令和2年(ヨ)第1542号東京外環道気泡シールドトンネル工事差止仮処分命令申立事件決定 主文 1 債務者らは,東京都市計画道路事業都市高速道路外郭環状線のうち東名立坑発進に係るトンネル掘削工事において,気泡シールド工法によるシールドトン ネル掘削工事を行い,または第三者をして行わせてはならない。 2 X10のその余の申立てを却下する。 3 X10を除く債権者らの申立てをいずれも却下する。 4 申立費用はこれを13分し,その12をX10を除く債権者らの負担とし,その余を債務者らの負担とする。 理由 第1 申立ての趣旨債務者らは,東京都市計画道路事業都市高速道路外郭環状線において,気泡シールド工法によるシールドトンネル掘削工事を行い,または第三者をして行わせてはならない。 第2 事案の概要等本件は,東京外かく環状道路(以下「東京外環」という。)の未整備区間である,関越自動車道新潟線(以下「関越道」という。)と東名高速道路との間の16.2kmの区間に,大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(以下「大深度法」という。)の認可を得て,気泡シールド工法によって地下式のシ ールドトンネルを掘削,構築して自動車専用道路を整備する等の都市計画事業(以下「本件事業」という。)につき,大深度法による大深度地下の使用の認可を受けた事業区域(以下「本件地域」という。)内若しくはその周辺地域に居住し,又は不動産を所有する債権者らが,施行者である国土交通大臣,債務者東日本高速道路株式会社(以下「債務者東日本」という。)及び債務者中日 本高速道路株式会社(以下「債務者中日本」といい,債務者東日本と併せて 「債務者東日本ら」という。)に対し 大臣,債務者東日本高速道路株式会社(以下「債務者東日本」という。)及び債務者中日 本高速道路株式会社(以下「債務者中日本」といい,債務者東日本と併せて 「債務者東日本ら」という。)に対し,気泡シールド工法によるシールドトンネル掘削工事(以下「本件工事」という。)による陥没事故の発生又は極めて酸素濃度の低い空気(以下「酸欠空気」という。)の地表への漏出により,債権者らの生命,身体の安全及び良好な居住環境を享受する権利ないし法的利益並びに財産権が侵害され,取り返しのつかない著しい損害を被るおそれがある 旨の主張をして,債務者らに対し,人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求権を被保全権利として,本件地域全体において本件工事を仮に差し止めることを命じる旨の仮処分命令を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,掲記の疎明資料及び審尋の全趣旨により容易に認められる事実。なお,以下,第2,第3を通じて疎明資料については,特に 断りのない限り枝番号を含む。)⑴ 当事者ア債権者らは,いずれも本件地域内又はその周辺である肩書住所地に居住し,同所に不動産を所有するか,居住する権原を有する者である(甲38~57,91)。 イ国土交通大臣及び債務者東日本らは,本件事業の施行者である(甲8)。 ⑵ 本件事業の概要等ア東京外環は,都心から約15kmの圏域に位置し,首都圏から放射状に伸びる関越道,中央自動車道富士吉田線(以下「中央道」という。)及び東名高速道路等の高速自動車国道等を相互に環状に連絡する延長約85k mの道路であり,都心方向に集中する交通を円滑に分散導入し,都心に起終点を持たない交通をバイパスさせることにより,首都圏や沿線地域における交通混雑の緩和,安全かつ円滑な交 絡する延長約85k mの道路であり,都心方向に集中する交通を円滑に分散導入し,都心に起終点を持たない交通をバイパスさせることにより,首都圏や沿線地域における交通混雑の緩和,安全かつ円滑な交通の確保,防災機能の向上等を図ることを目的として整備されている。 東京外環のうち,関越道と接続する東京都練馬区内の大泉ジャンクショ ンは既に開通しており,本件事業は,大泉ジャンクションから中央道を経 由し,東名高速道路までを地下式の3車線トンネル2本(以下「本線トンネル」という。)で南北に結び,中央道との接続点である東京都三鷹市に中央ジャンクション(仮称)及び東名高速道路との接続点である東京都世田谷区内に東名ジャンクション(仮称)を整備する等の全体計画区間16. 2kmの道路事業を都市計画事業として施行するものである。そのうち, 本線トンネルを設置する東京都練馬区石神井台a丁目から東京都世田谷区大蔵b丁目までの14.2kmの区間は,大深度法に基づく大深度地下使用の認可を得て,地下約40m以深を掘削し,また,地上の東名高速道路等の道路と地下の本線トンネルとを繋ぐジャンクション及びインターチェンジは,地中を切り拡げた地中拡幅部において,分岐・合流のための連結 路(ランプ)トンネルを設置する計画となっている。 (甲1~3,審尋の全趣旨)イ国土交通大臣は,平成26年3月13日,国土交通大臣の代理人である国土交通省関東地方整備局長に対し,都市計画法59条3項に基づいて事業施行期間を平成26年3月28日から平成33年(令和3年)3 月31日までとする本件事業を承認し,平成26年3月28日,これを告示した。また,東京都知事は,同月13日,債務者東日本らに対し,都市計画法59条4項に基づき事業施行期間を平成2 和3年)3 月31日までとする本件事業を承認し,平成26年3月28日,これを告示した。また,東京都知事は,同月13日,債務者東日本らに対し,都市計画法59条4項に基づき事業施行期間を平成26年3月28日から平成33年(令和3年)3月31日までとする本件事業の施行について認可をし,平成26年3月28日,これを告示した。(甲7~9,乙 A1~3) 国土交通大臣は,平成26年3月28日,国土交通大臣の代理人である国土交通省関東地方整備局長及び債務者東日本らに対し,大深度法16条に基づき大深度地下の使用の認可をし,同日,これを告示した(甲8,乙A2,4)。 国土交通大臣は,平成27年6月12日,国土交通大臣の代理人であ る国土交通省関東地方整備局長に対し,都市計画法63条1項に基づき本件事業に係る地中拡幅部の事業地の範囲を拡大する旨の事業計画の変更について承認し,同月26日,これを告示した。また,東京都知事は,同月12日,債務者東日本らに対し,都市計画法63条1項に基づき,本件事業に係る地中拡幅部の事業地の範囲を拡大する旨の事業計画の変 更について認可をし,同月26日,これを告示した。(甲3,5,10,11,乙A5~7,審尋の全趣旨)⑶ 本件工事の施工方法,工事区分等ア本件地域におけるトンネル掘削工事(本件工事)は,シールド工法(シールドマシンと呼ばれる筒状の機械で土の中をゆっくりと掘り進めていく 工法)のうち,気泡シールド工法により実施されている(審尋の全趣旨)。 イ本件工事のうち,本線トンネル2本(以下,南側の東名ジャンクションから北側の大泉ジャンクション方向に進行するトンネルを「本線トンネル(北行)」,反対方向のトンネルを「本線トンネル(南行)」と イ本件工事のうち,本線トンネル2本(以下,南側の東名ジャンクションから北側の大泉ジャンクション方向に進行するトンネルを「本線トンネル(北行)」,反対方向のトンネルを「本線トンネル(南行)」と呼ぶ。なお,各本線トンネルは2本が並行して設置される。)の工事については, 債務者東日本が本線トンネル(南行)を,債務者中日本が本線トンネル(北行)をそれぞれ施工しており,いずれの本線トンネルも東名ジャンクション部及び大泉ジャンクション部から,それぞれシールドマシン1基により掘進している。本線トンネル(南行)の工事は東名立坑(以下,便宜上「東名ジャンクション部」という。)から井の頭通りまで約9.2㎞の 工事,大泉立坑(以下,便宜上「大泉ジャンクション部」という。)から井の頭通りまで約7.0㎞の工事が予定されており,また,本線トンネル(北行)の工事は東名ジャンクション部から井の頭通りまで約9.1㎞の工事,大泉ジャンクション部から井の頭通りまで約7.0㎞の工事が予定されている。いずれの本線もおおむね中間地点付近(井の頭通り)におい て地中接合する計画である。 本件工事のうち,接続部(ランプ)トンネルの工事については,債務者東日本が大泉ジャンクション部において,大泉ジャンクションFランプシールドトンネルの工事を,債務者国が中央ジャンクション部において,中央ジャンクション北側Aランプシールドトンネル及び中央ジャンクション北側Hランプシールドトンネルの工事をそれぞれ行っており,それらのト ンネル工事のためそれぞれ1基ずつシールドマシンを使用している。 (乙A8,15[2頁],乙B・C36の3[5-4頁],52-2,審尋の全趣旨)⑷ 気泡の確認ア平成30年5月15日頃から同年7月下旬頃まで,東名ジャンク シンを使用している。 (乙A8,15[2頁],乙B・C36の3[5-4頁],52-2,審尋の全趣旨)⑷ 気泡の確認ア平成30年5月15日頃から同年7月下旬頃まで,東名ジャンクション 周辺を流れる野川の水面において,気泡が確認された。