令和4(ワ)10717 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年8月24日 東京地方裁判所
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判決文本文31,080 文字)

令和5 年8 月24 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4 年(ワ)第10717 号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5 年6 月5 日判決原告株式会社東京精密 同訴訟代理人弁護士服部誠同中村閑同岩間智女同柿本祐依同補佐人弁理士黒川恵 被告浜松ホトニクス株式会社同訴訟代理人弁護士東崎賢治同松尾博憲同柿野真一同尾形夏子 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 被告は、原告に対し、1 億円及びこれに対する令和4 年5 月28 日から支払済みまで年3 分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、発明の名称を「レーザ加工方法及びレーザ加工装置」とする発明についての特許(特許第4509578 号。以下、同特許を「本件特許1」、同発明を「本件発明 1」、本件特許1 に係る特許権を「本件特許権1」という。)及び「切断方法」とする 発明についての特許(特許第5122611 号。以下、同様に「本件特許2」、「本件発明2」、「本件特許権2」といい、これらと本件特許1、本件発明1、本件特許権1 とを併せて、それぞれ「本件各特許」、「本件各発明」、 許(特許第5122611 号。以下、同様に「本件特許2」、「本件発明2」、「本件特許権2」といい、これらと本件特許1、本件発明1、本件特許権1 とを併せて、それぞれ「本件各特許」、「本件各発明」、「本件各特許権」という。)について、被告が単独で特許出願し本件各特許権の設定登録を受けているところ、原告が、当事者間の契約によれば本件各特許権は原告と被告との共有となるべきものである にもかかわらず、被告が単独でその設定登録を受け、原告に対して本件特許権1 の侵害を理由とする特許権侵害訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起すると共に、原告に無断で原告の競合他社に対して本件各特許権の実施許諾をしたことは、いずれも原告に対する不法行為に当たると共に、上記実施許諾により被告が得た利益は不当利得に当たる旨を主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民 法709 条)又は不当利得返還請求(703 条。両者は選択的主張である。)として、損害又は不当利得10 億円の一部である1 億円及びこれに対する令和4 年5 月28 日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨 により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。)(1) 当事者原告は、半導体製造装置及び精密計測機器の製造等を業務とする株式会社である。 被告は、光半導体、光学応用機器等の開発・製造を主たる業務とする株式会社で ある。 (2) 原告と被告の業務提携ア平成14 年8 月、被告がレーザで半導体ウェハの切断(ダイシング)を行う技術(以下「ステルスダイシング技術」という。) たる業務とする株式会社で ある。 (2) 原告と被告の業務提携ア平成14 年8 月、被告がレーザで半導体ウェハの切断(ダイシング)を行う技術(以下「ステルスダイシング技術」という。)を開発したとの新聞記事が掲載された。当時、世界のダイシング装置(ダイシングを行う半導体製造装置)で第2 位 のシェアを有していた原告は、被告の上記技術に興味を持ち、被告に対してその事 業化に向けた業務提携を提案したところ、被告はこれに応じた。当時、被告は、ステルスダイシング技術を開発したばかりであり、同技術に係る基本特許の出願を行っていたものの、未だ試作品の製作やその先の量産品の開発・販売という段階に至っていなかった。 イステルスダイシング(以下「SD」と略することもある。)技術は、レーザ光 を用いたダイシング技術である。半導体の製造においては、シリコンウェハ(以下「ウェハ」ともいう。)上に集積回路(IC)を形成した上で1 つ1 つのチップとして切り離すことが行われており、ダイシングとはこの切り離し作業をいう。 ステルスダイシング技術に先立つ従来のダイシング技術としては、冷却水をかけながらダイアモンド砥石を高速回転させてウェハを切断する技術であるブレードダ イシングや、レーザ光をウェハ表面に集光し、溝を掘ってウェハを切断する技術であるアブレーションダイシングがある。これに対し、ステルスダイシング技術は、対象材料に対して透過性を有する波長のレーザ光をウェハ内部に集光し、分割するための起点(改質層、SD 層)を形成した後、ウェハに外部応力を加えて小片化する技術である。すなわち、ステルスダイシング技術では、ウェハの切断予定ラインに 沿ってレーザ光を走査し、ウェハ内部にSD 層を形成していく。このようなステルス ウェハに外部応力を加えて小片化する技術である。すなわち、ステルスダイシング技術では、ウェハの切断予定ラインに 沿ってレーザ光を走査し、ウェハ内部にSD 層を形成していく。このようなステルスダイシング技術では、専用のレーザ及び専用光学系により、ウェハの表面付近は未改質の状態のまま、ウェハの内部のみに選択的にSD 層を形成することが可能である。そのため、ステルスダイシング技術によると、ウェハ表面にチッピング(微少な欠損)を発生させず、純水での洗浄を必要としないため、高い抗折強度(曲げ に対する強度)を保ちつつ切断が可能となり、フラッシュメモリ等の精密な機能素子のチップを切り出すことができる。 ウ原告と被告は、平成14 年9 月18 日、業務提携準備に関する契約(以下「本件準備契約」という。)を締結した。同契約には以下の内容が含まれる。 (前文) 原告と被告は被告の開発したレーザを用いたダイシング技術の事業化に 向けた業務提携…についての準備と交渉(以下、本検討という)にあたり、既に合意している事項の確認及び今後の交渉ルール等について以下のとおり契約を締結する。 第1 条(定義)本契約中の用語の定義は次の通りとする。 (1) ステルスダイシング技術:被告が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術(2) ステルスダイシング装置:ステルスダイシング技術を用いた装置(3) SD エンジン: ステルスダイシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ 軸)、搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z 軸ステージを含む)及びソフトウエア設計第2 条(提携の目的)原告及び被告は、半導体ウェハダイシング分野においてステルスダ イシング装置を早期に事業化し、広く普 ーコンポーネント部(Z 軸ステージを含む)及びソフトウエア設計第2 条(提携の目的)原告及び被告は、半導体ウェハダイシング分野においてステルスダ イシング装置を早期に事業化し、広く普及させることにより、相互の利益に寄与することを目的として本検討を行う。 第3 条(情報の開示)原告及び被告は相手方に対して本検討に際して必要な情報(以下、本情報という。)を開示する。 第5 条(試作機の共同開発)原告及び被告は業務提携の準備の一環として、2002 年(平成14 年) 12 月開催のセミコンジャパンへの共同出展を目指して、ステルスダイシング装置の試作機の共同開発を行う。 2.試作機の共同開発の役割分担は以下の通りとする。 (1) 原告:既存製品(A-WD-200T)(裁判所注:原告の既存のダイシン グ装置を指す。)をSD エンジン搭載可能に改造を行う(2) 被告:SD エンジンを既存製品(A-WD-200T)に搭載する。一部改造も伴う3.原告及び被告は前項の自己の役割分担部分の費用を自己のリスクにおいて負担する。 第6 条(成果)試作機の共同開発の過程又は相手方が開示した本情報に基づき、発明・考案等を確認したときは、その取扱いにつき速やかに協議するものとし、その発明・考案等及びこれらに基づく工業所有権等(以下、本成果という)の帰属及び運用は、次のとおりとする。 (1) SD エンジンに関する本成果は被告に帰属するものとする。 (2) ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果は原告被告共有とする。 2.被告は、半導体ウェハダイシング分野以外の用途において、被告の提携先又は最終ユーザーが希望した場合は、前項により共有となった本 成果につき ンジンに関しない本成果は原告被告共有とする。 2.被告は、半導体ウェハダイシング分野以外の用途において、被告の提携先又は最終ユーザーが希望した場合は、前項により共有となった本 成果につき単独で使用許諾をすることができる。 3.