主文 本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。事実 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人に対し原判決添付別紙目録記載の不動産について昭和四一年一月三一日付売買に基づく所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の主張ならびに証拠の関係は、左に付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。(控訴人の主張)一、 自白の撤回について。被控訴人は、第一審の答弁書において、「本件不動産を担保に金一〇〇万円の消費貸借契約を結び、そのうち金四〇万円を受領した」旨の自白をしながら、その後に右自白を撤回しているが、右自白は真実に合致するものであるから、撤回を許すべきでない。(一) 被控訴人は、本件訴訟が起つたことを知らなかつたし、A弁護士に依頼したことも、訴訟手続がどのように進行していたかも全く知らなかつたと供述しているが、本件訴状は被控訴人に送達されたのであるから、本件訴訟が起つたことを知らなかつたというのは、明らかに偽りである。たとい、Bが証言しているように、同人がA弁護士を紹介したとしても、被控訴人が全く関知しないことはあり得ない。(二) 前記答弁書は、A弁護士が作成したものであるが、通常弁護士が事実を認否するに際しては、細心の注意をもつて行なうものである。被控訴人の供述を信用するとすれば、A弁護士が勝手に真実に反した答弁をしたこととなるが、このようなことは、弁護士の職務遂行の仕方として、考えられないことである。ことに、右答弁書は、単なる認否ではなく、積極的に一定の具体的事実を主張した上認否しているのであり、金四〇万円を受領したという のようなことは、弁護士の職務遂行の仕方として、考えられないことである。ことに、右答弁書は、単なる認否ではなく、積極的に一定の具体的事実を主張した上認否しているのであり、金四〇万円を受領したという主張は、甲第一号証(領収証)の金額とも一致している点、右答弁書による答弁を前提として、A弁護士との間に和解の話が数回行われていた点等からすると、右答弁書の認否が錯誤による認否とは到底考えられない。 たという のようなことは、弁護士の職務遂行の仕方として、考えられないことである。ことに、右答弁書は、単なる認否ではなく、積極的に一定の具体的事実を主張した上認否しているのであり、金四〇万円を受領したという主張は、甲第一号証(領収証)の金額とも一致している点、右答弁書による答弁を前提として、A弁護士との間に和解の話が数回行われていた点等からすると、右答弁書の認否が錯誤による認否とは到底考えられない。二、 Bの代理権限について。被控訴人は、Bに金銭の貸借および本件不動産の処分について代理権を与えたことはない旨主張しているが、これは事実に反する。Bは、被控訴人と当時特別に親しい間柄にあり、しばしば被控訴人方に出入し、被控訴人はBにいろいろなことを頼んでいた。本件訴訟になつてから、Bは、自分が勝手にやつたと述べているが、信用できない。もし被控訴人主張のとおりであるとすれば、Bは刑事上の責任を負うこととなるが、この点について告訴その他の手続はとられていない。三、 表見代理について原判決は、控訴人に過失ありとして表見代理の主張を排斥しているが、これは不当である。控訴人は昭和四一年一月三一日の昼Bに「本人に会いたい。」と申入れた結果同日夕方新宿で同人に再会したのであるが、その際同人から「本人は身体の工合が悪いのでこられない。その代り委任状を持つてきた。」と告げられ、委任状(甲第二号証)、印鑑証明書(甲第六号証)に加えて、被控訴人の実印までも見せられたので、Bを信用したのである。委任状と印鑑証明書だけならば、あるいは不正に入手したということも考えられるが、最も管理、保管に注意すべき実印までもがBの手にあつたことが、控訴人においてBの代理権を信ずる決定的な原因となつたのである。以上の経過に徴すれば、控訴人はBに代理権ありと信ずるにつき、正当 られるが、最も管理、保管に注意すべき実印までもがBの手にあつたことが、控訴人においてBの代理権を信ずる決定的な原因となつたのである。以上の経過に徴すれば、控訴人はBに代理権ありと信ずるにつき、正当な理由を有したものというべきである。(被控訴人の主張)一、 自白の撤回についてA弁護士が被控訴人の代理人として本件訴訟を担当するに至つたのはBの依頼によるものであり、被控訴人はA弁護士と会つたことはなかつた。A弁護士は、Bより聴取した事実を真実であると確信し、そのとおりの内容の答弁書を作成したものであり、右答弁書に基づく陳述は真実に反し、かつ同弁護士の錯誤に基づくものであるから、自白の撤回が許さるべきである。 たものというべきである。(被控訴人の主張)一、 自白の撤回についてA弁護士が被控訴人の代理人として本件訴訟を担当するに至つたのはBの依頼によるものであり、被控訴人はA弁護士と会つたことはなかつた。