主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成18年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 第2事案の概要本件は,弁護士である原告が,裁判所構内の仮監において,被告人に文書を交付しようとしたのを拘置所職員が妨げた行為は憲法34条,刑訴法39条1項等に違反するものであり,これにより精神的苦痛を受けたとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料の支払を求めた事案である。 争いのない事実等(1)ア原告は,A弁護士会に所属する弁護士である。 原告は,平成17年12月8日当時,名古屋高等裁判所刑事第2部に係属していた銃砲刀剣類所持等取締法違反・強盗殺人未遂・殺人予備・強盗予備被告事件(以下「本件被告事件」という)の被告人であるB(以下。 「本件被告人」という)の弁護人であった。 。 イC(以下「本件職員」という)は,平成17年12月8日当時,D拘。 置所の職員であり,名古屋地方裁判所構内の仮監(以下「本件仮監」という)において,被告人の出廷等に関する業務に従事していた。 。 (2)本件被告人は,平成17年12月8日,本件被告事件の公判期日に出頭するため,本件仮監に護送されていた。 原告は,同日午後2時ころ,本件仮監において,本件職員に対し,本件被告人との接見及び「陳述書」と題する文書(以下「本件文書」という。甲 1)の差入れを申し出た。 原告は,本件被告人との接見を行ったが,本件文書の差入れはされなかった。 (3)本件文書は,名古屋高等裁判所に宛てられた本件被告人名義の陳述書であり,A4サイズの用紙8枚からなる。これには,本件被告人が裁判において陳述する機会 たが,本件文書の差入れはされなかった。 (3)本件文書は,名古屋高等裁判所に宛てられた本件被告人名義の陳述書であり,A4サイズの用紙8枚からなる。これには,本件被告人が裁判において陳述する機会を与えられたことに対する謝辞のほか,同人が無罪であることがその根拠とともに書き綴られている(甲1。 ) 原告の主張(1)本件職員の行為ア原告は,平成17年12月8日午後2時ころ,本件仮監において,本件職員に対し,本件被告人との接見及び本件文書の差入れを申し出たところ,本件職員は「接見はできますが,ここは仮の接見場所である故,文書の,差入れはできません「D拘置所でないと文書の差入れはできませ。」,ん」と言って,本件文書の差入れを拒否した。 。 原告は「そんなバカな。3時から公判がある。拘置所まで行っておる,時間はない。第一,被告人はここにいるんだから間に合うはずがないじゃないか」と言ったが,本件職員は「ここでの差入れはできません」と言。 。 った。そのため,原告は,やむを得ず,本件文書の差入れを諦めて,接見を行った。この際,原告は,本件職員に対して「文書を見せることはできるのか」などとは聞いていない。 。 イ当日は,午後3時より,裁判長裁判官の交替により本件被告事件の公判手続の更新手続とともに,主任弁護人である原告及びE並びに本件被告人の3名が,刑訴規則213条に基づき,本件被告事件について合計1時間以上の意見陳述をする予定であった。本件被告人は,本件被告事件の第一審において,懲役14年の判決を受けたが「被告人は全ての犯罪に全く,関与せず,絶対無罪である」旨,第一審より一貫して主張をしていた。 。 本件被告人の新裁判長に向けての法廷における同日の意見陳述は,弁護団,本件被告人にとって重要な意義を有するものであり,弁護人接 関与せず,絶対無罪である」旨,第一審より一貫して主張をしていた。 。 本件被告人の新裁判長に向けての法廷における同日の意見陳述は,弁護団,本件被告人にとって重要な意義を有するものであり,弁護人接見及び本件文書の差入れは無罪獲得のために不可欠のものであった。 本件被告人は,事前に,朗読1時間以上に渡る草稿を用意していたが,裁判所が弁護人2名及び本件被告人に対し,合計60分程度の陳述を許可したため,その陳述を15分程度に圧縮する必要があった。そこで,原告は,急遽被告人の陳述を要約して,15分陳述用に改訂起案し,その陳述書である本件文書を差し入れ,午後3時の公判開始までの30分間で被告人に熟読吟味させ,その要約された本件文書でもって,無罪主張のポイントを絞り法廷で陳述させる予定であった。 