平成14(行ウ)11 転居届不受理処分取消等請求

裁判年月日・裁判所
平成14年5月13日 名古屋地方裁判所
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判決文本文8,043 文字)

主文 1 被告名古屋市中区長が原告(選定当事者)及び選定者らに対し,平成14年2月8日にした転入届不受理処分をいずれも取り消す。 2 被告名古屋市は,原告(選定当事者)及び選定者らに対し,それぞれ金3万円及びこれに対する平成14年2月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告(選定当事者)及び選定者らの被告名古屋市に対するその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用のうち,原告(選定当事者)及び選定者らと被告名古屋市中区長の間に生じたものは被告名古屋市中区長の負担とし,原告(選定当事者)及び選定者らと被告名古屋市の間に生じたものはこれを10分し,その1を被告名古屋市の,その余を原告(選定当事者)及び選定者らの各負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 主文1項と同旨(2) 被告名古屋市は,原告(選定当事者)及び選定者らに対し,それぞれ金100万円及びこれに対する平成14年2月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (4) (2)項につき仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(被告ら)(本案前の答弁)(1) 原告(選定当事者)及び選定者らの被告名古屋市中区長に対する訴えをいずれも却下する。 (本案についての答弁)(2) 原告(選定当事者)及び選定者らの請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は原告(選定当事者)及び選定者らの負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因(1) 原告(選定当事者)(以下,単に「原告」という。)及び選定者ら(以下,原告とまとめて「原告ら」という。)は,いずれもアレフ(旧オ 選定者らの負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因(1) 原告(選定当事者)(以下,単に「原告」という。)及び選定者ら(以下,原告とまとめて「原告ら」という。)は,いずれもアレフ(旧オウム真理教,以下「アレフ」という。)の信者である。 (2) 原告らは,それぞれ下記「異動日」記載の日に,同「前住所」記載の場所から,名古屋市中区(以下省略)の肩書住所地に転居し,同所で生活を始めた。 ア原告A(異動日) 平成13年9月1日(前住所) 名古屋市中村区(以下省略)イ選定者B(異動日) 平成13年9月1日(前住所) 名古屋市中村区(以下省略)ウ同C(異動日) 平成13年9月1日(前住所) 名古屋市中村区(以下省略)エ同D(異動日) 平成13年10月8日(前住所) 名古屋市西区(以下省略)オ同E(異動日) 平成13年10月8日(前住所) 名古屋市港区(以下省略)カ同F(異動日) 平成13年12月18日(前住所) 東京都足立区(以下省略)キ同G(異動日) 平成13年9月1日(前住所) 名古屋市西区(以下省略)(3) 原告らは,平成14年2月8日,(2)の転入の事実を記載した区間異動届(転入)ないし転入届(以下「本件各届出」という。)を,名古屋市中区役所において,原告を届出人(本人又は代理人)として,被告名古屋市中区長(以下「被告区長」という。)あてに提出した。 (4) 被告区長は,本件各届出について,訴外Hに係る転居届不受理処分取消等請求訴訟が名古屋高等裁判所(同庁平成14年(行コ)第3号)において係属中であることを理由に不受理(以下「本件各処分」という。)とし,同区市民課の職員をして本件各届出の届出書 転居届不受理処分取消等請求訴訟が名古屋高等裁判所(同庁平成14年(行コ)第3号)において係属中であることを理由に不受理(以下「本件各処分」という。)とし,同区市民課の職員をして本件各届出の届出書類を原告に返戻せしめた。 (5) 原告らは,平成14年2月11日,名古屋市長に対し,本件各処分の取消しを求める審査請求をそれぞれ行った。 (6) 原告らは,被告区長の職務の執行に伴ってなされた本件各処分によって,多大な精神的苦痛及び不安を受けたところ,これを慰謝するのに必要な金額は,少なくともそれぞれ金100万円を下らない。 (7) よって,被告区長は,何ら法律上の根拠なく,居住の意思と居住の実体を有する住民である原告らからの本件各届出を不受理とする本件各処分を行ったものであり,同処分は,住民に関する正確な記録を整備すること及びそのための必要な措置を義務付けた住民基本台帳法(以下「法」という。)