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主文 1 被告は,原告Aに対し1964万7123円,原告B及び同Cに対し,それぞれ917万3561円並びにこれらに対する平成9年4月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 原告らのその余の請求を棄却する。3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。4 この判決は,原告ら勝訴部分に限り,仮に執行することができる。ただし,被告が,原告Aにつき1400万円,原告B及び同Cにつきそれぞれ700万円の担保を供するときは,それぞれその仮執行を免れることができる。事実及び理由 第1 請求被告は,原告Aに対し2500万円,同B及び同Cに対しそれぞれ1150万円並びにこれらに対する平成9年4月24日(D死亡の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要 1 本件事案の骨子本件は,被告が開設する松江赤十字病院(以下「本件病院」という。)において,狭心症の治療のために経皮的冠動脈形成術(以下単に「PTCA」という。)を受け,術後死亡するに至った患者の遺族らが,債務不履行(民法415条)ないし不法行為(使用者責任・民法715 条)に基づき,被告に対して損害賠償金及び患者死亡の日からの遅延損害金の支払を求めた事案である。2 争いがない事実等(1) 原告Aは,亡D(以下「D」という。)の夫であり,原告B,同Cは,Dの子である。(2) 被告は,本件病院を開設している医療法人であり,E医師,F医師は,それぞれ本件病院において主にDの診療に当たり,PTCAを施術した医師である。(3) Dは,平成9年4月21日,狭心症を疑われて本件病院に 設している医療法人であり,E医師,F医師は,それぞれ本件病院において主にDの診療に当たり,PTCAを施術した医師である。(3) Dは,平成9年4月21日,狭心症を疑われて本件病院に検査入院し,翌22日に,心臓カテーテル検査(血管内にカテーテルを挿入し,造影剤による冠動脈の像を得ること等を目的とする検査)の結果,右冠動脈には完全閉塞が,左冠動脈の前下行枝及び旋回枝にはそれぞれ狭窄のあることが判明した(乙1,15,証人E)(4) Dは,同月23日午後3時ころ,上記冠動脈病変の治療のためにF医師を執刀者として右冠動脈のPTCAを受けたが,PTCAは午後 3時30分ころ中止された(乙1,15,証人E)。 ,心臓カテーテル検査(血管内にカテーテルを挿入し,造影剤による冠動脈の像を得ること等を目的とする検査)の結果,右冠動脈には完全閉塞が,左冠動脈の前下行枝及び旋回枝にはそれぞれ狭窄のあることが判明した(乙1,15,証人E)(4) Dは,同月23日午後3時ころ,上記冠動脈病変の治療のためにF医師を執刀者として右冠動脈のPTCAを受けたが,PTCAは午後 3時30分ころ中止された(乙1,15,証人E)。Dは,PTCA施術中,あるいはその術後にE医師らに腰背部の激痛を訴えるに至った(乙1,15,証人E)(ただし,Dがいつの時点で腰背部痛を訴えたかという点については争いがある。)。(5) そこで,E医師らは,腹部CT検査,腹部エコー検査を実施し,これらの所見から腰背部痛の原因を尿漏れによるものと判断し,Dに対して経過観察を続けたが,Dは,翌24日午後3時40分ころ,血圧触知不良,自発呼吸がほとんどみられない状態に陥り,同日午後 5時ころ死亡した(乙1,15,証人E)。(6) 病理解剖の結果,Dの腎臓部には尿漏れを裏付ける腎盂損傷は認められず,右腎被膜と筋膜との間の脂肪層に右腎臓を包み込む形で血腫が形成されていることが確認された(乙1,16,25)。(7) PTCAとは,大腿動脈,上腕動脈の血管から針金状のガイドワイヤー,ガイドカテーテルを挿入してこれらを心臓部に到達させた後, ガイドワイヤーを病変部に通過させ,更にガイドカテー (7) PTCAとは,大腿動脈,上腕動脈の血管から針金状のガイドワイヤー,ガイドカテーテルを挿入してこれらを心臓部に到達させた後, ガイドワイヤーを病変部に通過させ,更にガイドカテーテル中のバルーン(風船)ワイヤーを病変部に通過させこのバルーンにより冠動脈の動脈硬化性狭窄を拡張する術式をいう。この術式は,大伏在静脈や内胸動脈等を用いて冠動脈狭窄部にバイパスを造る外科的血行再建術(冠動脈バイパス術,以下単に「バイパス術」という。)とともに,狭心症の外科的治療法の一つに挙げられる(甲6ないし8)。3 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 右腎周囲の出血原因(原告らの主張)右腎周囲の出血は,F医師がPTCAの施術の際に,ガイドワイヤーを腎門部から腎実質内の極小さな血管に迷入させ,腎被膜直近でこの血管を破たんさせたことによる。(被告の主張)右腎周囲の出血は,非外傷性腎被膜周囲血腫が突発的に発生したことによるものである。 いう。)とともに,狭心症の外科的治療法の一つに挙げられる(甲6ないし8)。3 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 右腎周囲の出血原因(原告らの主張)右腎周囲の出血は,F医師がPTCAの施術の際に,ガイドワイヤーを腎門部から腎実質内の極小さな血管に迷入させ,腎被膜直近でこの血管を破たんさせたことによる。(被告の主張)右腎周囲の出血は,非外傷性腎被膜周囲血腫が突発的に発生したことによるものである。その原因としては,学術上は腎梗塞,水腎症,腎盂腎炎,腎癌,糖尿病が考えられるとされるが,Dがかかる疾患に至った原因は不明である。原告らは,上記出血の原因をガイドワイヤーによる腎実質内の血管破たんに求めるが,かかる症例報告は過去に一例もなく,本件PT CAも複数の医師,放射線技師が右鼠蹊部から心臓部までガイドワイヤーを連続的に透視下で監視していたのであるから,ガイドワイヤーが腎実質内の血管に迷入することはあり得ない。