原告は,本件文書の授受を認められないまま,午後3時からの公判に備え,午後2時過ぎに本件被告人と裁判所構内で接見し,やむなく接見室で本件文書の内容を説明したが,聞き取りにくい構内接見場所で時間もなく,十分に本件被告人との意思疎通が図れず,同日の無罪を強く訴える本件被告人の陳述に支障が生じた。 (2)本件職員の行為の違法性弁護人と被告人との接見等の自由は「憲法上の保障」に由来するものである。 それは身柄を拘束され,ひたすら無罪を叫ぶ被告人が,弁護人の援助を求めるための刑訴法上基本的かつ極めて重要な権利であって,弁護人にとっては,その「固有権」の最も重要なもののひとつであり,接見交通権が自由であることは我が国の刑事手続における大原則である。 憲法34条前段は「何人も直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなけ,れば抑留又は拘禁されない」と規定し,刑訴法39条1項は,この趣旨に。 のっとり「被告人は,弁護人と立会人なしに接見し,書類若しくは物の授受をすることが 直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなけ,れば抑留又は拘禁されない」と規定し,刑訴法39条1項は,この趣旨に。 のっとり「被告人は,弁護人と立会人なしに接見し,書類若しくは物の授受をすることができる」と規定し,刑訴規則30条は,刑訴法39条を受け。 て,裁判所構内の接見,文書の授受を認めている。 「名古屋高等裁判所構内は,仮の接見場所であるから,文書の授受は認められない」という本件処分は,憲法34条,刑訴法39条,刑訴規則30。 条に明らかに違反する。 (3)被告の責任原因本件職員は,本件当時,公権力の行使に当たる公務員であり,本件文書の差入れを拒否した行為は,その職務を行うについて行われたものである。 したがって,被告は,国家賠償法1条1項に基づき,原告が本件職員の上記行為により被った損害を賠償する責任を負う。 (4)損害憲法,刑訴法上のイロハであるはずの弁護人の「接見交通権」が,こともあろうに裁判所構内仮監のD拘置所職員によって拒否されたことによる原告の怒りは大きく,無罪を叫び続ける被告人の高裁における裁判長交替による公判手続の更新という重要な弁護活動において支障をきたしたことによる精神的苦痛は多大であり,その慰謝料は100万円とするのが相当である。 (5)よって,原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年1月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 被告の主張(1)本件職員の行為本件職員は,平成17年12月8日午後2時2分ころ,本件仮監において,原告から,本件被告人との接見の申出があったため,原告の弁護士登録番号等を確認する等の所定の手続きを経た上,原告を接見室に案内した。 原告は,接見室に入る手前で,本件職員に 分ころ,本件仮監において,原告から,本件被告人との接見の申出があったため,原告の弁護士登録番号等を確認する等の所定の手続きを経た上,原告を接見室に案内した。 原告は,接見室に入る手前で,本件職員に対し「本人にこれを渡した,い」などと言いながら,書類を差し出した。 。 これに対し,本件職員は「仮監での物品の授受は,原則として禁止され, ています。ここは仮の接見室ですから,物品の差入れについては,D拘置所で行ってください」等と説明したところ,原告は「見せることはできるの。 ,か」と質問したので,同職員は「見せることは構いません。ただし,授受。 ,はできません。差入れという形になりますので,D拘置所でお願いします」と答えた。 。 原告は,本件職員の上記説明に対して,不満を述べたり,抗議したりすることなく,同日午後2時3分から40分までの37分間,接見室において本件被告人と接見し,同所を後にした。なお,接見後に,原告から本件職員に対して書類を差し入れたい旨の申出はなかった。 (2)接見交通権と戒護上の措置ア本件職員が原告と本件被告人との書類の授受を認めなかった行為は,監獄法(明治41年3月28日法律第28号。以下同じ)50条,監獄法。 施行規則(明治41年6月16日司法省令第18号。以下同じ)127。 条2項に基づく戒護上の措置に当たる。なお,原告は,本件職員の上記行為を,差入れの不許可(監獄法53条1項等)ととらえているようにも思われる。