- 1 -主文原判決中被告人に関する部分を破棄する。 被告人を懲役2年6月及び罰金100万円に処する。 原審における未決勾留日数中180日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 被告人から金133万444円を追徴する。 理由 本件控訴の趣意は,検察官笠間治雄作成名義の控訴趣意書に,これに対する答弁は,弁護人大熊裕起作成名義の答弁書に各記載されたとおりであるから,これらを引用する。 第1論旨論旨は,要するに,原判決の没収・追徴の判断を争うものである。すなわち,原判決は,その罪となるべき事実において,公訴事実と同様の事実を認定し,刑法62条1項,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という)5条1号(麻薬及び向精神薬取締法66条2項,1項,麻薬特例法8条2項)を適用しながら,検察官の没収23万6100円及び追徴123万8900円の求刑に対し,「警視庁中野警察署で保管中の現金19万1004円のうち3万6000円に相当する- 2 -部分を没収する。被告人から金134万円を追徴する。」旨の判決を言い渡した。これは,正犯である原審共同被告人のAの得た薬物犯罪収益をその幇助犯である被告人から没収・追徴することはできないとの判断に基づくものであるが,原判決のこの判断は,法令の解釈適用を誤った違法があり,名古屋高等裁判所金沢支部平成6年6月21日判決(判例時報1510号158頁)及び大阪高等裁判所平成9年3月26日判決(判例時報1618号150頁)に違背するものであって,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない,というのである。 第2 号158頁)及び大阪高等裁判所平成9年3月26日判決(判例時報1618号150頁)に違背するものであって,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない,というのである。 第2原判決の判断 認定事実被告人は,東京都新宿区B所在のビル地下2階にあるミュージックバー「C」の経営者であった者であるが,(1)原審共同被告人のA(以下「A」という)が,氏名不詳者と共謀の上,営利の目的で,C店内において,平成15年10月6日から同年12月1日までの間に,Dほか5名に対し,麻薬であるN・α―ジメチル―3・4―(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(別名MDMA。以下「MDMA」という)の塩類を含有する錠剤(以下「MDMA錠剤」ともいう)合計9錠を1錠当たり金2500円で譲り渡したほか,同年10月初旬ころから同年12月1日までの間,多数回にわたり,同店内等において,氏名不詳の多数者に対し,MDMA様の錠剤を麻薬として有償で譲り渡して,規制- 3 -薬物等を譲り渡すことを業とする犯行を行ったことに関して,(2)平成15年9月中旬ころ,C店内において,同店従業員のEに対し,エレベーターの鍵を預けて,同店所在のビル1階において客の選別と警察による摘発を見張り,警察官が来た場合は,エレベーターの鍵を持ったまま逃げ,店に知らせるよう指示するとともに,Aが(1)記載の犯行を行うに際し,その情を知りながら,Aが同店内でMDMA錠剤又はMDMA様の錠剤(以下,併せて「MDMA錠剤等」という)を客等に有償で譲り渡すことを黙認して,同所を譲渡場所として提供し,もって,Aの(1)記載の犯行を容易にさせて幇助した。 原判決の没収・追徴についての判断(1)被告人が経営していたCは,入場チケットを購入した客に酒食と踊る場所を提供し, 渡場所として提供し,もって,Aの(1)記載の犯行を容易にさせて幇助した。 原判決の没収・追徴についての判断(1)被告人が経営していたCは,入場チケットを購入した客に酒食と踊る場所を提供し,チケットや酒食の販売で利益を得るミュージックバーであった。Cでは密売人が揺頭丸と呼ばれるMDMA錠剤等を密売し,客がこれを服用して音楽に合わせて踊る揺頭丸パーティが連日開催され,これにより薬物密売による集客力を高めて売上げを向上させることが店の方針であり,中国人やマレーシア人の客の間では,Cは毎日揺頭丸パーティを開催して薬物を密売している店として有名であった。 (2)Aは平成15年10月初旬から同年12月1日までの間にCにおいて違法薬物等を密売して相当の利益を得ており,12月1日未明,AがC店内で現行犯逮捕された際,着衣胸ポケット内に- 4 -所持していた現金4万9000円及び財布内に所持していた現金18万7100円が差し押さえられたが,これらの現金は,当日のMDMA錠剤等の密売の売上金を含むものであった。 (3)麻薬特例法13条1項の「犯人」から幇助犯を除外する理由はないが,没収とは,所有者から物の所有権を剥奪する対世的効力のある対物処分であるから,当該財産の没収が可能であるか否かは,没収の対世的効力が及ぶか否かにより決せられるべきものと解すべきであるところ,当該財産の分配にあずかり得る地位にない者については,没収の効力が及ぶ余地はないから没収は不可能というべきであり,没収を言い渡すことができない以上,追徴を言い渡すことも許されない。 (4)本件では,Cの経営者である被告人は,店の売上を向上させることのみを目的として,Aと特段の意思連絡を交わすこともなく,全く独立した立場から一方的にその犯行を幇助していたものであり,その収益の 4)本件では,Cの経営者である被告人は,店の売上を向上させることのみを目的として,Aと特段の意思連絡を交わすこともなく,全く独立した立場から一方的にその犯行を幇助していたものであり,その収益の分配等を受けることなど予定されておらずその余地もなかったから,Aの薬物密売による収益はAのみに帰属し,被告人は同収益の分配にあずかり得る地位になく,その所有権はもとより何らの請求権も得ていないものと認められるから,同収益は,被告人が自らの犯罪行為により得た財産(薬物犯罪収益)に当たらないものと解するほかなく,Aの薬物密売による収益を被告人から没収ないし追徴することは許されない。 (5)もっとも,被告人は,Aの薬物密売行為を黙認し,Cの- 5 -売上を増加させたのであるから,店の売上増加分は,被告人の本件各幇助行為によって犯人である被告人が取得した財産,すなわち,薬物犯罪収益に当たると認められる。そこで,AがCにおいてMDMA錠剤等を密売したことが明らかな10月6日未明から12月1日未明までの期間内において,Aが薬物を密売したことによるCの売上増加分を推計すると137万6000円となる。一方,12月1日にAが密売したMDMA錠剤等12錠分に対応する客12人の入場チケット代金3万6000円は被告人が所有するものと認められるから,同日に店内で発見押収された現金のうち,この3万6000円に相当する部分について被告人から没収し,前記売り上げ増加分137万6000円からこの3万6000円を控除した残額134万円は没収することができないからその価額を被告人から追徴する。 第3当裁判所の判断麻薬特例法の没収・追徴の規定は,刑法の没収・追徴制度を基本とするものではあるが,麻薬特例法制定の経緯,同法の定める没収・追徴の目的,趣旨にかんがみると,同法 から追徴する。 第3当裁判所の判断麻薬特例法の没収・追徴の規定は,刑法の没収・追徴制度を基本とするものではあるが,麻薬特例法制定の経緯,同法の定める没収・追徴の目的,趣旨にかんがみると,同法の没収・追徴は,犯人から犯罪による利得を剥奪するにとどまらず,経済的側面からも薬物犯罪を禁圧しようとするものであるから,同法11条,13条1項の没収・追徴は,共同正犯,教唆犯,幇助犯等の共犯を含む犯人全員からこれをすべきものと解すべきである。この没収・追徴について,仮に,原判決のいうように,「不法収益の分配にあずかり- 6 -得る地位」にある者であることが必要であると解するとしても,共犯者が全く不法収益の分配にあずかり得る地位にないなどという事態は,正犯が幇助されていることを全く知らなかった場合など,完全な片面的幇助の事案以外には想定することができない。本件において,Aは,本来必要な入場チケットを購入することなく無料でCに出入りして薬物を密売していたのであり,Cの経営者である被告人がそれを黙認していたばかりか,被告人自身の利益のためとはいえ,見張りまで置いていることを承知していたのであるから,被告人から,収益の一部の支払を要求された場合に,これを拒むことができたかどうかは疑問である。要するに,被告人は,不法収益の分配にあずかり得る地位にあったと認められるのである。そうすると,原判示の事実関係の下で,Aが平成15年10月初旬から同年12月1日までの間にC店内で得た密売利益については,その幇助犯である被告人からも没収・追徴すべきであって,その没収・追徴ができないとした原判決は,麻薬特例法11条,13条1項の解釈適用を誤ったものといわなければならない。そして,この法令適用の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,検察官の論旨には ・追徴ができないとした原判決は,麻薬特例法11条,13条1項の解釈適用を誤ったものといわなければならない。そして,この法令適用の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,検察官の論旨には理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決はその全部について破棄を免れない。 第4破棄自判よって,刑訴法397条1項,380条により原判決中被告人に関する部分を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所- 7 -において更に次のとおり判決する。 