- 1 -H18.12.20東京高等裁判所平成18年(ネ)第4355号保険金請求控訴事件主文本件控訴を棄却する。 ただし,被控訴人の請求の減縮に基づき,原判決主文第1項を次のとおり変更する。 控訴人は,被控訴人に対し,1323万7150円及びこれに対する平成15年11月14日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1控訴の趣旨原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 被控訴人の請求を棄却する。 (略語等は,原則として,原判決に従う。)第2事案の概要本件は,控訴人と日本税理士会連合会()との間で締結された税理士 日税連職業賠償責任保険契約()における被保険者である被控訴人が,土地本件保険契約依収用法に基づきその所有する土地を国に売却したA及びB(A及びBを総称して。)の代理人として譲渡所得税申告手続を行った際,収用等に伴い被収用者頼者らが代替資産を取得した場合の課税の特例措置()を定める租税特代替資産特例措置別措置法(平成13年法7号による改正前のもの。 )33条の解釈を誤り,措置法土地が収用され,その後土地建物を取得した場合,取得した建物も代替資産に該当すると誤解し,依頼者らに有利な措置法33条の4の定める譲渡所得等の特別控除の特例措置(又は)を選択することなく,所得控除特例措置5000万円控除特例代替資産特例措置を選択して申告を行い,その後,解釈の誤りを税務署から指摘され,譲渡所得額につき建物価額相当額を代替資産の額とせずに計算した修正申告()を行ったことに伴い(所得控除特例措置は,代替資産特例措置を本件修正申告- 2 -全く利用していない場合に限られるとして,土地について代替資産特例措置の適用を受けることと 計算した修正申告()を行ったことに伴い(所得控除特例措置は,代替資産特例措置を本件修正申告- 2 -全く利用していない場合に限られるとして,土地について代替資産特例措置の適用を受けることとして申告した以上,これらに代え,さらに土地及び建物につき改めて所得控除特例措置に基づく修正申告を行うことについては,税務署から否定的回答を受けた。),依頼者らから,本件修正申告に係る税額と所得控除特例措置に基づく申告をした場合の税額との差額,措置法33条の解釈を誤らなければ負担することのなかった過少申告加算税及び延滞税相当額並びに修正申告に係る譲渡所得額を基礎として算定された市民税・県民税の額と所得控除特例措置に基づく譲渡所得額を基礎として算定された同税の額との差額を損害賠償として請求されてこれらを支払った上,本件保険契約に基づき,依頼者らに支払った金員のうち,上記譲渡所得税本税及び市民税・県民税に係る差額分並びにこれに対する平成15年11月14日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,3万6000円を除く被控訴人の保険金請求及びこれに対する遅延 損害金請求を認容した。 当裁判所も,原審の認定した限度で被控訴人の請求を認容すべきものと判断した。 ただし,被控訴人は,当審において,本件保険契約上1請求当たり30万円が免責されていることから,請求の趣旨を原審が認容した額から60万円を控除した金員1323万7150円及びこれに対する遅延損害金(始期については同じ。)の支払を求める旨の請求に減縮した。 争いのない事実等並びに争点及び争点についての当事者の主張は,原判決の 事実及び理由の「第2事案の概要」2から4まで(原判決2頁18行目から20頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ない事実等並びに争点及び争点についての当事者の主張は,原判決の 事実及び理由の「第2事案の概要」2から4まで(原判決2頁18行目から20頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 第3当裁判所の判断特約条項1条の賠償てん補責任の発生 特約条項1条における控訴人の賠償てん補責任の発生についての認定判断は,原判決の事実及び理由の「第3争点に対する判断」1(原判決20頁8行目から2- 3 -1頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 本件においては,依頼者らは代替資産特例措置と所得控除特例措置のいずれ か有利な方法を選択することが許されており,被控訴人が代替資産特例措置に係る規定の解釈を誤らなければ,所得控除特例措置が選択されていることが明らかであり,被控訴人の損害は課税上有利な特例措置の選択の誤りにより生じたものであることも明らかであるというべきである。 そして,証拠(乙3,39)によれば,本件保険は,いわゆる過大納付による損害のほか「課税上の優遇措置等納付税額を減額し得る特別の税法規定がある場合において,当該特別規定を適用しなかったことによる損害」をも本件保険の対象とすることを前提として創設されたことが認められ,申告が過少申告となっていない限り,控訴人においても,被控訴人の上記損害が本件保険の対象となる損害となることに異議はないはずである。 そこで,過少申告が介在した場合に本件条項が適用されるか否かが問題となる。 