令和2(ワ)8186 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年7月18日 大阪地方裁判所
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判決文本文53,695 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告らは、原告に対し、連帯して1億2409万9074円及びこれに対する平成29年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、原告が、後記別件刑事訴訟において、無罪判決を受けたことに関し、 別件刑事訴訟に係る捜査並びに公訴の提起及び追行等が違法であると主張して、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、被告国及び被告府に対し、連帯して1億2409万9074円及びこれに対する違法行為後の日である平成29年3月17日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原告は、大阪府警察の警察官(以下、大阪府警察を「大阪府警」といい、後記本件殺人等事件の捜査に関与した大阪府警の警察官を「警察官」という。)が、原告にとって有利な証拠物を紛失した行為、及び後記別件刑事訴訟の捜査ないし公判を担当した検察官(以下、特に言及しない限り単に「検察官」という。)が、証拠の収集・評価を誤り、公訴の提起・追行を行うとともに、上記証拠物 について、保管を指示せず、その紛失の事実を公判に顕出しなかった行為が、国賠法上違法であると主張している。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、文中に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 本件殺人等事件の発生等 ア原告の身上関係 後記本件殺人等事件発生当時、原告は、別紙2「関係図」のとおり、Aと婚姻しており、Aの連れ子であったBとは過去相当期間にわたって養子縁組をしていたものの、平成13年10月30日に離 上関係 後記本件殺人等事件発生当時、原告は、別紙2「関係図」のとおり、Aと婚姻しており、Aの連れ子であったBとは過去相当期間にわたって養子縁組をしていたものの、平成13年10月30日に離縁をしていた。また、Bは、妻であるC及びその子であるDと共に大阪市平野区(住所省略)所在のEF号室(以下、上記マンションを「本件マンション」といい、上記 F号室を「本件居室」という。)に居住していた。 イ本件殺人等事件の発生(甲1)平成14年4月14日午後3時頃から同日午後9時40分頃までの間に、本件居室において、何者かがC及びDを殺害するとともに、本件居室に放火するという殺人及び現住建造物等放火事件が発生した(以下、この 刑事事件全体を指して「本件殺人等事件」という。)。 ⑵ 本件殺人等事件に係る刑事裁判(以下、「別件刑事訴訟」という。)の経緯ア原告の身柄拘束(乙1、2、8、9)原告は、本件殺人等事件につき、平成14年11月16日、殺人の被疑事実で、同年12月8日、現住建造物等放火の被疑事実で、それぞれ逮捕 され、後に勾留された。大阪地方検察庁の検察官は、同月7日、原告につき殺人の被疑事実で、同月29日、現住建造物等放火の公訴事実でそれぞれ公訴を提起した(以下、これらの公訴提起行為を「本件公訴提起」という。)。 イ別件刑事訴訟の公訴事実(乙1、2) 別件刑事訴訟の公訴事実は、原告が、①平成14年4月14日午後3時30分頃から同日午後9時40分頃までの間に、本件居室において、C(当時28歳)に対し、殺意をもって、同所に在ったナイロン製ひもでその頚部を絞め付けるなどし、よって、その頃、同所において、同人を頚部圧迫により窒息死させて殺害し、②前記日時場所において、D(当時1歳)に 対し、殺意をも って、同所に在ったナイロン製ひもでその頚部を絞め付けるなどし、よって、その頃、同所において、同人を頚部圧迫により窒息死させて殺害し、②前記日時場所において、D(当時1歳)に 対し、殺意をもって、同所浴室の浴槽内の水中にその身体を溺没させるな どし、よって、その頃、同所において、同児を溺死させて殺害し、③本件マンションに放火しようと企て、同日午後9時40分頃、本件居室6畳間において、同所にあった新聞紙及び衣類等にライターで火をつけ、その火を同室の壁面及び天井等に燃え移らせて本件マンションを焼損したというものである。 ウ別件刑事訴訟の結果別件刑事訴訟における判決の結果は、以下のとおりである(以下においては、別件刑事訴訟に係る各審級を、審級欄の記載に応じ、「差戻前第一審」などと表記する。)。原告は、差戻後第一審判決を受けた平成24年3月15日に、釈放された。また、差戻後第一審判決(無罪)は、平成29年3 月16日の経過により、確定した。 審級日付判決(量刑)(ア) 差戻前第一審平成17年8月3日有罪(無期懲役)(イ) 差戻前控訴審平成18年12月15日原判決変更(有罪〔死刑〕)(ウ) 上告審平成22年4月27日原判決及び第一審判決破 棄、差戻し(エ) 差戻後第一審平成24年3月15日無罪(オ) 差戻後控訴審平成29年3月2日控訴棄却エ別件刑事訴訟における主張立証活動(甲39、乙3~7、62、109)原告は、別件刑事訴訟において、犯人性を争った。本件殺人等事件にお いて、直接証拠は存在せず、検察官は、複数の間接事実の総合評価によって、原告の犯人性の立証を目指した。 前記間接事実の一つを構成する証拠として、本件 いて、犯人性を争った。本件殺人等事件にお いて、直接証拠は存在せず、検察官は、複数の間接事実の総合評価によって、原告の犯人性の立証を目指した。 前記間接事実の一つを構成する証拠として、本件マンションの西側階段1階と2階の間の階段踊り場に設置された灰皿(以下「本件灰皿」という。)内から採取された72本のたばこの吸い殻の中に、原告のDNA型と一致 するDNA型を持つ唾液が付着したたばこの吸い殻1本(以下「本件吸い 殻」という。)が存在した。本件灰皿内に存在した本件吸い殻を除くたばこの吸い殻は、大阪府警において保管中の平成15年12月22日から同月25日の間に失われた(以下、失われた吸い殻を「本件紛失資料」という。)。 別件刑事訴訟の公判担当検察官(以下「公判担当検察官」という。)は、上記紛失に係る事実を差戻前第一審係属中の平成16年1月20日に知っ たが、差戻後第一審係属中の平成22年7月13日まで、原告及び原告の弁護人(以下、単に「弁護人」という。)に対し、同事実を明らかにしなかった。 3 争点⑴ 検察官の本件公訴提起は、国賠法上違法か(争点1) ⑵ 検察官の公訴追行は、国賠法上違法か(争点2)⑶ 警察官の本件紛失資料の紛失について警察官及び検察官に国賠法上の違法があったか(争点3)⑷ 公判担当検察官が本件紛失資料の紛失の事実を弁護人に伝えなかったことは、国賠法上違法か(争点4) ⑸ 原告の損害(争点5) 4 争点に対する当事者の主張⑴ 争点1(検察官の本件公訴提起は、国賠法上違法か)について(原告の主張)ア判断枠組みについて 公訴提起の国賠法上の違法性は、公訴提起時に、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して て(原告の主張)ア判断枠組みについて 公訴提起の国賠法上の違法性は、公訴提起時に、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して証拠収集及び証拠評価の各過程において合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったかどうかから判断すべきである。 したがって、公訴の提起は、検察官が証拠の評価を誤った場合のみなら ず、警察官及び検察官が不十分な捜査しか行わなかったために不十分な証 拠しか収集できず、そのことが誤った公訴の提起につながったような場合にも国賠法上違法となる。 また、検察官が公訴を提起するに当たって、要求される犯罪の嫌疑の程度としては、有罪判決に要求されるのと同程度の合理的な疑いを容れない程度の確信が必要である。 イ証拠収集及び証拠評価の過程に過誤があったこと(ア) 犯人がCと近しい関係にあるとはいえないこと本件現場の中からは、現金が発見されておらず、他の金目の物品が残されているとはいえ、これらの換金等の際に足がつくリスクがあることを考慮すれば、本件殺人等事件の犯人(以下、単に「犯人」という。)が 金品奪取目的を持った外部者である可能性があった。さらに、Cの年齢、容貌、Cの遺体が下半身に下着のみを着用した状態であったこと及び本件マンションの防犯設備の状況等からすれば、犯人は性犯罪の目的を持った外部者である可能性もあった。 ベランダ側アルミサッシ引戸のクレセント錠が外れていたことを考 慮すると、犯人が玄関扉から出入りしたとの確証はなく、犯人の侵入経路は不明というほかない。玄関扉にチェーンロックがかかっていなかったこと、Dが殺害されたこと、殺害後に本件居室の放火をしていることも必ずしも犯人がCと近しい関係にあった場合に限 はなく、犯人の侵入経路は不明というほかない。玄関扉にチェーンロックがかかっていなかったこと、Dが殺害されたこと、殺害後に本件居室の放火をしていることも必ずしも犯人がCと近しい関係にあった場合に限られない。したがって、犯人がCと近しい関係にあると認められる状況とはいえなかった。 しかるに、警察官及び検察官は、本件マンションの住民などへのアリバイに関する裏付け捜査を十分にしないなど第三者の犯行可能性について、適切な捜査を怠り、安易にその可能性を排除したものであり、証拠収集及び証拠評価の過程に過誤があったというべきである。 (イ) 原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に本件マンションに立ち入った とはいえないこと。 a 本件吸い殻について本件マンション内の本件灰皿から採取された本件吸い殻について、原告が犯行時間帯にその場所でたばこを吸っていたことの目撃証言はない。本件吸い殻が茶色く変色しており時間の経過を示していると考えられること、原告が携帯灰皿をCに貸したままの状態となってい る旨供述していたこと、本件灰皿が長期にわたり清掃されていなかったことからすれば、本件吸い殻が、本件殺人等事件より相当前にCによって投棄されたものであるという反対仮説を排除することはできなかった。 b その余の事実について 本件殺人等事件の犯行時間帯近くに本件マンション近くで、原告及び原告の使用していた車両と同車種・同色の車両を目撃したとする証人は、いずれもその信用性が認められない供述しかしておらず、仮にその供述が信用できるとしても、上記各供述は、原告が犯人であることを基礎づけるとはいい得ない程度の証明力しか持たなかった。 c 小括警察官及び検察官は、これらの事情にも関わらず安易に上記反対仮説を排除し、 しても、上記各供述は、原告が犯人であることを基礎づけるとはいい得ない程度の証明力しか持たなかった。 c 小括警察官及び検察官は、これらの事情にも関わらず安易に上記反対仮説を排除し、原告が犯行時間帯に本件マンションに立ち入ったと判断しており、証拠収集及び証拠評価の過程に過誤があったことは明らかである。 (ウ) 原告の本件殺人等事件以降の行動に不審な点があったとはいえないこと原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に携帯電話の電源を切っていたこと自体日常的な行動にすぎず、Aを迎えに行かなかったことについても特別な行動とはいえない。さらに、本件殺人等事件後の原告の不審な 点についてしたAの供述は、いずれも、原告を有罪にしたいという動機 によってされたものであり、信用性がないと評価すべきものであった。 したがって、原告の本件殺人等事件以降の行動に不審な点があったと評価することはできないのであり、証拠評価の過程に過誤があったといえる。 (エ) 原告が警察において受けたポリグラフ検査結果が原告が犯人である ことを示しているとはいえないこと原告に対して行われたポリグラフ検査では、外界からの影響を遮断する工夫がされておらず、裁決項目が二つ存在する質問もあり、検査結果に関する資料も鑑定書とチャートしか残されていないことから、鑑定内容の正確な検証が不可能であった。したがって、上記検査結果をもって 原告の犯人性の認定に用いることは許されない。 したがって、警察官及び検察官は、証拠収集過程である検査方法に過誤があるのに、これを無視した証拠評価を行った過誤があったといえる。 (オ) 原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められたとはいえないこと 原告に動機があることは、A及びBの供述に があるのに、これを無視した証拠評価を行った過誤があったといえる。 (オ) 原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められたとはいえないこと 原告に動機があることは、A及びBの供述に基づくものであるが、前記(ウ)のとおりAの供述には信用性が認められず、また、Bも、もともと義父であった原告につき複雑な感情を抱いていた上、C又はAから原告がCに対し性的言動等を取った等の虚偽を聞かされていたことなどから、原告を犯人としたい動機があったのであり、その供述には信用性が ない。 したがって、上記両名の供述に基づいて原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められたと判断して公訴を提起した検察官には証拠評価の過誤があるといえる。 (カ) 原告の供述が信用できないとはいえないこと 原告が当日の行動すべてについて詳細な行動を説明できないのは当 然であり、不合理な変遷があったとはいえない。 したがって、このような原告の供述を信用できないとして、本件公訴の提起に至った検察官には証拠評価の過誤があるといえる。 ウまとめ以上のとおり、本件殺人等事件における警察官及び検察官の証拠収集及 び証拠評価の過程には過誤があり、それが公訴の提起につながったものであるから、本件公訴提起は、国賠法上違法である。 (被告国の主張)ア判断枠組みについて国賠法1条1項の「違法」とは、公権力の行使に当たる公務員が個別の 国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいう。 検察官は、刑事事件について公訴を提起し、裁判所に犯罪の成否、刑罰権の存否について審判を求め、もって国家の刑罰権を適正に実現し、法秩序の維持を図ることを職責とする国家機関である。公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪 いて公訴を提起し、裁判所に犯罪の成否、刑罰権の存否について審判を求め、もって国家の刑罰権を適正に実現し、法秩序の維持を図ることを職責とする国家機関である。公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否について審判を求める意思表 示にすぎず、検察官の公訴提起時の心証は、その性質上裁判官の判決時のそれとは異なるから、検察官が公訴を提起するに当たって行為規範として要求される犯罪の嫌疑の程度は、合理的な疑いを容れない程度の確信よりも低く、有罪判決を期待し得る合理的根拠が存在することで足りるというべきであり、公訴提起時における現に収集した各種の証拠資料及び通常要 求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、公訴の提起は違法性を欠くというべきである。 そして、上記のような嫌疑の存否の判断は、証拠評価及び法的判断を含む判断であるところ、そのような判断は、客観的かつ一義的に定まるもの ではなく、論理則、経験則の許容する範囲内で個人差が生じることからす れば、法の予定する一般的な検察官を前提としてもその判断に一定の幅があることは許容されるべきである。 