平成31(ワ)7470 特許権侵害行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年10月13日 東京地方裁判所
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令和3年10月13日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成31年(ワ)第7470号特許権侵害行為差止等請求事件(第1事件)平成31年(ワ)第7476号損害賠償請求事件(第2事件)口頭弁論終結日令和3年7月14日判決 第1事件 原告兼第2事件原告グラフェンプラットフォーム株式会社 (以下「原告」という。) 同訴訟代理人弁護士広瀬元康 吉川景司 正木湧士 第1事件被告日本黒鉛商事株式会社 (以下「被告日本黒鉛商事」という。) 第2事件被告日本黒鉛工業株式会社 (以下「被告日本黒鉛工業」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士西村捷三 里村格 植村一晴 日野英一郎上記両名訴訟復代理人弁護士西﨑達史 上記両名補佐人弁理士小磯奈祐 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 (第1事件) 1 被告日本黒鉛商事は,別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」という。)を販売し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告日本黒鉛商事は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成31年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (第2事件) 被告日本黒鉛工業は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成31年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 原告は,①名称を「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」とする発明についての特許権(特許第5697067号。以下 済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 原告は,①名称を「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」と する発明についての特許権(特許第5697067号。以下「本件特許権1」といい,同特許権に係る特許を「本件特許1」という。)及び②名称を「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材,これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法」とする特許権(特許第5688669号。以下「本件特許権2」といい,同特許権に係る特許を「本 件特許2」という。)を保有するところ,本件は,原告が,被告らに対し,被告日本黒鉛工業が製造し,被告日本黒鉛商事が販売する別紙被告製品目録記載の被告製品1~5が,本件特許1の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)の技術的範囲に属し,また,被告製品1~3が,本件特許2の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下「本件発明2」という。) の技術的範囲に属すると主張し,原告が,特許権侵害に基づき,被告日本黒鉛 商事に対し,被告各製品の販売等の差止めを求めるとともに,被告らに対し,不法行為に対する損害賠償として,損害の一部である1000万円及び平成31年4月3日(各訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者ア原告は,グラフェン及びナノ材料などの研究開発,製造,輸出入,販売 及びコンサルティング等を目的とする株式会社で 示する場合,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者ア原告は,グラフェン及びナノ材料などの研究開発,製造,輸出入,販売 及びコンサルティング等を目的とする株式会社である。 イ被告日本黒鉛商事は,被告日本黒鉛工業の製品の一手販売等を目的とする株式会社である。 ウ被告日本黒鉛工業は,黒鉛の精錬及び売買等並びに黒鉛を原料とする工業品の製造・販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告の保有する特許権原告は,以下の本件特許権1及び2(以下,併せて「本件各特許権」といい,本件特許1及び2を併せて「本件各特許」という。)を保有している。 なお,本件特許1の出願は,本件特許2に係る出願(特願2014-550587号)の分割出願である。 ア本件特許権1(甲1の1,甲2の1)発明の名称グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材出願日平成27年1月8日(原出願日:平成26年9月9日)出願番号特願2015-002556号登録日平成27年2月20日 特許番号第5697067号 イ本件特許権2(甲1の2,甲2の2) 発明の名称グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材,これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法出願日平成26年9月9日 出願番号特願2014-550587号登録日平成27年2月6日登録番号第5688669号(3) 特許請求の範囲の記載本件発明1及び2(以下,併せて「本件各発明」という。)の特許請求の 範囲の記載は,以下のとおりである(なお,本件各発明の特許公報(甲2の1・2)の「発明の詳細な説明」の記載及び図面の内容は,同各発明 1及び2(以下,併せて「本件各発明」という。)の特許請求の 範囲の記載は,以下のとおりである(なお,本件各発明の特許公報(甲2の1・2)の「発明の詳細な説明」の記載及び図面の内容は,同各発明との関係では実質的に相違しないため,以下,両者を区別せずに「本件明細書等」という。)。 ア本件特許権1(甲2の1) 「菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が31%以上であることを特徴とするグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材。 Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1) ここで, P3は,菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度 P4は,六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度 である。」 イ本件特許権2(甲2の2)「菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が40%以上であることを特徴とするグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材。 Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)ここで,P3は,菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度P4は,六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面の ピーク強度である。」(4) 構成要件の分説本件各発明は,以下のように構成要件A~Cに分説することができる。なお,構成要件A及びCは両者に共通し,構成要件B-1及 る(101)面の ピーク強度である。」(4) 構成要件の分説本件各発明は,以下のように構成要件A~Cに分説することができる。なお,構成要件A及びCは両者に共通し,構成要件B-1及びB-2は,「R ate(3R)」(以下「Rate値」という。)を「31%以上」とするか,「40%以上」とするかという点のみが異なる。 ア本件発明1A 菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,B-1 前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)との X線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が31%以上であることを特徴とする(式1)Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100P3は,菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度 P4は,六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面 のピーク強度C グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材イ本件発明2A 菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,B-2 前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)との X線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が40%以上であることを特徴とする(式1)Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100P3は,菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度 P4は,六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度C グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材(5) 被告各製品の構成原告の主張する被告各製品の構成は,以下のとおりである(当事者間には, 被告各製品の構成のうち,構成要件充足性に関する争点に係る部 体として用いられる黒鉛系炭素素材(5) 被告各製品の構成原告の主張する被告各製品の構成は,以下のとおりである(当事者間には, 被告各製品の構成のうち,構成要件充足性に関する争点に係る部分について争いがある。)。 「菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が,被告製品1について 67.6%,同2について61.2%,同3について45.8%,同4について34.6%,同5について36.9%であるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材。 Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)ここで, P3は,菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面の ピーク強度 P4は,六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度である。」(6) 被告らの行為及び被告各製品 ア被告日本黒鉛工業は,業として,黒鉛粉末製品である被告各製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしている。また,被告日本黒鉛商事は,業として,被告各製品を販売し,又は販売の申出をしている(甲5〔1~3枚目,乙7〔3枚目〕,弁論の全趣旨〕)。 イ被告各製品の構成について,被告製品1,2,4及び5が,構成要件A 及びB-1を充足することは争いがない。また,被告製品1及び2が,構成要件B-2を充足し,被告製品4及び5が,構成要件B-2を充足しないことも争いがない。 (7) 先行文献本件特許1の原出願日及び本件特許2の出願日(平成26年9月9日。以 下,併せて「本件各出願」という。)以前に次の文献が存在した(以下,掲記の証拠 いことも争いがない。 (7) 先行文献本件特許1の原出願日及び本件特許2の出願日(平成26年9月9日。以 下,併せて「本件各出願」という。)以前に次の文献が存在した(以下,掲記の証拠番号により,それぞれの文献を「乙3公報」などといい,その文献に記載された発明を「乙3発明」などという。)。 ア発明の名称を「非水電解液2次電池」とする公開特許公報(特開2000-348727号,公開日平成12年12月15日。乙3)。 イ発明の名称を「黒鉛系炭素材料の製造方法」とする公開特許公報(特開2006-273615号,公開日平成18年10月12日。乙12)。 ウ発明の名称を「薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の製造方法」とする公開特許公報(特開2014-9151号,公開日平成26年1月20日。乙13) エ題名を「黒鉛粉砕生成物に対する粉砕方法および気体雰囲気の影響」と する論文(昭和53年公表。甲7の2)。 オ題名を「リチウムの電気化学的インターカレーションに及ぼすグラファイト結晶構造の影響」と訳し得る論文(平成11年公表。乙93)(8) 別件訴訟原告は,本件各特許権に対する侵害を理由として,本件訴訟のほか,伊藤 黒鉛工業株式会社(以下「伊藤黒鉛」という。)を相手方とする訴訟(当庁平成31年(ワ)第9618号),西村黒鉛株式会社(以下「西村黒鉛」という。)を相手方とする訴訟(同第7038号)及び株式会社中越黒鉛工業所(以下「中越黒鉛」という。以下,これらの訴訟を総称して「別件訴訟」といい,同各訴訟の被告らを総称して「別件訴訟の被告ら」という。)を相 手方とする訴訟(同第9492号)を提起し,本件訴訟と同時期に当庁に係属していた。 3 争点(1) 被告製品3の構成要件A,B-1及びB-2の 総称して「別件訴訟の被告ら」という。)を相 手方とする訴訟(同第9492号)を提起し,本件訴訟と同時期に当庁に係属していた。 3 争点(1) 被告製品3の構成要件A,B-1及びB-2の充足性(争点1)(2) 被告各製品の構成要件Cの充足性(争点2) (3) 被告らによる先使用及び公然実施(争点3)(4) 別件訴訟の被告らの製品による公然実施(争点4)(5) 新規性・進歩性の欠如ア乙3による新規性及び進歩性の欠如(争点5-1)イ乙12による新規性及び進歩性の欠如(争点5-2) ウ乙13による新規性及び進歩性の欠如(争点5-3)エ甲7の2による新規性及び進歩性の欠如(争点5-4)オ乙93による新規性及び進歩性の欠如(争点5-5)(6) 記載要件違反(争点6)(7) 原告に生じた損害(争点7) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告製品3の構成要件A,B-1及びB-2の充足性)について(原告の主張)(1) 構成要件Aは「菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,」,構成要件B-1は「前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Ra te(3R)が31%以上であることを特徴とする…」であり,構成要件B-2は,同B-1の「31%」が「40%以上」である点のみにおいて相違する。 (2) 被告各製品のRate値は,以下のとおりであり,被告各製品は,いずれも構成要件B-1を充足し,被告製品1~3は構成要件B-2も充足する。 品名P3P4Rate値(%)甲号証被告製品1405031942567.68-1被告製品225691 製品1~3は構成要件B-2も充足する。 品名P3P4Rate値(%)甲号証被告製品1405031942567.68-1被告製品2256911625761.28-2被告製品3123821467345.88-3被告製品4123362332234.68-4被告製品574921280136.98-5(3) 被告らは,被告各製品のうち,被告製品3が構成要件B-1及びB-2を充足することを争うが,上記(2)の「被告製品3」の「甲号証」欄に記載された甲8の3(株式会社リガクのX線回折装置SmartLab及び解析ソフトウェアPDXLにより被告製品3を測定解析した結果)によれば,菱面晶系黒鉛層(3R)の回折ピーク(101)は43度であり,六方晶系黒鉛 層(2H)の回折ピーク(101)は44度であるから(甲7の2),構成要件B-1及びB-2の式1にいうP3が12382(43度付近のピークの積分強度)であり,P4が14673(44度付近のピークの積分強度)となる。これに基づき計算すると,被告製品3のRate値は45.8%となり,構成要件A,B-1及びB-2を充足する。 被告らは,上記各構成要件の充足性を争う理由として,被告らが解析してもRate値の測定結果にばらつきが生じることなどを挙げるが,本件各発明は,X線回折法の測定機器や解析方法に制限を設けるものではないので,当業者として,適切な測定機器,測定条件・測定方法を選択し,適切な解析方法を選択すれば足りる。被告らのRate値が収束しないとすれば,それ は被告らが用いた解析条件が不適切・不十分であることに原因があると考えられる。 これを具体的にいうと,被告製品 適切な解析方法を選択すれば足りる。被告らのRate値が収束しないとすれば,それ は被告らが用いた解析条件が不適切・不十分であることに原因があると考えられる。 これを具体的にいうと,被告製品3は回折プロファイルのピークが不明瞭であるが(甲8の3,乙10),回折プロファイルのピークが不明瞭な場合には,これが明瞭な場合と異なり,PDXLの自動解析機能を利用すると, 不合理な解に収束したり,解が発散したりするので,解析条件を手動で入力することにより,不合理な解に収束することなどしないようにすることが必要となる(甲42)。しかし,被告らは,被告製品3についても,自ら解析条件を設定せず,前記PDXLの自動解析機能を利用したというのであり,被告らによる解析結果が収束しなかったとすれば,この点に原因があると思 われる。 (4) 被告らは,本件発明のような数値限定発明において,その数値の測定方法が複数ある場合,被告らの解析結果によるRate値を含め,そのいずれによる数値によっても,構成要件を充足する必要があると主張する。 しかし,被告らの主張するRate値は,前記のとおり誤った解析条件に よる誤った数値であるので,これに依拠することはできない。また,仮に被告らの解析結果によるRate値を前提とするとしても,その数値はいずれも31%を超えているので,被告製品3は,少なくとも構成要件B-1を充足する。 (被告らの主張) (1) 被告らは,被告各製品の同一ロットから得られた3個の試料に対し,同 じ解析条件によるX線回折法による測定及び解析をしたが,その結果に基づいて計算されたRate値は,以下のとおり,それぞれ大きなばらつきが生じ,再現性がなかった(乙10)。特に,被告製品3については,そのRate値が定常的に による測定及び解析をしたが,その結果に基づいて計算されたRate値は,以下のとおり,それぞれ大きなばらつきが生じ,再現性がなかった(乙10)。特に,被告製品3については,そのRate値が定常的に31%以上であるかが明らかでないため,その充足性を争う。 品名/Lot測定日P3(43°)P4(44°)Rate値(%)乙10の頁数被告製品1青P2019010190528①301373050149.701~3190528②38403593686.614~6190528③42675734985.317~9被告製品2AP2018005190528①210751907252.4910~12190528②334031684066.4813~15190528③190401442356.9016~18被告製品3UTC-48J2015002190528①8482880349.0719~21190528②64891390131.8222~24190528③11517460071.4625~27被告製品4J-CPB2019063190528①126251984338.8828~30190528②129172359935.3731~33190528③121012383433.6734~36被告製品5SP-5030-α2018年190528①154592924734.5837~39190528②194363178537.9540~42 被告製品5SP-5030-α2018年190528①154592924734.5837~39190528②194363178537.9540~42190528③148542837434.3643~45これに対し,原告は,被告らが適切な解析条件を設定していないことがばらつきの理由であると主張するが,上記解析は,株式会社リガクの解析ソフトウェアPDXLの自動解析機能を利用したものであり,それ以上に適切な解析条件を設定することは当業者の技術水準を超える。