令和3(う)12 常習累犯窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
令和3年6月17日 広島高等裁判所 棄却 広島地方裁判所 呉支部 令和2(わ)13
ファイル
hanrei-pdf-91096.txt

判決文本文12,622 文字)

1令和3年6月17日宣告 広島高等裁判所令和3年(う)第12号 常習累犯窃盗被告事件原審 広島地方裁判所呉支部 令和2年(わ)第13号主 文本件控訴を棄却する。 理 由1 本件控訴の趣意は,弁護人宮城孝博作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるからこれを引用する。控訴理由は,訴訟手続の法令違反及び事実誤認である(弁護人は,第1回公判期日において,控訴趣意書中,「審理不尽」や「審理を尽くしていない。」旨の記載については,審理不尽の違法を別途主張するものではなく,事実誤認の主張に尽きる旨釈明した。)。 2 原判決が認定した「罪となるべき事実」の要旨は,その10年内に3回窃盗罪により懲役6月以上の刑の執行を受けた被告人が,更に常習として,令和元年8月5日午前11時54分頃,広島県呉市a町所在のショッピングモール(以下「本件店舗」という。)でキャベツ半玉(販売価格52円)を窃取したというもの(常習累犯窃盗)である。 3 訴訟手続の法令違反の主張について⑴ 論旨は,要するに,原審弁護人が検察官請求証人Aの供述の証明力を争うために請求したAの司法警察員に対する供述調書(以下「本件調書」という。)について,原裁判所が自己矛盾供述に当たらないとして却下した点は刑訴法328条に違反し,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるという。 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討する。 ⑵ 所論は,Aが,犯人を本件店舗の立体駐車場2階(以下「本件駐車場」という。)で目撃した後の自らの行動について,原審においては,「犯人の跡を追い掛けてその結果見失った。」旨供述しているのに対し,本件調書においては, 2「巡回を行い,巡回が終わってから防犯カメラ映像 )で目撃した後の自らの行動について,原審においては,「犯人の跡を追い掛けてその結果見失った。」旨供述しているのに対し,本件調書においては, 2「巡回を行い,巡回が終わってから防犯カメラ映像を確認した。」旨供述している点で両者の内容が矛盾していると主張する。 そこで検討するに,Aは,原審において,要旨,「自動車(以下「犯人使用車両」という。)に乗っている犯人を本件駐車場で目撃し,犯人が降車して本件店舗に入ってから数秒後,犯人使用車両のナンバープレートの写真を撮影し,犯人の入った本件店舗の2階の方へ行き,3階へ行ったが犯人は見付からず,2階へ戻ったが犯人は見付からず,更に1階へ降りたが1階でも見付からず,防災センターへ戻って防犯カメラ映像を確認した。」と供述しているが,必ずしも,所論のいうような「犯人の跡を追い掛けた。」旨の供述はしていない(裁判官による「跡を追っ掛けて行ったって話ですよね。」との誘導尋問に対して否定はしていないが,これを肯定する供述もしていない。)。かえって,Aは,原審において,「犯人はすごく警戒しているので,現認して捕まえるのが難しいと考えていた。」旨供述してもいるし,「Aの巡回の担当範囲は,駐車場だけでなく本件店舗内も含まれている。」とも供述している。したがって,Aの上記原審供述の趣旨は,Aは,犯人が本件店舗に入った後,上記ナンバープレートを撮影し,その後自らも本件店舗に入り,3階,2階及び1階で犯人の所在を確認できなかったことから,防犯カメラ映像を確認したというものであり,犯人の跡を追い掛けたというものではない。 一方,本件調書の内容は,要旨,「Aは,本件当日,本件駐車場を巡回中に犯人を目撃したが,警備員の制服を着ていたことから目立つこともあり,犯人の行動確認をすることはできなかったため,ま ない。 