昭和54(行ス)2 大阪中央労基署長休業補償給付差止

裁判年月日・裁判所
昭和54年7月18日 大阪高等裁判所
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【DRY-RUN】主   文 本件抗告をいずれも棄却する。 抗告費用は抗告人らの負担とする。        理   由 一 抗告人らの抗告の趣旨は「原決定を取り消す。被抗告人らが抗告人らに対しな した原決定添付の処分一

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主文 本件抗告をいずれも棄却する。 抗告費用は抗告人らの負担とする。 理由 一抗告人らの抗告の趣旨は「原決定を取り消す。被抗告人らが抗告人らに対しなした原決定添付の処分一覧表記載の各休業補償給付および休業特別支給金の支払いの一時差止処分の効力およびその執行を停止する。訴訟費用は第一、二審とも被抗告人らの負担とする。」との裁判を求めるにあり、その理由は別紙のとおりである。 二当裁判所の判断当裁判所も抗告人らの本件申立てをいずれも却下すべきものと判断するもので、その理由は次のとおり付加するほか、原決定の認定説示と同一であるから、これを引用する。 1 抗告人らは、労働者災害補償保険法(以下、労災保険法という)四七条の三の対象となる差止めを受ける者は「保険給付を受ける権利を有する者」であつて、単なる「保険給付の申請をする権利を有する者」ではない。けだし、支払の一時差止めである以上、保険給付がすでに支払できるよう具体化されている筈であると主張する。 ところで、労災保険法による保険給付は、保険給付を受ける権利を有する者の申請にもとづき、同法所定の手続に則り、行政機関が保険給付の決定をすることによつて、給付の内容が具体的に定まり、受給権利者はこれによつて始めて国に対しその保険給付を請求する具体的権利を取得するものであつて、受給者は保険の事由が発生するとともに、直ちにその基準額の支払を請求できるものではなく、決定前においては、単に抽象的な保険給付を受ける権利が存在するにすぎないものである(最判昭和二九年一一月二六日民集八巻一一号二〇七五頁参照)。そして、休業補償給付は、その性質上、継続的な支払を予定しているものではなく、その請求は、あくまで各請求者が、その請求行為前の過去の日において、療養のため休業し、労働することがで 二〇七五頁参照)。そして、休業補償給付は、その性質上、継続的な支払を予定しているものではなく、その請求は、あくまで各請求者が、その請求行為前の過去の日において、療養のため休業し、労働することができなかつたためにその賃金を受けえなかつた場合に、その補償を請求することを意味するものであり、補償請求に対する決定もこれに対応して、請求毎の個別決定としてなされるものである。右決定がなされていないことは原決定が適法に認定しているとおりであつて、所轄行政庁が、労災保険法四七条の三を適用しているからといつて、抗告人らが具体的な給付請求権者であるとすることはできない。同法条は原決定説示のとおり具体的な給付請求権者を有する者と然らざる者とを包含するものである。右法律を通読するとき、たとえば、同法一一条一項に「この法律に基づく保険給付を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に、支給しなかつたものがあるときは、云々」と、同二項に「前項の場合において、死亡した者が死亡前にその保険給付を請求しなかつたときは、云々」と定め、右一項の「保険給付を受ける権利を有する者」中には、具体的な給付請求権を有する者と、然らざる者、抗告人ら主張の「保険給付を申請する権利を有する者」とを包含して規定している等、合理的な事由のない限り、右法律中の「保険給付を受ける権利を有する者」には、右両者を包含するものと解するのを相当とする。休業補償給付の請求には、所定の資料等の提出等が要請せられ、これらの資料は、右請求に対し如何なる決定を行うかについての重要な資料であり、その提出がなされないときは、当該請求に対し法の趣旨に従つた適正な保険給付に関する決定ができないのであり、このことは、年金給付の如くすでに具体的な給付請求権者がその後、所定の手 ての重要な資料であり、その提出がなされないときは、当該請求に対し法の趣旨に従つた適正な保険給付に関する決定ができないのであり、このことは、年金給付の如くすでに具体的な給付請求権者がその後、所定の手続をしなかつた場合と異るところはなく、労災保険法一二条の七の実効性を担保すべく規定されている同法四七条の三の解釈上、両者を区別すべき合理性は見出し難い。 また、同条項の「支払の一時差止」なる文言も、抗告人ら主張の如く単に形式的な文言により解釈せらるべきものではなく、右条項の位置づけ、右法律全体から判断せらるべきものであつて、到底これを採用することはできない。 以上の如く、抗告人らは本件保険給付につき具体的な請求権を有しないものである。 2 本件差し止め処分は支給決定をするに支障をきたす障害ありとしてなされたもので、この障害が除去されて始めて支給決定がなされ、抗告人らは具体化された保険給付を受領することになる。本件差し止め処分の効力を停止する決定が、右障害を除去し、直ちに審査をなすべき義務を行政庁に課するものであるとは解し得ない。 本件の差し止め処分を受けた後も、抗告人らが保険給付の支給決定を請求する権利を有するものであるとの法律関係に消長なく、差し止め処分の効力を停止しても直ちに具体化された保険給付の支払を請求し得ない以上、抗告人らに生ずる回復の困難な損害を避けることはできず、抗告人らのいう「執行停止の趣旨をも考えた許否決定がなされるという法的期待が生ずることをもつて、保全法益とみなし得る」との解釈を、当裁判所は採用しない。 3 以上のとおり、本件申立ては、保全法益を欠くものであり、これを失当として却下した原決定は相当で、抗告人らの抗告は理由がないから棄却することとし、抗告費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のと 申立ては、保全法益を欠くものであり、これを失当として却下した原決定は相当で、抗告人らの抗告は理由がないから棄却することとし、抗告費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。 (裁判官大野千里岩川清鳥飼英助)(別紙)抗告の理由第一原審決定の基本的な誤り一はじめに原決定は申立人らには何ら執行停止を求める法的利益が存在しないとして門前払いの決定をおこなつた。 その大きな柱は、① 休業補償給付等の支給決定はなされていないこと。 ② 執行停止が認容されたとしても、単に休業補償給付等の支給申請が継続している状態にとどまつていること。 の二つをあげている。いずれにしてもこの二つの問題は労災保険法第四七条の三に直接かかわる問題であり、原決定もその理由づけとして法四七条の三の解釈を独自に展開しているので、まず右法条について原決定のもつ基本的な誤りを述べておく。 