平成16年10月18日宣告裁判所書記官平成16年(わ)第257号殺人未遂被告事件判決 主文 被告人を懲役1年6月に処する。 未決勾留日数中190日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成15年12月16日午後11時ころ,福岡市a区b団地c番の同団地d棟前路上において,A(当時82歳)に対し,その頭部及び胸部を安全靴(平成16年押第22号の1)を履いた右足で多数回蹴り付けるなどの暴行を加え,よって,同人に加療約14日間を要する脳挫傷,頭部・胸部打撲傷等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)〈省略〉(事実認定の補足説明)第1 争点 1 公訴事実検察官は,要旨次のとおりの,殺人未遂の公訴事実によって,被告人を起訴した。 「被告人は,A(以下「被害者という。」という。)の言動に憤まんを募らせ,同人を殺害しようと決意し,判示の日時場所において,同人に対し,殺意をもって,その頭部及び胸部を安全靴を履いた右足で多数回踏み付けるなどの暴行を加えたが,同人に判示の傷害を負わせたにとどまり,同人を殺害するに至らなかったものである。」 2 当事者の主張弁護人及び被告人は,被告人が安全靴を履いた右足で被害者を蹴り付けるなどの暴行(以下「本件暴行」という。)を加え,判示のとおりの傷害を負わせたことは認めるが,(1)被告人には被害者に対する殺意がなかったので,殺人未遂罪ではなく,傷害罪が成立するに過ぎないと主張した。 そして,その前提として,(2)被告人が,被害者に対して振るった本件暴行の程度内容について,①検察官が,被告人は転倒した被害者を少なくとも20ないし3 傷害罪が成立するに過ぎないと主張した。 そして,その前提として,(2)被告人が,被害者に対して振るった本件暴行の程度内容について,①検察官が,被告人は転倒した被害者を少なくとも20ないし30回以上蹴りつけ,かつ,少なくとも2回以上,被害者の頭部に右足を乗せて踏み付けるように乗り上げた等と主張するのに対し,②弁護人及び被告人は,被告人が被害者の頭部に乗り上げた事実はなく,被害者を蹴り付けた回数も10回程度であった等と主張し,また,(3)本件暴行直後の被告人の言動について,①検察官が,被告人は本件暴行終了直後にも,被害者に対する攻撃続行の意欲を示した上に,被害者を殺すという趣旨の発言をした旨主張するのに対し,②弁護人及び被告人は,これを否定し,あるいは記憶がないとして争った。 よって,本件の争点は,(1)被告人の殺意の有無と,その前提としての,(2)本件暴行の態様,及び(3)本件暴行直後の被告人の言動,である。 3 本件の証拠構造争点(2)(3)について,検察官主張に沿う直接証拠は本件暴行の目撃者の供述であり,弁護人主張に沿う直接証拠は被告人の供述であるから,以下双方の供述の信用性を検討する。 また,争点(1)については,検察官主張に沿う直接証拠としては被害者に対する殺意を認めた被告人の捜査段階の供述があり,弁護人主張に沿う直接証拠としてはこれを否定する被告人の捜査終盤段階の供述及び公判供述が存在するので,各供述の信用性を検討するほか,創傷の部位・程度,本件暴行の態様,犯行動機及び本件暴行後の被告人の言動等,その情況証拠に照らして,殺意の存否を判断することとする。 第2 前提事実証拠(詳細は括弧内に示す。)によれば,争点の前提として,以下の事実が認められる。 1 被告人と被害者との関係,被告人の酒癖等 拠に照らして,殺意の存否を判断することとする。 第2 前提事実証拠(詳細は括弧内に示す。)によれば,争点の前提として,以下の事実が認められる。 1 被告人と被害者との関係,被告人の酒癖等(1) 被告人は,かねて飲酒をしては他人に迷惑をかけたため,会社を解雇され,住んでいた会社の寮も追い出されることになったが,行き先のない被告人に同情した友人Bの厚意で,平成15年11月8日から当面の間の予定で,当時のBの住居であった判示のb団地のe棟f号に居候させてもらうこととなった。そして,被告人は,その後にBを通じて,同人が親子のように親しくしているという被害者と知り合った。 (2) 被害者は,判示のb団地のd棟g階にあるh号に居住しており,被告人は,Bと共にしばしば被害者方を訪ねては,夕飯や飲酒を共にするようになった。さらに,被害者は,被告人が新しく居住するための賃貸アパート物件を被告人と一緒に探しに行ったり,職を失った被告人に就職先を紹介して土木作業員の仕事に就かせたり,被告人が年金を受給するための前提条件となる住民票を,被害者方に移転させることを承諾するなどして,被告人の世話をしていた。 (3) もっとも,被告人は,以前から飲酒すると人が変わったように粗暴になり,些細なことで腹を立てて「お前,殺すぞ。」などと怒鳴ったり,相手につかみかかってケンカになったりすることがしばしばあり,友人であるBに対しても,酒に酔って夜中に突然B方に押し掛けて玄関ドアを蹴破って室内に上がり込み,殴りかかろうとしたことが3回くらいあったり,実際に包丁を持ち出しこそしないものの,「お前,包丁で殺すぞ。」「お前殺して,俺は懲役に行く。」などと怒鳴り散らしながら殴りかかったり,互いに取っ組み合いのケンカをしては同様に怒鳴ったりすることが頻繁にあ 丁を持ち出しこそしないものの,「お前,包丁で殺すぞ。」「お前殺して,俺は懲役に行く。」などと怒鳴り散らしながら殴りかかったり,互いに取っ組み合いのケンカをしては同様に怒鳴ったりすることが頻繁にあった。 そして被告人は,被害者との間でも,酒の席では何かと言い争いになってBに制止されたことがあったほか,平成15年11月中旬には,居酒屋での飲酒態度をたしなめられたあげくに,遅れて帰宅したB方の玄関ドアをうるさく叩いて被害者に注意されるや,逆に被害者につかみかかって着ていたシャツを破いたり,同年12月12日には酒に酔って居候中のB方の玄関ドア合鍵を紛失して被害者に怒られた上,本件犯行前日となる同月15日に,今度は被害者が同人方の玄関ドアの鍵を紛失したことを契機に,酒の席で八つ当たり的に被害者から,被告人がB方合鍵をなくしたことを再び責められて諍いとなり,Bになだめられたこともあり,総じて被告人と被害者とは,飲み友達ではあっても,酒の席では何かともめ事の多い間柄であった。 (4) なお,被害者は,終戦直後から福岡で生活しているが,大韓民国国籍を有しており,平成15年12月16日当時,82歳であった。 2 犯行に至る経緯等(1) 犯行当日となる平成15年12月16日,被告人は,仕事から帰ってきたが,B方玄関ドアの合鍵をなくしたことで,Bが帰宅するまでは同人方に入れない状態であったので,被害者方を訪れ,被害者と2人で酒を飲み始めた。このときは,被告人と被害者との間で特段ケンカになるようなもめ事は生じなかった。 なお,被告人は,捜査段階から一貫して,このとき被害者から理由もなく包丁や裁ちばさみで脅されたり,灰皿を投げつけられたりしたと供述しているが,被害者はこの時特段のトラブルはなかった旨述べている上,突然何のきっかけも 査段階から一貫して,このとき被害者から理由もなく包丁や裁ちばさみで脅されたり,灰皿を投げつけられたりしたと供述しているが,被害者はこの時特段のトラブルはなかった旨述べている上,突然何のきっかけもなく被害者がかかる危険な脅迫行為をすること自体が突飛で不自然な行動であるし,この後,被告人と被害者が2人一緒に居酒屋へ出向いている事実を見れば,その直前に被告人の供述するような険悪な出来事があったとするのは一層不自然であることを考えると,被告人のこの点の供述はにわかに信用し難い。