しかし,差入れの許否は,広く裁量が認められる監獄の長の専門的判断であるから,本件職員の上記行為は,差入れ自体を拒否した(差入れの制限をした)ものではなく,戒護上の措置として,書類の授受につき差入れの手続を履践されたい旨を求めたものというべきである。 監獄の官吏には,在監者の身柄を確保し,監獄の 差入れ自体を拒否した(差入れの制限をした)ものではなく,戒護上の措置として,書類の授受につき差入れの手続を履践されたい旨を求めたものというべきである。 監獄の官吏には,在監者の身柄を確保し,監獄の安全と秩序を維持する職務と責任があり,そのために必要な措置を行使する権限(戒護権)が付与されている。戒護とは,直接に強制力(実力)をもってする監獄(特に刑事施設として)の安全及び秩序を維持する作用をいう。 ,,イそして「弁護人との接見又は書類等の授受」の場合について,法令で被告人又は被疑者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐための必要な措置を規定することができるとされているところ(刑訴法 39条2項,監獄法50条は「接見ノ立会,信書ノ検閲其他接見及ヒ信),書ニ関スル制限ハ法務省令ヲ以テ之ヲ定ム」と規定し,同条を受けた監獄法施行規則127条2項は,同条1項の「接見ニハ監獄官吏之ニ立会フ可シ但刑事被告人ト弁護人トノ接見ハ此限ニ在ラス」との規定を受けて,「前項但書ノ場合ニ於テハ逃走不法ナル物品ノ授受又ハ罪証湮滅其他ノ事故ヲ防止スル為メ必要ナル戒護上ノ措置ヲ講ス可シ」と規定している。 したがって,監獄の職員は「弁護人との接見又は書類等の授受」の場,合であっても,戒護上必要な措置を執ることができる。 ウ本件被告人は,拘置所外である本件仮監に所在していたが,在監者が適法な根拠に基づいて監獄から釈放されない限り,その身柄が物理的な意味において監獄外にあっても,戒護権は制限されず,監獄の職員は,戒護上の措置を適切に行使すべき職責を負うものというべきであるから,在監者が監獄外にある場合であっても,戒護権は制限されず,戒護上の措置を行使する監獄の職員の職責が解除されることはない。 エ原告は,本件職員の行為が,刑訴法39条,刑訴規則 のというべきであるから,在監者が監獄外にある場合であっても,戒護権は制限されず,戒護上の措置を行使する監獄の職員の職責が解除されることはない。 エ原告は,本件職員の行為が,刑訴法39条,刑訴規則30条に違反する旨主張するが,拘置所職員の戒護作用の行使は,刑訴規則30条による制限を受けないものであり,同条に基づく書類又は物の授受の禁止に関する判断の有無にかかわらず,拘置所職員は,監獄法令に基づく戒護作用により,書類又は物の授受をさせない措置を執ることができるというべきである。 (3)本件職員の行為に何ら違法性がないことア上記のとおり,弁護人の接見交通権も,被告人等の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの内在的制約に服するのであり,拘置所職員は,その職務である監獄法施行規則127条2項に基づく戒護作用の行使として,逃亡及び罪証隠滅の防止という未決勾留の目的を達成し,監獄内の規律及び秩序の維持を図るために必要かつ合理的な範囲で, 弁護人の接見交通権(書類又は物の授受を含む)を制限することができ。 るというべきである。 イ上記の見地から,本件職員の行為の違法性の有無について検討すると,その考慮要素として,次の諸点を指摘することができる。 (ア)授受の場合には,差入れとしての検査を要すること刑訴法39条に基づく物等の「授受」の実体は,弁護人等が物等を在監者たる被告人等に交付して所持させるものであるから,同時に監獄法53条の「差入れ」行為となり,監獄法上の差入れ手続の対象となる。 これについて,監獄法53条1項を受けて制定された「被収容者に係る物品の給与,貸与,自弁等に関する規則(平成14年8月1日法務」省令第48号。以下「被収容者自弁規則」という)は,その26条1。 項において「所長は,被収容者に対し,文書,図 れた「被収容者に係る物品の給与,貸与,自弁等に関する規則(平成14年8月1日法務」省令第48号。以下「被収容者自弁規則」という)は,その26条1。 項において「所長は,被収容者に対し,文書,図画,この規則若しく,は他の法令の規定に基づきその者が自弁により用いることができることとされる物品,釈放の際に必要と認められる物品又は金銭の差入れを受けることを許すことができる」とした上,同項2号は「その物品が収。 ,容の目的に反し,又は監獄の規律及び秩序を害するおそれがあるものであると認めるとき」には,所長が,被収容者に対し「差入れを受ける,ことを許さないものとする」としている。そのため,所長は,差入れ。 の申出がされると,指定する職員にその物品の検査を行わせ,その結果に基づいて被収容者がその差入れを受けることが許されるかどうかを判断することになる(同規則23条。 )(イ)D拘置所における検査の内容上記(ア)で述べた法令の規定を踏まえ,D拘置所長は,同拘置所における物品検査の準則として「物品検査係(執務手続マニュアル」を定,)めており,これを改正した平成7年6月21日付け所長指示第33号「執務手続マニュアル(物品検査係)の改正について(乙4)は,」 「物品検査室へ搬入した差入物品は,原則としてX線検査機を通しモニターで確認した後,更に触手による綿密な検査を実施する」としてい。 る。 検査の実施は,手紙類や書類等についても例外ではなく,検査ポイントとして,手紙類については「不正メモ・密書等の隠匿に注意すること」とされ,書類等については「①手紙やメモ等その他密書の挟み込。 みがないか。ただし,閲読許可証に挟み込みの注意書きがある場合を除く。②背表紙,表紙等に凶器類が隠匿されていないか。③書込み等がないか。ただし,閲読許可証 ては「①手紙やメモ等その他密書の挟み込。 みがないか。ただし,閲読許可証に挟み込みの注意書きがある場合を除く。②背表紙,表紙等に凶器類が隠匿されていないか。③書込み等がないか。ただし,閲読許可証に書込みの注意書きがある場合を除く。④閲読許可証の表示内容と現物が一致しているか」といった事項が挙げら。 れている。 また,D拘置所においては,手紙類や書類等に,逃亡又は監獄内の規律及び秩序を害する用途に利用されるおそれのある事項(例えば,逃亡や自殺の方法等)が記載されていないかどうかという点も併せて検査している。 以上のような検査を行うことは,在監者の逃亡若しくは罪証隠滅を防止し,又は監獄内の規律及び秩序を維持する等の見地に照らし必要かつ合理的な措置であり,むしろ遺漏があってはならないものである。 (ウ)仮監の実情について上記のとおり,所長は,差入れの申出がされると,指定する職員にその物品の検査を行わせ,その結果に基づいて被収容者がその差入れを受けることが許されるかどうかを判断することになるが,本件において,原告が書類の授受を申し出た場所は,本件仮監である。 しかし,次のような事情に照らすと,本件仮監において差入れの手続を行うことは極めて困難である。 ①仮監は,被告人等を,裁判所到着から開廷までの間及び閉廷から拘 置所へ向けて出発するまでの間,一時的に待機させる場所であって,弁護人等と被告人等との間で書類又は物の授受が行われることが当然に予定された場所ではない。 ②差し入れられた書類又は物品が逃亡の目的若しくは監獄内の規律及び秩序を害する用途に利用されるおそれがあるか否かや,保健衛生上の観点等から,書類等に手紙,メモ,危険物,薬物等の法禁制物その他監獄内での所持を禁止された物品等の挟み込みがないか,逃亡や自殺等,逃亡又は監獄内の規 途に利用されるおそれがあるか否かや,保健衛生上の観点等から,書類等に手紙,メモ,危険物,薬物等の法禁制物その他監獄内での所持を禁止された物品等の挟み込みがないか,逃亡や自殺等,逃亡又は監獄内の規律秩序を害する用途に利用される事項の記載はないかなどの観点から,書類又は物品の形状,性質等を検査する必要がある。 しかし,仮監においては,その目的である出廷のための最低限の要員が配置されているのみであり(被収容者自弁規則23条に規定する指定職員を常時配置できるとも限らない,かつ,検査のための設備。)も配置されていないことから,上記(イ)で述べたような検査を行うことは不可能である。 (エ)D拘置所の通知について以上のような状況を踏まえ,D拘置所長は,平成17年3月22日付け所長指示第4号「名古屋地方裁判所仮監における弁護人面会の実施要領について(乙5)を発出し,その4(3)において「仮監では,接見時」の物品の授受は原則として許可しない」と定めている。 。 この点,上記(ア)で述べた逃亡,罪証隠滅及び戒護上の支障の発生の防止のため,差し入れられた物の検査を行うことの必要性,合理性,上記(ウ)で述べた裁判所構内の仮監の実情,差入れの手続を踏まずに授受を認めた場合の支障といった諸点に照らせば,上記通知の内容は十分合理性を有する。 ウ検討 (ア)本件職員の行為が違法でないこと上記イで指摘した諸点を踏まえ,本件職員の行為の違法性の有無を検討すると,次のとおり,本件職員の行為に何ら違法性はない。 