令和6(ワ)350 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年10月24日 京都地方裁判所
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判決文本文4,313 文字)

令和6年10月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和6年(ワ)第350号国家賠償請求事件口頭弁論終結日令和6年7月25日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告は、原告に対し、1万円及びこれに対する令和6年2月23日から支払済みまで年3パーセントの割合による金銭を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求主文と同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、奈良地方裁判所の裁判官が被疑者Aに対する勾留状を発付したものの、 Aの私選弁護人であった原告に対する勾留通知(刑事訴訟法(以下「法」という。)79条前段、207条1項)が直ちに行われなかったことについて、原告がこれによって直ちに準抗告の申立てを行う機会を喪失したなどと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料1万円及びこれに対する令和6年2月23日(訴状送達日の翌日)から年3パーセントの割合(法定利率)による遅延損害金の支払を求める 事案である。 2 前提事実(顕著な事実、当事者間に争いがない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)原告(京都弁護士会に所属する弁護士)は、令和6年2月9日(以下、日付は同月の日付を指す。)に逮捕された被疑者Aの私選弁護人に選任され、同 日、奈良警察署に対し、選任届を提出した。 奈良地方裁判所の裁判官は、10日(土曜日)、Aに対する勾留状を発付する裁判(以下「本件裁判」という。)をした(以下、本件裁判をした裁判官を「本件裁判官」という。)。なお、Aは、本件裁判の当日に、勾留通知は不要である旨の書面を作成し、また勾留質問において、本件裁判官に対し、勾留通知は 判」という。)をした(以下、本件裁判をした裁判官を「本件裁判官」という。)。なお、Aは、本件裁判の当日に、勾留通知は不要である旨の書面を作成し、また勾留質問において、本件裁判官に対し、勾留通知は不要である旨を述べた。(甲1) 本件裁判官及びAの勾留手続を担当した同裁判所の裁判所書記官(以下「本件書記官」という。)は、本件裁判当時、原告から前記選任届が提出されていることを認識していたものの、同書記官は、Aが勾留通知を不要と述べていたことから勾留通知を行う必要はないものと誤信し、原告に対し、本件裁判に係る勾留通知をしなかった。 原告は、11日(日曜日・建国記念の日)、逮捕時にAが留置された警察署に対し、Aの勾留の裁判の有無について電話で確認したところ、本件裁判を知った。 原告は、本件裁判に対する同日付けの準抗告(以下「本件準抗告」という。)の申立書を奈良地方裁判所宛てに郵送し、同書面は12日に同裁判所に到達 した。(甲2、4)原告は、12日(月曜日・建国記念の日の振替休日)午後4時頃、奈良地方裁判所の別の裁判所書記官から電話で本件準抗告に関する連絡を受けた際、本件裁判に係る勾留通知を受けていない旨を告げた。当該書記官は、一旦電話を切った後、勾留通知がされていないことを確認したため、同日午後 5時15分頃、原告に対し、電話で本件裁判に係る勾留通知(以下「本件勾留通知」という。)をした(以下、本件裁判から本件勾留通知までの間、勾留通知がされなかったことを「本件不作為」という。)。 13日、本件準抗告は棄却された。(甲4)原告は、14日、本件訴訟を提起した。 3 争点及び当事者の主張 本件不作為の違法性(争点1)(原告の主張)本件裁判官及び本件書記官による本件不作為は、法79条 (甲4)原告は、14日、本件訴訟を提起した。 3 争点及び当事者の主張 本件不作為の違法性(争点1)(原告の主張)本件裁判官及び本件書記官による本件不作為は、法79条前段に反して違法であり、同人らが職務上尽くすべき注意義務に違反するものであるから、国家賠償法1条1項の解釈適用上、違法というべきである。 (被告の主張)国家賠償法1条1項にいう違法とは、個別の国民の権利又は法益の侵害があることを前提として、公権力の行使に当たる公務員が当該個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいう。 しかし、原告は、本件勾留通知に先立って本件裁判を知り、直ちに本件準 抗告の申立てを行うなどの弁護活動を行ったのであるから、直ちに勾留通知を受けて適時に弁護活動を行うという弁護人固有の権利又は法律上保護された利益が侵害されたとはいえない。 したがって、本件不作為が、個別の国民の権利又は法益の侵害があることを前提とする違法なものであるとはいえない。 損害発生の有無(争点2)(原告の主張)本件不作為によって、原告は直ちに準抗告を申し立てる機会を喪失し、またAとの信頼関係を失うおそれも生じた。これにより原告が被った精神的損害を慰謝する金額は1万円を下らない。 (被告の主張)原告が、本件裁判の翌日付けで本件準抗告の申立書を提出したこと等を考慮すると、原告に慰謝料をもって償うほどの精神的損害が発生したとはいえない。 