平成15年7月25日判決言渡し・同日原本領収裁判所書記官高瀬美喜男平成12年(ワ)第517号火災保険金請求事件口頭弁論終結日平成15年3月7日判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1400万円及びこれに対する平成10年12月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,原告と被告との間の損害保険契約に基づき,保険の目的である建物,什器・備品等が火災で焼損し,原告に損害が生じたとして,保険金及び遅延損害金の支払を求める事案である。 なお,本訴係属中に当初被告とされた日産火災海上保険株式会社(以下「日産火災」という。)が被告に吸収合併されたため,被告が訴訟を承継した。 1 争いのない事実等(1) 原告は,平成10年12月4日当時,原告の母の所有する前橋市a町b番地の土地(以下「本件土地」という。)上に建物(木造石綿スレート葺き,サイディング張り2階建て,店舗併用住宅1棟延べ98.6平方メートル。以下「本件建物」という。)を所有していた。 (2) 被告は,損害保険業等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。 (3) 原告は,平成10年9月8日,日産火災との間で,以下の約定による火災保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。)。 ア保険種類店舗総合保険イ証券番号 2000597830ウ保険期間平成10年9月13日から同11年9月13日午後4時までエ保険金額 ①本件建物 1200万円②什器・備品等 200万円オ保険料 3万6720円カ目的物件所在地本件土地キ目的物件所有者原告ク目的物件の構造等モツコツボウカサイデ 1200万円②什器・備品等 200万円オ保険料 3万6720円カ目的物件所在地本件土地キ目的物件所有者原告ク目的物件の構造等モツコツボウカサイデイングバリスレートブキ店舗地上2階1戸一棟ケその他その他,詳細は,平成8年1月改定の店舗総合保険普通保険約款(乙3。以下「本件約款」という。)に従う。 (4) 本件建物は,平成10年12月4日午後9時ころ,その1階物置付近から出火し,その結果,本件建物及び本件建物内にあった什器・備品等がすべて焼損した(以下「本件火災」という。)。 (5) 本件約款の定め本件約款は,1条及び2条として以下の規定を置いている(乙3)。 「第1条(保険金を支払う場合)当会社は,この約款に従い,次に掲げる事故によって保険の目的について生じた損害(消防または避難に必要な処置によって保険の目的について生じた損害を含みます。以下同様とします。)に対して,損害保険金を支払います。 (1) 火災(以下略)」「第2条(保険金を支払わない場合)当会社は,次に掲げる事由によって生じた損害または傷害に対しては,保険金(損害保険金,持ち出し家財保険金,水害保険金,臨時費用保険金,残存物取片づけ費用保険金,失火見舞費用保険金,傷害費用保険金,地震火災費用保険金または修理付帯費用保険金をいいます。以下同様とします。)を支払いません。 (1) 保険契約者,被保険者またはこれらの者の法定代理人(保険契約者または被保険者が法人であるときは,その理事,取締役または法人の業務を執行するその他の機関)の故意もしくは重大な過失または法令違反(以下略)」(6) 日産火災は,平成14年4月1日,被告に吸収合併された。被告は,同年7月1日,商号を安田火災海上保険株式会社から株式会社損 るその他の機関)の故意もしくは重大な過失または法令違反(以下略)」(6) 日産火災は,平成14年4月1日,被告に吸収合併された。被告は,同年7月1日,商号を安田火災海上保険株式会社から株式会社損害保険ジャパンに変更した(弁論の全趣旨)。 2 争点(1) 本件保険契約における火災の原因の主張立証責任(原告の主張)本件保険契約においては,原告は,火災により本件建物及び什器・備品等が焼損したことを主張立証すれば足り,被告が保険金の支払を免れるためには,本件約款2条1項(1)の免責事由の存在を主張立証しなければならない。 (被告の主張)火災保険金の支払を求める原告は,本件火災が偶然に発生したものであることについて主張立証する責任がある。 (2) 本件火災の原因(原告の主張)本件火災が偶発事故であって原告が招致したものでないことは,以下に指摘するところから明らかである。 また,本件火災当日,原告は,午後7時ころ本件建物を出て人と会い,本件建物に戻ってきたのは午後11時ころのことであったから,原告が午後9時ころに出火したとされる本件建物に放火することはそもそも不可能である。 ア本件火災の出火場所が本件建物西側の物置であることは明らかであるが,発火地点を同物置北側棚の中央付近とする消防署の調査結果を覆すべき事情はない。同物置西側の小窓が激しく焼損しているのは,狭い物置の発火地点の棚から出火した火が同物置全体に燃え広がって,上記小窓が破れた途端に一気に燃え上がったためであって,このことから直ちに発火地点を上記小窓付近とすることはできない。 イ本件火災の原因については,タオルに落ちたたばこの灰が火種と判定された。被告は,株式会社分析センター(以下「分析センター」という。)が本件火災後に焼残物を採取しそこから軽油成分を検出したことをもって,原告 災の原因については,タオルに落ちたたばこの灰が火種と判定された。