また,仮に原告らの主張を前提にしても,血腫が腎被膜と筋膜の間の脂肪層に形成されていることからすれば,ガイドワイヤーの先端部分が腎実質及び腎被膜を突き抜けて脂肪層に達したと考え あり得ない。また,仮に原告らの主張を前提にしても,血腫が腎被膜と筋膜の間の脂肪層に形成されていることからすれば,ガイドワイヤーの先端部分が腎実質及び腎被膜を突き抜けて脂肪層に達したと考える他ないが,ガイドワイヤーは腎実質や腎被膜を損傷するに足る強度を備えていないから原告らの主張は失当である。(2) 過失ないし説明義務違反の有無ア術式選択を誤った過失(原告らの主張)Dの冠動脈は,三枝いずれもに病変があり,かつ,右冠動脈の完全閉塞部分は12ミリメートルと長く,その先端に閉塞期間が長期であることをうかがわせる順行性側路血行路(閉塞された血管の血流を助けるために別個の冠動脈間で形成されるバイパス)がみられた。かかる症例にPTCAを施術すると合併症の危険が高くなるため,E医師らはDに対しては薬物治療かバイパス術を選択するべきであったのにもかかわらず,PTCAを選択したことは誤りである。その上,Dのり患していた狭心症は,安定狭心症で緊急に外科的手術を要するものでなかったから,仮にPTCAを選択するにせよ,医師にはあらかじめ大動脈,頸動脈,脳血管の性状及び脳血流障害の有無等を確認して薬物治療の可能性やバイパス術の可能性を検討した上で慎重にPTCAを選択する義務があった。 師らはDに対しては薬物治療かバイパス術を選択するべきであったのにもかかわらず,PTCAを選択したことは誤りである。その上,Dのり患していた狭心症は,安定狭心症で緊急に外科的手術を要するものでなかったから,仮にPTCAを選択するにせよ,医師にはあらかじめ大動脈,頸動脈,脳血管の性状及び脳血流障害の有無等を確認して薬物治療の可能性やバイパス術の可能性を検討した上で慎重にPTCAを選択する義務があった。しかるに,E医師は何らこれらの検討を経ることなく拙速にもPTCAを実施した。(被告の主張)Dは心カテーテル検査の結果,無症状のうちに心筋梗塞を起こしていたことが判明したが,このように無症状のうちに心筋梗塞が起きた場合には突然死につながる危険性が高いため,Dに対して薬物治療によって経過観察を行うことは適切ではなかった。また,バイパス術 とが判明したが,このように無症状のうちに心筋梗塞が起きた場合には突然死につながる危険性が高いため,Dに対して薬物治療によって経過観察を行うことは適切ではなかった。また,バイパス術は開胸の上心臓を一時停止させるため,手術侵襲の程度もPTCAのそれよりも大きい上,手術による死亡率そのものもPTCAと比べても約2パーセントと高く,患者の全身の動脈硬化が強い場合には脳や他の臓器に障害が生じることもある。確かに,三枝疾患一枝完全閉塞症例や,冠動脈閉塞期間が1年以上にもわたる症例に対するPTCAの成功率は相対的に低くなるが,近年は画像機器,ガイドワイヤー,バルーン等の改良,術者の経験の蓄積により,成功率が著しく上昇しており,術者の技術や合併症に備えて緊急の手術に対応できる施設があれば,かかる症例にPTCAを施術することは何ら問題はない。その上,Dの場合は, 狭心症の自覚症状がなかったために閉塞期間を推定することができなかっただけであったから,閉塞期間を理由にPTCAの施術を断念する根拠はなおさらなかった。また,Dに対するPTCAが禁忌とされていない以上は,医師には,大動脈,頸動脈等の性状や脳血流障害の有無を確認して,薬物治療,バイパス術の可能性を検討する義務などなく,この点の原告らの主張も失当である。イ説明義務違反(原告らの主張)Dの症例は,一般的にはPTCAの適応ではなく,かつ,Dにはその狭心症の病状に照らしてもPTCAを緊急に施術する必要性もなかったのであるから,医師にはPTCAを実施するにあたって,PTCAにおけるリスクファクターはもとより,Dの症例では一般的にバイパス術が適応とされPTCAは禁忌とさ 薬物治療,バイパス術の可能性を検討する義務などなく,この点の原告らの主張も失当である。イ説明義務違反(原告らの主張)Dの症例は,一般的にはPTCAの適応ではなく,かつ,Dにはその狭心症の病状に照らしてもPTCAを緊急に施術する必要性もなかったのであるから,医師にはPTCAを実施するにあたって,PTCAにおけるリスクファクターはもとより,Dの症例では一般的にバイパス術が適応とされPTCAは禁忌とさ する必要性もなかったのであるから,医師にはPTCAを実施するにあたって,PTCAにおけるリスクファクターはもとより,Dの症例では一般的にバイパス術が適応とされPTCAは禁忌とされていることを十分に説明する義務がある。しかるに,E医師は,Dに対してPTCA以外の治療の可能性やPTCAのリスクファクターを説明することなく,「直ちにPTCAをしなければ助からない。とにかく任せてもらえば心配は不要である。」と楽観的な観測のみを断定的に申し向け,説明義務を怠った。(被告の主張)E医師は,心カテーテル検査後に,D,原告Aらに対して,カテーテル検査の結果を撮影したシネフィルムや心臓の模型図を示しながら,PTCA及びバイパス術の概略をそれぞれ説明した上で,バイパス術には開胸後心臓を一時停止させるため,全身の動脈硬化が強い患者には術後に脳や他の臓器に障害が出る可能性があること,PTCAを実施する場合,閉塞期間が長期に及ぶとガイドワイヤーが閉塞部を通過しないこともあること,バルーン(風船)で動脈硬化を押しつぶす際に100分の1位の割合で冠動脈破裂が起き,この場合は緊急の外科的手術が必要となること,PTCAが成功しなければバイパス術しか治療方法が残されていないことを説明したところ,D らは,原告Aが過去にPTCA及びバイパス術を受けていたこともあって,両者の術式やそのリスクファクターについて十分に理解を示し,自らPTCAを行うことを希望したのである。ウガイドワイヤーによって腎実質を損傷させた過失(原告らの主張)PTCAの施術においてはガイドワイヤーが細い血管に迷入することがあることから,医師には,PTCA施術の際に, ウガイドワイヤーによって腎実質を損傷させた過失(原告らの主張)PTCAの施術においてはガイドワイヤーが細い血管に迷入することがあることから,医師には,PTCA施術の際に,ガイドワイヤーを透視下で注意深く進め,ガイドワイヤーの先端が何かに当たった時点で強く押し進めることのない様に注意する義務がある。 