前項の場合、被告は原告に対して、持分に応じた実施料相当分を支払うものとする。具体的金額等の詳細については別途協議する。 なお、本件準備契約1 条(3)の「SD エンジン」の定義中、「ステージ」は、加工用載置台と、加工用載置台を水平方向であるX 軸、Y 軸、θ 軸の各方向、及び、高さ 方向であるZ 軸方向に動かすための移動機構である。また、搬送部(アーム部)は、カセット部からウェハを吸着させて1 枚持ち上げ、プリアライメント(おおよその回転・位置ずれ補正)後に、ステージへ載せ、レーザ加工終了後に、ステージからウェハをカセットに戻す動作を行う。「SD エンジン」の定義中、「搬送系部分」は、主として、カセット部、搬送部(アーム部)、プリアライメントを行う部分からなる。 (3) 本件特許1 被告は、平成16 年1 月9 日、本件発明1 につき単独で特許出願し、平成22 年5月14 日、本件特許権1 の設定登録を受けた。その特許請求の範囲(ただし、請求項8 及び11)は次のとおりである(以下、請求項8 に係る発明を「本件発明1-8」、請求項11 に係る発明を「本件発明1-11」という。なお、「/」は改行部分を意味する。以下同じ。)。また、本件特許1 に係る明細書及び図面(以下「本件明細書1」 という。)には、別紙1 のとおりの記載がある。 【請求項8】第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質 という。)には、別紙1 のとおりの記載がある。 【請求項8】第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、/前記第1 のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、 /前記加工対象物と前記レンズとを前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、/前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、/前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、/を備え、/前記制御手段は前記集光点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、/当該位置に前記レン ズを保持した状態で前記第一のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し、/前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整し ながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する、/レーザ加工装置。 【請求項11】前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段 は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との 間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段 保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との 間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成し、/更に、前記制御手段は前記レンズを前記主面に向かう方向に駆動させずに保持するように前記保持手段を制御すると共に、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御する、 請求項8~10 のいずれか1 項に記載のレーザ加工装置。 (4) 本件特許2被告は、平成22 年7 月6 日、本件発明2 につき単独で特許出願し(特願2004- 212059 号の分割出願。原出願日平成16 年7 月20 日)、平成24 年11 月2 日、本件特許権2 の設定登録を受けた。本件特許2 に係る特許請求の範囲(ただし、請求 項1)は次のとおりである。また、本件特許2 に係る明細書及び図面(以下「本件明細書2」という。)には、別紙2 のとおりの記載がある。 【請求項1】シリコンウェハの内部に集光点を合わせて、前記集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、前記パルスレーザ光を前記 シリコンウェハの切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハの内部に溶融処理領域を形成すると共に、前記シリコンウェハの内部であって前記溶融処理領域を挟んで前記パルスレーザ光の入射側とは反対側に、前記切断予定ラインに沿って相互に離隔するように複数の微小空洞を形成する工程と、/前記溶融処理領域と前記微小空洞とからなる改質領 域を起点として割れを発生させ、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハを切断す って相互に離隔するように複数の微小空洞を形成する工程と、/前記溶融処理領域と前記微小空洞とからなる改質領 域を起点として割れを発生させ、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハを切断する工程と、を備え、/前記パルスレーザ光のパルスピッチは2.00μm~7.00μm である、切断方法。 (5) 別件訴訟被告は、原告に対し、本件特許権1 の侵害を理由とする特許権侵害訴訟(当庁平 成30 年(ワ)第28931 号特許権侵害差止等請求事件。別件訴訟)を提起した。受 訴裁判所は、令和5 年2 月15 日、原告に対し、被告に対する1 億3116 万1399 円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる判決を言い渡した。(乙23) 2 争点(1) 本件各発明に係る試作機の共同開発の過程で確認された発明(本件準備契約 6 条1 項)該当性(争点1) (2) 本件各特許権の帰属-本件準備契約6 条1 項の解釈(争点2)(3) 被告による別件訴訟の提起等の違法性及び故意又は過失の有無(争点3)(4) 損害又は不当利得の額(争点4) 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(本件各発明に係る試作機の共同開発の過程で確認された発明(本件 準備契約6 条1 項)該当性)について〔原告の主張〕原告と被告は、本件準備契約締結後、ステルスダイシング技術の事業化に向けて、ステルスダイシング装置の試作機(以下「本件試作機」という。)の共同開発を開始し、これを完成させた。以下のとおり、本件各発明はいずれもその過程で生じたも のであり、本件試作機の共同開発の過程で確認された発明(本件準備契約6 条1 項)に該当する。 ア本件試作機の構成と本件各発明の構成との対応関係は、以下のとおりである。 ・本件発 じたも のであり、本件試作機の共同開発の過程で確認された発明(本件準備契約6 条1 項)に該当する。 ア本件試作機の構成と本件各発明の構成との対応関係は、以下のとおりである。 ・本件発明1-8本件発明1-8本件試作機の構成第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、C3 カメラで加工対象物(ワーク)表面にフォーカスが合った位置で切削基準位置の登録を行い(加工高さセット)、加工時、すなわちレーザーヘッドから加工用レーザーを照射する際、この切削基準位置から所定の切り込み量を差し引いた加工高さ(加工対象物の切断予定ライン上であり、この加工 によって加工対象物の内部に改質領域が形成される)で自動制御する仕様となっているレーザ加工装置。 前記第1 のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、加工用レーザーを加工対象物に向けて集光するレンズ。 前記加工対象物と前記レンズとを前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、加工対象物を、その上方に配置されるレンズに対して、加工対象物の上面に沿ってXY方向に移動させるステージ。 前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、レンズを、加工対象物に対して進退自在に保持するピエゾとの取付部。 前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、を備え、CPU162。 