すなわち,本件職員の行為は,前記のとおり,戒護上の措置として,書類の授受につき差入れ手続を履践されたい旨を求めたものであるところ,その行為は,原告が本件被告人との間で授受を求めた書類につき,逃亡,罪証隠滅又は戒護上の支障を生じさせないものである 措置として,書類の授受につき差入れ手続を履践されたい旨を求めたものであるところ,その行為は,原告が本件被告人との間で授受を求めた書類につき,逃亡,罪証隠滅又は戒護上の支障を生じさせないものであることが,裁判所構内の仮監内であるという特殊な状況の下では確認できないことから,その授受を認めなかったというものである。そうすると,本件職員の行為は,逃亡及び罪証隠滅の防止という未決拘禁の目的を達成し,監獄内の規律及び秩序の維持を図るために必要かつ合理的な範囲内の措置ということができ,本件職員には,戒護作用を行使するに当たって,法的義務違反はなかったというべきである。本件において,本件職員が原告の申出を容認すれば,差入れの目的物の検査ができない結果,逃亡,罪証隠滅又は戒護上の支障を生じさせるものかどうかが明らかでない物等が在監者に差し入れられることになるところ,かかる事態は,拘禁目的や戒護上の支障を生じさせるものというべきであって,そのような結論が妥当でないことは明らかである。 加えて,原告は,本件職員が書類の授受につき差入れ手続を履践されたい旨を求めたのに対し,その書類が当日の公判で使用する予定であること等を告げれば,容易にその授受の必要性を示すことができたのに,,上記(1)のとおり,これを何ら示すこともなかった上,本件職員に対し当該文書が逃亡,罪証隠滅又は戒護上の支障を生じさせないものであることを説明したり,そのことを基礎付ける事実を何ら示すこともなく,接見の際に示すことができるかどうか等を質問している。これらの事実関係に照らせば,本件職員は,原告が差入れの手続を履践してまで当該 文書の授受をしようとは望んでおらず,本件被告人に係る刑事事件の内容や,授受の必要性について何ら具体的な説明をしなかったために,それらの事情を全く認識せ ,原告が差入れの手続を履践してまで当該 文書の授受をしようとは望んでおらず,本件被告人に係る刑事事件の内容や,授受の必要性について何ら具体的な説明をしなかったために,それらの事情を全く認識せず,かつ,認識し得ない状況にあったというべきである。そうすると,本件職員が,容易に拘禁目的を害さないと判断し得たとはいえず,その行為は必要かつ合理的な範囲内の措置というべきである。 (イ)仮に,本件職員の行為が客観的に違法であると評価されても,国賠法上の違法はないこと仮に,本件職員の行為が,客観的に接見交通権を侵害する違法な公権力の行使であるとされた場合であっても,上記イ(エ)のとおり,D拘置所長は「仮監では,接見時の物品の授受は原則として許可しない」,。 との通知を発しているところ,本件職員の行為は,同通知に従ったものである。 国家賠償法1条1項の「違法」とは,職務上の法的義務違反であり,職務上尽くすべき義務を尽くしていなかったかどうかの判断であるところ,公務員が当時通用していた内規や通達等に従って行為をしていた場合は,仮にその行為が客観的に違法であっても,国賠法上違法とは評価されないというべきである。 上記のとおり,本件職員は,D拘置所長の上記通知に従ったものであるから,この観点からみても,その行為に職務上の法的義務違反はないものというべきである。 第3当裁判所の判断 前記争いのない事実等に証拠(甲1,8,乙1,証人C,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1)本件被告人は,平成17年12月8日,同日午後3時に予定されていた本件被告事件の公判期日に出頭するため,本件仮監に護送されていた。 この公判期日では,本件被告人及び原告を含む2名の弁護人により合計1時間程度の意見陳述が行われる予定であっ 3時に予定されていた本件被告事件の公判期日に出頭するため,本件仮監に護送されていた。 この公判期日では,本件被告人及び原告を含む2名の弁護人により合計1時間程度の意見陳述が行われる予定であった。本件文書は,本件被告人がこの公判期日において陳述すべき内容が記載された文書で,本件被告人が作成した草稿をもとに原告が作成したものである(甲1。 )(2)原告は,同日午後2時ころ,本件被告人との間で,本件文書を用いて当日の公判期日の打合せをするため,本件仮監に赴き,同所に設置されたインターホンを介して,刑務官控室に控えていた本件職員に対し,本件被告人との接見を申し出た。 