令和2(ヨ)1542 東京外環道気泡シールドトンネル工事差止仮処分命令申立事件

裁判年月日・裁判所
令和4年2月28日 東京地方裁判所
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判決文本文32,698 文字)

1 令和2年(ヨ)第1542号 東京外環道気泡シールドトンネル工事差止仮処分命令申立事件 決 定 主 文 1 債務者らは,東京都市計画道路事業都市高速道路外郭環状線のうち東名立坑 発進に係るトンネル掘削工事において,気泡シールド工法によるシールドトン 5 ネル掘削工事を行い,または第三者をして行わせてはならない。 2 X10のその余の申立てを却下する。 3 X10を除く債権者らの申立てをいずれも却下する。 4 申立費用はこれを13分し,その12をX10を除く債権者らの負担とし, その余を債務者らの負担とする。 10 理 由 第1 申立ての趣旨 債務者らは,東京都市計画道路事業都市高速道路外郭環状線において,気泡 シールド工法によるシールドトンネル掘削工事を行い,または第三者をして行 わせてはならない。 15 第2 事案の概要等 本件は,東京外かく環状道路(以下「東京外環」という。)の未整備区間で ある,関越自動車道新潟線(以下「関越道」という。)と東名高速道路との間 の16.2kmの区間に,大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(以下 「大深度法」という。)の認可を得て,気泡シールド工法によって地下式のシ 20 ールドトンネルを掘削,構築して自動車専用道路を整備する等の都市計画事業 (以下「本件事業」という。)につき,大深度法による大深度地下の使用の認 可を受けた事業区域(以下「本件地域」という。)内若しくはその周辺地域に 居住し,又は不動産を所有する債権者らが,施行者である国土交通大臣,債務 者東日本高速道路株式会社(以下「債務者東日本」という。)及び債務者中日 25 本高速道路株式会社(以下「債務者中日本」といい,債務者東日本と併せて 2 「債務者東日本ら」という。)に対し 大臣,債務 者東日本高速道路株式会社(以下「債務者東日本」という。)及び債務者中日 25 本高速道路株式会社(以下「債務者中日本」といい,債務者東日本と併せて 2 「債務者東日本ら」という。)に対し,気泡シールド工法によるシールドトン ネル掘削工事(以下「本件工事」という。)による陥没事故の発生又は極めて 酸素濃度の低い空気(以下「酸欠空気」という。)の地表への漏出により,債 権者らの生命,身体の安全及び良好な居住環境を享受する権利ないし法的利益 並びに財産権が侵害され,取り返しのつかない著しい損害を被るおそれがある 5 旨の主張をして,債務者らに対し,人格権,財産権及び不法行為に基づく差止 請求権を被保全権利として,本件地域全体において本件工事を仮に差し止める ことを命じる旨の仮処分命令を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,掲記の疎明資料及び審尋の全趣旨により容易に 認められる事実。なお,以下,第2,第3を通じて疎明資料については,特に 10 断りのない限り枝番号を含む。) ⑴ 当事者 ア 債権者らは,いずれも本件地域内又はその周辺である肩書住所地に居住 し,同所に不動産を所有するか,居住する権原を有する者である(甲38 ~57,91)。 15 イ 国土交通大臣及び債務者東日本らは,本件事業の施行者である(甲8)。 ⑵ 本件事業の概要等 ア 東京外環は,都心から約15kmの圏域に位置し,首都圏から放射状に 伸びる関越道,中央自動車道富士吉田線(以下「中央道」という。)及び 東名高速道路等の高速自動車国道等を相互に環状に連絡する延長約85k 20 mの道路であり,都心方向に集中する交通を円滑に分散導入し,都心に起 終点を持たない交通をバイパスさせることにより,首都圏や沿線地域にお ける交通混雑の緩和,安全かつ円滑な交 絡する延長約85k 20 mの道路であり,都心方向に集中する交通を円滑に分散導入し,都心に起 終点を持たない交通をバイパスさせることにより,首都圏や沿線地域にお ける交通混雑の緩和,安全かつ円滑な交通の確保,防災機能の向上等を図 ることを目的として整備されている。 東京外環のうち,関越道と接続する東京都練馬区内の大泉ジャンクショ 25 ンは既に開通しており,本件事業は,大泉ジャンクションから中央道を経 3 由し,東名高速道路までを地下式の3車線トンネル2本(以下「本線トン ネル」という。)で南北に結び,中央道との接続点である東京都三鷹市に 中央ジャンクション(仮称)及び東名高速道路との接続点である東京都世 田谷区内に東名ジャンクション(仮称)を整備する等の全体計画区間16. 2kmの道路事業を都市計画事業として施行するものである。そのうち, 5 本線トンネルを設置する東京都練馬区石神井台a丁目から東京都世田谷区 大蔵b丁目までの14.2kmの区間は,大深度法に基づく大深度地下使 用の認可を得て,地下約40m以深を掘削し,また,地上の東名高速道路 等の道路と地下の本線トンネルとを繋ぐジャンクション及びインターチェ ンジは,地中を切り拡げた地中拡幅部において,分岐・合流のための連結 10 路(ランプ)トンネルを設置する計画となっている。 (甲1~3,審尋の全趣旨) イ 国土交通大臣は,平成26年3月13日,国土交通大臣の代理人であ る国土交通省関東地方整備局長に対し,都市計画法59条3項に基づい て事業施行期間を平成26年3月28日から平成33年(令和3年)3 15 月31日までとする本件事業を承認し,平成26年3月28日,これを 告示した。また,東京都知事は,同月13日,債務者東日本らに対し, 都市計画法59条4項に基づき事業施行期間を平成2 和3年)3 15 月31日までとする本件事業を承認し,平成26年3月28日,これを 告示した。また,東京都知事は,同月13日,債務者東日本らに対し, 都市計画法59条4項に基づき事業施行期間を平成26年3月28日か ら平成33年(令和3年)3月31日までとする本件事業の施行につい て認可をし,平成26年3月28日,これを告示した。(甲7~9,乙 20 A1~3) 国土交通大臣は,平成26年3月28日,国土交通大臣の代理人であ る国土交通省関東地方整備局長及び債務者東日本らに対し,大深度法1 6条に基づき大深度地下の使用の認可をし,同日,これを告示した(甲 8,乙A2,4)。 25 国土交通大臣は,平成27年6月12日,国土交通大臣の代理人であ 4 る国土交通省関東地方整備局長に対し,都市計画法63条1項に基づき 本件事業に係る地中拡幅部の事業地の範囲を拡大する旨の事業計画の変 更について承認し,同月26日,これを告示した。また,東京都知事は, 同月12日,債務者東日本らに対し,都市計画法63条1項に基づき, 本件事業に係る地中拡幅部の事業地の範囲を拡大する旨の事業計画の変 5 更について認可をし,同月26日,これを告示した。(甲3,5,10, 11,乙A5~7,審尋の全趣旨) ⑶ 本件工事の施工方法,工事区分等 ア 本件地域におけるトンネル掘削工事(本件工事)は,シールド工法(シ ールドマシンと呼ばれる筒状の機械で土の中をゆっくりと掘り進めていく 10 工法)のうち,気泡シールド工法により実施されている(審尋の全趣旨)。 イ 本件工事のうち,本線トンネル2本(以下,南側の東名ジャンクション から北側の大泉ジャンクション方向に進行するトンネルを「本線トンネル (北行)」,反対方向のトンネルを「本線トンネル(南行)」と イ 本件工事のうち,本線トンネル2本(以下,南側の東名ジャンクション から北側の大泉ジャンクション方向に進行するトンネルを「本線トンネル (北行)」,反対方向のトンネルを「本線トンネル(南行)」と呼ぶ。な お,各本線トンネルは2本が並行して設置される。)の工事については, 15 債務者東日本が本線トンネル(南行)を,債務者中日本が本線トンネル (北行)をそれぞれ施工しており,いずれの本線トンネルも東名ジャンク ション部及び大泉ジャンクション部から,それぞれシールドマシン1基に より掘進している。本線トンネル(南行)の工事は東名立坑(以下,便宜 上「東名ジャンクション部」という。)から井の頭通りまで約9.2㎞の 20 工事,大泉立坑(以下,便宜上「大泉ジャンクション部」という。)から 井の頭通りまで約7.0㎞の工事が予定されており,また,本線トンネル (北行)の工事は東名ジャンクション部から井の頭通りまで約9.1㎞の 工事,大泉ジャンクション部から井の頭通りまで約7.0㎞の工事が予定 されている。いずれの本線もおおむね中間地点付近(井の頭通り)におい 25 て地中接合する計画である。 5 本件工事のうち,接続部(ランプ)トンネルの工事については,債務者 東日本が大泉ジャンクション部において,大泉ジャンクションFランプシ ールドトンネルの工事を,債務者国が中央ジャンクション部において,中 央ジャンクション北側Aランプシールドトンネル及び中央ジャンクション 北側Hランプシールドトンネルの工事をそれぞれ行っており,それらのト 5 ンネル工事のためそれぞれ1基ずつシールドマシンを使用している。 (乙A8,15[2頁],乙B・C36の3[5-4頁],52-2,審尋の 全趣旨) ⑷ 気泡の確認 ア 平成30年5月15日頃から同年7月下旬頃まで,東名ジャンク シンを使用している。 (乙A8,15[2頁],乙B・C36の3[5-4頁],52-2,審尋の 全趣旨) ⑷ 気泡の確認 ア 平成30年5月15日頃から同年7月下旬頃まで,東名ジャンクション 10 周辺を流れる野川の水面において,気泡が確認された。その頃,東名ジャ ンクション部から発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)のシール ドマシンは,それぞれ気泡が確認された箇所付近に位置していた。(甲1 5~17,19~21) イ 令和元年8月19日から同年9月4日まで,大泉ジャンクション周辺を 15 流れる白子川の水面において,気泡が確認された。その間,大泉ジャンク ション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)のシールドマシ ンは,それぞれ気泡が確認された箇所付近に位置していた。(甲23~2 5,審尋の全趣旨) ウ 令和2年3月7日から同年4月24日まで,東京都調布市入間町付近に 20 おいても,野川の水面に気泡が確認された。同年3月7日時点において, 東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)のシールドマシ ンは,気泡が確認された箇所付近に位置していた。(甲27~31) ⑸ 陥没の発生 ア 令和2年10月18日,東京都調布市東つつじヶ丘c丁目の道路におい 25 て,地表部において5m×3m程度,地中部において6m×5m程度,深 6 さ5m程度と推定される地表面の陥没(以下「本件陥没」という。)が発 生した。本件陥没が生じた箇所は,債務者東日本が施工している東名ジャ ンクション部から発進する本線トンネル(南行)直上であり,同年9月1 4日にシールドマシンが通過し,シールドマシンの切羽(シールドマシン の先端の地山(自然状態の地盤)を掘削している面)から約131.9m 5 後方の箇所であった。(甲78,79 直上であり,同年9月1 4日にシールドマシンが通過し,シールドマシンの切羽(シールドマシン の先端の地山(自然状態の地盤)を掘削している面)から約131.9m 5 後方の箇所であった。(甲78,79,乙B・C23,審尋の全趣旨) イ 債務者東日本は,令和2年12月18日,本件陥没につき,本件工事と の因果関係を認めざるを得ない旨の会見を行った(甲80,81)。 ⑹ 本件陥没後の掘進状況 債務者らは,本件陥没の発生後,本件工事に係る掘進作業をいずれも停止 10 した。停止までに掘進が完了した区域は,延長16.2kmの本件工事のう ち,本線トンネル(南行)については,東名ジャンクション部から約4.4 km,大泉ジャンクション部から約0.5kmの部分,本線トンネル(北行) については,東名ジャンクション部から約3.5km,大泉ジャンクション 部から約1.1kmの部分である。(乙B・C26の1[5頁],37の1 15 [5頁],審尋の全趣旨) 酸素欠乏症等防止規則の定め 労働安全衛生法に基づき定められた酸素欠乏症等防止規則(昭和47年9 月30日号外労働省令第42号)は,空気中の酸素濃度が18%未満である 状態を酸素欠乏(2条1号)と定義している(甲35)。 20 土粒子の分類等 土粒子は,粒径0.005mm未満のものが粘土,粒径0.005mm以 上0.075mm未満のものがシルト,0.075mm以上0.25mm未 満のものが細砂,0.25mm以上0.85mm未満のものが中砂,0.8 5mm以上2mm未満のものが粗砂,2mm以上のものが礫と区分され,地 25 盤を構成する土粒子のうち,粘土・シルトの比率を細粒分,細砂の比率を細 7 砂分という。 砂の粒径の均一性を示すものとして均等係数という指標が用いられる。1 に m以上のものが礫と区分され,地 25 盤を構成する土粒子のうち,粘土・シルトの比率を細粒分,細砂の比率を細 7 砂分という。 砂の粒径の均一性を示すものとして均等係数という指標が用いられる。1 に近いほど粒径がそろっていることを意味している。細粒分が少なく,均等 係数が小さい場合,土粒子が密に詰まりにくく,隙間が大きくなり,自立性 が乏しくなる。 5 (乙B・C37の2[2頁]),46[17,19頁]) 2 争点及び当事者の主張 本件の争点は,①人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求の可否,② 保全の必要性の有無である。当事者の主張は各主張書面に記載のとおりである からこれらを引用する。争点に関する当事者の主張の要旨は以下のとおりであ 10 る。 ⑴ 争点①(人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求の可否)について (債権者らの主張) ア 本件陥没は,本件工事によって惹起されたものである。本件陥没の発生 箇所のように掘削断面が,細粒分が少なく,均等係数が小さいため,自立 15 性が乏しい地盤であれば,シールドマシンによる掘削土の取り込み過ぎに より,掘削断面の地盤に緩みや空隙を生じさせ,住宅街の直下の地中に空 洞を発生させたり地表部に陥没を発生させる可能性が十分あり,また,近 隣地域の地盤沈下や建物,塀など建築物に損傷を生じさせるおそれがある。 そして,細粒分が少なく,均等係数が小さく,自立性が乏しい地盤は,決 20 して特殊ではなく,債権者らの居宅の地盤にも,締まった砂が主体であっ たり,締まった砂礫・砂・硬い粘性土が繰り返す地層である部分があって, 本件陥没を発生させた地盤と類似性がある。また,債務者らの再発防止対 策も科学的・技術的根拠がなく,実効性も検証されていない抽象的な内容 にすぎない。したがって,債務者らが 返す地層である部分があって, 本件陥没を発生させた地盤と類似性がある。また,債務者らの再発防止対 策も科学的・技術的根拠がなく,実効性も検証されていない抽象的な内容 にすぎない。したがって,債務者らが本件工事を再開すれば,債権者らの 25 居住場所においても同様の陥没事故を発生させるおそれが十分に認められ 8 る。 イ 野川の水面等で確認された本件工事による漏気は,酸欠空気である。人 が酸欠空気を吸うと劇的に体内の酸素不足を生じさせて活動低下又は停止 状態という危険な状態をもたらすから,酸欠空気それ自体が危険である上, これが家屋の真下に漏出し,当該家屋の居室,浴槽,倉庫,地下室,床下 5 若しくは付属の物置等の閉塞した空間に滞留,蓄積し,又は,家屋の真下 ではなくても地表の低盆地状の地形の底に漏出して滞留,蓄積すると酸欠 事故を招来するおそれがある。 ウ 差止請求における違法性の判断は,被侵害利益の種類と侵害行為の態様 との相関関係において考察すべきところ,本件工事により陥没事故や酸欠 10 事故が起これば,人格権(生命,身体の安全についての権利及び良好な居 住環境を享受する権利)ないし財産権に対する不可逆的な侵害を生じる蓋 然性は極めて高い。一方で本件陥没の発生箇所である東京都調布市東つつ じヶ丘c丁目について,大深度法に基づき使用を認可されていたのは債務 者国及び債務者中日本であるにもかかわらず,当該箇所の工事を実施して 15 いたのは債務者東日本であり,本件工事には認可を受けていない事業者が 行った違法があり,これは侵害行為の態様として重要な考慮要素である。 債権者らがこのような工事を受忍すべき理由はない。 したがって,人格権ないし財産権に基づく妨害予防請求としての差止請 求が認められるべきである。 20 また,債権者らの平穏 要素である。 債権者らがこのような工事を受忍すべき理由はない。 したがって,人格権ないし財産権に基づく妨害予防請求としての差止請 求が認められるべきである。 20 また,債権者らの平穏で快適かつ健康な生活を営む利益が債務者らの違 法な行為によって著しく侵害され,かつこのような侵害が将来にわたって 継続する高度の可能性が存在するところ,事後的な金銭賠償では,被害者 の損害の填補が不可能であって,かつ金銭賠償ではない適当な処分によっ て侵害行為による被害の発生を防止することが可能であり効果的である場 25 合には人格権侵害一般に対する事前の救済方法として民法723条を適用 9 ないし類推適用し,同条の「処分」として不法行為に基づく差止請求が認 められるというべきである。 (債務者らの主張) ア 本件陥没を受けて設置された「東京外環トンネル施工等検討委員会有識 者委員会」(以下「本件有識者委員会」という。)は,①掘削断面は,細 5 粒分が少なく,均等係数が少ないため,自立性が乏しく,礫が卓越して介 在していること,②掘削断面上部は,単一の砂層である流動化しやすい層 が地表面近くまで連続している地盤であること,③表層部は他の区間と比 較して薄い地盤であること,の全ての条件に該当する特殊な地盤であるこ とを本件陥没の要因としている。本件陥没は三つの地盤条件の全てに該当 10 する特殊な地盤条件下で発生したものであるところ,当該地盤条件は本件 陥没箇所周辺以外には当てはまらないし,債務者らは,再発防止対策とし て閉塞を生じさせない,過剰な土砂取込みを生じさせないためにシールド トンネル内の土圧をリアルタイムに監視する,より厳しい管理値の設定, 気泡材の重量を控除しない掘削土量を管理する等の対応を講じることとし 15 ている。具体的には,東名ジャン じさせないためにシールド トンネル内の土圧をリアルタイムに監視する,より厳しい管理値の設定, 気泡材の重量を控除しない掘削土量を管理する等の対応を講じることとし 15 ている。