その頃,東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)のシールドマシンは,それぞれ気泡が確認された箇所付近に位置していた。(甲15~17,19~21)イ令和元年8月19日から同年9月4日まで,大泉ジャンクション周辺を 流れる白子川の水面において,気泡が確認された。その間,大泉ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)のシールドマシンは,それぞれ気泡が確認された箇所付近に位置していた。(甲23~25,審尋の全趣旨)ウ令和2年3月7日から同年4月24日まで,東京都調布市入間町付近に おいても,野川の水面に気泡が確認された。同年3月7日時点において,東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)のシールドマシンは,気泡が確認された箇所付近に位置していた。(甲27~31)⑸ 陥没の発生ア令和2年10月18日,東京都調布市東つつじヶ丘c丁目の道路におい て,地表部において5m×3m程度,地中部において6m×5m程度,深 さ5m程度と推定される地表面の陥没(以下「本件陥没」という。)が発生した。本件陥没が生じた箇所は,債務者東日本が施工している東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)直上であり,同年9月14日にシールドマシンが通過し,シールドマシンの切羽(シールドマシンの先端の地山(自然状態の地盤)を掘削している面)から約131.9m 後方の箇所であった。(甲78,79 直上であり,同年9月14日にシールドマシンが通過し,シールドマシンの切羽(シールドマシンの先端の地山(自然状態の地盤)を掘削している面)から約131.9m 後方の箇所であった。(甲78,79,乙B・C23,審尋の全趣旨)イ債務者東日本は,令和2年12月18日,本件陥没につき,本件工事との因果関係を認めざるを得ない旨の会見を行った(甲80,81)。 ⑹ 本件陥没後の掘進状況債務者らは,本件陥没の発生後,本件工事に係る掘進作業をいずれも停止 した。停止までに掘進が完了した区域は,延長16.2kmの本件工事のうち,本線トンネル(南行)については,東名ジャンクション部から約4.4km,大泉ジャンクション部から約0.5kmの部分,本線トンネル(北行)については,東名ジャンクション部から約3.5km,大泉ジャンクション部から約1.1kmの部分である。(乙B・C26の1[5頁],37の1 [5頁],審尋の全趣旨) 酸素欠乏症等防止規則の定め労働安全衛生法に基づき定められた酸素欠乏症等防止規則(昭和47年9月30日号外労働省令第42号)は,空気中の酸素濃度が18%未満である状態を酸素欠乏(2条1号)と定義している(甲35)。 土粒子の分類等土粒子は,粒径0.005mm未満のものが粘土,粒径0.005mm以上0.075mm未満のものがシルト,0.075mm以上0.25mm未満のものが細砂,0.25mm以上0.85mm未満のものが中砂,0.85mm以上2mm未満のものが粗砂,2mm以上のものが礫と区分され,地 盤を構成する土粒子のうち,粘土・シルトの比率を細粒分,細砂の比率を細 砂分という。 砂の粒径の均一性を示すものとして均等係数という指標が用いられる。1に m以上のものが礫と区分され,地 盤を構成する土粒子のうち,粘土・シルトの比率を細粒分,細砂の比率を細 砂分という。 砂の粒径の均一性を示すものとして均等係数という指標が用いられる。1に近いほど粒径がそろっていることを意味している。細粒分が少なく,均等係数が小さい場合,土粒子が密に詰まりにくく,隙間が大きくなり,自立性が乏しくなる。 (乙B・C37の2[2頁]),46[17,19頁]) 2 争点及び当事者の主張本件の争点は,①人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求の可否,②保全の必要性の有無である。当事者の主張は各主張書面に記載のとおりであるからこれらを引用する。争点に関する当事者の主張の要旨は以下のとおりであ る。 ⑴ 争点①(人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求の可否)について(債権者らの主張)ア本件陥没は,本件工事によって惹起されたものである。本件陥没の発生箇所のように掘削断面が,細粒分が少なく,均等係数が小さいため,自立 性が乏しい地盤であれば,シールドマシンによる掘削土の取り込み過ぎにより,掘削断面の地盤に緩みや空隙を生じさせ,住宅街の直下の地中に空洞を発生させたり地表部に陥没を発生させる可能性が十分あり,また,近隣地域の地盤沈下や建物,塀など建築物に損傷を生じさせるおそれがある。 そして,細粒分が少なく,均等係数が小さく,自立性が乏しい地盤は,決 して特殊ではなく,債権者らの居宅の地盤にも,締まった砂が主体であったり,締まった砂礫・砂・硬い粘性土が繰り返す地層である部分があって,本件陥没を発生させた地盤と類似性がある。また,債務者らの再発防止対策も科学的・技術的根拠がなく,実効性も検証されていない抽象的な内容にすぎない。したがって,債務者らが 返す地層である部分があって,本件陥没を発生させた地盤と類似性がある。また,債務者らの再発防止対策も科学的・技術的根拠がなく,実効性も検証されていない抽象的な内容にすぎない。したがって,債務者らが本件工事を再開すれば,債権者らの 居住場所においても同様の陥没事故を発生させるおそれが十分に認められ る。 イ野川の水面等で確認された本件工事による漏気は,酸欠空気である。人が酸欠空気を吸うと劇的に体内の酸素不足を生じさせて活動低下又は停止状態という危険な状態をもたらすから,酸欠空気それ自体が危険である上,これが家屋の真下に漏出し,当該家屋の居室,浴槽,倉庫,地下室,床下 若しくは付属の物置等の閉塞した空間に滞留,蓄積し,又は,家屋の真下ではなくても地表の低盆地状の地形の底に漏出して滞留,蓄積すると酸欠事故を招来するおそれがある。 ウ差止請求における違法性の判断は,被侵害利益の種類と侵害行為の態様との相関関係において考察すべきところ,本件工事により陥没事故や酸欠 事故が起これば,人格権(生命,身体の安全についての権利及び良好な居住環境を享受する権利)ないし財産権に対する不可逆的な侵害を生じる蓋然性は極めて高い。一方で本件陥没の発生箇所である東京都調布市東つつじヶ丘c丁目について,大深度法に基づき使用を認可されていたのは債務者国及び債務者中日本であるにもかかわらず,当該箇所の工事を実施して いたのは債務者東日本であり,本件工事には認可を受けていない事業者が行った違法があり,これは侵害行為の態様として重要な考慮要素である。 債権者らがこのような工事を受忍すべき理由はない。 したがって,人格権ないし財産権に基づく妨害予防請求としての差止請求が認められるべきである。 また,債権者らの平穏 要素である。 債権者らがこのような工事を受忍すべき理由はない。 したがって,人格権ないし財産権に基づく妨害予防請求としての差止請求が認められるべきである。 また,債権者らの平穏で快適かつ健康な生活を営む利益が債務者らの違法な行為によって著しく侵害され,かつこのような侵害が将来にわたって継続する高度の可能性が存在するところ,事後的な金銭賠償では,被害者の損害の填補が不可能であって,かつ金銭賠償ではない適当な処分によって侵害行為による被害の発生を防止することが可能であり効果的である場 合には人格権侵害一般に対する事前の救済方法として民法723条を適用 ないし類推適用し,同条の「処分」として不法行為に基づく差止請求が認められるというべきである。 (債務者らの主張)ア本件陥没を受けて設置された「東京外環トンネル施工等検討委員会有識者委員会」(以下「本件有識者委員会」という。)は,①掘削断面は,細 粒分が少なく,均等係数が少ないため,自立性が乏しく,礫が卓越して介在していること,②掘削断面上部は,単一の砂層である流動化しやすい層が地表面近くまで連続している地盤であること,③表層部は他の区間と比較して薄い地盤であること,の全ての条件に該当する特殊な地盤であることを本件陥没の要因としている。本件陥没は三つの地盤条件の全てに該当 する特殊な地盤条件下で発生したものであるところ,当該地盤条件は本件陥没箇所周辺以外には当てはまらないし,債務者らは,再発防止対策として閉塞を生じさせない,過剰な土砂取込みを生じさせないためにシールドトンネル内の土圧をリアルタイムに監視する,より厳しい管理値の設定,気泡材の重量を控除しない掘削土量を管理する等の対応を講じることとし ている。具体的には,東名ジャン じさせないためにシールドトンネル内の土圧をリアルタイムに監視する,より厳しい管理値の設定,気泡材の重量を控除しない掘削土量を管理する等の対応を講じることとし ている。