以上からすると、検察官の公訴提起は、有罪と認められる嫌疑があるとした検察官の証拠評価及び法的判断が、法の予定する一般的な検察官を前提として、通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮してもな おかつ行き過ぎで、経験則、論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているときに初めて国賠法上違法と判断されるべきである。 イ本件公訴提起の国賠法上の違法性について(ア) 総論 本件公訴提起時において現に収集された証拠資料からすると、以下のように判断すること めて国賠法上違法と判断されるべきである。 イ本件公訴提起の国賠法上の違法性について(ア) 総論 本件公訴提起時において現に収集された証拠資料からすると、以下のように判断することが可能であり、これら証拠により認定することができる間接事実を総合評価して合理的に判断すれば、原告が犯人であると認定することができるというべきである。そして、差戻前第一審及び差戻前控訴審判決は、原告の有罪を認定しており、これらの判決を破棄し た上告審においても、合議体を構成する裁判官のうち1名は、有罪の反対意見を述べていること等からすれば、本件公訴提起をした検察官の判断が、法の予定する一般的な検察官を前提として、通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮してもなおかつ行き過ぎで、経験則、論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達 しているとはいえないことは明らかである。 したがって、本件公訴提起を国賠法上違法と評価することはできない。 (イ) 犯人がCと近しい関係にあると推認することができ、Cの親戚や知人等の中でアリバイが認められなかったのが原告だけであったこと用心深いCがチェーンロックを外していたこと、室内が物色されてい るものの金品が残されており、物色行為が偽装工作とも考えられること、 幼少のDも殺害されていること、殺害後に放火していることからすれば、犯人はCと近しい関係にあると推認するのが合理的であり、そのような人物の中で本件殺人等事件当時のアリバイがなかったのは原告だけであった。 (ウ) 原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に犯行現場付近におり、本件マン ションに立ち入ったと認められることa 本件吸い殻について前提事実⑵エのとおり、本件マンション西側階段の1階と2階の ウ) 原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に犯行現場付近におり、本件マン ションに立ち入ったと認められることa 本件吸い殻について前提事実⑵エのとおり、本件マンション西側階段の1階と2階の間の踊り場に置かれた本件灰皿内から原告のDNA型と一致するDNA型の唾液の付着した本件吸い殻が採取された。 本件吸い殻の変色は顕著なものとはいえず、経験則に照らしても短時間で吸い殻に変色が生じることは十分にあり得たのであり、検察官において、変色の原因が日時の経過によるものとは判断できなかった。 したがって、本件吸い殻が事件当日に投棄されたものではないと気づいて当然の状況にあるとはいえず、変色原因の捜査が通常要求される 捜査ということはできなかった。 Cが、Aや原告の使用していた携帯灰皿を所持していたことを前提としても、自室で吸い殻の廃棄が可能であり、これらを自宅から持ち出していたことをうかがわせる事情はなかった。さらにAがCにツートンカラーの携帯灰皿を貸したのは、平成11年夏ごろであるところ、 本件マンションに転居した平成14年2月28日以降になって本件灰皿に本件吸い殻が投棄されたとはいえない状況であった。 また、仮に本件吸い殻に関する捜査が通常すべき捜査であるとしても、差戻後第一審で提出された変色原因等の捜査結果によれば、本件吸い殻が事件当日に投棄されたものと考えることに矛盾がなかった。 b その余の事実について 前記a記載の事実のほか、本件殺人等事件の犯行時間帯と近接した時間帯に本件マンション付近で、原告に似た人物及び原告が当時使用していた車両と同色・同車種の車両が複数人により目撃されていた。 c 小括これらの事実からすれば、原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に本 件マンションに立ち 、原告に似た人物及び原告が当時使用していた車両と同色・同車種の車両が複数人により目撃されていた。 c 小括これらの事実からすれば、原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に本 件マンションに立ち入ったものと認められた。 (エ) 原告の本件殺人等事件以降の行動に不審な点があったこと原告は、本件殺人等事件の犯行時間帯に携帯電話の電源を切っていた。 さらに、原告は、本件殺人等事件の当日午後11時ころに帰宅し、それ以前と異なり長袖スウェットスーツで就寝するようになり、2週間程度 継続した。また、本件殺人等事件から4日後には、Aが原告の左上腕部に手でつかまれてできたような痣があるのを見つけ、その2日後には、本件殺人等事件の日に原告が着用していたシャツの両袖の肘から先に、水でぬれた後に手で絞って水気をきった時にできるような多数のしわができているのを確認した。さらに原告は、2日に1回は時間をかけて 浴槽につかる習慣があったのに、本件殺人等事件以降シャワーを浴びるにとどまるなど、原告の行動に不審な点が見受けられ、これらの点は、犯人の行動と考えて整合的なものであった。 (オ) 原告が警察で受けたポリグラフ検査において、捜査官と犯人しか知りえない遺体の状況や現場の状況などの事実を認識しているとの反応が 示されたこと原告は、警察で2度にわたり受けたポリグラフ検査において、捜査官と犯人しか知り得ない遺体の状況や現場状況などの事実を認識しているとの反応を示していた。上記検査結果は、原告が犯人であることを示すものと考えられた。 (カ) 原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められたこと 原告は、Cに対し、一方的な好意を抱き、これを伝えるなどするも拒絶され、Cが原告方から逃げ出しBと生活していた際に、B (カ) 原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められたこと 原告は、Cに対し、一方的な好意を抱き、これを伝えるなどするも拒絶され、Cが原告方から逃げ出しBと生活していた際に、B方に赴き応対に出たCの態度に立腹し顔面を殴打することがあった。さらに原告は、Bの負っていた債務への対応について、所在を隠し借金の返済に対応しないBやCに対し怒りを募らせていた。このように原告には、Cに対し、 愛憎入り混じった憤りの感情を持っており、本件殺人等事件当日、原告がB夫婦の所在を突き止めようと現場付近を探し回り、本件マンションを探し当ててB方を訪れ、応対したCの何らかの態度等に激高し、同人を殺害したと考えて矛盾のない状況であった。 (キ) 原告の捜査段階における供述が信用することができないものであっ たこと捜査段階における原告の供述は、犯人性を検討する上で重要な本件殺人等事件の当日の行動について、合理的な理由なく変遷させているもので、信用することができないものであった。 ⑵ 争点2(検察官の公訴追行は、国賠法上違法か)について (原告の主張)公訴の提起が違法であることからすれば、差戻前第一審から、差戻後控訴審まで公判を追行したことも当然に国賠法上違法である。 この点を措くとしても、上告審判決からすれば、検察官は、差戻後第一審において、本件吸い殻から本件殺人等事件当日に本件マンションに赴いた事 実が推認できる証拠を新たに提出した上に、その事実及び差戻前第一審が認定した間接事実に加えて原告が本件居室に侵入した犯人であることを推認させる新たな証拠を提出しなければならなかった。 しかるところ、本件紛失資料の一部であるCの好んで吸っていたたばこと同じ銘柄のたばこは、既に紛失しており、DNA型鑑定により有罪 犯人であることを推認させる新たな証拠を提出しなければならなかった。 しかるところ、本件紛失資料の一部であるCの好んで吸っていたたばこと同じ銘柄のたばこは、既に紛失しており、DNA型鑑定により有罪立証をす ることができないことは明らかであった。また、原告が本件居室に侵入した ことを証明する証拠は存在しなかった。 それにもかわらず検察官は、差戻後第一審を追行したのであり、差戻後第一審の公訴追行時にもはや到底有罪判決を期待し得ない状況において、職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と公訴を追行したと認められるような特段の事情があるといえるから、検察官の公訴追行は、国賠法上違 法と評価すべきである。 (被告国の主張)公訴提起が適法な場合、公訴追行の違法は、公判において嫌疑を否定する証拠が提出されたことにより、もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待しえない状況でありながら、漫然と公訴追行をしたと認められる ような特段の事情のある場合に限り認められるというべきである。前記⑴(被告の主張)のとおり、検察官の公訴提起に違法な点はなく、その後の公判経過等からしても、原告が犯人でないことが明らかとなったわけでもなく、証拠関係も公訴提起当時と大きな変化がなかった。本件殺人等事件の上告審判決において、本件灰皿から採取されたマルボロライトの吸い殻4個のDN A型鑑定の必要性を指摘され、差戻後第一審において、公判担当検察官は、上記DNA型鑑定が不可能であることを認識していたものの、上告審判決によれば原告が犯人でなかったとしたならば合理的に説明できない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係の存否につき、差戻前第一審及び差戻前控訴審においては有罪認定に用いられなかった、あるいはそもそ かったとしたならば合理的に説明できない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係の存否につき、差戻前第一審及び差戻前控訴審においては有罪認定に用いられなかった、あるいはそもそ も検察官が立証すらしていなかった新たな間接事実を含めた主張立証活動を尽くせば、有罪判決があり得る状況であった。したがって、検察官が上記主張立証を行うべく差戻後第一審においても公訴を追行維持したことも国賠法上違法と評価されるものではない。 ⑶ 争点3(警察官の本件紛失資料の紛失について警察官及び検察官に国賠法 上の違法があったか)について (原告の主張)警察官又は検察官において、その証拠等が審理において重要な証拠として利用されることを知り、あるいは容易にこれを予見することができた場合には、被告人は、その証拠を自身の刑事裁判で利用する利益を有しており、その反面、職務上の法的義務として、検察官は当該証拠の保管を指示する義務 (刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)193条)を負い、警察官は、当該証拠を保管する義務を負う。 本件紛失資料は、警察官においても、現場から採取したという意味で価値があるとの認識があった。さらに、前記⑴(原告の主張)イのとおり、本件吸い殻が本件殺人等事件より相当前にCによって投棄されたものである可 能性について捜査を尽くす必要があったのであり、本件紛失資料は重要な証拠であった。したがって、警察官及び検察官は、紛失時当時すでに、本件紛失資料が審理において重要な証拠として利用される可能性があることを知り、あるいは容易にこれを予見することができた。 それにもかかわらず、検察官は、証拠を紛失しないよう指示する義務を怠 り、警察官は、本件紛失資料を紛失したのであって、警察官及び検察官の行為は国 あるいは容易にこれを予見することができた。 それにもかかわらず、検察官は、証拠を紛失しないよう指示する義務を怠 り、警察官は、本件紛失資料を紛失したのであって、警察官及び検察官の行為は国賠法上違法である。 なお、被告国は、検察官は、警察官が適切に保管するものと信頼すれば足りる旨主張するが、警察官が、本件紛失資料について、証拠物でなく、採取資料にすぎないため保管義務がないかのような認識を有していたことから すれば、検察官においては、このような認識を放置せず、警察官に対し、本件紛失資料(吸い殻)の厳重な保管を命じるべきであった。 (被告府の主張)本件紛失資料は、現場から採取した採取資料にすぎず、証拠品ではなかった。このような採取資料のうち、無価値と考えられる資料をいつ廃棄するか は、その必要性を考慮した上で、捜査担当者の判断に委ねられているといえ、 廃棄したことが直ちに違法となるとはいえない。本件についていえば、DNA型鑑定が終わった本件吸い殻は既に証拠品となっており、本件紛失資料については、当時鑑定する必要が顕在化していなかったことからすれば、保管すべき職務上の注意義務があったということができない。 仮に、本件紛失資料を保管すべき注意義務が認められるとしても、本件紛 失資料によって本件殺人等事件について有効な情報が得られる可能性はほとんどなかったのであり、これによって公訴提起や公訴追行に影響があったとはいえないから、原告の主張する注意義務違反と原告の身体拘束による損害との間の因果関係も存在しない。 (被告国の主張) 本件紛失資料については、少なくとも差戻前第一審の時点では、本件殺人等事件とは関連性のない現場資料と認識されていたため、鑑定等は実施されず、また実施する予定もなく、証拠 (被告国の主張) 本件紛失資料については、少なくとも差戻前第一審の時点では、本件殺人等事件とは関連性のない現場資料と認識されていたため、鑑定等は実施されず、また実施する予定もなく、証拠品として、検察官に送致されていなかった。 したがって、本件紛失資料が本件殺人等事件の審理において重要な証拠と して利用される可能性は、一般的・抽象的なものにとどまっていたというべきであるから、原告の主張は、前提を誤っている。 また、刑訴法193条は、検察官に司法警察職員に対する一般的指示、一般的指揮及び具体的指揮の権限を付与したものであり、個別の国民に対して負担する法的義務として、指示ないし指揮の義務を定めたものではないし、 司法警察職員が捜査権限に基づいて領置した証拠品及び現場採取資料については、当該証拠品及び現場採取資料が証拠品として検察官に送致されるまでは、特段の指示をするまでもなく、犯罪捜査規範79条及び111条に基づき、警察の責任において、適切に保管されるべきものであり、検察官においては、これがされるものと信頼すれば足りる。 したがって、仮に本件紛失資料が別件刑事訴訟の審理において重要な証拠 として利用される具体的可能性があったとしても、検察官が、警察官に対し、証拠品として検察官に送致もされていない警察署に保管中の本件紛失資料を厳重に保管するように殊更に指示しなかったことが検察官の職務上の法的義務違反と評価される余地はない。 ⑷ 争点4(公判担当検察官が本件紛失資料の紛失の事実を弁護人に伝えなか ったことは、国賠法上違法か)について(原告の主張)刑訴法1条及び検察庁法4条からすれば、検察官は、公益の代表者として、被告人に有利な証拠・情報を法廷に顕出することを怠ってはならない義務を負っ たことは、国賠法上違法か)について(原告の主張)刑訴法1条及び検察庁法4条からすれば、検察官は、公益の代表者として、被告人に有利な証拠・情報を法廷に顕出することを怠ってはならない義務を負っているというべきである。