被告製品3のRate値が収束しない理由は,同製品が,ボールミルという粉砕工程を経ること により,積層規則性が損なわれ,結晶性が低下したからであり,その原因は試料の性質にある。そして,被告製品3のように,Rate値を求めるための解析条件を一意に定めることが困難であるような結晶性の低い製品は,そもそも,本件発明の技術的範囲に含まれない。 したがって,被告製品3は,構成要件A,B-1,B-2を充足しない。 (2) 仮に,原告が採用した解析条件の下において,再現性あるRate値を得ることができたとして,被告らの解析方法において,Rate値を40%未満と計算される測定・解析結果が得られた以上,被告製品3は,少なくとも構成要件B-2を充足しない。 2 争点2(被告各製品の構成要件Cの充足性)について (原告の主張)以下のとおり,被告各製品は,構成要件Cの「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」に該当する。 (1) 構成要件Cの「グラフェン前駆体」とは,「天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散すること ができる黒鉛系炭素素材」(本件明細 当する。 (1) 構成要件Cの「グラフェン前駆体」とは,「天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散すること ができる黒鉛系炭素素材」(本件明細書等の段落【0007】)を意味する。 そして,同構成要件の「用いられる」とは「用いることができる」という意味であるので,「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」とは,「天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散することができる黒鉛系炭素素材として用いることが できる黒鉛系炭素素材」を意味すると解すべきである。 被告各製品は,グラフェン前駆体として用いることのできる黒鉛系炭素素材であるから(甲5),構成要件Cを充足する。 (2) これに対し,被告らは,構成要件Cにいう「グラフェン前駆体」とは,電波的力による処理と物理的力による処理の併用という「所定の処理」により 生成されたものに限定されるべきであり,電波的力による処理をされていな い被告各製品は同構成要件を充足しないと主張する。 しかし,本件明細書等の【発明が解決しようとする課題】に記載されているとおり,本件各発明は,従来の黒鉛系炭素素材は剥離されるグラフェン量が少なくグラフェンの生産効率が悪いという課題の解決のため,Rate値が一定の数値以上となる黒鉛系炭素素材という「物の発明」をしたものであ り,菱面晶系黒鉛層の割合を増加させる「方法」に係るものではないのであるから,被告らが主張するような限定解釈をすべき理由はない。 (3) 被告らは,被告製品5は「人造黒鉛」であり,前記「天然黒鉛に所定の処理を施す」ことにより得られたものではないので,構成要件Cを充足しないという。 しかし,構成要件Cから除外されるのは 3) 被告らは,被告製品5は「人造黒鉛」であり,前記「天然黒鉛に所定の処理を施す」ことにより得られたものではないので,構成要件Cを充足しないという。 しかし,構成要件Cから除外されるのは,原料に天然黒鉛が全く用いられていないものであるところ,被告製品5の原料に天然黒鉛が全く用いられていないことは立証されていない。被告製品5は,その材料の名称が「人造黒鉛」であるにすぎず,被告日本黒鉛工業のカタログ(甲5)においても「人造黒鉛」に分類されていない。 (4) 被告らは,被告製品1及び2が土状黒鉛に分類される黒鉛材料であり,土状黒鉛は「所定の処理」を施さない「原鉱石」の段階からRate値の要件を充足していることを理由に,同各製品は構成要件Cを充足しないと主張する。 アしかし,被告らの主張するところの「原鉱石」は,「採掘されたばかり の鉱石」(自然界に存在する何らの処理も施されていないもの)と異なり,「精製前の段階の黒鉛材料」(乾燥処理と粉砕工程を得た精製前の段階のもの)である。本件明細書等は,Rate値に影響を与えるような粉砕等の処理がされた黒鉛を「発掘された段階」(段落【0021】)の天然黒鉛であるとは記載していない。 イまた,被告らは,土状黒鉛の場合,Rate値の要件と「グラフェンが 剥離しやすく」なるという作用効果との間に関係がないとも主張する。これは,作用効果不奏功の抗弁をいうものと理解し得るが,本件各発明においては,Rate値が所定の値であることが「グラフェンが剥離しやすく」なるという作用効果に相加的・相乗的に作用する関係にあるのであるから,被告らの主張は理由がない。 (被告らの主張)以下のとおり,被告各製品は,構成要件Cの「グラフェン前駆体」の要件を充足せず,少なくとも 果に相加的・相乗的に作用する関係にあるのであるから,被告らの主張は理由がない。 (被告らの主張)以下のとおり,被告各製品は,構成要件Cの「グラフェン前駆体」の要件を充足せず,少なくとも,人造黒鉛である被告製品5は,構成要件Cの「グラフェン前駆体」の要件を充足しない。 (1) 構成要件Cにいう「グラフェン前駆体」とは,電波的力による処理と物理 的力による処理の併用という「所定の処理」により生成されたものに限定的に解釈されるべきである。 すなわち,本件明細書等は,「天然黒鉛を物理的力や熱によって処理することで,菱面体晶の比率を増加させることが可能であるがその上限は30%程度である」(段落【0021】)との認識の下,「本願の発明者らは,下 記に示すような所定の処理を施すことで…40%以上まで増加させることに成功した」(段落【0024】)とし,天然黒鉛に「所定の処理」を施すことが必要とし,その「所定の処理」として,電波的力であるプラズマ又はマイクロ波を施し,物理的力であるジェットミル又はボールミルを用いた実施例のみを開示している。 また,菱面体晶の割合が40%以上の黒鉛材料の存在自体は従前から公知のことであったから(乙3),仮に,本件各発明に新規性があるとすれば,菱面体晶の割合を40%以上に増加させるために天然黒鉛に施す処理として,物理的力による処理のみならず,電波的力による処理と物理的力による処理を施した点にある。 しかるところ,被告各製品は,いずれも電波的力による処理をしたもので はないから,構成要件Cを充足しない。 (2) 少なくとも,被告製品5は人造黒鉛に分類されるものであるから,構成要件Cを充足しない。 すなわち,被告製品5の材料は,その生産工程表(乙87)に記載されているとお 成要件Cを充足しない。 (2) 少なくとも,被告製品5は人造黒鉛に分類されるものであるから,構成要件Cを充足しない。 すなわち,被告製品5の材料は,その生産工程表(乙87)に記載されているとおり「SP」であるところ,ここにいう「SP」とは,SP生産工程 表(乙88)の記載に従って粉砕,精錬されたものであり,同工程表に,「人造黒鉛以下,SPと呼ぶ」と明記されているとおり,「人造黒鉛」である。このように,被告製品5は人造黒鉛を材料とするものであるので,人造黒鉛に分類されるものである。 (3) 土状黒鉛を原材料とする被告製品1及び2は,「所定の処理」をする前の 「原鉱石」の段階からそのRate値が30%を優に超えているので,本件各発明の技術的範囲に属さない。 ア本件明細書等によれば,構成要件Cの「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」とは,「天然黒鉛」に「所定の処理」を施し,所定のRate値まで菱面体晶の割合を増加させたものである。しかるに, 被告製品1及び2の原材料である土状黒鉛の「原鉱石」は,「発掘された段階」(段落【0021】)において,Rate値が30%を優に超えているので,本件各発明の技術的範囲に属するものではない。 もとより,採掘された段階の鉱石は,水分を含む大きな塊の状態であるため,主に運搬性を考慮し,乾燥処理と粗砕工程を経た上,被告らの ような業者に提供される。前記の「原鉱石」とは,このような精製前の段階の黒鉛材料を意味するが,その乾燥処理における加熱温度は300度程度であり,粗砕工程も5mm以下程度の大きさにするというものにすぎず,前記段落【0021】に記載されているような菱面体晶の比率に影響を及ぼすような精製段階における粉砕や加熱とは程度が著しく異 なる。 イ mm以下程度の大きさにするというものにすぎず,前記段落【0021】に記載されているような菱面体晶の比率に影響を及ぼすような精製段階における粉砕や加熱とは程度が著しく異 なる。 イ本件明細書等の記載によれば,本件各発明は,菱面体晶の割合が所定の値以上であることにより,グラフェンに剥離しやすく,また,高濃度なグラフェン分散溶液を簡単に得られるという作用効果を実現するものであるから,その作用効果が,菱面体晶の割合とは無関係に実現される場合には,構成要件Cの「グラフェン前駆体」に該当しない。 これを土状黒鉛についてみるに,土壌黒鉛の粒子は小さく,粒層間のファンデルワールス相互作用力が全体として小さくなるため,剥がれやすく,また,土状黒鉛のように結晶子が小さく,結晶性の低い黒鉛は,「黒鉛層間(グラフェン層間)の結合エネルギーは,高結晶性黒鉛に比べて明らかに小さい」(甲43の段落【0057】)ので,黒鉛層を容易に剥離して グラフェンを生成することができる。そうすると,土状黒鉛において,菱面体晶の割合であるRate値が所定の値以上であることとグラフェンに剥離しやすいという作用効果とは無関係であるので,土状黒鉛に分類される被告製品1及び2は,いずれも構成要件Cを充足しない。 3 争点3(被告らによる先使用及び公然実施)について (被告らの主張)被告らは,以下のとおり,本件各出願の前から,被告各製品を製造・販売してきたから,被告らはその先使用権を有し,本件各特許は公然実施による無効事由を有する。 (1) 被告らは,本件各出願の前から,被告各製品と同一の品名・品番の製品を 製造・販売していた。 本件各出願前の2013年(平成25年)2月に作成された被告日本黒鉛商事の製品カタログ(乙7)には,被告製品 ,本件各出願の前から,被告各製品と同一の品名・品番の製品を 製造・販売していた。 本件各出願前の2013年(平成25年)2月に作成された被告日本黒鉛商事の製品カタログ(乙7)には,被告製品1,2及び4と同様の製品名が記載されている。すなわち,被告製品1の製品名(「青P」)及び同2の製品名(「AP」)は,同カタログ5頁の「(2)土状黒鉛粉末」の表の上か ら1番目と2番目の欄に記載されており,同製品4の製品名(「J-CP B」)は同カタログ4頁の「(1)鱗状黒鉛粉末」の「CPシリーズ」の表の一番下の欄に記載されている。 そして,黒鉛製品の粉体特性に関し,上記カタログの「(2)土状黒鉛粉末」の表には,その評価項目である「固定炭素分」,「灰分」,「揮発分」,「平均粒径」の測定値が記載され,「(1)鱗状黒鉛粉末」の「CPシリー ズ」の表には,同各評価項目に加えて「見掛け密度」の測定値も記載されているところ,同カタログに記載された製品名及び数値と,本件各出願後の2017年(平成29年)作成に係る製品カタログ(甲5)及び同各製品の製品検査表(甲6の1・2・4)に記載されている製品名及び測定値は同一ないし同等である。 また,被告製品3(「UTC-48J」)及び同5(「SP-5030」)について,本件各出願前の製品検査表(乙8,28の1)と同各出願後の同表(甲6の3,乙28の2)に記載されている評価項目(「固定炭素分」,「灰分」,「揮発分」,「平均粒径」,「見掛け密度」)とを対比すると,その数値は同等である。 (2) 特許出願前後の製品の同一性は,品名・品番が同じであることによって基礎付けられ,品番が同一であれば同一の製品とみなされる(乙24)。 製品を製造・販売する者は,一般的に品番や型番で製品を管理するか ) 特許出願前後の製品の同一性は,品名・品番が同じであることによって基礎付けられ,品番が同一であれば同一の製品とみなされる(乙24)。 製品を製造・販売する者は,一般的に品番や型番で製品を管理するから,製品として異なるものを同一の品番で取り扱うと製品の管理に支障をきたすため,そのような不合理な取扱いはしないので,被告らは,本件各出願の前か ら被告各製品を製造・販売していたことが推認される。 これに対し,原告は,製品の同一性は,品名・品番の同一性からは立証されないと主張するが,品名・品番による製品の同一性の立証は,一般に浸透した手法である。原告自身,本件訴訟において,平成30年9月8日に販売されていた被告製品1が特許権を侵害することを理由に,特許 登録日において同一の製品が販売されていたと主張しており,差止め請求の 対象も品名・品番で特定している。 (3) 日本工業規格は,「天然黒鉛の工業分析及び試験方法」(JISM511)として,水分,揮発分,灰分及び固定炭素の項目の定量方法や粒度の試験方法を定めており,前記製品規格に係る項目は,天然黒鉛の基本的な特性を表す指標であるということができる(乙46)。 被告らは,本件各出願前から,被告各製品について,水分,揮発分,灰分及び固定炭素,粒度などに係る製品規格の社内標準を定め,それを充たすもののみを当該品番の製品として扱ってきた(乙47~51)。 そして,前記社内標準に係る製品規格は,平成27年1月5日に改訂されているが,測定機器の変更のために生じた測定値の差異を変更後の機器の数 値に合わせるための変更のほか,運用に合わせ,規格値の範囲を狭める変更及び新たな項目を追加する変更がされたのみであり,実質的な変更ではない。 実際にも,本件各出願の前後の製品に係る 機器の数 値に合わせるための変更のほか,運用に合わせ,規格値の範囲を狭める変更及び新たな項目を追加する変更がされたのみであり,実質的な変更ではない。 実際にも,本件各出願の前後の製品に係る製品計算表によれば,以下の表とおり,被告各製品の水分,揮発分,灰分,固定炭素,平均粒度などの数値が同等であることを確認することができる(甲6,乙8,28,43~4 5)。このように,被告各製品の同一性は,粉体特性の観点からも基礎付けられる。 製品名評価項目出願前出願後青P(被告製品1)出願前:乙43出願後:甲6の1固定炭素分96.6595.98灰分2.63.49.揮発分0.750.53平均粒径-11.76AP(被告製品2)出願前:乙44固定炭素分96.8996.72灰分2.532.76揮発分0.580.52 出願後:甲6の2空気透過法秒数 UTC-48J(被告製品3)出願前:乙8出願後:甲6の3揮発分4.734.59灰分1.332.06固定炭素分93.9493.5950%累積径1.641.73見掛密度0.080.10J-CPB(被告製品4)出願前:乙45出願後:甲6の4固定炭素分98.5399.07灰分0.970.53揮発分0.500.40平均粒径5.395.85SP-5030(被告製品5)出願前:乙28の1出願後:乙28の2揮発分0.310.39灰分0.160.15固定炭素分99.5399,4650%累積径4.334.2 製品5)出願前:乙28の1出願後:乙28の2揮発分0.310.39灰分0.160.15固定炭素分99.5399,4650%累積径4.334.21Fe含有量 (4) Rate値は,粒度・粒径のほか,粉砕方法・粉砕機構との間に相関関係があると考えられるが,被告各製品については,前記の粒度に係る製品規格に加え,粉砕工程における粉砕機の種類も変更されていない。 アすなわち,甲5の2論文によれば,本件各発明のRate値と同義であると理解される「菱面体晶黒鉛量(αRh)」について,①粉砕方法と粉砕 機構によって異なること,②粒径が小さいほど増加するが,粉砕方法・粉砕機構によって上限値が異なり,当該上限値に達すると粒径が小さくなっても増加しなくなるものと理解し得る(644頁)。 また,乙56の論文には,同様に,菱面体晶系の割合が,粒径や粉砕方法・粉砕機構により異なることを示されるとともに,天然黒鉛をボールミ ル粉砕のように「衝撃が小さく摩擦作用の大きい方法」で粉砕すると菱面 体晶系の割合が増加するが,粒径が1㎛になるまで粉砕すると菱面体晶系の割合と粒径の間の相関関係を確認できないことが記載されている。 これらによれば,天然黒鉛を粉砕することによって生成される菱面体晶系の割合は,粉砕生成物の粒径のサイズや粉砕方法・粉砕機構によって異なることが認められる。したがって,被告各製品においても,粒径に対応 する粒度の規格に加え,製造工程に含まれる粉砕の方法及び機構は,そのRateとの間に相関関係を有する。 イ被告各製品の粒度に係る製品規格に変更がないことは,前記のとおりであるが,その粉砕工程に用いられる粉砕機についても,以下のとおり,本件各出願の前後を通じ のRateとの間に相関関係を有する。 イ被告各製品の粒度に係る製品規格に変更がないことは,前記のとおりであるが,その粉砕工程に用いられる粉砕機についても,以下のとおり,本件各出願の前後を通じた変更はない。 すなわち,被告日本黒鉛工業作成に係る生産工程表(乙57)によれば,分級・粉砕工程における使用設備として,被告製品1及び2には,「第1分級機」が,被告製品4には「第1分級機」及び「3号C-JM」が,被告製品5には「3号C-JM」又は「5号C-JM」が用いられるものとされており,これらの生産工程表は,その最終改訂日は本件各出願よりも 前である。被告製品3に関しては,これまでに製造したロット数はわずか5ロットであり,正式な生産工程表は作成されていないが,その製品化以来,その分級・粉砕工程に,「ACM-10」及び「4号C-JM」を使用する扱いが確立されている。 (5) 被告らは,被告製品1,2,4及び5について,本件各出願以前の製品に 係るサンプルを保管していたが,これらのサンプルのRate値を測定すると,以下のとおり,被告製品1及び2は,本件発明1及び2に係るRate値を満たし,被告製品4及び5は,本件発明1のRate値を満たした(乙10)。 品名/Lot測定日P3(43°)P4(44°)Rate値(%)乙10の頁数 被告製品1青P2008年190516①39146528188.1177~79190516②29028420887.3480~82190516③315643371348.3583~85190516④228431607958.6986~88190516⑤41102634686. 190516③315643371348.3583~85190516④228431607958.6986~88190516⑤41102634686.6389~91被告製品2AP2001年190528①45170430191.3192~94190528②43175386691.7895~97190528③31801355589.9598~100被告製品4J-CPB2008年190516①138292829832.83101~103190516②116882348133.23104~106190516③129742628633.05107~109190516④134252775232.60110~112190516⑤122032462033.14113~115被告製品5SP-5030-α2008年190528①150352631736.36116~118190528②116342079235.88119~121190528③127872284135.89122~124これに対し,原告は,当該サンプルが真に本件各出願前から保管されていたものであるか疑問であると主張する。しかし,被告らは,長期間にわたって製造・販売を継続する製品の粉体物性に変化がないことを確認することを目的に,概ね10年に1回のサイクルでサンプルを採取して粉体特性を測定し,期間を定めずに保管することとしている。その保管状況は,乙55の写 真のとおりであり,これらのサンプルは,製品名と採取日を 目的に,概ね10年に1回のサイクルでサンプルを採取して粉体特性を測定し,期間を定めずに保管することとしている。その保管状況は,乙55の写 真のとおりであり,これらのサンプルは,製品名と採取日を印字したラベルを貼付した高さ10㎝程度の透明瓶に入れられ,他の製品のサンプルの入った瓶とともに棚に並べられている。 なお,原告は,被告らが,被告各製品について,本件各出願以前にX線回折法により測定したデータを所持しながら,その測定の事実及びデータの存 在を隠匿してきたなどと主張する。