具体的には,東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行) 及び同(北行)の工事の再発防止対策については,策定済みの大泉ジャン クション部発進の本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事等の再発防 止対策を一部適用することとしているから,債権者らの居住場所において 陥没が発生するおそれがあるとはいえない。 20 イ 酸欠空気が漏出することがあっても,漏気は大気に比して微量であり, 地表に放出されれば直ちに希釈化されるため,これが人体や周辺環境,債 権者らの財産権に影響を及ぼす蓋然性は認められない。 ウ 本件工事によって陥没事故や酸欠事故が生じる具体的なおそれが疎明さ れたとはいえず,人格権ないし財産権に基づく妨害予防請求としての差止 25 請求は認められない。 10 また,不法行為は差止請求を認める根拠とはならない。 ⑵ 争点②(保全の必要性の有無)について (債権者らの主張) 本件陥没や酸欠空気の発生が人身事故に至らなかったのは全くの偶然であ る。債務者らはいつ本件工事を再開するとも限らず,本件工事が再開されれ 5 ば債権者らの被保全権利が不可逆的に侵害されるおそれがあるから,本件仮 処分命令を発令する必要性,緊急性が認められる。 (債務者らの主張) 債務者らは,東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)及び同 (北行)の工事については,まずは本件陥没が生じた地盤の補修を行うため, 10 地盤補修範囲にある家屋の仮移転,買取り等に関わる地権者との交渉や,地 盤補修工事の施工方法等の検討を優先して行うとともに,再発防止に 事については,まずは本件陥没が生じた地盤の補修を行うため, 10 地盤補修範囲にある家屋の仮移転,買取り等に関わる地権者との交渉や,地 盤補修工事の施工方法等の検討を優先して行うとともに,再発防止について の事業者案を策定し,有識者による確認を経て,地域住民への説明を行わな い限り本件工事を再開しないこととしている。したがって,地権者との交渉 等,具体的に期間を見込むことはできないものの,シールドマシンが直ちに 15 動くとの急迫性はないことからすれば,将来の再開になお懸念ありとして現 時点で差止めを認める必要性はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 各認定事実末尾記載の疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,以下の事実を一 20 応認めることができる。 ⑴ 検討委員会の設置等 本件事業に関して,トンネルの構造,施工技術等について確認,検討する ことを目的として,学識経験者,関係機関により東京外環トンネル施工等検 討委員会(以下「本件検討委員会」という。)が設置され,平成24年7月 25 から,継続的に委員会が開催されている。本件工事の施工方法については, 11 本件検討委員会の検討を経て,シールド工法のうち気泡シールド工法による こととされた。(甲87,乙B・C1,2,36の3[5-1頁]) ⑵ 気泡シールド工法の特徴等 ア シールド工法について シールド工法は,切羽が崩落するのを防ぐために,掘りたてのトンネル 5 内面にぴったり入る大きさのシールドと呼ばれる頑丈な筒を押し込んで一 時的に支え,切羽の掘削とともにそれを前進させ,シールドが一定距離前 進するとその後方にトンネル内径に沿う円弧状のセグメントと呼ばれる鋼 製又は鉄筋コンクリート製のブロックをリング状に組み立てて,順次堅牢 なトンネル内壁を構築していくトンネル施工法で ールドが一定距離前 進するとその後方にトンネル内径に沿う円弧状のセグメントと呼ばれる鋼 製又は鉄筋コンクリート製のブロックをリング状に組み立てて,順次堅牢 なトンネル内壁を構築していくトンネル施工法である(乙A9,乙B・C 10 46[8,17頁])。 イ シールドマシンの仕組みについて 本件工事に用いられたシールドマシンは,外径約16m,機長約14m, 重さ約4000tの円筒形のもので,先端に取り付けられたシールドマシ ンと同じ外径のカッターヘッドを回転させて地山を掘削すると同時に,シ 15 ールドマシン内部でトンネルの壁を組み立て,油圧で自在に伸縮するシー ルドジャッキでシールドマシンを前に押し進めていく仕組みとなっている。 また,カッターヘッドで掘削した土は,シールドマシンの内部に取り込ま れ,シールドマシンの内部にあるスクリューコンベヤで後方へ運ばれる。 カッターヘッドのあるシールドマシン前方とシールドマシン内部とは,隔 20 壁によって隔てられ,隔壁とカッターヘッドとの間の空間は,チャンバー と呼ばれる。(乙B・C46[8,17~19頁]) ウ 気泡シールド工法について 本件工事が採用する気泡シールド工法は,シールド工法の中の土圧式シ ールド工法のうち泥土圧シールド工法の一類型である。 25 泥土圧シールド工法は,チャンバー内に削り取った土砂を充満させるこ 12 とにより,地山の土水圧とのバランスをとって切羽の崩落を防止する(切 羽の安定を図る)ことを特徴とした工法であり,掘削土砂は切羽の土水圧 が下がらないようにスクリューコンベヤで土量管理されている。 気泡シールド工法は,チャンバー内に気泡材を注入し,掘削土砂と気泡 材を攪拌混合して土粒子の隙間を気泡で充填することにより掘削土砂を泥 5 土化させ,チャンバー及びスクリュー されている。 気泡シールド工法は,チャンバー内に気泡材を注入し,掘削土砂と気泡 材を攪拌混合して土粒子の隙間を気泡で充填することにより掘削土砂を泥 5 土化させ,チャンバー及びスクリューコンベヤ内に泥土を充満させながら 掘進する工法である。本件工事において用いられていた気泡材は,起泡溶 液と空気を混合して作られたシェービングクリーム状のきめ細かい泡であ り,気泡が掘削土砂の塑性流動性(力を加えた際の変形のしやすさ)と止 水性(水が通りにくい性質)を向上させ,かつ,チャンバー内での掘削土 10 砂の付着を防止する役割を果たし,シールドマシンの推進力等によってチ ャンバー内に充満した泥土が加圧されて泥土圧を発生させ,切羽に作用す る地山の土・水圧と対抗することで,切羽の安定を保持しつつ,スムーズ な掘進を可能にするという特徴がある。 (甲14,乙A9,乙B・C7,12,16~18,46[8,17~1 15 9頁]) 気泡の確認とそれに対する対応 平成30年5月以降に確認された気泡(前記前提事実⑷)について,次の アないしウのとおり,債務者東日本らが気泡の酸素濃度を測定し,本件検討 委員会が気泡の発生メカニズムや掘削方法等を確認した。 20 ア 平成30年5月から同年7月までの気泡(前記前提事実⑷ア)につい て 債務者東日本らは,平成30年5月15日頃から東名ジャンクション 付近の野川の水面で気泡が確認されたこと(前記前提事実⑷ア)を受け て,気泡を採集し,簡易測定を実施した結果,気泡自体の酸素濃度は, 25 1.5%~6.4%であったが,水面直上及び水面から1.5mの高さ 13 の酸素濃度は,いずれも20%を超えていた(甲19~21,乙B・C 8)。 本件検討委員会が平成30年10月30日に開催され,以下の内容が 確認された たが,水面直上及び水面から1.5mの高さ 13 の酸素濃度は,いずれも20%を超えていた(甲19~21,乙B・C 8)。 本件検討委員会が平成30年10月30日に開催され,以下の内容が 確認された(甲19,乙B・C3の1)。 ① 東名ジャンクションが設置される場所の地盤である北多摩層におい 5 ては,掘削面の水量が少ないため,シールド工事の掘進時に使用する 気泡材の水分が奪われ,破泡しやすく,また,水や空気を通しにくい ことから,人工的な孔があるとそこを空気が通りやすいという特徴が ある。これらの特徴を有する北多摩層において,大深度地下の大断面 のシールド工事の掘進時に用いる空気の一部が,北多摩層まで到達し 10 ている人工的な孔の隙間を通って上昇し,地上に漏出したと考えられ る。 ② 債務者東日本らによる掘進方法の変更の結果,北多摩層においては, 空気を使用しない(気泡材の生成に当たり起泡溶液に空気を混合しな い)掘進方法によれば,漏気を発生させることなく,安全に掘進でき 15 た。空気を使用し(起泡溶液に空気を混合する)気泡材の濃度を変更 する等破泡しにくい気泡材を用いて生成した気泡(改良気泡)を用い た掘進方法では,野川等工事ヤード外では漏気は確認されず,漏気が 確認された場所でも少量であり,人工的な孔がある場合でも,掘進時 に使用する添加材や圧力の調整を行うことにより,地下への漏気等を 20 抑制しながら安全に掘進できる。また,地中から漏出した空気は,大 気に比して微量であり,希釈されるため,周辺環境に影響を与えるも のではないと考えられる。 イ 令和元年8月から同年9月までの気泡(前記前提事実⑷イ)について 債務者東日本らは,令和元年8月19日から白子川の水面において 25 気泡が確認されたこと(前記前提事実⑷イ)を る。 イ 令和元年8月から同年9月までの気泡(前記前提事実⑷イ)について 債務者東日本らは,令和元年8月19日から白子川の水面において 25 気泡が確認されたこと(前記前提事実⑷イ)を受けて,気泡を採集し, 14 簡易測定を実施した結果,気泡自体の酸素濃度は,7.3%~20. 9%であったが,水面直上及び水面から1.5mの高さの酸素濃度は, いずれも20%を超えていた(甲24,25,乙B・C8)。 本件検討委員会が令和2年1月27日に開催された。