平成30年(ワ)第358号損害賠償請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,1189万9709円及びこれに対する平成26年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 仮執行宣言(これに対し,被告から仮執行免脱宣言申立て)第2 事案の概要本件は,原告が,開発した住宅地において太陽光発電設備を設置して同住宅地内の共用施設等で利用する電気を発電し,余剰分については売電して共用施設運営費に充てていたところ,その隣地に被告が住宅地を開発し建物を建築したことにより原告の発電量が大きく減少したと主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金(一部請求)1189万9709円及びこれに対する不法行為日である平成26年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実等)(1) 原告は,住宅地開発等を業とする株式会社である。 被告は,スウェーデンより輸入する組立建物の製造,販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告は,平成22年6月頃から,「A」(所在地:福岡県糸島市ab番地c及びd番地e。以下「原告住宅地」という。)との名称で,住宅地の開発を開始した。(所在地につき,甲1)原告住宅地の南側には,福岡県糸島市ab番f及びb番gの土地(後記(5)の被告による住宅地開発前の地番。以下「被告住宅地」という。所在地につき, 乙5)が隣接している。 (3) 原告は,原告住宅地の南端に位置する駐車場部分に,隣接する被告住宅地(南方向)から太陽光を受光することを前提とする太陽 告住宅地」という。所在地につき, 乙5)が隣接している。 (3) 原告は,原告住宅地の南端に位置する駐車場部分に,隣接する被告住宅地(南方向)から太陽光を受光することを前提とする太陽光発電設備(以下「本件設備」という。)を設置することとし,平成23年3月頃,これを完成させた。 (4) 原告は,被告に対し,平成26年7月22日,本件設備に関して日照を阻害しないように配慮を求める書面を送付した。 (5) 被告は,前記(4)の原告の書面に応答することなく,平成26年11月頃から被告住宅地上に建物の建築を開始した。その結果,本件設備の一部分である太陽光モジュール(太陽光を受光するパネル部分をいい,以下「太陽光パネル」という。)の1.25メートルから1.5メートルほど南側に建物が立ち並ぶこととなった(以下,被告がした一連の建築行為を「本件建築行為」という。)。 (6) 原告は,平成29年10月26日付けで,福岡簡易裁判所に対し,被告を相手方として本件に関し民事調停を申し立てたが(同裁判所平成29年(公)第1号),同調停は,平成30年1月25日,調停不成立となり終了した。 (7) 原告は,平成30年2月7日,本件訴えを提起した。 2 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 本件建築行為が原告の権利又は法律上保護される利益を侵害するものであるか。 (原告の主張)ア権利又は法律上保護される利益該当性原告は,本件建築行為により原告住宅地に付随して設置された本件設備に日照を享受する利益を侵害された。 太陽光発電設備を設置して発電を行うことは,不動産を使用又は収益するものであって,土地の所有権の一環ないし一内容として認められる法的利益であるし,従来は消極的権利と理解されてきた生活利 太陽光発電設備を設置して発電を行うことは,不動産を使用又は収益するものであって,土地の所有権の一環ないし一内容として認められる法的利益であるし,従来は消極的権利と理解されてきた生活利益としての伝統的な日 照権ですら所有権の一内容として認められるのであるから,本件利益が所有権の一環として保護されないとはいえない。このような利益は,人格権としての側面も有する。 また,太陽光発電システムについては,再生可能エネルギー源発電業者からの電気事業者の電力買取義務制度,太陽光発電優遇税制,補助金等の政策的誘導により社会的に要保護性が高まっている。 イ違法性次の諸事情を総合すると,本件建築行為により原告が侵害された利益は,被告が本件建築行為により得た利益よりも大きいから,本件建築行為は違法であると評価されるべきである。 (ア) 本件建築行為により,原告の総発電量は年平均45.5パーセント,売電量は年平均45パーセント減少したのであり,原告が被った不利益は極めて大きい。 (イ) 被告住宅地は,1棟当たりの面積は50坪程度であるが,合計10棟の建物及び同地内の道路が同時に造成されたのであるから,造成段階において,建物や道路の配置を変更することで本件設備への被害を事前に回避することは十分可能であった。 (ウ) 被告住宅地は,前所有者が所有していた当時は有料駐車場として利用されていたところ,原告は,本件設備の設置に関し,被告住宅地の前所有者に対し,将来的な同土地の利用方法及び売却可能性について問合せを行い,その時点において,同土地の売却の予定や分譲地としての利用は考えていない旨の回答を得た。そのため,原告としては,少なくとも太陽光発電の固定価格買取期間である10年程度は利用 性について問合せを行い,その時点において,同土地の売却の予定や分譲地としての利用は考えていない旨の回答を得た。そのため,原告としては,少なくとも太陽光発電の固定価格買取期間である10年程度は利用方法の変更がないと判断しており,原告において被告住宅地の建物建築の予見可能性はなかった。 (エ) 原告は,平成26年1月頃,被告住宅地の開発計画を把握し,被告に対して,本件設備を説明の上,配慮を求めるとともに,発電量が減少した場 合には,相応の補償を要求する旨事前に明らかにしていた。また,被告が被告住宅地の開発計画を立てた段階では,既に本件設備が設置されていたことなど原告住宅地の状況からすれば,被告は,本件建築行為により本件設備の相当の発電量の減少を生じさせることを予測することは十分可能であった。 本件設備と被告住宅地の位置状況からして,被告住宅地上に建物を建築すれば本件設備の大半が日陰となることは一見して明らかであるのに,被告は,原告に対して事前に申入れをすることなく,原告からの協議の申入れも無視して建築を強行した。そして,自らの建築した建物においては太陽光発電設備を設置し,発電を行っている。 (被告の主張)争う。 ア原告の主張アについて原告が侵害されたと主張する利益は,専ら太陽光発電を行って売電するという経済活動の観点からの立論であるところ,そのような権利ないし利益は裁判上認められているものではなく,原告が指摘するような法令に基づく各制度に原告の主張する利益を保護する規定はないから,そもそも法的保護に値する権利ないし利益ではない。裁判所において原告の主張する利益を認めることは,裁判所による新たな権利の創設にほかならない。太陽光発電の社会的需要が高いかどうかの評価は曖昧であり定 もそも法的保護に値する権利ないし利益ではない。裁判所において原告の主張する利益を認めることは,裁判所による新たな権利の創設にほかならない。太陽光発電の社会的需要が高いかどうかの評価は曖昧であり定量化できないし,仮にそうであれば立法により解決されるべき問題である。 また,人格権としての性質を有する日照権であっても,原告住宅地及び被告住宅地が所在する第一種住居地域では4メートルの高さを基準にその侵害の有無が判断されるのであり,2.5メートルの高さに設けた太陽光パネルの日当たりは法的保護に値しない。 イ原告の主張イについて (ア) 原告の設置した太陽光パネルは,原告住宅地の南側ぎりぎり,かつ地上から2.5メートルの低い場所に設けられており,その隣地に何か建物ができれば影が生じることは容易に判断できることである。そのような場所にわざわざ太陽光パネルを設置している以上,本件設備はもともと稼働率が極めて低くなる蓋然性が高いシステムであったというべきであり,原告の事業計画の失敗を被告に転嫁すべきではない。 (イ) 被告が被告住宅地内に建築した建物はいずれも建築基準法等の法令に適合したものであり,日影規制違反もない。さらに,50坪程度の狭小な宅地が接する当該地域において,原告の主張が認められるとすれば,境界を接する住宅地の南側には一切建築ができないことになるが,これが法の予定するものではないことは明らかである。 また,被告において被告住宅地内の配置を変更すべき義務はないし,原告に被告住宅地の利用方法について指示されるいわれもない。 (ウ) 原告は,被告住宅地において駐車場が運営されており,将来的にも変更がないと考えていた旨主張するが,前所有者の回答は不明である上,仮にそのような回答があったとし されるいわれもない。 (ウ) 原告は,被告住宅地において駐車場が運営されており,将来的にも変更がないと考えていた旨主張するが,前所有者の回答は不明である上,仮にそのような回答があったとしても,所有者は変わり得るものであるから,変更までの用途方法の方針を示したものにすぎない。むしろ,被告住宅地が第一種住居地域に所在することから,住宅用建物が建築されることは容易に予見することができたはずである。 (エ) そもそも被告が被告所有地の利用方法について原告に協議を申し入れる義務もなく,被告において原告の要望に応じる義務もない。 (2) 原告の損害額(原告の主張)被告の本件建築行為により,本件設備の総発電量は平成26年度(前年12月から当年11月までを1年度とする。)の1万8075キロワット時であったものが,平成27年度には9850キロワット時,平成28年度には1万0 200キロワット時となり,年平均で45.5パーセント減少した。そのため,平成26年度の売電代金が78万8832円であったものが,平成27年度には売電量が8969キロワット時,売電代金が43万0512円,平成28年度には売電量が8976キロワット時,売電代金が43万2848円となり,年平均で45.3パーセント減少した。 そのため,原告には次の各損害が発生した。 ア無駄になった設備費用 978万7186円本件設備設置費用2151万0300円×総発電量減少率45.5パーセントイ平成26年12月から平成29年10月までの減少した売電代金相当額104万2244円78万8832円(平成25年11月~平成26年12月売電代金)×45.3パーセント(売電代金減少率)×(35/1 月から平成29年10月までの減少した売電代金相当額104万2244円78万8832円(平成25年11月~平成26年12月売電代金)×45.3パーセント(売電代金減少率)×(35/12か月)ウ減少した将来の売電利益(一部請求) 107万0279円平成26年度売電実績1万8075キロワット時×発電単価48円×売電代金減少率45.3パーセント×2.7232(残存固定価格買取期間3年に対応するライプニッツ係数)エ合計 1189万9709円(被告の主張)事実は不知,主張は争う。 第3 争点に対する判断 1 認定事実前記前提事実に加え,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 原告住宅地は,1戸当たり建築面積46.26平方メートルの2階建て及び地下室からなる住宅18戸,緑地,2階建てのコモンハウス(コミュニティ ルーム,ゲストルーム)等からなる開発面積2699.18平方メートルの住宅地である。原告住宅地は,都市計画上,第一種住居地域(住居の環境を保護するため定める地域をいう。都市計画法9条5項)に指定され,建ぺい率60パーセント,容積率200パーセントの規制がされている。(甲1,乙3の1・2)(2) 原告住宅地の南側部分は,居住者用の駐車場区画(自動車約18台分。以下「本件駐車場」という。)が整備されており,原告住宅地の南側境界線に沿う形で,カーポート状の自動車用の屋根が全駐車区画分整備されている。(甲7)(3) 原告は,平成22年6月頃から原告住宅地の開発計画を開始したが,その当時,被告住宅地の所有者はBであった。その当時,被告住宅地上に建築物はなく,Bは同地を平置 整備されている。(甲7)(3) 原告は,平成22年6月頃から原告住宅地の開発計画を開始したが,その当時,被告住宅地の所有者はBであった。その当時,被告住宅地上に建築物はなく,Bは同地を平置きの有料駐車場として利用していた。(甲8,22)(4) 原告は,原告住宅地に太陽光発電設備を設置することを計画していたところ,屋根に太陽光パネルを設置すると景観を損ねること,太陽光が反射して近隣住民の生活環境に影響が生じることを避けることから,太陽光パネルを原告住宅地の南側に設置することとした。(甲22)(5) 原告は,被告住宅地の将来の利用方法によっては,太陽光発電に対する影響が出ると危惧し,Bに対し,被告住宅地の将来の利用方法を確認したところ,Bは,「売るかどうかも分からないし,分譲地としての利用は考えていない。」旨回答した。原告は,Bの回答を受けて,本件駐車場の屋根に太陽光パネルを設置することとした。