本件職員は,原告が申し出た氏名及び弁護士番号を,F弁護士連合会会員名簿と照合した上で,他の職員に本件被告人を接見室に連行するよう指示するとともに,原告を同接見室に案内した。 原告は,同接見室の扉の前まで案内されたところで,本件職員に対し,本件文書を示して「この文書を差し入れたい」旨述べ,本件文書の差入れを,。 申し出た。 これに対し,本件職員は「ここは仮の接見場所であるので,文書の差入,れはできません「D拘置所へ行っていただかないと文書の差入れはでき。」,ません」などと述べて,原告の上記申出に応じなかった。 。 原告は,本件文書の差入れを諦め,接見室に入室し,同日午後2時40分ころまで,本件被告人と接見を行った。 この点,原告の差入れの申出に対する本件職員の発言について,証人C(本件職員)は「仮監での物品の授受は,原則として禁止されています。ここは,仮の接見室ですから,物品の差入れについては,D拘置所で行ってください」と発言をした旨供述する。しかし,①原告本人は「ここは仮の施設だか。 ,ら文書の差入れは一切できません」という類の回答であった旨供述し,原告。 作 品の差入れについては,D拘置所で行ってください」と発言をした旨供述する。しかし,①原告本人は「ここは仮の施設だか。 ,ら文書の差入れは一切できません」という類の回答であった旨供述し,原告。 作成の陳述書(甲8)には「接見はできますが,ここ(裁判所構内)は仮の,接見場所であるので,文書の差入れはできません」と記載されていること,。 ②証人Cは,原告本人から数回「証人は「文書の差入れはできません」とい,う言い方をされましたね」と質問をされたのに対し「それも原則できないと,いうことです「それも原則です。原則できない旨をお答えしただけで。」,す」などと「原則として」という言葉を明示したか否かについて些か曖昧な。 ,供述もしていること(証人C・9頁,③通常,交渉事において「原則として)禁止」と言われれば,その例外について検討されるのが自然であるのに,そのような検討がされた形跡は窺えないことからすれば,本件職員が「原則として」と明示的に発言したとは認め難い。 他方,原告本人は,原告の申出に応じなかった本件職員に対して「3時か,ら高裁の公判がある。そこで被告人が無罪を主張するについて,この文書を差し入れたいんだ。だから差し入れたい「これを被告人に渡して,そして読。」,ませた上で打合せをしたい「私がD拘置所まで差し入れたって,被告人は。」,ここにおるじゃないか。そんなことできるわけないじゃないか」と発言をし。 た旨供述し,原告作成の平成18年8月10日付け陳述書(甲8)には「そんなバカな。3時から公判がある。拘置所まで行っておる時間はない。だいいち被告人はここ(裁判所構内接見室)にいるんだから,D拘置所へ行っておった。 ,ら,受け渡しが間に合うはずがないじゃないか」と記載されている。しかし①上記の原告の供述及び陳述 る時間はない。だいいち被告人はここ(裁判所構内接見室)にいるんだから,D拘置所へ行っておった。 ,ら,受け渡しが間に合うはずがないじゃないか」と記載されている。しかし①上記の原告の供述及び陳述書の作成は,いずれも本件当日から長期間が経過した後にされたもので,原告本人自身,記憶が曖昧な部分がある旨述べているほか(原告本人・1頁,10頁,12頁等,上記供述と陳述書の記載には本)件文書に関する説明について変遷がみられること,②本件職員が作成したD拘置所長に宛ての平成17年12月28日付け報告書(乙1)には「G弁護人,が本職に対し仮監での接見を申し立ててから当該接見を終了して立ち去るまでの間,書類の授受を認めなかったことに対し,何ら不平不満を申し出ることはなかった」と記載されていること,③当日,公判期日の開始時間が迫ってお。 り,原告が本件職員との押し問答を控えたことが窺えることからすれば,上記 の原告の供述ないし陳述書の記載の発言があったとは認め難い。 2(1)在監者に対する差入れについて,監獄法53条1項は「在監者ニ差入ヲ為サンコトヲ請フ者アルトキハ法務省令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ許スコトヲ得」と規定し,これを受けて,被収容者自弁規則26条1項は「所長は,被収容者に対し,文書,図画,この規則若しくは他の法令の規定に基づきその者が自弁により用いることができることとされる物品,釈放の際に必要と認められる物品又は金銭の差入れを受けることを許すことができる。