原判決が認定した罪となるべき事実に法令を適用すると,被告人の原判示所為は包括して刑法62条1項,麻薬特例法5条1号(麻薬及び向精神薬取締法66条2項,1項,麻薬特例法8条2項,なお,有期懲役刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による)に該当するので,所定刑中有期懲役刑及び罰金刑を選択し,原判示の罪は従犯であるから刑法63条,68条3号,4号により法律上の減軽をした刑期及び金額の範囲内で,被告人を懲役2年6月及び罰金100万円に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中主文掲記の日数をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,後記の金133万444円は,原判示の罪に係る麻薬特例法11条1項1号の薬物犯罪収益に該当するが,既に費消されるなどして没収することができないから,同法13条1項前段によりその価額を被告人から追徴し,原審及び当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適 号の薬物犯罪収益に該当するが,既に費消されるなどして没収することができないから,同法13条1項前段によりその価額を被告人から追徴し,原審及び当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (没収・追徴について)Aは,平成15年10月6日未明から現行犯逮捕された同年12- 8 -月1日未明までの8週間に,C店内で,MDMA錠剤等のほか,粉末の睡眠薬を密売して利益を上げていたが,睡眠薬分を除く売上利益は,147万5000円であったと述べており(原審乙第33号),自ら密売利益を管理していたAの供述を疑う理由はないから,この間のAの薬物犯罪収益は147万5000円であったと認められる(なお,原判決は,これに加えて12月1日分のMDMA錠剤の密売利益を計算しているが,そうすると,12月1日分の売上が重複計上されて被告人に不利益であるというべきである上,その計算の際,12月1日にAが現行犯逮捕された際に押収されたMDMA錠剤の数量を,現行犯人逮捕手続書(原審甲第90号)に基づき,12錠であると認定しているが,Aに関する捜索差押調書(同第91号),証拠品写真撮影報告書(同第92号)及びAの警察官調書(同乙第42号)によれば,その際押収されたのは11錠であって,現行犯人逮捕手続書の記載は誤記であることが明らかであるから,その判断はいずれも是認できない。)。 ところで,検察官は,Aが現行犯逮捕された際に所持していた①警視庁中野警察署で保管中の現金4万9000円(平成16年東地庁外領第135号の4)及び②同現金18万7100円(同号の6)を薬物犯罪収益として全部被告人から没収すべき旨主張している。なるほど,Aは,Cで密売していた揺頭丸と呼ばれるMDMA錠剤等(いずれも錠剤)と揺頭粉と呼ばれる粉末の睡 金18万7100円(同号の6)を薬物犯罪収益として全部被告人から没収すべき旨主張している。なるほど,Aは,Cで密売していた揺頭丸と呼ばれるMDMA錠剤等(いずれも錠剤)と揺頭粉と呼ばれる粉末の睡眠薬とを密売当時は区別することなく,いずれもMDMAとして密売していたこ- 9 -とが認められ,そうすると,麻薬特例法8条2項により,睡眠薬分も含めた売上利益全部を薬物犯罪収益として没収することが可能であるけれども,本件においては,もともと粉末の睡眠薬分は起訴されておらず,かつ,前記の147万5000円は睡眠薬分を含まないMDMA錠剤等分の収益だけであるから,それと平仄を合わせるためにも,没収すべき現金は,MDMA錠剤等に係る分に限られるというべきである。 しかるところ,Aが現行犯逮捕された際に所持していた前記①の現金4万9000円及び②の現金18万7100円は,いずれも睡眠薬の売上分が含まれているから,原判決の認定,計算にしたがって,①から睡眠薬の売上分を除いた3万7642円及び②から睡眠薬の売上分を除いた10万6914円の合計14万4556円を没収すべきことになるが,これらはいずれも本件の正犯として麻薬特例法違反等の罪により起訴され,有罪判決を受けた原審共同被告人のAから没収の宣告済みであり,かつ,Aに対するこの判決は確定しているから,これらを被告人から重ねて没収することはできない。 そこで,上記の薬物犯罪収益147万5000円から没収済みの現金14万4556円を控除した金133万444円を被告人から追徴すべきものである(なお,原判決がCの売上増加分として推計するところは,さまざまな擬制を前提とするものであって,是認できない。)。 (原審における求刑懲役4年及び罰金100万円,現金23万6- 10 -100円の没収,123万8 売上増加分として推計するところは,さまざまな擬制を前提とするものであって,是認できない。)。 (原審における求刑懲役4年及び罰金100万円,現金23万6- 10 -100円の没収,123万8900円の追徴)(裁判長裁判官白木勇裁判官傳田喜久裁判官忠鉢孝史)
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