止したことが認められる。 (7) 被告人は捜査段階から一貫して,本件事故を起こした時の記憶がない旨供述している。すなわち,被告人は,本件事故直前に,これまでに経験したことのない,体が「ふ,となり,体が下にしずみ何かに引っ張られる気持ち」「ふーとして,体が静かに谷底に吸い込まれて沈んでいくような気持ち」になり,その後は,被害者の子供達と衝突したことも,被告人車が壁に衝突したことも,記憶がない旨供述する。この に引っ張られる気持ち」「ふーとして,体が静かに谷底に吸い込まれて沈んでいくような気持ち」になり,その後は,被害者の子供達と衝突したことも,被告人車が壁に衝突したことも,記憶がない旨供述する。この点,本件事故現場に臨場した警察官であるIの検察官調書(甲44)によると,同人が被告人に事故原因を尋ねたところ,か細い声で「わかりません。」と答えていた旨供述し,被告人を病院に搬送した救急隊員であるJの検察官調書(甲45)によると,同人が被告人に事故原因を尋ねたところ,「わかりません。私,どうしたんでしょう。私,どうしたんでしょう。」と答えた旨供述している点とも矛盾しない。また,被告人の供述は,事故の客観的状況とも合致する。なお,被告人は検察官調書(乙3)において,「被害者に衝突したことに気付いていないし,その手前でブレーキをかけていないことや,事故回避のためにハンドル操作を行っていない状況からすると,前方注視を怠った状態で運転していたため,車が左前方に暴走したことは考えられます。」と供述し,あたかも,自らに前方不注視の過失があったことを認めるような供述をしている。しかし,その時点では,被告人は自己がてんかんであると認識しておらず,かつ,自責の念にかられていたことからして,この供述部分にそれほどの証拠価値を認めることはできない。 (8) 以上の通り,第一次鑑定の信用性及び上記認定,特に被告人は本件事故当時,体の異常や特段の疲れを感じていなかったこと,本件事故現場の道路は,被告人が何度も通っている道路であったこと,被害者らをはね,壁にぶつかる直前にもブレーキをかけた形跡がないことからすれば,本件事故現場直前に,被告人に後頭葉てんかんによる意識減損発作による意識障害が生じており,被告人は,自己の行動を制御する能力を失って本件事故を惹起したものでは レーキをかけた形跡がないことからすれば,本件事故現場直前に,被告人に後頭葉てんかんによる意識減損発作による意識障害が生じており,被告人は,自己の行動を制御する能力を失って本件事故を惹起したものではないとすることには,合理的疑いが残る。 2 予備的訴因について。 結論として,被告人が,本件事故当日,デパス,リーゼ,ドグマチールを服用していたことについては,合理的疑いが残り,したがって,予備的訴因の注意義務の前提が欠け,予備的訴因についても,犯罪の証明はない。 (1) 関係各証拠(特に,被告人の公判供述,K作成の回答書(甲48)及び検察官作成の捜査報告書(甲51))によると,被告人は,抑うつ神経症のため,平成5年11月26日,同年12月13日,中断後平成11年1月29日,同年6月21日,同年7月23日,同年8月6日,同年9月24日,同年10月4日,同年11月16日,L神経内科医院でそれぞれ治療を受け,同病院の指示によって,M薬局で,以下のとおり,平成11年1月29日から本件事故当時まで,向精神薬ドグマチール,リーゼ及びデパス(以下「本件向精神薬」という。)の交付を受けていた事実が認められる。平成11年1月29日,ドグマチール・リーゼ7日分(1日2回朝・夕食後に服用)。平成11年6月21日,ドグマチール・リーゼ14日分(1日1回昼食後・眠前に服用)。平成11年7月23日,ドグマチール・リーゼ14日分(1日1回昼食後・眼前に服用)。平成11年8月6日,ドグマチール・リーゼ14日分(1日1回昼食後・眼前に服用)。平成11年9月24日,ドグマチール・リーゼ14日分(1日2回昼・夕食後に服用)。平成11年10月4日,デパス14日分(1日1回昼食後に服用)。平成11年11月16日,リーゼ,ルボックス14日分(1日2回朝・夕食後に服用)・デパス1 リーゼ14日分(1日2回昼・夕食後に服用)。平成11年10月4日,デパス14日分(1日1回昼食後に服用)。平成11年11月16日,リーゼ,ルボックス14日分(1日2回朝・夕食後に服用)・デパス14日分(医師の指示に従って服用)。 (2) 被告人が本件事故後入院したN病院の入院時看護記録(甲46の捜査復命書添付のもの)によると,「入院までの使用薬剤」欄にM薬局と本件向精神薬の記載がある。また。10月29日の欄に「他院の薬服用OK」として,「M」,L病院と思われる記載と本件向精神薬の記載がある。 (3) 被告人は本件事故当時における本件向精神薬の服用を否定する供述をしている。すなわち,被告人は,寝る前や夕食後に薬を飲むことはあったこと,本件事故が起こった頃は,調子がよかったから,晩であっても薬を服用していなかった旨,供述する。