令和6(わ)12 殺人、死体遺棄

裁判年月日・裁判所
令和7年2月20日 釧路地方裁判所
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判決文本文10,630 文字)

主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中230日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は第1 令和4年5月30日午前4時40分頃から同日午前4時57分頃までの間に、北海道帯広市(住所省略)株式会社A南側駐車場に駐車した自動車内において、同車後部座席に座っていた被害者(当時47歳。氏名は別紙(省略)記載のとおり。)に対し、殺意をもって、その頸部にシートベルトを巻き付けて締め付け、 よって、その頃、同所において、同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。 第2 同日午後7時17分頃から同日午後7時26分頃までの間、同市(住所省略)B高等学校(以下「本件高校」という。)駐車場から同市(住所省略)C球場北西側雑木林まで、被害者の死体を積載した自動車を運転して同死体を運搬し、同 日午後7時26分頃から同日午後8時8分頃までの間に、同雑木林において、スコップで地面に穴を掘って同死体を埋め、もって死体を遺棄した。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断) 1 破棄判決の拘束力の範囲 本件については、差戻前第一審判決(以下、本項において「原判決」という。)に対し、検察官が控訴したところ、控訴審において原判決を破棄し、第一審裁判所に差し戻すとの判決をしたものである。そこで、争点の判断に先立ち、控訴審判決の拘束力の範囲につき検討する。 ⑴ 原判決の説示 原判決は、概ね次のとおり説示して、承諾殺人罪が成立すると認定した。 ア被告人において、死ぬことを承諾した被害者を前にして、被害者と共に死ぬ必要は全くなかったこと、被告人が敢えて選択した方法は、体格に勝る被告人のみがゴム手袋をはめ、互いにシートベルトで首を絞め合うとい 告人において、死ぬことを承諾した被害者を前にして、被害者と共に死ぬ必要は全くなかったこと、被告人が敢えて選択した方法は、体格に勝る被告人のみがゴム手袋をはめ、互いにシートベルトで首を絞め合うという、被告人のみが生き残る可能性が高いものであったこと、被害者死亡後に追死を試みることもなく、その日のうちに死体を遺棄するための種々の 行動を取っていることからすると、被告人は被害者と一緒に死ぬつもりがなかったものと推認される。 イ被害者は、被告人からシートベルトを巻かれたり、首を絞め付けられたりしても抵抗することなく、抵抗する様子も一切示さなかったことからすれば、被害者は、被告人から殺害されることを黙示的に承諾していたもの といえる。そして、被害者は、被告人のみが生き残る可能性が高い方法を選択していることを容易に気付くことができたにもかかわらず、何らの異を唱えず、反対することも抵抗することもなく被告人に殺害されるに至ったことからすれば、被害者が、自分のみが死に、被告人が生き残ることを容認した上で被告人に殺害されることを承諾した疑いが残る。 ⑵ 控訴審判決の説示控訴審判決は、概ね以下のとおり説示して原判決を取り消し、第一審裁判所に差し戻した。 ア原判決の前記⑴アの判断は是認できる。 イ原判決の前記⑴イの判断は、①被害者が当時置かれていた状況や心理状 態等を看過していること、②被害者が先にシートベルトを引っ張って被告人の首を絞め、被告人を殺害しようという意思があったと認められることと相容れないこと、③これまでの経緯や被害者の行動傾向に照らすと、被害者が、自分のみが死に、被告人が生き残って妻子と暮らすことを容認したとはにわかに考え難いことからすると不合理である。 ウ被告人が被害者と一緒に死ぬつもりが 被害者の行動傾向に照らすと、被害者が、自分のみが死に、被告人が生き残って妻子と暮らすことを容認したとはにわかに考え難いことからすると不合理である。 