同日の会議にお いては,①白子川及び工事ヤード内で発生した漏気は,地下のシールド 5 工事の掘進時に用いる空気のごく一部が,過去の護岸構築時の土留め工 跡等や既存ボーリング孔を通じ,漏出したものと考えられること,②一 般的に地中では酸化還元反応により酸素が消費されるため,野川での漏 気事象と同様に地中を通過し漏気した空気の酸素濃度が低くなったもの と考えられるが,漏気は大気に比して微量であり希釈されるため,水質 10 調査等の結果,周辺環境への影響はなかったことが確認された。(乙B ・C5) ウ 令和2年3月から同年4月までの気泡(前記前提事実⑷ウ)について 債務者東日本らは,令和2年3月7日から野川の水面において気泡が 確認されたこと(前記前提事実⑷ウ)を受けて,気泡を採集し,簡易測 15 定を実施した結果,気泡自体の酸素濃度は,7.2%~15.6%であ ったが,水面直上及び水面から1.5mの高さの酸素濃度は,いずれも 20%を超えていた(甲27~31,乙B・C8)。 本件検討委員会が令和2年7月17日に開催され,以下の点が確認さ れた(乙B・C19,20)。 20 ① 東名側本線シールド(南行)工事における漏気事象について,シー ルドマシン通過後にも継続して 討委員会が令和2年7月17日に開催され,以下の点が確認さ れた(乙B・C19,20)。 20 ① 東名側本線シールド(南行)工事における漏気事象について,シー ルドマシン通過後にも継続して確認された漏気は,空気の通り道とな る砂層や砂礫層等の僅かな隙間を通じて,トンネル掘進に用いている 空気の一部が地表まで時間をかけて漏出したものと考えられる。 ② シールドマシンから離れた位置において確認された気泡は極めて微 25 量であり,シールド工事による影響であるか,自然現象であるかの原 15 因の特定は難しく,漏気状況のモニタリングを継続していく。 ③ これらの漏気について,水質調査や井戸・地下室での酸素濃度調査 等の結果,環境基準等を満足しており,周辺環境へ影響を及ぼすもの ではない。 ⑷ 本件陥没と債権者ら居住場所との距離関係等 5 令和2年10月18日,東京都調布市東つつじヶ丘c丁目の道路において, 本件陥没が発生した(前記前提事実 ア)。 本件陥没の発生箇所及び本件地域と債権者ら居住場所とのおおよその距離, 債権者らの居住場所に最も近いボーリング箇所及びその地盤の状況等は,別 表「距離関係等整理表」記載のとおりである。 10 ⑸ 本件陥没に関する有識者委員会による検討内容等 ア 有識者委員会の設置等 本件陥没発生翌日の令和2年10月19日,本件陥没に対する応急措置 として,砂による埋土が行われた。また,同日,トンネルの構造,地質・ 水文,施工技術等について,より中立的立場で確認,検討することを目的 15 として,本件検討委員会の学識委員等から構成する「東京外環トンネル施 工等検討委員会有識者委員会」(本件有識者委員会)が設置され,同日, 第1回本件有識者委員会が開催された。(甲86,乙B・C 15 として,本件検討委員会の学識委員等から構成する「東京外環トンネル施 工等検討委員会有識者委員会」(本件有識者委員会)が設置され,同日, 第1回本件有識者委員会が開催された。(甲86,乙B・C22,23, 36の3[1-1,1-2,2-1頁]) イ 本件有識者委員会における報告書(以下「本件有識者委員会報告書」と 20 いう。)取りまとめまでの検討状況 令和2年10月23日に開催された第2回本件有識者委員会において, 本件陥没に関する調査方針が確認された。同方針に従い本件陥没箇所周 辺の地盤調査を行ったところ,同年11月2日から同月3日にかけて, 本線トンネル(南行)の直上,本件陥没箇所から約40m北の地表から 25 の深度約5mの位置に,幅約4m×長さ約30m,厚さ約3mの空洞 16 (以下「本件空洞①」という。)が発見された。同月5日に開催された 第3回本件有識者委員会においては,本件空洞①は,直ちに地表面に変 状を及ぼすものではないが,早期に充填することが望ましいことや,早 期に原因究明を行うこと等が確認された。 また,同月21日,本線トンネル(南行)の直上,本件陥没箇所から 5 約30m南の地表からの深度約4mの位置に,幅約3m×長さ約27m, 厚さ約4mの空洞(以下「本件空洞②」という。)が発見され,同月2 7日に開催された第4回本件有識者委員会において,本件空洞②につい ても直ちに地表面に変状を及ぼすものではないが,早期に充填すること が望ましいこと,本件陥没箇所周辺に続けて空洞が確認されたことから, 10 調査範囲を広げること,調査を速やかに完了させ,できるだけ早く原因 究明を進めることなどが確認された。 本件空洞①は同月24日に,本件空洞②は同年12月3日に,それぞ れ充填が行われた。 (乙B・C24の1~24の3,25,2 速やかに完了させ,できるだけ早く原因 究明を進めることなどが確認された。 本件空洞①は同月24日に,本件空洞②は同年12月3日に,それぞ れ充填が行われた。 (乙B・C24の1~24の3,25,26,27の1・2,35の 15 1) 令和2年12月18日,第5回本件有識者委員会が開催され,本件陥 没に関する調査状況について中間報告が行われ,本件陥没,本件空洞① 及び本件空洞②が形成された想定される要因を列挙し,特殊な地盤条件 下において行われたシールドトンネルの施工が,陥没箇所を含む空洞の 20 要因の一つである可能性が高いと推定されるものの,現時点では,要因 の特定には至っていないため,引き続き残る現地調査やそれらも踏まえ た検証を早期に行い,本件陥没等の発生メカニズムを特定する必要があ ること,陥没及び陥没につながるおそれがある空洞が発見された場合は, 緊急時として位置付けて速やかに公表,周知することなどが確認された 25 (乙B・C28)。 17 令和3年1月14日,本線トンネル(南行)直上,本件陥没箇所から 約110m北の地表面からの深度約16mの位置に,幅約4m×長さ約 10m,厚さ約4mの空洞(以下「本件空洞③」といい,本件空洞①な いし③を併せて「本件空洞」という。)が発見され,同月22日までに 充填が行われた。 5 同年2月12日,第6回本件有識者委員会が開催された。本件有識者 委員会において,本件陥没及び本件空洞は東久留米層のうち掘削断面に おいて礫層が混ざり合う区間で発生したところ,上記区間は後記ウ 記 載のような特殊な地盤条件であること,上記条件は,東京外環全線の中 で,東名ジャンクション部から掘進する中で上記の礫層の混入が見られ 10 始める箇所から北側,東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行) 工事のシ 地盤条件であること,上記条件は,東京外環全線の中 で,東名ジャンクション部から掘進する中で上記の礫層の混入が見られ 10 始める箇所から北側,東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行) 工事のシールドマシンが停止している位置まで(以下,この区間を「エ リアA」という。)及び前方(北側)京王線付近までであること,本件 陥没及び本件空洞周辺では夜間掘進休止後の掘進再開時にカッターが回 転不能になる事象(閉塞)が度々生じ,これを解除する特別な作業を行 15 っていたこと等を踏まえ,本件陥没及び本件空洞は,特殊な地盤条件下 において行われたカッターが回転不能になる事象を解除するために行っ た特別な作業に起因するシールドトンネルの施工が要因である可能性が 高いとして,その発生メカニズムを推定した上,これに基づき,地盤の 緩みが生じている可能性のある範囲の特定及びその補修等の措置並びに 20 再発防止対策の基本方針等が確認された。 (甲82,88,乙B・C33,36の3[1-1頁]) ウ 本件有識者委員会報告書の内容 令和3年3月19日,第7回本件有識者委員会が開催され,第1回から 第6回までに,地盤調査や施工記録等に基づき,本件陥没や本件空洞形成 25 に至る複数の要因分析,メカニズムの特定,再発防止対策等について,ト 18 ンネル工学,地質・水文学,地盤工学,施工法を専門とする委員それぞれ の見地から中立的な立場で議論,検討を行った一定の結論として,報告書 の取りまとめが行われた上で,同月,本件有識者委員会報告書が公表され た。上記報告書の内容は以下のとおりであった。(乙B・C36,40) 地盤の特性 5 本件事業においては,事業区域周辺の地形,地質を把握するため,調 査間隔200m程度を目安として事業区域周辺で86本のボーリン った。(乙B・C36,40) 地盤の特性 5 本件事業においては,事業区域周辺の地形,地質を把握するため,調 査間隔200m程度を目安として事業区域周辺で86本のボーリング調 査等による事前調査を実施している。本件陥没近傍のボーリングナンバ ーH21-12の地盤(エリアAの地盤)は,東久留米層に分類される 地質であるところ,次の全てに該当する特殊な地盤条件であることが事 10 前調査において確認されていた。 ①表層部 厚さ5~10mの埋土・ローム層・武蔵野礫層であり,他の 区間と比較して表層が薄い。 ②掘削断面上部 単一の砂層であり,トンネル掘削による地山への影響 が地表面まで伝搬しやすい。(礫・砂・シルト・粘土が混在 15 する互層区間は伝搬しにくい。) ③掘削断面 砂層主体(多少の粒度のばらつきがあるものの,細砂~中 砂がその主体となっている)であるが,礫が卓越して介在し ている。細粒分が少なく,均等係数が小さい地質であり,地 山の塑性流動性・止水性の確保が困難である。 