平成24年1月31日判決言渡平成22年(行コ)第124号遺族補償年金等不支給処分取消請求控訴事件 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 被控訴人の夫であるAは,パン,洋菓子等の製造販売を業とする株式会社B(以下「本件会社」という。)C事業所業務課物流係の係長として勤務していたところ,平成▲年▲月▲日午後4時頃,当時居住していたマンションの通路で倒れているのを発見され,救急車臨場時には既に死亡していたが,その後,喘息発作によって心臓停止に至り死亡したこと(以下,この死亡のことを「本件喘息死」という。)が確認された。 被控訴人は,本件喘息死が本件会社における業務に起因するものであるとして,川口労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したが,処分行政庁は,平成17年7月27日付けで被控訴人に対し,これを支給しない旨の処分をした(以下「本件処分」という。)。 本件は,被控訴人が,控訴人に対し,本件喘息死は上記業務に起因するものであるから本件処分は違法であるとして,その取消しを求める事案である。 原審は,本件喘息死は本件会社における業務に起因するものと認められるから,労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しないとした本件処分は違法で あるとして被控訴人の請求を認容したところ,控訴人はこれを不服として控訴した。 2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判 しないとした本件処分は違法で あるとして被控訴人の請求を認容したところ,控訴人はこれを不服として控訴した。 2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1及び2(原判決2頁14行目から13頁10行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決5頁9行目の「退勤時刻は,」の次に「所定の終業時刻から開始される」を加える。 (2) 原判決6頁7行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「特に,本件喘息死の直前1週間のAの総労働時間は76時間51分(時間外労働時間36時間51分)であり,Aには,長期間の過重業務による過重負荷に加えて,所定労働時間のほぼ2倍に達する短期間の過重な業務によるストレスが生じていた。」(3) 原判決7頁7行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「ウ業務内容等Aは,C事業所業務課物流係において,パン等の製造工場からC事業所への商品運搬車両の運行管理,商品の入荷時間及び数量確認,コンビニエンスストアやスーパーマーケットへの商品出荷車両の管理,積載量の調整,商品の納入先への到着時間の調整等,全体の管理業務を主な業務としていたところ,同係に所属する3人で2交替24時間勤務体制を採っていたため,喘息の悪化等の理由で臨時に休むことや勤務時間を変更することは事実上不可能であった。また,日々生ずる欠品,商品の入荷・納入の遅れ,誤配送,運転手の欠員等の物流上のトラブルは恒常的に存在し,物流係長としてこれらの事態に対処する責任者の地位にあったAは,これらのトラブルが解決するまで事業所に残って勤務していた。」(4) 原判決8頁26行目の「なされていた」を「なされていたから,β2刺激吸入薬の多用で気道過敏性を高めた 責任者の地位にあったAは,これらのトラブルが解決するまで事業所に残って勤務していた。」(4) 原判決8頁26行目の「なされていた」を「なされていたから,β2刺激吸入薬の多用で気道過敏性を高めた可能性も否定される」に改める。 (5) 原判決10頁6行目冒頭から同頁末行の「分未満切り上げ」までを次のとおり改める。 「タイムカードやシフト表に加え,元同僚らの供述を考慮して次のとおり労働時間を推定する。始業時刻は,タイムカード打刻時とする(遅刻した時間は,労働時間から除く。)。終了時刻は,勤務終了間際にトラブルが発生しない限り所定労働時間内に処理を完了することができ,また,本件喘息死直前に大きなトラブルはなかったから,昼勤務は午後10時,夜勤務は午前10時まで勤務したと推定する。 引継時間については,交代者は,所定の始業時刻の5分ないし15分前に出勤し,所定の始業時刻までに引継を終えるのが一般的であることから,引継のために超過勤務が生ずることはないものと推定する。なお,本件喘息死の前日,前々日は,引継等に要した時間を考慮しても午後10時15分頃には業務を終了していた。以上によれば,死亡前6か月の労働時間は次のとおりとなる。 分未満切り上げ 」(6) 原判決11頁7行目の「範囲内と考えられる。」の次に「昼勤務と夜勤務とを切り替える際,切替えの間に暦日の休日又は24時間の明け時間が確保されており,昼勤務と夜勤務が連続しないようになっている上,」を加える。 (7) 原判決11頁10行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「ウ業務内容等Aの勤務していたC事業所業務課物流係の業務は,物流全体の管理業務が主な業発症前月数実労働日数週40時間超の時間外労働時間数月平均時間外労働時間数1か月2か月 Aの勤務していたC事業所業務課物流係の業務は,物流全体の管理業務が主な業発症前月数実労働日数週40時間超の時間外労働時間数月平均時間外労働時間数1か月2か月3か月4か月5か月6か月20日20日22日22日21日21日56時間10分64時間31分55時間07分77時間44分64時間10分69時間01分56時間10分60時間21分58時間36分63時間23分63時間33分64時間28分 務であり,日常の業務遂行に当たっては,シフト制により,昼勤務・夜勤務にそれぞれローテーションで責任者・副責任者が選任されるなど,特定の者に負担が集中しないよう配慮されていた。また,Aが従事していた業務の実態は,工場から配送先店舗までの商品の流れが滞ることのないよう管理・調整するというデスクワークが中心であり,トラブルが発生しない限り商品の流れ等の状況を適宜確認すれば足りるなど,主体的に行動する必要はなく,しかも,作業の合間に待ち時間が日常的に発生することもあるなど,その業務は密度の薄いものであった。」