被告は,株式会社分析センター(以下「分析センター」という。)が本件火災後に焼残物を採取しそこから軽油成分を検出したことをもって,原告又はその関係者による放火を疑うもののようである。しかし,出火直後,消防署や警察署により原告の立会い及び指示の下合同調査がなされた際には,油類(発火性物質)の反応は出なかった。 日産火災及び損害保険サービスは,上記合同調査には立ち会わず,また,自ら調査するに当たっては,原告を現場に呼んだものの,上記消防署等による合同調査のときのように原告に立ち会わせたり指示させることもなく,「物置から焼残物を採取して発火性成分を分析した」旨主張するものの,物置のどこでどのような焼残物を採取したかについて,原告には一切知らせていない。 したがって,現場から焼残物を採取したといっても,原告がその採取場所や焼残物自体を確認していない以上,検査の対象物件が正確に採取されたものか疑わしい。そもそも,消防署や警察署の合同調査で発見されなかった発火性物質が,その後の損害保険サービスによる独自の調査で発見されるとは考えにくく,上記調査経過にも照らすと,上記主張を信用することはできない。 また,仮に被告の主張するように発火性物質が物置から検出されたとしても,その事実から直ちに原告又はその関係者による放火を推測することはできない。なぜなら,①軽油35マイクログラム/グラム,ろう1.2マイクログラム/グラムという量は,微量すぎて火災の発生原因とはなり得ず,②被告は,上記調査による検出量が通常の家屋(店舗)における存在量を大きく上回る旨主張するが,そこにおいて比較の対象とされた通常の存在量が明らかでないから,上記主張は無意味な主張であり,③建築資材には,木材を含めすべての建材類に油成 の家屋(店舗)における存在量を大きく上回る旨主張するが,そこにおいて比較の対象とされた通常の存在量が明らかでないから,上記主張は無意味な主張であり,③建築資材には,木材を含めすべての建材類に油成分が含まれているからである。 原告は,たまたま2回にわたって火災の被害を受けたにすぎず,いずれの火災においてもその保険金額は低く,いわゆる焼け太りをする余地はない。また,原告は,経済的にも恵まれており,放火をする動機は全くない。これらの点につき疑念を抱くべき客観的事情があればともかく,本件火災においてはそれがない以上,原告又はその関係者による放火を推測するのは失当である。 ウ本件火災に先立つ平成3年8月9日,本件建物と同じ場所に当時存在したプレハブ建物が全焼する火災が発生したが(以下「先行火災」という。),この先行火災は,当時の消防署員作成の火災調査書にもあるとおり放火の疑いはなく,原告は出火原因は不明だが扇風機のモーターの過熱が火元との説明を受けた。そして,先行火災により原告が受け取った保険金は低額であり,いわゆる焼け太りは全くなかった。 また,本件火災についてみると,本件建物の所在地は,前橋市の区画整理対象地区であり,本件火災がなければ,平成12年秋ころには原告が受け取るべき保険金額以上の建物移転補償費が支払われる状況にあった。この移転補償との関係では,平成12年10月30日,工作物,立竹木及び動産の補償費として105万8100円が原告に支払われたが,建物の補償費については,本件建物が本件火災により焼失して取り壊されたため支払われなかった。 (被告の主張)以下に指摘する諸事情にかんがみると,本件火災の原因は,内部者すなわち原告又はその関係者による放火であるとしか考えられない。 また,原告は,アリバイを主張するが,出火時刻に火災現場にいな 被告の主張)以下に指摘する諸事情にかんがみると,本件火災の原因は,内部者すなわち原告又はその関係者による放火であるとしか考えられない。 また,原告は,アリバイを主張するが,出火時刻に火災現場にいなくても,時限装置を用いれば容易に出火させることができるし,ろうそくや線香を用いてそれらの長さを調節することにより,発火までの時間の長短も調節することができる。そして,本件火災現場からろうが検出されていることは,原告がろうそくを使いアリバイ工作をした可能性が高いことを示している。 ア本件火災の出火場所は,本件建物1階の物置であることが明らかである。そして,中央消防署員が作成した火災原因判定書では,出火場所は,同物置の北側から東側にかけてL字型に3段となっていた棚であり,北側棚の2段目中央から西側の消失した付近から出火したものと判定されている。しかし,上記署員が作成した実況見分調書の記載からも明らかなとおり,同物置の中で燃え方の最も激しい箇所が同物置西側の壁際付近であること,同物置西側土台の焼残物から軽油成分が検出されたことなどからすれば,同物置西側の壁際付近が出火場所であると考えられる。 イそこで,本件火災の出火原因を検討するに,①本件火災当時,上記物置内には,照明器具,ペットヒーター及び石油ファンヒーターがあったが,これらの物の焼損状況に照らすと,これらの物が出火原因となったものとは認められないこと,②本件建物は,比較的目に付きやすい位置にあり,本件火災の発生時,上記物置の南側出入口以外の開口部はすべて施錠されていた上,本件建物には,トリミング室,上記物置及び屋外運動場に常時15匹ほどの犬が放し飼いにされていて,部外者が容易に侵入できない状態にあったのであるから,外部の者による放火は考えにくいことなどからすると,内部の者すなわち原告又は ,上記物置及び屋外運動場に常時15匹ほどの犬が放し飼いにされていて,部外者が容易に侵入できない状態にあったのであるから,外部の者による放火は考えにくいことなどからすると,内部の者すなわち原告又はその関係者による放火が原因であると考えられる。 