具体的には,東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事の再発防止対策については,策定済みの大泉ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事等の再発防止対策を一部適用することとしているから,債権者らの居住場所において陥没が発生するおそれがあるとはいえない。 イ酸欠空気が漏出することがあっても,漏気は大気に比して微量であり,地表に放出されれば直ちに希釈化されるため,これが人体や周辺環境,債権者らの財産権に影響を及ぼす蓋然性は認められない。 ウ本件工事によって陥没事故や酸欠事故が生じる具体的なおそれが疎明されたとはいえず,人格権ないし財産権に基づく妨害予防請求としての差止 請求は認められない。 また,不法行為は差止請求を認める根拠とはならない。 ⑵ 争点②(保全の必要性の有無)について(債権者らの主張)本件陥没や酸欠空気の発生が人身事故に至らなかったのは全くの偶然である。債務者らはいつ本件工事を再開するとも限らず,本件工事が再開されれ ば債権者らの被保全権利が不可逆的に侵害されるおそれがあるから,本件仮処分命令を発令する必要性,緊急性が認められる。 (債務者らの主張)債務者らは,東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事については,まずは本件陥没が生じた地盤の補修を行うため, 地盤補修範囲にある家屋の仮移転,買取り等に関わる地権者との交渉や,地盤補修工事の施工方法等の検討を優先して行うとともに,再発防止に 事については,まずは本件陥没が生じた地盤の補修を行うため, 地盤補修範囲にある家屋の仮移転,買取り等に関わる地権者との交渉や,地盤補修工事の施工方法等の検討を優先して行うとともに,再発防止についての事業者案を策定し,有識者による確認を経て,地域住民への説明を行わない限り本件工事を再開しないこととしている。したがって,地権者との交渉等,具体的に期間を見込むことはできないものの,シールドマシンが直ちに 動くとの急迫性はないことからすれば,将来の再開になお懸念ありとして現時点で差止めを認める必要性はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実各認定事実末尾記載の疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,以下の事実を一 応認めることができる。 ⑴ 検討委員会の設置等本件事業に関して,トンネルの構造,施工技術等について確認,検討することを目的として,学識経験者,関係機関により東京外環トンネル施工等検討委員会(以下「本件検討委員会」という。)が設置され,平成24年7月 から,継続的に委員会が開催されている。本件工事の施工方法については, 本件検討委員会の検討を経て,シールド工法のうち気泡シールド工法によることとされた。(甲87,乙B・C1,2,36の3[5-1頁])⑵ 気泡シールド工法の特徴等アシールド工法についてシールド工法は,切羽が崩落するのを防ぐために,掘りたてのトンネル 内面にぴったり入る大きさのシールドと呼ばれる頑丈な筒を押し込んで一時的に支え,切羽の掘削とともにそれを前進させ,シールドが一定距離前進するとその後方にトンネル内径に沿う円弧状のセグメントと呼ばれる鋼製又は鉄筋コンクリート製のブロックをリング状に組み立てて,順次堅牢なトンネル内壁を構築していくトンネル施工法で ールドが一定距離前進するとその後方にトンネル内径に沿う円弧状のセグメントと呼ばれる鋼製又は鉄筋コンクリート製のブロックをリング状に組み立てて,順次堅牢なトンネル内壁を構築していくトンネル施工法である(乙A9,乙B・C 46[8,17頁])。 イシールドマシンの仕組みについて本件工事に用いられたシールドマシンは,外径約16m,機長約14m,重さ約4000tの円筒形のもので,先端に取り付けられたシールドマシンと同じ外径のカッターヘッドを回転させて地山を掘削すると同時に,シ ールドマシン内部でトンネルの壁を組み立て,油圧で自在に伸縮するシールドジャッキでシールドマシンを前に押し進めていく仕組みとなっている。 また,カッターヘッドで掘削した土は,シールドマシンの内部に取り込まれ,シールドマシンの内部にあるスクリューコンベヤで後方へ運ばれる。 カッターヘッドのあるシールドマシン前方とシールドマシン内部とは,隔 壁によって隔てられ,隔壁とカッターヘッドとの間の空間は,チャンバーと呼ばれる。(乙B・C46[8,17~19頁])ウ気泡シールド工法について本件工事が採用する気泡シールド工法は,シールド工法の中の土圧式シールド工法のうち泥土圧シールド工法の一類型である。 泥土圧シールド工法は,チャンバー内に削り取った土砂を充満させるこ とにより,地山の土水圧とのバランスをとって切羽の崩落を防止する(切羽の安定を図る)ことを特徴とした工法であり,掘削土砂は切羽の土水圧が下がらないようにスクリューコンベヤで土量管理されている。 気泡シールド工法は,チャンバー内に気泡材を注入し,掘削土砂と気泡材を攪拌混合して土粒子の隙間を気泡で充填することにより掘削土砂を泥 土化させ,チャンバー及びスクリュー されている。 気泡シールド工法は,チャンバー内に気泡材を注入し,掘削土砂と気泡材を攪拌混合して土粒子の隙間を気泡で充填することにより掘削土砂を泥 土化させ,チャンバー及びスクリューコンベヤ内に泥土を充満させながら掘進する工法である。本件工事において用いられていた気泡材は,起泡溶液と空気を混合して作られたシェービングクリーム状のきめ細かい泡であり,気泡が掘削土砂の塑性流動性(力を加えた際の変形のしやすさ)と止水性(水が通りにくい性質)を向上させ,かつ,チャンバー内での掘削土 砂の付着を防止する役割を果たし,シールドマシンの推進力等によってチャンバー内に充満した泥土が加圧されて泥土圧を発生させ,切羽に作用する地山の土・水圧と対抗することで,切羽の安定を保持しつつ,スムーズな掘進を可能にするという特徴がある。 (甲14,乙A9,乙B・C7,12,16~18,46[8,17~1 9頁]) 気泡の確認とそれに対する対応平成30年5月以降に確認された気泡(前記前提事実⑷)について,次のアないしウのとおり,債務者東日本らが気泡の酸素濃度を測定し,本件検討委員会が気泡の発生メカニズムや掘削方法等を確認した。 ア平成30年5月から同年7月までの気泡(前記前提事実⑷ア)について債務者東日本らは,平成30年5月15日頃から東名ジャンクション付近の野川の水面で気泡が確認されたこと(前記前提事実⑷ア)を受けて,気泡を採集し,簡易測定を実施した結果,気泡自体の酸素濃度は, 1.5%~6.4%であったが,水面直上及び水面から1.5mの高さ の酸素濃度は,いずれも20%を超えていた(甲19~21,乙B・C8)。 本件検討委員会が平成30年10月30日に開催され,以下の内容が確認された たが,水面直上及び水面から1.5mの高さ の酸素濃度は,いずれも20%を超えていた(甲19~21,乙B・C8)。 本件検討委員会が平成30年10月30日に開催され,以下の内容が確認された(甲19,乙B・C3の1)。 ① 東名ジャンクションが設置される場所の地盤である北多摩層におい ては,掘削面の水量が少ないため,シールド工事の掘進時に使用する気泡材の水分が奪われ,破泡しやすく,また,水や空気を通しにくいことから,人工的な孔があるとそこを空気が通りやすいという特徴がある。これらの特徴を有する北多摩層において,大深度地下の大断面のシールド工事の掘進時に用いる空気の一部が,北多摩層まで到達し ている人工的な孔の隙間を通って上昇し,地上に漏出したと考えられる。 ② 債務者東日本らによる掘進方法の変更の結果,北多摩層においては,空気を使用しない(気泡材の生成に当たり起泡溶液に空気を混合しない)掘進方法によれば,漏気を発生させることなく,安全に掘進でき た。空気を使用し(起泡溶液に空気を混合する)気泡材の濃度を変更する等破泡しにくい気泡材を用いて生成した気泡(改良気泡)を用いた掘進方法では,野川等工事ヤード外では漏気は確認されず,漏気が確認された場所でも少量であり,人工的な孔がある場合でも,掘進時に使用する添加材や圧力の調整を行うことにより,地下への漏気等を 抑制しながら安全に掘進できる。また,地中から漏出した空気は,大気に比して微量であり,希釈されるため,周辺環境に影響を与えるものではないと考えられる。 イ令和元年8月から同年9月までの気泡(前記前提事実⑷イ)について 債務者東日本らは,令和元年8月19日から白子川の水面において 気泡が確認されたこと(前記前提事実⑷イ)を る。 イ令和元年8月から同年9月までの気泡(前記前提事実⑷イ)について 債務者東日本らは,令和元年8月19日から白子川の水面において 気泡が確認されたこと(前記前提事実⑷イ)を受けて,気泡を採集し, 簡易測定を実施した結果,気泡自体の酸素濃度は,7.3%~20. 9%であったが,水面直上及び水面から1.5mの高さの酸素濃度は,いずれも20%を超えていた(甲24,25,乙B・C8)。 本件検討委員会が令和2年1月27日に開催された。