ただし,次の各号のいずれかに該当する場合には,差入れを受けることを許さないものとする」とした上で,同項1号は「法第五十三条第一項に規定する者。 (以下「差入人」という)の氏名又は居所が明らかでないとき,同項2。 。」号は「その物品が収容の目的に反し,又は監獄の規律及び秩序を害する した上で,同項1号は「法第五十三条第一項に規定する者。 (以下「差入人」という)の氏名又は居所が明らかでないとき,同項2。 。」号は「その物品が収容の目的に反し,又は監獄の規律及び秩序を害するおそれがあるものであると認めるとき,同項3号は「差入人との関係に照らし,。」その物品又は金銭の差入れを受けることを許すことが被収容者の処遇上適当でないと認めるとき」と規定しているほか,同規則27条は「所長は,差。 入人の氏名,職業,住所,年齢,被収容者との関係その他必要な事項を調査しなければならない」と,同規則28条は「所長は,被収容者が購入した。 物品及び差入人が監獄に持参し,又は送付した物品を受領した場合には,指。 。 定する職員にその物品の検査を行わせなければならない」と規定している(2)未決勾留の目的が逃亡及び罪証隠滅の防止にあること,監獄では多数の者を外部から隔離して集団として管理するため内部における規律及び秩序の維持を図る必要があることからすれば,在監者に対して物品が差し入れられた場合,当該物品が逃亡,罪証隠滅又は監獄の規律及び秩序を害する用途に利用されるおそれがあるか否かや保健衛生上の観点等から,物品の形状,性質等を検査し,記録する等の手続きが必要であることは明らかであり,これは弁護人からの差入れについても異なるものではない。 上記(1)の法令の規定はこの観点から定められたものであり「物品検査係, (執務手続マニュアル(乙4)も,この観点から上記法令に基づき採用さ)」れたもので,その合理性を否定できない。また「名古屋地方裁判所仮監に,おける弁護人面会の実施要領について(乙5)4(3)の「仮監では,接見時」の物品の授受は原則として許可しない」との規定も,仮監は,本来,公判。 期日等へ出頭するために護送された勾 裁判所仮監に,おける弁護人面会の実施要領について(乙5)4(3)の「仮監では,接見時」の物品の授受は原則として許可しない」との規定も,仮監は,本来,公判。 期日等へ出頭するために護送された勾留中の被告人等が一時的に待機するための施設であって,差し入れられた物品の検査態勢が十分ではないことから(証人C,原則として物品の授受は「物品検査係(執務手続マニュア)ル」が定める検査態勢が整っているD拘置所において行い,仮監では差入)れの手続きを行わないという趣旨で定められたもので,その合理性を否定できない。 (3)原告は「名古屋高等裁判所構内は,仮の接見場所であるから,文書の授,受は認められないという本件処分は,憲法34条,刑訴法39条に反する」旨主張する。 しかし,そもそも物品の差入れの許否は監獄の長が判断するものであり(被収容者自弁規則26条1項,本件仮監において被告人の出廷に関する)業務に従事していた本件職員が,そのような判断を独自に行うものではない。 上記1(2)の認定事実のとおり,本件職員は,原告が本件文書の差入れを申し出たのに対し「ここは仮の接見場所であるので,文書の差入れはでき,ません「D拘置所へ行っていただかないと文書の差入れはできませ。」,ん」などと述べているが,このような対応は,原告の申出が在監者に対す。 る物品の差入れに該当することから,D拘置所において差入れの手続きを履践されたい旨を申し伝えたものであり,本件職員が何らかの権限に基づいて差入れ自体を不許可ないし制限したものではない。すなわち,本件職員は,本来,仮監は公判期日等へ出頭するために護送された勾留中の被告人等が一時的に待機するための施設であり,差し入れられた物品の検査態勢が十分ではないことから(上記(2)参照,本件仮監においては,当日突然にされ 仮監は公判期日等へ出頭するために護送された勾留中の被告人等が一時的に待機するための施設であり,差し入れられた物品の検査態勢が十分ではないことから(上記(2)参照,本件仮監においては,当日突然にされた本) 件文書の差入れについて差入れの手続きができないとして,D拘置所における物品の検査等必要な手続きを履践するよう申し伝えたものであって,このような本件職員の対応は不合理なものではない。 