二法四七条の三と原決定(一) 法四七条の三について法四七条の三は「政府は、保険給付を受ける権利を有する者が、正当な理由がなくて、第一二条の七の規定による届出をせず、若しくは書類その他の物件の提出をしないとき、又は前二条の規定による命令に従わないときは、保険給付の支払を一時差し止めることができる」と定めている。 ここで明白なことは次の二点である。 ① 差し止めを受けている者は、「保険給付を受ける権利を有する者」であつて、単なる「保険給付の申請をする権利を有する者」ではないこと、② 当該保険給付はその支払いを一時差し止められているにすぎないのであつて、「支払いの差し止め」という以上当該保険給付は支払いできるよう具体化されているはずであること、である。 申立人らの訴を却下した原決定でさえ、②についてであるが「(法四七条の三の規定等から つて、「支払いの差し止め」という以上当該保険給付は支払いできるよう具体化されているはずであること、である。 申立人らの訴を却下した原決定でさえ、②についてであるが「(法四七条の三の規定等からみると)本件においては既に差止めの対象となつた休業補償給付等の支給決定がなされていて、その支払いのみが一時差止められたものと解されないではない」とまで言つている。 したがつて、原決定が右判断理由(前記②の点)とあわせて、法四七条の三にある差し止めを受けている申立人らは法四七条の三にある「保険給付を受ける権利を有する者」であること(前記①の点)をしつかりとらえている限り、本件事件は本件差止め処分の効力の停止の効果として、申立人らが休業補償給付等の支給決定を受けうることがほぼ確実な状態にあるか、あるいは少なくとも支給か不支給かの決定を受けうる法的地位にあるとして、本件執行停止の申立の利益を認めなければならないはずであつた。 (二) 原決定の法四七条の三についての読み方ところが、原決定は、法四七条の三につき、「本件の休業補償給付等の支給に関して考察すると、右法条は、右給付の請求があつた場合において、いかなる決定をするかを判断するに必要な請求者の病状に関する資料が提出されないときは、当該請求に関する適正な認定ができないので右資料の提出があるまで右請求に対する決定を一時留保することができる旨を定めたものであ」るとした。 すなわち、原決定は法四七条の三について、休業補償給付と休業特別支給金(現決定はこれら二つあわせて休業補償給付等といつている)については特別な読み方が必要であること、その読み方とは、① 法条には「保険給付を受ける権利を有する者」と書いているが、これは「保険給付の請求があつた場合」のことであり、単なる給付申請の場合と同様であること、 読み方が必要であること、その読み方とは、① 法条には「保険給付を受ける権利を有する者」と書いているが、これは「保険給付の請求があつた場合」のことであり、単なる給付申請の場合と同様であること、② 法条には「保険給付の支払を一時差し止めることができる」とあるが、これは、「請求に対する決定を一時留保することができる」と読むこと、であると判断している。 三原決定の誤り(一) 原決定は何よりも法の解釈を通りこして立法論を展開しており、それは結果的には法改正と同じである。けだし、「給付を受ける権利」を「給付の請求をする場合」、「一時差し止め」と「一時留保」の法的差異はあまりにも明白だからである。 (二) 原決定の法四七条の三についての解釈は、立法者でさえ考えていなかつたことである。昭和四五年の法四七条の三についての法の改正の趣旨説明が、年金が正確に到達しなかつたりすることなど受給権者の現況が判明しないことなどの対応として定められたことであることは、原審申立人第四回準備書面第一、第二でくわしく述べたとおりである(甲五二号証)。したがつて休業補償給付に適用する場合があるとしても年金の場合の適用趣旨を尊重して解釈し適用すべきである。 (三) 原決定は休業補償給付等以外の場合(年金給付の場合がそうである)は、右法条は「支払いが一時差止められたもの」と読み、休業補償給付等の場合は「給付決定が一時留保することができる」と読むのだとしているのであるが、これは同一条文に二通りの読み方が混じつているというもので法解釈としてもおよそ考えられないことである。 (四) 原決定は休業補償給付等の場合は右法条を特別に解釈する理由として、「いかなる決定をするか病状に関する資料(まさに本件で問題になつてる報告書である)が提出されないときは、当該請求に関する適正な認定ができ 決定は休業補償給付等の場合は右法条を特別に解釈する理由として、「いかなる決定をするか病状に関する資料(まさに本件で問題になつてる報告書である)が提出されないときは、当該請求に関する適正な認定ができない」からであるという。 しかし、なぜ適正な認定ができなくなるか、あるいはなぜ一時留保となるのか全く述べていない。 そもそも① 相手方らは既に申立人らの病状を十分に把握していること(原審五三・一二・一回準備書面五、二)、② 仮りに報告書不提出により病状把握が不十分だとしても法は内払処理制度(一二条三項)をもうけて保険給付の継続的支給をはかつており、「支給一時差止」はおろか「支給決定一時留保」には何ら結びつかぬこと(原審申立人第四回準備書面第三)、を原審で申立人らは主張・立証し尽しており、相手方らからは何ら反論されなかつた。ここからみても、原決定が休業補償給付につき法四七条の三に関し特別な取扱いをしていることは全く不当である。 四被災者の救済を奪う原決定(一) 行政追認の原決定原審決定が法条や、その制度趣旨にこれほどさからつてまで申立の制度を否定したのは結局、現実の行政処分におもねいたからだとしか考えられない。たとえば原決定は、申立の利益がない理由の一つとして、支給決定は未だになされていないことを判断理由としている。申立人らとしては、法条が「保険給付を受ける権利を有する者に対して一時差止」と言つている以上、差止の前に「給付決定」が前提としてあるはずであり、手続的にもそのようにすべきことがこの法の制度趣旨であることを主張した(申立人第二回準備書面第一)。だから、相手方らから提出された支払い差止決議書の中に「当該決議(支払差止決議のこと)は支給決定の支給決議に先行して行うこと」と書かれていることそのものが法四七条の三からすればありえない 面第一)。だから、相手方らから提出された支払い差止決議書の中に「当該決議(支払差止決議のこと)は支給決定の支給決議に先行して行うこと」と書かれていることそのものが法四七条の三からすればありえないことであり、もし、真実行政がそのような運用をしているならば、それこそ法に従わない行政としてその違法性が問題になるところである。ところが原審は、法条を前述したように無理な解釈(「一時差止」は支給の一時留保であるから支給決定は未だなされていないのも正当である)をしてまで追認したのである。 