そして、結果に影響を及ぼす可能性が明白で あるとまではいえないものについても、被告人から、具体的に開示を請求する証拠が特定された証拠開示の申立てがあったような場合には、その重要性の程度、証拠を開示することによって生じる弊害の内容及び程度に照らし、開示をしない合理的理由がない場合には、検察官はその証拠・情報の開示義務を負う。この際、情報については、正確に伝える必要があり、存在するも のを不存在であるよう受け取られる表現を用いて偽ったり、不存在であるものを存在するよう受け取られる表現を用いて偽ったりしてはならないというべきである。 本件紛失資料の紛失の事実は、仮に差戻前第一審時に明らかになっていれば、刑事裁判の帰趨そのものに影響を与えたといえ、弁護方針を大きく左右 し、裁判所の判断も左右する重要な事実であった。そして、原告の当時の弁護人は、本件紛失資料について、証拠開示を申し出ていたところ、差戻前第一審の公判担当検察官であるG検事(以下「G検事」という。)は、本件紛失資料の情報について、「開示に応じる理由がないから開示しない。」、「開示しない」と回答して、あたかも同資料が存在するかのように受け取られる表現 を用いて、同資料が不存在ではないかのように偽った。 以上のように、G検事は、情報を正確に伝えず、虚偽を述べて原告の公正な裁判を受ける権利及び十分な防御を行う権利を侵害したものであるから、G検事の行為は、国賠法上違法である。 (被告国の主張)差戻前第一審当時の刑事訴訟法の下では、検 ず、虚偽を述べて原告の公正な裁判を受ける権利及び十分な防御を行う権利を侵害したものであるから、G検事の行為は、国賠法上違法である。 (被告国の主張)差戻前第一審当時の刑事訴訟法の下では、検察官が証拠請求することを予 定していない証拠ないし情報の開示を検察官に義務付けた規定はなかった上、検察官が証拠請求することを予定していない証拠については、たとえ被告人からみて有利と解し得るものであったとしても、当然に検察官が証拠開示義務を負うというわけではなく、弁護人から具体的必要性を示して一定の証拠を弁護人に閲覧させるように検察官に命ぜられたい旨の申出がされた 場合において、裁判所がその訴訟指揮権に基づき、検察官に対し、その所持する証拠を弁護人に閲覧させるように命ずることによって初めて検察官が証拠開示義務を負うことになると解されていたものであり、被告人からみて有利と解し得る情報についても同様に解される。 したがって、少なくとも差戻前第一審当時において、検察官による証拠な いし情報の不開示が国賠法上違法と評価されるのは、弁護人から具体的必要性を示して、当該証拠ないし情報を開示するように検察官に命ぜられたい旨の申出がされた場合において、裁判所が、その訴訟指揮権に基づき、検察官に対し、当該証拠ないし情報を弁護人に開示するように命じ、検察官がこれを開示すべき義務を負うことになったにもかかわらず、検察官がその義務に 違反した場合に限られる。 しかるところ、差戻前第一審において弁護人は、原告の犯人性を裏付けるものとして検察官が主張する複数の間接事実について、「争う。」と述べるのみで、具体的にどのような事実関係及び証拠評価を争うのか等について一切明らかにしておらず、証拠開示申出についても、それによって弁護人が立証 し する複数の間接事実について、「争う。」と述べるのみで、具体的にどのような事実関係及び証拠評価を争うのか等について一切明らかにしておらず、証拠開示申出についても、それによって弁護人が立証 しようとする事実や、これらの証拠を開示すべき具体的必要性は一切示され ていなかった。また、弁護人は、本件吸い殻に付着していた唾液の血液型及びDNA型が原告のものと一致したことについて、これを「争う。」としながら、その趣旨を明らかにせず、各証拠開示申出に対し、G検事が「開示に応じる理由がない。」「証拠を開示する具体的必要性が挙げられていない。」として開示を拒否した後も、開示すべき具体的必要性を示して開示の要請がされ ることもなかった。 上記のような差戻前第一審の公判経過に照らせば、G検事が各証拠開示申出に係る証拠資料を開示すべき刑訴法上の義務を負っていなかったことは明らかであるから、当該証拠の存否に関わらず、各証拠開示申出に対して応じる法的義務はなかった。 しかも、各証拠開示申出は、本件マンション敷地内から発見されたすべてのたばこの吸い殻に関する、検察官請求証拠以外の鑑定嘱託書、鑑定書その他一切の証拠資料を対象としたものであり、開示要請の対象となる証拠資料の範囲が十分に特定されておらず、その例示された証拠資料も、鑑定嘱託書、鑑定書という証拠書類のみであったことから、本件マンション敷地内から発 見されたすべてのたばこの吸い殻自体が、「その他一切の証拠資料」に含まれる趣旨であると理解することはできなかった。 以上のとおり、G検事は、各証拠開示申出に応ずる法的義務はなく、各証拠開示申出も、十分特定されておらず、本件マンション敷地内から発見された全てのたばこの吸い殻自体を対象とすると理解することもできなかった こ 検事は、各証拠開示申出に応ずる法的義務はなく、各証拠開示申出も、十分特定されておらず、本件マンション敷地内から発見された全てのたばこの吸い殻自体を対象とすると理解することもできなかった ことからすれば、G検事が、各証拠開示申出の対象となり得る個々の証拠の存否に言及することなく、「開示に応じる理由がない。」あるいは「証拠開示すべき具体的必要性が挙げられていない。」との理由で「開示しない」と回答したことが国賠法上違法と評価される余地はない。 ⑸ 争点5(原告の損害)について (原告の主張) ア身体拘束期間中の逸失利益 2364万0041円イ釈放後の逸失利益 2195万4820円ウ宿舎費・延滞料 128万0831円エ退職手当 1070万7090円オ掛金等の納付ができなかったことの慰謝料 1200万円 カ離婚を余儀なくされたことの慰謝料 300万円キ刑事事件の弁護士費用 2800万1938円ク身体拘束に係る慰謝料 6096万6000円ケ釈放後の慰謝料 914万円コ刑事補償の控除(損益相殺) 4260万円 サ無罪費用補償の控除(損益相殺) 1599万1646円シ弁護士費用 1200万円ス合計(アないしケ、シの合計からコ、サを控除)1億2409万9074円(被告らの主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(検察官の本件公訴提起は、国賠法上違法か)について⑴ 公訴提起の違法性判断基準につい 1億2409万9074円(被告らの主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(検察官の本件公訴提起は、国賠法上違法か)について⑴ 公訴提起の違法性判断基準についてア国賠法1条1項の「違法」について 国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって、公務員による公権力の行使が国賠法上違法といえるためには、単に当該行為が法に違背するというだけでは足りず、 当該公務員の公権力の行使が個別の国民に対して負う職務上の法的義務 に違背したかどうかにより判断されなければならない。換言すれば、当該公務員が具体的状況の下において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為を行ったと認め得るような事情がある場合に限り、違法との評価を受けるものと解するべきである(最高裁平成5年3月11日第1小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。 イ公訴提起の違法の判断基準について公訴の提起は、身体の自由等の刑事裁判手続における手続的負担や、社会生活上の不利益等の重大な不利益を被告人に対して強いるものであるから、検察官は、適正な捜査を尽くした上で、当該被告人が有罪と認められる嫌疑がない場合には、公訴を提起してはならない職務上の注意義務を 負っていると解される。 他方、公訴の提起は、検察官が裁判所に対し、犯罪の成否、刑罰権の存否について審判を求める意思表示にすぎず、公訴の提起時における検察官の心証はその性質上、判決時における裁判官の心証と異なることは明らかであるから、刑事裁判において無罪の判決が確 罪の成否、刑罰権の存否について審判を求める意思表示にすぎず、公訴の提起時における検察官の心証はその性質上、判決時における裁判官の心証と異なることは明らかであるから、刑事裁判において無罪の判決が確定したというだけで直ちに 当該公訴の提起を違法と評価することはできず、公訴提起時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により被告人を有罪と認めることができる嫌疑があれば、公訴の提起は違法性を欠くと解するのが相当である(最高裁昭和53年10月20日第2小法廷判決・民集32 巻7号1367頁参照)。 さらに、検察官は、公益の代表者として、刑事事件について公訴を提起して、裁判所に判断を求めることにより国家の刑罰権を適正に実現することをも職責としていること、上記のような嫌疑の存否に係る判断は、客観的、一義的に定まるものではなく、論理則、経験則の許容する範囲内で個 人差が生ずるものであることに加え、前記のとおり、国賠法上の違法性は、 公務員の職務上の注意義務違反を本質とすることからすると、事後的に見て、公訴提起時において嫌疑が存在しないと判断される場合であるからといって、直ちに当該公訴提起を違法と評価することはできず、上記嫌疑が存在するとした検察官の判断が不合理であり、上記のような個人差を考慮してもなお合理性を肯定することができない程度に達している場合に初 めて公訴提起の国賠法上の違法性(検察官の職務上の注意義務違反)を肯定することができるというべきである。 ウ原告の主張についてこれに対し、原告は、検察官が公訴を提起するにあたって、要求される犯罪の嫌疑の程度は、有罪判決に要求されるのと同程度の合理的な疑いを べきである。 ウ原告の主張についてこれに対し、原告は、検察官が公訴を提起するにあたって、要求される犯罪の嫌疑の程度は、有罪判決に要求されるのと同程度の合理的な疑いを 容れない程度の確信が必要であると主張するが、前記のとおり、公訴の提起時における検察官の心証はその性質上、判決時における裁判官の心証と異なることは明らかであるし、上記嫌疑の存否に係る判断が、事後的にした裁判所の判断と異なることをもって直ちに職務上の注意義務違反を認めることはできないから、原告の上記主張は採用することができない。 なお、原告は、警察官及び検察官による証拠収集の過誤が誤った公訴の提起につながった場合も公訴提起が違法となる旨主張する。上記主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、前記のとおり、公訴提起の国賠法上の違法は、飽くまで公訴を提起した検察官の職務上の注意義務違反を本質とするものであるから、上記証拠収集の過誤をもって直ちに公訴提起の違法性 を肯定すべきとの主張であるならば、これを採用することはできない。上記証拠収集の過誤については、検察官のした公訴提起の違法性の判断において、現に収集した証拠資料のみならず、通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料をも総合勘案して、検察官の判断の合理性を判断することにより考慮されるべきである。 ⑵ 公訴提起時において現に収集された証拠資料について ア本件居室についての捜査(ア) 本件殺人等事件の覚知大阪府平野警察署は、平成14年4月14日午後9時53分頃、消防からの通報により本件マンションにおける出火事案を認知した。その後の初動捜査により、本件を殺人並びに現住建造物等放火事件であると判 断し、捜査本部を設置した。 (イ) 本件現場におけ 頃、消防からの通報により本件マンションにおける出火事案を認知した。その後の初動捜査により、本件を殺人並びに現住建造物等放火事件であると判 断し、捜査本部を設置した。 (イ) 本件現場における実況見分及び検証(甲1、乙3、4、84、90~103、119)平成14年4月14日午後10時30分頃から、同月20日午後8時10分までの間に、本件の現場周辺、マンション敷地内、室内において、 実況見分及び検証が行われた。この際、以下のとおり本件吸い殻及び本件紛失資料を含む1200点を超える資料が収集された。また、この実況見分及び検証並びに公訴提起までにされた捜査によって、本件居室について以下の事実が認められた。 a 本件居室の状況について 本件マンションは、鉄筋コンクリート造4階建で、合計39戸からなるマンションであり、本件居室は、3階に位置していた。本件居室の概要は、別紙3被疑事件見取図のとおりであり、いわゆる2Kの間取りとなっている。本件居室北側は、玄関に面した台所及びその西側に浴室、便所であり、その南側には6畳間(東側)と4.5畳間(西 側)が東西に並んでおり(以下、特記しない限り台所、浴室、便所、6畳間、4.5畳間は本件居室のものをいう。)、これらの2つの部屋がベランダに面していた。(乙3)(a) 6畳間の状況6畳間には、東側壁際に整理ダンスや、洋タンス等が並べられ、 北側に台所との間を仕切るようにソファーが置かれていた。前記整 理ダンスは、それぞれ6段の大引き出しと小引き出しが並んだものであるところ、大引き出しの下から3段目までと小引き出しの全てが手前に引き出された状態となっていた。床からは、「CABIN」のロゴの入った黒色の携帯灰皿が発見された。同灰皿には、吸い殻3本が在中し、 あるところ、大引き出しの下から3段目までと小引き出しの全てが手前に引き出された状態となっていた。床からは、「CABIN」のロゴの入った黒色の携帯灰皿が発見された。同灰皿には、吸い殻3本が在中し、2本がホープライト、1本がマルボロライトであっ た。(乙3、84、85)また、ベランダへと通じるアルミサッシ引き戸は、焼損により断裂し、ベランダ側に倒れ掛かっており、引き戸につけられたクレセント錠は、前記引き戸から外れていたものの、湾曲部が下方にある状態(施錠されていたと考えても矛盾のない状態)にあった。(乙9 1、94、99~101)Cは、北側ソファーの足元で、前記整理ダンスの方向(東側)に頭を向けて、下半身は下着だけを着け、衣類の上で倒れた状態で死亡していた。床に散乱した衣類からは、サラダ油が検出された。(乙3、13~18) (b) 玄関及び台所の状況玄関の玄関扉は、鉄製であり、本件殺人等事件発生当日に消防隊員が到着した際には、施錠されていたが、ドアチェーンの先端は受け金に掛けられた状態(チェーンロックがかかっていない状態)であった。また、玄関扉外側の鍵穴に目立った傷は存在しなかった。 (乙3、90)台所には、東側壁際に食器棚や3段ラックが設置されているところ、これらの扉や引き出しは開放されており、同ラック上の電子レンジや炊飯器の蓋も開放状態にあった。また、前記3段ラック上には、使い捨てライター14個と青白ツートンカラーの携帯灰皿が置 かれた木の盆が置かれていた。(乙3、84) (c) 浴室の状況浴室の浴槽内には、浴槽上面から8センチメートルの位置まで水が貯められており、浴槽内にDが頭を北に向けて顔を水中に沈めたうつ伏せの状態で浮かんで死亡していた。(乙3)(d) 便 浴室の状況浴室の浴槽内には、浴槽上面から8センチメートルの位置まで水が貯められており、浴槽内にDが頭を北に向けて顔を水中に沈めたうつ伏せの状態で浮かんで死亡していた。(乙3)(d) 便所の状況 床面では、Cが飼っていた犬2匹が死亡していた。(乙3)(e) 4.5畳間4.5畳間からベランダへと通じるアルミサッシ引き戸は、クレセント錠により施錠されていた。(乙102、103)b 本件居室から収集された物品について 6畳間からは、ネックレス、首輪、腕時計のベルト、ペンダントトップ、swatch製腕時計が発見・収集され、4.5畳間からは、ポイントカード等在中のグッチ製二つ折り財布、ノートパソコン、ケース入りネックレス、指輪、硬貨96円在中のキャッシュケース等が発見・収集された。