の施術においてはガイドワイヤーが細い血管に迷入することがあることから,医師には,PTCA施術の際に, ウガイドワイヤーによって腎実質を損傷させた過失(原告らの主張)PTCAの施術においてはガイドワイヤーが細い血管に迷入することがあることから,医師には,PTCA施術の際に,ガイドワイヤーを透視下で注意深く進め,ガイドワイヤーの先端が何かに当たった時点で強く押し進めることのない様に注意する義務がある。しかるに, F医師らは,本件PTCA施術の際,日常的なカテーテル操作に慣れ,モニターを見ないでガイドワイヤーを進めていったため,ガイドワイヤーを右腎実質の血管に迷入させ,血管を破たんさせた。(被告の主張)Dの右腎周囲の出血原因はガイドワイヤーを腎実質の血管に迷入させたことによるものではないから,そもそも原告らの主張は前提を欠く。現にDに対する本件PTCA施術の際にも,複数の医師,放射線技師が右鼠蹊部から心臓部までガイドワイヤーを連続的に透視下で監視していた。エ腎周囲出血を見落とした過失(原告らの主張)患者がPTCA施術中に腰背部痛を訴えた場合,その原因としてはガイドワイヤー,カテーテル等による血管損傷及び血栓,アテローム等の閉塞が疑われる。したがって,医師には出血を疑って,血管造影検査,腹部エコー検査,CT検査等の検査を実施して腰背部痛の原因を解明する義務がある。しかるに,E医師らは,いったんはPTCA施術時の出血を疑い,CT検査,腹部エコー検査で腎周囲に滲出液があることを発見していながら,これを尿漏れによる尿であると誤診して,そのため出血を念頭においた血液検査等を行うことを怠たり,腎周囲出血の事実を見落とした。(被告の主張)E医師らは,CT検査の結果,Dの腎周囲 による尿であると誤診して,そのため出血を念頭においた血液検査等を行うことを怠たり,腎周囲出血の事実を見落とした。(被告の主張)E医師らは,CT検査の結果,Dの腎周囲腔にみられた滲出液のCT値(70ないし80)が造影剤による濃染前の尿と濃染後の尿が混合したものと考えれば十分に説明できる値であったため,CT検査,腹部エコー検査においてみられた滲出液を尿漏れによる尿であると判断したもので,これは当時の判断としては合理的なものである。確かに,事後的にみればCT検査,腹部エコー検査においてみられた滲出液は血液であったと考えざるを得ないが,これは極めて特異な症例の一つとされる非外傷性腎周囲血腫が突発的に発症したことによるもので,E医師らがかかる症例を念頭においてDの出血を疑い,血液検査等を行うことは不可能であった。 部エコー検査においてみられた滲出液を尿漏れによる尿であると判断したもので,これは当時の判断としては合理的なものである。確かに,事後的にみればCT検査,腹部エコー検査においてみられた滲出液は血液であったと考えざるを得ないが,これは極めて特異な症例の一つとされる非外傷性腎周囲血腫が突発的に発症したことによるもので,E医師らがかかる症例を念頭においてDの出血を疑い,血液検査等を行うことは不可能であった。(3) Dの死亡との因果関係(原告らの主張)Dは,ガイドワイヤーによる腎実質内の血管破たんの後,PTCA時に用いられたヘパリン(血液凝固抑制剤)の影響もあって大量の血液を流出させ,極度の脱水症状であったことも相まって,失血性ショックを起こして死亡したものである。したがって,F医師がガイドワイヤーで誤って腎実質内の血管を破たんさせた過失とDの死亡との間に因果関係があることは明らかである。さらに,腎実質出血後,E医師らがCT検査,腹部エコー検査に加えて血液検査等の検査を行っておれば,Dの腎周囲の滲出液が尿漏れによる尿ではなく血液であるとの確定診断が可能であり,Dは輸血や輸液治療,更には腎臓摘出等の止血措置により,その死亡した4 月24日午後5時の時点でなおも生存していた蓋然性が高いから,腎周囲出血を見落とした過失と であるとの確定診断が可能であり,Dは輸血や輸液治療,更には腎臓摘出等の止血措置により,その死亡した4 月24日午後5時の時点でなおも生存していた蓋然性が高いから,腎周囲出血を見落とした過失とDの死亡との間にも相当因果関係がある。(被告の主張)確かにDの右腎周囲には出血がみられたが,その出血量は致命傷に至るほど大量ではない。Dの直接の死因は急性心筋梗塞である。(4) 損害額(原告らの主張)ア逸失利益 1600万円なお,原告Aはその2分の1(800万円)を,原告B,同Cは4分の1(400万円)をそれぞれ相続した。イ慰謝料 2400万円(ア) 原告 A 1200万円(イ) 原告 B 600万円(ウ) 原告 C 600万円ウ葬祭費用 200万円(原告A)エ弁護士費用 600万円(ア) 原告 A 300万円(イ) 原告 B 150万円(ウ) 原告 C 150万円オ合計 4800万円(ア) 原告 A 2500万円(イ) 原告 B 1150万円(ウ) 原告 C 1150万円(被告の主張)不知ないし争う。 続した。イ慰謝料 2400万円(ア) 原告 A 1200万円(イ) 原告 B 600万円(ウ) 原告 C 600万円ウ葬祭費用 200万円(原告A)エ弁護士費用 600万円(ア) 原告 A 300万円(イ) 原告 B 150万円(ウ) 原告 C 150万円オ合計 4800万円(ア) 原告 A 2500万円(イ) 原告 B 1150万円(ウ) 原告 C 1150万円(被告の主張)不知ないし争う。第3 当裁判所の判断 1 診療経過上記認定した事実のほか,証拠(甲1ないし3,13,14,乙1,10ないし21,25,鑑定人Gの鑑定の結果,証人G,同Eの各証言,原告 A本人尋問の結果)によれば,Dに対する診療経過は以下のとおりであると認められる。(1) Dは,本件病院の内科において糖尿病の治療を受けていたが の鑑定の結果,証人G,同Eの各証言,原告 A本人尋問の結果)によれば,Dに対する診療経過は以下のとおりであると認められる。