本件条項の適用の有無 本件保険の創設の経緯に係る事実の認定判断は,原判決の事実及び理由の(1)「第3争点に対する判断」2(原判決21頁10行目から23頁10行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 上記本件保険の創設の経緯に照らせば,本件条項の趣旨,目的は,不正な過( (1)「第3争点に対する判断」2(原判決21頁10行目から23頁10行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 上記本件保険の創設の経緯に照らせば,本件条項の趣旨,目的は,不正な過(2)少申告等にかかわった税理士が申告に係る税額と本来納付すべき税額との差額を,依頼者に賠償し,その賠償に係る損害を本件保険がてん補することによって生じ得る,納税申告にかかる不正の助長を防止することとみるべきである。この本件条項の趣旨,目的に照らすと,税理士の賠償すべき損害が,依頼者のために所得控除特例措置に基づき申告すべきところを,代替資産特例措置に係る規定の解釈を誤って同措置に基づき申告したという税理士の税制選択上の過誤により生じたものであるときには,買替により取得した建物を措置法33条1項の規定する代替資産として申告することができないことにより,形式的にみて過少申告があったとしても,本- 4 -件条項の適用はないと解するのが相当である(最高裁判所平成15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号838頁,最高裁判所平成15年9月9日第三小法廷判決・裁判所時報1347号4頁参照)。 したがって,税理士である被控訴人の税制選択上の過誤により生じたものであることが明らかな本件においては,本件条項の適用はないと解される。 このように解しても,依頼者に選択が許されている複数の特例措置のうちから有利であると誤解して一の特例措置を選択し,申告した場合,同誤解が客観的に明白であるときには,そもそも,選択が許されていた別の特例措置を選択し直して改めて申告を行うことが認められてしかるべきものとも考えられるところであるが,この点を措くとしても,本件のように所得控除特例措置を選択することによって算定される税額を超えて納税した額は,同特例措置を選択していれば納税す が認められてしかるべきものとも考えられるところであるが,この点を措くとしても,本件のように所得控除特例措置を選択することによって算定される税額を超えて納税した額は,同特例措置を選択していれば納税する必要のなかったものであり,これを本件保険の対象としたとしても,依頼者らの納税義務が不当に潜脱されることにはならないし,税務申告に係る不正を助長することにもならず,税理士のモラル低下につながるものでもないというべきである。 控訴人は,①本件条項は,過少申告の場合には,理由がどうであれ一切免責(3)されると解釈するしかない規定である,②本件条項については,保険契約の当事者である控訴人と日税連との間において過少申告の場合には,一切免責されるとの合意があるところ,本件保険契約当事者の合意が優先すると解すべきである,③本件条項の目的は,安易な業務を行った者に対し,徴税行政の円滑を害したとして懲罰的に免責とし,過少申告をしないよう税理士の研鑽を求めることにある旨主張するがいずれも採用の限りではない。 なお,上記②の主張について付言するに,確かに本件保険契約は,保険契約者を日税連,保険者を控訴人,被控訴人を含む個々の税理士を被保険者とするものであり,第三者のためにする保険契約自体は,被保険者の同意を要せずに,保険契約者である日税連及び保険者である控訴人の合意をもって成立する(商法647条,648条)から,その内容に関しても,日税連及び控訴人の合意によって定まるとい- 5 -うべきである。しかし,本件保険においては,被保険者となることが予定されているのは不特定多数の税理士であり,実質的に保険料を負担するのもこれらの税理士であることを考えると,契約当事者間において,被保険者の権利義務に係る合意をする場合は,約款の条項として明確にして行うのが通常のことであり 数の税理士であり,実質的に保険料を負担するのもこれらの税理士であることを考えると,契約当事者間において,被保険者の権利義務に係る合意をする場合は,約款の条項として明確にして行うのが通常のことであり,約款の条項が変更されないにもかかわらず,これと異なる内容の合意が成立したと認めることはできないというべきである。本件においても,控訴人及び日税連は,過少申告が介在した場合の保険金支払の免責については,本件条項によることとして合意していたものであり,本件条項とは異なる合意がされたものと認めることはできない。 そして,本件条項をその趣旨,目的から合理的に解釈すると,前記のとおり,損害が税理士の税制選択上の過誤により生じたものであるときには,形式的にみて過少申告があったとしても,本件条項の適用はないと解するのが相当である。 よって,本件請求は,原審において認容した限度で理由がある。 第4 結論 以上によれば,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,被控訴人の請求の減縮に基づき,原判決主文第1項を変更することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第1民事部裁判長裁判官江見弘武裁判官植垣勝裕裁判官市川多美子
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