(8) 原判決12頁12行目の「フルカチゾン」のほか原判決中に「フルカチゾン」とあるのは,いずれも「フルチカゾン」に改める。 (9) 原判決12頁23行目冒頭から26行目末尾までを次のとおり改める。 「カ短時間作用性β2刺激吸入薬等の多用Aに処方されていた短時間作用性β2刺激吸入薬(サルタノール,メプチンエア,アロテック)は,交感神経を刺激して気管支平滑筋を弛緩させる働きがあり,気道狭窄を解消し,喘息発作による呼吸困難から脱することができるが,その過度の使用により不整脈や心筋梗塞が生じて死に至ることがある。また,Aに処方されていたスト 気管支平滑筋を弛緩させる働きがあり,気道狭窄を解消し,喘息発作による呼吸困難から脱することができるが,その過度の使用により不整脈や心筋梗塞が生じて死に至ることがある。また,Aに処方されていたストメリンDはβ刺激薬に分類され,その過度の使用は,不整脈,心停止等の重篤な副作用が発現する危険性がある。これらの吸入薬には,気道炎症自体を抑える効果はないので,その常用,頻回の使用は,気道炎症を悪化させ,喘息を増悪させて喘息死のリスクを高める可能性がある上,その過度の使用により上記のような心臓障害の副作用の発生リスクを増大させる。」第3 当裁判所の判断当裁判所は,本件喘息死は本件会社におけるAの業務に起因するものであると認められ,本件処分は違法であるから,被控訴人の本件請求は理由があると判断する。 その理由は次のとおりである。 1 業務起因性の判断基準労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡等に対して行われるもの であり(同法7条1項1号),業務上の死亡というためには,当該死亡と業務との間に相当因果関係のあることが必要である(最高裁昭和50年(行ツ)第111号同51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,上記の相当因果関係があるというためには,当該死亡の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したことによるものと評価し得ることが必要である(最高裁平成6年(行ツ)第24号同8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁参照)。 前記第2の2において引用した原判決の認定に係る前提事実のとおり,Aの死因は本件喘息死であるところ,上記の考え方は,労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号(平成22年厚生労働省令69号による改正前のもの)の「その他業務に起因することの明らかな疾病」の認定におい 死因は本件喘息死であるところ,上記の考え方は,労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号(平成22年厚生労働省令69号による改正前のもの)の「その他業務に起因することの明らかな疾病」の認定においても妥当するものであるから,本件喘息死と本件会社におけるAの業務との間の相当因果関係の存否の判断に当たっては,本件喘息死が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価できるかどうかを,経験則及び科学的知見に照らして検討することになる。 そして,この検討に当たっては,前記前提事実のとおり,Aは,基礎疾患として有していた喘息が増悪して本件喘息死に至ったのであるから,この喘息の増悪が,業務上の過重負荷によりその自然の経過を超えるものであったといい得るかどうかという観点から検討を加えなければならない。なお,業務の過重性の判断は,何らの基礎疾病を有しない健常人ではなく,何らかの基礎疾患を有しながらも特段の勤務軽減を必要とせずに通常の勤務に就いている者をも含む平均的な労働者を基準とすべきである。 2 当裁判所が認定した事実関係等(喘息に関する医学的知見,Aの喘息及び健康の状況等,Aの業務,夜勤交代制勤務の過重性に関する医学的知見及びAの喘息増悪に関する医師の意見)は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の2から6まで(原判決14頁6行目から36頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決14頁6行目の「甲54,」の次に「75」を,「58,」の次に「73,74,80,」を加える。 (2) 原判決14頁8行目の「定義等」の次に「(ガイドライン2006)」を加える。 (3) 原判決15頁2行目の「54,55,」の次に「92,93,95,」を,「56」の次に「,59,72,77」をそ 原判決14頁8行目の「定義等」の次に「(ガイドライン2006)」を加える。 (3) 原判決15頁2行目の「54,55,」の次に「92,93,95,」を,「56」の次に「,59,72,77」をそれぞれ加える。 (4) 原判決15頁8行目の「(ガイドライン2006)」を「(ガイドライン2006,2009)」に改め,同行目末尾に「なお,ガイドライン2006,2009には,増悪因子としての過労について「心理的因子の検討で,疲労感,多忙感が喘息症状悪化と関連するとの報告がある。」と記載されている。」を加える。 (5) 原判決15頁9行目冒頭から11行目末尾までを次のとおり改める。 「喫煙は,喘息患者における呼吸機能の加速度的な低下に関与し,喘息を重症化する。また,吸入ステロイド薬や全身性ステロイド薬の効果を弱めるおそれがあり,喘息コントロール成功率を下げる(GINA2006日本語版)。」(6) 原判決15頁15行目,18行目及び24行目の「2006」並びに16頁2行目の「2003」の次にそれぞれ「,2009」を加える。 (7) 原判決15頁18行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「喘息が心理的影響を強く受ける疾患であるとの報告は多数存在し,患者の心理社会的背景や家族の在り方などが喘息の発症,増悪,治療管理などに影響を与えることが明らかにされている(ガイドライン2009)。」