一方,本件調書の内容は,要旨,「Aは,本件当日,本件駐車場を巡回中に犯人を目撃したが,警備員の制服を着ていたことから目立つこともあり,犯人の行動確認をすることはできなかったため,まず犯人の車を確認することにし,通常の巡回をしている様子で本件駐車場を回りながら犯人の様子をうかがい,犯人が本件店舗に入るのを確認した後,犯人が乗っていた犯人使用車両のナンバープレートを撮影し,巡回を終えた後で店内を記録する防犯カメラを確認した。」というものであるところ,その趣旨としては,犯人が入店した後,上記ナンバープレートを撮影し,その後,巡回し,巡回を終えた後,防犯カメラ映 3像を確認したというものであり,特に犯人の跡を追い掛けることはなかったというものと理解できる。 そうすると,本件調書の上記部分の趣旨は,Aの上記原審供述のそれと矛盾するものではないから,原審弁護人の刑訴法328条に基づく本件調書の証拠請求を自己矛盾供述に当たらないとして却下した原裁判所の証拠決定に所論指摘の違法はなく,所論は採用できない。 ⑶ 論旨は理由がない。 4 事実誤認の主張について⑴ 論旨は,被告人は本件の犯人ではなく,無罪であるにもかかわらず,被告人を犯人と認めて有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があると主張する。 そこで,記録を調査して検討する。 ⑵ 原判決は,要旨,次のとおり判示し,被告人が本件の犯人であると認め,原判示の事実を認定した。 ア 犯人使用車両のナンバーと被告人が使用していた自動車(以下「被告人使用車両」という。)のナンバーが一致することについて 本件店舗の施設警備員であるAは,要旨,次のとおり供述した。 本件駐車場を巡回していると,犯人が犯人使用車両を運転してきた 下「被告人使用車両」という。)のナンバーが一致することについて 本件店舗の施設警備員であるAは,要旨,次のとおり供述した。 本件駐車場を巡回していると,犯人が犯人使用車両を運転してきた。その際,犯人は黄色いジャンパーのようなものを着ていた。犯人使用車両の運転席や助手席のドアの横側には,「C」という会社名が表示されていた。 犯人は,本件駐車場に犯人使用車両を駐車し,本件駐車場と本件店舗の2階をつなぐ入口(以下「店舗2階出入口」という。)から本件店舗に入った。犯人は,降車した際,上下ともに黒色の服装であった。Aは,スマートフォン(以下「本件スマホ」という。)を用いて犯人使用車両の後部ナンバープレートの写真(以下「本件写真」という。)を撮影し,その後,犯人の跡を追って本件店舗に入ったが犯人を見付けられず,防犯カメラの 4映像を確認したところ,犯人が本件店舗1階の野菜売場でキャベツを盗む様子が映っていた。 弁護人は,Aは,被告人とは別の,以前から本件店舗で万引きをしていた女性を複数回取り逃がしていたところ,本件とは別の日に本件駐車場で見掛けた被告人を上記女性と同一人物であると誤解し,被告人を本件の犯人として捕まえることで警備員としての立場を守ろうと考え,防犯カメラ映像等の証拠に沿うように虚偽の供述をしていると主張するが,Aの行動として不合理であって採用できない。 そのほかにAが虚偽の供述をする動機があったことをうかがわせるような事実は認められないことからすれば,Aには虚偽の供述をする動機はなかったというべきである。 本件スマホに保存されていた本件写真は,そのファイルプロパティによれば,撮影時刻が令和元年8月5日午前11時47分である。そして,防犯カメラ映像によれば,犯人は,同時刻頃に本件店舗の2階に 本件スマホに保存されていた本件写真は,そのファイルプロパティによれば,撮影時刻が令和元年8月5日午前11時47分である。そして,防犯カメラ映像によれば,犯人は,同時刻頃に本件店舗の2階に入ったことが認められる。 以上によれば,本件写真が本件スマホに保存されていたという事実は,Aの供述とよく整合している。 Aの供述内容自体を見ると,具体的なものといえるし,Aの供述する一連の経過も警備員の行動として自然かつ合理的なものといえる。 弁護人は,犯人が犯人使用車両内で黄色のジャンパーのようなものを着ていたとのAの供述部分について,被告人が当時黄色のジャンパーを所持していなかったことと矛盾しており,Aの供述は全体的に信用することができない旨主張するところ,確かに,Aの上記供述部分は,目撃後に得た情報と当時の記憶を混同している疑いがあって信用することはできないが,この点を除き,Aの供述は,全体的に信用性が高い。 