そこで検討するに,被告人は,処方してもらっているにもかかわらず,その薬をほとんど飲まなかった理由として,医師に話をしたら精神的に落ち着くから,それが理由で通院しているのであって,薬を飲まなくても,持っているだけで安心するからと供述している。この点,被告人は,処方された薬の服用を完全に否定しているのではなく,服薬の有無について自己にことさら有利な供述に終始しているわけではない。また,抑うつ神経症に罹患していたことに鑑みれば,医師に話をすれば落ち着き,被告人の病状が治まって,被告人が薬の服用の必要を感じなくなったり,薬を持っているだけで安心感が得られるため,薬を持っていても飲まなかったとしても不自然ではない。この点は,L神経内科医院の国保診療録(甲53の捜査報告書に添付のもの)によっても,医師が被告人の「淋しい気分」などを聞き,助言をするなどし,通院精神療法を施していることにも合致する。また,第2次鑑定によれば,「 内科医院の国保診療録(甲53の捜査報告書に添付のもの)によっても,医師が被告人の「淋しい気分」などを聞き,助言をするなどし,通院精神療法を施していることにも合致する。また,第2次鑑定によれば,「デパス,リーゼの場合,一般的に云って普通の日常生活場面で昼間著しいねむけの生じることは少ない。」「ドグマチールはねむけの少ないことが顕著な臨床特徴」とされているが,仮に,本件向精神薬を服用し,それにより眠気が生じたなら,それは急速に意識が減損するようなものではなく,前記第2の2や前記Hが供述するような本件事故の状況とはならないと解される。 (4) また被告人の公判供述において,N病院で本件向精神薬の話をしたことも,M薬局の話をしたこともない旨,N病院が本件向精神薬の存在を知ったとすれば,それは,N病院に入院中に,かばんの中に同薬を入れていたため,看護婦や医師等が確認したのではないかと供述している。前記のとおり,N病院の看護記録に,本件向精神薬やM薬局についての記載があるにもかかわらず,被告人が全くこれについて同病院に話をしていないというのは不自然ともいえる。しかし,本件証拠からは結局,N病院のカルテや看護記録に本件向精神薬及びM薬局についての記載があった経緯は明らかではない。したがって,被告人の弁解を一概に排斥できない。 (5) 被告人は捜査段階及び公判段階の当初において本件向精神薬の服用について言及していなかった。すなわち,被告人は,被告人の検察官調書(乙3)において,「事故を起こす前に薬など服用していましたか。」という検察官の質問に対し,「悪いところもないし,医者にもかかっていないので薬など飲んでおりません。」と供述していること,第2回公判廷において検察官から被告人に対し,「何か薬を常用されてるとかいうことはありませんか。」「この事故前 ところもないし,医者にもかかっていないので薬など飲んでおりません。」と供述していること,第2回公判廷において検察官から被告人に対し,「何か薬を常用されてるとかいうことはありませんか。」「この事故前に薬を飲まれたということもないわけですね。」と質問を受け,いずれも否定する供述をしていることが認められる。しかし,検察官は薬の服用について,これ以上の質問をしておらず,被告人が実際に薬を常用しておらず,本件事故前にも薬を服用していないのだとすれば,被告人がこのように答えたことをもって殊更事実を隠していたとまでは言えなず,不自然とはいえない。 (6) 以上により,本件事故当時の服薬を否定する被告人の供述には信用性が認められる一方,本件事故当時の被告人の本件向精神薬の服用を認めるだけの,合理的疑いを越える立証はなされていない。したがって,本件事故当時の被告人の本件向精神薬の服用の事実は認めることが出来ない。 (7) 以上の通り,予備的訴因については,被告人が本件事故当時,向精神薬を服用していたことを前提として,「それまでに服用していた向精神薬の影響により,ハンドル・ブレーキの的確な操作が困難な状態になったのであるから,直ちに運転を中止すべき注意義務」があったにもかかわらず「運転を継続した過失」責任があると主張する。しかし,被告人は本件事故当時,向精神薬を服用していたことには合理的疑いが残り,その証明はないことになるので,その前提を欠くため,前記注意義務は認められない。 第5 結論本件主位的訴因・予備的訴因にかかるそれぞれの公訴事実については,犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により,被告人に無罪の言渡しをする。 平成15年3月31日神戸地方裁判所第12刑事係乙 の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により,被告人に無罪の言渡しをする。 平成15年3月31日 神戸地方裁判所第12刑事係乙 裁判官前田昌宏
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