行政が仮りにも支給決定をしないでその一時差止め処分という法に違反して矛盾したことをやつているのであれば、そうした運用自体の違法性を問題にすべきことで、行政を免責する方向で法を恣意的に解釈すべきではなく、いわんや被災者にその不利益を負わせるべきことではない。 相手方らが法四七条の三のいう「保険給付を受ける権利を有する者」であることに注目し、申立の法的利益を認めかつ救済決定をすべきである。 (二) 執行停止決定原審の判断は、結局門前払いの決定であり、具体的には申立人らに救済の道を閉ざしてしまうことである。 執行停止の申立の積極的要件は、本案訴訟が適法に提起されていることを前提条件とする以外は、実体上の積極要件として「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある」ことである。申立人らが生活の糧となつている休業補償給付の差し止めによつて耐乏生活も破綻にひんしていることは申立人らの報告書にくわしいところである。しかも、それぞれ疾病をかかえていることからアルバイトなどで他に収入を得る身体でもない。だれの目にも回復困難性は明白である。このような申立人らに対し、執行停止の申立を前門で拒否し、あとは本案訴訟でゆっくりやってもらうという趣旨の原決定は実質的に申立人らの救済の途を を得る身体でもない。だれの目にも回復困難性は明白である。このような申立人らに対し、執行停止の申立を前門で拒否し、あとは本案訴訟でゆっくりやってもらうという趣旨の原決定は実質的に申立人らの救済の途をとざしたものである(なお、申立人らは執行停止の消極要件としての「本案についての理由がないとみえるとき」についても原審で主張・立証しつくしている)。本件の差し止め処分は全くの給付的あるいは受益的な行政処分でないことはもちろんのこと、これまで三年ないし一〇年以上にわたつて継続支給された休業補償給付等に対する侵益的な行政処分、あるいはその色彩を有するものである。全くの受益的行政処分に対してさえ、裁判官の中で「東京地方では従来拒否処分の執行停止をいくつか認めております。 もとより理論的には拒否処分の執行停止がなんらその許可処分をもたらすものではないということは自明のことでございますけれども、たとえば、出入国管理に関する各種の処分、それから公安条例に関する各種の処分に関連いたしまして不許可処分ないし許可処分の条件の効力の執行停止が申し立てられました場合には、何分にも時間の制約がありますことと、それから、事がらが人身の自由であるとかあるいは表現の自由であるとか、いずれも相当慎重に考えなければならない事がらでございますし、ただ、拒否処分の執行停止が認められないというだけで対応することは必ずしも適切でないという考慮も働くわけでございます。したがいまして、たとえば、風俗営業の許可処分等のように、ある程度時間をかけてゆつくり判断できる問題につきましては、もとよりその一般原則が適用されると考えておりますが、いま申し上げました出入国管理令ないしは公安条例に関しますものにつきましては、その具体的な事案について、その場限りというわけではございませんが、少なくともなんらか 則が適用されると考えておりますが、いま申し上げました出入国管理令ないしは公安条例に関しますものにつきましては、その具体的な事案について、その場限りというわけではございませんが、少なくともなんらかの判断を示すというのが適切であろうということを考えているように思います」(昭和四六年一〇月二五、二六日開催、行政事件担当裁判官合同概要一一八頁、園部裁判官の発言)といわれているところである。また現に判例において① 同和地区の住民からの保育所への入所申込みに対して(一人は継続入所申込、他の一人は新規申込)、申込の近隣の同和保育所ではなく他の保育所への入所措置決定に対する執行停止を認容したり(福岡地決五二・五・一九)、② 在留期間更新不許可処分の効力停止を認容したり(東京地決四五・九・一四)、③ 集団示威行進の不許可処分に対する執行停止を認容したり(東京地決四二・一一・二七)、④ FM放送実用化試験局の免許期間満了直前に郵政大臣がした再免許しない旨の通告に対する効力停止を認容したり(東京地決四三・八・九)、⑤ 試掘権存続期間延長不許可処分に対する執行停止を認容したり(札幌地決三四・五・一一)しているのである。 原決定はこれらの判例の流れからも逸脱しているものである。そもそも労災保険法は「労働者の福祉の増進に寄与することを目的(法一条)として定められたものである。 また「業務上」認定解釈についてではあるが、大阪高等裁判所が、「労災保険法は…多くの重要な改正を経て、使用者を集団としてとらえることにより、その責任の拡大、徹底をはかるものとして、被労働者の被つた損害の補償・個々の使用者の責任保険の性格から労働者の生活権の保護に向け踏み出したものということができる。本件災害発生時(前記四四年改正後)における「業務上」の解釈としては、個々の労使間の の被つた損害の補償・個々の使用者の責任保険の性格から労働者の生活権の保護に向け踏み出したものということができる。本件災害発生時(前記四四年改正後)における「業務上」の解釈としては、個々の労使間の労働関係に基礎をおく損失補填の法理に厳格にとらわれることなく、労働関係に関連して発生した災害を労働者と使用者側(労災保険の実質的負担者)のいずれに負担させることがより合理的かの比較考量の上に立つて「業務上」の概念を合理的に拡大するのが妥当であつて、このことにより労災保険の給付対象の拡大を求める動向にも副い、また生活権保険の理念にも合致すると考えられる」と判決をしたことは(昭和五三・一一・三〇判決、判例タイムズ三七三号一〇〇頁)、本件の法四七条の三を解釈するに際しても参考になるものである。 つまり、法四七条の三を解釈するとしても生活権の保護の観点から解釈すべきである。まさに、法四七条の三がこれまで年金に適用されてきたこと、それも差し止めは被災者の住所不明など被災者保護のためにおこなわれてきたことをみるべきである。 かかる労災保険制度本来の趣旨から言つても、抗告裁判所が申立人らの申立の利益を認めて救済命令を出されるよう求める次第である。 第二申立人らは本件執行停止を求める法的利益がある。 一申立人らは「保険給付を受ける権利を有する者」であり、本件執行停止が認容されれば当然休業補償給付等を受けうる地位にある。 相手方らは、労災保険法第四七条の三を根拠法規として、本件差し止めをおこなつたのであるが、その第四七条の三は「保険給付を受ける権利を有する者が……提出しないとき……保険給付の支払を一時差し止めることができる」と規定している。つまり四七条の三は保険給付を受ける権利を有するものである。対象者に対して、その法的利益ないしは法的地位を認めたうえで差 出しないとき……保険給付の支払を一時差し止めることができる」と規定している。つまり四七条の三は保険給付を受ける権利を有するものである。対象者に対して、その法的利益ないしは法的地位を認めたうえで差し止め処分をおこないうることを許容しているのである。