前記制御手段は前記集光点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、C3 カメラで加工対象物(ワーク)表面にフォーカスが合った位置で切削基準位置の登 点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、C3 カメラで加工対象物(ワーク)表面にフォーカスが合った位置で切削基準位置の登録を行い(加工高さセット)、当該位置に前記レンズを保持した状態で前記第一のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し、上記加工高さを維持した状態で、測距用レーザ光の照射を開始し、1 つの加工ラインについて、レンズを(ピエゾ)加工開始位置に保持した状態で加工用レーザーが加工対象物に照射され、加工(改質領域の形成)が開始され、レンズ(ピエゾ)を固定した状態でフィルム上(ウェハ外)からウェハ上にX軸方向の切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、ウェハ上の上記切断予定ラインの一端部において加工が行われる(改質領域が形成される) 前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する、その後、固定されていたレンズ(ピエゾ)が、ウェハ上において可変となり、「リアルタイムコントロールモード」又は「トレースモード(再生)」により、オートフォーカスしながらレンズとウェハとを相対的に移動させて加工(改質領域の形成)がなされる レーザ加工装置。 レーザ加工装置。 ・本件発明1-11本件発明1-11 )」により、オートフォーカスしながらレンズとウェハとを相対的に移動させて加工(改質領域の形成)がなされる レーザ加工装置。 レーザ加工装置。 ・本件発明1-11本件発明1-11本件試作機の構成前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成し、 その後、固定されていたレンズ(ピエゾ)が、ウェハ上において可変となり、「リアルタイムコントロールモード」又は「トレースモード(再生)」により、オートフォーカスしながらレンズ(ピエゾ)とウェハとを相対的に移動させて加工(改質領域の形成)がなされる更に、前記制御手段は前記レンズを前記主面に向かう方向に駆動させずに保持するように前記保持手段を制御すると共に、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御する、 ウェハ上の上記切断予定ラインの他端部において、レンズをウェハ表面に向かう方向に駆動させずに保持するように制御すると共に、レンズと加工対象物とをウェハ表面に沿って相対的に移動させるようにステージを制御する、請求項8~10 のいずれか1 項に記載のレーザ加工装置。 レーザ加工装置。 ・本件発明2本件発明2公知発明+本件試作機の構成シリコンウェハの内部に集光点を合わせて、前記集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、前記パルスレーザ光を前記シリコンウェハの切 本件試作機の構成シリコンウェハの内部に集光点を合わせて、前記集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、前記パルスレーザ光を前記シリコンウェハの切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハの内部に溶融処理領域を形成すると共に、前記シリコンウェハの内部であって前記溶融処理領域を挟んで前記パルスレーザ光の入射側とは反対側に、前記切断予定ラインに沿って相互に離隔するように複数の微小空洞を形成する工程と、Si ウェハの内部に集光点を合わせてレーザーヘッドから加工用レーザー光(集光点のピークパワー密度は●(省略)●である)を照射し、レンズ(ピエゾ)をウェハの上記切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、上記切断予定ラインに沿ってSi ウェハの内部に溶融処理領域を形成するとともに、Si ウェハ内部において、切断予定ラインに沿って相互に離隔する複数の微小空洞が、加工用レーザ光の入射側とは溶融処理領域を挟んだ反対側に形成されている前記溶融処理領域と前記微小空洞とからなる改質領域を起点として割れを発生させ、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハを切断する工程と、を備え、溶融処理領域と、その下方に形成される微小空洞とからなる改質領域において、当該部分を起点として割れを発生させ、上記切断予定ラインに沿ってSi ウェハを切断する前記パルスレーザ光のパルスピッチは2.00µm~7.00µm である、切断方法。 上記加工用レーザ光のパルスピッチを2.0µm ないし7µm とする、切断方法。 イ本件発明1 について以上のとおり、本件試作機は、本件発明1 の全ての構成を備えている。したがって、本件発明1 工用レーザ光のパルスピッチを2.0µm ないし7µm とする、切断方法。 イ本件発明1 について以上のとおり、本件試作機は、本件発明1 の全ての構成を備えている。したがって、本件発明1 は、本件試作機の共同開発の過程で生じ、確認された発明である。 ウ本件発明2 について 本件発明2 は、パルスピッチが2.00μm~7.00μm のパルスレーザ光をウェハに照射することにより、的確に微少空洞を形成してウェハを容易に切断することができるレーザ加工装置を提供するものである。 原告と被告は、平成15 年1 月29 日~同月31 日、繰り返し周波数を変えることにより切断品質を満足するパルスピッチ(加工速度/繰り返し周波数)を模索した結 果、切断品質を満足するパルスピッチの下限が2μm 程度であることを見出し、また、同年6 月24 日~同月29 日、パルスピッチを7μm とすることにより改質層において従来法には見られなかった複数の微小空洞が形成されることを見出した。すなわち、本件発明2 が特定するパルスピッチの下限値は平成15 年1 月に、上限値は同年6 月に、原告と被告との作業により見出されたものである。 したがって、本件発明2 は、原告及び被告による本件試作機の共同開発の過程で生じ、確認された発明である。 〔被告の主張〕本件各発明が本件試作機の共同開発の過程で確認された発明(本件準備契約6 条 1 項)に該当することは否認する。 ア本件発明1 について本件発明1 は、ステルスダイシングにおいて、加工対象物の主面(加工用レーザ光が入射する面)と対物レンズとの間の距離を一定に維持するAF(オートフォーカス)追従機能に関する発明であるところ、加工対象物であるウェハ端部での集光点 ングにおいて、加工対象物の主面(加工用レーザ光が入射する面)と対物レンズとの間の距離を一定に維持するAF(オートフォーカス)追従機能に関する発明であるところ、加工対象物であるウェハ端部での集光点のずれの問題解決に向けた調整は、被告が単独で行っていた。すなわち、本件発 明1 の主要な課題解決手段は、加工用対物レンズの高さ(レンズと加工対象物の主面との間隔)を調整すること(レンズを初期位置に保持し、又は初期位置に保持した状態を解除することを含む。)であるが、テープ上で対物レンズを固定させ、ウェハ上で対物レンズを可変にし、課題であったウェハの利上げ部の追従性を改善するための実験は全て被告が行い、その結果、本件発明1 を被告が単独で着想し、単独 で完成させたものである。 イ本件発明2 について●(省略)●また、同月23 日には、原告の出張報告(甲20)記載の「新方法」と同一の加工条件を固定条件として、単独で検証を行った。他方、原告の出張報告(甲19 及び20)には、パルスピッチを一定の数値範囲内のものとするという技術 思想は記載されていない。 また、本件発明2 においては、複数の微小空洞を形成することが重要な要素であるところ、被告は、平成15 年6 月12 日~同月16 日、改質領域の一部分に微小空洞があることを見出し、単独で微小空洞について検証・考察した。他方、原告の出張報告(甲19 及び20)には、微小空洞の形成に関する記載はない。 このように、本件発明2 は被告が単独で完成させたものであり、原告はこれにつ いて何ら知見を提供したものではない。 (2) 争点2(本件各特許権の帰属-本件準備契約6 条1 項の解釈)について〔原告の主張〕ア本件準備契約6 条1 項の解釈本件準備 れにつ いて何ら知見を提供したものではない。 (2) 争点2(本件各特許権の帰属-本件準備契約6 条1 項の解釈)について〔原告の主張〕ア本件準備契約6 条1 項の解釈本件準備契約6 条1 項は、①「SD エンジンに関する本成果」は被告に帰属する こと、②「ステルスダイシング技術(に関する本成果)」及び「SD エンジンに関しない本成果」は原告と被告の共有とすることを意味すると解釈すべきである。したがって、「ステルスダイシング技術」に関する特許権は、原告と被告の共有となる。 これに対し、被告は、「『ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない』が『本成果』を修飾している」との解釈が文理上唯一であるかのように主張する。 しかし、被告の解釈によれば、原告と被告の業務提携の目的であり、共同開発により初めて実現される「ステルスダイシング技術を用いた装置」である「ステルスダイシング装置」についての成果の定めが契約上存在しないこととなり、極めて不自然である。他方、原告の上記解釈によれば、ステルスダイシング技術を用いた装置についても、SD エンジンについても、成果の帰属の定めが置かれていることにな り、契約解釈として自然かつ合理的である。 