同日の会議においては,①白子川及び工事ヤード内で発生した漏気は,地下のシールド 工事の掘進時に用いる空気のごく一部が,過去の護岸構築時の土留め工跡等や既存ボーリング孔を通じ,漏出したものと考えられること,②一般的に地中では酸化還元反応により酸素が消費されるため,野川での漏気事象と同様に地中を通過し漏気した空気の酸素濃度が低くなったものと考えられるが,漏気は大気に比して微量であり希釈されるため,水質 調査等の結果,周辺環境への影響はなかったことが確認された。(乙B・C5)ウ令和2年3月から同年4月までの気泡(前記前提事実⑷ウ)について 債務者東日本らは,令和2年3月7日から野川の水面において気泡が確認されたこと(前記前提事実⑷ウ)を受けて,気泡を採集し,簡易測 定を実施した結果,気泡自体の酸素濃度は,7.2%~15.6%であったが,水面直上及び水面から1.5mの高さの酸素濃度は,いずれも20%を超えていた(甲27~31,乙B・C8)。 本件検討委員会が令和2年7月17日に開催され,以下の点が確認された(乙B・C19,20)。 ① 東名側本線シールド(南行)工事における漏気事象について,シールドマシン通過後にも継続して 討委員会が令和2年7月17日に開催され,以下の点が確認された(乙B・C19,20)。 ① 東名側本線シールド(南行)工事における漏気事象について,シールドマシン通過後にも継続して確認された漏気は,空気の通り道となる砂層や砂礫層等の僅かな隙間を通じて,トンネル掘進に用いている空気の一部が地表まで時間をかけて漏出したものと考えられる。 ② シールドマシンから離れた位置において確認された気泡は極めて微 量であり,シールド工事による影響であるか,自然現象であるかの原 因の特定は難しく,漏気状況のモニタリングを継続していく。 ③ これらの漏気について,水質調査や井戸・地下室での酸素濃度調査等の結果,環境基準等を満足しており,周辺環境へ影響を及ぼすものではない。 ⑷ 本件陥没と債権者ら居住場所との距離関係等 令和2年10月18日,東京都調布市東つつじヶ丘c丁目の道路において,本件陥没が発生した(前記前提事実ア)。 本件陥没の発生箇所及び本件地域と債権者ら居住場所とのおおよその距離,債権者らの居住場所に最も近いボーリング箇所及びその地盤の状況等は,別表「距離関係等整理表」記載のとおりである。 ⑸ 本件陥没に関する有識者委員会による検討内容等ア有識者委員会の設置等本件陥没発生翌日の令和2年10月19日,本件陥没に対する応急措置として,砂による埋土が行われた。また,同日,トンネルの構造,地質・水文,施工技術等について,より中立的立場で確認,検討することを目的 として,本件検討委員会の学識委員等から構成する「東京外環トンネル施工等検討委員会有識者委員会」(本件有識者委員会)が設置され,同日,第1回本件有識者委員会が開催された。(甲86,乙B・C として,本件検討委員会の学識委員等から構成する「東京外環トンネル施工等検討委員会有識者委員会」(本件有識者委員会)が設置され,同日,第1回本件有識者委員会が開催された。(甲86,乙B・C22,23,36の3[1-1,1-2,2-1頁])イ本件有識者委員会における報告書(以下「本件有識者委員会報告書」と いう。)取りまとめまでの検討状況令和2年10月23日に開催された第2回本件有識者委員会において,本件陥没に関する調査方針が確認された。同方針に従い本件陥没箇所周辺の地盤調査を行ったところ,同年11月2日から同月3日にかけて,本線トンネル(南行)の直上,本件陥没箇所から約40m北の地表から の深度約5mの位置に,幅約4m×長さ約30m,厚さ約3mの空洞 (以下「本件空洞①」という。)が発見された。同月5日に開催された第3回本件有識者委員会においては,本件空洞①は,直ちに地表面に変状を及ぼすものではないが,早期に充填することが望ましいことや,早期に原因究明を行うこと等が確認された。 また,同月21日,本線トンネル(南行)の直上,本件陥没箇所から 約30m南の地表からの深度約4mの位置に,幅約3m×長さ約27m,厚さ約4mの空洞(以下「本件空洞②」という。)が発見され,同月27日に開催された第4回本件有識者委員会において,本件空洞②についても直ちに地表面に変状を及ぼすものではないが,早期に充填することが望ましいこと,本件陥没箇所周辺に続けて空洞が確認されたことから, 調査範囲を広げること,調査を速やかに完了させ,できるだけ早く原因究明を進めることなどが確認された。 本件空洞①は同月24日に,本件空洞②は同年12月3日に,それぞれ充填が行われた。 (乙B・C24の1~24の3,25,2 速やかに完了させ,できるだけ早く原因究明を進めることなどが確認された。 本件空洞①は同月24日に,本件空洞②は同年12月3日に,それぞれ充填が行われた。 (乙B・C24の1~24の3,25,26,27の1・2,35の 1) 令和2年12月18日,第5回本件有識者委員会が開催され,本件陥没に関する調査状況について中間報告が行われ,本件陥没,本件空洞①及び本件空洞②が形成された想定される要因を列挙し,特殊な地盤条件下において行われたシールドトンネルの施工が,陥没箇所を含む空洞の 要因の一つである可能性が高いと推定されるものの,現時点では,要因の特定には至っていないため,引き続き残る現地調査やそれらも踏まえた検証を早期に行い,本件陥没等の発生メカニズムを特定する必要があること,陥没及び陥没につながるおそれがある空洞が発見された場合は,緊急時として位置付けて速やかに公表,周知することなどが確認された (乙B・C28)。 令和3年1月14日,本線トンネル(南行)直上,本件陥没箇所から約110m北の地表面からの深度約16mの位置に,幅約4m×長さ約10m,厚さ約4mの空洞(以下「本件空洞③」といい,本件空洞①ないし③を併せて「本件空洞」という。)が発見され,同月22日までに充填が行われた。 同年2月12日,第6回本件有識者委員会が開催された。本件有識者委員会において,本件陥没及び本件空洞は東久留米層のうち掘削断面において礫層が混ざり合う区間で発生したところ,上記区間は後記ウ記載のような特殊な地盤条件であること,上記条件は,東京外環全線の中で,東名ジャンクション部から掘進する中で上記の礫層の混入が見られ 始める箇所から北側,東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)工事のシ 地盤条件であること,上記条件は,東京外環全線の中で,東名ジャンクション部から掘進する中で上記の礫層の混入が見られ 始める箇所から北側,東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)工事のシールドマシンが停止している位置まで(以下,この区間を「エリアA」という。)及び前方(北側)京王線付近までであること,本件陥没及び本件空洞周辺では夜間掘進休止後の掘進再開時にカッターが回転不能になる事象(閉塞)が度々生じ,これを解除する特別な作業を行 っていたこと等を踏まえ,本件陥没及び本件空洞は,特殊な地盤条件下において行われたカッターが回転不能になる事象を解除するために行った特別な作業に起因するシールドトンネルの施工が要因である可能性が高いとして,その発生メカニズムを推定した上,これに基づき,地盤の緩みが生じている可能性のある範囲の特定及びその補修等の措置並びに 再発防止対策の基本方針等が確認された。 (甲82,88,乙B・C33,36の3[1-1頁])ウ本件有識者委員会報告書の内容令和3年3月19日,第7回本件有識者委員会が開催され,第1回から第6回までに,地盤調査や施工記録等に基づき,本件陥没や本件空洞形成 に至る複数の要因分析,メカニズムの特定,再発防止対策等について,ト ンネル工学,地質・水文学,地盤工学,施工法を専門とする委員それぞれの見地から中立的な立場で議論,検討を行った一定の結論として,報告書の取りまとめが行われた上で,同月,本件有識者委員会報告書が公表された。上記報告書の内容は以下のとおりであった。(乙B・C36,40) 地盤の特性 本件事業においては,事業区域周辺の地形,地質を把握するため,調査間隔200m程度を目安として事業区域周辺で86本のボーリン った。(乙B・C36,40) 地盤の特性 本件事業においては,事業区域周辺の地形,地質を把握するため,調査間隔200m程度を目安として事業区域周辺で86本のボーリング調査等による事前調査を実施している。本件陥没近傍のボーリングナンバーH21-12の地盤(エリアAの地盤)は,東久留米層に分類される地質であるところ,次の全てに該当する特殊な地盤条件であることが事 前調査において確認されていた。 ①表層部厚さ5~10mの埋土・ローム層・武蔵野礫層であり,他の区間と比較して表層が薄い。 ②掘削断面上部単一の砂層であり,トンネル掘削による地山への影響が地表面まで伝搬しやすい。(礫・砂・シルト・粘土が混在 する互層区間は伝搬しにくい。)③掘削断面砂層主体(多少の粒度のばらつきがあるものの,細砂~中砂がその主体となっている)であるが,礫が卓越して介在している。細粒分が少なく,均等係数が小さい地質であり,地山の塑性流動性・止水性の確保が困難である。 