(乙3、120、121) イ本件吸い殻についての捜査(ア) 本件吸い殻及び本件紛失資料の採取状況について本件灰皿は、本件マンション西側階段の1階と2階の間の踊り場に設置されており、上皿にはチラシが捨てられていたほか、内部にはレシートや名刺、ごみ類などと共に、本件吸い殻及び本件紛失資料を含む吸い 殻72本等が存在した。警察官は、本件灰皿内の物品をいずれも採取し、大阪府警本部へ持ち帰った。その後、前記物品は、平野警察署に設置された捜査本部内において保管されていた。(乙3、4、123、132)(イ) 本件吸い殻の形状本件吸い殻は、長さ約3.1センチメートルであり、全体的に丸い形 状を保っており、折れ曲がりもなかった。また、本件灰皿において採取 された吸い殻のうちの多くと比して吸い口及び先端部分付近が顕著に変色しており、その他の部分も中央の一部を除いて全体的に褐色に変色していたが、灰の付着 りもなかった。また、本件灰皿において採取 された吸い殻のうちの多くと比して吸い口及び先端部分付近が顕著に変色しており、その他の部分も中央の一部を除いて全体的に褐色に変色していたが、灰の付着は認められなかった。また、本件吸い殻についてDNA鑑定が行われた平成14年6月3日から7月9日の時点における本件吸い殻は、中央部分について変色が進んでおり、前記鑑定の結果、 本件吸い殻の吸口部に付着していた唾液のDNA型は、原告のものと一致した。(乙3、6、7、61、123)(ウ) 本件灰皿の清掃状況本件吸い殻が発見された本件灰皿は、本件マンションの管理人により、不定期な清掃がされているにすぎず、本件殺人等事件の発生前において は、数か月以上清掃されていなかった。(乙81~83)(エ) 携帯灰皿についてCの実家の親族は、Cが外出時にたばこを吸うことはあまり多くなく、携帯灰皿は持っていないと思う、また、Cの親族がCに携帯灰皿を交付したことはない旨供述した(乙111)。 Bは、警察官に対し、Cは、平成14年4月10日までマルボロライトを吸っていたが、同日以降ケントスーパーロングを吸っていること、本件居室から発見された黒色の携帯灰皿は、誰にもらったものか覚えていないものの、本件居室にあったものと思うこと、白色の携帯灰皿については、平成11年に旅行に行った際にAにもらったこと、前記ア(イ)a (a)の黒色の携帯灰皿内にあったホープライトはAが吸っているたばこの銘柄であることを供述した(乙113~115)。 Aは、警察官に対し、3年ほど前の旅行の際、Cに自宅にあった白っぽい色のセーラムの携帯灰皿を貸したものの、Cから返されていなかった旨を供述した(乙117)。 ウ原告及び原告車両に類似する車両 、警察官に対し、3年ほど前の旅行の際、Cに自宅にあった白っぽい色のセーラムの携帯灰皿を貸したものの、Cから返されていなかった旨を供述した(乙117)。 ウ原告及び原告車両に類似する車両の目撃者についての捜査 原告は、後記キにおいて、同人も認めているとおり、平成14年4月14日午後、本件マンション周辺を白色のホンダストリームで訪れていた。 (ア) 原告車両と同車種、同色の車両の目撃情報についてHは、本件殺人等事件後にされた警察官の聞き込みに対し、平成14年4月14日午後3時45分頃、本件マンションの近くの商店横に白色 のホンダストリームが駐車されている状況を目撃したこと、及び同日はHが杭全神社に行った日であり、Hは同僚とホンダストリームについて車談義をする仲であったことから、駐車されている上記ホンダストリームの近くに寄って確認したこと等を供述し、その後、警察官及び検察官に対し、再び同旨の供述をした。(乙28の2、乙29) Iは、平成14年6月7日、警察官から本件マンションで火事があった時、近くでホンダストリームを見なかったか尋ねられ、同年4月14日午後5時頃、本件マンションから北側に100メートルほどの距離にある前記商店にパールホワイト色のホンダストリームが駐車されている状況を目撃したこと、仕事中に時間を見ていたところ、勤務先の社長 からたばこを買ってくるよう指示され、上記ホンダストリームが駐車されている近くの自動販売機に向かい、その際同車の車種が気になったことから、車の後ろに回りホンダストリームと確認したこと等を供述し、検察官に対しても、同旨の供述をした。(乙30)Jは、本件殺人等事件後にされた警察官の聞き込みに対し、平成14 年4月14日午後8時頃、本件マンション近くの前 ムと確認したこと等を供述し、検察官に対しても、同旨の供述をした。(乙30)Jは、本件殺人等事件後にされた警察官の聞き込みに対し、平成14 年4月14日午後8時頃、本件マンション近くの前記商店前に白色のホンダストリームが駐車していたこと、これを見て、同人の妻と車種について会話をしたこと、その際に時間を確認したこと等を供述し、検察官に対しても、同旨の供述をし、Jの妻のKも、検察官に対し、同日、本件マンション近くの商店前に白色のホンダストリームが駐車している のを目撃した旨供述した。(乙32、33) (イ) 原告と似た人物の目撃情報についてLは、平成14年5月18日及び同月20日、警察官から同年4月14日の本件殺人等事件に関し聞き込みを受け、警察官が持参した写真面割台帳を見た際、その中から原告の写真を示し、同日午後3時過ぎ頃に本件マンションから直線距離で約80メートルの位置にあるMで、この 写真によく似た人物を見た旨供述し、その後、警察官及び検察官に対しても、同日午後3時半頃、上記Mからベビーカーを押して出ようとした際に、原告に似た風貌の男性の近くを通り、顔を目撃したこと、その際、怖いという印象を受けたこと等を供述した。 (甲1、乙23、24、26)エ原告の動機となるべき事情についての捜査 本件殺人等事件発生前の原告とCとのやりとりについてAないしBは、警察官ないし検察官に対し、以下のとおり供述しており(乙44、47、49~51、53)、同供述を裏付けるメモ等(乙47、48)も存在していた。 原告は、平成13年7月頃、BがC以外の複数の女性と付き合い、これ らの女性から多額の借金をしていることを知り、Bを叱ったが、Bとの間では、同人の借金や女性関係についてCに言わないという約束 原告は、平成13年7月頃、BがC以外の複数の女性と付き合い、これ らの女性から多額の借金をしていることを知り、Bを叱ったが、Bとの間では、同人の借金や女性関係についてCに言わないという約束をしていた。 しかし、原告は、平成13年9月末頃、突然上記約束を反故にし、これらの事実をCに告げた上、Bに対し、頭を冷やして全部清算するまでCとDを預かると言い出し、その頃から原告及びAは、C及びDと同居を開始す ることとなった。原告は、上記同居中、Cに対し、睡眠中の姿態を撮影する、首にキスをする、抱き付く等のセクハラ行為を行うと共に、愛の告白と受け取れるような内容のメールを送信する、Aと別れて結婚しようと言うなどしたほか、Aに対して、同人とは離婚してCと一緒になると言うなどし、Bに対しても、Cと別れるのが前提であるようなメールを送信する などしており、Cに対し異性として好意を寄せている様子を見せていた。 Aは、平成13年10月22日頃、Cから原告の上記のような言動について相談されたことから、B及びCと相談の上、同月24日、原告には内緒で、CとDをCの実家に戻し、その後、Cは、再びBと共に生活するようになった。 これを知った原告は、Bに対し、同人を中傷し脅迫する内容のメールを 送信するなどしており、原告からのメールを嫌ったCは、メールアドレスを変更した。 その後、原告は、Bらにほとんど連絡をしなくなったが、平成13年12月頃には、Bの借金の保証人となっていた原告に対し、債権者から請求があったこともあり、しきりにBやCと連絡をとろうとするようになった。 BとCは、これを無視して原告には一切連絡を取らなかった。そのような中、同月末頃、原告は、B方を訪問し、その際、Cが居留守を使い、ようやく応対に出た際に原告に対 をとろうとするようになった。 BとCは、これを無視して原告には一切連絡を取らなかった。そのような中、同月末頃、原告は、B方を訪問し、その際、Cが居留守を使い、ようやく応対に出た際に原告に対し「どちら様ですか」等と言ったことに立腹し、Cの顔面を殴打した。 BとCは、平成14年に入ってからも原告との接触を極力絶っており、 同年2月頃からは、債権者からの追及をかわすためにホテルを転々として逃げ回る生活となり、また、賃料の安い部屋への転居を検討するようになった。他方、原告は、同月頃以降、再びBの債権者から連絡を受ける等したことから、BとCの行方を追っていた。原告は、同月19日頃、Bらが転居を検討していることを手掛かりに大阪市平野区内の不動産屋を回っ ていたところ、不動産屋でCを発見し、それ以降、BやCと再び連絡が取れるようになった。 原告は、その後、Bの借金の関係もあり、BやCとしばしば連絡を取るようになったが、B及びCは、原告からの連絡を煩わしく感じて引っ越し先である本件マンションの所在は明かしておらず、平成14年3月14日 以降、再び原告との連絡を絶った。原告は、そのようなBやCの態度に怒 りを募らせ、その動向を追っていた。 オ本件殺人等事件発生の日の原告の言動について(ア) 本件殺人等事件発生の日(平成14年4月14日。以下この項において特に指摘しない限り、この日を指す。)の原告の言動について、Aは、検察官に対し、以下のとおり供述しており、原告も、警察官に対し、A とのやり取りについては、概ね同旨の供述をしていた(乙37、55)。 原告は、朝方、泉北にあるAを勤務先まで車で送迎し、Aが車を降りる際に、夕飯の支度をし、終業時間に上記勤務先まで迎えに行くと述べていた。 Aは、午後5時15 供述をしていた(乙37、55)。 原告は、朝方、泉北にあるAを勤務先まで車で送迎し、Aが車を降りる際に、夕飯の支度をし、終業時間に上記勤務先まで迎えに行くと述べていた。 Aは、午後5時15分頃、原告に対し、夕食の支度をお願いするメー ルを送信したが、原告からは、午後5時50分頃「ごめん迎えにいけませんまた連絡します」とのメールが送信されてきた。Aは、同メールを見て、日頃の原告のメールと比べれば簡素であったこと、Aが送信した夕食の支度をお願いするメールに対する明確な回答ではなかったことから、変だなと感じていた。Aは、午後7時40分頃、勤務先を退社 し、午後8時頃、帰宅途中のバスの中で原告に対し、「どうかしたぁ~」というタイトルで本文「今、バスに乗っています」とのメールを送信したが、同メールに対しても原告は返信しなかった。その後も、原告からAには、連絡はなく、午後10時頃、原告から電話があったが、「今、泉北や。今から帰る。」というのみであり、上記「どうかしたぁ~」と のメールに対する言及はなかった。 (イ) 上記のようなAと原告のやり取りからすると、Aが原告に上記各メールをした際には、原告が携帯電話の電源を切っていた事実が推認されたが、同事実は、本件公訴提起後の捜査により裏付けられている(乙35、36、38)。 カ本件殺人等事件発生後の原告の言動 本件殺人等事件発生後の原告の言動につき、Aは検察官に対し、以下のとおり供述した。 (ア) 原告宅での生活状況の変化当時の原告は、帰宅すればすぐにリビングで着替え、Tシャツとトランクス姿になりそのままの格好で就寝まで過ごすうえ、大食漢で、また 風呂も2日に1日は湯船に浸かっていた。しかし、本件殺人等事件の日は、午後11時頃の帰宅後 ぐにリビングで着替え、Tシャツとトランクス姿になりそのままの格好で就寝まで過ごすうえ、大食漢で、また 風呂も2日に1日は湯船に浸かっていた。しかし、本件殺人等事件の日は、午後11時頃の帰宅後すぐに洗面所に入り、長袖スウェットスーツに着替えており、疲れた旨を話し、出された夕食も残したまま、前記スウェットスーツのまま就寝した。以降、原告は、風呂に入ろうとせず、シャワーで過ごすようになった。(乙40) (イ) 原告の身体や本件殺人等事件当日の着衣平成14年4月18日又は19日に、Aは、洗面台の鏡に映った原告の左腕上腕部に人の指の形に紫色のあざが3本分付いているのを目撃した。また、Aは、本件殺人等事件の日に原告が着ていたデニムの長袖シャツが数日後リビングにかけてあったため、手に取ってみたところ、 両袖の肘から下の部分が濡れているのを絞って乾かしたような皺になっていた状態を目撃した。(乙40)(ウ) Cらの死亡に対する原告の対応原告は、本件殺人等事件について、平成14年4月15日午前7時15分から30分頃までの間に連絡を受け、午前9時頃勤務先を出たにも 関わらず(後記キ(エ))、午後3時30分頃に原告宅に帰宅するまでAに何ら連絡しなかった。原告は、同月16日及び17日に行われたC及びDの通夜・葬儀の際にも自身にアリバイがないことや本件殺人等事件の日の記憶がないことをしきりに話し、その後に行われた両名の法要が自宅で執り行われたにもかかわらず、7回のうち2回しか出席せず、出席 した法要でもCの悪口を言うなどしていた。(乙39) キ原告の供述等(ア) 本件殺人等事件当日の足取り等についてa 平成14年4月19日付け供述調書(乙55)原告は、同日、警察官に対し、以下のとおり供述した。 いた。(乙39) キ原告の供述等(ア) 本件殺人等事件当日の足取り等についてa 平成14年4月19日付け供述調書(乙55)原告は、同日、警察官に対し、以下のとおり供述した。 原告は、B及びCの転居先を具体的には知らなかったものの、長吉 長原のダイエーの近くに引っ越すと聞いていたこと、その近郊の不動産屋に契約に来ていたCと会っていたことから、その近辺に引っ越したものと考えていた。 本件殺人等事件の日は、原告の仕事が休みの日であり、原告は、代車として借りていた白色のホンダストリームを運転し、Aを泉北の勤 務先に送り、その後は、古市駅近くの酒屋で酒を購入し、富田林市内に移動し、昼食をとった。原告は、帰宅途中に同市内の交差点でカローラを目撃したところ、その運転手がBにそっくりであったため、上記カローラを追って泉北に向かったが、Bが見つからなかったことから、一度自宅に帰った。原告は、その後、明るいうちに再度Bを探す ために平野区に向かい、上記カローラを探し回った後、城東区関目を走り回り、平野区か城東区で、Aに迎えに行けない旨のメールを送信した。原告は、その後、再び泉北へ向かい、泉北に到着したころ、Aの携帯電話に電話をした。原告は、結局、上記カローラを見つけることはできず、午後11時過ぎころに帰宅した。 b 原告の引き当たり捜査の結果(甲1、乙21、56)原告は、平成14年4月27日、同人が本件殺人等事件当日、ホンダ白色ストリームを運転して平野区内を探し回った際、Bが住んでいるのではないかと考えて、同車両を降りて様子を見た建物や、その際に同車両を駐車した場所を、警察官と一緒に現場を回って探索したが、 本件マンション近くの自動販売機で、たばこを買って吸ったように思 う旨述 考えて、同車両を降りて様子を見た建物や、その際に同車両を駐車した場所を、警察官と一緒に現場を回って探索したが、 本件マンション近くの自動販売機で、たばこを買って吸ったように思 う旨述べた以外には一切具体的に特定することができなかった。 c 平成14年4月29日付け供述調書(乙56)原告は、同日、警察官に対し、本件殺人等事件等当日の足取りについて、前記aと同様の供述をしたが、平野区内での動きについて、日中に長吉長原及び長吉出戸をくまなく探したものの、時間帯について は覚えていないと述べた。 d 平成14年6月30日付け供述調書(乙59)原告は、同日、警察官に対し、本件殺人等事件の当日(平成14年4月14日)、本件マンションから北に100メートル位のところにある自動販売機が何台も置かれているところで、たばこを買ったが、 付近を歩いてBを探し回ったりはしておらず、同日を含め、それ以前に一度も本件マンションに立ち入っていないと述べた。