イ 「SD エンジン」又は「ステルスダイシング技術」に関する本成果(発明)の解釈「試作機の共同開発の過程」(本件準備契約6 条)とは、5 条の「共同開発」を指しており、6 条は、5 条が定めるとおり、各々の当事者が投じた費用(人的工数を含 む開発費)が無駄になるリスクを負って共同開発した過程で確認された発明・考案 等及びこれらに基づく工業所有権等の帰属について合意したものである。また、本件準備契約においては、「ステルスダイシング技術」を用いた装置 を負って共同開発した過程で確認された発明・考案 等及びこれらに基づく工業所有権等の帰属について合意したものである。また、本件準備契約においては、「ステルスダイシング技術」を用いた装置の中の特定の部分のみを「SD エンジン」と定義し、「SD エンジンに関する本成果」については、「ステルスダイシング技術」と区別して、被告に単独で帰属することを定めている。 そうすると、「本成果」の帰属に係る本件準備契約6 条は、5 条の役割分担におい て、被告のみがリスクを負って開発した「SD エンジン」が課題解決手段(課題解決のための必須の構成)の全部であるものについては被告に単独で帰属し、「SD エンジン」を原告の既存装置に搭載して「ステルスダイシング装置」を完成させるにあたり、原告と被告とが相互にリスクを負って開発した「SD エンジン」に該当しない部分が発明の課題解決のための必須の構成の全部又は一部をなすものは、「SD エン ジンに関する本成果」ではなく、「ステルスダイシング技術に関する本成果(発明)」として、原告と被告の共有となると理解することが合理的であり、本件準備契約を締結した当時の当事者の合理的意思に合致する。 以上のように解さなければ、ステルスダイシング装置の実用化にあたり両者が各々リスクを負って共同で開発し確認された「SD エンジン」に該当しない部分に つき、課題解決のための必須の構成の少なくとも一部をなす発明であるにもかかわらず、当該成果に係る知的財産権が被告に単独で帰属することになってしまう。このような共同開発の理念に反する帰結は明らかに不合理である。 ウ本件発明1本件発明1 は、次のとおり、「SD エンジンに関する本成果」に該当せず、「ステ ルスダイシング技術に関する本成果(発明)」 開発の理念に反する帰結は明らかに不合理である。 ウ本件発明1本件発明1 は、次のとおり、「SD エンジンに関する本成果」に該当せず、「ステ ルスダイシング技術に関する本成果(発明)」に該当する。 すなわち、本件発明1 は、加工対象物の端部においてレーザ光の集光点のずれが生じることを課題とし、レンズとステージとの(水平上(X 軸上)の)位置関係を認識し、レンズがステージ上の加工対象物の「切断予定ラインの一端部」に来て(レンズが加工対象物に差し掛かり)改質領域を形成した後に、レンズを保持した状態 を解除する(その後、レンズと加工対象物とを主面に沿って相対的に移動させなが ら改質領域を形成する)ことにより課題を解決するものである。このため、ステージを備え、レンズとステージ上の加工対象物との相対的な(X 軸上の)位置関係を把握し、レンズのZ 軸上の動作とステージのX 軸上の動作のタイミングを同期させることが、本件発明1 の課題の解決には必須である。 「SD エンジン」とは、ステルスダイシング装置(ステルスダイシング技術を用い た装置)中の「筐体、ステージ(X・Y・θ 軸)、搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z 軸ステージを含む)及びソフトウエア設計」であるところ(本件準備契約1 条(3))、本件試作機の構成上、「キーコンポーネント部」は「レーザーエンジン(LE)」を指し、「ダイサ」は「キーコンポーネント部」に該当しない。また、「SDエンジン」に含まれる「ソフトウェア設計」は、上記「レーザーエンジン(LE)」 についてのソフトウェア設計であり、「ダイサ」についてのソフトウェア設計はこれに該当しない。上記の課題の解決に必須の動作は、本件試作機の構成でいえば、「SDエンジン」ではない「ダイサ部 」 についてのソフトウェア設計であり、「ダイサ」についてのソフトウェア設計はこれに該当しない。上記の課題の解決に必須の動作は、本件試作機の構成でいえば、「SDエンジン」ではない「ダイサ部」内のCPU162 によって制御される情報処理と、その情報処理の結果を制御信号として出力することにより行われる。 以上によれば、本件発明1 は、「SD エンジン」の定義から除かれているX 軸上の 「ステージ」の動作とその制御を、課題解決のための必須の構成として含んでいる。 したがって、本件発明1 は、「SD エンジンに関する本成果」に該当せず、「ステルスダイシング技術に関する本成果(発明)」に該当する。 また、共同開発の経過に照らしても、本件発明1 は、被告のみがリスクを負って被告が単独で開発した発明ではない。本件発明1 は、原告と被告とが相互にリスク を負って開発した「SD エンジン」に該当しない部分が、発明の課題解決のための必須の構成の少なくとも一部をなすから、「ステルスダイシング技術に関する本成果(発明)」として、両者の共有となる。 エ本件発明2本件発明2 は、次のとおり、「SD エンジンに関する本成果」に該当せず、「ステ ルスダイシング技術に関する本成果(発明)」に該当する。 すなわち、本件発明2 は、ウェハを容易に切断できる切断方法を提供することを課題とし、集光点のピークパワー密度を「1×108(W/cm2)以上の条件」とし、パルスレーザ光のパルスピッチを「2.00μm~7.00μm」として、溶融処理領域と微小空洞とをウェハ内部に形成することによって課題を解決するものである。このため、X 軸ステージやY 軸ステージを所定のパルスピッチになるように制御することが、 本件発明2 の課題の 処理領域と微小空洞とをウェハ内部に形成することによって課題を解決するものである。このため、X 軸ステージやY 軸ステージを所定のパルスピッチになるように制御することが、 本件発明2 の課題の解決には必須である。このような必須の制御はレーザ加工装置全体を制御する全体制御部がステージ制御部を制御することにより行われるところ、本件試作機においては、上記必須の動作は、「SD エンジン」ではない「ダイサ部」内のCPU162 により制御される。 以上によれば、本件発明2 は、「SD エンジン」の定義から除かれているX 軸ステ ージ及びY 軸ステージ並びにそれらの制御を課題解決のための必須の構成として含んでいる。したがって、本件発明2 は、「SD エンジンに関する本成果」に該当せず、「ステルスダイシング技術に関する本成果(発明)」に該当する。 また、共同開発の経過に照らしても、本件発明2 は、被告のみがリスクを負って被告が単独で開発した発明ではない。本件発明2 は、原告と被告とが相互にリスク を負って開発した「SD エンジン」に該当しない部分が、発明の課題解決のための必須の構成の少なくとも一部をなすから、「ステルスダイシング技術に関する本成果(発明)」として、両者の共有となるべきものである。 〔被告の主張〕ア本件準備契約6 条1 項の解釈 (ア) 本件準備契約6 条1 項は、①「SD エンジンに関する本成果」は被告に帰属すること、②「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果」は原告と被告の共有とすることを意味すると解釈すべきである。 すなわち、本件準備契約6 条1 項の「SD エンジンに関する本成果」及び「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果」は、いずれも「本成果」 意味すると解釈すべきである。 すなわち、本件準備契約6 条1 項の「SD エンジンに関する本成果」及び「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果」は、いずれも「本成果」 の分類を示したものである。より具体的には、「ステルスダイシング技術及びSD エ ンジンに関しない」は、「本成果」を修飾している。 (イ) 原告の主張についてもし、本件準備契約において「ステルスダイシング技術」に関する特許権を両者の共有とすることが意図されていたのであれば、「ステルスダイシング技術に関する本成果及びSD エンジンに関しない本成果は…共有とする」と規定されたはずで ある。 また、「SD エンジン」とは、「ステルスダイシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ 軸)、搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z 軸ステージを含む)及びソフトウエア設計」と定義されているのであるから、「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果」とは、共同開発によって初めて実現される、ステル スダイシング装置のうち、筐体、ステージ、搬送系部分といった、キーコンポーネント部(ソフトウェア設計を含む。)以外の部分に関する本成果である。