しかし,被告らの従前の測定は,黒鉛原鉱石を対象としたものが大部分であり,また,その測定データ(乙144)も,グラフの状態で残されており,個々の数値の記載はなく,原告が指摘するA(被告日本黒鉛工業の第二製造技術部取締役部長。)の別件訴訟における証言も,基本的な物性を調べるため,X線回折装置を使用した経験がある ことをいうにすぎない。 (6) 原告は,被告らが,被告各製品のRate値を管理するという技術思想を有していなかったことを理由に,従前から当該製品を販売していたとしても,先使用には当たらないと主張する。しかし,原告が依拠する後記裁判例は,本件と事案を全く異にする。 すなわち,当該裁判例は,特許請求の範囲に属することを目的とした工程で実生産品を生産する被疑侵害者が,サンプル薬の製造に特許請求の範囲に属することを意図した工程が採用されていたことを立証し得ず,当該サンプル薬の製造による先使用権を否定された事案である。これに対し,本件においては,被告らが,積極的に意図していなかったにせよ,本件各発明の技術 的範囲に属する物の製造のために必要な製造条件を採用し,その範囲に属する製品を一貫して製造してきた以上,これを意図的に選択,維持し 被告らが,積極的に意図していなかったにせよ,本件各発明の技術 的範囲に属する物の製造のために必要な製造条件を採用し,その範囲に属する製品を一貫して製造してきた以上,これを意図的に選択,維持してきたと客観的に評価され,その技術思想が具現化されているというべきである。 (7) 原告は,被告らが,本件各出願前からRate値が31%又は40%以上となっている製品を製造・販売していたとしても,特許法29条1項2号に いう「公然実施」がされたということはできないと主張するが,以下のとおり,いずれも失当である。 ア原告は,被告各製品の販売先が秘密保持契約を定めるなどした相手方に対するものであれば,公然実施に当たらないと主張する。 しかし,販売先との契約書上,一般的な秘密保持義務が定められていた としても,リバースエンジニアリングや第三者への譲渡を禁止する条件が 定められていなければ,公然実施の成立を妨げる事情とはならない。秘密保持条項が存在したとしても,製品の物性を調べることは禁止されることはないし,その物性を開示してはならない理由はない。 そもそも,被告らは,取引先に黒鉛製品を提供するに当たり,黒鉛の成分を解析してはならず,又はその解析した結果を第三者に口外してはなら ないというような条件を付していない(乙140)。被告らは,製品の販売に当たり,必ずしも契約書を作成するものではないが,その一例(乙143)をみても,そのような条件は付されていない。 イ原告は,被告各製品の販売先が,X線回折法による製品の測定・解析をし得る者でなければ,公然実施は成立しないと主張する。 しかし,原告の主張によっても,被告各製品は,適切な解析条件を設定しさえすれば,当業者において,Rate値を算定することができる状態にあっ る者でなければ,公然実施は成立しないと主張する。 しかし,原告の主張によっても,被告各製品は,適切な解析条件を設定しさえすれば,当業者において,Rate値を算定することができる状態にあったものであり,また,実際の測定を外部の機関に委託することも可能であったものである。 特許法29条1項2号の「公然実施をされた発明」とは,公然知ら れる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施をされた発明を意味し,実際に知られたことを要件としていない。 また,原告は,被告らは,黒鉛製品をX線回折法で分析する技術を有していなかったなどとして,公然実施が成立しないと主張するが,被告らは,X線回折法の測定技術を有しなかったわけではなく,適切な解析 条件を設定しさえすれば,Rate値を算定することもできた。被告らが実際に分析を行ったか否かは,公然実施の成立を妨げる事情とはならない。 (原告の主張)(1) 被告らは,被告らが,本件各出願の前から被告各製品と品名・品番が同一 である製品を販売していたことを理由に,これが被告各製品と同一のもので あるとして,先使用及び公然実施に当たると主張する。 しかし,被告らの主張を前提にすれば,被告らは,被告らの製品規格の範囲内にあれば,粒度や水分といった評価項目の数値が異なり,その粉体としての性質が異なるものについても,同じ品名・品番で販売していたことになる。このように評価項目の数値が異なるのであるから,同じ品名・品番の製 品であるからといって,そのRate値が一定であるとは限らないこととなる。品名・品番が同一であることに依拠する被告らの主張は失当である。 なお,確かに,原告も,原告が入手した製品が本件各発明の構成要件を充足していることを立証することによって,本件各特許の登録日に なる。品名・品番が同一であることに依拠する被告らの主張は失当である。 なお,確かに,原告も,原告が入手した製品が本件各発明の構成要件を充足していることを立証することによって,本件各特許の登録日に遡った特許侵害の事実が継続していたと主張しているが,その直接の立証の対象は,当 該製品の入手時点における構成要件充足性に係る事実にすぎないと考えるべきである。証拠が偏在する以上,原告が製品を入手する時点以前に非充足であったことは,被告らが反証すべきである。 (2) 被告らは,本件各出願の前後を通じ,被告各製品の製品規格が同一であったと主張する。 しかし,その根拠とされる乙47~51は,それぞれ記載の日付どおりに作成されたものであるか不明である上,その性質上,最終改訂と記載されている日以降に改訂がされていないことを証するものではない。被告らは,本件各出願の前後を通じ,製品検査表上の検査項目の数値が「同等」であるとも指摘するが,それらの製品検査表にしても,事後に作成可能な書面である 上,作成者の押印を欠くものがあるなど,本件各出願前の被告各製品に係るものであるかが不明なものにすぎない。 仮に,本件各出願の前後を通じ,被告らが主張する4~5個の評価項目の数値が「同等」であるとして,それだけで物として同一の製品であるということはできない。しかも,それらの評価項目の数値がどの程度近似していれ ば「同等」と評価できるのかも不明である。そもそも,本件訴訟との関係で いえば,製品の同一性は,Rate値との関係で判断されるべきものであり,前記の評価項目とRate値との関係の立証がない以上,評価項目の数値が同等であると立証しても意味がない。 (3) 被告らは,本件各出願の前後を通じ,Rate値に影響する工程であると考えられ あり,前記の評価項目とRate値との関係の立証がない以上,評価項目の数値が同等であると立証しても意味がない。 (3) 被告らは,本件各出願の前後を通じ,Rate値に影響する工程であると考えられる粉砕方法に変更がないと主張する。 しかし,被告らが粉砕方法に変更がないことの根拠とする乙57も,その日付に作成されたものであるが不明なものである上,最終改訂とされた日の後に改訂がないことを証するものではない。また,Rate値は,粉砕設備の設定や粉砕時間などにも影響されると考えられるところ,乙57は「設備条件」及び「異常処置方法」等の欄がマスキングされており,この点でも粉 砕方法に変更がないことを証するものということはできない。 確かに,被告らの援用する論文によれば,粒径・粒度及び製造工程における粉砕の方法・機構とRate値との間に何らかの関係があることにはなろうが,Rate値が変わり得る要因は,これに限られるものではない。被告らのように,粉砕機の種類など,これに影響を与える要因の一部に変更がな いと主張立証するのみでは,本件各出願の前後を通じ,被告各製品のRate値が同一であるということにはならない。 (4) 被告らは,本件出願前に販売された被告各製品のサンプルを保管していたとして,その測定結果を提出する。 しかし,被告らがその測定対象とした製品サンプルが,真に本件各出願以 前に製造されたものであるかは大いに疑問がある。 被告らは,当該サンプルの保管状況に関する証拠として乙55の写真を提出するが,当該写真は,紛争が生じた後から容易に作成し得るものであり,撮影者や撮影日なども不明である。また,同写真は,保管瓶や瓶内の黒鉛サンプルが本件各出願以前から存在していたことや,瓶内の黒鉛サンプルが他 の黒鉛粉末と入れ 後から容易に作成し得るものであり,撮影者や撮影日なども不明である。また,同写真は,保管瓶や瓶内の黒鉛サンプルが本件各出願以前から存在していたことや,瓶内の黒鉛サンプルが他 の黒鉛粉末と入れ替えられていないことなどを担保するものではない。 実際,Aは,別件訴訟において,被告らの従前の主張を翻し,平成20年以前からX線回折装置を所持しており,材料の産地が変わるごとに測定検査をしてきたと証言した。そうであれば,被告らは,本件各出願前に測定したX線回折法の測定データが存在するはずである。被告らは,これらのデータが自己に都合の悪い結果(乙144)であるため,その存在を秘匿し続けて いると考えるべきである。 なお,仮に,当該サンプルが,真に本件各出願の前に製造され,保管されたものであるとしても,当該サンプル品のX線回折法による測定は,適切な解析条件を設定せずにされたものであるから(乙122),そのRate値が被告ら主張のとおりであるということはできない。 (5) 仮に,被告らが,本件各出願前からRate値が31%又は40%以上となっている製品を製造・販売していたとしても,先使用権が認められるためには,先使用に係る発明の技術的思想(先使用品に具現された技術的思想)と特許発明の技術的思想が同じ内容でなければならないとするのが判例法理である(知的財産高等裁判所平成30年4月4日判決・平成29年(ネ)第 100090号)。 しかるに,被告らは,本件各出願前において,Rate値の測定をしたことすらなかったというのであり,被告各製品の製造に当たり,これを31%又は40%以上にすることでグラフェンを剥離しやすくするという本件各発明の技術思想を有していなかったことは明らかである。 (6) また,仮に,被告らが,本件 製品の製造に当たり,これを31%又は40%以上にすることでグラフェンを剥離しやすくするという本件各発明の技術思想を有していなかったことは明らかである。 (6) また,仮に,被告らが,本件各出願前からRate値が31%又は40%以上となっている製品を製造・販売していたのであるとしても,以下のとおり,それによって,特許法29条1項2号にいう「公然実施」がされたということはできず,本件各特許の無効事由とはならない。 アすなわち,「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の者が知り得る 状況でその発明が実施されることをいう(知的財産高等裁判所平成28年 1月14日判決・平成27年(行ケ)第100069号)。そうすると,被告らが実施品を販売していたとしても,その販売先との間で,明示又は黙示の秘密保持契約がある場合や信義則上の秘密保持義務がある場合,特許法29条1項2号の「公然実施」は成立しない。 企業間の取引においては,契約上,秘密保持条項が定められるのが通常 であり(甲85,96),特に,製造業における原材料は,営業秘密そのものであるから,これについての秘密保持条項が定められるのが通常である。しかも,被告の取引先は,基本的には大企業であるから,秘密保持条項を定めずに,原材料を含む製品の供給契約がされるとは考え難いが,この点に関する被告らの主張立証は不十分である。 イ仮に,被告らにおいて,秘密保持義務を負わない相手方に販売をした事例があるとして,その相手方が,X線回折法による製品の測定・解析をし得る者であることの立証がない以上「公然実施」は成立しない。 というのも,「公然実施」というには,発明の内容が不特定多数の者に知り得る状況になければならないが,前記の測定・解析をし,Rate値 を算出し得る状 立証がない以上「公然実施」は成立しない。 というのも,「公然実施」というには,発明の内容が不特定多数の者に知り得る状況になければならないが,前記の測定・解析をし,Rate値 を算出し得る状況にある者でなければ,黒鉛製品を入手したとしても,本件各発明の内容を知り得ないからである。しかるに,被告は,具体的な販売先の属性さえ主張立証しない。 また,同様に,「公然実施」がされたというためには,「当業者が利用可能な分析技術を用いて当該発明の実施品を分析することにより,特許請 求の範囲に記載されている物に該当するかどうかの判断が可能な状態にあることを要する」とされている(東京地方裁判所平成17年2月10日判決・平成15年(ワ)第19324号)。 しかるに,被告らは,本件訴訟において,原告との紛争が生じるまでX線回折法による黒鉛製品の測定・解析をしたことがないと主張してきたの であり,その主張を前提とすれば,そのための技術を有していなかったも のであり,かかる観点からも「公然実施」があったということはできない。 4 争点4(別件訴訟の被告らの製品による公然実施)について(被告らの主張)別件訴訟の被告らも,被告らと同様に,本件各出願前から,原告が,別件訴訟で問題としている黒鉛製品(以下,各訴訟で問題とされている製品を「伊藤 黒鉛製品」,「西村黒鉛製品」などといい,そこで付された符号に応じ,「伊藤黒鉛製品1」,「伊藤黒鉛製品2」などという。)を製造・販売しており,本件各特許は,この点からも公然実施による無効事由を有する。 (1) 伊藤黒鉛製品 伊藤黒鉛は,本件各出願の前後を通じ,伊藤黒鉛製品1~12を同一の品 番・品名で販売してきた(乙14~17,58)。これらの製品は,以下のとおり,本件各出願の前後 (1) 伊藤黒鉛製品 伊藤黒鉛は,本件各出願の前後を通じ,伊藤黒鉛製品1~12を同一の品 番・品名で販売してきた(乙14~17,58)。これらの製品は,以下のとおり,本件各出願の前後を通じ,同一の製品である。 ア伊藤黒鉛製品1~6は,製造工程を「製品別製造標準」に定め,固定炭素分,灰分,揮発分,水分及び平均粒径について,最終検査における検査項目の規格値を定めている(乙59)。当該規格値は,平成28年1月1 6日に作成されたが,いずれも特定の顧客向けの場合にのみ適用される部分を除き,その後に改訂はされていない。すなわち,粉体特性に係る質的同等性の観点からも,製品としての同一性が根拠付けられている。 伊藤黒鉛製品7~11は,購入品に自社のシールを貼付して出荷しているものであるため,受入検査に係る検査項目及び規格値を定めている(乙 60)。その検査項目は,灰分,揮発分,粒径などであり,固定炭素の規格値は,灰分及び揮発分から定まり,水分の規格値が1.0%以下であることは自明であるため,省略されている。当該規格についても,粒度測定装置の変更に伴う改訂のほか,実質的な変更はされていない。 イまた,伊藤黒鉛製品3~6は,本件各出願の前後を通じ,粉砕工程で用 いられる粉砕機に変更がない(乙100)。 その余の伊藤黒鉛製品については,伊藤黒鉛において粉砕工程を経ていないため,その粉砕機に変更があったかは不明である。しかし,仮に,その販売元において,製品の形状・形態に影響を与え得るような粉砕方法の変更をするのであれば,伊藤黒鉛の了解を得るのは当然であり,伊藤黒鉛においても,そのように依頼していたが,伊藤黒鉛が,粉砕方法の変更に 関する通知を受けたことはない。実際,本件各出願の前後を通じ,製品の粒度分布 ば,伊藤黒鉛の了解を得るのは当然であり,伊藤黒鉛においても,そのように依頼していたが,伊藤黒鉛が,粉砕方法の変更に 関する通知を受けたことはない。実際,本件各出願の前後を通じ,製品の粒度分布の測定結果は近似した結果となっており(乙103~109),これによれば,その粉砕方法に変更がなかったと考えられる。 ウ伊藤黒鉛製品9及び10については,提出する写真(乙61,62)のとおり,本件各出願前のサンプルが保管されていた。これらのサンプルか ら得た試料を対象にRate値を測定した結果は以下のとおりであり,近時に製造されたサンプルの当該製品のRate値の測定結果と同様のばらつきが見られた(乙11)。このような傾向がみられる事実は,製品の物性の同一性を裏付ける。 品名/Lot測定日P3(43°)P4(44°)Rate値(%)乙11の頁数伊藤黒鉛製品9EC50012020219041549872329717.6342∼44190425101381571339.2245∼47190516①22560477482.5348∼50190516②20075322186.1751∼53190516③21204450682.4754∼56190516④20879600477.6757∼59190520⑤23305605079.3960∼62伊藤黒鉛製品1019041583311846631.0912∼1419042564401259833.8315∼17190520①65391343132.7418∼20 EC300 31.0912∼1419042564401259833.8315∼17190520①65391343132.7418∼20 EC300130930190520②61371474329.3921∼23190520③61491294132.2124∼26エ別件訴訟における原告の主張を前提とすれば,本件各出願後の伊藤黒鉛製品1~3は,本件発明1の構成要件を充足し,伊藤黒鉛製品4~11は,本件発明1及び2の構成要件を充足していることになるが,そうであれば,本件各出願前に同一に品番・品名で販売されていた伊藤黒鉛製品1~11も,本件発明1及び2の構成要件を充足することが合理的に 推認される。 (2) 西村黒鉛製品西村黒鉛は,本件各出願の前後を通じ,西村黒鉛製品1~3及び5を同一の品番・品名で販売してきた(乙64,65)。これらの各製品は,以下のとおり,本件各出願の前後を通じて同一の製品である。 ア西村黒鉛は,西村黒鉛製品1及び2については,固定炭素,灰分,揮発分,全水分及び粒径分布の規格が定められており,その規格値は,本件各出願の前後を通じて同一である(乙64,65)。 また,西村黒鉛製品1及び2のQC工程表(乙110)は,平成19年3月30日以降,改訂等がされておらず,その使用設備に係る記載のとお り,粉砕工程で使用される粉砕機にも変更はない。 イ西村黒鉛製品3及び5は,西村黒鉛が,伊藤黒鉛が「EC1500」の名称で販売する膨張化黒鉛を購入したものであり,伊藤黒鉛製品7と同一の製品である(乙26の6,乙66~70)。 ウ別件訴訟における原告の主張を前提とすれば,本件各出願後の西村黒鉛 製品1~3及び5 売する膨張化黒鉛を購入したものであり,伊藤黒鉛製品7と同一の製品である(乙26の6,乙66~70)。 ウ別件訴訟における原告の主張を前提とすれば,本件各出願後の西村黒鉛 製品1~3及び5は,本件発明1及び2の構成要件を充足していることになるが,そうであれば,本件各出願前に同一の品番・品名で販売されていた同各製品も,本件各発明の構成要件を充足することが合理的に推認される。 (3) 中越黒鉛製品ア中越黒鉛は,本件各出願の前後を通じ,中越黒鉛製品1~3を同一の品番・品名で販売してきた(乙72~75)。 中越黒鉛製品1~3のQC工程図には,「製品検査」の「管理項目」の欄に,「固定炭素」,「灰分」,「揮発分」,「水分」及び「-500m esh(%)」(粒子サイズ)の記載がある(乙76~78)。中越黒鉛は,これらの評価項目に係る規格を定めた上,当該規格を全て充たすもののみを出荷し得る製品として扱っている。そして,これらQC工程図は,上記各工程図の「改訂表」にも記載されているとおり,同製品1について平成23年2月28日に作成され,同製品2及び3について平成20年1 2月15日に改訂された後,新たな改訂はされていない。 そうすると,仮に,中越黒鉛製品1~3が本件各発明の技術的範囲に属するとすれば,同各発明は本件各出願前に公然実施されたことになる。 イそもそも,原告は,別件訴訟において,本件各出願前に製造された中越黒鉛製品3に基づき,構成要件の充足性を主張立証している。 すなわち,原告の別件訴訟における主張立証は,中越黒鉛から提供されたサンプルを解析し,当該製品のRate値を計算した結果に基づくものであるが,中越黒鉛が提供した中越黒鉛製品3に係るサンプルは,そのロット番号が「90930」であり(乙79) ,中越黒鉛から提供されたサンプルを解析し,当該製品のRate値を計算した結果に基づくものであるが,中越黒鉛が提供した中越黒鉛製品3に係るサンプルは,そのロット番号が「90930」であり(乙79),「2009年9月30日」に製造されたものである。 ロット番号「90930」の製品が,本件各出願前に存在したことは,平成22年6月23日に作成され,顧客の下で保管されていた試験成績表(乙111)に同月28日付けの「合格」の印があることから明らかであり,平成21年10月1日付けの分析日報にも,当該ロット番号の製品に係る試験項目の数値が記載されている。 原告は,黒鉛の在庫が残っていたかどうかは疑問であると主張するが, 中越黒鉛は,ロット番号「90930」を平成22年から平成28年にかけて定期的に出荷しており(乙137),その無償提供用のサンプルを取り分けて保管している(乙136)。 