このように権利者として法的利益・法的地位を有しているからこそ、当局は保険給付申請に対して単なる不作為で放置することは許されないところ、当局は右の不作為をのりこえて積極的に四七条の三によつて差し止めという侵益行政処分をしてきたのである。これを差し止めを受ける側から言うと、四七条の三の法意はその差し止め処分の対象者たるものは、保険給付の支払いを受ける権利を有する者として法的利益を有するものであるが、差し止めの処分によつてその支払いの差し止めという権利の実現に対する障害を惹起させられたということである。したがつて四七条の三を根拠とする差し止め処分の効力が執行停止決定により停止されるなら、当然権利実現の障害は排除されるところとなり、申立人らは保険給付を受ける権利を有する者として当然その権利の実現(すなわち保険給付は=申立人らにとつては休業補償給付等の支払い)せられるところとなる。 したがつて、法四七条の三にある「保険給付を受ける権利を有する者」の意義を全く考慮しなかつた原決定は破棄をまぬがれないものである。 二申立人らは休業補償給付等を受ける地位にあり本件執行停止の申立が認容されれば直ちに支給決定を受けうることが確実な状態になる。 (一) 原決定は「たとえ本件の執行停止の申立が認容されたとしても、それは本件差し止めの処分の効力の停止、すなわち本件差し止め処分が存在せず、単に休業補償給付等の支給申請が継続している状態になるにとどまり、直ちに支給または不支給いずれかの決定を受けうる法的状況になるとか、あ 差し止めの処分の効力の停止、すなわち本件差し止め処分が存在せず、単に休業補償給付等の支給申請が継続している状態になるにとどまり、直ちに支給または不支給いずれかの決定を受けうる法的状況になるとか、あるいは支給決定を受けうることがほぼ確実な状態にまではなり得ずその他労災保険法等の関係法令および記録を精査しても、何らの申立の法的利益を認めることはできない」として本件申立を却下した。 原決定の論旨は本件申立が認容されれば、本件差し止め処分が存在しない状態になるが、そのような状態になつても直ちに支給または不支給いずれかの決定を受けうる法的状況にはなく、また、支給決定を受けうることがほぼ確実な状態にまではならないというのである。判旨が右のような法的状態になつても、それだけでは本件申立の法的利益がないというのであれば格別、右のような法的状態の存否について判断し、そのような法的状態にないことを理由として本件申立を却下している。 しかし申立人らは以下に述べるように休業補償給付等を受ける地位にあるのだから、本件差し止め処分の効力が停止されれば、支給決定を受けうることがほぼ確実な状態にあることは明らかである。 (二) 申立人らの状態は休業補償給付等を受けるに必要な要件を満たしている。 (1) 相手方も認めているように休業補償給付等に固有の要件は、①労働者が業務上負傷しまたは疾病にかかり、②その療養のため労働することができず、③賃金を受けていないことの三要件である(労災法一四条)。 申立人らの本件執行停止期間中の状態は各人の報告書(疎甲第二二号証ないし第二九号証)に詳細に記載されているが、申立人らの状態が右の三要件をみたしていることは明らかである。相手方も申立人らの状態が右の三要件を満たしていないとは主張していない。 (2) 相手方が繰り返し主張することは、報 細に記載されているが、申立人らの状態が右の三要件をみたしていることは明らかである。相手方も申立人らの状態が右の三要件を満たしていないとは主張していない。 (2) 相手方が繰り返し主張することは、報告書がなければ適正な保険給付ができないということである。 しかしこれは全く誤つた主張である。 まず第一に報告書の存在は休業補償給付等の支給のための要件ではないということである。休業補償給付等の支給をうけるには一定様式の請求書申請書(様式第八号)による請求をすれば必要かつ十分なのであり、相手方はその書面に記載されている事項につき書面上の審査および必要がある場合は調査をおこない、その結果前述した三要件が満たされていれば支給がなされるのである。 そこでは、報告書の提出は何ら要件とされていない。すなわち報告書が提出されていないことは休業補償給付等の支給には何らの障害にもならないのである。 そこで相手方は報告書が提出されないと被災者の症状把握が十分できないため適正な保険給付ができないと主張する。 しかし、第二に申立人らについて言えば、報告書が未提出でも相手方は次にみるように十分申立人らの症状を把握しているのである。 ① 申立人らはそれぞれ休業補償給付支給請求書等(様式第八号)を提出している。右請求書には休業の期間、療養の期間、傷病名および傷病の経過等休業補償給付の支給の判断に必要な事項が記載されている。 ② 申立人a、同b、同c、同dは基発第五九三号通達(疎甲第五号証)および社会復帰特別対策事務処理要綱(疎甲第六号証)にもとづき現在職場復帰訓練中であるが、これらの者は復帰にあたつては「社会復帰申出書」を相手方に提出し、復帰後も一カ月に一度文書(訓練計画また診断書を添付する場合もある)または口頭にて症状報告をおこなつている。なお口頭報告の場合は相手方に れらの者は復帰にあたつては「社会復帰申出書」を相手方に提出し、復帰後も一カ月に一度文書(訓練計画また診断書を添付する場合もある)または口頭にて症状報告をおこなつている。なお口頭報告の場合は相手方においてその報告内容を記録している(疎甲第二二号証の二~二一参照)。 また右以外の申立人らはそれぞれの会社が不当にも職場復帰訓練を認めないため右訓練にはまだ入つていないが、それぞれの会社に対しては診断書などを添えてその傷病の状態を明らかにしたうえで職場復帰訓練をさせるよう要求し、それと同時に相手方に対してもその傷病の状態を明らかにしたうえで、前記通達や要綱の趣旨にそつて申立人らが職場復帰訓練に入れるよう会社に対し強力な行政指導をするべく要請している。 以上のことから明らかなように相手方は申立人らの症状は十分把握しているのである。 ③ 仮に症状把握が不十分な点があるという場合でも、基発第一九二号通達において、報告書の提出のない場合またはその内容が不十分な場合の代替手段が規定されているのであるからその方法によつて症状の把握ができるはずである。 ④ さらに大事なことは、相手方は報告書が提出されないから適正な保険給付ができないとして休業補償給付等の支給を一時差し止める一方、右差し止め期間中も申立人らに対してはその症状把握ができなければ支給決定できないはずの療養補償給付を継続して支給しているということである。 これは相手方の極めて矛盾する言動を示すものである。 すなわち相手方は「報告書等の提出については……その存否が保険給付の支給に関する適正な決定(認定・判断)に重要な影響を及ぼすものであるから、未提出の場合には右支給に関する決定がなされない場合もありうる。したがつてこの意味においていずれの給付が求められているにしろ、給付の実現にとつて根本的障碍事由 )に重要な影響を及ぼすものであるから、未提出の場合には右支給に関する決定がなされない場合もありうる。