平成15(ネ)94 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成16年5月26日 広島高等裁判所 山口地方裁判所 下関支部 平成14(ワ)120
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判決文本文6,436 文字)

主文 1 原判決中,控訴人敗訴の部分を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,普通乗用自動車相互の衝突事故(本件事故)によって負傷した被害車両の運転者である被控訴人が,加害車両の運転者である控訴人に対し,運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条本文)を主張して損害賠償(988万5327円及びこれに対する平成12年11月6日(本件事故当日)からの遅延損害金の支払)を求める事案である。 原判決は,被控訴人は本件事故により外傷性頚椎椎間板ヘルニアの傷害を負い,同傷害により,左上肢に第12級12号(自動車損害賠償保障法施行令2条別表第2所定)に該当する後遺障害を負ったとして,67歳まで(15年間)の労働能力喪失(割合14%)に伴う逸失利益523万1520円のほか,治療費104万9898円,休業損害187万3970円,慰謝料467万円の合計1282万5388円の損害を認めた上,被控訴人の過失を2割として過失相殺し,既払金421万0061円を控除した残額に弁護士費用を60万円とし,合計665万0249円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容したため,控訴人が控訴したものである。 2 そのほかの事案の概要は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の事実及び理由欄の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁15行目の次に,行を改め次を加える。 「(3) 支払控訴人は,本件事故に基づく損害賠償金として,被控訴人に対し,326万4832円の支払をし,被控訴人は,更に,自賠責保険から224万円 目の次に,行を改め次を加える。 「(3) 支払控訴人は,本件事故に基づく損害賠償金として,被控訴人に対し,326万4832円の支払をし,被控訴人は,更に,自賠責保険から224万円の支払を受けている(ただし,被控訴人は,控訴人が支払った金員のうち34万4867円は本訴請求以外の治療費等の支払分であると主張している。)。」(2) 控訴人が当審において付加した主張ア被控訴人の症状は既往症に基づくものであり,本件事故による被控訴人の後遺障害は存在しないか,仮に存在するとしても後遺障害等級第14級第10号(局部に神経症状を残すもの)が相当である。また,その後遺障害の存続期間も3ないし5年であり,本件事故の寄与度も50%が限度である。 イしかも,本来であればそれほど強くない外傷であるにもかかわらず,既往症に加え以下のような薬物依存のために愁訴が激しくなっているものである。 すなわち,被控訴人は,本件事故後,副作用についての注意を受けていたにもかかわらず,自ら強く希望して複数の医療機関から鎮痛剤であるソセゴン,ペンタジンなどの投与,注射を受けているが,これらの薬物には依存症と精神神経系の障害を起こす副作用があり,被控訴人の症状には自ら薬物依存・薬物中毒になっていった経過が反映されている。そうした被控訴人の行為による症状の悪化に関しては本件事故との相当因果関係はなく,控訴人にその責任を問うことはできない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は被控訴人の請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は次項に補正するほかは,原判決の事実及び理由欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 補正(1) 原判決3頁1行目から5頁4行目までを次のとおり改める。 「(1 正するほかは,原判決の事実及び理由欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 補正(1) 原判決3頁1行目から5頁4行目までを次のとおり改める。 「(1) 本件事故後の通院・治療及び診断に関し,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。 ア被控訴人は,A病院において,次のような診断を受けた(甲2,11,乙3,19,20,57の1・2,60)。 (ア) 被控訴人は,本件事故当日(平成12年11月6日),タクシーを利用してA病院を訪れ,診察を受けた。その際の主訴は項部痛,左下肢痛であり,診察の結果,意識清明,上下肢の運動については「OK」とされ,X線検査の結果では頚椎,大腿骨,膝に異常なく,「左膝・両大腿打撲,頚椎捻挫」との診断書が作成され,外用薬と座薬の投薬が指示がされた。 (イ) 被控訴人は,同月11日,12日にも同病院で診察を受けたが,11日には投薬を希望し,頚椎に関してリハビリをしたいとのことであったため,B整形外科の紹介を受けた。