ウ被告人が被害者と一緒に死ぬつもりがなかったと認められる本件におい ては、被害者が、自分のみが死ぬことをも容認した上で被告人に殺害されることを承諾していたとの合理的疑いはない。 ⑶ 拘束力の範囲破棄判決の拘束力は、破棄の直接的な理由、すなわち原判決に対する消極的否定的判断について生じる(最高裁昭和43年10月25日・刑集22巻 11号961頁)ところ、前記控訴審の判断のうち、これに該当するのは前記⑵イの判断、すなわち原判決の前記⑴イの判断について是認できないとした判断であり、この点について拘束力を生じる。他方、前記⑵アの判断はこれに該当しないし、前記⑵ウの判断は前記⑵アの判断を前提とする判断であるから、いずれについても拘束力は生じないものと解すべきである。 この点、検察官は、①判断の性質上拘束力を排除すべき特別の理由のあるものを除き、原則として全て拘束力が生じる(東京高裁昭和58年12月15日・刑裁月報15巻11~12号1193頁)か、②少なくとも破棄の直接の理由の論理必然的な前提や帰結にも拘束力が生じる(最高裁令和5年10月11日決定・刑集77巻7号379頁)ものであって、前記⑵ア及びウ の各判断にも拘束力が生じる旨主張する。 しかし、上記①につき、検察官が摘示する裁判例の説示は、法令解釈に関するものとみるのが相当であるし、上記②の判例の判旨とも整合しない。また、上記②をみても、前記⑵アは被告人側の内心に関する事情を検討するものであるのに対し、前記⑵イは被害者側の内心に関する事情を検討するもの であり、その検討に当たって考慮すべき事情が ない。また、上記②をみても、前記⑵アは被告人側の内心に関する事情を検討するものであるのに対し、前記⑵イは被害者側の内心に関する事情を検討するもの であり、その検討に当たって考慮すべき事情が必ずしも重複するものではないことに加え、各事情を踏まえた被告人及び被害者の内心に関する評価は各人ごとに判断すべき事項であり、両者が論理必然的な前提ないし帰結の関係にあるとはいえない。そうすると、検察官の上記各主張はいずれも採用できない。 2 争点 本件の争点は、被害者の承諾が真意に基づくものではなく、かつ、被告人が、被害者の承諾が真意に基づくものではないと認識していたかである。 3 前提事実⑴ 被告人と被害者は、いずれも配偶者のいる教員であり、平成28年4月に同じ高校で勤務するようになった。被告人は、被害者と不貞関係にあったが、 令和元年7月頃以降被害者に対して別れ話を切り出すようになった。しかし、被害者がこれに納得しなかったことから、不貞関係を解消することができなかった。 ⑵ 被害者は、令和3年3月頃、被告人と妻とのSNS上のやり取りや妊娠中の被告人の妻のエコー写真を見つけ、被告人に対して憤慨して、「責任をとれ」 などといって2000万円の支払を要求した。被害者が要求額を700万円に減額したことから、被告人は被害者に対して合計300万円を支払った。 ⑶ 被告人は、被害者から離婚するよう求められ、別れることになった旨嘘を述べたが、その証拠を求められ、偽造した戸籍全部事項証明書を被害者に見せた。また、被告人は、令和4年4月から帯広市内に所在する本件高校へ異 動する際、被害者との関係を断ち切るために、同人に対して異動後の転居先について虚偽の住所を教え、配偶者や子と同居することを隠して当該住所で一人 令和4年4月から帯広市内に所在する本件高校へ異 動する際、被害者との関係を断ち切るために、同人に対して異動後の転居先について虚偽の住所を教え、配偶者や子と同居することを隠して当該住所で一人暮らしをするとの虚偽の説明をした。 ⑷ 被告人は、令和4年4月に本件高校へ異動した。被告人は自宅で妻子と同居し、本件高校においては強豪である野球部の指導に携わった。 ⑸ 被害者は、同月3日、被告人の携帯電話に対して666回にわたり電話をかけたほか、多数回にわたり電話をかけた。被害者が被告人に対して1日に50回以上電話をした日数は、令和3年12月末頃から本件犯行日に至るまで、令和4年4月3日を含めて16日(うち11日は100回以上)に及んだ。また、被害者は、本件高校の職員室や寮に電話をかけたこともあった。 ⑹ 被害者は、令和4年4月18日頃、被告人に対し、このまま連絡を避ける 状態が続くのであれば被告人の職場に電話したり押しかけたりするかもしれないが、それが嫌であれば700万円の残りの400万円を支払うよう求めたため、被告人は、同月21日までの間に、合計400万円を支払った。しかし、被告人はその後にも被害者に対し別れ話をしたが、同人は、被告人との関係を解消することを了承しなかった。 ⑺ 被害者は、被告人に対して週末帯広市で会いたいと繰り返し伝え、これに対し、被告人が難色を示しながらも、最終的には、本件犯行の前日である令和4年5月29日に被害者が帯広市に訪れることとなった。 同日午後5時30分頃、被告人と被害者は、帯広市内で合流し、同日午後9時30分頃まで別れ話を続けたものの、被害者はこれに応じなかった。被 告人は、被害者に対して帰宅するよう促したが、被害者がこれに応じなかったため、被害者とともにそれぞれの で合流し、同日午後9時30分頃まで別れ話を続けたものの、被害者はこれに応じなかった。被 告人は、被害者に対して帰宅するよう促したが、被害者がこれに応じなかったため、被害者とともにそれぞれの自動車を運転して本件高校駐車場に移動した。その後、被告人は、仕事をするふりをして被害者を同駐車場に置き去りにし、自動車を同駐車場に駐車したまま帰宅した。 被害者は、被告人が自宅に帰っている間に、鍵のかかっていなかった被告 人の自動車内を物色し、同車内にあった書類から被告人の実際の住所を突き止めるなどし、当該住所を訪れた末に、被告人が実際には離婚しておらず、配偶者や子と同居しており、従前の被告人の説明が嘘であったことを知った。 ⑻ 被告人は、令和4年5月30日午前3時30分頃、配偶者の使用する自動車で本件高校駐車場に戻ったところ、被告人車両が物色されていることに気 が付いた。そして、被害者からの電話により、被害者が被告人の自宅前に居ることが分かったことから、被告人は自宅に戻った。被告人が自宅の駐車場に停められていた被害者車両の助手席に乗り込むやいなや、被害者は同車両を発進させ、かなりのスピードで進行させた。その車内で、被害者は、被告人に対して、「いつから奥さんと一緒にいるの」、「また嘘ついていたんだね」、 「赤ちゃんの物で部屋がぐちゃぐちゃだね」、「奥さんと別れてよ」、「奥さん と別れないなら、奥さんと子供を殺すから」旨言った。 被告人は途中で暴れる被害者を押さえ付けるなどして無理やり運転を代わり、同日午前4時32分頃、判示第1記載の駐車場に被害者車両を駐車させた。被害者は何も話さず黙ったまま、時折、被告人から運転中に押さえつけられた部位をさすりながら痛いと言うだけで、被告人からの問い掛けに対し て何も答え 判示第1記載の駐車場に被害者車両を駐車させた。被害者は何も話さず黙ったまま、時折、被告人から運転中に押さえつけられた部位をさすりながら痛いと言うだけで、被告人からの問い掛けに対し て何も答えなかったため、被告人は被害者とともに無言になった。 ⑼ しばらくして、被告人が、「もう死ぬしかない」と言ったところ、被害者は二度うなずいた。被告人は、被害者がうなずくのを見て、人目に付かないようにするため後部座席に移動し、助手席に座る被害者を後部座席に来るよう呼んだ。被告人は、助手席側後部座席に移動した被害者の首に同座席のシー トベルトを二重に巻き付け、同様に運転席側後部座席のシートベルトを自分の首にも二重に巻き付け、汗で手が滑らないように持っていたゴム手袋を自分の手にはめ、被害者の手をとって被告人の首に巻かれたシートベルトを被害者に握らせた。被害者が数十秒間シートベルトを引っ張った後、被告人は、被害者の首に巻かれたシートベルトを床面方向に引っ張り、被害者の力が抜 けて、その両手が下に垂れ下がっているのを見た後も数分にわたって被害者の首を絞め続け、被害者を殺害した。被告人が、被害者に対して、首を絞めるなどすることについて説明をしたことはなかった。また、被害者は、被告人から首にシートベルトを巻き付けられたり、首を絞められたりしている間も抵抗することはなかった。 なお、本件当時、被告人は身長約176.7センチメートル、体重約89キログラムであったのに対し、被害者は身長約159センチメートル、体重約43.1キログラムであった。 ⑽ 被告人は、被害者を殺害した後、同日午前4時58分頃には被害者車両を発進させてD動物園臨時駐車場へ行き、同駐車場に被害者車両を駐車した後、 一度帰宅して被告人車両で再度同駐車場へ行き、同駐車場 被告人は、被害者を殺害した後、同日午前4時58分頃には被害者車両を発進させてD動物園臨時駐車場へ行き、同駐車場に被害者車両を駐車した後、 一度帰宅して被告人車両で再度同駐車場へ行き、同駐車場において被害者の 死体を被告人車両に積み換えた。被告人は、職場に出勤して授業を行うなどしたほか、灯油用のポリタンクやスコップを準備し、死体を埋める場所を探したりするなどした。 その後、被告人は、同日午後7時26分頃、判示第2記載の雑木林に向かい、穴を掘って被害者の死体を埋めた。被告人は、その後、灯油を購入する などした後、被害者車両が駐車されている駐車場で被害者の所持品を燃やすなどした。 4 争点に対する判断⑴ 被害者の承諾は被告人が一緒に死ぬことが前提になっていたかについてア被害者は、被告人の「もう死ぬしかない」という発言に対して二度うな ずき、被告人に促されるまま後部座席に移動して、首にシートベルトを巻かれても抵抗せず、さらに被告人が被害者の首に巻かれたシートベルトを引いた後も抵抗した形跡はないことからすれば、外形的には、被害者において、被告人に殺害されるのを承諾していた可能性を排斥することはできない。 イもっとも、被害者は、本件以前に被告人に対し、多数回にわたり電話をかけ、理由のない金銭要求をし、妻との離婚を求め、さもなくば妻子を殺すなどと述べていたのであって、被害者は被告人に強く執着していたものと認められる。加えて、被害者は、被告人との不倫関係を継続することを望んでいた一方、被告人がその説明に反して配偶者と離婚しておらず、配 偶者や子と一緒に生活している様子を目の当たりにしたのであるから、被害者の立場からすると、被告人のみが生き残って家族との生活を続ける事態を許容するとはおよそ考え難い 偶者と離婚しておらず、配 偶者や子と一緒に生活している様子を目の当たりにしたのであるから、被害者の立場からすると、被告人のみが生き残って家族との生活を続ける事態を許容するとはおよそ考え難い。被害者がうなずく直前に、被告人が「もう死ぬしかない」と述べたことに加え、被害者は、自らの首にシートベルトが巻かれた状態で、被告人の首に巻かれたシートベルトを引いて被告人 の首を絞めたのであるから、被害者は、被告人が死ぬと考えていたという ほかないのであって、そうだとすれば、被害者の上記承諾は、被告人も一緒に死ぬことを前提とするものであったというべきである。 本件の殺害方法は、シートベルトで互いの首を絞め合うというものであり、その方法自体、二人が一緒に死ぬことはできず、被告人と被害者の体格差等に照らせば、被害者のみが死亡する可能性が高いことは客観的に明 らかであるが、前記認定した経緯によれば、被害者は、本件犯行当時、相当疲弊した状態であったと認められるし、どのようにして二人で死ぬのか説明すらされておらず、被告人の指示に従って行動していたにすぎないことなどを考慮すると、実際に、上記の可能性を認識していたとは考え難い。 ⑵ 被告人が被害者と死ぬ意思があったか否かについて ア被告人は、不貞関係を解消しようとしているのに被害者が納得せず、被害者からいわれのない金銭を要求されて実際に700万円を支払ったほか、被害者から多数回の着信があったり、職場に電話をかけてこられるなどしていたことが認められる。このように、被告人にとって被害者の存在は迷惑なものであったが、他方で、被告人が、令和4年4月に本件高校へ転勤 になった後は、被害者と顔を合わせる機会が極端に減少し、家族と過ごす時間が増加したほか、部活動の顧問や教師とし 者の存在は迷惑なものであったが、他方で、被告人が、令和4年4月に本件高校へ転勤 になった後は、被害者と顔を合わせる機会が極端に減少し、家族と過ごす時間が増加したほか、部活動の顧問や教師としての活動等も充実していたことが認められるのであって、被害者さえいなければ不満のある状況ではなかったというべきである。このような状況下で、殺されることに抵抗していない被害者と共に死ぬ動機があるとはいえない。