そして,後記のとおり被告人の殺意の有無を判断する前提としては,被告人の供述どおりの事実を認定することは,未必的殺意の動機形成理由の1事情として,むしろ被告人にとって不利な間接事実の一つとなり得ることから,かかる事実を認定することはできないと判断した。 (2) その後,被告人と被害者は,2人で居酒屋へ行き,飲酒した。そこで被告人がカラオケを連続して何曲も歌いながら,店内を歩き回ったので,他の客の迷惑になると考えた被害者は,被告人に対し,「お前,自分ばっかり何しようか。」と言って,左手で被告人の頭を2,3回小突いた。すると,被告人は,怒りだし,被害者の来ていたジャケットの襟首をつかみ上げた。傍で飲んでいた客が止めに入って被告人を店の外へ連れ出し,被害者はこの客から帰った方がいいと言われて,被告人に何も言わずに先に被害者方へ帰り,玄関ドアを施錠した(なお,被告人は,被害者から小突かれたのは手ではなく,カラオケマイクであったと述べているが,被害者供述のみならず,居酒屋の女主人も,被害者が被告人を平手で小突いていた旨述べているところであって,この点の被告人供述も信用できない。)。 (3) その後,被告人もb団地に戻ってきて,約20分の間,閉め出された被害者方の玄関ド も,被害者が被告人を平手で小突いていた旨述べているところであって,この点の被告人供述も信用できない。)。 (3) その後,被告人もb団地に戻ってきて,約20分の間,閉め出された被害者方の玄関ドアを足蹴りするなどしたので,被害者は近所への迷惑を考え,同日午後11時ころ,110番通報をした上で,玄関ドアを開けた。 一方,その当時,被害者方のあるb団地5棟の3階の1室には,同室に居住するCとその妻,またC方に遊びに来ていた同人の姉であるDが在室していたなお,被告人は,被害者方の玄関ドアは施錠されておらず,ドアを足蹴りするなどしたことはない旨供述するが,帰宅直前の被害者と出会ったBが,居酒屋での出来事を話した被害者に対し,鍵を閉めて被告人が帰ってきても絶対中に入れないよう忠告しており,従前の経緯からしても鍵を掛けて被告人を閉め出そうとした被害者の行動は自然であること,被害者が現に玄関ドアを足蹴りされたとする110番通報をしていること,後に被告人の本件暴行を制止したDが,本件暴行を現認する直前の約20分間にわたり,階下の方から,地響きのようなゴーンという音が続くのを聞いた旨公判廷で供述していることからすれば,被害者方を閉め出された被告人が,被害者方の玄関ドアを20分位足蹴りするなどしたことが優に認められる。 3 本件暴行の概要とその後の状況等(1) 被告人は,ドアを開けた被害者から,1回,足蹴りされるか棒で突かれるかしたことに激高し,その胸倉を掴んで玄関の外へ引きずり出し,階段踊り場でその顔面を数発殴るなどした上,判示場所であるb団地d棟前のアスファルトの路上まで被害者を引っ張り出し,さらに,被害者の右膝辺りを蹴ったり,顔面を何発か殴ったりし,被害者は体の左側を下にして横向きに倒れた。そして,被告人は,被害者に であるb団地d棟前のアスファルトの路上まで被害者を引っ張り出し,さらに,被害者の右膝辺りを蹴ったり,顔面を何発か殴ったりし,被害者は体の左側を下にして横向きに倒れた。そして,被告人は,被害者に対し,安全靴を履いた右足で複数回蹴りつけ,あるいは踏み付けるといった暴行を加えた。被害者は転倒した後すぐに被告人から頭部を踏み付けられ,意識を喪失した。 なお,被告人は,被害者を同人方から団地前の路上に連れ出し転倒させるまでの経過についても,単に被害者を引っ張って外に連れ出した際に,同人が自然と転んだかのように供述するが,被害者が,玄関先で被告人に殴打されて鼻血を出し,鼻に強烈な痛みを感じて力もなくなり,路上に引っ張り出されて殴る蹴るの暴行を受け転倒した等とする供述は,大変具体的で臨場感にあふれたものである上に,玄関ドアを約20分間も蹴り続けたという暴行直前の被告人の言動及び後記第3に認定するとおりのその後の本件暴行態様と,実によく整合する自然なもので,十分信用することができる。他方,被告人が,玄関ドアを開けた被害者から,1回,足蹴りされるか棒で突かれるかしたと述べる点については,これを否定する直接証拠は当裁判所に提出されていない上,状況的に考えれば,被告人は,約20分間も玄関ドアを蹴り続けるなどして周囲に迷惑をかけた上に,以前にも同様の注意を与えた被害者に暴力を振るったことがあるのであるから,被害者が,かかる被告人に腹を立て,あるいは被告人の暴力を予想してこれに対抗するために,玄関ドアを開けた直後に,被告人を1回足蹴りする程度のことは,やったとしても決して不合理不自然とはいえないものであるから,その供述どおりの事実を認定した。 (2) 本件暴行当時被告人が履いていた安全靴は,上部分はビニール製,靴底部はゴム製でつま先に鉄芯が やったとしても決して不合理不自然とはいえないものであるから,その供述どおりの事実を認定した。 (2) 本件暴行当時被告人が履いていた安全靴は,上部分はビニール製,靴底部はゴム製でつま先に鉄芯が入っていて,左右合わせて重量は1.8キログラムであった。 もっとも,被告人は,本件犯行当日安全靴を履いて仕事に行き,帰りにそのまま被害者方を訪ねて被害者と一緒に居酒屋に出向くなどしたので,本件犯行時もそのまま安全靴を履いていたものであった。 (3) 被告人は,被害者に対して本件暴行を振るっていた際,i階のC方から判示場所まで降りてきたDとCから,暴行を制止された。 その時点での被害者は,ぐったりとして,顔面辺りからかなり出血し,その血は路面にも流れ出ていた。 (4) 本件犯行当日午後11時4分ころには,前記Cの妻が,ケンカで1人が倒れているとする内容の110番通報を行っており,その時点では,DやCは被告人の本件暴行を制止しようと階下に向かう前後ころであって,その比較的すぐ後の時点で,本件暴行は制止されたと認められるから,被告人が本件暴行を振るった時間は,被害者が110番通報をして玄関ドアを開けた午後11時ころから,せいぜい5,6分程度のことであったと認められる。 (5) 被告人は,本件暴行を止めた後も判示場所にとどまり,通報を受けて臨場した警察官によって,同日午後11時20分,被害者に対する傷害の現行犯人として逮捕され,福岡県j警察署(以下「j署」という。)に連行された。 (6) 飲酒検知の結果によれば,被告人からは,本件暴行から1時間強が経過した平成15年12月17日午前0時10分ころの時点で,呼気1リットル当たり0.45ミリグラムのアルコールが検出された。 (7) 他方,被告人の本件暴行により,被害者は約1 暴行から1時間強が経過した平成15年12月17日午前0時10分ころの時点で,呼気1リットル当たり0.45ミリグラムのアルコールが検出された。 (7) 他方,被告人の本件暴行により,被害者は約14日間の安静加療を要する頭部・顔面打撲傷,脳挫傷,胸・腹部打撲傷,右膝打撲・擦過傷の傷害を負った。