Aの供述及び本件写真によれば,Aは,令和元年8月5日午前11時4 57分に,犯人使用車両の後部ナンバープレートを撮影しており,そのナンバーは,「広島□□□●△△△△」であったことが認められる。 他方,関係各証拠によれば,被告人は,令和元年8月5日午前8時45分から同日午後1時16分まで,「広島□□□●△△△△」のナンバーの自動車を使用していたことが認められる。 犯人使用車両と被告人使用車両のナンバーが一致したという事実は,被告人が犯人であることを極めて強く推認させるものといえる。 イ 顔貌の異同識別鑑定について本件店舗に設置された防犯カメラ映像には,本件犯行当日に本件犯人が,本件店舗に入ってからキャベツを盗んで本件店舗を出るまでの様子が映っていたが,鑑定書及び同鑑定をした 貌の異同識別鑑定について本件店舗に設置された防犯カメラ映像には,本件犯行当日に本件犯人が,本件店舗に入ってからキャベツを盗んで本件店舗を出るまでの様子が映っていたが,鑑定書及び同鑑定をしたDの供述によれば,犯人と被告人は恐らく同一人であると考えられ,これは,被告人が犯人であることを一定程度推認させるものといえる。 ウ アリバイ主張について弁護人は,被告人は,本件当時弁当を配達しており,本件犯行時刻頃に本件店舗に行くことは不可能であったとして,被告人のアリバイを主張する。 しかし,上記アリバイ主張を認めるには,本件写真が本件犯行直前に撮影されたことの根拠となるファイルプロパティの信用性に疑義を生じさせるような事情が認められることが必要である。 そこで検討するに,弁護人は,被告人が19か所の配達先のうち13か所に配達が終わった時点で,午前11時28分になったのであるから,被告人が本件犯行時刻までに本件店舗に行くのは不可能であったと主張する。 確かに,本件当日の配食表にある13か所目の配達先の摘要欄には11時28分との記載があったことが認められるが,この記載は,運転手が自 6ら記載し,その後確認などもされないというのであるから,記載する者次第で自由に記載することができるものである。 また,弁護人は,被告人の同僚であったBと実施した走行実験の結果によれば,被告人が弁当の配達後に本件店舗に行くことが不可能なことは明らかであると主張する。 しかし,自動車を使用しての配達所要時間は,走行速度や交通状況,道路状況,天候等様々な要素によって変わり得るものである。また,上記走行実験を行ったのは被告人ではないから,運転方法や走行経路,自動車の停止位置などが本件犯行当日の被告人によるものと同じであったかは不 状況,天候等様々な要素によって変わり得るものである。また,上記走行実験を行ったのは被告人ではないから,運転方法や走行経路,自動車の停止位置などが本件犯行当日の被告人によるものと同じであったかは不明であるし,証拠によれば,被告人の当時の勤務先(以下「本件弁当店」という。)から本件当日の配達先を全て回り本件店舗に行く場合の自動車の走行距離は約103.6kmであり,自動車の停止位置から各配達先までの歩行時間や配達の作業に要する時間を含めても約3時間で走行することが不可能とまではいえないことなどからすれば,本件写真のファイルプロパティの信用性に疑義が生じるものとはいえない。 以上によれば,弁護人によるアリバイ主張を採用することはできない。 ⑶ 以上の原判決の認定判断について検討する。 ア 原判決の判示のうち,⑵アのAの原審供述を摘示している部分において「本件写真を撮影し,その後,犯人の跡を追って本件店舗に入った。」としている点は,3⑵で見たとおり供述の理解としてやや正確性を欠く。 イ また,⑵アにおける原審弁護人の主張は,要するに,被告人は当時,黄色のジャンパーを持っていなかったので,「犯人が黄色のジャンパーを着ていた。」旨のAの原審供述は信用できないというものであり,犯人が被告人であることを前提として初めて意味のあるもの(その場合でも,犯人は被告人であるが,Aの原審供述は一部信用できないという程度の意味しか持たない。)