この点,中央消防署員が作成した火災原因判定書では,商売上の信用及び近隣住民に対する信用を失うことになるから,原告に火災を発生させるメリットがあるとは考えにくいとして,内部関係者による放火は考えにくいと判定している。しかし,分析センターが,出火室である物置内から焼残物を採取し,ガスクロマトグラフ質量分析法により可燃性液体量及び可燃性固体量の分析調査を実施したところ,上記物置西側土台部分から採取した焼残物から,軽油及びろうを起源とする脂肪族飽和炭化水素群が検出され,それらのうち,軽油に帰属される成分の検出量は,軽油換算値で35マイクログラム/グラムを記録した。この検出量は,分析センターにおける模擬火災実験の結果から検討すると,通常の家屋(店舗)における存在量を大きく上回るものであった。消防及び警察による簡易式油性反応検査は,バケツ内の水に焼残物を入れ,油膜を確認するという方法で実施されるところ,高温により焼けた炭化物を水の中に入れても油膜を確認することは困難である。近時多く用いられている油性分析(ガスクロマトグラフ)による検査の方がより正確であるが,この検査方法は費用が掛かるため,消防や警察では,予算の関係上簡易な検査方法によっている。そのため,消防や警察が行った簡易式検査で判明しないものが,ガスクロマトグラフにより発見されることも多く,後者の検査の方がより正確なものといえる。 そして,本件建物において元々軽油が存在したとの記録はない。一般家庭においては,冬場は石油ストーブを使用することがあるので灯 ラフにより発見されることも多く,後者の検査の方がより正確なものといえる。 そして,本件建物において元々軽油が存在したとの記録はない。一般家庭においては,冬場は石油ストーブを使用することがあるので灯油が検出されることはあるが,軽油が検出されることはほとんどない。また,ろうについても,本件物置付近で元々ろうそくが使用された形跡はなく,本件火災後に軽油及びろうが検出されたことは不自然であるといわざるを得ない。原告は,建築材には油成分が含まれている旨主張するが,木材等に含まれる油性成分は,元々少量である上,乾燥等の過程で更に減少するため微量なものにとどまり,その化学構造も軽油とは異なるので化学分析で軽油と間違えることはない。したがって,出火場所から本来存在するはずのない軽油成分が検出されたことは,本件火災の原因が放火であることを推認させる。 なお,原告は,炭化物の採取について,事前通告もなく,権限のある者の正式な立会いや確認の機会もないまま一方的に実施されたものであるから,公式な調査とは認められないと主張する。しかし,炭化物を採取しても,その場で油性反応の有無が確認されるわけではなく,専門家に依頼し分析器を用いて分析して初めて検査結果が判明するものである。したがって,原告の立会いがなかったとしても,そのことが検査の正確性を疑わせるものではないし,そもそも上記焼残物の採取の際には原告も立ち会っていた。 ウ加えて,前橋中央消防署は先行火災の原因を不明としたが,先行火災についても,明らかに建物内部からの出火であったこと,建物内に存在した電気器具やガス器具等発火の可能性のある器具の故障や電気配線の漏電による可能性が否定されていること,たばこの不始末などの失火によって発生したものとも認められないこと,建物の各開口部がいずれも施錠されており,外部者に 等発火の可能性のある器具の故障や電気配線の漏電による可能性が否定されていること,たばこの不始末などの失火によって発生したものとも認められないこと,建物の各開口部がいずれも施錠されており,外部者による放火の可能性も認められないこと,原告が火災保険金600万円を現に受け取っていることなどに照らすと,原告又はその関係者による放火の可能性が強く疑われる。そして,本件火災と先行火災との間には,火災が建物内部から生じたこと,建物の開口部が施錠されていたこと,焼損した建物の売却価値が低いことなどの共通点が多々認められるので,本件火災は,先行火災と同様,原告又はその関係者による放火によって発生したものと強く疑われる。 (3) 原告に生じた損害の額(原告の主張)本件火災により,本件建物は全焼し,什器・備品等も焼損により使用不能となった。したがって,被告は,原告に対し,前記争いのない事実等(3)エ記載の保険金額合計1400万円及びこれに対する本件火災の発生した日の翌日である平成10年12月5日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告の主張については争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(火災原因の主張立証責任)について権利の発生原因事実は,その権利を主張する者が主張立証すべきであるから,損害保険契約に基づく保険金の請求をする者は,当該損害保険契約に定める保険事故の発生の事実を主張立証しなければならず,具体的に主張立証すべき事実の内容ないし程度は,当該損害保険契約の合意の内容に沿って判断すべきものである。 