A弁護士は、Bより聴取した事実を真実であると確信し、そのとおりの内容の答弁書を作成したものであり、右答弁書に基づく陳述は真実に反し、かつ同弁護士の錯誤に基づくものであるから、自白の撤回が許さるべきである。二、 Bの代理権限について。被控訴人は、Bに対し、本件不動産の登記名義人が「C」となつていたため、「C」と訂正するための登記手続を依頼したにすぎず、他になんらの代理権も与えていない。被控訴人は、当時品川区ab丁目c番地d所在の共同住宅を第三者に賃貸して一か月約九万円の賃料収入を得て生活して居たのであり、他に事業を営んでいたわけでないから、金員を借入れる必要は少しもなかつた。したがつて、被控訴人は、Bに対し、控訴人から金員を借用することや、控訴人に本件不動産を売却することの代理権を与えたことはない。被控訴人がBから金四〇万円を受領した事実はない。三、 表見代理について。次の事実からすれば、控訴人には、Bに代理権ありと信ずべき正当な理由はなかつた。(一) 控訴人は契約締結に当つて、被控訴人に一度も面会せず、また電話なり手紙なりによつて被控訴人と連絡をとることをしていない。控訴人がこのような手段を尽しておれば、Bが被控訴人を代理する権限を有しなかつたことを直ちに発見し得たはずである。(二) 控訴人は、Bが本件不動 なりによつて被控訴人と連絡をとることをしていない。控訴人がこのような手段を尽しておれば、Bが被控訴人を代理する権限を有しなかつたことを直ちに発見し得たはずである。(二) 控訴人は、Bが本件不動産の登記済証を所持していないにも拘らず、この点につき不審の念を抱くことなく、Bを代理人として契約を締結した。(三) 控訴人は、契約当日はじめて知つたB、元東京地方裁判所の職員で詐欺罪により起訴されていたD(公知の事実)らをたやすく信用した。(四) 控訴人は契約当日Bに対し金六四万円交付したと主張するが、もしそうであれば、当然Bから同金額の領収証を受領すべきであるにも拘らず、これより少ない金四〇万七、三七五円の被控訴人名義の領収証(甲第一号証)しか受領していない。控訴人としては、自己の手渡した金額よりも少ない金額の領収証を交付されたのであるから、Bの無権限なることにつき容易に気付き得たはずである。 D(公知の事実)らをたやすく信用した。(四) 控訴人は契約当日Bに対し金六四万円交付したと主張するが、もしそうであれば、当然Bから同金額の領収証を受領すべきであるにも拘らず、これより少ない金四〇万七、三七五円の被控訴人名義の領収証(甲第一号証)しか受領していない。控訴人としては、自己の手渡した金額よりも少ない金額の領収証を交付されたのであるから、Bの無権限なることにつき容易に気付き得たはずである。(五) これに加えて、控訴人は、E、Dから右両名作成名義の金六四万円の領収証(甲第三号証)を受領しており、また、B、D、Eらが何か複雑な金銭の計算をしていたことを見ていたのであるから、Bの代理権について疑を抱くのが当然である。(六) 以上の次第で、Bが被控訴人の実印、委任状等を所持していたからといつて、控訴人にBに代理権ありと信ずべき正当な理由があつたとはいえず、表見代理の規定の適用はない。四、 契約の無効仮に被控訴人の以上の主張がすべて理由がないとしても、控訴人の主張する債権は六四万円であり、本件不動産の時価は四〇〇万円であつて、その差が著しく、暴利行為となるから、本件契約は公序良俗に反し、無効である。(証拠関係)(省略) 理由 当裁判所は、当審における証拠調の結果を参酌しても、控訴人の本訴請求を理由な く、暴利行為となるから、本件契約は公序良俗に反し、無効である。(証拠関係)(省略) 理由 当裁判所は、当審における証拠調の結果を参酌しても、控訴人の本訴請求を理由なきものと判断する。その理由は、左のとおり付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。一、 甲第一、二号証、同第五号証(いずれも成立の真否はさておく)、真正な公文書と推定すべき同第六号証、各成立に争のない乙第一、二号証、原審証人B、同Dの各証言、原審ならびに当審における被控訴人本人尋問の結果(原審は第一、二回)、および弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人は、東京地方裁判所から、昭和四一年七月二八日午前一〇時の口頭弁論期日呼出状、本件訴状、答弁書、催告書の送達を受けたので、不審に思い、これをBに示したところ、同人は、控訴人との貸借は自分がやつたことだから、自分が解決する旨答えたので、同人に右書類を交付して一切の解決を同人に委ね、その後同裁判所から呼出状の書類の送達を受けても、同人に一任してあるからよいと思つていたこと、Bは被控訴人の代理人として弁護士Aを依頼し、同弁護士は、昭和四一年一二月六日辞任するまで、被控訴人の代理人として本件訴訟を追行したのであるが、直接本人である被控訴人に面接して事情を聴取することなく、単にBから、被控訴人は本件土地、建物を担保として、金一〇〇万円を、弁済期二か月後、利息月五分の約で控訴人から借用する契約をし、そのうち金四〇万円だけは受領したが、残額の交付を受けていない旨の説明を受け、それが真実であると信じて、右説明どおりの内容の答弁書を作成し、原審口頭弁論において陳述したこと、しかしながら、被控訴人は、昭和四一年一月頃Bと世間話をしているうち、原判決添付別紙物件目録記載の土地、建物の登記名義が「 