平成13(わ)443 現住建造物等放火

裁判年月日・裁判所
平成15年3月13日 大分地方裁判所
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判決文本文19,272 文字)

主文 被告人を懲役3年10月に処する。 未決勾留日数中20日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,妻が出産準備のため入院中,結婚式未払代金を精算し,5万円程度が余ったため,うち3万円につき妻に報告したところ,同女からこれを生活費として使うよう申し向けられ,手元の資金に余裕が出たことから,連日パチンコ店に通っていたものであるが,平成13年12月5日午後3時ころ,大分市大字a字bc番地d所在のパチンコ店Aにおいて,パチンコに負けて上記3万円等を使ってしまい,その腹いせに同店に設置されているパチンコ台356番台に,すすをつける目的で,その下受皿玉排出口に所携のライターを差し入れて点火した後,同ライターの火が同パチンコ台の下受皿玉排出口付近に燃え移ったことに気付いたが,同失火は自己のライター点火行為に基づくものであり,当然,自ら消火に当たり,又は同失火を同店従業員等に知らせて消火すべき義務があり,消火し得る状況であったにもかかわらず,このまま放置すれば火勢は拡大して上記パチンコ台が設置されていた「島」等へ延焼,焼損に至るかもしれないことを認識しながら,自己の行為による失火の発覚を恐れる余り,自ら消し止め,又は同店従業員に知らせることなく,上記延焼,焼損の結果が発生するかもしれないことを認容しつつ,同日午後3時7分ころ,同店からそのまま立ち去り,もって,同店建物に放火し,上記356番台から火を同パチンコ台が設置されていた「島」及び同店天井に燃え移らせ,同店店長Bほか21名の従業員及び約500名の遊技客等が現在する鉄筋コンクリート造陸屋根一部3階建店舗1階ホール部分約1472.11平方メートルを焼損させたが,前同日,C警察署に出頭し,同署司法警察員Dに自首したものである。 (事実認定の補足説明)弁護人は,不作為犯の客観的要件で 一部3階建店舗1階ホール部分約1472.11平方メートルを焼損させたが,前同日,C警察署に出頭し,同署司法警察員Dに自首したものである。 (事実認定の補足説明)弁護人は,不作為犯の客観的要件である消火の可能性・容易性が認められず,また,被告人は,建造物でないパチンコ台から建造物の一部である「島」へ延焼することを認識・認容していないので故意もないから,現住建造物等放火罪について無罪であると主張し,被告人も,当公判廷において,パチンコ台にライターを差し入れて点火行為を行ったことは認めるが,下受皿玉排出口付近に燃え移ったかどうかはっきりとは気付いておらず,その後全体に燃え移って建物の焼損に至るという認識は全くなかったなどと供述する。 そこで,判示のとおり認定した理由を補足して説明する。 1 関係各証拠によれば,以下の事実が認定できる(概ね争いがないと思われる事実)。 (1)本件建物及びパチンコ台についてア 本件建物の概要本件建物は,鉄筋コンクリート造陸屋根一部3階建(床面積1階2145.53平方メートル,2階1979.59平方メートル,3階400.88平方メートル)で,南北に約79メートル,東西に約34メートルの建物であり,E有限会社がAという屋号でパチンコ店(以下「本件パチンコ店」という。)を営んでおり,1階がパチンコ店舗部分等(以下「本件店舗」という。),2階及び3階は空室となっている(本件店舗1階部分につき別図(省略)参照)。 イ 本件「島」について(ア)パチンコ台やパチスロ台が設置されている壁状の設備を通称「島」と呼ぶが,本件において放火されたパチンコ台もこの「島」に設置されていた。 (イ)本件の「島」は,長さ約14メートル,幅約1.1メートル,高さ約1.9メートルの大きさで,本件店舗床面に設置され,片側に が,本件において放火されたパチンコ台もこの「島」に設置されていた。 (イ)本件の「島」は,長さ約14メートル,幅約1.1メートル,高さ約1.9メートルの大きさで,本件店舗床面に設置され,片側に20台のパチンコ台ないしパチスロ台が設置可能なものである。 本件店舗には,本件建物1階の南北方向のほぼ中央に幅4.5メートルで東西に走る中央通路があるところ,これを挟んで南北2か所に同様の「島」がそれぞれ9個南北方向に設置されている(ただし,東西の壁際に設置されている「島」は片側にしかパチンコ等を設置することができないものである。)。各「島」の中央通路とは反対の端にもそれぞれ東西に走る通路があるが,中央通路の南側にある通路は,その西端で本件パチンコ店の事務所等と接している(以下,同通路を「事務所側通路」という。)。本件「島」は,中央通路南側にある,西から4つ目の「島」であった(別図(省略)参照)。 (ウ)本件「島」の取付状況は,以下のとおりである。 まず,本件店舗のコンクリート床面に,コンクリートドリルという特殊なドリルを用いて穴を開け,これに接着剤を流し込んだ上で,鉄製アンカーボルトを打ち込み,かつ,接着剤及びナットを用いて,このアンカーボルトに島柱と呼ばれる鉄製の柱を取り付ける。 その後,「島」のベースとなる木製ユニットを,ハンマーを用いて島柱にはめ込み,木製ユニット同士をくさびで連結する。それから,パチンコ台とCRユニット(台間貸機)等のすき間を埋めるために使用する台間割り込みや島桶等の機器を隠すために使用する幕板,パチンコ島とパチスロ(パチンコスロット)島の仕上がり島高を調整するためのPS・P島段差分化粧ポリ合板,各種飾り板などを取り付けて一体となった「島」となる。 