ところで,本件保険契約においては,前記のとおり,本件約款1条1項(1)において,単に「火災」と規定するのみであり,偶然のものであること,ないし,保険契約者らの故意等に基づくものでないことは, る。 ところで,本件保険契約においては,前記のとおり,本件約款1条1項(1)において,単に「火災」と規定するのみであり,偶然のものであること,ないし,保険契約者らの故意等に基づくものでないことは,明文上求められていない。 しかし,そもそも損害保険契約は,商法629条において,偶然の一定の事故によって生ずる損害を填補するものと定められているところ,火災保険も損害保険の一種であるから,火災保険である本件保険契約も,それが損害保険契約としての性質を有する以上,上記商法の規定を当然の前提としているものと合理的に解釈することができる。また,保険金の不正請求防止の必要性などの点からしても,本件のように,契約において偶然のものであることが明文上定められていなくても,損害保険である火災保険の保険金を請求する者は,当該火災が偶然のものであることについて主張立証責任を負うものと解すべきである。 2 争点(2)(本件火災の原因)について(1) 本件火災前後の状況等前記争いのない事実等に加えて,甲10の1,2,甲11,乙1,2,5,6,12,13,15,16,19の1,乙22,証人A,同B,同C,原告本人,調査嘱託の結果(平成14年5月7日付け)及び弁論の全趣旨によれば,本件火災前後の状況等につき,以下の事実が認められる。 ア本件建物の所在及び使用状況(ア) (略)(イ) (略)イ本件建物の焼損状況と出火場所(ア) 本件建物の内部構造は別紙出火建物平面図(略)のとおりであるところ,以下のとおり,本件建物は,本件火災により,いわゆる全焼の状態となった。 a 1階玄関天井材が焼損,脱落し,野縁,竿縁が露出して一部焼損しているが,野縁,竿縁は,西側の焼損が強かった。また,西側壁面の中央付近から上部が焼損し,壁材が崩れ落ち,構造材が露出していた。 b 1階 階玄関天井材が焼損,脱落し,野縁,竿縁が露出して一部焼損しているが,野縁,竿縁は,西側の焼損が強かった。また,西側壁面の中央付近から上部が焼損し,壁材が崩れ落ち,構造材が露出していた。 b 1階トリミング室天井材が焼損し所々脱落しているほか,野縁,竿縁が一部焼損,炭化し,物置との出入口上部付近の野縁,竿縁は全体に焼き細っていた。 また,物置に通じる北西角の片開き戸は物置側に開放された状態であり,同片開き戸上部の垂れ壁部分の内壁材は焼損,脱落し,間柱が焼損,炭化していた。さらに,西側壁面は,下部については,すすが付着している程度で焼けはなかったものの,上部については,焼損して壁紙が焼失し,下地の石膏ボードが焼損,黒変しており,北側に向かうほど焼損が強かった。 c 1階居間西側のトリミング室に通じるドアの上から約20センチメートルが焼失しており,同ドア上部及び南側壁面が若干焼損し,北面西端にあるトイレ上部の垂れ壁が焼損しているほかは,全体にすすぼけていた。床面はすすが付着しているが焼損はなかった。 なお,2階に通じる階段の下で,犬2匹の焼死体が発見された。 d 1階物置(a) 天井が焼失し,屋根構成材が全面炭化し焼け細っており,内壁も全体的に焼損し内壁材が脱落しているなど,最も焼損の程度が強かった。 部屋の中には,本件火災当時,北側壁面から東側壁面にかけて3段のL字型の棚が設置されており,その設置状況は,別紙現場復元図(略)のとおりであったところ,北側の棚は東側半分が床(コンクリート製)の中央方向へ焼け崩れており,東側の棚は中央部分が床の中央方向へ焼け崩れていた。また,北側の棚の西端には2段目と3段目に焼け残りがあり,2段目西端のタオルやエプロンの入っていた段ボール箱には東側下方から西側上方へ焼け上がった痕跡があった。 部屋の中の蛍 央方向へ焼け崩れていた。また,北側の棚の西端には2段目と3段目に焼け残りがあり,2段目西端のタオルやエプロンの入っていた段ボール箱には東側下方から西側上方へ焼け上がった痕跡があった。 部屋の中の蛍光灯は,天井部分が焼損した時に落下したが,その配線類には1次痕はなかった。また,犬用ペットヒーターは,東側壁面にあるコンセントに接続された状態であり,スイッチが「入」になっていたものの,同スイッチからペットヒーター本体側にかけて焼損はほとんどなく,同スイッチから差し込みプラグまでの被覆は焼失し芯線が露出していたものの,1次痕はなかった。さらに,東側の棚にあった石油ファンヒーターは,全体が焼損していたものの,ほとんど変形しておらず,そのカートリッジタンク内には灯油は入っておらず,電源コードも抜かれた状態であった。 また,南側の引き戸は,約20センチメートル開放された状態であった。 (b) なお,本件火災発生から4日後の平成10年12月8日に損害保険サービスの従業員が1階物置の西側土台から焼残物である木材を採取し,分析センターにおいてガスクロマトグラフ質量分析法により上記焼残物の成分分析をしたところ,同焼残物から軽油及びろうに帰属すると推定される成分がそれぞれ検出された(その検出量は,それぞれ,軽油換算値で35マイクログラム/グラム,ろう換算値で1.2マイクログラム/グラムであった。)。 この点について,原告は,①損害保険サービスは,物置のどこでどのような焼残物を採取したかについて,原告に一切知らせず,②そもそも,消防署や警察署の合同調査で発見されなかった軽油が,その後の損害保険サービスによる独自の調査で発見されるとは考えにくいことを理由に,上記調査の結果を信用することはできないと主張する。 