3条1項,14条1項,同法施行令11条,地方自治法13条の2に違反するのみならず,憲法22条1項,15条,25条,19条,20条1項及び14条1項にも違反するので,原告らは,被告区長に対し,本件各処分の取消しを求めるとともに,被告名古屋市に対し,国家賠償法1条に基づき,それぞれ金100万円及びこれに対する不法行為の日である平成14年2月8日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被告区長の本案前の主張請求原因(5)の審査請求についてはいまだ裁決がなされていないから,本件各訴えのうち,本件各処分の取消しを求める部分は,法32条所定の審査請求前置に違反し,かつ,本件については行政事件訴訟法8条2項2号及び3号所定の事由も存しないから,上記各訴えは不適法なものとしていずれも却下されるべきである。 原告らは行政事件訴訟 2条所定の審査請求前置に違反し,かつ,本件については行政事件訴訟法8条2項2号及び3号所定の事由も存しないから,上記各訴えは不適法なものとしていずれも却下されるべきである。 原告らは行政事件訴訟法8条2号及び3号の事由として種々主張するが,原告らが2号について主張する事由のほとんどはいずれも住民登録に関係なく行うことが可能な事項である上,選定者Fを除く原告らは,現在名古屋市内の前住所地に住民登録を有するから,選挙権の行使等についても不利益を被ることはない。 また,名古屋市長が原告らからの審査請求について,公正な裁決をすることが期待できないとの主張は争う。 3 本案前の主張に関する原告の反論選定者Fを除く原告らが前住所地に住民登録を有していることは認めるが,前住所地における居住実態がないため,職権消除される可能性が高く,選定者Fについては,名古屋市外からの転入であるため,住民票を有しない状態となっている。 (5)の審査請求に対する裁決はいまだ下されていないが,本件各届出に係る住民登録が早急になされないため,原告らは選挙権の行使ができず,国民健康保険被保険者証の交付を受けられず,生活保護,介護保険,年金保険等の社会福祉も受けられなくなるほか,運転免許証の更新や,印鑑登録証明書の交付等,日常生活の広い範囲にわたって著しい不便を被ることは避けられない。また,前記Hは平成13年9月9日に名古屋市長に対して審査請求をしているが,同市長は現在に至るまで同審査請求に対する裁決を下しておらず,被告名古屋市は,前記別件訴訟において,前記Hに対する転居届不受理処分は適法であると主張して係争中である。このような状況からすると,名古屋市長に対する審査請求によって公正な救済は期待できず,本件各訴えの提起については,行政事件訴訟法8条2項3号の「正当な理由」 処分は適法であると主張して係争中である。このような状況からすると,名古屋市長に対する審査請求によって公正な救済は期待できず,本件各訴えの提起については,行政事件訴訟法8条2項3号の「正当な理由」も存する。 4 請求原因に対する認否(被告ら)(1) 請求原因(1)の事実は認める。 (2) 同(2)の事実は否認する。 原告が住所として主張する建物は,アレフの名古屋支部であるとともに「道場」となっている施設であり,簡易なベッド状のものが存在する程度であるから,暫定的な居住の用が足せるとしても,生活の本拠となるべき場所であるとはいえない。 (3) 同(3)ないし(5)の事実は認める。 (4) 同(6)及び(7)は争う。 転居届の受理に関する実質的審査権限の範囲をめぐっては,司法判断も分かれており,最終的な結論が出されていない状況であるから,法規についての解釈権限を有しない一区長にすぎない被告区長のこの点に関する判断が結果的に誤りであったとしても,被告区長にそのことについて国家賠償法上の過失があったということはできない。さらに,原告らの本件各届出に関しては,近隣住民がアレフの教団施設の移転に反対する運動及び転居届を不受理とするよう求める運動を行っており,被告区長は,行政組織の長として,こうした地域住民や地元選出議員の多数の意向を無視して意思決定することはできない。したがって,被告区長にはこの意味でも過失がない。 また,選定者Fを除く原告らは名古屋市内に住民登録を有するから,その地位に基づいて各種行政サービスを受け得る立場にあり,仮に本件各処分が違法であっても,そのことにより原告らに精神的損害及び慰謝料請求権が発生することはない。 5 本件各処分の適法性に関する被告区長の主張(1) 市区町村長は,転入届が法の規定する形式的要件を具備しているか であっても,そのことにより原告らに精神的損害及び慰謝料請求権が発生することはない。 5 本件各処分の適法性に関する被告区長の主張(1) 市区町村長は,転入届が法の規定する形式的要件を具備しているか否かに関する形式的審査権限を有するのみならず,当該届出や届出事項の内容が事実に合致しているか,違法不当な目的のための作為的な届出でないかといった事項に関する実質的審査権限を有している(法施行令11条)。