島柱を床面から外すことは,接 ,パチンコ島とパチスロ(パチンコスロット)島の仕上がり島高を調整するためのPS・P島段差分化粧ポリ合板,各種飾り板などを取り付けて一体となった「島」となる。 島柱を床面から外すことは,接着剤がアンカーボルトだけでなくナットにも付いているため容易ではなく,アンカーボルト又は島柱を切断することになる。また,木製ユニットを島柱から外すには,くさびをバールで抜くことになるが,その結果木製ユニットはぼろぼろになってしまうし,そもそもパチンコ店をやめるときくらいしか木製ユニットを交換することはない。 したがって,本件「島」は,本件店舗,ひいては本件建物に建て付けられ,かつ,これを毀損しなければ取り外すことができない状態にあったことは明らかであり,建造物たる本件建物の一部であると認められる。 ウ 本件パチンコ台について(ア)本件パチンコ台は,Fという機種であり,本件「島」の東側側面に,南から5番目の台として設置されていたものであり,本件パチンコ店のつける台番は356番であった(別図(省略)参照)。 本件パチンコ台は,高さ約81センチメートル,幅約52センチメートル,奥行きは,玉受皿及び発射ツマミ等を除くと約18センチメートルの大きさである。本件パチンコ台は,「島」の木製ユニット部分に乗せられ,本件パチンコ台の木枠部分と木製ユニットを金属製木ねじを使用して上下各2か所で固定されている。 本件パチンコ台本体(扉部分)と木枠部分は,木枠側には,パチンコ台表側から向かって左側にちょうつがい状のヒンジ,右側にフックの受け金が上下各2か所あり,パチンコ本体側は同じく右側にフックがつけられており,左側は木枠のヒンジに上からはめ込むようになっている。また,パチンコ台本体には木枠側から電気やコンピューターの配線が取り外し が上下各2か所あり,パチンコ本体側は同じく右側にフックがつけられており,左側は木枠のヒンジに上からはめ込むようになっている。また,パチンコ台本体には木枠側から電気やコンピューターの配線が取り外し可能なソケットにより付けられている。パチンコ台本体は,かぎを開ければ,左側を軸にして扉状に開き,上記配線を外した上で下から持ち上げれば,木枠から取り外すことができる。また,パチンコ台全体についても,前記金属製木ねじ4本を外すことにより,約5分程度で木製ユニットから毀損しないで容易に取り外すことができる。 したがって,パチンコ台自体は,建造物たる本件建物の一部ではない独立したものと認められる。 (2)客観的犯行状況ア 犯行に至る経緯被告人は,平成6年3月,大分県立の工業高校を卒業し,同年4月,酸素等のガス製造会社に入社の上,直ちに系列会社に出向し,同社製造部に所属して機械監視業務や機械運転業務につき,このころから,週に二,三回程度の頻度で,パチンコ店でパチンコやパチンコスロット(パチスロ)をするようになった。 被告人は,平成13年7月7日,妻(本件後離婚)と入籍し,同年11月3日に挙式したが,妻は,同月25日ころ,出産準備のため,実家に戻り,同月29日,産婦人科医院に入院したため,被告人は,一人で生活することになった。 被告人は,同月30日ころ,結婚式の未払費用として,両親から出席者からの祝儀金を受け取るなどした上で,結婚式場に赴き,これら結婚式の未払代金の支払をしたが,そのとき,5万円程度の現金が手元に残った。 被告人は,妻の入院先に行って結婚式の代金支払について報告し,残金が3万円である旨偽ったところ,妻からは同金員を生活費として使うよう指示された。 その後,被告人は,同日,同年12月1日,同 被告人は,妻の入院先に行って結婚式の代金支払について報告し,残金が3万円である旨偽ったところ,妻からは同金員を生活費として使うよう指示された。 その後,被告人は,同日,同年12月1日,同月2日及び同月4日と,連続して,本件パチンコ店に行き,パチンコをした。 イ 着火の様子被告人は,本件犯行当日の平成13年12月5日,夜勤を終えて,妻の入院していた産婦人科医院に立ち寄った後,帰宅途中,同日午前10時15分ころ,前記3万円の現金等を持参の上,本件パチンコ店に立ち入り,パチンコやパチスロをした。 その後,被告人は,同日午後2時30分ころ,パチンコ台356番(本件パチンコ台)に席を取り,パチンコを開始した。 しかしながら,本件パチンコ台を含め,本件パチンコ店でパチンコをしていた間に,上記の3万円をほぼ使い果たしてしまったことから,被告人は,立腹して,腹いせのため,所携のライターを本件パチンコ台の下受皿(以下「本件下受皿」という。)付近に差し入れて着火し,約5センチメートル程度のライターの火炎を左右に揺らすなどした上でライターの火を消したが,本件パチンコ台内部の本件下受皿付近を燃焼させるに至った。 被告人は,その後,ライターを着衣ポケットに納めた上で,さらに,パチンコを継続したが,その際,本件下受皿玉排出口下部付近の金属板に赤いものが反射して見えたことから,自らの左手薬指を差し入れたところ,薬指先端にやけどを負ったため,即座に指を下受皿から抜いた。 被告人は,同日午後3時6分57秒ころ,本件パチンコ台前のいすから立ち上がり,本件パチンコ台から立ち去った。 ウ 火災の状況被告人が本件パチンコ台から立ち去ってから約1分が経過した同日午後3時7分54秒ころ,本件パチンコ台の異変に気付いた のいすから立ち上がり,本件パチンコ台から立ち去った。 ウ 火災の状況被告人が本件パチンコ台から立ち去ってから約1分が経過した同日午後3時7分54秒ころ,本件パチンコ台の異変に気付いた客が,本件パチンコ店従業員Gに知らせ,Gは,同日午後3時8分6秒ころ,インカム(店内無線)を用いて,本件パチンコ店の他の従業員に対し本件パチンコ台周辺に来るよう呼びかけた。 