20 なお,掘削断面で,細粒分10%以下,均等係数5以下である箇所 は,東久留米層でボーリングナンバーH21-12,同H21-13, 同H21-15の3箇所,舎人層でボーリングナンバーH21-23, 同H21-30の2箇所であり,北多摩層では該当箇所はない。 また,事後の調査等により,本件空洞箇所の表層部には硬質なロー 25 ム層が存在する一方で,本件陥没箇所にはこの層がなく,黒ボク土が 19 存在していることから,埋土造成された可能性があることが確認され た。 施工状況 シールドマシンによる掘進作業は,当初24時間行っていたが,振動 の問合せを踏まえ,令和元年5月以降,午前8時から午後10時までと 5 していた。その後,掘進する地質 た。 施工状況 シールドマシンによる掘進作業は,当初24時間行っていたが,振動 の問合せを踏まえ,令和元年5月以降,午前8時から午後10時までと 5 していた。その後,掘進する地質が東久留米層に変わり,礫の混入が見 られたこと,また,振動が地上に伝わりやすい地盤であり,振動の問合 せが増加したことを踏まえ,塑性流動性を確保するため,気泡材タイプ ・注入量の変更等を実施しながら掘進を行っていた。ところが,令和2 年8月20日及び同月21日の朝の掘進開始時に,カッターが回転不能 10 になる事象(閉塞)が発生した。そこで,気泡材を注入してチャンバー 内圧力を保持しながら,チャンバー内の土砂を一部取り込み,排土する ことを繰り返すという特別な作業を行ってカッターヘッドの回転起動を 行い,掘進を再開させた。同月26日以降は,振動の問合せ増加を踏ま え,掘進作業時間を午前8時から午後8時までに変更し,夜間掘進休止 15 時間を拡大させた。同年9月8日からは,カッターが回転不能になる事 象(閉塞)が頻発した。同月21日からは,振動の問合せ増加を踏まえ, 土曜日及び祝日の掘進作業時間を午前8時から午後6時に変更していた。 同年10月18日,同年9月14日に切羽が通過した箇所において,本 件陥没が発生した。 20 本件陥没及び本件空洞発生の推定メカニズム 本件陥没及び本件空洞箇所の下部がトンネル方向に局所的に引き込ま れている現象が事後の調査によって確認されており,特殊な地盤条件 (前記 )下においてカッターが回転不能になる事象(閉塞)を解除す るために行った特別な作業(前記 )に起因するシールドトンネルの施 25 工が本件陥没及び本件空洞発生の要因と推定され,その発生メカニズム 20 については次のとおり推定される。 めに行った特別な作業(前記 )に起因するシールドトンネルの施 25 工が本件陥没及び本件空洞発生の要因と推定され,その発生メカニズム 20 については次のとおり推定される。 カッターが回転不能になる事象(閉塞)は,夜間の作業休止時間に, チャンバー内の気泡材が上昇して土粒子が沈降することにより,翌朝の 掘進開始時に,チャンバー内の土砂と気泡材が分離し,土砂の沈降及び 締固まりが発生したことにより生じた。閉塞を解除するために起泡溶液 5 をチャンバー内に注入してチャンバー内の土砂を排出するという特別な 作業(前記 )を行ったが,その過程で,局所的にチャンバー内の圧力 が低下したことが確認されており,チャンバー内圧力と切羽土圧の均衡 がとれず,地山から土砂がチャンバー内に流入することで,地山に緩み が発生し,煙突状に掘削断面上部へ拡大した。カッターが回転し,閉塞 10 が解除された後,特殊な地盤下で塑性流動性を保つため,通常より多く の気泡材を地山に注入して掘進を再開したところ,注入した気泡材の一 部が閉塞解除作業によって緩んだ地山に過度に浸透した。掘削土砂の重 量は,注入した気泡材が全て回収される前提で,スクリューコンベヤで 運ばれる排出土の重量から注入した気泡材の全重量を控除して算出する 15 ことにより管理されていたが,気泡材の一部が地山に過度に浸透し,回 収できていなかったため,掘削した地山の重量を過少に評価し,想定よ りも土砂を過剰に掘削していた。繰り返し行われた閉塞解除作業により 生じた地山の緩みが,掘進時にさらに助長されて拡大し,地表面付近の 地中に硬質のローム層をアーチ天井とする空洞が形成され,硬質のロー 20 ム層が欠如している箇所で陥没に至った。 地盤の緩みの状況及び補修の予定 エリアAのうち,本線トンネル縦断方向で 面付近の 地中に硬質のローム層をアーチ天井とする空洞が形成され,硬質のロー 20 ム層が欠如している箇所で陥没に至った。 地盤の緩みの状況及び補修の予定 エリアAのうち,本線トンネル縦断方向では,本件陥没及び本件空洞 箇所を含むシールドマシン停止地点まで,本線トンネル横断方向では, 本線トンネル(南行)直上に地盤の緩みが生じていると推定される。地 25 盤が砂層の場合,変形や緩みの進展は即時的であり,現時点で安定が損 21 なわれているものではないが,長期的な地盤の安定確保のため,地盤の 緩みが生じていると推定される範囲については,地盤の緩みに対しての 補修を実施していく必要がある。補修工法については,今後具体的に検 討していく必要があるが,補修期間はおおむね2年程度と想定している。 再発防止対策 5 本件陥没,空洞の推定メカニズムを踏まえた再発防止対策として,① 掘削土砂を分離・沈降させない,閉塞させない対応(一定時間にわたり 掘削土砂の塑性流動性・止水性を確保),②過剰な土砂取込みを生じさ せない対応(切羽を緩めない対応,添加材(掘削土砂を泥土化するため に添加する材料(乙46))の未回収傾向を把握,排土量管理の強化) 10 及び③万一閉塞が生じた場合に切羽を緩めない対応が必要であり,具体 的には以下のとおりである。 a 上記①につき,シールド掘進地盤に適した添加材の選定等(掘進前) 細粒分が少なく,均等係数が小さいなどの地盤については,追加ボ ーリングを実施する。そして,土質調査の結果を踏まえ,事前配合試 15 験を実施して添加材を選定する。 b 上記①②につき,塑性流動性とチャンバー内圧力のモニタリングと 対応(掘進中) チャンバー内の圧力勾配などをリアルタイムに監視 試 15 験を実施して添加材を選定する。 b 上記①②につき,塑性流動性とチャンバー内圧力のモニタリングと 対応(掘進中) チャンバー内の圧力勾配などをリアルタイムに監視する。手触に加 え,その都度,試験を行って排土の性状を確認するとともに,適正な 20 チャンバー内の圧力を設定する。 c 上記②につき,排土管理の強化(掘進中) これまでの排土管理に加えて,より厳しい管理値や気泡材を控除し ない新しい管理項目を設定する。そして,管理値を超過した場合には, 添加材の種類変更等の対応を適切に実施する。 25 d 上記③につき,カッター回転不能(閉塞)時の対応 22 安全のため必要な措置を実施した上で,工事を一時中断し,原因究 明と地表面に影響を与えない対策を十分に検討する。閉塞解除後の地 盤状況を確認するために,必要なボーリング調査等を実施する。 ⑹ 本件仮処分手続の審理経過 ア 令和2年10月28日,本件仮処分命令申立事件の第4回審尋期日が開 5 かれ,当裁判所及び当事者の間で,同月18日に発生した本件陥没を踏ま え,本件有識者委員会による調査の状況及び結果を勘案しながら仮処分手 続の進行を検討することが確認された。 イ 令和3年5月26日,第7回審尋期日が開かれた。同審尋期日において, 債務者東日本は,同年3月に公表された本件有識者委員会報告書の内容 10 (前記⑸ウ)を踏まえ,事業者において個々の再発防止対策を策定する段 階にあるが,検討中であるためいつまでに策定できるかなどの予定を明ら かにすることはできず,本件工事の再開の見通しも不明であると述べた。 当裁判所は,債務者らに対し,次回までに再発防止対策の策定に関する見 通しを明らかにするよう求めて審尋期日 定できるかなどの予定を明ら かにすることはできず,本件工事の再開の見通しも不明であると述べた。 当裁判所は,債務者らに対し,次回までに再発防止対策の策定に関する見 通しを明らかにするよう求めて審尋期日を続行した。 15 ウ 令和3年7月20日,第8回審尋期日が開かれた。同審尋期日において, 債務者東日本は,再発防止対策の策定に関する見通しは現在でも未定であ り,おおまかなスケジュールについても答えられない旨を述べた。当裁判 所は,債務者らに対し,引き続き,再発防止対策の策定に関する見通しを 明らかにするよう求めた。 20 エ 令和3年9月21日,第9回審尋期日が開かれた。債務者東日本は,再 発防止対策の策定に関して,事業者案を策定するまでおおむね3,4か月 程度,有識者への確認におおむね1,2か月程度要するとの見通しを明ら かにした。当裁判所は,債務者らに対し,再発防止対策の策定に関する見 通しを上記のとおりとした根拠等を書面で明らかにするよう求めて審尋期 25 日を続行した。 23 オ 令和3年11月11日,第10回審尋期日が開かれた。債務者らは,再 発防止対策の策定に関し,同年10月29日時点における検討状況等を明 らかにした上で,同時点から2,3か月で再発防止対策の事業者案を策定 し,本件工事再開前には事業者案について有識者の確認(これまでの実績 ではおおむね1,2か月)を経て地域住民への説明を行うとしたが(債務 5 者東日本ら令和3年10月29日付意見書 [8,9頁],債務者国令和3 年10月29日付意見書 [9頁]),再発防止対策の策定の進行状況の経 過を明らかにすることは困難であると述べ,債務者東日本は,東名ジャン クション部から発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事につ いては,再発防止対策策定までの具体的なスケジュー の進行状況の経 過を明らかにすることは困難であると述べ,債務者東日本は,東名ジャン クション部から発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事につ いては,再発防止対策策定までの具体的なスケジュールを明らかにするこ 10 とはできないと述べた。 