したがつてこの意味においていずれの給付が求められているにしろ、給付の実現にとつて根本的障碍事由となりうる」と言う(昭和五三年一二月一五日付釈明書三2)。 右の「いずれの給付」の中に休業補償給付や療養補償給付が含まれることは明らかであるところ、一方では休業補償給付につき報告書が未提出のゆえに支給決定ができず、他方で療養補償給付につき報告書が未提出でも支給決定ができるのは何故なのか。 相手方がおこなつた申立人らに対する療養補償給付の支給は、報告書が「給付の実現にとつて根本的障害事由」となつていないことを事実でもつて自ら示したものと言える。 このように、相手方は申立人らに対し休業補償給付について支給できるのである。 ⑤ 申立人らが休業補償を受けうる法的状態にあることは次の点をみても明らかである。 すなわち相手らのうち大阪中央労働基準監督署長および天満労働基準監督署長は、申立人らが休業補償給付について労基法第八四条の「労働者災害補償保険法または命令で指定する法令にもとづいてこの法律の災害補償に相当する給付がおこなわれるべきもの」という法的地位にあることを認めている。労働基準法第七六条は、労働者が業務上の疾病による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養期間中平均賃金の一〇〇分の六〇の休業補償をおこなわなければならない旨を規定し、同法第八四条は、労災保険法等により災害補償に相当する給付がおこなわれるべきものである場合においては、使用者は補償の責を免れる旨を規定している。そして申立人らの使用者である企業のなかには、申立人らが受けるべき労災保険給付につき、前述した補償金支払いののち、その既払 るべきものである場合においては、使用者は補償の責を免れる旨を規定している。そして申立人らの使用者である企業のなかには、申立人らが受けるべき労災保険給付につき、前述した補償金支払いののち、その既払いの補償の全額または一部の支払いを受けそれを右の既払いの補償金を充当する手続を取つているものもあつた。ところが、相手方らが労災保険法第四七条の三により給付の一時差し止めをおこなつたので、申立人らの使用者である企業も前述した申立人らに対する休業補償の支払いをしなくなつた。 そこで申立人らは、昭和五三年一〇月一一日、その使用者である雇主等に労基法第七六条違反がある旨を、同法一〇四条にもとづき大阪中央および天満労基署長に申告したところ、同署長らは申立人らが保険給付を現実に受けていなくてもそれを受けうる場合は、使用者の免責があるとの理由により右申告をしりぞけたのである(昭和四二年三月一日、大阪地裁判決、労民集一八巻二号一五七頁の判例を引用した)。 このことは、相手方らが、申立人らが休業補償給付についても一定の権利者であることを認めたものである。 ⑥ ここで一言指摘しておきたいことは、これまで報告書の目的を明らかにしたうえで申立人らが休業補償給付を受ける地位にあることを述べてきたが、これは原決定が報告書が提出されないと当該請求に関する適正な認定ができないという誤つた認定のもとに申立の利益を否定したことに対して、その誤りを明らかにし申立人らの有する権利性(法的利益)を明確にするためであつて、報告書をめぐるこれらの問題は本来は本案において検討されるべきことであつて執行停止についての申立の利益を考えるうえにおいてはあまり深く立入るべき問題ではない。 (三) 相手方は自ら報告書は治ゆ・症状固定・療養打切・給付打切のために使用するものではないと言つている。 (1 執行停止についての申立の利益を考えるうえにおいてはあまり深く立入るべき問題ではない。 (三) 相手方は自ら報告書は治ゆ・症状固定・療養打切・給付打切のために使用するものではないと言つている。 (1) 相手方の上級庁である大阪労働基準局は昭和五四年一月頃申立人らに対して、報告書とともに郵送した文書(疎甲第五四号証の一ないし三)の中で「この診断書(報告書に添付する診断書を指す)は治ゆ・症状固定・療養打切・給付打切のために使用するものではありません」旨述べている。 この事実は申立人らの地位を考えるうえで極めて重要なものである。すなわち、報告書をもとにして治ゆ・症状固定による障害補償給付の支給や療養補償給付・休業補償給付の各打切(不支給)はおこなわないということは、相手方の言う「報告書が提出されなければ適正な保険給付ができない」という中の「保険給付」とは休業補償給付もしくは傷病補償年金給付のいずれかということになる。申立人らの場合は前述した如く休業補償給付の支給が適正であると考えるが、本件において問題となつている申立の利益という観点から右のことを考えてみる。 報告書が未提出だから適正な給付ができないという相手方の立場に立つて考えてみても、右に言う適正な給付ができないということは休業補償給付を継続するか傷病補償年金に移行するかの判断ができないということに帰着する。 ところで労災法第一二条および基発第一九二号通達によれば、休業補償給付を受ける権利が消滅し同時に傷病補償給付を受けることとなつた場合に、従来支給されていた休業補償給付が引き続いておこなわれていたときは傷病補償年金の給付の内払いとみなして処理ができる。 このような制度の下で考えた場合、申立人らの地位は本来の休業補償給付もしくは後刻傷病補償年金に充当されるかも知れない内払いとしての休業補 たときは傷病補償年金の給付の内払いとみなして処理ができる。 このような制度の下で考えた場合、申立人らの地位は本来の休業補償給付もしくは後刻傷病補償年金に充当されるかも知れない内払いとしての休業補償給付の支給をうけることができる地位であると言える。つまりここにおいて明らかなことは、本件執行停止の申立が認容された場合、申立人らは原決定が言うように単に休業補償給付等の支給申請が継続している状態になるにとどまり何ら権利のない状態におかれるのではなく、右に述べた意味での休業補償給付の支給を受ける権利を有する状態になるのであり、相手方は当然それに対応して右休業補償給付の支給決定をしたうえで現実の支払いをしなければならない法的義務を負うことになる。換言すれば申立人らは現実に支給を受けるべき法的地位に立つことになるのである。 (四) 申立人らには、これまで長期にわたつて継続的な休業補償給付等の支給がなされてきた。 (1) 申立人らはいずれもその疾病について相手方から業務上と認定され、本件一時差止処分を受ける直前まで長期にわたつて継続的に休業補償給付の支給を受けてきた。 かかる継続的かつ申立人らにとつて利益的な法的状態は、申立の利益の有無を考える場合には極めて重要なことである。 申立人らの疾病がいつたん業務上として認定された以上、その疾病は当然に一定の継続性、すなわち治ゆまたは症状固定になるまでは続くものであり、その間休業を余儀なくされた申立人らには継続的に休業補償給付をおこなうことを法(労基法第七六条・労災法第一四条等)は予定しているのである。