なお,掘削断面で,細粒分10%以下,均等係数5以下である箇所は,東久留米層でボーリングナンバーH21-12,同H21-13,同H21-15の3箇所,舎人層でボーリングナンバーH21-23,同H21-30の2箇所であり,北多摩層では該当箇所はない。 また,事後の調査等により,本件空洞箇所の表層部には硬質なロー ム層が存在する一方で,本件陥没箇所にはこの層がなく,黒ボク土が 存在していることから,埋土造成された可能性があることが確認された。 施工状況シールドマシンによる掘進作業は,当初24時間行っていたが,振動の問合せを踏まえ,令和元年5月以降,午前8時から午後10時までと していた。その後,掘進する地質 た。 施工状況シールドマシンによる掘進作業は,当初24時間行っていたが,振動の問合せを踏まえ,令和元年5月以降,午前8時から午後10時までと していた。その後,掘進する地質が東久留米層に変わり,礫の混入が見られたこと,また,振動が地上に伝わりやすい地盤であり,振動の問合せが増加したことを踏まえ,塑性流動性を確保するため,気泡材タイプ・注入量の変更等を実施しながら掘進を行っていた。ところが,令和2年8月20日及び同月21日の朝の掘進開始時に,カッターが回転不能 になる事象(閉塞)が発生した。そこで,気泡材を注入してチャンバー内圧力を保持しながら,チャンバー内の土砂を一部取り込み,排土することを繰り返すという特別な作業を行ってカッターヘッドの回転起動を行い,掘進を再開させた。同月26日以降は,振動の問合せ増加を踏まえ,掘進作業時間を午前8時から午後8時までに変更し,夜間掘進休止 時間を拡大させた。同年9月8日からは,カッターが回転不能になる事象(閉塞)が頻発した。同月21日からは,振動の問合せ増加を踏まえ,土曜日及び祝日の掘進作業時間を午前8時から午後6時に変更していた。 同年10月18日,同年9月14日に切羽が通過した箇所において,本件陥没が発生した。 本件陥没及び本件空洞発生の推定メカニズム本件陥没及び本件空洞箇所の下部がトンネル方向に局所的に引き込まれている現象が事後の調査によって確認されており,特殊な地盤条件(前記)下においてカッターが回転不能になる事象(閉塞)を解除するために行った特別な作業(前記)に起因するシールドトンネルの施 工が本件陥没及び本件空洞発生の要因と推定され,その発生メカニズム については次のとおり推定される。 めに行った特別な作業(前記)に起因するシールドトンネルの施 工が本件陥没及び本件空洞発生の要因と推定され,その発生メカニズム については次のとおり推定される。 カッターが回転不能になる事象(閉塞)は,夜間の作業休止時間に,チャンバー内の気泡材が上昇して土粒子が沈降することにより,翌朝の掘進開始時に,チャンバー内の土砂と気泡材が分離し,土砂の沈降及び締固まりが発生したことにより生じた。閉塞を解除するために起泡溶液 をチャンバー内に注入してチャンバー内の土砂を排出するという特別な作業(前記)を行ったが,その過程で,局所的にチャンバー内の圧力が低下したことが確認されており,チャンバー内圧力と切羽土圧の均衡がとれず,地山から土砂がチャンバー内に流入することで,地山に緩みが発生し,煙突状に掘削断面上部へ拡大した。カッターが回転し,閉塞 が解除された後,特殊な地盤下で塑性流動性を保つため,通常より多くの気泡材を地山に注入して掘進を再開したところ,注入した気泡材の一部が閉塞解除作業によって緩んだ地山に過度に浸透した。掘削土砂の重量は,注入した気泡材が全て回収される前提で,スクリューコンベヤで運ばれる排出土の重量から注入した気泡材の全重量を控除して算出する ことにより管理されていたが,気泡材の一部が地山に過度に浸透し,回収できていなかったため,掘削した地山の重量を過少に評価し,想定よりも土砂を過剰に掘削していた。繰り返し行われた閉塞解除作業により生じた地山の緩みが,掘進時にさらに助長されて拡大し,地表面付近の地中に硬質のローム層をアーチ天井とする空洞が形成され,硬質のロー ム層が欠如している箇所で陥没に至った。 地盤の緩みの状況及び補修の予定エリアAのうち,本線トンネル縦断方向で 面付近の地中に硬質のローム層をアーチ天井とする空洞が形成され,硬質のロー ム層が欠如している箇所で陥没に至った。 地盤の緩みの状況及び補修の予定エリアAのうち,本線トンネル縦断方向では,本件陥没及び本件空洞箇所を含むシールドマシン停止地点まで,本線トンネル横断方向では,本線トンネル(南行)直上に地盤の緩みが生じていると推定される。地 盤が砂層の場合,変形や緩みの進展は即時的であり,現時点で安定が損 なわれているものではないが,長期的な地盤の安定確保のため,地盤の緩みが生じていると推定される範囲については,地盤の緩みに対しての補修を実施していく必要がある。補修工法については,今後具体的に検討していく必要があるが,補修期間はおおむね2年程度と想定している。 再発防止対策 本件陥没,空洞の推定メカニズムを踏まえた再発防止対策として,①掘削土砂を分離・沈降させない,閉塞させない対応(一定時間にわたり掘削土砂の塑性流動性・止水性を確保),②過剰な土砂取込みを生じさせない対応(切羽を緩めない対応,添加材(掘削土砂を泥土化するために添加する材料(乙46))の未回収傾向を把握,排土量管理の強化) 及び③万一閉塞が生じた場合に切羽を緩めない対応が必要であり,具体的には以下のとおりである。 a 上記①につき,シールド掘進地盤に適した添加材の選定等(掘進前)細粒分が少なく,均等係数が小さいなどの地盤については,追加ボーリングを実施する。そして,土質調査の結果を踏まえ,事前配合試 験を実施して添加材を選定する。 b 上記①②につき,塑性流動性とチャンバー内圧力のモニタリングと対応(掘進中)チャンバー内の圧力勾配などをリアルタイムに監視 試 験を実施して添加材を選定する。 b 上記①②につき,塑性流動性とチャンバー内圧力のモニタリングと対応(掘進中)チャンバー内の圧力勾配などをリアルタイムに監視する。手触に加え,その都度,試験を行って排土の性状を確認するとともに,適正な チャンバー内の圧力を設定する。 c 上記②につき,排土管理の強化(掘進中)これまでの排土管理に加えて,より厳しい管理値や気泡材を控除しない新しい管理項目を設定する。そして,管理値を超過した場合には,添加材の種類変更等の対応を適切に実施する。 d 上記③につき,カッター回転不能(閉塞)時の対応 安全のため必要な措置を実施した上で,工事を一時中断し,原因究明と地表面に影響を与えない対策を十分に検討する。閉塞解除後の地盤状況を確認するために,必要なボーリング調査等を実施する。 ⑹ 本件仮処分手続の審理経過ア令和2年10月28日,本件仮処分命令申立事件の第4回審尋期日が開 かれ,当裁判所及び当事者の間で,同月18日に発生した本件陥没を踏まえ,本件有識者委員会による調査の状況及び結果を勘案しながら仮処分手続の進行を検討することが確認された。 イ令和3年5月26日,第7回審尋期日が開かれた。同審尋期日において,債務者東日本は,同年3月に公表された本件有識者委員会報告書の内容 (前記⑸ウ)を踏まえ,事業者において個々の再発防止対策を策定する段階にあるが,検討中であるためいつまでに策定できるかなどの予定を明らかにすることはできず,本件工事の再開の見通しも不明であると述べた。 当裁判所は,債務者らに対し,次回までに再発防止対策の策定に関する見通しを明らかにするよう求めて審尋期日 定できるかなどの予定を明らかにすることはできず,本件工事の再開の見通しも不明であると述べた。 当裁判所は,債務者らに対し,次回までに再発防止対策の策定に関する見通しを明らかにするよう求めて審尋期日を続行した。 ウ令和3年7月20日,第8回審尋期日が開かれた。同審尋期日において,債務者東日本は,再発防止対策の策定に関する見通しは現在でも未定であり,おおまかなスケジュールについても答えられない旨を述べた。当裁判所は,債務者らに対し,引き続き,再発防止対策の策定に関する見通しを明らかにするよう求めた。 エ令和3年9月21日,第9回審尋期日が開かれた。債務者東日本は,再発防止対策の策定に関して,事業者案を策定するまでおおむね3,4か月程度,有識者への確認におおむね1,2か月程度要するとの見通しを明らかにした。当裁判所は,債務者らに対し,再発防止対策の策定に関する見通しを上記のとおりとした根拠等を書面で明らかにするよう求めて審尋期 日を続行した。 オ令和3年11月11日,第10回審尋期日が開かれた。債務者らは,再発防止対策の策定に関し,同年10月29日時点における検討状況等を明らかにした上で,同時点から2,3か月で再発防止対策の事業者案を策定し,本件工事再開前には事業者案について有識者の確認(これまでの実績ではおおむね1,2か月)を経て地域住民への説明を行うとしたが(債務 者東日本ら令和3年10月29日付意見書[8,9頁],債務者国令和3年10月29日付意見書[9頁]),再発防止対策の策定の進行状況の経過を明らかにすることは困難であると述べ,債務者東日本は,東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事については,再発防止対策策定までの具体的なスケジュー の進行状況の経過を明らかにすることは困難であると述べ,債務者東日本は,東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事については,再発防止対策策定までの具体的なスケジュールを明らかにするこ とはできないと述べた。 