以上によると,仮に,中越黒鉛製品3が本件各発明の技術的範囲に属するとすれば,同各発明は本件各出願前に公然実施されたことになる。 (原告の主張)(1) 伊藤黒鉛製品以下のとおり,伊藤黒鉛が本件各出願前から伊藤黒鉛製品1~11を販売していたことは立証されていない。 ア被告らが依拠する製品規格に係る各書証は,各記載の日に作成・改訂さ れたものであるかが不明であり,マスキングがあるものもある。また,それが現在の伊藤黒鉛製品に対応するものであるかも不明である。 また,被告らの主張する検査項目は,それを製品の識別基準とするものにすぎない。それらの検査項目とRate値との関連性が立証されない限り,その数値が本件各出願前後を通じて同等であるということに意味はな い。 むしろ,それらの検査項目の数値が規格内にあれば,それにばらつ それらの検査項目とRate値との関連性が立証されない限り,その数値が本件各出願前後を通じて同等であるということに意味はな い。 むしろ,それらの検査項目の数値が規格内にあれば,それにばらつきがあったとしても,同一の製品として扱われるのであるから,品名・品番が同一であっても,粉体としての物性にばらつきがあることになる。 また,被告らの主張によれば,伊藤黒鉛は,特定の顧客との間で特別な 規格値を定める場合があるというのであるから,品名・品番は同一であるが,製品として同一ではないものが存在することになる。 イ伊藤黒鉛製品の粉砕工程に使用される粉砕機に変更がないことを示すとされる証拠についても,それが各記載の日に作成・改訂されたものであるかが不明であり,それが最終版であるかも不明である。 仮に,粉砕設備や粒度の規格に変更がなかったとしても,粉砕設備の設 定や粉砕時間などの変更が,Rate値に影響を与えないとはいえないのであり,その主張立証は不十分である。 また,伊藤黒鉛製品の販売元が,伊藤黒鉛に対し,粉砕方法の変更を通知するはずであるとする証拠はない。被告らの主張によれば,重要なのは規格(粉砕方法との関係でいえば粒度の規格)を充たすかどうかであり, 製品の形状・形態ではない。 ウ被告らがいう伊藤黒鉛製品の本件各出願前のサンプルなるものが,真に本件各出願前のサンプルであるかは疑問である。被告らが提出する保管写真は不鮮明である上,紛争が生じた後に容易に作成し得るものであって,当該サンプルが本件各出願前のものであることを担保するものではない。 また,被告が測定したRate値のばらつきが,本件各出願の前後の製品を通じ,「同様」であるとする評価する根拠はない。そもそも,そのようなばらつきが生じるのは, ことを担保するものではない。 また,被告が測定したRate値のばらつきが,本件各出願の前後の製品を通じ,「同様」であるとする評価する根拠はない。そもそも,そのようなばらつきが生じるのは,被告らが適切な解析条件を設定していないからであり,その測定結果を比較することに意味はない。 (2) 西村黒鉛製品 以下のとおり,西村黒鉛が本件各出願前から西村黒鉛製品1~3及び5を販売していたことは立証されていない。 ア被告らが依拠する製品規格に係る各書証が,各記載の日に作成・改訂されたものであるかは不明である。また,それが現在の西村黒鉛製品に対応する最新のものであるかも不明である。仮に,製品規格に係る被告らの主 張が真実であるとしても,それは製品の同一性の根拠とはならない。 イまた,西村黒鉛製品3及び5が伊藤黒鉛製品7と同一である根拠とされる証拠も不十分であり,信用することはできない。仮に,西村黒鉛が伊藤黒鉛製品7を購入したとしても,その後に何らの処理も加えられていないとは限らず,両者が同一であるということはできない。 (3) 中越黒鉛製品 ア中越黒鉛が,本件各出願の前に,中越黒鉛製品1~3と同一の製品を販売していたとの主張は争う。 被告らが依拠する証拠が,各記載の日に作成されたものであるかは明らかではない。仮に,中越黒鉛が,本件各出願の前に,中越黒鉛製品1~3と同一の品番・品名の製品を販売していたとして,それは品番・品名が同 一である製品を販売していたことを意味するにすぎない。。 そもそも,中越黒鉛は,別件訴訟において,一定の幅のある規格を充たしてさえいれば,黒鉛の性質に多少の差異があっても,同一の品名の製品としていることを認めている(甲57)。中越黒鉛製品において,品番・品名が同一である は,別件訴訟において,一定の幅のある規格を充たしてさえいれば,黒鉛の性質に多少の差異があっても,同一の品名の製品としていることを認めている(甲57)。中越黒鉛製品において,品番・品名が同一であることは,製品が同一であることを意味しない。 中越黒鉛製品1~3のQC工程図とされるものも,それが各記載の日に作成されたのか不明なものであり,その後に新たな工程図が作成されていないとも限らない。工程や設備の記載も抽象的であり,Rate値との関係において,製品の同一性が維持されている根拠とはならない。 また,中越黒鉛製品に定められていたという5つの評価項目の規格は, 各製品の同一性の範囲を画するものともなっていない。いずれにせよ,それらの規格値に係る評価項目とRate値との関係が不明である以上,その評価項目の数値によって,製品の同一性を判断することはできない。 イ中越黒鉛製品3のサンプルが,本件各出願前である平成21年9月30日に製造されたものであることは争う。 当該サンプルのロット番号が「90930」であることの根拠とされるサンプル出荷依頼書(乙79)は,原本も証拠提出されておらず,その記載された日に作成されたかも明らかでない。他方,原告に送付された当該サンプルに係る試験成績表(乙72の6)には,「Sample」と記載されるのみであり,原告が入手した中越黒鉛製品3のサンプルが,ロット 番号「90930」のものであるかは明らかでない。 被告らが提出するロット番号「90930」の試験成績表は,平成22年6月23日(乙111),同年7月6日(乙72の5),平成30年11月7日(乙72の6)の3回の数値が全く同一であるという不自然なものである。他方,原告は,中越黒鉛から送付を受けたサンプルを分析しているが,そ 乙111),同年7月6日(乙72の5),平成30年11月7日(乙72の6)の3回の数値が全く同一であるという不自然なものである。他方,原告は,中越黒鉛から送付を受けたサンプルを分析しているが,その結果は,前記の数値と全く異なる。当該サンプルが,ロット 番号「90930」のものであるとはいえない。 また,当該ロットが本件各出願前の日に製造された根拠とされる試験成績表(乙111)は,マスキングがされているのみならず,原本すらも提出されていないものであって,誰が合格印を押したのかも不明である。また,それが記載の日に作成され,その後に改変がされていないことの証拠 はない。そもそも,9年以上前のロットの在庫が分別保管されているということがあり得るのか疑問である。 5 争点5-1(乙3による新規性及び進歩性の欠如)について(被告らの主張)(1) 新規性の欠如 仮に,原告が争点2で主張するとおり,本件各発明の構成要件Cの「グラフェン前駆体」が,何らかの処理を施したもので足りるのであれば,本件各発明は,以下のとおり,乙3発明と同一であり,新規性を欠くものである。 ア乙3公報には,以下の構成(以下,符号に従い「構成[A]」などという。」。他の公報等に開示された発明についても同様である。)を備えた 発明(乙3発明)が開示されている。 [A] 菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,[B] {{r(101)×12/15}/{r(101)×15/12+h(101)}に示される式(式A)で計算される菱面体晶黒鉛層の割合が30%以上55%以下である, [C] 黒鉛系炭素素材 イ乙3発明は,以下のとおり,構成要件A,B-1及びB-2を充たす。 (ア) 式Aのr(101)及びh(101) 層の割合が30%以上55%以下である, [C] 黒鉛系炭素素材 イ乙3発明は,以下のとおり,構成要件A,B-1及びB-2を充たす。 (ア) 式Aのr(101)及びh(101)は,Rate値を導く式におけるP3及びP4に相当するから,式Aの値をxとし,Rate値をyとすれば,x=20y/(16-5y)という関係にある。 そして,乙3発明は,式Aの値が30~55%であることを特徴とす する黒鉛材料であるから,この関係式に代入して計算すると,その黒鉛材料のRate値は約41%~83%となる。 したがって,当業者は,乙3発明が,本件各発明の構成要件A及びB-1及びB-2を充足すると理解し得る。 (イ) なお,式Aの「12/15」は「15/12」の誤記である可能性も あるが,これに従って修正した式A’は,Rate値との間にx=4y/(5-y)という関係を有する。 そして,乙3発明は,式Aの値が30~55%であることを特徴とすする黒鉛材料であるから,この関係式に代入して計算すると,その黒鉛材料のRate値は約25%~49%となる。 したがって,上記の場合であっても,乙3発明は,本件各発明の構成要件A及びB-1及びB-2を充足する。 ウ乙3公報の開示する黒鉛は,グラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散することができる黒鉛系炭素素材として用いることのできる黒鉛系炭素素材であるから,構成要件Cを充足する。 原告は乙3発明の開示する黒鉛は人造黒鉛に限定されると主張するが,乙3公報の段落【0021】に,その黒鉛材料の出発原料として,天然黒鉛が挙げられていることからも明らかなように,人造黒鉛に限定されるものではなく,天然黒鉛を原料とするものを含んでいる。 エ以上によれば,乙3発明は, 21】に,その黒鉛材料の出発原料として,天然黒鉛が挙げられていることからも明らかなように,人造黒鉛に限定されるものではなく,天然黒鉛を原料とするものを含んでいる。 エ以上によれば,乙3発明は,本件各発明と同一である。 (2) 進歩性の欠如 本件各発明の構成要件Cの「グラフェン前駆体」が電波的力による処理と物理的力による処理を施したものによるであるとの解釈を前提とすると,同各発明は,乙3発明並びに乙20,乙21に記載された技術及び周知技術に基づき,当業者が本件各出願当時に容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠くものである。 ア本件発明1との相違点本件発明1と乙3発明は,本件発明1では,構成要件Cの「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」が,天然黒鉛に電波的力による処理と物理的力による処理を施すことにより生成されるのに対し,乙3発明に係る黒鉛系炭素素材は,これを生成する過程でボールミル粉砕及びジ ェットミル粉砕といった物理的力による処理は施されているが,電波的力による処理が施されていない点で相違する。 イ本件発明1との相違点の検討(ア) 電波的力による処理と物理的力による処理の併用は単なる公知技術の寄せ集めにすぎないこと 乙20及び乙21には,黒鉛ナノプレートレットを生成する過程において,グラフェンを剥離する膨張黒鉛を生成するために,挿入黒鉛に熱プラズマ膨張や電波照射といった電波的力による処理を施すことが記載されている。このような電波的力による急速加熱処理により,挿入黒鉛の層間隔は垂直方向に拡張されるところ,黒鉛材料の層間の結合は,フ ァンデルワールス結合であって,当該結合を切断することでグラフェンが剥離されること,ファンデルワールス力は,層間距離の3乗に反比例 間隔は垂直方向に拡張されるところ,黒鉛材料の層間の結合は,フ ァンデルワールス結合であって,当該結合を切断することでグラフェンが剥離されること,ファンデルワールス力は,層間距離の3乗に反比例することは,古くから周知であるから,層間隔が拡張して層間距離が長くなると,層間のファンデルワールス結合が弱まり,グラフェンが剥離しやすくなることは,当該周知技術から当然に導かれる。そうすると, 黒鉛材料に電波的力による処理を施すとグラフェンが剥離しやすくなる ことは公知であったといえる。 他方,粉砕等の物理的力を加えることにより,グラフェンが剥離しやすくなることもまた公知である(甲7の2,乙3,乙12)。乙3公報によると,「粉砕初期段階では黒鉛層面間の非常に弱い結合,あるいは弾性定数の非常に小さな値(C44=4.5GPa)を反映し,主とし て層面に沿って剪断変形が生じて菱面体構造が出現すると考えられている」(段落【0014】)。「剪断」とは,個体の内部である面の上下層が逆向きに力を受けて上下層間にすべりが生ずるような変形を意味するから,「層面に沿って剪断変形が生じ」るということは,剪断前に層間でファンデルワールス結合していた層面同士が互いにずれて当該層面 同士の層間距離が広がることを意味する。その結果,ファンデルワールス力が弱まり,グラフェンが剥離しやすくなる。そうすると,粉砕等の物理的力を加えることによってグラフェンが剥がれやすくなることは公知であったといえる。 そして,本件明細書等の記載からは,電波的力による処理と物理的力 による処理の併用することにより各処理による効果の総和を上回る予想以上の効果も認められない。 (イ) 乙3発明に乙20,21に記載された技術を組み合わせて前記アの相違点に係る構成を想 的力 による処理の併用することにより各処理による効果の総和を上回る予想以上の効果も認められない。 (イ) 乙3発明に乙20,21に記載された技術を組み合わせて前記アの相違点に係る構成を想到することは容易であること乙20,21には,黒鉛ナノプレートレットを生成する過程において, グラフェンを剥離する膨張黒鉛を生成するために,挿入黒鉛に熱プラズマ膨張やマイクロ波照射を施すことが記載されている。電波的力による処理により挿入黒鉛が急速に加熱されて層間隔が拡張されること,加熱処理によって菱面体晶の割合が増加することが知られていることを踏まえると(本件明細書等の段落【0021】,乙22),当業者は,電波 的力による処理には,物理的力による処理と同様に,菱面体晶割合を増 加させる効果があることを理解することができる。 そして,乙3公報,乙20,21は,いずれも黒鉛系材料の技術分野に属することから,乙3公報に接した当業者が,乙20,21に記載された黒鉛系材料に電波的力による急速加熱処理を施して変形させる技術を参照することはごく自然なことである。そうすると,乙20や乙21 に記載された技術を適用し,物理的力による処理に加えて,電波的力による処理であるプラズマまたはマイクロ波を併用することは,本件各出願当時に当業者が容易に想到し得たことであるということができる。 ウ本件発明2との関係本件発明2は,構成要件B-2のRate値を「40%以上」であると する点を除き本件発明1と同一であるから,本件発明2も同発明1と同様に進歩性を欠く。 (原告の主張)本件各発明は,以下のとおり,乙3発明と全く異なる発明であり,本件各発明が新規性を欠くということはできず,また,構成要件Cは「電波的力による 処理と物理的 に進歩性を欠く。 (原告の主張)本件各発明は,以下のとおり,乙3発明と全く異なる発明であり,本件各発明が新規性を欠くということはできず,また,構成要件Cは「電波的力による 処理と物理的力による処理を施したもの」に限定されないから,それを前提とする進歩性欠如の主張も失当である。 (1) 乙3発明が構成[A]及び[B]を備えているとの原告の主張は争う。 ア乙3発明の請求項1においては,分母と分子のr(101)に異なる数値(12/15と15/12)が乗じられており,当該式によって算出さ れた数値が何を意味するか当業者には不明である。乙3公報の段落【0018】には,「補正計数15/12(六方晶構造と菱面体晶構造における単位格子の体積比)を乗算し」とあるので,分子において「12/15」となっているのは誤記であるとも考えられるが,格子定数から菱面体晶と六方晶の体積を計算した場合,六方晶の体積は菱面体晶の体積の約2倍と なるため,「15/12(六方晶構造と菱面体晶構造における単位格子の 体積比)」との補正の意味自体が当業者にとって不明であり,当業者にはそれが誤記であるのかの判別はできない。 イ当業者にとって,このような式Aによる数値をRate値と同義であるなどと理解することは困難であるから,被告らが構成[B]で主張する48.4%という数値は,後知恵に基づき算出された数値である。乙3公報 における電池Dに用いられた黒鉛粉末の「菱面体晶の存在割合」を54%とする記載に接した当業者が,本件発明にRate値が48.4%の黒鉛が開示されていると認識することはない。 (2) 乙3発明は,電解液の分解による分解生成物の生成速度を抑制し、電池の容量劣化を抑えることを目的とした発明であり(【発明が解決しようとする 課 が開示されていると認識することはない。 (2) 乙3発明は,電解液の分解による分解生成物の生成速度を抑制し、電池の容量劣化を抑えることを目的とした発明であり(【発明が解決しようとする 課題】),その「30%以上55%以下」という数値限定は,当該目的のためにされた限定である。他方,本件各発明は,グラフェンが剥離しやすいグラフェン前駆体を提供することを課題とし,Rate値の限定の意義は,グラフェンを剥離しやすくすることにある。本件各発明と乙3発明は,その課題及び数値限定の意義が全く異なる。 (3) 乙3公報の段落【0026】には,「劈開的な粉砕になりやすく粒子は薄片状に粉砕されてしまう」ため,「粉砕雰囲気に水分あるいは酸素の混入量を可能な限り低減させることが好ましい」旨の記載がある。これに対し,本件各発明は,グラフェンへの剥離のしやすさを追求した発明である。黒鉛が薄片状に粉砕されることを追求する本件発明と黒鉛が薄片状になることを好 ましくないとする乙3発明とでは,その方向性が全く逆である。 (4) 乙3公報の記載のうち,菱面体晶の存在割合(%)が31%以上とされるものは,基本的には人造黒鉛である。同公報に開示された唯一の天然黒鉛の菱面体晶の存在割合は35%とされているが,被告らがいう式Aの補正計数に誤記があることを前提に,これをy=4x/(5-X)でRate値に換 算すれば,約30.1%となり,31%以下となる。このように,乙3公報 には,Rate(3R)が31%以上の天然黒鉛は開示されていない。 6 争点5-2(乙12による新規性及び進歩性の欠如)について(被告らの主張)(1) 新規性の欠如仮に,本件各発明の構成要件Cの「グラフェン前駆体」が,何らかの処理 を施したもので足りるのであれ -2(乙12による新規性及び進歩性の欠如)について(被告らの主張)(1) 新規性の欠如仮に,本件各発明の構成要件Cの「グラフェン前駆体」が,何らかの処理 を施したもので足りるのであれば,本件各発明は,以下のとおり,乙12発明と同一であり,新規性を欠くものである。 ア乙12公報には,以下の発明(乙12発明)が開示されている。 [A] 菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,[B] 前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)との X線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate’が50. 4%であることを特徴とするRate’=P3’/(P3’+P4’)×100・・・・(式1)(ここで,P3’は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピ ーク強度(ピークの高さについて求めたもの)P4’は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度(ピークの高さについて求めたもの)である。)[C] 黒鉛系炭素素材である遠心前及び遠心後の比較炭素材料x。 イ本件発明1と乙12発明との対比(ア) 本件発明1の構成要件Aは,構成[A]と同一である。 (イ) 乙12公報には,ピークの高さに基づいて求めた菱面晶系黒鉛層(101)のピーク強度(P3’)と六方晶系黒鉛層(101)のピーク強度(P4’)から算定したRateが50.4%であることを特徴とす る黒鉛材料が開示されている。本件発明1のP3及びP4にいう「ピー ク強度」とは,ピーク面積から求めたものに限らず,ピークの高さから求めたものも含むと考えられるので,構成要件Bは,乙12発明の構成[B]と同一である。 これに対し,原告は,本件明細書等の【表1】~【表4】に,ピーク 面積から求めたものに限らず,ピークの高さから求めたものも含むと考えられるので,構成要件Bは,乙12発明の構成[B]と同一である。 これに対し,原告は,本件明細書等の【表1】~【表4】に,ピーク強度の単位として,「counts・deg」が用いられていることを 根拠に,本件発明1の「ピーク強度」はピーク面積から求められたものに限られると主張するが,本件発明1の特許請求の範囲には,そのように限定する旨の記載はない。