また、本件殺人等事件当日における足取りについては、平野区に向かったところまでは、前記aと同様の説明をしたが、同日午後には、平野区長吉を探しており、城東区関目へ行っていない、夕方になり、Aを迎えに行け なかったものの、Bが無免許運転をしているのではないかと考えとことん探すことにした旨の供述をしていた。 e 平成14年8月17日付け供述調書(乙60)原告は、同日、警察官から、本件マンション内に原告のDNA型と一致する物があるが本件マンション内に入っているかとの質問され たのに対し、本件殺人等事件当日の午後5時前頃にB夫婦の姿がないか探すために本件マンションに入っているが、4階まで上がったかどうかははっきりしないと供述し、 ョン内に入っているかとの質問され たのに対し、本件殺人等事件当日の午後5時前頃にB夫婦の姿がないか探すために本件マンションに入っているが、4階まで上がったかどうかははっきりしないと供述し、同旨の記載がある供述調書に署名押印した。 f その後の取調べ(乙73~76) 原告は、上記eの取調べ翌日に自宅で自殺を図り、以降本件殺人等 事件についての公訴提起に至るまでの取調べにおいては、本件殺人等事件当日に本件マンションに入った事実を否認し、詳細については黙秘する対応をした。 (イ) 携帯灰皿について(乙59)原告は、平成14年6月30日、警察官に対し、白色ビニール製携帯 灰皿と白と金の金属製の携帯灰皿をそれほど昔ではない時期にCに貸したものの返却されないままとなっていた旨を供述した。 (ウ) 原告に実施したポリグラフ検査(乙41~43)原告につき、平成14年5月4日及び同年7月6日に、ポリグラフ検査が行われた。この際、原告は、犯人と捜査機関しか知りえない、前記 ア(イ)a(a)記載のCの遺体の向きや、同遺体の下に衣類が敷かれていた状態について実際の状況と符合する項目に対し反応を示していた。他方、駐車場所や台所にあった物については、実際の状況や、前記ウ(ア)の目撃者の証言と符合する項目でない項目に反応を示し、あるいはいずれにも反応を示さないこともあった。 ただし、上記各検査は、当初別件刑事訴訟の証拠として使用されることが予定されていなかったこともあり、平野警察署の取調室において行われ、特に外界からの影響を遮断する工夫が施されておらず、また、1つの質問に対して2つの裁決項目が設定されるという不適切な状況となっている部分も存在した(甲1)。 (エ) 本件殺 おいて行われ、特に外界からの影響を遮断する工夫が施されておらず、また、1つの質問に対して2つの裁決項目が設定されるという不適切な状況となっている部分も存在した(甲1)。 (エ) 本件殺人等事件の翌日の原告の行動について原告は、平成14年5月12日、警察官に対し、本件殺人等事件の翌日の行動について以下のとおり供述した(乙65)。 原告は、平成14年4月15日午前7時頃に勤務先に出勤し、午前7時15分から30分頃までの間に、勤務先から弟に電話をかけ、本件殺 人等事件について聞かされた。原告は、交代の人員の準備ができた同日 午前9時頃に大阪市平野区にある弟宅に向かい、通常であれば1時間くらいで到着する距離であったが、弟宅についたのは午前11時頃であった。その後、原告は、午後1時頃、本件殺人等事件についてAに伝えるために弟宅から自宅に向かったが、途中止まって涙を流すなど、かなり時間をかけて帰宅し、Aに本件殺人等事件について告げた。 なお、帰宅時刻については、Aは、同日午後3時半ごろであったと供述している(前記カ(ウ))。 クアリバイ捜査について(乙20、110)本件マンションの住人の他、Cと近しい間柄にある者である、Cの夫(B)、Cの実母、原告、Bの実母(A)、Bの債権者、Bの友人、Bの元愛人ら 関係者のアリバイ捜査の結果、原告についてのみ本件殺人等事件当時のアリバイが認められなかった。 ⑶ 検討本件公訴提起時において、現に収集された証拠資料は、前記⑵に認定したとおりであるところ、被告国は、前記証拠資料からすると、前記第2の4⑴ (被告国の主張)イ(イ)から(キ)までのとおり判断することが可能であり、これら証拠により認定することができる間接事実を総合評価して判 ところ、被告国は、前記証拠資料からすると、前記第2の4⑴ (被告国の主張)イ(イ)から(キ)までのとおり判断することが可能であり、これら証拠により認定することができる間接事実を総合評価して判断すれば、原告が犯人であるとの検察官の判断は、不合理とはいえない旨主張するので、以下、順に検討していく。 ア犯人がCと近しい関係にあったと推認することができ、Cの親戚や知人 等の中で、アリバイが認められなかったのが原告だけであったことについて本件居室の玄関扉外側の鍵穴に目立った傷は存在せず、ドアチェーンの先端は受け金にかけられ、ロックがかかっていない状態であったこと、ベランダへと通ずる6畳間のアルミサッシ引き戸に付けられたクレセント 錠は、湾曲部が下方にある状態(施錠されていたと考えても矛盾のない状 態)であったこと、4.5畳間のアルミサッシ引き戸が施錠されていたこと(⑵ア(イ)a(a)、(b)、(e))からすると、犯人は、Cが開錠した玄関から本件居室に立ち入ったと推認することが合理的である。また、犯人は、Cに加え、幼年のDを殺害するとともに本件居室に放火して罪証の隠滅を図ったものであり、放火に当たっては、床に散乱させた衣類にサラダ油を まいている(⑵ア(イ)a(a)、(c))など、罪証隠滅の方法も念入りであるということができることからすれば、Cと近しい関係にあると推認することには、一応の合理性が認められるということができる。そして、Cの関係者の中で、本件殺人等事件当時のアリバイがないのは原告のみであった(⑵ク)。なお、原告は、捜査機関のアリバイに関する捜査が不十分であ ったため、原告以外にもアリバイがない者がいた旨主張するが、前記の証拠を見ると、本件マンションに住む住人を含め、原告以外の関係者は )。なお、原告は、捜査機関のアリバイに関する捜査が不十分であ ったため、原告以外にもアリバイがない者がいた旨主張するが、前記の証拠を見ると、本件マンションに住む住人を含め、原告以外の関係者は、一応客観的かつ合理的なアリバイがあったと認められるから、原告の上記主張は採用することができない。 これに対し、原告は、犯人の目的が金品窃取目的や、Cに対するわいせ つ目的であった可能性もあり、犯人がCに近しい人物に限られないと主張する。確かに、Cの遺体の下半身が下着しか着けておらず、また本件居室内の整理ダンス等に物色の跡があること(⑵ア(イ)a(a)、(b))は、性犯罪目的又は金品窃取目的での犯行をうかがわせる事情ということができる。 しかし、本件居室からCのブランド物の財布や、宝飾類が発見されている こと(⑵ア(イ)b)、Cの遺体の状況も、それのみでは性犯罪目的を強く推認させるとまではいえないこと、本件居室において、前記整理ダンスばかりでなく、台所の食器棚や電子レンジや炊飯器の蓋までも開放されており(⑵ア(イ)a(b))、犯人が金品窃取目的であったとすると不自然であること等からすると、上記各状況は、犯人による偽装工作の一部とも見ることに も一定の合理性があるといえる。 以上によれば、検察官が、本件公訴提起当時、犯人がCと近しい関係にあると考えられ、そのような関係者の中でアリバイが認められなかったのは原告だけであったと判断することには一定の合理性が認められるというべきであり、これに反する上記原告の主張は、抽象的に第三者の犯行可能性が残っていたことをいうにとどまるものであり、上記判断を左右しな い。 イ原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に犯行現場付近におり、本件マンションに立ち入ったことについて 的に第三者の犯行可能性が残っていたことをいうにとどまるものであり、上記判断を左右しな い。 イ原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に犯行現場付近におり、本件マンションに立ち入ったことについて(ア) 本件吸い殻についてa 現に収集された証拠資料により推認される事実について 本件マンション西階段の本件灰皿から採取された本件吸い殻に付着していた唾液のDNA型が原告のものと一致していたこと(⑵イ(ア)、(イ))、からすれば、原告が本件マンションに立ち入ったと推認することが合理的である。 b 本件吸い殻がCにより投棄された可能性について これに対し、原告は、本件吸い殻の変色等の事実からすれば、本件吸い殻が本件殺人等事件より相当前にCによって投棄されたものであるという反対仮説を排除することはできないのであり、上記推認は不合理である旨主張する。 この点、本件吸い殻は、本件灰皿において採取されたうちの多くの 吸い殻と比較して特に吸口部及び先端付近の変色が進んでいるということができ(⑵イ(イ))、このような変色が生じる原因の一つとして、時間の経過を指摘することができる。よって、本件吸い殻の状況に照らすと、本件公訴提起以前の段階から、本件吸い殻が、本件殺人等事件等よりも相当期間前に本件灰皿に投棄された可能性も考えられる 状況にあったということができる。さらに、警察官及び検察官は、遅 くとも本件公訴提起時点までに、AがCに対し貸したままの携帯灰皿があったこと、これと同種の携帯灰皿が本件居室から発見されておりAのものである可能性のある吸い殻が入っていたこと、Cが本件マンションに転居してから本件殺人等事件の発生までの間に本件灰皿が清掃されたことがなかったこと(⑵イ(ウ)、(エ 本件居室から発見されておりAのものである可能性のある吸い殻が入っていたこと、Cが本件マンションに転居してから本件殺人等事件の発生までの間に本件灰皿が清掃されたことがなかったこと(⑵イ(ウ)、(エ))を認識していた。 これらの事実を踏まえると、検察官は、本件公訴提起時に収集していた証拠資料に基づき、Cにより、携帯灰皿内にあった本件吸い殻が、本件マンション内の灰皿(本件灰皿)に投棄された可能性を認識することが可能な状況であったということができる。 他方、本件吸い殻は、丸い形状を保っており、灰の付着等による汚 染は確認されていない(⑵イ(イ))のであって、同事実は、本件吸い殻が携帯灰皿内に残置された状況とは不整合といえ、本件吸い殻が携帯灰皿を経由して本件灰皿に投棄されたとは考えにくいというべきである。また、本件灰皿の清掃が長期間行われていなかったこと(⑵イ(ウ))からすると、本件灰皿内から発見された他の吸い殻についても、 その多くは投棄から相当期間が経過しているものと考えられるにもかかわらず、吸い口の部分や中央部分が変色しているものは僅かしか存在しない(乙123)のであって、本件吸い殻の変色の原因が時間の経過であるとすることには疑問があるといわざるを得ない。 また、本件居室で発見された「キャビン」ロゴの携帯灰皿には、種 類の異なる吸い殻が入っており、うち2本はAの好んで吸っていた銘柄と一致し、うち1本はCの好んで吸っていた銘柄と一致するところ(⑵ア(イ)a(a)、イ(エ))、Aの吸い殻のみを残して原告の吸い殻だけを本件灰皿へ投棄する理由は見出し難いから、上記ロゴの携帯灰皿から本件吸い殻が廃棄されたとは考え難い。同じく本件居室で発見され た青白ツートンカラーの携帯灰皿(⑵ア(イ)a(b))は、 殻だけを本件灰皿へ投棄する理由は見出し難いから、上記ロゴの携帯灰皿から本件吸い殻が廃棄されたとは考え難い。同じく本件居室で発見され た青白ツートンカラーの携帯灰皿(⑵ア(イ)a(b))は、弁論の全趣旨 からすれば、A及びBが白色の携帯灰皿として供述する灰皿と思われ、本件殺人等事件から3年前頃にCの手元に渡っているところ(⑵イ(エ))、Cが、本件殺人等事件の3か月前に転居するまでその中身の吸い殻も含めて保持しつつ、転居後になって初めて本件マンションの共用部分の本件灰皿へ中身の吸い殻を投棄するという行動に出る合理 的理由もなく、これにCが携帯灰皿を持って外出することはなかった旨の親族の供述があったこと(⑵イ(エ))も併せて考えると、青白ツートンカラーの携帯灰皿から本件吸い殻が投棄された可能性も低いと評価することも合理的である。なお、原告は、他の携帯灰皿からの投棄の可能性があるとも主張し、他の携帯灰皿をCに貸したまま返却さ れていないとも供述するが(⑵キ(イ))、AがCに貸したとする携帯灰皿が本件居室から見つかっているのに対し、原告がCに貸したとする携帯灰皿は本件居室からも発見すらされていないから、上記原告の主張又は供述は、抽象的な可能性を指摘する範囲を超えないといわざるを得ない。 以上からすると、本件吸い殻が本件殺人等事件より相当前にCによって投棄されたものである可能性について、検察官及び警察官が、本件吸い殻の変色に関し、さらに捜査をすることなく、現に収集された証拠資料により排斥可能であると考えたことが、合理性を欠くとまでいうことはできないから、上記捜査は、通常要求される捜査というこ とはできない。 c 小括以上のとおり、本件吸い殻に関し、現に収集された証拠資料によれば、原 理性を欠くとまでいうことはできないから、上記捜査は、通常要求される捜査というこ とはできない。 c 小括以上のとおり、本件吸い殻に関し、現に収集された証拠資料によれば、原告が本件マンションに立ち入ったと推認することが合理的であり、本件吸い殻が本件殺人等事件より相当前にCによって投棄された ものである可能性について現に収集された証拠資料により排斥可能 であると考えて、本件吸い殻に関しさらに捜査を行わなかったことが合理性を欠くということはできないから、検察官において、本件吸い殻に関する現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料によって原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に本件マンションに立ち入ったと推認したことが合理性を欠くと いうことはできない。 なお、仮に、本件吸い殻に関し、さらなる捜査として本件紛失資料のうち、Cが吸っていた銘柄と同一銘柄の吸い殻に付着した唾液のDNA型鑑定を行っていたとしても、それがCのDNA型と一致することを認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記bの説示によれば、 DNA型が一致する可能性が高いということはできないから、結局、上記追加捜査の有無は、前記原告の本件マンションへの立入りの有無に関する判断を左右するものとはいえない。この点につき、原告は、公訴提起の違法についての立証責任が原告にあるとしても、事実上立証責任が転換すべきであり、本件紛失資料からCのDNA型が得られ たことを前提に公訴提起の違法性を判断すべきとの趣旨の主張をするが、そのように判断しなければならない法的根拠は不明であって、原告の上記主張も採用することができない。 (イ) 原告及び原告車両と類似する車両の目撃供述について本件殺人等事件当日、原告が白色ホン が、そのように判断しなければならない法的根拠は不明であって、原告の上記主張も採用することができない。 (イ) 原告及び原告車両と類似する車両の目撃供述について本件殺人等事件当日、原告が白色ホンダストリームを運転し、本件マ ンション周辺を訪れていたこと及び本件マンションの北側に100メートルほどの距離にある商店付近に、同車両を駐車したことについては、原告もこれを認める供述をしているところ(⑵キ(ア)b、c、d)、同じ白色ホンダストリームが上記商店前に駐車されているのを、同日の午後3時45分頃、午後5時頃及び午後8時頃の3回にわたって複数人が目 撃したとする供述が存在しており(⑵ウ(ア))、また、同日午後3時過ぎ 頃に、本件マンションから直線距離で80メートルほどの位置にあるバッティングセンターで、原告に似た風貌の男性を見たとする目撃供述がある(⑵ウ(イ))ことからすると、原告は、本件殺人等事件の犯行時間帯に、本件マンション周辺にいたと推認することが合理的であり、同事実は、原告が、本件殺人等事件の犯行時間帯に本件マンションに立ち入っ たとの推認を補強するものということができる。 