(甲22)(6) 本件駐車場の自動車用の屋根には,断面から見て,南側に面して壁となる部分(以下「本件壁部分」という。)に断面幅1657ミリメートルの太陽光パネルが1枚,上部の屋根部分(以下「本件屋根部分」という。)に断面幅858ミリメートルの太陽光パネルが2枚,屋根全体にわたりそれぞれ設置されている(以下,これらの太陽光パネルを「本件太陽光パネル」という。)。 本件壁部分の上端は,地上から2.5メートルほどの高さにあり,本件屋根 部分までを含む本件駐車場の自動車用の屋根全体の高さは,地上から3.5メートルほどになる。(甲6)(7) 原告は,経済産業大臣に対し,平成23年1月14日,本件設備(名称:A太陽光発電システム)について,新エネルギー等発電設備の認定(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置 (7) 原告は,経済産業大臣に対し,平成23年1月14日,本件設備(名称:A太陽光発電システム)について,新エネルギー等発電設備の認定(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(以下「特措法」という。)9条1項)を申請し,経済産業大臣は,同月20日,これを認定した。(甲18,19)(8) 原告は,九州電力株式会社(以下「九州電力」という。)に対し,平成23年2月10日及び14日,本件設備を九州電力の電力系統へ連系し,本件設備より発生する電力に余剰が生じた場合に,その余剰電力を九州電力に販売する旨の契約を申し込み,九州電力は,原告に対し,同年3月4日,これを承諾した。(甲14)(9) 原告は,同年2月24日頃から,本件設備の運転を開始し,同年3月2日から,九州電力に対する本件設備の余剰電力の販売を開始した。(甲14,15)(10) 本件設備により発電した電力は,原告住宅地の管理事務所の電力や街灯,ポンプ等の共用部分の電力として用いられるほか,余剰電力の売却益は,原告住宅地の共益費の一部として用いられている。(甲1,3)(11) 被告は,Bから被告住宅地を取得して,平成26年11月以降,被告住宅地を開発して住宅を建築し,本件太陽光パネルの1.25メートルから1.5メートルほど南側に,2階建ての住宅4戸(以下「被告建物」という。)を建築した。(甲7,8,乙5)(12) 被告住宅地は,原告住宅地と同様,第一種住居地域に指定されており,容積率200パーセント,建ぺい率60パーセントの規制があるところ,被告建物はいずれも建築基準法その他の関係法令所定の建築基準に適合する。(乙3の1,6の1~6の4)。 (13) 本件太陽光パネルのうち,本件屋根部分に設置された部分では,冬至の午 ろ,被告建物はいずれも建築基準法その他の関係法令所定の建築基準に適合する。(乙3の1,6の1~6の4)。 (13) 本件太陽光パネルのうち,本件屋根部分に設置された部分では,冬至の午 後12時15分の太陽高度を基準としても太陽光を受光することができるが,本件壁部分に設置された部分では,夏至の午後12時15分の太陽高度を基準とすれば太陽光を受光することができるが,冬至の午後12時15分の太陽高度を基準とすると,太陽光を受光することができない。 冬至における本件太陽光パネル全体に対する受光することができない部分の長さの割合は,61パーセント程度となる。(甲6) 2 争点(1)(本件建築行為が原告の権利又は法律上保護される利益を侵害するものであるか。)について(1)ア総論・判断基準等土地の所有者は,所有権の行使として当該土地を使用収益する権利があるところ,土地上に太陽光発電設備を設けて発電を行うことは土地の使用収益にほかならないから,土地上に太陽光発電設備を設けて発電を行う権利は,所有権の一内容として認められる。もっとも,そのような権利が,所有地上での所有権の行使のみならず,他者に対して,自己の設置した太陽光発電設備のための太陽光の受光を妨げられない権利ないし利益まで当然に包含するものではなく,別途考慮を要する。 そこで引き続き検討するに,本件のように土地上に太陽光発電設備を設けて発電を行う場合には,太陽光の受光はその土地の使用収益の方法において必要不可欠な資源であって,太陽光の受光が妨げられることは,その土地の使用収益の方法においては直接的な不利益となる。 