このため、上記(ア)のように解しても、「ステルスダイシング装置」についての成果の定めが本件準備契約上存在しないことにはならない。 イ 「SD エンジンに関する本成果」の解釈 ステルスダイシング技術は、被告が開発した固有の技術である。 また、本件準備契約の「SD エンジン」の定義中の「ダイシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ 軸)、搬送系部分」は、ステルスダイシング技術に固有のものというよりは、従来の技術を用いたダイシング装置と共通する部分が多いと考えられる。 原告は、本 「ダイシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ 軸)、搬送系部分」は、ステルスダイシング技術に固有のものというよりは、従来の技術を用いたダイシング装置と共通する部分が多いと考えられる。 原告は、本件準備契約締結前から従来の技術を用いたダイシング装置を取り扱って いたことから、上記部分については原告が既に有している知見を活用することが期待され、ステルスダイシング装置の試作機の共同開発において、「既存製品(A-WD-200T)をSD エンジン搭載可能に改造を行う」ことが原告の役割とされたものである(本件準備契約5 条2 項)。 他方、被告の役割については、「SD エンジンを既存製品(A-WD-200T)に搭載す る。一部改造も伴う」とされている(本件準備契約5 条2 項)。これは、「SD エン ジン」は、原告が有する他のダイシング装置に関する経験とは無関係であり、原告が研究開発に貢献することは全く求められていなかったためである。 このように、原告及び被告による本件試作機の共同開発とは、ダイシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ 軸)、搬送系部分について、他のダイシング装置に関する経験から原告が既に有している知見を活用することにより、被告が開発するSD エンジンを原告の既存製品に搭載することができるようにすることである。 本件準備契約6 条1 項は、このような役割分担を反映させたものである。すなわち、原告が研究開発に貢献することが全く求められていなかった「SD エンジンに関する本成果」については、被告に単独で帰属することとされ、他のダイシング装置に関する経験から原告が既に有している知見を活用することが期待されていた 「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果」は、原告及び被告の共有 することとされ、他のダイシング装置に関する経験から原告が既に有している知見を活用することが期待されていた 「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果」は、原告及び被告の共有とすることとされたのである。 このような本件準備契約の趣旨に鑑みると、「SD エンジンに関する本成果」(本件準備契約6 条1 項)とは、SD エンジンが発明の全ての構成要件を満たす本成果をいうのではなく、発明の本質的部分(特徴的部分)がSD エンジンにある本成果 をいうと解すべきである。なぜなら、本件契約6 条1 項(1)と(2)の差異は、原告が研究開発に貢献することが全く求められていなかった技術分野に関する本成果であるか、他のダイシング装置に関する経験から原告が既に有している知見を活用することが期待されていた技術分野に関する本成果であるか、にある。発明の本質的部分(特徴的部分)以外にいかなる構成要件を付加して出願するかは、権利行使の容易 性の確保等種々の理由から選択され決定されるものに過ぎず、発明の本質的部分(特徴的部分)がSD エンジンにある本成果であれば、原告が研究開発に貢献すること(原告による創作的寄与)は全く求められていなかった技術分野に関する本成果に含まれるというべきであるからである。 ウ本件発明1 について (ア) 本件発明1 の主要な課題解決手段は、加工用対物レンズの高さを調整するこ とである。加工用対物レンズはSD エンジンの主要な部材である。また、加工用対物レンズの高さを調整する具体的な手段は限定されていないものの、ピエゾ素子を用いたアクチュエータにより行われ、このアクチュエータも、SD エンジンを構成する部材である。加えて、これらの部材を制御するのはソフトウェアである。 このよう 限定されていないものの、ピエゾ素子を用いたアクチュエータにより行われ、このアクチュエータも、SD エンジンを構成する部材である。加えて、これらの部材を制御するのはソフトウェアである。 このように、本件発明1 は、その本質的部分(特徴的部分)がSD エンジンを構 成する部材及びその部材を制御するソフトウェアに関する発明であり、「SD エンジンに関する本成果」に当たる。 (イ) 原告の主張について本件発明1 において、「ステージ」の動作とその制御は「移動手段」とその制御によって行われるところ、本件発明1 は、「ステージ」の動作とその制御として、「前 記加工対象物と前記レンズとを前記(加工対象物の)主面に沿って移動させる」ことしか要求していない。すなわち、本件発明1 において、「ステージ」の動作とその制御に関する部分は、従来技術そのものであり、何ら新規な要素を含まないから、発明の本質的部分(特徴的部分)ではない。 また、CPU162 によるキーコンポーネント部の制御はキーコンポーネント部に係 るソフトウェア設計によって行うものである。このため、「SD エンジン」の定義から、CPU162 によるキーコンポーネント部の制御も「SD エンジン」に含まれる。 エ本件発明2(ア) 本件発明2 の主要な課題解決手段は、照射するパルスレーザ光の照射条件(集光点のピークパワー密度及びパルスピッチ)を所定の数値範囲内とすることで あるところ、加工用レーザ光の光源は、SD エンジンの根幹をなす部材である。したがって、本件発明2 は、その本質的部分(特徴的部分)がSD エンジンを構成する部材及びその部材を制御するソフトウェアに関する発明であり、「SD エンジンに関する本成果」に当たる。 (イ) 原告の主張について 、その本質的部分(特徴的部分)がSD エンジンを構成する部材及びその部材を制御するソフトウェアに関する発明であり、「SD エンジンに関する本成果」に当たる。 (イ) 原告の主張について 本件発明2 は、ステージの制御を規定した発明ではない。また、パルスピッチは、 レーザの周波数とステージの移動速度との関係で定まるものではあるが、ステージの移動速度に特定の意味があるわけではない。本件発明2 におけるパルスピッチの制御の本質的要素は、SD エンジンの制御にある。本件発明2 において、「ステージ」の動作とその制御に関するものがあるとすれば、「前記パルスレーザ光を前記シリコンウェハの切断予定ラインに沿って相対的に移動させる」こと程度であるが、こ れは従来技術そのものであり、何ら新規な要素を含まないものであるから、発明の本質的部分(特徴的部分)ではない。 (3) 争点3(被告による別件訴訟の提起等の違法性及び故意又は過失の有無)について〔原告の主張〕 ア被告は、本件各特許権を共有とする当事者間の合意に反し、本件各発明を単独で特許出願し、単独で本件各特許権の設定登録を受けた。また、被告は、原告に対し、本件特許権1 の侵害を理由とする別件訴訟を提起した。 しかし、当事者間の合意のとおり原告が本件特許権1 の共有持分を有していれば、原告は本件発明1 を自己実施でき、被告は本件特許権1 の共有者である原告に対し て本件特許権1 を行使できないから、別件訴訟の提起は事実的、法律的根拠を欠くものである。また、被告は原告と本件準備契約及び業務提携契約(以下「本件提携契約」という。)に関する契約交渉を行い、現在の文言で締結に至った当事者であるから、契約の相手方である原告に対して本件特許権1 を行使すること 被告は原告と本件準備契約及び業務提携契約(以下「本件提携契約」という。)に関する契約交渉を行い、現在の文言で締結に至った当事者であるから、契約の相手方である原告に対して本件特許権1 を行使することが根拠を欠くことを認識し、少なくとも容易に認識し得た。にもかかわらず、被告は、あえて原 告の製品(以下「原告製品」という。)の製造販売等の差止めを求める別件訴訟を提起した。このような別件訴訟の提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く。 イ被告は、原告の競業他社である株式会社ディスコ(以下「ディスコ社」という。)に対し、本件各特許権の実施許諾を原告に無断で行っているとみられる。当事 者間の合意のとおり原告が本件各特許権の共有持分を有していれば、原告がディス コ社に対する実施許諾を許容することはなく、本件各発明の実施品を独占的に販売できたはずである。 ウしたがって、被告による別件訴訟の提起及びディスコ社に対する本件各特許権の実施許諾は、本件各特許権の共有者とされるべき原告の利益を違法に侵害するものであり、原告に対する不法行為を構成する。 〔被告の主張〕争う。本件各特許権はいずれも被告に単独で帰属するものであるから、被告の行為は原告の利益を侵害するものではなく、不法行為とはならない。 