紹介に当たり作成された診療情報提供書に記載された傷病名も上記診断書の記載と同様である。12日の受診では頚,腰が痛いと訴え,外用薬のみの処方を受けた。 (ウ) 被控訴人は,平成12年12月6日に同病院でMRI検査を受け,その結果,頚椎椎間板ヘルニアとの診断がされた。 (エ) 被控訴人は,同病院整形外科最終通院日である平成13年5月14日付けの後遺障害診断書(甲2)では,受傷日時平成12年11月6日(本件事故日),症状固定日平成13年5月14日,傷病名「頚椎椎間板ヘルニア」,既存障害「左大腿骨慢性骨髄炎」,自覚症状「項部痛,頚部~左上肢への放散痛,左母指・示指のしびれ,臀部~右第1趾のしびれ,食欲低下, ),症状固定日平成13年5月14日,傷病名「頚椎椎間板ヘルニア」,既存障害「左大腿骨慢性骨髄炎」,自覚症状「項部痛,頚部~左上肢への放散痛,左母指・示指のしびれ,臀部~右第1趾のしびれ,食欲低下,めまい,頚部可動域制限,左握力低下,左肩可動域制限,頚背部痛,書字困難」とされ,左三角筋等の筋力や左上肢の腱反射の低下が指摘されている。 (オ) 被控訴人は,平成14年2月13日付けの診断書(甲11)では,障害名「骨折による左下肢機能全廃,頚椎椎間板ヘルニアによる左上肢の著しい障害」,原因となった疾病・外傷名「左大腿骨骨折,左膝蓋骨骨折,慢性骨髄炎,頚椎椎間板ヘルニア」,傷病・外傷発生年月日「平成12年11月6日」,参考となる経過・現症「平成11年より左下肢機能全廃で身体障害者3級,平成12年11月6日交通事故にて頚椎椎間板ヘルニア受傷,保存的治療でも軽快えられず,左上肢に著しい障害を残す。」,総合所見「左下肢機能全廃(3級),左上肢の著しい障害(3級)」として,障害の程度は身体障害者福祉法別表2級相当とされた。 イ被控訴人は,上記のほか,本件事故後,平成13年5月14日までの間,「頚部捻挫,左膝打撲傷,腰痛」ないし「頚椎椎間板ヘルニア」の治療のため,以下のとおり医療機関に通院し,治療及び診察を受けた(甲2,4ないし9,11,乙19ないし25,50ないし53,原審における被控訴人本人)。 (ア) A病院(整形外科)に,平成12年11月6日から平成13年5月14日まで通院した(実日数31日)。 (イ) B整形外科に,平成12年11月13日から平成13年1月31日まで通院し(実日数30日),うち平成12年11月14日から同月28日まで入院した(入院日数15日)。平成12年12月8日付けの診断書(甲5)及び通 ,平成12年11月13日から平成13年1月31日まで通院し(実日数30日),うち平成12年11月14日から同月28日まで入院した(入院日数15日)。平成12年12月8日付けの診断書(甲5)及び通院最終日付けの診断書(甲4)では病名は「頚部捻挫,左膝打撲傷,腰痛」とされている。 (ウ) 医療法人C病院に,平成12年12月15日から平成13年1月31日まで通院した(実日数38日)。通院最終日付けの診断書(甲6)では傷病名は「外傷性頚髄症」とされている。 (エ) Dクリニックに,平成13年2月2日から同年4月6日まで入院し(入院日数64日),同月7日から同年5月14日まで通院した(実日数27日)。同年5月21日付けの診断書(甲7),同年9月11日付けの診断書(甲8)では傷病名は「頚椎椎間板ヘルニア」とされ,平成14年4月25日付けの診断書(甲9)では「外傷性頚椎椎間板ヘルニア」とされている。 ウ被控訴人は,自動車損害賠償保障法施行令2条別表第2所定の等級12級12号に該当するとの認定を受けている(争いがない。)。 (2) 上記のとおり,本件事故による被控訴人の負傷内容については,平成12年12月6日のMRI検査で頚椎椎間板ヘルニアの所見が得られたことから,「頚椎椎間板ヘルニア」,「外傷性頚椎椎間板ヘルニア」とする診断書も作成されているが,本件全証拠によっても,これが外傷性によるものであること又は本件事故に基づくものであることの根拠となるものは認められない。むしろ,本件事故直後の診察による被控訴人の傷病内容は,「左膝・両大腿打撲,頚椎捻挫」というものであるにすぎない。しかも,乙60号証(医師E作成の意見書)によれば,本件事故当日に撮影された被控訴人の頚椎のX線像(乙32の5ないし8)等を観察すると,頚椎の 膝・両大腿打撲,頚椎捻挫」というものであるにすぎない。しかも,乙60号証(医師E作成の意見書)によれば,本件事故当日に撮影された被控訴人の頚椎のX線像(乙32の5ないし8)等を観察すると,頚椎の前後屈が可能で不安定性はなく,このことは事故発生時に頚椎に直接の強い外力が加わらなかったことを示すもので,また,加齢性の変化である骨棘形成を伴っていることなどを総合すれば,被控訴人の頚椎椎間板ヘルニアは本件交通事故以前に存在していた既往症であることが明らかであり,仮に,頚椎椎間板ヘルニアが本件事故によって生じたものとすれば,起きてはいられないほどの激しい頚部痛を訴え,その症状は受傷直後又はその後の数日間が最も重く,次第に軽快してくるのが医学的常識であるのに,被控訴人の事故直後の症状所見にはこれに沿うものが見当たらないとされており,これに反する証拠は存しない。