カ 令和3年12月23日,第11回審尋期日が開かれた。債務者東日本は, 東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)及び同(北行) の工事の再発防止対策策定までの具体的なスケジュールについて,現段階 で確定していないという状況に変わりはないと述べた。 15 ⑺ 令和3年12月24日以降の再発防止対策の策定状況 令和3年12月24日,本件検討委員会が開催された。同日の検討委員会 においては,大泉ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同 (北行),大泉ジャンクションFランプシールドトンネル,中央ジャンクシ ョン北側Aランプシールドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプ 20 シールドトンネルの工事につき,本件有識者委員会報告書において取りまと められた再発防止対策を元に事業者において検討した内容が報告されるとと もに,以下の点が確認された。(乙B・C50の1,51,52) ア 大泉ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行), 大泉ジャンクションFランプシールドトンネル,中央ジャンクション北側 25 Aランプシールドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプシール 24 ドトンネルの工事の再発防止対策について 今後の掘進区間の中で,最も塑性流動性の確保が厳しいと想定される 層が全面に現れた場合の模擬土を用いて,長期休暇等による掘進停止を 想定した添加剤配合試験により,条件に適した添加材を用いることで塑 性流動性を確保できる。併せて,添加 流動性の確保が厳しいと想定される 層が全面に現れた場合の模擬土を用いて,長期休暇等による掘進停止を 想定した添加剤配合試験により,条件に適した添加材を用いることで塑 性流動性を確保できる。併せて,添加材の調整をより円滑に実施するた 5 め,掘進とともに細粒分が少ない礫層や砂層が増加していく傾向にある 箇所では,追加ボーリングを実施することが望ましい。 チャンバー内圧力は,シールド掘進中及び停止中はリアルタイムで監 視していくとともに,塑性流動性の管理は,カッタートルク,手触,目 視,ミニスランプ試験及び粒度分布などの確認結果も踏まえ,総合的に 10 判断する。塑性流動性の改善がみられない場合には,掘進を一時停止し, 原因究明,対策検討を速やかに行う。その際,気泡材の注入量の調整や 添加材の変更に加え,カッターを回転することなどにより,チャンバー 内の土砂分離を防止し,チャンバー内の圧力を適切に保つ。 排土量管理については,過剰な取込みの兆候をより早く把握するため, 15 前20リング平均との比較による掘削土重量との傾向管理に加え,排土 率(地山掘削土量と設計地山掘削土量の比率)による,理論値と実績値 を比較する絶対値管理も併せて行う。前20リング平均により傾向管理 する添加剤の全重量を控除した地山掘削重量(体積),添加材の重量を 控除しない排土全重量(体積)についてこれまでの管理値より厳しい± 20 7.5%を1次管理値として設定した。 シールド掘進時,添加材選定,チャンバー内圧力管理,排土管理の各 々の段階で,施工リスクやトラブルを想定した対応フローを作成すると ともに,現場の異変をいち早くキャッチするため施工状況を常時多視点 モニタリングし,緊急時対応や有識者への相談を含めた体制を構築する。 25 上記再 ブルを想定した対応フローを作成すると ともに,現場の異変をいち早くキャッチするため施工状況を常時多視点 モニタリングし,緊急時対応や有識者への相談を含めた体制を構築する。 25 上記再発防止対策は,令和3年12月に策定された「シールドトンネ 25 ル工事の安全・安心な施工に関するガイドライン」の内容を踏まえて策 定されており,今後のシールドトンネル施工を安全に行う上で妥当であ ることから,今後,シールドトンネルの掘進の際には,これらの内容を 踏まえ,施工状況や周辺環境のモニタリングを行いながら,細心の注意 を払って行っていく。 5 イ 東名ジャンクション部を発進する本線トンネル工事への適用について 再発防止対策のうち,排土管理の強化については,大泉ジャンクショ ン部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行),大泉ジャンクシ ョンFランプシールドトンネル,中央ジャンクション北側Aランプシー ルドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプシールドトンネル 10 の工事で審議し,取りまとめた結果の適用を検討する。 再発防止対策のうち,添加材の選定,チャンバー内圧力勾配の管理及 び機器の改良については,地盤条件に合わせて検討する。 東名ジャンクション部を発進する本線トンネル工事の再発防止対策に ついては,今後,事業者で検討を行った上で,シールドトンネルの掘進 15 の際には,本件検討委員会で審議,確認を経て地元説明を行うこととす るが,まずは本件陥没及び本件空洞箇所周辺の地盤補修,補償等の対応 に優先的に取り組む。 ⑻ 掘進作業に関するお知らせの公表 債務者東日本は,令和4年2月18日,大泉ジャンクション部発進の本線 20 トンネル(南行)の工事について,同年1月23日から同年2月1日にか む。 ⑻ 掘進作業に関するお知らせの公表 債務者東日本は,令和4年2月18日,大泉ジャンクション部発進の本線 20 トンネル(南行)の工事について,同年1月23日から同年2月1日にかけ て,再発防止対策や今後の対応等に関して住民説明会を開催し,関係機関と の調整,現場体制の構築など,掘進作業の準備が整ったとして,同月25日 以降,事業用地内のみの掘進作業を実施する旨公表した(甲98)。 2 争点に対する判断 25 ⑴ 争点①(人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求の可否)について 26 債権者らは,本件工事により,陥没事故が発生したり,酸欠事故が発生す るおそれがあり,これによって債権者らの人格権(生命,身体の安全につい ての権利及び良好な居住環境を享受する権利)や財産権が侵害されるおそれ があるとして,人格権ないし財産権に基づく妨害予防請求権を被保全権利と して,本件工事の差止めを求め,さらに不法行為に基づく差止請求が認めら 5 れるべきであると主張している。 ア 人格権に基づく差止請求について 個人の生命・身体の安全は,各人の人格に本質的なものであって,何 人もみだりにこれを侵害することは許されず,これが侵害されるおそれ がある場合には,その侵害に対して予防する権能が認められるべきであ 10 るから,人格権に基づく妨害予防請求として,当該侵害行為の差止めを 求めることができると解される。そして,人格権を根拠として差止請求 が認められるためには,債権者らが主張する被害についてその発生の具 体的危険性が疎明される必要があることに加えて,侵害行為の態様と侵 害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益 15 上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその 後の継続の経 れる必要があることに加えて,侵害行為の態様と侵 害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益 15 上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその 後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の 有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察し て差止めを認めるのが相当であると判断される程度の違法性があること が必要であると解される。 20 陥没事故の危険性等について a 本件工事と本件陥没との因果関係 前記前提事実⑸ア及びイのとおり,債務者東日本は,東名ジャンク ション部から発進する本線トンネル(南行)上で,シールドマシンに よる掘削が行われた約1か月後に生じた本件陥没について,本件工事 25 との因果関係を認めざるを得ない旨の会見を行っている。そして,専 27 門家によって構成される本件有識者委員会が取りまとめた報告書(前 記認定事実⑸ウ)は,地盤調査及び施工記録等を基に,本件陥没及び 本件空洞形成のメカニズムを説明しており,その内容に特に不合理な 点は認められない。