主文 本件抗告を棄却する。 抗告費用は抗告人の負担とする。 理由 第1 事案の概要 1 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。 (1) 本件の本案訴訟(東京高等裁判所平成15年(ネ)第833号損害賠償請求本訴,利益配当金支払請求反訴事件)のうち,本訴請求事件は,生命保険事業を営む株式会社である相手方が,損害保険事業を営む相互会社である抗告人を被告として,抗告人から抗告人についての虚偽の会計情報を提供されたことにより抗告人に対し300億円の基金を拠出させられたなどとして,不法行為による損害賠償を求めるものであり,反訴請求事件は,抗告人が,相手方を被告として,相手方の株主たる地位に基づく利益配当金の支払を求めるものである。 本件は,相手方が,抗告人の旧役員らが故意又は過失により虚偽の財務内容を公表し,真実の財務内容を公表しなかったという事実を証明するためであると主張して,抗告人が所持する原決定別紙文書目録記載1の調査報告書(以下「本件文書」という。)につき文書提出命令を申し立てた事案である。抗告人は,本件文書は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たり,かつ,同号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たると主張している。 (2) 抗告人は,平成12年5月1日,金融監督庁長官により,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項,241条に基づき,業務の一部停止命令並びに保険管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受け,公認会計士D及び弁護士山岸良太が保険管理人(以下「本件保険管理人」という。)- 1 -に選任された。 金融監督庁長官は,同法313条1項,242条3 による業務及び財産の管理を命ずる処分を受け,公認会計士D及び弁護士山岸良太が保険管理人(以下「本件保険管理人」という。)- 1 -に選任された。 金融監督庁長官は,同法313条1項,242条3項に基づき,本件保険管理人に対し,抗告人の破たんにつき,その旧役員等の経営責任を明らかにするため,弁護士,公認会計士等の第三者による調査委員会を設置し,調査を行うことを命じた。 これを受けて本件保険管理人は,同月25日,弁護士及び公認会計士による調査委員会(以下「本件調査委員会」という。)を設置した。本件調査委員会は,抗告人の従業員等から,任意に資料の提出を受けたり,事情を聴取するなどの方法によって調査を進め,その調査の結果を記載した本件文書を作成して,本件保険管理人に提出した。本件保険管理人は,本件文書等に基づき,平成13年3月29日,抗告人の経営難が平成7年から始まったことを公表するとともに,抗告人が,平成11年3月に関係会社に対し所有不動産を時価よりも高い価格で売却し,決算で利益を計上し,税金9億3000万円を支払ったこと,平成12年3月に債務超過であったにもかかわらず基金を拠出していた企業に利息を支払ったことなどにつき,旧役員11名に対し,21億2075万円の損害賠償請求をすることを公表した。抗告人は,平成13年4月1日,保険契約の全部を他に移転したことにより,保険業法152条3項1号に基づき解散した。 2 原審は,本件文書は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないし,本件保険管理人が本件文書等に基づき旧役員に対する損害賠償請求をすることを公表したことによって本件文書に記載された事実につき黙秘の義務が免除されたものであるから,同号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免 き旧役員に対する損害賠償請求をすることを公表したことによって本件文書に記載された事実につき黙秘の義務が免除されたものであるから,同号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」にも当たらないなどと判断して,抗告人に対して本件文書の提出を命じた。 第2 抗告代理人相原亮介ほかの抗告理由第2についてある文書が,作成の目的,記載の内容,現在の所持者がこれを所持するに至るま- 2 -での経緯などの事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成されたものであり,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されることによって個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思の形成が阻害されたりするなど,開示によってその文書の所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たる(最高裁平成11年(許)第2号同年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁参照)。 これを本件についてみるに,前記第1の1(2)記載の本件の経緯等によれば,次のことが明らかである。 1 本件保険管理人は,金融監督庁長官から,保険業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)313条1項,242条3項に基づき,抗告人の破たんにつき,その旧役員等の経営責任を明らかにするため,調査委員会を設置し,調査を行うことを命じられたので,上記命令の実行として,弁護士及び公認会計士を委員とする本件調査委員会を設置し,本件調査委員会に上記調査を行わせた。本件文書は,本件調査委員会が上記調査の結果を記載して本件保険管理人に提出したものであり,法令上の根拠を有す 士及び公認会計士を委員とする本件調査委員会を設置し,本件調査委員会に上記調査を行わせた。本件文書は,本件調査委員会が上記調査の結果を記載して本件保険管理人に提出したものであり,法令上の根拠を有する命令に基づく調査の結果を記載した文書であって,専ら抗告人の内部で利用するために作成されたものではない。また,本件文書は,調査の目的からみて,抗告人の旧役員等の経営責任とは無関係な個人のプライバシー等に関する事項が記載されるものではない。 2 保険管理人は,保険会社の業務若しくは財産の状況に照らしてその保険業の継続が困難であると認めるとき,又はその業務の運営が著しく不適切であり,その保険業の継続が保険契約者等の保護に欠ける事態を招くおそれがあると認めるときに,金融監督庁長官によって,保険会社の業務及び財産の管理を行う者として選任- 3 -されるものであり(同法313条1項,241条),保険管理人は,保険業の公共性にかんがみ,保険契約者等の保護という公益のためにその職務を行うものであるということができる。また,本件調査委員会は,本件保険管理人が,金融監督庁長官の上記命令に基づいて設置したものであり,保険契約者等の保護という公益のために調査を行うものということができる。 以上の点に照らすと,【要旨1】本件文書は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」には当たらないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。なお,所論引用の最高裁平成11年(許)第26号同12年3月10日第一小法廷決定・裁判集民事197号341頁は,事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用することができない。 第3 同第3について【要旨2】民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事 民事197号341頁は,事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用することができない。 第3 同第3について【要旨2】民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいうと解するのが相当である。前記のとおり,本件文書は,法令上の根拠を有する命令に基づく調査の結果を記載した文書であり,抗告人の旧役員等の経営責任とは無関係なプライバシー等に関する事項が記載されるものではないこと,本件文書の作成を命じ,その提出を受けた本件保険管理人は公益のためにその職務を行い,本件文書を作成した本件調査委員会も公益のために調査を行うものであること,本件調査委員会に加わった弁護士及び公認会計士は,その委員として公益のための調査に加わったにすぎないことにかんがみると,本件文書に記載されている事実は,客観的にみてこれを秘匿することについて保護に値するような利益を有するものとはいえず,同号所定の「黙秘すべきもの」には当たらないと解するのが相当である。 - 4 -したがって,【要旨3】本件文書は,同法220条4号ハ所定の「第197条第1項第2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」には当たらないというべきである。所論の点に関する原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官滝井繁男裁判官福田博裁判官北川弘治裁判官梶谷玄裁判官津野修)- 5 - る。 (裁判長裁判官滝井繁男 裁判官福田博 裁判官北川弘治 裁判官梶谷玄 裁判官津野修)
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