その意味で休業補償給付の継続的給付は法の要請するところである。 (2) しかるに原決定は相手方が主張する個別請求毎の個別決定という形式にこだわり、毎月の支給決定がない以上、申立人らには何らの法的利益状態にはな 業補償給付の継続的給付は法の要請するところである。 (2) しかるに原決定は相手方が主張する個別請求毎の個別決定という形式にこだわり、毎月の支給決定がない以上、申立人らには何らの法的利益状態にはないと判断した。 しかし、本件の如き一時差止処分ができるということ自身の中にそれが継続的給付を対象とするものであることが前提となつているのである。 最初の申請の時(たとえば業務上外認定)には認容か却下の判断しかなく一時差止処分というものはありえない。 したがつて、労災法第四七条の三も一時差止処分の対象者として「保険給付を受ける権利を有する者」すなわち業務上認定にもとづく保険給付の継続的な受給権者を規定しているのである。 このような継続的受給権者は、受給期間が長期になるほど後に述べる如くその支給状態は年金に近い状態になり、継続性という面からみた権利性は極めて高いものになるのである。その意味で個別請求に対する支給決定は確認行為としての性質を帯有しているのである。 (3) ここで休業補償給付(とくに長期継続の場合)と年金との類似性について考える。 ① 相手方は休業補償給付の請求とこれに対する決定は個別請求毎の個別決定としてなされるものであつて、決して年金における基本権と支分権のような関係を発生させるものではない。したがつて第二回以降の審査および支給決定がともに形式的でその休業補償給付の支給が最初の支給決定の継続的支払いであるとか、最初の支給決定に将来の休業補償給付の決定が含まれていると解することはできない旨主張し、原決定も同様の判断を示した。そしてそこから申立の法的利益がない旨の結論を導き出している。 しかし、ここで問題となつている申立の法的利益すなわち申立人らが有する権利という観点から考えるならば、両者の間には相手方が言う如き根本的な違いはな ら申立の法的利益がない旨の結論を導き出している。 しかし、ここで問題となつている申立の法的利益すなわち申立人らが有する権利という観点から考えるならば、両者の間には相手方が言う如き根本的な違いはなく、むしろ共通する側面の方が強いのである。 ② 年金と言つてもいくつかの種類があるので、ここでは傷病補償年金をとり上げることにする。 休業補償給付と傷病補償年金は、ともに療養の必要があり、かつ休業の必要のある場合に支払われるという点では共通している。違いは、後者の場合には前者と比べ長期にわたつてそのような状態が継続することが見込まれるという点にある。 このような場合も厳密に考えるならばあくまでも「見込まれる」ということであつて、少なくとも毎月毎月年金を支給すべき要件が備わつているか否かのチエツクをする必要があるはずであるが、法は要件が備わつている可能性が強いことを大前提として被災者の便宜を考え、そのような場合にまで毎月一定の請求をした上で保険給付をする必要までないとして年金という制度を設けたのである。 ただ、年金といえども長期間経過すると受給権者の方に受給権の存否を含めた権利の変動が生ずる可能性があるので、原則として毎年一回の定期報告の義務を課しているのである。(労災則第二一条)。 ③ ところで、休業補償給付の場合は、本件申立人らの如く長期にわたつて継続される場合もあるが短期の場合もあるので、通常は一カ月単位で請求書を提出させる形をとつている。 しかし、休業補償給付の場合も長期にわたつて継続して支給されるという状態になると、それは年金の場合ときわめてよく似た様相を呈する。すなわち、療養開始後一年六カ月を経過した長期の休業補償給付の受給者に対しては、年金の場合と同じように年一回の定期報告を義務づけている(労災則第一九条の二)。これは年金の場 てよく似た様相を呈する。すなわち、療養開始後一年六カ月を経過した長期の休業補償給付の受給者に対しては、年金の場合と同じように年一回の定期報告を義務づけている(労災則第一九条の二)。これは年金の場合は年一回の定期報告によつて負傷または疾病の状態を把握しそれによつてどのような年金(たとえば傷病補償年金の継続か障害補償年金への移行か)の支給が適切かを判断するのに対し、休業補償給付の場合は報告書によつて休業補償給付を継続するか傷病補償年金に移行するかの判断をするという違いはあるが、ともに同一の保険給付が長期にわたつて継続している場合に年一回の点検をするという点では全く同様の扱いをしているのである。 そして、その点検から次の点検までの一年間の状態について言えば、法は形式的にはすでに述べた如く年金の場合は毎月の請求は不要とし、休業補償給付の場合は毎月の請求行為を必要としているが、とくに長期にわたつて給付が継続している場合には短期の場合と比べて負傷または疾病の状態が年金の場合とほぼ同じ程度に継続しているため、実質的には休業補償給付の支給を受ける可能性すなわち権利性は年金の場合と同程度の強いものと言うことができる。 ④ 以上述べたように、申立人らの如く極めて長期にわたつて休業補償給付の支給を受けている場合は、実体面からみたその権利性は年金の場合と同程度の高いものということができ、それは本件で言うところの法的利益が存在するということである。 (4) なお、すでに述べたように、原決定は支給決定という法の形式にこだわり、申立人らが有している権利そして申立の法的利益を否定したわけであるが、法の形式にこだわることなく実体面から見てその権利性を肯定し執行停止を認容したものとして東京地裁決昭和四三・八・九(疎甲第三五号証)がある。第一で述べたところと重複するがこ を否定したわけであるが、法の形式にこだわることなく実体面から見てその権利性を肯定し執行停止を認容したものとして東京地裁決昭和四三・八・九(疎甲第三五号証)がある。第一で述べたところと重複するがこれは、超短波放送実用化試験官の免許につき、免許の有効期間到来後は再免許申請をおこない、それにもとづいて再免許をするか否かの判断をするという形式になつているのに対し、裁判所は法の形式的文言にとらわれることなくその実体を十分考察したうえで「かかる期限は免許許可の条件の存続期間の性質をもち、その期限の到来によりその条件の改訂を考慮する趣旨と解すべきであり、したがつて期限の到来の前に適法な更新の申請がなされている限り、期限の到来によつて免許許可等が失効しないものと解するを相当とし」と判断したものである。この決定は、再免許申請という形式にこだわることなく、免許の継続性ということに着目しその権利性を認めた点で本件の申立の法的利益を考えるうえにおいて極めて示唆に富むものである。 (5) さらに執行停止事件として参考となる決定に、第一でも述べた福岡地裁の決定(昭和五二・五・一九)がある。これは市福祉事務所長が、住民からの保育所への入所申込みに対し、近隣の入所申込みをした当該保育所ではなく、他の保育所への入所措置決定をした場合につき、回復困難な損害を避けるためその効力を停止する緊急の必要があるとされた事例である。 