以上によれば,本件陥没及び本件空洞は,本件有 識者委員会報告書のとおり,礫が卓越して介在する細粒分が少なく均 5 等係数が小さい砂層が掘削断面にあり,その上部が単一の砂層であっ て,トンネル掘削による影響が地表面に影響しやすく,表層が薄いと いうエリアAの特殊な地盤条件下において,夜間休止時にチャンバー 内の土砂が沈降・締め固まってカッターが回転不能になる事象(閉塞) が生じ,閉塞を解除するために,チャンバー内の土砂を排出して起泡 10 溶液を注入するという特別な作業を行った際に地山に緩みを生じさせ, 掘進再開時の土砂の過剰掘削と相まって,地山の緩みを拡大させたこ とによって生じたもの ために,チャンバー内の土砂を排出して起泡 10 溶液を注入するという特別な作業を行った際に地山に緩みを生じさせ, 掘進再開時の土砂の過剰掘削と相まって,地山の緩みを拡大させたこ とによって生じたものと一応認められる。 b 陥没による人格権侵害のおそれ及びその違法性(X10について) (a) 債権者らのうち,X10の居住場所は,別表「距離関係等整理 15 表」記載のとおり,本件陥没箇所から直線距離にしてわずか約3 1mの場所であり,地盤は特殊な地盤条件とされている本件陥没 箇所(①表層部において他の区間と比べ薄い厚さ5~10m程度 の地盤である。②掘削断面上部において,東久留米層で単一の砂 層であって掘削による地山への影響が地表面に伝搬しやすい。③ 20 掘削断面において,細粒分が少なく,均等係数が小さく礫が卓越 して介在している。)と同様の状況である。また,別表記載のと おり,X10の居住場所は,本件地域からは約30cmの位置に あって,現状,地盤に緩みが生じている本線トンネルの直上にあ るのと同視して差し支えない程度の距離にある(前記認定事実⑸ 25 ウ )。そうすると,前記aの本件陥没及び本件空洞の形成機序 28 に照らせば,有効な対策が採られないまま気泡シールド工法で本 件工事が再開されれば,東名ジャンクション部発進のシールドマ シンがエリアA及びその前方の京王線付近まで続く特殊な地盤条 件下を掘進する過程でカッターが回転不能になる事象(閉塞)が 生じ,それを解除するためにチャンバー内の土砂を排出して起泡 5 溶液を注入する特別な作業を行うことによって,また,掘進再開 時に土砂の過剰な掘削を招くことによって,X10の居住場所に 地盤の緩みを生じさせ,地表面に陥没を生じさせたり,地中に空 洞を生じさせたりする具体的なおそれがあると一応認められる。 こ ,掘進再開 時に土砂の過剰な掘削を招くことによって,X10の居住場所に 地盤の緩みを生じさせ,地表面に陥没を生じさせたり,地中に空 洞を生じさせたりする具体的なおそれがあると一応認められる。 これに対して,債務者らは,カッターの閉塞を生じさせない等 10 の再発防止対策を講じることとしているから,債権者らの居住場 所において陥没が発生するおそれがあるとはいえないと主張する。 しかし,債務者らは,本件有識者委員会報告書を踏まえて再発 防止対策の事業者案を策定し,有識者による確認を経る予定であ るとしているところ,前記認定事実⑹のとおり,本件陥没発生か 15 ら1年以上,本件有識者委員会報告書の完成からも約9か月が経 過した第11回審尋期日においても,本件陥没を生じさせた東名 ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)及びそれと並走す る同(北行)の工事については,再発防止対策策定までの具体的 なスケジュールは明らかにできない旨を述べるにとどまっており, 20 現段階においても,本件工事のうち,東名ジャンクション部から 発進する本線トンネルの工事について再発防止対策の事業者案の 策定,有識者による確認は未了である。当裁判所において最終と なる第11回審尋期日(令和3年12月23日)が終了した後, 前記認定事実⑺のとおり,令和3年12月24日に開催された本 25 件検討委員会において,大泉ジャンクション部を発進する本線ト 29 ンネル(南行)等の工事の再発防止対策が妥当なものであること, 上記再発防止対策を,東名ジャンクション部を発進する本線トン ネルの工事にも適用を検討することなどが確認されているものの, 具体的にどのように適用するかについては明らかにされていない 上,東名ジャンクション部を発進する本線トンネルの工事につい 5 ての再発防止対策については, 用を検討することなどが確認されているものの, 具体的にどのように適用するかについては明らかにされていない 上,東名ジャンクション部を発進する本線トンネルの工事につい 5 ての再発防止対策については,今後,事業者で検討を行った上で, 本件検討委員会で審議,確認を経るとされていることからすれば, 結局,本件工事のうち,東名ジャンクション部を発進する本線ト ンネルの工事について,具体的な再発防止対策が示されていない 状況に変わりはない。 10 そうすると,現時点においては,X10との関係では,本件工 事のうち,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行) 及び同(北行)の工事を続行することによって,その居住場所に 陥没や空洞が生じる具体的なおそれがあるといわざるを得ない。 (b) そして,本件陥没の規模(前記前提事実⑸)に照らすと,X1 15 0の居住場所において陥没や空洞が生じれば,家屋の倒壊等を招 き,その生命,身体に対する具体的な危険が生じるおそれがあり, その被害はX10の日常生活を根底から覆すものであるといえる。 一方で,本件事業は,首都圏等の交通混雑の緩和,安全かつ円滑 な交通の確保等を目的とするものであり(前記前提事実 ア), 20 その公共性ないし公益上の必要性が認められるが,前記の被侵害 利益の性質や内容に加え,東名ジャンクション部を発進する本線 トンネル工事についての再発防止の具体策が未だ示されていない ことなどを考慮すれば,本件工事に認可を受けていない事業者が 行った違法があるかどうかを検討するまでもなく,本件工事のう 25 ち,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び 30 同(北行)の工事には,差止めを認めるのを相当とする違法性が 認められるというべきである。 (c) よって,X10については,本件工事 ンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び 30 同(北行)の工事には,差止めを認めるのを相当とする違法性が 認められるというべきである。 (c) よって,X10については,本件工事のうち,東名ジャンクシ ョン部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事につ いて人格権に基づく妨害予防請求としての差止請求権の疎明がある。 5 これに対して,本件工事のうち,その余の工事(大泉ジャンクショ ン部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行),大泉ジャン クションFランプシールドトンネル,中央ジャンクション北側Aラ ンプシールドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプシー ルドトンネルの工事)については,X10の居住地域に及ぶものと 10 は認められず,これら工事についてはX10の人格権を侵害する具 体的おそれがあることの疎明がない。 c 陥没による人格権侵害のおそれ及びその違法性(X10を除く債権 者らについて) X10を除く債権者らの居住場所の地盤は,別表「距離関係等整理 15 表」の「最も近いボーリング箇所における地盤の状況」欄記載のとお りである。これら債権者の居住場所の地盤について前記の本件陥没箇 所と同様の特殊な地盤条件(①表層部において他の区間と比べ薄い厚 さ5~10m程度の地盤である。②掘削断面上部において,東久留米 層で単一の砂層であって掘削による地山への影響が地表面に伝搬しや 20 すい。③掘削断面において,細粒分が少なく,均等係数が小さく礫が 卓越して介在している。)に該当するかどうかについて検討する。ま ず,別表4番,6番及び13番記載の各債権者については,地盤の状 況が不明であり,上記の特殊な地盤条件であると認定する前提を欠い ている。また,X10,別表4番,6番及び13番の各債権者を 検討する。ま ず,別表4番,6番及び13番記載の各債権者については,地盤の状 況が不明であり,上記の特殊な地盤条件であると認定する前提を欠い ている。また,X10,別表4番,6番及び13番の各債権者を除く 25 債権者らの①表層部の地盤は,厚さ約10mと同程度かそれ以上であ 31 り,表層部が薄いという条件を満たさない。②掘削断面上部及び③掘 削断面をみても,別表1~3番の債権者らの地盤は②③いずれも掘削 による地山への影響が地表面に伝搬しにくい互層であり,上記条件を 満たさない。別表5番の債権者の地盤は,②掘削断面上部は互層であ る点,③掘削断面は砂層主体であるものの,細粒分の少なさや均等係 5 数の小ささにおいて,上記条件を満たさず,別表7~9番の債権者ら の地盤は,②掘削断面上部が互層である点において上記条件を満たさ ず,別表11番の債権者は,③掘削断面の細粒分の少なさや均等係数 の小ささについて上記条件を満たさず,別表12番の債権者は,②掘 削断面上部及び③掘削断面いずれも粘性土であり,上記条件を満たさ 10 ない。また,別表記載の本件地域からの距離や本件陥没箇所からの距 離に照らしても,X10を除く債権者らについて,その居住場所に本 件陥没と同様の陥没が生じる具体的なおそれが存在することはうかが われない。