そうすると,本件事故後の検査結果として診断された頚椎椎間板ヘルニアが,本件事故に基づく外傷性のものであるとする上記の各診断は採用することができず,本件事故による負傷内容として確実に認められるのは「左膝・両大腿打撲,頚椎捻挫」であって,「頚椎椎間板ヘルニア」は本件事故以前から生じていた既往症というべきである。 (3) また,上記の後遺障害診断書においては左三角筋等の筋力や左上肢の腱反射の低下が指摘されているものの,A病院における事故当日の診断では上下肢の運動が「OK」とされていたことは上記のとおりであるほか,乙23号証によれば,C病院の平成12年12月26日の診察でも被控訴人の上肢の筋力や腱反射は正常であったと認められることからすれば,上記の筋力低下や腱反射の低下についても本件事故に基づくものと認めることはできない。さらに,左肩関節の運動制限については,本件事故後の診療録にはその原因と は正常であったと認められることからすれば,上記の筋力低下や腱反射の低下についても本件事故に基づくものと認めることはできない。さらに,左肩関節の運動制限については,本件事故後の診療録にはその原因となるような外傷の指摘はなく,他動運動の制限が生じている点は頚椎椎間板ヘルニアでは説明がつかないことから,これも本件事故に基づくものということはできない。 (4) もっとも,上記後遺障害診断書で指摘された「頚部痛」等の神経症状については,上記の意見書(乙60)においても,既往症としての頚椎椎間板ヘルニアに本件事故に基づく頚椎捻挫の外傷が加わって頚部痛等の神経症状が生ずる可能性までは否定されていないことからすれば,本件事故との因果関係を肯定し得る後遺障害というべきであり,本件各証拠から認められる診断内容や各診断書の記載等を総合すれば,その程度は12級12号に該当するものと認められる。そして,上記神経症状の発症に既存の頚椎椎間板ヘルニアが寄与した割合は50%とするのが相当であり,被控訴人の人的損害からこれを減額すべきものと認められる。 (5) 損害ア治療費等104万9898円被控訴人が前記認定の治療により,治療費合計81万1325円,通院交通費合計10万9670円及び装具代1万0403円を負担したことは当事者間に争いがなく,前記認定の入院(計79日)に伴う雑費としては,1日1500円の割合によって計算した合計11万8500円が相当と認められる。 イ休業損害187万3970円被控訴人が本件事故による受傷及び治療のため,事故日である平成12年11月6日から症状固定日である平成13年5月14日までの間(合計190日)休業を余儀なくされたこと,被控訴人の平成11年度の所得合計が360万 事故による受傷及び治療のため,事故日である平成12年11月6日から症状固定日である平成13年5月14日までの間(合計190日)休業を余儀なくされたこと,被控訴人の平成11年度の所得合計が360万円であることは当事者間に争いがなく,以上により計算した休業損害の額は187万3970円(10円未満切捨て)となる。 ウ逸失利益389万1736円被控訴人は,症状固定日である平成13年5月14日当時52歳であるところ(甲1),上記のような被控訴人の後遺障害の内容にかんがみると,62歳までの10年間,その労働能力の14%を喪失したものと認めるのが相当であり,基礎年収を360万円とし(甲12),ライプニッツ係数(7.7217)によって中間利息を控除した上記の金額が本件事故による逸失利益と認められる。 エ慰謝料397万円本件事故の態様等に加え,前記(1)ないし(4)に認定の傷害及び後遺障害の内容並びに治療状況等を考慮し,本件事故による慰謝料としては,入通院分197万円,後遺障害分200万円をもって相当と認める。 オ既往症による寄与分の減額以上のとおり,本件事故を契機として被控訴人に生じた損害は,合計1078万5604円となるところ,いずれも人的損害であり,上記のとおりの既往症による寄与分の減額を行うと,本件事故に基づくものと認められるのはその50%である539万2802円となる。」(2) 同8頁2行目の次に,行を改め次を加える。 「 そして,前記のとおり本件事故に基づくものと認められる損害額539万2802円に2割の過失相殺をすると,431万4242円となる。」(3) 同8頁4行目から14行目末尾までを次のとおり改める。 「 以上のとおり, 事故に基づくものと認められる損害額539万2802円に2割の過失相殺をすると,431万4242円となる。」(3) 同8頁4行目から14行目末尾までを次のとおり改める。 「 以上のとおり,控訴人が被控訴人に支払うべき過失相殺後の賠償金額は431万4242円となるところ,被控訴人が本件事故に基づく賠償金として既に少なくとも550万4832円(被控訴人が本訴請求以外の治療費分とする34万4867円を除いても515万9965円)の支払を受けていることは当事者間に争いがないから,上記の既払金を超えて更に控訴人が被控訴人に支払うべき金員はないというべきである。」 3 以上によれば,被控訴人の請求は理由がなく,棄却すべきであり,これと異なる原判決は失当であるので,原判決中控訴人の敗訴部分を取り消して,被控訴人の請求を棄却することとする。 よって,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁判長裁判官西島幸夫裁判官齋藤憲次裁判官永谷幸恵

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