被害者の顔面は,本件暴行の翌日においても一部変形して,特に左顔面は大きく腫れ上がっていた。 (8) その後の被告人は,平成15年12月19日,被害者に対する殺人未遂容疑で勾留され,平成16年1月7日までの勾留期間延長が認められたが,同月6日から同年3月1日までの間は,犯行当時の精神状態等の鑑定を目的とする鑑定留置を受けた後,同日付けで前記殺人未遂の公訴事実により,福岡地方裁判所に起訴された。 第3 争点(2)(本件暴行の態様)及び(3)(本件暴行直後の被告人の言動)について 1 Dの供述要旨とその信用性(1) 被告人が被害者に対し加えた本件暴行の態様及び暴行直後の被告人の言動について,Dは,捜査段階及び公判廷で,要旨以下のとおり供述している。 「b団地d棟i階の弟の部屋で,下の方から約20分以上地響きのようなゴーンというものすごい音が聞こえてきた後,1人で一方的にわあわあわあと言っている声が聞こえてきて,ケンカじゃないかと思って窓の外を見た。すると,被害者が体を丸めて体の左側を下にして転倒している状態で,背中側に被告人がいた。被告人は,連続して何度も,被害者の頭と背中とおなかの辺りを,右足でかかとを下から突き出し,踏み付けるような感じで蹴っていた。(公判供述)」「完全に無抵抗の被害者を,単なる物のように蹴りつけている様子を見て,被告人が被害者を殺そうとしているのではないかと驚き,このままでは被害者が死ぬのではないかと思って, で蹴っていた。(公判供述)」「完全に無抵抗の被害者を,単なる物のように蹴りつけている様子を見て,被告人が被害者を殺そうとしているのではないかと驚き,このままでは被害者が死ぬのではないかと思って,i階から大声で『何ばしよっと。止めんね。止めなさーい。』と怒鳴ると,被告人は一旦被害者を踏み付けるのを止めて私の方を向いたが,すぐ前と同様に執拗に被害者の頭を蹴りつけ始めた。(甲18)」「被告人は,被害者の体位を元に戻すため一度被害者を起こし,被害者が自然と倒れて仰向けになった時点で被害者を踏み付けたこともあった。(公判供述)」「このとき被害者の顔が持ち上がって顔が見えたので,被害者が階下のh号の住人であることが分かった。被告人が注意しても暴力を止めないので,警察に電話するよう叫んでから,慌てて下に降りた。(甲18)」「被告人は,被害者の顔の上に右足を乗せて左足を浮かせて片足で何秒間か立っていたこともあり,このようにして立っているのを家の中から1回,下に降りる途中の階段踊り場で1回見て,下に降りた時点でまだ乗っていたので,引きずり降ろした。普通のケンカであれば私も止めには入らないし,わざわざ寒い12月のなかで降りていくこともないけれども,なんともいえない,『えっ,うそ』という感じの,信じられない暴力だったし,被害者はこのまま放っていたら生命に関して危ないと思ったので,さっと下りていって中に入って止めた。私が制止したときには,被告人は,また被害者に向かっていこうとしていたが,何秒遅れかで弟が下りてきて被告人を捕まえてくれた。被告人は,なおも『こいつは00人だから殺してもいいんだ。』,『こいつは00人だから,こいつが死ぬまでおれはやり続ける。』などと言って被害者に向かっていこうとしていた。私が目撃した状況からすると,被告人は被害者の頭と いつは00人だから殺してもいいんだ。』,『こいつは00人だから,こいつが死ぬまでおれはやり続ける。』などと言って被害者に向かっていこうとしていた。私が目撃した状況からすると,被告人は被害者の頭と背中とおなかを20回から30回以上蹴っていると思う。その中でも,割合としては頭の部分を一番多く蹴っていた。(公判供述)」(2) そこで,D供述の信用性を検討するに,まず,Dは,本件犯行当時,被告人とは面識はなく,被害者も階下の住人として顔を見知ってはいたものの,個人的な付合いはなく,Dの弟であるCも,被告人とは面識がなく,被害者とは日頃あまり付合いはなく,被害者の氏名すら本件を機に初めて知ったというのであるから,Dがことさら虚偽の供述をして被告人を陥れようとする動機や必要性は何もないものと認められる。 Dは,主としてb団地d棟i階の弟Cの部屋から本件暴行を目撃したのであるが,その視力は両眼とも1.2であると述べているところ,本件発生時とほぼ同じ照度で実施されたCの部屋からの視認状況の確認においては,矯正視力約1.2の捜査官が本件犯行現場を見下ろした際,人が手を振ったり足を動かしたりする動作を十分視認できたものであるから,Dの視認状況に特段問題はなかったと認められる。また,Dは,1人で一方的にわあわあわあと言っている声が聞こえてきたので,ケンカじゃないかと思ってわざわざ窓の外を見て本件暴行を目撃し,最終的には被告人を制止しようとしているのであり,相当の関心をもって被告人の暴行を注視したものと認められ,主観的にも,暴行態様を十分正確に認識,記憶できる状況にあったといえる。 そして,Dの供述する本件暴行の内容は,被告人が,靴のつま先ではなく,かかとの部分で踏み付けるようにして被害者を何度も連続して蹴りつけていたことや,途 識,記憶できる状況にあったといえる。 そして,Dの供述する本件暴行の内容は,被告人が,靴のつま先ではなく,かかとの部分で踏み付けるようにして被害者を何度も連続して蹴りつけていたことや,途中で倒れている被害者の体を引き起こしたが被害者が再び倒れたこと,被害者の顔の上に右足を乗せて左足を浮かせて片足で何秒間か立っているのを,室内からと階段の踊り場からと2回見たということなど,大変具体的な内容であるし,DやCが被告人の暴行を制止した後も,被告人がなお被害者に向かっていこうとしたことは,被告人のそれまでの執拗な攻撃態様に照らして十分自然である。しかも,Dは,普通のケンカなら止めないが,「えっ,うそ」という感じの信じられない暴力だったから,被害者の生命に危険があるかもしれないと思って,被告人を止めに入ったというのであり,切迫した状況が伝わってくる迫真性のある表現をしている。 とりわけ,被告人が発言したという「こいつは00人だから殺してもいいんだ。」等という言葉は,差別的な発言である故に極めて特徴的なものといえる上,現に被害者は日本人ではなく,大韓民国国籍を有しているという,Dには知り得ないと思われる内容が含まれていて,到底Dが聞き間違えたり,捏造できるような言葉とは思えない。 他方,被告人は,被害者から,小さいころ「00人,00人」と皆からいじめられたと聞かされて,被害者が00人だと思っていたというのであるから,怒りに駆られた被告人が,かかる発言をすることは何ら不思議ではない。 さらに,Dは,被告人が被害者の顔の上に右足を乗せていた時間について,そんなに長い時間は乗っていないから,長い時間乗っているというようなうその証言はできない旨供述するなど,供述態度にも真摯なものがあると認められる。 かかる事情に鑑みれば ていた時間について,そんなに長い時間は乗っていないから,長い時間乗っているというようなうその証言はできない旨供述するなど,供述態度にも真摯なものがあると認められる。 かかる事情に鑑みれば,上記Dの供述には,極めて高い信用性が認められるというべきである。 