これにより異変を知った従業員Hが,本件パチンコ台に駆けつけた。このころ,パチンコ台は,液晶画面のある板面が全く見えない状態に,黒色の煙が充満していた。Hは,同日午後3時8分25秒ころ,本件パチンコ台の扉を開けたが,同パチンコ台内部に炎を認め,煙が出たことから,直ちに閉じ,同日午後3時8分30秒ころ,店長ら幹部に知らせるべく,事務所に向けて事務所側通路へ駆け出した。パチンコ台を開けたときの炎の高さは,10ないし30センチメートルであった。 他方,従業員Iは,これら本件パチンコ台付近の異変を察知し,本件パチンコ台から煙が出ていたことなどから火災の発生を疑い,同日午後3時8分46秒ころ,消火器を取りに行くため中央通路を駆け出した。 また,本件パチンコ店店長Bは,Hから本件パチンコ台の火災を知らされて,同日午後3時9分3秒ころ,本件パチンコ台に駆けつけ,同パチンコ台を開けようとしたができなかったので,再び事務所側通路へ走っていった。このとき本件パチンコ台は,下受皿の出口から炎が見え,プラスチックが溶け,プラスチックが燃えるにおいがする状態であった。 そして,Iが消火器を持参の上,本件パチンコ台付近に駆け寄り,同日午後3時9分13秒ころ,本件パチンコ台に向けて消火器を噴射し始めた。その後,Hが,午後3時9分15秒ころ,消火器を持参の上,本件パチンコ台に向 が消火器を持参の上,本件パチンコ台付近に駆け寄り,同日午後3時9分13秒ころ,本件パチンコ台に向けて消火器を噴射し始めた。その後,Hが,午後3時9分15秒ころ,消火器を持参の上,本件パチンコ台に向けて駆けつけ,消火活動に加わった。また,従業員Jは,本件パチンコ台の裏側の列から消火器をかけた。 しかしながら,本件パチンコ台の火は消えず,島に燃え広がり,さらには本件パチンコ店全体に延焼した。従業員及び客はほぼ全員避難したが,店長Bは,いったん店外に出たものの再度店内に戻ったため,結果として本件火災から逃げ遅れ,急性一酸化炭素中毒により死亡した。 本件火事は,同日午後6時29分に鎮火した。 エ 犯行後の被告人の行動被告人は,本件パチンコ台から席を立ち去った後,直ちに店外に行き,自分の自動車に乗って,真っすぐ帰宅し,5ないし10分後には,本件パチンコ店から約1キロメートル離れた自宅に帰り着いた。 被告人は,帰宅中及び帰宅後,パチンコ台のことが気になり,帰宅してから5分位した後には,職場で仕事中の父親に対して電話した上,元気のない声で,「パチンコ屋に行って,玉の出てくる穴にライターで,二,三秒火をつけた。怖くなって逃げた。(本件パチンコ店の防犯)カメラに写ってるんで,どうすればよいだろうか。」などと話したため,被告人の父親は,被告人の所在を聞き出し,電話を切った。 その後,被告人は,ベランダから,本件建物の方を見たところ,黒い煙が上がっていた。 この前後ころ,被告人は,ジャンパーのポケットからライターを取り出し,居間のストーブ目掛けて投げつけたところ,ライターの金属部分が外れた。 また,そのころ,被告人は,消防車のサイレンの音を聞いた。 被告人は,改めて父親に電話をし,「大変なことに り出し,居間のストーブ目掛けて投げつけたところ,ライターの金属部分が外れた。 また,そのころ,被告人は,消防車のサイレンの音を聞いた。 被告人は,改めて父親に電話をし,「大変なことになった。パチンコ屋さんが火事になってる。間違いない。ここから煙が見える。どうしよう,どうしよう。」などと慌てふためきながら言い,被告人の父親も,本件建物付近の煙に気付くなどしたことから,直ちに早退して,被告人の元に駆けつけた。 その際,被告人は,顔面蒼白で,「大変なことになった。ごめん。」などと申し述べたため,被告人の母親が働いているスーパーマーケットまで被告人を同道し,被告人の母親も合流の上,警察署に出頭した。 2 現住建造物等放火罪の成否の検討当裁判所は,被告人には自ら消火する義務あるいは従業員等に対して失火の事実を知らせて消火すべき義務があり,かつ,それらの義務を履行することは可能であった,また,被告人には「島」への延焼の未必的認識があった,したがって被告人には不作為による現住建造物等放火罪が成立すると判断したが,これに対して弁護人らは,被告人に「島」への延焼の認識がなかったことを主張するほか,骨子①被告人が従業員に知らせたか否かにかかわらず,従業員らが適切な消火活動をしていれば「島」に延焼する前に消火できたはずであるから,消火の可能性・容易性は否定される,また,②被告人が従業員に告げるなどしていたとしても,従業員の消火活動の不手際からみれば,本件結果の発生を防ぐことはできなかったから,被告人の不作為と火災の拡大との間に法的因果関係はない,あるいは消火の可能性・容易性はないから,いずれにしても被告人は無罪であると主張するので,以下,順次検討する。なお,上記①の主張の趣旨が明確ではないが,善解すると,被告人に不作為はあったが作 ない,あるいは消火の可能性・容易性はないから,いずれにしても被告人は無罪であると主張するので,以下,順次検討する。なお,上記①の主張の趣旨が明確ではないが,善解すると,被告人に不作為はあったが作為義務まではない(保証人的地位にない)との主張又は本来であれば容易に消し止められたはずなのに,被告人の不作為と現実的結果との間に他者の不適切な行為が介在した結果,予期せぬ状態が発生したのだという因果関係の問題,さらには,被告人において,「従業員らが消してくれると思った。」から「故意がない。」との主張の趣旨といえよう。 (1)作為の可能性(被告人が自ら消火できたか,早期に従業員らに告げていたならば消火可能であったか)についてア 燃焼実験の経過Kら立会いの下,平成13年12月21日,パチンコ台の燃焼実験が行われたが,その経過は,以下のとおりである。 (ア)実験対象実験に用いられたパチンコ台は,Lという名称のものであり,本件パチンコ台とは異なる種類のものであるが,前面の絵柄が異なる以外は構造的には全く同一のものである。 (イ)着火警察官が,被告人の再現に基づき,パチンコ台下受皿のパチンコ玉排出口にライターを差し込み,そこで点火を行ったが,1度目と2度目の点火行為では,パチンコ台に着火させることはできなかった。3度目のライターの点火から約12秒後に下受皿裏の半透明ポリカーボネート樹脂製カバー上部に着火が確認された。 (ウ)着火後約37秒上記ポリカーボネート樹脂製カバーから火炎が5センチメートル程度立ち上がったが,パチンコ台表側には火炎や煙は認められなかった。 (エ)着火後約45秒火炎の大きさに余り変化はなかったがパチンコ台表面ガラス内に黒煙の侵入が開始した。しかし,パチンコ台は正 がったが,パチンコ台表側には火炎や煙は認められなかった。 (エ)着火後約45秒火炎の大きさに余り変化はなかったがパチンコ台表面ガラス内に黒煙の侵入が開始した。しかし,パチンコ台は正常に機能し,外部への煙の流出も認められなかった。 (オ)着火後約52秒火炎は12ないし13センチメートル程度まで拡大し,パチンコ台裏側上部の電気配線及び器具に延焼した。パチンコ台の表面については,ガラス内に台下部からわずかに黒煙が侵入してきたが,パチンコ台の機能としては正常に作動している状態で,下受皿玉排出口には,火炎も煙も確認できなかった。 (カ)着火後約1分1秒火炎は20ないし23センチメートル程度に大きくなり,パチンコ台裏側下部の半透明ポリカーボネート樹脂製カバーが炎に包まれ,台背部に沿って黒煙がかなりの量で立ち上がっていた。表面は,ガラス内に台下部からわずかに黒煙が侵入しているが,パチンコ台の機能としては,正常に動作している状態で,下受皿玉排出口には,火炎も煙も確認できなかった。 (キ)着火後約1分10秒火炎は25センチメートル程度で,半透明ポリカーボネート樹脂製カバーは完全に炎に包まれ,上部のパチンコ台配線や器具に延焼し,パチンコ台背部に沿って黒煙が多量に立ち上がっていた。パチンコ台表面ガラス内にはわずかに黒煙が侵入する程度で,パチンコ台も正常に機能した。 (ク)着火後約1分32秒前後火炎は25ないし30センチメートル程度なり,半透明ポリカーボネート樹脂製カバーは完全に炎に包まれ,火柱は太くなった。上部のパチンコ台配線や器具に延焼し,火炎とともにパチンコ台背部に沿って多量の黒煙が立ち上がる状況であった。パチンコ台表面ガラス内に黒煙が侵入し,パチンコ台の警報エラーが鳴り,下受皿 は太くなった。上部のパチンコ台配線や器具に延焼し,火炎とともにパチンコ台背部に沿って多量の黒煙が立ち上がる状況であった。パチンコ台表面ガラス内に黒煙が侵入し,パチンコ台の警報エラーが鳴り,下受皿玉排出口において,奥に火炎が確認できる状況となった。 (ケ)着火後1分59秒前後火炎は高さ50センチメートル程度,直径10センチメートル程度の火柱となり,半透明ポリカーボネート樹脂製カバーは完全に炎に包まれた。裏面上部のパチンコ台配線や器具等に完全に延焼し,パチンコ台背部に沿って多量の黒煙が立ち上がった。パチンコ台表面ガラス内は黒煙で覆われ,パチンコ台の機能も失い,パチンコ台表側からは下受皿玉排出口付近に火炎が確認できた。 (コ)着火後2分22秒前後火炎は高さ80センチメートル程度,直径30センチメートルの火柱となり,半透明ポリカーボネート樹脂製カバーは完全に炎に包まれ,同部分から炎は下部に燃えさかっていた。炎は,台背部の半分以上を覆って,パチンコ台配線・器具・パチンコ台の枠木等に延焼し,多量の黒煙と火炎が立ち上がる状況であり,パチンコ台の表面は黒煙に覆われて,上受皿から黒煙が外に流出し,下受皿玉排出口から7ないし8センチメートル程度の火炎が外部に及ぶ状況となった。 (サ)着火後約2分30秒前後火炎が100センチメートル程度に立ち上がって,「島」の天井となる島蓋にまで達し,また台下部も火炎で覆い尽くされて,パチンコ台の枠木・島蓋等に延焼する状況であった。表側は,パチンコ台の木枠,上受皿から黒煙が霧状になって外に流出し,下受皿玉排出口から10センチメートル程度の火炎が外部に立ち上がった。 (シ)着火後約3分01秒パチンコ台裏側の「島」内は完全に火炎と黒煙に覆われて確認ができない状態になっ に流出し,下受皿玉排出口から10センチメートル程度の火炎が外部に立ち上がった。 (シ)着火後約3分01秒パチンコ台裏側の「島」内は完全に火炎と黒煙に覆われて確認ができない状態になった。表側は,下受皿の下受皿玉排出口から火炎が吹き出して上方に立ち上がり,上受皿に延焼して火炎が40ないし50センチメートル立ち上がっていたが,表側から見る限りは,パチンコ島の出火は認められず,島板の継ぎ目から霧状となった黒煙の流出が認められるだけであった。 (ス)着火後約3分10秒パチンコ台の表側では,引き続き下受皿玉排出口から火炎が吹き出して上方に立ち上がり,上受皿に延焼して火炎が40ないし50センチメートル立ち上がる状況であった。着火したパチンコ台上部の島蓋(天井板)から火炎が40ないし50センチメートル吹き出して立ち上がり,表側の島板の継ぎ目から,霧状となった黒煙が多量に流出していた。 (セ)着火後3分44秒前後パチンコ台表側は,下受皿内及び上受皿が完全に火炎に包まれ,火炎が100センチメートル程度に立ち上がって,パチンコ台上部の幕板飾りに及んで延焼し,表側の島板の継ぎ目から,霧状となった黒煙が多量に流出してパチンコ島の上部を覆う状況になった。 (ソ)着火後4分17秒前後実験室全体が黒煙に包まれ,明確に確認できない状態となったが,着火したパチンコ台表面が火炎で覆われ,火炎が150センチメートル程度立ち上がっている状況が確認できた。 (タ)着火後5分14秒前後実験室全体が黒煙に包まれ,明確に確認できない状態となったが,着火したパチンコ台表面全体が火炎に覆われ,火炎がパチンコ台下の天板に落下して,直径50センチメートル程度の火柱が200センチメートル程度立ち上がっている程度であり,島 確認できない状態となったが,着火したパチンコ台表面全体が火炎に覆われ,火炎がパチンコ台下の天板に落下して,直径50センチメートル程度の火柱が200センチメートル程度立ち上がっている程度であり,島蓋上部に設置したダクトから,ガスバーナー状態に火炎が吹き出していた。 (チ)着火後6分33秒前後着火したパチンコ台の下部を中心に火炎がV字状態に立ち上がり,実験室全体が黒煙と熱風に包まれ,危険な状態となったことから,実験を終了し消火した。 イ 客観的に消火可能な最終時期前記アで認定した燃焼実験の経過と前記1(2)ウの本件火災の状況を照らし合わせると,①被告人が本件パチンコ台を去ってから約57秒後に,Gが客から本件パチンコ台から煙が出ていることを知らされた点と燃焼実験で着火後約1分10秒でパチンコ台表面ガラス内に煙が侵入しだした点,②被告人が立ち去ってから約1分24秒後に,Hがパチンコ台を開けようとした際にはガラス内部に煙が充満していた点と着火後約1分32秒前後に,パチンコ台表面ガラス内に黒煙が侵入し,パチンコ台の警報エラーが鳴った点,③被告人が立ち去ってから約1分28秒後に,Hが本件パチンコ台を開けた際,中に炎が10ないし30センチメートル上がっていた点と燃焼実験着火後1分32秒前後に火炎が25ないし30センチメートルになっていた点などで,比較的類似した経過をたどっており,本件火災も,被告人が席を立ったころから以降,概ね燃焼実験と同様の経過で延焼していったのではないかと推認できる。 そして,パチンコ台の消火器による最終消火可能時期は,「島」の天井に炎が燃え移る前,燃焼実験でいえば着火後2分30秒後ころの時点であると一応認められるところ,被告人が本件パチンコ台を立ち去ってから約2分30秒後(午後3時9分27秒 終消火可能時期は,「島」の天井に炎が燃え移る前,燃焼実験でいえば着火後2分30秒後ころの時点であると一応認められるところ,被告人が本件パチンコ台を立ち去ってから約2分30秒後(午後3時9分27秒)は,Iが本件パチンコ台に消火器による消火活動を始めたころであり,また,そのときの本件パチンコ台の状態は,表面上火は出ておらず,台の中からうっすらとした煙がもくもくと上がっていた状態であったから,客観的には,この時点までは消火の可能性があったということができよう。 また,それより以前の,Hがパチンコ台を開けてその内部に炎があるのを確認したのは,被告人が立ち去ってから約1分30秒後の午後3時8分25秒過ぎであったこと,Iは,本件パチンコ台の異変に気付いてから約14秒で消火器を取ってくることができたこと,本件当時は,本件パチンコ台付近に多数の従業員や客がいたことに照らせば,午後3時8分43秒ころにも,消火器を用いてパチンコ台内部に対する消火を行うことが客観的には可能であったと認められる。 ウ 被告人による消火の可能性,また,被告人が火災発生の事実を従業員らに告げていた場合の消火の可能性についてまず,検察官及び弁護人ら双方が論じている「被告人が従業員らに告げていた場合」の消火の可能性について検討する。 弁護人らは,本件において,現実には,従業員らは消火活動に失敗し,パチンコ店1階の全焼という結果になっているから,例え被告人が従業員らに火災の事実を告げていたとしても,やはり同じ結果に終わったであろうとして消火の可能性・容易性がなかった旨主張する。 ところで,従業員らが,客観的には消火不可能ではなかった時点において消火活動を開始しながら,現実には失敗した原因は,本件火災はパチンコ台の裏側で発生していた(火点(燃焼部位)が 旨主張する。 ところで,従業員らが,客観的には消火不可能ではなかった時点において消火活動を開始しながら,現実には失敗した原因は,本件火災はパチンコ台の裏側で発生していた(火点(燃焼部位)が内部にある。)のであるから,パチンコ台を開けて,火点目掛けて消火剤を撒かないと有効な消火活動とはならないのに,Hがいったん扉を開け,火点を認識したが,パチンコ台から煙が出たことから,燃え広がるのを危惧して扉を閉め,その後は,再び扉が開けられることなく,外側に次々と消火剤が撒かれたことあった。そこで,早期に被告人が火災の事実を従業員らに告げていたならば,そのような推移をたどらず,消火できたといえるか否かを検討する。 前記事実経過に照らすと,異変に気付いた客がGに知らせ(午後3時7分54秒),Gがインカムで放送してからHが扉を開けて火点を確認するまで(午後3時8分25秒ないし30秒)は三十数秒であったから,被告人が,立ち去ることなく手近の従業員に火災発生の事実を告げていたならば,本件で実際にHが火点を認識できた時期(被告人が立ち去ってから約1分30秒経過したころ)よりも1分近く早い段階で火点を認識できたであろうということができる。そして,Hが扉を開けたころとほぼ同程度の燃焼段階と推認される前記燃焼実験における(キ)(着火後約1分10秒)や(ク)(同1分32秒)の状態と,その1分弱前の段階である(ウ)(同37秒)の状態とを比較すると,前者は火炎は25センチメートルからさらに30センチメートル程度,黒煙も相当程度立ち上っているなど,かなり危険性を感じさせる状態であるのに対し,(ウ)の段階では,火炎は5センチメートル程度で,煙もさほど立ち上っているわけでもなく,その燃え広がり方の差は歴然としている。