しかしながら,上記①の点については,損害保険サービス った軽油が,その後の損害保険サービスによる独自の調査で発見されるとは考えにくいことを理由に,上記調査の結果を信用することはできないと主張する。 しかしながら,上記①の点については,損害保険サービスの従業員が本件建物から焼残物を採取する際,原告のいとこであり日産火災の代理店の経営者でもあるDが,現場で立ち会った上,上記従業員が火災現場から物を採取して袋に入れるところを見ていたほか,原告もその採取場面をDと一緒に見ていたこともあったのであり(証人D,原告本人),これに加えて,上記焼残物の採取場面が写真撮影されている(乙2)ことも併せ考えると,損害保険サービスの従業員による上記焼残物の採取過程の信用性は担保されているというべきであり,ほかに,上記焼残物の採取過程が不自然であることを認めるに足りる証拠はない。また,上記②の点についても,本件火災の調査において警察が採った油性成分の検出方法と分析センターの採ったそれとの感度の違いから説明することができる。すなわち,本件火災の調査において警察が採った油性成分の検出方法は,バケツにくんだ水に焼残物を浮かべて油膜ができるかどうかを確認するというものであったところ(乙6,証人B),このような簡易な検出方法は,分析センターの採ったガスクロマトグラフ質量分析法と比較すると格段に感度が落ちるから(乙12,16,22,証人A),本件火災の調査において警察の採った上記の簡易な検出方法によって油膜の存在が確認できなかったからといって,分析センターの実施したガスクロマトグラフ質量分析法により軽油に帰属すると推定される成分が検出されることが不自然であるとはいえない。以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 e 2階寝室天井は,壁紙が焼失し,石膏ボードが東側から西側に向かうほど炭化している。また, 分が検出されることが不自然であるとはいえない。以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 e 2階寝室天井は,壁紙が焼失し,石膏ボードが東側から西側に向かうほど炭化している。また,北西角にある納戸については,中央から西側の床構成材が焼失し,壁面の内装材が脱落しており,東側の床面は所々焼き抜け,壁面の内装材は半分から下部が焼損し黒くなった石膏ボードが残存しており,その上部は脱落している。さらに,部屋の北東角にあるベッドは,その上部及び横面が燻焼しているにとどまり,部屋の南東角にあるテーブル及びテレビは,いずれも上部が溶融しているが焼けはない。 (イ) 本件火災の第1発見者であるEは,当初,本件建物からは火が噴き出しておらず,その周囲に煙が漂っていただけであったが,その後,1階物置の窓から火が噴き出し始めた状況を目撃した。 (ウ) 上記(イ)のとおり,1階物置の窓から火が噴き出し始めていることから,本件建物は,その内部から出火したものと認められるところ,上記(ア)のとおり,1階物置が最も焼損の程度が強かったこと,1階物置以外の各部屋の焼け上がり等の焼損状況が1階物置から出火したことを示す徴候を示していること,1階物置内の棚が同部屋の中央方向に焼け崩れていることなどからすると,本件建物は,1階物置の中央部床面から出火したものと認められる。 ところで,本件火災の消火に当たった中央消防署西分署は,本件火災の出火箇所について,1階物置北側にある棚の2段目の中央から西側にかけての付近であると判定している(乙1添付の火災原因判定書)。しかしながら,乙1,19の1,証人Cによれば,上記箇所に置かれていた段ボール箱が焼け残っていることが認められ,かかる事実によれば,上記箇所が出火箇所であると認めることはできない。 ウ原告の本件火災前の状 ら,乙1,19の1,証人Cによれば,上記箇所に置かれていた段ボール箱が焼け残っていることが認められ,かかる事実によれば,上記箇所が出火箇所であると認めることはできない。 ウ原告の本件火災前の状況等(ア) 原告の資金需要原告は,平成10年6月ころから,本件建物で経営していたペット美容院を移転する計画を立て,本件火災当時,原告の母親が同年10月28日に購入した前橋市a町c番地の宅地上に,ペット美容院の移転先となる建物を建築することを計画していた。したがって,原告には,本件火災当時,新築を計画していた上記建物の建築費用に関する多額の資金需要があったものというべきである。 なお,上記建物の建築について,原告は,本件火災の約1週間後に上記建物の建築契約を業者との間で正式に締結し,その後,平成11年3月ころに建築の着工がなされ,同年6月3日に上記建物が完成した。そして,上記建物の建築費用として約3000万円掛かっている。 (イ) 原告の罹災歴平成3年8月9日,当時原告が本件土地上に所有していた建物(以下「本件旧建物」という。)が先行火災により焼失した。 先行火災は,原告がペット美容院の店舗専用建物であった本件旧建物を留守にしている間に発生したもので,火災原因は不明であるとされているが,結局,原告は,先行火災により,保険会社から約600万円の保険金を受領した。 エ本件火災当日(平成10年12月4日)の原告の行動(ア) 本件火災当日はペット美容院の営業日であり,原告は,他の2名の従業員とともに午前中から本件建物内で働いていた。 (イ) 他の従業員2名は,午後4時ころまでに,その日の仕事を終えて本件建物を出た。その後は,原告のみが本件建物内に残って後片付け等をしていた。 (ウ) 原告は,午後7時ころ,玄関を施錠して本件建物から出て,知人男性とと は,午後4時ころまでに,その日の仕事を終えて本件建物を出た。その後は,原告のみが本件建物内に残って後片付け等をしていた。 (ウ) 原告は,午後7時ころ,玄関を施錠して本件建物から出て,知人男性とともにパチンコ等をしに出掛けたが,その際には,本件建物内において,異臭がするなど火災の発生をうかがわせる徴候はなかった。その後,原告は,本件火災発生後の午後11時過ぎころ,本件建物に帰宅した。 (2) 本件火災の原因について以上の事実を前提として,本件火災の原因について判断する。 ア本件火災の原因及び態様等(ア) 前記(1)イのとおり,本件建物の出火場所は1階物置中央部の火の気のないコンクリート製床面であること,そこで認定した蛍光灯や犬用ペットヒーターといった電気関係及び石油ファンヒーターの各焼損状況からするとこれらが原因となって本件火災が発生したとは考え難いことなどを併せ考慮すると,本件建物の出火原因は放火によるものと推認することができる(以下「本件放火」という。)。 (イ) 軽油の使用a また,①前記(1)イ(ア)dのとおり,出火場所である1階物置の西側土台から軽油に帰属すると推定される成分が検出されたところ,かかる成分が検出されたのは,本件火災による焼残物がほとんど撤去された後である本件火災発生から4日も経過した時点で採取された焼残物からであり,②しかも,前記(1)イのとおり,本件建物が火の気のない場所から出火して全焼するほど激しく燃えており,③さらに,原告が本人尋問において軽油を購入したり使用したことはないと供述している上,出火場所である1階物置にあったプラスチック製のペット搬送容器と同種の容器からは軽油成分が検出されず(乙7の1,2,証人A),建築資材である木材に含まれる油性成分の化学構造が軽油のそれとは異なっており(乙22), 階物置にあったプラスチック製のペット搬送容器と同種の容器からは軽油成分が検出されず(乙7の1,2,証人A),建築資材である木材に含まれる油性成分の化学構造が軽油のそれとは異なっており(乙22),本件火災前に本件建物に散布された白あり防除剤に含まれる油性成分は軽油ではなかったこと(乙48)からすると,上記の検出された軽油は,本件火災前から1階物置に存在したものではなく,本件火災時に存在するに至ったものと考えるのが合理的であることなどを総合考慮すると,本件火災において,軽油が用いられたものと推認することができる。 b この点について,原告は,①分析センターの検査によって検出された軽油35マイクログラム/グラム,ろう1.2マイクログラム/グラムという量は,微量すぎて火災の発生原因とはなり得ないこと,②被告は,上記調査による軽油の検出量が通常の家屋(店舗)における存在量を大きく上回る旨主張するが,そこにおいて比較の対象とされた通常の存在量が明らかでないから,上記主張は無意味な主張であること,③建築資材には,木材を含めすべての建材類に油成分が含まれていることを理由に,本件火災が軽油を使用した放火であると推測することはできないと主張する。 しかしながら,原告の主張する上記①の点については,模擬火災実験において,木造小屋の内部に灯油を散布して火災を発生させ,鎮火後に灯油を散布した木製床材から灯油を検出したところ,その灯油の量が6マイクログラム/グラムであった例もあること(乙22)にかんがみると,分析センターの検査によって検出された軽油35マイクログラム/グラムという量は,微量すぎて火災の発生原因になり得ないということはできず,ろうが1.2マイクログラム/グラムしか検出されなかったことについても,ろうそくが燃焼すると消滅する性質があること(乙2 /グラムという量は,微量すぎて火災の発生原因になり得ないということはできず,ろうが1.2マイクログラム/グラムしか検出されなかったことについても,ろうそくが燃焼すると消滅する性質があること(乙21,24)などに照らすと,上記のろうの検出量が微量すぎて火災の発生原因となり得ないものとは認められない。また,原告の主張する上記②の点についても,分析センターの採った検出方法であるガスクロマトグラフ質量分析法は,その油性成分の検出限界が0.3マイクログラム/グラムであるところ,軽油とのかかわりのない建物で火災が発生してもその焼残物から軽油に相当する成分が検出されることはないから(乙22),軽油とかかわりがないものと認められる本件建物(この点,本件建物の所有者である原告自身が,本人尋問において,軽油を購入したことはないと供述している。)の焼残物からガスクロマトグラフ質量分析法により検出された35マイクログラム/グラムという軽油の量は,通常の家屋における存在量を大きく上回る量であると評価することができる。