(8) 原判決16頁19行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「また,ガイドライン2009では,転居,就職,転職,慢性的な仕事の負担などを喘息の発症や増悪と関連があるとし,しかも,エビデンスレベルで最も高い信頼性がある事実としている。」(9) 原判決17頁8行目末尾の次に「なお,Dセンター副院長・E(以下「E医師」という。)は,ガイドライン2009 連があるとし,しかも,エビデンスレベルで最も高い信頼性がある事実としている。」(9) 原判決17頁8行目末尾の次に「なお,Dセンター副院長・E(以下「E医師」という。)は,ガイドライン2009において,喘息死に至る発作の誘因と して,気道感染に次いで過労・ストレスが三大誘因とされている点について,その記載の元となるデータは死亡時の患者の病態や服薬状況を遡及的に分析したものであり,発作の誘因か,発作時の附帯状況か,発作の結果発生した事情かの区別をすることなく,全て喘息死の誘因としており,むしろ喘息死した患者の周囲の者は,気道炎症が起こり,発作が数日間続いている状態を「過労状態」と表現する可能性が高いと考えられることから,「過労・ストレスは誘因というより喘息コントロール不良の結果であった可能性が推定される」と結論付けている(乙72)。」を加える。 (10) 原判決20頁3行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。「なお,β刺激薬は,正式にはβアドレナリン受容体作動薬といい,心臓に分布するβ1受容体と気管支に分布するβ2受容体を刺激することにより,それぞれ気管支拡張作用,心刺激作用をもたらす。β2刺激薬は,β刺激薬に比べてβ2選択性があると考えられている薬剤であり,β刺激薬に比べて心刺激作用が弱く,気管支拡張作用が強いと考えられている。」(11) 原判決21頁1行目の「甲32」を「甲13,32」に,「55,」を「55~57,104~107,」にそれぞれ改める。 (12) 原判決21頁11行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「医療機関別にみると,茅ケ崎市の自宅付近では主としてF医院で受診し,喘息発作時等にはG病院で受診することもあり,また,C事業所周辺では主としてH医院,I病院,Jクリニック等で受診しており,平成14年1 療機関別にみると,茅ケ崎市の自宅付近では主としてF医院で受診し,喘息発作時等にはG病院で受診することもあり,また,C事業所周辺では主としてH医院,I病院,Jクリニック等で受診しており,平成14年1月以降をみると,夜間まで診療受付をしているK病院での受診も増加している。なお,Aがこのように多くの医療機関で受診していたのは,単身赴任先と自宅との二重生活を始め,時間外労働による終業時刻が遅くなったことや夜勤交代制のシフトによる不規則な休暇日等が影響しているものと考えられる。」(13) 原判決21頁15行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「なお,Aは,診療を受けた際に医師に対して,昼勤務の時は午前2~3時に就 寝して9時に起床,睡眠時間は5,6時間であると説明したり,睡眠不足や不眠を訴えたりしたことがある上,G病院の入院診療録によれば,単身赴任をしており,生活リズムがバラバラで,朝食は食べられず,夕食は夜中の1時30分となるなどと説明している。また,Aは,妻である被控訴人に対しても,たびたび睡眠不足を訴えていた。」(14) 原判決21頁24行目の「1日平均52.8μg」を「1日平均60.3μg」に改める。 (15) 原判決22頁4行目の「145」を「144」に,7行目の「243」を「244」に改める。 (16) 原判決22頁8行目冒頭から17行目末尾までを次のとおり改める。 「なお,ストメリンDを除いたステロイド吸入薬の使用量(フルチカゾン換算)は,およそ次のとおりである。 平成8年8月~平成9年7月 1日平均60μg平成9年8月~平成10年7月 1日平均98μg平成10年8月~平成11年7月 1日平均152μg平成12年8月~平成13年7月 1日平均138μg平成13年8月~平成 平成9年8月~平成10年7月 1日平均98μg平成10年8月~平成11年7月 1日平均152μg平成12年8月~平成13年7月 1日平均138μg平成13年8月~平成14年7月 1日平均289μgAには,発作が起きたときに使用するための,多種類の短時間作用性β2刺激吸入薬及びストメリンDが,多量に処方されていた(ストメリンDは,ステロイド,β刺激薬,抗コリン薬の3種薬である。)。Aは,短時間作用性β2刺激吸入薬及びストメリンDを,発作が起きたときに限定して使用していた。処方されたのは,平成13年は,サルタノール14本とストメリンD24本,平成14年は7か月間でサルタノール4本,メプチンエア4本,アロテック3本,ストメリンD22本であった(なお,サルタノールは1本で約200回,アロテック及びメプチンエアはそれぞれ1本で約100回,ストメリンDは1本で約60回の吸入ができる。)。 平成14年のストメリンDの量は,死亡前7か月で,1日平均0.405mg,8.8 0吸入に相当し,1日最大8吸入とされる限度を超え,その他の薬剤も含め,短時間作用性β2刺激吸入薬及びストメリンDの投与が過剰であった。なお,ストメリンDとサルタノールが,重複して処方されたことはなかった。」(17) 原判決23頁7行目の「甲50」を「甲36~39,50」に改める。 (18) 原判決24頁8行目末尾に「また,Aが茅ケ崎市の自宅に戻った時も,仕事先からパン等の配送等の問題について電話で問い合わせを受けて指示をするなど,職場を離れても業務に関する照会を受けることがあった。」を加える。 (19) 原判決26頁12行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「なお,勤務シフトは,その月の各人の公休希望日を前月20日前後までに確認した上で する照会を受けることがあった。」を加える。 (19) 原判決26頁12行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「なお,勤務シフトは,その月の各人の公休希望日を前月20日前後までに確認した上で全体のシフトが前月25日頃までに作成されており,各人の希望公休日は毎月3日間まで指定できるというものであった。