そして,この実質的審査権限は,単に客観的な居住の事実が存するか否かにのみ及ぶものではなく,市区町村長の責務として住民の福祉の増進を図ることを定めた地方自治法1条の2第1項にも照らせば,地域の秩序が破壊され,住民の生命や身体の安全が害される危険性が認められるか否かといった事項にも及ぶと解すべきである。これらのことから,市区町村長が,住民基本台帳法に基づき事務を行う場合,公共秩序の維持,住民の安全確保など地方公共団体が果たすべき役割を踏まえ,転入届を受理しないことも許される場合があると解される。 また,仮に転入届の不受理処分により原告らに不利益が生じるとしても,それは教団の組織的犯行である凶悪犯罪やその後の教団の活動等その危険性に起因しているものである。他方,地方公共団体は,住民基本台帳の趣旨から,客観的居住の事実と当人の主観的な意思に基づいて,その住所に住民記録すべきものではあるが,計り知れない悪影響や不安を及ぼす教団の信者が集団で転入してくる事態に対して,これを受け入れ,住民記録せざるを得ないとすることは,それらの者の定住化を容認することにほかならず,その後の更なる大量転入や同地の拠点化の促進という結果を招き,地域住民の不安やさまざまな不利益を助長することになる。 (2) 被告区長は,本件各届出に係る場所がアレフの名古屋支部兼道場であって, らず,その後の更なる大量転入や同地の拠点化の促進という結果を招き,地域住民の不安やさまざまな不利益を助長することになる。 (2) 被告区長は,本件各届出に係る場所がアレフの名古屋支部兼道場であって,その性格上客観的な居住実態を認め難い場所であること及びアレフが依然危険性を有する団体であり,同所に信者が集団で転入し,その拠点化する(現に,わずか10坪程度の空間に,7名の者が住民登録しようとするという異常な事態が起きている。)ことによって,地域の秩序が破壊され,住民の生命や身体が害される危険性が高度に認められることから,本件各処分を行ったものであり,本件各処分は適法である。 6 本件各処分の適法性に関する原告の反論争う。法の構造からすれば,市区町村長は,当該市区町村の区域内に居住の事実を有する者から転居の届出がなされた場合には,これを受理して住民票に記載し,住民基本台帳に記録すべき義務を負っているのであり,被告区長には同被告が主張するような実質的審査権限はない。 また,原告らの所属しているアレフは,教義及び組織改革等の一連の教団改革を進めるとともに,地域住民との融和に努めており,もはや危険性がないことは明らかである。 第3 証拠本件訴訟記録中の書証目録を引用する。 理由 第1 本案前の主張について本件に関し,原告らがした審査請求(請求原因(5)記載)について,いまだ裁決がなされていないことは当事者間に争いがないから,本件各処分の取消しを求める訴えは,法32条所定の裁決を経ていないというほかない。 しかしながら,上記審査請求がなされてからすでに3か月が経過していることは当裁判所に顕著であるところ,訴え提起後,裁決がなされないまま,審査請求から3か月の期間が経過したときは,行政事件訴訟法8条2項1号が がら,上記審査請求がなされてからすでに3か月が経過していることは当裁判所に顕著であるところ,訴え提起後,裁決がなされないまま,審査請求から3か月の期間が経過したときは,行政事件訴訟法8条2項1号が当該期間経過後の訴え提起を認めていることにかんがみ,当該各訴えに係る瑕疵は治癒されると解するのが相当である。したがって,本件各処分の取消しを求める訴えに係る瑕疵は治癒したものというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,被告区長の本案前の主張には理由がない。 第2 本件各処分の取消請求について 1 請求原因(1)及び(3)ないし(5)の各事実は当事者間に争いがない。 また,証拠(甲9ないし30)及び弁論の全趣旨を総合すれば,請求原因(2)の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 2 そこで,本件各処分の適法性に関する主張について判断するに,法4条は,住民の住所に関する法令の規定は地方自治法10条1項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解してはならない旨定めているところ,同項は「市町村の区域内に住所を有する者は,当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする」旨の規定であって,住所につき格別の定めを置いていないから,自然人については民法21条の定める原則に従い,各人の生活の本拠をもって住所としていると解される。 また,法は,市町村長(政令指定都市においては当該市内の区長。