そして,現在において,自然公園など原則として工作物の設置が規制されるような場所を除いては,太陽光発電設備の設置を認めなかったり,許可制としたりするなどの 益の方法においては直接的な不利益となる。 そして,現在において,自然公園など原則として工作物の設置が規制されるような場所を除いては,太陽光発電設備の設置を認めなかったり,許可制としたりするなどの規制は見当たらない。むしろ,エネルギー政策基本法は,エネルギーの需給について,太陽光等の化石燃料以外のエネルギーの利用への転換を推進すること等により,地球温暖化の防止及び地域環境の保全が図られたエネルギーの需給を実現し,併せて循環型社会の形成に資するための 施策が推進されなければならないことをエネルギー政策の基本原則の一つとして掲げ(同法3条),国等の責務(同法5条,6条)のほか,事業者にも,事業活動における地球の環境の保全に配慮したエネルギーの利用に努める責務を定めており(同法7条),太陽光発電など再生利用エネルギー源の利用促進は,現代においては,地域及び地球の環境の保全に寄与するとともに,我が国及び世界の経済社会の持続的な発展に貢献するための重要な施策として位置付けられており(同法1条),太陽光を初めとする再生可能エネルギーを積極的に利用促進すべきことを,国の政策目標に掲げた上で,事業者にもこれに沿った事業活動が求められている。また,エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律3条に基づき定められたエネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する基本方針(廃止前の平成21年経済産業省告示第277号)並びに同法5条1項の規定に基づき定められた非化石エネルギー源の利用に関する一般電気事業者等の判断の基準(廃止前の平成21年経済産業省告示第278号)では,電気事業者による太陽光発電に係る余剰電力買取制度が導入され(同基本方針 き定められた非化石エネルギー源の利用に関する一般電気事業者等の判断の基準(廃止前の平成21年経済産業省告示第278号)では,電気事業者による太陽光発電に係る余剰電力買取制度が導入され(同基本方針第2,同基準3項),平成24年4月1日からは,特措法によりいわゆる固定価格買取制度が導入されたところ,これらは,太陽光発電を初めとする再生可能エネルギー源を用いた発電を促進普及させるために,国民や事業者に対して経済的誘因を与え,収益の予測可能性を高めることで導入を誘導する政策手法であり,具体的な施策として,再生可能エネルギー,とりわけ太陽光発電を行う者が経済的に一定の保証を得られるよう定めるものである。 これらを総合すると,太陽光発電を行っている者は,発電設備への太陽光の受光について密接な利害関係を有するものであり,法律上の保護が及んでいないと解することは相当でないから,その者らの有する太陽光発電のため に太陽光を受光する利益(以下「受光利益」という。)は,法律上保護に値する利益に当たると解するのが相当である。 もっとも,太陽光発電は,再生可能エネルギー源(特措法2条4項)を用いた発電の一つとして,近年急速に普及し始めたものであって,建築基準関係規定でも住宅地における太陽光発電のための太陽光パネルの設置と近隣の他の建築物との関係を想定した規制を設けるには至っておらず,どの程度の受光が確保されれば権利ないし利益の侵害とならないかなどの明確な基準が存在しないことに加え,電力の安定的かつ適切な供給の確保及びそれに係る環境への負荷の低減を巡る今後の社会の情勢や政策手法の変更にも影響されるから,私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず,受光利益を超えて権利性を認めることはできない。 したがって,本件におけるように 後の社会の情勢や政策手法の変更にも影響されるから,私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず,受光利益を超えて権利性を認めることはできない。 したがって,本件におけるように建物の建築行為が第三者に対する関係において太陽光の受光を妨げたからといって直ちに違法な利益侵害があるとして不法行為を構成するということはできず,受光利益を違法に侵害するものとして不法行為を構成するかどうかは,被侵害利益である受光利益の性質と内容のほか,受光を妨げる建物が建築された所在地の利用用途,周辺の地域性,侵害される受光利益の程度,侵害に至る経過等を総合的に考察して,侵害された受光利益と建物を建築する利益とを比較考量して判断すべきである。