(1) Dは,本件病院の内科において糖尿病の治療を受けていたが,平成9年3月ころ(以下においては,特に断らない限り「平成9年」のことである。),内科の医師から心電図,心エコー等の検査の結果,狭心症の変化が強く現れ,糖尿病の合併症として血管障害が起きている可能性が強いと指摘されて循環器科での受診を勧められ,4月8日,循環器科のE医師の診察を受けた(乙1,15,17,20,証人 E)。Dは,当時,胸部痛の自覚症状がなかったものの,E医師から冠動脈硬化症にり患している可能性が高い旨を説明され,近いうちに入院して心カテーテル検査等の精密検査を受けるように勧められたため,4月21日に本件病院に入院した(乙1,15,17,証人E)。(2) E医師は,4月21日にDに対して運動負荷心電図検査を行った後,D,原告Aから心カテーテル検査の承諾を得て,翌22日に心カテーテル検査を実施した(乙1,15,証人E)。心カテーテル検査の結果,右冠動脈には8ないし12ミリメートルにわたる完全閉塞が,左冠動脈には前下行枝,回旋枝のいずれの枝にも動脈硬化性の強い高度の狭窄が,更に左冠動脈から右冠動脈閉塞部の先端部に側副血行路がそれぞれ認められた。また,Dは無症状のうちに心臓の下壁に心筋梗塞を起こしていたことが判明した(乙1,10の2,11,12の1,2,13,15,16,19,21,25,証人 E)。 15,証人E)。心カテーテル検査の結果,右冠動脈には8ないし12ミリメートルにわたる完全閉塞が,左冠動脈には前下行枝,回旋枝のいずれの枝にも動脈硬化性の強い高度の狭窄が,更に左冠動脈から右冠動脈閉塞部の先端部に側副血行路がそれぞれ認められた。また,Dは無症状のうちに心臓の下壁に心筋梗塞を起こしていたことが判明した(乙1,10の2,11,12の1,2,13,15,16,19,21,25,証人 E)。(3) E医師は,上司であるF医師とも協議の上,Dに対して右冠動脈,左冠動脈の順にPTCAを試みた上で,PTCAが不成功に終わった場合はバ ,16,19,21,25,証人 E)。(3) E医師は,上司であるF医師とも協議の上,Dに対して右冠動脈,左冠動脈の順にPTCAを試みた上で,PTCAが不成功に終わった場合はバイパス術を行うこととし,22日夕方,D,原告A,原告Cに対して,心カテーテル検査の結果を撮影したシネフィルムや心臓の模型を示しながら,Dは重篤な狭心症にり患しており,その積極的な治療方法としてはPTCAかバイパス術しかない,バイパス術は全身麻酔下で開胸し心臓をいったん停止させて施術を行うので,術後に脳や臓器の障害が起こることがある,他方,PTCAは右冠動脈の完全閉塞の閉塞期間が長期にわたる場合はガイドワイヤーを閉塞部に通過させることができないため,治療を行うことはできないが,D の場合は施術してみないとガイドワイヤーが閉塞部を通過するか否か確定しない,仮にガイドワイヤーが閉塞部を通過した場合でも,ガイドワイヤーが冠動脈をせん孔する可能性や,バルーンで狭窄部を拡張する際に冠動脈破裂が100分の1の割合で生じる可能性がある,とりあえずは同月23日に右冠動脈で,成功した場合は同月24日に左冠動脈でそれぞれPTCAを施術するが,不成功の場合はバイパス術しか方法はない旨説明したところ,DらはPTCAを施術することに同意した(甲13,14,乙1,15,証人E,原告A本人)。(なお,原告Aは,説明の場ではE医師からPTCAのリスクファクターを教えられることなくDに対して有効な治療方法はPTCAしかない,とにかく任せてもらえれば心配は不要であるなどと楽観的観測のみを断定的に申し述べられたと供述するが,同原告は,他方でE医師から説明時にカテーテル,ガイドワイヤーが血管をせん孔する図 ,DらはPTCAを施術することに同意した(甲13,14,乙1,15,証人E,原告A本人)。(なお,原告Aは,説明の場ではE医師からPTCAのリスクファクターを教えられることなくDに対して有効な治療方法はPTCAしかない,とにかく任せてもらえれば心配は不要であるなどと楽観的観測のみを断定的に申し述べられたと供述するが,同原告は,他方でE医師から説明時にカテーテル,ガイドワイヤーが血管をせん孔する図 とにかく任せてもらえれば心配は不要であるなどと楽観的観測のみを断定的に申し述べられたと供述するが,同原告は,他方でE医師から説明時にカテーテル,ガイドワイヤーが血管をせん孔する図(乙1〔15丁〕)を示され,また,ガイドワイヤーが閉塞部を通過しない場合は6月にバイパス術を試みる旨の説明を受けていたとも供述している。その上,同原告は,当初はDの血管がもろいためにPTCAを行えば血管が破裂するおそれがあることを危ぐしてE医師に薬物治療を希望していたというのであるから(原告A本人),D,原告Aらは,PTCA以外の治療方法の可能性やバイパス術,PTCAのリスクファクター,PTCA施術の失敗の可能性を理解した上でPTCA施術に同意したと認めるのが相当であり,この点の原告Aの上記供述は採用できない。)(4) 同月23日午後3時ころ,Dに対してF医師を執刀者,E医師らを助手としてPTCAが施術された。F医師は,ヘパリン(血液凝固抑制剤),ニトロール,ポタコールRを静脈注射後,右鼠蹊部からガイドワイヤーを動脈に挿入してこれを心臓部にまで到達させ,ガイディングカテーテル(ブライトチップ)をガイドワイヤーに沿わせて右冠動脈に到達させた。次に,F医師は,当初用いたガイドワイヤーを抜いて,冠動脈にガイディングカテーテルを密着させた後,右鼠蹊部からガイディングカテーテル内に閉塞部を通過させるためのガイドワイヤー(チョイスフロッピー)を伝わせ,右冠動脈閉塞部の通過を試みたが通過不能であった。そこで,F医師らは,ガイドワイヤーをチョイスフロッピーから別のガイドワイヤー(アスリートソフト)に入れ換えて,再度閉塞部の通過を試みたが,血管解離(dissection・ガイドワ であった。そこで,F医師らは,ガイドワイヤーをチョイスフロッピーから別のガイドワイヤー(アスリートソフト)に入れ換えて,再度閉塞部の通過を試みたが,血管解離(dissection・ガイドワイヤーが血管の膜の間に入って真の腔に進まない状態)に至ったため治療困難と判定し,午後3時33分ころPTCA施術を中止した(乙 1,10の1,15,16,19,21,25,証人E)。 