訴えの提起が不法行為となるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りな がら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。本件において、このような事情は全く存在しない。 また、被告によるディスコ社への実施許 て訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。本件において、このような事情は全く存在しない。 また、被告によるディスコ社への実施許諾がなく、同社が本件各発明の実施品を製造販売できなかったとしても、同社がそれ以外の製品を製造販売できた可能性は あり、同社製品の販売がなかった場合に原告が原告製品をその分販売できたか否かは、原告及びディスコ社の顧客との信頼関係等の事情によるところ、その点に関する原告の主張立証はない。加えて、被告は、原告に対して本件各特許権を含むステルスダイシング技術関連特許のライセンスをしていないから、原告はレーザダイシング装置を製造販売することができず、原告製品の販売がなければディスコ社が同 社製品をその分販売し得ることとなる。 (4) 争点4(損害又は不当利得の額)に関する当事者の主張〔原告の主張〕ア損害額被告のビジネスモデルは、業務提携関係にあるダイシング装置のメーカーに対し て被告保有特許を実施許諾すると共に、被告製SD エンジンを当該メーカーに販売 し、当該メーカーが被告製SD エンジンを組み込んだダイシング装置を販売するというものであり、ディスコ社に対し、被告が保有する本件特許権1 を含むSD 技術関連特許を実施許諾しているとのことである。これらによれば、被告は、原告に無断で本件各特許権をディスコ社に実施許諾すると共に、被告製SD エンジンをディスコ社に販売し、ディスコ社がこれをディスコ社製ダイシング装置(以下「ディス コ社製品」という。)に組み入れて販売していることになる。 そうすると、被告によるディスコ社への実施許諾がなければ、ディスコ社はディスコ社製品を販売できなかったといえる。また、被告 「ディス コ社製品」という。)に組み入れて販売していることになる。 そうすると、被告によるディスコ社への実施許諾がなければ、ディスコ社はディスコ社製品を販売できなかったといえる。また、被告は、国内において被告から実施許諾を受けているSD ダイサーのメーカーは現在ディスコ社しか存在しないとのことであるから、被告による実施許諾及び被告製SD エンジンの販売に基づくディ スコ社によるディスコ社製品の販売がなければ、原告が原告製品をその分販売し得たことになる。 したがって、ディスコ社によるディスコ社製品の販売の都度、原告に損害が生じており、その台数に原告製品の1 台当たりの限界利益相当額を乗じた額が、被告による不法行為と相当因果関係のある損害である。 イ不当利得の額上記によれば、被告によるディスコ社への被告製SD エンジンの販売の都度、原告に損失が生じており、被告は少なくともその台数に被告製SD エンジンの1 台当たりの限界利益相当額を乗じた額の利益を得たことになる。これは、法律上の原因なしに原告の損失のもとで被告が得た利得であるから、被告は、原告に対し、その 不当利得を原告に返還する義務を負う。 ウその他原告は、別件訴訟の応訴のため、毎月弁護士費用を支出している。これは被告による不法行為と相当因果関係のある損害である。加えて、別件訴訟において認容される損害額が確定した場合、これも被告の不法行為により原告が被った損害となる。 エ以上の原告が被った損害の額及び被告が返還義務を負う不当利得の額は、い ずれも10 億円を下らない。本件では、その一部である1 億円の支払を請求する。 〔被告の主張〕不知ないし争う。 前記のとおり、被告によるディスコ社への実施許諾がなかったとし ずれも10 億円を下らない。本件では、その一部である1 億円の支払を請求する。 〔被告の主張〕不知ないし争う。 前記のとおり、被告によるディスコ社への実施許諾がなかったとしても、ディスコ社は本件各発明の実施品以外の製品を製造販売できた可能性があるし、ディスコ 社製品の販売がなかった場合に、原告が原告製品をその分販売できたか否かに関する事情の主張立証はない。 また、別件訴訟において認容される損害額が確定した場合における当該損害額を本件訴訟における原告の損害とすることは、別件訴訟の既判力に反する。別件訴訟の確定判決において損害賠償請求が認容されたことは、「権利又は法律上保護され るべき利益が侵害された」ことには該当せず、当該損害額を原告の損害とすることは許されない。 第3 当裁判所の判断 1 本件各特許権の帰属-本件準備契約6 条1 項の解釈(争点2)について事案に鑑み、まず、本件準備契約6 条1 項の解釈について検討する。 (1) 前提事実(前記第2 の1)のほか、証拠(各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、本件準備契約締結に至る経緯等について、以下の事実が認められる。 ア原告は、平成14 年8 月、被告に対し、ステルスダイシング技術の事業化に向けた業務提携を提案したが(前提事実(2)ア)、その際に被告に提示した「『ステルスダイシング』に関する御提案」と題する書面(甲46。以下「原告提案書」という。) には、以下の記載がある(「甲」は被告、「乙」は原告を示す。)。 ●(省略)●イ被告が原告の業務提携に関する提案を受け入れたことから(前提事実(2)ア)、原告と被告は、本件準備契約の締結交渉を始めた。被告が作成したその契約書の第 1 ドラフト(甲22)の6 条は、次のとお イ被告が原告の業務提携に関する提案を受け入れたことから(前提事実(2)ア)、原告と被告は、本件準備契約の締結交渉を始めた。被告が作成したその契約書の第 1 ドラフト(甲22)の6 条は、次のとおりである。 第6 条(成果) 試作機の共同開発の過程または相手方が開示した本情報に基づき、発明・考案等を確認したときは、その取扱いにつき速やかに協議するものとし、その発明・考案等及びこれらに基づく工業所有権等(…)の帰属及び運用は、次のとおりとする。 (1) ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関する本成果は被告に 帰属するものとする。 (2) SD エンジンに関しない本成果は原告被告共有とする。 これに対し、原告は、上記6 条(1)(2)を次のとおり修正することを申し入れた(甲23)。 (1) SD エンジンに関する本成果は被告に帰属するものとする。 (2) ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果は原告被告共有とする。 被告は、原告の上記修正内容それ自体はそのままに、次のとおり、6 条に2 項及び3 項を設けることを求めた(甲24)。 2.被告は、半導体ウェハダイシング分野以外の用途において、被告の提携 先又は最終ユーザーが希望した場合は、前項により共有となった本成果につき単独で使用許諾をすることができる。 3.前項の場合、被告は原告に対して、持分に応じた実施料相当分を支払うものとする。具体的金額等の詳細については別途協議する。 原告が被告の上記提案を受け入れたことにより、原告と被告は、平成14 年9 月 18 日、本件準備契約を締結した。 (以上につき、上記のほか、甲21、証人A)ウ 「基本特許」(ア) 本件準備契約1 条(1)にお 入れたことにより、原告と被告は、平成14 年9 月 18 日、本件準備契約を締結した。 (以上につき、上記のほか、甲21、証人A)ウ 「基本特許」(ア) 本件準備契約1 条(1)において、ステルスダイシング技術とは「被告が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術」と定義されているところ(前提事実(2) ウ)、この「基本特許」とは、発明の名称を「切断起点領域形成方法及び加工対象物 切断方法」とする発明についての特許(特許第3408805 号。優先日平成12 年9 月 13 日、出願日平成13 年9 月13 日、登録日平成15 年3 月14 日。甲48。以下「805特許」という。)及びそのファミリー特許を指す。 (イ) 特許請求の範囲 805 特許の特許請求の範囲(ただし、請求項1)は次のとおりである。 【請求項1】ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成する工程を備える、切断起点領域形成方法。 (ウ) 明細書の記載 805 特許に係る明細書及び図面には、別紙3「805 特許に係る明細書の記載」のとおりの記載がある。 (エ) 805 特許に係る発明の概要特許請求の範囲及び明細書の記載によれば、805 特許に係る発明は、加工対象物 の表面に不必要な割れを発生させることなく、かつ、その表面が溶融しない切断起点領域形成方法及び加工対象物切断方法を提供することを目的として、ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域を形成 く、かつ、その表面が溶融しない切断起点領域形成方法及び加工対象物切断方法を提供することを目的として、ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の内部に改質領域を形成し、この改質領域によって、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成し、切 断予定ラインに沿って前記加工対象物を切断(ダイシング)する技術に係るものである。 