したがって,当該月のシフトは前月25日頃にならないと明らかにならず,あらかじめ翌月の具体的な生活スケジュールを立てることは困難であった。また,Aは,通院のために有給休暇を取得したり,シフトを変更したりすることはほとんどなく,休日や夜勤務の終了後に通院することが多かった。」(20) 原判決28頁12行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「ウこれに対し,控訴人は,①引継に要する時間は5分ないし10分程度であるところ,交代者は所定の始業時刻の5分ないし15分前に出勤していたから,引継は所定の始業時刻までに終了していた,②商品の入荷・納入の遅れ,誤配送等のトラブルは通常勤務時間内に処理を完了できるのであり,重大なトラブルは3,4か月に1回程度しか起こっていないから,Aの労働時間の算定に当たりトラブル処理に要する時間を加算すべきでない,③Aは,食事時間と喫煙時間を併せると1時間の休憩時間を十分確保していた,④本件喘息死直前の1週間に発生したトラブルは,Aの業務上の負担を重くするものではなく,終業時刻は,平成14年7月27日及び28日のみ午後10時15分であって,その余の日は午後10時には終了していたなどと主張する。 まず,引継については,C事業所業務課物流係主任であったLは,所定の始業時刻より早く出勤した場合には日報を見て仕分け量を確認する等の業務をするなどしていたと供述していること(原審証人L),同係の係長であったMは,本件 は,C事業所業務課物流係主任であったLは,所定の始業時刻より早く出勤した場合には日報を見て仕分け量を確認する等の業務をするなどしていたと供述していること(原審証人L),同係の係長であったMは,本件喘息死前夜,前々夜のAからMに対する引継は午後10時から30分ほど行われたと供述していること(乙21),物流係及び同課商品管理係の社員の出勤時刻を示すタイムカード(乙71の1~15)によれば,引継が必要でない社員も含めて始業時刻おおむね5分ないし15分前に出勤していることなどに照らし,出勤後直ちに引継が開始されて所定の始業時刻前に終了することが通常であったとはいい難く,Aが物流係の責任者としての立場にあったことも併せ考えると,Aは所定の始業(終業)時刻から10分ないし30分程度の時間をかけて引継を行ったと認めることができる。これに反するMの供述(乙70の2)は,前掲各証拠がAの業務の実態をよく表しているとみられることに照らし,採用することができない。そして,商品の入荷・納入の遅れ,誤配送等のトラブルが相当程度発生していたことに加え,Aは,配送者の運転手からも信頼が厚く,現場の責任者としての立場にあったこと(甲50,乙7,8,28,29),妻である被控訴人に対し,人がいないから帰れないとか,トラブルが多いのでそんなに簡単には帰れないなどと言っていたこと(原審被控訴人本人),前記説示のとおり,自身がシフトの責任者でなかった場合も,責任者が退勤するまで業務をしていたことなどをも考慮すると,Aの終業時刻は,平均して昼勤務は午後10時30分,夜勤務は午前10時30分とするのが相当である。また,Aは,職場で弁当を食べており,食事自体は10分程度で終えていたところ(原審証人L),Mも,食後の一服を含めて食事時間は30分であったと供述しており(乙70の1) 30分とするのが相当である。また,Aは,職場で弁当を食べており,食事自体は10分程度で終えていたところ(原審証人L),Mも,食後の一服を含めて食事時間は30分であったと供述しており(乙70の1),Aが喫煙所において1日5,6回の喫煙をしていたとしても,まとまった時間が確保されるというものではなく,携帯電話で呼び出されれば直ちに業務に戻らなければならなかったことをも併せ考えれば,休憩時間は30分とするのが相当である。なお,本件喘息死直前の労働時間について,携帯電話のメール内容及び送信履歴等に照らし,原判決別紙労働時間集計表の7月26 日ないし28日の終業時刻のとおり認定するのが相当であることは,前記説示のとおりである。したがって,控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。」(21) 原判決29頁14行目の「甲3~6,」の次に「81~91,」を加える。 (22) 原判決32頁14行目の「55」の次に「,92,95,当審証人N」を加える。 (23) 原判決33頁22行目の「スメトリンD」を「ストメリンD」に改める。 (24) 原判決34頁10行目の「59」の次に「,77,当審証人O」を加える。 (25) 原判決36頁6行目の次に行を改めて次のとおり加える。 「(3) E医師の意見(乙72)本件喘息死の直前2か月間は,喘息のコントロール不良に該当し,救急受診の回数等からみると重症持続型と判断される。 Aには喫煙習慣があり,これが喘息の増悪因子となってAの病態に悪影響を及ぼし,喘息死にも影響したことは十分考えられる。 Aの病状からすると,ステロイド吸入薬が不足していた。平成14年1月中旬から1か月以上ステロイド吸入薬の処方が中断し,その後同年3月8日に処方されてから,同年6月13日に処方されるまで1か月分以上不足していた らすると,ステロイド吸入薬が不足していた。平成14年1月中旬から1か月以上ステロイド吸入薬の処方が中断し,その後同年3月8日に処方されてから,同年6月13日に処方されるまで1か月分以上不足していた。これらは喘息のコントロール悪化に影響があったと思われる。 また,Aの病状からみて,短時間作用性β2刺激吸入薬は過剰投与の状態であった。短時間作用性β2刺激吸入薬の過剰投与は,心拍数の増加等の副作用の発生リスクを増大させるものであり,Aの直接的な死因(不整脈や心停止による死亡)であるとは断定できないが,少なくとも喘息の病状のコントロール不良に陥っていることを示している。 なお,過労と喘息の増悪との関係は明確になっておらず,何らかの関連を有するとしても,どの程度の過労が喘息の増悪に影響を与えるのか明らかでない。Aの時間外労働時間は,1か月平均64時間28分で,最大でも77時間44分程度であ って,脳・心疾患の業務上外の認定基準である80時間をも下回り,業務内容も基本的にデスクワークであって,過重な負荷はなかった。 