カ令和3年12月23日,第11回審尋期日が開かれた。債務者東日本は,東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事の再発防止対策策定までの具体的なスケジュールについて,現段階で確定していないという状況に変わりはないと述べた。 ⑺ 令和3年12月24日以降の再発防止対策の策定状況令和3年12月24日,本件検討委員会が開催された。同日の検討委員会においては,大泉ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行),大泉ジャンクションFランプシールドトンネル,中央ジャンクション北側Aランプシールドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプ シールドトンネルの工事につき,本件有識者委員会報告書において取りまとめられた再発防止対策を元に事業者において検討した内容が報告されるとともに,以下の点が確認された。(乙B・C50の1,51,52)ア大泉ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行),大泉ジャンクションFランプシールドトンネル,中央ジャンクション北側 Aランプシールドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプシール ドトンネルの工事の再発防止対策について 今後の掘進区間の中で,最も塑性流動性の確保が厳しいと想定される層が全面に現れた場合の模擬土を用いて,長期休暇等による掘進停止を想定した添加剤配合試験により,条件に適した添加材を用いることで塑性流動性を確保できる。併せて,添加 流動性の確保が厳しいと想定される層が全面に現れた場合の模擬土を用いて,長期休暇等による掘進停止を想定した添加剤配合試験により,条件に適した添加材を用いることで塑性流動性を確保できる。併せて,添加材の調整をより円滑に実施するた め,掘進とともに細粒分が少ない礫層や砂層が増加していく傾向にある箇所では,追加ボーリングを実施することが望ましい。 チャンバー内圧力は,シールド掘進中及び停止中はリアルタイムで監視していくとともに,塑性流動性の管理は,カッタートルク,手触,目視,ミニスランプ試験及び粒度分布などの確認結果も踏まえ,総合的に 判断する。塑性流動性の改善がみられない場合には,掘進を一時停止し,原因究明,対策検討を速やかに行う。その際,気泡材の注入量の調整や添加材の変更に加え,カッターを回転することなどにより,チャンバー内の土砂分離を防止し,チャンバー内の圧力を適切に保つ。 排土量管理については,過剰な取込みの兆候をより早く把握するため, 前20リング平均との比較による掘削土重量との傾向管理に加え,排土率(地山掘削土量と設計地山掘削土量の比率)による,理論値と実績値を比較する絶対値管理も併せて行う。前20リング平均により傾向管理する添加剤の全重量を控除した地山掘削重量(体積),添加材の重量を控除しない排土全重量(体積)についてこれまでの管理値より厳しい± 7.5%を1次管理値として設定した。 シールド掘進時,添加材選定,チャンバー内圧力管理,排土管理の各々の段階で,施工リスクやトラブルを想定した対応フローを作成するとともに,現場の異変をいち早くキャッチするため施工状況を常時多視点モニタリングし,緊急時対応や有識者への相談を含めた体制を構築する。 上記再 ブルを想定した対応フローを作成するとともに,現場の異変をいち早くキャッチするため施工状況を常時多視点モニタリングし,緊急時対応や有識者への相談を含めた体制を構築する。 上記再発防止対策は,令和3年12月に策定された「シールドトンネ ル工事の安全・安心な施工に関するガイドライン」の内容を踏まえて策定されており,今後のシールドトンネル施工を安全に行う上で妥当であることから,今後,シールドトンネルの掘進の際には,これらの内容を踏まえ,施工状況や周辺環境のモニタリングを行いながら,細心の注意を払って行っていく。 イ東名ジャンクション部を発進する本線トンネル工事への適用について 再発防止対策のうち,排土管理の強化については,大泉ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行),大泉ジャンクションFランプシールドトンネル,中央ジャンクション北側Aランプシールドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプシールドトンネル の工事で審議し,取りまとめた結果の適用を検討する。 再発防止対策のうち,添加材の選定,チャンバー内圧力勾配の管理及び機器の改良については,地盤条件に合わせて検討する。 東名ジャンクション部を発進する本線トンネル工事の再発防止対策については,今後,事業者で検討を行った上で,シールドトンネルの掘進 の際には,本件検討委員会で審議,確認を経て地元説明を行うこととするが,まずは本件陥没及び本件空洞箇所周辺の地盤補修,補償等の対応に優先的に取り組む。 ⑻ 掘進作業に関するお知らせの公表債務者東日本は,令和4年2月18日,大泉ジャンクション部発進の本線 トンネル(南行)の工事について,同年1月23日から同年2月1日にか む。 ⑻ 掘進作業に関するお知らせの公表債務者東日本は,令和4年2月18日,大泉ジャンクション部発進の本線 トンネル(南行)の工事について,同年1月23日から同年2月1日にかけて,再発防止対策や今後の対応等に関して住民説明会を開催し,関係機関との調整,現場体制の構築など,掘進作業の準備が整ったとして,同月25日以降,事業用地内のみの掘進作業を実施する旨公表した(甲98)。 2 争点に対する判断 ⑴ 争点①(人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求の可否)について 債権者らは,本件工事により,陥没事故が発生したり,酸欠事故が発生するおそれがあり,これによって債権者らの人格権(生命,身体の安全についての権利及び良好な居住環境を享受する権利)や財産権が侵害されるおそれがあるとして,人格権ないし財産権に基づく妨害予防請求権を被保全権利として,本件工事の差止めを求め,さらに不法行為に基づく差止請求が認めら れるべきであると主張している。 ア人格権に基づく差止請求について 個人の生命・身体の安全は,各人の人格に本質的なものであって,何人もみだりにこれを侵害することは許されず,これが侵害されるおそれがある場合には,その侵害に対して予防する権能が認められるべきであ るから,人格権に基づく妨害予防請求として,当該侵害行為の差止めを求めることができると解される。そして,人格権を根拠として差止請求が認められるためには,債権者らが主張する被害についてその発生の具体的危険性が疎明される必要があることに加えて,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益 上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経 れる必要があることに加えて,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益 上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察して差止めを認めるのが相当であると判断される程度の違法性があることが必要であると解される。 陥没事故の危険性等についてa 本件工事と本件陥没との因果関係前記前提事実⑸ア及びイのとおり,債務者東日本は,東名ジャンクション部から発進する本線トンネル(南行)上で,シールドマシンによる掘削が行われた約1か月後に生じた本件陥没について,本件工事 との因果関係を認めざるを得ない旨の会見を行っている。そして,専 門家によって構成される本件有識者委員会が取りまとめた報告書(前記認定事実⑸ウ)は,地盤調査及び施工記録等を基に,本件陥没及び本件空洞形成のメカニズムを説明しており,その内容に特に不合理な点は認められない。以上によれば,本件陥没及び本件空洞は,本件有識者委員会報告書のとおり,礫が卓越して介在する細粒分が少なく均 等係数が小さい砂層が掘削断面にあり,その上部が単一の砂層であって,トンネル掘削による影響が地表面に影響しやすく,表層が薄いというエリアAの特殊な地盤条件下において,夜間休止時にチャンバー内の土砂が沈降・締め固まってカッターが回転不能になる事象(閉塞)が生じ,閉塞を解除するために,チャンバー内の土砂を排出して起泡 溶液を注入するという特別な作業を行った際に地山に緩みを生じさせ,掘進再開時の土砂の過剰掘削と相まって,地山の緩みを拡大させたことによって生じたもの ために,チャンバー内の土砂を排出して起泡 溶液を注入するという特別な作業を行った際に地山に緩みを生じさせ,掘進再開時の土砂の過剰掘削と相まって,地山の緩みを拡大させたことによって生じたものと一応認められる。 