他方で,ピーク強度をピークの高さから算定することも,一般的に行われていたことであるから(乙94,95),原告の主張は失当である。 また,両者を技術的に同一視できることは技術常識でもあった。そのことは,特開2001-351627号公報(乙89)に係る特許出願に対する審査官の拒絶通知(乙90)や同拒絶通知に対する出願人の意見書(乙96)の記載において,ピーク高さから求めるピーク強度とピーク面積から求めるピーク強度が同一視されていることからも明らかで ある。 したがって,本件発明1の構成要件Bは,乙12発明における構成[B]と同一である。 (ウ) 仮に,本件発明1のP3,P4の「ピーク強度」の意義が,ピーク面積によるものに限定されるとしても,乙12発明において,本件発明1 が開示されていることに変わりはない。 すなわち,ピーク高さの比率から計算される菱面体晶系黒鉛層の割合とピーク面積の比率から計算される菱面体晶系黒鉛層の割合との間には,その比率が1.3~1.5であるという相関関係があるため,乙12発明の菱面体晶黒鉛の割合が前記の50.4%である場合に,これをピー ク高さによる菱面体晶系黒鉛層の割合に換算すると,33.6~38. 8%となる。 前記の相関関係は,鱗片状黒鉛である伊藤黒鉛製品 晶黒鉛の割合が前記の50.4%である場合に,これをピー ク高さによる菱面体晶系黒鉛層の割合に換算すると,33.6~38. 8%となる。 前記の相関関係は,鱗片状黒鉛である伊藤黒鉛製品1及び2のサンプルのX線回折データ(乙11,乙23の1,乙23の2)に基づき,高さによるピーク強度から計算した菱面体晶黒鉛の割合と,面積によるピーク強度から計算した当該割合とを比較することから導き得る。 (エ) 乙12公報には比較炭素材料xの種類や物性について特に記載されていないが,非水電解質二次電池の負極に用いられる炭素系材料であって,リチウムと層間化合物を形成すること(段落【0003】)を踏まえると,これからグラフェンを剥がすことは可能であり,グラフェンの材料として用いることができるから,構成要件Cを充足する。 (オ) したがって,本件発明1は,乙12発明と同一である。 ウ本件発明2と乙12発明との対比乙12発明の構成[B]を満たす黒鉛系炭素素材は,本件発明の構成要件B-2も当然に満たすので,本件発明2も乙12発明と同一であり,新規性を欠くものである。 (2) 進歩性の欠如本件各発明の構成要件Cの「グラフェン前駆体」が電波的力による処理と物理的力による処理を施したものによるであるとの解釈を前提とすると,同各発明は,乙12発明並びに乙20,乙21に記載された技術並びに周知技術に基づき,当業者が本件各出願当時に容易に想到し得たものであるから, 進歩性を欠くものである。 ア本件発明1との相違点本件発明1と乙12発明は,本件発明1では,構成要件Cの「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」が,天然黒鉛に電波的力による処理と物理的力による処理を施すことにより生成されるのに対し,乙1 乙12発明は,本件発明1では,構成要件Cの「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」が,天然黒鉛に電波的力による処理と物理的力による処理を施すことにより生成されるのに対し,乙1 2発明に係る黒鉛系炭素素材は,これを生成する過程で電波的力による 処理が施されていない点で相違する。 イ本件発明1との相違点の検討(ア) しかし,電波的力による処理と物理的力による処理の併用は単なる公知技術の寄せ集めにすぎないことは,前記5(被告らの主張)(2)イ(ア)のとおりである。 (イ) そして,乙12発明に乙20,21に記載された技術を組み合わせて前記アの相違点に係る構成を想到することは容易であることは,以下のとおりである。 乙12公報の段落【0008】及び【0010】によれば,乙12発明は,黒鉛中の菱面晶系黒鉛層の割合を増加するという課題解決のため に,粉砕機を用いた粉砕の方法を用いず,黒鉛系炭素材料に遠心力を加えたものであるが,同公報の表1によれば,炭素材料aのP3/(P3+P4)の値(Rate)は,遠心により上昇するが(約37%),それでもなお,比較炭素材料xの遠心前のRate(約50%)よりも低いことが示されており,当業者であれば,比較炭素材料xにおいてRa teを一層増加させるために遠心力の付与だけでは十分でないことを理解し得る。 他方,乙3発明に関して示したように,乙20,乙21には,これに接した当業者において,熱プラズマ膨張やマイクロ波照射などの電波的力による急速加熱処理を施して黒鉛材料を膨張させることで,粉砕等の 物理的力による処理と同様に,菱面体晶割合を増加させる効果が得られることを理解することができる記載がある。 そして,乙12公報と乙20,乙21とは,いずれも黒鉛系材料の せることで,粉砕等の 物理的力による処理と同様に,菱面体晶割合を増加させる効果が得られることを理解することができる記載がある。 そして,乙12公報と乙20,乙21とは,いずれも黒鉛系材料の技術分野に属するため,乙12公報に接した当業者が,粉砕以外の方法により菱面晶系黒鉛層を増加させることを検討するため,乙20,乙21 に開示されている黒鉛系材料に電波的力による処理を施して変形させる 技術を参照することはごく自然なことである。 そうすると,乙12発明において,乙20,乙21を参酌し,当初からRate値が約50%と高い比較炭素材料xのRate値を更に増加させることを目的として,物理的力である遠心力を加える処理に加え,熱プラズマ膨張やマイクロ波等の電波的力による処理を併用することは, 当業者が本件各出願当時に容易に想到し得たということができる。 ウ本件発明2との関係本件発明2は,構成要件B-2のRate値を「40%以上」であるとする点を除き本件発明1と同一であるから,本件発明2も同発明1と同様に進歩性を欠くものである。 (原告の主張)本件各発明は,以下のとおり,乙12発明と全く異なる発明であり,本件各発明が新規性を欠くということはできず,また,構成要件Cは「電波的力による処理と物理的力による処理を施したもの」に限定されないから,それを前提とする進歩性欠如の主張も失当である。 (1) 乙12発明は,乙12公報の段落【0009】などにあるとおり,「炭素材料を用いた電池の初期充放電効率を向上させる」ため,菱面体晶の割合に着目し,数値限定をした発明であり,本件発明1とは,その発明の課題及び数値限定の意義が全く異なる。 (2) また,乙12発明は,ピーク強度をピーク高さで求めるものであるのに対 め,菱面体晶の割合に着目し,数値限定をした発明であり,本件発明1とは,その発明の課題及び数値限定の意義が全く異なる。 (2) また,乙12発明は,ピーク強度をピーク高さで求めるものであるのに対 し,本件発明1は,ピーク強度の単位を「counts・deg」(本件明細書等の【表1】~【表3】)とし,それをピーク面積から求めるものである。このように,本件各発明と乙12発明は全く異なる単位を用いているので,乙12発明の数値を本件各発明の式にあてはめても,本件各発明におけるRate値と同義にならない。 これに対し,被告らは,ピーク高さによるピーク強度とピーク面積による ピーク強度を同視し得るなどと主張するが,そのような技術常識はない。被告の挙げる乙89の事例は,両者を厳密に区別する必要がなかった場面にすぎないと考えられ,また,いずれにせよ一例にすぎない。 被告らは,ピーク高さによるピーク強度とピーク面積によるピーク強度との間に相関関係があるなどとも主張するが,そのような技術常識も立証され ていない。当該相関関係は,一部の黒鉛製品に基づき,主観的・非公知な事情から導いたものにすぎない。 7 争点5-3(乙13による新規性及び進歩性の欠如)について(被告らの主張)本件発明1は,後記の乙13の1発明及び乙13の2発明と同一であり,本 件発明2は,乙13の2発明と同一である。したがって,本件各発明は,特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である乙13公報に記載された発明と同一であり,新規性を欠くものである。 (1) 乙13公報に開示された発明ア乙13公報に記載された実施例4及び5の鱗状片黒鉛「Z-5F」(乙 15)は,伊藤黒鉛製品1(乙14)と同一の製品であり,実施例6及び7の膨張化黒鉛「E 1) 乙13公報に開示された発明ア乙13公報に記載された実施例4及び5の鱗状片黒鉛「Z-5F」(乙 15)は,伊藤黒鉛製品1(乙14)と同一の製品であり,実施例6及び7の膨張化黒鉛「EC-1500」(乙17)は,伊藤黒鉛製品7(乙16)と同一の製品である。 なお,伊藤黒鉛は,平成24年4月19日及び同年5月30日,乙13発明の発明者からの依頼に基づき,同人に対し,黒鉛製品のサンプルを送 付しているが(乙25~27),乙13公報の「Z-5F」及び「EC-1500」は,その際のサンプルである(乙15,17)。 イ原告が別件訴訟で提出している証拠には,伊藤黒鉛製品4及び7のRate値が,それぞれ34.4%,67.0%であるということが示されているので(乙18,19),乙13公報には以下の各発明が開示されてい るということができる。 (乙13発明の1)[A] 菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,[B] 前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が約34%であることを特徴とする Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)(ここで,P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピー ク強度である。)[C] 黒鉛系炭素素材である鱗片状黒鉛Z-5F。 (乙13発明の2)[A] 菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し, [B] 前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が 晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し, [B] 前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が約67%であることを特徴とするRate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)(ここで, P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度である。) [C] 黒鉛系炭素素材である膨張化黒鉛EC-1500。 (2) 本件発明1と乙13発明との対比ア本件各発明の構成要件Aは,乙13発明の1及び乙13発明の2の構成[A]と同一である。 イ乙13発明の1又は乙13発明の2の構成[B]を満たす黒鉛系炭素素材は当然に構成要件B-1も満たすから,構成要件B-1は,乙13発明 の1又は乙13発明の2の構成[B]と同一である。 ウ前記のとおり,構成要件Cにおける「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」は,グラフェンの材料として用いることのできる黒鉛系炭素素材を意味する。乙13公報の実施例4~7において,鱗片状黒鉛Z−5F及び膨張化黒鉛EC-1500は,それぞれ薄層黒鉛又は薄層黒 鉛化合物の原料に用いられ,「薄層黒鉛はグラフェンが1~数10層積層した構造を有したものを指し,薄層黒鉛化合物は薄層黒鉛の層間に電子供与体あるいは電子受容体が挿入された層間化合物や科学的に官能基が結合したものを指す」(段落【0003】)のであるから,乙13の1発明及び乙13の2発明の構成[C]は,本件発明1の構成要件Cと同一である。 エしたがって,乙13発明1及び2は,本件各発明と同一である。 (3) 落【0003】)のであるから,乙13の1発明及び乙13の2発明の構成[C]は,本件発明1の構成要件Cと同一である。 エしたがって,乙13発明1及び2は,本件各発明と同一である。 (3) 本件発明2と乙13発明の2との対比乙13の2発明の構成[B]を満たす黒鉛系炭素素材は構成要件B-2も当然に満たすので,本件発明2は乙13の2発明と同一であり,新規性を欠くものである。 (原告の主張)乙13公報に記載された各黒鉛製品が,伊藤黒鉛製品4及び7と同一であることの立証はなく,各製品のRate値が,当業者に自明であったことの立証もない。乙13発明に係る被告らの主張は,公然実施の議論であればともかく,公知文献による新規性欠如の主張としては失当である。 8 争点5-4(甲7の2による新規性及び進歩性の欠如)について (被告らの主張)本件各発明は,甲7の2論文に開示された甲7の2発明と同一であるから,新規性を欠くものである。 (1) 甲7の2論文には,「αRh」が40%を超える粉砕生成物が記載されているが,以下のとおり,この数値はRateと同視し得る。 ア甲7の2論文における,「αRh」は,「= contentofrhombohedralstructureintotalcrystalstructure [%]」(結晶総量中における菱面体晶構造の量[%])とされる。そして,和訳した「結晶総量」が,六方晶と菱面体晶の総和を意味することは,原文に「total」とあることから明白であるから,「αRh」は,Rate値と同様に,六方晶と菱面体晶 の総量に対する菱面体晶の比率を意味する。 イ実際,甲7の2論文の著者は,本件明細書等の「非特許文献1」(乙34)においても「αRh」を使用して 」は,Rate値と同様に,六方晶と菱面体晶 の総量に対する菱面体晶の比率を意味する。 イ実際,甲7の2論文の著者は,本件明細書等の「非特許文献1」(乙34)においても「αRh」を使用しているが,本件明細書等には,「非特許文献1」の「αRh」の数値を「菱面体晶の比率」を意味することを前提とする記載がされている(段落【0021】,【0024】)。本件明 細書等に接した当業者においても,原告が「αRh」をRate値と同視していると理解し得る。 ウそして,甲7の2論文は,「αRhを(101)Hと(101)Rhの積分強度比を理論強度比と比較することによって求めた」とする。このように六方晶の特定の面と菱面体晶の特定の面にそれぞれ対応する実測ピーク強 度とX線パターンの理論強度比の関係から黒鉛粉末中の菱面体晶構造の存在割合を算定することは,乙126の段落【0014】~段落【0016】にも開示されているとおり,本件各出願当時の当業者において技術常識であった。 (2) したがって,甲7の2論文には,以下の発明(甲7の2発明)が開示され ているということができる。 [A] 菱面晶体黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)を有する,[B] 前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が40%超であることを特徴とするRate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1) (ここで,P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度 である。)[C] 黒鉛粉砕生成物。 (3) 本件発明1と甲7の2発明は,以下のと (101)面のピーク強度P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度 である。)[C] 黒鉛粉砕生成物。 (3) 本件発明1と甲7の2発明は,以下のとおり,同一の発明である。 ア本件発明1の構成要件Aは甲7の2発明の構成[A]と同一である。 イ甲7の2発明の構成[B]を満たす黒鉛系炭素素材は当然に本件発明1 の構成要件Bも満たすことになるのであるから,本件発明1の構成要件Bは,甲7の2発明の構成[B]と同一である。 ウ甲7の2発明の黒鉛粉砕生成物は,天然黒鉛に「所定の処理」(ジェットミルによる粉砕処理)をしたものであって,グラフェンを剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散することができるものであるから,仮に, 「所定の処理」を電波的力による処理と物理的力による処理のみに限定しないとしても,甲7の2発明の構成[C]は,本件発明1の構成要件Cを充足する。 (4) また,本件発明2は,構成要件B-2においてRate値を40%以上とする点を除き,本件発明1と同じであり,甲7の2公報には,これが40% 超の黒鉛粉砕生成物が記載されているということができるので,甲7の2発 明は,本件発明2とも同一である。 (原告の主張)本件各発明が甲7の2発明と同一であるということはできないので,本件各発明は新規性を欠くものではない。 (1) 甲7の2論文にいう「αRh」が,本件各発明のRate値と同一のもの であるかは不明である。同論文の「contentofrhombohedralstructureintotalcrystalstructure[%]」という表現では,「結晶総量中における菱面体晶の量」なのか,「結晶総量中の,菱面体晶の量」なのか,それらと dralstructureintotalcrystalstructure[%]」という表現では,「結晶総量中における菱面体晶の量」なのか,「結晶総量中の,菱面体晶の量」なのか,それらとは別の意味であるのかも明らかでない。 (2) 被告らは,本件明細書等の記載を根拠に,原告自身が,「αRh」をRa te値と同視していたと主張する。しかし,当該記載は,議論の簡易化のため,「非特許文献1」(乙34)の「αRh」をRate値と同様・類似の概念であると仮定してされたものにすぎない。原告が,その数値をRate値と同一であると認識していたわけではない。 (3) 仮に,前記(1)の表現から,「αRh」が六方晶と菱面体晶黒鉛の総和に対 する菱面体晶の比を意味すると理解し得たとしても,当該表現のみでは,その算定式は不明である。被告らは,乙126の特許公報の記載を根拠に,その算定方法が技術常識であったと主張するが,一例を挙げたのみで技術常識であるということはできず,当該主張自体,時機に遅れるものである。 9 争点5-5(乙93による新規性及び進歩性の欠如)について (被告らの主張)本件各発明は,乙93論文に開示された乙93発明と同一であるから,新規性を欠くものである。 (1) 乙93論文には,一部の黒鉛において,「菱面体晶相含有量」が粉砕や超音波処理によって30~40%又は42%程度に増加することが記載されて いるが,この数値はRateと同視される。 すなわち,乙93論文には,「菱面体晶相含有量」(黒鉛結晶中の菱面体晶相の量の割合)が,「(101)六方晶反射と(101)菱面体晶反射の積分強度を比較すること」により評価されると記載されている。これによれば,同論文にいう「菱面体晶相含有量」の算定式は,(10 面体晶相の量の割合)が,「(101)六方晶反射と(101)菱面体晶反射の積分強度を比較すること」により評価されると記載されている。これによれば,同論文にいう「菱面体晶相含有量」の算定式は,(101)六方晶反射と(101)菱面体晶反射の積分強度の和に対する(101)菱面体晶反射 の積分強度の割合であると理解することができる。 そして,「(101)六方晶反射」と「(101)菱面体晶反射」の積分強度とは,本件各発明にいうP4とP3と等しいと理解されるのであるから,「菱面体晶相含有量」は,Rate値と実質的に同一である。 なお,原告は,乙93論文に「体積分率」(volumefraction)という用 語が記載されていることを指摘するが,これは同論文の参照文献の用語を引用したものにすぎず,以上の理解を左右するものではない。 (2) そうすると,乙93論文には,以下の発明(乙93発明)が開示されているということができる。 [A] 菱面晶体黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)を有する, [B] 前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が40%以上であることを特徴とするRate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)(ここで, P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度である。) [C] 天然黒鉛由来の黒鉛。 (3) 本件発明1と乙93発明は,以下のとおり,同一の発明である。 ア本件発明1の構成要件Aは乙93発明の構成[A]と同一である。 