この事例において特筆すべきことは二人の申請人のうち一人は保育所入所の継続の申込みであるのに対し、もう一人は新規入所の申込みであるところ、裁判所はこの両名について執行停止の申立を認容したのである。 本件の原決定の如き考え方をするならば、この事例の場合新規申込みの場合はもちろん継続の申込みの場合も、執行停止の申立が認容されても単に入所申込みが継続してい いて執行停止の申立を認容したのである。 本件の原決定の如き考え方をするならば、この事例の場合新規申込みの場合はもちろん継続の申込みの場合も、執行停止の申立が認容されても単に入所申込みが継続している状態になるにとどまるだけであるから、申立の法的利益は認めることはできないということになるであろうが、福岡地裁はこのような形式的な判断はせず、申立人らの権利保護の観点から、執行停止をする緊急の必要性を認めたのである。 (五) 以上述べたことから申立人らは休業補償給付等を受ける地位にあることが明らかになつた。 そこで、そのような地位にあり、かつ適法な休業補償給付等の請求をしている申立人らに対し、本件執行停止の申立が認容されれば、相手方は適法な請求に対し支給決定をしなければならず、したがつて、申立人らは支給決定を受けうる確実な状態になるのであるから、申立人らには本件申立の法的利益が存する。 すなわち、労基法施行規則第三九条は「療養補償および休業補償は毎月一回以上、これをおこなわなければならない」と規定している。これはさきに述べた休業補償給付の継続的支給という法の要請を受けてその支給方法を具体化したものである。労災によつて休業を余儀なくされた患者の生活保障や生活の安定、治療への専念という面からみて当然の規定といわなければならない。この法の具体的要請は当然に労基法の労災給付の一部を労災保険法によつて代替しようとするときに適用されるものである。すなわち、相手方らは申立人らからの休業補償給付の支給申請を受理したときはとくに支給打切とか症状固定の事実がない限り必ず毎月一回右の給付をおこなわなければならない。そこには相手方らの支給についての裁量はない。 本件差止処分の効力が停止されれば相手方らは前記の期限付で支給をしなければならないという法的拘束状態に置かれ 毎月一回右の給付をおこなわなければならない。そこには相手方らの支給についての裁量はない。 本件差止処分の効力が停止されれば相手方らは前記の期限付で支給をしなければならないという法的拘束状態に置かれるとする所以である。 (六) 以上にみてきたところからも明らかなように、仮に相手方らがいうように、本件差止処分と支給の未決定とが分ち難く結びついており、右差止処分が執行停止されても支給決定がない状態が作出されるだけで申立人らに直接役立つことにはならない(昭和五三年一二月六日付意見書第一参照)という前提に立つても、申立人らから休業補償給付等の支給申請が提出され相手方らがそれらを受理している状態が続いている限り、本件差止処分の効力が裁判所によつて執行停止の決定がなされたとき、すなわち本件差止処分が存在しない(原決定三参照)こととなつたときは、当該差止処分と分ち難く結びついている支給の未決定自身にも執行停止決定の効力が及び、相手方らは支給決定すべき法的拘束状態に置かれることになるのである。 このことは申立人らの法的立場からいえば、まさに原決定のいう「支給決定を受けうることがほぼ確実な状態」になることを明白に示すものである。 三申立人らは本件執行停止の申立が認容されれば、少なくとも直ちに支給または不支給いずれかの決定を受けうる法的状況になる。 (一) 原決定は本件執行停止の申立が認容されても直ちに支給または不支給いずれかの決定を受けうる法的状況にならないと判断した。 申立人らが支給決定を受けうることが確実な状態になることはすでにこれまで明らかにしてきたが、原決定が言う如く直ちに何らかの決定を受けうる状況になることは論を俟たない。なぜなら、既に述べたように、適法な請求に対しては毎月一回以上支給しなければならないのであるから、少なくとも本件においては適法 決定が言う如く直ちに何らかの決定を受けうる状況になることは論を俟たない。なぜなら、既に述べたように、適法な請求に対しては毎月一回以上支給しなければならないのであるから、少なくとも本件においては適法な請求がされ、一カ月以上経過しているのであるから、本件執行停止の申立が認容されれば相手方らは直ちに支給または不支給いずれかの決定をしなければならないからである。 (二) この点は学説においても「一般的に、有効な申請状態に復し行政庁が欲すればあらためて執行停止決定の趣旨をも考えた許否決定がなされうるという法的期待が生ずることをもつて、保全法益とみなしうるとも解される」(e・行政争訟法三四〇頁)とされている。 第三回復困難な損害を避けるための緊急の必要性について一本件休業補償給付一時差止処分によつて、申立人らは生活の糧を失い、生活苦にあえいでいる。 健康な人間でも生活の糧を失うということは生活の破壊につながる。ましてや申立人らは労働災害によつて健康を損われた患者である。申立人らには療養を満足にできる条件こそが必要である。しかし、本件差し止めにより食生活の切り詰めによる体力の衰え、治療の断念や減少(体操や水泳は頸肩腕障害である申立人らに有効であるが療養給付の対象と認められていないため従来はこれらの費用は本来生活費として支給されている休業補償給付でまかなつていたのである。また、労災指定病院での治療でない場合は治療の現物給付が受けられないため、従来は休業補償給付で一時の立替払をしていた)等により療養面で蒙る(蒙つた)損害は甚大である。 精神面での圧迫も健康人のそれよりも大きいことは言うまでもない。 休業補償給付の不支給状態は昭和五三年七月より現在まで九カ月に及んでおり、一刻の猶予もならない状態である。申立人らは罹病した頸肩腕障害の治療方法の解明が 人のそれよりも大きいことは言うまでもない。 休業補償給付の不支給状態は昭和五三年七月より現在まで九カ月に及んでおり、一刻の猶予もならない状態である。申立人らは罹病した頸肩腕障害の治療方法の解明が遅れたこと、治療方法としてリハビリ出社が有効であることが解明されてからも使用者の拒否的態度のため満足な治療ができないために比較的長期の療養を余儀なくされてきたものであつて、その間の経済的な圧迫を中心として種々の圧迫の蓄積の上に本件の差止めがなされたものであり、健康人が平穏に暮してきた場合とその基盤が全く異なるものである。 その損害は家族を含めた全生活に及ぶものである。以下、申立人別に具体的に述べる。 二① a(昭和一二年七月一〇日生、四一歳)昭和四八年一月一九日に頸肩腕障害のため休業加療に入り、同五一年一〇月下旬以来使用者の拒否的態度の下でリハビリ出社をしながら現在も治療継続中。 同居家族は夫と義妹の三人暮し。 夫は心臓病を一〇年来わずらつており、通常の勤務ができず給与は平均すると月額約一〇万円位にしかならない。