さらに,原告の主張する上記③の点についても,建築資材のうち木材については,そこに含まれる油性成分の化学構造が軽油のそれと異なり(乙22),本件建物に使用されていた木材以外の建築資材についても,そこに軽油が含まれていることを認めるに足りる証拠がない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (ウ) ろうそくの使用a 加えて,①前記(1)イ(ア)dのとおり,出火場所である1階物置の西側土台からろうに帰属すると推定される成分が検出されており,②また,出火場所である1階物置にあったプラスチック製のペット搬送容器と同種の容器からはろうの成分が検出されなかったことからすると(乙7の1,2,証人A),上記の検出されたろうは,本件火災前から1階 また,出火場所である1階物置にあったプラスチック製のペット搬送容器と同種の容器からはろうの成分が検出されなかったことからすると(乙7の1,2,証人A),上記の検出されたろうは,本件火災前から1階物置に存在したものではなく,本件火災時に存在するに至ったものと考えるのが合理的であり,③さらに,仮に,媒介物等に直接点火する方法を用いたとすると,その性質上,本件放火の実行行為者は,出火時刻直前に本件建物に所在していたことになるが,本件火災の発生時刻は,平成10年12月4日午後9時ころの夜間であり(前記争いのない事実等(4)),この時間帯に,本件建物内に侵入した上,上記(イ)のとおり,軽油を使用して媒介物等に直接点火するという態様で放火することは,極めて困難であるといえ,④また,本件火災の第1発見者であるEも,損害保険サービスの調査に対し,本件建物の周囲で人を見掛けた旨の供述をしていない(乙6)ことなどからすると,本件火災は,ろうそくを立てるなどした上で点火し,これが燃焼することによって,軽油を含んだ媒介物等,さらには本件建物本体に延焼したことによるものと推認することができる。 b そして,ろうそくは,本件火災との関係では,時限発火装置の役割を果たしたものと推認することができる。 すなわち,乙20,21によれば,ろうそくと軽油の染み込んだ媒介物を用いれば,同ろうそくが燃焼し尽くすことによって,媒介物,さらには建物本体に延焼する発火装置を作ることが可能であると認められる。そして,乙23によれば,市販されているろうそくの燃焼時間は,その全長や直径の大きさによって異なり,十数分程度から数十時間程度であることが認められ,この事実からすると,ろうそくに点火してから実際に建物に出火するまでの間には上記の程度ないしそれ以上の時間を要するものと認められる さによって異なり,十数分程度から数十時間程度であることが認められ,この事実からすると,ろうそくに点火してから実際に建物に出火するまでの間には上記の程度ないしそれ以上の時間を要するものと認められる。したがって,上記のような方法によるならば,ろうそくに点火してから建物が出火するまでの時間を人為的に遅らせることができることになる。 この点について,原告は,本件火災現場には放火装置を設置した痕跡がないと主張する。しかしながら,本件火災現場からろうが検出された事実は,ろうそくを時限発火装置として設置した痕跡であるということができるし,また,原告の主張する意味内容が本件火災現場に目に見える形で放火装置が残っていないという意味であるとしても,ろうそくには燃焼すると消滅する性質があるので(乙21,24),ろうそくを時限発火装置として用いれば痕跡を残さずに放火することが可能であるといえるから,目に見える形で放火装置が残っていないということは,本件放火に時限発火装置が用いられたことを否定する理由にはならない。 イ第三者による放火の可能性(ア) 前記(1)イ(ア)dのとおり,本件建物の1階物置南側の引き戸が約20センチメートル開放された状態であったことからすると,一般的,抽象的には,第三者が同引き戸から本件建物に侵入した上放火した可能性を否定することはできない。 (イ) ところで,前記(1)エ(ウ)のとおり,原告が本件火災当日である平成10年12月4日午後7時ころ本件建物から外出する際には,本件建物内に火災の発生をうかがわせる徴候はなかったのであるから,第三者が放火したとすれば,同日午後7時ころから出火時刻である同日午後9時ころまでの間に,施錠されていない1階物置南側の引き戸から本件建物に侵入し,1階物置に放火したことになる。 しかし,前記(1)ア( が放火したとすれば,同日午後7時ころから出火時刻である同日午後9時ころまでの間に,施錠されていない1階物置南側の引き戸から本件建物に侵入し,1階物置に放火したことになる。 しかし,前記(1)ア(ア)のとおり,本件建物は,玄関のある北側が幅員6メートルの道路に面しているほかは,その東側がアパートと,南側が民家と,西側が駐車場を挟んでアパートとそれぞれ接しており,このような周囲の環境の中で,しかも人がまだ活動している上記時間帯に,第三者が本件建物に侵入すること自体容易でないといえる。また,仮に,本件火災が第三者による放火であるとした場合,上記(ア)からすれば,本件放火の実行行為者は1階物置南側の引き戸から本件建物に侵入した可能性が強いが,同引き戸が道路に面していない奥まったところにあることからすると,同引き戸に施錠がなされているかなど本件建物についての事情を知る者でなければ,本件建物への侵入を手際よく行うことは困難である。 さらに,前記(1)イ(ア)cのとおり,本件火災後,本件建物内から犬2匹の焼死体が発見されているところ,乙28の1,2によれば,本件火災時に本件建物とフェンスの間にいた犬が1匹救出されていることが認められ,以上によれば,本件火災時,本件建物内ないし本件建物に付属する屋外運動場には少なくとも3匹の犬が放し飼いにされていたことが認められる。このような状況下では,部外者が本件建物内に侵入すること自体極めて困難であったものといえる。 (ウ) 以上に加え,前記ア(イ)のとおり,本件建物に放火する際軽油が使用されていることからすると,本件放火は本件建物を全焼させることを意図してなされたものと推認することができるところ,一般的にいっても,怨恨等特段の事情のない第三者が,本件建物を全焼させることを意図して放火することは考え難い。この 放火は本件建物を全焼させることを意図してなされたものと推認することができるところ,一般的にいっても,怨恨等特段の事情のない第三者が,本件建物を全焼させることを意図して放火することは考え難い。この点,原告は,本件火災当時,ある人物からストーカー行為を受けていたなどと述べるが(甲13,原告本人),これを裏付けるに足りる客観的な証拠はなく,ほかに上記の特段の事情のある第三者が存在することをうかがわせる事情も認められない。 (エ) 以上の諸事情に照らせば,本件建物が第三者によって放火された可能性は極めて小さいものといわざるを得ない。 ウ原告による放火の容易性原告は,本件建物の所有者であってその内部構造を熟知している上,前記(1)エのとおり,本件火災当日の午後4時ころから午後7時ころまで原告は本件建物に一人でいたのであるから,上記時間帯に原告がろうそくと軽油を用いて放火の準備行為をすることは時間的に十分可能であったといえる。加えて,原告自身も,ろうそくを本件建物内に保管していたことを認めており(原告本人),本件放火に用いられたろうそくが上記の保管されていたものである場合,その所在を熟知していたことになることや,原告は本件建物の所有者であり本件建物内で放し飼いにしていた犬の飼い主であるから,原告が本件建物内にいても近隣住民等の第三者や飼っていた犬から不審がられることもないことなどを併せ考慮すると,原告が本件火災を発生させることは極めて容易な状況にあったものというべきである。 エ原告の動機をうかがわせる事情(ア) 前記(1)ウ(ア)のとおり,原告は,本件火災当時,原告の母親が購入した宅地上に,ペット美容院の移転先となる建物を建築することを計画しており,新築を計画していた上記建物の建築費用に関する多額の資金需要があったものというべきである。こ 本件火災当時,原告の母親が購入した宅地上に,ペット美容院の移転先となる建物を建築することを計画しており,新築を計画していた上記建物の建築費用に関する多額の資金需要があったものというべきである。これに加えて,前記(1)ウ(イ)のとおり,原告は,平成3年8月9日,原因不明の火災に罹災した結果,保険金を受領した経歴のあることも併せ考慮すると,原告には,放火をする経済的動機をうかがわせる事情が存在するというべきである。 この点について,原告は,本件建物の所在地は前橋市の区画整理対象地区であったから,本件火災がなければ平成12年秋ころには原告が受け取るべき保険金額以上の建物移転補償費が支払われる状況にあったのであり,原告には本件建物に放火する経済的動機がないと主張する。しかしながら,仮に本件建物が本件火災により焼失しなかったとしても,元来本件建物は区画整理に伴う移転補償の対象とはなっておらず,原告に本件建物の移転補償費が支払われることはなかったのであるから(乙14の1,2),原告の上記主張は,そもそもその前提を欠くので,採用することができない。 (イ) その反面,前記イ(ウ)のとおり,第三者による怨恨等の動機に基づく放火の可能性をうかがわせるに足りる事情は認められないし,上記以外の動機による放火の可能性についても,本件放火が,ろうそくや軽油を用いるなどかなり周到な準備の下に,しかも,あえて本件建物を全焼させることを意図したものであることなどにかんがみれば,極めて小さいものといわざるを得ない。 オ原告のアリバイについて前記(1)エ(ウ)のとおり,原告は,本件火災当日の平成10年12月4日午後7時ころ本件建物から外出し,本件火災発生時である同日午後9時ころには本件建物にいなかったものである。 しかし,前記ア(ウ)のとおり,本件放火は,ろうそく 告は,本件火災当日の平成10年12月4日午後7時ころ本件建物から外出し,本件火災発生時である同日午後9時ころには本件建物にいなかったものである。 しかし,前記ア(ウ)のとおり,本件放火は,ろうそくを時限発火装置として用いた上でなされたものと推認することができるところ,このような方法によれば,原告が本件建物に一人でいた同日午後4時ころから午後7時ころまでの間にろうそくに点火して本件火災を発生させることは,十分可能であったいうことができる。 3 結論以上のとおり,本件放火の態様等から見て,原告は,最も容易にこれを行い得る状況にあった反面,原告以外の第三者が本件放火を実行した可能性は極めて小さいこと,また,原告には,本件放火の動機となるべき経済的な理由をうかがわせるに足りる事情が存在すること,原告のアリバイも成立するものとはいえないことなどの各事情を総合的に考慮すると,原告が故意に本件建物に放火して本件火災を発生させた可能性は大きいものといえ,結局,本件火災が偶然のものであるという事実は,本件全証拠によってもこれを認めるに足りないといわざるを得ない。 したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 前橋地方裁判所民事第2部裁判長裁判官東條宏裁判官原克也裁判官高橋正幸
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