もっとも,受光利益の性質と内容については,上記のとおり建築基準関係規定にも規制がなく,利益として保護され得る範囲について社会的に合意の得られる基準が設けられているものではないことや,太陽光発電の性質上,発電量及び余剰電力の販売益がどの程度に達するかは不安定であることを考慮せざるを得ないから,受光利益を侵害する行為が違法であるとされるのは,法令による規制に違反する建築物によるとか,発電量を著しく減少させるなど,その侵害の程度が強度といえるような場合に限られると解すべきである。 イ原告の主張について原告は,上記のような権利について人格権としての側面も有する旨主張する。しかし,太陽光発電は経済活動としての域を出ないものであり,土地所有権との関係に加えて人格権(例えば,人格権としての自家発電権など)の問題としてとらえるのは困難である。 ウ被告の主張について被告は,太陽光を享受する利益は観念することができず法律上保護される利益と考える余地はなく,これを認めると新たな権利の創設になりかねな 問題としてとらえるのは困難である。 ウ被告の主張について被告は,太陽光を享受する利益は観念することができず法律上保護される利益と考える余地はなく,これを認めると新たな権利の創設になりかねない旨主張する。しかし,受光利益は,所有権に発する正当な土地の使用収益活動のための利益として相当の客観性を備えており,法律上保護される利益として観念することができるのは上記説示のとおりであり,これを認めることが新たな権利の創設となるものでもない。 なお,被告が本件太陽光パネルの設置位置に関して要保護性がない旨主張する点については,まさに違法性の有無に関する判断の一要素となるべき事項であって,受光利益の有無に直接かかわる事項ではない。 エ以上のほか,原告及び被告は受光利益の権利性について縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。 (2) 本件建築行為が原告の受光利益を違法に侵害するか否かについて,前記(1)アに即して具体的に検討する。 ア被告住宅地の利用用途,周辺の地域性等原告住宅地及び被告住宅地は,第一種住居地域として指定された地域内にあり,建ぺい率60パーセント,容積率200パーセントの規制がされている。 まず,住宅地における太陽光発電設備の設置及び電気事業者との特定契約の締結は,新築の住宅を中心に電力供給の方法として普及しつつあり,排気ガス,騒音等もなく,景観やパネルからの反射光等の問題があることを除け ば,静ひつな居住環境の確保との関係で大きな問題を生じさせるものではない。本件設備については,住宅での自家用電力の発電ではないが,発電された電力は原告住宅地内の共用施設での消費に充てられ,また,余剰電力の売却益は原告住宅地内の共益費に充てられており,原告住宅地内の居住者のために使用されてい 宅での自家用電力の発電ではないが,発電された電力は原告住宅地内の共用施設での消費に充てられ,また,余剰電力の売却益は原告住宅地内の共益費に充てられており,原告住宅地内の居住者のために使用されているのであるから,住居地域としての原告住宅地の用途に適合するものである。 もっとも,被告住宅地も,第一種住居地域として,一次的には住居の建築に供されるべき地域として指定されているのであり,その土地所有者としては,規制の範囲内で住居を建築することができる期待を抱くことは当然である。そして,原告は住宅地開発を業としており,原告住宅地の開発に当たり当然ながら同地及びその周辺の用途指定を調査していたと考えられるから,将来において被告住宅地上に住居が建築される可能性があることは十分に予見していたか,予見することができたと考えるのが自然である。 イ侵害される受光利益の程度,経過等(ア) 本件建築行為により侵害される原告の受光利益は,原告の主張を前提としても,本件建築行為の前後では年間の総発電量で45.5パーセント,売電代金で45.3パーセント減少したというのであり,とりわけ冬から初春にかけての12月から3月にかけての発電量の減少が大きいことからすれば(甲3),気候や天候の年間ベースでの変動等の要素による誤差があるとしても,被告建物による本件太陽光パネルの受光量の減少が顕著に表れているといえる。 