であって,犯人性を争う弁護人の主張としては失当というべきである 7(むしろ,上記主張に関しては,犯人が犯行直前に着用していた服を被告人は当時着用ないし所持していた(あるいは所持していなかった)という犯人と被告人との同一性を推認させる間接事実(あるいは同間接事実を否認する事情又は上記推認を減殺させる事情)と 着用していた服を被告人は当時着用ないし所持していた(あるいは所持していなかった)という犯人と被告人との同一性を推認させる間接事実(あるいは同間接事実を否認する事情又は上記推認を減殺させる事情)として構成され直すべきものである。)のに,原裁判所は,その点に言及しないまま,上記主張に応答した点で適切を欠くものであるが,その点はさておくとしても,Aの原審供述中,「犯人が犯人使用車両内で黄色のジャンパーのようなものを着ていた。」との部分が信用できないとした原判断については,是認することができない。その理由は以下のとおりである。 Aの原審供述を見ると,Aは,一旦,犯人が犯人使用車両内で黄色のジャンパーのようなものを着ていたと供述した後,最終的には,「Tシャツやトレーナーなど,頭からかぶるような服だった可能性もあるか。」と問われ,「そこはちょっと分からない。」としつつ,「黄色という色が強く印象に残っている。」旨供述しているのであって,供述全体の趣旨としては,「犯人は犯人使用車両内で黄色の服を着ていた。ジャンパーかどうかは確実ではないが,ジャンパーのようなものであった。」というものであり,「犯人が犯人使用車両内で黄色のジャンパーのようなものを着ていた。」との供述は終始維持されている。 この供述について,原判決は,「A自身が,『黄色の服という記憶はあるが,ジャンパーという印象を持ったのは,犯人使用車両に表示された会社名を見て被告人の当時の勤務先(当審:Aの原審供述の内容に照らし,「その会社」と摘示すべきである。)をインターネットで調べた際に,ホームページ上にあった従業員が黄色のジャンパーを着ている写真を見たことが影響している可能性がある。』旨証言しており,目撃後に得た情報と当時の記憶を混同している可能性を自ら示唆している。」として, ホームページ上にあった従業員が黄色のジャンパーを着ている写真を見たことが影響している可能性がある。』旨証言しており,目撃後に得た情報と当時の記憶を混同している可能性を自ら示唆している。」として,これを全面的に信用して採用することはできないとする。 8しかしながら,Aが,上記ホームページを見て影響を受けた可能性を自認するのは,犯人の服がジャンパーであったという点だけであり,黄色の服であった点については,本件当日,犯人使用車両内の犯人を目撃した時点から強く印象に残っている旨一貫して供述しているのは前示のとおりである。原判決は,この点に関するAの原審供述の趣旨を誤解している。 このことに加えて,後述のとおりのAの原審供述の全体的な信用性の高さを併せ考慮すれば,Aの原審供述中,「犯人は犯人使用車両内で黄色の服を着ていたが,ジャンパーかどうかは分からない。」という部分についても,その信用性を疑うべき事情は見当たらない。 そうすると,犯人性の争点の判断に当たり,Aの原審供述を全体的に信用性が高いものとしながら,上記部分についてのみ信用性を否定した原判決の判断は誤りである。 ウ もっとも,原判決のその他の判示は,論理則,経験則等に照らして特段不合理なものではなく,当裁判所もおおむね正当として是認することができる。 エ 所論に鑑み,若干,補足する。 原判決は,⑵アにおいて,Aによって本件駐車場で目撃された人物が本件犯人であり,同人の乗車していた車両が犯人使用車両であることを当然の前提とし,同車両のナンバーと被告人使用車両のナンバーが一致することをもって,被告人が犯人であることを極めて強く推認させるとしている。 しかしながら,本件においては,本件犯人と本件駐車場で目撃された上記人物との同一性についても,別 ナンバーが一致することをもって,被告人が犯人であることを極めて強く推認させるとしている。 しかしながら,本件においては,本件犯人と本件駐車場で目撃された上記人物との同一性についても,別途,検討が必要である。 そこで,まずこの点について検討するに,本件店舗の防犯カメラ映像を編集した静止画には,令和元年8月5日午前11時47分頃,上下黒色の着衣の女性が店舗2階出入口から本件店舗へと入店して1階に降り,惣菜コーナー,青果コーナー等を経てキャベツの陳列されている売場に行き,キャベツ半玉を手に取り,これを手に持ったまま2階に上がり,精算する 9ことなく店舗2階出入口から退店する様子が撮影されており,この女性が本件犯人と認められる。 