したがって,被告人が,従業員らに対し,火災が発 せる状態であるのに対し,(ウ)の段階では,火炎は5センチメートル程度で,煙もさほど立ち上っているわけでもなく,その燃え広がり方の差は歴然としている。したがって,被告人が,従業員らに対し,火災が発生したこと,その火元がライターであぶった本件下受皿玉排出口付近であることなどを告げていたならば,現実の推移のように,扉を開けたHが,中から多量の煙が出てきて慌てて扉を閉め,以後扉が開けられることもなく,従業員らが,慌てふためいていたずらに無駄な消火活動を行ったような事態にはならず,さほど煙も立ち上っていない中,5センチメートル程度の火炎を見て火点の確認もでき,下受皿玉排出口目掛けて消火剤を撒くなどして,より冷静に消火活動を行い,その結果,十分消火できたものと推認することができる。 したがって,弁護人らの主張は採用できない。 また,被告人自身の消火可能性については,被告人が,従業員に消火器の所在を聞くなどして,その後の展開は前記とほぼ同じようになると推認され,やはり消火されたであろうといえる。 (2) 被告人の作為義務あるいは因果関係について弁護人らは,被告人が従業員に知らせたか否かにかかわらず,従業員らが適切な消火活動をしていれば「島」に延焼する前に消火できたはずであると主張し,これは前記(2の冒頭)のとおり,被告人には作為義務まではない(保証人的地位にない)との主張あるいは因果関係がないとの主張とも解されるので検討するが,本件建物の火災の原因は,被告人が本件パチンコ台に着火させた火であるところ,その火点は,パチンコ台内部という,他人からは容易に発見し難い箇所であるから,従業員らが火勢が拡大する前に火点を発見し,適切に消火する蓋然性が客観的に認められる状況にあるとは言い難く,現に本件では従業員らが火点を発見したものの消 ,他人からは容易に発見し難い箇所であるから,従業員らが火勢が拡大する前に火点を発見し,適切に消火する蓋然性が客観的に認められる状況にあるとは言い難く,現に本件では従業員らが火点を発見したものの消火活動は成功しなかった。少なくとも従業員らが火災に気付くまで,あるいは火点を認識するまでの間は,ことの成り行きは被告人のみに委ねられているというほかはないのであり,時間の経過とともに火勢は拡大し,消火の可能性は低くなるのであるから,前記のとおり,被告人に作為可能性(消火の可能性)が認められる以上,被告人には,先行行為に基づく作為義務があるというべきである。 また,前記のとおり,被告人が早期に従業員らに火災発生の事実等を告げていたならば消火が可能であったといえる以上,被告人の不作為と店の全焼との間の因果関係(条件関係)が肯定できるが,従業員らの消火の際の不手際が,因果関係に影響を及ぼすほどのものかといえば,既に相当程度燃え上がった状態の火災を発見した人々が,冷静に行動できるとは限らないから,従業員らの緊急下の行動を彼らの落ち度として非難できるほどのものということはできず,これによって因果関係が左右されるとはいえない。 (3)故意について弁護人らは,前記のとおり,被告人は,建造物の一部である「島」へ延焼することを認識・認容していないので故意がないと主張し,被告人もこれに沿う供述をしているので,この点について,以下検討する。 ア 「島」の建造物性及びその可燃性の認識前記1で認定したとおり,本件「島」は,客観的には建造物である本件店舗の一部であり,長さ約14メートル余り,高さ約1.9メートル余りであるところ,外観上からもそのことを容易に認識することができ,被告人もその供述調書の中で本件「島」が本件建物の一部であることを自認し の一部であり,長さ約14メートル余り,高さ約1.9メートル余りであるところ,外観上からもそのことを容易に認識することができ,被告人もその供述調書の中で本件「島」が本件建物の一部であることを自認していることが認められる。 また,本件「島」の材質については,島柱は鉄製であるものの,木製ユニット等など客の目に触れる側面部については,木の下地にシートやメラミン化粧板等をはったものやポリ合板であり,可燃性のものであったと認められる。そして,被告人は,当公判廷において,本件「島」自体の可燃性について明確な認識がないと供述するが,証拠(略)添付の写真などに照らすと,本件「島」は一見して,その可燃性を認識することが容易と認められ,被告人もその可燃性を認識していたと認めることができる。 イ パチンコ台と「島」の位置関係の認識前記1で認定したとおり,本件パチンコ台は,その木枠が,本件「島」の木製ユニット部分に木ねじで固定されており,接着した位置関係にあり,これは一見して明らかであり,当然被告人も認識していると認められる。 ウ 本件パチンコ台の可燃性及び「島」への延焼の認識(ア)逃走時にパチンコ台が燃えていたことの認識被告人は,前記1で認定したとおり,本件パチンコ台を立ち去る前,同パチンコ台の下受皿玉排出口下部付近の金属板に赤いものが反射して見えたことから,自らの左手薬指を入れたところ,薬指先端にやけどを負ったため即座に指を下受皿から抜いており,このやけどは,本件犯行の約2日後にあっても,マッチ棒の頭半分大の大きさで,薄い赤色に変色し,その部分の感覚がなくてまひを生じる程度のものであった。 そして,被告人は,再度下受皿玉排出口に指を入れたが,熱を感じなかったと供述するも,前記のやけどの程度に加えて,被告人の点 に変色し,その部分の感覚がなくてまひを生じる程度のものであった。 