イ乙93発明の構成[B]を満たす黒鉛系炭素素材は (3) 本件発明1と乙93発明は,以下のとおり,同一の発明である。 ア本件発明1の構成要件Aは乙93発明の構成[A]と同一である。 イ乙93発明の構成[B]を満たす黒鉛系炭素素材は当然に本件発明1の構成要件Bも満たすことになるので,本件発明1の構成要件Bは,乙93発明の構成[B]と同一である。 ウ乙93発明の黒鉛粉砕生成物は,天然黒鉛に「所定の処理」(粉砕処理及び熱処理)をしたものであって,グラフェンを剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散することができるものであるから,仮に,「所定の処理」を電波的力による処理と物理的力による処理の併用によるもののみに限定しないとしても,乙93発明の構成[C]は,本件発明1の構成要 件Cを充足する。 (4) また,本件発明2は,構成要件B-2においてRate値を40%以上とする点を除き,本件発明1と同じであり,乙93公報には,これが40%超の黒鉛粉砕生成物が記載されているということができるので,乙93発明は,本件発明2とも同一である。 (原告の主張)本件各発明が乙93発明と同一であるということはできないので,本件各発明は新規性を欠如するものではない。 (1) 乙93論文が「30~40%まで増やすことができる」とするのは,「体積分率」(volimefraction)である。被告らが,「菱面体晶相含有量」な どと意訳する「rhombohedralphasecontent(s)」も,前記「体積分率」を受けた語句であるから,体積や容積を意味すると理解するのが自然である。 (2) 仮に,乙93論文に記載された数値が菱面体晶の割合であるとすると,天然黒鉛を30分未満の時間粉砕することにより菱面体晶の割合を簡単に40%程度まで増加させることができること が自然である。 (2) 仮に,乙93論文に記載された数値が菱面体晶の割合であるとすると,天然黒鉛を30分未満の時間粉砕することにより菱面体晶の割合を簡単に40%程度まで増加させることができることになるが,これは,他の文献(甲 7の2,乙34,56)において,黒鉛中の菱面体晶の比率は30%程度で 収束する旨が記載されていることと整合性しない。 (3) 乙93論文において,被告らが問題とする「rhombohedralphasecontent(s)」(菱面体晶相の体積)を算定するための式は明らかとされず,それとRate値との対応関係も不明である。これがRate値と同視し得るという被告らの主張は根拠を欠く。 10 争点6(記載要件違反)について(被告らの主張)(1) 被告らが,被告各製品のRate値を測定したところ,到底誤差の範囲と認められないような大きなばらつきが生じたことは,前記1(被告らの主張)(1)のとおりであるが,伊藤黒鉛製品にも同様のばらつきが見られ,特 に伊藤黒鉛製品3~10は,構成要件B-1又はB-2の充足性の結論が測定ごとに異なっており(乙11),本件各発明に係る技術的範囲の属否の基準として全く機能していない。 (2) このように,本件各発明は,Rate値という一意に定まらないパラメータにより,発明を特定しようというものであるから,明確性要件(特許法3 6条6項2号)に違反する。 また,当業者は,本件明細書等に記載されたX線回折法によっても,当業者は,本件各発明の技術的範囲を明確に理解することができず,これを実施することができないから,本件各発明は,実施可能要件(同条4項1号)にも違反する。 さらに,本件各発明は,本件明細書等の記載によっても,発明の範囲を画定すること ることができず,これを実施することができないから,本件各発明は,実施可能要件(同条4項1号)にも違反する。 さらに,本件各発明は,本件明細書等の記載によっても,発明の範囲を画定することができず,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」とはいえないことにもなるから,サポート要件(同条6項1号)にも違反する。 (原告の主張) (1) サポート要件違反について サポート要件違反の有無の基準となる「当業者」は,本件についていえば,X線回折法(粉末X線回折法)及びX線回折プロファイルのプロファイルフィッティングの専門家と解すべきところ,かかる当業者であれば,Rate値が収束するように,適切な解析条件の選択を行い,Rate値により本件各発明の範囲を確定することができる。そして,当該当業者であれば,本件 明細書等の発明の詳細な説明によって,本件特許の特許請求の範囲に含まれるものであれば,本件発明の課題を解決できると認識することができるので,サポート要件違反は認められない。 なお,本件明細書等には,前記の解析条件の設定方法などに関する記載はないが,本件各発明は,X線回折法の測定方法や解析方法に係る発明ではな く,Rate値自体は客観的・一義的な指標であるので,本件明細書等に詳細な測定条件や解析条件が開示されていなかったとして,サポート要件違反その他の記載要件には違反しない。 (2) 実施可能要件違反について実施可能要件違反の判断の基準となる「当業者」も,サポート要件違反と 同様に考えるべきであるから,X線回折プロファイルのプロファイルフィッティングに係る当業者を基準とすべきであるところ,そのような当業者であれば,本件各発明がどのような発明であるか明確に理解し,発明の詳細な 考えるべきであるから,X線回折プロファイルのプロファイルフィッティングに係る当業者を基準とすべきであるところ,そのような当業者であれば,本件各発明がどのような発明であるか明確に理解し,発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,本件発明を実施することが可能である。 したがって,実施要件違反も認められない。 (3) 明確性要件違反について明確性要件を充たすためには,具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要であるが,X線回折プロファイルのプロファイルフィッティングに係る当業者で あれば,適宜の方法によって,Rate値を導き出すことができるので,本 件各発明についても,具体的に,どのような黒鉛系炭素素材が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解することが可能である。 したがって,明確性要件違反も認められない。 11 争点7(原告に生じた損害)について(原告の主張) (1) 被告日本黒鉛工業についてア被告日本黒鉛工業の平成29年度3月期の売上総額は約70億円である。 被告製品1~5は,全製品45品目の約11パーセント以上の品目を占めるから,その年間売上げは,前記70億円に11パーセントを乗じた7億7000万円を下らない。 イそして,被告日本黒鉛工業の黒鉛製品の利益率は,売上の20パーセントを下らないと考えられるから,同被告が被告各製品の販売から得る年間利益は,前記7億7000万円に20%を乗じた1億5400万円を下らない。 ウ仮に本件特許1の登録日を基準とすると,被告は,少なくとも4年1月 以上の間,被告各製品を販売しているから,その利益総額は,前記1億5400万円に(4+1 1億5400万円を下らない。 ウ仮に本件特許1の登録日を基準とすると,被告は,少なくとも4年1月 以上の間,被告各製品を販売しているから,その利益総額は,前記1億5400万円に(4+1/12)を乗じた6億2883万円(四捨五入)を下らない。 (2) 被告日本黒鉛商事についてア被告日本黒鉛商事の平成29年度3月期の売上総額は約63億7400 万円である。被告製品1~5は,全製品45品目の約11パーセント以上の品目を占めるから,その年間売上は,前記63億7400万円に11パーセントを乗じた7億0114万円を下らない。 イそして,被告日本黒鉛商事の黒鉛製品の利益率は,売上の20パーセントを下らないと考えられるから,同被告が被告製品の販売から得る年間利 益は,前記7億0114万円に20%を乗じた1億4023万円(四捨五 入)を下らない。 ウ仮に本件特許1の登録日を基準とすると,被告は,少なくとも4年1月以上の間,被告製品を販売しているのであるから,その利益総額は,前記1億4023万円に(4+1/12)を乗じた5億7261万円(四捨五入)を下らない。 (被告らの主張)争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明の内容(1) 本件明細書等の発明の詳細な説明及び図面には,以下の記載がある(ただ し,本件発明1の明細書等の文言による。)。 ア技術分野「本発明は,簡便な方法によりグラフェンを得ることができるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材,これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法に関する。」(段落 【0001】)イ背景技術「グラファイトの層数の少ない等の高品質なグラフェンを得るために,天然黒鉛を溶媒(NMP)中 液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法に関する。」(段落 【0001】)イ背景技術「グラファイトの層数の少ない等の高品質なグラフェンを得るために,天然黒鉛を溶媒(NMP)中で弱い超音波を長時間(7~10時間)与えた後,底に沈殿した大きな塊を取り除き,その後,上澄みを遠心分離して 濃縮することにより,単層のフレークが20%以上,2層又は3層のフレークが40%以上,10層以上のフレークが40%未満の黒鉛材料が0. 5g/L程度分散したグラフェン分散液を得る方法が検討されている(特許文献2)。」(段落【0003】)ウ先行技術文献 「国際公開第2014/064432号(第19ページ第4行-第9行) (【特許文献2】,段落【0004】)「黒鉛の研磨に伴う構造変化;著:稲垣道夫,麦島久枝,細川健次;1973年2月1日(受理)」(【非特許文献1】,段落【0005】)「炭素加熱処理に伴う確率P1,PABA,PABCの変化;著:野田稲吉,岩附正明,稲垣道夫;1966年9月16日(受理)」(【非特許 文献2】,段落【0005】)「SpectroscopicandX-raydiffractionstudiesonfluiddepositedrhombohedralgraphitefromtheEasternGhatsMobileBelt, India;G.Parthasarathy, CurrentScience, Vol.90, No.7, 10 April 2006」(【非特許文献3】,段落【0005】) エ発明が解決しようとする課題「しかしながら,特許文献2に開示される方法で得られた黒鉛材料(単層のフレークが20%以上,2層又は3層のフレークが4 【非特許文献3】,段落【0005】) エ発明が解決しようとする課題「しかしながら,特許文献2に開示される方法で得られた黒鉛材料(単層のフレークが20%以上,2層又は3層のフレークが40%以上,10層以上のフレークが40%未満)を溶媒に混ぜても,溶媒に分散するグラフェンの分散量が少なく,希薄なグラフェン分散液しか得られなかった。 また,上澄みを集めて濃縮することも考えられるが上澄みを集めて濃縮する工程を繰り返すことは処理に時間がかかり,グラフェン分散液の生産効率が悪いという問題がある。特許文献2に開示されるように,天然黒鉛を長時間,超音波処理しても表面の弱い部分のみが剥離し,他の大部分は剥離に寄与しておらず,剥離されるグラフェン量が少ないことが問題である と考えられる。」(段落【0006】)「本発明は,このような問題点に着目してなされたもので,天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散させることができる黒鉛系炭素素材をグラフェン前駆体と呼び,このグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材,これを含有する グラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法を提供 することを目的とする。」(段落【0007】)オ課題を解決するための手段「前記課題を解決するために,本発明のグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は,菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,前記菱面 晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が31%以上であることを特徴とするグラフェン前駆体としている。 Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1) X線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が31%以上であることを特徴とするグラフェン前駆体としている。 Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)ここで, P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度である この特徴によれば,層が剥がれ易い菱面晶系黒鉛層(3R)が多く含まれるため,前駆体として用いたときにグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度または高分散させることができるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材が得られる。」(段落【0008】)「また,グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は, 菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が40%以上であることを特徴としている。 Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1) ここで, P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度 P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度である。 この特徴によれば,層が剥がれ易い菱面晶系黒鉛層(3R)が多く含まれるため,前駆体として用いたときにグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度または高分散させることができるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材が得られる。 また,グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は, 前記割合Rate(3R)が50%以上である 分散させることができるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材が得られる。 また,グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は, 前記割合Rate(3R)が50%以上であることを特徴としている。 この特徴によれば,割合Rate(3R)が50%以上であれば,40%以上50%未満のときよりもグラフェンが剥離しやすいグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を簡単に得ることができる。」(段落【0009】) 「上述に記載されたグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は,電波的力による処理と物理的力による処理とが真空または気中において施されて生成されたことを特徴としている。 この特徴によれば,真空または気中において天然黒鉛材料にマイクロ波,ミリ波,プラズマ,電磁誘導加熱(IH),磁場などの電波的力による処 理とボールミル,ジェットミル,遠心力,超臨界などの物理的力による処理とを併用することで,菱面晶系黒鉛層(3R)がより多く含まれる黒鉛系炭素素材が得られる。また,真空または気中において処理しているから後処理が簡単である。」(段落【0011】)カ発明を実施するための形態 「本発明は,黒鉛の結晶構造に着目したものであり,この結晶構造に関 連する事項を先ず説明する。天然黒鉛は層の重なり方によって六方晶,菱面体晶及び無秩序の3種類の結晶構造に区別されることが知られている。 図1に示されるように,六方晶は,層がABABAB・・の順に積層された結晶構造であり,菱面体晶は層がABCABCABC・・の順に積層された結晶構造である。」(段落【0020】) 「天然黒鉛は,発掘された段階では菱面体晶が殆ど存在しないが,精製段階で破砕など行われるため,一般的な天然黒鉛系炭素素材中には,菱 ・・の順に積層された結晶構造である。」(段落【0020】) 「天然黒鉛は,発掘された段階では菱面体晶が殆ど存在しないが,精製段階で破砕など行われるため,一般的な天然黒鉛系炭素素材中には,菱面体晶が14%程度存在する。また,精製時における破砕を長時間行っても,菱面体晶の比率は30%程度で収束することが知られている(非特許文献1,2)。 また,破砕などの物理的力以外でも加熱によって黒鉛を膨張させて薄片化する方法も知られているが,黒鉛に1600K(摂氏約1300度)の熱をかけて処理を行っても菱面体晶の比率は25%程度である。(非特許文献3)。更に超高温の摂氏3000度の熱をかけても30%程度までとなっている(非特許文献2)。 このように,天然黒鉛を物理的力や熱によって処理することで,菱面体晶の比率を増加させることが可能であるがその上限は30%程度である。」(段落【0021】)「天然黒鉛に多く含まれる,六方晶(2H)は非常に安定的で,そのグラフェン同士の層間のファンデルワールス力は,(式3)で示される(特 許文献2)。この力を超えるエネルギーを与えることでグラフェンが剥離する。剥離に必要なエネルギーは厚さの3乗に反比例するため,層が無数に重なった厚い状態では非常に微弱で超音波などの弱い物理的な力でグラフェンは剥離するが,ある程度薄い黒鉛から剥離する場合には非常に大きなエネルギーが必要となる。つまり,黒鉛を長時間処理しても,表面の弱 い部分のみが剥離し,大部分は剥離されないままになる。」(段落【00 22】)「Fvdw=H・A/(6π・t3) ・・・・(式3) Fvdw:ファンデルワールス力 H :Hamaker定数 A :黒鉛又はグラフェンの表面積 22】)「Fvdw=H・A/(6π・t3) ・・・・(式3) Fvdw:ファンデルワールス力 H :Hamaker定数 A :黒鉛又はグラフェンの表面積 t :黒鉛又はグラフェンの厚み」(段落【0023】)「本願の発明者らは,天然黒鉛に下記に示すような所定の処理を施すことで,粉砕や超高温に加熱する処理では30%程度までしか増えない菱面体晶(3R)の割合を,40%以上まで増加させることに成功した。黒鉛系炭素材料の菱面体晶(3R)の含有率がより多くなると,特に40%以 上の含有率であると,この黒鉛系炭素素材を前駆体として用いることで,グラフェンに剥離しやすくなる傾向があり,簡単に高濃度,高分散度されたグラフェン溶液などが得られることが実験・研究の結果として知見として得られた。これは,菱面体晶(3R)にせん断などの力が加わった際に,層間に歪みが生じ,つまり黒鉛の構造全体の歪みが大きくなり,ファンデ ルワールス力に依存せずに,剥離しやすくなるためであると考えられる。 このため,本発明においては,天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散させることができる黒鉛系炭素素材をグラフェン前駆体と呼び,以下,後述の実施例において,所定の処理を示すグラフェン前駆体の製造方法,グラフェン前駆体の結晶 構造,グラフェン前駆体を用いたグラフェン分散液の順に説明する。」(段落【0024】)キ実施例1(ア) グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材の製造について「図3に示されるジェットミルとプラズマとを用いた製造装置Aによ り,グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を得る方法につ いて説明する。製造装置Aは,電波的 材の製造について「図3に示されるジェットミルとプラズマとを用いた製造装置Aによ り,グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を得る方法につ いて説明する。