以上のとおり,Aの喘息症状に照らし,ステロイド吸入薬が長期管理薬の第一選択薬であるのに,その使用の不足・中断がみられること,自己判断によるβ2刺激吸入薬の過剰使用,喘息自己管理の医療側の教育不足・患者側の理解力不足及び喫煙による不適切な慢性管理が本件喘息死の最大の原因であり,これがベースとなり,2週間くらい喘息発作が続いていたところに感冒罹患が加わって死亡したと考えられる。」 3 本件喘息死の業務起因性前記引用に係る原判決の認定した事実及び前提事実(前記補正部分を含む。)に基づき,Aの業務による過重な負荷がAの基礎疾患である喘息をその自然の経過を超えて増悪させ,本件喘息死に至ったものということができるかどうかについて検討 た事実及び前提事実(前記補正部分を含む。)に基づき,Aの業務による過重な負荷がAの基礎疾患である喘息をその自然の経過を超えて増悪させ,本件喘息死に至ったものということができるかどうかについて検討する。 (1) 喘息の増悪と過労・ストレスとの関係前記認定事実等によれば,過労・ストレスが喘息の増悪に影響を及ぼすことは臨床的によく観察されるものであり,過労・ストレスが免疫力,抵抗力を弱め,気道感染の原因となることや,気道感染症を引き起こして喘息を増悪させることは,多くの医学的見解が肯定するところである。他方,これらが喘息の増悪因子となることを積極的に否定する医学的見解は見当たらない。ガイドラインも,2003,2006,2009と一貫して,気道感染,ストレス,過労を死亡に至る発作の三大誘因としている。そして,ガイドライン2009では,喘息が心理的影響を強く受ける疾患であるとの報告が多数存在し,患者の心理社会的背景や家族の在り方などが喘息の発症,増悪,治療管理などに影響を与えることが明らかにされており,転居,就職,転職,慢性的な仕事の負担などを喘息の発症や増悪と関連があることについてエビデンスレベルで最も高い信頼性がある事実としているなど,喘息と過労・ストレスの関係について,より踏み込んだ記述をしている。以上の諸点に照らす と,過労・ストレスが喘息の増悪因子であるということ自体は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつそれで足りるという訴訟上の因果関係の証明の観点からは,十分にこれを肯認することができる。 前掲のO医師及びE医師の見解は,喘息の増悪との因果関係について,自然科学的観点から厳密な意味での証明がないとの意見と理解することができ,上記判断を左右するものではない。なお,E医師は, できる。 前掲のO医師及びE医師の見解は,喘息の増悪との因果関係について,自然科学的観点から厳密な意味での証明がないとの意見と理解することができ,上記判断を左右するものではない。なお,E医師は,ガイドライン2009において,気道感染,過労及びストレスが喘息発作の三大誘因とされている点について,その記載の元となるデータは,発作の誘因か,発作時の附帯状況か,発作の結果発生した事情かの区別をすることなく全て喘息死の誘因としているなどの問題があると批判するが,前記説示のとおり,ガイドラインは,臨床上の知見に基づき,喘息が心理的影響を強く受ける疾患であるとし,仕事上の負担が喘息の発症や増悪と関連があることについてエビデンスレベルで最も高い信頼性がある事実としており,多数の医学的見解もこれを肯定しているところであって,E医師の上記指摘も,自然科学的な観点からの厳密な意味での証明がないことを指摘するものと理解されるから,上記判断を左右するものではない。 (2) 業務による過重負荷ア前記認定事実等によれば,本件会社C事業所業務課物流係におけるAの業務内容は,係長として,4か所の工場から入荷したパン等を多数の小売店に出荷するための商品運搬車両の運行管理・調整,クレーム受付・対応・調整,運送業者との折衝等,種々の業務にわたっており,欠品,商品の入荷・出荷の遅れ,誤配送,人員不足等のトラブルが発生することも多く,このようなトラブルが発生した際には,それが解消するまで居残って処理をしなければならない上,納入先に詫びるための電話をして直ちに別便での配送や代替品の配送を手配することなど臨機の対応を要するものを始め,自ら車で工場まで商品を取りに行くことや直接納入先に配送することもあるなど,まとまった休憩時間を確保することもできず,しかも相当の精神 品の配送を手配することなど臨機の対応を要するものを始め,自ら車で工場まで商品を取りに行くことや直接納入先に配送することもあるなど,まとまった休憩時間を確保することもできず,しかも相当の精神 的緊張を伴う業務であったということができる。特に,Aは,現場のリーダー的な存在であり,自身がシフトの責任者でない場合でも,当該責任者が退社するまで居残るなどしていた上,物流係長として責任ある立場で,配送ルートの改善策の考案や部下の教育等にも取り組んでいたのであって,これらを併せ考えると,その業務内容は相当程度の精神的なストレスを伴うものであったというべきである。 イまた,前記認定事実等によれば,把握することが可能な限りでのAの本件喘息死以前の6か月の時間外労働時間をみても,月に79時間32分~95時間52分,月平均87時間58分と非常に長時間である上,それ以前においても,この6か月間と同様の業務形態であったのであり,遅くともC事業所に異動した平成10年9月以降は,恒常的に上記のような慢性的な長時間勤務を余儀なくされていたのであるから,Aの業務は,労働時間からみても過重なものであったというべきである。 ウさらに,前記認定事実等によれば,Aの業務は,夜勤交代制勤務であり,本件喘息死前6か月をみても,ほぼ全ての勤務が深夜に及び,夜勤の割合は約半分に及んでいたところ,医学的知見によれば,夜勤交代制勤務は,深夜に起きて働くことにより生理リズムを乱し,睡眠の質・量ともに不足がちになること,交代勤務による家族生活等でのズレを修正しようとする調整努力が負担を強めてしまうこと等から,疲労を蓄積させ,呼吸器疾患等の症状を進展させる要因となるというのであって,実際,Aは,医療機関の受診時や単身赴任先から自宅に戻った時などに不眠や睡眠不足を訴えていることが認 めてしまうこと等から,疲労を蓄積させ,呼吸器疾患等の症状を進展させる要因となるというのであって,実際,Aは,医療機関の受診時や単身赴任先から自宅に戻った時などに不眠や睡眠不足を訴えていることが認められる。そうすると,Aの業務は,夜勤交代制勤務という観点からも過重なものであったというべきである。 