2 被告人の供述要旨とその信用性(1) これに対し,被告人は,捜査段階から公判廷までほぼ一貫して,本件暴行態様について,要旨以下のとおり供述している。 「私が被害者の胸倉を掴んで玄関から引きずり出すと,b団地d棟前路上において,被害者が仰向けになって倒れたので,履いていた安全靴の裏で被害者の頭付近を目がけて思い切り強く2,3回踏み付けた。顔を覆う被害者の手の間から血が頬を伝って流れ落ちるのが分かり,顔を踏んではいけないと思ったが,居酒屋での出来事を思い出すと腹が立ち,さらに,安全靴のかかと部分で被害者の胸や腹あたりを5,6回くらい踏み付けた。被害者の頭の上に立ったことはない。」また,被告人は,本件暴行直後の自己の言動については,公判廷において,男性から制止された後,すぐに被害者に対する暴行を止めた旨供述し,「こいつは00人だから殺してもいいんだ。」等という趣旨の発言をしたかどうかについては,これを否定する一方で,はっきり覚えていないが,自分を制止した人がそのように述べているなら,言ったのかもしれない等と述べてもいる。 (2) 本件暴行態様に関する被告人の上記供述は,高い信用性が認められるDの供述と齟齬するものである。 また,暴行を制止された後の自己の言動に関しては,捜査段階では,制止されてもなお激しく抵抗し,被害者に立ち向かって行ったことを覚えている旨供述していたものを,公判廷では明らかにこれと矛盾する供述をしながら,その変遷についての 己の言動に関しては,捜査段階では,制止されてもなお激しく抵抗し,被害者に立ち向かって行ったことを覚えている旨供述していたものを,公判廷では明らかにこれと矛盾する供述をしながら,その変遷についての合理的理由を述べていないし,「殺してもいいんだ。」等といった自己の発言があったかどうかについては,前示のとおり公判供述自体が変遷している上に,捜査段階においても,当初は,記憶がはっきりしないが言ったかもしれない等と述べていたのを,終盤段階では明確にこれを否定するなど,非常に曖昧なものとなっている。 もとより被告人には,自己の刑責を軽減させるため,暴行態様をことさらに過少なものに偽るだけの動機は十分あるし,仮に意図した虚偽供述はしていないにしても,被告人は,本件暴行より1時間余り経過後の平成15年12月17日午前0時10分ころの時点で,呼気1リットル当たり0.45ミリグラムのアルコールが検出されるほど,犯行当時は酒に酔っていた状態にあり,前示のとおり,暴行直前に約20分間も被害者方玄関ドアを蹴りつけるなどしたことも覚えていないし,暴行途中で男性であるCに制止されたことは覚えていても,女性であるDに制止されたことはまったく覚えていないなど,その記憶自体に所々大きな欠落があることも認められるのであるから,被告人がその執拗な暴行態様の全部を覚えていないとしても,特段不思議なことともいえない。 とすれば,被告人の上記供述は,たやすく信用することができない。 3 結論よって,十分信用することができる上記D供述及び被害者の客観的な創傷状況によれば,争点(2)の本件暴行態様及び争点(3)の本件暴行直後の被告人の言動に関しては,被告人が,無抵抗でアスファルトの路面上に倒れている被害者に対し,その頭部や背中や胸部や腹部等を少なくと 状況によれば,争点(2)の本件暴行態様及び争点(3)の本件暴行直後の被告人の言動に関しては,被告人が,無抵抗でアスファルトの路面上に倒れている被害者に対し,その頭部や背中や胸部や腹部等を少なくとも20回から30回以上,右足でかかとを下から突き出すようにして蹴り付け,また少なくとも被害者の顔を2回,右足で数秒間踏み付けてその上に乗ったこと,被告人は,DやCに止められた際もなお被害者に向かって攻撃しようとする素振りを見せた上に,「こいつは00人だから,殺してもいいんだ。」「こいつは00人だから,こいつが死ぬまでおれはやり続ける。」などという趣旨の発言をしたことが認められる。 第4 争点(1)(殺意の有無)について 1 被告人の供述経過とその内容(1) 捜査段階当初の供述の要旨被告人は,前示のとおり平成15年12月16日に傷害容疑で現行犯人逮捕されたのであるが,同月19日には殺人未遂容疑で勾留されているところであり,かかる捜査段階の当初から終盤近くまで,勾留質問の際に殺意を否認する供述をしたのを除いて,被害者に対する殺意を認める内容の供述をした。その供述内容と経過は要旨以下のとおりである(ただし,乙20ないし22の立証趣旨は被告人の供述経過であり,実質証拠として用いることはできない。)。 ア平成15年12月18日付け検察官の弁解録取書(乙20)「私は,事件当時,殺すつもりで暴力を振るったのかと聞かれれば,被害者を殺すつもりだったかもしれない。私は,被害者に対して,『くたばってしまえ。』と思っていたことは覚えている。事件当時,私が『こいつ,殺してやらないかん。』という発言をしたかどうかははっきり覚えていないものの,目撃者がそれを聞いたということなので,自分がそう言ったことは間違いないと思う。そのこと いる。事件当時,私が『こいつ,殺してやらないかん。』という発言をしたかどうかははっきり覚えていないものの,目撃者がそれを聞いたということなので,自分がそう言ったことは間違いないと思う。そのことから考えると,私は,被害者のことを殺してしまおうと思っていたのではないかと思う。」イ同月19日付け勾留質問調書(乙21)「被疑事実中に被害者を『殺害しようと企て』とある点に関しては,私は被害者を殺そうと思ったことはない。」ウ同月27日付検察官調書(乙22)「勾留質問の際には,裁判官から読んでもらった事実中に,『殺害しようと企て』と書いてあった点が,まるで私が計画的に被害者を殺そうと思っていたかのように聞こえたことから,そのようなことはないと裁判官に答えた。また,私は,被害者を殺してやろうと思っていた点についてはっきりとした記憶がなかったことから,殺そうと思ったことはないと答えた。しかし,私は,はっきりとした記憶はないものの,自分が事件直後に警察官に『あいつは殺さないかん。』などと興奮して言ったことを覚えていることや,目撃者も同じようなことを言っていること,私自身,完全に頭に血が上った状態で被害者の頭を踏み付けるなどしていたことから考えれば,私が被害者を殺そうと思って今回の事件を起こしたことに間違いはないと考えている。勾留質問の時には,裁判官から,このような目撃者の話や,私が警察に逮捕された直後の話について聞かれなかったことから,自分が,今回の事件を起こしたことに間違いないと考えていることは話していない。裁判官の前で話した内容は訂正してもらいたい。今回の殺人未遂の事実は,そのとおり間違いないということである。」エ同日付け検察官調書(乙7)「犯行当日の私が,j署に連れて来られたとき,興奮する中で,警察官 してもらいたい。今回の殺人未遂の事実は,そのとおり間違いないということである。」エ同日付け検察官調書(乙7)「犯行当日の私が,j署に連れて来られたとき,興奮する中で,警察官に対し,被害者について,『あいつは殺さないかん。』と話したことは覚えている。また,本件暴行の目撃者が,『俺はこいつが死ぬまで蹴る。殺す。』などと私が話したのを聞いていたそうだが,その目撃者の話も本当だと思う。そのような事実から考えると,私が,被害者を殺すつもりでその頭を踏みつけるなどしたことに間違いはないと思っている。