そして,被告人は,再度下受皿玉排出口に指を入れたが,熱を感じなかったと供述するも,前記のやけどの程度に加えて,被告人の点火行為からパチンコ玉を30発程度(被告人の公判供述によれば,それ以上のパチンコ玉)を打ち終えるだけの時間,パチンコ台内部で燃焼していたこと,2度目に指を入れた際,火が消えたことを確認していないこと,被告人が直ちにパチンコ台から立ち去ったのは,このままでは本件パチンコ台が燃焼し続け,これを壊してしまうと思ったからであること,帰宅後直ちに父親に電話し,パチンコ台を弁償しなければならないかもしれないと話していること,被告人自身,公判廷においても,2度目に確認した際には,下受皿底面に赤く反射するものがあり,火かもしれないと思ったと供述していることなどに照らすと,被告人は,本件パチンコ台を立ち去るときに,本件パチンコ台の内部が燃えていたことを認識していたと認められる。 (イ)パチンコ台から「島」への延焼の認識被告人は,前記のとおり,本件パチンコ台を立ち去るときには,その内部が既に数十秒以上燃え続けていることを認識していたのであり,しかも,前記のように本件パチンコ台の木製木枠が「島」の木製ユニット部分に木ねじで固定されていたことやそのために本件パチンコ台と「島」とが接着した位置関係にあることについて認識していたのであるから,本件パチンコ台内部の火が燃え移って,少なくともその周辺部の「島」へ延焼し,焼損させる認識があったと推認できる。 これに対して弁護人らは,①被告人が再度穴に指を入れた際,今度は指先に熱さを感じなかったのであるから,いったん着火したかもしれない火勢が自然鎮火しつつあると受け止めるのが自然で,火勢が拡大しつつあるこ れに対して弁護人らは,①被告人が再度穴に指を入れた際,今度は指先に熱さを感じなかったのであるから,いったん着火したかもしれない火勢が自然鎮火しつつあると受け止めるのが自然で,火勢が拡大しつつあることを認識することはできないはずである,②プラスチックは,着火し一部が燃焼しても,やがて自然鎮火するのが通常で,全体が完全に燃焼し尽くすといった経験則など存しないが,被告人は,パチンコ台が鉄とかガラスとプラスチックの固まりでできていると思ったので,台に火がついても,火がついている場所が少し燃えて終わる程度で消えると思っていた,あるいは,③仮にパチンコ台の裏面内部に着火したとしても,「島」に延焼する前に,従業員らによって消火されるであろうとの被告人の期待には合理性があるから,被告人には「島」への延焼の認識はなかった旨主張する。しかし,①については,前記(ア)で述べたとおり,被告人が直ちにパチンコ台から立ち去ったのは,このままでは本件パチンコ台が燃焼し続け,これを壊してしまうと思ったからであることなどに照らしても,火勢が自然鎮火しつつあると受け止めていたなどとは認められず,理由がない。 次に,②について検討するが,確かに本件パチンコ台の材質は,主として鋼板やABS樹脂,ポリカーボネート樹脂で構成されており,燃焼実験に立ち会った消防署職員の証人Kも,パチンコ台が燃えるか疑問に思って燃焼実験をしたと供述しているように,一般人にもパチンコ台自体が可燃であるとの認識があるか疑問がないでもない。しかし,被告人は,現に本件パチンコ台内部が燃焼していることを認識しており,しかもその火を確認したのは,被告人がライターであぶってから,被告人自身の供述によるも20秒ないし40秒後(公判供述によれば1分から1分30秒後)のことだというのであり,それ いることを認識しており,しかもその火を確認したのは,被告人がライターであぶってから,被告人自身の供述によるも20秒ないし40秒後(公判供述によれば1分から1分30秒後)のことだというのであり,それ程長い時間自然鎮火せずにいたことを認識していたはずであること,そもそも,プラスチック類がある程度可燃であること自体は一般人の常識であること,本件パチンコ台は,液晶ディスプレイ等が搭載されていることから,その裏面には,プラスチックなどより可燃性が高い電気配線及びコード類が接続されていると容易に想像できることなどに照らせば,単にパチンコ台が主としてプラスチック樹脂や鉄からできていることを理由として,パチンコ台自体が燃えないものであると認識していたとはいえない。 そして,被告人は,本件当時,パチンコ台の詳細な構造を知らなかったところにもってきて,パチンコ台の内部が,被告人が立ち去るまでの間,ある程度の時間燃焼を続けていたと認識していたはずである以上,本件火災が,その後確実にパチンコ台だけにとどまって自然鎮火し,その周辺部にある「島」には燃え移らないと認識することは合理的な根拠を欠く。 また,被告人は,逃走後,しきりに本件パチンコ台のことを気にし,父親に電話して一緒に謝罪に行くよう依頼しており,これは被告人自身,自らが与えた損害がわずかな額では済まないと認識していたことの現れと認められる。さらに,被告人は,自宅で本件パチンコ店から上る煙を見て,直ちに自分の行為が火災の原因になったと考えたとの供述をしているところ,これは,被告人に心当たりがあったことをうかがわせ,ひいては被告人自身,そのような火事になる可能性を少なからず認識していたことにつながる。なお,被告人が,本件パチンコ店が火事であることを知るや,驚いて父親に再度電話をかけたこ あったことをうかがわせ,ひいては被告人自身,そのような火事になる可能性を少なからず認識していたことにつながる。