確かに,刑訴法39条1項が規定する被告人と弁護人等との接見交通権は,憲法34条前段が弁護人に依頼する権利を定めて,被告人に対し,弁護人を選任した上で,弁護人に相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障したことに由来する権利であるとともに,弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つであることはいうまでもない。 かような見地からすれば,裁判所構内の仮監においても,例えば,弁護人が,差し入れるべき文書を開示し,その意味内容を具体的に説明して,被告人の防御の準備の観点から,被告人に対し,即時に当該文書を差し入れる必要がある旨申し出た場合において,仮監の拘置所職員が,仮監では物品の検査態勢が十分でないとの一事をもって,本所である拘置所に問い合わせることもせずに,独断で弁護人の申出を拒んだときは,当該職員の行為は,弁護人の接見交通権を不当に妨害したものとして,違法となると解される。 しかし,本件において,原告が差入れを申し出た際,本件職員に対し,本件文書を開示し,その意味内容を具体的に説明して,被告人の防御の準備の観点から,被告人に当該文書を早急に差し入れる必要がある旨申し出たなどの事情が認められないのは上記1の認定事実のとおりである。原告は,その際本件職員が「原則として」という表現を明示せずに「ここは仮の接見場,所であるので, を早急に差し入れる必要がある旨申し出たなどの事情が認められないのは上記1の認定事実のとおりである。原告は,その際本件職員が「原則として」という表現を明示せずに「ここは仮の接見場,所であるので,文書の差入れはできません」などと述べたことを強調する。 が,原告から,本件文書の意味内容の具体的な説明,本件被告人の防御の準備との関連性等が示されていない以上,上記発言は,当日突然,本件仮監においてされた原告の差入れの申出に対して,D拘置所において所定の差入れの手続きを履践されたい旨を申し伝えたにすぎないというべきであり,その際,本件職員が「原則として」という表現を用いなかったことが,直ちに, 原告の接見交通権を不当に妨害したものとはいえず,違法になるとは解されない。 したがって,本件職員の行為は,憲法34条,刑訴法39条に反するものではない。 (4)原告は「刑訴規則30条は,刑訴法39条を受けて,裁判所構内の接見,,文書の授受を認めている」として,本件職員の行為が刑訴規則30条に反。 するとも主張する。 ところで,刑訴規則30条は,原告の同主張とは異なり,裁判所が刑訴法39条1項により保障されている被告人と弁護人等との接見交通権を制限する規定であり,刑訴法39条2項(法令(裁判所の規則を含む。以下同じ)で,被告人又は被疑者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の。 授受を防ぐため必要な措置を規定することができる)にその根拠を有する。 ものである。監獄法50条,53条1項等も,監獄の職員が刑訴法39条1項により保障されている被告人と弁護人等との接見交通権を制限する規定であり,同じく刑訴法39条2項にその根拠を有すると解される。 もっとも,監獄の長が裁判所構内における物品の差入れの許否を直ちに判断できる態勢にないことや,弁護人が裁判所 との接見交通権を制限する規定であり,同じく刑訴法39条2項にその根拠を有すると解される。 もっとも,監獄の長が裁判所構内における物品の差入れの許否を直ちに判断できる態勢にないことや,弁護人が裁判所構内において被告人の防御の準備などで緊急に物品の差入れを必要とする場合もあり得ることなどの事情を考慮すると,裁判所が弁護人等から裁判所構内において物品を差入れたい旨の申出を受けて,当該物品の差入れを禁止しなかった場合には,特段の事情がない限り,監獄の長もその裁判所の判断に事実上拘束され,当該物品の差入れを禁止することができなくなると解する余地はある。 しかし,本件においては,裁判所が本件文書につき刑訴規則30条に基づく個別具体的な判断をした場合ではない(弁論の全趣旨。 )そうとすると,本件職員の行為は刑訴規則30条に反するものではなく,原告の同主張は失当である。 結論 以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第6部裁判長裁判官内田計一裁判官安田大二郎裁判官高橋貞幹
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