これに対し、原告は、上記各目撃供述はいずれも信用できないと主張する。しかし、上記各目撃供述は、目撃場所の近くの本件マンションで殺人放火事件があったという特異な日の記憶に基づくものであるとともに、その供述内容を見ても、いずれも、その出来事を記憶している理 由も含めて具体的かつ一貫したものであって、特に白色ホンダストリームについては、複数人が同内容の目撃供述をしていることに加え、前記のとおり、原告自身も、前記商店前に白色ホンダストリームを駐車していたことを認める供述をしていることからすると、これらの供述について、信用性が高いものと が同内容の目撃供述をしていることに加え、前記のとおり、原告自身も、前記商店前に白色ホンダストリームを駐車していたことを認める供述をしていることからすると、これらの供述について、信用性が高いものと判断することには、合理性が認められるという べきである。 (ウ) 本件マンションへの立ち入りの事実を認める原告供述について原告は、当初から本件殺人等事件当日に本件マンション内に立ち入った事実を否定していたが、平成14年8月17日、警察官から、本件マンション内に原告のDNA型と一致する物があるが本件マンション内 に入っているかとの質問をされたのに対し、本件殺人等事件当日に本件マンション内に立ち入った事実を認める供述をしており(⑵キ(ア)d、e)、同供述は、原告が本件殺人等事件当日に本件マンションに立ち入った事実を直接裏付ける証拠ということができる。 この点につき、原告は、同供述の際に取調官から10時間以上にわた り暴行を受けた中で作成されたため、上記原告供述に係る供述調書には、 任意性がなく、証拠能力がなかったと主張し、実際に同供述の翌日には、顔面・右上腕・右季肋部打撲、頚部・腰部打撲捻挫の傷害を負っていたことが認められる(甲1)。しかし、前記のとおり、上記供述調書は、客観証拠たる本件マンションにおいて採取された本件吸い殻から検出されたDNA型と原告のDNA型とが一致した事実を警察官から指摘さ れた直後に作成されたものである(⑵キ(ア)d)。原告が、それ以前の取調べにおいては、本件殺人等事件の犯行時間帯の行動について曖昧な供述を繰り返しており、同供述当時、身柄拘束は受けていなかったことも考慮すると、本件公訴提起時の検察官においては、原告が、上記事実の指摘により、本件マンションへの立入りの事実を認めざるを得ない 昧な供述を繰り返しており、同供述当時、身柄拘束は受けていなかったことも考慮すると、本件公訴提起時の検察官においては、原告が、上記事実の指摘により、本件マンションへの立入りの事実を認めざるを得ないと考 え、任意にこれを認める供述をしたと考えることにも相応の合理性があったといえる。また、原告の主張によれば、原告は、10時間以上にわたる暴行を受けても本件マンションへの立ち入りを否認していたこと、原告は、元警察官及び現職刑務官として当時から供述調書の重要性を認識していたはずであり、そのような原告がその内容を確認しないまま署 名押印をしたとは考え難いこと、上記供述調書の際には暴行したとされる捜査官とは取調官が交替していたこと、上記供述調書が不利益事実の一部のみを認めたものであることからしても、上記供述調書が原告の意思と無関係に作成され署名指印が強要されたとするのは不自然である。 また、原告の負った傷害についても、原告が自殺を図った際に救命行為 を行ったことによって生じても不自然とまではいえない。そして、実際にも、差戻前第一審は当該調書について任意性を認め証拠能力を認めており(甲1)、差戻前控訴審も、当該調書の任意性を否定しているものの、「任意に供述をしたものと疑問の余地なく認めることにも躊躇がある」との判示にとどまっていること(甲2)からすると、本件公訴提起時の 検察官において、上記供述調書の任意性を否定する事情がなく、証拠能 力が認められると評価したとしても、かかる評価が合理性を欠くものであるということはできない。 (エ) まとめ以上によれば、本件吸い殻に係る証拠資料、原告に似た人物及び原告車両と類似する車両の目撃供述及び本件マンションへの立ち入りの事 実を認める原告供述によって、本件公訴提起を担当 (エ) まとめ以上によれば、本件吸い殻に係る証拠資料、原告に似た人物及び原告車両と類似する車両の目撃供述及び本件マンションへの立ち入りの事 実を認める原告供述によって、本件公訴提起を担当した検察官が、原告が本件殺人等事件の犯行時間帯に犯行現場付近におり、本件マンションに立ち入ったと判断したことについては合理性が認められるということができる。 ウ本件殺人等事件以降の原告の言動に不審な点があったことについて (ア) 本件殺人等事件発生の日の原告の言動について原告とAの供述によれば、原告は、本件殺人等事件の発生日(平成14年4月14日)の朝の段階では、夕食の支度をした上でAを迎えに行く約束をしていたにもかかわらず、特段の理由も説明することなく、その約束を反故にしており、Aが原告に対してメールを送信した同日午後 5時15分頃及び午後8時頃には、原告は、携帯電話の電源も切っていた(⑵オ)。 (イ) 本件殺人等事件後の原告の言動について原告及びAの供述によれば、原告は、本件殺人等事件の翌日(平成14年4月15日)午前7時30分頃までに本件殺人等事件について連絡 を受けたにもかかわらず、これを同日午後3時30分頃に帰宅するまでAに何ら連絡していない。また、Aによれば、原告は、本件殺人等事件後、夏にもかかわらず、それまでと異なり、自宅で長袖を着用するようになり、浴槽での入浴を控えるようになったほか、CやDの通夜や葬儀等の際にも、義理の娘や孫を失った遺族としては不自然な言動をしてい る(⑵カ、キ(エ))。 また、Aは、本件殺人等事件の数日後に原告の左上腕部に痣がついていることを目撃したほか、同事件当日に原告が着用していた長袖シャツの両袖の肘から下の部分に絞り皴があることを確認して エ))。 また、Aは、本件殺人等事件の数日後に原告の左上腕部に痣がついていることを目撃したほか、同事件当日に原告が着用していた長袖シャツの両袖の肘から下の部分に絞り皴があることを確認している。(⑵カ(イ))(ウ) 小括原告の上記各言動は、それら一つ一つを取ってみれば些細な出来事で はあるものの、これらを全体として評価すれば、原告が犯人でないとすると不審な言動といわざるを得ない一方、原告が犯人であるとすると容易に理解可能な言動ということができる。 以上によれば、本件殺人等事件以降の原告の言動についての現に収集した証拠資料によれば、本件殺人等事件以降の原告の言動については、 不審な点があり、同事実が、原告が犯人であることを推認させる間接事実であると評価することには合理性があるということができる。 (エ) 原告の主張についてこれに対し、原告は、本件殺人等事件当日の原告の言動は特別な行動とはいえないし、Aの供述には信用性がないと主張する。 前記(ウ)でも述べたとおり、原告がAを迎えに行かなかったことや、携帯電話の電源を切っていたことは、一つ一つを取ってみれば些細な出来事という評価も可能であるが、本件殺人等事件の日の朝に、迎えに行く約束をしながら、(原告の供述によれば)Bらしき人物が運転していた車をさがすという理由で、上記約束を反故にするというのは、不自然と いわざるを得ないし、仮にそのような理由であるなら、説明もないままというのも不可解である。さらに、その間、Aからの連絡があることが予想されるにもかかわらず、携帯電話の電源を切っていたというのも不可解というべきであり、これらを全体として評価すれば、不審な言動と評価せざるを得ないというべきである。 また、後記オで述べるとおり、Aの供述は、 らず、携帯電話の電源を切っていたというのも不可解というべきであり、これらを全体として評価すれば、不審な言動と評価せざるを得ないというべきである。 また、後記オで述べるとおり、Aの供述は、全体としては信用性が認 められる。 よって、原告の上記主張は採用することができない。 エ原告のポリグラフ検査について原告は、ポリグラフ検査において、本件殺人等事件時の本件居室内の状況など、捜査関係者や犯人しか知りえない事項について反応を示していた のであり(⑵キ(ウ))、同検査結果は、ポリグラフ検査自体の精度の問題を含むにしても、原告が犯人であることをうかがわせる証拠の一つであるということができる。ただし、上記検査は、特に外界からの影響を遮断する工夫が施されておらず、1つの質問に対して2つの裁決項目が設定されるという不適切な状況となっている部分も存在したから、同検査結果が限定 的な推認力しか有さないことが明らかではあるが、それゆえに証拠能力まで否定されるとまではいえないというべきであり、同検査結果をもって、原告が犯人であることを裏付ける証拠であると評価したこと自体が不合理であるとまではいえない。 原告は、上記検査結果をもって犯人性の認定に用いることは許されない と主張するが、上記のような検査方法の不備によって証拠能力まで否定されるとはいえない(差戻前第一審判決においても証拠能力までは否定されていない。)し、本件公訴提起時において、検査結果の正確な検証が不可能であり、かつそのことについて検察官が認識していた事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用することができない。 オ原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められたことについて(ア) A及びB た事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用することができない。 オ原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められたことについて(ア) A及びBの警察官ないし検察官に対する供述によれば、前記⑵エに記載同人らの供述どおりの事実関係を認定することができる。 そして、同事実関係からすれば、原告は、Cに対し、愛情を募らせつつ、Cがこれを拒んだことや、Bの負っていた借金の問題を解決するべ く原告が協力しているにもかかわらず、不義理な態度をとるBとともに 行動し、原告からの連絡を無視するような態度をとっていたことについて、怒りの感情を持ち、CとBの動向を追っていたと認められる。そして、原告が、過去にも同様の状況においてB方を訪問した際のCの態度に立腹し、怒りに任せてCを殴打するなどの粗暴な行為に出ていることも踏まえると、本件殺人等事件当日、原告が本件マンションを探し当て て本件居室を訪れ、その際の何らかのCの態度に激高し、同人を殺害するに至ったとしても不思議はない状況であったということができる。 そうすると、原告の動機となるべき事情についての捜査に係る現に収集された証拠資料によって、検察官が、原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められると判断したことには合理性が認められると いうべきである。 (イ) これに対し、原告は、A及びBが、原告を犯人と考えており、これに沿うような供述をしたのであり、同人らの供述には信用性がないことが明らかであったと主張する。 しかし、Aは、原告と約20年も連れ添った妻であって、殊更に原告 を陥れる動機があるわけでもないのであるから、Aが原告を犯人と考えていたことのみをもって、Aの供述の信用性が直ちに揺らぐも しかし、Aは、原告と約20年も連れ添った妻であって、殊更に原告 を陥れる動機があるわけでもないのであるから、Aが原告を犯人と考えていたことのみをもって、Aの供述の信用性が直ちに揺らぐものではない。むしろ、同人の供述は、原告の最も身近な存在であった妻が、原告を犯人と疑うようになった経緯を具体的に明らかにするものであって、信用性が高いとも評価することができるものである。しかも、同人の供 述のうち、特に原告とCとの関係については、メールの文面や、当時のメモ内容など、ある程度客観的な、あるいは類型的に信用性が高い証拠に裏付けられていたものであることからすると、これを信用性が高いものとして評価することは極めて合理的である。そうすると、Aの供述につき、本件殺人等事件から相当期間が経っていることによる記憶の減退、 変容を考慮する必要があるとしても、全体としては信用性が高いものと して評価することは、何ら不合理なものとはいえないというべきである。 そして、そのようなAの供述に沿うBの供述について、信用性が高いと評価することもまた、不合理とはいえないというべきである。 以上によれば、検察官が、AとBの供述の信用性が高いものと評価して原告に本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められると判断し たことには合理性が認められるというべきである。原告の上記主張は採用することができない。 カ捜査段階における原告の供述の信用性について(ア) 原告は、捜査段階において、本件殺人等事件の日(平成14年4月14日)の自己の行動につき、Aを勤務先に送った後、昼食後に自宅に帰 ったところまでは、具体的な供述をしているものの、同日、再度自宅を出た後、帰宅するまでの行動については、長時間であるにもかかわらず、白色ホンダス つき、Aを勤務先に送った後、昼食後に自宅に帰 ったところまでは、具体的な供述をしているものの、同日、再度自宅を出た後、帰宅するまでの行動については、長時間であるにもかかわらず、白色ホンダストリームを運転して平野区内でBを探し回った旨述べるにすぎず、しかも、原告が平野区内でBが住んでいるのではないかと考え、同車両を降りて様子を見た建物及びその際に同車両を駐車した場所 について、警察官と一緒に現場を回って探索したにもかかわらず、ほとんど具体的に特定することができなかった。また、原告は、当初、本件殺人等事件当日に城東区関目にも行ったと供述していたが、後に城東区関目には行っていないとして供述を改めるなど、その供述内容は、一貫したものとはいい難い(⑵キ(ア))。 上記のような供述内容は、実際に長時間平野区内を探索した者の供述としては、明らかに具体性を欠く曖昧なものといわざるを得ないし、実際に探し回った場所をほとんど特定することができないなどという事態は、原告が実際にはそのような行動を取っていなかったこと、すなわち、上記供述内容が虚偽であることを強く疑わせる事実というべきであ り、このような捜査段階における原告の供述について、これを信用性が ないものと評価するのは合理的というべきである。そして、本件殺人等事件の犯行時間帯における行動に係る供述が虚偽であることは、原告が犯人であるために同時間帯における行動について真実を述べることができないことを推認させるものということできる。 そうすると、捜査段階における現に収集された証拠資料である原告の 供述をもって、検察官が、原告が犯人であることを推認させる一事情であると判断したことには合理性が認められるというべきである。 (イ) これに対し、 階における現に収集された証拠資料である原告の 供述をもって、検察官が、原告が犯人であることを推認させる一事情であると判断したことには合理性が認められるというべきである。 (イ) これに対し、原告は、原告が当日の行動すべてについて詳細な行動を説明できないことは当然であるなどと主張する。 しかし、原告は、当初から本件殺人等事件当日のアリバイがないこと を気にしていたものである上(⑵カ(ウ))、原告の本件殺人等事件当日の行動については、遅くとも本件殺人等事件の5日後から警察官による聴取が開始されており、本件殺人等事件直後から当日の行動についての記憶喚起及び整理の機会があったことからすると、原告が、上記の程度にしか本件殺人等事件当日の行動を語ることができないのは不可解とい うべきである。