製造装置Aは,電波的力による処理としてプラズマを施し,また,物理的力による処理としてジェットミルを用いた場合を例にしている。」(段落【0027】)「図3において,符号1は5mm以下の粒子の天然黒鉛材料(日本黒鉛工業製 鱗片状黒鉛ACB-50),2は天然黒鉛材料1を収容するホッパー,3はホッパー2から天然黒鉛材料1を噴射するベンチュリーノズル,4はコンプレッサ5から8箇所に分けて圧送された空気を噴射させ て天然黒鉛材料をジェット噴流によりチャンバ内に衝突させるジェットミル,7はタンク6から酸素,アルゴン,窒素,水素などのガス9をノズル8から噴射させるとともに,ノズル8の外周に巻回されたコイル11に高圧電源10から電圧を付与し,ジェットミル4のチャンバ内でプラズマを発生させるプラズマ発生装置であ り,チャンバ内に4カ所に設けてある。13はジェットミル4と集塵器14とを接続する配管,14は集塵器,15は収集容器,16は黒鉛系炭素素材(グラフェン前駆体),17はブロアである。」(段落【0028】)「次に製造方法について説明する。ジェットミル及びプラズマの条件 は次のとおりである。ジェットミルの条件は次のとおりである。 圧力 : 0.5MPa風量 : 2.8m3/minノズル内直径 :12mm流速 : 約410m/s プラズマの条件は次のとおりである。 【図3】 出力 : 15W電圧 : 8kVガス種 : Ar(純度99.999Vol%)ガス流量:5L/min」(段落【00 プラズマの条件は次のとおりである。 【図3】 出力 : 15W電圧 : 8kVガス種 : Ar(純度99.999Vol%)ガス流量:5L/min」(段落【0029】)「ベンチュリーノズル3よりジェットミル4のチャンバ内に投入され た天然黒鉛材料1は,チャンバ内で音速以上に加速され,天然黒鉛材料1同士や壁にぶつかる衝撃で粉砕されると同時に,プラズマ12が天然黒鉛材料1に対して放電や励起することで,原子(電子)に直接作用し,結晶の歪みを増し粉砕を促すと考えられる。天然黒鉛材料1はある程度の粒径(1~10μm程度)まで微粉になると,質量が減り,遠心力が 弱まることで,チャンバの中心に接続された配管13から吸い出される。」(段落【0030】)「配管13から集塵器14のチャンバの円筒容器に流入された黒鉛系炭素素材(グラフェン前駆体)が混在した気体は旋回流となって,容器内壁に衝突した黒鉛系炭素素材16を下方の収集容器15に落下させる とともに,チャンバの下方のテーパ容器部によってチャンバの中心に上昇気流が発生し気体はブロワ17から排気される(所謂サイクロン作用)。本実施例における製造装置Aによれば,原料となる1kgの天然黒鉛材料1から約800gのグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材(グラフェン前駆体)16を得た(回収効率:8割程度)。」 (段落【0031】)「次に,図4に示されるボールミルとマイクロ波とを用いた製造装置Bにより,グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を得る方法について説明する。製造装置Bは,電波的力による処理としてマイクロ波を施し,また,物理的力による処理としてボールミルを用いた場合 を例にしている。」(段落【0032】) 材を得る方法について説明する。製造装置Bは,電波的力による処理としてマイクロ波を施し,また,物理的力による処理としてボールミルを用いた場合 を例にしている。」(段落【0032】) 「図4(a)及び(b)において,符号20はボールミル,21はマイクロ波発生装置(マグネトロン),22は導波管,23はマイクロ波流入口,24はメディア,25は5mm以下の粒子の天然 黒鉛材料(日本黒鉛工業製鱗片状黒鉛ACB-50),26は収集容器,27はフィルタ,28は黒鉛系炭素素材(グラフェン前駆体)である。」(段落【0033】) 「次に製造方法について説明する。ボールミル及びマイクロ波発生装置の条件は次のとおりである。ボールミルの条件は次のとおりである。 回転数 : 30rpmメディアサイズ: φ5mmメディア種 : ジルコニアボール 粉砕時間 :3時間マイクロ波発生装置(マグネトロン)の条件は次のとおりである。 出力 : 300W周波数 : 2.45GHz照射方法 :断続的」(段落【0034】) 「ボールミル20のチャンバ内に1kgの天然黒鉛系炭素原料25と,800gのメディア24を投入し,チャンバを閉じ30rpmの回転数で3時間処理する。この処理中にチャンバにマイクロ波を断続的(10分おきに20秒)に照射する。このマイクロ波の照射により,原料の原子(電子)に直接作用し,結晶の歪みを増やすと考えられる。処理後, フィルタ27でメディア24を取り除くことで,10μm程度の粉体の 【図4】 黒鉛系炭素素材(前駆体)28を収集容器26に収集することができる。」(段落【0035】)(イ) 黒鉛系炭素素材(前駆体)のX線回折プロファイルについて「図 度の粉体の 【図4】 黒鉛系炭素素材(前駆体)28を収集容器26に収集することができる。」(段落【0035】)(イ) 黒鉛系炭素素材(前駆体)のX線回折プロファイルについて「図5-図7を参照して,製造装置A,Bにより製造された黒鉛系天然材料(試料6,試料5)及び製造装置Bのボールミルのみを用いて得 た10μm程度の粉体の黒鉛系天然材料(試料1:比較例)のX線回折プロファイルと結晶構造について説明する。各試料は,X線回折法(リガク社製試料水平型多目的X線回折装置UltimaIV)によれば,それぞれ六方晶2Hの面(100),面(002),面(101),及び菱面体晶3Rの面(101)にピーク強度P1,P2,P3,P4を示すこと からこれらについて説明する。」(段落【0036】)「ボールミルによる処理とマイクロ波処理を施す製造装置Bにより製造された試料5は,図5及び表1に示されるように,ピーク強度P3やピーク強度P1の強度の割合が高く,P3のP3とP4の和に対する割合を示す(式1)で定義されるRate(3R)が46%であった。また,強度 比P1/P2は0.012であった。 Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)ここで, P1は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(100)面のピーク強度 P2は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(002)面のピーク強度 P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピ ーク強度である。」(段落【0037】) 【図5】【表1】「同様に,ジェットミルによる処理とプラズマによる処理を施す製造装置A (2H)のX線回折法による(101)面のピ ーク強度である。」(段落【0037】) 【図5】【表1】「同様に,ジェットミルによる処理とプラズマによる処理を施す製造装置Aにより製造された試料6は,図6及び表2に示されるように,ピーク強度P3やピーク強度P1の強度の割合が高く,Rate(3R)が51%であった。また,強度比P1/P2は0.014であった。」(段落【0039】) 【図6】【表2】「また,ボールミルのみにより製造された比較例を示す試料1は,図7及び表3に示されるように,ピーク強度P3は試料5,6に比較して その割合が小さく,Rate(3R)は23%であった。また,強度比P1/P2は0.008であった。」(段落【0041】) 【図7】【表3】「このように,実施例1の製造装置Bにより製造された試料5,実施例1の製造装置Aにより製造された試料6では,Rate(3R)が,46%,51%となり,図2に示す天然黒鉛や,比較例を示す試料1に 比較して,40%以上または50%以上となることが示された。…」(段落【0043】)(ウ) グラフェン分散液について「グラフェン分散液の作成方法について図8を参照して説明する。図 8においては,グラフェン分散液の作成する際に,液中にて超音波処理とマイクロ波処理とを併用する場合を例にしている。 (1)ビーカー40にグラフェン前 駆体として用いられる黒鉛系炭素素材0.2gと分散液であるN-メチルピロリドン(NMP)200mlを入れる。 (2)ビーカー40をマイクロ波発生装置43のチャンバ42に入れ, 【図8】 上方から超音波ホーン44の超音波の振動子44Aを分散液41に挿入する。 (3)超音 200mlを入れる。 (2)ビーカー40をマイクロ波発生装置43のチャンバ42に入れ, 【図8】 上方から超音波ホーン44の超音波の振動子44Aを分散液41に挿入する。 (3)超音波ホーン44を作動させ20kHz(100W)の超音波を連続的に3時間付与する。 (4)上記超音波ホーン44を作動させている間に,マイクロ波発生装 置43を作動させマイクロ波2.45GHz(300W)を断続的(5分おきに10秒照射)に付与する。」(段落【0044】)「図9は上述のようにして作成されたグラフェン分散液が24時間経過した様子である。 製造装置Bにより製造された試料5を用いたグラフェン分散液30は 一部沈殿しているものの全体が黒色を呈するものが確認された。これは,グラフェン前駆体として用いた黒鉛系炭素素材の多くがグラフェンに剥離した状態で分散していると考えられる。 比較例を示す試料1を用いた分散液31は黒鉛系炭素素材のほとんどが沈殿しており,一部が上澄み液として浮いていることが確認された。 このことから,ごく一部がグラフェンに剥離し,上澄みとして浮いていると考えられる。」(段落【0045】)「また,上述のようにして作成されたグラフェン分散液を資料台(TEMグリッド)の上に観察可能な濃 度に希釈・塗布し,乾燥させて,透過型電子顕微鏡(TEM)の図10に示すような撮像画からグラフェンのサイズと層数を観察した。なお,試料1については上澄みを希釈・塗布したものを用いた。例えば,図10の場合,図10(a)からサイズ はフレーク33の最大の長さLであり約600nm,図10(b)から【図9】 層数はフレーク33の端面を観察しグラフェン層の重なりをカウントし6層(符号34が指す領域)として求 イズ はフレーク33の最大の長さLであり約600nm,図10(b)から【図9】 層数はフレーク33の端面を観察しグラフェン層の重なりをカウントし6層(符号34が指す領域)として求めた。このように各フレーク(フレーク数をNとする)のサイズと層数を測定して,図11,図12に示すグラフェン層数と大きさを求めた。」(段落【0046】) 【図10】「図11(a)を参照し,実施例1の製造装置Bにより製造された試 料5(Rate(R3)が46%)のグラフェン分散液に含まれた薄片状のフレークの粒度分布(サイズの分布)は,0.5μmをピークとする分布であった。また,図11(b)において,層数は,3層をピークとし,10層以下のグラフェンが68%となる分布であった。 図12を参照して,比較例の試料1(Rate(R3)が23%)の 分散液に含まれた薄片状のフレークの粒度分布(サイズの分布)は,0. 9μmをピークとする分布であった。また,層数は,30層以上のものが大部分を占め,10層以下のグラフェンが10%となる分布であった。 この結果から,製造装置Bにより製造された試料5のものは,グラフェン前駆体として用いた場合に,10層以下のグラフェンが多く,グラ フェンの分散性に優れ,かつ,高濃度のグラフェン分散液を得られるこ とが分った。」(段落【0047】) 【図11】【図12】 【図13】「次に,図13を参照して,グラフェン前駆体の割合Rate(3R) とグラフェン分散液における層数の関係について説明する。図13における,試料1,5,6は上述したものである。試料2,3,4は,ボールミルによる処理とマイクロ波処理とを施す製造装置Bで製造したものであり,試料5よりもマイクロ波の照射時間 ついて説明する。図13における,試料1,5,6は上述したものである。試料2,3,4は,ボールミルによる処理とマイクロ波処理とを施す製造装置Bで製造したものであり,試料5よりもマイクロ波の照射時間を短くして製造したグラフェン前駆体を用いてグラフェン分散液を作成したものである。また,試 料7はジェットミルによる処理とプラズマ処理とを施す製造装置Aで製造したものであり,試料6よりも高出力のプラズマを与えて製造したグラフェン前駆体を用いてグラフェン分散液を作成したものである。」(段落【0048】)「図13から,Rate(3R)が40%以上の試料4-7は,層数 の分布の形状が数層(薄いグラフェン)の部分にピークを有する所謂対数正規分布の形状である。一方,Rate(3R)が40%未満の試料1-3は,層数が30層以上の部分にピークを有する形状(試料1を用いた分散液)や正規分布に近い形状(試料2,3を用いた分散液)である。すなわち,Rate(3R)が40%以上となると,層数の分布の 形状が40%未満とは明らかに異なる傾向となることが分かる。また,10層以下のグラフェンの割合は,試料3を用いた分散液のRate(3R)が38%であるのに対し,試料4を用いた分散液のRate(3R)が62%であり,Rate(3R)が40%以上となると,10層以下のグラフェンの割合が急増していることが分かる。」(段落 【0049】)「これらのことから,Rate(3R)が40%以上の場合に10層以下のグラフェンに剥離しやすくなり,さらに,Rate(3R)が50%,60%と多くなるにつれ,10層以下のグラフェンにさらに剥離し易くなり,逆に40%未満では10層以下のグラフェンに剥離しにく いと考えられる。また,強度比P1/P2について着目す )が50%,60%と多くなるにつれ,10層以下のグラフェンにさらに剥離し易くなり,逆に40%未満では10層以下のグラフェンに剥離しにく いと考えられる。また,強度比P1/P2について着目すると,試料2 -試料7は,比較的狭い0.012~0.016の範囲内の値となっており,結晶構造にゆがみが生じグラフェンに剥離しやすいと考えられる0.01を超えるからいずれも好ましい。」(段落【0050】)「さらにRate(3R)と10層以下のグラフェンが含ま れる割合との対比を行った結果を図14に示す。図14を参照すると,Rate(3R)は,25%以上となると10層以下のグラフェンが増加し始め(右 肩上がりの傾きとなり),また40%前後において,10層以下のグラフェンが急増し(10層以下のグラフェンの割合は,試料3を用いた分散液のRate(3R)が38%であるのに対し,試料4を用いた分散液のRate(3R)が62%であり,Rate(3R)が4%増えることにより10層以下のグラフェンの割合は24%増えるように急増し) かつ全体に占める10層以下のグラフェンが50%以上となることが判明した。なお,図14中の黒四角の点は各々異なる試料であり,上述した試料1-7と,それ以外の他の試料も含まれている。」(段落【0051】)「このことから,Rate(3R)が40%以上の試料をグラフェン 前駆体として用いてグラフェン分散液を作成すると,10層以下のグラフェンが50%以上生成される。すなわち,グラフェンが高濃度かつ高分散のグラフェン分散液を得ることができる。また,上述したように,この分散液に含まれる黒鉛系炭素素材(前駆体)はほとんど沈殿しないから,簡単に濃いグラフェン分散液を得ることができる。この方法によ グラフェン分散液を得ることができる。また,上述したように,この分散液に含まれる黒鉛系炭素素材(前駆体)はほとんど沈殿しないから,簡単に濃いグラフェン分散液を得ることができる。この方法によ り,濃縮することなしに,グラフェンの濃度が10%を超えるグラフェ 【図14】 ン分散液を作成することもできた。なお,10層以下のグラフェンが分散する割合は50%未満と少ないものの,Rate(3R)が25%以上40%未満のものは,10層以下のグラフェンが分散される割合が増えるという観点から好ましい。」(段落【0052】)「また,Rate(3R)の上限は40%以上で特に規定する必要は ないと考えるが,強度比R1/R2が0.01以上を同時に満たすようにすることが,分散液等を作成する場合にグラフェンに分離しやすいことから好ましい。なお,製造装置A,Bを用いた製造方法の場合には,グラフェン前駆体を製造がし易いという観点からは,上限は70%程度である。また,製造装置Aのジェットミルによる処理とプラズマ処理と を併用する方法の方が,Rate(3R)が高いものを容易に得ることからより好ましい。なお,物理的力による処理と電波的力による処理を併用して,Rate(3R)が40%以上となっていればよい。」(段落【0053】)ク実施例2 「実施例1では,グラフェン分散液を得る際に,超音波処理とマイクロ波処理とを併用する場合について説明したが,実施例2では,超音波処理のみを行いマイク ロ波処理は行っておらず,その他の条件は実施例1と同様である。 図15(b)は,製造装置Bで製造した試料5(Rate(3R)=46%)のグラフェン前駆 体を用い超音波処理を施して得ら 【図15】 れたグラフェン分 施例1と同様である。 図15(b)は,製造装置Bで製造した試料5(Rate(3R)=46%)のグラフェン前駆 体を用い超音波処理を施して得ら 【図15】 れたグラフェン分散液の層数の分布を示す。なお,図15(a)は実施例1の製造装置Bにより製造された試料5の図11(b)に示される分布と同じである。 その結果,層数の分布の傾向は概ね同様であるが,10層以下のグラフェンの割合は64%であり,実施例1の68%に比較し,少し低下してい る。このことから,グラフェン分散液を作成する際は物理的力と電波的力の処理を2つ同時に行った方がより効果があることが判明した。」(段落【0054】)(2) 本件各発明の意義前提事実記載の特許請求の範囲及び本件明細書等の上記記載によれば,本 件各発明は,①簡便な方法によりグラフェンを得ることができるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材に係る発明であり,②従来の黒鉛材料においては,溶媒に分散するグラフェン分散量が少なく,また,グラフェン分散液の生産効率が悪いという課題を解決するため,③これをRate値を31%以上又は40%以上とする黒鉛系炭素素材とすることにより,④グ ラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散させることができるという効果を奏するものであるということができる。 2 争点1(被告製品3の構成要件A,B-1及びB-2の充足性)について当裁判所は,後記4のとおり,本件各発明は,特許出願の前に日本国内において公然実施された発明として,無効事由を有すると判断するが,その前提と して,まず,被告各製品の構成要件充足性(争点1及び2)について判断する。 (1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告製品3のRate値は,原告の測定及び解 を有すると判断するが,その前提と して,まず,被告各製品の構成要件充足性(争点1及び2)について判断する。 (1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告製品3のRate値は,原告の測定及び解析によれば,原告の入手したサンプルについて,45.8%と計算され(甲8の2),被告らの測定及び解析によれば,被告らの選択した同一ロットから得た別々の試料ごとに,49.07%,31.82%,71.4 6%と計算されたことを認めることができる(乙10)。 これらの数値は,いずれも31%以上であるから,被告製品3は,少なくとも構成要件B-1を充足すると認められる。また,前記の測定結果及び弁論の全趣旨によれば,被告製品3が,「菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)」とを有することは明らかであるから,被告製品3は構成要件Aを充足する。 (2) これに対し,被告らは,被告らによる前記解析結果に大きなばらつきが生じたことを根拠に,被告製品3に係るRate値には再現性がないとして,構成要件A,B-1及びB-2の充足性を争う。 しかし,上記のとおり,被告製品3のRate値については,原告の入手したサンプル及び被告ら自身が選択した同一ロットの複数の試料について, 第三者機関で測定されたRate値の測定結果は,いずれも31%を超えていたことに照らすと,その数値にばらつきがあるとしても,同製品が少なくとも構成要件B-1を充足するとの結論を左右しない。 (3) 以上のとおり,被告製品3は,少なくとも構成要件A,B-1を充足する。 