dissection・ガイドワ であった。そこで,F医師らは,ガイドワイヤーをチョイスフロッピーから別のガイドワイヤー(アスリートソフト)に入れ換えて,再度閉塞部の通過を試みたが,血管解離(dissection・ガイドワイヤーが血管の膜の間に入って真の腔に進まない状態)に至ったため治療困難と判定し,午後3時33分ころPTCA施術を中止した(乙 1,10の1,15,16,19,21,25,証人E)。(5) E医師らは,Dを止血室に移動して右鼠蹊部に残ったシースを除去し,指圧迫により止血を行ったが,Dはそのころ突然右腰背部の激しい痛みを訴えた。E医師は,DがPTCA施術中から痛みを感じていたのではないかと推測し,内出血,皮下大腿血管周囲の皮下血腫を疑って,右鼠蹊部の止血部を中心に視診で内出血の有無を確認したが,内出血を確認することができなかった(乙1,15,証人 E)。(なお,原告らは,DはPTCA施術中から既に右腰背部痛を訴えていたと指摘し,確かにDのカルテにはPTCA施術中から右腰背部痛を訴えていたように解釈できる記載もある(乙1〔18丁,58丁〕)。しかし,他方で同じカルテには「PTCA中から痛みを感じていた?」と疑問符が付された記載(乙1〔2丁〕)も見受けられることからすれば,むしろ,上記カルテの記載は,E医師がPTCA施術中から右腰背部痛があったのではないかと推測した結果を記載したものにすぎないと認めるのが相当であり(証人E),この点に関する原告らの指摘は採用できない。)(6) E医師らは,体内における内出血を確認するため,同日午後3時58分ころ,腰部から腹部にかけてCT検査を行ったところ,せん刺部周囲の皮下血腫,内出血は認められなかったものの,右腎周囲腔にC ) E医師らは,体内における内出血を確認するため,同日午後3時58分ころ,腰部から腹部にかけてCT検査を行ったところ,せん刺部周囲の皮下血腫,内出血は認められなかったものの,右腎周囲腔にCT値70ないし80のやや密度(density)の高い液(fluid)を認めた。さらに,E医師らは,同日午後4時49分ころ,腹部エコー検査を実施し,腎臓の周囲に少量の滲出液(effusion)を認めた(乙1,1 5,18,証人E)。(7) E医師は,上記CT検査,腹部エコー検査の結果をもとに,放射線科の医師,泌尿器科の医師,消化器内科の医師と協議し,右腎周囲腔の液のCT値(70ないし80)が尿に造影剤が混入したものであるとすれば説明がつくことや,泌尿器科の医師から右腎盂が破裂しているとの指摘が出されたことから,腎周囲腔にみられた液は尿の排水障害により腎臓から漏れ出た尿であると特定し,腰背部痛の原因を尿漏れによるものであると診断した(乙1,15,18,証人E)。 エコー検査の結果をもとに,放射線科の医師,泌尿器科の医師,消化器内科の医師と協議し,右腎周囲腔の液のCT値(70ないし80)が尿に造影剤が混入したものであるとすれば説明がつくことや,泌尿器科の医師から右腎盂が破裂しているとの指摘が出されたことから,腎周囲腔にみられた液は尿の排水障害により腎臓から漏れ出た尿であると特定し,腰背部痛の原因を尿漏れによるものであると診断した(乙1,15,18,証人E)。(8) そこで,E医師は,尿の通過障害を改善させるために,Dの尿路にカテーテルを挿入し,併せて鎮痛剤(ソセゴン・ボルタレン),造影剤によるおう気止めの薬剤(プリンペラン)等を投与しながら経過観察を続けることにした。また,その際,E医師は,消化器内科の医師から,尿漏れの場合は肝機能に異常を来すことがあるから念のため血液検査を行うよう勧められ,翌朝血液検査を行うよう指示した(乙 1,15,証人E)。(9) Dは,翌24日午前にも右腰背部の疼痛とおう気,食欲不振を訴えていたが,E医師が午前8時ころ応診した際には,腰背部痛の痛みが半分位に軽減したと申し向けた(乙1,15,証人E)。なお,Dに対しては午 にも右腰背部の疼痛とおう気,食欲不振を訴えていたが,E医師が午前8時ころ応診した際には,腰背部痛の痛みが半分位に軽減したと申し向けた(乙1,15,証人E)。なお,Dに対しては午前7時ころ,E医師の前日の指示に基づき血液検査が実施され,その結果,ヘモグロビン値が前日の10.2から 7.9に,ヘマトクリット値が30.7から23.3に減少しており,明らかに貧血が疑われる所見であったが,E医師は血液検査の結果が病棟にファクシミリ送信された後も,結果内容を確認しなかった(乙1,15,鑑定の結果,証人G,同E)。(10)Dは,原告Cらが同月24日午後2時ころ訪れた時点でも,会話が可能な状態であったが,午後3時44分ころ突然容態が悪化し,E医師らが駆けつけた時点では,既に血圧触知不良,自発呼吸もほとんどみられない状態となっていた(甲14,乙1,15,鑑定の結果,証人E)。(11)E医師らは,直ちに心臓マッサージを行いながら,DをICUに搬入して気管内挿管,強心剤(カテコラミン)投与等の救命措置を試みたが,心臓は反応せず,瞳孔が散大し,対光反射もなく経過したため,E医師は午後5時にDの死亡を告知した(乙1,15,証人E)。 が悪化し,E医師らが駆けつけた時点では,既に血圧触知不良,自発呼吸もほとんどみられない状態となっていた(甲14,乙1,15,鑑定の結果,証人E)。(11)E医師らは,直ちに心臓マッサージを行いながら,DをICUに搬入して気管内挿管,強心剤(カテコラミン)投与等の救命措置を試みたが,心臓は反応せず,瞳孔が散大し,対光反射もなく経過したため,E医師は午後5時にDの死亡を告知した(乙1,15,証人E)。なお,ICU搬送時にDに対して実施された血液検査の結果,ヘモグロビン値は6. 3,ヘマトクリット値は19.4であった(乙1)。