なお,被告人が,本件パチンコ店が火事であることを知るや,驚いて父親に再度電話をかけたことは,本件火災が,被告人の予想以上の結果になったことをうかがわせるが,前記認定に基づいても,被告人は,建造物の一部である「島」への延焼の認識はあったものの,本件パチンコ店の建物全体が燃え広がることまでの認識まであったとは認められず,その意味で,現実には被告人の予想よりもはるかに過大な結果が生じたことはそのとおりであるから,被告人の驚愕は,前記推認を覆すに足りるものではない。 最後に③の点であるが,本件火災の発生場所はパチンコ台内部の分かりにくい箇所であり,被告人が逃走した当時,従業員も客も,だれ一人として火災発生の事実に気付いていなかったのであり,被告人もそのことを認識しながら立ち去ってしまったのであるから,被告人において,その後,火がさらに燃え広がれば,火災が周囲に認識され,消火活動がなされるであろうと期待するのはよいとしても,その期待は,せいぜい「ボヤ」程度で終わるであろうとの期待にすぎないといえ,「島」に延焼する前に確実に消し止められると合理的に期待できるはずがない。 (ウ)小括以上のとおり,被告人が,本件パチンコ台内部の炎から,少なくとも建造物の一部である「島」への延焼を認識していたとの推認は,これを覆すに足りるような事情はうかがわれないから,被告人は,建造物の一部である「島」への焼損の認識があったというべきである。 エ 結論したがって,被告人は,本件「島」及び本件パチンコ台の可燃性及び位置関係につきその認識があり,本件パチンコ台から本件「島」への延焼の認識が認められ,本件パチンコ台に対して何ら エ 結論したがって,被告人は,本件「島」及び本件パチンコ台の可燃性及び位置関係につきその認識があり,本件パチンコ台から本件「島」への延焼の認識が認められ,本件パチンコ台に対して何らの消火措置を取らずに立ち去ったのであるから,本件「島」に対する焼損の認容も認められる。よって,被告人には,本件建物に対する現住建造物等放火罪の故意が認められる。 3 以上の次第で判示罪となるべき事実のとおり認定した。 (法令の適用)罰条刑法108条刑種の選択有期懲役刑自首減軽刑法42条1項,68条3号未決勾留日数算入刑法21条訴訟費用刑訴法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由) 1 本件は,被告人が,パチンコで負けた腹いせとしてパチンコ台に,すすをつける目的で,その下受皿玉排出口にライターを入れて点火したところ,パチンコ台内部に着火してしまい,しばらく後にこれに気付き,このまま放置すれば,建物の一部であり,パチンコ台が設置されている「島」に延焼し,焼損させる可能性を認識しつつ,発覚を恐れて,そのまま立ち去ったところ,この火が,その場に500人以上いたパチンコ店内全体に燃え移り,1階店舗部分の大半である約1500平方メートルを焼損させたという事案である。 2 被告人は,本件パチンコ台に火がついたことを知るや,その発覚を恐れ,従業員からしかられたり,パチンコ台を弁償させられるのを避けるために,安易に逃亡して不作為の放火行為を行っており,その犯行動機は極めて自己中心的かつ短絡的であり,厳しい非難にさらされるべきである。 また,500人を超える不特定多数の来客のあるパチンコ店での犯行であり,不作為による放火とはいえ,その危険性は極めて高い。 さらに,本件店舗の焼損面積は1472.11平方メートルと大きく, 。 また,500人を超える不特定多数の来客のあるパチンコ店での犯行であり,不作為による放火とはいえ,その危険性は極めて高い。 さらに,本件店舗の焼損面積は1472.11平方メートルと大きく,その被害額は,合計で8億円弱と極めて多額であり,その他従業員が解雇されるなど多大な影響があった。幸い,被害会社は,火災保険に加入していたが,被告人側からは何らの弁済はされていない。加えて,現に従業員22名,店舗関係者3名,客約500名という多数が火災の危険にさらされ,その他周辺住民にも延焼の不安を与えただけでなく,本件パチンコ店店長Bが本件火災により死亡しており,人の生命が失われたという結果は重大である。 以上に照らせば,被告人の刑事責任は重大といわざるを得ない。 3 他方,本件犯行は,不作為犯という消極的な犯行態様であって,積極的に被告人自身が放火したわけではないこと,被告人に現住建造物等放火の故意が認められるといっても,せいぜい「ボヤ」程度の,しかも未必的な認識認容であって,被告人にとって思いも掛けない重大な結果になってしまったことは否定できないこと,従業員らが火災に対する十分な訓練を受けていなかったことも一因となって効果的な消火活動ができず,また,通報の遅れもあって大規模火災となった側面がないわけではないこと,死亡した店長は,いったん火災から逃げ出したものの,再び店内に入り,煙に巻かれて逃げ出せなくなったことから死亡に至ったものであり,同人に若干の落ち度がなかったとはいえないこと,被告人の両親が,死亡した店長の遺族に対して,見舞金を用意して渡す努力がされたこと,本件犯行後間もなく自首したこと,被告人は,勤務会社を懲戒解雇され,妻は妊娠中の子を中絶し,同女とも離婚したことなど既に社会的制裁を受けていること,27歳になったばかりと比較的若 す努力がされたこと,本件犯行後間もなく自首したこと,被告人は,勤務会社を懲戒解雇され,妻は妊娠中の子を中絶し,同女とも離婚したことなど既に社会的制裁を受けていること,27歳になったばかりと比較的若年であり,前科もないことなど被告人にとって酌むべき事情もある。 4 そこで,これら一切の事情を考慮し,自首減軽をした上,主文の量刑が相当と判断した。 (求刑-懲役6年)平成15年3月13日大分地方裁判所刑事部裁判長裁判官久我泰博裁判官金田洋一裁判官駒田秀和

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