b 陥没による人格権侵害のおそれ及びその違法性(X10について)(a) 債権者らのうち,X10の居住場所は,別表「距離関係等整理 表」記載のとおり,本件陥没箇所から直線距離にしてわずか約31mの場所であり,地盤は特殊な地盤条件とされている本件陥没箇所(①表層部において他の区間と比べ薄い厚さ5~10m程度の地盤である。②掘削断面上部において,東久留米層で単一の砂層であって掘削による地山への影響が地表面に伝搬しやすい。③ 掘削断面において,細粒分が少なく,均等係数が小さく礫が卓越して介在している。)と同様の状況である。また,別表記載のとおり,X10の居住場所は,本件地域からは約30cmの位置にあって,現状,地盤に緩みが生じている本線トンネルの直上にあるのと同視して差し支えない程度の距離にある(前記認定事実⑸ ウ)。そうすると,前記aの本件陥没及び本件空洞の形成機序 に照らせば,有効な対策が採られないまま気泡シールド工法で本件工事が再開されれば,東名ジャンクション部発進のシールドマシンがエリアA及びその前方の京王線付近まで続く特殊な地盤条件下を掘進する過程でカッターが回転不能になる事象(閉塞)が生じ,それを解除するためにチャンバー内の土砂を排出して起泡 溶液を注入する特別な作業を行うことによって,また,掘進再開時に土砂の過剰な掘削を招くことによって,X10の居住場所に地盤の緩みを生じさせ,地表面に陥没を生じさせたり,地中に空洞を生じさせたりする具体的なおそれがあると一応認められる。 こ ,掘進再開時に土砂の過剰な掘削を招くことによって,X10の居住場所に地盤の緩みを生じさせ,地表面に陥没を生じさせたり,地中に空洞を生じさせたりする具体的なおそれがあると一応認められる。 これに対して,債務者らは,カッターの閉塞を生じさせない等 の再発防止対策を講じることとしているから,債権者らの居住場所において陥没が発生するおそれがあるとはいえないと主張する。 しかし,債務者らは,本件有識者委員会報告書を踏まえて再発防止対策の事業者案を策定し,有識者による確認を経る予定であるとしているところ,前記認定事実⑹のとおり,本件陥没発生か ら1年以上,本件有識者委員会報告書の完成からも約9か月が経過した第11回審尋期日においても,本件陥没を生じさせた東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)及びそれと並走する同(北行)の工事については,再発防止対策策定までの具体的なスケジュールは明らかにできない旨を述べるにとどまっており, 現段階においても,本件工事のうち,東名ジャンクション部から発進する本線トンネルの工事について再発防止対策の事業者案の策定,有識者による確認は未了である。当裁判所において最終となる第11回審尋期日(令和3年12月23日)が終了した後,前記認定事実⑺のとおり,令和3年12月24日に開催された本 件検討委員会において,大泉ジャンクション部を発進する本線ト ンネル(南行)等の工事の再発防止対策が妥当なものであること,上記再発防止対策を,東名ジャンクション部を発進する本線トンネルの工事にも適用を検討することなどが確認されているものの,具体的にどのように適用するかについては明らかにされていない上,東名ジャンクション部を発進する本線トンネルの工事につい ての再発防止対策については, 用を検討することなどが確認されているものの,具体的にどのように適用するかについては明らかにされていない上,東名ジャンクション部を発進する本線トンネルの工事につい ての再発防止対策については,今後,事業者で検討を行った上で,本件検討委員会で審議,確認を経るとされていることからすれば,結局,本件工事のうち,東名ジャンクション部を発進する本線トンネルの工事について,具体的な再発防止対策が示されていない状況に変わりはない。 そうすると,現時点においては,X10との関係では,本件工事のうち,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事を続行することによって,その居住場所に陥没や空洞が生じる具体的なおそれがあるといわざるを得ない。 (b) そして,本件陥没の規模(前記前提事実⑸)に照らすと,X1 0の居住場所において陥没や空洞が生じれば,家屋の倒壊等を招き,その生命,身体に対する具体的な危険が生じるおそれがあり,その被害はX10の日常生活を根底から覆すものであるといえる。 一方で,本件事業は,首都圏等の交通混雑の緩和,安全かつ円滑な交通の確保等を目的とするものであり(前記前提事実ア), その公共性ないし公益上の必要性が認められるが,前記の被侵害利益の性質や内容に加え,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル工事についての再発防止の具体策が未だ示されていないことなどを考慮すれば,本件工事に認可を受けていない事業者が行った違法があるかどうかを検討するまでもなく,本件工事のう ち,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び 同(北行)の工事には,差止めを認めるのを相当とする違法性が認められるというべきである。 (c) よって,X10については,本件工事 ンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び 同(北行)の工事には,差止めを認めるのを相当とする違法性が認められるというべきである。 (c) よって,X10については,本件工事のうち,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事について人格権に基づく妨害予防請求としての差止請求権の疎明がある。 これに対して,本件工事のうち,その余の工事(大泉ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行),大泉ジャンクションFランプシールドトンネル,中央ジャンクション北側Aランプシールドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプシールドトンネルの工事)については,X10の居住地域に及ぶものと は認められず,これら工事についてはX10の人格権を侵害する具体的おそれがあることの疎明がない。 c 陥没による人格権侵害のおそれ及びその違法性(X10を除く債権者らについて)X10を除く債権者らの居住場所の地盤は,別表「距離関係等整理 表」の「最も近いボーリング箇所における地盤の状況」欄記載のとおりである。これら債権者の居住場所の地盤について前記の本件陥没箇所と同様の特殊な地盤条件(①表層部において他の区間と比べ薄い厚さ5~10m程度の地盤である。②掘削断面上部において,東久留米層で単一の砂層であって掘削による地山への影響が地表面に伝搬しや すい。③掘削断面において,細粒分が少なく,均等係数が小さく礫が卓越して介在している。)に該当するかどうかについて検討する。まず,別表4番,6番及び13番記載の各債権者については,地盤の状況が不明であり,上記の特殊な地盤条件であると認定する前提を欠いている。また,X10,別表4番,6番及び13番の各債権者を 検討する。まず,別表4番,6番及び13番記載の各債権者については,地盤の状況が不明であり,上記の特殊な地盤条件であると認定する前提を欠いている。また,X10,別表4番,6番及び13番の各債権者を除く 債権者らの①表層部の地盤は,厚さ約10mと同程度かそれ以上であ り,表層部が薄いという条件を満たさない。②掘削断面上部及び③掘削断面をみても,別表1~3番の債権者らの地盤は②③いずれも掘削による地山への影響が地表面に伝搬しにくい互層であり,上記条件を満たさない。別表5番の債権者の地盤は,②掘削断面上部は互層である点,③掘削断面は砂層主体であるものの,細粒分の少なさや均等係 数の小ささにおいて,上記条件を満たさず,別表7~9番の債権者らの地盤は,②掘削断面上部が互層である点において上記条件を満たさず,別表11番の債権者は,③掘削断面の細粒分の少なさや均等係数の小ささについて上記条件を満たさず,別表12番の債権者は,②掘削断面上部及び③掘削断面いずれも粘性土であり,上記条件を満たさ ない。また,別表記載の本件地域からの距離や本件陥没箇所からの距離に照らしても,X10を除く債権者らについて,その居住場所に本件陥没と同様の陥没が生じる具体的なおそれが存在することはうかがわれない。したがって,X10を除く債権者らについては,本件工事を続行することにより陥没や空洞の発生によって人格権が侵害される 具体的なおそれが存在することについて疎明がない。 