被害者を殺してやろうと前もって計画したわけではないが,本件暴行当時には,私は完全に頭に血が上ったことから,一気に頭が怒りで一杯になって,被害者に対して,『死んでしまえ。』などという気持ちで,その頭をしつこく思い切り踏みつけたはずである。」オ平成16年1月2日付け警察官調書(乙5)「被害者に対しては,『もう我慢できん。このくそジジイが。くたばってしまえ。』という気持ちになって,被害者の服をつかんで玄関から外へと引きずり出した。履いていた安全長靴の裏でAさんの頭付近を目がけて思いっきり強く2,3回踏みつけたところ,顔から血が流れ落ちるのが分かり,それを見て『これはもう懲役に行くばい。』と一瞬正気に戻った。しかし,これだけでは腹の虫が治まらず,今度は安全長靴のかかと部分で被害者の胸や腹あたりを続けざまに数回強く踏みつけた。 この時も『くそジジイが!くたばってしまえ!』と思っていたことは間違いないが,実際に『殺してやる。』と思っていたかは,分からない。ただ,無抵抗で全く動くことすらできなくなっていた被害者を安全長靴で何回も執拗に踏みつけることによって,結果的に『被害者が死んでも構わない。』と思ってやっ してやる。』と思っていたかは,分からない。ただ,無抵抗で全く動くことすらできなくなっていた被害者を安全長靴で何回も執拗に踏みつけることによって,結果的に『被害者が死んでも構わない。』と思ってやっていたことには間違いない。 まして,被害者は私より20歳以上も年上のお爺さんだし,私が被害者を踏みつけていた下はアスファルトだったことも分かっているから,あの時誰も私を止めていなかったなら間違いなく被害者を殺していたかもしれないと私自身も思う。 取調室で刑事から事情聴取をされた時,私は『殺そうと思った。 あいつは00人だから。』と答えたが,そのような答えは,やはり私が内心そう思っていたから,自然にそのように言ったのだと思う。」カ同月6日付け警察官調書(乙6)「私は,『被害者が死んでも構わない。』と思って,履いていた安全長靴で被害者を何回も執拗に踏みつけたので,被害者がこれくらいの怪我で済んだのが奇跡だと思い,本当に良かったと内心ホッとしている。」キ本件暴行直後のj署における殺意自認供述の存在また,上記エ,オの各供述によれば,被告人は,被害者に対する傷害容疑で現行犯人逮捕され,j署に連行された直後ころの時点でも,警察官に対し,被害者を「殺さないかん。」「殺そうと思った。」という趣旨の発言をしていたことが認められる。 (2) 否認供述と供述変遷の理由ところが,被告人は,前記最後の自白調書が作成されたと同じ日の平成16年1月6日(延長後の勾留期間満了日の前日)以降,公判廷に至るまで,要旨以下のとおり,殺意を否認する供述をする一方,従前に自白供述をしていた理由については,自暴自棄になっていたとか,あるいはよく覚えていない等といった,曖昧なことを述べている。 「私は,被 要旨以下のとおり,殺意を否認する供述をする一方,従前に自白供述をしていた理由については,自暴自棄になっていたとか,あるいはよく覚えていない等といった,曖昧なことを述べている。 「私は,被害者には世話になっていた身であり,被害者を殺すつもりまではなかった。今回は,激情的になって,被害者に対する怒りで頭が一杯になり,事件を起こしたものである。(平成16年1月6日付け検察官調書・乙9)」「被害者に対しては,『くたばってしまえ。』,つまり,熊本弁で『立てないようにしてやる。』というような気持ちで本件暴行を振るっただけで,殺すつもりはなかった。(同日付け検察官調書・乙10,同年3月1日付け検察官調書・乙11,第3回公判供述55~59,99項)」「本件暴行当時,安全靴で踏み付けることで,被害者が死ぬのではないかということは,とっさだったのでよく分からないが,どちらかと言えば,そこまで考えられなかった。(第3回公判供述46項)」「被害者を蹴っていたときは,何も思っていなかった。ただ,ううーん,と気合いを入れて上から踏み付けていただけであり,被害者が死ぬかもしれないとは思っていなかった。(第5回公判供述13~19項)」「当時は,酒を飲んでいたし,急に頭に血が上って,怒りで見境がつかなくなっていた。(乙11)」「もし,近隣住民から制止されていなければ,被害者が動かなくなったことを確認したら,110番通報しようと考えていた。(乙11,第3回公判供述124項)」「警察官に逮捕されてj署に着いた時には,カーッとなった状態で『あいつは殺さないかん。』と言ったかもしれないが,はっきり思い出せない。もしそのように言ったとしたら,カーッとなっている時にj署に着いて,安心したから話したのだと思う。( は,カーッとなった状態で『あいつは殺さないかん。』と言ったかもしれないが,はっきり思い出せない。もしそのように言ったとしたら,カーッとなっている時にj署に着いて,安心したから話したのだと思う。(乙11)」「平成15年12月27日付け検察官調書で,自分が被害者を殺すつもりで事件を起こしたことは間違いない旨述べたことは覚えており,その調書も,記載内容を十分確認した上で署名したものであるが,当時の私は自暴自棄になっており,どうにでもなれという気持ちでいたのである。その後思い直して,殺すつもりではなかったと思うようになった。(乙10)」「捜査段階で,被害者が死んでも構わないと思ってやりましたという趣旨の供述調書ができた理由は,私を制止した人が,私が被害者のことを『殺してしまえ。』というように言っていたと聞いたからである。(第3回公判供述154項)」「検察官の弁解録取手続の際に,『自分は被害者を殺そうと思っていたと思う』等と述べたとされる点は,そんなことは言っていないと思う。なぜそういう調書に署名したかははっきり覚えていない。(第5回公判供述38~45項)」 2 被告人供述の検討(1) 事後的推論としての自白供述とその評価そこで,上記自白供述の信用性を判断するにあたり,各調書の記載内容をさらに詳細に検討すると,実質証拠となる自白調書のうち,上記平成15年12月27日付け検察官調書(乙7)においては,その冒頭に,「私は,正直言って,今回の事件を起こしている時の状況についてあまり良く覚えていないし,また,不正確な記憶になっているかもしれない。さらに,その時の私自身の気持ちについては,被害者に対して完全に怒りが爆発し,『くたばってしまえ。』と思っていたことを覚えているほか,あまりよく覚えていない。」「 確な記憶になっているかもしれない。さらに,その時の私自身の気持ちについては,被害者に対して完全に怒りが爆発し,『くたばってしまえ。』と思っていたことを覚えているほか,あまりよく覚えていない。」「というのも,私はこの時,結構酒を飲んで酔っている状態だったし,私自身,被害者に対する怒りで頭が一杯になり,カーッとなって,色々と物事を考えながら被害者に対する暴力を振るっていたというわけではないからだ。」とする記述があるのであって,要は被告人自身,前記調書作成に際しては,本件暴行当時,自分が被害者に対して,「くたばってしまえ。」という思いを抱いていたこと以外には覚えておらず,自らの記憶に残る事実としての,自己の認識や心情がどのようなものであったかは把握していない状態にあったことは明らかである。