被告人は、被害者か らシートベルトを引いて首を絞められていたのであるから、自らが死ぬつもりであれば何もしなくてよいのに、あえて被害者の首を絞めたことからも、自らが死ぬつもりであったとは考え難い。 イまた、本件で被告人が選択した殺害方法は、被告人と被害者とが双方の首に巻き付けたシートベルトを互いに引っ張りあうというものであるとこ ろ、この方法ではいずれか一方が先に意識を喪失してシートベルトを引く 手が緩むことにより、それ以降他方の首が締まることはなくなるのであって、双方が同一機会に死亡するのが極めて困難であることは明らかである。 そればかりか、被告人と被害者との体格差、性差、年齢差に加え、被告人がゴム製の手袋を装着していたことに鑑みれば、上記の殺害方法を取った場合には、被告人のみが生き残る可能性が極めて濃厚であり、人目につか ないよう、後部座席に移動し、汗で手が滑らないようゴム手袋を装着するなど、一定の冷静な判断をしていたほか、被害者の状況も把握、記憶している被告人において、上記の点は容易に認識可能である。そうすると、被告人は、本件犯行当時、被告人のみが生き残る可能性が極めて濃厚であることを認識していたと合理的に推認できる。 以上のとおり、被告人に死ぬ動機がなかったことに加え、本件の殺害行為の態様に照ら は、本件犯行当時、被告人のみが生き残る可能性が極めて濃厚であることを認識していたと合理的に推認できる。 以上のとおり、被告人に死ぬ動機がなかったことに加え、本件の殺害行為の態様に照らせば、被告人のみが生き残る可能性が極めて濃厚であったことを併せ考慮すれば、被告人は、少なくとも、被害者の首に巻かれたシートベルトを引いた時点においては、被害者と一緒に死ぬ意思がなかったと認められる。 この点、①弁護人は、本件犯行当時、被告人が尋常ならざる心理状態にあり、本件殺害方法が合理的な方法と判断したこともやむを得ないと主張し、被告人も、当時は頭が真っ白になって覚えていないなどと供述する。 また、②弁護人は、被告人が被害者の首にシートベルトを巻きつけた際に直ちに被害者の首を絞めなかったこと、その後、自らの首にシートベルト を巻きつけてこれを被害者に先に引かせたことからすると、被告人は本件殺害方法を選択するに当たって、自らも死亡するつもりであったことがうかがわれるとも主張する。まず、①の点については、上記のとおり、被告人が被害者の言動により、本件犯行当時、精神的に少なからず疲弊していたであろうことは否定し難い。しかし、被告人は、前記のとおり本件犯行 に先立って、人目につかないよう後部座席に移動し、被告人及び被害者の それぞれの首にシートベルトを巻きつけた後、汗で手が滑らないようゴム製の手袋をはめるなど、随所において合理的で冷静な判断を見せており、疲弊していたことによる判断能力の低下の程度が著しかったとは考え難い。加えて、被害者と交際していた被告人が、その体格差、性差、年齢差に鑑みて被告人の方が圧倒的に筋力に勝ることを認識できないはずがな い。その上で、被告人は、自ら本件殺害方法を選択したのであるから、被 て、被害者と交際していた被告人が、その体格差、性差、年齢差に鑑みて被告人の方が圧倒的に筋力に勝ることを認識できないはずがな い。その上で、被告人は、自ら本件殺害方法を選択したのであるから、被害者の首に巻かれたシートベルトを引いた時点においては、被害者と一緒に死ぬ意思がなかったとの上記判断は左右されない。 また、②の点についても、先にみたとおり、筋力を始めとした身体能力は被告人の方が被害者と比べて圧倒的に勝っており、シートベルトを利用 したとしても被害者が短時間のうちに被告人を失神、絶命させることは極めて困難であるし、被告人もそのことを容易に認識し得たものである。そもそも、被告人に被害者と死ぬ理由はなく、被害者から首を絞められた際にそのまま何もしなければ死ぬことができたのであるから、被害者の首をあえて絞めた時点で死ぬつもりであったとはいえないことは明らかであ る。その余の主張を踏まえても、被告人が死亡するつもりであったという合理的な疑いを生じさせる事情があるとはいえない。 ⑶ 上記⑴で説示したとおり、被害者の承諾は、被告人と二人で死ぬことが前提であったところ、上記⑵のとおり、被告人には本件殺害行為に及んだ時点以降において死ぬ意思がなかったものと認められる本件においては、被害者 の上記承諾には錯誤があり、真意に基づくものとは認められないし、自ら死亡するつもりのなかった被告人においてその承諾が真意に基づくものではないと認識していたものと認められる。 5 結論以上のとおりであるから、被告人に殺害されることに対する被害者の承諾が 真意に基づくものであったとの合理的疑いはなく、そのことを被告人も認識し ていたというべきであるから、判示第1のとおり被告人の行為には殺人罪が成立する。 (法令の適用)省 承諾が 真意に基づくものであったとの合理的疑いはなく、そのことを被告人も認識し ていたというべきであるから、判示第1のとおり被告人の行為には殺人罪が成立する。 (法令の適用)省略(量刑の理由)被告人は、被害者との不貞関係を解消しようと試みていたものの、被害者は、そ の都度猛反発するとともに、被告人の携帯電話へ多数回電話をかけ、被告人の職場へ電話をかけ、金銭の要求、被告人の妻子に危害を加えるとの脅迫的発言といった迷惑行為を繰り返したほか、被告人が移住した帯広を訪れ、さらには被告人の自宅に押し掛けるに至った。このような経緯を経て、被告人は、公私ともに充実した帯広での生活を守るとともに、上記迷惑行為を繰り返して充実した生活を脅かしかね ない被害者から逃れたいとの思いから本件犯行に及んだことがうかがわれる。そのような目的を達成するために、被告人が、被害者を殺害するという手段を選択したことは安易で短絡的であるとの非難を免れないが、被害者は、再三にわたって不貞関係の解消を持ち掛けられ、金銭要求に応じた被告人から700万円を受領するなどしてもなお関係の解消を許さず、被告人に対する迷惑行為を繰り返しており、こ のことが、被告人が本件犯行を決意するのに一定の影響を与えたことは否定できない。そうすると、本件犯行に至る上記の経緯やその直接的な動機は量刑に当たって一定程度酌むべき余地がある。 被告人は、被告人と比べて体格や筋力が劣る被害者の首に巻かれたシートベルトをゴム製手袋をはめた両手で引く方法により約10分間にわたって被害者の首を絞 めて殺害したというものであり、重い評価を免れない。被告人の上記行為に計画性はなく、むしろ突発的な犯行ではあったと認められるが、被告人は、被害者の力が抜けてからも同人の首に巻 被害者の首を絞 めて殺害したというものであり、重い評価を免れない。被告人の上記行為に計画性はなく、むしろ突発的な犯行ではあったと認められるが、被告人は、被害者の力が抜けてからも同人の首に巻かれたシートベルトを引き続けており、その殺意は強固であった。また、被告人は、被害者において被告人が共に死ぬと誤信していた状況を利用して被害者の首を絞めたものと評価し得るものである。 さらに、被告人は、上記犯行後、被害者を殺害したことが発覚するのを免れるた めに、その遺体を地中に埋めて遺棄したものであるが、死者の尊厳を顧みない身勝手な犯行であって、この点も量刑上軽視することはできない。 以上によれば、本件は、同種事案(男女関係(DVを除く)を動機とする紐・ロープ類を凶器に用いた単独犯による殺人既遂1件で、処断罪名と異なる主要な罪名及び前科がないもの)の中では、中程度よりもやや軽い部類に位置付けられるもの というべきである。 進んで、一般情状をみると、被告人は、被害者を殺害した限度では事実を認め、自らの行為を顧みて反省の弁を述べる一方、被害者は被告人に殺害されることを承諾していたとの弁解に終始するなど、本件各犯行に対する真摯な反省があるとまでは認め難い。その上で、被告人の母親や同僚が出廷して、社会復帰後に被告人を監 督・援助する旨述べていることなど被告人に有利な事情も考慮の上、被告人には主文の刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑:懲役13年、弁護人の科刑意見:懲役3年・5年間執行猶予)令和7年2月26日釧路地方裁判所刑事部 裁判長裁判官梶川匡志 裁判官若山哲朗 裁判官髙見 裁判所刑事部 裁判長裁判官梶川匡志 裁判官若山哲朗 裁判官髙見澤昌史

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