エ原告と被告は、業務提携の具体的内容等に関してまとめたエクセルファイルを作成した(甲6。最終更新日は平成14 年11 月20 日。以下「本件ファイル」という。)。本件ファイル中には、「製造分担」及び「特許」の項に、次の記載がある(「乙」、 「HAMAMATSU」、「HPK」は被告を、「甲」は原告を示す。)。 ●(省略)●オ原告と被告は、平成14 年11 月25 日、業務提携に関する記者会見を共同で実施したが、それに先立ち、想定問答集(甲30)を作成した。同想定問答集には、特許に関する質問について、「今後、装置、アプリケーションのPAT は共同出願」と記載されている。しかし、被告は、記者会見終了後、同想定問答集の上記部分に つき、次のとおり追記した(甲31。なお、「ディスコ」はディスコ社を指す。)。 ●(省略)●(以上につき、上記のほか、甲21、47、証人A)カ原告と被告は、平成15 年9 月18 日、本件試作機の開発を終え、「業務提携に関する契約」(甲32。本件提携契約)を締結した。 本件提携契約では、同契約で明示的に変更等された場合のほかは本件準備契約の各条項が有効とされた(2 条1 項)。また、開発されたステルスダイシング装置(MAHOHDICING 装置。以 本件提携契約では、同契約で明示的に変更等された場合のほかは本件準備契約の各条項が有効とされた(2 条1 項)。また、開発されたステルスダイシング装置(MAHOHDICING 装置。以下「本件装置」という。)に関する原告と被告の取引について、次のとおり定められた。 3 条(本件装置の製造及び販売) 本件装置は以下の手順により製造及び販売するものとする。 (1)被告は基準機にSD エンジンを搭載し出荷検査を行い原告に納入する。 (2)原告は納入されたSD エンジンを本件装置出荷機への取付調整を行い、受入検査基準に基づきSD エンジンの検収を実施する。 4 条(ロイヤリティ) 原告は、本件装置の販売台数1 台あたり本件装置本体最終販売価格の●(省略)●%の金額を被告に対して支払う。 3.本件装置本体とは、筐体、搬送系、SD エンジン、制御用ソフトウエアによって構成される。 キ原告と被告は、平成18 年6 月8 日、被告が原告に売り渡すSD エンジンの 売買基本契約を締結した(甲39。以下「本件基本契約」という。)。同契約において は、原告被告間の平成17 年9 月1 日付け「MAHOHDICING 装置のロイヤリティーに関する契約」に基づくロイヤリティは、同契約所定の販売価格(7 条1 項)に含まれないことの確認条項(同条2 項)がある。 (2) 本件準備契約6 条1 項の解釈についてア本件準備契約6 条1 項は、本件試作機の共同開発の過程における発明等に基 づく工業所有権の帰属について、①「SD エンジンに関する本成果」は被告に帰属し、②「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果」は原告被告共有とする旨規定するところ、1 条(1)には、「ステルスダイシング技 いて、①「SD エンジンに関する本成果」は被告に帰属し、②「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない本成果」は原告被告共有とする旨規定するところ、1 条(1)には、「ステルスダイシング技術」につき、「被告が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術」と定義されている。そうすると、「ステルスダイシング技術」とは、本件準備契約締結時に被告が既に有する技 術を指すものと理解されるから、②につき、同技術に関係する発明等の成果が原告と被告の共有となるとすることは不合理というほかない。むしろ、上記ステルスダイシング技術の定義及び①を踏まえると、②は、「ステルスダイシング技術及びSDエンジン」に関しない「本成果」の帰属について定めたものと理解するのが合理的である。 また、原告が被告に対して業務提携を提案した当時、原告は、ステルスダイシング技術につき専門的知見を有さず、他方、被告は、同技術を開発し特許出願を行ったものの試作品の製作等実用化に向けた具体的な段階に進んではいなかった(前提事実(2)ア)。こうした状況を踏まえて原告と被告との業務提携が推進されたものとみられるが、原告提案書の記載によれば、提案に係る業務提携の基本的な内容は、 被告が開発したSD エンジンを原告の生産するダイシング装置に取り付けることであるところ、その際、原告は、その実現に必要な応用技術開発を行うことが念頭に置かれているものと理解され、被告により開発されたステルスダイシング技術の発展に原告が業務提携に基づく開発過程を通じて貢献することが想定されていたとは読み取れない。本件準備契約においても、「被告の開発したレーザを用いたダイシン グ技術の事業化に向けた業務提携」(前文)、「半導体ウェハダイシング分野において ステルスダイシ は読み取れない。本件準備契約においても、「被告の開発したレーザを用いたダイシン グ技術の事業化に向けた業務提携」(前文)、「半導体ウェハダイシング分野において ステルスダイシング装置を早期に事業化し、広く普及させる」(2 条)、「ステルスダイシング装置の試作機の共同開発…を行う」(5 条1 項)とされており、かつ、本件試作機の共同開発の役割分担につき、原告は既存製品をSD エンジン搭載可能なものに改造すること、被告はSD エンジンを上記既存製品に搭載すること(一部改造も伴う)とされている(5 条2 項)。これらの規定を踏まえると、本件準備契約が定 める共同開発は、被告が保有するステルスダイシング技術を前提とし、ステルスダイシング技術ではなくステルスダイシング装置(ステルスダイシング技術を用いた装置。1 条(2))の開発をその目的とするものと理解される。業務提携の一環として、原告提案書から本件提携契約、本件基本契約に至るまで、一貫して原告の被告に対するロイヤリティ支払が前提とされていることも、これらの理解と整合的である。 このような本件準備契約の構造や文理等に鑑みると、本件契約6 条1 項は、①「SD エンジンに関する本成果」は被告に帰属すること、②「ステルスダイシング技術及びSD エンジンに関しない」本成果は原告と被告の共有とすることを定めたものと解される。 イこれに対し、原告は、本件契約6 条1 項は、①「SD エンジンに関する本成 果」は被告に帰属すること、②「ステルスダイシング技術(に関する本成果)」及び「SD エンジンに関しない本成果」は原告と被告の共有とすることを意味すると解釈すべきであると主張する。 しかし、この解釈によれば、「ステルスダイシング技術」すなわち「被告が基本特許 果)」及び「SD エンジンに関しない本成果」は原告と被告の共有とすることを意味すると解釈すべきであると主張する。 しかし、この解釈によれば、「ステルスダイシング技術」すなわち「被告が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術」までもが原告と被告の共有となるかの ように理解する余地が生じることとなり、上記のとおり不合理というほかない。また、上記アのとおり解釈しても、共同開発の対象であるステルスダイシング装置に関する発明について、それが「ステルスダイシング技術」すなわち「被告が基本特許を有するレーザを用いたダイシング技術」に関するものではなく、かつ、「SD エンジン」に関するものでもないときには、原告と被告との共有となる余地があると いえる。このように理解した場合、本件準備契約の契約書の作成過程(前記(1)イ) や、本件ファイルに「SD エンジンに関する特許はHPK 単独。ステルスダイシング方法に関する特許、及び周辺特許は共同出願。」と記載されていること(同エ)、記者会見の想定問答の作成経緯(同オ)といった事情は、上記アの解釈を採用することと矛盾しない。 その他原告が縷々指摘する事情を踏まえても、この点に関する原告の主張は採用 できない。 (3) 「SD エンジンに関する本成果」の解釈についてア本件準備契約6 条1 項(1)は、試作機の共同開発の過程における発明等及びこれらに基づく工業所有権の帰属について、「SD エンジンに関する本成果は被告に帰属するものとする。」と規定する。また、1 条(3)は、「SD エンジン」を「ステルスダ イシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ 軸)、搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z 軸ステージを含む)及びソフトウエア設計」と定義する。 加えて、 D エンジン」を「ステルスダ イシング装置中の筐体、ステージ(X・Y・θ 軸)、搬送系部分を除いたキーコンポーネント部(Z 軸ステージを含む)及びソフトウエア設計」と定義する。 