義妹は精薄者で訓練施設で働いてはいるが、生活費は夫と申立人で負担せねばならず、日常的に生活が苦しい。 その上に、本件差止めがなされたため、冬を迎えて衣類の買換えや夜具の手入れさえできない。療養費および交通費の一時の立替すらできず必要な治療を控えている。そのうえ、食生活も切り詰めるためにせつかく回復にむかつていた体調がくずれ、昭和五四年一月には二週間も寝込み、病身の夫に家事を負担させる程となつた。経済的には、本年に入りとうとう底をつき、姉や患者会から月々五万円の借入れをするに至つている。また、使用者は申立人が行政に従わないことを不満として態度を硬化させ、リハビリに不適な仕事を強制したため症状は悪化している。 ② f(昭和一六 姉や患者会から月々五万円の借入れをするに至つている。また、使用者は申立人が行政に従わないことを不満として態度を硬化させ、リハビリに不適な仕事を強制したため症状は悪化している。 ② f(昭和一六年三月四日生、三八歳)昭和四五年三月頸肩腕障害のため休業加療に入り、昭和五〇年六月一たんはリハビリ出社をしたが会社の拒否的態度のため昭和五二年二月から再休業を余儀なくされ、現在も休業加療中。 同居の家族は夫・長男(小一)・長女(小三)・父・母の六人暮し。 治療(リハビリ出社を含む)をする体制をとるためには家事を母にしてもらう方法以外になく、その母は昭和五二年七月以来、身体障害者(一級)の父が他の病気を併発し、付きつきりの世話もしなければならない状況下で昭和五三年三月に六人が同居できる新居を必要性にかられて無理をして購入し、生活を切りつめて月々二万円の銀行ローンの返済をしていた。 その上に本件差止めがなされたため唯一の収入源は夫の給料月約一五万円だけとなり、家族の食事すら賄えない状態となつている。子供は成長期にあるため食事の節約による兄弟げんかをしたり、体力の低下のため風邪をよくひくようになつた。 また、衣類も小さくなり、いたみがはげしく買替えの必要性があつてもとうてい手が届かない。衣類のすり切れたのを恥しさのために手で隠す子供を思う時、申立人の心は痛む。 子供にさえ切り詰めた生活を強いる程であるので、申立人が患者として必要な治療を削り、体力をつける食事を減らしていることは言うまでもない。 ③ g(昭和一六年一一月二三日生、三七歳)昭和四七年二月頸肩腕障害のため休業加療に入り、リハビリ出社を使用者に求めるも拒否され、現在も休業加療中である。 同居の家族は夫・長男九歳・次男六歳の四人暮し。 夫の給料(月額平均一六万円)だけで生活してき 二月頸肩腕障害のため休業加療に入り、リハビリ出社を使用者に求めるも拒否され、現在も休業加療中である。 同居の家族は夫・長男九歳・次男六歳の四人暮し。 夫の給料(月額平均一六万円)だけで生活してきた。なぜなら、申立人の休業補償はほとんど治療費と治療に伴う雑費で消えていた。即ち、申立人には温水プール(月六、〇〇〇円)と個人カルテに従つた体操(月一万二、〇〇〇円)で治療効果があがつてきたものであるが、これらは療養費として給付されないため自己負担をしてきた。 しかし、本件差止めがなされたため、体操治療を断念した。 ④ b(昭和二三年二月一八日生、三一歳)昭和五〇年九月二二日、トラツク運転中交通事故でむち打ち症となり、休業加療に入り、昭和五三年使用者の拒否的態度の下でリハビリ出社に入るも本件差止め後そのために受けた種々の負担により、急性肝炎となり、昭和五三年一二月二二日より入院生活を余儀なくされ、五四年三月八日に退院し、現在休業加療中。 同居の家族は妻・長男四歳・次男三歳の四人暮し。 申立人が労災で休業の止むなきに至つたため、妻は昭和五〇年一〇月頃から乳呑児をかかえて仕事に出るようになつた。しかし妻の給与は月八万三〇〇〇円であり、申立人の休業補償をあわせてかろうじて生活できる状態であつた。 この上に本件差止めがなされたため収入源は妻の給与と申立人のリハビリ勤務の時間給四〇〇円(一日四時間)だけとなつた(ただし、申立人の給与も保険等の差引きで手取りは月二万円余)。 そのため食生活や真冬の暖房を切詰めざるを得ず、妻は過労で通院をするようになり、申立人自身もついに倒れ、リハビリ出社の給与もゼロとなり、ますます苦しくなつている。 ⑤ h(昭和二一年六月一三日生、三二歳)昭和四五年三月頸肩腕障害のため休業加療に入り、昭和五〇年以来一貫し 申立人自身もついに倒れ、リハビリ出社の給与もゼロとなり、ますます苦しくなつている。 ⑤ h(昭和二一年六月一三日生、三二歳)昭和四五年三月頸肩腕障害のため休業加療に入り、昭和五〇年以来一貫してリハビリ出社を使用者に申請するも拒否されたため、現在も休業加療中。 同居の家族は父・母・弟二人・祖母の六人暮し、父は定年退職後の再就職のため月額給与は一八万円にすぎず、一人の弟は脳性マヒの障害者であるため、申立人は従来から生活費および療養費の立替を父に頼ることができなかつた。そのため本件差止め後は申立人は自己の結婚資金として蓄えていたわずかの預金を喰いつぶしている。また種々の負担により、昭和五四年一月末以来、せつかく快復にむかつていた体調をくずし約一カ月寝込むに至つた。 ⑥ i(昭和一八年七月一日生、三五歳)昭和四二年九月に頸肩腕障害のため休業加療に入り、昭和四四年九月当時私病扱いであつたため(昭和四八年三月労災認定)完治しないまま職場復帰をしたが、昭和四五年一〇月症状が悪化したため再休業に入り、昭和五〇年五月二〇日以来、使用者の拒否的態度の下でリハビリ出社しながら加療継続中。 同居の家族無し。 私病扱いが長期に続いた上、昭和五〇年一〇月以来使用者から支給されていた夏冬のボーナスも打ち切られているため、将来のことを考え、生活を極度に切り詰めながら暮してきた。 この上に本件差止めがなされ唯一の収入源が断たれたため、わずかの蓄えを喰いつぶしている。 ⑦ d(昭和二二年六月二七日生、三一歳)昭和五〇年一一月二〇日に、頸肩腕障害のため休業加療に入り、昭和五一年五月以来リハビリ出勤に入り、現在も加療継続中。 同居の家族は夫と長男(二歳)の三人暮し。 子供の保育料だけでも月三万五、三〇〇円もかかるため、夫の給料(月一二万九〇〇〇円) 療に入り、昭和五一年五月以来リハビリ出勤に入り、現在も加療継続中。 同居の家族は夫と長男(二歳)の三人暮し。 子供の保育料だけでも月三万五、三〇〇円もかかるため、夫の給料(月一二万九〇〇〇円)と申立人の休業補償とで切り詰めながらやりくりしてきた。 この上に本件差し止めがされたため食事をますます切り詰めなければならなくなつた。そのため申立人ばかりでなく唯一の家計の柱となつた夫まで体調をくずし風邪をよくひくようになつた(以上詳細は疎甲第二二号証の一ないし二七号証の一および二九号証の一、五五、五六、五七号証の報告書のとおり)。 三以上、生活の基本たる生活費である休業補償の差止めの処分および執行停止のみが申立人の回復の困難な損害を避ける唯一の方法であることは明白である。

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