現に,その自白供述自体も,本件暴行直後に,被告人自身が,「被害者が死ぬまで蹴る。」等と発言していたと聞かされたことや,j署に連行された際に,自分でも被害者のことを「殺さないかん。」等と発言していたという事実から,本件暴行当時の自らの心情を推論して述べたものであることを明らかにした内容となっているし,その記述もまた,「『死んでしまえ』などという気持ちで被害者の頭を・・踏み付けたはずである」という,まさに推論そのものを表す表現となっている。 同様に,平成16年1月2日付け警察官調書(乙5)でも,「被害者を何度も強く踏み付けたときに,『くそジジイが!くたばってしまえ!』と思っていたことは間違いないが,実際に『殺してやる』と思っていたかは分からない。」と述べているところであるし,被害者が被告人より20歳以上も年上の高齢者であることや,アスファルトの路上に倒れた被害者を踏み付けていたという客観的な事実を指摘した上で,誰も止めてくれなかったら殺していた ているところであるし,被害者が被告人より20歳以上も年上の高齢者であることや,アスファルトの路上に倒れた被害者を踏み付けていたという客観的な事実を指摘した上で,誰も止めてくれなかったら殺していたかもしれないという推論を述べる形となっている。 また,実質証拠とはならないが,捜査段階ごく初期の平成15年12月18日付け検察官の弁解録取書(乙20),あるいは同月27日付け検察官調書(乙22)も同様の推論を述べる内容である。 かかる事実に照らせば,被告人の上記各自白調書は,いずれも本件暴行当時の被告人の認識,心情を,自己の記憶に基づいてそのまま述べたものではなく,客観的,事後的に当時の状況を把握,検討した上での,自らの推論を述べたに過ぎないものというべきである。 もちろん,被告人が,本件暴行後冷静になって当時の心境を思い出した際に,殺意を認める供述をしたことは,当時の心境を正しく推論したものである可能性もある。しかし,その供述経過を見れば,被告人は,平成15年12月18日付け検察官の弁解録取書(乙20)では,被害者に対する確定的殺意を認める推論を述べていたのに,同月19日付け勾留質問調書では,被害者に対する殺意を明白に否認し,さらに,同月27日付け各検察官調書(乙7,22)では,再び被害者に対する確定的殺意を認める推論を述べたが,その後の平成16年1月2日付け警察官調書(乙5)や同月6日付け警察官調書(乙6)では,被害者が死んでも構わないと思っていたのは間違いない等と,未必的な殺意を自認する供述に変わっているのであって,最終的な否認供述に転じる以前の被告人の供述内容にも変遷がみられる。特に,裁判官の勾留質問では端的に殺意を否認していたはずなのに(乙21),その後に,その勾留質問段階での否認供述を訂正した上記平成 終的な否認供述に転じる以前の被告人の供述内容にも変遷がみられる。特に,裁判官の勾留質問では端的に殺意を否認していたはずなのに(乙21),その後に,その勾留質問段階での否認供述を訂正した上記平成15年12月27日付け検察官調書(乙22)を見れば,被告人は,本件暴行当時の自己の心情については実際のところ記憶はないが,本件暴行直後やj署に連行された直後に,自分が,「こいつが死ぬまでやり続ける。」とか,「あいつは殺さないかん。」等といった発言をしていたという事実を,取調官から指摘,追及された時に,それならば確かに自分は被害者に対する殺意を持っていたのかもしれないという,推論的な自白供述を述べるに至っているのが明らかなのであって,いわば被告人の自白調書は,取調官の理詰めの尋問の結果として,引き出されたものということができる。 いうまでもなく,取調官が疑問点について被疑者を追及し,あるいは合理的な事実を示して説得すること自体は,決して不当なことではなく,むしろ適正迅速な捜査を尽くす上でも必要なことで,本件においても,被告人の取調官に対する供述に任意性がないとは到底いえない。しかし,もとより計画的なものではない,激情犯における殺意の存否というものは,一般に相当の興奮状態にあると解される行為者本人にとっても,行為当時の心理状態を正確に認識,記憶することは必ずしも容易なことではないと考えられるのであって,現に行為当時のはっきりとした記憶がないと述べている行為者に対し,行為者自身の心理状態以外の客観的事実に関する事後的な情報を与えた上で,理屈に則り,合理的に当時の心境を説明するように求めることは,時に行為者にそれだけの先入観を持たせる結果となって,行為当時の行為者自身の真の認識とは異なる,偏った供述が引き出される危険性もあり得ることを, り,合理的に当時の心境を説明するように求めることは,時に行為者にそれだけの先入観を持たせる結果となって,行為当時の行為者自身の真の認識とは異なる,偏った供述が引き出される危険性もあり得ることを,指摘せざるを得ない。本件においても,被告人は,勾留質問のように,読み上げられた殺人未遂の被疑事実について,単純なる認否,認識を尋ねられた時には,端的に被害者に対する殺意を否定しているのであるから,かかる供述こそが,本件犯行を冷静になって事後的に振り返った時の,被告人の率直な述懐である可能性を否定できないところである。 とすれば,前記のとおりの自白調書における推論的な自白供述を,単純に信用し,これをもって本件暴行当時の被告人が,殺意を有していたことの直接的な証拠と評価することはできないものというべきである。 (2) 被告人の否認供述とその評価他方,被告人の前記否認供述で,Dらによって制止されなければ,被害者が動かなくなった時点で自ら110番通報をするつもりであった等として被害者に対する殺意を否定する点は,実際には被害者が暴行を受けた初期の段階で意識を失い,完全に無抵抗で,ぐったりした様子であったことが明らかであるにもかかわらず,被告人がなお一方的な暴行を続け,制止されても攻撃を続けようとする意欲を見せていたことと整合せず,容易には信用できないものである。 しかし,同時に被告人は,本件暴行当時は怒りで見境がなくなっていたとか,被害者が死ぬのではないかということはとっさのことでよく分からないが,暴行当時は何も考えてはいなかった,「くたばってしまえ。」という気持ちはあったが,それ以上の考えはなかった等とも述べているのであって,かかる供述は,むしろ前記自白調書の冒頭で,本件暴行当時の気持ちは,「くたばってしまえ。」と思っ ,「くたばってしまえ。」という気持ちはあったが,それ以上の考えはなかった等とも述べているのであって,かかる供述は,むしろ前記自白調書の冒頭で,本件暴行当時の気持ちは,「くたばってしまえ。」と思っていたこと以外よく覚えていない等と述べていたところにそのまま通じるものである。そして,前提事実のとおり,本件暴行当時の被告人が,相当程度酒に酔っており,直前の居酒屋でのもめ事や被害者方からの締め出し行為等によって,かなり激高していたことを考えると,確かに被告人が,本件暴行当時の自己の心情を,明確に認識し,記憶することがなかったとしても,それが不自然不合理だということはできない。 