は本件土地、建物を担保として、金一〇〇万円を、弁済期二か月後、利息月五分の約で控訴人から借用する契約をし、そのうち金四〇万円だけは受領したが、残額の交付を受けていない旨の説明を受け、それが真実であると信じて、右説明どおりの内容の答弁書を作成し、原審口頭弁論において陳述したこと、しかしながら、被控訴人は、昭和四一年一月頃Bと世間話をしているうち、原判決添付別紙物件目録記載の土地、建物の登記名義が「 て、右説明どおりの内容の答弁書を作成し、原審口頭弁論において陳述したこと、しかしながら、被控訴人は、昭和四一年一月頃Bと世間話をしているうち、原判決添付別紙物件目録記載の土地、建物の登記名義が「C」でなく、「C」になつていると言つたところ、Bから架空人名義だから被控訴人が死亡すると物件が政府のものになつてしまうと言われたので、これを信じて、Bに登記名義を「C」と更正することを依頼して実印を預けたことがあるが(実印を預けた点は、当事者間に争がない。)、同人に右土地、建物を担保にして控訴人から金員を借用することを依頼した事実はなく、甲第一号証(領収証)、同第二号証(委任状)は、右のとおりBが被控訴人をだまして手に入れた被控訴人の実印を何人かが冒用して作成したものであり、甲第六号証(被控訴人の印鑑証明)は、右実印を利用してBが品川区役所から交付を受けたものであることを認めることができ、原審証人B、同Dの各証言中、右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右認定の事実によれば、A弁護士が被控訴人の代理人としてなした前記自白は、真実に反し錯誤に基づくものというべく、右自白の撤回は許される。<要旨>二、前掲各証拠および原審ならびに当審における控訴人本人尋問の結果を総合すれば、原判決理由二(二)の事実</要旨>(原判決六枚目表五行目から同裏九行目までに記載された事実)および控訴人は被控訴人に、前記土地、家屋を、買戻特約つきで買取る方法によつて担保にとり、金七〇万円を貸与することとし、右金額より利息、登記費用等を差引いた金六四万円を持つて蕨市の司法書士の事務所まで行つたが、被控訴人の代理人として紹介されたBとは初対面であるし、かつ被控訴人本人とは面識なく、その意思をたしかめる方法を全然とつていなかつたので、Bの代理権 万円を持つて蕨市の司法書士の事務所まで行つたが、被控訴人の代理人として紹介されたBとは初対面であるし、かつ被控訴人本人とは面識なく、その意思をたしかめる方法を全然とつていなかつたので、Bの代理権に若干疑念を抱き、これを渡さず、同日夕刻新宿の喫茶店カトレアで被控訴人本人に会つて渡すことにし、Bに被控訴人本人を同道するように命じたのであるが、Bらが被控訴人を連れてくることを承諾しておきながら、これに違反してカトレアに被控訴人を連れて来なかつたにも拘らず、被控訴人の実印と印鑑証明を持つてきたことに満足し、正式に契約して右金六四万円をBに渡した事実を認めることができるのであつて、控訴人がせつかく予定した確実な方法を中途で放棄し、Bの遁辞を容易に信用して被控訴人本人が来ないのに、前記のとおりいつたんはその代理権に疑念を抱いたBを代理人として契約を締結して現金を渡した点、被控訴人の重要な財産の売買が問題となつているのに、それまで被控訴人と一度も会つたことはなく、また電話その他の方法により被控訴人の意思をたしかめる方法を全然とつていない点、Bから渡された被控訴人名義の領収証の金額金四〇万七、三七五円と貸与額とに相当の差異の存する点に疑問を感じなかつた点等において控訴人に過失があつたものというべく、Bに本件契約の代理権ありと信じたことについて正当の理由があるとはいいがたいから、控訴人は民法第一一〇条の表見代理の規定の保護を受け得ないものと解するのが相当である。 た電話その他の方法により被控訴人の意思をたしかめる方法を全然とつていない点、Bから渡された被控訴人名義の領収証の金額金四〇万七、三七五円と貸与額とに相当の差異の存する点に疑問を感じなかつた点等において控訴人に過失があつたものというべく、Bに本件契約の代理権ありと信じたことについて正当の理由があるとはいいがたいから、控訴人は民法第一一〇条の表見代理の規定の保護を受け得ないものと解するのが相当である。以上の次第で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官浅賀栄裁判官川添万夫裁判官秋元隆男) 主文 五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官浅賀栄裁判官川添万夫裁判官秋元隆男)
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