エ以上によれば,Aの業務は,業務の性質からして相応の精神的緊張を伴うものであった上,慢性的な長時間の時間外労働や夜勤交代制により,質,量ともに通常人にとっても過重なものであったというべきである。 (3) Aの喘息の状態と業務との関連性前記認定事実等によれば,Aの喘息が悪化し始めたのは,夜勤交代制業務という 恒常的に過重な業務を開始してから約1年が経過した平成6年ころからであり,平成7年8月以降,Aの喘息は,中等症持続型又は重症持続型といってよい状態になり,頻回の通院治療にかかわらず,喘息発作のコントロールが年々悪化し,平成10年以降は発作がさらに悪化していったところ,この間,Aは,上記のとおりの過重な業務に恒常的に継続して従事し,しかも,同年9月からは,C事業所への異動及びこれに伴う単身赴任生活,さらには平成11年7月からは物流課管理係長(平成13年からは組織変更により業務課物流係長)として責任ある立場になったことなど,次第に精神的なストレスを加重させる要素も加わっていたことが認められる。 そして,Aは,平成13年2月には,入院加療に抵抗し,仕事を休めないことを理由に4日で退院したという状況にもあったというのであり,治療の必要性が増加していったにもかかわらず,業務の性質や夜勤交代制のシフトの制約上,計画的な通院が困難であったこともあり,業務内容や労働時間数,仕事上の責任等の負荷の過重に応じて,Aの喘息の症状が重症化していったというこ ったにもかかわらず,業務の性質や夜勤交代制のシフトの制約上,計画的な通院が困難であったこともあり,業務内容や労働時間数,仕事上の責任等の負荷の過重に応じて,Aの喘息の症状が重症化していったということができる。 以上のような事実関係等によれば,Aの過重な業務と喘息の増悪の経過には,相当の相関関係が認められるというべきであり,慢性的に過重な業務に継続して就いていたことによる過労・ストレスの蓄積により,それまで発作がなかった状態であった喘息が悪化に向かい,中等症持続型又は重症持続型といってよい状態になり,重症化していったということができる。 そして,前記認定事実によれば,Aは,本件喘息死前6か月に,時間外労働時間が1か月79時間32分~95時間52分,月平均87時間58分という長時間にわたる労働に従事し,しかも,このような長時間労働は,それ以前も同様であったことに加え,本件喘息死前1週間には,大きなトラブルが3,4日連続して発生したために,社員全員の長時間勤務が続いたことから,本件喘息死直前の1週間の総労働時間は76時間51分(時間外労働時間36時間51分)を超える相当長時間に及び,午前0時以降まで勤務したこともあったのであるから,係長として上記トラブルの処理に責任を持たなければならない立場にあったAの業務上の負荷は,肉 体的にはもとより,多大な精神的緊張を強いられるものであったというべきである。 そうすると,このような過重な業務が,Aの喘息の増悪に大きな影響を及ぼし,本件喘息死にまで至ったというということができる。 以上によれば,Aの上記業務は,基礎疾患である喘息が自然の経過を超えて増悪し本件喘息死に至ったものと評価し得る程度の負荷を伴うものであったと認めることができる。 (4) その他の要因についてアアレルゲン吸入及び肥 業務は,基礎疾患である喘息が自然の経過を超えて増悪し本件喘息死に至ったものと評価し得る程度の負荷を伴うものであったと認めることができる。 (4) その他の要因についてアアレルゲン吸入及び肥満アレルゲン吸入及び肥満が,Aの喘息増悪に大きく影響したとは認められないことは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の7(3)ア(原判決38頁10行目から20行目まで)及びウ(原判決39頁7行目から12行目まで)にそれぞれ記載のとおりであるから,これを引用する。 イ喫煙前記認定事実等によれば,喫煙は,喘息患者の肺機能の低下を促進し,喘息治療に対する反応性を低下させることにより喘息を重症化させる要因であるとされているところ,Aは,17歳の頃から,たばこを1日に15~20本吸っていたことが認められる。 証拠(甲51,95,乙34,73,当審証人N,同O)によれば,喫煙の影響については,喫煙の感受性が個体により異なるので,個別の影響について検討が必要であるところ,本件喘息死の前年である平成13年10月5日及び12月17日にG病院に実施された肺機能検査において,10月には,喘息による気流閉塞の指標となる1秒量は1.90リットル(健康成人の予測値の55.2パーセント),1秒率は57.8パーセントと低下しているが,12月には,1秒量は3.07リットル(同89.2パーセント),1秒率は66.5パーセントと大きく改善していること,1秒量が予測値の80パーセント以上であれば正常範囲に該当し(GINA2006),1秒率は70パーセントが正常値であること(当審証人O)が認 められる。この検査結果について,O医師は,12月の数値について,たまたま調子がいい時にこのようなデータが出ることがあるとし,12月の1秒率は正常の70パーセ 常値であること(当審証人O)が認 められる。この検査結果について,O医師は,12月の数値について,たまたま調子がいい時にこのようなデータが出ることがあるとし,12月の1秒率は正常の70パーセントから見るとかなり下回っているから十分に正常値に復したとはいえないと証言するが,12月の1秒率は66.5パーセントであるのに,これを56. 5パーセントとして上記証言をしている上,N医師は,閉塞性障害は残っているものの改善しており,正常に近い状態に戻る可逆性を持っていると証言しているところであり,Aの肺機能の低下は一応の回復傾向を示していることがうかがわれる。 そして,上記2回の検査のみでは,喫煙がAの肺機能の低下に有意に影響を与えたと断定するには根拠に乏しいことをも考慮すると,上記の検査結果から,喫煙がAの肺機能の低下を促進した事実を確認することはできない。 また,前記認定事実及び証拠(甲32,92,95)によれば,平成13年10月5日にG病院でステロイド吸入薬として「フルタイド200ロタディスク30枚」が処方されているところ,この処方を2か月分とすると,ステロイドはフルチカゾン換算で1日400μgに相当することが認められる。N医師の意見によれば,上記処方は当時の通常の治療であり,Aは,これによって平成13年12月の時点で,前記肺機能検査の結果のとおり正常に近い呼吸機能に回復したことになるというのであるから,喫煙がAのステロイド吸入薬に対する反応性を低下させたとはいい難く,Aの喘息について,他に喫煙が喘息治療に対する反応性を低下させたという事実を確認することができる具体的な証拠はない。 