被告人は,捜査当初から殺意を認める供述をしていた理由については曖昧なことしか述べていないが,そのように,自らもよく記憶,認識していないような犯行当時の心理状態を,事後的に冷静になって振り返った時に,一時は被害者に対する殺意を認める供述をしておきながら,さらに熟考した結果として,やはり殺意はなかったと思い直すに至るということも,あり得ないこととはいえないし,また,あるいは端的に,殺人未遂の罪責を免れるという目的で,意図して殺意はなかったとする明確な否認供述に変じたということも十分考えられるところである。 (3) 結論以上の次第であるから,結局被告人の前記推論的な自白供述や,被告人の否認供述は,それのみによって殺意の存否を判断し得る決定的な証拠になるものではなく,本件暴行時における被告人の殺意の存否は,その創傷部位・程度や暴行態様,動機の有無,犯行後の被告人の言動といった,情況証拠に照らして判断されるべきものと解するのが相当である。 3 状況証拠からの推認そこで,前示の前提事実及び争点(2),(3)についての判断を踏まえて,さらに検討 告人の言動といった,情況証拠に照らして判断されるべきものと解するのが相当である。 3 状況証拠からの推認そこで,前示の前提事実及び争点(2),(3)についての判断を踏まえて,さらに検討を進める。 (1) 創傷の部位・程度被害者の創傷の部位は,頭部,胸部及び腹部等であって,人間の生存にとって重要な脳や臓器が位置する身体の枢要部であり,被害者と相対して暴力を振るっていた被告人は,意図してこれらの部位,特に頭部を最も多く攻撃したものと認められる。また被害者が,本件暴行の比較的早い段階で意識を喪失し,その顔面は被害翌日,かなり腫れ上がって変形していたという事情にかんがみると,加えられた力の程度も,かなり強度なものであったことが推認される。 しかしながら,客観的に被害者の被った怪我の程度は,安静加療期間が約14日間と,殺人の実行行為の結果としては比較的軽度なもので,その怪我の内容も,脳挫傷を負った点で,生命の危機につながりかねない可能性のあり得たことを指摘できるものの,その余は専ら打撲傷や擦過傷にとどまっており,例えば内臓の破裂や損傷などにより,現実に被害者が死の危険に瀕したことはなかったものと認められる。 (2) 暴行態様本件暴行の態様は,当時82歳という高齢の被害者に対して,殴る蹴るなどしてアスファルトの路上に転倒させ,出血しながら完全に無抵抗の状態で横臥している被害者に対し,安全靴を履いた右足のかかとで,その頭部や胸部等を20回から30回以上連続的に,下から突き出すようにして蹴り付けたり,少なくとも2回にわたり被害者の顔面に数秒間乗り上げ踏みつけるなどの,相当執拗な攻撃をしたものであるから,客観的には,脳やその他の臓器に取り返しの付かない障害を与えるなどして,被害者を死に至らしめる可能性の 2回にわたり被害者の顔面に数秒間乗り上げ踏みつけるなどの,相当執拗な攻撃をしたものであるから,客観的には,脳やその他の臓器に取り返しの付かない障害を与えるなどして,被害者を死に至らしめる可能性のある危険な行為で,殺人の実行行為としての暴行には該当するものと認められる。 しかし,被告人は当時つま先部に鉄芯の入った安全靴を履いていたとはいえ,これを履いていたのは偶々仕事帰りだったからで,ことさら被害者を足蹴りする意図で安全靴に履き替えたものではないし,しかも被告人があえて鉄芯入りのつま先部分で被害者を足蹴りしたとも認められない。そもそも,類型的に,撲殺自体が人を殺害するのに最も有効な方法であるとはいい難いところ,結局被告人は,特段の凶器を用いることもなく被害者を蹴るなどしていたに過ぎないものといえる。 しかも,その暴行時間は,Dらによって制止され,やむなく中止した結果とはいえ,せいぜいが5,6分間程度のことに過ぎなかったのである。 さらには,被告人は本件暴行の1時間以上後の翌午前0時10分ころの時点で,なお呼気1リットル当たり0.45ミリグラムのアルコールを保有するほど,当時は酒に酔っており,犯行直前の被害者とのいざこざで感情的にも大変激高した状態にあったのだから,特に5,6分間という程度の短時間のことであれば,高齢で抵抗もできない状態にある被害者を,アスファルトの路上で蹴ったり踏んだりすることが,客観的にはその死をももたらしかねない危険な行為であるということ自体の認識が,欠落し,もしくは不十分であった可能性も否定はできない。 (3) 動機の存否本件暴行に至る経緯は,被告人が,被害者と2人で行った居酒屋で,被害者からその飲酒態度を注意され,頭部を左手で2,3回小突かれた上に,遅れて被害者方に戻っ できない。 (3) 動機の存否本件暴行に至る経緯は,被告人が,被害者と2人で行った居酒屋で,被害者からその飲酒態度を注意され,頭部を左手で2,3回小突かれた上に,遅れて被害者方に戻った際,約20分もの間玄関ドアを施錠された状態で閉め出され,ようやくドアを開けた被害者から,1回,蹴りつけるか棒で突かれるなどしたことから,本件暴行に至ったものであり,暴行の直接的な動機は,このような被害者の言動に対する怒りが,飲酒の影響もあって抑制できずに,そのまま爆発したものと認められる。 とりわけ被害者との間では,これまでも酒を飲んでのいざこざが多く,被告人は以前から被害者に対する悪感情を抱いていた可能性もあることや,飲酒によって自制心も低下していたと考えられることなどを併せ考慮すると,このような経緯で,被告人が被害者に対する殺意,特に未必的殺意を形成することも,あり得ることとは解される。 しかし他方で,前記暴行に至る経緯は,一般的に考えれば,相手に対する殺意を抱くほどには,深刻な諍いであるとは言いがたく,まして被告人は,被害者と知り合ったのが,本件暴行のわずか一月半足らず前のことで,その後も被害者からは何くれとなく世話をしてもらい,いろいろトラブルはあったにしても,なお一緒に酒を飲みに行くような交際を続けていたこと,被告人にとって酒を飲んでのトラブルは被害者一人に限ったことではなく,被告人はこれまでにも多数回にわたって,酒を飲んでは特段の理由もないのに,友人知人に殴る蹴るなどの暴行を加えたことがあったが,現実に死の危険をもたらすほどの事態が生じたことがあると認めるに足りる証拠はなく,今回の暴行時に限って,被害者に対する殺意を抱くだけの必然性があったとも認められないこと等に照らすと,本件暴行に際して,被告人が被害者に すほどの事態が生じたことがあると認めるに足りる証拠はなく,今回の暴行時に限って,被害者に対する殺意を抱くだけの必然性があったとも認められないこと等に照らすと,本件暴行に際して,被告人が被害者に対する殺意を抱くのも当然と思わせるほどの事情もないのであって,結局殺意形成に至る動機の点では,やはり弱いとの印象を拭い難いところである。 (4) 本件暴行後の被告人の言動被告人は,Dらによって被害者に対する暴行を制止された後も,意識を喪失し,血を流した状態で倒れている被害者に対し,なお攻撃を続行しようとする意欲を見せたばかりか,「こいつは00人だから,殺してもよい。」「こいつが死ぬまでおれはやり続ける。」という趣旨の発言をし,判示場所での現行犯人逮捕後,j署に連行された直後にも,被害者について「殺さないかん。」等と供述していたものと認められ,これらの発言は,その当時の心情と記憶のままに,被害者に対する殺意を端的に表したものとも考えられる。 