(12)病理解剖の結果,腎門部から腎実質に連なる動脈・静脈枝には破たん部はなかったが,右腎臓の腎周囲全体に腎臓を包み込む形で410グラムもの著明な血腫がみられ,出血が腸管膜根部から横隔膜腹腔面,右側大腰筋部,腹腔内にも及び,部分的には右腎実質内に連続性に波及し,皮質部に小斑状の出血巣として,左腎臓に で410グラムもの著明な血腫がみられ,出血が腸管膜根部から横隔膜腹腔面,右側大腰筋部,腹腔内にも及び,部分的には右腎実質内に連続性に波及し,皮質部に小斑状の出血巣として,左腎臓においても下極の皮質部に小出血斑として存在していることが確認された。他方,尿漏れを裏付ける腎盂粘膜の異常や腎盂拡張・破裂は確認できなかったため,4月23日のCT検査,腹部エコー検査の際に右腎周囲腔にみられた液は尿漏れによる尿ではなく血液であることが判明した。さらに,心臓には心カテーテル検査により確認された心筋梗塞症(陳旧性心筋梗塞症)のほか,新たに急性心筋梗塞症が認められた(甲2,乙1,11ないし16,25,証人E)。2 争点(1)(右腎周囲の出血原因)について以上の診療経過をもとに,右腎周囲の出血原因について検討する。鑑定人G医師は,PTCA施術時にはガイドワイヤーが細い血管に迷入することがあること,ガイドワイヤーにはその芯にステンレススチールが使用されていることから,ガイドワイヤーによって血管,臓器が損傷されることがあること,DがPTCA施術直後において腎出血をうかがわせる腰背部痛を訴えていること,腰背部痛の愁訴直後に行われたCT検査,腹部エコー検査において右腎周囲腔にみられた滲出液は血液であること,病理解剖の結果腎臓皮質部に小血巣が確認されたことからすれば,右腎周囲の出血はPTCA施術時にガイドワイヤーが腎門部から右腎実質内の細い血管に迷入して腎被膜の付近で血管を破たんさせたことによるものであり,血管破たん後,出血量が徐々に増加するにつれて血液が腎被膜外にも及び,結果として脂肪層に腎臓周囲を包み込む形で血腫が形成されたものと推論している(鑑定の結果,証人G( みられた滲出液は血液であること,病理解剖の結果腎臓皮質部に小血巣が確認されたことからすれば,右腎周囲の出血はPTCA施術時にガイドワイヤーが腎門部から右腎実質内の細い血管に迷入して腎被膜の付近で血管を破たんさせたことによるものであり,血管破たん後,出血量が徐々に増加するにつれて血液が腎被膜外にも及び,結果として脂肪層に腎臓周囲を包み込む形で血腫が形成されたものと推論している(鑑定の結果,証人G( とによるものであり,血管破たん後,出血量が徐々に増加するにつれて血液が腎被膜外にも及び,結果として脂肪層に腎臓周囲を包み込む形で血腫が形成されたものと推論している(鑑定の結果,証人G(以下「証人G」という。))。他方,被告は,ガイドワイヤーによって腎実質が損傷されたのであれば,血腫が脂肪層に形成されている以上,ガイドワイヤーが腎被膜を突き破ったと考えざるを得ないが,ガイドワイヤーには腎被膜を突き破るだけの強度が備わっていないから,G医師の上記推論は根拠がないとして,右腎周囲の出血原因を原因不明の突発的な非外傷性腎周囲血腫によるものであると主張する。しかし,証拠(鑑定の結果,証人G)によれば,必ずしもガイドワイヤーが腎被膜を突き破らなくても,腎実質内の血管の破たんによって脂肪層に血腫が形成されることのあることが認められるのであるから,被告の指摘は前提を欠く。また,証拠(乙7ないし9,証人E)によれば,確かに医学文献上非外傷性腎周囲血腫によって突発的に腎周囲に出血が生じる症例が報告されていることが認められる。しかし, その症例は1955年から1991年の約36年間にわずか36例の報告があるのみで症例数が少ないこと,これらの医学文献によっても,非外傷性腎周囲血腫の発生機序,原因疾患は未だ解明されるに至っていないことがうかがえる。しかも,被告自身,Dにおいていかなる原因,機序から突発的な非外傷性腎周囲血腫の疾患を発症させたのか全く不明であるというのである。してみると,Dが,PTCA施術中ないしその直後に偶然,突発的に非外傷性腎周囲血腫を発症した可能性は極めて低いといわざるを得ず,さらに,本件証拠上他に右腎周囲の出血原因となり得る事情が全くうかがえないことをも併せ TCA施術中ないしその直後に偶然,突発的に非外傷性腎周囲血腫を発症した可能性は極めて低いといわざるを得ず,さらに,本件証拠上他に右腎周囲の出血原因となり得る事情が全くうかがえないことをも併せかんがみれば,右腎周囲の出血原因は,鑑定人G医師が推論するとおり,ガイドワイヤーによる腎実質内の血管損傷によるものと推認するのが相当である。 上他に右腎周囲の出血原因となり得る事情が全くうかがえないことをも併せ TCA施術中ないしその直後に偶然,突発的に非外傷性腎周囲血腫を発症した可能性は極めて低いといわざるを得ず,さらに,本件証拠上他に右腎周囲の出血原因となり得る事情が全くうかがえないことをも併せかんがみれば,右腎周囲の出血原因は,鑑定人G医師が推論するとおり,ガイドワイヤーによる腎実質内の血管損傷によるものと推認するのが相当である。したがって,この点の原告らの主張は理由がある。3 争点(2)(過失ないし説明義務違反の有無)について(1) 術式選択を誤った過失について証拠(甲6ないし8,鑑定の結果,証人G)によれば,PTCAは,バイパス術と比べ侵襲も少なく,死亡率もバイパス術の死亡率が1パーセントないし2パーセントに対して0.1パーセント程度に止まるが,他方,三枝疾患一枝病変閉塞の場合は,再閉塞のおそれも含めてその成功率は低くなり,アメリカ合衆国の学会(ACC・AHA)におけるガイドラインでも,かかる症例にはバイパス術を行う方が好ましいとされていることが認められる。もっとも,証拠(鑑定の結果,証人G)によれば,Dの場合は長期的予後を考えれば薬物治療によって病状の改善を期待することはできないが,Dの狭心症は三枝疾患一枝病変閉塞の症例で,右冠動脈,左前下行枝のいずれも病変長が長く右冠動脈の完全閉塞期間が推測できないことからすれば,PTCAを施術した場合には再狭窄に至る可能性が高いことが認められる。