そして,Aは,原審において,本件駐車場において目撃した車両に乗車していた女性が本件犯人と同一人物であると供述し,その根拠として,その目撃した女性が同車両から降りて店舗2階出入口から入店した直後にAが撮影した本件写真の撮影時刻と本件犯人の店舗2階出入口からの入店時刻がほぼ同一であること,上下黒色の服装が一緒であること,他に本件犯人に似た人物がその頃店舗2階出入口から入店した事実がなかったことを挙げる。 後述のとおり,Aの原審供述には全体として十分な信用性が認められることに加え,上記供述部分についても,本件写真の電子データのファイルプロパティに表示された時刻(「修正時間」との表示であるが撮影時刻を指すものと認められる。このファイルプロパティに加工のおそれがないことについては後述する。)並びに防犯カメラの映像によって認められる本件犯人の店舗2階出入口からの入店時刻及びその際の服装等によって裏付けられており,その信用性は高度である。 以上から,本件証拠上,本件犯人と,A 。)並びに防犯カメラの映像によって認められる本件犯人の店舗2階出入口からの入店時刻及びその際の服装等によって裏付けられており,その信用性は高度である。 以上から,本件証拠上,本件犯人と,Aが本件駐車場で目撃した車両に乗車していた人物との同一性が認められる。 そうすると,原判決が前提としている,本件犯人は,Aが本件駐車場で目撃した女性であり,同人が乗車していた車両が犯人使用車両であるとの事実関係についても,証拠上,これを認定することが可能であり,この点について原判決に誤りはない。 以上から,原判決が認定したとおり,本件間接事実①として,「犯人使用車両と被告人使用車両のナンバーが全て一致している事実」が認められる。 加えて,本件においては,科学捜査研究所職員によって,犯人の写真と 10被告人の顔写真を比較した結果,明らかな相違点はなく,相応の類似性が認められ,5段階中「同一人であると考えられる。」に次いで上から2番目の段階である「恐らく同一人であると考えられる。」との鑑定意見が示されており,この鑑定には,原判決が説示するとおり,十分な信用性が認められる。したがって,本件間接事実②として,「犯人と被告人との顔貌に明らかな相違点はなく,相応の類似性が認められる事実」も認められる。 そして,本件間接事実①のみによっても,本件犯人は被告人であることが非常に強く推認されるところ,これに,相応の推認力を有する本件間接事実②も併せ考慮すれば,本件犯人は被告人であることが優に推認される。 他方,被告人の主張するアリバイは不確実なものであって,上記推認を動揺させるものではない。 以上と同旨の原判断はおおむね正当として是認できる。 ⑷ Aの原審供述の信用性に係る所論について検討する。 ア 所論は,⑵アのAの 不確実なものであって,上記推認を動揺させるものではない。 以上と同旨の原判断はおおむね正当として是認できる。 ⑷ Aの原審供述の信用性に係る所論について検討する。 ア 所論は,⑵アのAの原審供述の信用性を論難し,①Aは本件店舗の警備員であり,以前から目を付けていた万引き犯人をどうにかして捕まえたいという考えや,犯人を取り逃がすことによる低評価を避けたいとの考えから虚偽供述をする動機があるとし,②原判決がAの供述の裏付けとした本件写真の電子データのファイルプロパティについては,本件写真が撮影され得る機会は本件当日以外にも想定できるところ,本件写真の提出が令和元年11月頃に至ってようやくなされている点が不自然であり,修正,加工等がなされていないことが立証されていないのに信用性を認めるべきではないなどと主張する。 そこで検討するに,Aの供述態度を見ると,Aは,そもそも被告人が犯人であるとは供述していない上,原審弁護人による反対尋問において,被告人方から発見された衣類を順次示され,「被告人の自宅から見付かった服だが,本件当日に見た人物の服装と同じか。」と問われた際,「ちょっと違うと思 11う。」「少し違うような気はする。」「断言はできない。」などと供述しており,虚偽を述べて被告人を犯人に仕立て上げようとしている様子は全く見られない。