以上によれば,喫煙がAの喘息増悪に大きな影響を与えたということはできない。 ウ気道感染前記認定事実等によれば,Aは,本件喘息死の4,5日前に,被控訴 認することができる具体的な証拠はない。 以上によれば,喫煙がAの喘息増悪に大きな影響を与えたということはできない。 ウ気道感染前記認定事実等によれば,Aは,本件喘息死の4,5日前に,被控訴人に対して風邪である旨述べており,本件喘息死当日にも,H医院で受診した際,やや風邪気味である旨訴え,急性上気道炎と診断されたこと,喘息死に至る発作の誘因として最も多いのが気道感染であることが認められるところ,上記気道感染が本件喘息死の誘因となった可能性がないとはいえない。 もっとも,Aの業務による過重な負荷は極めて長期にわたるものであることからすれば,上記気道感染が本件喘息死の誘因となった可能性があるとしても,当該業務によって喘息が次第に増悪して本件息死に至ったとの判断を妨げる事情とはならないものというべきである。 エステロイド吸入薬の不足等前記認定事実等によれば,Aに処方されたステロイド吸入薬は,平成13年8月から平成▲年▲月▲日(本件喘息死の当日)までの約1年間で,フルチカゾン換算で1日平均429μg(ストメリンDを除くと289μg。)であり,平成14年3月8日から同年▲月▲日までの▲日間では,フルタイドが同年3月8日に2万4000μg,6月13日に1万1200μgの合計3万5200μg処方され,これを平均すると1日当たり244μgが処方されていることになるところ,N医師,O医師及びE医師の意見を総合すると,Aの喘息は中等症持続型又は重症持続型であったことから,フルチカゾン換算で1日平均400~800μgのステロイド吸入薬を使用する必要があったことが認められる。そうすると,Aの喘息の治療はステロイド吸入薬の使用が十分ではなかったことになる。なお,仮に,Aが,平成13年3月8日以降1日400μg使用していたとすると,一時的に る必要があったことが認められる。そうすると,Aの喘息の治療はステロイド吸入薬の使用が十分ではなかったことになる。なお,仮に,Aが,平成13年3月8日以降1日400μg使用していたとすると,一時的にステロイド吸入薬がなくなり,ステロイド吸入薬の使用が中断していた時期が生ずることになる。 しかしながら,ガイドライン2009(乙74)によれば,ステロイド吸入薬の有効性は,成人では比較的低い用量で得られるが,吸入量を高用量以上にしても,量に比例した効果が得られるとは限らず,副作用のリスクが高くなるため,喘息のコントロールを得るためには,ステロイド吸入薬を増量するよりも他の長期管理薬を加える方が治療成績はよいとされているところ,前記認定事実等によれば,平成13年10月5日以降は,長期管理薬であるロイコトリエン受容体拮抗薬のオノン1日4カプセルが処方され,吸入薬やテオドール等と併用されていること,ロイコトリエン受容体拮抗薬の追加投与は,中~高用量のステロイド吸入薬を使用しても喘息が完全にコントロールされない症例に対し,ステロイド吸入薬を倍量にした場 合と同等の効果を有し,ステロイド吸入薬と併用する薬剤として有用であること,ステロイドの効能を含むストメリンDも併用されていることが認められる。そうすると,上記の併用された治療をも併せ考慮すれば,ステロイドの使用に関しては,十分な量が使用されていたとはいえないものの,重症喘息患者に対する当時の基本的な喘息治療は行われていたということができる。 これに対し,O医師及及びE医師は,ストメリンDに含まれているステロイドであるデキサメタゾンは,GINA2002等でも吸入ステロイドには分類されておらず,フルタイドの代用になるものではないと指摘する(乙56,59,72,当審証人O)が,ストメリンDの薬剤説 ステロイドであるデキサメタゾンは,GINA2002等でも吸入ステロイドには分類されておらず,フルタイドの代用になるものではないと指摘する(乙56,59,72,当審証人O)が,ストメリンDの薬剤説明書(乙62)にも,内服ステロイド(副腎皮質ホルモン)を減量する効果が記載されており,N医師は,デキサメタゾンがステロイドであることには変わりなく,ステロイド吸入薬としての効能が臨床的にあることには違いはないと述べていることなどに照らすと,前記説示のようなステロイド剤としての効果をすべて否定することはできないというべきである。 以上のような事実関係等を併せ考慮すれば,ステロイド吸入薬の使用が十分でなかったことが本件喘息死に大きく影響したとまではいうことはできない。 なお,証拠(甲41,48,80,92,当審証人N,同O)によれば,Aの喘息が悪化し始めた平成6年頃から本件喘息死に至る平成14年頃にかけては,喘息治療としてのステロイド吸入薬の使用はさほど普及していなかったことが認められるところ,前記説示のとおり,当時の医療水準からみれば,相当の治療が行われていたというべきであって,現在の医療水準に照らし,ステロイド吸入薬の使用が不足していたとしてもやむを得ない面があるといわざるを得ない。したがって,Aがあえて通常行うべき治療を怠ったものではなく,Aが自ら適切な治療の機会を逸したとはいえないから,上記のような治療の状況等が本件喘息死に一定の影響を与えていたとしても,このことはAの業務による過重な負荷がAの喘息を自然の経過を超えて増悪させ,本件喘息死に至ったとの判断を妨げる事情というべきものではない。 オ短時間作用性β2刺激吸入薬等の多用前記認定事実等によれば,平成14年1月7日から本件喘息死までの約7か月間に,Aに処方されたストメリン との判断を妨げる事情というべきものではない。 オ短時間作用性β2刺激吸入薬等の多用前記認定事実等によれば,平成14年1月7日から本件喘息死までの約7か月間に,Aに処方されたストメリンDの量は,1日平均8.80吸入分に相当し,1日最大8吸入とされる限度を超えており,短時間作用性β2刺激吸入薬は,サルタノール4本,メプチンエア4本及びアロテック3本(合計1500吸入分,1日平均7.3吸入分)が処方されており,短時間作用性β2刺激吸入薬及びストメリンD(β刺激薬)の処方が過剰であったことが認められる。