法施行令31条)に対し,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるよう努めるべき義務(3条1項)及び住民基本台帳の正確な記録を確保するため必要な措置を講じる義務(14条1項)を負わせているところ,これらの規定は,住民基本台帳に居住の実体と一致した正確な記録をすることを目的とするものであり,法が,住民に対し,住民としての地位の るため必要な措置を講じる義務(14条1項)を負わせているところ,これらの規定は,住民基本台帳に居住の実体と一致した正確な記録をすることを目的とするものであり,法が,住民に対し,住民としての地位の変更が生じた場合に届出をすべき義務を負わせている(22ないし24条)ことも,同様の趣旨に出たものと解される。そうすると,市区町村長としては,居住の実体を反映した届出がなされた以上,これを受理し,それに応じた住民基本台帳を作成すべき法的義務があるというべきである。 この点につき,被告区長は,原告らの所属するアレフは依然として危険な団体であり,その信者が集団で転入することにより,地域の秩序が破壊され,住民の生命,身体に対する危険性が高まることなどを理由に,本件各処分は適法である旨主張するところ,なるほど,証拠(甲40,42,乙11ないし21)によれば,オウム真理教の教祖及び幹部らを首謀者として無差別大量殺人事件などが敢行され,その結果,多くの信者が刑事責任を問われていること,アレフは,教義や活動方針などにおいて,従前のオウム真理教との決別を標榜しているものの,各地の施設内にいまだ旧オウム真理教の教祖の写真やその著書が残されているなど,教祖らの影響力が完全に払拭されているとはいえないこと,アレフ名古屋支部の移転に関して,移転先であるビル周辺の住民らが反対運動を行っていること,以上の事実が認められ,これによれば,地元住民らがアレフに対して警戒心を抱き,その拠点化に対して不安感を持つことは理解できないことではなく,住民らからの要望を受けた被告区長が,このような要望に配慮した上で本件各処分をしたことは想像に難くない。 しかしながら,個人としての原告ら自身が上記刑事事件に関与したとか,教祖から強い影響力を受けているといった事実をうかがわせる証拠は存しな 要望に配慮した上で本件各処分をしたことは想像に難くない。 しかしながら,個人としての原告ら自身が上記刑事事件に関与したとか,教祖から強い影響力を受けているといった事実をうかがわせる証拠は存しない上,そもそも,市区町村長が,住民基本台帳に関し,住民から事実関係に合致した届出がなされた場合であっても,なお,公共の福祉等,居住の実体に関する要素以外の事情を考慮して届出の受理,不受理を決することができるといった内容の規定は法には全く存在せず,かえって,上記のとおり法が住民基本台帳の内容を住民の居住実体に合致させることを目指していることからすれば,市町村の区域内に居住の実体を有する者が事実関係に合致した転入届を提出した場合,市区町村長は直ちにこれを受理した上,遅滞なく住民基本台帳に当該届出に係る記載をなすべきであって,反対運動の存在等の事情を考慮して届出を不受理とすることができる根拠を見い出せない以上,本件各処分は違法というほかなく,取消しを免れない。 第3 慰謝料請求について第2のとおり,本件各処分は被告区長がその職務を行うについてなしたものであり,違法であって,国家賠償法1条に基づき,被告名古屋市はこれによって原告らが被った精神的損害を賠償すべき義務を負う。 この点につき,被告名古屋市は,被告区長に過失はない旨主張し,これに沿う証拠(乙22,25)も存する。しかしながら,本件各処分が法の文言に反することは容易に認識可能なことであるから,被告区長には,違法な本件各処分を行うにつき,少なくとも過失があったというべきである。 そして,本件各処分の内容,経過,これを取り巻く諸事情等,本件に現れた一切の事情にかんがみれば,本件各処分によって原告らの受けた精神的損害を償うにはそれぞれ3万円をもってするのが相当である。 第4 以上の次第で,原 分の内容,経過,これを取り巻く諸事情等,本件に現れた一切の事情にかんがみれば,本件各処分によって原告らの受けた精神的損害を償うにはそれぞれ3万円をもってするのが相当である。 第4 以上の次第で,原告らの被告区長に対する各請求は理由があるからこれらをいずれも認容し,被告名古屋市に対する各請求はそれぞれ3万円及びこれに対する不法行為の日である平成14年2月8日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項ただし書を,仮執行の宣言について同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官橋本都月裁判官富岡貴美

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