第3 争点に対する判断 1 争点1(本件不作為の違法性)について 判断 ア被疑者に対する勾留の裁判を行った裁判官は、既に当該被疑者に弁護人が選任されている場合は、直ちに当該弁護人にその旨を通知しなければならない(法79条前段、207 性)について 判断 ア被疑者に対する勾留の裁判を行った裁判官は、既に当該被疑者に弁護人が選任されている場合は、直ちに当該弁護人にその旨を通知しなければならない(法79条前段、207条1項。なお、その通知は、裁判所書記官にさせることもできる(刑事訴訟規則298条2項)。)。これは、勾留に伴 う身体拘束が身体の自由に対する重大な制約であることに鑑み、身体を拘束された被疑者の防御権の行使を実効的なものとするため、直ちに勾留の事実を弁護人に通知することによって、当該弁護人が被疑者と接見交通(法39条1項)をし、勾留の裁判に対する準抗告の申立て(法429条1項2号)、勾留理由開示請求(法82条2項)、勾留取消請求(法87条 1項)等の弁護人固有の権利を速やかに行使し得るようにしたものと解される。このように、弁護人に対して直ちに勾留通知が行われることは、これら弁護人が有する権利を速やかに行使するために不可欠であるうえ、法79条前段は、被疑者の意向にかかわらず、勾留の裁判を行った裁判官に対し、弁護人に対する勾留通知を義務付けていることに照らすと、被疑者 に対する勾留の裁判をした裁判官又は同裁判官から勾留通知の指示を受けた裁判所書記官から、直ちに勾留通知を受けることは、弁護人にとって法律上保護された利益というべきである。 そうすると、被疑者に対する勾留の裁判をした裁判官又は同裁判官から勾留通知を指示された裁判所書記官は、既に選任されている弁護人に対し、 直ちに勾留通知を行うべき職務上の義務を負うものと解される。 イ本件において、本件書記官は、原告に対する勾留通知について、本件裁判官から明示又は黙示的に指示されていたと推認されるところ、前記前提事実のとおり、本件書記官は、本件裁判当時、原告がAの弁護人と イ本件において、本件書記官は、原告に対する勾留通知について、本件裁判官から明示又は黙示的に指示されていたと推認されるところ、前記前提事実のとおり、本件書記官は、本件裁判当時、原告がAの弁護人として選任されていることを認識しながら、Aが勾留通知を不要と述べていたこと からこれを行う必要はないものと誤信し、同裁判の後直ちに原告に対する 勾留通知を行わず、その結果、約2日間、原告に対する勾留通知がされないという事態(本件不作為)を生じさせたものである。 したがって、本件書記官は職務上の義務を怠ったものといわざるを得ず、少なくとも同書記官による本件不作為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法である。 被告の主張についてこれに対し、被告は、原告が本件勾留通知に先立って本件裁判を知り、直ちに本件準抗告の申立てを行うなどの弁護活動を行った以上、本件不作為により原告の権利又は法律上保護された利益が侵害されたとはいえない旨の主張をする。 しかし、法79条は、弁護人が他の方法によって勾留の事実を知っている場合には勾留通知を不要とする旨を定めていないことを考慮すると、原告が本件勾留通知に先立って本件裁判を知ったからといって、原告が、被疑者に対する勾留の裁判をした裁判官又は同裁判官から勾留通知の指示を受けた裁判所書記官から直ちに勾留通知を受けるという法律上保護された利益が 消滅したとは解されない。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 2 争点2(損害発生の有無)について上記1で説示したところによれば、本件不作為により原告は精神的苦痛を被ったものと認められる。そして、本件裁判が行われてから原告がこれを知るま での日数等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛を慰謝するために相当な金 為により原告は精神的苦痛を被ったものと認められる。そして、本件裁判が行われてから原告がこれを知るま での日数等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛を慰謝するために相当な金額は1万円とするのが相当である。 これに対し被告は、現に原告が本件裁判の翌日には本件準抗告の申立書を郵送している等の上記事情を考慮すれば、原告に慰謝料をもって償うほどの精神的損害は生じていない旨主張する。しかし、同事情を考慮したとしても、原告 は、本件裁判を知るや否や、同日付で同申立書を提出したという経緯に照らせ ば、本件裁判当日に勾留通知が行われなかったことによる原告の弁護活動への影響がなかったとは認められない。また仮に原告が本件裁判を知った後も、特段の弁護活動を行わなかった場合には、勾留通知が遅れたことによる弁護活動への影響はなく、損害は生じていないとの評価があり得るとしても、上記経緯に照らせば、本件がこのような場合にあたるとはいえない。 第4 結論よって、原告の請求には理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言は相当でないから、これを付さないこととする。 京都地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官 植田智彦 裁判官 關 隆太郎 裁判官 岡 關隆太郎 裁判官 岡本圭吾

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