しかし,前示のとおり,当時の被告人は,相当量の飲酒をした上,被害者の直前の言動に激しい怒りに駆られていたのであり,たとえ被害者に対する殺意を有していなかった場合でも,5,6分間程度の前示暴行ではなお憤りがおさまらずに,継続的な攻撃意欲を示すということはあっても不思議でないし,被害者を殺す,という趣旨の発言も,そのような激高した感情の赴くままに,被害者に対する腹立ちの気持ちの表れとしてなされたものである可能性も否定はできない。ましてや被告人は,これまでにも飲酒の席で立腹した際には,親しい友人に対しても,「殺すぞ。」とか,「お前を殺して,俺は懲役に行く。」等と,相手に対する殺意を示す脅迫文言を度々口にしていたというのであるから,未だ飲酒の影響から脱していなかったと見られる本件暴行直後 に対しても,「殺すぞ。」とか,「お前を殺して,俺は懲役に行く。」等と,相手に対する殺意を示す脅迫文言を度々口にしていたというのであるから,未だ飲酒の影響から脱していなかったと見られる本件暴行直後や,j署に連行された直後の前記発言を,被害者に対する殺意をそのまま単純に示したものであると速断することはできないものというべきである。 (5) 総括以上の次第で,被害者の創傷は身体の枢要部を狙って攻撃された結果であるとはいえ,創傷の内容は脳挫傷のほかは専ら打撲傷や擦過傷で,その程度も安静加療約14日間という,殺人行為の結果としては比較的軽度のものにとどまっており,その暴行態様は,無抵抗でアスファルト上に倒れた82歳という高齢の被害者を,安全靴を履いた右足かかとで執拗に蹴りつけたり踏み付けたりした危険なものとはいえ,凶器は用いられず,意図して安全靴を使用したものともいえず,暴行時間は5,6分間程度といった短時間にとどまっており,しかも犯行当時の飲酒と激情の影響を考えると,被告人自身がその危険性の自覚に乏しかった可能性を否定できず,犯行動機としては殺意を抱くのが不合理とはいえないまでも,一般的な殺人の動機としては弱いものがあるといわざるを得ず,犯行直後に被告人が見せた攻撃続行の意欲や被害者に対する殺意を認めたような発言も,単に被害者に対する怒りの心情の表れに過ぎない可能性があって,必ずしも内心の殺意を表明したものとは限らないこと等が認められ,結局これらの情況証拠によっては,本件暴行当時,被告人が,被害者に対する確定的殺意はもちろん,被害者が死んでも構わないとする未必的殺意を抱いていたということも,これを認定するには合理的疑いが残るといわざるを得ない。 第5 結論以上の次第で,被告人が,被害者に対する確定的もしくは未必的殺 者が死んでも構わないとする未必的殺意を抱いていたということも,これを認定するには合理的疑いが残るといわざるを得ない。 第5 結論以上の次第で,被告人が,被害者に対する確定的もしくは未必的殺意の存在を認めた自白供述は,そのまま信用することはできず,本件暴行当時の情況に照らしても,被害者に対する殺意の存在を認めるには足りないから,被告人は,本件暴行による結果としての,傷害罪の罪責を負うにとどまり,本件暴行が殺人未遂罪に該当するとした検察官の主張は採用することができない。 (累犯前科)被告人は,平成11年3月18日k地方裁判所m支部で詐欺罪により懲役7月に処せられ,平成11年9月17日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法204条に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,前記の前科があるので同法56条1項,57条により再犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中190日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,被害者の言動に憤まんを募らせ,同人に対し,その頭部及び胸部を安全靴を履いた右足で多数回蹴り付けるなどの暴行を加え,傷害を負わせたという事案である。 2 被告人は,従前から酒に酔っては周囲に迷惑を掛けており,その酒癖の悪さは自分でも十分自覚し得たはずと思われるのに,本件直前にも酔ったあげくに居酒屋で周囲の客に迷惑をかけて被害者から注意されると,却ってこれに立腹して被害者方に押し掛けて20分位も玄関ドアを蹴るなどした後に,やむなくドアを開けた被害者から1回蹴られるなどすると,見境 くに居酒屋で周囲の客に迷惑をかけて被害者から注意されると,却ってこれに立腹して被害者方に押し掛けて20分位も玄関ドアを蹴るなどした後に,やむなくドアを開けた被害者から1回蹴られるなどすると,見境ないまでに激高して本件犯行に及んだものであり,その動機及び犯行に至る経緯に酌量の余地はない。 その犯行態様は,82歳という高齢の被害者を殴る蹴るなどしてアスファルトの路上に横転させた上,完全に無抵抗でぐったりしている被害者に対し,強固な攻撃意思のもと安全靴を履いた右足でその頭部・胸部を多数回に渡り執拗に蹴り付けるなどの暴行を加えたものであって,被害者に対する殺意までは認定できないにしても,客観的に見ればその生命をも危うくしかねないだけの危険性をともなった行為だったのであり,極めて悪質なものである。 被害者には,被告人から暴行を振るわれるような落ち度はなく,むしろ被告人に仕事を紹介するなどして被告人のために尽くしていたにもかかわらず,被告人から意識を失う程の激しい暴行を振るわれ,加療約14日間を要する傷害を負わされたのである。その被った肉体的精神的苦痛には非常に大きいものがあったと認められ,発生した結果は重大である。被害者は,後記のとおり一定額の被害弁償金の支払いを受けた後も被告人に刑務所に入ってほしいという気持ちに変わりはない旨供述している。 加えて被告人は,これまでに前記累犯前科以外にも,昭和50年2月に暴行及び傷害罪による罰金刑に,平成8年10月に傷害罪により懲役刑(刑執行猶予が取り消され,刑務所で服役した。)に各処せられた裁判歴や,昭和57年10月には飲酒した上での現住建造物等放火未遂罪により懲役3年に処せられた前科を有するなど,飲酒時の粗暴癖には顕著なものがあることが窺われ,その規範意識の乏しさにかんがみれば,再犯の恐れ 昭和57年10月には飲酒した上での現住建造物等放火未遂罪により懲役3年に処せられた前科を有するなど,飲酒時の粗暴癖には顕著なものがあることが窺われ,その規範意識の乏しさにかんがみれば,再犯の恐れも否定できないところである。 3 以上からすれば,被告人の刑事責任は軽くないものといわなければならない。 4 他方,本件は一時の激情に駆られた犯行であり,凶器も使用されていないこと,被告人も,被害者に対する謝罪と反省の言葉を述べ,被害者に対し20万円を支払い,一定の慰謝の措置を講じたことなどの被告人にとって酌むべき事情も認められる。 5 そこで,以上の諸事情を総合考慮した上,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官中井公哉,国選弁護人家永由佳里各出席)(求刑-懲役6年)平成16年11月5日福岡地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官谷敏行裁判官荻原弘子裁判官小川弘持
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