加えて,犯人使用車両に表示された店のホームページを見て黄色のジャンパーについて確認し,その印象から犯人がジャンパーを着ていたと思い込んだ可能性があり,犯人が犯人使用車両内でジャンパーを着ていたと言い切れるわけではないことを素直に自認するなど,その供述態度は極めて真摯なものといえる。 そして,Aの原審供述は,同人が撮影したと供述する犯人使用車両についての本件写真の電子データが残って 言い切れるわけではないことを素直に自認するなど,その供述態度は極めて真摯なものといえる。 そして,Aの原審供述は,同人が撮影したと供述する犯人使用車両についての本件写真の電子データが残っており,そのファイルプロパティには本件写真の撮影日時が本件当日午前11時47分と表示されていることなどによって裏付けられている。そのファイルプロパティについても,上記のようなAの供述態度を考慮すれば,被告人を犯人に仕立て上げるために,Aがこれを改ざんしたおそれはないということができ,特段修正,加工がされた形跡や事情もうかがわれないことから,修正等がされていないことを分析するまでもなく,十分な信用性を認めることができる。 イ このほか,所論は,③Aが犯人を追い掛けようとしていたのであれば,追い掛けるのに不便な犯人使用車両の後部にわざわざ回り込んで写真を撮影したことには合理的な理由が必要であるが,原判決ではこれが示されていない,④Aが事情聴取の際,「本件写真を撮影した後,犯人を追い掛けていない。」と供述していたとの,事情聴取をした警察官の原審供述があるのに,原判決が,このAの事情聴取の際の供述とAの原審供述とが矛盾しないとした点が不合理であるなどとも主張する。 しかしながら,③については,Aは,原審で,「犯人は,逃げるとき,すごく警戒しているから,正直,現認して捕まえるのがもう難しいと判断し,証拠になる自動車についてナンバープレートを先に写真に撮っておこうと思った。」,「人が乗っている状況で写真を撮影するとクレームに発展して 12しまうので,誰も乗っていないことを確認してから撮影した。」などと供述しており,犯人の追跡よりも本件写真の撮影を優先し,かつ,クレーム等を避けようとした結果,自動車の後ろに回り込んで本件写真を撮影したもの ので,誰も乗っていないことを確認してから撮影した。」などと供述しており,犯人の追跡よりも本件写真の撮影を優先し,かつ,クレーム等を避けようとした結果,自動車の後ろに回り込んで本件写真を撮影したものと認められる。④については,Aは,原審においても,必ずしも,「犯人を追い掛けた。」とは供述していないことは,既に3⑵で見たとおりである。 ウ 以上によれば,Aの原審供述には,十分な信用性が認められ,所論の指摘を全て検討しても,この結論は左右されない。 ⑸ 被告人のアリバイ主張に係る所論について検討する。 ア 所論は,①原判決が,アリバイの主張は,本件写真の電子データのファイルプロパティの信用性に疑義を生じさせるようなものでなければならないとの基準を設定した点に合理性がない,②本件当日の被告人作成の配食表(以下「本件配食表」という。)は,被告人が作成した別の日の配食表やBが作成した配食表(以下,これらをまとめて「他の配食表」という。)の内容とも整合していることからすれば,本件当日の配食表の記載が信用できないと断じるには,上記配食表全ての記載が不正確であることが認められなければならないが,原判決が,本件配食表以外の配食表について一切言及することなく,本件配食表の信用性を排斥した点で誤っている,③原判決が,弁護人がBの協力を得て実施した走行実験の結果について,十分に検討することなく,犯行時刻に間に合うように走行することが不可能とまではいえないと判断した点で誤っているなどと主張する。 イ 所論①について検討すると,原判決は,本件アリバイ主張が認められるには,本件写真の電子データのファイルプロパティの信用性に疑義を生じさせる必要があると判示するが,本件においては,このファイルプロパティが,Aの原審供述の信用性を十分に裏付け,犯人性について非常 るには,本件写真の電子データのファイルプロパティの信用性に疑義を生じさせる必要があると判示するが,本件においては,このファイルプロパティが,Aの原審供述の信用性を十分に裏付け,犯人性について非常に強い推認力を有する⑶エの本件間接事実①の認定根拠となるとともに,被告人のアリバイ主張を排斥し得る,犯人性判断の決め手となる重要な客観的証拠であるこ 13とから,この証拠の信用性に疑義を生じさせない限り,本件間接事実①の認定に合理的な疑いは生じず,その結果としてアリバイ主張は排斥され,犯人が被告人であることの推認を妨げる事情は存在しないものとなるから,原判決の判断は,合理的なものとして是認することができる。 