これに対して,債権者らは,掘削断面が,細粒分が少なく,均等係数が小さいため,自立性が乏しい地盤であれば,シールドマシンによる掘削土の取り込み過ぎにより,掘削断面の地盤に緩みや空隙を生じさせ,住宅街の直下の地中に空洞や地表部に陥没を発生させる可能性 が十分 さいため,自立性が乏しい地盤であれば,シールドマシンによる掘削土の取り込み過ぎにより,掘削断面の地盤に緩みや空隙を生じさせ,住宅街の直下の地中に空洞や地表部に陥没を発生させる可能性 が十分あると主張する。 前記認定事実⑸ウ,及び前記aのとおり,本件陥没及び本件空洞は,①表層部において他の区間と比べ薄い厚さ5~10m程度の地盤である,②掘削断面上部において,東久留米層で単一の砂層であって掘削による地山への影響が地表面に伝搬しやすい,③掘削断面に おいて,細粒分が少なく,均等係数が小さく礫が卓越して介在してい るといった特徴を全て含む特殊な地盤条件下において生じたものと認められる。そして,本件において,上記の特殊な地盤条件を全て満たしている箇所以外の箇所で陥没や空洞が発生していることはうかがわれず,上記の特殊な地盤条件を全て満たしていなくても,掘削断面が,細粒分が少なく,均等係数が小さいため,自立性が乏しい地盤であれ ば空洞や陥没を発生させるおそれがあると認めるに足りる疎明はない。 したがって,債権者らの上記主張は採用することができない。 酸欠空気による危険性等について債権者らは,本件工事によって生じた漏気は酸欠空気であり,この酸欠空気が債権者らの家屋の真下に漏出し,家屋の地下室等の閉塞した空 間に滞留,蓄積したり,盆地状の地形の底に漏出して滞留,蓄積することによって酸欠事故が生じる具体的なおそれがある旨主張する。 前記認定事実⑶のとおり,野川の水面等で確認された気泡は,その気泡自体の酸素濃度は,最も低いもので1.5%程度であったものの,水面から1.5mの高さにおける酸素濃度の計測結果ではいずれも20% 以上の値となっている。酸素欠乏症等防止 された気泡は,その気泡自体の酸素濃度は,最も低いもので1.5%程度であったものの,水面から1.5mの高さにおける酸素濃度の計測結果ではいずれも20% 以上の値となっている。酸素欠乏症等防止規則の定め(前記前提事実)において,酸素欠乏とは空気中の酸素濃度が18%未満である状態をいうとされているところ,本件検討委員会においても,漏気は大気に比して微量であり,希釈化されるために周辺環境への影響はないことが確認されている。また,債権者らが主張するような酸欠空気の滞留,蓄積を もたらすような具体的な箇所や個々の債権者らとの関係は不明である上,生じた漏気は上記のとおり大気への放出により希釈化されることからすれば,酸欠事故を招来する具体的なおそれがあるとはいえない。そうすると,酸欠空気の発生によって債権者らの人格権が侵害される具体的なおそれがあるとはいえず,債権者らの主張は採用することができない。 イ財産権に基づく差止請求について 債権者らは,陥没あるいは酸欠空気は,債権者らの財産権を侵害するおそれがあるとして,本件工事の差止めを求める。 X10について,本件工事のうち,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事(なお,X10について本件工事のうち東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同 (北行)の工事については,選択的関係にある人格権に基づく差止請求権の疎明があるから,同工事に関する部分は判断を要しない。)を除く工事についてX10の居住場所との関係で陥没発生の具体的おそれがあるとはいえないことは前記アb(c)のとおりである。X10を除く債権者らの居住場所については前記アcのとおり,陥没発生の具体的なおそれが疎 明されているとは 係で陥没発生の具体的おそれがあるとはいえないことは前記アb(c)のとおりである。X10を除く債権者らの居住場所については前記アcのとおり,陥没発生の具体的なおそれが疎 明されているとはいえない。また,前記アのとおり債権者らについて酸欠事故を招来する具体的なおそれについて疎明されているとはいえない。 したがって,債権者らについて陥没又は酸欠空気の発生による財産権侵害のおそれも認められないから,その余の点について判断するまでもなく債権者らの主張は理由がない。 ウ不法行為の主張について債権者らは,人格権侵害一般に対する事前の救済方法として民法723条を適用ないし類推適用し,同条の「処分」として不法行為に基づく差止請求が認められるべきと主張する。 しかし,不法行為の効果は金銭による損害賠償であって(民法709 条),不法行為に基づく差止請求は認められない。民法723条は,名誉毀損における原状回復のために適当な処分をすることを法が特に認めたものであって,人格権侵害一般について適用されるものではないし,類推適用をする基礎もない。したがって,その余の要件について判断するまでもなく,不法行為に基づく差止請求には理由がない。 エ小括 よって,X10については本件工事の差止請求のうち東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事部分について被保全権利(人格権に基づく差止請求権)の疎明があり,その余については被保全権利の疎明がなく,X10を除く債権者らについては,人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求権のいずれについても,被保全権利 の疎明がない。 争点②(保全の必要性の有無)について債務者らは,東名ジャンクション部 者らについては,人格権,財産権及び不法行為に基づく差止請求権のいずれについても,被保全権利 の疎明がない。 争点②(保全の必要性の有無)について債務者らは,東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事については,本件陥没が生じた地盤の補修などを優先して行うとともに,再発防止についての事業者案を策定し,有識者による確認を 経て,地域住民への説明を行わない限り本件工事を再開しないとして,現時点において差止めを認める必要はないと主張する。 前記前提事実⑹のとおり,債務者らは,本件陥没が生じた後,本件工事に係る掘進作業をいずれも停止し,本件有識者委員会報告書では地盤の補修期間はおおむね2年程度と想定されている(前記認定事実ウ)。 しかし,本件仮処分手続において,債務者らは,当裁判所からの釈明に対し,本件陥没を生じさせた東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事については,再発防止対策策定までの具体的なスケジュールを明らかにすることはできない旨述べ(前記認定事実⑹),東名ジャンクション部発進の本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事については 少なくとも一定期間は再開を見込めないといった見通しを示すこともなかった。加えて,本件工事のうち,大泉ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行),大泉ジャンクションFランプシールドトンネル,中央ジャンクション北側Aランプシールドトンネル並びに中央ジャンクション北側Hランプシールドトンネルの工事については,再発防止のための事業 者案の策定,本件検討委員会の確認を経ており,大泉ジャンクション部を発 進する本線トンネル(南行)の工事については,令和4年2月25日以降に掘進作業を実施する旨公 ,再発防止のための事業 者案の策定,本件検討委員会の確認を経ており,大泉ジャンクション部を発 進する本線トンネル(南行)の工事については,令和4年2月25日以降に掘進作業を実施する旨公表していることからすれば(前記認定事実⑺,⑻),東名ジャンクション部を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)についても,本案判決に至るまで工事が再開されない保証はなく,現時点において,上記工事を仮に差し止めることについての保全の必要性も一応認められ る。 3 結論以上によれば,債権者らの申立てのうち,X10については,本件工事のうち東名立坑(東名ジャンクション部)を発進する本線トンネル(南行)及び同(北行)の工事については被保全権利(人格権に基づく妨害予防請求権として の差止請求権)及び保全の必要性のいずれも疎明があるからその差止めを認容し,X10の本件工事のうちその余の工事の差止めを求める部分及びその余の債権者らの申立てには理由がないからこれらを却下することとして,主文のとおり決定する。なお,事案に鑑み,X10には担保を立てさせないこととする。 令和4年2月28日東京地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官目代真理 裁判官秋田智子 裁判官小川惠輔 別紙当事者目録は記載を省略
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