したがって,X10を除く債権者らについては,本件工事 を続行することにより陥没や空洞の発生によって人格権が侵害される 15 具体的なおそれが存在することについて疎明がない。 これに対して,債権者らは,掘削断面が,細粒分が少なく,均等係 数が小さいため,自立性が乏しい地盤であれば,シールドマシンによ る掘削土の取り込み過ぎにより,掘削断面の地盤に緩みや空隙を生じ させ,住宅街の直下の地中に空洞や地表部に陥没を発生させる可能性 20 が十分 さいため,自立性が乏しい地盤であれば,シールドマシンによ る掘削土の取り込み過ぎにより,掘削断面の地盤に緩みや空隙を生じ させ,住宅街の直下の地中に空洞や地表部に陥没を発生させる可能性 20 が十分あると主張する。 前記認定事実⑸ウ , 及び前記 aのとおり,本件陥没及び本件 空洞は,①表層部において他の区間と比べ薄い厚さ5~10m程度の 地盤である,②掘削断面上部において,東久留米層で単一の砂層であ って掘削による地山への影響が地表面に伝搬しやすい,③掘削断面に 25 おいて,細粒分が少なく,均等係数が小さく礫が卓越して介在してい 32 るといった特徴を全て含む特殊な地盤条件下において生じたものと認 められる。そして,本件において,上記の特殊な地盤条件を全て満た している箇所以外の箇所で陥没や空洞が発生していることはうかがわ れず,上記の特殊な地盤条件を全て満たしていなくても,掘削断面が, 細粒分が少なく,均等係数が小さいため,自立性が乏しい地盤であれ 5 ば空洞や陥没を発生させるおそれがあると認めるに足りる疎明はない。 したがって,債権者らの上記主張は採用することができない。 酸欠空気による危険性等について 債権者らは,本件工事によって生じた漏気は酸欠空気であり,この酸 欠空気が債権者らの家屋の真下に漏出し,家屋の地下室等の閉塞した空 10 間に滞留,蓄積したり,盆地状の地形の底に漏出して滞留,蓄積するこ とによって酸欠事故が生じる具体的なおそれがある旨主張する。 前記認定事実⑶のとおり,野川の水面等で確認された気泡は,その気 泡自体の酸素濃度は,最も低いもので1.5%程度であったものの,水 面から1.5mの高さにおける酸素濃度の計測結果ではいずれも20% 15 以上の値となっている。酸素欠乏症等防止 された気泡は,その気 泡自体の酸素濃度は,最も低いもので1.5%程度であったものの,水 面から1.5mの高さにおける酸素濃度の計測結果ではいずれも20% 15 以上の値となっている。酸素欠乏症等防止規則の定め(前記前提事実 ) において,酸素欠乏とは空気中の酸素濃度が18%未満である状態をい うとされているところ,本件検討委員会においても,漏気は大気に比し て微量であり,希釈化されるために周辺環境への影響はないことが確認 されている。また,債権者らが主張するような酸欠空気の滞留,蓄積を 20 もたらすような具体的な箇所や個々の債権者らとの関係は不明である上, 生じた漏気は上記のとおり大気への放出により希釈化されることからす れば,酸欠事故を招来する具体的なおそれがあるとはいえない。そうす ると,酸欠空気の発生によって債権者らの人格権が侵害される具体的な おそれがあるとはいえず,債権者らの主張は採用することができない。 25 イ 財産権に基づく差止請求について 33 債権者らは,陥没あるいは酸欠空気は,債権者らの財産権を侵害するお それがあるとして,本件工事の差止めを求める。 X10について,本件工事のうち,東名ジャンクション部を発進する本 線トンネル(南行)及び同(北行)の工事(なお,X10について本件工 事のうち東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同 5 (北行)の工事については,選択的関係にある人格権に基づく差止請求権 の疎明があるから,同工事に関する部分は判断を要しない。)を除く工事 についてX10の居住場所との関係で陥没発生の具体的おそれがあるとは いえないことは前記ア b(c)のとおりである。X10を除く債権者らの 居住場所については前記ア cのとおり,陥没発生の具体的なおそれが疎 10 明されているとは 係で陥没発生の具体的おそれがあるとは いえないことは前記ア b(c)のとおりである。X10を除く債権者らの 居住場所については前記ア cのとおり,陥没発生の具体的なおそれが疎 10 明されているとはいえない。また,前記ア のとおり債権者らについて酸 欠事故を招来する具体的なおそれについて疎明されているとはいえない。 したがって,債権者らについて陥没又は酸欠空気の発生による財産権侵害 のおそれも認められないから,その余の点について判断するまでもなく債 権者らの主張は理由がない。 15 ウ 不法行為の主張について 債権者らは,人格権侵害一般に対する事前の救済方法として民法723 条を適用ないし類推適用し,同条の「処分」として不法行為に基づく差止 請求が認められるべきと主張する。 しかし,不法行為の効果は金銭による損害賠償であって(民法709 20 条),不法行為に基づく差止請求は認められない。民法723条は,名誉 毀損における原状回復のために適当な処分をすることを法が特に認めたも のであって,人格権侵害一般について適用されるものではないし,類推適 用をする基礎もない。したがって,その余の要件について判断するまでも なく,不法行為に基づく差止請求には理由がない。 25 エ 小括 34 よって,X10については本件工事の差止請求のうち東名ジャンクショ ン部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事部分について 被保全権利(人格権に基づく差止請求権)の疎明があり,その余について は被保全権利の疎明がなく,X10を除く債権者らについては,人格権, 財産権及び不法行為に基づく差止請求権のいずれについても,被保全権利 5 の疎明がない。 争点②(保全の必要性の有無)について 債務者らは,東名ジャンクション部 者らについては,人格権, 財産権及び不法行為に基づく差止請求権のいずれについても,被保全権利 5 の疎明がない。 争点②(保全の必要性の有無)について 債務者らは,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び 同(北行)の工事については,本件陥没が生じた地盤の補修などを優先して 行うとともに,再発防止についての事業者案を策定し,有識者による確認を 10 経て,地域住民への説明を行わない限り本件工事を再開しないとして,現時 点において差止めを認める必要はないと主張する。 前記前提事実⑹のとおり,債務者らは,本件陥没が生じた後,本件工事に 係る掘進作業をいずれも停止し,本件有識者委員会報告書では地盤の補修期 間はおおむね2年程度と想定されている(前記認定事実 ウ )。 15 しかし,本件仮処分手続において,債務者らは,当裁判所からの釈明に対 し,本件陥没を生じさせた東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行) 及び同(北行)の工事については,再発防止対策策定までの具体的なスケジ ュールを明らかにすることはできない旨述べ(前記認定事実⑹),東名ジャ ンクション部発進の本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事については 20 少なくとも一定期間は再開を見込めないといった見通しを示すこともなかっ た。加えて,本件工事のうち,大泉ジャンクション部を発進する本線トンネ ル(南行)及び同(北行),大泉ジャンクションFランプシールドトンネル, 中央ジャンクション北側Aランプシールドトンネル並びに中央ジャンクショ ン北側Hランプシールドトンネルの工事については,再発防止のための事業 25 者案の策定,本件検討委員会の確認を経ており,大泉ジャンクション部を発 35 進する本線トンネル(南行)の工事については,令和4年2月25日以降に 掘進作業を実施する旨公 ,再発防止のための事業 25 者案の策定,本件検討委員会の確認を経ており,大泉ジャンクション部を発 35 進する本線トンネル(南行)の工事については,令和4年2月25日以降に 掘進作業を実施する旨公表していることからすれば(前記認定事実⑺,⑻), 東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)につ いても,本案判決に至るまで工事が再開されない保証はなく,現時点におい て,上記工事を仮に差し止めることについての保全の必要性も一応認められ 5 る。 3 結論 以上によれば,債権者らの申立てのうち,X10については,本件工事のう ち東名立坑(東名ジャンクション部)を発進する本線トンネル(南行)及び同 (北行)の工事については被保全権利(人格権に基づく妨害予防請求権として 10 の差止請求権)及び保全の必要性のいずれも疎明があるからその差止めを認容 し,X10の本件工事のうちその余の工事の差止めを求める部分及びその余の 債権者らの申立てには理由がないからこれらを却下することとして,主文のと おり決定する。なお,事案に鑑み,X10には担保を立てさせないこととす る。 15 令和4年2月28日 東京地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官 目 代 真 理 20 裁判官 秋 田 智 子 裁判官 小 川 惠 輔 25 36 別紙当事者目録は記載を省略

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