そうすると,本件においても,1回の施術のみで治療が可能であるバイパス術を選択し,あるいは,最終的にPTCAを選択するにせよバイパス術の可能性を念頭において,大動脈,頸動脈,脳血管の性状,脳血流障害の有無を確認した上で慎重にPTCAを選択する 能であるバイパス術を選択し,あるいは,最終的にPTCAを選択するにせよバイパス術の可能性を念頭において,大動脈,頸動脈,脳血管の性状,脳血流障害の有無を確認した上で慎重にPTCAを選択する方がより望ましかったとみる余地もありうる。しかし,他方,証拠(乙3,4,22ないし24,証人G)によれば,三枝疾患一枝病変閉塞の症例でも近年は術者の経験の蓄積や設備の向上によりPTCAの成功率が上昇していることが認められる。Dのような症例においてバイパス術,PTCAのいずれが適切であるかという点については,未だ医学上見解の一致もみられず,上記のガイドラインもPTCAを施術するについての標準的な指針を示したにすぎないというほかない(甲8)。 しかし,他方,証拠(乙3,4,22ないし24,証人G)によれば,三枝疾患一枝病変閉塞の症例でも近年は術者の経験の蓄積や設備の向上によりPTCAの成功率が上昇していることが認められる。Dのような症例においてバイパス術,PTCAのいずれが適切であるかという点については,未だ医学上見解の一致もみられず,上記のガイドラインもPTCAを施術するについての標準的な指針を示したにすぎないというほかない(甲8)。結局のところ,Dのような症例を有する患者に対してPTCA,バイパス術のいずれを選択するかは,当該医療機関の設備,術者の技術とを総合的に判断して決すべきものであり,既に認定したところから,本件においては,PTCAの選択を拒否しなければならない事情は見い出し難い。してみると,E医師らがPTCAを選択した点には何らの過失もないし,また,PTCAを選択した点に問題がない以上はE 医師らに,あらかじめ大動脈,頸動脈,脳血管の性状,脳血流障害の有無を確認した上でPTCAを選択する義務が課せられているものでもないというべきである。したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。(2) 説明義務違反について前記第3の1(診療経過)で認定したところによれば,E医師は,Dらに対して,治療方法の概要,PTCA,バイパス術各々のリスクファクターを説明した上で,Dらから,まずはPTCAを行う旨の同意を得ている。仮にE医師がこ で認定したところによれば,E医師は,Dらに対して,治療方法の概要,PTCA,バイパス術各々のリスクファクターを説明した上で,Dらから,まずはPTCAを行う旨の同意を得ている。仮にE医師がこの説明の中でDらに対して「心配は不要である。」などと楽観的観測を申し述べたとしても,患者の心理的負担を軽減するための合理的な言動というべきであるから,E医師の説明義務違反をいう原告らの主張は採用することができない。なお,原告らは,三枝疾患一枝完全閉塞の症例では,バイパス術が適応であることをも説明するべきであったと主張するが,PTCAを選択すること自体は何ら誤りでないから,E医師としては,基本的にはDに対する治療方法の概要,PTCA,バイパス術各々のリスクファクターを説明すれば説明義務を尽くしたというべきであり,本件証拠上,それ以上にE医師にかかる説明義務をも課する特段の事情もうかがえないから,原告らの主張は採用できない。 ,三枝疾患一枝完全閉塞の症例では,バイパス術が適応であることをも説明するべきであったと主張するが,PTCAを選択すること自体は何ら誤りでないから,E医師としては,基本的にはDに対する治療方法の概要,PTCA,バイパス術各々のリスクファクターを説明すれば説明義務を尽くしたというべきであり,本件証拠上,それ以上にE医師にかかる説明義務をも課する特段の事情もうかがえないから,原告らの主張は採用できない。したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。(3) ガイドワイヤーによって腎実質を損傷させた過失について証拠(鑑定の結果,証人G,同E)によれば,PTCA施術に際しては,ガイドワイヤーが細い血管に迷入し,血管が損傷することが少なからずあるから,ガイドワイヤーを透視下に進め,仮にガイドワイヤーの先端が何かに当たった場合には無理に押し進めることのないようにすることが,PTCAを施術する医師の留意事項とされていることが認められる。ところで,原告らは,本件PTCAにおいては,モニターが施術当初から心臓部に固定されていたために,F医師らは施術の際にガイドワイヤーを透視下に進めていなかったと主張する。しかし,本件証拠上 ところで,原告らは,本件PTCAにおいては,モニターが施術当初から心臓部に固定されていたために,F医師らは施術の際にガイドワイヤーを透視下に進めていなかったと主張する。しかし,本件証拠上,モニターが当初から心臓部に固定されていたことを裏付けるに的確な証拠はない。その上,証拠(鑑定の結果,証人G,同E)によれば,ガイドワイヤーを透視下で進めたとしても,これにより血管自体を観察できるわけではなく,術者としてはモニターに写し出されたガイドワイヤーの走行方向を手掛かりにガイドワイヤーの進行位置を推測することしかできないこと,現に施術時に注意を払ってもなおもガイドワイヤーを細い血管に迷入させて血管を破たんさせることはままあることであることが認められる。したがって,F医師がガイドワイヤーによって腎実質を損傷させた点になおもF医師らに過失があったとまでは断定し難く,この点に関する原告らの主張は理由がない。(4) 腎周囲出血を見落とした過失について証拠(鑑定の結果,証人G)によれば,DはPTCA施術直後に腰背部痛を訴えていたことからすれば,医師としては,ガイドワイヤー,カテーテル等による血管損傷,血栓,アテローム等の閉塞の可能性を最も疑って,血液造影,腹部エコー,CT,血液検査を行うことによって,確定診断に努めるべきであったことが認められる。 までは断定し難く,この点に関する原告らの主張は理由がない。(4) 腎周囲出血を見落とした過失について証拠(鑑定の結果,証人G)によれば,DはPTCA施術直後に腰背部痛を訴えていたことからすれば,医師としては,ガイドワイヤー,カテーテル等による血管損傷,血栓,アテローム等の閉塞の可能性を最も疑って,血液造影,腹部エコー,CT,血液検査を行うことによって,確定診断に努めるべきであったことが認められる。