もっとも,九州電力から支払を受けた売電料金額と九州電力に対して支払った使用分の電気料金額を比較すると,年度単位(4月から翌年3月まで)では管理事務所や共用部分(街灯,ポンプ)に必要な電力は本件設備により発電した電力でまかなわれているのであって(甲3),受光利益が制約されることで本件設備による原告住宅地における共用設備の維 まで)では管理事務所や共用部分(街灯,ポンプ)に必要な電力は本件設備により発電した電力でまかなわれているのであって(甲3),受光利益が制約されることで本件設備による原告住宅地における共用設備の維持等 のコスト削減に対する影響は大きいとはいえない。 (イ) そして,本件駐車場の屋根部分に本件太陽光パネルを設置することを選択したのは原告自身であるところ,本件壁部分に設置された本件太陽光パネルは地上から2.5メートル以下の高さにあり,被告住宅地に建物が建築されれば,受光が妨げられる可能性が十分に想定される位置である。 そして,前記ア説示のとおり,被告住宅地に住宅が建築される可能性は原告においても十分に想定し得るものである上,被告住宅地の利用方法について原告がBから聞き取った内容を前提としても,Bとの間で本件太陽光パネルの受光を阻害するような建物を建築しない旨を合意したとはいえないし,仮に何らかの合意といえるものがあったとしても,被告が改めて同意しない限り,そのような合意は被告を拘束しない。原告においても,Bの説明を受けて本件太陽光パネルの受光のために一定の空間について被告住宅地上の建築を抑制したかったのであれば,Bとの間で被告住宅地を要役地とする地役権を設定するなどの方法も考えられなくはないが,仮に地役権を設定するなどの方法を採るに当たって対価を考慮したというのであれば,本件太陽光パネルの受光が妨げられる場合の不利益と地役権の対価の支払を原告において考慮し,原告のリスクにおいて前者を選択したというにほかならないということになる。 また,原告は,被告住宅地の造成段階で原告と協議を行い,建物用地等の配置を変更することで,本件太陽光パネルの受光妨害を事前に防止することができた旨主張する。しかし,そもそも被告において被告住宅地内に た,原告は,被告住宅地の造成段階で原告と協議を行い,建物用地等の配置を変更することで,本件太陽光パネルの受光妨害を事前に防止することができた旨主張する。しかし,そもそも被告において被告住宅地内にどのように建築物を配置するかは,建築基準法等の関係法令の規制に反しなければ被告の任意に委ねられており,本件太陽光パネルのために被告において原告の協議の申入れに応諾すべき義務があるとはいえない。仮に被告住宅地における建物の配置を変更するとしても,本件太陽光パネルの受光を一定程度妨げないようにするには,被告建物の建築位置を南側に変更 する必要があるが,その場合でも,被告建物や同開発地内の他の建物の関係で法令上必要な道路の幅員や接道を十分に確保し,被告住宅地内の建物間の日影規制等にも問題を生じないように被告住宅地全体の計画を練り直さなければならなくなる可能性があるし,被告に不利益を及ぼさずに配置が可能であることを認めるに足りる証拠もない。 ウ検討以上検討したところを踏まえると,被告は建築基準法その他の関係法令に適合する被告建物を建築したのであって,同建物は違法建築といえるものではないし,被告建物が本件設備の発電量の減少に与える影響は限定的であって,そのような状況に至った点について必ずしも被告の責めに帰すべきとはいえないから,原告の受光利益の侵害の程度が強度といえるような場合ではない。 したがって,本件建築行為が法令に違反するものではなく,本件設備による太陽光発電に対する影響も著しいものとはいえないから,本件建築行為は原告の受光利益を違法に侵害するものということはできない。 以上のほか,原告は違法性に関して縷々主張するが,いずれも採用することはできない。 第4 結論よって,その余の点について判断するまでもなく原告 光利益を違法に侵害するものということはできない。 以上のほか,原告は違法性に関して縷々主張するが,いずれも採用することはできない。 第4 結論よって,その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部 裁判官酒井直樹
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