そして,O医師,E医師は,短時間作用性β2刺激吸入薬等の過剰な使用は,心拍数の増加等の副作用の発生リスクを増大させるものであり,不整脈や心筋梗塞が生じて死に至ることがあり,特に,サルタノールは月に1本を超えて使用すると喘息死の危険があり,ストメリンDとサルタノールは重複して吸入されると,死亡の直接原因といってよいほどに危険であることを指摘する。また,ストメリンDの添付文書(乙81)には,「用法・容量に関連する使用上の注意」として「患者又は保護者に対し,本剤の過度の使用により,不整脈,心停止等の重篤な副作用が発現する危険性があることを理解させ」との記載がある。 しかしながら,前記認定事実等によれば,平成14年1月7日から本件喘息死までの約7か月間に,Aに処方されたストメリンDの1日平均量が限度を大きく超えているわけではなく,サルタノールも月に1本を超えてはおらず,また,AはストメリンDとサルタノールを重複して吸入してはいなかったと認められる。そして,前記認定のとおり,Aは,定期健康診断の結果において,心電図を含めて異常を指摘されたことはなく,心筋梗塞や狭心症の危険因子となる高脂血症や糖尿病,高血圧等の症状もなかったことから,心臓疾 。そして,前記認定のとおり,Aは,定期健康診断の結果において,心電図を含めて異常を指摘されたことはなく,心筋梗塞や狭心症の危険因子となる高脂血症や糖尿病,高血圧等の症状もなかったことから,心臓疾患に関する危険因子は認められないところ,N医師は,ストメリンDの添付文書の記載は,心臓に基礎疾患を持っている場合に過度に使用すると影響が出る可能性があるから,そのような危険性を含めて記載したものと理解されると証言しており,製薬会社において心停止や不整脈等の副作用の報告例があったこともうかがわれない(甲98,99,当審証人N)。さらに, O医師も,その証言において,ガイドラインにはβ2刺激吸入薬等の過剰な使用が心停止を引き起こすとの記載はなく,所用量を超えた使用により心停止が引き起こされた症例は知らないとし,本件喘息死が心筋梗塞,致死的不整脈の発生により生じたことを積極的に示す証拠がないことも認めており,E医師も,β2刺激吸入薬等の過剰な使用がAの直接的な死因(不整脈や心停止による死亡)であるとは断定することができないとしている。 そうすると,前記期間の短時間作用性β2刺激吸入薬等の過剰な使用が本件喘息死の直接の原因であると認めることはできない。 また,前記認定事実によれば,短時間作用性β2刺激吸入薬等の過剰な使用は,気道炎症の悪化,気道過敏性の亢進,喘息の重症化,急激な発作の悪化や受診の遅れなどを通し,死亡の間接的な要因となる可能性が大きいとされているところ,これは,喘息コントロールの悪化や,病院受診の遅れを示すものであるとともに,気道過敏性を高めて喘息の増悪をもたらすものであって,直接的な死因というより,死亡の間接的な要因となっている可能性が大きいことを示すものと考えることができる。これをAの治療及び症状に照らしてみると,前記認定事実 高めて喘息の増悪をもたらすものであって,直接的な死因というより,死亡の間接的な要因となっている可能性が大きいことを示すものと考えることができる。これをAの治療及び症状に照らしてみると,前記認定事実によれば,Aは,上記期間に頻回に通院治療を受け,不十分ながらもステロイド吸入薬が処方されていた上,喘息の長期管理薬であるロイコトリエン受容体拮抗薬のオノン,テオフィリン徐放製剤のテオドールが十分に処方され,きちんと服用していたというのであるから,受診の遅れはなく,気道炎症の悪化,気道過敏性の亢進,喘息の重症化,急激な発作の悪化に対する治療も施されていたと認められる。そうすると,短時間作用性β2刺激吸入薬等の過剰な使用が気道過敏性を高めた可能性は,具体的に確認することができないというべきである。 以上によれば,本件において,短時間作用性β2刺激吸入薬等の過剰な使用は,間接的にAの喘息を増悪させる要因となった可能性を否定することができないとしても,Aの業務による過重な負荷がAの喘息を自然の経過を超えて増悪させ,本件喘息死に至ったとの判断を妨げる事情にはならないものということができる。 (5) 以上のとおり,アレルゲン,軽度の肥満,喫煙習慣等が,Aの喘息の症状に影響も与えた可能性や,ステロイド吸入薬の不足や短時間作用性β2刺激吸入薬等の過剰な使用が,間接的にせよAの喘息を増悪させた可能性があることは否定することができないし,本件喘息死の4,5日前の気道感染がAの本件喘息死の誘因となった可能性もまた否定することはできないが,これらについては,いずれも,可能性があるというにとどまるものであるし,Aの業務による過重な負荷がAの喘息を増悪させて本件喘息死に至ったとの判断を妨げる事情となるものでもない。 そうすると,上記判断のとおり,Aが元来持ってい 可能性があるというにとどまるものであるし,Aの業務による過重な負荷がAの喘息を増悪させて本件喘息死に至ったとの判断を妨げる事情となるものでもない。 そうすると,上記判断のとおり,Aが元来持っていた基礎疾患である喘息が,業務上の質,量ともに過重な負担により重症化し,本件喘息死の直前には,更なる業務の負荷が増加しており,このような中でAは本件喘息死に至ったという経緯に鑑みれば,業務上の過重な負担があったことにより,Aの喘息はその自然の経過を超えて増悪して本件喘息死に至ったと評価することができるのに対し,これを否定するような確たる因子は認め難いのであるから,業務に内在する危険が現実化したものとして,Aの業務と本件喘息死との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。 第4 結論以上によれば,Aの喘息の増悪及び本件喘息死については,業務起因性を認めることができるから,被控訴人の処分行政庁に対する労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭費の支給の請求に対し,これを支給しないこととした川口労働基準監督署長の本件処分は違法であることになる。 したがって,被控訴人の本件請求は理由があるから,これを認容すべきところ,これと同旨の原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第21民事部 裁判長裁判官齋藤隆 裁判官飯田恭示 裁判官舘内比佐志
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