前記第3の1(診療経過)で認定したところによれば,E医師らは,いったんは出血を疑ってCT検査,腹部エコー検査を実施し,右腎周囲腔に滲出液を認めていながら,この液を尿漏れによる尿であると断定して,出血の可能性を全く否定し,更に血液検査を行うことなく, Dに対して尿漏れを前提とした経過観察を行っている。しかし,証拠(鑑定 腔に滲出液を認めていながら,この液を尿漏れによる尿であると断定して,出血の可能性を全く否定し,更に血液検査を行うことなく, Dに対して尿漏れを前提とした経過観察を行っている。しかし,証拠(鑑定の結果,証人G)によれば,Dにあっては尿漏れの原因となる事情もうかがえず,尿漏れの場合にみられるはずの腎門部開放もなく,その上,右腎周囲腔の滲出液のCT値のみからは,この滲出液が尿と造影剤が混在したものであるとまでは確定できなかったことが認められる。したがって,E医師らが,CT検査,腹部エコー検査の結果のみから右腎周囲腔にみられた滲出液を尿漏れによる尿と断定したことは誤りであるといわざるを得ず,E医師らが出血の可能性を一切否定し血液検査等の検査を怠って腎周囲の出血の事実を見落としたことは過失であったというべきである。以上によれば,この点の原告らの主張は理由がある。4 争点(3)(Dの死亡との因果関係)について証拠(乙1,鑑定の結果,証人E,同G)によれば,病理解剖によって確認された右腎周囲の血腫(凝血塊)の重量は410グラムであること,4月23日に行われた血液検査で10.2あったヘモグロビン値が,翌24日午前7時の血液検査の結果7.9,さらにICU搬送時に行われた血液検査の結果6.3と激減していること,同様にヘマトクリット値も30.7から,23.3,19.4と激減していることからすれば,Dは出血から死亡に至るまで血漿を含めると約1リットルもの血液を,更に後腹膜腔,腹腔に及んだ出血を考慮に含めればそれ以上の血液を喪失させていたことが認められる。 われた血液検査で10.2あったヘモグロビン値が,翌24日午前7時の血液検査の結果7.9,さらにICU搬送時に行われた血液検査の結果6.3と激減していること,同様にヘマトクリット値も30.7から,23.3,19.4と激減していることからすれば,Dは出血から死亡に至るまで血漿を含めると約1リットルもの血液を,更に後腹膜腔,腹腔に及んだ出血を考慮に含めればそれ以上の血液を喪失させていたことが認められる。さらに,この出血量に加えて,Dが手術当日に1000CCの輸液しか投与されておらず脱水状態に陥っていたこと(乙1,鑑定の結果 に含めればそれ以上の血液を喪失させていたことが認められる。さらに,この出血量に加えて,Dが手術当日に1000CCの輸液しか投与されておらず脱水状態に陥っていたこと(乙1,鑑定の結果,証人G)をも併せみれば,Dは右腎周囲出血と脱水による失血性ショックにより死亡に至ったと考えるのが相当である(鑑定の結果,証人G)。被告は,病理解剖の結果,心臓に急性心筋梗塞症がみられたことから,Dの直接の死因は失血性ショックではなく急性心筋梗塞症であると主張する。しかし,DがICUに搬入された時点での心電図でも急性心筋梗塞の所見がないこと(乙1,鑑定の結果,証人G),病理解剖の結果からも心源性ショックがあればみられるはずの冠動脈のカテーテル崩壊や血栓形成がないこと(乙12の1,2,13,16,25,鑑定の結果,証人G)にかんがみれば,被告の主張は採用できない。そして,証拠(証人G)によれば,4月24日午前7時の血液検査でヘモグロビン値が7. 6に激減した後,Dが午後3時44分ころになって失血性ショックに至ったことからすれば,午前7時ころの時点で輸血や止血措置を行ってもDは十分に救命可能であったことが認められるから,E医師らがPTCA施術後,Dの右腎周囲の出血の事実を見落とした過失と,Dの死亡との間には相当因果関係があるといえる。したがって,この点に関する原告らの主張は理由がある。5 争点(4)(損害額)について被告が原告らにてん補すべき金員は,以下のとおりであると認められる。(1) 逸失利益 1349万4246円(小数点以下切り捨て)(計算式)293万7100円(基礎収入〔賃金センサス平成9年女子労働者学歴計62歳女子平均年収〕)×0.85(島根 (1) 逸失利益 1349万4246円(小数点以下切り捨て)(計算式)293万7100円(基礎収入〔賃金センサス平成9年女子労働者学歴計62歳女子平均年収〕)×0.85(島根県における平均年収の全国比率)×7.7217(就労可能年数10年のライプニッツ係数)×(1-0.3〔生活費控除率〕)原告Aは,上記金員の2分の1に相当する674万7123円を,原告B,同Cは4分の1に相当する337万3561円(小数点以下切り捨て) をそれぞれ相続した。 点以下切り捨て)(計算式)293万7100円(基礎収入〔賃金センサス平成9年女子労働者学歴計62歳女子平均年収〕)×0.85(島根県における平均年収の全国比率)×7.7217(就労可能年数10年のライプニッツ係数)×(1-0.3〔生活費控除率〕)原告Aは,上記金員の2分の1に相当する674万7123円を,原告B,同Cは4分の1に相当する337万3561円(小数点以下切り捨て) をそれぞれ相続した。(2) 慰謝料 2000万円被告が原告らの精神的苦痛を慰謝する金員としては,Dの夫である原告Aについては1000万円,Dの子である原告B,同Cについては各500万円とするのが相当である。(3) 葬祭費用 120万円(原告A)(4) 弁護士費用 330万円ア原告 A 170万円イ原告 B 80万円ウ原告 C 80万円(5) 合計 3799万4245円ア原告 A 1964万7123円イ原告 B 917万3561円ウ原告 C 917万3561円第4 結論以上によれば,原告らの請求は主文の限度で理由がある。松江地方裁判所民事部 裁判長裁判官 横山光雄 裁判官 上寺誠 裁判官 秋田智子
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