また、原告は、当日は、漠然と「長屋のあねさんふうのマンション」を目指して気の向くままに行動していたとか、考え事をしながら行動していたものであり、詳細な行動を説明できないのは当然であるなどとも主張するが、原告は、その供述によれば、当初約束していたAとの約束を反故にしてまで、Bに無免許運転をさせてはいけないと 考えて長時間にわたりBの行方を追っていたというのであって、その状況は、漠然と、気の向くままに、考え事をしながら、などという行動とは程遠いというべきであるし、仮にそうであったとしても、長時間にわたり探索した場所をほとんど特定できないなどということも考えられないというべきであり、原告の上記主張は、およそ採用の限りではない。 キ総合評価について 以上に述べたとおり、本件公訴提起時点までに現に収集された証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料によれば、前記第2の4⑴(被告国の主張)イ(イ)から( 評価について 以上に述べたとおり、本件公訴提起時点までに現に収集された証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料によれば、前記第2の4⑴(被告国の主張)イ(イ)から(キ)までのとおり判断することが可能であるということができる。 すなわち、原告は、本件殺人等事件の犯行時間帯に本件マンションに立 ち入って犯行可能な状況にあったものであるところ、犯人がCと近しい人物であると考えられたのであり、その中でアリバイがないのが原告のみであったものであるから、原告以外の人物が犯人である可能性は低いということができる。そして、原告には本件殺人等事件の動機となり得る事情が認められるばかりでなく、原告の本件殺人等事件以降の言動は、原告が犯 人でないとすると不審な言動といわざるを得ない一方、原告が犯人であるとすると容易に理解可能な言動であるばかりでなく、原告の捜査段階における本件殺人等事件の犯行時間帯における供述には信用性がなく、原告が犯人であるために同時間帯における行動について真実を述べることができないものと推認することができたというべきである。 これらの事情を総合的に評価すれば、原告以外に犯人といえる人物はおらず、原告が犯人であることが強く推認されるというべきであり、検察官において、その程度が当時有罪立証に必要な程度を超えていると判断したことが合理性を欠いているということはできない。 ⑷ まとめ 以上のとおり、本件殺人等事件について、本件公訴提起時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求された証拠資料を総合的に勘案すれば、合理的な判断過程により原告を有罪と認めることができる程度の嫌疑があったと判断することが合理性を欠いているということはできない。 したがって、検察官のした本 求された証拠資料を総合的に勘案すれば、合理的な判断過程により原告を有罪と認めることができる程度の嫌疑があったと判断することが合理性を欠いているということはできない。 したがって、検察官のした本件公訴提起が国賠法上違法であると評価する ことはできない。 よって、本件公訴提起の違法をいう原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。 2 争点2(検察官の公訴追行は、国賠法上違法か)について⑴ 公訴追行の違法の判断基準について公訴提起が適法である場合、公判担当の検察官は、提起された公訴を追行 するのがその職責というべきであるから、公訴の追行は原則として違法ということはできない(最高裁判所平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁参照)。しかし、公判においてもはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況にありながら漫然と公訴追行をしたような場合にまで公訴の追行を適法と解することはできないから、その ような特段の事情が認められた場合には、公訴追行は違法となると解される。 なお、被告国は、上記特段の事情が認められる場合として、「公判において嫌疑を否定する証拠が提出されたこと」を要件とすべきかのような主張をするが、公判においてもはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況となるのは、上記場合に限られないから、被告国の上記主張 は、採用することができない。 そこで、以下、上記特段の事情が認められるかどうかについて検討していく。 ⑵ 上告審判決までについて前記1において判断したとおり、本件公訴の提起は適法であるから、その 後の公訴追行は原則として違法ということはできないところ、原告は、上告審判決までの期間において、上記特段 決までについて前記1において判断したとおり、本件公訴の提起は適法であるから、その 後の公訴追行は原則として違法ということはできないところ、原告は、上告審判決までの期間において、上記特段の事情が存在したことについて何ら主張立証していないから、上告審判決までの間の検察官の公訴追行が国賠法上違法であるということはできない。 ⑶ 上告審判決以降において ア上告審の判示内容について(甲3) 最高裁判所は、下記(ア)~(ウ)の内容を含む判断を示し、本件殺人等事件の差戻前第一審及び差戻前控訴審を取り消すとともに、本件殺人等事件の審理を大阪地方裁判所へ差し戻した。なお、同判断については合議体を構成する裁判官5名のうち1名が反対しており、また、被告人の捜査段階の供述の任意性及び信用性が認められることを前提とするが、差戻前控訴審 以前に存在する証拠により、原告が、本件事件当日、本件マンションに立ち入ったことを認定し得るとの意見を述べた裁判官もいた。 (ア) 有罪認定に当たっては、状況証拠によって事実認定すべき場合であっても、直接証拠によって事実を認定する場合と比べて立証の程度に差があるわけではないが、状況証拠によって認められる間接事実中に被告人 が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である事実関係が含まれていることを要する。 (イ) 本件吸い殻につき、事件翌日に撮影された写真ですら変色が認められ、1か月半後の鑑定の際にはフィルター部全体が変色しており、その変色 の原因を合理的に説明できる根拠が記録上見当たらないことからすれば、本件吸い殻の存在から、原告が本件殺人等事件当日に本件マンションに立ち入った事実を認定することができない。 本件吸い殻の採取 の原因を合理的に説明できる根拠が記録上見当たらないことからすれば、本件吸い殻の存在から、原告が本件殺人等事件当日に本件マンションに立ち入った事実を認定することができない。 本件吸い殻の採取された際の位置関係や、水にぬれる可能性、灰皿内の他の吸い殻(本件紛失資料)にCのDNA型を有する唾液等が付着し ているかに係るDNA型鑑定等の捜査が十分にされておらず、本件吸い殻が原告によって本件殺人等事件当日に捨てられたものであるかどうかについて、審理が尽くされているとはいい難い。 (ウ) 事件当日、原告が本件マンションに赴いた事実が認められたとしても、他の間接事実から原告が犯人でないとすれば合理的に説明できない事 実関係があるとはいえず、差戻前第一審判決の掲げる間接事実のみで有 罪と認定することは著しく困難であり、上記観点からの審理が尽くされたとはいい難い。本件事案の重大性からすれば上記観点に立ち、差戻前第一審が有罪認定に用いなかったものを含め他の間接事実についても検察官の立証を許し、総合的に検討することが必要である。 イ差戻後の検察官による立証活動等 差戻後第一審の時点で既に本件紛失資料は、所在不明となっており、同資料のDNA型鑑定はできない状況となっていた(前提事実⑵エ)。 検察官は、上告審判決以降、差戻後第一審の平成22年7月13日に実施された打ち合わせにおいて、本件紛失資料の紛失の事実を明らかにした上、差戻後第一審における立証の予定を明らかにした(甲39)。 そして、検察官は、本件吸い殻が原告によって本件殺人等事件当日に捨てられたものであることにつき、下記(ア)及び(イ)のとおり、状況証拠によって認められる間接事実中に原告が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、ある 告によって本件殺人等事件当日に捨てられたものであることにつき、下記(ア)及び(イ)のとおり、状況証拠によって認められる間接事実中に原告が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である事実関係が含まれていることにつき、下記(ウ)のとおりの追加立証をした。 (ア) 変色原因について(乙124~127)吸い殻の変色に係る実験によれば、たばこの吸口部を深くくわえることで、たばこの開孔部を覆うような形で喫煙すると、たばこの外側を巻くチップペーパーにたばこの煙成分が付着して変色し得るということができ、また唾液を多くつけて吸うと変色が生じやすいことに矛盾のな い結果といえたものの、必ずしも顕著な変色といえる程度の結果は生じなかった。他方、たばこにコーヒーを掛けて消したり、水で濡らした吸い殻の上におかれた吸い殻はある程度の変色があり、時間の経過以外の原因によっても変色し得ることが認められた。 (イ) 原告のたばこの吸い方について Aへの聴取(乙128)によれば、原告が、たばこを吸った際には、 もみ消すなどの方法はほとんどとらず、水を掛ける等の方法により、必ず火を消した上で捨てており、立ち消えになった時でも同様にしていたこと、原告がたばこを吸う際にフィルターぎりぎりまで吸わずに消していたが、考え事等をしているときには、放置して立ち消えになることがあったこと、原告がコーヒーを飲みながらたばこを吸うこともあったこ と、原告の吸い殻には唾が多くついていることがあったことが認められた。 (ウ) 原告が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である事実関係に係るその他の追加立証について(甲4) 検察官は、①原 られた。 (ウ) 原告が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である事実関係に係るその他の追加立証について(甲4) 検察官は、①原告が、同事件の2カ月後に作成した見取り図によれば、原告が立ち入ったことがないと供述する被害者宅について内部状況を知っていたことが窺えること、②原告が、本件殺人等事件の2日又は4日後、BやCしか知らない同人らの家賃の滞納を前提に、Bらが引っ越し前居住していたマンションの前に管理会社に対し、家賃の支払期限の 延長を申し入れたこと、③Bは、本件殺人等事件直前にたばこの銘柄を変え、そのことを原告には告げていなかったにもかかわらず、原告がBが吸う新しい銘柄のたばこを買ってきたこと、④原告が本件殺人等事件当日に履いていた靴内から被害者方で飼われていた犬の毛とDNA型が一致する犬の毛が採取されたこと等の立証を図った。 ウ検討上告審は、差戻前第一審判決及び差戻前控訴審判決を破棄し、第一審に差戻しているところ、破棄判決の拘束力は、破棄の直接の理由である原判決に対する消極的否定的判断についてのみ生じるもので、これを裏付ける積極的肯定的事由についての判断は、拘束力を生じない(最高裁昭和43 年10月25日第2小法廷判決・刑集22巻11号961頁)。したがっ て、差戻前第一審が認定した事実のみから有罪立証を行うことはおよそ困難になったというべきであるが、他方で、前記アの上告審判決の判示にもあるとおり、本件吸い殻が原告によって本件殺人等事件当日に捨てられたものであることについての主張立証及び新たな間接事実の主張や、既出の間接事実についてその推認力を強めるような立証活動をすることにより 原告が犯人でないとすれば合理的に説明できな 当日に捨てられたものであることについての主張立証及び新たな間接事実の主張や、既出の間接事実についてその推認力を強めるような立証活動をすることにより 原告が犯人でないとすれば合理的に説明できない事実関係が存在することを立証することにより、有罪判決を期待することができたことは明らかである。 そして、検察官は、前記イのとおり、本件吸い殻の変色の発生経緯について、必ずしも時の経過によってのみ発生するものではなく、原告のたば この吸い方や火の消し方からすると、変色が発生する可能性があること及び原告が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である事実関係が存在することを裏付ける間接事実について追加の主張立証を行ったものである。 そうすると、上告審においても見解が分かれ、個々の間接事実の評価に 差が生じた本件において、上記主張立証により、本件吸い殻が本件殺人等事件当日以前に、Cにより投棄された可能性が一般的抽象的な可能性にすぎないとして排斥され、前記イ(ウ)①から④までの間接事実の追加立証によって原告が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である事実関係が立証されたとし て有罪判決がされる可能性が到底期待し得ない状況にあったとか、検察官が上記状況を認識しながら漫然と公訴を追行したと評価することはできないから、前記特段の事情が存在したとは認められない。 なお、差戻後第一審判決は検察官の追加立証によっても、原告が本件殺人等事件当日に立ち入った事実は認められず、原告が犯人でないとしたな らば合理的に説明できない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である 事実も認められないとして原告を無罪としたが、検察官の追加の 日に立ち入った事実は認められず、原告が犯人でないとしたな らば合理的に説明できない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である 事実も認められないとして原告を無罪としたが、検察官の追加の主張立証を踏まえた第一審の判断が示されたということにすぎないから、そのことによって以降の公訴追行にも特段の事情が生じたということはできない。 エ原告の主張についてこれに対し、原告は、警察官が本件紛失資料を紛失し、原告の反証の機 会が奪われたことからすると、検察官において本件吸い殻が本件殺人等事件当日に捨てられたものであることを立証しようとすること自体が許されず、仮に許容されるとしても、その立証の程度は、もし紛失資料中の4本の吸い殻についてDNA型鑑定がされていればCのDNA型鑑定が検出されなかったことは確実であるというものでなければならず、そのよう な立証がされていない本件においては、もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至っていたと主張する。 しかし、上記DNA型鑑定は、本件吸い殻がCの携帯灰皿を経由して捨てられた可能性、ひいては本件吸い殻が本件殺人等事件当日に原告によって捨てられたものであるかどうかを左右する証拠の一つにすぎず、これが 実施できなくなったからといって、検察官の立証が制限されたり、立証の程度が厳格になると解する法的根拠は不明であるから、原告の上記主張は、前提を欠いたものである。 また、原告は、上告審判決の判示からすれば、検察官は、本件吸い殻の変色理由が時間的経過を示すものとはいえないことを立証しなければな らなかったところ、前記イ(ア)及び(イ)の立証は、時間的経過による変色の可能性と併存するものであるから、これらの立証により有罪判 理由が時間的経過を示すものとはいえないことを立証しなければな らなかったところ、前記イ(ア)及び(イ)の立証は、時間的経過による変色の可能性と併存するものであるから、これらの立証により有罪判決を期待することはできなかったとも主張する。 しかし、本件吸い殻の変色が時間的経過以外の原因で発生した可能性が相当程度あるのであれば、前記のとおり、本件吸い殻が本件殺人等事件当 日以前に、Cにより投棄された可能性が一般的抽象的な可能性にすぎない として排斥され、その結果、原告が本件殺人等事件当日に本件マンションに立ち入ったとの事実が認定される可能性があったというべきである。 