加えて、上記(2)のとおり、本件準備契約は、被告が基本特許を有するステルスダイシング技術の事業化に向けた業務提携を目的とし、これを達成するため、ステルスダイシング装置の試作機(本件試作機)を共同開発することとされ、原告には原 告の既存のダイシング装置をSD エンジン搭載可能に改造を行う役割が、被告にはSD エンジンを一部改造も伴い原告の既存のダイシング装置に搭載する役割が、それぞれ定められている。 このような本件準備契約の目的・趣旨や文理に加え、特許出願に当たり発明特定事項としていかなる構成要件を付加するかは、権利行使の容易性の確保等の種々の 理由から選択され決定されるものであることなどを考慮すれば、「SD エンジンに関する本成果」とは、発明の特徴的部分がSD エンジンに関する発明等(本成果)をいうものと解するのが相当である。 イこれに対し、原告は、本件試作機の共同開発に当たっては、投じた費用が無駄になるリスクを各々の当事者が負っていることから、「SD エンジンに関する本成 果」は被告のみがリスクを負って開発した「SD エンジン」が課題解決のための必須 の構成の全部であるものを意味し、原告と被告とが相互にリスクを負って開発した「SD エンジン」に該当しない部分が課題解決のための必須の構成の全部又は一部をなすものは原告と被告との共有となるべき旨を主張する。 しかし、この解釈によれば、「SD エンジン」に該当しない部分が課題解決のための必須の構成に一部でも含まれてさえいれば本件準備契約6 条1 項(1)が適用され との共有となるべき旨を主張する。 しかし、この解釈によれば、「SD エンジン」に該当しない部分が課題解決のための必須の構成に一部でも含まれてさえいれば本件準備契約6 条1 項(1)が適用され ないこととなるが、これは「SD エンジンに関する本成果は被告に帰属するものとする。」との文言と整合せず、相当でない。また、本件試作機の共同開発は、SD エンジンの共同開発ではなく、これを搭載したステルスダイシング装置の開発を目的とするものである。そうである以上、SD エンジンのみを必須の構成としてその課題解決が実現されることはむしろ考え難く、他の構成と組み合わせることにより課 題が解決されるのがむしろ通常と思われる。原告の上記主張によれば、その際に組み合わされる他の構成に係る技術が従来技術の域を出ない場合であっても、その成果は原告と被告の共有となることになるが、そのような帰結は必ずしも合理的とはいえない。これらのことは、原告と被告が互いにリスクを負って共同開発に当たったものであったとしても異ならない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。 (4) 検討以上の契約解釈を前提に、以下検討する。 ア本件発明1 について (ア) 前提事実(3)及び前記(1)ウの認定事実によれば、本件発明1 の特徴は、レーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、加工対象物の切断予定ラインに沿って内部に改質領域を形成することにより、加工対象物のレーザ光入射面(主面)から所定距離内側に、切断の起点となる領域を形成して加工対象物を切断(ダイシング)するステルスダイシング技術に関し、加工対象物の端部において、その 形状変動の影響によるレーザ光の集光点のずれを極力少なくしつつ、効率よ の起点となる領域を形成して加工対象物を切断(ダイシング)するステルスダイシング技術に関し、加工対象物の端部において、その 形状変動の影響によるレーザ光の集光点のずれを極力少なくしつつ、効率よくレー ザ加工を行うとの課題(本件明細書1【0006】)を解決するために、レンズの高さ(レンズと加工対象物の主面との間隔)を調整(レンズを初期位置に保持し、又は初期位置に保持した状態を解除することを含む。)するところにあると認められる。この高さの調整は、ピアゾアクチュエータ(集光レンズを加工対象物に対して進退自在に保持する機能を有する。)を進退させることによって行われるものであって、ピア ゾアクチュエータは集光レンズなどと共にレーザユニットを構成するものと認められる。そうすると、「SD エンジン」の定義(本件契約1 条(3))に照らし、本件発明 1 の特徴的部分は「SD エンジン」に関するものにほかならないといえる。 したがって、本件発明1 は、「SD エンジンに関する本成果」(本件契約6 条1 項(1))に該当するものであり、被告に単独で帰属するものと認められる。 (イ) これに対し、原告は、本件発明1 が「SD エンジン」の定義から除かれているX 軸上の「ステージ」の動作とその制御を課題解決のための必須の構成として含んでいる旨主張する。 確かに、特許請求の範囲及び本件明細書1(【0054】~【0057】、【0067】~【0071】、図5、図9)の記載によれば、レンズの高さの調整は、レンズとステージ上の加工対 象物との相対的な位置関係を把握し、X 軸上のステージの動作とその制御に応じてされるものと認められ、課題解決には、X 軸上のステージの動作とその制御が必要ないし前提となる。 しかし、X 軸上のステ 物との相対的な位置関係を把握し、X 軸上のステージの動作とその制御に応じてされるものと認められ、課題解決には、X 軸上のステージの動作とその制御が必要ないし前提となる。 しかし、X 軸上のステージの動作とその制御自体は、従来のダイシング技術ないし原告の既存のダイシング装置にみられるもので、特段新規の要素を含まないもの と考えられるし、本件発明1 で解決されるべき課題との関係において特別な意味を有するものとはいえず、発明を特徴付けるものとは認め難い。この点に関する原告の主張は採用できない。 イ本件発明2 について(ア) 前提事実(4)及び前記(1)ウの認定事実によれば、本件発明2 の特徴は、ステ ルスダイシング技術に関し、従来技術のレーザ加工方法で加工したシリコンウェハ を切断する場合にはウェハを曲げる方向に力を加えて内部亀裂を進展させる必要があるため、ウェハの裏面に張り付けたテープをウェハに平行に引き離して切断するエキスパンド法を採用すると歩留まりが悪くなるという課題があったことから、ウェハを容易に切断できる切断方法を提供することを課題とし(本件明細書2【0004】、【0005】)、シリコンウェハにパルスレーザ光を照射して加工対象物(シリコンウェ ハ)の内部に溶融処理領域と微小空洞からなる改質領域を形成させることで、シリコンウェハを容易に切断できるようになるところ、的確に微小空洞を形成させるために、所定のピークパワー密度のパルスレーザ光を照射するに当たり、そのパルスピッチを所定の数値範囲内(2.00μm~7.00μm)とする(同【0007】)ところにあると認められる。ピッチが所定の数値範囲内のものとされるべきパルスレーザ光は、 レーザユニットから照射されるものであることから、「SD エンジン 7.00μm)とする(同【0007】)ところにあると認められる。ピッチが所定の数値範囲内のものとされるべきパルスレーザ光は、 レーザユニットから照射されるものであることから、「SD エンジン」の定義(本件準備契約1 条(3))に照らし、本件発明2 の特徴的部分は「SD エンジン」に関するものにほかならないといえる。 したがって、本件発明2 は、「SD エンジンに関する本成果」(本件準備契約6 条 1 項(1))に該当するものであり、被告に単独で帰属するものと認められる。 (イ) これに対し、原告は、本件発明2 が「SD エンジン」の定義から除かれているX 軸ステージ及びY 軸ステージ並びにそれらの制御を課題解決のための必須の構成として含んでいる旨を主張する。 確かに、本件明細書2(【0015】、【0057】)によれば、パルスレーザ光のパルスピッチはX ないしY 軸のステージの加工(移動)速度とパルスレーザ光の周波数に応 じて定まるものと認められ、本件発明2 の課題解決には、X ないしY 軸ステージ及びそれらの制御が必要ないし前提となる。 しかし、X ないしY 軸ステージ及びそれらの制御自体は、従来のダイシング技術ないし原告の既存のダイシング装置にみられるもので、特段新規の要素を含まないものと考えられるし、本件発明2 で解決されるべき課題との関係において特別な意 味を有するものとはいえず、発明を特徴付けるものとは認め難い。この点に関する 原告の主張は採用できない。 ウ小括以上のとおり、本件準備契約6 条1 項によれば、本件各発明に係る本件各特許権は、いずれも被告に単独で帰属するものと認められる。 2 まとめ したがって、その余の争点について判断するまでもなく、被告が本件各特許 契約6条1項によれば、本件各発明に係る本件各特許権は、いずれも被告に単独で帰属するものと認められる。 2 まとめ したがって、その余の争点について判断するまでもなく、被告が本件各特許権に基づき別件訴訟を提起し、また、ディスコ社に対して本件各特許権の実施許諾をしたことが違法となる余地はないから、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権及び不当請求返還請求権をいずれも有しない。 第4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官 久野雄平

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