ウ 所論②について検討すると,本件配食表の信用性を否定することが,必ずしも,他の配食表の信用性を否定することになるものではない。 仮に,他の配食表が,全て,最短の時間で配達を終えた上で,その結果を正確に反映したものと認められるならば,これとおおむね同様の所要時間を記載する本件配食表の信用性は,これによって裏付けられることにもなり得る。しかしながら,そもそも,本件弁当店においては,全ての配食表について,運転手が自ら記載し,その後その記載の正確性についての確認もされていないことは原判決が説示するとおりであり,必ずしも,配食表が配達の結果を正確に反映したものであるとはいえない(証拠の被告人に係る8月10日の配食表では,当初の「9時」「10時」の記載がそれぞれ「10時」「11時」に書き換えられた形跡がうかがわれる。)。 また,仮に,他の配食表の記載が実際の配達の結果を正確に反映したものであることを前提としても,本件弁当店の経営者(以下「経営者」という。)の原審供述によれば,同人や,Bとは別の従業員が同一のルートで配達した場合,平均 表の記載が実際の配達の結果を正確に反映したものであることを前提としても,本件弁当店の経営者(以下「経営者」という。)の原審供述によれば,同人や,Bとは別の従業員が同一のルートで配達した場合,平均的に見て被告人やBよりも30分程度早く終了していたというのであり,Bの原審供述を踏まえても,本件当日以外の配達時間に短縮の余地がなかったものとは解されない。本件当日,被告人が,実際には,他の勤務日よりも速やかに配達を終え,本件配食表には,普段どおりの時間を要したとの虚偽を記載することも十分に可能であったと認められる。 エ 所論③については,Bが走行実験の際に要した時間に短縮の余地があることは,経営者の上記原審供述によっても明らかである。経営者が,本件犯行時刻に本件店舗に立ち寄ることは可能だと思うと供述していることに加え, 14客観的に見ても,本件弁当店から本件当日の配達先を全て回り本件店舗に到着するまでの走行距離が約103.6kmであり,自動車の停止位置から各配達先までの往復の歩行時間や配達の作業に要する時間を含めても約3時間で走行することが不可能といえないことなども考慮すれば,走行実験の結果を踏まえても,本件弁当店を本件当日午前8時45分に出発し,本件犯行時刻までに被告人が配達を終えて本件店舗に立ち寄ることができた可能性は十分に認められる。 オ なお,所論は,本件写真の電子データのファイルプロパティ自体が編集可能なものであるから,その信用性に疑義を生じさせるという程度は,相対的に高度のものではないとも主張するが,上記ファイルプロパティに十分な信用性が認められることは⑷アのとおりであり,所論②③を検討しても,上記ファイルプロパティの信用性に疑義が生じるものではない。 以上から,所論の指摘を全て検討しても,被告人のアリバイ主張を排斥 分な信用性が認められることは⑷アのとおりであり,所論②③を検討しても,上記ファイルプロパティの信用性に疑義が生じるものではない。 以上から,所論の指摘を全て検討しても,被告人のアリバイ主張を排斥した原判決に誤りは見いだせない。 ⑹ 論旨は理由がない。 5 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことについて刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 令和3年6月25日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官 伊 名 波 宏 仁 15 裁判官富 張 真 紀 裁判官廣 瀬 裕 亮

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る