3 争点2(被告各製品の構成要件Cの充足性)について(1) 本件各発明の構成要件Cにいう「グラフェン前駆体」が,本件明細書等の段落【0007】にいう「天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェン 3 争点2(被告各製品の構成要件Cの充足性)について(1) 本件各発明の構成要件Cにいう「グラフェン前駆体」が,本件明細書等の段落【0007】にいう「天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散することができる黒鉛系炭素素材」を意味することは当事者間に争いがない。 本件明細書等の段落【0008】及び同【0009】には,本件各発明の構成要件A,B-1及びB-2を充足する黒鉛系炭素素材は,「層が剥がれ易い菱面晶系黒鉛層(3R)が多く含まれるため,前駆体として用いたときにグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度または高分散させることができるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材が得られる。」 と記載されているところ,本件において,被告各製品が少なくとも構成要件 Aを充足し,更に同B-1又は同B-2を充足するものと認められる。 そうすると,被告各製品は,「グラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散することができる」との特徴を有するものであると推認され,これを覆すに足りる証拠はない。 (2) 被告らは,本件各発明の構成要件Cにいう「グラフェン前駆体」とは,電 波的力による処理と物理的力による処理の併用という「所定の処理」により生成されたものに限定されるべきであり,電波的力による処理をされていない被告各製品は同構成要件を充足しないと主張する。 しかし,本件各発明の構成要件Cは「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」であって,その製造過程における処理方法について何ら限 定をしていない。被告らの指摘する本件明細書等の段落【0024】に記載された,電波的力による処理と物理的力による処理を併用するという処理方法は,実施例として記載されている 方法について何ら限 定をしていない。被告らの指摘する本件明細書等の段落【0024】に記載された,電波的力による処理と物理的力による処理を併用するという処理方法は,実施例として記載されているにすぎず,これをもって,構成要件Cの「グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材」が,かかる処理方法により製造されたものに限定されると解することはできない。 (3)ア被告らは,土状黒鉛を原材料とする被告製品1及び2は,「所定の処理」をする前の「原鉱石」の段階からそのRate値が30%を優に超えているので,本件各発明の技術的範囲に属さないと主張する。 しかし,被告らの主張によっても,被告らのいう「原鉱石」とは,加熱温度300度程度の乾燥処理をし,大きさを5mm以下程度にする粗 砕工程を経たものであるというのであるから,一定の精製工程を経たものであり,本件明細書等の段落【0021】にいう「発掘された段階」にあるものということはできない。 イまた,被告らは,一般的に,土壌黒鉛は容易に剥離してグラフェンを生成することができるので,菱面体晶の割合であるRate値が所定の値以 上であることとグラフェンに剥離しやすいという作用効果とは無関係であ ると主張する。 しかし,被告らの上記主張は,土状黒鉛が容易に剥離しやすいという一般的な性質をいうにすぎず,土状黒鉛を材料として利用すれば,菱面体晶の割合であるRate値にかかわらず,本件各発明と同程度のグラフェンへの剥離性やグラフェン分散溶液の濃度が得られると認めるに足りる証拠 はない。 したがって,本件各発明の作用効果が菱面体晶の割合とは無関係に実現されるという被告らの主張は理由がない。 (4) 被告らは,被告製品5は人造黒鉛に分類されるものであるから,構成要件Cを はない。 したがって,本件各発明の作用効果が菱面体晶の割合とは無関係に実現されるという被告らの主張は理由がない。 (4) 被告らは,被告製品5は人造黒鉛に分類されるものであるから,構成要件Cを充足しないと主張する。 前記のとおり,本件各発明の構成要件Cにいう「グラフェン前駆体」は「天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく,グラフェンを高濃度又は高分散することができる黒鉛系炭素素材」を意味するところ,証拠(乙87,88)によれば,被告製品5に関する生産工程表の「原鉱受入」の「材料名」欄には,「人造黒鉛以下,SPと呼ぶ」と記載されてお り,これによれば,同製品の材料は人造黒鉛であると認めるのが相当である。 これに対し,原告は,被告製品5が,被告らのカタログ(甲5)において「人造黒鉛粉末」に分類されていないことを指摘するが,当該カタログは,黒鉛製品を「一般黒鉛粉末」,「高純度黒鉛粉末」などに大分類した上,「一般黒鉛粉末」の細分類として,「人造黒鉛粉末」とのカテゴリを設けて いるのであり,被告製品5が属する「高純度黒鉛粉末」の大分類は,製品数が少ないため,それ以上の細分類をしていないものと理解し得る。そうすると,同カタログにおいて被告製品5が「人造黒鉛粉末」に分類されていないとしても,そのことから,同製品の材料が天然黒鉛であると推認することはできず,他に同製品の材料として天然黒鉛が用いられていると認めるに足り る証拠はない。 なお,原告は,被告製品5を「SP-5030」の名称で特定しているところ,被告らは,原告が解析したサンプルは「SP-5030-α」(甲6の5)であると指摘するが,被告らの説明によれば,「SP-5030-α」の製造工程は,「SP-5030」の製造工程に磁選工程を加え ころ,被告らは,原告が解析したサンプルは「SP-5030-α」(甲6の5)であると指摘するが,被告らの説明によれば,「SP-5030-α」の製造工程は,「SP-5030」の製造工程に磁選工程を加えたにすぎないというのであり(被告第4準備書面・5頁),これによれば,被告製品5 と原告が解析したサンプルの差違は上記結論を左右しないというべきである。 (5) 以上のとおり,被告製品1~4は,本件各発明の構成要件Cを充足し,被告製品5は,これを充足しない。 4 争点3(被告らによる先使用及び公然実施)について前記2及び3によれば,被告製品1及び2は本件各発明の技術的範囲に属し, 同製品3及び4は本件発明1の技術的範囲に属することとなるところ,以下,本件各発明について被告らが公然実施をしており,同各発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるかどうかについて検討する。 (1) 認定事実ア被告らは,本件各出願以前から,被告製品1,2及び4(「青P」, 「AP」及び「J-CPB」)と名称を同一にする黒鉛製品を製造・販売しており,2013年(平成25年)2月に被告日本黒鉛商事が作成した製品カタログには,当該名称の黒鉛製品が掲載されている。(乙7,乙140〔2頁〕)上記カタログにおける「青P」,「AP」及び「J-CPB」の製品カ テゴリ上の分類(「青P」及び「AP」について「一般黒鉛粉末」のうち「土状黒鉛粉末」に分類,「J-CPB」について「一般黒鉛粉末」のうち「CPシリーズ」に分類)並びに「固定炭素分」,「灰分」,「揮発分」及び「平均粒径」などの評価項目は,同社作成に係る2018年(平成30年)2月付けのカタログと同一である。(乙42) イ日本工業規格は,「天然黒鉛の工業分析及 素分」,「灰分」,「揮発分」及び「平均粒径」などの評価項目は,同社作成に係る2018年(平成30年)2月付けのカタログと同一である。(乙42) イ日本工業規格は,「天然黒鉛の工業分析及び試験方法」(JISM 8511)として,水分,揮発分,灰分及び固定炭素の項目の定量方法や粒度の試験方法を定めている。(乙46)被告らは,上記各製品について,カタログ上の数値とは別に,固定炭素分,灰分,揮発分,粒径などの社内規格を定めていたが,その数値は,本件各出願後,測定機器を更新したことに伴う変更のほかは,「J-CPB」 について,見掛密度に係る規格を「0.07~0.12」から「0.08~0.12」とし(g/25㎤),「嵩比重」に係る規格を新たに追加する変更がされたのみであった。(乙47,48,50)。 また,被告らは,前記の製品について,平成18年6月15日付けで生産工程表を作成しており,本件各出願前の時期に,「J-CPB」の「第 2分級,第4分級」を削除するなどの改訂を加えたが,遅くとも工程表が作成された以降,その「②分級・粉砕工程」に「第1分級機」又は「3号C-JM」と称する粉砕機を用いることに変更はなかった。(乙57)これらの製品について,原告が提出する製品検査表と本件各出願前の発行日付を有する製品検査表の数値を比較すると,以下のとおり,前記の規 格を満たすものであった(甲6,乙43~45)。 製品名評価項目出願前出願後青P(被告製品1)出願前:乙43出願後:甲6の1発行日付2014/4/142017/9/8固定炭素分(%)96.6596.5495.7395.98灰分(%)2.602.603.693.49揮発分(%) 付2014/4/142017/9/8固定炭素分(%)96.6596.5495.7395.98灰分(%)2.602.603.693.49揮発分(%)0.750.860.580.53平均粒径(μm)---11.76AP(被告製品2)発行日付2014/6/242017/9/8固定炭素分(%)96.8996.72灰分(%)2.532.76 出願前:乙44出願後:甲6の2揮発分(%)0.580.52空気透過法秒数 J-CPB(被告製品4)出願前:乙45出願後:甲6の4発行日付2011/3/42018/5/8固定炭素分(%)98.5399.07灰分(%)0.970.53揮発分(%)0.500.40平均粒径(μm)5.395.85ウ被告日本黒鉛工業は,概ね10年に1回の頻度で,自社製品の物性確認のため,サンプルを採取し,分析残量を保管している。それらのうち,平成20年6月12日採取の「青P」,平成13年10月3日採取の「AP」,平成20年6月12日採取の「J-CPB」は,現在まで保管されている。(乙55,乙140〔5,6頁〕) そして,被告らは,本件訴訟が提起された後,兵庫県立工業技術センターに対し,現行の被告各製品の試料と併せ,保管されていたサンプルなどについて,X線回折法による測定解析を依頼した。そのRate値の計算結果を整理すると,以下の表の左欄(本件各出願前)及び右欄(現行製品)のとおりとなる。(乙10)。 品名試料(本件各出願前)P3(43°)P4(44°) 値の計算結果を整理すると,以下の表の左欄(本件各出願前)及び右欄(現行製品)のとおりとなる。(乙10)。 品名試料(本件各出願前)P3(43°)P4(44°)Rate値(%)試料(現行製品)P3(43°)P4(44°)Rate値(%)青P2008年①39146528188.119010 ②29028420887.34①301373050149.70③315643371348.35②38403593686.61④228431607958.69③42675734985.31⑤41102634686.63 ①45170430191.31①210751907252.49 AP2001年②43175386691.788005②334031684066.48③31801355589.95③190401442356.90J-CPB2008年①138292829832.839063 ②116882348133.23①126251984338.88③129742628633.05②129172359935.37④134252775232.60③121012383433.67⑤122032462033.14 (2) 検討ア前記前提事実及び前記認定事実アによれば,被 775232.60③121012383433.67⑤122032462033.14 (2) 検討ア前記前提事実及び前記認定事実アによれば,被告らは,遅くとも本件各出願前の時期である平成25年2月頃から現在に至るまで,現在の被告製品1,2及び4と同一の製品名を付した黒鉛製品を製造し,それぞれ一般に販売してきたということができる。 イまた,前記認定事実イによれば,それらの製品については,本件各出願前に,①固定炭素分,灰分,揮発分,粒径などの規格が定められ,②分級・粉砕工程に使用する粉砕機の種類を含め,製造工程が文書化され,その後,それらに特段の変更はなかったと認められる。 ウそして,①日本工業規格の「天然黒鉛の工業分析及び試験方法」(乙 46)及び弁論の全趣旨によれば,前記の固定炭素分,灰分,揮発分,粒径などの数値は,天然黒鉛の基本的な特性に係るものであり,②甲7の2論文,乙56及び弁論の全趣旨によれば,前記の粉砕機の種類など,天然黒鉛の粉砕方法や粉砕機構は,Rate値に直結する菱面体晶系の割合に影響する要素となるものであることを認めることができる。 エ加えて,前記認定事実ウのとおり,被告製品1,2及び4と同一の製品名の製品については,本件各出願前の時期であり,前記の規格や工程が定められた前後の時期に採取されたサンプルが存在しており,被告製品1及び2と同一の製品名のサンプルは,現在の被告製品1及び2と同 様に,構成要件B-1及びB-2を充足するRate値をとり,被告製品4と同一の製品名のサンプルは,現在の被告製品4と同様に,構成要件B-1を充足するRate値をとることを認めることができる。 オ以上によれば,遅くとも本件各出願前の時点から現在に至 とり,被告製品4と同一の製品名のサンプルは,現在の被告製品4と同様に,構成要件B-1を充足するRate値をとることを認めることができる。 オ以上によれば,遅くとも本件各出願前の時点から現在に至るまで,被告らが製造・販売する被告製品1,2と同一の製品名の製品のRate 値は,構成要件B-1及びB-2を充足し,被告製品4の製品名を付された製品のRate値は,構成要件B-1を充足していたものと推認するのが相当である。 (3) 上記認定事実に関する原告の主張についてア原告は,前記認定事実の根拠となる製品検査表,生産工程表などの書証 の成立の真正や証拠価値を争う。 しかし,原告は,改ざん等の抽象的な可能性を指摘するにすぎず,具体的に上記書証が改ざん等されたことをうかがわせる証拠はない。これらの書証の形式や体裁に特に不審な点は見当たらず,その記載内容も自然に理解し得るものであって,上記認定事実のとおりの事実を認定するのが相当 である。 イ原告は,製品規格の範囲内にあるとしても,評価項目の数値が異なるのであるから,同じ品名・品番の製品であるからといって,そのRate値が一定であるとは限らないと主張する。 しかし,品名・品番が同一であることは,途中で変更が加えられない限 り,その基本的な特性が同一であることを推認させる事情であるということができるところ,本件においては,同一品名・品番の製品の基本的な特性について変更が加えられたことをうかがわせる証拠はない。かえって,前記判示にかかる評価項目に係る数値の近似性,天然黒鉛の粉砕方法等の同一性,上記各製品のサンプルのRate値の測定結果などを総合すると, 本件各出願の前後を通じて,被告製品1及び2のRate値は構成要件B -1及びB-2を,被告製品4のR 粉砕方法等の同一性,上記各製品のサンプルのRate値の測定結果などを総合すると, 本件各出願の前後を通じて,被告製品1及び2のRate値は構成要件B -1及びB-2を,被告製品4のRate値は構成要件B-1をそれぞれ充足すると認めるのが相当である。 ウ原告は,前記認定事実ウに関し,被告らが測定の対象としたサンプルが,当時から保管されていたサンプルであることを争う。 しかし,製品のサンプルが長期保管されることは十分に想定し得ること であり,乙55の写真の存在及び同写真に写されたサンプルの保管状況にも特に不審な点は見当たらない。そして,被告日本黒鉛工業が,自社が製造・販売する製品の物性確認のため,概ね10年に1回の頻度で,自社製品のサンプルを採取し,その分析残量を保管している旨の別件訴訟におけるAの証言の内容も合理的で信用し得るというべきであり,これを覆すに 足りる証拠は存在しない。 エ原告は,被告らが,本件各出願前からX線回折法による製品の測定をしていたにもかかわらず,その測定結果を隠匿したと主張する。 しかし,当該証言は,被告らの製品の基本的な物性を調べるため,X線回折法による測定をしたというものであり(乙140・1頁),その測定 結果も,ピークをグラフ化したものが保管されていたにすぎず(乙147),Rate値を測定するための個別の数値が記録され,被告らがこれを隠匿していたことをうかがわせる証拠はない。 オ原告は,本件各出願前のサンプルのRate値とされるものは,被告らが,適切な解析条件を設定せずにした解析に基づくものであり,被告らも これを認めている(乙122)などと主張する。 しかし,上記サンプルの分析を行ったのは,上記(1)ウのとおり,この分野に専門性を有する兵庫県立工業技術セン た解析に基づくものであり,被告らも これを認めている(乙122)などと主張する。 しかし,上記サンプルの分析を行ったのは,上記(1)ウのとおり,この分野に専門性を有する兵庫県立工業技術センターであり,その研究員の説明(乙122)に不合理な点はなく,手動で解析条件の設定をせず,解析ソフトウェアの自動解析機能を利用したからといって,その解析結果を当 然に採用し得ないとする理由はない。 (4) 公然実施の成否に関する原告の主張についてア原告は,被告らは,本件各出願前に被告製品1,2及び4を販売した相手方との間に,その原材料に関する技術的事項について秘密保持契約を締結したと考えられるから,公然実施は成立しないと主張する。 しかし,被告製品1,2及び4は,導電材や導電塗料などに用いる黒鉛 粉末であり,その転売が禁じられていたともうかがえないものであり(乙7),これを購入した相手方において,それらの製品のような黒鉛粉末の物性に係る秘密を保持すべき義務を負うとは考え難い。実際のところ,被告らがそのような義務を課した秘密保持契約を取引先と締結していたと認めるに足りる証拠はない。 これに対し,原告は,基本契約書の実例(甲85)を証拠として提出するが,同契約書は「相手方の技術情報および営業上の秘密情報」に係る秘密保持を定めるのみであり(38条),被告が提出する基本契約書の実例(乙143)も「業務上の機密」を秘密保持の対象とするにすぎない(9条)。 また,原告は,被告日本黒鉛工業と締結した平成25年10月31日付け機密保持契約書(甲96)を提出するが,当該契約書は,「共同技術開発」などの「検討」に係る契約書であり(1条),製品の販売先が秘密保持義務を負うことの根拠となるものではなく,被告製品1,2及び4 け機密保持契約書(甲96)を提出するが,当該契約書は,「共同技術開発」などの「検討」に係る契約書であり(1条),製品の販売先が秘密保持義務を負うことの根拠となるものではなく,被告製品1,2及び4のように一般に販売される黒鉛粉末の物性が,当然に秘密保持義務の対象にな るとは考え難い。 以上によれば,被告製品1,2及び4の販売は,その発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況において行われたものというべきである。 イ原告は,被告らが,本件各出願前に,被告製品1,2及び4を販売していたとしても,被告ら及びその相手方は,同各製品を分析することにより, 本件各発明の特許請求の範囲に記載されている物に該当するかどうかの判 断をし得る技術を有していなかったと主張する。 しかし,X線回折法は,本件明細書等に特段の説明もなしに記載されているとおり,物質の一般的な分析方法であると考えられ,外部の業者に委託し,これを測定・解析することは可能であったと認められる。そうすると,被告ら及び上記各製品の販売の相手方が,X線回折法に係る知識・技 術を有していたか否かは,公然実施の成否を左右しない。 (5) 小括以上によれば,被告製品1,2及び4が,本件各出願の前から販売されていたことによって,本件各発明は,特許出願の前に日本国内において公然実施された発明として,無効事由を有することになる。したがって,先使用権 に係る主張を検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 5 結論よって,その余の点を検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 主文 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 𠮷野俊太郎 裁判官 小田誉太郎 理由 (別紙)被告製品目録以下の製品名の黒鉛製品 1 被告製品1 「青P」 2 被告製品2 「AP」 3 被告製品3 「UTC-48J」 4 被告製品4 「J-CPB」 5 被告製品5 「SP-5030」

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