原告の上記各主張は、いずれも採用することができない。 オ小括以上によれば、上告審判決以降の検察官の公訴追行についても、これを 国賠法上違法であるということはできない。 ⑷ まとめ以上のとおり、上告審判決の前後を通じ、検察官の公訴追行が国賠法上違法であるということはできない。 よって、検察官の公訴追行の違法をいう原告の請求は、その余の点につい て判断するまでもなく、理由がない。 3 争点3(警察官の本件紛失資料の紛失について警察官及び検察官に国賠法上の違法があったか)について⑴ 警察官の職務行為の違法性について原告は、本件紛失資料の保管を担当していた警察官において、本件紛失資 料が審理において重要な証拠として利用されることを知り、あるいは容易にこれを予見できた場合には、同警察官は、原告が本件紛失資料を審理で利用する利益を保護するために、本件紛失資料を保管する義務を負うと主張する。 しかし、本件紛失資料を紛失した平成15年12月22日から同月25日の間の時点において、警 は、原告が本件紛失資料を審理で利用する利益を保護するために、本件紛失資料を保管する義務を負うと主張する。 しかし、本件紛失資料を紛失した平成15年12月22日から同月25日の間の時点において、警察官が本件紛失資料が審理において重要な証拠とし て利用されることを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく(原告も、警察官は、本件紛失資料について、証拠物でなく、採取資料にすぎないため保管義務がないかのような認識を有していたと主張している。)、また、前記1⑶イ(ア)で述べたとおり、本件吸い殻が本件殺人等事件より相当前にCによって投棄されたものである可能性について、警察官が、現に収集された証 拠資料により排斥可能であると考えて、本件吸い殻に関し、さらに捜査をし なかったことが、合理性を欠くとまでいうことはできないこと、前記紛失時点までに、別件刑事訴訟の公判において本件紛失資料のうち、Cが吸っていたたばこと同一銘柄の吸い殻に付着した唾液のDNA型鑑定の必要性が問題となった事実を裏付ける証拠はなく、かえって、差戻前第一審判決及び差戻前控訴審判決においては、上記鑑定の必要性についての言及はなく、上告 審判決において初めて上記鑑定の必要性に言及されていることが認められる(甲1~3)ことからすると、警察官が前記時点において、本件紛失資料が審理において重要な証拠として利用されることを容易に予見することができたということもできない。 したがって、原告の上記主張は、前提を欠いたものであって理由がない。 ⑵ 検察官の職務行為の違法性について前記⑴と同様に、検察官において本件紛失資料、本件紛失資料が審理において重要な証拠として利用されることを知り、あるいは容易にこれを予見できたと認めることはできないから、原告の主張は、前提を欠 て前記⑴と同様に、検察官において本件紛失資料、本件紛失資料が審理において重要な証拠として利用されることを知り、あるいは容易にこれを予見できたと認めることはできないから、原告の主張は、前提を欠いているというべきである。 また、その点を措くとしても、司法警察職員が採取ないし領置した現場資料及び証拠品については、犯罪捜査規範79条及び111条に基づき、適切に保管されていることが期待されているから、検察官において、本件紛失資料について厳重に保管するように指示しなかったことが職務上の注意義務に違反すると評価することはできない。 ⑶ 小括以上のとおり、本件紛失資料の紛失に係る原告の主張は、前提を欠いたものであって、理由がない。 よって、本件紛失資料の紛失に係る警察官及び検察官の職務行為の違法をいう原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。 4 争点4(公判担当検察官が本件紛失資料の紛失の事実を弁護人に伝えなかっ たことは、国賠法上違法か)について⑴ 認定事実後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、前提事実の外に以下の各事実を認めることができる。 ア別件刑事訴訟における証拠開示の申出及びこれに対する検察官の対応 等(甲16、30、31、証人G)(ア) 弁護人は、平成15年12月22日頃、同日付けの「証拠開示のお願い」と題する申出書で、本件マンションから発見されたすべてのたばこの吸い殻に関する、検察官証拠以外の鑑定嘱託書、鑑定書、その他一切の証拠資料(以下「弁護人開示申出資料」という。)の開示を求めた(以 下、同趣旨の開示申出を併せて「本件各申出」という。)。上記申出書においては、他の捜査報告書等も開示を求める対象となっていたが、いずれも開示を求める証拠 出資料」という。)の開示を求めた(以 下、同趣旨の開示申出を併せて「本件各申出」という。)。上記申出書においては、他の捜査報告書等も開示を求める対象となっていたが、いずれも開示を求める証拠等が列挙されているのみで、開示の必要性につき記載はなかった。 弁護人は、弁護人開示申出資料について、平成16年1月26日及び、 同年2月21日にも同資料を含む証拠の開示請求をしたが、これらについてもその開示の具体的な必要性は明らかにされなかった。 (イ) G検事は、上記(ア)の本件各申出につき、証拠開示を行う法的義務はないとの理解のもと、弁護人からの開示申出証拠の特定がされており、必要性があると認められるものについて開示する方針で、任意開示を行っ ていた。この際、G検事は、本件吸い殻に係るDNA型鑑定の正確性に係る証拠などの争点(犯人性)との関係で裁判所が関心を持つと考えられる証拠についてはその存否を明らかにすることもあった。 G検事は、平成16年1月20日、警察官から、本件紛失資料が入った段ボール箱を紛失した旨の報告を受け、前記紛失の事実を認識した。 G検事は、本件紛失資料について重視していなかったものの、前記紛失 により、他の証拠品の保管について疑念がもたれることを懸念し、本件紛失資料の開示を直接請求された場合にのみ、紛失の事実を明らかにする方針とした。 G検事は、その後された同月26日の本件申出について、弁護人開示申出資料は、本件マンションから発見されたすべてのたばこの吸い殻に ついて作成された鑑定書等の書面であり、かかる証拠が必要となる具体的な理由が不明であると判断し、同月29日、開示に応じる理由がないので開示しないとの意見を述べると共に、採用証人に係る供述調書を任意に開示した(乙63) 書等の書面であり、かかる証拠が必要となる具体的な理由が不明であると判断し、同月29日、開示に応じる理由がないので開示しないとの意見を述べると共に、採用証人に係る供述調書を任意に開示した(乙63)。また、G検事は、上記の同年2月21日付けの弁護人開示申出資料を含む証拠開示の申出に対し、同年3月8日には、 弁護人開示申出資料について、必要性が挙げられていないから開示しないとしつつ、裁判所が注目すると考えられた他の申出資料については、その存否を明らかにした。これに対し、弁護人が弁護人開示申出資料について必要性を明らかにして開示を求めることや証拠開示命令の申立を行うことはなく、裁判所が開示を促すこともなかった。 イ別件刑事訴訟の公判における弁護人の対応(甲24の1、2、乙139~142)検察官は、平成16年1月9日付けの求釈明申立書において、本件吸い殻に付着していた唾液のDNA型が原告のものと一致したことにつき、弁護人が争うと主張した趣旨について求釈明を行ったものの、弁護人は、不 同意の意見には理由が不要であり、既に行った認否を超えて検察官の立証の手助けをする必要はなく、本件吸い殻についての捜査及び証拠評価のいずれについても検察官の立証が必要であるから求釈明に応じない旨述べ、それ以降の争点整理のためとする検察官の意見に対してもこの姿勢を維持した。弁護人は、同月28日に裁判所からされた求釈明に対し、同年2 月6日、原告が、本件殺人等事件当日及びそれ以前に本件マンションに立 ち入ったことはなく、検察官の主張する事実については、DNA型鑑定が間違っているか、鑑定に供された資料が本件マンションから採取されたものでないか、資料が原告以外の者によって本件灰皿に投棄されたとする旨の主張を示し、同年6月15日、 る事実については、DNA型鑑定が間違っているか、鑑定に供された資料が本件マンションから採取されたものでないか、資料が原告以外の者によって本件灰皿に投棄されたとする旨の主張を示し、同年6月15日、差戻前第一審の弁論において、携帯灰皿を介して本件灰皿に本件吸い殻が投棄された可能性があることを初めて 主張したが、本件紛失資料のうちCが吸っていたたばこと同一銘柄の吸い殻に付着した唾液のDNA型鑑定及びその必要性については、何ら言及していなかった。 ⑵ 検討ア被告国は、少なくとも差戻前第一審当時において、検察官による証拠な いし情報の不開示が国賠法上違法と評価されるのは、弁護人から具体的必要性を示して、当該証拠ないし情報を開示するように検察官に命ぜられたい旨の申出がされた場合において、裁判所が、その訴訟指揮権に基づき、検察官に対し、当該証拠ないし情報を弁護人に開示するように命じ、検察官がこれを開示すべき義務を負うことになったにもかかわらず、検察官が その義務に違反した場合に限られるとし、G検事の回答が刑事訴訟法上違法でない限り、職務上の注意義務違反は認められない旨主張する。 確かに、平成16年法律第62号による改正前刑訴法下における検察官の証拠開示においては、裁判所が適切な裁量により公正な訴訟指揮を行い、証拠調べの段階に入った後、弁護人から、具体的必要性を示して、一定の 証拠を弁護人に閲覧させるよう検察官に命ぜられたい旨の申出がされた場合、相当と認める場合には、検察官に対し、その所持する証拠を弁護人に閲覧させるよう命ずることができるものと解するべき(最高裁昭和44年4月25日第2小法廷決定・刑集23巻4号248頁)であって、刑訴法1条及び検察庁法4条に基づいて検察官の証拠開示義務を導くことは 困難で 命ずることができるものと解するべき(最高裁昭和44年4月25日第2小法廷決定・刑集23巻4号248頁)であって、刑訴法1条及び検察庁法4条に基づいて検察官の証拠開示義務を導くことは 困難であり、本件の様に、開示請求を行っておらず、裁判所も訴訟指揮に より開示を命じていない以上、検察官に証拠開示の義務はないというべきである。 したがって、G検事が、本件各申出に対し、本件紛失資料の紛失の事実を明らかにしなかったことをもって直ちに職務上の注意義務違反を構成するということはできないというべきである。 しかし、検察官が、証拠開示の義務を負わない場合であっても、証拠開示の要請に対し、積極的に虚偽の回答をし、あるいは虚偽とはいえないまでも、証拠の存否を隠蔽する趣旨で、あえて誤解を生ずる表現を使用して回答することによって弁護人に対して誤解を生じさせ、その結果、弁護人の防御権の行使に支障を生じたような場合等には、そのような回答をした 検察官の行為は、弁護人の防御権に対する積極的な侵害行為として職務上の注意義務違反を構成することがあり得るというべきである。 イこの点につき、原告は、G検事が本件各申出について、本件紛失資料について、「開示に応じる理由がないから開示しない。」などと回答して、あたかも本件紛失資料が存在するかのように受け取られる表現を用いて、 本件紛失資料が不存在ではないかのように偽ったと主張しており、上記主張は、上記のような積極的な防御権の侵害行為を主張するものと解される。 そこで検討するに、本件各申出に係る申出書には、弁護人開示申出資料として、「本件マンションから発見されたすべてのたばこの吸い殻に関する、検察官証拠以外の鑑定嘱託書、鑑定書、その他一切の証拠資料」と記 載されているとこ 出に係る申出書には、弁護人開示申出資料として、「本件マンションから発見されたすべてのたばこの吸い殻に関する、検察官証拠以外の鑑定嘱託書、鑑定書、その他一切の証拠資料」と記 載されているところ(⑴ア(ア))、「たばこの吸い殻に関する・・・(傍点は引用者)・・・証拠資料」の中にたばこの吸い殻自体が含まれていると解することは日本語の通常の用法としても不合理であること、証拠資料として例示されているものも鑑定嘱託書及び鑑定書という書証であることからすると、申出書の文言自体からして、上記「その他一切の証拠資料」の中に 本件紛失資料が含まれていたと解することには無理があるといわざるを 得ない。 また、弁護人は、差戻前第一審において、本件吸い殻に付着していた唾液のDNA型が原告のものと一致したことにつき、争う旨を述べるのみで、裁判所からの求釈明に対しても、要するに全面的に争う旨の回答をしており、ようやく平成17年6月15日の弁論において携帯灰皿を介して本件 灰皿に本件吸い殻が投棄された可能性があることを初めて主張したものの、本件紛失資料のうちCが吸っていたたばこと同一銘柄の吸い殻に付着した唾液のDNA型鑑定及びその必要性については、何ら言及していなかったのであり(⑴イ)、このような弁護人の姿勢からしても、弁護人が平成16年2月にした本件申出において、「その他一切の証拠資料」の中に本 件紛失資料が含まれることを意図していたものと認めることはできない。 そして、本件申出を受けたG検事においても、弁護人開示申出資料は、本件マンションから発見されたすべてのたばこの吸い殻について作成された鑑定書等の書面であるものと理解していたことが認められる(⑴ア(イ))。 以上のような、本件各申出に係る申出書の 、本件マンションから発見されたすべてのたばこの吸い殻について作成された鑑定書等の書面であるものと理解していたことが認められる(⑴ア(イ))。 以上のような、本件各申出に係る申出書の文言及び当事者の意思からすると、弁護人開示申出資料の中の「その他一切の証拠資料」の中に本件紛失資料が含まれていたものと認めることはできない。 そうすると、本件各申出に対してG検事がした回答が、本件紛失資料があたかも本件紛失資料が存在するかのように受け取られる表現というこ とはできないし、これにより弁護人が本件紛失資料が不存在ではないと誤解したと認めることもできないというべきである。 また、仮に、弁護人の意図としては、弁訴人開示申出資料の中の「その他一切の証拠資料」の中に本件紛失資料が含まれていたものであったとしても、上記のような本件各申出に係る申出書の文言及び差戻前第一審にお ける弁護人の訴訟活動からして、G検事において、上記「その他一切の証 拠資料」の中に本件紛失資料が含まれていると理解することは困難であるといわざるを得ないから、G検事が弁護人開示申出資料は、本件マンションから発見されたすべてのたばこの吸い殻について作成された鑑定書等の書面であると理解し、そのような理解を前提として回答をしたことをもって、弁護人の防御権に対する積極的な侵害行為として職務上の注意義務 違反を構成すると評価することは困難である。 以上によれば、本件各申出に対し、「開示に応じる理由がないから開示しない。」、「開示しない」と回答したG検事の行為が職務上の注意義務違反を構成するということはできない。 ⑶ 小括 以上のとおり、本件各申出に対するG検事の回答が、職務上の注意義務違反を構成するということはできないから、上 事の行為が職務上の注意義務違反を構成するということはできない。 小括 以上のとおり、本件各申出に対するG検事の回答が、職務上の注意義務違反を構成するということはできないから、上記回答の違法をいう原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。 第4 結論 以上のとおり、原告の請求は、全部理由がないから、これをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第8民事部 裁判長裁判官三村憲吾 裁判官上田瞳 裁判官枚田雅樹 (別紙の掲載省略)

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